説明

中塗り塗料組成物

【課題】低温・短時間硬化性の中塗り塗料組成物を提供する。
【解決手段】数平均分子量(Mn)が900〜3000、全酸成分中の芳香族ポリカルボン酸成分及び/又は脂環式ポリカルボン酸成分の割合が80質量%以上であるポリエステル樹脂、数平均分子量(Mn)が2000〜10000、炭素数4以上のアルキル側鎖を有するエチレン性不飽和モノマー単位を40〜80質量%含有し、ガラス転移温度(Tg)が30℃以下であるアクリル樹脂、顔料、及びセルロース誘導体からなる主剤(a)および1分子中に2個以上の遊離のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物からなる硬化剤(b)からなる2液型中塗り塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車外板塗装等に用いられる中塗り塗料組成物に関し、特に低温・短時間硬化型の中塗り塗料組成物であって、好ましくは、中塗り塗装、ベース塗装及びクリヤー塗装をウエット・オン・ウエット法で行う3コート1ベーク法において好適に用いられる中塗り塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車外板の塗膜に代表される積層塗膜は、通常、被塗素材となる金属素材、例えば鋼板の表面に塗装下地としてリン酸亜鉛処理などの化成処理を施し、生成した化成処理皮膜上に下塗り塗装、中塗り塗装および上塗り塗装を行うことにより形成される。従来、この積層塗装工程は、焼付け硬化処理を各塗膜層の形成毎に行うものであった。したがって、上塗り塗装としてベース塗装およびクリヤー塗装を施す際は、下塗り塗膜形成後に、中塗り塗装、ベース塗装、クリヤー塗装からなる3コート2ベーク法を用いていた。このため、焼付け硬化処理が繰り返され、積層塗装工程が長くなり、エネルギー消費量が多く、コスト高の原因にもなっていた。
【0003】
この経済性に関する問題を解決するため、ウエット・オン・ウエット法で塗料を塗布した後、複数の塗膜を同時に焼付け硬化させる方法が開発されてきた。例えばベース塗膜およびクリヤー塗膜をウエット・オン・ウエット法で塗布、焼付け硬化させる2コート1ベーク法は一般的に行われている方法であり、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を3コート1ベーク法で形成させる方法も提案されている。
【0004】
ウエット・オン・ウエット法においては、未硬化状態で塗料を複層化させるため、その界面で各塗料が混和して境界面が不明瞭となり易い。特に、中塗り塗料と上塗り塗料の混和は鮮映性、光沢性等の塗膜外観の低下に大きく影響する。このため、これらの現象を防止したウエット・オン・ウエット法用の塗料組成物が開発されてきた。例えば、特許文献1、2および3には中塗り塗膜、上塗り塗膜をウエット・オン・ウエット法で形成する塗膜形成法が記載されており、各塗料の界面における混和等を抑制するための樹脂組成物が記載されている。
【0005】
上記の技術開発により、層間混和防止による外観向上は達成されてきた。しかしながら、中塗り塗膜のみの焼付け硬化処理には、下地粗度の影響を抑える効果があるため、上記の3コート1ベーク法を用いた際にはこの効果が得られず、満足いく外観を得るには下地の管理等が特別に必要であった。したがって、経済性と外観向上を両立する塗装技術はいまだ完成されておらず、更なる技術開発が望まれる。
【0006】
また、近年の塗装法においては環境への配慮から有機溶剤塗料から水性塗料への切り替えが進められている。通常、水性塗料を用いる場合には水分をフラッシュ・オフする目的で比較的低温・短時間(およそ80℃、10分)で加熱するプレヒート処理が行われている。
【0007】
上記、比較的低温・短時間で加熱するプレヒート処理を利用して塗膜形成できるような低温・短時間硬化型塗料を塗布した後、ウエット・オン・ウエット法により水性塗料を塗布し、上記プレヒート処理と同時に下層の低温・短時間硬化型塗料を硬化することができれば、より合理的、経済的な工程が完成し、かつ、上記の下地粗度による外観低下の問題も解決される。しかし、従来の塗料はその焼付け硬化処理条件が、およそ140℃、30分であるためプレヒート処理の加熱では硬化せず、上記工程に使用することはできなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2002−153805号公報
【特許文献2】特開2002−153806号公報
