説明

両面引き出し機構及び該機構を有する両面引き出し収納

【課題】片方向のみへの引き出し機構と同様に、特段の調整を行わない単純な押し込み動作だけで初期設定位置である中央位置へと復帰可能な両面引き出し機構、及び該引き出し機構を具備するキャビネット、両面収納家具及び両面収納機能付きの間仕切り板を提供すること。
【解決手段】両方向に摺動可能な引き出し部と、該引き出し部を収納する外枠部を有する引き出し機構であって、前記引き出し部摺動中の摺動抵抗変化及び音変化によって、引き出しに対して押し込み操作をする者に対し、前記引き出し部の初期設定位置への復帰を誘導する機構を有することを特徴とする両面引き出し機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正面方向と背面方向の両方向に引き出し可能な引き出し部と、該引き出し部を収納する外枠部を有する引き出し機構、該引き出し機構による両面収納機能を備えた引き出しユニット、キャビネット、両面収納家具、及び前記両面収納機能を有する間仕切り板、間仕切り家具に関する。
【背景技術】
【0002】
収納部の前後両面を開放可能とすることにより、収納方向、取り出し方向を増やし、また前後両面にそれぞれ別構造の収納部を設けたりして利便性を増加した収納部の構造、あるいは該収納部を有するキャビネット、戸棚が考案されている。またこのような収納部を有する家具を間仕切りとして使用して、間仕切りを挟んだ両側の部屋から上記家具への収納、取り出しを行うことにより、収納物の効率的な利用を可能とした間仕切り板、間仕切り家具が提案されている(特許文献1参照)。
このようなキャビネットや家具の両面収納機能は、両方向に引き出し可能な引き出し機構を備える(特許文献2参照)ことによってさらに利便性が向上するため、該引き出し機構を備えた収納部はキャビネット(特許文献3参照)、や両面収納家具(特許文献4参照)に適用されている。さらにこのような引き出し機構を有する両面収納家具を間仕切り板として使用して、該間仕切り板を挟んだ洗面室と洗濯室との両室から洗濯物の収納、取り出しを可能とした洗濯物収納装置(特許文献5参照)が提案されている。
【0003】
しかし、収納部にこのような両方向引き出し機構を設けた場合、引き出しを押し込み、初期設定位置であるもとの位置に戻すときに、簡単な初期の中央位置への復帰ができないという問題がある。両面引き出しを可能としたため、従来であれば強い力で停止位置まで引き出し部を押し込むことにより行っていた操作では、引き出しが反対方向に飛び出すことになり、引き出しの中央位置を目視で判断しながら押し込み力を加減して中央位置への復帰を調整しなくてはならない。
中央位置への正確な復帰を行わないと、引き出し部がどちらか一方向に突出することになり、両面引き出し機構を有するキャビネットや、両面収納家具の本来の整理機能が損なわれる。特に両面収納家具を間仕切りとして使用する間仕切り家具の場合には、引き出し機構が多数設置されることが多く、これら引き出しが初期位置に正確に復帰していないと、間仕切りとしての美観を大幅に損ねることになる。
このため収納部である引き出し部を閉める動作に注意力と時間を要し、本来の両面収納機能が有する利便性すらも損なわれる可能性があった。
両方向引き出し機構については改良も行われており、例えばより簡単な機構でスムーズな引き出しが行える様に摺動部分やストッパーについての提案がなされている(特許文献6参照)。しかし収納部である引き出し部の押し込み時の操作性に関する改良はなされておらず、中央位置へと簡単な操作で復帰するための機構は未だ提示されていなかった。
【特許文献1】特開昭58−138411号公報
【特許文献2】特開昭56−091711号公報
【特許文献3】特開平1−209014号公報
【特許文献4】特開平6−339413号公報
【特許文献5】特開2003−038273号公報
