説明

中性化を利用したコンクリート内のアルカリガスの発生を抑制する方法及びアルカリガスの発生を抑制した屋内のコンクリート構造物

【課題】屋内のコンクリート表面を中性化することで屋内空間へのアルカリガスの放出を抑制する方法、及び中性化促進措置を講じたコンクリート構造を提案する。
【解決手段】屋内でコンクリートが打設された後に当該コンクリートの表層部分を中性化することで、コンクリート内のアルカリガスの発生を抑制する方法であって、中性化の手段として、少なくとも、コンクリートの表層部分に接する空間にコンクリート中性化ガスを充填する行程と、その表層部分を、充填したコンクリート中性化ガスに暴露する行程とを含む

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性化を利用したコンクリート内のアルカリガスの発生を抑制する方法及びアルカリガスの発生を抑制した屋内のコンクリート構造物に関する。これらの方法及び構造物は、特に美術館などへの適用に適している。
【背景技術】
【0002】
硬化したコンクリートの表面からは、アンモニアを代表成分とするアルカリガスが発生することが知られており、このアルカリガスが油絵に含まれるアマニ油と反応して油絵が変色したり、工芸品を腐食させるなどの悪影響を及ぼす(図10参照)。
コンクリート中で生成されるアンモニウムイオンは、コンクリート中に含まれる水分に溶け込んでおり、図12に示すように、水分がコンクリート表面からの乾燥とともに表面へ移動し、この水分がコンクリート表面で蒸発するときに気化してアンモニアガスとなる。コンクリートの水分は、コンクリートが硬化してから1年から2年かけて蒸発が鈍化するので、アンモニアガスの発生の低減にも同程度の時間を要する。図11に新築後の美術館中でのアンモニアの室内濃度の変移を示す。許容されるアンモニア濃度を30ppb程度とすると、美術品を収蔵する美術館などを新築する際には、アンモニアガスの発生の低減を待つ枯らし期間を1〜2年程度みておく必要がある。従って工事竣工後すぐに開館できないという問題点があった。
これに対して、アンモニアなどのアルカリガスの発生を低減又は抑制するために、近年さまざまな方法が提案されている。
例えばアンモニアを発生する添加物の少ないセメント(早強ポルトランドセメント)や窒素酸化物の付着の少ない骨材をコンクリートの素材として選択したり、或いは窒素酸化物を除去するために骨材を加熱する方法が知られている(特許文献1)。
また天然骨材に代えて、人工骨材を用いてコンクリートからのガス放出量を少なくすることも提案されている(特許文献2)。
また活性炭・シリカ・ケイ酸カルシウムなどのアンモニア吸着物質を粒状にしてモルタル・コンクリートに添加する方法(特許文献3)も知られている。
さらにコンクリート壁の表面に、二酸化珪素・四価金属の水不溶性リン酸塩および二価金属の水酸化物を含むアンモニア捕捉物質を含有する仕上げ材を貼着することも行われている(特許文献4)。
【特許文献1】特開平10−287462号
【特許文献2】特開2006−36555
【特許文献3】特開2005−074405
【特許文献4】特開平11−159024
【特許文献5】特開2006−323593
【特許文献6】特許第3854253号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1から特許文献3のように建物に使用するコンクリートに対して、特別なコンクリートを用いたり、骨材を加熱処理したり、アンモニア吸着物質を添加する方法では、材料費が増大したり、製造工程が複雑となるため、コストに反映し、一般には用いられていない。これに対して、特許文献4のようにアンモニア捕捉作用を有する仕上げ材を用いるときには、コンクリート自体は普通のコンクリートでよい。しかし、美術館のように見た目の雰囲気を大切にする建物では、打ち放しのコンクリートが好まれる場合があり、仕上げ材を使用したのでは、コンクリートの表面を露出させることができない。
出願人は、この問題を鋭意検討し、従来コンクリートの劣化現象として捉えられた中性化を逆に利用するという着想を得た。コンクリート中の窒化物は高アルカリ環境化でしか加水分解反応しないからである。中性化を、屋内のコンクリート表層部分のみで促進するようにコントロールすることで、中性化層が形成され、屋内へのアンモニアガスの放出を抑制することができる。出願人の研究によれば、アンモニア放出抑制作用を担保するために、中性化層は3〜5mm程度でよいので、中性化処理をしてもコンクリート構造物の寿命にそれほど影響しない。また、必要であれば、中性化処理を施すコンクリート壁の厚さを増しておくこと(いわゆる増し打ち)を行うこともできる。従って予め3〜5mm程度の中性化層を形成することは許容範囲である。
