中性子発生装置用液体金属ターゲット
【課題】液体金属を貯蔵するターゲット容器高温部を低温にする作用ばかりではなく、ターゲット容器における低温部分を温度上昇させることにより、高温となる陽子ビーム入射窓部と容器の低温部分との温度差を是正し熱応力を低減すると共に、構造における強度健全性を熱負荷に対して確保することのできる金属ターゲットを提供する。
【解決手段】陽子ビームをターゲット容器内に貯蔵された液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、液体金属を熱媒体として循環流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、ターゲット容器は、陽子ビームの照射部と、照射部分を挟んで液体金属の流入側と、その流出側とを有し、ターゲット容器壁の陽子ビームの照射部近傍で流出側にのみ、ターゲット容器の高温状態にある照射部と照射部近傍の流出側との温度差を低下させる調整手段を設けたことを特徴とする。
【解決手段】陽子ビームをターゲット容器内に貯蔵された液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、液体金属を熱媒体として循環流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、ターゲット容器は、陽子ビームの照射部と、照射部分を挟んで液体金属の流入側と、その流出側とを有し、ターゲット容器壁の陽子ビームの照射部近傍で流出側にのみ、ターゲット容器の高温状態にある照射部と照射部近傍の流出側との温度差を低下させる調整手段を設けたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子ビームを液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、液体金属を熱媒体として流動させる新規な中性子発生装置用液体金属ターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
中性子発生装置では、大強度の陽子ビームを液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させるものである。ここで得られる中性子は、生命科学、物質・材料科学、原子核・素粒子物理など様々な最先端研究に利用される。
【0003】
従来、中性子発生装置に用いられるターゲット材料には、ウラン、タンタル、タングステンなどの固体金属が用いられていた。MW級のパルス状陽子ビームが入射した場合には、核破砕反応及びターゲット容器への周期的な陽子ビーム入射により大規模な発熱が生じ、極めて高い温度上昇をもたらす。そのため、ターゲット容器及びターゲット材料の熱伝導作用のみでは、十分に熱エネルギを除去できなくなり、熱負荷のために、ターゲット容器強度の健全性が保持できない恐れがある。
【0004】
これに対して、ターゲット材料に水銀などの液体金属を適用した中性子発生装置用液体金属ターゲットでは、前述の大規模な発熱をターゲット容器及びターゲット材料の熱伝導・熱伝達作用に加えて液体金属の流動により除去するため、熱負荷に対する構造強度の健全性が確保される見通しが得られてきた。
【0005】
液体金属ターゲットに関して、液体金属の流動をシンプルかつ局所的な温度上昇が発生しないようにするために、特許文献1、特許文献2や特許文献3などが提案されている。これらの方法では、核破砕反応及びターゲット容器への陽子ビーム入射による大規模な発生熱を、液体金属の流動により効率よく除去し、熱負荷の低減を得ることを目的としている。特に、特許文献3には液体金属の流動を陽子ビームの照射領域において均一になるように案内羽根を設けることが示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−273896号公報
【特許文献2】特開2000−82598号公報
【特許文献3】特開2000−243597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱負荷から構造強度の健全性を確保するために、従来提案されている中性子発生装置用液体金属ターゲットでは、核破砕反応により高温となる液体金属及び陽子ビーム入射により高温となるターゲット容器高温部を、液体金属流動の除熱作用により低温にし、熱負荷により発生する応力を緩和している。上述した特許文献1、2、3では、液体金属流動の停留や再循環流を回避するように流動制御を行い、ターゲット容器及び液体金属の過剰な温度上昇が発生しないようにしている。又、特許文献3には液体金属の特定の流動については開示されていない。
【0008】
ターゲット容器でも特に温度上昇が大きい部分は、陽子ビームが入射される陽子ビーム入射窓部である。陽子ビームエネルギが大きくなると、液体金属流動による除熱作用のみでは十分冷却できず、陽子ビーム入射窓部近傍で大きな熱応力を発生することが予想されており、ターゲット容器の健全性が維持できなくなる。ここで、熱応力の発生は、部材の高温部分と低温部分で熱膨張変形量が異なることに起因した変形ひずみによるものである。
