説明

両親媒性物質、界面活性剤、および、界面活性剤の使用方法

【課題】視覚的にその存在や臨界ミセル濃度を認識できる界面活性剤を提供する。その界面活性剤を構成する両親媒性物質を提供する。臨界ミセル濃度を検出する方法や界面活性剤の存在を検知する方法を提供する。
【解決手段】本発明の両親媒性物質は、A−(CH−Bで表される両親媒性物質であって、Aが蛍光発色団を基として有する疎水部であり、Bが、水に溶けたとき親水部がアニオンになるアニオン性親水部、水に溶けたとき親水部がカチオンになるカチオン性親水部、水に溶けたとき親水部がイオンにならないノニオン性親水部、またはアニオンとカチオンを有する両性親水部であり、
nが0から6までの整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性物質に関する。詳細には、蛍光発色機能を備えた両親媒性物質に関する。具体的には、蛍光発色団を有する疎水部と、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、または両性の親水部とを有する、蛍光発色機能を備えた両親媒性物質に関する。
【0002】
本発明はまた、上記両親媒性物質を含む界面活性剤に関する。詳細には、蛍光発色機能を備えた界面活性剤に関する。
【0003】
本発明はさらに、界面活性剤の使用方法に関する。詳細には、界面活性剤を含む洗浄剤を使用する際に、臨界ミセル濃度を検出する方法や、使用後に残存する界面活性剤を検知する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
界面活性剤は、洗剤、化粧品、食品など、生活に密着した様々な分野で使用されている(例えば、特許文献1)。このため、界面活性剤の存在の有無や、臨界ミセル濃度(CMC)を明らかにできる手段を開発することが望まれている。
【0005】
しかし、界面活性剤は不可視であるため、上記のような存在の有無や臨界ミセル濃度を容易に確認することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−221209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、視覚的にその存在や臨界ミセル濃度を認識できる界面活性剤を提供すること、その界面活性剤を構成する両親媒性物質を提供すること、および、臨界ミセル濃度を検出する方法や界面活性剤の存在を検知する方法を提供すること、にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、疎水部に蛍光発色機能を備えた特定構造の新規な両親媒性物質を合成して検討を行った。その結果、上記の両親媒性物質およびそれを含む界面活性剤を用いれば、上記課題を解決できることが判明した。
【0009】
本発明の両親媒性物質は、A−(CH−Bで表される両親媒性物質であって、Aが蛍光発色団を基として有する疎水部であり、Bが、水に溶けたとき親水部がアニオンになるアニオン性親水部、水に溶けたとき親水部がカチオンになるカチオン性親水部、水に溶けたとき親水部がイオンにならないノニオン性親水部、またはアニオンとカチオンを有する両性親水部であり、nが0から6までの整数である。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記Aが1−ピレニル基である。
【0011】
本発明の別の局面によれば、界面活性剤が提供される。本発明の界面活性剤は、本発明の両親媒性物質を含む。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記界面活性剤は、波長245nmの紫外線照射におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記界面活性剤は、紫外線照射により可視光領域で蛍光発光を生じる。
【0014】
本発明のさらに別の局面によれば、界面活性剤の使用方法が提供される。本発明の使用方法は、界面活性剤の使用方法であって、濃度の異なる該界面活性剤を含む液体それぞれに紫外線を照射することにより観察される蛍光発光の色の変化に基づいて該界面活性剤の臨界ミセル濃度を検出する。
【0015】
本発明のさらに別の局面によれば、界面活性剤の別の使用方法が提供される。本発明の使用方法は、界面活性剤の使用方法であって、該界面活性剤が接触した物体に紫外線を照射することにより該物体上の該界面活性剤の存在を検知する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、視覚的にその存在や臨界ミセル濃度を認識できる界面活性剤を提供すること、その界面活性剤を構成する両親媒性物質を提供すること、および、臨界ミセル濃度を検出する方法や界面活性剤の存在を検知する方法を提供することができる。上記効果は、界面活性剤を構成する両親媒性物質として、疎水部に蛍光発色機能を備えた特定構造の新規な両親媒性物質を用いることにより、発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】両親媒性物質の分子集合状態の変化を示す概略図である。
