説明

中性子用シンチレーターおよび中性子検出器

【課題】 中性子を感度良く検出することができ、且つ、γ線に由来するバックグラウンドノイズの影響が少ない中性子用シンチレーター並びに当該中性子シンチレーターを使用した中性子検出器を提供する。
【解決手段】 少なくともMg及び2価遷移元素を含むホウ酸塩(化学式Mgm+3n/2(ただし、m及びnは正の整数を表わす)で表わされるホウ酸塩に、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZn等の2価遷移元素が添加されたもの等)からなることを特徴とする中性子用シンチレーターである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ酸塩からなる中性子用シンチレーター、及び当該中性子用シンチレータ
【0002】
ーと光検出器を具備してなる中性子検出器に関する。詳しくは、少なくともMg及び2価遷移元素を含むホウ酸塩からなることを特徴とする中性子用シンチレーターに関する。
【背景技術】
【0003】
中性子検出器は、中性子利用技術を支える要素技術であって、貨物検査等の保安分野、工業用非破壊検査分野、或いは中性子回折による構造解析等の学術研究分野等における中性子利用技術の発展に伴い、より高性能な中性子検出器が求められている。
【0004】
中性子検出器に求められる主たる性能は、中性子に対する検出効率、並びに中性子とγ線との弁別能(以下、n/γ弁別能ともいう)である。検出効率とは中性子源から放出され、検出器に入射した中性子量に対する検出器で検出した中性子量の比である。n/γ弁別能とは、γ線に由来するバックグラウンドノイズに対する中性子検出信号の比である。γ線は、中性子を検出するための検出系の構成部材、或いは被検査対象物に含まれるFe(鉄)、Pb(鉛)、Cd(カドミウム)、C(炭素)、N(窒素)等の元素に中性子が当たった際に発生し、n/γ弁別能が低いと、中性子と被検査対象物との相互作用を反映しない信号が混入し、所謂バックグラウンドノイズが増大する。
【0005】
中性子は物質中で何の相互作用もせずに透過する力が強いため、中性子線の検出は、一般に中性子をエネルギーをもった荷電粒子に速やかに変換する中性子捕獲反応を利用して検出される。例えば、He同位体による中性子捕獲反応を利用して、エネルギーをもった荷電粒子であるプロトン及びトリトンに変換して中性子を検出するHe検出器が従来から知られている。この検出器は、検出効率が高くn/γ弁別能にも優れるが、Heは非常に高価な物質であり、近年、資源の枯渇が問題となっている(非特許文献1参照)。
【0006】
昨今、上記He検出器の代替検出器として、中性子用シンチレーターを用いた検出器の開発が進められている。中性子用シンチレーターとは、中性子が入射したときに発光する物質のことをいい、当該シンチレーターを使用する中性子検出器の前記各種性能は、シンチレーターを構成する物質に依存する。例えば、シンチレーターの中性子に対する検出効率は、中性子捕獲反応を成し得る同位体の含有量に依存する。また、n/γ弁別能はシンチレーターの密度及び有効原子番号に依存し、該シンチレーターの密度及び有効原子番号が小さい場合には、γ線と相互作用する確率が減少し、γ線に由来するバックグラウンドノイズを低減することができる。
【0007】
これまでに中性子用シンチレーターとしてLi含有ガラスやLiとZnS(Ag)で被覆されたプラスチックファイバー等が開発されているが、中性子に対する検出効率、並びにn/γ弁別能には、未だ改善の余地があった(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Richard T. Kouzes, et al., “Neutron detection alternatives to 3He for national security applications”,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 623(2010)1035−1045.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、中性子を感度良く検出することができ、且つ、γ線に由来するバックグラウンドノイズの影響が少ない中性子用シンチレーター並びに中性子検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、中性子を感度良く検出することを目的として、中性子捕獲反応の効率に優れる10B同位体に着目し、該10B同位体を含有するホウ酸塩を中性子用シンチレーターとして応用すべく種々検討した。その結果、Mgを含むホウ酸塩に2価遷移元素を含めることによって、γ線に由来するバックグラウンドノイズの影響が少なく、且つ高輝度な発光を呈するシンチレーターが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、少なくともMg及び2価遷移元素を含むホウ酸塩からなることを特徴とする中性子用シンチレーターが提供される。