【0009】
本発明の目的は、液体金属を貯蔵するターゲット容器高温部を低温にする作用ばかりではなく、ターゲット容器における低温部分を温度上昇させることにより、高温となる陽子ビーム入射窓部と容器の低温部分との温度差を是正し熱応力を低減すると共に、構造における強度健全性を熱負荷に対して確保することのできる中性子発生装置用液体金属ターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、核破砕反応で得られた大規模な熱エネルギ、及び陽子ビーム入射により高温状態になった陽子ビーム入射窓部の熱エネルギを液体金属の流動によりターゲット容器低温部へ導き、ターゲット容器低温部を温度上昇させ、陽子ビーム入射窓部とターゲット容器低温部の温度差を低下することにより、熱応力を低減するものである。
【0011】
具体的には、本発明は、陽子ビームをターゲット容器内に貯蔵された液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、前記液体金属を熱媒体として循環流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、前記ターゲット容器は、前記陽子ビームの照射部と、該照射部分を挟んで前記液体金属の流入側と、その流出側とを有し、前記ターゲット容器壁の前記陽子ビームの照射部近傍で前記流出側にのみ、前記ターゲット容器の高温状態にある前記照射部と前記照射部近傍の前記流出側との温度差を低下させる調整手段を設けたことを特徴とする。
【0012】
又、本発明の中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、前述の調整手段としては、陽子ビームの照射部近傍を流れた液体金属をターゲット容器壁に導き、ターゲット容器壁に沿って下流側へ流動させるガイド板であり、該ガイド板はその平板面が前記ターゲット容器壁に沿って形成され、その上流側に下流側より大きく開口していること、又、陽子ビームの照射部近傍を流れた液体金属の下流側ターゲット容器内壁に設けられたフィンであり、該フィンはその平板面が前記ターゲット容器壁に鉛直水平に設けられていること、又、陽子ビームの照射部近傍を流れた液体金属の下流側ターゲット容器内壁に設けられた突起物であること、又、水銀からなる液体金属を包括するターゲット容器での液体金属との接触面に、水銀に対してぬれ性のよいNi又はNi合金からなる金属皮膜であること、又、陽子ビームの照射部近傍で前記流出側の前記ターゲット容器外面に接して設けられたターゲット容器の低温部を加熱する加熱器であり、陽子ビーム照射窓と低温部分の温度差を低下でき、ターゲット容器の熱応力を低減することができる。
【0013】
尚、陽子ビームをターゲット容器内に貯蔵された液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、前記液体金属を循環流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、前記ターゲット容器内における前記液体金属の流動量が、前記陽子ビームの照射領域においてその入射側が該入射側の奥よりも多くなるように前記液体金属の流れを調整する調整手段を設けることができる。
【0014】
又、陽子ビームをターゲット容器内に貯蔵された液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、前記液体金属を循環流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、前記ターゲット容器内における前記液体金属の供給量が、前記陽子ビームの照射領域においてその入射側に対してその奥側が多くなるようにすると共に、前記液体金属の流動方向が、前記陽子ビームの入射方向に対して対向する方向になるように前記液体金属の流れを調整する調整手段を設けることができる。
【0015】
更に、陽子ビームを液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、液体金属を熱媒体として流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、液体金属を包括するターゲット容器内に、液体金属の循環流動を助長する開口部を有する流配板を設け、陽子ビームの照射領域かつ流配板に挟まれた領域を流れる液体金属の主流方向を、陽子ビーム入射方向に対向するようにするものであり、特にそのなす角度が90度より大きく180度より小さくなるように、流配板に開口部を設けると共に、その面積分布を調整することができる。
【0016】