【特許文献3】特許第3761249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ウエット・オン・ウエット法で複層塗膜を形成する際に好適に用いられる低温・短時間硬化性の中塗り塗料組成物を提供することにある。
なお、本明細書における「ウエット・オン・ウエット法」とは、下層の塗料が硬化しない状態で上層の塗料を塗布することであり、上層の塗料塗布前に下層の溶剤または水分を蒸発させる程度のプレヒート処理を行う複層塗膜形成法を含むものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定のポリエステル樹脂およびアクリル樹脂等を主剤とし、遊離のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物を硬化剤とする2液型中塗り塗料組成物が低温・短時間で硬化し、かつ、外観の優れた複層塗膜を形成することを見出した。
すなわち本発明は、
下記の主剤(a)と硬化剤(b)からなる2液型中塗り塗料組成物を提供するものである。
主剤(a):1分子中に2個以上の末端水酸基を有するポリエステル樹脂、水酸基含有アクリル系モノマーを含むアクリル樹脂、顔料、及びセルロース誘導体を含有し、
前記ポリエステル樹脂は、数平均分子量(Mn)が900〜3000、全酸成分中の芳香族ポリカルボン酸成分及び/又は脂環式ポリカルボン酸成分の割合が80質量%以上であり、前記アクリル樹脂は、数平均分子量(Mn)が2000〜10000、炭素数4以上のアルキル側鎖を有するエチレン性不飽和モノマー単位を40〜80質量%含有し、ガラス転移温度(Tg)が30℃以下である;
硬化剤(b):1分子中に2個以上の遊離のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウエット・オン・ウエット法で複層化した際の層間の混和を抑制し、低温短時間で硬化する性質(80℃、10分の加熱条件でゲル分率が95%を上回る)を有する中塗り塗料組成物が提供される。この中塗り塗料組成物を用いると、中塗り塗膜、ベース塗膜、クリヤー塗膜を3コート1ベークのウエット・オン・ウエット法で形成する際、ベース塗膜のプレヒート処理と同時に中塗り塗料を硬化させることができ、経済性と優れた外観の両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の中塗り塗料組成物について具体的に説明する。本発明の中塗り塗料組成物は、主剤(a)にポリエステル樹脂、アクリル樹脂、顔料、及びセルロース誘導体を含み、硬化剤(b)にポリイソシアネート化合物を含む2液型中塗り塗料組成物である。
【0013】
本発明の中塗り塗料組成物の主剤(a)に含まれるポリエステル樹脂は、既知の方法で、多塩基酸と多価アルコールとをエステル化反応させることによって合成することができる。ポリエステル樹脂は1分子中に2個以上の末端水酸基を有し、外観向上の点から分子量は比較的低分子量であることが好ましく、数平均分子量(Mn)は900〜3000、好ましくは1000〜2500である。数平均分子量(Mn)が900を下回ると、十分な硬化性が得られず、上塗り溶剤による膨潤が起こり、上塗り塗膜形成後の外観が低下する。一方、数平均分子量(Mn)が3000を超えると、塗料粘度が上がり良好なレベリング性を確保できない。なお、本明細書における数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン分子量を標準として換算した値である。また上記ポリエステル樹脂は水酸基価及び酸価を有することが好ましい。当該水酸基価は、好ましくは100〜250mgKOH/g、特に好ましくは120〜240mgKOH/gである。250mgKOH/gを上回ると塗膜にした場合の耐水性が低下し、100mgKOH/gを下回ると塗膜の硬化性が低下する。当該酸価は、好ましくは2〜14mgKOH/g、特に好ましくは3〜12mgKOH/gである。14mgKOH/gを上回ると塗膜の耐水性が低下し、2mgKOH/gを下回ると塗膜の硬化性が低下する。
【0014】
多塩基酸は1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、一般的にポリエステル製造方法で用いられるカルボン酸および/または酸無水物を用いることができる。例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸等の芳香族ポリカルボン酸;ヘキサヒドロフタル酸、1,4−および1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ポリカルボン酸;無水マレイン酸、フマル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸等の脂肪族ポリカルボン酸;を挙げることができ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
