説明

中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤の評価又は選択方法

【課題】中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤又はしわ抑制剤を評価又は選択する方法の提供。
【解決手段】UVB照射による真皮線維芽細胞中のNEP活性上昇について検討したところ、表皮細胞におけるIL−8及びGM−CSFが真皮線維芽細胞中のNEP活性に関与しており、UVB照射によりこれらの産生量が増加することでNEPの活性が上昇することを見出した。そして、IL−8及びGM−CSFの産生抑制作用を指標としてNEP活性を阻害し、ひいてはしわ形成を抑制する物質を正確に評価又は選択できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤又はしわ抑制剤を評価又は選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は主に表皮、真皮、皮下組織の3層に分けられ、それらのうち真皮は皮膚の構造の維持に極めて重要であり、コラーゲン、エラスチンなどの線維により強固かつ柔軟に造られ、真皮結合組織を形成している。ヒト皮膚細胞、特にヒト皮膚線維芽細胞はこれら細胞外マトリックスと相互作用することにより結合組織の状態をコントロールしている。
ところが、紫外線の照射、乾燥、加齢などにより細胞外マトリックスの構成成分であるコラーゲン、エラスチンなどが変性、破壊され、その結果、皮膚の弾力性が低下し、しわやタルミなどの老化症状を呈するようになる。
【0003】
しわの発生については、特に紫外線との関連性が強いとされており、UVB照射により過剰発現したエラスターゼ、中でも中性エンドペプチダーゼ(以下、NEPと称することもある)がエラスチンを破壊することによって生じると考えられている。そのため、当該酵素を阻害することにより老化症状を予防・改善できると考えられ、種々のエラスターゼ(NEP)活性阻害作用を有する物質が検索されている。
エラスターゼ活性阻害作用の評価は、一般にその化合物などがエラスターゼ活性を抑制するか否かを検討することにより行われているが、エラスターゼを指標とするin vitro評価方法による結果は、in vivoでの老化抑制の結果と必ずしも一致しない場合がある。
【0004】
一方、表皮細胞には様々なサイトカインが発現していることが報告されており、UVB照射により表皮中のIL−8やGM−CSFなどの産生量が増加することが知られている(非特許文献1及び2)。
しかしながら、各種サイトカイン発現が真皮線維芽細胞のエラスターゼ活性にどのような影響を与えるかこれまで報告されたことはなく、IL−8及びGM−CSFとエラスターゼ活性との関連性については全く知られていない。
【非特許文献1】Kondo S, Kono T, Sauder DN, McKenzie RC., IL-8 gene expression and production in human keratinocytes and their modulation by UVB., J Invest Dermatol., 1993, 101, 690-694.
【非特許文献2】Strickland I, Rhodes LE, Flanagan BF, Friedmann PS., TNF-alpha and IL-8 are upregulated in the epidermis of normal human skin after UVB exposure: correlation with neutrophil accumulation and E-selectin expression.,J Invest Dermatol., 1997, 108, 763-768.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤又はしわ抑制剤を評価又は選択する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、UVB照射による真皮線維芽細胞中のNEP活性上昇について検討したところ、表皮細胞におけるIL−8及びGM−CSFが真皮線維芽細胞中のNEP活性に関与しており、UVB照射によりこれらの産生量が増加することでNEPの活性が上昇することを見出した。そして、IL−8及びGM−CSFの産生抑制作用を指標としてNEP活性を阻害し、ひいてはしわ形成を抑制する物質を正確に評価又は選択できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、IL−8及びGM−CSFの産生抑制作用を指標とする中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤の評価又は選択方法を提供するものである。