又、中性子発生装置用液体金属ターゲットとして、液体金属を包括するターゲット容器内に、液体金属の循環流動を助長する整流板を複数設けるが、陽子ビームの照射領域より液体金属流入流路側に位置する整流板と陽子ビームの入射方向がなす角度が、陽子ビームの照射領域より液体金属流出流路側に位置する整流板と陽子ビームの入射方向がなす角度と異なるように設定させ、前記整流板をターゲット容器に設置することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上、従来の中性子発生装置用液体金属ターゲットでは、核破砕反応及び陽子ビーム照射によりターゲット容器に熱負荷が生じる。しかし、本発明の如く、液体金属の特定の循環流動による高温状態になる陽子ビーム入射窓、あるいは核破砕反応により熱エネルギを得た高温液体金属からターゲット容器低温部への熱伝達、あるいは機械等による人工的な加熱作用とによって、低温部の温度上昇より陽子ビーム入射部近傍との温度差は低下し、熱応力を低減させることができるため、熱負荷に対して構造的に強度健全性を有した中性子発生装置用液体金属ターゲットを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体的な実験例及び実施例によって詳細に説明する。
【実験例1】
【0019】
図1は、本発明の対象となる中性子発生装置用液体金属ターゲットを有する中性子散乱施設を備えた中性子発生装置の構成図である。陽子射出器111から射出された陽子線は、陽子加速器112・シンクロトロン113により電流・周波数などが調整されエネルギを高めた後、中性子発生装置用液体金属ターゲット110が備えられる中性子散乱施設114へ入射する。中性子散乱施設114で発生した中性子は実施施設115に搬送され、生命科学、物質・材料科学、原子核・素粒子物理など様々な最先端研究に利用される。
【0020】
図2は、中性子散乱施設114で中性子を発生させる中性子発生装置用液体金属ターゲット110と液体金属の循環経路とを有する概要図を示し、図3は図2のA−A'断面図である。タンク23に蓄えられている液体金属mは、ターゲット容器1の入口側フランジ21a及び出口側フランジ21bに連結している配管22を介して、ポンプ24の働きによりターゲット容器1へ流入及び流出が行われる。ターゲット容器1内部は液体金属mが循環しており、液体金属mに陽子ビームpが入射すると核破砕反応rが発生し、中性子nが発生する。中性子nはターゲット容器1の外部に設置された減速材容器25で収集される。
【0021】
図4は、本実験例の中性子発生装置用液体金属ターゲットの水平断面図である。ターゲット容器1は薄肉状の固体金属で形成されるが、特に、陽子ビームpが入射する陽子ビーム入射窓部は、陽子ビームの照射加熱による発熱抑止及び容器による陽子エネルギの損失防止の観点から、極力薄肉化をする。液体金属mへ陽子ビームpが照射されると核破砕反応が起こり、中性子が発生する。ターゲット容器1には入口側フランジ21aに接続された配管22aより液体金属mが流入し、ターゲット容器1内部に形成される流路に従った液体金属入口側流れmaによって、液体金属mはターゲット容器1を流動した後、ターゲット容器1内部に形成される流路に従った液体金属出口側流れmbにより、出口側フランジ21bに接続された配管22bへ流出する。以上が中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構である。
【0022】
本実験例では、ターゲット容器1の内部には、液体金属入口側流路に入口側流配板2aを、また液体金属出口側流路に出口側流配板2bを配し、入口側流配板2a及び出口側流配板2bには開口部3を設け、液体金属mの循環を促進している。
【0023】
図5は、図4のターゲット容器1におけるB−B'断面図である。ターゲット容器1は側壁を半円筒型とした偏平構造をしている。ターゲット容器1の上下面板は薄肉状にしているが、ターゲット容器1外部に設置する減速材容器で核破砕反応により発生した中性子を効率よく収集するためである。また、ターゲット容器1の上下面と、入口側流配板2a及び出口側流配板2bはほぼ直角に設置するが、容器上下面板は薄肉平板であることから特に変形しやすいため、入口側流配板2a及び出口側流配板2bは補強効果も兼ね備えている。
【0024】
図6は図4における入口側流配板2aのC−C'断面図及び、図7は図4における入口側流配板2bのD−D'断面図である。陽子ビームpの入射方向上手側に、ターゲット容器1と流配板の間に液体金属流路を設けてあるが、これは陽子ビーム入射窓部近傍へ液体金属を流動し除熱するためである。特に本実験例を達成する1方法として、例えば、入口側流配板2aの開口部3の面積比率は陽子ビームpの入射方向下手側を徐々に大きくし、出口側流配板2bの開口部3の面積比率は陽子ビームpの入射方向上手側を徐々に大きくなるように設定する。液体金属mは紙面垂直方向に開口部3を通過するが、上記方法より入口側流配板2aと出口側流配板2bとで挟ませた範囲における液体金属流動の主流流れmcの方向を陽子ビームpの入射方向に対して対向するようにし、具体的にはそのなす角度scが90度より大きく180度より小さくすることである。
【0025】
又、本実験例においては、ターゲット容器1内における液体金属の流動量が、陽子ビームPの照射領域においてその入射側が該入射側の奥よりも多くなるように液体金属の流れを調整する出口側流配板2bが設けられている。