本発明の目的は、屋内のコンクリート表面を中性化することで屋内空間へのアルカリガスの放出を抑制する方法、及び中性化促進措置を講じたコンクリート構造物を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の手段は、屋内でコンクリートが打設された後に当該コンクリートの表層部分を中性化することで、コンクリート内のアルカリガスの発生を抑制する方法であって、
中性化の手段として、少なくとも、
コンクリートの表層部分に接する空間にコンクリート中性化ガスを充填する行程と、
その表層部分を、充填したコンクリート中性化ガスに暴露する行程と、
を含む。
【0005】
本手段では、屋内のコンクリートを中性化ガスに暴露させることで、コンクリートの表層部分にのみ、アルカリガス抑制処置を施すことを提案している。コンクリートから発生するアルカリガスは、水分の蒸発とともにガス化するものである。従って、水分蒸発に影響の大きいコンクリート表層部分のアルカリガス発生を抑制すれば、ガスの濃度を目標濃度以下にすることができる。コンクリートの中性化現象は、コンクリートの表面から進行するから、表層部分を重点的に処置したいという設計者の要請に沿うものである。
この手段の利点は次の通りである。使用するコンクリート全部に活性炭や炭素繊維を混入する場合に比べてコスト面で有利である。コンクリートの表面のうちでも、屋内部分にのみ処置をすればよいので、更に効率がよい。屋外では、コンクリート表面から放出されたアルカリガスは大気中に拡散してしまうので、中性化促進措置を施す意味がない。
【0006】
「中性化ガス」とは、炭酸ガス(二酸化炭素ガス)などである。二酸化炭素などの中性化ガスの濃度は、高濃度であるほど中性化促進作用が大きいが、濃度が高いほど好適であるとは言えない。少なくともコンクリートを打設し、後述の養生期間が終了した時点で所定の厚さの中性化層が形成されれば十分である。図8の実験データによれば、二酸化炭素の濃度を5%程度とすることで、おおよそ養生期間内に所定の厚さの中性化層を得ることができる。これに関しては後述する。過剰に高濃度のガスを使用すると、作業の安全上問題であり、また中性化速度が予想より早く、中性化深度が目標値より深くなってしまったときに対応に窮する。本発明における中性化促進措置は、数年に亘る自然の中性化現象よりは速いものの、作業工程としては数日をかけて徐々に進行されることが望ましい。
中性化ガスを充填する行程では、屋内空間全体にガスを充填してもよいが、好適な図示例で示すように処置を行う対象であるコンクリート面から間隙を存して仮設仕切り壁を並置し、このコンクリート面と仮設仕切り壁との間の閉鎖空間に中性化ガスを充填してもよい。また閉鎖空間内の中性化ガスの濃度は、一定の暴露時間における中性化深度を左右するので、濃度管理を行うことが重要である。目標深度以上に中性化が進行すると、鉄筋に対するコンクリートの所定の被り厚が得られないからである。好適な一例として、ガス充填用空間にガスセンサを設置して濃度管理を行うことができる。もっとも中性化されてもコンクリートが本来有する圧縮強度が失われるわけではなく、中性化領域が鉄筋などに達しない限り、コンクリート構造物の強度が低下するものではない。
【0007】
中性化ガスにコンクリートを暴露する行程では、中性化ガスの濃度に対応して、中性化深度が目標深度に達したときに暴露を終了するように、暴露時間を設定することが望ましい。コンクリートの中性化はコンクリート中の水酸化カルシウムが大気中の二酸化炭素と結合して進行する(Ca(OH)+CO→CaCO+HO)。この現象については、従来から中性化の深度と暴露時間との関係を表す中性化方程式が知られている。ここで暴露時間を予測するためのおおよその考え方を示しておく。特許文献5では、中性化方程式としてc=A×t0.5を提案している。但し、cは中性化深度、Aは中性化係数、tは暴露時間である。中性化深度の目標値をcとすれば、目標深度に達するまでに要する時間tは、次の通りである。