【0012】
また、本発明によれば、上記中性子用シンチレーター、及び光検出器を具備することを特徴とする中性子検出器が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中性子を感度良く検出することができ、且つ、γ線に由来するバックグラウンドノイズの影響が少ない中性子用シンチレーターを提供できる。かかる中性子用シンチレーターを用いた中性子検出器は、貨物検査等の保安分野、工業用非破壊検査分野、或いは中性子回折による構造解析等の学術研究分野等で好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本図は、実施例1の中性子検出器で測定した電圧−電流特性を示す図である。
【図2】本図は、実施例2の中性子検出器で測定した電圧−電流特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の中性子用シンチレーターは、少なくともMg及び2価遷移元素を含むホウ酸塩
【0016】
からなる。当該中性子用シンチレーターは、中性子の入射によって、以下の過程に基づくシンチレーション光を発して中性子シンチレーターとして機能する。まず、中性子がシンチレーターに入射すると、中性子がシンチレーター中の10B同位体と中性子捕獲反応を起こして2次粒子であるα粒子及びLiを生じる。次いで、シンチレーターが前記2次粒子によって励起され、2価遷移元素を介して基底状態に戻る際にシンチレーション光を発する。
【0017】
すなわち、10B同位体は中性子捕獲反応を利用して中性子を検出するための必須成分であり、本発明では、該10B同位体の安定な化合物としてホウ酸塩を用いる。ホウ酸塩以外のホウ素化合物は、化学的安定性や生体に対する安全性に乏しく、実用上の問題が生じる。
【0018】
10B同位体の天然存在比は約20%と高いため、一般に入手可能な天然のホウ素からなるホウ酸塩を本発明に用いることができるが、中性子に対する検出感度をさらに高めるため、ホウ素の10B同位体比を天然存在比以上に高めたホウ酸塩を用いることが好ましい。かかるホウ素の10B同位体比は50%以上とすることが好ましく、90%以上とすることが特に好ましい。
【0019】
本発明の中性子用シンチレーターは、前記ホウ酸塩の中でもMg及び2価遷移元素を含むホウ酸塩からなることを特徴とする。当該Mg及び2価遷移元素を含むホウ酸塩において、Mgを含むホウ酸塩はホウ酸塩母材であり、2価遷移金属は該ホウ酸塩母材に添加される添加剤であって、シンチレーション光を発するための発光中心元素として作用する。
【0020】
かかるホウ酸塩母材は、化学的に安定で、且つ、Mgが2価遷移元素に対する置換サイトとなり、2価遷移元素をホウ酸塩に含有せしめることが容易である。また、Mgは原子番号が小さいため、γ線に由来するバックグラウンドノイズの影響を低減することができる。
【0021】
ホウ酸塩母材の内、化学式Mgm+3n/2(ただし、m及びnは正の整数を表わす)で表わされるホウ酸塩母材が本発明に好適に使用できる。前記化学式中、m及びnの上限は特に制限されないが、それぞれ10以下が一般的である。前記ホウ酸塩母材の中でも、MgB、Mg及びMg10B同位体の含有量を高めることができ、特に好ましい。
【0022】
本発明において、2価遷移元素は上記したように発光中心元素として作用する。すなわち、中性子と10B同位体との中性子捕獲反応で生じた2次粒子によってシンチレーターが励起された後、2価遷移元素における電子遷移を介して基底状態へ緩和する際に発光が生じる。したがって、該2価遷移元素を含まない場合には発光の輝度は微弱となり、シンチレーターとしての使用に耐えない。
【0023】
該2価遷移元素の中でも、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnが、原子番号が小さいため、γ線に由来するバックグラウンドノイズの影響を低減することができ、本発明において好適に採用できる。なお、本発明の中性子検出器において、光検出器としてシリコン受光素子を用いる場合には、前記2価遷移元素の内、Mnを用いることが最も好ましい。Mnは赤色の波長領域における発光を呈し、該波長領域でシリコン受光素子の光検出感度が高いため、光検出器の信号出力を高めることができる。
【0024】