【0026】
更に、本実験例においては、陽子ビームPの照射領域におけるターゲット容器1内における液体金属の供給量が、陽子ビームPの照射領域においてその入射側に対してその奥側が多くなるようにすると共に、液体金属の流動方向が、陽子ビームPの入射方向に対して対向する方向になるように液体金属の流れを調整する入口側流配板2aが設けられている。
【0027】
これにより、核破砕反応により発生した大規模な熱エネルギを液体金属流動により陽子ビーム入射部近傍の容器側壁低温部へ導き熱伝達することができ、容器低温部温度を上昇させることで、高温状態である陽子ビーム入射窓部との温度差は低下する。すなわち、熱応力を低減でき、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実験例2】
【0028】
図8は、本実験例による中性子発生装置用液体金属ターゲットの断面図である。本実験例では実験例1にて示した中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0029】
特に本実験例では、ターゲット容器1の内部には、液体金属mの循環を促進するために、薄板構造をした整流板4を複数設置しているが、陽子ビームの照射領域より液体金属流入流路側に位置する整流板4dと陽子ビームpの入射方向がなす角度sdが、陽子ビームの照射領域より液体金属流出流路側に位置する整流板4eと陽子ビームpの入射方向がなす角度seと異なるように設定させる。
【0030】
これにより、核破砕反応により発生した大規模な熱エネルギを液体金属流動により陽子ビーム入射部近傍の容器側壁低温部へ導き熱伝達することができ、容器低温部温度を上昇させることで、高温状態である陽子ビーム入射窓部との温度差は低下する。すなわち、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得られるため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実施例1】
【0031】
図9は、本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの他の実施例を示す断面図である。本実施例においても実験例1にて示した中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0032】
特に本実施例では、ターゲット容器1の内部にはガイド板5を設置するが、このガイド板は薄板構造とし、陽子ビーム入射窓部から熱エネルギを得た高温液体金属、あるいは核破砕反応により熱エネルギを得た高温液体金属が流れる流路に配する。ガイド板5の上流側は高温になった液体金属流入口として開口し、ガイド板5の後流側は液体金属mがターゲット容器1の側壁面とほぼ同形態とし、ターゲット容器壁面に沿った液体金属流路を形成させる。
【0033】
ガイド板5を設置することにより、高温液体金属よりターゲット容器側壁低温部へ導き熱伝達することができる。また、ガイド板5は高温液体金属と低温液体金属の流路を分離でき、液体金属内での熱拡散を避けることで、高温液体金属が低温であるターゲット容器側壁面を効率よく流動可能になる。
【0034】
これにより、高温液体金属よりターゲット容器側壁低温部へ効率よく熱伝達し、容器低温部の温度上昇より高温状態である陽子ビーム入射部近傍との温度差は下する。すなわち、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得られるため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実施例2】
【0035】
図10に本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの他の実施例を示す断面図である。本実施例においても実験例1にて示したような、中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0036】
特に本実施例では、ターゲット容器1の内部には、陽子ビーム入射窓部から熱エネルギを得た高温液体金属、あるいは核破砕反応により熱エネルギを得た高温液体金属が流れる流路に、複数のフィン6を設置する。例えば、図10では、ターゲット容器長の1/3長さのフィンを容器低温部壁面部に3枚設置する。図11には図10におけるE−E'断面図を示すが、フィン6は鉛直水平方向に配している。ここで、フィンは板状構造物で変形しやすいため、中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本特性を損ねない程度に、フィンの大きさは設定する。なお、フィン6の表面に伝熱効果が向上するような加工を施すことも本発明の範疇である。
【0037】