また、本発明は、以下の工程(1)〜(5):
(1)被検物質を表皮細胞と接触させる工程、
(2)当該細胞にB波長紫外線を照射する工程、
(3)当該細胞におけるIL−8及びGM−CSFの発現量を測定する工程、
(4)上記(3)で算出されたIL−8及びGM−CSFの発現量を、被検物質を細胞に接触させない対照群におけるIL−8及びGM−CSFの発現量と比較する工程、
(5)上記(4)の結果に基づいて、IL−8及びGM−CSFの発現量を減少させる被検物質を中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤の評価又は選択方法を提供するものである。
また、本発明は、IL−8及びGM−CSFの産生抑制作用を指標とするしわ抑制剤の評価又は選択方法を提供するものである。
さらに、本発明は、以下の工程(1)〜(5):
(1)被検物質を表皮細胞と接触させる工程、
(2)当該細胞にB波長紫外線を照射する工程、
(3)当該細胞におけるIL−8及びGM−CSFの発現量を測定する工程、
(4)上記(3)で算出されたIL−8及びGM−CSFの発現量を、被検物質を細胞に接触させない対照群におけるIL−8及びGM−CSFの発現量と比較する工程、
(5)上記(4)の結果に基づいて、IL−8及びGM−CSFの発現量を減少させる被検物質をしわ抑制剤として評価又は選択する工程、
を含むしわ抑制剤の評価又は選択方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、しわに対して予防・改善効果を有する各種物質を正確に評価、選定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、UVB照射により惹起される表皮細胞中のIL−8及びGM−CSFの発現量を指標として、NEPの活性を抑制する物質を評価又は選択するものである。NEPはエラスチン分解酵素のうち金属依存型プロテアーゼに属する酵素であり、真皮線維芽細胞由来のNEP活性上昇を抑制することでしわの発生を有意に予防、改善できると考えられている。ここでいう、「しわ」とは、紫外線の照射、乾燥、加齢などにより、皮膚に回復し難い深い損傷が与えられた結果発現する「深いしわ」を意味するものであり、保湿剤などを用いて改善できるような「こじわ」とは異なるものである。
【0010】
真皮線維芽細胞のNEP活性は、後記実施例に示すようにIL−8及びGM−CSFにより上昇することが判明し、またUVB照射によりこれらサイトカインの産生が増加することから、UVB照射によるNEP活性上昇にはIL−8及びGM−CSFが関与していることが見出された(実施例1及び2)。
従って、UVB照射により惹起される表皮細胞のIL−8及びGM−CSFの産生抑制作用を指標に、NEP活性上昇抑制剤及びしわ抑制剤の評価又は選択を行うことができると考えられる。
ここで、本発明方法のNEP活性上昇抑制剤及びしわ抑制剤の評価又は選択方法としての妥当性を検討するため、これまでにしわ改善効果が知られているしわ抑制剤について本スクリーニング方法で評価を行ったところ、UVB照射で惹起される表皮細胞のIL−8及びGM−CSFの産生が前記しわ抑制剤により抑制されることを確認し(実施例3)、そのうちユキノシタエキスに関してヒトのしわに対する有効性を評価した(実施例4)。
【0011】
本発明の評価又は選択方法は、具体的には以下の工程(1)〜(5)からなるものである。
(1)被検物質を表皮細胞と接触させる工程、
(2)当該細胞にB波長紫外線を照射する工程、
(3)当該細胞におけるIL−8及びGM−CSFの発現量を測定する工程、
(4)上記(3)で算出されたIL−8及びGM−CSFの発現量を、被検物質を細胞に接触させない対照群におけるIL−8及びGM−CSFの発現量と比較する工程、
(5)上記(4)の結果に基づいて、IL−8及びGM−CSFの発現量を減少させる被検物質をしわ抑制剤、中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤として評価又は選択する工程。
【0012】
本発明において用いられる表皮細胞は、市販品として入手可能であるが、ヒト皮膚よりパンチバイオプシー等により採取してもよい。採取部位は特に制限されず、ヒトの顔面部、上腕内側部、上腕外側部、大腿内側部、大腿外側部、腹部、背部などの皮膚が挙げられる。
