説明

中ないし高分化型がんの免疫療法用組成物および治療方法。

中ないし高分化型がん細胞の存在を特徴とするがんの治療用免疫療法用組成物および治療方法が提供される。代表的な免疫療法用組成物は、前立腺酸性フォスファターゼ/顆粒球-マクロファージ コロニー刺激因子融合タンパク質を含む融合タンパク質のようなタンパク質コンジュゲートによって活性化される、樹状細胞を含む抗原提示細胞を利用する。1個または2個以上の免疫療法用組成物を利用する治療方式に対するがん細胞の感受性を評価する方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療用組成物および治療方法に関する。より具体的には本発明は、中ないし高度に分化したがんの患者におけるがん細胞増殖を阻害する免疫学的治療用組成物および治療方法を提供する。さらに本発明は、免疫学的治療用組成物を用いる治療方式(treatment regimens)に対する感受性をがん患者について評価する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
がんは、異常細胞の無制御な増殖および転移を特徴とする一群の疾患であり、米国では心臓疾患に次ぐ第2位の死亡原因である。2001年には、約1,268,000人の新たな患者が診断され、約553,400人が死亡すると予測された。米国における生涯発がんリスクは、男性で約2人に1人、女性で約3人に1人である。
【0003】
前立腺がんは米国男性で最も多く診断される新生物である。2001年には、推定で198,100人の前立腺がんの新患者の診断が下され、これは、がんの診断が下された男性の新患者全体の約29%に相当した。2001年には、約31,500人の死亡原因が前立腺がんであった。1988年から1992年の間に前立腺がんの発症率が劇的に増大したが、これは、前立腺特異抗原(PSA)の血液検査の利用の増大を通じて無症状の男性についてより早期に診断できるようになったためである。前立腺がんの発症率はその後減少して安定してきた。男性の6人に1人は生涯のある時点で前立腺がんを発症する。
【0004】
いずれかのがんについて適当な治療法を決定するためには、ある治療のモダリティの治療としての有効性を予測しようとするさまざまな因子の評価が必要である。従来のがん治療方式は、がんの型にもよるが、外科療法、放射線療法、化学療法、ホルモン療法またはこれらの組み合わせを含むことがしばしばある。
【0005】
前立腺がんという特定の場合では、患者の年齢、がんの進行段階その他の医学的な条件を考慮すると、外科療法および/または放射線療法が治療の一般的なアプローチである。ホルモン療法および化学療法は転移疾患に頻繁に用いられる。ホルモン療法は、腫瘍のサイズを縮小させて痛みその他の徴候を軽減することによって、長期にわたり前立腺がんを制御する場合がある。場合によっては、特に、低悪性度および/または初期の腫瘍を有する高齢者については、当面積極的な治療を施すことなく注意深く観察すること(経過観察(watchful waiting))が適切な場合がある。
【0006】
最近がん研究の進歩が、さまざまながん治療用の免疫療法組成物をもたらしてきた。がん治療の免疫療法的アプローチは、がん細胞が異常あるいは外来の細胞および分子に対する生体防御をしばしばかいくぐることができ、これらの防御は治療によって失地回復するように刺激される場合があるという認識に基づく。非特許文献1を参照せよ。
【非特許文献1】Klein、“Immunology(免疫学)、”pgs.623−648(Wiley−Interscience、New York、1982)
【0007】
さまざまな免疫エフェクターが直接または間接に腫瘍の成長を阻害できるという最近の観察が、がん療法に対するこのアプローチへの関心を新たにすることにつながった。非特許文献2および3。現代的な免疫療法は、例えば、抗体療法、ポリペプチドワクチンおよび多数の細胞免疫療法を含む。これらの免疫療法の治療モダリティのそれぞれは、がん細胞の監視および根絶を司る患者の免疫システムの要素の増強を共有する。
【非特許文献2】Jagerら、Oncology 60(1):1−7(2001)
【非特許文献3】Rennerら、Ann Hematol 79(12):651−9(2000)
【0008】
がんの特定のタイプに関係なく、臨床的な予後は、がん細胞の分化状態を決定することによって予想されることがよくある。ある腫瘍の分化の程度と、その生物学的な挙動との関係は、1世紀以上前から知られてきた。1920年代という昔に、組織学的な「等級」、すなわち、分化の数量的表現の患者の予後への影響が初めて分析された。高分化型がん細胞は高い生存率と相関するが、低分化型がん細胞の存在は臨床的予後の悪さを示す。低分化型腫瘍は、高分化型腫瘍よりも攻撃的な経過をたどるという基本的な結論は、その後繰り返し支持されてきた。
【0009】
腫瘍の等級は、等級1が高分化型でゆっくりと分裂する細胞を有するがんを表し、等級2が中程度の分化型細胞を有するがんを表し、等級3が低分化型で速く分裂する細胞を有するがんを表し、等級4が未分化細胞を有するがんを表す、1ないし3か、1ないし4かのスケールで示されることがしばしばある。がんの予後は等級が大きいほど低下する。
【0010】
もともと扁平上皮がんについて開発されたBroderの等級法は今日でも用いられている。この方法によって腫瘍は不完全な分化を示す腫瘍の割合に従って4つの等級のうちの1つに分類される。非特許文献4−6。等級が低い高分化型腫瘍は良性腫瘍によく似ているが、等級が高い低分化型腫瘍はほとんど似ていない。正式な等級システムは、近年、基準のより厳格な標準化で改善された。非特許文献7.
【非特許文献4】Broders、JAMA 656−654(1920)
【非特許文献5】Broders、Ann.Surg.73:141−60(1921)
【非特許文献6】Broders、Arch.Pathol Labl Med.2:376−81(1926)
【非特許文献7】Elston、Aust NZ J.Surg.54:11−15(1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
等級化ががんの予後を予想するうえで価値が大きいことは証明されたが、免疫療法の治療方式を施されている患者の臨床的な予後を将来的に評価するのに追うようできるかもしれないことは理解されていない。したがって、免疫療法に基づくがん治療方式の治療予後を予測するのに利用可能な方法の必要性は本発明の技術分野に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明は、中ないし高分化型がんの患者のがん細胞増殖を阻害する免疫療法用組成物および治療方法を提供することによってこれらおよびその他の関連する必要性に応える。免疫療法用組成物に対するがん患者のがん細胞の感受性を評価する方法も提供される。本明細書で提示される免疫療法用組成物および治療方法のそれぞれは、がん細胞の分化状態の目安となるがん細胞の等級が、免疫療法の治療方式を施されているがん患者の臨床的予後を予想するという知見に基づく。
【0013】
一部の実施態様では、本発明は、中ないし高分化型がんの患者から得られる、単離された活性化抗原提示細胞(antigen presenting cells、APCs)を含む免疫療法用組成物を提供する。前記抗原提示細胞は、腫瘍関連抗原(tumor−associated antigen、TAA)に生体外(ex vivo)で曝露することによって刺激される。前記腫瘍関連抗原は、腫瘍特異抗原(tumor−specific antigen)の場合がある。前記腫瘍関連抗原および/または腫瘍特異抗原は、N末端部分(N−terminal moiety)およびC末端部分(N−terminal moiety)を含むタンパク質コンジュゲートの構成部分の場合がある。本発明に従って刺激された前記抗原提示細胞は、前記N末端部分またはC末端部分に対する細胞傷害性細胞免疫応答を起こすT細胞の活性化に有効である。T細胞活性化レベルは、前記N末端部分またはC末端部分のいずれか単独に曝露されるときに前記抗原提示細胞により生じるT細胞活性化レベルより高い。特定の好ましい実施態様は、前記抗原提示細胞が樹状細胞(dendritic cells、DCs)であることを示す。
【0014】
本発明の免疫療法用組成物は、例えば、軟組織肉腫と、リンパ腫と、脳、食道、子宮頸部、骨、肺、子宮内膜、膀胱、乳房、喉頭、大腸/結腸、胃、卵巣、膵臓、副腎および前立腺のがんとのような、がんの治療に特に適する。その他のがんも治療できる場合がある。本明細書で例示されるのは、前立腺がんの治療用の免疫療法用組成物である。
【0015】
前記がんが前立腺がんである実施態様では、前記がんの分化状態は、例えば、グリーソン指数(Gleason score)によって決定される場合がある。免疫療法用組成物は、中ないし高分化型がん細胞の存在を示す7以下のグリーソン指数を有する前立腺がんと診断された患者から単離された抗原提示細胞を含む場合がある。一部の実施態様では抗原提示細胞は、ホルモン除去療法(hormone ablation therapy)に抵抗性の前立腺がん患者から単離される。他の実施態様は、前記抗原提示細胞がホルモン除去療法に抵抗性でない患者から単離されることを示す。
【0016】
本発明のある面は、抗原提示細胞が融合タンパク質であるタンパク質コンジュゲートによって刺激される免疫療法用組成物を提供する。本発明のこれらの面によると、前記融合タンパク質は、N末端部分およびC末端部分を含み、さらに、1個または2個以上のアミノ酸のリンカーペプチドを含む場合がある。N末端かC末端かのいずれかの原子団は、配列番号1に示す配列(ヒトPAP)と少なくとも70%、80%、90%、95%または98%の配列同一性を有する配列を含む場合があるか、あるいは、ヒトPAPの活性断片、誘導体または変異体を含む場合がある。他の実施態様は、前記N末端部分またはC末端部分が配列番号1に示す配列を有する免疫療法用組成物を提供する。
【0017】
他の実施態様では、本発明の免疫療法用組成物は、配列番号3に示す配列(ヒトGM−CSF)か、ヒトGM−CSFの活性断片、誘導体または変異体かと少なくとも70%、80%、90%、95%または98%の配列同一性があるC末端部分またはN末端部分を有するタンパク質コンジュゲートで刺激された抗原提示細胞を含む。他の実施態様は、C末端部分またはN末端部分が配列番号3に示される配列を含む免疫療法用組成物を提供する。
【0018】
より好ましいのは、前記抗原提示細胞が、配列番号1に示す配列(ヒトPAP)か、ヒトPAPの活性断片、誘導体または変異体かと少なくとも70%、80%、90%、95%または98%の配列同一性があるN末端部分と、配列番号3に示す配列(ヒトGM−CSF)か、ヒトGM−CSFの活性断片、誘導体または変異体かと少なくとも70%、80%、90%、95%または98%の配列同一性があるC末端部分かを含むタンパク質コンジュゲートで刺激される、免疫療法用組成物である。最も好ましいのは、配列番号5に示される配列を含むタンパク質コンジュゲートで刺激される、中ないし高分化型のがん細胞を有する患者から得られた抗原提示細胞を含む免疫療法用組成物である。
【0019】
本発明は、中ないし高分化型のがん患者のがん細胞増殖を阻害する方法にも向けられる。1つの実施態様では前記方法は、(a)免疫療法用組成物を用いる治療に感受性のある患者であることを示す、中ないし高分化型がん細胞の患者の体内での存在を決定するステップと、(b)前記中ないし高分化型がん細胞の患者に免疫療法用組成物の治療上有効な投与量を投与するステップとを含む。これらの方法によって前記がんの進行が10%、25%または50%減退することは、前記がん細胞の成長阻害を示す。
【0020】
一部の好ましい実施態様では、本発明は、上記の免疫療法用組成物の1つを用いる、中ないし高分化型がん患者のがん細胞の成長を阻害する方法を提供する。
【0021】
代替的な関連する実施態様は、(a)免疫療法用組成物を用いる治療に感受性のある患者であることを示す、中ないし高分化型がん細胞の患者の体内での存在を決定するステップと、(b)前記中ないし高分化型がんの患者から抗原提示細胞を単離するステップと、(c)N末端部分およびC末端部分を含むタンパク質コンジュゲートに生体外で曝露することによって前記抗原提示細胞を刺激するステップと、(d)刺激された前記抗原提示細胞の治療上の有効投与量を前記患者に投与するステップとを含み、前記抗原提示細胞は前記N末端部分またはC末端部分のいずれかに対する細胞傷害性の細胞応答を生じるようにT細胞を活性化するのに有効で、前記T細胞の活性化レベルは、前記N末端部分またはC末端部分を単独で曝露された抗原提示細胞によって生じる活性化レベルより高い、中ないし高分化型がん細胞の患者のがん細胞の成長を阻害する方法を提供する。これらの方法によって前記がんの進行が10%、25%または50%減退することは、前記がん細胞の成長阻害を示す。
【0022】
これらの方法の一部の面では、前記がんは、軟組織肉腫と、リンパ腫と、脳、食道、子宮頸部、骨、肺、子宮内膜、膀胱、乳房、喉頭、大腸/結腸、胃、卵巣、膵臓、副腎および前立腺のがんとからなるグループから選択される。他のがんが本発明の方法によって治療される場合もある。好ましい方法では前記がんは前立腺がんである。前記がんが前立腺がんである実施態様では、前記がんの等級は、例えば、指数が7以下であることが免疫療法用組成物を用いる治療方式に感受性がある患者であることを示すグリーソン指数によって決定される場合がある。
【0023】
本発明は、免疫療法用組成物を用いる治療に対するがん患者の感受性を評価する方法にも向けられる。代表的な方法は、(a)前記患者からがん細胞を含む試料を単離するステップと、(b)前記がん細胞の分化および/または成長速度の特性を決定するステップとを含み、中ないし高分化型がん細胞の存在が、免疫療法用組成物を用いる治療に対する前記がん細胞の感受性を示す。
【0024】
添付図面とともに以下の詳細な説明を参照することによって、本発明の上記およびその他の特徴と該特徴を実現するやり方とは明らかになり、本発明は最もよく理解されるであろう。本明細書に開示された全ての引用文献は、それらの全体が個別に取り込まれたかのように引用によってここに取り込まれる。
【0025】
発明の詳細な説明
上記のとおり本発明は、中ないし高分化型がんの患者におけるがん細胞の成長を阻害する免疫療法用組成物および治療方法を提供する。免疫療法用組成物に対するがん細胞の感受性をがん患者で評価する方法も提供される。ここに提示される前記免疫療法用組成物および治療方法のそれぞれは、がん細胞の分化状態の目安であるがん細胞の等級が、免疫療法用組成物を用いる治療方式を施されるがん患者の臨床的予後を予想するといる知見に基づく。低分化型がん細胞は免疫療法の治療方式に抵抗性であることがわかったが、中ないし高分化型細胞は、免疫療法用組成物を用いる治療に対する感受性が高かった。
【0026】
ここで用いられるところの「分化」という用語は、がん細胞は、同じ組織タイプの正常細胞の外観と類似する程度をいう。分化の程度は、特定のがんの臨床的な挙動と、予後とに相関することがしばしばある。がん細胞の分化状態は、一般的には組織学的な等級化方法で評価される。世界保健機関(WHO)と米国がん合同委員会(AJCC)とは、組織学的なパラメータに基づくがん細胞分化評価のための4つの等級からなる同様のシステムを独立に提唱した。等級1(G1)のがんの細胞は、低い等級の腫瘍を形成する、低分化型で成長の遅い細胞であり、等級1のがんは最も攻撃性が弱い挙動を示す。等級2(G2)のがん細胞は、やや高分化型で、中程度の攻撃性の挙動を示す腫瘍を形成する。逆に、等級3(G3)または等級4(G4)のがんの細胞は、それぞれ低分化型または未分化型で、速く分裂し、最も攻撃性の強い挙動を示す高い等級の腫瘍を形成する。
【0027】
組織学的な等級は、疾患、特に、軟組織肉腫と、リンパ腫と、脳、食道、子宮頸部、骨、肺、子宮内膜、膀胱、乳房、喉頭、大腸/結腸、胃、卵巣、膵臓、副腎および前立腺のがんのようながんの将来の経過および予後を推測するための予後指数としてたびたび利用されるが、組織学的な等級は免疫療法の治療方式の有効性の信頼できる指数として利用してもよいことが既に認識されている。Carriagaら、Cancer Supp.75(1):406−421(1994)。本発明の一部として、高分化型(G1)および中分化型(G2)がん細胞は、免疫療法の治療方式に感受性があるが、低分化型(G3)または未分化型(G4)細胞は、免疫療法用組成物を用いる治療に抵抗性がある。
【0028】