上記ポリエステル樹脂は、芳香族ポリカルボン酸成分または脂環式ポリカルボン酸成分である嵩高い酸成分を多く含んでいることが外観向上の点で好ましく、嵩高い酸成分は全酸成分中80質量%以上、好ましくは、85〜100質量%である。嵩高い酸成分を80質量%以上含むことで上塗り溶剤膨潤による外観低下を抑制することができる。
【0016】
多価アルコールは1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、水素化ビスフェノールA等のジオール類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上のポリオール類等を挙げることができ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の中塗り塗料組成物の主剤(a)に含まれるアクリル樹脂は、既知の方法で、炭素数4以上のアルキル側鎖を有するアクリル系モノマー、水酸基含有アクリル系モノマー及び必要に応じてその他のエチレン性不飽和モノマーを共重合することにより合成することができる。外観向上の点から、分子量は比較的低分子量であることが好ましく、アクリル樹脂の数平均分子量(Mn)は2000〜10000である。数平均分子量(Mn)が2000を下回ると、上塗り溶剤膨潤による外観低下が発生する。一方、数平均分子量(Mn)が10000を上回ると、塗料にした場合の粘度が増大し、塗膜にした場合に十分なレベリング性を確保できない。また、上記炭素数が4以上のアルキル側鎖を有するアクリル系モノマーを40〜80質量%、好ましくは、42〜60質量%含有する。80質量%を上回ると塗膜になった場合の外観が低下し、40質量%を下回ると塗膜層間での混層性が増大する。更に上記アクリル樹脂はガラス転移温度(Tg)が30℃以下、好ましくは−30〜20℃である。30℃を上回ると塗膜にした場合の外観が低下し、−30℃を下回ると塗膜物性が低下する。また上記アクリル樹脂は水酸基価及び酸価を有することが好ましい。当該水酸基価は、好ましくは80〜180mgKOH/g、特に好ましくは90〜170mgKOH/gである。180mgKOH/gを上回ると塗膜にした場合の耐水性が低下し、80mgKOH/gを下回ると塗膜の硬化性が低下する。当該酸価は、好ましくは2〜13mgKOH/g、特に好ましくは3〜12mgKOH/gである。13mgKOH/gを上回ると塗膜にした場合の外観が低下し、2mgKOH/gを下回ると塗膜の硬化性が低下する。
【0018】
炭素数が4以上のアルキル側鎖を有するアクリル系モノマーとしては、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート及びジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
水酸基含有アクリル系モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アリルアルコール及びメタアリルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンとの付加物等を挙げることができ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
カルボン酸含有アクリルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アクリル酸二量体及びアクリル酸にε−カプロラクトンを付加させたα−ハイドロ−ω−((1−オキソ−2−プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1−オキソ−1,6−へキサンジイル))等の(メタ)アクリル酸誘導体等を挙げることができ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