[数式1]t=(c/A)
中性化係数Aは、水セメント比(W/C)に依存する性質A、コンクリートの属性Ap、仕上げ材の特性As、二酸化炭素や温湿度などの環境属性Aeを用いて、中性化係数を次のように表わしている(特許文献5の段落0020参照)。これらの係数は全て実験的に確認できる量である。
[数式2]A=A×Ap×As×Ae
さらに本手段として、コンクリートを工場で打設する行程を含めることも可能である。
【0008】
「現場打ち」に限定しているのは、工場打ちの場合には、通常蒸気養生の際に加熱されるためにアルカリガスの放出が活発となるからである。すなわち、現場でコンクリート材に特別な措置を講じなくてもアルカリガスの発生が少ない状態になっているのである。しかしながら、美術館などのように個性的な設計を要求される建物では、現場打ちのコンクリート建築の需要が多く、本手段の適用が要望される。なお、本手段の中性化促進措置をするときには、鉄筋から所定の被り厚に加えて中性化層の厚さの分だけコンクリートの厚さを増大させる増し打ちをすることが望ましい。
【0009】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
屋内のコンクリートにおける中性化深度が2mmから5mmの範囲で選択する目標深度に達するまで、コンクリート表層部分をコンクリート中性化ガスに暴露する。
【0010】
本手段では、好適な中性化層の厚さを提案している。2mmはアルカリガスの低減を期待できる最小限の厚さである。図9に示す実験データによれば、アンモニア放散量は、0.2mmから2mm程度までの範囲で急激に減少し、2mm以上ではほぼ同じ程度である。もっとも実際の施工上は中性化層の厚さにはある程度のばらつきが生ずることが予想されるから、厚さに余裕を持たせることが合理的である。本手段において中性化層の厚さの上限を5mmとしたのは、施工上の安全確保の理由である。中性化層を厚くするときには、コンクリートの被処理部分を打ち増しする必要があるが、その打ち増しの単位は通常10mm程度である。図8の実験例によれば中性化層の厚みには最大で2割程度のばらつきが生じている。従って打ち増しの最小単位の半分程度の厚さとすれば、場所により中性化の深度が深くなった箇所でも、打ち増しを考慮する前の本来のコンクリートの被り厚を担保することができる。
【0011】
第3の手段は、第2の手段を有し、かつ
上記コンクリート中性化ガスを二酸化炭素ガスとし、コンクリート表層部分に接する屋内空間部分における二酸化炭素ガスが占める容積比率を1.5%から10%としている。
【0012】
本手段では、作業の安全上の要請から二酸化炭素の濃度を限定している。高濃度の二酸化炭素を吸い込むと一瞬で意識を失うような事態になり、非常に危険である。10%の程度である場合に、意識不明に至るまでに約10分程度の時間があると言われている。従ってガス濃度が10%程度であれば、何かの手違いにより密閉空間内で二酸化炭素ガスを吸ってしまったとしても、その場所から退避することができる。他方、二酸化炭素の濃度が1.5%程度であれば、作業性および基礎的生理機能に影響を及ぼさずに長時間にわたって耐えることができる。ただしカルシウム・リン代謝に影響の出る場合がある。
【0013】
第4の手段は、第2の手段又は第3の手段を有し、かつ
上記コンクリートを打ち込む型枠を取り外した後コンクリートの養生期間の終了までの間にコンクリート表層部分をコンクリート中性化ガスに暴露させることを特徴とする。
【0014】
本手段では、養生期間中のコンクリートを中性化ガスに暴露させることを提案している。コンクリートは硬度を生ずるまで湿潤に保つ必要があるために、養生期間においては水分とともにアルカリガスが放出され易い。従って養生期間の後で中性化促進措置を施してもコンクリートの表層部分に含まれるアルカリガスのうち相当部分が屋内に放出されており、その後に収蔵した美術品にダメージを与えてしまう可能性がある。そこで養生期間中からコンクリートの中性化措置を行うのである。
好適な図8の実験データによれば、二酸化炭素ガス5%の濃度で7日間コンクリートの表面を暴露して、1回目は6.57〜7.84mm、2回目は7.15〜8.33%の中性化層を得た。ここでコンクリートの標準的な養生期間は、早強ポルトランドセメントで3日以上、普通ポルトランドセメントで5日以上、その他のセメントでは7日以上である。中性化層の厚さは3mm〜5mm程度あればよいから、養生期間が3〜7日以上である市販のコンクリートであれば、養生期間中に中性化促進措置を行うことは十分に可能であると考えられる。なお、養生期間中の全体に亘って中性化ガスの暴露をする必要はなく、所定の中性化深度を得るために必要な時間だけ処置を施せば足りる。
