説明

中性子シンチレータ用酸化物結晶及びこれを用いた中性子シンチレータ

【課題】中性子線に対し高感度で、γ線に由来するバックグラウンドノイズが少なく、且つ、中性子シンチレータに使用可能な透明性に優れた酸化物結晶の提供を目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、下記式(1)に示す構造式を備え、且つ、10B含有量が1.85atom/nm以上であることを特徴とする中性子シンチレータ用酸化物結晶等を採用する。
RE:Ca(BO・・・(1)
但し、上記式(1)において、REは希土類元素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、中性子シンチレータ用酸化物結晶及びこの中性子シンチレータ用酸化物結晶を用いた中性子シンチレータに関する。主に、中性子シンチレータ用酸化物結晶として、ボレート系酸化物結晶を採用する。
【背景技術】
【0002】
従来から、中性子シンチレータとして、Liガラスシンチレータ、LiF/ZnSセラミックスシンチレータが用いられてきた。ところが、ガラスシンチレータは、その製作工程に大きな困難が伴うため、製造費用が高価で、大型化するにも一定の限界があった。そして、一方では、セラミックスシンチレータは、透明なバルク体でないが故に、厚くして使用することが困難であり、中性子の検出感度を向上させるという意味での限界があった。
【0003】
これに対し、酸化物結晶を用いた中性子シンチレータは、加工が容易であり、大型のシンチレータを安価に製造できるという利点がある。この酸化物結晶を用いた中性子シンチレータを例示すれば、特許文献1に開示されているようなリチウムボレート結晶からなる中性子シンチレータが提案されている。
【0004】
ところが、当該リチウムボレート結晶からなる中性子シンチレータは、発光量が少なく、また、中性子線をα線に変換するパスが複数あるため、実際に中性子用検出器に搭載され、市場を流通するには至っていない。
【0005】
一方で、リチウムボレート結晶を構成するボレート材料は、希土類を含んでおり、特許文献2に開示されているように、テレビモニタ等のディスプレイ用の蛍光体として、広く利用されているものであり、該リチウムボレート結晶からなる中性子シンチレータへの転用も考慮されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−183637号公報
【特許文献2】特開2007−161891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献2に開示されている「ディスプレイ用の蛍光体」としてのボレート材料を、中性子シンチレータとして使用することは、以下の問題より困難である。当該ボレート材料は、中性子と反応する成分の含有濃度が極めて微量であり、中性子シンチレータとして要求される性能を発揮することが出来ない。また、特許文献2に開示されている如きボレート材料は、粉体又は薄膜の状態で用いられており、透明性の無いバルク体であるため、中性子シンチレータとして厚みを増加させて、中性子の検出感度を向上させるという用途には不向きである。
【0008】
そこで、本件発明者等は、Ceをドープした酸化物結晶(YCaO(BO結晶等)について、その中性子シンチレータとしての応用を試みるべく、鋭意研究を行ってきた。ところが、紫外線励起発光を用いた発光特性の評価や中性子線の模擬実験としてのα線照射下でのシンチレーション特性の評価では、中性子シンチレータとして実用化可能な程度まで酸化物結晶を得るには至らなかった。
【0009】
以上に述べてきたことから理解できるように、安価な酸化物結晶であり、中性子線に対する感度が高く、且つ、γ線に由来するバックグラウンドノイズが少なく、バルクが透明体となり、中性子シンチレータに使用可能なものが望まれてきた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者等は、酸化物結晶内に存在するBに着目し、鋭意研究を行った結果、中性子線に対する感度が高く、且つ、γ線に由来するバックグラウンドノイズが少なく、中性子シンチレータとして使用可能な酸化物結晶に想到した。なお、当該酸化物結晶の中性子シンチレータとしての評価は、α線照射実験による模擬実験により評価した。以下、本件発明の概要に関して述べる。
【0011】
中性子シンチレータ用酸化物結晶: 本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶は、中性子シンチレータの製造に用いる酸化物結晶であって、下記式(1)に示す構造式を備え、且つ、10B含有量が1.85atom/nm以上であることを特徴とする。但し、下記式(1)において、REは希土類元素である。
RE:Ca(BO・・・(1)
【0012】
また、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶において、上記REはCe又はPrであることが好ましい。