その他のエチレン性不飽和モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、及びN−モノオクチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン及びビニルナフタレン等の重合性芳香族化合物;アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等の重合性ニトリル;エチレン及びプロピレン等のα−オレフィン;酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル等のビニルエステル;並びに、ブタジエン及びイソプレン等のジエンを挙げることができ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
本発明において上記のポリエステル樹脂とアクリル樹脂の含有比率は特に制限されるものではないが、好ましくは、ポリエステル樹脂/アクリル樹脂の質量比は95/5〜10/90、さらに好ましくは90/10〜30/70であり、上記範囲外では塗膜外観が低下する。
【0023】
本発明の中塗り塗料組成物の主剤(a)に含まれる顔料としては、着色顔料及び/又は体質顔料が用いられる。着色顔料としては、アゾレーキ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、金属錯体顔料等の有機顔料類、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料類が挙げられ、体質顔料としては硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ等が挙げられる。
【0024】
本発明の中塗り塗料組成物の主剤(a)に含まれるセルロース誘導体としては、例えばセルロースアルキルエーテル、セルロースヒドロキシエーテル、セルロースヒドロキシエチルエーテル、セルロースアセテートブチレートが挙げられ、これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。この中でセルロースアセテートブチレートを使用するのが最も好ましい。セルロース誘導体の含有量は塗料固形分に対して、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜4質量%である。5質量%を上回ると外観が低下し、0.1質量%を下回ると塗装作業性が低下する。
【0025】
本発明の中塗り塗料組成物は上記セルロース誘導体とともにマイクロゲルを添加することができる。マイクロゲルとは、塗料用の有機溶剤に不溶で、ある程度架橋されているポリマーからなり、好ましくは0.01〜10μmの粒子径を有するミクロ粒子である。具体的には特許第3761249号公報に示す化合物が挙げられる。マイクロゲルの添加量は、セルロース誘導体との合計量が塗料固形分に対して、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜4質量%である。5質量%を上回ると外観が低下し、0.1質量%を下回ると塗装作業性が低下する。
【0026】
本発明の中塗り塗料組成物の硬化剤(b)に含まれるポリイソシアネート化合物とは1分子中に2個以上の遊離のイソシアネート基を有する化合物であって、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、TDIとトリメチロールプロパンの付加物(TDIアダクト体)(モル比で3:1)、TDIの2〜3量体、HDIとトリメチロールプロパンの付加物(HDIアダクト体)(モル比で3:1)、HDIと水との反応物、XDIとトリメチロールプロパンの付加物(XDIアダクト体)(モル比で3:1)、TDIとHDIとの付加物(モル比で3:2)、IPDIとトリメチロールプロパンの付加物(IPDIアダクト体)、HDIのビュレット体、HDIのイソシアヌレート体、IPDIのビュレット体、IPDIのイソシアヌレート体等の脂肪族系、脂環族系、芳香族系のポリイソシアネート化合物が挙げられ、これらは単独又は二種以上を混合して用いることができる。これらの中で塗膜物性面から、HDIまたはIPDIの、ビュレット体、アダクト体またはイソシアヌレート体を単独または二種以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0027】
主剤(a)中のポリエステル樹脂およびアクリル樹脂に含まれる水酸基と硬化剤(b)中のポリイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基の比率は、水酸基/イソシアネート基の当量比で、好ましくは1.0/0.5〜1.0/1.5である。上記範囲外では塗膜にした場合の硬化性が低下する。
【0028】