【図2】蛍光発色団を基として有する疎水部を備える両親媒性物質の分子集合状態の変化を示す概略図である。
【図3】実施例6で得られたUVスペクトルの概略図である。
【図4】比較例2で得られたUVスペクトルの概略図である。
【図5】実施例7で得られた蛍光スペクトルの概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
≪両親媒性物質≫
本発明の両親媒性物質は、A−(CH−Bで表される両親媒性物質である。
【0019】
上記Aは疎水部であり、蛍光発色団を基として有する。蛍光発色団としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な蛍光発色団を採用し得る。蛍光発色団の具体例としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、ピレン、フェニレン、キノリン、フルオレン、キサンテン、アクリジン、フェナントリジン、ベンゾオキサジアゾール、ピロリドン、フェノキサジン、スチレン、カルボシアニン、オキサカルボシアニン、フタロシアニン、インドール、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、レゾルフィン、オキサジン、アミドピリリウム色素、カドラン色素、ロードール色素、カルボピロニン、ランタニドキレート、ポルフィリン、メタロポルフィリン、ナフタルイミドが挙げられる。
【0020】
取扱の容易さ、本発明の両親媒性物質の合成のし易さ、本発明の効果の発現し易さを考慮すると、蛍光発色団として好ましくは、ピレンである。具体的には、上記Aが1−ピレニル基であることが好ましい。
【0021】
上記Bは親水部であり、水に溶けたとき親水部がアニオンになるアニオン性親水部、水に溶けたとき親水部がカチオンになるカチオン性親水部、水に溶けたとき親水部がイオンにならないノニオン性親水部、またはアニオンとカチオンを有する両性親水部である。
【0022】
上記アニオン性親水部としては、好ましくは、アニオン性官能基を有する基が挙げられる。アニオン性官能基としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切なアニオン性官能基を採用し得る。アニオン性親水部の具体例としては、例えば、カルボン酸イオン(−COO)、硫酸イオン(−OSO)、スルホン酸イオン(−SO)が挙げられる。
【0023】
上記カチオン性親水部としては、好ましくは、カチオン性官能基を有する基が挙げられる。カチオン性官能基としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切なカチオン性官能基を採用し得る。カチオン性親水部の具体例としては、例えば、第4級アンモニウムイオン(−NR:Rは水素原子以外の置換基であり、好ましくは、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基である)が挙げられる。
【0024】
上記ノニオン性親水部としては、好ましくは、有機系親水基を有する基が挙げられる。有機系親水基としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な有機系親水基を採用し得る。ノニオン性親水部の具体例としては、例えば、ポリオキシアルキレン基(−O−(RO)−H:Rはアルキレン基、mは1以上の整数である)、ポリアルコール基、糖含有基が挙げられる。
【0025】
上記両性親水部としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な両性親水部を採用し得る。両性親水部は、アニオンとカチオンを有する。両性親水部の具体例としては、例えば、カルボキシベタイン基(−N(CHCHCOO)が挙げられる。
【0026】
上記nは、0から6までの整数であり、好ましくは2〜6までの整数、より好ましくは3〜5までの整数、さらに好ましくは4である。nが上記範囲を外れると、本発明の効果が十分に発揮できないおそれがある。
【0027】
本発明の両親媒性物質は、任意の適切な方法で製造し得る。例えば、A−(CH−COOH(Aは上記の通り)で表されるカルボン酸を出発原料とする場合、−COOHを−CONHに変換し、続いて−CONHを−CHNHに変換し、最後に−CHNHを−CHNR(Rは水素原子以外の置換基であり、好ましくは、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基である)としてカチオン性親水部を有する両親媒性物質とする方法(A)や、−COOHを−CHOHに変換し、続いて−CHOHを−CHOTs(Tsはトシル基)に変換し、最後に−CHOTsを−CHO(RO)−H(Rはアルキレン基、mは1以上の整数である)としてノニオン性親水部を有する両親媒性物質とする方法(B)が挙げられる。
【0028】