1つの実施態様では、前立腺がん細胞の組織病理学的等級を評価し、免疫療法の治療方式で治療される前立腺がん患者の臨床的予後を予想して判定するためのグリーソン指数の応用を提供される。95%を超える前立腺がんは前立腺上皮細胞由来の腺がんである。粘液腫(mucinous tumor)または印環細胞腫(signet cell tumor)、腺様嚢胞がん、カルチノイド、(内膜型を含む)大前立腺導管がん、腺がんおよび小細胞未分化がんを含む他の稀少な組織学的特徴が記載されてきた。多くの研究が、前立腺腺がんの組織学的分化度の臨床的意義(prognostic importance)を確認した。分化の程度は、腺形成パターンにより等級化されるのが典型的で、あまり重要ではないが細胞学的な詳細によって等級化されることもある。前立腺腺がんについて最も広範に受け入れられた等級化法は、グリーソンによって開発された方法である。Cancer Chemother.Rep.50:125−128(1966)、引用によりここにその全体が取り込まれる。グリーソンの原報は、高いグリーソン指数と高い死亡率との相関を証明し、これは他の研究者が確認した。グリーソン指数は、今なお最も広範に適用可能で臨床上有用な組織学的等級化システムである。Gleasonら、J.Urol.111:58−64(1974)、Gleason、Natl.Cancer Inst.Monograph 7:15(1988)、およびBostwick、CA Cancer J.Clin.47:297−319(1997)。
【0029】
グリーソンの前立腺腫瘍分類システムは、前立腺がんの不均一な分化を認識した2つのレベルの指数化に基づく。標本の支配的な形態と、その正常な外観からの逸脱とに基づいて主要な分化パターンは1ないし5のグリーソン等級に分類される。第2のパターン(すなわち、次に最もありふれたパターン)も1ないし5の等級に分類され、組織構築のパターンに基づいて2から10までの範囲の指数になる。比較的低いグリーソン指数(すなわち2−4)は高分化型で攻撃性の低いがん細胞を表し、中間のグリーソン指数(すなわち5−7)は中分化型がん細胞と分類され、比較的高いグリーソン指数(すなわち8−10)は低分化型で攻撃性の高い腫瘍を表す。本発明の一部として、7以下のグリーソン指数を有する前立腺がん細胞、すなわち、中ないし高分化型がん細胞は、一般的に免疫療法の治療方式を用いる治療に感受性があるが、8以上のグリーソン指数を示すがん細胞は一般的にかかる治療モダリティに抵抗性がある。
【0030】
前立腺腺がんについて組織病理学的パラメータを評価するグリーソンシステムに加えて、広くさまざまながんのタイプの分化状態を記録するための多数の他の相似の組織学的な等級化法が存在する。広範ながんを等級化する方法は当業者に周知で、予後の評価を行うための日常的に利用される。本発明はここに提示されるがんの等級化法の実施例の説明に限定されないことを理解すべきであろう。むしろ、ここに開示される免疫療法の使用方法と、免疫療法の治療方式をに対するがん細胞の感受性を評価する方法とは、中ないし高分化型の等級のがんという特徴を有するがんの治療および評価に広範に利用される場合がある。
【0031】
膀胱に発生するたいていのがんは、移行細胞がん(transitional cell carcinoma、TCCs)である。一部の移行細胞がんは、扁平な特徴または腺状の構成部分を有する混合パターンを示す。Martinら、J.Clin.Pathol.42:250−253(1989)。これより一般性がない病理学的特徴は、腺がん、扁平上皮がんおよび小細胞がんで、これらはそれぞれ膀胱腫瘍の約6%、2%および1%未満である。腫瘍等級化(典型的には等級IないしIII)は、分裂像の数、核の異常の有無および異型性に基づく。有意な相関が等級と予後との間に存在する。Heneyら、J.Urol.130:1083−1086(1983)。
【0032】
産婦人科学国際連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics)は、子宮内膜がんの等級化法を採用した(FIGO等級化システム)。Mikuta、Cancer 71:1460−3(1993)、Silverbergら、Armed Forces Institute of Pathology、pp 48−55(Washington、DC、Third Series、Fascicle 3、1992)。古典的な子宮内膜腺がんでは腫瘍等級は独立な予後因子として非常に有意である。低分化型腫瘍は子宮筋層深部への侵入、血管隙(vascular space)への浸潤および悪性度の上昇を含む他の悪い予後因子と相関する。Morrowら、Gynecol.Oncol.40:55−65(1991)、AaldersらObstet.Gynecol.56:419−427(1980)、Chambersら、Gynecol.Oncol.27:180−188(1987)、Suttonら、Am J.Obstet Gynecol 160:1385−1391(1989)、および、Whartonら、Surg.Gynecol.Obstet.162:515−520(1986)。内体(corpus)のがん腫は、腺がんの分化度に関して以下のとおり分類される。G1等級の腺がんは、高分化型で、5%以下の非扁平または非桑実状の固形成長パターンという特徴を有する。G2等級の腺がんは、中分化型で、6−50%の非扁平または非桑実状の固形成長パターンという特徴を有する。G3等級の腺がんは、低分化型で、50%を超える非扁平または非桑実状の固形成長パターンという特徴を有する。
【0033】
複数の方法論が子宮がんの等級化に適用された。Shimizuら、Gynecologic Oncology 70:2−12(1998)。典型的には、等級化は、細胞構築、核多形性および分裂像の計測の評価を通じて達成される場合がある。構築の等級化を通じて、腺状、乳頭状または充実性の腫瘍成長の割合が評価され、腫瘍の50%を超える部分が組織構築上、腺状、乳頭状または充実性のとき、それぞれ等級1、2または3と分類される。核の多形性は、核の大きさおよび形状と、染色質のテクスチャと、核:細胞質の比と、核小体の数および大きさとの変動を計測することによって決定される。等級1は、胞状の核に比較的均一性があり、核:細胞質の比が小さく、染色質の凝集または著大な核小体がないことを示す。等級2は、核の大きさ(2:1ないし4:1)および形態にのばらつきがあり、核小体が小さいが識別可能で、一部の染色質は凝集し、変形細胞(bizarre cell)が存在しない場合である。等級3は、核の大きさ(4:1を超える)および形態に著しいばらつきがあり、核:細胞質の比が大きく、著大な染色質の凝集があり、角膜が肥厚し、好酸球の核小体が肥大し、変形細胞が存在することを示す。分裂像の計測は、核分裂像(MF)の存在に焦点を当て、中期、後期または終期の明確な形態学的特徴を幽する核が高倍率顕微鏡視野(HPF)で数えられる。9MF/10HPF(10枚の高倍率顕微鏡視野あたり9個の分裂像)以下が等級1に分類され、10ないし24MF/10HPFが等級2に分類され、25MF/10HPFが等級3に分類される。代替的には、内膜腺がん(上記参照)に由来するFIGO等級は、婦人科がんグループの病理委員会(Pathology Committee of the Gynecologic Oncology Group(GOG))によって採用されたとおりに利用される場合がある。Bendaら、GOG Pathology Manual(Buffalo、1994)。FIGO等級は、腺状または乳頭状の構造対充実型腫瘍成長の比に基づく(等級1は充実性腫瘍が5%未満、等級2は充実性腫瘍が6−50%、等級3は充実性腫瘍が50%を超える)。
【0034】
乳がんは、腺および管の形成と、細胞の大きさと、核の大きさおよび分化度(核の多形性)と、核過染症の程度と、分裂活性とに応じて、3段階の組織学的悪性度に分類されてきた。Bloomら、Br.J.Cancer 11:359(1957)、および、Scharfら、Lancet 2:582(1938)。組織学等級1の乳がんは高分化型、等級2は中分化型、そして、等級3は低分化型として識別される。より具体的には、腫瘍領域の少なくとも75%に明確な管形成が認められるときにはスコア1点が与えられ、腫瘍領域の10%未満に明確な管形成が認められるときにはスコア3点が割り当てられ、これらの中間のカテゴリーにはスコア2点が与えられる。さらに、核の多形性および/または分裂速度が、乳がんに組織学等級を割り当てるために評価される場合がある。ばらつきがほとんどなく、核が外観上全く規則正しい場合には、スコア1点が割り当てられる場合があり、複数の核小体が存在する場合にはスコア3点が与えられる。10枚の高倍率視野あたり10個の分裂像未満であるという特徴がある乳がんはスコア1点が割り当てられ、10枚の高倍率視野あたり20個の分裂像を超えることはスコア3点であることを示す。これらの3種類のスコアが合計されて等級が決まる。等級1のがんは、スコア合計が3点(可能な最低スコア)、4点または5点で、等級2は6または7点のスコア合計に割り当てられ、等級3(高い合計組織学等級)が合計8または9点のスコアの症例に与えられる。
【0035】
軟組織肉腫は国立がん研究所によって提唱された方法論に従って等級化されるのが一般的である。Costaら、Cancer 53:530−41(1984)。一般に、多形性があって、細胞が多くて、分化度が低い腫瘍ほど予後が悪い。がんの等級を評価するために測定されるパラメータのなかには、分裂像の数、粘液様領域の有無、ネクローシスの程度および腫瘍の分化度がある。代替的には、EORTC等級システムが軟組織肉腫のがん等級をつけるために利用される場合がある。EORTCシステムでは、分裂像の計測数とネクローシス値が以下の式で関係づけられる。
スコア=(0.732xネクローシス)+(0.873x分裂像の数)
Van Unnik、Hematology/Oncology Clin.of North America 9(3):677−700(1995)、and Coindreら、Eur.J.Cancer 29A:2089−2093(1993)。このシステムによって、IないしIVの等級がつけられるが、このうち等級IおよびIIはそれぞれ高分化型および中分化型がん細胞に対応し、等級IIIは低分化型がん細胞に対応し、等級IVは未分化型がん細胞に対応する。
【0036】
骨肉腫は、病巣細胞の細胞学的特徴または産物に依存するメイヨー・クリニックによって提唱された案に従って分類されるのが一般的である。Dahlinら、Bone Tumors:General Aspects and Data on 8542 Cases、ed.4.(Springfield、IL、Charles C.Thomas、1986)。骨肉腫、繊維肉腫および悪性繊維性組織球腫は1ないし4のスケールで等級化される。軟骨肉症および悪性脈管腫は1ないし3のスケールで等級化される。骨肉腫は、等級3または4で等級の高い腫瘍であることが一般的で、本発明の免疫療法の治療方式に向かない場合がある。免疫療法の治療方式に適する等級1および2の骨肉腫は稀である。かかるがんは、わずかな程度の低細胞性でかつ細胞学的な退形成で特徴づけられる。軟骨肉腫は、主に細胞充実性、核の大きさおよび過染色症に基づいて等級化される。利用された他の計測値は、分裂速度と、(1個の小腔内に2個または3個以上の核がある)多核腫瘍細胞の割合とである。等級1の高分化型がんは、核の大きさがわずかないしやや増大し、形態にばらつきがある、軟骨細胞を含む。たまに多核細胞が存在し、分裂活性はほぼない。軟骨様マトリクスは豊富でネクローシスはほとんどない。等級2の中分化型の病巣は、細胞がもっと多く、等級1の腫瘍に比べて核の異型性および過染色症の程度が高い。多核細胞がより頻繁に存在し、たまに分裂像が認められる場合がある。これらの腫瘍は、等級1の病巣よりも軟骨様マトリクスが少ない。粘液様の間質の変化とネクローシスとが共通して認められる特許球3の低分化型のがんは、(特に腫瘍葉(tumor lobes)の辺縁で)細胞数が多く、多形性で、容易に同定可能な核の退形成を示す。軟骨肉腫の大多数は当局面μ1または2である。Inwardsら、Hematology/Oncology Clin.North America、9(3):545−569(1995)を参照せよ。
【0037】
WHO分類の悪性度スケールは、星状細胞腫の組織学的等級化について最も一般的に受け入れられたものである。Kleihuesら、Brain Pathol.3:255−268(1993)、Kleihuesら、Histological Typing of Tumours of the Central Nervous System:World Health Organization International Histological Classification of Tumours.(Springer、Berlin、1993)、Daumas−Duportら、Cancer 62:2152−65(1988)、および、Kimら、J.Neurosurg.74:27−37(1991)。等級1の高分化型星状細胞腫は、双極性で「毛様(piloid)」の細胞と、Rosental繊維と、好エオジン性顆粒状体を有する。等級2の中分化型星状細胞腫は、腫瘍性繊維状または大円形星細胞と核の多形性とを特徴とする。等級3の低分化型星状細胞腫は、等級2の星状細胞腫に分裂活性の存在が加わる。等級4の未分化型星状細胞腫は、細胞退形成、核の多形性、分裂像、脈管増殖およびネクローシスを示す。
【0038】
免疫療法用組成物
本発明の一部の実施態様では、上記の定義の等級1または2を示すがん細胞のような中ないし高分化型がん細胞を特徴とするがんの治療葉の免疫療法用組成物が提供される。一部の実施態様では、ここで代表的な免疫療法用組成物は、中ないし高分化型がんと診断された患者から得られた、活性化され単離された抗原提示細胞を含む。抗原提示細胞は、該抗原提示細胞がT細胞を活性化してN末端部分またはC末端部分のいずれかに対する細胞傷害性細胞応答を起こすのに効果があるようなN末端部分およびC末端部分を含むタンパク質コンジュゲートに対して生体外で曝露されることによって刺激される。免疫療法用組成物によって達成されるT細胞活性化レベルは、N末端部分またはC末端部分いずれか単独に曝露された抗原提示細胞によって生じるレベルよりも高い。
【0039】
(a)抗原提示細胞および樹状細胞
ここで用いられるところの「抗原提示細胞」または「APC」という用語は、T細胞を活性化することができる細胞を指し、ある種のマクロファージと、B細胞と、最も好ましくは、樹状細胞(DCs)とを含むがこれらに限られない。「強力な(potent)抗原提示細胞」は、抗原にパルス刺激された後、ナイーブなCD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を一次免疫応答で活性化できる細胞である。「樹状細胞」または「DCs」は、リンパ組織または非リンパ組織に見られる形態学的に類似した細胞タイプの多様な集団の構成員である。これらの細胞は、独特な形態と、表面MHC−クラスIIの高レベル発現とを特徴とする。引用によりここに取り込まれる、Steinmanら、Ann.Rev.Immunol.9:271(1991)。抗原提示細胞および樹状細胞は、多数の組織供給源から単離可能で、ここに説明される末梢血から単離することが便利である。本発明の好ましい免疫療法用組成物は、中ないし高分化型がんと診断されたがん患者から単離された抗原提示細胞または樹状細胞を用いる。
【0040】
抗原提示細胞および樹状細胞は、当業者に容易に利用可能な日常的な方法論によって単離される場合がある。樹状細胞を単離するための代表的な適当な方法論は、引用によりここに取り込まれる米国特許第5,976,546号、第6,080,409号および第6,210,662号明細書に開示される。簡潔に、バフィー・コート(buffy coat)が末梢血から調製される場合がある。細胞は、ロイコパック(leukopacs)から回収され、遠心管または遠心器具中の(引用によりここに取り込まれるDornの米国特許第4,927,749号明細書に記載のとおり調製された)1.0770g/mL、pH7.4、280mOsm/kg HOの密度の有機シラン化コロイドシリカ(OCS)分離メディウムのカラム上に重層される場合がある。前記OCSメディウムは、コロイドシリカ(約10−20nmの粒径)のシラノール基をアルキルトリメトキシシラン試薬と反応させてブロッキングすることにより調製されることが好ましい。
【0041】
1つの実施態様では、前記OCS密度勾配材料は、シグマ・ケミカル社(ミズーリ州、セントルイス)から入手可能なPVP−10のようなポリビニルピロリドン(PVP)を添加した生理食塩水中で希釈される。前記試験管は遠心され、界面に存在する末梢血単核細胞(PBMC)が回収される。