ビヒクル(ポリエステル樹脂+アクリル樹脂+ポリイソシアネート化合物)と顔料の比率は、ビヒクル/顔料の質量比で、好ましくは80/20〜30/70である。上記範囲外では塗膜にした場合の外観が低下する。
【0029】
本発明の中塗り塗料組成物には、必要に応じて硬化触媒を加えることができる。硬化触媒としてはオクチル酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、テトラブチル錫、ジブチル錫オキシド等の錫触媒が挙げられる。硬化触媒の添加量は塗料固形分に対して、好ましくは0〜0.5質量%、より好ましくは0.01〜0.3質量%である。
【0030】
本発明の中塗り塗料組成物には、その他必要に応じて、粘性制御剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤等の塗料用に用いられる公知の添加剤を加えることができる。
【0031】
本発明の中塗り塗料組成物は、上記構成成分を、通常、溶剤に溶解又は分散した態様で提供される。溶剤としては、ビヒクルを溶解又は分散するものであればよく、塗料分野において通常用いられる有機溶剤を挙げることができる。例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ等のエステル類、アルコール類を例示することができる。
【0032】
本発明の中塗り塗料組成物の使用の際には、必要に応じて、塗装器具や塗装目的に合わせて主剤(a)や硬化剤(b)にそれぞれ溶剤を添加して粘度調整を行い、その後主剤(a)と硬化剤(b)を塗装直前に混合して使用することが好ましい。粘度調整は、本願発明の効果を妨げない限り塗料において慣用的に使用されている上記溶剤等を使用することができる。上記の硬化触媒や添加剤の添加方法に関しては本願発明の効果を妨げない限り制限はなく、あらかじめ主剤(a)および/又は硬化剤(b)に添加しておく方法や主剤(a)と硬化剤(b)の混合時に加える方法が挙げられる。
【0033】
本発明品である中塗り塗料組成物は、中塗り塗装、ベース塗装、クリヤー塗装を3コート1ベーク方式のウェット・オン・ウエット法により塗装する工程において好適に用いられる。具体的には、本発明品である中塗り塗料を塗布後にウエット・オン・ウエット方式で水性ベース塗料を塗布し、水性ベース塗料をプレヒートすることで中塗り塗料を硬化させ、その後クリヤー塗料を塗布し、焼付け硬化させることで複層塗膜を形成させる工程であり、本発明品である80℃、10分の加熱条件(プレヒート条件)でゲル分率が95%を上回る、好ましくは96%を上回るような低温・短時間硬化型の中塗り塗料組成物を使用することでこの工程が好適に成立する。本発明品をこの工程で用いることは経済性と高外観性を両立させる上で最も好適である。また、別の態様としては、中塗り塗料塗布後に加熱硬化させる従来の3コート2ベーク方式の塗装工程においても、本発明品は適用可能である。従来の中塗り硬化条件に比べて低温・短時間であるため、より経済的な塗装工程が可能である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお特に断りのない限り、「%」は「質量%」を表し「部」は「質量部」を表す。主な使用原料の略称は次の通りである。
(使用原料)
IPA:イソフタル酸
HHPA:ヘキサヒドロ無水フタル酸
PAN:フタル酸
ADA:アジピン酸
NPG:ネオペンチルグリコール
TMP:トリメチロールプロパン
HPN:ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル
1,6HD:1,6−へキサンジオール
CaE:カージュラーE(シェル社製 バーサティック酸グリシジルエステル)
ε−CL:ε−カプロラクトン
ST:スチレン
EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート
EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
EA:エチルアクリレート
MSD:α−メチルスチレンダイマー
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
FM−1:FM−1(ダイセル社製 HEMAとε−CLとの付加生成物)
MAA:メタクリル酸
DBTL:ジブチル錫ジラウレート
CAB:セルロースアセテートブチレート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
IPDI:イソホロンジイソシアネート
スミジュールN−3200:(住友バイエルウレタン(株)製 HDIビュレット体)