【特許文献6】特開2009−165592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、片方向のみへの引き出し機構と同様に、特段の調整を行わない単純な押し込み動作だけで初期設定位置である中央位置へと復帰可能な両面引き出し機構を提供することである。
さらにまた本発明の目的は、特段の位置調整を行わない単純な押し込み動作だけで、収納部を初期位置である中央位置へと簡単に復帰できる、両面収納機能付きのキャビネット、または両面収納家具を提供することである。
さらにまた本発明の目的は、特段の位置調整を行わない簡単な押し込み動作だけで、収納部である引き出し部を初期設定位置である中央位置へと簡単に復帰できる、両面収納機能を有する間仕切り板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは両面引き出し機構、両面引き出しユニットについて、従来行っていた目視による収納部の中央位置への復帰時の位置調整を、目視に頼らず行うことが必要であることを考慮し、そのために必要となる機構について検討して本発明に到達した。
すなわち本発明は、あらかじめ設定された中央位置より、両方向に摺動可能な引き出し部と、該引き出し部を収納する外枠部を有する引き出し機構であって、前記引き出し部摺動中の摺動抵抗変化及び音変化によって、前記引き出し部の前記中央位置への復帰を誘導する機構を有することを特徴とする両面引き出し機構を提供する。
さらに本発明は上記引き出し機構を有するキャビネットを提供する。
さらに本発明は両面に作業空間を形成した両面収納家具であって、上記引き出し機構を有する両面収納家具を提供する。
さらに本発明は両面収納機能を有する間仕切り板の少なくとも一部に、上記の引き出し機構を有する間仕切り板を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の両面引き出し機構及び引き出しユニットは引き出し部摺動中の摺動抵抗変化と音変化によって、引き出し部の中央位置への復帰を誘導するため、とくに目視で中央位置を確認しながら引き出し部の初期設定位置である中央位置への復帰を調整する必要がなく、簡単な押し込み操作だけで引き出し部を中央位置へと復帰させることができ、引き出し部を押し込み、所定の中央位置へと復帰させる操作を極めて簡便に行うことができる。
本発明のキャビネットまたは両面収納家具は、上記両面引き出し機構を有しているため、通常の片面のみのキャビネットや収納家具と同様に、簡単な押し込み操作のみで位置調整をすることなく引き出し部を押し込み、中央位置に復帰させることができる。このため両面収納機能を保持しつつ、引き出し部を中央位置へと押し込み、閉じるときの操作が極めて簡便であり、操作性が良好である。
本発明の間仕切り板は上記引き出し機構を有しているため、両面収納機能を保持しつつ、引き出し部を中央位置へと押し込み、閉じる操作が簡便であり、収納部である引き出し部の使用頻度が高くなっても、使用後に引き出し部がばらばらの位置のままで置かれることがなく、間仕切り板としての美観を損ねることが無い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の両面引き出し機構における引き出し部と外枠部の概略図である。
【図2】本発明の両面引き出し機構の実施態様における摺動抵抗変化を発生させるための磁性金属ユニットの静止時の概略図である。
【図3】本発明の両面引き出し機構の実施態様における摺動抵抗変化を発生させるための磁性金属ユニットの、磁気吸引力の働いている時の概略図である。
【図4】本発明の両面引き出し機構の実施態様における摺動抵抗変化を発生させるための磁石ユニットの概略図である。
【図5】本発明の両面引き出し機構の実施態様における摺動抵抗変化を発生させるための、磁性金属ユニットと磁石ユニットの取り付け位置の関係を示す概略図である。
【図6】本発明の両面引き出し機構の実施態様における摺動抵抗変化が発生しているときの、磁性金属ユニットと磁石ユニットの動作を示す概略図である。