【0042】
末梢血単核細胞は、再懸濁され、結晶板を除去するために再度遠心され、任意的に、OCSカラム(密度1.0650g/mL、280mOsm/kgHO)を通過するように遠心される場合がある。得られた界面およびペレットのT細胞は回収され、遠心によりD−PBSで洗浄される。前記ペレットの分画は、細胞培養液中に再懸濁され、加湿された5%COインキュベータ中で40時間培養される。インキュベーション後、非接着性のT細胞が回収される。前記界面の樹状細胞の精製度はFACS分析によって定量化される場合がある。
【0043】
前記細胞の形態は、光学顕微鏡を用いて評価できる。樹状細胞濃縮分画は、樹状細胞の特徴である、細胞表面から伸びる細胞質突起がある大型のヴェール細胞を含む。
【0044】
(b)タンパク質コンジュゲート
上記のとおり、本発明の代表的な免疫療法用組成物は、タンパク質コンジュゲートを用いて生体外で刺激された抗原提示細胞または樹状細胞を含む場合がある。好ましいタンパク質コンジュゲートは、「腫瘍関連抗原(TAA)」または「がん遺伝子産物」の少なくとも一部を含むN末端部分と、「抗原提示細胞結合タンパク質」か、より好ましくは、「樹状細胞結合タンパク質」の少なくとも一部を含むC末端部分とを含む。同等に好ましいのは、「腫瘍関連抗原」または「がん遺伝子産物」の少なくとも一部を含むC末端部分と、「抗原提示細胞結合タンパク質」または「樹状細胞結合タンパク質」の少なくとも一部を含むN末端部分とを含むタンパク質コンジュゲートである。
【0045】
ここで用いられるところの「腫瘍関連抗原」という用語は、特定の腫瘍組織を含む、組織タイプに特徴的な抗原を指す。腫瘍組織によって発現される腫瘍関連抗原の例は、全前立腺腫瘍の90%を超える腫瘍に存在する、前立腺酸性フォスファターゼ抗原である。「がん遺伝子産物」という用語は、細胞のトランスフォメーションに関連する遺伝子によってエンコードされるいずれかのタンパク質を指す。がん遺伝子産物の例は、例えば、Her2、p21RASおよびp53を含む。
【0046】
「抗原提示細胞結合タンパク質」および「樹状細胞結合タンパク質」という用語は、いずれかのタンパク質であって、該タンパク質に対するレセプターがそれぞれ、抗原提示細胞または樹状細胞に発現するタンパク質を指す。抗原提示細胞結合タンパク質および樹状細胞結合タンパク質の例は、GM−CSF、IL−1、TNF、IL−4、CD40L、CTLA4、CD28およびFLT−3リガンドを含むがこれらに限られない。
【0047】
ここで開示される「タンパク質コンジュゲート」は、N末端部分とC末端部分との間に形成される共有結合複合体を指す。腫瘍関連抗原/腫瘍特異抗原/がん遺伝子産物と、抗原提示細胞結合タンパク質/樹状細胞結合タンパク質との間のタンパク質コンジュゲートは、化学的に複合体を形成するか、あるいは、以下に詳細に説明されるとおりの融合タンパク質として複合体を形成する。
【0048】
ここの例示される免疫療法用組成物は、中ないし高分化型の前立腺がんと診断された患者から得られた活性化され単離された抗原提示細胞を含む。前記抗原提示細胞は、前記粒子C末端は、前立腺腫瘍関連タンパク質のヒト前立腺酸性フォスファターゼ(huPAP)の一部を含むN末端部分と、抗原提示細胞/樹状細胞結合タンパク質のヒト顆粒球−マクロファージ コロニー刺激因子(huGM−CSF)の一部を含むC末端部分とを含むタンパク質コンジュゲートに生体外で曝露することによって刺激された。このようにして刺激された抗原提示細胞は、T細胞を活性化してN末端のPAP原子団に対する細胞傷害性の細胞応答を生じさせるうえで効果があった。この代表的な免疫療法用組成物によって達成されたT細胞活性化のレベルは、PAP単独に曝露された抗原提示細胞によって生じるT細胞活性化レベルより高かった。
【0049】
ここに開示される代表的なPAP/GM−CSFタンパク質コンジュゲートは、既に米国特許第5,976,546号、第6,080,409号および第6,210,662号明細書に説明され、本明細書で配列番号5として提供される。これらの特許のそれぞれは引用によりここに取り込まれる。このタンパク質コンジュゲートは、PAPのN末端側386個のアミノ酸部分と、C末端側127個のアミノ酸部分との融合タンパク質である。huPAPおよびhuGM−CSFの完全長アミノ酸配列は、それぞれ配列番号1および3としてここに提供される。さらに、配列番号5のPAP/GM−CSFタンパク質コンジュゲートは、N末端部分とC末端部分との間に、gly−serという配列を有する2個のアミノ酸からなるペプチドリンカーを含む。
【0050】
本発明の実施に同等に適するのは、PAPおよび/またはGM−CSFの部分のアミノ酸配列内に配列の変異を含む融合タンパク質を含むPAP/GM−CSFタンパク質コンジュゲートである。例えば本発明は、PAPおよび/またはGM−CSFの部分がそれぞれ配列番号1および3に列挙されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有するタンパク質コンジュゲートを意図する。より好ましいのは、それぞれ配列番号1および3に列挙されるアミノ酸配列に対して少なくとも80、90、95および98%の同一性を有するPAPおよび/またはGM−CSFの部分である。
【0051】
上記に指摘されたとおり、タンパク質の複合体は、従来の結合技術のような化学的な手段で形成される場合もあれば、DNAコンストラクトの発現によって生成される融合タンパク質として形成される場合もある。化学的結合か融合タンパク質かを問わず、タンパク質複合体を生成する方法は周知で当業者には容易に利用可能である。例えば、N末端およびC末端の原子団は、2つのペプチドの間にペプチド結合を形成させるために、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCCI)のような脱水試薬を用いて結合させる場合がある。代替的には、市販の試薬(Pierce社、イリノイ州、Rockford)を用いる、スルフヒドリル基、エプシロンアミノ基、カルボキシル基その他のポリペプチドに存在する官能基で形成される場合がある。
【0052】
融合タンパク質を作成するための従来の分子生物学および組換えDNA技術は、文献に全て説明される。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Edition、1989)、Maniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982)、DNA Cloning:A Practical Approach、vol.I & II(D.Glover、編)、Oligonucleotide Synthesis(N.Gait、編、1984)、Nucleic Acid Hybridization(B.Hames & S.Higgins、編、1985)、Transcription and Translation(B.Hames & S.Higgins、編、1984)、Animal Cell Culture(R.Freshney、編、1986)、Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning(1984)を参照せよ。これらの刊行物は引用によりその全体がここに取り込まれる。
【0053】
簡潔には、前記ポリペプチドの構成部分をエンコードするDNA配列が別々に組み立てられ、適当な発現ベクターに連結される場合がある。1個のポリペプチド構成部分をエンコードするDNA配列の3‘末端は、ペプチドリンカーとともに、あるいはペプチドリンカーなしで、第2のポリペプチド構成部分をエンコードするDNA配列の5’末端と、前記配列読み枠が合うように連結される。これは、両方の構成部分のポリペプチドの生物活性を保持する単一の融合タンパク質になるように翻訳することを可能にする。
【0054】
ペプチドリンカー配列は、第1および第2のポリペプチド構成部分を、各ポリペプチドが2次構造および3次構造をとるようにフォールディングすることを担保するのに十分な距離を隔てて離すために用いられる場合がある。かかるペプチドリンカー配列は、当業者に周知の標準的な技術を用いて融合タンパク質に取り込まれる。適当なペプチドリンカー配列は、(1)柔軟な拡張コンホメーションをとることができること、(2)第1および第2のポリペプチドの機能エピトープと相互作用できる2次構造をとることができないこと、および、(3)前記ポリペプチドの機能エピトープと反応するかもしれない疎水残基または荷電残基がないことという要因に基づいて選択される場合がある。好ましいペプチドリンカー配列は、グリシン、アスパラギンおよびセリン残基を含む。スレオニンおよびアラニンのようなタンパク質および中性アミノ酸が前記リンカー配列に用いられる場合もある。リンカーとして有用に利用される場合があるアミノ酸配列は、Marateaら、Gene 40:39−46(1985)、Murphyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:8258−8262(1986)、米国特許第4,935,233号明細書および米国特許第4,751,180号明細書に開示されたものを含む。前記リンカー配列は、1から約50個のアミノ酸の長さであるのが一般的である。リンカー配列は、機能性ドメインを分離して立体障害を防止するための用いることができる非必須N末端アミノ酸領域を有するときには必要がない。
【0055】
連結された前記DNA配列は、適当な転写または翻訳の調節エレメントに操作可能に連結される。DNA発現に必要な調節エレメントは、第1のポリペプチドをエンコードするDNA配列の5’側だけに位置する。同様に、翻訳を終了させるのに必要な停止コドンと、転写ターミネータ信号は、第2のポリペプチドをエンコードするDNA配列の3’側だけに存在する。
【0056】
一般に、ここで説明される(融合タンパク質を含む)ポリペプチドおよびポリヌクレオチドは単離される。「単離された」ポリペプチドまたはポリヌクレオチドとは、もともとの環境から除去されたものをいう。例えば、天然タンパク質は、天然のシステム中に共存する材料の一部または全てから分離される場合に単離されるという。好ましくは、かかるポリペプチドは少なくとも約90%純粋であり、より好ましくは少なくとも約95%純粋であり、最も好ましくは少なくとも約99%純粋である。ポリヌクレオチドは、例えば、天然の環境の一部ではないベクターにクローン化される場合に単離されていると考えられる。
【0057】
N末端部分およびC末端部分の間のタンパク質複合体は、前立腺がんの株細胞からヒト前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)をクローン化し、PBMNCライブラリからヒトGM−CSFをクローン化することによって作成されたPAP/GM−CSF融合タンパク質によってここに代表されるような融合タンパク質として組換えによって作成される場合がある。PAPのコーディング領域の3’末端の停止コドンは、標準的な突然変異誘発法によって除去され、BamHI制限エンドヌクレアーゼ部位に置換されて、PAPをエンコードするDNAをGM−CSFをエンコードするDNAに読み枠が合うように融合して、N末端のPAPとC末端のGM−CSFの部分の間に並置されたポリペプチドリンカーのgly−serをエンコードする6個のヌクレオチド領域を生成することを促進した。
【0058】
ここで例示されたPAP/GM−CSF融合タンパク質の文脈で以上のとおり説明されたように、本発明のタンパク質複合体は、腫瘍関連抗原、がん遺伝子産物または抗原提示細胞/樹状細胞結合タンパク質の機能特性に悪影響を伴わないN末端および/またはC末端部分の変異体を含む。ここで用いられるポリペプチドまたはタンパク質の「変異体」とは、該ポリペプチドまたはタンパク質の機能活性が実質的に減少しないような、1個または2個以上の置換、欠失、付加および/または挿入によって天然のポリペプチドまたはタンパク質と異なる、ポリペプチドまたはタンパク質をいう。換言すると、抗原提示細胞または樹状細胞と反応し、あるいは、抗原提示細胞または樹状細胞によって処理される変異体の能力は、天然タンパク質と比較して増強されるか変化しない場合があり、あるいは、得られる免疫療法用組成物の有効性に影響を与えることなく、天然タンパク質と比較して50%未満、好ましくは20%未満に減少する場合がある。
【0059】
かかる変異体は、前記N末端および/またはC末端の部分のアミノ酸配列の改変をすること、前記改変を行ったポリペプチドの、抗原提示細胞/樹状細胞との反応性か、天然の腫瘍関連抗原またはがん遺伝子産物に対して作成された抗血清との反応性かを評価することによって同定されるのが一般的である。かかる改変および評価は、当業者に周知の分子細胞生物学の技術の日常的な応用を通じて端正される場合がある。
【0060】
好ましい変異体は、N末端リーダー配列または膜貫通ドメインのような1個または2個以上の部分が除去された変異体を含む。その他の好ましい変異体は、小さい部分(例えば、1−30個、好ましくは5−15個のアミノ酸)が成熟タンパク質のN末端および/またはC末端から除去された変異体を含む。ポリペプチド変異体は、天然のポリペプチドまたはタンパク質との配列の同一性が、好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%または90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%または98%である。
【0061】
変異体は、1個のアミノ酸が類似の特性を有する他のアミノ酸に置換されて、ペプチド化学の当業者が当該ペプチドの2次構造および親水性(hydropathic nature)は実質的に変化しないと予測するような置換として定義される、「保存的アミノ酸置換」を含むのが好ましい。アミノ酸置換は、一般に、残基の極性、荷電、溶解度、疎水性、親水性および/または両親媒性の類似性に基づいて行われる場合がある。例えば、負荷電を有するアミノ酸はアスパラギン酸およびグルタミン酸で、正荷電を有するアミノ酸はリジンおよびアルギニンで、類似の親水性度を有する荷電をもたない極性側鎖(head group)を有するアミノ酸は、ロイシン、イソロイシンおよびバリンと、グリシンおよびアラニンと、アスパラギンおよびグルタミンと、セリン、スレオニン、フェニルアラニンおよびチロシンとである。宿主村的変化を表す他のグループのアミノ酸は、(1)アラニン、プロリン、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、セリン、スレオニンと、(2)システイン、セリン、チロシン、スレオニンと、(3)バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニンと、(4)リジン、アルギニン、ヒスチジンと、(5)フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジンとを含む。変異体は、また、あるいは、代替的に、非保存的な変化を含む場合がある。
【0062】
変異体は、追加的に、あるいは、代替的に、例えば、当該ペプチドの免疫原性、2次構造および親水性に最小限の影響しか及ぼさないアミノ酸の欠失または付加によって改変される場合がある。
【0063】
上記のとおり、ポリペプチドまたはタンパク質は、翻訳中(co−translationally)または翻訳後に該タンパク質の輸送を導くタンパク質のN末端のシグナル(またはリーダー)配列を含む場合がある。
【0064】
ポリペプチドは、さまざまな周知技術のいずれかを用いて調製される場合がある。上記のDNA配列にエンコードされる組換えポリペプチドは、当業者にしられたさまざまな発現ベクターのいずれかを用いて前記DNA配列から容易に調製される場合がある。発現は、組換えポリペプチドをエンコードするDNA分子を含む発現ベクターでトランスフォメーションまたはトランスフェクションされたいずれかの適当な宿主細胞において達成される場合がある。適当な宿主細胞は原核生物、酵母および高等真核細胞を含む。利用される宿主細胞は、大腸菌か、酵母か、COSまたはCHOのようなほ乳類の株細胞かであることが好ましい。組換えタンパク質またはポリペプチドを培養液中に分泌する適当な宿主/ベクター系からの上清は、まず、市販のフィルターを用いて濃縮される場合がある。濃縮に続いて、濃縮液はアフィニティマトリクスまたはイオン交換樹脂のような適当な精製マトリクスに適用される場合がある。最後に、1回または2回以上の逆相HPLCのステップが組換えポリペプチドをさらに精製するために用いられる場合がある。
【0065】
