説明

両親媒性酸分子による塩基性活性成分の協同輸送

本発明は、下記の一般式(I)を有する、両親媒性担体と活性成分Gとの分子間会合複合体、さらにはそれを含有する組成物、特に薬物としてのその使用、およびその製造方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、塩基性活性成分と酸性界面活性剤との、その活性成分の保護、可溶化、および輸送のための、分子間カタニオニック会合体(intermolecular catanionic association)に関する。
【0002】
背景技術
活性成分の有害な効果を低減する目的でその安定性を改善することは、今日でも依然として非常に重要な課題である。一般的に、この安定化は、活性成分の保存時に、保存剤および抗酸化剤を用いることにより、ならびに活性成分の投与時に、前記活性成分を安定化し、場合により免疫系による分解から保護し、その作用部位へ向けての輸送を行う担体を用いることにより、これらの両面から行なわれる。
【0003】
今日、活性成分のための数多くのベクトル化技術(vectorization techniques)が存在する。これらの技術は、活性成分の性質(親水性または親油性)、ならびに関連する器官、投与される用量、および投与の持続時間に従って、様々な方策を用いる。例えば、活性成分を、リン脂質小胞内にカプセル化してよく、または生分解性ポリマーのマイクロスフェアに固定化してもよい。
【0004】
さらに、皮膚を通しての活性成分の送達は、多くの利点を有する。経口治療に関連する吸収および代謝速度の変動、ならびに起こり得る胃腸管への刺激が回避される。また、活性成分の経皮送達では、その血中濃度のより良好な制御も可能となる。
【0005】
しかし、皮膚は、複雑な構造を有し、経皮または局所投与された分子は、血流に到達する前に、角質層を含む第一のバリアを通過する必要がある。角質層は、10〜15ミクロンの平均厚さを有する高密度で高度に角質化された層から構成される。高度な角質化、ならびに密集した細胞の集合によって、活性成分の通過に対してほとんど不浸透性であるバリアを構成することができる。
【0006】
ほとんどの薬物において、浸透化剤(permeabilizing additive)を添加しない場合の皮膚を通しての浸透速度は極めて遅い。従って、皮膚投与の有効性は、活性成分の安定性、ならびにその生体利用度および皮膚内分布に影響を与える、用いられる送達システムに本質的に依存している。活性成分の十分な量の透過を補助するために適用される方策は、一般的に、透過促進剤または高度に複雑化した製剤の使用を含む。
【0007】
従って、皮膚を通しての活性成分の透過率を高める目的で、数多くの添加剤を用いることができる。ほとんどの化合物は、角質層の浸透性を高め、それによって皮膚を通しての活性成分の透過を増加させるように、薬物と同時に投与される(場合によっては、皮膚を浸透化剤で前処理してもよい)。多くの治療剤の浸透性は、このような浸透化剤によって改善することができる。
【0008】
いくつかの添加剤は、皮膚を通しての活性剤の輸送を、種々の機構に従って促進させることができ、その中で最も重要なものは以下の通りである:
−角質層脂質の抽出
−脂質二重層構造の破壊
−結合水の置換
−角質層の剥離
−角層の破壊
【0009】
浸透化剤は、様々なカテゴリーに分類することができる。例えば、アルコール、アルキルメチルスルホキシド、およびポリオールなどの溶媒は、溶解性を上昇させ、それによって皮膚通過が高められる。ジメチルスルホキシド(DMSO)またはエタノールなどのいくつかの溶媒は、脂質を抽出して、角質層の浸透性を高めることができる。オレイン酸およびミリスチン酸イソプロピルは、それ自体が脂質構造中に挿入されることによって角質層を破壊する浸透化剤の典型例である。従って、この軟化効果は、活性成分の拡散係数を増加させる。また、イオン性界面活性剤およびDMSOも、角質細胞のケラチンと相互作用を起こし、それによってタンパク質構造を変性させ(unfold)拡散係数を増加させる。
【発明の概要】
【0010】
しかし、このような送達システムのほとんどは、皮膚に不可逆的な変化を引き起こすという大きな欠点を有する。
【0011】
本発明は、薬物の保護、可溶化、およびその作用部位への輸送を目的とする、活性成分自体を自身の輸送に能動的に関与させる新規な方策について記載する。そのために、発明者らは、単純な酸/塩基静電相互作用により、塩基性活性成分を生体適合性である両親媒性酸性分子と会合させることを提案するものであり、ここで、この会合は、活性成分と両親媒性分子との間の疎水性相互作用によってさらに安定化することができる。
