説明

中性で切断可能な核酸合成用レジン

【課題】新規なリンカーを使用した核酸合成用レジンを提供する。また、核酸の分解等を起こさないまたは分解等を起こすことの少ない条件で切断できるリンカーを使用した核酸合成用レジンを提供する。
【解決手段】この核酸合成用レジンでは、中性条件で切断可能なリンカーを介して核酸がレジンに結合している。リンカーが−S−S−(CH−COO−結合を有し、そのCOO−側に核酸が結合していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA,RNAを含む核酸の固相合成に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸固相(自動)合成は、20年以上も前から行われており、自動合成装置もその時点で販売されていた。現在でも、アンチセンスDNA、siRNAおよび核酸の蛍光ラベル等の修飾のためマイルドな条件で核酸を得ることができる核酸原料(アミダイドおよびレジン)の改良が行われている。
【0003】
従来のリンカーは、使用される核酸の種類によっては分解等を起こすため、好ましくないことが多かった。この問題を緩和できる固相レジンから核酸を回収可能なリンカーとしては、図1に示された構造が既に報告されている(たとえば非特許文献1参照)。しかしながら、この場合には、あらかじめPdによるアリルカルバメート基の脱保護が必要であり、実用には向かなかった。なお、本明細書において、CPGとはレジン(具体的にはControlled Pore Glass)を意味している。
【非特許文献1】Nucleic Acids Research,1996年,第24巻,p.2793
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規なリンカーを使用した核酸合成用レジンを提供することを目的としている。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。なお、この場合の核酸には、天然品も合成品も含まれ、更に、天然品や合成品を修飾したものも含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、リンカーを介して核酸がレジンに結合している核酸合成用レジンであって、当該リンカーが中性条件で切断可能である、核酸合成用レジンが提供される。
【0006】
本発明態様により、核酸の分解等を起こさないまたは分解等を起こすことの少ない条件で切断できるリンカーを使用した核酸合成用レジンが得られる。
【0007】
リンカーの構造としては、−S−S−(CH−COO−結合を有し、そのCOO−側に核酸が結合していることが好ましい。S−S結合が容易に切断でき、環化によって、COO−側結合した核酸を離脱させることができる利点を有する。
【0008】
別の言い方をすれば、核酸とレジンとに結合したリンカーの構造によらず、リンカーの切断後の構造として、HS−(CH−COO−結合を有し、そのCOO−側に核酸が結合している中間体を生じるものが好ましいと言える。
【0009】
なお、これらの構造のリンカーを有する核酸合成用レジンはこれまで知られていない。
【0010】
リンカーの切断には、ジチオスレイトールまたはTCEP{トリス(2−カルボキシエチル)フォスフィン}等の還元剤を使用することが好ましい。これらの還元剤を用いると中性条件で還元を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、新規なリンカーを使用した核酸合成用レジンが得られる。また、核酸の分解等を起こさないまたは分解等を起こすことの少ない条件で切断できるリンカーを使用した核酸合成用レジンが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を図、式、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、式、実施例等及び説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0013】
下記に示す新規なリンカーを介して核酸がレジンに結合している核酸合成用レジンが開発された。このレジンは、中性条件でリンカーを切断することができる。
中性条件で切断可能なリンカーはこれまで知られていない。
【0014】
この「中性条件で切断可能なリンカー」を介して核酸がレジンに結合している核酸合成用レジンでは、たとえば修飾DNAのように塩基性や酸性に弱い核酸であっても、分解等を起こさず、または分解等を起こすことが少ない。このため、自動合成が可能になる。なお、この場合の「中性条件」とは、単にpH7.0を指す意味で使用されているにとどまるわけではなく、使用される核酸の塩基性や酸性の程度に応じて幅を持たせて考えることができる。たとえばpH6.0〜8.0の範囲にあってもよい。
【0015】
上記において、リンカーが結合するレジンや核酸の種類には特に制限はなく、公知の物から適宜選択することができる。酸性や塩基性で分解しやすい核酸について使用することが好ましいのは上記の通りである。
【0016】
開発された新規なリンカーは、−S−S−(CH−COO−結合を有することが特徴である(ここで、nは3または4である)。COO−側に核酸が結合する。したがって、−S−S側にレジンが結合する。