本発明の両親媒性物質は、A−(CH−Bで表される両親媒性物質であって、Aが蛍光発色団を基として有する疎水部であり、Bが、水に溶けたとき親水部がアニオンになるアニオン性親水部、水に溶けたとき親水部がカチオンになるカチオン性親水部、水に溶けたとき親水部がイオンにならないノニオン性親水部、またはアニオンとカチオンを有する両性親水部であり、nが0から6までの整数であるので、界面活性剤として有用である。
【0029】
≪界面活性剤≫
本発明の界面活性剤は、本発明の両親媒性物質を含む。本発明の界面活性剤は、本発明の両親媒性物質のみからなっていても良いし、他の任意の適切な界面活性剤と本発明の両親媒性物質とを含むものでも良い。本発明の界面活性剤中の本発明の両親媒性物質の含有割合は、好ましくは0.1〜100重量%、より好ましくは1〜100重量%、さらに好ましくは2〜100重量%である。本発明の界面活性剤中の本発明の両親媒性物質の含有割合が0.1重量%より少ないと、本発明の効果が十分に発揮できないおそれがある。
【0030】
本発明の界面活性剤は、蛍光発色団を基として有する疎水部を備える両親媒性物質を含んでいるので、好ましくは、紫外線領域に非常に大きなモル吸光係数を有する。具体的には、好ましくは、波長245nmの紫外線照射におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である。より好ましくは、波長245nmの紫外線照射におけるモル吸光係数が5×10−1cm−1以上である。波長245nmの紫外線照射におけるモル吸光係数の上限は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の値を採り得る。現実的には、例えば、1010−1cm−1以下である。
【0031】
本発明の界面活性剤は、上記のように、紫外線領域に非常に大きなモル吸光係数を有し得るので、紫外線照射によって極微量の存在であっても検出可能である。すなわち、本発明の界面活性剤が接触した物体に紫外線(例えば、ブラックライト)を照射することにより、該物体上の該界面活性剤の存在を検知することが可能となる。
【0032】
本発明の界面活性剤は、上記のように、紫外線領域に非常に大きなモル吸光係数を有し得るので、他の任意の適切な界面活性剤と本発明の両親媒性物質とを併用する場合、本発明の両親媒性物質の濃度を低くして扱うことが好ましい。具体的には、10−6M以下の濃度の液体として扱うことが好ましい。
【0033】
本発明の界面活性剤は、蛍光発色団を基として有する疎水部を備える両親媒性物質を含んでいるので、好ましくは、紫外線照射により可視光領域で蛍光発光を生じる。具体的には、好ましくは、波長330nmの紫外線照射により可視光から近赤外領域(波長380〜900nm)に蛍光発光が観測される。
【0034】
本発明の界面活性剤は、上記のように、紫外線照射により可視光領域で蛍光発光を生じるので、紫外線照射により直接に目視にて該界面活性剤の存在を検知することが可能である。
【0035】
両親媒性物質は疎水部と親水部を有しているため、濃度により分子集合状態が変化し、単分散状態から臨界ミセル濃度以上の濃度でミセルを形成する(図1)。他方、蛍光発色団は、温度、pH、溶媒和、会合などエントロピーに関連した周囲環境因子によって蛍光発光特性が大きく変化する。本発明の界面活性剤は、蛍光発色団を基として有する疎水部を備える両親媒性物質を含んでいるため、濃度変化によって単分散状態から臨界ミセル濃度以上の濃度でミセルを形成するに伴い、疎水部の蛍光発色団の周囲環境因子が変化する(図2)。このため、本発明の界面活性剤は、濃度変化による蛍光発光特性の変化を観察することにより、分子集合状態の変化を知ることができる。特に、図2に示すように、単分散状態からミセルを形成する際には分子集合状態が大きく変化するため、蛍光発光特性の変化を観察することにより臨界ミセル濃度を検出することが可能となる。
【0036】
≪界面活性剤の使用方法≫
本発明は、また、界面活性剤の使用方法を提供する。本発明の使用方法は、界面活性剤の使用方法であって、該界面活性剤が接触した物体に紫外線を照射することにより該物体上の該界面活性剤の存在を検知する(以下、使用方法Aと称することがある)。本発明の別の使用方法は、界面活性剤の使用方法であって、濃度の異なる該界面活性剤を含む液体それぞれに紫外線を照射することにより観察される蛍光発光の色の変化に基づいて該界面活性剤の臨界ミセル濃度を検出する(以下、使用方法Bと称することがある)。
【0037】
使用方法Aにおいては、界面活性剤が接触した物体に紫外線を照射することにより該物体上の該界面活性剤の存在を検知する。ここにいう物体とは、例えば、界面活性剤を含む石鹸を用いて手を洗浄する場合の該手や、界面活性剤を含む洗剤を用いて衣類を洗浄する場合の該衣類など、界面活性剤または界面活性剤を含む剤を使ってその効果を発現させる対象物をいう。このような物体としては、例えば、手や体全体などの人体、衣類、車、各種機械、各種部品が挙げられる。
【0038】