前記2価遷移元素は、前記Mgを含むホウ酸塩中のMgの一部を置換することによって、ホウ酸塩中に含有される。なお、本発明においてはホウ酸塩中にMgと2価遷移元素の両方を含むことが必須であり、2価遷移元素でMgを全部置換すると、濃度消光によって2価遷移元素の発光が著しく減弱するという問題が生じるため、本発明では採用されない。2価遷移元素をホウ酸塩中に含有せしめる際に、2価遷移元素でMgを置換する割合は、0.001〜0.5とすることが好ましい。かかる割合を0.001以上とすることによって、2価遷移元素による発光の輝度を十分に高めることができ、また、0.5以下とすることによって、濃度消光による2価遷移元素の発光の減弱を避けることができる。
【0025】
以上の説明から理解されるように、本発明において、少なくともMg及び2価遷移元素を含むホウ酸塩が、化学式(AMg1−x)B、(AMg1−x、及び(AMg1−xのいずれかで表わされるホウ酸塩(ただし、AはCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれる少なくとも一つの2価遷移元素を示し、xは0.001〜0.5の数値を示す)である中性子シンチレーターが好ましい態様である。
【0026】
本発明において、前記要件に加えて、さらにLiを含むホウ酸塩を用いることが好ましい。Liに含まれるLi同位体は、ホウ素と同様に中性子捕獲反応の効率が高いため、Liを含むホウ酸塩を用いることによって、さらに中性子に対する検出感度が向上する。
【0027】
Li同位体の天然存在比は約7%であり、一般に入手可能な天然のLiを本発明に用いることができるが、中性子に対する検出感度をさらに高めるため、LiのLi同位体比を天然存在比以上に高めることが好ましい。かかるLiのLi同位体比は50%以上とすることが好ましく、90%以上とすることが特に好ましい。
【0028】
Liをさらに含むホウ酸塩母材として、化学式LiMgl/2+m+3n/2(ただし、l、m及びnは正の整数を示す)が本発明に好適に使用できる。前記化学式中、l、m及びnの上限は特に制限されないが、それぞれ10以下が一般的である。前記ホウ酸塩母材の中でも、LiMgBO、LiMgB及びLiMgB10B同位体及びLi同位体の含有量を高めることができ、特に好ましい。
【0029】
当該Liをさらに含むホウ酸塩に含有せしめる2価遷移元素の種類及び2価遷移元素でMgを置換する割合は前記と同様であり、したがって、本発明において、化学式Li(AMg1−x)BO、Li(AMg1−x)B、及びLi(AMg1−x)Bのいずれかで表わされるホウ酸塩(ただし、AはCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれる少なくとも一つの2価遷移元素を示し、xは0.001〜0.5の数値を示す)である中性子シンチレーターが好ましい態様である。
【0030】
本発明の中性子用シンチレーターは、結晶、またはガラスとして用いることができるが、一般には結晶として製造され、好適に使用される。結晶の中でも、多結晶焼結体からなる中性子用シンチレーターは安価に製造することができ、本発明に好適に使用できる。一方、単結晶からなる中性子用シンチレーターは粒界における光の散逸を生じることなく高い発光強度を得ることができるため、本発明に好適に使用できる。
【0031】
本発明の中性子用シンチレーターは、光検出器と組み合わせることによって、中性子検出器として使用できる。
【0032】
本発明で用いる光検出器には特に制限はなく、アバランシェフォトダイオード等のシリコン受光素子、或いは光電子増倍管等の従来公知の光検出器を好適に使用できる。
【0033】
前記光検出器の中でも、シリコン受光素子は、安価に入手することができ、また、微細化した受光素子をアレイ状に配列して位置敏感型光検出器とすることが容易であるため、好ましい。かかるシリコン受光素子として、一例を挙げるとアバランシェフォトダイオード(浜松ホトニクス社製、S8664シリーズ)等が好適である。
【0034】
本発明の中性子用シンチレーターを前記シリコン受光素子等の受光面に、透明シリコングリース等の任意の光学グリースを用いて接着して本発明の中性子検出器とすることができる。該検出器は任意の電流測定器(例えばピコアンメーター)に接続して電流値の変化を調べ、受光量の変化に応じた電流値の変化を確認することができる。その際に受光感度を向上させる目的で、シリコン受光素子には逆バイアス電圧を印加してもよく、その場合、電圧または電流の印加と測定を同時に行うことのできる計測器(例えば、KEITHLEY 237 HIGH VOLTAGE SOURCE MEASURE UNIT)を用いてもよい。印加する逆バイアス電圧の値は、シリコン受光素子の性能や測定する中性子の照射量に応じて設定することが好ましい。設定した逆バイアス電圧における熱中性子の照射量と電流値の関係を事前に測定しておくことで、定量性を有する中性子検出器として用いることもできる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって
