説明

中央孔を有するコアの巻線装置及びその巻線方法

【課題】比較的小さな中央孔を有するコアにも自動巻線が可能であって、かつ比較的太いワイヤの自動巻線も可能とする。
【解決手段】巻線装置10は、中央孔9aを有するコア9を保持する保持手段11と、中央孔9aに挿通させたワイヤ8をコア9の周囲近傍に通過させて中央孔9aの入口側に戻すことを繰り返してコア9の周方向にワイヤ8を螺旋状に巻回するワイヤ巻回手段と、コア9の近傍に設けられコア9の周囲近傍に通過させるワイヤ8が挿通可能であって開放端を有するスリットが形成された案内部材とを備える。コアの巻線方法は、コア9の周囲近傍に通過させるワイヤ8を案内部材におけるスリットに挿通させてその開放端からワイヤ8をコア9に導くことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロイダルコアのように中央に孔を有するコアにワイヤを巻回する巻線装置及びその巻線方法に関する。更に詳しくは、特に比較的小型のコア又は比較的太いワイヤを巻線することに適した中央孔を有するコアの巻線装置及びその巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、中央に孔を有するコア、例えばトロイダルコアのようなものに巻線を施す巻線装置としては、所要の長さのワイヤを糸巻状のシャトル(貯線リング)に貯えた後に、外周部分を保持されたトロイダルコアの中央孔を通してシャトルを旋回させながらコイルを巻き付けてゆく装置(例えば、特許文献1参照。)が知られている。この巻線装置は、トロイダルコアを回動可能に保持するアーム及びコア駆動手段と、予め所要の長さのワイヤを巻き付けておく貯線リングと、貯線リングを回動自在に保持するC字形状の巻線リングと、この巻線リングを回転させる複数の駆動ローラを備えた基板とで構成されている。そして、この装置では、巻線リングの軸に貯線リングを装着し、貯線されたワイヤを巻線リングに設けられたガイド部材の溝を挿通した後に、この貯線リングを巻線リングとともにトロイダルコアの周囲を周回させながら巻き付けるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2670078号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の巻線装置においては、糸巻状の貯線リングをC字形状の巻線リングとともにトロイダルコアの中央孔を通して周回させながら巻き付けてゆかねばならないので、トロイダルコアは貯線リングと巻線リングの断面寸法よりも大きい内径を持ったものに限られることになる。従って、貯線リングが中央孔に挿通不能な比較的小型のトロイダルコアに巻線することはできず、貯線リング方式によるトロイダルコイルの自動巻線をすることには限界があった。
【0005】
また、貯線リング方式による巻線装置では、貯線リングをC字形状の巻線リングの軸に装着し、トロイダルコアを巻線リングの切欠部から挿通し、更に貯線リングのワイヤを巻線リングに設けられたガイド部材の溝を挿通した上で、貯線リングを保持した巻線リングを回転させるので、トロイダルコイルの巻線完了までの工数が多く、巻線に時間がかかり、巻線が終了したトロイダルコイルの単価を押し上げる不具合もあった。
【0006】
また、貯線リング方式による巻線装置では、貯線リングに予め所要の長さのワイヤを巻き付けておくので、そのワイヤが比較的太い場合にはそのワイヤの剛性が高まって貯線リングへの巻き付けが困難になり、その巻き付けた後の外径が大きくなる傾向があった。そして、その貯線リングの外径が大きく成りすぎると、時として巻線が不能になる問題点もあった。
【0007】
更に、貯線リング方式による巻線装置では、巻線リングとともにトロイダルコアの周囲を周回する貯線リングの軌道は、トロイダルコアの中央孔を通過する際に最もそのコアに接近するけれども、その中央孔を通過した後にはコアと所定の距離を空けることになる。このため、その貯線リングから解き放たれるワイヤに加わるテンションは中央孔を通過した後に強くなるけれどもその中央孔に挿通される際には緩まることになる。よって、そのワイヤに加わるテンションはその貯線リングが周回する度に変動し、コアにワイヤを一定のテンションで巻回することが困難になる不具合もあった。
【0008】
本発明の目的は、巻き線にかかる準備時間を減少させるとともに、比較的小さな中央孔を有するコアの自動巻線を可能にし、かつ比較的太いワイヤの自動巻線も可能であって、ワイヤを所定のテンションで巻線し得る中央孔を有するコアの巻線装置及びその巻線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の装置は、中央孔を有するコアを保持する保持手段と、中央孔に挿通させたワイヤをコアの周囲近傍に通過させて中央孔の入口側に戻すことを繰り返してコアの周方向にワイヤを螺旋状に巻回するワイヤ巻回手段と、コアの近傍に設けられコアの周囲近傍に通過させるワイヤが挿通可能であって開放端を有するスリットが形成された案内部材とを備えた中央孔を有するコアの巻線装置である。
【0010】
案内部材が保持手段に設けられる場合には、案内部材にコアを収容する凹部とコアの中央孔に挿通されたワイヤが通過可能な貫通孔が形成され、貫通孔に基端が連続し先端がコアの周囲より外側に達するスリットが案内部材に複数形成されることが好ましい。一方、案内部材が保持手段と別に設けられる場合には、開放端を有するスリットがコアの周囲に沿って移動するように案内部材を移動させる案内部材移動機構を備えることが好ましい。
【0011】
ワイヤ巻回手段は、ワイヤの遊端部を把持してコアの中央孔に挿通させ又はコアの周囲近傍に通過させるワイヤ把持挿通通過手段と、中央孔に挿通され又はコアの周囲近傍に通過されたワイヤの遊端部を把持して引き延ばすワイヤ把持引き延ばし手段と、ワイヤ把持引き延ばし手段により引き延ばされたワイヤの遊端部を反転させる反転機構とを備え、ワイヤ把持挿通通過手段は反転されたワイヤの遊端部を中央孔に挿通させ又はコアの周囲近傍に通過させるように構成することができる。
【0012】
一方、ワイヤ巻回手段は、コアの中央孔に挿通されたワイヤの遊端部を把持して引き延ばしかつ遊端部を反転させてコアの周囲近傍に通過させるワイヤ把持引き延ばし通過手段と、コアの周囲近傍に通過されたワイヤの遊端部を把持して引き延ばしかつ遊端部を反転させて中央孔に挿通させるワイヤ把持引き延ばし挿通手段とを備えるものであっても良い。
【0013】
本発明の方法は、中央孔を有するコアの中央孔に挿通させたワイヤをコアの周囲近傍に通過させて中央孔の入口側に戻すことを繰り返してコアの周方向にワイヤを螺旋状に巻回する中央孔を有するコアの巻線方法である。
【0014】
その特徴ある点は、開放端を有するスリットが形成された案内部材をコアの近傍に設け、コアの周囲近傍に通過させるワイヤをスリットに挿通させて開放端からワイヤをコアに導くところにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコアの巻線装置及びその巻線方法では、中央孔に挿通させたワイヤをコアの周囲近傍に通過させて中央孔の入口側に戻すことを繰り返してコアの周方向にワイヤを螺旋状に巻回するので、従来技術で必要とする貯線リングのようなものを用いない。このため、従来必要とされた予めワイヤを貯線リングに巻取る作業や、その貯線リングをC字形状の巻線リングの軸に装着するような巻線のための準備作業が不要になる。よって、巻線の準備時間は減少し、その準備段階から巻線終了までの余分な工数を従来より減少させることにより巻線効率を従来より上げることが可能となる。
【0016】
また、本発明のコアの巻線装置及びその巻線方法では、従来技術で必要な貯線リングのようなものを用いることなく、ワイヤを中央孔に挿通させ又はコアの周囲近傍に通過させるので、コアの中央孔はそのワイヤが挿通可能であれば足りる。このため、従来不能であった貯線リングが中央孔に挿通不能な比較的小型のコアの自動巻線が可能になる。そして、コアの周囲近傍に通過させるワイヤを案内部材のスリットに挿通させて開放端からそのワイヤをコアに導くことにより、コアの周囲の所望の位置にそのワイヤを巻回することができ、ワイヤの偏り等を防止してワイヤが均等に巻回されたいわゆる整列巻きされたコイルを得ることができる。
【0017】
一方、そのワイヤが比較的太くその剛性が比較的高いようなものであっても、案内部材移動機構によりスリットの開放端がコアの周囲に沿って移動するように案内部材を移動させることにより、スリットの開放端からスリットの挿通されたワイヤをコアの所望の場所に導くことができる。よって、比較的太いワイヤであってもコアの所望の位置にそのワイヤを導いて、その太いワイヤを自動巻線することもできる。
【0018】
そして、ワイヤ巻回手段が中央孔に挿通され又はコアの周囲近傍に通過されたワイヤの遊端部を把持して引き延ばすワイヤ把持引き延ばし手段を備えるようであれば、そのワイヤ把持引き延ばし手段が中央孔に挿通され又はコアの周囲近傍に通過されたワイヤの遊端部を把持して所定のテンションで引き延ばすことにより、中央孔にワイヤ挿通され又はコアの周囲近傍に通過される度にワイヤに所定のテンションを加えることができる。よって、コアにワイヤを所定のテンションで緩むことなく巻線することができ、そのコイルの小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明実施形態の巻線装置を示す正面図である。