約100個未満のアミノ酸、一般的には約50個未満のアミノ酸を有する部分その他の変異体は、当業者に周知の技術を用いて合成手段によって作成される場合もある。例えば、かかるポリペプチドは、アミノ酸が順次成長するアミノ酸鎖に付加される、メリーフィールド固相合成法のような市販の固相法のいずれかを用いて合成される場合がある。Merrifield、J.Am.Chem.Soc.85:2149−2146(1963)を参照せよ。ポリペプチドの自動合成葉装置は、パーキン・エルマー/アプライド・バイオシステムズ部門(カリフォルニア州、Foster City)のような業者から市販されており、製造者の指示書に従って運転される場合がある。
【0066】
一部の特定の実施態様では、ポリペプチドは、ここで説明する複数のポリペプチドを含む融合タンパク質か、ここで説明する少なくとも1個のポリペプチドと既知の腫瘍タンパク質のような無関係の配列とを含む融合タンパク質かの場合がある。融合のパートナーは、例えば、Tヘルパーのエピトープ提供し(免疫学的融合パートナー)、好ましくは、ヒトに認識されるTヘルパーエピトープを提供することについて補助する場合があり、あるいは、天然の組換えタンパク質よりも高収量で該タンパク質を発現することについて補助する(発現エンハンサー)場合がある。ある種の好ましい融合パートナーは、免疫学的融合パートナーと発現エンハンサーとの両方である。他の融合パートナーは、前記タンパク質の溶解度を増大させるか、所望の細胞内コンパートメントにターゲティングすることを可能にするように選択される場合がある。さらに別の融合パートナーは、前記タンパク質の精製を容易にするアフィニティタグを含む。
【0067】
代替的な免疫療法用組成物
上記のとおり、一部の実施態様では本発明は、中ないし高分化型のがん細胞を有するがん患者の治療に1個または2個以上の免疫療法用組成物を用いる方法を提供する。上記の免疫療法用組成物に加えて、これらの方法は、当業者が容易に利用できるか、日常的な実験作業で調製できる他の免疫療法用組成物を用いる場合がある。
【0068】
一部の実施態様では免疫療法用組成物は、治療が、(ここに提供されるポリペプチドおよびポリヌクレオチドのような)免疫応答修飾剤の投与で腫瘍に対して反応するように内在する宿主免疫系を生体内(in vivo)で刺激することに依存する、能動的な免疫療法剤を含む場合がある。
【0069】
他の実施態様では、免疫療法用組成物は、治療が、抗腫瘍効果を直接的または間接的に仲介することができ、無傷の(intact)の宿主免疫系に必ずしも依存しない、(エフェクター細胞または抗体のような)確立された腫瘍免疫活性を有する薬剤を送達することを伴う、受動的な免疫療法剤を含む場合がある。エフェクター細胞の例は、上記のT細胞と、(CD8+細胞傷害性Tリンパ球およびCD4+Tヘルパー腫瘍浸潤性リンパ球のような)Tリンパ球と、(ナチュラルキラー細胞およびリンホカイン活性化キラー細胞のような)キラー細胞と、B細胞と、ここに提供されるポリペプチドを発現する(樹状細胞およびマクロファージのような)抗原提示細胞とを含む。ここに列挙されるポリペプチドに対して特異的なT細胞レセプターおよび抗体レセプターは、獲得免疫療法のためにクローン化され発現されて他のベクターまたはエフェクター細胞に導入される場合がある。
【0070】
ここに説明される免疫療法用組成物は、がんに対する免疫応答を刺激するために用いられる場合がある。免疫療法用組成物は、原発腫瘍の外科的除去および/または放射線療法または従来の化学療法剤のような治療の前か、後かのいずれかに投与される場合がある。前記免疫療法用組成物の投与は、静注、腹腔内注射、筋注、皮下注射、経鼻、皮内、経肛門、経膣、局所および経口の経路での投与を含む、いずれかの適当な方法によって投与される場合がある。
【0071】
これらの方法に用いられるのに適当な免疫療法用組成物は、例えば、免疫療法用ポリペプチド、免疫療法用抗体、ポリヌクレオチド利用抗がんワクチン、細胞利用免疫療法剤と、1個または2個以上のポリペプチド利用、抗体利用、ポリヌクレオチド利用および/または細胞利用免疫療法剤を含む組み合わせ組成物を含む。ここに提供される免疫療法用組成物のそれぞれは、免疫応答の増幅および/または抗原特異的トレランスの打破のうちの1つまたは2つ以上の特性を共有する。
【0072】
(a)免疫療法用ポリペプチド
上記のタンパク質複合体に加えて、本発明は、中ないし高分化型がん細胞を特徴とするがんの治療用の免疫療法用ポリペプチドの使用を意図する。したがって、本方法に使用するのに適するポリペプチドは免疫原性ポリペプチドを含むが、ここで免疫原性とは、前記ポリペプチドが、がん患者から単離された抗血清および/またはT細胞を用いる、ELISAおよび/またはT細胞刺激アッセイのような免疫アッセイで検出可能なように反応する前記ポリペプチドの能力として定義される。免疫原活性についてスクリーニングするための方法は、当業者に周知である。例えば代表的なスクリーニング方法は、Harlow and Lane、Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory、1988)に開示されている。したがってポリペプチドは、固相支持体に固定され患者の血清と反応させられて、該血清中の抗体と固定化された前記ポリペプチドとの結合ができる場合がある。未結合の血清は除去され、結合した抗体は、例えば検出可能な標識付きのプロテインAを用いて検出される場合がある。
【0073】
本発明で用いるのに適当な代表的なポリペプチドは、例えば、軟組織肉腫か、リンパ腫か、脳、食道、子宮頸部、骨、肺、子宮内膜、膀胱、乳房、喉頭、大腸/直腸、遺伝子、卵巣、膵臓、副腎または前立腺のがんかのようながんの患者から単離された試料を含む、組織および/または腫瘍の試料での発現レベルの上昇を示すポリペプチドのような腫瘍関連および/または腫瘍特異ポリペプチドを含むのが最も典型的である。他のがんで発現を上昇させるものとして同定されたポリペプチドも用いるのに適する場合がある。腫瘍試料のかなりの部分、例えば、検査された試料中の約20%を超えるか、約30%を超えるか、約50%を超えるか、それ以上かの試料において、正常組織での発現レベルの少なくとも2倍、最もありふれたものでは少なくとも5倍を超えるレベルで発現するポリペプチドも含まれる。
【0074】
かかる腫瘍関連および/または腫瘍特異ポリペプチドの免疫原性部分が、本発明の方法で利用される場合があることが当業者には理解されるであろう。「免疫原性部分」とは、ここでは、免疫原性ポリペプチドと特異的に結合するB細胞および/またはT細胞の表面抗原レセプターと免疫学的に反応する、免疫原性ポリペプチドの断片として定義される。免疫原性部分は、Paul、Fundamental Immunology、3rd ed.、243−247(Raven Press、1993)に提示される方法を含む日常的な方法を用いて同定できる場合がある。代表的な技術は、抗原特異的な抗体、抗血清および/またはT細胞株またはクローンと反応する能力についてポリペプチドをスクリーニングすることを含む。
【0075】
ポリペプチドの免疫原性部分は、完全長ポリペプチドの反応性よりも実質的に低くないレベルで抗血清および/またはT細胞と反応する配列を含む。前記免疫原性部分の免疫原活性レベルは、典型的には、前記完全長ポリペプチドの免疫原性の少なくとも約50%、より典型的には少なくとも約70%、最も典型的には約90%を超える。
【0076】
したがって、本発明の方法で有用な免疫療法用ポリペプチドは、上記の1個または2個以上の腫瘍特異的および/または腫瘍関連ポリペプチドと免疫学的に反応するT細胞および/または抗体を誘発できる。
【0077】
腫瘍特異的および/または腫瘍関連ポリペプチドは患者の免疫系によって「自己」ポリペプチドとして認識される場合があり、したがって、CD8+/CD4+ T細胞応答の刺激剤としてはよくない場合があることは当業者に明らかであろう。したがって本発明は、異種ポリペプチド特に前記腫瘍関連および/または腫瘍特異的ポリペプチドの免疫原性部分を含む異種ポリペプチドが本発明の方法において代替的に使用される場合があることも意図する。したがって、かかる異種ポリペプチドの使用は、特定の自己ポリペプチドに対する免疫トレランスを克服するために用いられる場合がある。代表的な異種ポリペプチドは、マウス、ラット、サル、ブタおよび/またはその他のヒト以外の動物から単離されたポリペプチドを含む。
【0078】
上記の融合タンパク質と同様に、本発明のポリペプチドは、当業者に用意に利用可能なさまざまな周知の合成および/または組換え技術のいずれかを用いて調製される場合がある。約150個のアミノ酸未満のポリペプチド、部分その他の変異体は、例えば、上記のメリーフィールド固相合成法のような市販の固相技術のいずれかを用いて、合成手段によって作成される場合がある。
【0079】
(b)ポリヌクレオチドおよびポリペプチド利用療法剤
ここに提供される中ないし高分化型がんの治療法は1個または2個以上の抗がんワクチンを用いる場合があり、該ワクチンの最もありふれたものはポリヌクレオチド利用抗がんワクチンである。特定の抗がんワクチンの具体的な特徴に関係なく、これらは全て抗がん免疫応答を刺激する能力を共有する。前記ワクチンの抗原性のある部分は、上記に開示されたペプチド、タンパク質および融合タンパク質の形状で送達される場合および/または例えばRNA、DNAおよび/またはアデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルスその他の当業者に知られたウイルスのようなポリヌクレオチドの形状で送達される場合がある。
【0080】
したがって、本発明の方法は、1本鎖または2本鎖のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを用いる場合があり、(ゲノム、cDNAまたは合成DNAのような)DNAか、(HnRNAおよびmRNAを含む)RNAかの場合がある。適当なポリヌクレオチドは、異種ポリペプチドおよび部分を含む、免疫原性ポリペプチドまたはその部分をエンコードする内在配列を含むのが最も典型的である。
【0081】
免疫療法用ポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドは、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、追加の制限酵素部位、多重クローン化部位、その他のコーディングセグメント等のような、前記ポリヌクレオチドにエンコードされるポリペプチドの発現を増強および/または促進するその他のDNA配列とともに組み合わされる場合がある。
【0082】
ポリヌクレオチドは、例えば、自動オリゴヌクレオチド合成機を用いて普通に実行されるような、化学的手段によって断片を直接合成することによって、容易に調製される場合がある。代替的には、断片は、米国特許第4,683,202号明細書のPCR(商標)技術のような核酸複製技術を応用すること、選択された配列を組換え産生用の組換えベクターに導入すること、その他の当業者に一般的に知られた組換えDNA技術によって得られる場合がある。一般的にSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratories(Cold Spring Harbor、N.Y.、1989)を参照せよ。
【0083】
免疫療法用ポリペプチドを発現する適当なポリヌクレオチドは、例えば、腫瘍関連および/または腫瘍特異的な発現(すなわち、別の組織および/または正常組織での発現よりも少なくとも2倍の発現)についてcDNAのマイクロアレイをスクリーニングすることによって同定される場合がある。代表的な適当なマイクロアレイスクリーニング技術は、アフィメトリクス社(カリフォルニア州、サンタクララ)の技術を含み、製造者の指示書に従って利用される場合がある。Schenaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:10614−10619(1996)および、Hellerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:2150−2155(1997)を参照せよ。
【0084】
所望のポリペプチドの発現は、対応するポリヌクレオチドを適当な発現ベクター、すなわち、挿入されたコーディング配列の転写および翻訳に必要なエレメントを含むベクターに挿入することによって達成される場合がある。免疫療法用ポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドの発現を達成する代表的な技術は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、同上、および、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、同上に提供される。
【0085】
さまざまな発現ベクター/宿主細胞系が腫瘍関連および/または腫瘍特異的なポリヌクレオチドを発現するために用いられる場合がある。発現システムは、組換えバクテリオファージ、プラスミドまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌のような微生物か、酵母発現ベクターで形質転換された酵母か、ウイルス発現ベクターを感染した昆虫細胞系か、ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウィルス、CaMV、タバコモザイクウイルス、TMV)または細菌発現ベクター(例えば、TiまたはpBR322プラスミド)で形質転換された植物細胞系か、動物細胞系かを含む。
【0086】
関心のある免疫療法用ポリペプチドを発現することに加えて、かかるポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドが、当業者に知られたさまざまな送達システムのうちのいずれか1つを利用することによって患者に投与される場合がある。代表的な遺伝子送達技術は、Rolland、Crit.Rev.Therap.Drug Carrier Systems 15:143−198(1998)およびその引用文献に記載される。適当な発現システムは、前記患者における発現のためのDNA調節配列(すなわち、プロモーターおよび転写終結シグナル)を含むであろう。最もありふれている患者でポリヌクレオチドを発現するシステムは、ウイルスを利用するシステムである。例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ポックスウイルス、ワクシニアウイルス、トリポックスウイルスおよびアルファウイルスを利用したシステムは全て記載されている。
【0087】
適当なレトロウイルス利用遺伝子発現システムは、米国特許第5,219,740号明細書、Millerら、BioTechniques 7:980−990(1989);Miller、Human Gene Therapy 1:5−14(1990);Scarpaら、Virology 180:849−852(1991);Burnsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8033−8037(1993);および Borris−Lawrieら、Cur.Opin.Genet.Develop.3:102−109(1993)に記載されている。
【0088】
代表的なアデノウイルス利用システムは、Haj−Ahmadら、J.Virol.57:267−274(1986);Bettら、J.Virol.67:5911−5921(1993);Mitterederら、Human Gene Therapy 5:717−729(1994);Sethら、J.Virol.68−933−940(1994);Barrら、Gene Therapy 1:51−58(1994);Berkner、BioTechniques 6:616−629(1988);および Richら、Human Gene Therapy 4:461−476(1993)に提示される。
【0089】
アデノ関連ウイルス(AAV)利用遺伝子発現システムは、米国特許第5,173,414号および第5,139,941号明細書、Lebkowskiら、Molec.Cell.Biol.8:3988−3996(1988);Vincentら、Vaccines 90(Cold Spring Harbor Press、1990);Carter、Current Opinions in Biotech.3:533−539(1992);Muzyczka、Current Topics in Microbiol.and Immunol.158:97−129(1992);Kotin、Human Gene Therapy 5:793−801(1994);Shellingら、Gene Therapy 1:165−169(1994);および Zhouら、J.Exp.Med.179:1867−1875(1994)に開示される。