【0012】
特に、本発明は、活性成分の可溶化、保護、輸送、および経皮拡散という観点において、製剤としての用途を有し、ここで、両親媒性分子はまた、経皮輸送のための浸透化剤の役割も果たすことができる。従って、単純化され、皮膚に無害であるこのような製剤により、皮膚中の成分の活性濃度を高め、その角質層の通過を促進することが可能となる。
【0013】
本発明は、従って、生体適合性を有する両親媒性酸性輸送体を、塩基性官能基を一もしくは二つ以上含む活性成分と会合させることを提案するものである。この分子間会合は、静電相互作用で結合し、二つの構成成分の疎水性部分間のファンデルワールス相互作用で安定化された酸/塩基対の形成に相当する新規な両親媒性種をもたらす。このように会合によって形成された両親媒性複合体は、その水中濃度ならびに活性成分の性質(体積、疎水性)に応じて、ミセルまたは小胞体などの一群の自己組織化構造をもたらすことができる。このようにして形成された物体はまた、活性成分の自己輸送にも用いることができる。
【0014】
従って、本発明の一つの目的は、下記一般式(I)で表される、両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体(intermolecular association complex)を提供することである:
【0015】
【化1】

(上記式中、
−Sは、単糖または多糖の炭水化物断片を表し、
−Rは、水素原子、一もしくは二つ以上のフッ素原子で置換されていてよく、特にペルフルオロ化(perfluorinated)されていてよいC‐C20、有利にはC‐C10である飽和もしくは不飽和の直鎖状、分岐鎖状、環状、または芳香族炭化水素鎖を表し、
−Xは、好ましくは直鎖状である、C‐C10アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖を表し、
−Yは、カルボキシレート(−CO)、サルフェート(−O−SO)、スルホネート(−SO)、ホスフェート(−O−P(O)(OR)O)、ホスホネート(−O−P(O)R)、またはホスフィネート(−P(O)R)基を表し、
ここで、Rは、C‐Cアルキル基を表し、Rは、水素原子またはC‐Cアルキル基を表し、ならびに、
−Gは、少なくとも一つの一級、二級、もしくは三級アミン、またはグアニジン(−NH−C(=NH)−NH)官能基を含む活性成分を表し、特に、抗ヒスタミン剤、抗うつ剤、降圧剤(hypotensors)、神経伝達剤、アンフェタミン、麻酔剤、抗片頭痛剤、強心剤、ニコチン受容体アゴニスト、ビタミンまたはプロビタミン、および抗悪性腫瘍剤を含む群より選択される)。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、遊離プロメタジンを含有する製剤Aおよび会合体Lac6Pを含有する製剤Bについて、ブタ皮膚を通して拡散したプロメタジンの24時間後の累積量を表す。
【図2】図2は、プロメタジン塩酸塩を含有する溶液および会合体Lac6Pを含有する溶液について、溶液中に残留する未分解プロメタジンのパーセントを、時間の関数として表す。
【発明の具体的説明】
【0017】
本発明の場合において、次の用語は、相互に入れ替えて用いることができ、本発明の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体を示す用語として用いる:「複合体」、「分子間会合複合体」、「カタニオニック複合体」、または「カタニオニック会合体」。
【0018】
本発明の場合において、「炭水化物」とは、単糖(類)(monosaccharide)または多糖(類)(polysaccharide)を意味する。
【0019】
本発明の場合において、「単糖」とは、アルドース、すなわち、アルデヒド(−CHO)官能基を有する糖を意味する。これは、特には、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、またはタロースのD体またはL体であってよい。これは、特に、グルコースである。
【0020】
本発明の場合において、「多糖」とは、少なくとも二つの上記で定める単糖ユニットの鎖を意味する。これは、ラクトースなどの二糖(類)(disaccharide)(二つの単糖ユニットの鎖)であってよい。
【0021】
本発明の場合において、「炭水化物断片」とは、そのアルデヒド官能基を持たない炭水化物断片を意味する。
【0022】