【図2】その保持手段を示す図1のA−A線断面図である。
【図3】その図2における保持手段を裏側から見た図である。
【図4】その案内部材の正面図である。
【図5】図4のC−C線断面図である。
【図6】その案内部材の裏面図である。
【図7】図3のB−B線断面図である。
【図8】そのワイヤ把持機構を示す図1のD−D線断面図である。
【図9】そのワイヤ把持機構が上昇した状態を示す図8に対応する断面図である。
【図10】そのワイヤ把持機構の上面図である。
【図11】そのワイヤ把持機構の内部構造を示す断面図である。
【図12】その通過ワイヤ把持引き延ばし機構を示す図1のE−E線断面図である。
【図13】その挿通ワイヤ把持引き延ばし機構を示す図1のF−F線断面図である。
【図14】最初のワイヤ通過工程からそのワイヤを把持して引き延ばすまでを示す説明図である。
【図15】そのワイヤを反転させてコアの中央孔に挿通するまでを示す説明図である。
【図16】その挿通されたワイヤを引き延ばして反転させ更にコアの周囲に通過させるまでを示す説明図である。
【図17】その通過したワイヤを引き延ばして反転させコアの中央孔に挿通し更に引き延ばすまでを示す説明図である。
【図18】その案内部材を回転させて他のスリットを第3舌片の第3案内孔に対向させた状態を示す図3の拡大図に対応する図である。
【図19】コアにワイヤが巻回されて得られたコイルの斜視図である。
【図20】本発明の別の案内部材を示す図2に対応する図である。
【図21】本発明のさらに別の案内部材を示す図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
本発明の巻線装置は、例えば図19に示すように、トロイダルコア9のように中央孔9aを有するコア9にワイヤ8を巻回してコイル7を得るものである。図1に示すように、本発明の巻線装置10は、基台10a上に立設された基板10bに設けられ、そのような中央孔9aを有するコア9を保持する保持手段11と、中央孔9aに挿通させたワイヤ 8をコア9の周囲近傍に通過させて中央孔9aの入口側に戻すことを繰り返してコア9の周方向にワイヤ8を螺旋状に巻回するワイヤ巻回手段40,70とを備える。ワイヤ8は、この実施の形態では、表面に絶縁皮膜が形成された断面円形の丸線が用いられる場合を説明するけれども、このワイヤ8は丸線に限らず、コイル7の仕様或いは製作工程に応じて、断面方形のいわゆる角線を用いても良く、このような丸線又は角線を複数本束にした複線やその束を撚ったリッツ線のようなものであっても良い。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平前後方向、Y軸が水平横方向、Z軸が垂直方向に延びるものとして本発明の巻線装置10について説明する。
【0022】
図2に示すように、保持手段11は、コア9(図5)を収容可能な複数の案内部材12と、その複数の案内部材12を支持する支持部材21とを備える。この実施の形態では、4個の案内部材12がX軸方向に同一のピッチで設けられる場合を示す。それぞれの案内部材12は同一構造であり、図4〜図6に示すように、この案内部材12は、外歯平歯車13とその平歯車13に同軸に重合して固定された円環状のプーリ14とからなる。平歯車13の一方の面の中央には座繰り加工することによりコア9を収容可能な凹部13aが形成され、この凹部13aにはコア9の中央孔9aに挿通されたワイヤ8が通過可能な貫通孔13bが形成される。凹部13aは平歯車13の軸心と同軸であってその内径がコア9の外径より僅かに大きく形成され、貫通孔13bはその凹部13aと同軸に形成される。また、案内部材12を構成する平歯車13には、貫通孔13bに開放端である基端が連続し先端がコア9の周囲より外側に達するスリット13c,13dが放射状に複数形成される。この複数の放射スリット13c,13dは、先端が凹部13aを超えてその周囲にまで延びてコア9の周囲近傍に通過させるワイヤ8を挿通可能に形成され、複数の放射スリット13c,13dの先端にはその放射スリット13c,13dの幅より大きな内径を有する断面円形状の孔13eがそれぞれ形成される。
【0023】
案内部材12における複数の放射スリット13c,13dは、その内の1つの放射スリット13cを除き、貫通孔13bからその先端における孔13eまでが全て等しく形成され、その内の1つの放射スリット13cは他の複数の放射スリット13dより長く形成される。円環状のプーリ14は平歯車13より外径が小径であってその平歯車13の他方の面に重ね合わされ、その一部が切り欠かれてC字状を成すように形成される。このプーリ14は内径が複数の放射スリット13dのそれぞれの先端における孔13eが描く円よりも大きく形成され、他の複数の放射スリット13dより長く形成された単一の放射スリット13cの先端における孔13eがプーリ14に形成された切り欠き14aの間に位置するようにプーリ14が平歯車13に重ね合わされる。そして平歯車13とプーリ14は小ねじ16を用いてねじ止めされ、平歯車13とプーリ14からなる案内部材12が作られる。
【0024】
図2に戻って、複数の案内部材12を支持する支持部材21は、基台10a(図1)にZ軸方向に立設された基板10bに水平方向に延びて設けられた本体22と、蓋板23と、及び本体22の両側に設けられた第1及び第2スライド板26,27とを備える。図7に示すように、本体22には案内部材12を回転可能に収容する段付き孔22aが形成され、その小径孔22bは案内部材12における平歯車13より小さな内径であってプーリ14より僅かに大きく形成される。段付き孔22aの大径孔22cは平歯車13の外径より僅かに大きく形成され、この段付き孔22aに案内部材12を収容すると平歯車13が大径孔22cに挿入されプーリ14が小径孔22bに挿入されるように構成される。そして、段付き孔22aに収容された案内部材12における平歯車13は本体22の一方の面と略面一となり、プーリ14は本体22の他方の面と略面一になるように構成される。なお、図3に示すように、小径孔22bは、後述する第2舌片27aの移動に伴うワイヤ8を収容するために、その一部がX軸方向に延びて卵状を成すように形成される。
【0025】
図2に示すように、蓋板23は本体22の一方の面に重合して平歯車13の下側外周を封止して、その案内部材12が段付き孔22aから離脱することを防止可能に構成される。第1スライド板26は本体22の一方の面に重合して平歯車13の上側外周を封止し、本体22に沿ってX軸方向に移動可能に本体22に取付けられる。この第1スライド板26には案内部材12における凹部13a(図7)を覆う第1舌片26aが形成され、第1スライド板26はX軸方向に移動してその第1舌片26aが凹部13aを覆い、その凹部13aに収容されたコア9の離脱を防止する図14(b)に示す封止位置と、その第1舌片26aがX軸方向に移動して開放された凹部13aにコア9を収容し、かつその凹部13aに収容されたコア9の取り出しを可能とする図14(a)で示す開放位置とを移動可能に構成される。そして、図2及び図7に示すように、その第1舌片26aには、その第1舌片26aが凹部13aを封止した状態でその凹部13aに収容されたコア9の中央孔9aに向かって先細りとなる漏斗状の第1案内孔26bと、その第1案内孔26bとX軸方向に延びてその方向に存在する放射スリット13c,13dとを連通させる第1連通スリット26cが形成される。なお、第1スライド板26は第1シリンダ28により移動可能に構成され、その第1シリンダ28は本体22の突出端に設けられる。
【0026】
図3に示すように、第2スライド板27は本体22の他方の面に重合して案内部材12におけるプーリ14の下側においてX軸方向に移動可能に本体22に取付けられる。この第2スライド板27には案内部材12における貫通孔13bと同一高さに位置する第2及び第3舌片27a,27bが形成され、その第2及び第3舌片27a,27bには、それらの舌片27a,27bが対向する放射スリット13c,13dの先端における孔13eに向かって先細りとなる漏斗状の第2及び第3案内孔27c,27dが形成される(図7)。第2スライド板27は、案内部材12における単一の比較的長い放射スリット13cがX軸方向に位置する場合に、第2舌片27aにおける第2案内孔27cがその放射スリット13c先端における孔13eに対向する図14に示す巻き出し位置と、複数の短い放射スリット13dのいずれかがX軸方向に位置する場合に、第3舌片27bにおける第3案内孔27dがその放射スリット13dの先端における孔13eに対向する図16(c)に示す巻回位置とを移動可能に構成される。そして、第3舌片27bには、第3案内孔27dとその第3案内孔27dに対向する孔13eに連続する放射スリット13dとを連通させる第2連通スリット27eが形成される。なお、第2スライド板27は第2シリンダ29により移動可能に構成され、その第2シリンダ29は本体22の突出端であって第1シリンダ28に並んで設けられる。
【0027】