【0013】
中性子シンチレータ: 本件発明に係る中性子シンチレータは、上述の中性子シンチレータ用酸化物結晶を用いて得られる点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶は、「希土類元素」と、Bとしての「10B」とを同時に含有することで、中性子線に対する感度が良好で、γ線に由来するバックグラウンドノイズが少なくなる。しかも、本発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶は、透明性に優れているため、中性子シンチレータの厚みを増加させて、中性子の検出感度を向上させるという用途に好適である。そして、本発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶は、製造コストが安価で、且つ、加工性能も良好である。従って、本発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶を用いた中性子シンチレータは、安価で高品質の製品となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】α線を励起源としたCe:Ca(BOで表される中性子シンチレータ用酸化物(ボレート系酸化物)の単結晶の発光スペクトルである。
【図2】Ce:Ca(BO単結晶の透過スペクトルである。
【図3】120nm〜370nmの波長領域におけるCa(BOの単結晶の透過スペクトルである。
【図4】α線を励起源としたPr:Ca(BO単結晶の発光スペクトルである。
【図5】Pr:Ca(BO単結晶の透過スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶の形態及び中性子シンチレータの形態に関して述べる。
【0017】
中性子シンチレータ用酸化物結晶の形態: 本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶は、中性子シンチレータの製造に用いる酸化物結晶であって、下記式(1)に示す構造式を備え、且つ、10B含有量が1.85atom/nm以上であることを特徴とする。
RE:Ca(BO・・・(1)
但し、上記式(1)において、REは希土類元素である。
【0018】
上記式(1)で示す構造式を備える酸化物結晶において、最も重要な元素成分であるBに関してのべる。B(ホウ素)は、中性子と反応する成分として機能する。そして、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶におけるB(ホウ素)は、「10B」を選択的に使用する点に特徴がある。このように「10B」を選択的に当該酸化物結晶の構成元素として用いることによって、中性子と反応した際の十分な発光量を、安定して得ることができるようになる。
【0019】
このときの本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶に対する「10B含有量」は、中性子線の検出感度に大きく影響する。「10B」は、ホウ素の同位体の一種であり、通常のBの中には、一定量しか存在しない。しかし、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶の場合には、この「10B含有量」が多いほど、中性子線の検出感度が向上するため好ましい。上記式(1)で示す構造式を備える酸化物結晶のストイキオメトリ(化学量論的組成)を満足させる範囲において、「B」としてのトータル含有量の最大値は化学量論比で定まる。この中で「B」のどの程度を、「10B」に置き換えるかで、中性子シンチレータ用酸化物結晶として使用できるか否かが決まる。
【0020】
上述の式(1)で示す酸化物結晶の場合、「10B含有量」は1.85atom/nm以上として用いる。当該下限値未満の「10B含有量」の場合には、中性子シンチレータとして用いた場合に、中性子と反応した際の発光量が不十分となるからである。この下限値程度の「10B含有量」を有する中性子シンチレータ用酸化物結晶は、特別に10B含有率を高めたホウ素原料を用いることなく、ボレート系酸化物結晶の種類を選択することによって製造できるという、製造上の利点もある。また、中性子線に対する感度を高めるためにも、当該「10B含有量」が、1.85atom/nm以上であることがより好ましい。
【0021】
なお、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶の場合、「10B含有量」とは中性子シンチレータ用酸化物結晶1nmあたりに含まれる10B元素の個数をいう。この「10B含有量」は、あらかじめシンチレータの密度、シンチレータ中のB元素の質量分率、及びボロン原料の「10B含有率」を求め、以下の数1に代入し、計算することによって算出できる。
【0022】
【数1】

