説明

両面ハードコートフィルムの製造方法および透明導電性フィルムの製造方法

【課題】本発明は、基材フィルムの両面にHC層を有する両面HCフィルムの製造方法であって、初期カールはもちろん、透明導電膜が設けられた後のアニール処理や回路印刷時の加熱によるアフターカールも発生しない両面HCフィルムを、コストアップさせることなく、極めて簡単な方法で製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基材フィルムの片面にハードコート剤を塗布し、これを硬化させて第一ハードコート層を形成した後、基材フィルムの他面にハードコート剤を塗布し、これを硬化させて第二ハードコート層を形成する両面ハードコートフィルムの製造方法において、先に設けられたハードコート層の硬化度を後に設けられたハードコート層の硬化度よりも高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルムの両面にハードコート(以下、HCと称する)層を有する両面HCフィルムの製造方法、及び該製造方法を利用した透明導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルや電子ペーパー等に用いられる透明導電性フィルムには、フィルムに導電性を付与する透明導電膜の他に、押圧操作に耐える耐衝撃性を付与するHC層が設けられている。このような透明導電性フィルムの一般的な製造方法は、以下の通りである。
(1)基材フィルムにHC剤を塗布し、これを硬化させてHCフィルムを製造する。
(2)HCフィルムにインジウム−錫複合酸化物等からなる透明導電膜を設け、該透明導電膜を十分に結晶化させ、更に表面抵抗値を安定化させるために100〜150℃で30分以上のアニール処理を行う。
このようにして得られた透明導電性フィルムを、タッチパネルや電子ペーパー等に組み込む為には、更に、
(3)透明導電膜の端部に銀ペースト等の導電性ペーストからなる回路を印刷し、この導電性ペーストを乾燥或いは硬化するために、100〜150℃で1〜2時間加熱する。
という工程が必要となる。
ところで上述した(1)〜(3)の工程によって、HCフィルムがカールを起こすことが知られている。HCフィルムがカールすると、他の光学材料と貼り合わせることが難しくなる。また、ニュートンリングの発生や画面の視認不良を引き起こす恐れもある。
【0003】
(1)の工程によっておきるカール(以下、初期カールと称す)を防止するために、特許文献1では、HC層として硬化後の体積収縮率が2~10%である熱硬化性樹脂あるいは活性エネルギー線硬化性樹脂を用い、該HC層の膜厚を4~10μmとすることが提案されている。HC層を形成する剤として硬化後の体積収縮率が10%以下のものを用い、更にHC層の膜厚を10μm以下とすることにより、HC剤が硬化する際に発生する力(即ち、HCフィルムをカールさせる力)を最小限に止め、これにより初期カールを防止するのである。特許文献2では、基材フィルムを曲面に保持したまま硬化性樹脂を硬化させてHC層を形成するHCフィルムの製造方法が提案されている。HC剤が硬化する際に収縮することを見越し、収縮後にHCフィルムがフラットになるように、予め基材フィルムを湾曲させておくのである。
このようには、初期カールはHC剤の硬化収縮に起因することが知られており、該初期カールを防止する為にさまざまな手段が講じられている。
【0004】
基材フィルムの両面に同一材料からなる同じ膜厚のHC層を設ける手段も、初期カールを防止する有効な手段として知られている。基材フィルムの両面に同じ大きさの力を発生させて、カールを防止するのである。
本発明においても初期カールを防止する手段として、基材フィルムの両面にHC層を設ける方法を採用する。このような両面HCフィルムは、第一HC層と第二HC層とを同じHC剤から形成することが基本であるが、必要であれば異なるHC剤を使用してもよい。ただしこの場合、第一HC層用のHC剤と第二HC層用のHC剤とが、硬化後の体積収縮率において近似していなければ初期カールを防止することができない。そこで本発明では第一HC層用のHC剤の硬化後の体積収縮率をV、第二HC層用のHC剤の硬化後の体積収縮率をVとした場合に、VがVの0.8〜1.2倍であるHC剤を用いることとする。
【0005】