図2に戻って、支持部材21には複数の案内部材12をその中心軸を回転中心として回転させる回転機構31が備えられる。この回転機構31は本体22にX軸方向に移動可能に設けられたラックギヤ32と、そのラックギヤ32をX軸方向に移動させるサーボモータ33をと備える。支持部材21の本体22にはラックギヤ32をX軸方向に移動可能に収容する凹溝22dが形成され、このラックギヤ32は案内部材12における平歯車13が歯合した状態でその凹溝22dに収容される。蓋板23はこのラックギヤ32を覆いそのラックギヤ32が凹溝22dから離脱することを防止するように構成される。サーボモータ33は本体22の基板10b側に設けられ、その回転軸33aにラックギヤ32に歯合する歯車34が取付けられる。そして、サーボモータ33が駆動して回転軸33aを回転させると歯車34が回転することによりラックギヤ32が移動し、このラックギヤ32に歯合する複数の案内部材12はそれぞれ同一方向に回転可能に構成される。
【0028】
図1に戻って、この実施の形態におけるワイヤ巻回手段は、ワイヤ8の遊端部を把持してコア9の中央孔9aに挿通させ又はそのコア9の周囲近傍に通過させるワイヤ把持挿通通過手段40と、コア9の中央孔9aに挿通され又はそのコア9の周囲近傍に通過されたワイヤ8の遊端部を把持して引き延ばすワイヤ把持引き延ばし手段70とを備える。
【0029】
図1に示すワイヤ把持挿通通過手段40は、ワイヤ8の遊端部を把持してコア9の中央孔9aに挿通させ又はその遊端部をコア9の周囲近傍に通過させるものであり、この実施の形態では、ワイヤ把持挿通機構50とワイヤ把持通過機構60とを有する。ワイヤ把持挿通機構50とワイヤ把持通過機構60は上側移動台41に取付けられ、この上側移動台41は上側移動装置42を介して基台10a上に立設された基板10bに取付けられる。この上側移動装置42は、X軸及びY軸方向伸縮アクチュエータ43,44の組み合わせにより構成される。この実施の形態におけるこれらの伸縮アクチュエータ43,44は、サーボモータ43a,44aによって回動駆動されるボールネジ43b,44bと、このボールネジ43b,44bに螺合して平行移動する従動子43c,44c等によって構成される。
【0030】
即ち、上側移動装置42は、上側移動台41をY軸方向に移動可能にY軸方向伸縮アクチュエータ44の従動子44cに取付け、そのY軸方向伸縮アクチュエータ44をX方向に移動可能にX軸方向伸縮アクチュエータ43の従動子43cに取付け、そのX軸方向伸縮アクチュエータ32を基板10bに取付けることにより作られる。ここで、図1の符号10cは基板10bの上端に設けられた天板10cであって、符号46はY軸方向伸縮アクチュエータ44をX方向に移動可能に支持する上ガイドレール46である。そして、それらの各伸縮アクチュエータ43,44におけるX軸サーボモータ43a(図8)及びY軸サーボモータ44aは、この上側移動装置42を制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。そして、上側移動装置42はコントローラからの指令により、上側移動台41を基板10bに固定された保持手段11に対してX軸とY軸の2軸方向に任意に移動可能に構成される。
【0031】
上側移動台41に取付けられたワイヤ把持挿通機構50とワイヤ把持通過機構60はそれぞれ対象構造であり、その内のワイヤ把持通過機構60を代表して説明すると、図8〜図11に示すように、この機構60は上側移動台41に固定された台座61と、その台座61にレール62(図10)を介して上下動可能に取付けら取付け台63と、その取付け台63を台座61に対して上下動させる昇降シリンダ64と、その取付け台63にZ軸方向に延びる中心軸を中心として回転可能にかつ軸方向に移動不能に取付けられた複数のエアチャック66とを備える。図8及び図9に示すように、台座61には昇降シリンダ64によりX軸方向に移動可能な駆動板64aが設けられ、その駆動板64aには中間傾斜部を有する緩やかなS字状の長孔64bが形成され、取付け台63にはその長孔64bに挿入されるピン63aが設けられる。そして、昇降シリンダ64は駆動板64aを移動可能に構成され、駆動板64aが移動するとピン63aは長孔64bの内部でその長孔64bのX軸方向の端部から端部まで移動可能に構成される。昇降シリンダ64は通常状態で取付け台63が図8に示す下降状態となるように駆動板64aを位置させるけれども、その昇降シリンダ64が駆動板64aを図9の一点鎖線矢印で示すように移動させると、長孔64bの傾斜部をピン63aが通過する際に取付け台63がエアチャック66とともに図9の二点鎖線矢印で示すように移動して、図9に示す上昇状態になるように構成される。
【0032】
エアチャック66は、圧縮空気の供給及び排出に応じて一対の爪66a,66bが開閉してワイヤ8の遊端部を開放可能に把持するものであり、その一対の爪66a,66bはその中心軸から偏倚して設けられる。エアチャック66は巻線されるコア9の数、即ち案内部材12の数に対応して設けられ、4個の案内部材12が用いられるこの実施の形態では、4本のエアチャック66がX軸方向に並んで案内部材12のピッチと同一のピッチで取付け台63に設けられる。
【0033】
ワイヤ把持通過機構60には、ワイヤ8の遊端部を把持したエアチャック66を回転させることによりその遊端部を反転させる反転機構67が設けられる。このエアチャック66を回転させる反転機構67は、回転可能な駆動源であるサーボモータ67aを備え、このサーボモータ67aは補助板67bを介して取付け台63に固定される。サーボモータ67aの回転軸には駆動プーリ67cが取付けられ、この駆動プーリ67cと4本のエアチャック66にはベルト67dが掛け回される。このため、サーボモータ67a駆動すると駆動プーリ67cが回転してベルト67dが循環し、そのベルト67dが掛け回された4本のエアチャック66はそれぞれ同一方向に中心軸を中心として回転するよう構成される。ここで、図における符号67eは、ベルト67dの張力を一定にするための補助プーリである。
【0034】
図1に戻って、このように構成されたワイヤ把持通過機構60は、エアチャック66がワイヤ8の遊端部を把持して上側移動装置42により図1の右側における他方から左方向の一方に向かって保持手段11に接近するように移動し、第2又は第3案内孔27c,27d(図7)を介してその遊端部をコア9の周囲近傍に通過させるように構成される。一方、このワイヤ把持通過機構60と対象構造を有するワイヤ把持挿通機構50は、そのエアチャック56がワイヤ8の遊端部を把持し、その反転機構57によりエアチャック56を回転させることによりその遊端部を反転させ、その後上側移動装置42により図1の左側における一方から右方向の他方に向かってワイヤ把持挿通機構50が移動し、これにより遊端部を把持するエアチャック56が保持手段11に接近して第1案内孔26b(図7)を介してその遊端部をコア9の中央孔9aに挿通させるように構成される。
【0035】
ワイヤ把持引き延ばし手段70は、コア9の中央孔9aに挿通され又はそのコア9の周囲近傍に通過されたワイヤ8の遊端部を把持して引き延ばすものであり、この実施の形態では、挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80と通過ワイヤ把持引き延ばし機構90とを有する。挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80と通過ワイヤ把持引き延ばし機構90は下側移動台71に取付けられ、この下側移動台71は下側移動装置72を介して基台10a上に立設された基板10bに取付けられる。この下側移動装置72は、X軸及びY軸方向伸縮アクチュエータ73,74の組み合わせにより構成される。この実施の形態におけるこれらの伸縮アクチュエータ73,74は、サーボモータ73a,74aによって回動駆動されるボールネジ73b,74bと、このボールネジ73b,74bに螺合して平行移動する従動子73c,74c等によって構成される。
【0036】
即ち、下側移動装置72は、下側移動台71をY軸方向に移動可能にY軸方向伸縮アクチュエータ74の従動子74cに取付け、そのY軸方向伸縮アクチュエータ74をX方向に移動可能にX軸方向伸縮アクチュエータ73の従動子73cに取付け、そのX軸方向伸縮アクチュエータ73を基板10bに取付けることにより作られる。ここで、図1の符号10dは基台10a上に設けられた底板10dであって、符号76はY軸方向伸縮アクチュエータ74をX方向に移動可能に支持する下ガイドレール76である。そして、それらの各伸縮アクチュエータにおけるX軸サーボモータ73a(図12及び図13)及びY軸サーボモータ74aは、この移動装置72を制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。そして、下側移動装置72はコントローラからの指令により、下側移動台71を基板10bに固定された保持手段11に対して2軸方向に任意に移動可能に構成される。
【0037】