【0013】
被検物質としては、特に制限されず、例えば動植物抽出物、化合物、化学物質などを用いることができる。
【0014】
表皮細胞と被験物質との接触は、例えば被験物質を所定の濃度になるように予め培養液中に添加した後、表皮細胞を培養液に載置すること、或いは、表皮細胞が載置された培養液に、被験物質を所定の濃度になるように添加することにより行うことができる。
ここで、表皮細胞の播種時の細胞濃度は、3.0×103〜3.0×105cells/cm2とするのが好ましく、特に2.5×104〜3.5×104cells/cm2とするのが好ましい。
また、被験物質の添加濃度は、0.00001〜10質量%(固形残分)とするのが好ましく、特に0.0001〜3質量%(固形残分)とするのが好ましい。
【0015】
表皮細胞を培養する培地は、当該細胞を培養できる常用の培地を用いることができ、例えば表皮角化細胞増殖用培地(Media−KG2)などが挙げられる。細胞継代、増殖時にはこれらの培地に、増殖因子、抗菌剤、インスリン、ハイドロコーチゾンなどの増殖添加剤を添加することが好ましい。
【0016】
B波長紫外線の照射は、細胞と被検物質とを接触させた後、例えば室温(25℃)〜37℃で通常6〜48時間程度、好ましくは12〜24時間程度培養した後に行うのが好ましい。
B波長紫外線照射量は、IL−8及びGM−CSF両方の産生量を充分増大させ、且つ細胞にダメージを与えない量であればよく、好ましくは20〜100mJ/cm2、特に好ましくは40〜80mJ/cm2である。
【0017】
照射時間は、通常30〜170秒程度、好ましくは60〜140秒程度で行う。
【0018】
照射は、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプなどのランプを用いて行うことができる。
【0019】
本発明においては、UVB照射後、更にサンプルを添加した上記と同様の培地で室温(25℃)〜37℃で通常6〜72時間程度、好ましくは24〜48時間程度培養する。
【0020】
IL−8及びGM−CSFの発現量の測定は、通常の免疫測定法により測定することができ、例えばRIA法、EIA法、ELISA、バイオアッセイ法、ウェスタンブロットなどにより行うことができるが、ELISAが安価・簡便で望ましい。
【0021】
NEP活性上昇抑制剤又はしわ抑制剤の評価は、被検物質を細胞に接触させない対照群のIL−8及びGM−CSFの発現量と比較し、その両方の発現量が減少した場合、被験物質にはNEP活性抑制効果及びしわ抑制効果があると評価でき、斯かる物質を選択することができる。
【実施例】
【0022】
実施例1 各種サイトカインが線維芽細胞のNEP活性に与える影響
1)方法
細胞培養:培養ヒト線維芽細胞(腹部由来)をCell system社(第一製薬)より購入し、DMEM(SIGMA)/5%FCSで培養した。
サイトカイン精製タンパク質(全て R&D systems社):human recombinant IL-1α(200-LA)、human recombinant IL-1β(201-LB)、human recombinant IL-6(206-IL)、(human recombinant IL-8(208-IL)、human recombinant GM-CSF (215-GM)
サイトカイン精製タンパク質の添加:線維芽細胞をDMEM(FCS不含)で24時間培養後、各種サイトカインを10-9、10-8、10-7Mとなるように線維芽細胞に添加した。各種サイトカイン添加後24時間培養を行った。
NEP活性測定:細胞をシャーレよりはがし、PBS中に浮遊させ、低速の遠心分離機で細胞を収集した。細胞は0.1% TritonX-100/0.2M Tris-HCL buffer(pH8.0)にて懸濁し、超音波破砕後、遠心分離した上清を300mM NaCl、100mM MES bufferで10倍希釈したものを酵素液とした。基質にはGlutaryl-Ala-Ala-Phe-4-methoxy-b-naphthylamide(SIGMA社)を用い、酵素液100μlに1μl添加した。37℃、1時間反応後、100μM Phosphoramidon(CALBIOCHEM社)を1μl添加することにより反応を停止し、25mU/ml Leucine aminopeptidase, Microsomal (SIGMA社)を1μl添加してさらに37℃、15分間反応させた。NEP活性の検出では反応液を340nmの励起光で励起し、425nmの蛍光を検出した。