(2)や(3)工程によっておきるカール(以下、アフターカールと称す)の原因は、十分には解明されていない。基材フィルムの応力緩和やHC層の再収縮などが複雑に絡み合い、カールを発生させていると推察される。そこで特許文献3〜5では、HCフィルムに透明導電膜を直接設けずに、別の基材フィルムに透明導電膜を設け、HCフィルムの基材フィルムと透明導電膜を設けた基材フィルムとを、粘着層を介して積層する方法が提案されている。粘着層がクッション材として機能し、アフターカールの発生を防止するのである。しかしながら該透明導電性フィルムは、基材フィルムを二枚使用し、更に粘着剤をも使用するため高コストである。また二枚の基材フィルムを粘着剤によって貼り合わせる必要があるため、製造工程も煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−288921
【特許文献2】特開2006−218449
【特許文献3】特開平8−148036
【特許文献4】特開2002−73282
【特許文献5】特開2006−56117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は基材フィルムの両面にHC層を設けて初期カールを抑制する両面HCフィルムの製造方法において、初期カールはもちろん、透明導電膜が設けられた後のアニール処理や回路印刷時の加熱等によるアフターカールも発生しない両面HCフィルムを、コストアップさせることなく、極めて簡単に製造する方法の提供を目的とする。また該HCフィルムの製造方法を利用した透明導電性フィルムの製造方法を提供することも、同時に目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、基材層の両面に同じHC剤からなり膜厚が等しいHC層を有する両面HCフィルムを加熱し、フィルムの変化を確認したところ、特定の面側が凹むようにカールすることを突きとめた。そこで本発明者らは、第一HC層と第二HC層との膜厚に差をつけ、アフターカールを防止できないか検討した。その結果、第一HC層と第二HC層との膜厚差を数μmにするとアフターカールを抑制し得ることを見出した。しかしながら該方法では、第一HC層と第二HC層との膜厚差が大きくなりすぎるため、初期カールが発生してしまう。
次に本発明者らは、第一HC層と第二HC層の膜厚を近似させ、初期カールを抑制したまま、アフターカールを防止する方法を検討した。その結果、先に設けられたHC層の硬化度を後に設けられたHC層の硬化度よりも高くすることにより、アフターカールが抑えられることを見出し、本発明に至ったのである。
【0009】
即ち、本発明によると上記課題を解決するための手段として、基材フィルムの片面に第一ハードコート剤を塗布し、これを硬化させて第一ハードコート層を形成した後、基材フィルムの他面に前記第一ハードコート剤または硬化後の体積収縮率が前記第一ハードコート層の0.8〜1.2倍である第二ハードコート剤を塗布し、これを硬化させて第二ハードコート層を形成する両面ハードコートフィルムの製造方法において、前記第一ハードコート層の膜厚(μm)をa、硬化度(%)をb、前記第二ハードコート層の膜厚(μm)をa、硬化度(%)をbとした場合に、下記式(1)及び(2)を満たす両面ハードコートフィルムの製造方法が提供される。
―0.5≦a−a≦2.5・・・・・・(1)
3≦b−b≦14・・・・・・・・・・(2)
【0010】
更に、前記第一ハードコート層および前記第二ハードコート層を形成するハードコート剤が、共に活性エネルギー線硬化型であって、第二ハードコート層が第一ハードコート層よりも低い活性エネルギー線が照射され、硬化させられる前記両面ハードコートフィルムの製造方法が提供される。
更にまた、前記第一ハードコート層および前記第二ハードコート層を形成するハードコート剤が、共に活性エネルギー線硬化型であって、第一ハードコート層は、活性エネルギー線照射時に40℃以上に加熱されたバックアップロールによって支持される前記両面ハードコートフィルムの製造方法が提供される。
加えて前記製造方法によって得られた両面ハードコートフィルムの片面に、透明導電膜を形成する透明導電性フィルムの製造方法が提供される。
【0011】
尚、HC剤の硬化後の体積収縮率V、Vは、硬化前の液状のHC剤(溶媒成分は除く)の比重と硬化後のHC層の比重から求めることができる。硬化前の液体状態の比重は、樹脂が高粘度でありJIS Z 8804(1994)記載の液体比重測定方法では測定が困難な場合は、JIS Z 8807(1976)記載の固体比重測定方法記載の比重びんによる測定方法に従って測定を行うとよい。また硬化後の比重は、基材フィルム上にHC剤を塗布し、溶媒を乾燥除去させた後、熱或いは活性エネルギー線にてHC剤を硬化させ、その比重を、JIS Z 8807(1976)記載の固体比重測定方法記載の体積からの測定方法に従って測定し、算出するとよい。硬化前の液体状態の比重をdl、硬化後の比重をdsとすると、硬化後の体積収縮率(%)は[(ds−dl)/ds]×100によって求める。
【0012】