下側移動台71に取付けられた挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80と通過ワイヤ把持引き延ばし機構90は、その把持方向を除きそれぞれ対象構造に構成される。即ち、挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80は、図12に示すように、巻線されるコア9の数、即ち案内部材12の数に対応して下移動台71に設けられ上端に一方の把持片81aが形成された縦把持部材81と、その縦把持部材81に上下動可能に取付けられ上端に一方の把持片81aとともにワイヤ8を把持可能な他方の把持片82aが形成された上下動部材82と、把持部材81に揺動可能に一端が枢支され中間に上下動部材82が枢支されて揺動することにより上下動部材を82を上下動可能に構成された揺動部材83と、その揺動部材83の他端に上端が枢支されて下移動台71に上下動可能に取付けられ上下動することにより揺動部材83をその一端を中心として揺動可能に構成された操作軸84と、下移動台71に設けられその出没軸86aを出没させることにより操作軸84を上下動させるエアシリンダ86とを有する。そして、そのシリンダ86は出没軸86aを出没させることにより操作軸84を介して揺動部材83を揺動させ、これにより上下動部材を82を上下動させてワイヤ8を一方の把持片81aと他方の把持片82aによりZ軸方向上下から挟んでそのワイヤ8を把持可能に構成される。なお、図12中符号87は、操作軸84を下移動台71に没入させる方向に付勢するコイルスプリング87である。また、ワイヤ8の遊端部を把持する一方の把持片81aと他方の把持片82aは、それぞれ凹凸の比較的少ないサファイヤガラス又は板状のセラミックスより構成され、把持した状態でワイヤ8の移動を禁止するけれども、そのワイヤ8が所定の力以上で引っ張られた場合にワイヤの移動を許容し、そのワイヤ8が引っ張られて切断されることを防止するとともに、ワイヤ8の断面径に応じた適正なテンションをかけられるように構成される。
【0038】
一方、通過ワイヤ把持引き延ばし機構90は、図13に示すように、巻線されるコア9の数、即ち案内部材12の数に対応して下移動台71に設けられ上端に一方の把持片91aが形成された横把持部材91と、その横把持部材91にX軸方向に移動可能に取付けられて一方の把持片91aとともにワイヤ8を把持可能な他方の把持片92aが一端に形成されたスライド部材92と、そのスライド部材92の他端に側縁を係止した状態で下移動台71に上下動可能に取付けられ上下動することによりスライド部材92をX軸方向に移動可能に構成された操作軸94と、下移動台71に設けられその出没軸96aを出没させることにより操作軸94を上下動させるエアシリンダ96とを有する。そして、シリンダ96は出没軸96aを出没させることにより操作軸94を介してスライド部材92をX軸方向に移動させ、これによりワイヤ8を一方の把持片91aと他方の把持片92aによりX軸方向両側から挟んでそのワイヤ8を把持可能に構成される。なお、図13中符号97は、操作軸94を下移動台71に没入させる方向に付勢するコイルスプリング97である。また、ワイヤ8の遊端部を把持する一方の把持片91aと他方の把持片92aは、それぞれ凹凸の比較的少ないサファイヤガラス又は板状のセラミックスより構成され、把持した状態でワイヤ8の移動を禁止するけれども、そのワイヤ8が所定の力以上で引っ張られた場合にワイヤの移動を許容し、そのワイヤ8が引っ張られて切断されることを防止するとともに、ワイヤ8の断面径に応じた適正なテンションをかけられるように構成される。
【0039】
図1に戻って、図の右方向である基台10aの端部には、外部から供給されるワイヤ8を開放可能に把持するワイヤ供給部101が設けられる。ワイヤ8は図示しないリールに巻回され、このリールがワイヤ8の供給源となり、この図示しないリールは巻線装置10と別な場所の例えばY軸方向の床の上等に置かれる。ワイヤ供給部101は、そのワイヤ8を通過させるダイス101aと、ダイス101aを通過したワイヤ8を図示しないフェルトを介して所定の圧力で挟む挟持部101bとを有する。そして、この供給部101は、ダイス101aを通過させることにより供給源であるリールから繰り出されたワイヤ8の癖を取って真直ぐに伸ばすとともに、挟持部101bによりサファイヤガラス又は板状のセラミックスを介して所定の圧力で挟むことにより、通常はワイヤ8の移動を禁止するけれども、ワイヤ把持引き延ばし手段70等によりワイヤ8が所定の力以上で引っ張られた場合にワイヤの移動を許容し、そのワイヤ8が引っ張られて切断されることを防止するように構成される。そして、そのワイヤ8を把持するワイヤ把持挿通通過手段40における一対の爪56a,56b,66a,66b、並びにワイヤ把持引き延ばし手段における一方の把持片81a,91aと他方の把持片82a,92aはY軸方向の直線上に位置するように構成される。
【0040】
また、図示しないが、この巻線装置10には、案内部材12の凹部13aにコア9を挿入しかつ巻線が完了したコア9を取出すコア挿脱機と、ワイヤ供給部101を通過してコア9に巻線が完了した時点でそのワイヤ8を切断し、ワイヤ把持挿通通過手段40がワイヤ供給部101側における遊端部を把持するまで、その切断されたワイヤ8のワイヤ供給部101側における遊端部をその場に留めおくカッタ把持機構が設けられる。
【0041】
次に、このような巻線装置を用いた本発明の巻線方法について説明する。
【0042】
本発明の巻線方法は、コア9の中央孔9aに挿通させたワイヤ8をコア9の周囲近傍に通過させて中央孔9aの入口側に戻すことを繰り返してコア9の周方向にワイヤ8を螺旋状に巻回する方法である。ワイヤ巻回手段がワイヤ把持挿通通過手段40とワイヤ把持引き延ばし手段70とを備えるので、この方法は、中央孔9aを有するコア9の中央孔9aに一方から他方に向かって挿通されたワイヤ8の遊端部を把持して他方に向かって引き延ばす挿通ワイヤ把持引き延ばし工程と、その挿通ワイヤ把持引き延ばし工程により引き延ばされたワイヤ8の遊端部を反転させた後にその遊端部をコア9の周囲近傍に他方から一方に向かって通過させるワイヤ把持通過工程と、コア9の周囲近傍に他方から一方に向かって通過したワイヤ8の遊端部を把持して一方に向かって引き延ばす通過ワイヤ把持引き延ばし工程と、通過ワイヤ把持引き延ばし工程により引き延ばされたワイヤ8の遊端部を反転させた後にその遊端部を中央孔9aに一方から他方に向かって挿通させるワイヤ把持挿通工程とに分けることができ、これらの工程を繰り返すことになる。以下に、これらの各工程を説明する。
【0043】
<第1ワイヤ把持通過工程>
この工程では、最初にワイヤ8の遊端部を把持してその遊端部をコア9の周囲近傍に他方から一方に向かって通過させる。従って、その前提としてコアが保持手段11により保持されていることが要件とされる。このコアの保持は、図14(a)に示すように、第1スライド板26(図2)をX軸方向に移動してその第1舌片26aが案内部材13における凹部13aを開放する開放位置とし、その状態で凹部13aにコア9を収容する。その後、第1スライド板26(図2)を逆方向に移動してその第1舌片26aにより凹部13aを封止し、図14(b)に示すように、その凹部13aに収容されたコア9の離脱を防止する。
【0044】
案内部材12は、図14(b)に示すように、その単一の比較的長い放射スリット13cをX軸方向に位置させ、第2スライド板27(図3)を巻き出し位置にしてその第2舌片27aにおける第2案内孔27cをその放射スリット13c先端における孔13eに対向させる。
【0045】
一方、ワイヤ8は、その遊端部を供給部101のダイス101aに貫通させた後その挟持部101bを通過させ、ワイヤ把持通過機構60におけるエアチャック66にその遊端部8aを把持させる。この把持に際しては、作業員が直接把持させても良く、図示しないカッタ把持機構によりワイヤの遊端部8aを把持させ、その状態の遊端部8aをエアチャック66により把持させても良い。
【0046】
図14(a)に示すように、ワイヤ把持通過機構60のエアチャック66にワイヤ8の遊端部8aを把持させた後には、上側移動装置42(図1)により図1の右側における他方から左方向の一方に向かって保持手段11に接近するようにそのワイヤ把持通過機構60を移動させ、図14(b)に示すように、第2案内孔27cを介してその遊端部8aをコア9の周囲近傍に位置する放射スリット13c先端における孔13eに通過させる。このとき、ワイヤ把持通過機構60における取付け台63は、図8に示す下降状態においてエアチャック66におけるワイヤの把持及び遊端部8aの通過を行う。
【0047】
<第1通過ワイヤ把持引き延ばし工程>
この工程では、コア9の周囲近傍に他方から一方に向かって通過したワイヤ8の遊端部8aを把持して一方に向かって引き延ばす。具体的には、放射スリット13c先端における孔13eを通過したワイヤ8の遊端部8aを、通過ワイヤ把持引き延ばし機構90における一方の把持片91aと他方の把持片92aにより挟み、その遊端部8aを挟んだ状態で下側移動装置72(図1)により図1の右側における他方から左方向の一方に向かって保持手段11から遠ざかるようにその通過ワイヤ把持引き延ばし機構90を移動させ、図14(c)に示すように、孔13eを通過したワイヤ8を引き延ばす。通過ワイヤ把持引き延ばし機構90の移動量、即ちワイヤ8の引き延ばし量は、得ようとするコイル7におけるワイヤ8の全長又はそれより僅かに長い量であり、図示しないコントローラによりその移動量は制御される。
【0048】