【図7】本発明の両面引き出し機構を有する両面収納家具の実施態様を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の両面引き出し機構は、あらかじめ設定された中央位置より、両方向に摺動可能な引き出し部と、該引き出し部を収納する外枠部を有する引き出し機構であって、前記引き出し部摺動中の摺動抵抗変化及び音変化によって、前記引き出し部の前記中央位置への復帰を誘導する機構を有している。
引き出し部摺動中の摺動抵抗変化は、緩やかなものであっても、急激なものであってもよい、摺動抵抗が緩やかな場合には、主に引き出し部が中央位置に接近するにつれ徐々に増加するか、あるいは減少するように設定することができる。摺動抵抗変化が急激なものの場合には、中央位置に接近する途中で一度摺動抵抗変化が大きくならないと、押し込み操作時に操作速度が大きくなり中央位置を通過しやすい。また中央位置付近でのみ摺動抵抗が小さくなると、引き出し部の押し込み操作中に中央位置へと誘導されやすく好ましい。しかしこの場合であっても、引き出し部が中央位置に接近する途中で一度摺動抵抗が高くなることが好ましい。
【0009】
引き出しの操作速度と押し込み操作に必要な力を考慮すると、引き出し部の押し込み操作を開始して中央位置への復帰を始めた当初は摺動抵抗が小さく一定の摺動抵抗であって、中央位置からの一定の距離に到達した段階で摺動抵抗が緩やかに高く、あるいは急激に高くなる摺動抵抗変化が生じることが好ましい。また、摺動抵抗が引き出し部の中央位置で高いことにより、一度設定した中央位置から引き出し部が移動しにくいという利点もある。
【0010】
また引き出し部の押し込み操作中に摺動抵抗が小さくなることにより、引き出し部を操作する者を引き出し部の中央位置へと誘導することができる。特に中央位置の近傍でのみ摺動抵抗が低くなると、引き出し部が中央位置付近へと誘導されやすく、また中央位置の両側で摺動抵抗が高くなるため、引き出し部が中央位置からずれにくく、外枠部等に外力が加わった場合にも、引き出し部が初期設定位置である中央位置から外れにくい。但し一般的に引き出し部の摺動抵抗が、引き出し部が中央位置へと接近するにつれて減少する場合は、引き出し部の押し込み操作の速度が一層上昇しやすいため、引き出し部が中央位置を大きく過ぎない様に、引き出し部が中央位置へと接近する途中、あるいは少なくとも中央位置を過ぎてすぐの地点、あるいは時点において少なくとも一度摺動抵抗が高くなることが好ましい。
【0011】
引き出し部摺動中の音変化は、押し込み操作によって引き出し部が中央位置に到達したときに発生することが好ましい。このような音変化により、摺動抵抗の変化によって予め引き出し部の中央位置の近いことを察知していた引き出し部を操作する者は、中央位置の正確な位置を知り、押し込み操作を中止して引き出し部を中央位置へとより正確に設定することができる。さらに音変化によって引き出し部の中央位置への設定完了を確認できるため、引き出し部の摺動抵抗変化だけでは中央位置への正確な復帰を確信できない引き出し部を操作する者が、再度引き出し部の位置を目視して確認する必要がない。
【0012】
引き出し部の摺動抵抗の変化は種々の機構、方法で行うことが出来る。引き出し部の摺動は引き出し部と外枠部にそれぞれ設置された摺動部が勘合して行われる。したがってこれら摺動部自体に摺動抵抗変化を生じるための機能を設けても良いが、これら摺動部の勘合による摺動抵抗は基本的に小さく設定し、少ない力で引き出し部の移動が可能な状態に保ち、一方摺動部とは別の構成を付加して摺動時の抵抗を変化させることが好ましい。
摺動抵抗を変化させる方法としては、引き出し部と外枠部の対向する位置に、引き出し部の中央位置への接近に合わせて互いに接触し、摺動抵抗を発生可能な部材を取り付けることによりおこなうことができる。
しかし摩擦による部材の摩耗、摺動抵抗の経時変化を考慮すると、引き出し部摺動中の摺動抵抗の発生は磁性金属と磁石との間の吸着力によって行うことが好ましく、摺動抵抗の変化は吸着力の変化により発生するものであることが好ましい。磁性金属と磁石とのどちらか一方を両面引き出し機構の引き出し部、他方を両面引き出し機構の外枠部に固定して、引き出し部の中央位置の通過に応じて磁性金属と磁石とが接近、離反を繰り返す様に設置して行うことが出来る。