本発明の場合において、「アルキル」とは、直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素鎖を意味する。前記アルキル鎖が鎖Xである場合、これは、4〜10個、好ましくは6個の炭素原子を有し、直鎖状であることが有利である。例としては、n‐ヘキシル鎖を挙げることができる。前記アルキル鎖がRまたはR基である場合、これは、1〜6個の炭素原子を有し、特には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec‐ブチル、tert‐ブチル、ペンチル、またはヘキシル基であってよい。
【0023】
本発明の場合において、「アルケニル」とは、少なくとも一つの二重結合を有し、4〜10個、好ましくは6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐鎖状、好ましくは直鎖状の炭化水素鎖を意味する。
【0024】
本発明の場合において、「アルキニル」とは、少なくとも一つの三重結合を有し、4〜10個、好ましくは6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐鎖状、好ましくは直鎖状の炭化水素鎖を意味する。
【0025】
本発明の場合において、「不飽和の」とは、炭化水素鎖が、一もしくは二つ以上の不飽和部分を有していてよいことを意味する。
【0026】
本発明の場合において、「不飽和部分」とは、二つの炭素原子間の二重または三重結合を意味する。
【0027】
本発明の場合において、「環状炭化水素鎖」とは、一もしくは二つ以上の結合した環、特には一もしくは二つの環を含む環状炭化水素基を意味する。この鎖は、飽和であっても不飽和であってもよく、3〜20個、好ましくは3〜10個の炭素原子を有する。これは、シクロプロピル、シクロペンチル、またはシクロヘキシル基であってよい。
【0028】
本発明の場合において、「芳香族炭化水素鎖」とは、6〜20個、好ましくは6〜10個の炭素原子を有し、一もしくは二つ以上の結合した環を含む芳香族基を意味し、例えばフェニル基またはナフチル基などである。有利には、これはフェニル基である。
【0029】
本発明の場合において、「ペルフルオロ化(perfluorinated)」とは、炭化水素鎖のすべての水素原子がフッ素原子で置換されたことを意味する。
【0030】
このようなカタニオニック複合体は、自発的に自己組織化して、熱力学的に安定である小胞体またはミセルなどの超分子集合体となる特性を有しており、これによって、活性成分をカプセル化し、従ってそれを保護し、親水性のS基によりその集合体を可溶化することが可能となる。
【0031】
本発明のカタニオニック会合複合体に用いられる輸送体は、一もしくは二つ以上の酸性官能基を有する、生体適合性である両親媒性分子から選択される。
【0032】
本発明によると、両親媒性輸送体は、一もしくは二つ以上の疎水性鎖、ならびに塩基性活性成分と静電相互作用を起こすことができる一もしくは二つ以上の酸性官能基を有する炭水化物誘導体から選択される。
【0033】
前記両親媒性輸送体は、以下の一般式(II)を有する:
【0034】
【化2】

(上記式中、S、R、X、およびYは上記に記載されたものと同義である)。従って、これは会合複合体ではアニオン性の形態で見られる。
【0035】
Sは、より詳細には、グルコースまたはラクトース断片などの炭水化物断片を表す。
【0036】
Rは、特には、水素原子、またはC‐Cアルキル鎖を表し、好ましくは、水素原子を表す。
【0037】
有利には、Xは、C‐C10、有利にはC、C、C、C、もしくはC、さらにより有利にはCの、直鎖状アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖を表す。より詳細には、Xは、C‐C10、有利にはC、C、C、C、もしくはC、さらにより有利にはCの、好ましくは直鎖状である、アルキル鎖を表してよい。Xは、従って、n‐ヘキシル鎖を表してよい。
【0038】
は、特に、CO基を表す。
【0039】
従って、輸送体は、有利には、糖の頭部基と長鎖とを有する酸性界面活性剤から選択され、グルコン酸またはラクトビオン酸由来の残基を含む1,7‐グリコンアミドヘプタン酸(1,7-glyconamidoheptanoic acid)などであり、これは、それぞれGlu6およびLac6と称される。
【0040】
1,7‐グリコンアミドヘプタン酸、Glu6およびLac6の一般式は下記の通りであり:
【0041】
【化3】

Glu6の場合はR’=Hであり、Lac6の場合はR’=ガラクトースである。
【0042】
このような誘導体は、仏国特許第2727110号公報に記載の先行技術に従って作製される。