【0015】
第5の手段は、第4の手段のアルカリガスの抑制方法を利用して打設された屋内のコンクリート構造物であって、
養生期間が終了した時点で、表面からの深度が2mmから5mmの範囲で中性化されていることを特徴とする。
【0016】
本手段では、養生期間終了時に上記の中性化深度を有する現場打ちのコンクリート構造物を提案している。
【発明の効果】
【0017】
第1の手段に係る発明によれば次の効果を奏する。
○コンクリートの表層部分を中性化することで、アルカリガスを発生しにくい状態とすることができ、ガス発生量が抑制される。
○コンクリートの表層部分を対象とする処置であり、建物に使用するコンクリート全体にアルカリガス抑制措置をとる必要がないので、コスト面で有利である。
○コンクリートの表面を屋内に露出させることができるので、デザイン上の自由度が増大する。
【0018】
第2の手段に係る発明によれば、中性化深度が所定深さになるまでコンクリートを中性化ガスに暴露させるから、アルカリガス抑制効果が高まる。
第3の手段に係る発明によれば、炭酸ガスを用いて容積比率を1.5%から10%としたから、作業上の安全を確保できる。
【0019】
第4の手段に係る発明によれば、アルカリガスが発生し易い養生期間中に中性化を行うから、ガスの放出抑制効果が大きい。
【0020】
第5の手段に係る発明によれば、屋内のコンクリート構造物において養生期間が終了した時点で、表面からの深度が2mmから5mmの範囲で中性化したから、コンクリートの寿命を過度に短縮することなく、十分なアルカリガス抑制を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1に、本発明に係る中性化を利用してアルカリガスの発生を抑制したコンクリート造の建物の例を示す。
【0022】
図面中、1は、コンクリート造の建物である。簡単のために、建物の壁4、天井6、及び床8を構成するコンクリート構造物2は、一体のものとして表している。本発明では、このコンクリート構造物のうち屋内に臨む表層部分を中性化層10としている。
【0023】
コンクリート構造物2は、現場打ちで形成されたものである。
【0024】
中性化層10は、コンクリート中の水酸化カルシウムの中性化反応により形成されたCaCOの層である。その厚さは2〜5mm程度である。図3の例では、建物内部の鉄筋12に対するコンクリートの被り厚さDに対して中性化層10の厚さdは十分に小さいものとしている。またDに対して中性化層の厚さdが無視できないときには、図3に想像線で示す如くコンクリート構造物を巾Δd(≧d)だけ増し打ちするとよい。
【0025】
上記構成によれば、コンクリート構造物2のうち表層部分は、中性化層10となっているので、新たなアンモニウムイオンが発生しない。中性化層より内部ではアンモニウムイオンが発生するが、コンクリートの内部のアンモニウムイオンが表層まで拡散していくのには非常に時間がかかる。このため、アンモニアガスが室内へ放出される量が大幅に抑制される。
【0026】
次に中性化を利用してコンクリートからのアルカリガスの発生を抑制する方法の手順を説明する。
第1に、コンクリート構造物の設計段階では、コンクリートの素材の性状を検査し、どの程度の速度でコンクリートの中性化が進行するのかを調べておく。
言うまでもなく、過剰に中性化したコンクリートを元に戻すことは不可能であるから、暴露時間のコントロールは本発明において最重要の事項の一つである。既に述べた通り、目標深度を実現するための暴露時間は中性化方程式からc=A×t0.5から導かれる。しかし中性化の進行に関してはさまざまな形の実験式(例えば特許文献6に示すc=A×t0.5+B:Bは実験係数)が報告されており、或る程度の誤差が予測されるということを留意すべきである。従って建物の建築に使用するコンクリートそのものとできるだけ近い条件でコンクリート供試体の中性化試験を行っておくことが望ましい。