デスモジュールZ4370:(住友バイエルウレタン(株)製 IPDIイソシアヌレート体)
デュラネートD101:(旭化成工業(株)製 HDIアダクト体)
【0035】
(ポリエステル樹脂の合成)
合成例1
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lの反応容器に表1のポリエステル樹脂1の欄に示す成分を仕込み、昇温した。反応により生成する水をキシレンと共沸させて除去した。還流開始より約2時間をかけて温度を190℃にし、カルボン酸相当の酸価が8になるまで撹拌と脱水を継続し、反応を終了した。さらにキシレン16部を加えた。得られたポリエステル樹脂は数平均分子量1500であり、不揮発分は80%であった。
【0036】
【表1】

【0037】
合成例2、3
表1のポリエステル樹脂2または3の欄に示す成分および特数値に変更した以外は、合成例1と同様の方法でポリエステル樹脂2または3を合成した。
【0038】
(アクリル樹脂の合成)
合成例4
窒素導入管、撹拌機、温度調節機、滴下ロート及びデカンターを備えた冷却管を取り付けた1Lの反応容器にキシレン80部、酢酸ブチル20部及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート4部を仕込み、温度を120℃にした。次に、表2のアクリル樹脂1の欄に示す成分を滴下ロートに仕込みモノマー溶液とした。反応容器内を120℃に保持しながら3時間かけてこのモノマー溶液を滴下した。滴下後さらに1時間120℃で保持した。数平均分子量3000のアクリル樹脂1を得た。
【0039】
【表2】

【0040】
合成例5、6
表2のアクリル樹脂2または3の欄に示す成分及び特数値に変更した以外は、合成例4と同様の方法でアクリル樹脂2または3を合成した。
【0041】
(中塗り塗膜の形成)
実施例1A
合成例1で得られたポリエステル樹脂1を31.5部、タイペークCR−97(石原産業社製二酸化チタン)19.2部、MA−100(三菱カーボン社製カーボン顔料)4.8部、硫酸バリウムB−34(堺化学工業社製硫酸バリウム)16部を1Lのステンレス容器に仕込み、ペイントコンディショナーを用いて室温で45分間混合分散し、顔料ペーストを得た。得られた顔料ペーストに、合成例4で得られたアクリル樹脂1を31.5部、ジブチル錫ジラウレート(DBTL)0.03部およびセルロースアセテートブチレート(CAB)0.5部を添加し、ラボミキサーでさらに30分間攪拌混合し、主剤(a)を得た。塗装前に、更に、硬化剤(b)であるスミジュールN−3200(住友バイエルウレタン社製HDIビュレット体)37部を添加して、中塗り塗料1を得た。なお、配合量(部)は固形分で表示した。
梨地鋼板を被塗素材とし、常法に従って洗浄リン酸亜鉛処理を行った後、カチオン型電着塗料(日本ペイント(株)製パワートップU−100)を使用して電着塗装し、170℃×20分の条件で乾燥処理し、厚さ15μmの下塗り塗膜を形成した。次いで下塗り塗膜上に、上記中塗り塗料1をトルエン/ソルベッソ100(シェル化学製)/酢酸ブチル=2/6/2(質量比)の希釈シンナーを用いて、塗装粘度(22”/#4FC)に希釈したものを使用し、回転式静電塗装機を用いて、回転数:30000rpm、シェビング・エア圧:2.0Kg/cm2、印加電圧:−90KV、被塗物との距離:30cmの設定条件で中塗り塗装を行った。ついで80℃×10分の条件で加熱処理をして試験材1aを得た。
【0042】
【表3】

【0043】
実施例2A〜7A、比較例1A〜7A
表3に示す成分に変更した以外は、実施例1Aと同様の方法で塗膜を形成し、実施例2A〜7Aから試験材2a〜7aを得た。また、比較例1A〜7Aから試験材8a〜14aを得た。
【0044】
(ゲル分率測定および中塗り塗膜の外観評価)
試験材1a〜14aを用いて、下記の方法によりゲル分率を測定した。
試験材から塗膜をカッター等で剥がし、塗膜質量(A)を測定した。この塗膜を用いてアセトン中還流温度で3時間抽出を行い、乾燥後に再度質量を測定し、抽出後塗膜質量(B)を得た。ゲル分率は下記の式より計算した。
ゲル分率={抽出後塗膜質量(B)/塗膜質量(A)}x100
得られたゲル分率と試験材1a〜14aの外観を表4に示す。なお、外観は以下の基準で塗膜表面を目視で評価した。
○:平滑性良好
△:やや平滑性不良
×:平滑性不良
【0045】
(複層塗膜の形成)
実施例1B