【0043】
活性成分Gは、特には、プロメタジンまたはメキタジンなどの抗ヒスタミン剤であってよい。
【0044】
従って、本発明の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体は、下記から選択することができる:
【0045】
【表1】

【0046】
また、本発明の一つの目的は薬物として、より詳細には、抗ヒスタミン剤、抗うつ剤、降圧剤、神経伝達剤、アンフェタミン、麻酔剤、抗片頭痛剤、強心剤、ニコチン受容体アゴニスト、ビタミンもしくはプロビタミン、または抗悪性腫瘍剤として、特には抗ヒスタミン剤として使用するための、上記に記載された両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体でもある。
【0047】
本発明はまた、薬物、より詳細には、抗ヒスタミン剤、抗うつ剤、降圧剤、神経伝達剤、アンフェタミン、麻酔剤、抗片頭痛剤、強心剤、ニコチン受容体アゴニスト、ビタミンもしくはプロビタミン、または抗悪性腫瘍剤、特には抗ヒスタミン剤を作製するための、上記で定める両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体の使用にも関する。
【0048】
本特許出願の一つの目的はまた、上記に記載された両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体を少なくとも一つ含む医薬組成物でもある。
【0049】
前記医薬組成物は、より詳細には、局所または経皮投与のために用いられるものであってよい。従って、これは、ヒドロゲルまたはエマルジョンであってよい。
【0050】
また、本発明の一つの目的は活性成分Gの保護、および/または可溶化、および/またはその作用部位に向けての輸送のための、上記で定める両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体の使用でもある。
【0051】
また、本発明の一つの目的は下記の連続工程を含み、上記に記載された両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体を製造するための方法である:
−上記に記載されたものと同義である式(II)の両親媒性輸送体と、上記に記載されたものと同義である活性成分Gとを混合する工程、ならびに、
−このようにして得られた両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体を、反応媒体から分離する工程。
【0052】
従って、分子間会合複合体は、酸性の形態である両親媒性分子と塩基性の形態である活性成分とを、特に水またはメタノールなどの他の溶媒中にて、単に一緒にすることによって形成される。会合複合体は、従って、両親媒性輸送体の酸性の形態と活性成分の塩基性の形態との間の酸/塩基反応によって得られる。
【0053】
さらに、小胞体またはミセルなどの超分子構造が、輸送体および活性成分を水溶液中で混合する過程において、熱力学的に安定である構造を自発的に形成することに留意されたい。
【0054】
両親媒性輸送体および活性成分は、特には、化学量論比(stoichiometric proportion)で混合されるものであり、すなわち、同モル数の両親媒性輸送体および活性成分が混合される。さらに、この混合物は、大気圧下、室温から溶媒の沸点の間の温度にて、1〜72時間加熱しながら製造することができる。
【0055】
こうして得られた分子間会合複合体は、次に、ろ過によって反応媒体から分離してよく、その後、凍結乾燥してよい。
【0056】
本発明は、以下の限定されない例および図を参照することにより、より十分に理解されるであろう。
【実施例】
【0057】
実施例1:1,7‐ラクトビオンアミドヘプタン酸 L6とプロメタジンとの会合(Lac6P)
【0058】
【化4】

プロメタジン187mg(0.66mmol)を、超純水30ml中の糖由来の界面活性剤Lac6 320mg(0.66mmol)の溶液に添加する。丸底フラスコを不透明黒色紙で覆って、感光性のプロメタジンを光から保護する。次に、この反応混合物を25℃にて24時間攪拌する。こうして均質な溶液が得られ、これから、凍結乾燥後、白色粉末の形態の生成物が定量的に得られる。
【0059】
この会合体は、新規な両親媒性種を構成し、これは、臨界凝集濃度(CAC)3.3×10−2Mから、平均流体力学的径が290nm(多分散指数(PI)=0.12)である小胞体を水中にて形成する。
【0060】