【0023】
この10B含有量は、上述の式(1)で示す構造式を備える酸化物結晶を採用するかを選択し、この酸化物結晶の製造に用いるB等のホウ素原料の備える「10B含有率」を調整することによって、適宜調整できる。ここで、「10B含有率」とは、全ホウ素元素(100wt%)に対する「10B同位体」の元素比率であって、天然のホウ素では、約19.92wt%である。
【0024】
よって、天然のホウ素原料であるB等は、そこに含まれる「10B含有率」を調整して用いることが好ましい。この「10B含有率」の調整方法としては、「天然の同位体比を有する汎用原料を出発原料として用い、10B同位体を所望の10B含有率まで濃縮調整する方法」、「既に10B濃度が、所望の10B含有率以上に濃縮された濃縮原料を入手し、該濃縮原料と前記汎用原料とを混合して希釈調整する方法」のいずれを採用しても構わない。
【0025】
そして、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶は、アルカリ土類金属元素であるCaを含有している。Caを用いることにより、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶としての品質安定性を高め、中性子と反応した際に十分な発光量を得ることが出来るためである。
【0026】
次に、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶が含有する「希土類元素」に関して述べる。この希土類元素が、中性子線を検出したときに発光する際の発光中心となる。この希土類元素の種類に関しては、特段の限定は無く、希土類に分類される成分の殆どの使用が可能である。例えば、所望の発光波長、発光強度及び発光寿命に応じて、適宜選択使用することが可能である。しかしながら、特に、上述のCaと組み合わせた場合を考慮すると、Ce又はPrを用いることが好ましい。上述のCaと組み合わせて、ここに述べたCe又はPrを「希土類元素(RE)」として用いることにより得られる酸化物結晶は、中性子シンチレータとして用いたときの発光強度が高く、又、蛍光寿命が短くなるためである。発光強度が高く、且つ、蛍光寿命が短いという本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶の特性は、例えば、PET(陽電子断層撮影)装置に適用する中性子シンチレータ用酸化物結晶として好適である。すなわち、PET装置に本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶を採用することにより、タイムゲートの短縮化、Time−Of−Flight(TOF)情報の利用の可能性の向上等により、PET装置の画像解像度の飛躍的な向上に寄与することができる。
【0027】
以上に述べてきた中性子シンチレータ用酸化物結晶は、ボレート系酸化物結晶である。そして、このボレート系酸化物結晶には、単結晶体及び多結晶体が存在する。しかし、中性子シンチレータとして用いる酸化物結晶としては、単結晶体であることが好ましい。なぜなら、多結晶体に比べて、単結晶体は、非輻射過程による発光ロスが顕著に少なく、発光強度の高い中性子シンチレータを得ることができるからである。
【0028】
また、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶(ボレート系酸化物結晶)は、無色〜僅かに着色した有色透明の範囲にある透明度を備える結晶である。このように良好な透明性を備える中性子シンチレータ用酸化物結晶であっても、良好な化学的安定性を発揮し、通常の中性子の検出使用において、短期間での性能の劣化はなく、良好な蛍光寿命を備えている。
【0029】
更に、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶は、良好な機械的強度を備えているため、その取り扱い性能も良好である。しかも、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶は、研削加工、研磨加工等の機械加工性も良好であり、低い加工コストで所望の形状として用いることができる。この加工を行うにあたり、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤等を、何ら制限無く使用する事が可能ある。以下、本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶の製造方法に関して、簡潔に述べておく。
【0030】
本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶の製造方法に関しては、特段の限定は無い。従って、公知の結晶製造法を任意に選択することも可能であるが、「マイクロ引き下げ法」、「チョクラルスキー法」のいずれかを採用することが、得られる酸化物結晶の透明性の確保、及び、製造安定性の観点から好ましい。特に、「マイクロ引下げ法」を用いれば、酸化物結晶を中性子シンチレータ用として用いる特定の形状として直接製造することが可能で、しかも、製造時間が短時間で済むため好ましい。一方、「チョクラルスキー法」の場合には、直径が数インチの大型結晶を安価に製造することが可能であるため好ましい。