【0036】
何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0037】
実施例1
〈中性子用シンチレーターの製造〉
本実施例では、中性子用シンチレーターとして(Mn0.05Mg0.95の多結晶焼結体を製造した。
【0038】
原料として、MnO、MgO及びHBOを用いた。各原料の純度は、それぞれ99.9%、99.9%及び99.99%であり、HBO10B同位体比は95%であった。前記各原料の粉末をモル比でMnO:MgO:HBO=0.05:0.95:1となるように秤量し、メノウ乳鉢中で粉砕混合した後、圧縮プレスして直径8mm、厚さ2.5mmのペレットを作製した。
【0039】
当該ペレットをPt板上におき、200℃/hrの昇温速度で1000度まで加熱した後、1000℃で24時間焼成した。なお、かかる焼成はAr気流下で行い、また、Mn2+からMn3+への酸化を防ぐため、Ar気流の上流側にα−Fe粉末を置いて行った。
【0040】
得られた多結晶焼結体は、密度が2.4g/cmであり、また、X線回折法による測定の結果から、三斜晶系、空間群P−1に属する(Mn0.05Mg0.95結晶からなることが分かった。
【0041】
該多結晶焼結体を切断及び研磨して、5mm×5mm×0.2mmの角板状に加工して本発明の中性子用シンチレーターを得た。
【0042】
〈中性子検出器の作製と特性評価〉
前記製造した中性子用シンチレーターを用いて中性子検出器を作製し、該中性子検出器の特性を評価した。
【0043】
当該中性子検出器において、光検出器はシリコン受光素子であるアバランシェフォトダイオード(浜松ホトニクス社製、S8664−1010)を使用し、前記本発明の中性子シンチレーターを、該アバランシェフォトダイオードの受光面に透明シリコングリースを用いて接着し、本発明の中性子検出器とした。
【0044】
該中性子検出器を、電流測定器(KEITHLEY 237 HIGH VOLTAGE SOURCE MEASURE UNIT)と接続し、300〜400Vの逆バイアス電圧を印加しながら電流値を測定し、電圧−電流特性を評価した。
【0045】
前記中性子検出器をJRR−3 MUSASIポートに設置し、該ポートから射出される熱中性子を中性子検出器に照射しながら、前記電圧−電流特性を評価した。なお、該ポートから射出される中性子量は、約8×10neutron/cmである。
【0046】
得られた結果を図1に示す。図1中の実線及び点線は、前記ポートを開いて熱中性子を射出した場合の電圧−電流特性であって、それぞれ熱中性子を中性子検出器に直接照射した場合、及び、ポートと本発明の中性子検出器の間に熱中性子に対して高い吸収効率を持つ金属カドミウムの板(厚み1mm)を設置して熱中性子を遮断した場合の電圧−電流特性を示す。また、図1中の鎖線は、前記ポートを閉じて中性子を射出しなかった場合の電圧−電流特性を示す。
【0047】
すなわち、図1中の鎖線は、いわゆる暗電流であって、アバランシェフォトダイオードに由来する電気的ノイズを表わす。また、金属カドミウムの板によって、熱中性子は遮断されるが、γ線は遮断されないため、図1中の点線は、熱中性子に随伴するγ線のみを中性子検出器に照射した際の電圧−電流特性であり、該点線と前記鎖線の差分が、γ線によるバックグラウンドノイズを表わす。また、図1中の実線は、熱中性子及びこれに随伴するγ線を中性子検出器に照射した際の電圧−電流特性であり、該実線と前記点線の差分が熱中性子の検出に基づく信号の強度を表わす。
【0048】
図1中の、例えばバイアス電圧350Vにおける電流値は、実線で21.4nA、点線で19.2nAであり、したがって、熱中性子の検出に基づく信号の強度は2.2nAと充分に大きく、本発明の中性子検出器が有効であることが分かる。また、鎖線では18.9nAであることから、γ線によるバックグラウンドノイズは0.3nAと極めて小さく、本発明の検出器はγ線に由来するバックグラウンドノイズの影響が少ないことが分かる。
【0049】
実施例2
〈中性子用シンチレーターの製造〉
本実施例では、中性子用シンチレーターとしてLi(Mn0.05Mg0.95)BOの多結晶焼結体を製造した。
【0050】
原料として、LiCO、MnO、MgO及びHBOを用いた。各原料の純度は、それぞれ99.9%、99.9%、99.9%及び99.99%であり、LiCOLi同位体比及びHBO10B同位体比は、それぞれ7%及び95%であった。前記各原料の粉末をモル比でLiCO:MnO:MgO:HBO=0.5:0.05:0.95:1となるように秤量し、メノウ乳鉢中で粉砕混合した後、圧縮プレスして直径8mm、厚さ2.5mmのペレットを作製した。
【0051】