実施例2:1,7‐グルコンアミドヘプタン酸 G6とプロメタジンとの会合(Glu6P)
【0061】
【化5】

プロメタジン187mg(0.66mmol)を、超純水30ml中の糖由来の界面活性剤Glu6 213mg(0.66mmol)の溶液に添加する。丸底フラスコを不透明黒色紙で覆って、感光性のプロメタジンを光から保護する。次に、この反応混合物を25℃にて24時間攪拌する。こうして均質な溶液が得られ、これから、凍結乾燥後、白色粉末の形態の生成物が定量的に得られる。
【0062】
この会合体は、新規な両親媒性種を構成し、これは、CAC 1.1×10−2Mから、平均流体力学的径が285nm(PI=0.10)である小胞体を水中にて形成する。
【0063】
実施例3:1,7‐ラクトビオンアミドヘプタン酸 L6とメキタジンとの会合(Lac6M)
【0064】
【化6】

メキタジン214mg(0.66mmol)を、超純水30ml中の糖由来の界面活性剤Lac6 320mg(0.66mmol)の溶液に添加する。丸底フラスコを不透明黒色紙で覆って、感光性のメキタジンを光から保護する。次に、この反応混合物を25℃にて24時間攪拌する。こうして均質な溶液が得られ、これから、凍結乾燥後、白色粉末の形態の生成物が定量的に得られる。
【0065】
この会合体は、新規な両親媒性種を構成し、これは、臨界ミセル濃度(CMC)3.3×10−2Mから、水中にてミセルを形成する。
【0066】
実施例4:1,7‐グルコンアミドヘプタン酸 G6とメキタジンとの会合(Glu6M)
【0067】
【化7】

メキタジン214mg(0.66mmol)を、超純水30ml中の糖由来の界面活性剤Glu6 213mg(0.66mmol)の溶液に添加する。丸底フラスコを不透明黒色紙で覆って、感光性のメキタジンを光から保護する。次に、この反応混合物を25℃にて24時間攪拌する。こうして均質な溶液が得られ、これから、凍結乾燥後、白色粉末の形態の生成物が定量的に得られる。
【0068】
この会合体は、新規な両親媒性種を構成し、これは、CMC 1.1×10−2Mから、水中にてミセルを形成する。
【0069】
実施例5:プロメタジンおよびLac6Pで作製した二つの会合体で行った経皮透過の研究
・サンプルの製剤
研究に用いたヒドロゲルは、Lac6Pの小胞体水溶液(8×10−4M、活性成分2重量%)、またはやはり2重量%のプロメタジン塩酸塩水溶液を、同一体積にて2重量%のNatrosol(商標)水性ゲルに添加することによって作製する。従って、1重量%Natrosol(商標)および1重量%活性成分の製剤が得られる。
【0070】
本研究で試験した種々の配合は以下の通りである:
配合A:1%Natrosol(商標)ヒドロゲル中1%プロメタジンの製剤、および
配合B:1%Natrosol(商標)ヒドロゲル中1%会合体Lac6Pの製剤
【0071】
皮膚透過の評価
種々の配合の皮膚透過を、1cmのダイナミックフロー型フランツ拡散セル(dynamic-flow Franz diffusion cells)で評価した。この研究は、ブタの耳部皮膚に対して、ex vivoにて、限定された用量を用いて24時間にわたって行った。
【0072】
皮膚は、モントーバン、フランスにある食肉加工場から提供されたブタの耳部から採取する。耳を洗浄、切断した後、耳の外側部分から皮膚を採取し、−20℃で保存する。膜の作製のために、研究の前日にブタの耳部皮膚を解凍する。次に、均一な厚さを得るために、ダーマトームを用いて500μmのセクションを作製する。最後に、皮膚セクションを、1.5cm四方の正方形サンプルに切り取る。この正方形サンプルを、真皮がレセプター媒体と接触するように拡散セルに配置する。皮膚の表面温度を、37℃の水流により32℃に維持する。
【0073】
レセプター媒体は、0.9%NaClおよび3%ウシ血清アルブミン(BSA)の溶液から構成される。これを、1.5ml/時間の一定の流速で送液する。
【0074】
拡散セルのドナーコンパートメントとレセプターコンパートメントとを仕切る皮膚サンプルの表面へ、試験すべき製剤を適用する。これらの物質は、粘性生成物のために、1mlのシリンジを用い、二重秤量法によって堆積させる。研究は、限定された用量行われるため、堆積される量は5mgの製剤である。各製剤は二つの異なるセルで試験し、一つのセルは、ブランクとして用いるために何も行わずに保持する。
【0075】
製剤の皮膚との接触を24時間維持し、レセプター媒体を、2、4、8、12、18、および24時間にサンプリングして分析する。研究の最後に、回収した体積を測定する。種々の画分中の抗ヒスタミン剤の量を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)アッセイによって測定する。