使用方法Aによれば、界面活性剤または界面活性剤を含む剤を使った対象物である物体の表面上の該界面活性剤の存在を、直接に目視にて検知することが可能となる。例えば、界面活性剤を含む石鹸を用いて手を洗浄した後に、紫外線(例えば、ブラックライト)を照射することにより、紫外線吸収や蛍光発光によって直接に目視にて該界面活性剤の残存の程度や有無を検知することが可能となる。
【0039】
使用方法Bにおいては、濃度の異なる該界面活性剤を含む液体それぞれに紫外線を照射することにより観察される蛍光発光の色の変化に基づいて該界面活性剤の臨界ミセル濃度を検出する。
【0040】
使用方法Bによれば、蛍光発光特性の変化を観察することにより臨界ミセル濃度(CMC)を検出することが可能となる。すなわち、直接に目視にて臨界ミセル濃度を検出することが可能となる。
【0041】
本発明における上記使用方法Aおよび使用方法Bを実施するためには、好ましくは、蛍光発色機能を備えた両親媒性物質を界面活性剤に用いる。すなわち、蛍光発色機能を備えた両親媒性物質を含む界面活性剤を用いることにより、容易に、本発明の使用方法を実施することが可能となる。より好ましくは、本発明の界面活性剤を用いることで、より一層効果的に、容易に、本発明の使用方法を実施することが可能となる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕:両親媒性物質(1)の製造
【化1】

1−Pyrenebutyric acid(288mg、1mmol)をNaOH水溶液(40mg/1mL)に溶解させた後、凍結乾燥し、両親媒性物質(1)のNa塩を得た。
H NMR(CDCl):δ1.91(m、 2H)、2.23(t、2H)、2.99(t、2H)、7.68−7.88(m、8H)、8.12(d、1H)
13C NMR(CDCl):δ27.1、33.9、38.4、123.0、124.9、125.0、125.7、126.1、126.3、126.4、126.2、126.6、126.9、128.3、132.1、133.4、136.2、178.0
ESIMS Calcd for 310.1:Found m/z 311.5(M+1(+H))
【0044】
〔実施例2〕:両親媒性物質(2)の製造
【化2】

1−Pyrenebutyric acid(5g、17.4mmol)をクロロホルムに溶解させ、0℃に冷却後、1−ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride(3.35g、17.4mmol)とN−hydroxysuccinimide(2.00g、17.4mmol)を加えた。混合反応液にアンモニア/エタノールを加え、室温で攪拌した(2h)。反応終了後、酢酸エチルで抽出し、水で洗浄した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーションにより溶媒を除去した。残渣を酢酸エチル/ヘキサン(4/1)から再結晶を行い、アミドを得た(4.3g、86%)。
H NMR(CDCl):δ2.14−2.35(m、4H)、3.40(t、2H)、5.23(bs、2H)、7.82−8.19(m、8H)、8.29(d、1H)
13C NMR(CDCl):δ27.1、32.6、35.0、123.3、124.7、124.9、124.9、125.8、126.7、127.3、127.4、127.4、174.9
ESIMS Calcd for 287.1:Found m/z 288.3(M+1(+H))
【化3】

アミド(1.0g、3.48mmol)をTHF(10mL)に溶解させアルゴン雰囲気下ボランジメチルスルフィド錯体溶液(2M/THF、3.4mL)を加えて還流を行った。2時間後、反応溶液を冷却しながら塩酸(1M)を加えて攪拌した(10min)。反応混合物に水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH12に調製して酢酸エチルで抽出し、有機相を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、飽和食塩水で洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、エバポレーションにより溶媒を除去してアミンを得た(865mg、91%)。さらなる生成は塩酸塩に変換することにより行った。
H NMR(DMSO−d):δ1.63−1.95(m、4H)、2.84(t、2H)、3.36(m、2H)、7.83−8.42(m、11H)
13C NMR(CDCl):δ26.9、28.1、31.9、36.6、123.4、124.0、124.7、124.8、124.9、126.1、126.5、127.2、127.4、128.0、129.2、130.8、136.3
ESIMS Calcd for 273.1:Found m/z 274.2(M+1(+H))
【化4】