2)結果
図1に示すように、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、GM-CSFにより線維芽細胞のNEP活性が上昇した。
【0023】
実施例2 UVB照射による表皮細胞の各種サイトカイン産生量
1)方法
細胞培養:培養ヒト表皮細胞(NHEK(F)新生児包皮由来、クラボウ社)を表皮角化細胞増殖用培地(HuMedia-KG2)に増殖添加剤(インスリン 0.5ml, hEGF 0.5ml, ハイドロコーチゾン 0.5ml, 抗菌剤 0.5ml, BPE 2ml)を添加したもので培養した。継代には、0.5%トリプシン/EDTA(GIBCO)を用いた。
UVB照射:UVBの照射は、National FL20SBLランプを用い、UVパワーメーター(UVR305/365D detector : TOKYO OPTICAL社)で照射パワーを測定し、所定の照射量となるよう、照射時間を設定した。照射時は、細胞培地を除き、PBS(−)で2回洗浄し、PBS(−)を0.5ml加えた後、UVBを照射した。未照射コントロールは照射処理と同様にPBS(−)で洗浄後、PBS(−)を0.5ml添加した状態でクリーンベンチ内に放置する処理を行った。なお、UVB量はいずれのサイトカイン産生量も充分増大させ、かつ細胞にダメージの見られない量を設定した。
培養上清中のサイトカイン量の測定:UVB照射後48時間培養した上清を回収し、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8およびGM-CSF量を各種ELISAキット(全てMBL社)を用いて測定を行った。測定方法は添付のプロトコールにしたがった。
2)結果
図2に示すように、IL-8、GM-CSF量がUVB照射により上昇していた。但し、IL-1αは絶対量が微量であった。
【0024】
実施例3 [スクリーニング方法の妥当性評価]
1)細胞培養
培養ヒト表皮細胞(NHEK(F)新生児包皮由来、クラボウ社)を表皮角化細胞増殖用培地(HuMedia-KG2)に増殖添加剤(インスリン 0.5ml, hEGF 0.5ml, ハイドロコーチゾン 0.5ml, 抗菌剤 0.5ml, BPE 2ml)を添加したもので培養した。継代には、0.5%トリプシン/EDTA(GIBCO)を用いた。細胞はIL-8、GM-CSFを充分量産生し、かつUVBによりこれらの産生量が増加するロット(#3C0660)のものを全実験で用いた。
【0025】
2)UVB照射
細胞培地を除き、PBS(−)で2回洗浄し、PBS(−)を0.5ml加えた後、UVB照射量60mJ/cm2となるよう照射時間を設定し、UVBを照射した。未照射コントロールは照射処理と同様にPBS(−)で洗浄後、PBS(−)を0.5ml添加した状態でクリーンベンチ内に放置する処理を行った。後記対照群の各サイトカイン産生量が、当該未照射コントロールにおける各サイトカイン産生量よりも増加していることを確認することで、用いた細胞がUVBに応答していると判断した。なお、UBV照射には実施例2と同様のNational FL20SBLランプを用い、UVB量はいずれのサイトカイン産生量も充分増大させ、かつ細胞にダメージの見られない量を設定した。
【0026】
3)評価
24wellプレートにKCを6.0×103/cm2ずつまき、0.5mlの増殖用倍地中で培養した。翌日、細胞が接着していることを確認した後、サンプルを添加した培地に交換した。サンプル添加培地はサンプルを終濃度0.001%、0.0003%残渣となるようにHuMedia-KG2(増殖添加剤不含)に添加して作製した。サンプル添加培地で24時間培養後、上記2)と同様にUVBを照射した。UVB照射後、新しいサンプル添加培地0.5ml中で48時間培養した。サンプルの細胞毒性は細胞の形態を観察し、異常の有無で判定した。なお、コントロールとしてサンプルの代わりに50%エタノールを用いた。照射48時間後に培養上清をELISAに供し、IL-8量及びGM-CSF量を測定した。
サンプル添加時の各サイトカイン産生量をサンプル無添加・50%エタノール添加時の各サイトカイン産生量(対照群)とそれぞれ比較し、サンプルの各サイトカインの産生抑制効果を、サンプル無添加・50%エタノール添加時の各サイトカイン産生量を100とした場合の抑制率(%)として求めた。
【0027】
4)ELISAキット (全てMBL社)
Human Cytokine EIA Kit IL-8 (IM-2237)