HC層の硬化度b、bは、未硬化状態のHC剤(溶媒成分を除く)のIRスペクトル(吸光度)と、HC層のIRスペクトル(吸光度)とを比較して求めることができる。具体的には、HC剤が硬化することにより減少するスペクトルの波長αcm−1と、HC剤が硬化しても変化しないスペクトルの波長βcm−1とを特定し、未硬化状態のHC剤の波長αcm−1におけるピークの高さをα、波長βcm−1におけるピークの高さをβとし、HC層(即ち、硬化後のHC剤)の波長αcm−1におけるピークの高さをα、波長βcm−1におけるピークの高さをβとした場合、HC層の硬化度(%)は{1−[(α/β)/(α/β)]}×100で求めることができる。
尚、アクリル系樹脂からなるHC層の場合、HC層が硬化することにより減少するスペクトルの波長αcm−1として(−CH=CH−)の二重結合に起因する波長1410cm−1を、HC層が硬化しても変化しないスペクトルの波長βcm−1として(−C=O)のカルボニル基に起因する波長1720cm−1を採用するとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の両面HCフィルムの製造方法は、第一HC層と第二HC層とを同じHC剤もしくは硬化後の体積収縮率が近似するHC剤を用いて形成し、更に第一HC層と第二HC層の膜厚を近似させることにより初期カールを防止し、また第一HC層の硬化度を第二HC層の硬化度よりも高くすることにより、アフターカールを防止するものである。よって、予めHC剤の種類、塗布量、硬化度等を十分に検討しておけば、基材フィルムを増やしたり、粘着剤を用いたりすることなく、従来の両面HCフィルムとほぼ同じコスト、工程数にて、初期カールおよびアフターカールの発生しない両面HCフィルムを得ることができる。また該方法を利用して透明導電性フィルムを製造した場合、従来の透明導電性フィルムの製造ラインと同じラインにて、カールの発生しない透明導電性フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の両面HCフィルムの製造方法の一実施形態を説明する模式的側面図である。
【図2】表1より膜厚差とカールの相関を抜出し、グラフにて示したものである。
【図3】表3より硬化度差とカールの相関を抜出し、グラフにて示したものである。
【図4】カールが発生した両面HCフィルムの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に図1に基づいて、本発明の両面HCフィルムの製造方法について説明する。
初めにロール状に巻き取られたポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルム)からなる基材フィルム1を繰り出し、その片面にグラビアコーター2にて、アクリル系樹脂からなるHC剤を塗布する。このとき溶媒にてHC剤を希釈し、塗布し易い粘度に調節しておくことが望ましい。次に溶媒を除去する。溶媒除去時間を短縮するためには、乾燥炉3を採用するとよい。更に、乾燥したHC剤に紫外線照射機4にて紫外線を照射し、HC剤を硬化させて第一HC層を形成する。片面に第一HC層が形成された基材フィルム1’は一旦ロール状に巻き取る。
次に、片面に第一HC層が形成された基材フィルム1’を再度同じ装置に導入し、基材フィルムの他面にHC剤を塗布する。このとき用いられるHC剤は、第一HC層を形成するHC剤と同じもの、もしくは硬化後の体積収縮率が近似するものとする。HC剤の塗布量(面積当たりの固形分量)も、第一HC層を形成する際に塗布した量とほぼ同じ量とする。次いでHC剤を乾燥し、更に紫外線を照射して第二HC層を形成する。尚、第二HC層を形成するための紫外線照射量は、第一HC層を形成するための照射量よりも低くする等して、第一HC層の硬化度が第二HC層の硬化度よりも高くなるようにする。
【0016】
本発明の製造方法に用いられる基材フィルムは、上述したPETフィルムに限定されるものではなく、例えばポリエチレンナフタレートフィルムや、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマーからなるフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマーからなるフィルム、スチレン系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマーからなるフィルム、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマーからなるフィルム、イミド系フィルム等、透明なフィルムであれば特に限定なく用いることができる。しかしながら経済性を考慮するとPETフィルムが望ましく、中でも機械的強度に優れた二軸延伸PETフィルムが望ましい。