当該ペレットをPt板上におき、200℃/hrの昇温速度で750度まで加熱した後、750℃で2時間仮焼した。得られたペレットを粉砕し、再度ペレットを作製した。当該ペレットを先と同様にPt板上におき、200℃/hrの昇温速度で800度まで加熱した後、800℃で12時間焼成した。なお、かかる仮焼および焼成はAr気流下で行い、また、Mn2+からMn3+への酸化を防ぐため、Ar気流の上流側にα−Fe粉末を置いて行った。
【0052】
得られた多結晶焼結体は、密度が2.04g/cmであり、また、X線回折法による測定の結果から、単斜晶系、空間群C2/cに属するLi(Mn0.05Mg0.95)BO結晶からなることが分かった。
【0053】
該多結晶焼結体を研磨して、直径8mm×0.5mmの円板状に加工して本発明の中性子用シンチレーターを得た。
【0054】
〈中性子検出器の作製と特性評価〉
前記製造したLi(Mn0.05Mg0.95)BOからなる中性子シンチレーターを用いる以外は、実施例1と同様にして中性子検出器を作製し、中性子検出特性を評価した。
【0055】
得られた結果を図2に示す。図2中の実線、点線及び鎖線は、それぞれ図1と同じ条件下での電圧−電流特性を示す。
【0056】
図2中の、例えばバイアス電圧350Vにおける電流値は、実線で16.0nA、点線で13.4nAであり、したがって、熱中性子の検出に基づく信号の強度は2.6nAと充分に大きく、本発明の中性子検出器が有効であることが分かる。また、鎖線では13.1nAであることから、γ線によるバックグラウンドノイズは0.3Aと極めて小さく、本発明の検出器はγ線に由来するバックグラウンドノイズの影響が少ないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともMg及び2価遷移元素を含むホウ酸塩からなることを特徴とする中性子用シンチレーター。
【請求項2】
ホウ素の10B同位体比が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の中性子用シンチレーター。
【請求項3】
化学式(AMg1−x)B、(AMg1−x、及び(AMg1−xのいずれかで表わされるホウ酸塩(ただし、AはCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれる少なくとも一つの2価遷移元素を示し、xは0.001〜0.5の数値を示す)からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の中性子用シンチレーター。
【請求項4】
さらにLiを含むホウ酸塩からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の中性子用シンチレーター。
【請求項5】
LiのLi同位体比が50%以上であることを特徴とする請求項4に記載の中性子用シンチレーター。
【請求項6】
化学式Li(AMg1−x)BO、Li(AMg1−x)B、及びLi(AMg1−x)Bのいずれかで表わされるホウ酸塩(ただし、AはCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれる少なくとも一つの2価遷移元素を示し、xは0.001〜0.5の数値を示す)からなることを特徴とする請求項4又は5に記載の中性子用シンチレーター。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の中性子用シンチレーター及び光検出器を具備することを特徴とする中性子検出器。
【請求項8】
光検出器がシリコン受光素子であることを特徴とする請求項7記載の中性子検出器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−126854(P2012−126854A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281067(P2010−281067)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年6月17日、http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6TJH−50B5PW4−7&_user=10&_coverDate=11%2F30%2F2010&_rdoc=1&_fmt=high&_orig=search&_origin=search&_sort=d&_docanchor=&view=c&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=a23a35632f9c668b1e2f268c9d6db812&searchtype=a
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】