【0076】
本研究は、Millipore510ポンプおよびXBridge C18カラム(2.1×150nm、3.5μm)を備えたWaters2695クロマトグラフ上、25℃にて行った。活性成分の検出は、Waters2487 Dual λ Absorbance Detectorを用いて、UV‐可視分光光度計により251nmの波長で行う。溶出は、流速0.35ml/分の勾配モードで行う。注入体積は10μlである。すべてのサンプルについて、注入は3回行った。
【0077】
選択した勾配の操作条件は以下の通りである:
−t:94%HO 0.1%HCOOH/6%アセトニトリル勾配
−tから15分:50%HO 0.1%HCOOH/50%アセトニトリル勾配
−15〜16分:40%HO 0.1%HCOOH/60%アセトニトリル勾配
【0078】
24時間後のHPLCで測定したプロメタジンの累積量を図1に示す。
【0079】
従って、図1は、カタニオニック複合体Lac6Pの形態のプロメタジンが、皮膚を通って良好に拡散することを示しており、従って、恐らくは刺激が少ないこの送達システムが、局所投与に適していることを示すものである。
【0080】
実施例6:それぞれプロメタジン塩酸塩およびメキタジン塩酸塩と比較した、Lac6PおよびLac6Mの光安定性の研究
皮膚投与が想定される場合、活性成分の光安定性は重要な基準である。実際、表皮内に感光性物質(プロメタジンまたはメキタジンなど)が存在し、それが太陽光への曝露と組み合わさると、活性の喪失および皮膚の光毒性を招く場合がある。
【0081】
従って、一方でプロメタジン塩酸塩および会合体Lac6Pの、ならびに他方でメキタジン塩酸塩および会合体Lac6Mの光物理的特性の研究を、UV分光光度法によって行った。
【0082】
この研究は、ヒューレットパッカード 8452Aダイオードアレイ分光光度計を190〜820nmまでの波長で操作して実施した。
【0083】
溶液を、4×10−2Mおよび6.6×10−5Mの濃度にて、石英セルで分析した。
【0084】
プロメタジンの光分解を、Millipore510ポンプおよびXBridge RP18カラム(2.1×100nm、3.5μm)を備えたWaters2695クロマトグラフ上、HPLCによって測定した。プロメタジンの検出は、Waters2487 Dual λ Absorbance Detectorを用いて、UV‐可視分光光度法により251nmの波長で行う。移動相は、0.1%ギ酸水溶液およびアセトニトリルの22/78混合物から構成する。溶出は、流速0.35ml/分の均一濃度モードで行う。注入体積は10μlである。すべてのサンプルについて、注入は3回行った。
【0085】
メキタジンの場合、移動相は、0.1%ギ酸水溶液およびアセトニトリルの20/70混合物から構成する。
【0086】
検量線は、プロメタジン塩酸塩により、10−5M〜5×10−3Mまでの濃度範囲で予め作成しておく。
【0087】
従って、これらの二つの抗ヒスタミン剤の塩酸塩の形態または生物活性カタニオニック会合体の形態の光安定性を、活性成分の光化学特性に対する自己凝集の影響を評価する(devalue)目的で、UV‐可視光線下にて研究した。
【0088】
本研究を実施するために、種々の溶液(4×10−2M)を、自然光下、25℃のウォーターバス中に数週間配置する。活性成分の分解が早すぎ、比較を行うことが不可能となってしまうキセノンランプの使用に比べて、このより緩やかな照射モードの方が好ましかった。
【0089】
しかし、いずれの分析を行う前にも、いくつかの目視観察を行ってよい:
− プロメタジン塩酸塩溶液は、24時間の曝露後、ピンク色となり、数日後には青‐青紫色に変わる。そして、自然光下にて約2週間の後、不溶性化合物が現れる。
−Lac6Pの小胞体溶液は、およそ1週間の曝露後、ピンク色となり、その後青‐青紫色に変わる。約20日後、対応する塩酸塩の場合と同様に、水相の不溶性生成物の出現も観察される。
−メキタジン塩酸塩溶液は、10日間の曝露後、ピンク色となり、その後はそれ以上変化しない。
−Lac6Mのミセル溶液は、数ヶ月の間、無色透明のままである。
【0090】
従って、Lac6P溶液においてピンク色の着色の出現が遅いことは、プロメタジン分解がイオン対の自己凝集によって僅かに遅延されることを示すものと考えられる。他方、メキタジンは、塩酸塩の形態でのみ分解することに着目することができる。
【0091】