また、通過ワイヤ把持引き延ばし機構90の移動に先だって、ワイヤ把持通過機構60のエアチャック66によるワイヤ8の把持を、一対の爪66a,66bを開くことにより解消させる。その解消時に、ワイヤ把持通過機構60における取付け台63を図9に示す上昇状態として一対の爪66a,66bが開いたエアチャック66を上昇させ、その一対の爪66a,66bの間からワイヤ8を確実に外すとともに、その一対の爪66a,66bが、そのワイヤ把持通過機構60と入れ替わる挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80における把持片81a,82aと干渉することを防止する。
【0049】
<第1ワイヤ把持挿通工程>
この工程では、図15に示すように、上記通過ワイヤ把持引き延ばし工程により引き延ばされたワイヤ8の遊端部8aを反転させ、その後、その遊端部8aをコア9の中央孔9aに一方から他方に向かって挿通させる。具体的には、図15(a)に示すように、先ず上記工程により引き延ばされたワイヤ8の遊端部8aをワイヤ把持挿通機構50におけるエアチャック56にその遊端部8aを把持させる。その後、通過ワイヤ把持引き延ばし機構90における一方の把持片91aと他方の把持片92aによる遊端部8aの把持を解消させるけれども、ワイヤ8の遊端部8aを把持する一方の把持片91aと他方の把持片92aは、それぞれ凹凸の比較的少ないサファイヤガラス又は板状のセラミックスより構成されているので、遊端部8aを把持した状態で図15(a)の一点鎖線矢印で示すようにそれらをワイヤ8の軸方向に真直ぐに移動させてその先端縁から取り外すことによりその遊端部8aをしごいて、エアチャック56に把持された部分より先の遊端部8aを真直ぐにする。
【0050】
その後、ワイヤ把持挿通機構50に設けられた反転機構57(図1)によりワイヤ8の遊端部8aを把持したエアチャック56を回転させ、図15(b)に示すように、その遊端部8aを反転させる。この反転に際して、エアチャック56の一対の爪56a,56bをその中心から偏倚して設けているので、その一対の爪56a,56bを保持手段11から遠ざけた状態で遊端部8aを把持させ、その後エアチャック56を回転させることによりその一対の爪56a,56bは保持手段11に近づくことになる。このため、ワイヤ8を引っ張ることなくその遊端部8aを反転させることができる。そして、反転した遊端部8aはその先端縁が案内部材12に臨むことになり、図15(c)に示すように、上側移動装置42(図1)により図1の左側における一方から右方向の他方に向かって保持手段11に接近するようにそのワイヤ把持挿通機構50を移動させ、第1案内孔26bを介してその遊端部8aをコア9の中央孔9aに挿通させる。このとき、ワイヤ把持挿通機構50における取付け台53を下降状態にして、エアチャック56における把持及び遊端部8aの挿通を行う。
【0051】
<第1挿通ワイヤ把持引き延ばし工程>
この工程では、ワイヤ把持挿通機構50のエアチャック56によるワイヤ8の把持を解消し、中央孔9aを有するコア9の中央孔9aに一方から他方に向かって挿通されたワイヤ8の遊端部8aを把持して他方に向かって引き延ばす。具体的に、図15(c)に示すように、コア9の中央孔9aに挿通された遊端部8aは案内部材12における貫通孔13bを通過する。その貫通孔13bを通過したワイヤ8の遊端部8aを、挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80における一方の把持片81aと他方の把持片82aにより挟み、その遊端部8aを挟んだ状態で、下側移動装置72(図1)により図の左側における一方から右方向の他方に向かって保持手段11から遠ざかるようにその挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80を移動させ、図16(a)に示すように、その貫通孔13bを通過したワイヤ8を引き延ばす。
【0052】
このとき、ワイヤ8の遊端部8aを一方の把持片81aと他方の把持片82aにより挟み易いように、第2スライド板27(図3)を移動させて、図15(c)に示すように第3舌片27bにおける第3案内孔27dが複数の短い放射スリット13dの先端における孔13eに対向する巻回位置に移動させる。この状態で貫通孔13bを通過したワイヤ8を引き延ばすと、図16(a)に示すように、第2舌片27aにおける第2案内孔27cを通過したワイヤ8はプーリ14の切り欠き14aを通過した後単一の長いスリット13cを通過し、その後コア9の外周から中央孔9aに挿通されて掛け回される。よって、そのワイヤ8をコア9にしっかりと巻回させることができる。
【0053】
このときの挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80の移動量、即ちワイヤ8の引き延ばし量は、先の第1通過ワイヤ把持引き延ばし工程におけるワイヤ8の引き延ばし量よりそのスリット13cを通過してコア9の外周から中央孔9aに掛け回される量を減じた量であり、図示しないコントローラによりその移動量は制御される。
【0054】
なお、挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80の移動に先だって、ワイヤ把持挿通機構50のエアチャック56によるワイヤ8の把持を解消する。この解消は一対の爪56a,56bを開くことにより行われ、その解消時に、ワイヤ把持挿通機構50における取付け台53を上昇状態としてエアチャック56を上昇させ、開かれた一対の爪56a,56bの間からワイヤ8を確実に外すとともに、その一対の爪56a,56bが、そのワイヤ把持挿通機構50と入れ替わる通過ワイヤ把持引き延ばし機構90における把持片91a,92aと干渉することを防止する。
【0055】
<第2ワイヤ把持通過工程>
この工程では、第1挿通ワイヤ把持引き延ばし工程により引き延ばされたワイヤ8の遊端部8aを反転させ、反転した遊端部8aをコア9の周囲近傍に他方から一方に向かって通過させる。この通過工程に際して、案内部材12を回転させ、図18に示すように、単一の比較的長い放射スリット13c以外の複数の短い放射スリット13dのいずれかをX軸方向に位置させ、第3舌片27bにおける第3案内孔27dをその放射スリット13dの先端における孔13eに対向させる。案内部材12の回転は支持部材21に備えられた回転機構31により行われ(図2)、そのサーボモータ33が駆動することによりラックギヤ32を移動させ、これによりラックギヤ32に歯合する複数の案内部材12を同一方向に回転させる。なお、案内部材12を回転させると、図18に示すように、第2舌片27aにおける第2案内孔27cを通過したワイヤ8はコア9の外周から単一の長いスリット13cを通過し、プーリ14の切り欠き14aからそのプーリ14の外周に掛け回されることになる。
【0056】
遊端部8aの反転はワイヤ把持通過機構60により行われる。即ち、図16(b)に示すように、先ず、上記工程により引き延ばされたワイヤ8の遊端部8aをワイヤ把持通過機構60におけるエアチャック66にその遊端部8aを把持させる。その後、挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80における一方の把持片81aと他方の把持片82aによる遊端部8aの把持を解消させるけれども、ワイヤ8の遊端部8aを把持する一方の把持片81aと他方の把持片82aは、それぞれ凹凸の比較的少ないサファイヤガラス又は板状のセラミックスより構成されているので、遊端部8aを把持した状態で図16(b)の一点鎖線矢印で示すようにそれらをワイヤ8の軸方向に真直ぐに移動させてその先端縁から取り外すことによりその遊端部8aをしごいて、エアチャック66に把持された部分より先の遊端部8aを真直ぐにする。
【0057】
ここで、挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80の一方の把持片81aと他方の把持片82aにおけるワイヤの把持はZ軸方向から行われるものであり、ワイヤ8をX軸方向から把持する一方の把持片91aと他方の把持片92aを有する通過ワイヤ把持引き延ばし機構90と異なる。このため、挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80及び通過ワイヤ把持引き延ばし機構90の双方においてZ軸方向とX軸方向の双方から交互に遊端部8aをしごくことができ、これによりその遊端部8aをY軸方向に延びて常に真直ぐにすることができる。
【0058】
その後、ワイヤ把持通過機構60に設けられた反転機構67によりワイヤ8の遊端部8aを把持したエアチャック66を回転させ、図16(c)に示すように、その遊端部8aを一点鎖線矢印で示すように反転させる。この反転に際して、エアチャック56の一対の爪56a,56bをその中心から偏倚して設けているので、ワイヤ8を引っ張ることなくその遊端部8aを反転させることができる。そして、反転した遊端部8aはその先端縁が案内部材12に臨むことになり、二点鎖線矢印で示すように、その遊端部8aを把持したワイヤ把持通過機構60を、上側移動装置42(図1)により図1の右における他方から左方向の一方に向かって保持手段11に接近するように移動させ、第3案内孔27dを介してコア9の周囲近傍に位置する放射スリット13d先端における孔13eに挿通させる。