磁性金属と磁石の間に働く磁気的吸着力を用いることにより、非接触で摺動抵抗を発生させることができる。しかも引き出し部の中央位置で、対応する磁性金属と磁石との距離が最小となるように予め設定することにより、中央位置への接近とともに摺動抵抗が少なくなるような、引き出し部の中央位置への効果的な誘導が行われ、さらに該位置における引き出し部の保持・固定を安定的に行うことができる。あるいは磁性金属と磁石との接近時にそれらが接触するように設定することにより、接触音が音変化として発生するためより好ましい。磁気吸着力を発生する磁性金属と磁石とは互いに複数個を組み合わせてもちいることができる。
【0013】
引き出し部の摺動中の音変化の発生は、発音源の接触、打撃等の機械的機構のみによって行われるものでも良く、またブザー、ベル等の電源を伴う発生源によるものでもよい。また摺動中の音変化は引き出し部が中央位置に正確に復帰したことを、引き出しを操作する者に察知させる信号となるものであることが好ましく、このため初期設定位置である中央位置への引き出し部の設定完了に伴い発生する短い時間の音変化であることが好ましく、該短い時間のみに音が発生することがさらに好ましい。
このような音変化の機構は引き出し部が中央位置へと復帰したことを検出する位置検出部と、信号音となる音変化を発生する発音体から電気的に構成することも可能であるが、機械的機構のみによるものであることが構造も簡単で故障が少なく、専用の電源も不要であるため好ましい。
このような機械的機構のみからなる音変化の発生方法としては、例えば引き出し部または外枠部に設置した振動板の、引き出し摺動時の摩擦によって発生させてもよい。しかし磁気吸着力によって接近する磁性金属小片と磁石小片の接触音は音の大きさ、音発生地点を極めて狭い箇所に限定できること、構造の簡単さ、耐久性等の点において好ましい。
特に前記摺動変化を発生させるときに使用した磁性金属と磁石とが、引き出し部の中央位置への設定とともに磁気吸着力で接近接触するときの接触音による音変化によって発生させたものであると、摺動抵抗の変化も同時に発生させることができ好ましい。
【0014】
引き出し部が中央位置に復帰した際、引き出し部と外枠部のそれぞれどちらか一方に設置された磁性金属と磁石とが接触するときは、引き出し部が外枠へと吸着される必要があり、引き出し部が摺動方向と直角方向に移動する必要がある。
このため、これを可能とするためには強力な吸着力を発生させる磁性金属と磁石との組み合わせ、または引き出し部と外枠部との間の小さなクリアランスが必要となり、磁性金属、磁石の取り付け部を含めた引き出し部、外枠の設計を適切に調整する必要がある。
一方磁性金属または磁石の少なくとも一方が可動部を有し、該可動部が吸着力で動いて磁性金属と磁石との接触を発生する場合には、可動部を動かすに足る吸着力さえ発生させる磁性金属と磁石とを使用することが出来れば、引き出し部と外枠とのクリアランス調整等は不要である。
【0015】
このような磁気吸着力による動きが可能となるためには、引き出し部または外枠部のそれぞれどちらかに固定された磁性金属または磁石の少なくとも一方は、可動部を有していることが必要であり、磁性金属または磁石の可動部が動いて互いに吸着し接触することが必要である。このためには例えば磁石により一部が突出可能に保持された球状磁性金属が突出時に磁石と接触するように、該球状磁性金属と磁石の一方を引き出し部、他方を外枠部に取り付けることにより行うことができる。
あるいは磁性金属または磁石の少なくとも一方は、予め設定された回転軸の回りに回転しつつ移動可能に保持された小片部分を有しており、磁気吸着力によって磁性金属または磁石の小片が回転による移動を起こして互いに吸着する構造にすると、構造が簡単な上、設計自由度が高く、発生する接触音も大きいため好ましい。該回転軸は磁性金属または磁石が矩形小片状であるときは、その一辺を回転軸として固定して他辺を該回転軸の回りに回転させてもよいし、予め設定した回転軸の回りに磁性金属または磁石全体が回転して移動するようにしてもよい。