アミン塩酸塩(1.73g、5.6mmol)をメタノール(10mL)に鹸濁させ、ヨウ化メチル(5mL)と炭酸カリウム(13.8g、100mmol)を加え、耐圧容器で攪拌した(60℃、3d)。不溶物を濾過後、溶媒をエバポレーションにより除去し、アセトンから再結晶することにより四級アンモニウムイオンである両親媒性物質(2)の塩を得た(770mg、31%)。
H NMR(DMSO−d):δ1.72−1.95(m、4H)、3.09(s、9H)、3.37−3.47(m、4H)、7.98−8.32(m、8H)、8.40(d、1H)
13C NMR(DMSO−d):δ22.6、28.1、31.9、52.2、65.0、123.3、124.7、124.9、124.9、126.1、126.5、127.2、127.3
ESIMS Calcd for 443.1:Found m/z 316.2(M−126.9(−I))
【0045】
〔実施例3〕:両親媒性物質(3)の製造
【化5】

アルゴン雰囲気下、水素化ホウ素ナトリウム(315mg、8.33mmol)をTHF(0℃、50mL)に鹸濁させ、1−Pyrenebutyric acid(1.00g、3.47mmol)を加えた。混合物にヨウ素溶液(881mg、3.47mmol、THF(30mL))を滴下(30min)し、水素の発生が止まってから一晩還流した。反応混合物にメタノールを少しずつ加え、溶液が透明になったところで、溶媒をエバポレーションにより除去した。残渣に1N塩酸を加え、析出した固体を回収し、水で洗浄した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、1%チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒をエバポレーションにより除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/EtOAc=1/1)で精製することによりアルコールを得た(900mg、99%)。
H NMR(CDOD):δ1.27(t、1H)、1.69(m、2H)、1.89(m、2H)、3.32(t、2H)、3.60(t、2H)、7.80−8.16(m、8H)、8.26(d、1H)
13C NMR(CDOD):δ29.3、33.6、34.1、62.8、124.4、125.6、125.8、125.8、126.8、128.3、128.5、129.8、131.1、132.3、132.8、138.1
ESIMS Calcd for 274.1:Found m/z 285.3(M+1(+H))
【化6】

アルコール(1.48g、5.39mmol)をピリジン(50mL、0℃)に溶解させ、p−トルエンスルホン酸クロリド(1.90g、10mmol)を加えて室温で攪拌した(24h)。反応混合物に水(5mL)を加えて反応をクエンチし、溶媒をエバポレーションにより除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/EtOAc=1/1)で精製することによりトシル化体を得た(2.04g、88%)。
H NMR(CDCl):δ1.73−1.93(m、4H)、2.35(s、3H)、3.30(t、2H)、4.08(t、2H)、7.23(m、2H)、7.69−7.82(m、3H)、7.94−8.26(m、8H)
13C NMR(CDCl):δ21.4、27.4、28.7、32.6、70.3、123.1、124.7、124.9、125.8、126.7、127.1、127.3、127.4、127.8、129.7、130.8、132.1、144.6
ESIMS Calcd for 428.1:Found m/z 429.0(M+1(+H))
【化7】

トシル化体(1.00g、2.33mmol)とPEG400(212.1g、30mmol)をTHFに溶解させ、NaH(60%、188mg、4.7mmol)を加えて還流した(12h)。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機相をエバポレーションにより除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/EtOAc/MeOH=45/45/10)により精製し、両親媒性物質(3)を得た(1.22g、78.1%)。
H NMR(CDCl):δ1.76(m、2H)、1.91(m、2H)、2.04(bs、1H)、3.34(t、2H)、3.47−3.73(m、29H)、7.82−8.16(m、8H)、8.26(d、1H)
13C NMR(CDCl):δ28.3、29.6、33.2、61.6、70.0、70.2、70.4、71.1、72.5、123.4、124.5、124.7、124.9、125.0、125.6、127.0、127.1、127.4、128.5、129.6、130.8、131.3、136.8
ESIMS Calcd for 494.3+44n(n=1−9):Found m/z 517.5+44n(n=1−9)(M+23(+Na))
【0046】
〔比較例1〕:両親媒性物質(C1)の製造
ラウリン酸ナトリウムをそのまま両親媒性物質(C1)のNa塩とした。