既述数式2で述べた如く中性化係数Aは、水セメント比に依存する係数A、コンクリートの属性に関する係数Ap、仕上げ材に関する係数As、二酸化炭素の濃度や温湿度などの環境属性に関する係数Aeの積として表される。従って各係数要件を実験時と実際の建物への適用時とで同じにすることが大切である。
【0027】
第2に、工事現場でコンクリートの打設を行う。鉄筋コンクリート造の場合には、鉄筋へのコンクリートの被り厚を確保するため、屋内の表層側を増し打ちすることが望ましい。また建物屋内のうち少なくとも同時に中性化促進措置をする箇所については、コンクリートの配合を同じとし、同濃度の二酸化炭素に暴露されたときに一定の速度で中性化するようにする必要がある。
【0028】
第3に、コンクリートの打設が完了した後には、建物内部を外気から遮断して密封する。このとき、建物内の適所に二酸化炭素ガスの濃度センサ14を設置しておくとよい。また数式2に示されるように中性化反応の進行とは温度や湿度とも関係があることから、高温・多湿期には建物内に温度計や湿度計を設定してもよい。さらに二酸化炭素のガス濃度を含めた内部環境が異常となったときには警報機が外部の工事関係者に対して警告を発するようなシステムとしてもよい。
【0029】
第4に、図4に示すように中性化ガス供給手段16を用いて、中性化ガス、ここでは二酸化炭素を建物内部に充填する。二酸化炭素の濃度は、容量比率で1.5%に保つようにしている。建物内部に設置した濃度センサ14は、二酸化炭素ガスの濃度の測定値を中性化ガス供給手段16にフィードバックし、二酸化炭素濃度が自動的に目標濃度になるように設けるとよい。
【0030】
第5に、コンクリートの養生と並行して、コンクリート構造物の表層部分を、一定の期間、二酸化炭素に暴露する。暴露期間は、前述の中性化方程式で予測し、かつ、同一配合の供試体による試験で確認しておくとよい。具体的には、ドリル削孔による方法のような微小な破壊による検査方法等で確認試験することが望ましい。
【0031】
第6に、コンクリート構造物の中性化深度が完了したら、建物内部を開放し、二酸化炭素ガスを排出する。この時点でコンクリート構造物の養生が完了していないときには、ひきつづき養生を行う。
【0032】
図5は、上記の手順の変形例であり、建物のコンクリート構造物2の内面から一定の距離を存して架設の仕切り壁18を並置し、仕切り壁とコンクリート構造物2の内面との間の密閉空間20内に二酸化炭素ガスなどの中性化ガスを充填するようにしたものである。この構成では、中性化ガスを充填する密閉空間と、それ以外の屋内空間とを切り離すために、屋内に人が自由に出入りし、かつ滞在することができる。
【実施例】
【0033】
実験1:弱酸の種類とアンモニアガス発生量の比較
(1)実験の組合せ
実験の組合せを次の表に示す。
[表1]


【0034】
(2)コンクリートの使用材料
実験に使用する材料を以下に示す。セメントは、窒化物の含有が多くアンモニアガス発生量が多いとされる高炉セメントを用いた。
1) セメント:太平洋セメント製 高炉セメントB種(BB) 密度3.04
2) 細骨材 :君津産山砂 密度2.63 吸水率1.59%
3) 粗骨材 :八王子産砂岩砕石 密度2.67 吸水率0.75%
4) 混和剤 :竹本油脂製 AE減水剤 EX-20
:竹本油脂製 AE助剤 AE-300
(3)コンクリートの配合
[表2]




【0035】
(3)試験体の概要と試験体作成方法
アンモニアガス発生量測定用の供試体22の作製には、直径150mm×高さ80mmのプラスチック製容器24を用い(図6)、容器は事前に超純粋で洗浄しておいた。
【0036】
コンクリート試料を2層に分けてほぼ等しい量で投入し、1層ごとにつき棒を用いて25回一様に突き固めた。2層目まで充填後、型枠の上端のコンクリートを取り除き、金鏝を用いて表面を均した。供試体は、1因子水準につき3体作製することとし、金鏝による成形の終わった供試体はラップにより上面を覆った上で蒸気養生槽に移し、60℃で5時間の蒸気養生を行なった。
【0037】
蒸気養生後はラップにて試験体を養生した状態で20℃-70%R.Hの恒温高湿槽にて材齢7日まで静置した。材齢7日目にコンクリート試験体を取り出し、所定の表面処理を実施した。
(4)コンクリート表面への処理実施手順
初期蒸気養生完了後にラップを取り外し、質量計測を行なった後材齢1日から所定の期間、炭酸ガス濃度を調整した恒温恒湿槽(20℃、R.H70%)内にて保管する。中性化深さについてはアンモニアガス発生量の測定が終了した後に測定する。