【0016】
引き出し部の摺動中に磁気吸着力で摺動抵抗変化を発生させるための磁性金属と磁石とは、そのまま接着剤等で引き出し部や外枠部とが初期の設定位置にあるときの対向する位置に固定することも可能であるが、ネジ等で固定が可能なように貫通孔を有する取り付け固定部を有していることが好ましい。これら取り付け固定部の材質は磁性金属と磁石との吸着力に影響を及ぼさず、かつ強度の高い非磁性金属やプラスティック製であることが好ましい。さらにこれら取り付け固定部と磁性金属または磁石とを固定したり、可動可能に保持したりするための保持材を有していても良い。
これら摺動抵抗変化を磁気吸着力で発生させるための磁性金属や磁石は、これら取り付け固定部と保持材とともに組み合わされた磁性金属ユニット、磁石ユニットとして引き出し部や外枠部の対向する位置に取り付けられて、磁気吸着力により引き出し摺動時の摺動変化や、それらが吸着したときの音変化を発生して、引き出し部を中央位置へと誘導する。
磁性金属と磁石のうちの少なくとも一方は、取り付け用の貫通孔を有した取り付け固定部分と、該取り付け固定部分に固定された保持材が磁性金属または磁石を可動状態に保持していることが好ましい。例えば取り付け固定部に固定された回転軸の回りに、保持材によって回転可能に固定された小片であるような、磁性金属ユニット、磁石ユニットを構成することができる。
【0017】
本発明の両面引き出し機構の基本構成は、図1に示すように。両方向に引き出し可能な引き出し部1が、該引き出し部に固定された摺動部3を介して、該引き出し部を収納する外枠部2に形成された摺動部4と勘合し、両方向摺動可能に保持されている。
本願発明の両面引き出し機構における両方向に引き出し可能な引き出し部、及び該引き出し部を収納する外枠部は、従来使用されている両面引き出し機構に使用されている構造、素材、機構を使用することができる。
【0018】
両方向に引き出し可能な引き出し部は、正面板、背面板、底面板及び外側に引き出し時の摺動のための支持レールや摺動溝を有した2枚の側面板を有し、上部が開口した箱体に形成することができる。あるいは底面板のみを厚くして側面に支持レールや摺動溝を形成し、本発明の引き出し機構を適用することもできる。引き出し摺動時の摺動抵抗変化を付与する機構を設けるためには、それら機構を設けていないときのもとの摺動抵抗が小さく、摺動抵抗変化を付与しやすいことが好ましく、そのためには両側面板の外側に支持レールを有し、該支持レールが外枠部の対応位置に固定されたコの字状の外レールに対し、摺動自在に勘合されたコの字状の内レールに対しさらに摺動自在に勘合され、内レールには複数の転子が回転自在に取り付けられた構造とすることができる。
【0019】
本願発明の引き出し機構における外枠部は、天板、底板、二枚の側板を有し、引き出し部を正面方向と背面方向の両方向に引き出すことが出来る様に構成され、二枚の側板の内側で、引き出し部の摺動位置に対向する部分には、引き出し部の側面外側に形成された摺動機構に対応する桟部材やコの字状の摺動用外レールが形成されている。
【0020】
以下に本願発明の引き出し機構の具体的実施形態について図面を参照しながらより詳細に説明する。本願発明の一つの実施形態においては、磁性金属と磁石との間の磁気吸着力を、少なくとも一方に可動部分を有する磁性金属と磁石との間に働かせ、引き出し部摺動中の摺動抵抗変化を発生させる。図2は本発明の一つの実施形態に使用する磁性金属ユニット5である。該磁性金属ユニット5は取り付け用貫通孔6を有する取り付け用固定部7と、磁性金属小片8と保持材である磁性金属保持片9とを有し、磁性金属保持片9の一辺は該取り付け用固定部7に設置された回転軸である固定ピン10で固定され、図3に示す様に該回転軸である固定ピン10の回りに磁性金属小片8及び磁性金属保持片9が回転可能となっている。