【0017】
リンカーと核酸との結合の様式には、上記以外には特に制限はなく、公知の結合を利用できる。最も容易なのは核酸の水酸基と核酸とリンカー前駆体(すなわち、核酸と結合する前のリンカー)のCOOH基との反応による結合である。
【0018】
リンカーとレジンとの結合の様式にも、上記以外には特に制限はなく、公知の結合を利用できる。合成の都合により、リンカーの−S−S結合に、更に、メチレン基、アミノ基、エステル結合等を配し、その末端でレジンとエステル結合で結合する様式を例示することができる。
【0019】
リンカーが−S−S−(CH−COO−結合を有し、そのCOO−側に核酸が結合している核酸合成用レジン(ここで、nは3または4である)を用いると、リンカーの切断による、核酸を含む部分のレジンからの脱離は、S−S間の結合の開裂によって生じるものと思われる。この開裂には、どのような手段を使用してもよいが、還元剤を使用し得、好ましい。この開裂は、中性条件以外の塩基性条件または酸性条件で使用されるものであってもよいが、中性条件で切断できれば、「中性条件でリンカーを切断する」条件が充足される。したがって、たとえば修飾DNAのように塩基性や酸性に弱い核酸であっても、分解等を起こさず、または分解等を起こすことが少なくなる。
【0020】
このS−S間の結合の開裂によって、HS−(CH−COO−結合を有し、そのCOO−側に核酸が結合している中間体が得られることが、中間体とマレインイミドとの反応で、HSのSがマレインイミドと結合した安定な物質を得ることで確認された。このことから、上記の新規な核酸合成用レジンを、リンカーが切断された場合に、HS−(CH−COO−結合を有し、そのCOO−側に核酸が結合している中間体を生じる核酸合成用レジン(ここで、nは3または4である)として把握することも可能である。この場合にも、中性条件で切断可能である。中性条件で切断すれば、たとえば修飾DNAのように塩基性や酸性に弱い核酸であっても、分解等を起こさず、または分解等を起こすことが少なくなる。
【0021】
得られた、HS−(CH−COO−結合を有し、そのCOO−側に核酸が結合している中間体が環化する際に核酸が切り離されると考えられる。nが3または4であるのは、五員環または六員環が構造として安定であるからである。nが3のものとnが4のものが混在してもよい場合がある。
【0022】
COO結合が、核酸の水酸基と直接結合している場合には、開発されたリンカーは、デオキシリボ核酸またはリボ核酸の3’水酸基が、4−メルカプト酪酸または5−メルカプト吉草酸とエステル結合によりつながれた中間体を経由して切断されることになる。このような核酸合成用レジンを用いると、末端にメルカプト基を有する酪酸結合部分または吉草酸結合部分が環化する際に核酸が切り離されると考えられる。
【0023】
なお、いずれの場合においても、COO−の右端の「O」は、リンカーの一部であると考えても核酸の一部と考えてもよい。なお、一般的にはCOO−の右端の「O」は核酸の一部と考えられている。
【0024】
使用される還元剤は、公知のものから適宜選択できる、具体的には、DTT(ジチオスレイトール)またはTCEP{トリス(2−カルボキシエチル)フォスフィン}が好ましい。いずれも中性条件で還元を行うことができる。
【実施例1】
【0025】
次に上記諸態様の実施例及び比較例を詳述する。
【0026】
[実施例1]
図2に示す経路で、中性条件で切断可能なリンカーを介して核酸がレジンに結合している核酸合成用レジンを合成した。
【0027】
(1)式(1)で表される化合物〜式(4)で表される化合物までの合成
3,3’−ジチオジ酪酸4.77g(20mmol)を100mLの脱水ジクロロメタンに懸濁し、2塩化オキサリル5.14mLおよびジメチルフォルムアミド62μLを加え室温で2時間撹拌した。本溶液を減圧濃縮した後、残渣に脱水トルエンを加え減圧濃縮した。
【0028】
残渣を脱水ジクロロメタン100mLに溶解し、トリアゾール3.35g,ジイソプロピルエチルアミン8.71mLを加え、室温で10分撹拌した。この段階で、式(1)で表される化合物が得られたものと考えられる。
【0029】
ついで、本溶液に5’ジメトキシトリチルチミジン5.49g(10mmol)を加え6時間撹拌した。この段階で、式(2)で表される化合物が得られたものと考えられる。
【0030】
本溶液にN−ヒドロキシスクシンイミド4.60gを加え15分撹拌した。この段階で、式(3)で表される化合物が得られたものと考えられる。
【0031】
この後、6−ヒドロキシヘキシルアミン4.69gを加え3時間撹拌した。本溶液をジクロロメタンで希釈し水で洗浄した。ジクロロメタン溶液を減圧濃縮し残渣を中圧クロマトグラフィー(酢酸エチル−エタノール1:0→19:1)にて精製し、式(4)で表される化合物5.14g(58%)を得た。図8に示すNMRのチャートから、その構造を確認した。
【0032】
(2)式(5)で表される化合物〜式(6)で表される構造体までの合成
439mgの式(4)で表される化合物(0.5mmol)を脱水アセトニトリルに溶解し、減圧濃縮する操作を3回行った。残渣を5mLの脱水アセトニトリルに溶解し、ジイソプロピルエチルアミン99μL,無水コハク酸50mgおよびジメチルアミノピリジン6.1mgを加え、室温にて1日撹拌した。この段階で、式(5)で表される化合物が得られたものと考えられる。