【0090】
(c)免疫療法用抗体
免疫療法用抗体は、腫瘍関連抗原に対するモノクローナル抗体が典型的である。例えばPAPに対する免疫は、PAP/GM−CSFパルスワクチンを用いるワクチン処理によるPAPに対する免疫応答の誘導と同様に、PAP特異的なモノクローナル抗体の注入(infusion)によっても誘導できる。かかる抗体は、生体内で前記抗原と結合して抗原提示細胞を該抗原に導く。抗原提示細胞が前記腫瘍内にこのように誘導されて侵入した後、前記抗体はワクチンと同様の腫瘍特異的免疫を誘導する。かかる腫瘍特異的抗体の他の標的は、当業者に周知のである。前記標的は、Her−2/neu、CEA、CD20、CEA、VEGFその他の腫瘍関連抗原を含む。
【0091】
したがって、本発明の方法は、前記抗原に特異的に結合して、免疫応答を誘導する、1個または2個以上の抗体または該抗体の抗原結合断片を利用する場合がある。より具体的には抗体および/または抗原結合断片は、腫瘍関連抗原および/または腫瘍特異抗原への免疫学的結合および/またはこれらの異種変異体への免疫学的結合を示す。抗体またはその抗原結合断片がある免疫療法用ポリペプチド抗原と「特異的な結合」および/または「免疫学的な反応」を行うといえるのは、前記抗体またはその抗原結合断片が前記ポリペプチドとは(例えばELISAアッセイによって)検出可能なレベルで反応するが、同様の条件下では無関係のポリペプチドとは検出可能な反応をしない場合である。
【0092】
免疫学的結合とは、抗体と、免疫グロブリンが特異的な抗原との間での非共有結合を指す。免疫学的結合相互作用のアフィニティは、該相互作用の解離定数(K)で表現されるのが一般的で、Kが小さいほどアフィニティが高いことを表す。抗体と、そのコグネイト(cognate)なポリペプチドとの免疫学的結合特性は、当業者に周知の方法を用いて定量化される場合がある。1つの代表的な方法は、抗原結合部位/抗原複合体形成および解離の速度を測定することを含み、これらの速度は、前記複合体のパートナーの濃度と、前記相互作用のアフィニティと、両方向の速度に等しく影響を与える幾何学的なパラメータとに依存する。「結合速度定数(on rate constant、Kon)」および「解離速度定数(off rate constant、Koff)」の両方が濃度と実際の結合および解離速度との計算によって決定できる。Kon/Koffの比は、アフィニティに関係しない全てのパラメータを消去できるので、解離定数Kに等しい。Daviesら、Ann.Rev.Bioch.59:439−473(1990)を参照せよ。
【0093】
抗体の「抗原結合部位」または「結合部分(binding portion)」とは、抗原結合に参加する抗体の部分を指す。前記抗原結合部位は、重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)のN末端の可変領域(V領域)のアミノ酸残基によって形成される。前記重鎖および軽鎖のV領域内の3カ所の非常に多様性のある部分は「超可変領域」といい、「フレームワーク領域」または「FR領域」として知られる、より保存された隣接部分に挟まれて配置される。「FR」という用語は、天然には免疫グロブリンの超可変領域(CDRs)の間に隣接して存在するアミノ酸配列を指す。抗体分子において、軽鎖の3カ所の超可変領域と重鎖の3カ所の超可変領域とは、互いに対して3次元空間で抗原結合表面を形成するように配置される。前記抗原結合表面は、結合した抗原の3次元表面に相補的で、重鎖および軽鎖のそれぞれの3カ所の超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDRs」と呼ばれる。
【0094】
抗体は、当業者に周知のさまざまな技術によって調製される場合がある。Harlow and Lane、Antibodies:A Laboratory Manual、同上を参照せよ。一般に、抗体はここに記載されるモノクローナル抗体の作成と、組換え抗体の産生を可能にする、適当な細菌またはほ乳類細胞宿主へに抗体遺伝子のトランスフェクションとを含み細胞培養技術によって産生できる。1つの技術では、前記ポリペプチドを含み免疫原がまず広範囲のほ乳類(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジまたはヤギ)のいずれかに注射される。このステップでは、上記の免疫原性ポリペプチドはなんら改変されることなく使用される場合がある。代替的には、前記ポリペプチドがウシ血清アルブミンまたはスカシ貝ヘモシアニンのような担体タンパク質に連結されるとき、優れた免疫応答が誘発される場合がある。前記免疫原性ポリペプチドは動物宿主に注射され、該動物は定期的に採血される。前記ポリペプチドに特異的なポリクローナル抗体は、例えば、適当な固体支持体に結合されたポリペプチドを用いるアフィニティクロマトグラフィーによって抗血清から精製される場合がある。
【0095】
免疫原性ポリペプチドに特異的なモノクローナル抗体は、例えばKohler and Milstein、Eur.J.Immunol.:511−519(1976)の技術を用いて調製される場合がある。これらの方法は、所望の特異性(すなわち、関心のある免疫原性ポリペプチドとの反応性)を有する抗体を産生できる不死化株細胞の作成を含む。かかる株細胞は、例えば上記のとおり免疫された動物から得られた脾臓細胞から作成される場合がある。前記脾臓細胞は、例えば、前記免疫された動物と同種であることが好ましいミエローマ細胞の融合パートナーとの融合によって不死化される。例えば、前記脾臓細胞およびミエローマ細胞は数分間非イオン性デタージェントと混合され、ハイブリッド細胞の増殖は支持するがミエローマ細胞の増殖は支持しない選択培地中に低濃度でプレーティングされる。好ましい選択技術は、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)選択を用いる。前記細胞ハイブリッドの単一コロニーが選択され、培養上清が前記ポリペプチドに対する結合活性についてテストされる。反応性および特異性が高いハイブリドーマが好ましい。モノクローナル抗体は増殖中のハイブリドーマのコロニーの上清から単離され、前記抗体を作成するための免疫原として用いられた、免疫原性の前記ポリペプチドか、その免疫原性のある部分かを用いるアフィニティクロマトグラフィーによって精製される場合がある。
【0096】
多数の治療上有用な分子は、前記抗体分子の免疫療法活性を示すことができる抗原結合部位を含む。タンパク分解酵素パパインはIgG分子を優先的に切断して複数の断片を精製するが、前記断片のうちの2個(F(ab)断片)はそれぞれ1個の無傷な抗原結合部位を含む共有結合のヘテロ2量体を含む。酵素ペプシンは、IgG分子を切断して両方の抗原結合部位を含むF(ab’)断片を含む複数の断片を提供することができる。
【0097】
Fv断片は、IgM、IgGまたはIgA免疫グロブリン分子の優先的なタンパク分解切断によって産生できる。しかしFv断片は、当業者に知られた組換え技術を用いて作成されるのがもっと一般的である。前記Fv断片は、天然の抗体の抗原認識および抗原結合能力の多くを保持する抗原結合部位を含む非共有結合のV::Vヘテロ2量体を含む。Inbarら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69:2659−2662(1972);Hochmanら、Biochem.15:2706−2710(1976);および Ehrlichら、Biochem.19:4091−4096(1980)。
【0098】
単鎖Fv(scFv)ポリペプチドは、ペプチドをエンコードするリンカーによって連結されたVおよびVをエンコードする遺伝子を含む遺伝子融合体から発現される共有結合で連結されたV::Vヘテロ2量体である。Hustonら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 85(16):5879−5883(1988)。抗原結合部位の構造とほぼ類似する3次元構造にフォールディングするscFv分子の作成を容易にする複数の方法が記載されている。米国特許第5,091,513号、第5,132,405号および第4,946,778号明細書。これらの特許のそれぞれは引用によりここに取り込まれる。
【0099】
ヒト以外の抗体をヒトに投与する場合に該抗体に対する免疫応答を低減するために、本発明の免疫療法用抗体はヒト以外の免疫グロブリンの抗原結合部位の可変ドメインおよび相補性決定領域(CDRs)をそれぞれ含む「キメラ」および「ヒト化」モノクローナル抗体を含む。キメラ抗体の調製はCabillyに付与された米国特許第4,816,567号明細書に説明され、ヒト化抗体はQueenに付与された米国特許第5,530,101号、第5,585,089号、第5,693,762号および第6,180,370号明細書と、Adairに付与された米国特許第5,859,205号明細書と、Winterに付与された米国特許第5,225,539号明細書とに説明される。これらの特許のそれぞれは引用によりここに取り込まれる。
【0100】
抗体の可変ドメインのそれぞれは、フレームワーク領域(FR)によって隔てられた3個の超可変CDR領域(CDR1、CDR2およびCDR3)を含み、前記フレームワーク領域は、CDR領域に支持を提供し、CDR領域相互間の空間的関係を規定する。抗原結合部位は、重鎖可変領域由来の3個のCDRと軽鎖可変領域由来の3個との6個のCDRを含む。CDRのアミノ酸残基は前記結合した抗原と接触し、最も強い接触は重鎖CDR3を通じて提供される。
【0101】
重鎖および軽鎖の可変ドメインのそれぞれには4カ所のフレームワーク領域がある。フレームワーク領域の一部のアミノ酸残基は結合した抗原と接触する場合があるが、フレームワーク領域は可変領域を抗原結合部位にフォールディングさせる役割を主に担う。フレームワーク領域内では、一部のアミノ酸残基と一部の構造的な特徴とが非常によく保存される。例えば、全ての可変領域は約90個のアミノ酸残基のジスルフィド結合による内部ループを含む。前記可変領域が結合部位にフォールディングするとき、CDRは抗原結合表面を形成する突出したループモチーフとして提示される。フレームワーク領域内の保存された構造領域は、CDRループのフォールディングした形状に影響を与えて、正確なCDRアミノ酸配列に関係なく、ある種の「カノニカルな」構造を形成させる。そして、一部のフレームワーク領域の残基は、抗原重鎖および軽鎖の相互作用を安定化させる非共有結合のドメイン間接触に参加する。
【0102】
ヒト化および/またはキメラ免疫療法用抗体は、天然のフレームワーク領域ポリペプチドフォールディング構造のほぼ全てを保持する抗原結合部位を含む異種分子を提供するために、前記フレームワーク領域内のアミノ酸残基がヒトフレームワーク領域残基で置換される、ベニア化(veneering)処理を通じてさらに改変される。ベニア化技術は、抗原結合部位のリガンド結合特性は、抗原結合表面内での重鎖および軽鎖のCDRの構造および相対的配置によって主に決定されるという理解に基づく。Daviesら、Ann.Rev.Biochem.59:439−473(1990)。したがって抗原結合特異性は、CDR構造と、CDR構造どうしの相互作用と、CDRと可変領域ドメインの他の部分との相互作用とが注意深く維持される場合にのみヒト化抗体において保存できる。ベニア化技術を用いることによって、免疫系に容易に遭遇するフレームワーク領域の残基は、免疫原性が弱いか、あるいは、ほぼ非免疫原性かのベニア化表面を含むハイブリッド分子を提供するためにヒトの残基で選択的に置換される。
【0103】
他の実施態様では、本発明の方法は、1個または2個以上の完全ヒト化(fully−human)免疫療法用抗体を利用するのがより適当である。例えば、上記指摘のとおり、ヒト化およびキメラ抗体を含む非ヒト抗体は、ヒトに生体内で投与されるとき、抗免疫グロブリン免疫応答を誘発することがよくある。
【0104】
完全ヒト化抗体の作成法は当業者に容易に利用可能であり、(1)抗体レパートリーがヒトの抗体レパートリーに置換されたトランスジェニック動物を免疫原性ポリペプチドで免疫するか、(2)ファージディスプレイ抗体ライブラリを免疫原性ポリペプチドでスクリーニングして、ヒト抗体重鎖および軽鎖をエンコードするポリヌクレオチドを単離することによって最も頻繁に達成させる。
【0105】
本発明の方法に用いる免疫療法用抗体を作成するのに適当なトランスジェニック動物システムは、米国特許第6,150,584号、第6,114,598号、第6,162,963号、第6,075,181号および第5,770,429号明細書に開示される。ファージディスプレイ法は米国特許第6,248,516号、第6,291,158号、第6,291,159号、第6,291,160号、第6,291,161号、第5,969,108号、第6,172,197号、第5,885,793号、第6,265,150号、第5,223,409号、第5,403,484号、第5,571,698号、第5,837,500号および第6,300,064号明細書に提示される。これらの特許のそれぞれは、引用によりここに取り込まれる。
【0106】
本発明の方法に用いるのに適当な免疫療法用抗体は、例えば、放射性同位元素、分化誘導剤、薬物、毒素および/またはこれらの誘導体のような治療用試薬の1個または2個以上をさらに含む場合がある。代表的な放射性同位元素は、90Y、123I、125I、131I、186Re、211Atおよび212Biを含む。適当な薬物は、メトトレキセートおよびピリミジン/プリン類似体を含む。分化誘導剤は、フォルボールエステルおよび酪酸を含む。そして毒素は、リシン、アブリン、ジフテリア毒素、コレラ毒素、ゲロニン、シュードモナス外毒素、赤痢菌毒素およびアメリカヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質を含む。
【0107】
治療用試薬は、免疫療法用抗体と、直接的か、あるいは間接的(すなわちリンカー原子団を介して)かのいずれかで連結される場合がある。治療用試薬を抗体に結合する方法は当業者に周知である。例えば、Rodwellに付与された米国特許第4,671,958号明細書は、適当な2価および多価リンカーシステムおよび方法論を開示する。
【0108】
切断可能なリンカーは、連結されない治療用試薬の毒性が抗体に結合されたときの毒性を上回るときに、代替的に使用される場合がある。本発明の方法のために治療用試薬を抗体に連結するのに適当な切断可能なリンカーは、例えば、(1)ジスルフィド結合の還元(米国特許第4,489,710号明細書)、光分解性(photolabile)結合の照射(米国特許第4,625,014号明細書)、(3)誘導体化アミノ酸側鎖の加水分解(米国特許第4,638,045号明細書)、(4)血清補体触媒加水分解(米国特許第4,671,958号明細書)および(5)酸触媒加水分解(米国特許第4,569,789号明細書)によって切断可能なリンカー基を含む。これらの特許のそれぞれは引用によりここに取り込まれる。
【0109】
(d)細胞利用免疫療法剤
細胞利用免疫療法用組成物は、上記以外の方法で調製された抗原提示細胞(APC)および樹状細胞(DC)ワクチンを含む。代替的に、あるいは、追加的に、本発明の方法に用いるのに適当な細胞利用組成物は、上記の腫瘍関連ポリペプチドおよび/または腫瘍特異ポリペプチドに特異的なT細胞の1個または2個以上の集団を含む場合がある。
【0110】
かかるAPC/DC調製物の代表的なものは、GM−CSF、IL−4およびTNF−αのようなサイトカイン中で培養された細胞から調製された、APC/DCワクチンを含むがこれらに限られない。また前記APCまたはDCは、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、RNA、DNAのような核酸、またはアデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルスのいずれかの形状その他の当業者に周知の方法の腫瘍特異抗原に曝露される場合がある。さらに、中ないし高分化型がん細胞に特異的な腫瘍浸潤リンパ球(TIL)細胞が使用される場合がある。TIL集団は、がんから単離され、IL−2存在下で生体外で増殖され、標準的な養子移植(adoptive transfer)法で前記がんの患者に再投与されつ場合がある。適当なTIL集団は、CD4+かつCD8+のT細胞を含むTリンパ球を主に含む。