このような可動部分を有する磁性金属または磁石は、通常は回転軸を水平にし、かつ該回転軸を上部にして図3のような向きに保持される。従って磁気吸着力が働かないときは、磁性金属保持片9及び磁性金属小片8は、回転軸を介して自重で鉛直方向に向いて静止している。
【0021】
一方本願発明の一つの実施態様においては、磁性金属ユニット5の磁性金属小片8との間に磁気吸着力を働かせる磁石ユニット11は、小片形状をしており、吸着部12を形成するネオジム磁石である磁石13と、該磁石に対して窓状の開口を設定し吸着部12を形成するとともに、吸着部12で磁石面の露出した磁石13を保持し、かつ取り付け用貫通孔14を有する非磁性金属である取り付け固定部とから形成されている。非磁性金属で吸着部の開口を形成することにより狭い範囲に磁力線が集中し、磁性金属ユニットの磁性金属と吸着部とが近接した狭い範囲で強力な磁気吸着力を働かせることができる。
このような形状の磁石は磁石部の幅を磁性金属の可動部の幅をほぼ同一に形成することにより、磁性金属と磁石との相対的位置の狭い範囲で磁気吸着力を大きくすることができ、中央位置への復帰をより正確に行うことが出来る。
【0022】
これら取り付け用の貫通孔を有する磁性金属ユニットと、あるいは磁石ユニットは本願発明の引き出し機構における引き出し部の側板外側、あるいは外枠部の側板の内側の互いに相対する位置に図5のように、引き出し部が初期に設定位置にあるときにこれらが最接近するように固定して使用することができる。磁性金属ユニットと磁石ユニットとは、引き出し部の一方の側面側のみに設置されていても、両方に設置されていてもよい。
【0023】
これら磁性金属ユニット5と磁石ユニット11のそれぞれどちらか一方を取り付けた引き出し部が中央位置に到達したときの、磁性金属と磁石との接触状態を図6に示す。磁性金属ユニット5の磁性金属小片8は、磁石ユニット11の磁石13の吸着部12との間に磁気吸着力によって回転軸である固定ピンの回りに回転し、磁性金属の一端が磁石ユニットの吸着部12と接触し、このとき大きな接触音を発生する。一方吸着部12の幅は可動部である磁性金属小片12の幅とほぼ同一であり、狭い領域に強力な磁力線が集中しているため、磁性金属小片に対して、それらが正対する中央位置の周辺で大きな摺動抵抗変化を発生し、かつ吸着部12と磁性金属小片の摺動方向の位置が一致したとき最も大きな磁気吸着力を発生する。このため引き出し部が初期設定位置である中央位置へと誘導され、一端引き出し部が中央位置へと設定されると、外力によって位置ズレを起こすことが少なく、引き出し部は安定して初期設定位置を保持することができる。
【0024】
本発明の両面引き出し機構は、これをキャビネットにおけるそれぞれの収納部である両面引き出し可能な引き出し部と、外枠部であるキャビネットの収納部本体に適用して、摺動中の摺動抵抗変化と音変化とによってあらかじめ設定された中央位置への復帰を誘導する両面引き出し機構を有するキャビネットとすることができる。
【0025】
さらに本発明の両面引き出し機構は、該引き出し機構の機能を有する両面引き出しユニットとして、これを両面収納家具におけるそれぞれの収納部である両面引き出し可能な引き出し部と、外枠部である両面収納家具の収納部本体に適用して、摺動中の摺動抵抗変化と音変化とによってあらかじめ設定された中央位置への復帰を誘導する両面収納家具とすることができる。該両面収納家具の一例の正面側の外観を図7に示す。両面収納可能とすることにより、基本的に正面と背面の外観を同一とすることも可能である。
これら本発明の両面引き出し機構を適用したキャビネットや両面収納家具は、従来の両面引き出し機構では達成できなかった、引き出し部の単純な押し込み操作による簡便な中央位置への復帰を実現しており、引き出し部を閉じる操作を煩雑にすることなく、また引き出し部を閉じた後、初期の設定位置へと正確に揃うため外観を損ねることがない。このため例えばキッチンとダイニングルームとを両作業空間とする両面収納家具として食器等を収納して使用したとしても、両作業空間から収納物を使用でき、さらに引き出し部が初期設定位置へと簡単に復帰されるため、引き出しの停止位置がバラバラにならず、ダイニング側から両面収納家具を見た場合にも、美観を損ねず、ダイニング全体の調和感を損ねることがない。