Human Cytokine EIA Kit GM-CSF (IM-1989)
測定方法は添付のプロトコールにしたがった。
【0028】
5)材料
今回評価を行ったサンプルは、既にしわ改善効果が知られている粧配規エキスの50%エタノール抽出サンプル6種類(オウゴンエキス、ビワ葉エキス、ユキノシタエキス、ウコンエキス、セイヨウオトギリソウエキス)である。
なお、オウゴンエキスについては特開2006-22077号公報に、ビワ葉エキスについては特開2003-183122号公報に、ユキノシタエキスについては特開平11-199504号公報に、ウコンエキスについては特開2005-206568号公報に、セイヨウオトギリソウエキスについては特開2006-8536号公報に、それぞれしわ改善効果が開示されている。
【0029】
6)結果
今回用いたサンプルはいずれもUVBによる表皮角化細胞からのIL-8、GM-CSF産生をともに50%以上抑制した(図3)。これらの結果は、被検物質のしわ改善効果が、IL-8及びGM-CSFの産生レベルの測定によって評価可能であることを示している。従って、本発明方法は、NEP活性上昇抑制剤及びしわ抑制剤の評価又は選択方法として妥当な方法であると考えられる。
【0030】
実施例4 [しわに対する有効性の確認]
NEP活性上昇抑制剤及びしわ抑制剤の評価又は選択方法としての妥当性をさらに検討するため、今回用いたサンプルのうち、ユキノシタエキスについてヒトしわに対する有効性を確認した。
1)試験概要
しわグレード(*)1〜5の20歳代〜50歳代の健常男女研究員13名(男性7名、女性6名)を対象として行った。また、プラセボを対照とした、同一被験者におけるハーフフェイス比較塗布試験を行った。すなわち、予め決めておいた左右どちらかの目周辺部に、3%ユキノシタエキス(ファルコレックスユキノシタMB(一丸ファルコス(株))配合ジェル(処
方は図4参照)、他方にプラセボを片側100μl程度、1日3回、9週間毎日塗布した。試験開始日(0W)、試験開始4週間後(4W)、及び試験開始9週間後(9W)に環境可変室(23℃, 40%RH)にて15分以上馴化の後、皮膚性状測定・解析を行った。
(*)0(しわが無い)、1(不明瞭な浅いしわが僅かに認められる)、2(明瞭な浅いしわが僅かに認められる)、3(明瞭な浅いしわが認められる)、4(明瞭な浅いしわの中に、やや深いしわが僅かに認められる)、5(やや深いしわが認められる)、6(明瞭な深いしわが認められる)、7(著しく深いしわが認められる)の7グレード(日本香粧品学会化粧品機能評価法ガイドラインにおける新規効能取得のための抗しわ製品評価ガイドラインが定めるしわグレード)
【0031】
2)皮膚性状測定
(2−1)写真撮影
写真撮影セットはカメラ架台、フロアストロボ照明、カメラシステム、カメラ制御用PC、顎のせ台からなる。本撮影方法により対象者の左右の目尻を数枚撮影した。
【0032】
(2−2)レプリカ採取
ラバー系精密印象剤(親水性ビニルシリコン印象剤)GCエグザファイン((株)GC)を、仰向けに寝て軽く目を閉じた状態で目周辺部より採取した。レプリカ採取部位を図5Aに斜線で示した。
【0033】
3)皮膚性状解析
【0034】
(3−1)相対的なしわ程度の観察
上記同様にしてプリントした写真を見ながら0Wに対する相対的なしわ程度の変化を評価した。スコアは1〜5(1:明らかに減少、2:やや減少、3:不変、4:やや増加、5:明らかに増加)に中間のスコア(0.5スケール)を含め9グレードで評価した。なお、プラセボ塗布群とユキノシタエキス塗布群の群間比較にはMann-Whitney's U testを行った。
【0035】
(3−2)レプリカの3次元粗さ解析
上記の方法で採取したレプリカについてPRIMOSを用いて表面粗さ解析を行った。粗さ解析範囲を図5に示した。図5Aの網目模様で示した領域をとり込み、図5BのLineで示した線分(目尻の端から9mmの位置の10mm線分を解析した。粗さパラメーターとしてはRmax(最大粗さ深度)を用いた。
なお、各週における平均値の差検定にはOne-factor repeated measures ANOVA (Tukey法)を行い、0Wからの粗さ値変化量のプラセボ塗布群とユキノシタエキス塗布群の群間比較にはStudent's t-testをそれぞれ行った。
【0036】
3)結果
【0037】
(3−1)相対的なしわ程度の観察
0Wと比較し、相対的にしわ程度を評価した結果を図6に示した。スコア3.0が変化なしで、3.0より高い程しわは0Wと比較して増加し、3.0より低い程減少していることを示す。4Wにおいてプラセボ塗布群に対してユキノシタエキス塗布群でスコアが有意に低いことが認められた(p<0.05)。