【0111】
1個または2個以上のポリペプチドに特異的なT細胞は、当業者に利用可能な標準的な方法を用いて培養下または生体内で調製される場合がある。例えばT細胞は、骨髄、末梢血またはがん患者から単離された骨髄または末梢血の分画から、IsolexTM(Nexell Therapeutics、Inc.、カリフォルニア州、Irvine)のような市販の細胞分離システムか、米国特許第5,240,856号および第5,215,926号明細書と、PCT国際出願第WO89/06280号、第WO91/16116号および第WO92/07243号明細書とに記載されたシステムかを使って単離される場合がある。これらの特許文献のそれぞれは引用によりここに取り込まれる。
【0112】
T細胞は、免疫療法用ポリペプチド、かかるポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドおよび/または前記免疫療法用ポリペプチドの少なくとも一部を提示する抗原提示細胞または樹状細胞で刺激される場合がある。かかる刺激は、関心のある免疫療法用ポリペプチドに特異的なT細胞を生成することを可能にするのに十分な条件および時間実行される場合がある。
【0113】
T細胞がある免疫療法用ポリペプチドに特異的といえるのは、該T細胞が、特異的な増殖、サイトカイン分泌および/または前記ポリペプチドでコーティングされり、前記ポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドを発現する標的細胞を殺す場合である。T細胞の特異性は、例えば、増殖クロム放出アッセイまたは増殖アッセイのような当業者に知られた複数の方法のいずれかを用いて評価される場合があるが、陰性対照と比較した細胞溶解および/または増殖の2倍以上の増大といる刺激指数がT細胞特異性を示す。かかるアッセイは、例えばChenら、Cancer Res.54:1065−1070(1994)に記載されるように実施される場合がある。
【0114】
代替的に、T細胞の増殖の検出は、例えば、(例えば、DNAに取り込まれるトリチウムチミジン量によって)DNA合成速度の増大を測定することによって達成される場合がある。免疫療法用ポリペプチドとの接触は、T細胞の増殖を少なくとも2倍増大させる結果になるのが典型的である。T細胞の活性化は、TNFまたはINF−γの放出のような標準的なサイトカインアッセイを用いて測定される場合がある。例えば、Coliganら、Current Protocols in Immunology、Vol.1(Wiley Interscience、1998)を参照せよ。一般的には、現行の方法で免疫療法用の目的に適するT細胞は、免疫療法用ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたはAPC/DCに応答して増殖するCD4+またはCD8+T細胞である。
【0115】
(e)併用免疫療法剤
一部の実施態様では本発明は、上記の免疫療法用試薬または組成物を2個または3個以上含む併用免疫療法剤を提供する。個々の免疫療法用試薬のそれぞれは、個別に投与される場合もあれば、前記免疫療法用試薬を2個または3個以上含む併用免疫療法剤単一の組成物に混合される場合もある。例えば本発明は、前期のPAP/GM−CSF融合タンパク質またはコンジュゲートを含む免疫療法用組成物を、例えば治療用抗体、抗がんワクチンおよび/または細胞利用治療剤のような1個または2個以上の追加の免疫療法剤とともに提供する。代表的な治療用抗体は、Her−2/neu、CEA、CD20、CEA、VEGFおよび/またはその他の腫瘍関連抗原と結合するモノクローナル抗体のような抗体を含むが、これらに限られない。
【0116】
ここに提供される代表的な併用免疫療法用組成物は、抗VEGF(血管内皮増殖因子)モノクローナル抗体と組み合わされたPAP/GM−CSFを含む。例えば、適当な抗VEGF抗体は、腫瘍血管形成の阻害に有効であることが知られているヒト化マウスモノクローナル抗体Bevacizumab(AvastinTM、ジェネンテク、カリフォルニア州、サンフランシスコ)である。
【0117】
免疫療法
他の実施態様では本発明は、上記の免疫療法用組成物を利用してがん細胞の増殖を阻害する方法を提供する。これらの方法は、中ないし高分化型を示し、その分化型に相当する増殖特性を有するがん細胞は、免疫療法の治療方式をに独特の感受性があるという観察に基づく。したがって本発明の方法は、(a)がん患者におけるがんの文化度を決定するステップと、(b)免疫療法用組成物の治療上の有効量を前記患者に投与するステップと、(c)前記がんの進行を監視するステップとを含む。
【0118】
これらの方法による免疫療法の治療方式は、中ないし高分化型のがんの患者の場合に用いられる。1個または2個以上のがん細胞を含む試料が患者から単離され、これらの細胞の分化度が上記のとおり決定される。中ないし高分化型のがん患者が免疫療法用組成物を用いる治療のために選択される。前記免疫療法用組成物の治療上の有効量が投与され、がんの進行が治療効果を確認するために監視される。10%、25%または50%の腫瘍の進行の低減が、本発明の方法によるがんの治療が有効であることを示す。
【0119】
本発明の代替的な実施態様は、免疫療法用試薬を2個または3個以上投与することを含む免疫療法の治療方式を提供する。ここに例示するとおり、適当な治療方式は、PAP/GM−CSFでパルス処理した樹状細胞を含む第1の免疫療法用試薬を投与するステップと、bevacizumabのような抗VEGFモノクローナル抗体を含む第2の免疫療法用試薬を投与するステップとを含む。これらの方法によってPAPでパルス処理された樹状細胞は、抗VEGFモノクローナル抗体の投与と同時に患者に投与される。代替的には、PAP/GM−CSFでパルス処理された樹状細胞は、抗VEGFモノクローナル抗体の投与と独立に投与される場合がある。例えば本発明の特定の実施態様では、PAP/GM−CSFでパルス処理された樹状細胞は、第0、2および4週に静脈注射で投与される場合があり、bevacizumabは第0、2および4週と、その後毒性、病気の進行および/または転移の発生のような事象が起こるまで2週置きに投与される場合がある。
【0120】
上記の免疫療法用組成物の投与の経路および頻度と、投与量とは個人ごとに異なるが、標準的な技術を用いて容易に確立できるであろう。一般に前記免疫療法用組成物は、注射(例えば、皮内注射、筋注、静注または皮下)、経鼻(例えば吸引)または経口により投与される場合がある。52週の期間内に1ないし10回投与されるのが好ましい。代替的なプロトコールが個々の患者について適当である場合がある。
【0121】
適当な投与量は、上記のとおり投与されるとき、抗腫瘍免疫応答を促進できる組成物の量で、基本レベル(すなわち未治療のレベル)の少なくとも10−50%を超えるレベルである。かかる応答は、患者の腫瘍細胞を生体外で殺すことができる細胞傷害性エフェクター細胞または患者の抗腫瘍抗体を測定することによって監視できる。かかる免疫療法用組成物は、未治療の患者と比較して、治療された患者で治療結果の改善(例えば、より頻繁な寛解、完全または部分的なあるいはより長期にわたるがんでない状態での生存)につながる免疫応答を起こすことができるはずである。一般に、1個または2個以上のポリペプチドを含む免疫療法用組成物について、1回投与量に存在するそれぞれのポリペプチドの量は、宿主の体重のkgあたり約25mgから5mgまでの範囲である。適当な投与量サイズは、患者のサイズに応じて変わるが、約0.1mLから約5mLまでの範囲が典型的である。
【0122】
一般に、適当な投与量および治療方式は、治療の利益を与えるのに十分な量の前記免疫療法用組成物を提供する。かかる応答は、未治療の患者と比較して、治療された患者における治療結果の改善(例えば、より頻繁な寛解、完全または部分的なあるいはより長期にわたるがんでない状態での生存)を確立することによって監視できる。腫瘍タンパク質に対する既存の免疫応答の増大は、治療結果の改善と一般的には相関する。一般的にかかる免疫応答は、治療の前後の患者から得られた試料を用いて実施される、標準的な増殖、細胞傷害性またはサイトカインアッセイを用いて評価される場合がある。
【0123】
がん細胞の免疫療法に対する感受性を評価する方法
本発明は、免疫療法用組成物に対する感受性を評価する方法を提供する。上記のとおり、本発明の一部として中ないし高分化型がん細胞は免疫療法のモダリティに独特な感受性がある。
【0124】
したがって本発明は、がん患者において免疫療法用組成物に対するがんの感受性を評価する方法であって、(a)前記患者から前記がん細胞を含む試料を単離するステップと、(b)前記がん細胞の分化状態を決定するステップとを含み、中ないし高分化型がんが、前記がん細胞は免疫療法用組成物を用いる治療に対して感受性があることを示す、がんの感受性を評価する方法を提供する。
【0125】
ここに説明するとおり、がん細胞の分化状態はその等級を評価することによって定義される場合がある。高分化型がんは等級1に分類され、中分化型がんは等級2に分類され、低分化型がんは等級3に分類される。
【0126】
本発明に従う評価方法に適する代表的ながんは、例えば、軟組織肉腫と、リンパ腫と、脳、食道、子宮頸部、骨、肺、子宮内膜、膀胱、乳房、喉頭、大腸/結腸、胃、卵巣、膵臓、副腎および前立腺のがんとを含む。しかし本発明の評価方法は、高分化型および中分化型がん細胞を低分化型がん細胞から鑑別する十分に確立した基準が存在する、いかなるがん、全てのがんに等しく適合することが了解されるであろう。
【0127】
上記のとおり高分化型または中分化型と同定されたがんは、ここに開示され、あるいは、当業者に容易に入手可能な免疫療法用組成物のいずれかを用いる治療に対する感受性がある。前立腺がんという具体的なケースでは、本発明は、例えば7以下のグリーソン指数によって証明された高分化型または中分化型の細胞を有しここに開示されたタンパク質コンジュゲートによって刺激される樹状細胞のような刺激された樹状細胞を用いる免疫療法用組成物の1つを用いる治療に対して感受性がある、患者を同定するために用いられる場合がある。一部の好ましい実施態様では、前記免疫療法用組成物が上記に開示されたPAP/GM−CSF融合タンパク質を用いて生体外で刺激された樹状細胞を含む、前立腺がん細胞の治療に対する感受性を評価する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0128】
以下の実施例は例示のために提供されるのであって、限定のためではない。
【実施例1】
【0129】
PAP/GM−CSF融合タンパク質の構築
本実施例は、既に米国特許第5,976,546号、第6,080,409号および第6,210,662号明細書に開示されたPAP/GM−CSF融合タンパク質(PA2024)をエンコードするcDNAの構築を説明する。
【0130】
ヒトPAPは前立腺がん株細胞LnCaP.FGC(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、ATCC、メリーランド州、Rockland)からクローン化された。合成オリゴヌクレオチドプライマーは、標準的な方法に従ってKeystone Labs(カリフォルニア州、Menlo Park)によって注文生産で合成された。これらのプライマーは配列番号2としてここに提示される既知のPAPcDNA配列の5’末端に相同性があった。使用する個々の発現ベクターの必要に応じてHind III、Mun IまたはXho I制限部位が取り付けられた。3’末端には、PAP配列の停止コドン用のBamH I制限エンドヌクレアーゼ部位を置換してグリシンおよびセリンコドンを生成するオリゴヌクレオチドが構築された。このBamH I部位は、PAPのcDNA(配列番号2)を、末梢血単核細胞(PBMNC)からクローン化されたGM−CSFのcDNA(配列番号4)に融合するための用いられた。前記GM−CSFの5’末端には、BamH I部位が、GM−CSF配列のアミノ酸18−23をコーディングヌクレオチドに相同性のあるオリゴヌクレオチドに取り付けられた。GM−CSFの3’末端は、GM−CSFの読み枠の停止コドンの後まで含み、Xba Iクローン化部位を生成するオリゴヌクレオチドを用いて作成された。
【0131】
ポリA+RNAは、Micro Fast trackキット(インビトロジェン)を用いて、製造者の供給するマニュアルに従って、株細胞LnCaP.FGCおよびPBMNCからタンパク質(登録商標)にされた。前記ポリA+RNAは、cDNAサイクルキット(インビトロジェン)を用いて、添付されるマニュアルに記載された手順に従って逆転写された。第1鎖cDNAは上記のプライマーを用いて25回のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に供された。前記PCRの産物はベクターpCR3、pCEP4(ともにインビトロジェン)およびpBacPac8(クロンテク)にクローン化されて、それぞれpCR3−PAP−GM、pCEP4−PAP GMおよびPAPHGM−BACが構築された。クローン化されたコンストラクトのDNA配列は、蛍光シーケンサーモデルABI 373A(アプライド・バイオシステムズ、カリフォルニア州、Foster City)で標準的な方法を用いて確認された。ヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列はそれぞれ配列番号6および5として提示される。
【0132】
pCR3−PAP−GMは一過性(transient)発現をさせるためにCOS−7細胞(ATCC)にエレクトロポレーション処理された。予測されるサイズ、免疫学的同一性および機能のタンパク質がCOS−7細胞および293−EBNA細胞(インビトロジェン)で一過性に発現できることが確認された後、安定的なトランスフェクタントが、エピソーム発現ベクターのpCEP4(インビトロジェン、カリフォルニア州、サンジエゴ)を用いてヒト胚腎臓細胞株293−EBNAで作成された。エレクトロポレーションとハイグロマイシンでの選択との後、組換えクローンが、限界希釈条件下で細胞をプレーティングし該細胞の組織培養上清中のPAPの生物活性についてスクリーニングすることによって作成された。産生量の最も大きいクローンが無タンパク質培地に馴化され、CellMax中空繊維バイオリアクタ(ギブコ、メリーランド州、Gaithersberg)中で増殖された。使用済みの前記培地が回収され、プールされて、遠心によって清澄化された。その後前記培地は、ヒトPAP特異的モノクローナル抗体ATCCHB8526(ATCC)をセファロース樹脂に結合することによって作成された免疫アフィニティカラムを通された。洗浄の後、結合した物質は低pHで溶出され、中和されて、生理的バッファーに対して透析された。溶出された分画は、還元条件下での変性SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析された。得られたゲルは、完全にグリコシル化されたPAP/GM−CSFの予測サイズに対応する75kDの単一タンパク質のバンドを示した。
【0133】
PAPHGM−BACは、PAPHGM−BACとBacPAK6ウイルスDNA(クロンテク、カリフォルニア州、パロアルト)との相同組換えによって組換えAutographa californica核多角体ウイルス(AcNPV、バキュロウイルス)を作成するのにも用いられた。BacPAKバキュロウイルス発現システム(クロンテク)からの試薬が用いられ、基本的にその製品マニュアルに記載のとおり手順が実行された。PAPHGM−BACおよびBacPAK6はリポフェクションによってSF21細胞(クロンテク)にコトランスフェクションされた。使用済みの組織培養上清は第5日に回収された。前記上清は新鮮なSF21細胞上に滴定され、該細胞は半固形培地中で4日間培養された。単層培養が中性赤で染色された後、ウイルスのプラークが同定され、パスツールピペットで拾われた。プラークで精製された組換えウイルスは、新鮮な培養に溶出され、新鮮なSF21細胞でのPAP/GM−CSF産生についてスクリーニングするのに用いられた。陽性のプラークが同定され、ウイルスのストックと組換えタンパク質をその後複数回の新鮮なSF21細胞感染で作成するために用いられた。産生培養の培地は感染後3日目に回収された。前記培地は293−EBNA細胞由来のPAP/GM−CSFについて説明されたとおりに処理された。免疫アフィニティ精製されたタンパク質の分析は、SDS−PAGEゲルの銀染色後64kDの単一タンパク質のバンドを示した。
【実施例2】
【0134】
PAP/GM−CSF融合タンパク質の生物活性