フィン6を設置することにより高温液体金属との接触面積を拡げることができるため、フィン6を介して高温液体金属よりターゲット容器低温部への熱伝達を強化できる。これより、低温部の温度上昇により高温状態になる陽子ビーム入射部との温度差は低下し、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得ることが出来るため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実施例3】
【0038】
図12に本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの他の実施例を示す断面図である。本実施例においても実験例1にて示したような、中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0039】
特に本実施例では、ターゲット容器1の内部には、高温状態になった陽子ビーム入射窓部から熱エネルギを得た高温液体金属、あるいは核破砕反応により熱エネルギを得た高温液体金属が流れる流路のターゲット容器側壁に、複数の突起物7を設置する。例えば、図8では、ターゲット容器長の1/3長さ区間の容器壁面部にわたって、突起物7を配している。ここで、突起物の大きさ及び個数は、中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本特性を損ねない程度に設定する。
【0040】
複数の突起物7を設置することは、ターゲット容器1と高温液体金属との接触面積を大きくするとともに、液体金属の流れを乱流状態にする効果から熱伝達はさらに強化され、高温液体金属からターゲット容器低温部への熱伝達は強化できる。これより、低温部の温度上昇により高温状態になる陽子ビーム入射部との温度差は低下し、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得ることができるため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実施例4】
【0041】
図13は、本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの他実施例を示す断面図である。本実施例においても実験例1にて示したような、中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0042】
特に本実施例では、ターゲット容器1の内部には、高温状態になった陽子ビーム入射窓から熱エネルギを得た高温液体金属、あるいは核破砕反応により熱エネルギを得た高温液体金属が流れる流路に、液体金属に対してぬれ性のよい金属の薄膜8を塗膜する。例えば、図13では、陽子ビーム入射窓からターゲット容器長の1/3長さ区間の容器壁面部にわたって、液体金属に対してぬれ性のよい金属の薄膜8を塗膜している。例えば、液体金属に水銀を選択した場合は、ぬれ性のよい金属としてニッケル及びニッケル合金などがある。
【0043】
ここで、ぬれ性のよい金属薄膜8を塗膜することは、高温となる陽子ビーム入射窓部から液体金属への熱伝達、及び液体金属からターゲット容器低温部への熱伝達を強化できる。これより、高温部の温度低下及び低温部の温度上昇より陽子ビーム入射部と容器低温部との温度差は低下し、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得ることが出来るため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実施例5】
【0044】
図14は、本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの他の実施例を示す断面図である。本実施例においても実験例1にて示したような中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0045】
特に本実施例では、ターゲット容器1の外壁部には加熱器9を設置する。例えば、図14では、ターゲット容器長の1/3長さ区間の容器外壁部にわたって、加熱器9を設置しており、電源10から導線11を介して電力は供給され、中性子発生装置用液体金属ターゲットの運転状態に応じて加熱器9は作動させる。
【0046】
ここでターゲット容器低温部に加熱器を設置することは、核破砕反応及び陽子ビーム入射による大規模な発熱を利用せずとも、人工的に加熱することにより、低温部の温度上昇より陽子ビーム入射部近傍との温度差を低下させ、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得ることが出来るため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の中性子発生装置用液体金属ターゲットが設置される中性子散乱施設を有する中性子発生装置の構成図。
【図2】本発明に係る中性子発生装置用液体金属ターゲットと液体金属の循環装置とを有する構成図。
【図3】図2におけるA−A'断面図。
【図4】中性子発生装置用液体金属ターゲットの実験例1における水平断面図。
【図5】図4におけるB−B'断面図。