【0031】
中性子シンチレータの形態: 本件発明に係る中性子シンチレータは、上述の中性子シンチレータ用酸化物結晶を用いて得られる点に特徴を有する。そして、本件発明に係る中性子シンチレータは、光電子増倍管等の光検出器と組み合わせることによって、効率の良い中性子検出器として用いることができる。即ち、中性子線を検出した中性子シンチレータ用酸化物結晶から発せられた光(以下、「シンチレーション光」という)を、光検出器によって電気信号に変換することによって、中性子線の有無及び強度を電気信号として捉えることができる。
【0032】
本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶を用いた中性子シンチレータと光検出器とを組み合わせて使用する具体的な方法としては、例えば、光電子増倍管の光電面に、当該中性子シンチレータを光学グリース等で接着し、該光電子増倍管に高電圧を印加して、光電子増倍管より出力される電気信号を観測する方法が挙げられる。なお、上記光電子増倍管より出力される電気信号を利用して中性子線の強度等を解析する目的で、光電子増倍管の後段に増幅器や多重波高分析器等を設けても良い。
【0033】
以下、本発明の内容を実施例を挙げて、具体的に説明する。なお、本件発明が包含する技術的思想は、これらの実施例に限定解釈されるべきものでは無いことを、念のために明記しておく。
【0034】
以下、実施例に関して述べるが、実施例で用いた単結晶製造装置の概要に関して、先に述べることとする。
【0035】
使用した単結晶製造装置の概要: 本件発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶の製造には、「マイクロ引下げ法」を用い、高周波誘導加熱による雰囲気制御型マイクロ引下げ装置を用いた。このマイクロ引下げ装置は、坩堝と、坩堝底部に設けた細孔から流出する融液に接触させる種を保持する種保持具と、種保持具を下方に移動させる移動機構と、該移動機構の移動速度制御装置と、坩堝を加熱する誘導加熱手段とを具備した単結晶製造装置である。
【0036】
該坩堝は、カーボン、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金を用いて製造されたものであり、坩堝底部の外周にカーボン、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金からなる発熱体であるアフターヒータを配置している。そして、坩堝及びアフターヒータは、誘導加熱手段の出力調整により、発熱量の調整を可能とすることによって、坩堝底部に設けた細孔から引き出される融液の固液境界領域の温度及びその分布の制御を可能とした。
【0037】
該坩堝を収容するチャンバーの材質にはSUS、窓材にはSiOを採用し、雰囲気制御を可能にするため、ローターリポンプを具備し、ガス置換前において、チャンバー内の真空度を1×10−Torr以下とした。また、チャンバー内へは、付随するガスフローメータにより精密に調整された流量でAr、N、H、Oガス等を導入できるものを採用した。
【0038】
この装置を用いて、原料を坩堝に入れ、炉内を高真空排気した後、Arガス、ArガスとOガスとの混合ガスのいずれかを炉内に導入することにより、炉内を不活性ガス雰囲気もしくは低酸素分圧雰囲気とし、高周波誘導加熱コイルに高周波電力を徐々に印加することにより坩堝を抵抗加熱して、坩堝内の原料を融解する。また、組成を均一に保つ目的及び長尺化の目的で、原料の連続チャージ用機器を用いても構わない。
【0039】
単結晶成長手順の概要: 以上に述べた単結晶製造装置を用いて、次のような手順で結晶を成長させた。種結晶を、所定の加熱速度で徐々に温度上昇させ、その先端を坩堝下端の細孔に接触させて充分に馴染ませる。十分に馴染んだら、融液温度を調整しつつ、引下げ軸を下降させることで、結晶を成長させていく。種結晶としては、特段の限定は無いが、結晶成長対象物と同等ないしは、構造及び組成ともに近いものを使用することが好ましい。また、種結晶として、結晶方位の明確なものを使用することが好ましい。そして、坩堝内の材料が全て結晶化し、融液が無くなった時点で単結晶成長を終了する。
【実施例1】
【0040】
以下、具体的実施例に関して、中性子シンチレータ用酸化物結晶の製造、中性子シンチレータの製造、中性子シンチレータ性能の評価の順で説明する。
【0041】