80℃、10分の加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1Aと同様に本発明品である中塗り塗料組成物を塗布した。その後、霧化式静電塗装機を用い、霧化エア圧:3.0Kg/cm2、パターンエア圧:2.0Kg/cm2、パターン幅:30cm、印加電圧:−60KV、被塗物距離:30cmの設定条件で、日本ペイント(株)製水性メタリックベース塗料「アクアレックスAR−2100」(粘度:45"/#4FC)(シルバーメタリック色)を、ウエット・オン・ウエット方式で塗布した。3分後、80℃、10分間のプレヒートを行った。冷却後、ベース塗料上に、回転式静電塗装機を用い、回転数:35000rpm、シェービング・エア圧:1.5Kg/cm2、印加電圧:−90KV、被塗物距離:30cmの設定条件で、日本ペイント(株)製クリヤー塗料「マックフローO−1820」(粘度:22"/#4FC)を塗布した。ついで中塗り塗膜、ベース塗膜、クリヤー塗膜を同時に、140℃×30分の条件で焼付け硬化させ、試験材1bを得た。
なお、塗装ブース内は、温度25℃、相対湿度80%に保持した。また、中塗り塗装とベース塗料による塗装との間隔(インターバル)は5分、ベース塗料とクリヤー塗料による塗装との間に、ベース塗装後、80℃で10分間プレヒートを行った後、クリヤー塗料による塗装を行い、その後7分間のインターバルをとって140℃、30分間の焼付け硬化を行った。中塗り塗膜の乾燥膜厚は30μm、ベース塗膜の乾燥膜厚は15μm、クリヤー塗膜の乾燥膜厚は35μmとした。
【0046】
実施例2B〜7B、比較例1B〜7B
表3に示す成分に変更して中塗り塗膜を形成した以外は、実施例1Bと同様にして複層塗膜を形成し、実施例2B〜7Bから試験材2b〜7bを得た。また、比較例1B〜7Bから試験材8b〜14bを得た。
【0047】
(複層塗膜の外観評価)
試験材1b〜14bの外観を目視で評価し、以下の基準により○、△、×で表した。結果を表5に示す。
○:平滑性に優れ、光沢感がある。
△:平滑性はあるが、やや光沢感が劣る。
×:平滑性及び光沢感が劣る(オレンジピール)。
【0048】
更に、日本色彩研究所製携帯用鮮明度光沢計「PGD IV型」を用いて、複層塗膜の鮮明度光沢度(Gd)値を測定した。Gd値は面に映る像の鮮明性の指標であり、その数値が大きい程、面の鮮明性が高い。結果を表5に示す。
【0049】
表4に示すように、本発明品を用いた実施例においては80℃、10分の加熱条件でゲル分率が95%を上回り、この条件で十分硬化することが示された。また表4および表5に示すように、塗膜外観は中塗り塗料のみの塗膜および中塗り塗料、ベース塗料、クリヤー塗料をウエット・オン・ウエット方式で複層化して形成した塗膜のどちらの状態においても優れていた。一方、比較例においては低温硬化性、中塗り塗料のみの塗膜の外観および複層塗膜の塗膜外観の全てにおいて優れる試験材は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、ウエット・オン・ウエット法で複層化した際の層間の混和を抑制し、低温・短時間で硬化する性質(80℃、10分の加熱条件でゲル分率が95%を上回る)を有する中塗り塗料組成物が提供される。この中塗り塗料組成物は経済性と優れた外観の両立を図る、中塗り塗膜、ベース塗膜、クリヤー塗膜の3コート1ベーク法による塗装工程において好適に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の主剤(a)と硬化剤(b)からなる2液型中塗り塗料組成物。
主剤(a):1分子中に2個以上の末端水酸基を有するポリエステル樹脂、水酸基含有アクリル系モノマーを含むアクリル樹脂、顔料、及びセルロース誘導体を含有し、
前記ポリエステル樹脂は、数平均分子量(Mn)が900〜3000、全酸成分中の芳香族ポリカルボン酸成分及び/又は脂環式ポリカルボン酸成分の割合が80質量%以上であり、前記アクリル樹脂は、数平均分子量(Mn)が2000〜10000、炭素数4以上のアルキル側鎖を有するアクリル系モノマー単位を40〜80質量%含有し、ガラス転移温度(Tg)が30℃以下である;
硬化剤(b):1分子中に2個以上の遊離のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物からなる。

【公開番号】特開2008−74959(P2008−74959A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255702(P2006−255702)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】