【0047】
〔実施例4〕:界面活性剤の表面張力測定と臨界ミセル濃度算出
両親媒性物質(1)を用い、濃度が10−1Mから10−5Mの蛍光性界面活性剤水溶液を調製した。各種濃度の界面活性剤溶液の表面張力をWilhelmy法(使用機器:協和界面科学表面張力計CBVP−A3)で測定した。界面活性剤濃度(横軸)に対して表面張力(縦軸)をプロットしたグラフを作成し、直線が折れ曲がる点の濃度から臨界ミセル濃度を算出したところ、8.5mMであった。
【0048】
〔実施例5〕:界面活性剤のモル吸光係数の測定
両親媒性物質(1)を用い、濃度が20μMの蛍光性界面活性剤水溶液を調製した。この水溶液のUVスペクトルを光路長1cmの角型UVセルで測定した(使用機器:日本分光JASCO V−560)。この結果からLambert−Beerの式(A=εcl、A:吸光度、ε:吸光係数、c:濃度、l:光路長)を用いてモル吸光係数を算出したところ、ε245=6.1×10−1cm−1であった。
【0049】
〔実施例6〕:界面活性剤のUVスペクトル測定
両親媒性物質(1)を用い、濃度が1.0mM、2.0mM、2.5mM、5.0mM、8.0mM、10mM、15mM、20mM、40mMの蛍光性界面活性剤水溶液を調製した。この水溶液のUVスペクトルを平均光路長0.52μmの石英セルを用いて測定した(使用機器:日本分光JASCO V−560)。得られたUVスペクトルを図3に示す。図3に示すように、両親媒性物質(1)を用いた蛍光性界面活性剤水溶液は、波長400nmまでUV吸収帯を有した。これは、一般的な石鹸などの界面活性剤が250nm以上にUV吸収を有さないことと対照的である。
【0050】
〔比較例2〕:界面活性剤のUVスペクトル測定
両親媒性物質(C1)を用い、濃度が20mMの界面活性剤水溶液を調製した。この水溶液のUVスペクトルを平均光路長0.52μmの石英セルを用いて測定した(使用機器:日本分光JASCO V−560)。得られたUVスペクトルを図4に示す。図4に示すように、一般的な石鹸などの界面活性剤と同様、250nm以上にUV吸収を有さなかった。
【0051】
〔実施例7〕:界面活性剤の蛍光スペクトル測定
両親媒性物質(1)を用い、濃度が0.2mM、1.0mM、2.0mM、2.5mM、5.0mM、7.5mM、10mM、15mM、20mM、40mMの蛍光性界面活性剤水溶液を調製した。この水溶液を光路長1cmの二面透過セルに入れ、励起光330nmによる表面反射蛍光測定法(プレートや濃度が高く通常の直交法で測定できない試料の蛍光発光を測定する手法)で蛍光スペクトルを測定した(使用機器:日立F−4500)。得られた蛍光スペクトルを図5に示す。図5に示すように、波長330nmの紫外線照射により可視光領域(波長380〜750nm)に蛍光発光が観測された。
【0052】
〔実施例8〕:界面活性剤の蛍光発光の色の変化の観察による臨界ミセル濃度の検出
両親媒性物質(1)を用い、濃度が1.0mM、2.0mM、5.0mM、10mM、15mM、20mM、40mMの蛍光性界面活性剤水溶液を調製した。この水溶液をサンプル管に入れ、ブラックライトによって波長365nmの紫外線を照射しながら、蛍光発光の色の変化を暗室にて写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、濃度が1.0mMから40mMへと濃くなるにしたがって、青色系から緑色系へと変化している様子が観察された。特に、濃度5.0mMのサンプル管と濃度10mMのサンプル管との間において青色系から緑色系への蛍光発色の色の変化が顕著であった。このこと、および、両親媒性物質(1)の蛍光性界面活性剤水溶液における臨界ミセル濃度(実施例4で測定)が8.5mMであることから、濃度の異なる該界面活性剤を含む液体それぞれに紫外線を照射することにより観察される蛍光発光の色の変化に基づいて該界面活性剤の臨界ミセル濃度を検出することが可能であることが判った。
【0053】
〔実施例9〕:紫外線照射による界面活性剤の存在の検知
(1)両親媒性物質(1)のNa塩(ピレンブチル酸ナトリウム)1.25gと水酸化ナトリウム273mgを水250mLに溶解させた(A液、pH=12)
(2)A液を用い、汚染布および白布を、撹拌式洗浄力試験機(TM−4、大栄科学精器製作所)を用いて洗浄した(10分、30℃)。
(3)洗浄後の汚染布および白布に波長365nmの紫外線を照射しながら写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、A液で洗浄した汚染布および白布には強い蛍光発光が観察され、いずれの布にも界面活性剤が残存していることが判った。蛍光発光の色は緑色系であり、臨界ミセル濃度以上の濃度であることも判った。