【図6】図4における入口側流配板2aのC−C'断面図。
【図7】図4における出口側流配板2bのD−D'断面図。
【図8】中性子発生装置用液体金属ターゲットの実験例2における水平断面図。
【図9】本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの実施例1における水平断面図。
【図10】本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの実施例2における水平断面図。
【図11】図6におけるE−E'断面図。
【図12】本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの実施例3における水平断面図。
【図13】本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの実施例4における水平断面図。
【図14】本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの実施例5における水平断面図。
【符号の説明】
【0048】
1…ターゲット容器、2a…入口側流配板、2b…出口側流配板、3…開口部、4…整流板、4d…流入流路側に位置する整流板、4e…流出流路側に位置する整流板、5…ガイド板、6…フィン、7…突起物、8…金属薄膜、9…加熱器、10…電源、11…導線、21a及び21b…フランジ、22及び22a及び22b…配管、23…タンク、24…ポンプ、25…減速材容器、110…中性子発生装置用液体金属ターゲット、111…陽子射出器、112…陽子加速器、113…シンクロトロン、114…中性子散乱施設、115…実施施設、m…液体金属、p…陽子ビーム、n…中性子、r…核破砕反応、ma…液体金属mの入口側流れ、mb…液体金属mの出口側流れ、mc…入口側流配板2aと出口側流配板2bとで挟ませた範囲における液体金属流動の主流流れ、sc…液体金属流動の主流流れmcの方向と陽子ビームpの入射方向とがなす角度、sd…液体金属流入流路側に位置する整流板4dと陽子ビームpの入射方向とがなす角度、se…液体金属流出流路側に位置する整流板4eと陽子ビームpの入射方向とがなす角度。
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子ビームを液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、液体金属を熱媒体として流動させる新規な中性子発生装置用液体金属ターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
中性子発生装置では、大強度の陽子ビームを液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させるものである。ここで得られる中性子は、生命科学、物質・材料科学、原子核・素粒子物理など様々な最先端研究に利用される。
【0003】
従来、中性子発生装置に用いられるターゲット材料には、ウラン、タンタル、タングステンなどの固体金属が用いられていた。MW級のパルス状陽子ビームが入射した場合には、核破砕反応及びターゲット容器への周期的な陽子ビーム入射により大規模な発熱が生じ、極めて高い温度上昇をもたらす。そのため、ターゲット容器及びターゲット材料の熱伝導作用のみでは、十分に熱エネルギを除去できなくなり、熱負荷のために、ターゲット容器強度の健全性が保持できない恐れがある。
【0004】
これに対して、ターゲット材料に水銀などの液体金属を適用した中性子発生装置用液体金属ターゲットでは、前述の大規模な発熱をターゲット容器及びターゲット材料の熱伝導・熱伝達作用に加えて液体金属の流動により除去するため、熱負荷に対する構造強度の健全性が確保される見通しが得られてきた。
【0005】
液体金属ターゲットに関して、液体金属の流動をシンプルかつ局所的な温度上昇が発生しないようにするために、特許文献1、特許文献2や特許文献3などが提案されている。これらの方法では、核破砕反応及びターゲット容器への陽子ビーム入射による大規模な発生熱を、液体金属の流動により効率よく除去し、熱負荷の低減を得ることを目的としている。特に、特許文献3には液体金属の流動を陽子ビームの照射領域において均一になるように案内羽根を設けることが示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−273896号公報
【特許文献2】特開2000−82598号公報
【特許文献3】特開2000−243597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱負荷から構造強度の健全性を確保するために、従来提案されている中性子発生装置用液体金属ターゲットでは、核破砕反応により高温となる液体金属及び陽子ビーム入射により高温となるターゲット容器高温部を、液体金属流動の除熱作用により低温にし、熱負荷により発生する応力を緩和している。上述した特許文献1、2、3では、液体金属流動の停留や再循環流を回避するように流動制御を行い、ターゲット容器及び液体金属の過剰な温度上昇が発生しないようにしている。又、特許文献3には液体金属の特定の流動については開示されていない。