しかし、この現象の理解をより深めるために、塩酸塩、ならびにLac6PおよびLac6Mの会合体の光分解を、可視分光法によって測定した。この分析技術は、色の変動を考慮するものであることから、この現象の研究に特に適している。
【0092】
従って、種々の溶液の可視光範囲の吸収は、最初はゼロである。自然光曝露下での2ヶ月の後、プロメタジンおよびメキタジン塩酸塩、ならびにカタニオニック会合体Lac6Pに対するバンドの存在から、観察された変色が確認される。可視分光法では、知覚された色が常に吸収放射線に対する補色であることに着目することは重要である。例えば、メキタジン塩酸塩は、緑色スペクトル(λ=512nm)を吸収し、ピンク‐紫色に呈色する。カタニオニック会合体Lac6Mについて可視光範囲での吸収がゼロであることは、UV放射線下での2ヶ月の後に色が観察されなかったことによって表される。得られた結果を以下の表に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
これらの測定から、プロメタジンの分解が、イオン対の自己凝集に影響されていることが示される。Lac6P溶液においてピンク色の着色の出現が遅いことは、最初の数日間の曝露の間の保護を示しているものと考えられる。さらに、プロメタジン塩酸塩は、538nmにバンドを有する一方、会合体Lac6Pは、562nmおよび594nmでの二つのバンドを特徴としている(上記表を参照)。これらの違いは、これら二つの化合物の分解速度の違いを示しているものと考えられる。
【0095】
従って、カタニオニック小胞体の膜内に活性成分を含有させることは、UV放射線によって誘発されるプロメタジンおよびメキタジンの分解を調節し、それによってこれらの活性成分が保護されるものと考えられる。
【0096】
しかし、着色がないということから、分解が起こっていないと結論付けることはできない。メキタジンを両親媒性輸送体と会合させることにより、確かに、この活性成分の分解経路を調節することができる。
【0097】
得られた結果をより分かりやすくするために、プロメタジン塩酸塩およびカタニオニック会合体Lac6Pの分解を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で定量した。分解は、溶液中に存在する未分解の活性成分の量を分析することで測定する(図2)。
【0098】
このようにして、カタニオニック小胞体の形態のプロメタジンの自己会合により、曝露の最初の数日間の活性成分の分解が最小限に抑えられることが観察される(図2参照)。自然光下での5日間の後、会合体Lac6Pおよびプロメタジン塩酸塩は、それぞれ、3%および13%の分解率を示す。分解の反応速度は、従って、イオン対の自己組織化によって遅延される。カタニオニック小胞体の膜内にプロメタジンを組み込むことにより、曝露の最初の数日間にこの抗ヒスタミン剤が強く保護される結果となる。
【0099】
さらに、カタニオニック会合体Lac6Mは、2ヶ月間の曝露の後、未分解のメキタジン塩酸塩と類似のUVスペクトルを有することが観察された。この結果は、可視分光法で得られた観察結果を裏付けるものである。メキタジンを両親媒性輸送体Lac6と会合させることにより、UV放射線に関して、この活性成分が長期的に保護される。
【0100】
従って、これらの結果は、全体として、遊離または会合した形態の活性成分の分解が異なることを実証するものである。プロメタジンの場合、分解反応速度が自己凝集によって遅延され、このことによって、曝露の最初の数日間、この活性成分が保護され、一方、メキタジンの場合、カタニオニック会合体Lac6Mによるミセルの形成によって、メキタジンが数ヶ月にわたって強く保護される。
【0101】
従って、生物活性カタニオニック集合体によって水溶液中で形成される凝集体の種類に関わらず、糖由来の界面活性剤と活性成分との間の会合は、後者の化学的安定性を確保するものである。この保護現象は、新規な皮膚化粧品製剤(dermo-cosmetic formulations)の開発において特に有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される、両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体:
【化1】

(上記式中、
−Sは、単糖または多糖などの炭水化物断片を表し、
−Rは、水素原子、一もしくは二つ以上のフッ素原子で置換されていてよく、特にペルフルオロ化されていてよいC‐C20、有利にはC‐C10である飽和もしくは不飽和の直鎖状、分岐鎖状、環状、または芳香族炭化水素鎖を表し、