(4)上記洗浄後の汚染布および白布を、撹拌式洗浄力試験機(TM−4、大栄科学精器製作所)を用いて1回目のすすぎ洗いを行った(250mL、3分、30℃)。1回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布に波長365nmの紫外線を照射しながら写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、1回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布には蛍光発光が観察され、いずれの布にも界面活性剤がまだ残存していることが判った。蛍光発光の色は青色系であり、臨界ミセル濃度以下の濃度であることも判った。
(5)上記1回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布を、撹拌式洗浄力試験機(TM−4、大栄科学精器製作所)を用いて2回目のすすぎ洗いを行った(250mL、3分、30℃)。2回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布に波長365nmの紫外線を照射しながら写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、2回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布には弱いながらも蛍光発光が観察され、いずれの布にも界面活性剤がまだ残存していることが判った。蛍光発光の色は青色系であり、臨界ミセル濃度以下の濃度であることも判った。
(6)上記2回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布を陰干し(30分)して、アイロン処理した。アイロン後の汚染布および白布の写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。アイロン後の汚染布および白布における界面活性剤の残存の有無は、通常の目視では判らなかった。次に、アイロン後の汚染布および白布に波長365nmの紫外線を照射しながら写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、アイロン後の汚染布および白布には弱いながらも蛍光発光が観察され、いずれの布にも界面活性剤がまだ残存していることが判った。蛍光発光の色は青色系であり、臨界ミセル濃度以下の濃度であることも判った。また、アイロン後の汚染布における上記蛍光発光にはムラが観察され、すすぎムラがあったことが判った。
(7)上記1回目および2回目のすすぎ洗いに使用した水(使用後)に波長365nmの紫外線を照射しながら写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、1回目のすすぎ洗いに使用した水および2回目のすすぎ洗いに使用した水のいずれにおいても、弱いながらも蛍光発光が観察され、界面活性剤が含まれていることが判った。
(8)用いた汚染布および白布について、洗浄前後の光反射率を、Spectro Color Meter(SE2000、日本電色工業)を用いて測定した。洗浄前後の光反射率を比較することにより、汚染布に対する洗浄力と、白布に対する再汚染率を算出した。結果を表1に示した。
【0054】
〔比較例3〕:紫外線照射による界面活性剤の存在の検知
(1)ラウリン酸ナトリウム2.5gと水酸化ナトリウム100mgを水250mLに溶解させた(B液、pH=12)
(2)B液を用い、汚染布および白布を、撹拌式洗浄力試験機(TM−4、大栄科学精器製作所)を用いて洗浄した(10分、30℃)。
(3)洗浄後の汚染布および白布に波長365nmの紫外線を照射しながら写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、B液で洗浄した汚染布および白布には蛍光発光は観察されず、いずれの布においても界面活性剤が残存しているか否かは判らなかった。
(4)上記洗浄後の汚染布および白布を、撹拌式洗浄力試験機(TM−4、大栄科学精器製作所)を用いて1回目のすすぎ洗いを行った(250mL、3分、30℃)。1回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布に波長365nmの紫外線を照射しながら写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、1回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布には蛍光発光は観察されず、いずれの布においても界面活性剤が残存しているか否かは判らなかった。
(5)上記1回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布を、撹拌式洗浄力試験機(TM−4、大栄科学精器製作所)を用いて2回目のすすぎ洗いを行った(250mL、3分、30℃)。2回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布に波長365nmの紫外線を照射しながら写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、2回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布には蛍光発光は観察されず、いずれの布においても界面活性剤が残存しているか否かは判らなかった。