(5)コンクリート試験体のアンモニアガス測定方法
コンクリート試験体をデシケーターに設置して、アクティブ法による発生ガス捕集方法を図7に示す。デシケーターから排出されたガスはポンプまでの間に設置したインピンジャーの吸収液(純水)に溶解させてアンモニウムイオンを6時間で捕集した。アンモニウムイオンが溶解された吸収液は、イオンクロマトグラフィーで定量分析し、アンモニア発生量を算出した。
なお、上記実施形態は好適な一例であり、本発明の技術的意義に照らして適宜変更できることはいうまでもない。特に実施形態の中で述べた各部材の寸法・材質などは本発明の技術的理解を容易にするために挙げており、なんらそれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る中性化を利用してアルカリガスの発生を抑制したコンクリート構造物の全体構成図である。
【図2】図1のコンクリート構造物の一部の縦断面拡大図である。
【図3】図2の構造物の水平断面拡大図である。
【図4】本発明の方法の一工程を表す図である。
【図5】図4の工程の変形例を示す図である。
【図6】同方法に使用する試験体の斜視図である。
【図7】図1のコンクリート構造物に適用するアルカリガスの発生抑制方法に使用する中性化ガス製造装置の概略図である。
【図8】同実験の試験データを示す図である。
【図9】中性化深度とアンモニア放散量との関係を示す実験データである。
【図10】従来のコンクリート建物でのアンモニア放出の被害を示す図である。
【図11】従来の施工法での枯らし期間の説明図である。
【図12】図10での建物でのアンモニア放出の状態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0039】
1…建物 2…コンクリート構造物 4…壁 6…天井 8…床 10…中性化層
12…鉄筋 14…濃度センサ14…中性化ガス供給手段 18…仕切り壁
20…密閉空間 22…供試体 24…容器 26…キャリアガス供給手段
28…デシケーター 30…インピンジャー 32…イオンクロマトグラフィー
34…窓


【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内でコンクリートが打設された後に当該コンクリートの表層部分を中性化することで、コンクリート内のアルカリガスの発生を抑制する方法であって、
中性化の手段として、少なくとも、
コンクリートの表層部分に接する空間にコンクリート中性化ガスを充填する行程と、
その表層部分を、充填したコンクリート中性化ガスに暴露する行程と、
を含むことを特徴とする、中性化を利用したコンクリート内のアルカリガスの発生を抑制する方法。
【請求項2】
屋内のコンクリートにおける中性化深度が2mmから5mmの範囲で選択する目標深度に達するまで、コンクリート表層部分をコンクリート中性化ガスに暴露することを特徴とする、請求項1記載の中性化を利用したコンクリート内のアルカリガスの発生を抑制する方法。
【請求項3】
上記コンクリート中性化ガスを二酸化炭素ガスとし、コンクリート表層部分に接する屋内空間部分における二酸化炭素ガスが占める容積比率を1.5%から10%としたことを特徴とすることを特徴とする、請求項2記載の中性化を利用したコンクリート内のアルカリガスの発生を抑制する方法。
【請求項4】
上記コンクリートを打ち込む型枠を取り外した後コンクリートの養生期間の終了までの間にコンクリート表層部分をコンクリート中性化ガスに暴露させることを特徴とする、請求項2又は請求項3記載の中性化を利用したコンクリート内のアルカリガスの発生を抑制する方法。
【請求項5】
請求項4のアルカリガスの抑制方法を利用して打設された屋内のコンクリート構造物であって、
養生期間が終了した時点で、表面からの深度が2mmから5mmの範囲で中性化されていることを特徴とする、アルカリガスの発生を抑制した屋内のコンクリート構造物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−100454(P2010−100454A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271235(P2008−271235)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】