【0038】
(3−2)レプリカの3次元粗さ解析
線粗さ解析により得られた粗さ値について各個人の経時変化と0W、4W、9Wの平均値を図7に示した。プラセボ塗布群では0Wと比較して4W、9Wで差が認められなかったが、ユキノシタエキス塗布群では0Wと比較して9Wで有意な低下が認められた(p<0.05)。
また、0Wの粗さ値から4W(0W-4W)、9W(0W-9W)の粗さ値をそれぞれ引いた変化量(ΔRmax)の各群平均値を図8に示した。ΔRmaxは粗さの減少度を示しており0よりも値が大きいと粗さが減少し、小さいと粗さが増加したことを意味している。0W-9WのΔRmaxにおいてユキノシタエキス塗布群がプラセボ塗布群と比較して有意に高いことが認められた(p<0.01)。
上記(3−1)、(3−2)の結果より、プラセボ群と比較してユキノシタエキス塗布群では目尻の粗さが改善されていることが示唆された。
【0039】
このように、本発明方法によりIL-8及びGM-CSF産生抑制効果が認められたユキノシタエキスは皮膚の老化症状に対して予防・改善効果も示すことが確認されたことから、本発明方法はNEP活性上昇抑制剤及びしわ抑制剤の評価又は選択方法として妥当であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】各種サイトカインが線維芽細胞のNEP活性に与える影響を示す図である。
【図2】UVB照射による表皮細胞の各種サイトカイン産生量を示す図である。
【図3】サンプル6種類のIL−8及びGM−CSF産生抑制効果を示す図である。
【図4】ユキノシタエキスの処方を示す図である。
【図5】目尻レプリカ採取部位(A)と、当該部位の表面粗さ解析範囲(B)を示す図である。
【図6】ユキノシタエキス塗布群とプラセボ塗布群の相対的なしわ程度を比較した図である。
【図7】ユキノシタエキス塗布群とプラセボ塗布群の目尻レプリカの3D粗さ解析(Rmax)を示した図である。
【図8】ユキノシタエキス塗布群とプラセボ塗布群の目尻レプリカの3D粗さ解析における0Wの粗さ値から4W(0W-4W)、9W(0W-9W)の粗さ値をぞれぞれ引いた変化量(ΔRmax)の各群平均値を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL−8及びGM−CSFの産生抑制作用を指標とする中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤の評価又は選択方法。
【請求項2】
以下の工程(1)〜(5):
(1)被検物質を表皮細胞と接触させる工程、
(2)当該細胞にB波長紫外線を照射する工程、
(3)当該細胞におけるIL−8及びGM−CSFの発現量を測定する工程、
(4)上記(3)で算出されたIL−8及びGM−CSFの発現量を、被検物質を細胞に接触させない対照群におけるIL−8及びGM−CSFの発現量と比較する工程、
(5)上記(4)の結果に基づいて、IL−8及びGM−CSFの発現量を減少させる被検物質を中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む中性エンドペプチダーゼ活性上昇抑制剤の評価又は選択方法。
【請求項3】
IL−8及びGM−CSFの産生抑制作用を指標とするしわ抑制剤の評価又は選択方法。
【請求項4】
以下の工程(1)〜(5):
(1)被検物質を表皮細胞と接触させる工程、
(2)当該細胞にB波長紫外線を照射する工程、
(3)当該細胞におけるIL−8及びGM−CSFの発現量を測定する工程、
(4)上記(3)で算出されたIL−8及びGM−CSFの発現量を、被検物質を細胞に接触させない対照群におけるIL−8及びGM−CSFの発現量と比較する工程、
(5)上記(4)の結果に基づいて、IL−8及びGM−CSFの発現量を減少させる被検物質をしわ抑制剤として評価又は選択する工程、
を含むしわ抑制剤の評価又は選択方法。
【請求項5】
被検物質が植物抽出物である請求項1〜4のいずれか1項記載の評価又は選択方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−38693(P2010−38693A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201022(P2008−201022)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】