【0033】
その後、genoglass−PG−200−γ−aminoレジン0.5g(NH、10μmol),脱水縮合剤HCTU{1−[ビス−(ジメチルアミノ)−メチレン]−5−クロロー1H−ベンゾトリアゾリウム・ヘキサフルオロフォスフェート・3−オキシド}207mg,ジイソプロピルエチルアミン207μLを加え2時間室温にて穏やかに撹拌した。レジンをろ過により回収し、メタノールおよびジクロロメタンで洗浄し、乾燥することにより式(6)で表される構造体を得た。なお、図2において、チミジンの代わりに、デオキシアデノシン誘導体、デオキシシチジン誘導体,デオキシグアノシン誘導体,ウリジン誘導体、アデノシン誘導体、シチジン誘導体,グアノシン誘導体を使用し得ることは言うまでもない。
【0034】
[実施例2]
実施例1の方法に従って作製したレジンおよび図9に示す経路で合成したdA,dG,dCアミダイド(図9の左下)を使用し、DNA自動合成機(ジーンワールド社製H8−F)によりdCGATレジンを合成した。平均合成効率98%以上の収率で合成できた。
【0035】
合成されたdCGATレジンに0.01MのDBU(ジアザビシクロウンデセン)−アセトニトリル溶液5mLを1時間かけて流し、保護基を外した。
【0036】
その後、アセトニトリル、水で洗浄したのち、0.1MのTCEP{トリス(2−カルボキシエチル)フォスフィン}−tris(pH=7.0、250μL)を4時間かけて流すことにより、S−S結合を還元により切断し溶液を回収した。この還元雰囲気のpHは7.0であり、中性条件であった。
【0037】
4時間かけた回収直後の溶液をHPLC(高圧液体クロマトグラフィ)により解析した。結果を図4,24時間室温で静置した溶液のHPLC解析結果を図5に示した。また、定法に従い合成したdCGATの解析結果を図6に示した。その結果、24時間静置後の主生成物が、定法に従い合成したdCGATに一致することがわかった。すなわち、図5は図3の(C)の生成物に対応するものと考えられる。
【0038】
更に、TCEPによる還元直後(すなわち上記4時間後)にマレインイミドを加えた溶液をHPLCを用いて解析した。結果を図7に示した。図7中、最初の二つの大きなピークはマレインイミドとTCEPとの反応生成物に対応し、後にあるシャープなピークが化合物(B)とマレインイミドとの反応物に対応する。このピークの移動度が図6のピークの移動度と異なっていることより、この反応物が、主生成物(C)とは異なる物質であることが理解される。マレインイミドは−SHと特異的に結合するので、末端にメルカプト基を有する酪酸結合部分の環化が防止され得る。このことから、図4は図3の(B)の生成物、すなわち中間体、に対応するものと考えられる。本反応物{図3の(c’)}の溶液を24時間室温静置したがなんら変化は見られなかった。
【0039】
これらの結果、DNA切り出しは図3に示した機構で起こっていると考えられる。
【0040】
なお、図3において、Tはチミジンを表す。チミジンの代わりに、デオキシアデノシン誘導体、デオキシシチジン誘導体,デオキシグアノシン誘導体,ウリジン誘導体、アデノシン誘導体、シチジン誘導体,グアノシン誘導体を使用し得ることおよび、dCGAの代わりに他の核酸配列を使用し得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】従来のリンカーの例を示す図である。
【図2】上記実施態様のリンカーを介して核酸がレジンに結合している核酸合成用レジンの合成経路を示す図である。
【図3】リンカーの推定される切断機構を示す図である。
【図4】TCEP処理の回収直後の溶液のHPLC結果を示す図である。
【図5】TCEP処理の回収後24時間室温で静置した後の溶液のHPLC結果を示す図である。
【図6】定法に従って合成したdCGATのHPLC結果を示す図である。
【図7】TCEP処理の回収直後にマレインイミドを加えた溶液のHPLC結果を示す図である。
【図8】図2の式(4)で表される化合物のNMRである。
【図9】dA,dG,dCアミダイドの合成経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンカーを介して核酸がレジンに結合している核酸合成用レジンであって、当該リンカーが中性条件で切断可能である、核酸合成用レジン。
【請求項2】
前記リンカーが−S−S−(CH−COO−結合を有し、そのCOO−側に核酸が結合している、請求項1に記載の核酸合成用レジン(ここで、nは3または4である)。
【請求項3】
前記リンカーが切断された場合に、HS−(CH−COO−結合を有し、そのCOO−側に核酸が結合している中間体を生じる、請求項1または2に記載の核酸合成用レジン(ここで、nは3または4である)。
【請求項4】
前記中間体は、核酸の3’水酸基が、4−メルカプト酪酸または5−メルカプト吉草酸とエステル結合によりつながれた中間体である、請求項3に記載の核酸合成用レジン。
【請求項5】
前記リンカーの切断が還元剤により行われ得る、請求項1〜4のいずれかに記載の核酸合成用レジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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