【0017】
基材フィルムに塗布するHC剤は、ゾル−ゲル系材料等の熱硬化性材料や、紫外線、電子線等の活性エネルギー線によって硬化する樹脂を含有する塗布剤であり、硬化後の硬度が高く、基材フィルムに耐擦傷性を付与でき、尚且つ光線透過率の高いものであれば、特に限定なく用いることができる。このようなHC剤として、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アミド系、シリコーン系、シリケート系、エポキシ系、メラミン系、オキセタン系、アクリルウレタン系等の各種のHC剤が知られており、これらのうちの一種または二種以上を、適宜に選択して使用することができる。中でも、アクリル系樹脂が紫外線による硬化が可能で、尚且つ硬化後の硬度が高いため好ましい。
またHC剤を希釈する溶媒としては、たとえば、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、エチルアルコール等の一般的な溶剤を用いることができる。溶媒の配合量は、80重量%以下が好ましく、より好ましくは10〜70重量%である。
【0018】
基材にHC層を塗布するために、上述の方法では、グラビアコート法を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、ワイヤーバーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、エクストルージョンコート法、カーテンコート法、ダイコート法、ナイフコート法等、公知の塗布方法が用いられる。
【0019】
尚、初期カールを防止するためには、第一HC層と第二HC層が同じHC剤から形成されていることが望ましいが、必要であれば異なるHC剤を使用してもよい。この場合、第一HC層用のHC剤と第二HC層用のHC剤とは、硬化後の体積収縮率において近似していなければならない。詳しくは第一HC層用のHC剤の体積収縮率をV、第二HC層用のHC剤の体積収縮率をVとした場合に、0.8V≦V≦1.2Vでなければならず、更に0.9V≦V≦1.1Vが望ましい。体積収縮率VとVとが大きく異なっていると、初期カールの原因となる。
【0020】
また初期カールを防止するためには、更に第一HC層の膜厚aμmと第二HC層の膜厚aμmとが近似していなければならない。具体的には−0.5≦a−a≦2.5でなければならず、特に0≦a−a≦1.5が好ましい。これは本発明に先立ち行った「膜厚差と初期カール試験」の結果に基づくものである。該試験は、二軸延伸PETの両面に膜厚の異なるHC層を設け、初期カールを評価したものである。尚、初期カールの測定方法は、実施例の欄に記載する[初期カール評価]にて行った。試験例1〜7における第一HC層の膜厚、第二HC層の膜厚、初期カール評価の結果を表1に記す。また表1の結果から膜厚差と初期カールの相関をグラフ化して図2に記す。
図2より、−0.5≦a−a≦2.5の範囲ではカールが±10mm以内となることが、0≦a−a≦1.5ではカールが±5mm以内となることが推察される。尚、初期カールが小さいほどHCフィルムとしては優れていることになるが、初期カールが±10mm以内であれば、HCフィルムとして特に問題なく使用することができる。
【0021】
【表1】

【0022】
本発明の最大の特徴は、第一HC層の硬化度をb、第二HC層の硬化度をbとしたとき、bがbよりも3乃至14大きい点(3≦b−b≦14)である。上述の方法では第二HC層を形成するために照射した紫外線の量を、第一HC層を形成するために照射した量よりも低くすることによって、第二HC層の硬化を抑え、3≦b−b≦14を達成した。しかしながら3≦b−b≦14を達成する方法はこれに限定されるものではなく、例えばHC剤を硬化させる際の温度をコントロールすることによっても達成することができる。これは、HC剤が活性エネルギー線によって硬化するタイプのものであっても有効である。活性エネルギー線によってHC剤が硬化する際に熱が加わると、樹脂の架橋が促進されるためと考えられる。
HC剤を硬化させる際に温度をコントロールする具体的な方法は特に限定されず、雰囲気温度を変えて対応してもよい。またHC剤が活性エネルギー線硬化型の場合、第一HC層に活性エネルギー線を照射する際のバックアップロール(図1の符号5)の温度を40℃以上に加熱することによっても3≦b−b≦14を達成することができる。尚、この場合、第二HC層に活性エネルギー線を照射する際のバックアップロールの温度は、第一HC層に照射する際の温度より低くする必要があることは言うまでもない。バックアップロールを加熱する方法は、熱が効率よくHC層に伝わるので、即効性があり、経済性にも優れる。尚、バックアップロールの加熱温度は常温よりも高く、尚且つ基材フィルムに悪影響を及ぼさない温度にしなければならない。