【0059】
<第2通過ワイヤ把持引き延ばし工程>
この工程では、コア9の周囲近傍に他方から一方に向かって通過したワイヤ8の遊端部8aを把持して一方に向かって引き延ばす。具体的には、放射スリット13d先端における孔13eを通過したワイヤ8の遊端部8aを、通過ワイヤ把持引き延ばし機構90における一方の把持片91aと他方の把持片92aにより挟み、その遊端部8aを挟んだ状態で下側移動装置72(図1)により図1の左方向の一方に向かって保持手段11から遠ざかるようにその通過ワイヤ把持引き延ばし機構90を移動させ、図17(a)に示すように、孔13eを通過したワイヤ8を引き延ばす。
【0060】
孔13eを通過したワイヤ8を引き延ばすと、図17(a)に示すように、第3舌片27bにおける第3案内孔27dを通過して孔13eに挿通されたワイヤ8は、その第3舌片27bに形成された第2連通スリット27eとともそのスリット13dを通過してそのスリット13dの開放端である基端からコア9の外周に至る。これにより中央孔9aに挿通されたワイヤが折り返されてコアの外周にまで掛け回される。よって、この工程において孔13eを通過したワイヤ8を引き延ばすことにより、そのワイヤ8に所定のテンションを加えてコア9にしっかりと巻回させ、そのワイヤ8の緩みを防止することができる。
【0061】
このときの通過ワイヤ把持引き延ばし機構90の移動量、即ちワイヤ8の引き延ばし量は、先の第1挿通ワイヤ把持引き延ばし工程におけるワイヤ8の引き延ばし量より中央孔9aに挿通されたワイヤが折り返されてコアの外周にまで掛け回される量を減じた量であり、図示しないコントローラによりその移動量は制御される。
【0062】
<第2ワイヤ把持挿通工程>
この工程では、上記通過ワイヤ把持引き延ばし工程により引き延ばされたワイヤ8の遊端部8aを反転させた後にその遊端部8aを中央孔9aに一方から他方に向かって挿通させる。具体的には、先ず上記工程により引き延ばされたワイヤ8の遊端部8aをワイヤ把持挿通機構50におけるエアチャック56にその遊端部8aを把持させ、ワイヤ8の遊端部8aを把持する一方の把持片91aと他方の把持片92aをワイヤ8の軸方向に真直ぐに移動させて遊端部8aをしごいて、エアチャック56に把持された部分より先の遊端部8aを真直ぐにする。
【0063】
その後、図17(b)の一点鎖線で示すように、ワイヤ把持挿通機構50に設けられた反転機構57によりワイヤ8の遊端部8aを把持したエアチャック56を回転させ、その遊端部8aを反転させる。そして、案内部材12に臨む遊端部8aを把持したワイヤ把持挿通機構60を、上側移動装置42(図1)により図1の左側における一方から右方向の他方に向かって保持手段11に接近するようにそのワイヤ把持挿通機構50を移動させ、図17(b)の二点鎖線で示すように、第1案内孔26bを介してその遊端部8aをコア9の中央孔9aに挿通させる。
【0064】
<第2挿通ワイヤ把持引き延ばし工程>
この工程では、コア9の中央孔9aに挿通されて案内部材12における貫通孔13bを通過したワイヤ8の遊端部8aを、挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80における一方の把持片81aと他方の把持片82aにより挟み、その遊端部8aを挟んだ状態で下側移動装置72(図1)により図1の右方向である他方に向かって保持手段11から遠ざかるようにその挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80を移動させ、図17(c)に示すように、その貫通孔13bを通過したワイヤ8を引き延ばす。
【0065】
貫通孔13bを通過したワイヤ8を引き延ばすと、図17(c)に示すように、第1舌片26aにおける第1案内孔26bを通過してコアの中央孔9aに挿通されたワイヤ8は、その第1舌片26aに形成された第1連通スリット26cを通過してコア9の外周に至る。これによりワイヤ8はコアの外周から中央孔9aに折り返されて案内部材12に形成されたスリット13dに沿ってワイヤ8が1回巻回されることになる。よって、この工程においてワイヤ8に所定のテンションを加えてコア9に巻回させることにより、そのワイヤ8をコア9にしっかりと緩むことなく1回巻回させることができる。
【0066】
このときの挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80の移動量、即ちワイヤ8の引き延ばし量は、先の第2通過ワイヤ把持引き延ばし工程におけるワイヤ8の引き延ばし量よりその第1連通スリット26cを通過してコア9の外周から中央孔9aに折り返されて掛け回される量を更に減じた量であり、図示しないコントローラによりその移動量は制御される。
【0067】
その後、第2ワイヤ把持通過工程に戻り、その第2ワイヤ把持通過工程から第2挿通ワイヤ把持引き延ばし工程までを繰り返す。すると、最初の第1ワイヤ把持通過工程では単一の比較的長い放射スリット13cにワイヤ8を挿通したけれども、その後繰り返される第2ワイヤ把持通過工程にあっては、その工程毎に案内部材12を回転させてその長い放射スリット13c以外の短い放射スリット13dにおける孔13eに第3舌片27bにおける第3案内孔27dを対向させることになる。このため、繰り返される第2ワイヤ把持通過工程において、比較的長い放射スリット13c以外の凹部13aを中心として形成された複数の短い放射スリット13dに周方向に順次ワイヤ8がその孔13eを介して挿通される。そして、その後の通過ワイヤ把持引き延ばし工程において、ワイヤ8はそのスリット13dを通過してそのスリット13dの開放端である基端からコア9の外周に至り、そのワイヤ8に所定のテンションを加えてコア9にしっかりと巻回させる。また、その工程に連続して繰り返されるワイヤ把持挿通工程及び挿通ワイヤ把持引き延ばし工程においてコアの中央孔9aにワイヤ8が更に挿通され、ワイヤ8に所定のテンションを加えてそのワイヤ8をコアの外周から中央孔9aに折り返し、スリット13dに沿ってそのワイヤ8に所定のテンションを加えつつコア9に周方向に順次巻回することができる。
【0068】
よって、上記第2ワイヤ把持通過工程から第2挿通ワイヤ把持引き延ばし工程までを繰り返すことにより、案内部材12における複数の放射スリット13c,13dにその周方向に順次ワイヤ8が挿通されて、その放射スリット13c,13dに沿ってワイヤ8が所定のテンションでトロイダルコア9に巻回された図19に示すトロイダルコイル7を得ることができる。そして、ワイヤ8が所望の回数コア9に巻回されたトロイダルコイル7が得られた後には、図示しないカッタ把持機構によりそのコイル7とワイヤ供給部101との間におけるワイヤ8を切断し、その第1舌片26aをX軸方向に移動して凹部13aを開放して、その凹部13aに収容されてワイヤ8が巻回されたコア9を取り出す。そして、図示しないカッタ把持機構は、ワイヤ把持挿通通過手段40がワイヤ供給部101側における遊端部8aを把持するまで、その切断されたワイヤ8のワイヤ供給部101側における遊端部8aをその場に留め、次の巻線に備える。
【0069】
従って、本発明のコアの巻線装置10及びその巻線方法では、従来技術で必要な貯線リングのようなものを用いることをしない。そして、ワイヤ8の遊端部8aを把持してコア9の中央孔9aに挿通させ又はそのコア9の周囲近傍に通過させるので、コア9の中央孔9aはそのワイヤ8が挿通可能であれば足りることになる。このため、貯線リングを用いる従来の装置では不能であった中央孔9aが小径の比較的小型のコア9における自動巻線が可能になり、従来自動巻線が不能であった小型のコイル7の生産性を著しく高めることができる。そして、中央孔9aに挿通され又はコア9の周囲近傍に通過されたワイヤ8の遊端部8aはその後把持して引き延ばすので、ワイヤ8に所定のテンションを加えることができ、これにより所望のテンションでワイヤ8をコア9に巻線することができ、そのコイルの小型化を図ることができる。また、従来技術で必要な貯線リングのようなものを用いることをしないので、従来必要とされた予めワイヤを貯線リングに巻取る作業や、その貯線リングをC字形状の巻線リングの軸に装着するような巻線のための準備作業が不要になり、巻線の準備段階から巻線終了までの工数を従来より減少させることができる。
【0070】
また、本発明のコアの巻線装置及びその巻線方法では、ワイヤ8の遊端部8aを把持してコア9の中央孔9aに挿通させ又はそのコア9の周囲近傍に通過させ、その後その挿通され又は通過されたワイヤ8の遊端部8aを把持して引き延ばすことにより巻線をするので、そのワイヤ8が比較的太くその剛性が比較的高いようなものであってコア9への自動巻線が可能になり、従来自動巻線が不能であった比較的太いワイヤ8が巻線されたコイルの生産性も高めることができる。そして、ワイヤ9をコアの周囲の所定の場所に案内する案内部材12を用いることにより、その放射スリット13c,13dに沿ってワイヤ8がコア9に巻回されたいわゆる整列巻きされたコイル7を比較的容易に得ることが可能になる。
【0071】