本実施例は、米国特許第5,976,546号、第6,080,409号および第6,210,662号明細書に既に開示されたPAP/GM−CSF融合タンパク質の生物活性を説明する。
【0135】
実施例1に記載の全ての発現システムからのPAP/GM−CSF融合タンパク質は、GM−CSF依存T細胞株の増殖を支持する能力について分析された。前記タンパク質は酸性フォスファターゼアッセイでの酵素活性についても分析された。標準的なバイオアッセイが前記GM−CSF生物活性を決定するために用いられた。
【0136】
GM−CSF活性
GM−CSF依存ヒト赤白血病細胞株TF−1(ATCC、メリーランド州、Rockville)と、単球白血病細胞株AML−193(ATCC)とが、PAPとの融合の後でもGM−CSFがその生物活性を保持するかどうか分析するために用いられた。GM−CSFを含む培地中で日常的に培養される前記細胞株は、アッセイの前24時間通常の培地中で飢餓状態におかれた。前記細胞は、組織培養培地中で3重に重複してウェル当たり1500個の細胞の割合でプレーティングされた。テスト用上清または陽性対照として組換えGM−CSFが前記細胞に添加された。細胞は72時間培養され、その後、DNA合成速度を決定するためにウェル当たり1マイクロキュリーのトリチウム標識チミジンでパルス標識された。
【0137】
酸性フォスファターゼ活性
前記融合タンパク質の第2の成分の生物活性は、酸性フォスファターゼ活性の酵素アッセイで決定された。酸性フォスファターゼは、酸性pHでパラ−ニトロフェニルリン酸(PNPP)を加水分解する前記タンパク質の能力として測定された。簡潔には、テスト液は50mM クエン酸ナトリウム、pH4.8中で希釈された。pNPPは最終濃度2mg/mLで添加された。37°C30分間のインキュベーションの後、等量の1M NaOHが反応液に添加された。これらの条件下で加水分解されたpNPPは黄色を呈し、405nmの分光光度計で定量することができる。
【実施例3】
【0138】
前立腺酸性フォスファターゼ/GM−CSF融合タンパク質で刺激された抗原提示細胞を含む免疫療法用組成物を用いるホルモン抵抗性前立腺がん患者の治療
本実施例は、前立腺酸性フォスファターゼ/GM−CSF融合タンパク質で刺激された抗原提示細胞を含む免疫療法用組成物(APC8015)を用いるホルモン抵抗性前立腺がん患者の治療についての無作為化(randomized)されたプラセボ対照付き第III相臨床治験に用いられた方法論を開示する。
【0139】
127名の患者が、(1)アンドロジェン欠乏にもかかわらず病気の進行の証拠がある、組織学的に確認された前立腺腺がんであること、(2)Whitmore−Jewett分類のステージDの転移疾患が存在すること(Crawfordら、Urology 50(6):1027−1028(1997))、(3)がん関連痛がなく、鎮痛剤を使用していないこと、(4)免疫組織学によりPAP陽性の腫瘍であること、(5)テストステロンが去勢レベルである50ng/dL未満であること、(6)PSAが5ng/mlを超えること、(7)化学療法の治療方式の終了から6ヶ月経過していること(あるいは、400を超えるCD4カウントが3ヶ月未満であること)、および(8)ホルモン療法後に腫瘍が進行していること、という基準に基づいて第III相臨床治験のために選択された。腫瘍の進行は、CTか、あるいは、骨のスキャニングで少なくとも2カ所の新たなホットスポットがあることかのいずれかによって放射線写真での進行によって評価され、PSAの進行は、去勢療法時の少なくとも50%以上のレベルで、現在の治療でPSAが安定かまたは上昇中であることによって評価された。
【0140】
APC8015は、各治療コースのたびに新たに調製された。樹状細胞前駆体は標準的な1.5ないし2.0血液体積の単核球の除去血輸血(leukapheresis)によって末梢血から回収された。コロニー刺激因子を用いる動員は不要である。前記除去血輸血産物は地元の血液銀行で調製され、Dendreonの細胞処理工場まで輸送される。樹状細胞前駆体は、Hsuら、Nat.Med.2:52−58(1996);Kunduら、AIDS Res Hum.Retroviruses 14:51−560(1998);および Peshwaら、Prostate 36:129−138(1998)の方法の変法によって2回の逐次的な浮遊密度遠心のステップによって集められた。
【0141】
簡潔には、前記除去血輸血製品は浮遊密度溶液(比重=1.077g/mL)に重層され、赤血球および顆粒球を除去するために1,000gで20分間遠心した。界面細胞が集められ、洗浄され、第2の浮遊密度溶液(比重=1.065g/mL)に重層され、血小板と低密度の単球およびリンパ球とを除去するために805gで30分間遠心された。
【0142】
以上に詳細に説明されるとおり、APC8015の標的抗原である、PA2024は、ヒトPAPとヒトGM−CSFとの間の融合タンパク質である。前記融合タンパク質は、バキュロウイルスシステムにクローン化され、無血清培地に馴化されたSf21昆虫細胞で発現された。PA2024は、3段階の逐次的なカラムクロマトグラフィーステップによって95%を超える純度まで精製された。PAPの酵素活性と、GM−CSFの増殖促進活性によって証明されるとおり、両方のタンパク質の成分は適切な生物活性を保持していた(PAPおよびGM−CSFの活性のアッセイの説明は実施例2を参照せよ。)
【0143】
樹状細胞前駆体を含む細胞ペレットは洗浄され、10μg/mLの標的抗原PA2024を添加したAIM培地(APC8015処理された患者用)または標的抗原PA2024無添加のAIM培地(プラセボ処理された患者用)でインキュベーションされた。前記培地は、血清または外在性のサイトカインを含まなかった。40時間37°Cで5%CO雰囲気中でインキュベーションした後、前記細胞は、洗浄され、250mLの乳酸リンゲル液(lactated Ringer’s solution)中に所望の臨床量で処方された。
【0144】
灌流用免疫療法用APC8015組成物を放出する基準は、(1)工程内無菌性試験で40時間内に増殖がないこと、(2)エンドトキシンが1.4EU/mL未満であること、(3)T=0の値より上の3SDを超えるCD54発現であること、および、(4)細胞の生存性が72%を超えることを含む。さらに、表現型は抗CD4、CD8、CD54、CD66bおよびCD86モノクローナル抗体(ベクトン・ディキンソン、カリフォルニア州、サンホセ、コールター、フロリダ州、マイアミ)を用いるフロー・サイトメトリー(FACS)によって決定された。結果が灌流後に利用可能な追加のテストは、最終製品の無菌性およびマイコプラズマであった。最終的なAPC8015製品またはプラセボ製品は、4°Cで元の病院に送り返され、処方8時間以内に患者に輸血された。APC8015およびプラセボは、それぞれ30分間を超える時間をかけて別々に輸血された。患者は輸血前にルーティン化した前処置はされない。患者は輸血後30分間観察され、帰宅を許された。予め精巣切除されていない患者は黄体形成ホルモン放出ホルモンのアゴニストを用いる生殖腺抑制を継続した。
【0145】
APC8015を投与された患者82名と、PA2024PAP/GM−CSF融合タンパク質で予め刺激されない樹状細胞を含むプラセボで処理された患者45名について、除去血輸血が−2、12および26日目に実施され、それぞれ輸血が0、14および28日目に実施された。
【0146】
患者は、客観的な疾患の進行か1年間経過かのいずれか早い時点まで観察された。診療上のエンドポイントは、(1)8週間ごとのスキャニングによる疾患の進行と、(2)疾患関連痛の発症という基準によって評価された。血清PSAレベルは、疾患が進行するまで4週間ごとに測定された。進行するまでの時間は、登録の日から客観的な疾患の進行が記録された日までの時間として定義された。客観的な疾患の進行(例えば、PSAの上昇)が起こらないのに治験を止めることに決めた患者は、治験からの脱退時に疾患の進行があったものとみなされた。第1のエンドポイントは、(1)骨スキャニング、コンピュータ断層撮影(CT)および磁気共鳴映像(MRI)によって測定される客観的な疾患の進行と、(2)安全性とを含む。第2のエンドポイントは、疾患関連痛の進行および反応速度を含む。
【実施例4】
【0147】
免疫療法用組成物の治療上の有効性は前立腺がんの分化状態と相関する
本実施例は、PAP/GM−CSF融合タンパク質(すなわちAPC8015)で刺激された抗原提示細胞を含む免疫療法用組成物の治療上の有効性は、前立腺がん細胞の分化状態と相関することを証明する。
【0148】
上記のAPC8015またはプラセボを用いる免疫療法の治療方式を開始する前に、患者は疾患特性の基線量について評価された。前立腺がん細胞の分化状態を決定するために、前立腺組織試料が各患者から単離され、Gleason、Urologic Pathology:The Prostate、pp.171−197(Tappenhaum、編、Lee & Fehiger、Philadelphia、PA、1977)に記載のグリーソン指数化法による分析に供された。この評価の結果は表1に示される。
【0149】
客観的な疾患の進行までの時間は、骨スキャニングまたはX線での進行か、あるいは、臨床的な悪化かとして定義され、データはKaplan−Meier法による統計解析に供された。PSAは疾患の進行を決定するためには用いられなかった。表2に示されるとおり、APC8015で処理された患者集団についての疾患進行時間のメジアン(中央値)は11.0週間で、プラセボ処理された患者集団についての疾患進行時間のメジアンは9.1週間であった。表3および図1は、進行のない生存の百分率をAPC8015またはプラセボの投与後の時間の関数として示す。2つの集団についての時間対疾患進行の曲線の比較によって導かれたp値は0.085であった。
【0150】
表4および6は、それぞれ、低分化型(グリーソン指数8以上)の前立腺がん細胞の患者と、中ないし高分化型(グリーソン指数7以下)の前立腺がん細胞の患者についての時間対疾患進行を開示する。表5および図2と、表7および図3とは、それぞれ、低分化型がん細胞の患者集団と、中ないし高分化型がん細胞の患者集団とに対するAPC8015またはプラセボの投与後の時間の関数として進行のない生存の百分率を示す。
【0151】
これらのデータは、低分化型前立腺がん細胞を有する患者は、プラセボ処理患者集団と比較して、APC8015処理患者集団についての客観的な疾患の進行までの時間において統計的に有意な差がないこと(p値=0.431)を証拠として、低分化型前立腺がん細胞の患者はAPC8015を用いる治療に抵抗性があったことを証明した。これに対し、中ないし高分化型前立腺がん細胞(グリーソン指数7以下)の患者について得られた結果は、プラセボ処理患者集団と比較して、APC8015処理患者集団についての客観的な疾患の進行までの時間において統計的に有意な差がないこと(p値=0.002)を証拠として、かかる患者が免疫療法用組成物を用いる治療に感受性があったことを示す。
【0152】
【表1】

【0153】
【表2】

p値はlog−rankテストを用いて処置群の疾患進行までの時間の曲線を比較する。
途中打ち切り(censored)された観察例
【0154】
【表3】

【0155】
【表4】

p値はlog−rankテストを用いて処置群の疾患進行までの時間の曲線を比較する。
途中打ち切りされた観察例
【0156】
【表5】

【0157】
【表6】

p値はlog−rankテストを用いて処置群の疾患進行までの時間の曲線を比較する。
途中打ち切りされた観察例
【0158】
【表7】

【0159】
図5は、APC8015を投与された患者が、プラセボを投与された患者と比較して、T細胞性免疫応答のメジアンにおける統計的に有意な(p値=0.0003)増強を示すことを証明するデータを提供する。図6は、グリーソン指数が7以下でAPC8015を投与された患者集団は、グリーソン指数が8以上でAPC8015を投与された患者集団と比較して、T細胞性免疫応答のメジアンにおける統計的に有意な(p値=0.0065)増強を示すことを証明するデータを提供する。
【実施例5】
【0160】
本実施例は、PAP/GM−CSF融合タンパク質(すなわちAPC8015)で刺激された抗原提示細胞を含む免疫療法用組成物を投与された患者における疾患関連痛発症までの時間は、グリーソン指数7以下の前立腺がん患者では、プラセボ投与患者での疾患関連痛発症までの時間より延長されるが、グリーソン指数8以上の前立腺がん患者では疾患関連痛発症までの時間はほとんど影響がなかったことを証明する。
【0161】
疾患関連痛は、がん関連痛の質および一貫性があり、治験参加後に発症し、痛みの場所が放射線撮影手段によって客観的に確認される疾患部位と対応する痛みとして定義された。疾患関連痛発症までの時間は、患者の無作為化から痛みの発症までの時間である。痛みは2つのやり方で測定された。患者は、十分にバリデーションされた痛みの評価ツールであるWisconsin Brief Inventoryに基づく痛みの毎週の記録を記入し、医師が診察の際に評価する。盲検外部評価者(すなわち患者を診察した医師以外の者)が上記の証拠を評価した。痛みは、場所が疾患の撮像された部位に対応するときにだけがん関連痛とされた。上記の痛みのデータはKaplan−Meier法による統計解析を用いて時間事象(time−to−event)分析で解析された。図7に示すとおり、プラセボ処置されたグリーソン指数7以下(中ないし高分化型前立腺がん細胞)の患者集団の疾患関連痛発症までのメジアン時間は18.7週間であった。APC8015処置群の治験終了時には痛み発症までのメジアン時間はまだ到来してなかった。APC8015処置群とプラセボ処置群との差は、統計上有意であった(log rank p=0.016)。対照的に、グリーソン指数8以上(低分化型前立腺がん細胞)の患者集団の疾患関連痛発症までのメジアン時間についてAPC8015処置群とプラセボ処置群との差は有意ではなかった(p=0.304)。
【0162】
これらのデータは、プラセボ処置患者集団と比較して、APC8015処置群の疾患関連痛発症までの時間に統計上有意な差がないこと(log rank p=0.304)を証拠として、低分化型前立腺がん細胞の患者はAPC8015処置によって疾患関連痛発症までの時間にほとんど影響がなかったことを証明する。対照的に、中ないし高分化型(グリーソン指数7以下)前立腺がん細胞の患者について得られた結果は、プラセボ処置患者集団と比較して、APC8015処置患者集団のついての疾患関連痛発症までの時間に統計上高度な有意性があること(log rank p=0.016)を証拠として、かかる患者はAPC8015処置が有益であったことを示す。
【0163】
さらに表8に示されるデータは、APC8015は、プラセボ投与患者集団と比較して、前立腺がん患者に好ましく受け入れられたこと(10%以上の患者で発症、p値0.05以上)を証明する。
【0164】
【表8】

副作用のあった患者数(%)
【実施例6】
【0165】
局所利用法後血清学的な進行所見のある前立腺がん患者におけるbevacizumabと併用されたPAP/GM−CSFパルス処理樹状細胞
本実施例は、血清学的な進行所見のある前立腺がん患者におけるヒト化抗VEGFモノクローナル抗体bevacizumabの投与と併用してPAP/GM−CSFパルス処理樹状細胞の投与することを含む併用免疫療法用治療方式の有効性を開示する。
【0166】
簡潔には、アンドロジェン依存性(ホルモン感受性)前立腺がんで、確定的な外科または放射線療法を既に受け、0.4ng/mlないし6.0ng/mlのPSA増大で示される非転移性の再発疾患の患者が第II相臨床治験に登録された。PAP/GM−CSFパルス処理された患者の樹状細胞が、第0、2および4週目に静注によって投与された。bevacizumab(10mg/kg)は、第0、2および4週目と、その後、基線PSA値の倍増(少なくとも4ng/mL)または転移の発症によって定義される疾患の進行か、毒性がみられるまで2週間ごとに静注によって投与された。T細胞増殖と、PAPに応答するサイトカイン産生と、樹状細胞の同時刺激/活性化マーカー発現とが検定された。表9は、第II相臨床治験への患者の適格性についての登録および除外の基準を示す。
【0167】
【表9】

【0168】