【0023】
また本発明では、上述した製造方法によって得られる両面HCフィルムの片面に、透明導電膜を設ける透明導電性フィルムの製造方法も提案する。両面HCフィルム上に透明導電膜を形成する方法は特に限定されず、例えば金、銀、白金、パラジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、チタン、鉄、コバルト、錫等の金属、及びこれらの合金、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化カドミウム、酸化亜鉛、インジウム−錫複合酸化物(ITO)、アンチモン−錫複合酸化物(ATO)等の金属酸化物、ヨウ化銅、等の金属化合物等の透明導電性材料を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、スプレー熱分解法、化学メッキ法、電気メッキ法等の薄膜形成法により、基材フィルム上に皮膜を形成すればよい。尚、透明導電膜は数十Å〜数十nmの薄膜であるので、両面HCフィルムのカールが十分に抑えられていれば、透明導電膜の影響で両面HCフィルムがカールするという心配はない。よって透明導電膜は、両面HCフィルムのいずれの面に設けてもよい。
【0024】
図1の製造方法では、基材フィルムの片面に第一HC層を設けた後、該フィルムを一旦ロール状に巻き取り、再度同じ機械に導入し、次いで基材フィルムの他面に第二HC層を設けたが、塗布機やUV照射装置等を複数設けた装置を用いて、一つの製造ラインで両面HCフィルムを製造してもよい。また本明細書では、連続したフィルムに本発明を適用する方法について説明したが、枚葉に切断された基材フィルムについても、本発明は適用し得る。
【実施例】
【0025】
次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
まず実施例に先立ちHC剤を調整した。HC剤として、紫外線硬化型アクリルモノマー(固形分)48重量%とメチルイソブチルケトン(溶媒)52重量%に、若干の光増感剤とを混合したものを用いた。尚、本実施例では、第一HC層と第二HC層の硬化度の差がアフターカールに効果があることを明確化するために、全てのHC層を同一のHC剤から形成した。(よって、第一HC層を形成するHC剤の硬化後の体積収縮率Vと第二HC層を形成するHC剤の硬化後の体積収縮率Vは、すべて同じである。)
【0026】
本発明の効果は、以下の方法で評価した。
[初期カール評価]
両面HCフィルムを製造後、該フィルムを10cm角に切り出し、これを試験片とする。試験片を12時間放置し、HC層の硬化を安定化させた後、フィルム端部における浮き上がり(図4におけるH)を測定した。尚、第二HC層63側が凹むように(即ち図4に示すように)両面HCフィルムがカールした場合をプラス、その反対の方向にカールした場合をマイナスで表記した。尚、初期カール値は小さいほうが望ましいが、±10mm以内であれば十分使用することができる。
[アフターカール評価]
初期カール評価後の該試験片を180℃に加熱されたオーブンに10分間投入する。オーブンから取り出した試験片を室内に放置し、試験片が常温に戻るのを待ってフィルム端部の浮き上がりを測定した。尚、初期カールと同様に、第二HC層63側が凹むように(即ち図4に示すように)両面HCフィルムがカールした場合をプラス、その反対の方向にカールした場合をマイナスで表記した。尚、アフターカール値は小さいほうが望ましいが、±10mm以内程度であれば十分使用することができる。
【0027】
[実施例1]
厚さ50μmのPETフィルムの片面に、上述のHC剤を塗布・乾燥した後、紫外線を積算光量450mJ/cm、照射強度1000mW/cmの条件にて照射し、厚さ8μmの第一HC層を形成した。尚、紫外線を照射する際に基材フィルムが支持されるバックアップロールの表面温度は70℃に設定した。次いで、基材フィルムの他方の面に上述のHC剤を塗布・乾燥した後、第一HC層と同じ条件で紫外線を照射し、厚さ8μmの第二HC層を形成した。尚、このときバックアップロールの表面温度は30℃にした。第一HC層及び第二HC層について、膜厚、紫外線照射量及びバックアップロールの温度を表2に記す。
【0028】
[比較例1、2]