【0008】
ターゲット容器でも特に温度上昇が大きい部分は、陽子ビームが入射される陽子ビーム入射窓部である。陽子ビームエネルギが大きくなると、液体金属流動による除熱作用のみでは十分冷却できず、陽子ビーム入射窓部近傍で大きな熱応力を発生することが予想されており、ターゲット容器の健全性が維持できなくなる。ここで、熱応力の発生は、部材の高温部分と低温部分で熱膨張変形量が異なることに起因した変形ひずみによるものである。
【0009】
本発明の目的は、液体金属を貯蔵するターゲット容器高温部を低温にする作用ばかりではなく、ターゲット容器における低温部分を温度上昇させることにより、高温となる陽子ビーム入射窓部と容器の低温部分との温度差を是正し熱応力を低減すると共に、構造における強度健全性を熱負荷に対して確保することのできる中性子発生装置用液体金属ターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、核破砕反応で得られた大規模な熱エネルギ、及び陽子ビーム入射により高温状態になった陽子ビーム入射窓部の熱エネルギを液体金属の流動によりターゲット容器低温部へ導き、ターゲット容器低温部を温度上昇させ、陽子ビーム入射窓部とターゲット容器低温部の温度差を低下することにより、熱応力を低減するものである。
【0011】
具体的には、本発明は、陽子ビームをターゲット容器内に貯蔵された液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、前記液体金属を熱媒体として循環流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、前記ターゲット容器は、前記陽子ビームの照射部と、該照射部分を挟んで前記液体金属の流入側と、その流出側とを有し、前記ターゲット容器壁の前記陽子ビームの照射部近傍で前記流出側にのみ、前記ターゲット容器の高温状態にある前記照射部と前記照射部近傍の前記流出側との温度差を低下させる調整手段を設けたことを特徴とする。
【0012】
又、本発明の中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、前述の調整手段としては、陽子ビームの照射部近傍を流れた液体金属をターゲット容器壁に導き、ターゲット容器壁に沿って下流側へ流動させるガイド板であり、該ガイド板はその平板面が前記ターゲット容器壁に沿って形成され、その上流側に下流側より大きく開口していること、又、陽子ビームの照射部近傍を流れた液体金属の下流側ターゲット容器内壁に設けられたフィンであり、該フィンはその平板面が前記ターゲット容器壁に鉛直水平に設けられていること、又、陽子ビームの照射部近傍を流れた液体金属の下流側ターゲット容器内壁に設けられた突起物であること、又、水銀からなる液体金属を包括するターゲット容器での液体金属との接触面に、水銀に対してぬれ性のよいNi又はNi合金からなる金属皮膜であること、又、陽子ビームの照射部近傍で前記流出側の前記ターゲット容器外面に接して設けられたターゲット容器の低温部を加熱する加熱器であり、陽子ビーム照射窓と低温部分の温度差を低下でき、ターゲット容器の熱応力を低減することができる。
【0013】
尚、陽子ビームをターゲット容器内に貯蔵された液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、前記液体金属を循環流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、前記ターゲット容器内における前記液体金属の流動量が、前記陽子ビームの照射領域においてその入射側が該入射側の奥よりも多くなるように前記液体金属の流れを調整する調整手段を設けることができる。
【0014】
又、陽子ビームをターゲット容器内に貯蔵された液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、前記液体金属を循環流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、前記ターゲット容器内における前記液体金属の供給量が、前記陽子ビームの照射領域においてその入射側に対してその奥側が多くなるようにすると共に、前記液体金属の流動方向が、前記陽子ビームの入射方向に対して対向する方向になるように前記液体金属の流れを調整する調整手段を設けることができる。
【0015】
更に、陽子ビームを液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、液体金属を熱媒体として流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、液体金属を包括するターゲット容器内に、液体金属の循環流動を助長する開口部を有する流配板を設け、陽子ビームの照射領域かつ流配板に挟まれた領域を流れる液体金属の主流方向を、陽子ビーム入射方向に対向するようにするものであり、特にそのなす角度が90度より大きく180度より小さくなるように、流配板に開口部を設けると共に、その面積分布を調整することができる。