なお、上述した実施の形態では、反転機構57,67をワイヤ把持挿通通過手段40に設け、ワイヤ8の遊端部8aを把持したエアチャック56,66を回転させることによりその遊端部8aを反転させる例を説明したが、図示しないが、反転機構をワイヤ把持引き延ばし手段70に設け、引き延ばしたワイヤ8の遊端部8aをワイヤ把持引き延ばし手段70が把持した状態で反転させ、その後その遊端部8aをワイヤ把持挿通通過手段40が把持するようにしても良い。また、ワイヤ8の遊端部8aを反転可能であれば、反転機構57,67をワイヤ把持挿通通過手段40やワイヤ把持引き延ばし手段70と別に独立して設けても良い。
【0072】
また、上述した実施の形態では、X軸とY軸の2軸方向に任意に移動可能に構成された上側移動装置42及び下側移動装置72を用い、案内部材12を回転機構31により回転させる場合を説明したが、上側移動装置42及び下側移動装置72をX軸とY軸とZ軸の3軸方向に任意に移動可能に構成し、案内部材12を回転させることなく、ワイヤ把持挿通通過手段40が把持したワイヤ8の遊端部8aを放射スリット13c,13dの先端における孔13eやコア9の中央孔9aに挿通させ、及びその遊端部8aを把持して引き延ばすようにしても良い。このように案内部材12を回転させなくても、ワイヤ9をコアの周囲の所定の場所に案内する案内部材12を用いることにより、複数の放射スリット13c,13dにその周方向に順次ワイヤ8が挿通され、その放射スリット13c,13dに沿ってワイヤ8がコア9に所定のテンションで巻回されたいわゆる整列巻きされたコイル7を得ることは可能になる。
【0073】
また、上述した実施の形態では、ワイヤ把持挿通通過手段40がワイヤ把持挿通機構50とワイヤ把持通過機構60とを有し、そのワイヤ把持挿通機構50とワイヤ把持通過機構60が保持手段11を越えて一方から他方に又は他方から一方に移動することがない場合を説明したが、図示しないが、ワイヤ把持挿通通過手段40は、単一のワイヤ把持機構とそのワイヤ把持機構を保持手段11を越えて一方から他方に又は他方から一方に移動可能な上側移動装置42とを備えるようなものであっても良い。このようなワイヤ把持挿通通過手段40であっても、ワイヤ8の遊端部を把持した単一のワイヤ把持機構を上側移動装置42が保持手段11を越えて一方から他方に又は他方から一方に移動させることにより、その遊端部8aを中央孔9aに挿通させ又はコア9の周囲近傍に通過させることが可能となる。
【0074】
また、上述した実施の形態では、ワイヤ把持引き延ばし手段70が挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80と通過ワイヤ把持引き延ばし機構90とを有し、その挿通ワイヤ把持引き延ばし機構80と通過ワイヤ把持引き延ばし機構90が保持手段11を越えて一方から他方に又は他方から一方に移動することがない場合を説明したが、図示しないが、ワイヤ把持引き延ばし手段70は、単一のワイヤ把持引き延ばし機構とそのワイヤ把持引き延ばし機構を保持手段11を越えて一方から他方に又は他方から一方に移動可能な下側移動装置72とを備えるようなものであっても良い。このようなワイヤ把持引き延ばし手段70であっても、中央孔9aに挿通され又はコア9の周囲近傍に通過されたワイヤ8の遊端部8aを把持した単一のワイヤ把持引き延ばし機構を下側移動装置72が保持手段11を越えて一方から他方に又は他方から一方に移動させることにより、そのワイヤ8を引き延ばすことが可能となる。
【0075】
また、上述した実施の形態では、ワイヤ8の遊端部を把持してコア9の中央孔9aに挿通させ又はそのコア9の周囲近傍に通過させるワイヤ把持挿通通過手段40と、コア9の中央孔9aに挿通され又はそのコア9の周囲近傍に通過されたワイヤ8の遊端部を把持して引き延ばすワイヤ把持引き延ばし手段70とを備えるワイヤ巻回手段を説明したが、ワイヤ巻回手段は、保持手段11のY軸方向の他方側又は一方側に設けられコア9の中央孔9aに挿通されたワイヤ8の遊端部8aを把持して引き延ばしかつその遊端部8aを反転させてコア9の周囲近傍に通過させるワイヤ把持引き延ばし通過手段と、保持手段11のY軸方向の一方側又は他方側に設けられコア9の周囲近傍に通過されたワイヤ8の遊端部8aを把持して引き延ばしかつ遊端部8aを反転させて中央孔9aに挿通させるワイヤ把持引き延ばし挿通手段とを備えたものであっても良い。
【0076】
また、上述した実施の形態では、ワイヤ8が単線から成るいわゆる丸線であり、ワイヤ把持挿通通過手段40とワイヤ把持引き延ばし手段70がそのワイヤ8の先端における遊端部を直接把持する場合を説明したが、ワイヤ8の先端縁に細長い針を絡げて取付け、その針をワイヤ把持挿通通過手段40とワイヤ把持引き延ばし手段70がワイヤ8の遊端部として把持するようにしても良い。このようにワイヤ8の先端縁に取付けられた針をワイヤの遊端部として把持するようにすれば、例えば、先端を真っ直ぐに伸ばし難い極めて細いワイヤ8を巻線する場合や、複数の丸線又は角線を束にした複線やその束を撚ったリッツ線等を巻線する場合には、その先端における複数の線がばらけて広がってしまうようなことを防止できるので、好ましい。
【0077】
更に、上述した実施の形態では、環状のトロイダルコア9を収容する凹部13aと複数の放射スリット13c,13dが形成された案内部材12を用いて説明したが、コア9はトロイダルであることに限られず、案内部材はコアを収容するものであることを必要としない。例えば、図20に示すように、コア109は中央孔109aを有する方形状のものであっても良く、そのコア109を保持する保持手段111と別に案内部材120を独立して設けても良い。図20に示す保持手段111は、基台10aにZ軸方向に立設された基板10bに水平方向に延びて設けられコア109の下部が着座する凹部112aが形成された本体112と、その凹部112aに着座したコア109の上部を上側から支持するハンドル113と、下端が本体112に固定され上部にハンドル113の基板10b側端部が枢支された支柱114と、そのハンドル113の操作側端部を固定可能な固定シリンダ116とを有する。この保持手段111では、本体112の凹部112aにコア109の下部を着座させ、ハンドル113によりそのコア109の上部を上側から支持し、固定シリンダ116の出没軸116aを突出させることによりそのハンドル113の回転を禁止してコア109を保持するものである。
【0078】
一方、図20に示す案内部材120は、X軸方向に延びて設けられた台板121と、その台板121の両側にコアをX軸方向の両側から挟むように設けられた第1及び第2スリット形成部材122,123とを備え、第1及び第2スリット形成部材122,123には、保持手段111により保持されたコア109の周囲近傍に通過させるワイヤ8を挿通可能であって、かつそのコア109の周囲に開放端124aが臨みその開放端124aから遠ざかるに従って幅が広がるスリット124がそれぞれ形成される。図20では、スリット124の開放端124aがコア109の周囲に臨む場合を示すけれども、スリット124の開放端124aはコア109の前後面に重なるようなものであっても良い。
【0079】
また、図20における巻線装置10は、保持手段111と別に案内部材120を独立して設けるので、開放端124aを有するスリット124がコア109の周囲に沿って移動するように案内部材120を移動させる案内部材移動機構131が備えられる。この案内部材移動機構131は、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ132〜134の組み合わせにより構成される。これらの伸縮アクチュエータ132〜134は、サーボモータ132a〜134aによって回動駆動されるボールネジ132b〜134bと、このボールネジ132b〜134bに螺合して平行移動する従動子132c〜134c等によって構成される。図20では、台板121をX軸方向に移動可能にX軸方向伸縮アクチュエータ132の従動子132cに取付け、そのX軸方向伸縮アクチュエータ132をZ軸方向に移動可能にZ方向伸縮アクチュエータ134の従動子134cに取付け、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ134をY軸方向に移動可能にY軸方向伸縮アクチュエータ133の従動子133cに取付け、そのY軸方向伸縮アクチュエータ133が底板10dを介して基台10aに取付けられる。それらの各伸縮アクチュエータ132〜134におけるサーボモータ132a〜134aは、この案内部材移動機構131を制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。そして、この案内部材移動機構131は、図示しないコントローラからの指令に基づいて案内部材120を保持手段111に対して3軸方向に任意に移動可能に構成される。
【0080】
このように構成された案内部材120であっても、そのスリット124に挿通されたワイヤ8を引き延ばすと、そのスリット124の内部をワイヤ8が移動してそのワイヤ8は開放端124aからコア109の外周又はその前後面に至り、その開放端124aが臨むコア109の外周又はその前後面にそのワイヤ8を掛け回すことができる。このため、案内部材移動機構131を用いて、スリット124にワイヤ8を挿通する度に、開放端124aを有するスリット124がコア109の周囲に沿って順次移動するように案内部材120を移動させることにより、そのスリット124に挿通されたワイヤ8をコアの周囲の所定の場所に順次案内してそのワイヤ8が隣接するワイヤと密に並んだいわゆる整列巻きされたコイル7を得ることが可能になる。