中性子シンチレータ用酸化物結晶の製造: 上述の「マイクロ引き下げ法」により、高周波の出力を調整しながら、0.1mm/minの速度で、ボレート系酸化物である中性子シンチレータ用酸化物結晶(Ce:Ca(BO)の単結晶の製造を行った。但し、このとき用いたホウ素原料は天然のBであり、その10B含有量は1.85atom/nmであった。得られた当該中性子シンチレータ用酸化物結晶は、断面が4m角、長さが10mmのサイズであり、白濁及びクラックの無い良質な単結晶体であった。
【0042】
中性子シンチレータの製造: 以上のようにして得られた中性子シンチレータ用酸化物結晶体を、ダイヤモンドワイヤーを備えるワイヤーソーを用いて、15mmの長さに切断した後、研削及び鏡面研磨を行い、長さ15mm×幅2mm×厚さ1mmの形状に加工し、これを中性子シンチレータとして用いた。
【0043】
中性子シンチレータ性能の評価: 上述のようにして得られた中性子シンチレータの性能を、以下の方法によって評価した。
【0044】
まず、Edinburgh Instruments社製のFLS920を用い、241Am−Beを、当該中性子シンチレータに直接接触させることにより、α線を励起源として発光強度及び透過率を測定した。図1に、Ceを0.1mol%及び0.5mol%の濃度でそれぞれドープさせたときのCe:Ca(BOの単結晶の発光スペクトルをCeがドープされていないCa(BOと共に示す。また、図2に当該Ce:Ca(BOの単結晶の透過スペクトルを示す。また、図3に、120nmから370nmの波長領域におけるCa(BOの単結晶の透過スペクトルを示す。なお、図3に示すように、Ca(BOの吸収端は175nmであった。
【0045】
図1及び図2に示すように、希土類元素であるCeをドープさせることにより、Ce+イオンの5d−4f遷移に起因する発光スペクトルが明確に確認される。図1に示すように395nm付近に発光ピークが見られた。また、Ce+イオンをドープさせる濃度が高い方が発光強度が高いことが確認できる。
【実施例2】
【0046】
実施例1において、ドープする希土類元素をCeからPrに変更した以外は、実施例1と同様の手順及び方法で本件発明に係る中性子シンチレータを得た。図4に、Prを0.5mol%の濃度でドープさせたときのPr:Ca(BOの単結晶の発光スペクトルを示す。また、図5に、当該Pr:Ca(BOの単結晶の透過スペクトルを示す。図4及び図5に示すように、希土類元素であるPrをドープさせることにより、Pr+イオンの5d−4f遷移に起因する発光スペクトルが明確に確認された。発光ピークは、図4に示すように260nm付近に見られた。
【0047】
実施例1及び実施例2で得た中性子シンチレータは、いずれも300nm前後で発光ピークを示すことから、光電子倍増管での検出が可能であることが確認できた。また、ホストとしてCa(BOを用い、且つ、10B含有量が1.85atom/nmとし、希土類元素REとして、Ce又はPrの3価のイオンを用いることにより、これらの希土類イオンの5d−4f遷移に起因する短寿命の発光が認められた。従って、RE:Ca(BOで表される構造式を備え、且つ、10B含有量を1.85atom/nm以上とすることにより、中性子線に対する感度が高く、且つ、γ線に由来するバックグラウンドノイズが少なく、中性子シンチレータとして使用可能な酸化物結晶を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶は、中性子線に対する感度が良好で、γ線に由来するバックグラウンドノイズが少なく、且つ、透明性に優れたものである。更に、製造コストも安価で、加工コストも削減可能であることから、本発明に係る中性子シンチレータ用酸化物結晶を用いた中性子シンチレータは安価な価格で高品質の製品と言える。この本件発明に係る中性子シンチレータは、各種非破壊検査等の工業分野、所持品検査等の保安分野においての使用に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子シンチレータの製造に用いる酸化物結晶であって、下記式(1)に示す構造式を備え、且つ、10B含有量が1.85atom/nm以上であることを特徴とする中性子シンチレータ用酸化物結晶。
RE:Ca(BO・・・(1)
但し、上記式(1)において、REは希土類元素である。
【請求項2】
前記希土類元素REは、Ce又はPrである請求項1に記載の中性子シンチレータ用酸化物結晶。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の中性子シンチレータ用酸化物結晶を用いたことを特徴とする中性子シンチレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−67246(P2012−67246A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215136(P2010−215136)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(392028099)日本結晶光学株式会社 (13)
【Fターム(参考)】