【0026】
さらに本発明の両面引き出し機構は両面収納機能を有する間仕切り壁の少なくとも一部であって、両面引き出し可能な収納部を有する箇所に適用することができる。このような間仕切り壁を用いることによって、例えば洗面室と洗濯室との間仕切り壁として、本発明の両面引き出し機構を適用した両面収納機能を有する引き出し部を適用することにより、たとえば洗面室を洗濯室の間で洗濯の完了した衣類の収納、洗面室からの取り出しを行うことができ、また洗濯の必要な衣類を洗濯室へと引き渡しすることができる。そして頻度の高い引き出し部の引き出し、押し込み操作にもかかわらず引き出し位置が簡単な押し込み操作で中間位置に復帰するため、間仕切り壁としての美観を損ねることがなくかつ極めて利便性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の両面引き出し機構、及び該引き出し機構を具備したキャビネット、両面収納家具、及び間仕切り板は、引き出し部を単純な押し込み動作で初期設定位置である中央位置へと設定でき、両面収納の利便性をより一層高めるものである。
【符号の説明】
【0028】
1 引き出し部
2 外枠部
3 摺動部(引き出し側)
4 摺動部(外枠側)
5 磁性金属ユニット
6 取り付け用貫通孔
7 取り付け用固定部
8 磁性金属小片
9 磁性金属保持片
10 固定ピン
11 磁石ユニット
12 吸着部
13 磁石
14 取り付け用貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ設定された中央位置より、両方向に摺動可能な引き出し部と、該引き出し部を収納する外枠部を有する引き出し機構であって、前記引き出し部摺動中の摺動抵抗変化及び音変化によって、前記引き出し部の前記中央位置への復帰を誘導する機構を有することを特徴とする両面引き出し機構。
【請求項2】
前記摺動抵抗の変化は磁性金属と磁石との間の吸着力変化であり、前記音変化は前記磁性金属と前記磁石との間の接触音である請求項1に記載の引き出し機構。
【請求項3】
前記磁性金属と磁石はその一方が引き出し部、他方が外枠部に固定され、前記引き出し部の中央位置の通過に応じて接触、離反を繰り返す請求項2に記載の引き出し機構。
【請求項4】
前記磁性金属及び磁石は取り付け固定部によってその一方が引き出し部、他方が外枠部に固定され、少なくとも一方は保持部材によって取り付け固定部に対して移動可能に保持されている請求項3に記載の引き出し機構。
【請求項5】
前記磁性金属または磁石の少なくとも一方は、予め設定された回転軸の回りに回転しつつ移動可能に保持された小片であり、磁気吸着力による前記他端の移動により前記磁性金属と前記磁石が接触する請求項3または4に記載の引き出し機構。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載された引き出し機構を有することを特徴とするキャビネット。
【請求項7】
両面に作業空間を形成した両面収納家具であって、請求項1〜5のいずれか1項に記載の引き出し機構を有することを特徴とする両面収納家具。
【請求項8】
両面収納機能を有する間仕切り板の少なくとも一部に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の引き出し機構を有することを特徴とする間仕切り板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−27607(P2013−27607A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166786(P2011−166786)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】