【0081】
なお、図20における案内部材移動機構131は案内部材120を保持手段111に対して3軸方向に任意に移動可能にするものであるけれども、図21に示すように、この案内部材移動機構131は、案内部材120を保持手段111に対して3軸方向に任意に移動可能にするとともに、その案内部材120を回転可能とするものであっても良い。即ち、案内部材移動機構は、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ132〜134とともに、その案内部材120を回転させる回転用サーボモータ136を備えたものであっても良い。具体的に、図21に示すように、X軸方向伸縮アクチュエータ132の従動子132cには支持片137の基端が取付けられ、その支持片137のX軸方向に延びた先端には支持板138が取付けられる。そして、回転用サーボモータ136はこの支持板138に取付けられ、その回転軸136aには平歯車139が取付けられる。
【0082】
一方、図21に示す案内部材120は、第1及び第2スリット形成部材122,123が両側に設けられた台板121がコア141の中央孔141aを中心とする円弧状に形成され、その内側に平歯車139に歯合可能な歯が長手方向に連続して形成される。支持板138には、その平歯車139とともに案内部材120の台板121を挟んでその台板121を下方から支持する一対の支持ローラ140a,140bが設けられる。これにより、回転用サーボモータ136を駆動して平歯車139を回転させると、それに螺合する台板121がその円弧に沿って移動し、これにより案内部材120をコア141の中央孔141aを中心として一点鎖線矢印で示すように回転させることができる。そして、回転用サーボモータ136は、この案内部材移動機構131を制御する図示しないコントローラの制御出力に接続され、この案内部材移動機構131は、そのコントローラからの指令に基づいて案内部材120を保持手段111に対して3軸方向に任意に移動可能とするとともに、その案内部材120を回転可能に構成される。ここで、図21においても、スリット124の開放端124aがコア141の周囲に臨む場合を示すけれども、スリット124の開放端124aはコア141の前後面に重なるようなものであっても良い。
【0083】
このように案内部材120を回転可能であれば、図21に示すように、比較的大径のトロイダルコア141にワイヤ8を巻線するような場合に、案内部材120におけるスリット124をそのコアの外周面に対して略直角に位置させることができ、そのスリット124の開放端124aを介して案内されるワイヤ8をそのコア141の外周又はその前後面における所定の位置に確実に案内することができる。ここで、トロイダルコア141を保持する図21における保持手段111は、基板10bに水平方向に延びて設けられた本体112に形成されコア141の下部を突出端において支持する突片112bと、その突片112bに下部が支持されたコア141の中央孔141aに進入してその突片112bとともにコア141を挟持する固定片142と、その固定片142がコア141を挟持する挟持位置とそのコア141を解放する解放位置との間を移動可能な図示しない固定片移動手段とを有するものである。
【0084】
図20及び図21に示すように、保持されたコア109,141の周囲近傍に通過させるワイヤ8を挿通可能であってかつコア109,141の周囲に開放端124aが臨むスリット124が形成された案内部材120と、その開放端124aを有するスリット124がコア109,141の周囲に沿って移動するように案内部材120を移動させる案内部材移動機構131とを備えれば、案内部材移動機構131を用いてワイヤ8を挿通する度にスリット124を移動させることにより、その開放端124aを介してワイヤ8をコアの周囲の所定の場所に順次案内することができ、いわゆる整列巻きされたコイル7を容易に得ることが可能になる。特に、巻線された状態でワイヤ8間の隙間が無いようにワイヤ8を密に巻線する場合には複数の放射スリットを形成することは困難であり、このような密に巻線することは比較的太いワイヤ8を用いる場合に多いけれども、この案内部材120ではワイヤ8を密着させて巻線することも可能であり、そのような太いワイヤ8を密に巻線する場合に有効である。そして、スリット124を開放端124aから遠ざかるに従って幅が広がるようにすることによりワイヤ8の遊端部8aの挿入を容易にすることができる。
【符号の説明】
【0085】
8 ワイヤ
8a 遊端部
9,109,141 コア
9a,109a 中央孔
10 巻線装置
11,111 保持手段
12 案内部材
13a 凹部
13b 貫通孔
13c,13d 放射スリット
40 ワイヤ把持挿通通過手段
57,67 反転機構
70 ワイヤ把持引き延ばし手段
120 案内部材
124 スリット
124a 開放端
131 案内部材移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央孔(9a,109a,141a)を有するコア(9,109,141)を保持する保持手段(11,111)と、
前記中央孔(9a,109a,141a)に挿通させたワイヤ(8)を前記コア(9,109,141)の周囲近傍に通過させて前記中央孔(9a,109a,141a)の入口側に戻すことを繰り返して前記コア(9,109,141)の周方向に前記ワイヤを螺旋状に巻回するワイヤ巻回手段と、
前記コア(9,109,141)の近傍に設けられ前記コア(9,109,141)の周囲近傍に通過させるワイヤ(8)が挿通可能であって開放端を有するスリット(13c,13d,124)が形成された案内部材(12,120)と
を備えた中央孔を有するコアの巻線装置。
【請求項2】
案内部材(12)が保持手段(11,111)に設けられ、案内部材(12)にコア(9)を収容する凹部(13a)と前記コア(9)の中央孔(9a)に挿通されたワイヤ(8)が通過可能な貫通孔(13b)が形成され、前記貫通孔(13b)に基端が連続し先端が前記コア(9)の周囲より外側に達するスリット(13c,13d)が前記案内部材(12)に複数形成された請求項1記載の中央孔を有するコアの巻線装置。
【請求項3】
案内部材(120)が保持手段(111)と別に設けられ、開放端(124a)を有するスリット(124)がコア(109,141)の周囲に沿って移動するように前記案内部材(120)を移動させる案内部材移動機構(131)を備えた請求項1記載の中央孔を有するコアの巻線装置。
【請求項4】
ワイヤ巻回手段は、
ワイヤ(8)の遊端部(8a)を把持してコア(9,109,141)の中央孔(9a,109a,141a)に挿通させ又は前記コア(9,109,141)の周囲近傍に通過させるワイヤ把持挿通通過手段(40)と、
前記中央孔(9a,109a,141a)に挿通され又は前記コア(9,109,141)の周囲近傍に通過されたワイヤ(8)の前記遊端部(8a)を把持して引き延ばすワイヤ把持引き延ばし手段(70)と、
前記ワイヤ把持引き延ばし手段(70)により引き延ばされた前記ワイヤ(8)の遊端部(8a)を反転させる反転機構(57,67)と
を備え、
前記ワイヤ把持挿通通過手段(40)は反転された前記ワイヤ(8)の遊端部(8a)を前記中央孔(9a,109a,141a)に挿通させ又は前記コア(9,109,141)の周囲近傍に通過させるように構成された
請求項1ないし3いずれか1項に記載の中央孔を有するコアの巻線装置。
【請求項5】
ワイヤ巻回手段は、
コア(9,109,141)の中央孔(9a,109a,141a)に挿通されたワイヤ(8)の遊端部(8a)を把持して引き延ばしかつ前記遊端部(8a)を反転させて前記コア(9,109,141)の周囲近傍に通過させるワイヤ把持引き延ばし通過手段と、
前記コア(9,109,141)の周囲近傍に通過されたワイヤ(8)の前記遊端部(8a)を把持して引き延ばしかつ前記遊端部(8a)を反転させて前記中央孔(9a,109a,141a)に挿通させるワイヤ把持引き延ばし挿通手段と
を備えた請求項1ないし3いずれか1項に記載の中央孔を有するコアの巻線装置。
【請求項6】
中央孔(9a,109a,141a)を有するコア(9,109,141)の前記中央孔(9a,109a,141a)に挿通させたワイヤ(8)を前記コア(9,109,141)の周囲近傍に通過させて前記中央孔(9a,109a,141a)の入口側に戻すことを繰り返して前記コア(9,109,141)の周方向に前記ワイヤ(8)を螺旋状に巻回する中央孔を有するコアの巻線方法において、
開放端を有するスリット(13c,13d,124)が形成された案内部材(12,120)を前記コア(9,109,141)の近傍に設け、
前記コア(9,109,141)の周囲近傍に通過させるワイヤ(8)を前記スリット(13c,13d,124)に挿通させて前記開放端(124a)から前記ワイヤ(8)を前記コア(9,109,141)に導く
ことを特徴とする中央孔を有するコアの巻線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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