(6)上記2回目のすすぎ洗い後の汚染布および白布を陰干し(30分)して、アイロン処理した。アイロン後の汚染布および白布の写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。アイロン後の汚染布および白布における界面活性剤の残存の有無は、通常の目視では判らなかった。次に、アイロン後の汚染布および白布に波長365nmの紫外線を照射しながら写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、アイロン後の汚染布および白布には蛍光発光は観察されず、いずれの布においても界面活性剤が残存しているか否かは判らなかった。
(7)上記1回目および2回目のすすぎ洗いに使用した水(使用後)に波長365nmの紫外線を照射しながら写真撮影(カメラ:SONY DCR−IP55)を行い観察した。その結果、1回目のすすぎ洗いに使用した水および2回目のすすぎ洗いに使用した水のいずれにおいても蛍光発光は観察されず、界面活性剤が含まれているか否かは判らなかった。
(8)用いた汚染布および白布について、洗浄前後の光反射率を、Spectro Color Meter(SE2000、日本電色工業)を用いて測定した。洗浄前後の光反射率を比較することにより、汚染布に対する洗浄力と、白布に対する再汚染率を算出した。結果を表1に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
洗浄力は汚染布から汚れを除去する能力を表し、数値が高いほうが洗浄力に優れている。表1によれば、A液の方がB液より5%ほど洗浄力に優れていることが判る。
【0057】
再汚染率は汚染布から遊離した汚れが白布を汚す割合である。再汚染率が低いほど、汚れの再付着が起こりにくいことを意味する。一般に、洗浄力の高い洗浄剤ほど遊離した汚れが多いために再汚染率が高くなる傾向がある。しかし、表1に示すように、A液はB液に比べて洗浄力が高いにもかかわらず、A液の再汚染率はB液よりも低い結果が得られた。すなわち、A液は汚れを落としやすく、且つ、再汚染を防ぐ、非常に優れた性質を有していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の両親媒性物質、界面活性剤、および界面活性剤の使用方法は、洗剤、化粧品、食品など、生活に密着した様々な分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 親水基
2 疎水基
3 蛍光発色団
10 単分散状態
20 ミセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A−(CH−Bで表される両親媒性物質であって、
Aが蛍光発色団を基として有する疎水部であり、
Bが、水に溶けたとき親水部がアニオンになるアニオン性親水部、水に溶けたとき親水部がカチオンになるカチオン性親水部、水に溶けたとき親水部がイオンにならないノニオン性親水部、またはアニオンとカチオンを有する両性親水部であり、
nが0から6までの整数である、
両親媒性物質。
【請求項2】
前記Aが1−ピレニル基である、請求項1に記載の両親媒性物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載の両親媒性物質を含む、界面活性剤。
【請求項4】
波長245nmの紫外線照射におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である、請求項3に記載の界面活性剤。
【請求項5】
紫外線照射により可視光領域で蛍光発光を生じる、請求項3または4に記載の界面活性剤。
【請求項6】
界面活性剤の使用方法であって、
濃度の異なる該界面活性剤を含む液体それぞれに紫外線を照射することにより観察される蛍光発光の色の変化に基づいて該界面活性剤の臨界ミセル濃度を検出する、
界面活性剤の使用方法。
【請求項7】
界面活性剤の使用方法であって、
該界面活性剤が接触した物体に紫外線を照射することにより該物体上の該界面活性剤の存在を検知する、
界面活性剤の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−195750(P2010−195750A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45838(P2009−45838)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 : 日本油化学会第47回年会実行委員会 刊行物名 : 日本油化学会第47回年会講演要旨集 発行年月日: 平成20年9月17日
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【Fターム(参考)】