バックアップロールの温度、及び紫外線照射量を表2に記すように変えた以外は、実施例1と同様にして両面HCフィルムを製造した。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例1、比較例1、2の両面HCフィルムについて、第一各HC層の硬化度、第二HC層の硬化度を求め、更に初期カール評価及びアフターカール評価を行った。結果を表3に示す。また表3より硬化度差とカールの相関を図3に示す。図3より硬化度差(b−b)が3〜14の範囲であれば、初期カール、アフターカール共に±10mm以内となることが推察される。
【0031】
【表3】

【0032】
実施例1の製造方法によると、バックアップロールの温度を変化させるだけで、第一HC層の硬化度を第二HC層の硬化度よりも8%程度上げることができ、これにより初期カール、アフターカールを共に±10mm以内に抑えることができた。比較例1の製造方法では硬化度差(b−b)が大きく、第二HC層が凹む方向(プラスの方向)に大きなアフターカールが発生した。また比較例2の製造方法では硬化度差(b−b)が小さく、第一HC層が凹む方向(マイナスの方向)に大きなアフターカールが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は耐擦傷性に優れた両面HCフィルムの製造に利用することができる。特に、後加工の際に加熱される透明導電性フィルムの基材となる両面HCフィルムの製造に好適に利用される。また、透明導電性フィルムの製造に際しても本発明を好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 基材フィルム
1’ 片面に第一HC層が形成された基材フィルム
2 グラビアコーター
3 乾燥炉
4 紫外線照射機
5 バックアップロール
6 両面HCフィルム
61 基材フィルム
62 第一HC層
63 第二HC層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの片面に第一ハードコート剤を塗布し、これを硬化させて第一ハードコート層を形成した後、
基材フィルムの他面に前記第一ハードコート剤、或いは硬化後の体積収縮率が前記第一ハードコート層の0.8〜1.2倍となる第二ハードコート剤を塗布し、これを硬化させて第二ハードコート層を形成する両面ハードコートフィルムの製造方法において、
前記第一ハードコート層の膜厚(μm)をa、硬化度(%)をb、前記第二ハードコート層の膜厚(μm)をa、硬化度(%)をbとした場合に、下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする両面ハードコートフィルムの製造方法。
―0.5≦a−a≦2.5・・・・・・(1)
3≦b−b≦14・・・・・・・・・・(2)
但し、ハードコート層(%)の硬化度b、bは、それぞれ未硬化状態のハードコート剤(溶媒成分を除く)のIRスペクトル(吸光度)と、ハードコート層のIRスペクトル(吸光度)とを測定し、ハードコート剤が硬化することにより減少するスペクトルの波長αcm−1と、ハードコート剤が硬化しても変化しないスペクトルの波長βcm−1とを特定し、未硬化状態のハードコート剤の波長αcm−1におけるピークの高さをα、波長βcm−1におけるピークの高さをβとし、ハードコート層の波長αcm−1におけるピークの高さをα、波長βcm−1におけるピークの高さをβとした場合に、{1−[(α/β)/(α/β)]}×100で求める。
【請求項2】
前記第一ハードコート層および前記第二ハードコート層を形成するハードコート剤が、共に活性エネルギー線硬化型であって、第二ハードコート層が第一ハードコート層よりも低い活性エネルギー線を照射され、硬化させられることを特徴とする請求項1記載の両面ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第一ハードコート層および前記第二ハードコート層を形成するハードコート剤が、共に活性エネルギー線硬化型であって、第一ハードコート層は、活性エネルギー線照射時に40℃以上に加熱されたバックアップロールによって支持されることを特徴とする請求項1記載の両面ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの製造方法によって得られた両面ハードコートフィルムの片面に、透明導電膜を形成することを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−240235(P2012−240235A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109901(P2011−109901)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000206473)大倉工業株式会社 (124)
【Fターム(参考)】