−Xは、好ましくは直鎖状である、C‐C10アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖を表し、
−Yは、カルボキシレート(−CO)、サルフェート(−O−SO)、スルホネート(−SO)、ホスフェート(−O−P(O)(OR)O)、ホスホネート(−O−P(O)R)、またはホスフィネート(−P(O)R)基を表し、
ここで、Rは、C‐Cアルキル基を表し、Rは、水素原子またはC‐Cアルキル基を表し、ならびに、
−Gは、少なくとも一つの一級、二級、もしくは三級アミン、またはグアニジン官能基を含む活性成分、特に、抗ヒスタミン剤、抗うつ剤、降圧剤、神経伝達剤、アンフェタミン、麻酔剤、抗片頭痛剤、強心剤、ニコチン受容体アゴニスト、ビタミンまたはプロビタミン、および抗悪性腫瘍剤を含む群より選択される活性成分を表す)。
【請求項2】
Sが、グルコースまたはラクトース断片などの炭水化物断片を表す、請求項1に記載の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体。
【請求項3】
Rが、水素原子、またはC‐Cアルキル鎖を表し、好ましくは水素原子を表す、請求項1または2に記載の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体。
【請求項4】
Xが、C‐C10、有利にはC、C、C、C、もしくはC、さらにより有利にはCのアルキル鎖を表し、好ましくは直鎖状である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体。
【請求項5】
Gが、プロメタジンまたはメキタジンなどの抗ヒスタミン剤である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体。
【請求項6】
下記から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体:
【表1】

【請求項7】
薬物として、特には抗ヒスタミン剤として用いるための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体を少なくとも一つ含む、医薬組成物。
【請求項9】
局所または経皮投与のために用いられる、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
ヒドロゲルまたはエマルジョンの形態である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1に記載されたものと同義である前記活性成分Gの保護、および/または可溶化、および/またはその作用部位に向けての輸送のための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体の使用。
【請求項12】
下記の連続工程を含み、請求項1〜6のいずれか一項に記載の両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体を製造するための方法:
−下記式(II)で表される両親媒性輸送体:
【化2】

(上記式中、S、R、X、n、およびYが、請求項1に記載されたものと同義である)と、請求項1に記載された活性成分Gとを混合する工程、ならびに、
−このようにして得られた前記両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体を、反応媒体から分離する工程。
【請求項13】
前記両親媒性輸送体と前記活性成分が、実質的に化学量論比にて混合される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記両親媒性輸送体と活性成分との分子間会合複合体が、ろ過によって前記反応媒体から分離され、その後凍結乾燥されてもよい、請求項12または13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−506642(P2013−506642A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531455(P2012−531455)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064756
【国際公開番号】WO2011/039379
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【出願人】(506138878)ユニベルシテ・ポール・サバティエール・トゥールーズ・トロワ (4)
【Fターム(参考)】