14名の患者がこの第II相臨床治験に参加した。1名の患者は同意を取り下げ、6名の患者は治療後期間メジアン28週間(範囲は12−48週間)でPSA異常のため治験から除外され、1名の患者は、プロトコールの処置と関係があるかもしれないグレード3の心不全(CHF)の後でPSAは安定していたが前記治験から除外された。6名の患者が治験に残り、メジアン28週間(範囲は2ないし60週間)でPSAは安定していた。処置を受けた患者の年齢のメジアンは61歳(範囲は60−76歳)であった。前記患者のうち11名のグリーソン指数は、5(患者2名)、6(患者5名)、7(患者2名)および8(患者2名)であった。
【0169】
PAP/GM−CSFパルス処理樹状細胞およびbevacizumabの投与
樹状細胞(DC)前駆体は、第0、2および4週の第1日目に、4時間の除去血輸血によって末梢血から回収された。樹状細胞前駆体は、前記除去血輸血の製品から浮遊密度遠心法によって単離された。前駆体細胞は、PAP/GM−CSFとともに40時間培養された。患者は、PAP/GM−CSFでパルス処理された樹状細胞の製造可能な最大投与量である、〜1.2x10個の有核細胞/mを、第0、2および4週の第3日目に30分間かけて静注輸血によって投与された。輸血の30分間前に、患者はアセトアミノフェン650mgおよびジフェンヒドラミン50mgを経口投与で前処置された。bevacizumab(10mg/kg、90分間かけて静注)が(PAP/GM−CSFパルス処理樹状細胞の輸血の後)第0、2および4週とその後2週間ごとの第3日目に投与された。
【0170】
PSAの変動
PSAの変化は前記患者のそれぞれについて監視された。PSAレベルの減少が3名の患者で検出された(12%減少、33%減少および64%減少)。PSA基線量のメジアンは1.88ng/mL(範囲は0.5−5.08ng/mL)であった。応答について評価できた9名の患者のうち、3名はPSA倍加時間(PSADT、時間に対するPSAの傾きを用いて推定される)が減少し、1名の患者は、治験参加時の2.74ng/mLから(第12週に5.6ng/mLのPSA値に達した後)、1.43ng/mLまでPSAの減少を示した。
【0171】
表10は、処置前および処置中のPSAの動態を要約する。処置前および処置中の両方のPSA倍加時間(PSADT)は、PSA対時間の曲線の傾きによって除算されたLn2の関係を用いて推定された。PSA倍加時間は、処置中PSA対時間の曲線の傾きが正の患者について計算された。3名の患者は、PSA値が減少したため処置中PSAの倍加時間を計算できなかった。3名の患者はPSA倍加時間が増大し、3名の患者はPSA倍加時間に変化がなかった。客観的な疾患の進行があった患者はいなかった。
【0172】
【表10】

【0173】
末梢血リンパ球は各患者から基線量、第8週および第12週に単離された。96穴U底プレート中に1x10個のPBMCがRPMI−10%ヒト血清培地中で滴定されたPAP/GM−CSFに添加された。ポークウィードマイトジェンが陽性対照として用いられた。アッセイは37°Cのウオーター・ジャケット式インキュベータで5%CO、6日間インキュベーションされた。前記アッセイはインキュベーションの最後の18時間Hチミジン(アマシャム、ニュージャージー州、Piscataway)でパルス標識され、Tomtecプレートハーベスターを使ってフィルターマットに回収された。シンチレーションカクテル(Perkin Elmer/Wallac)を添加した後、前記アッセイはWallacベータ・シンチレーションカウンタを用いて計測された。読み取り値は1分間当たりのカウント数(CPM)単位で報告された。
【0174】
これらの実験結果は、異なる濃度のPAP/GM−CSF(2μg/mLから50μg/mLまで)に応答する代表的な患者のT細胞増殖を示す図4に示される。この患者は、50%を超える持続的なPSA減少がみられる。テストした4名のうち2名はPAP/GM−CSFに応答して第8および12週でT細胞増殖の証明可能な増大がみられた。
【0175】
INF−γELISPOT
マルチスクリーン−HAプレートのウェルは、D−PBS中15μg/mLの抗ヒトINF−γ抗体100μLで終夜4°Cにてコーティングされた。プレートはPBSTで洗浄され、200μLのD−PBS+10%HSで2時間37°Cでブロッキングされた。3x10個のPBMCがRPMI−10%HS中で滴定されたPAP/GM−CSFとともに添加された。前記アッセイは37°Cで40−48時間インキュベーションされた。2日後、細胞および抗原はPBSTを用いて前記プレートから洗浄された。検出用抗体であるビオチン化抗ヒトIFNγ100μLがPBST中1μg/mLでウェルに添加された。プレートはPBSTで6回洗浄され、PBSTで1:1000に希釈されたストレプトアビジンアルカリフォスファターゼ(MabTech、オハイオ州、Mariemont)100μLがアッセイウェルに添加された。前記アッセイは1.5時間インキュベーションされ、PBSTで6回洗浄された。ワンステップBCIP/NBT液がウェル当たり100μLでウェルに添加され、スポットを発色するために12分間インキュベーションされた。プレートは、ImmunoScanアナライザーおよびソフトウェアを用いて、スキャニングされたスポットが計測された。
【0176】
PAP/GM−CSF特異的IFN−γ産生は、異なるPAP/GM−CSF濃度でのELISPOT解析を用いて患者から測定された。テストした3名の患者のうち3名とも基線と比較して第8週ではIFN−γ産生T細胞が証明可能な増大を示した。1名の患者はT細胞が分析するのに十分なかった。
【0177】
これらのデータは、PAP/GM−CSFとbevacizumabとの組み合わせが、血清学的に進行した前立腺がんの治療に有効であること、すなわち、PSAを変動させる活性があることを証明する。免疫学的な解析は、本治療方式からPAP/GM−CSF特異的な免疫応答が起こること、および、PAP/GM−CSFと抗VEGF抗体との併用免疫療法は安全で十分に受け入れられることを証明した。
【0178】
本発明は理解の明確さのために図面と実施例とによってある程度詳細に説明されたが、添付する特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図される、本発明の範囲から逸脱することなく変更および修飾を行うことができる。
【0179】
配列番号1は、配列番号2のcDNA配列にエンコードされるヒト前立腺酸性フォスファターゼ(huPAP)のアミノ酸配列である。
配列番号2は、配列番号1のヒト前立腺酸性フォスファターゼ(huPAP)をエンコードするcDNAのヌクレオチド配列である。
配列番号3は、配列番号4のcDNA配列にエンコードされるヒト顆粒球−マクロファージ コロニー刺激因子(huGM−CSF)のアミノ酸配列である。
配列番号4は、配列番号3のヒト顆粒球−マクロファージ コロニー刺激因子(huGM−CSF)をエンコードするcDNAのヌクレオチド配列である。
配列番号5は、配列番号6のcDNA配列にエンコードされるヒト前立腺酸性フォスファターゼ/ヒト顆粒球−マクロファージ コロニー刺激因子(huPAP/huGM−CSF)融合タンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号6は、配列番号5のヒト前立腺酸性フォスファターゼ/ヒト顆粒球−マクロファージ コロニー刺激因子(huPAP/huGM−CSF)融合タンパク質をエンコードするcDNAのヌクレオチド配列である。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)/顆粒球−マクロファージ 投与前にコロニー刺激因子(GM−CSF)融合タンパク質(APC8015)で刺激された抗原提示細胞か、あるいは、無刺激の抗原提示細胞(プラセボ)かで処置されたホルモン抵抗性前立腺腫瘍患者全員についての客観的な疾患の進行までの時間(Kaplan−Meier法)を示すグラフ。
【図2】投与前にGM−CSF融合タンパク質(APC8015)で刺激された抗原提示細胞か、あるいは、無刺激の抗原提示細胞(プラセボ)かで処置されたホルモン抵抗性でグリーソン指数8以上の前立腺腫瘍患者全員についての客観的な疾患の進行までの時間(Kaplan−Meier法)を示すグラフ。
【図3】投与前にGM−CSF融合タンパク質(APC8015)で刺激された抗原提示細胞か、あるいは、無刺激の抗原提示細胞(プラセボ)かで処置されたホルモン抵抗性でグリーソン指数7以下の前立腺腫瘍患者全員についての客観的な疾患の進行までの時間(Kaplan−Meier法)を示すグラフ。
【図4】末梢血単核細胞の集団中のT細胞の増殖に対するPAP/GM−CSFの効果を示す棒グラフ。
【図5】APC8015が、前立腺がん患者において、プラセボを投与された患者集団と比較して著しいT細胞性免疫応答を誘導することを証明するデータを提供する棒グラフ。
【図6】APC8015が、グリーソン指数7以下の前立腺がん患者において、グリーソン指数8以上の前立腺がん患者と比較して著しいT細胞性免疫応答を誘導することを証明するデータを提供する棒グラフ。
【図7】APC8015またはプラセボ処置されたグリーソン指数7以下の前立腺がん患者対APC8015またはプラセボ処置されたグリーソン指数8以上の前立腺がん患者について疾患関連痛を発症するまでの時間(Kaplan−Meier法)を示す棒グラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中ないし高分化型のがんと診断された患者から得られ、腫瘍関連抗原に生体外で曝露されることによって刺激された活性化単離抗原提示細胞を含む、免疫療法用組成物。
【請求項2】
前記腫瘍関連抗原は腫瘍特異抗原である、請求項1に記載の免疫療法用組成物。
【請求項3】
前記腫瘍関連抗原は、N末端部分とC末端部分とを含むタンパク質コンジュゲートの構成部分である、請求項1に記載の免疫療法用組成物。
【請求項4】
前記抗原提示細胞は樹状細胞である、請求項1に記載の免疫療法用組成物。
【請求項5】
前記がんは、軟組織肉腫と、リンパ腫と、脳、食道、子宮頸部、骨、肺、子宮内膜、膀胱、乳房、喉頭、大腸/直腸、胃、卵巣、膵臓、副腎および前立腺のがんとからなるグループから選択される、請求項1に記載の免疫療法用組成物。
【請求項6】
前記がんは前立腺がんである、請求項1に記載の免疫療法用組成物。
【請求項7】
前記がんはグリーソン指数が7以下である、請求項6に記載の免疫療法用組成物。
【請求項8】
前記患者は、ホルモン抑制療法に抵抗性ではない、請求項7に記載の免疫療法用組成物。
【請求項9】
前記N末端部分は抗原提示細胞と結合するタンパク質で、前記C末端部分は腫瘍関連抗原である、請求項3に記載の免疫療法用組成物。
【請求項10】
前記C末端部分は抗原提示細胞と結合するタンパク質で、前記N末端部分は腫瘍関連抗原である、請求項3に記載の免疫療法用組成物。
【請求項11】
前記タンパク質コンジュゲートは融合タンパク質である、請求項3に記載の免疫療法用組成物。
【請求項12】
前記融合タンパク質は、前記N末端部分とC末端部分との間にリンカーペプチドを含む、請求項11に記載の免疫療法用組成物。
【請求項13】
前記N末端部分またはC末端部分は、配列番号1の配列と少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む、請求項6に記載の免疫療法用組成物。
【請求項14】
前記N末端部分またはC末端部分は、配列番号1の配列と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、請求項6に記載の免疫療法用組成物。
【請求項15】
前記N末端部分またはC末端部分は、配列番号1の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項6に記載の免疫療法用組成物。
【請求項16】
前記N末端部分またはC末端部分は、配列番号1の配列を含む、請求項6に記載の免疫療法用組成物。
【請求項17】
前記C末端部分またはN末端部分は、配列番号3の配列と少なくとも70%の同一性を有する、請求項3ないし16のいずれか1つに記載の免疫療法用組成物。
【請求項18】
前記C末端部分またはN末端部分は、配列番号3の配列と少なくとも80%の同一性を有する、請求項3ないし16のいずれか1つに記載の免疫療法用組成物。
【請求項19】
前記C末端部分またはN末端部分は、配列番号3の配列と少なくとも90%の同一性を有する、請求項3ないし16のいずれか1つに記載の免疫療法用組成物。
【請求項20】
前記C末端部分またはN末端部分は配列番号3の配列である、請求項3ないし16のいずれか1つの免疫療法用組成物。
【請求項21】
中ないし高分化型がん細胞を有するがん患者を免疫療法用組成物を用いて治療する方法であって、
(a)前記患者について前記がん細胞の分化状態を決定するステップと、
(b)前記患者に免疫原性のある組成物の治療上の有効量を投与するステップとを含み、
中ないし高分化型がん細胞が存在することは、免疫療法用組成物を用いる治療に感受性があることを意味し、10%の減少が前記がんの有効な治療を意味する、中ないし高分化型がん細胞を有するがん患者を免疫療法用組成物を用いて治療する方法。
【請求項22】
前記免疫療法用組成物は請求項1−18のいずれか1つに記載の免疫療法用組成物である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
中ないし高分化型がんの患者におけるがん細胞の増殖を阻害する方法であって、
(a)前記がん細胞の等級を前記患者について決定するステップと、
(b)中ないし高分化型がんの患者から抗原提示細胞を単離するステップと、
(c)N末端部分とC末端部分とを含むタンパク質コンジュゲートを含む免疫療法用組成物に生体外で曝露することによって前記抗原提示細胞を刺激するステップと、
(d)前記刺激された抗原提示細胞の治療上の有効量を前記患者に投与するステップとを含み、
中ないし高分化型がんの等級は前記患者は治療に感受性があることを意味し、前記抗原提示細胞は前記N末端部分かC末端部分かのいずれかに対する細胞傷害性細胞応答を起こすためにT細胞を活性化するうえで有効であり、前記T細胞の活性化のレベルは、前記N末端部分またはC末端部分だけに曝露された抗原提示細胞によって起こされるT細胞の活性化のレベルより高く、10%の減少が前記がんの有効な治療を意味する、中ないし高分化型がんの患者におけるがん細胞の増殖を阻害する方法。
【請求項24】
前記がんは、軟組織肉腫と、リンパ腫と、脳、食道、子宮頸部、骨、肺、子宮内膜、膀胱、乳房、喉頭、大腸/直腸、胃、卵巣、膵臓、副腎および前立腺のがんとからなるグループから選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記がんは前立腺がんである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記がんの等級はグリーソン指数によって決定され、該グリーソン指数は7以下である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記免疫療法用組成物は、請求項3−18のいずれか1つに記載の免疫療法用組成物である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
がん患者について該がんの免疫療法用組成物に対する感受性を評価する方法であって、
(a)前記患者から前記がん細胞を含み試料を単離するステップと、
(b)前記がん細胞の分化状態を決定するステップとを含み、
中ないし高分化型がんの等級は、前記がん細胞が免疫療法用組成物を用いる治療に感受性があることを意味する、がんの免疫療法用組成物に対する感受性を評価する方法。
【請求項29】
前記がんは、軟組織肉腫と、リンパ腫と、脳、食道、子宮頸部、骨、肺、子宮内膜、膀胱、乳房、喉頭、大腸/直腸、胃、卵巣、膵臓、副腎および前立腺のがんとからなるグループから選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記免疫療法用組成物は、請求項1−20のいずれか1つに記載の免疫療法用組成物である、請求項28に記載の方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−517914(P2006−517914A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−568935(P2004−568935)
【出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/029176
【国際公開番号】WO2004/026238
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(500072714)デンドレオン コーポレイション (11)
【Fターム(参考)】