【0016】
又、中性子発生装置用液体金属ターゲットとして、液体金属を包括するターゲット容器内に、液体金属の循環流動を助長する整流板を複数設けるが、陽子ビームの照射領域より液体金属流入流路側に位置する整流板と陽子ビームの入射方向がなす角度が、陽子ビームの照射領域より液体金属流出流路側に位置する整流板と陽子ビームの入射方向がなす角度と異なるように設定させ、前記整流板をターゲット容器に設置することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上、従来の中性子発生装置用液体金属ターゲットでは、核破砕反応及び陽子ビーム照射によりターゲット容器に熱負荷が生じる。しかし、本発明の如く、液体金属の特定の循環流動による高温状態になる陽子ビーム入射窓、あるいは核破砕反応により熱エネルギを得た高温液体金属からターゲット容器低温部への熱伝達、あるいは機械等による人工的な加熱作用とによって、低温部の温度上昇より陽子ビーム入射部近傍との温度差は低下し、熱応力を低減させることができるため、熱負荷に対して構造的に強度健全性を有した中性子発生装置用液体金属ターゲットを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体的な実験例及び実施例によって詳細に説明する。
【実験例1】
【0019】
図1は、本発明の対象となる中性子発生装置用液体金属ターゲットを有する中性子散乱施設を備えた中性子発生装置の構成図である。陽子射出器111から射出された陽子線は、陽子加速器112・シンクロトロン113により電流・周波数などが調整されエネルギを高めた後、中性子発生装置用液体金属ターゲット110が備えられる中性子散乱施設114へ入射する。中性子散乱施設114で発生した中性子は実施施設115に搬送され、生命科学、物質・材料科学、原子核・素粒子物理など様々な最先端研究に利用される。
【0020】
図2は、中性子散乱施設114で中性子を発生させる中性子発生装置用液体金属ターゲット110と液体金属の循環経路とを有する概要図を示し、図3は図2のA−A'断面図である。タンク23に蓄えられている液体金属mは、ターゲット容器1の入口側フランジ21a及び出口側フランジ21bに連結している配管22を介して、ポンプ24の働きによりターゲット容器1へ流入及び流出が行われる。ターゲット容器1内部は液体金属mが循環しており、液体金属mに陽子ビームpが入射すると核破砕反応rが発生し、中性子nが発生する。中性子nはターゲット容器1の外部に設置された減速材容器25で収集される。
【0021】
図4は、本実験例の中性子発生装置用液体金属ターゲットの水平断面図である。ターゲット容器1は薄肉状の固体金属で形成されるが、特に、陽子ビームpが入射する陽子ビーム入射窓部は、陽子ビームの照射加熱による発熱抑止及び容器による陽子エネルギの損失防止の観点から、極力薄肉化をする。液体金属mへ陽子ビームpが照射されると核破砕反応が起こり、中性子が発生する。ターゲット容器1には入口側フランジ21aに接続された配管22aより液体金属mが流入し、ターゲット容器1内部に形成される流路に従った液体金属入口側流れmaによって、液体金属mはターゲット容器1を流動した後、ターゲット容器1内部に形成される流路に従った液体金属出口側流れmbにより、出口側フランジ21bに接続された配管22bへ流出する。以上が中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構である。
【0022】
本実験例では、ターゲット容器1の内部には、液体金属入口側流路に入口側流配板2aを、また液体金属出口側流路に出口側流配板2bを配し、入口側流配板2a及び出口側流配板2bには開口部3を設け、液体金属mの循環を促進している。
【0023】
図5は、図4のターゲット容器1におけるB−B'断面図である。ターゲット容器1は側壁を半円筒型とした偏平構造をしている。ターゲット容器1の上下面板は薄肉状にしているが、ターゲット容器1外部に設置する減速材容器で核破砕反応により発生した中性子を効率よく収集するためである。また、ターゲット容器1の上下面と、入口側流配板2a及び出口側流配板2bはほぼ直角に設置するが、容器上下面板は薄肉平板であることから特に変形しやすいため、入口側流配板2a及び出口側流配板2bは補強効果も兼ね備えている。
【0024】
図6は図4における入口側流配板2aのC−C'断面図及び、図7は図4における入口側流配板2bのD−D'断面図である。陽子ビームpの入射方向上手側に、ターゲット容器1と流配板の間に液体金属流路を設けてあるが、これは陽子ビーム入射窓部近傍へ液体金属を流動し除熱するためである。特に本実験例を達成する1方法として、例えば、入口側流配板2aの開口部3の面積比率は陽子ビームpの入射方向下手側を徐々に大きくし、出口側流配板2bの開口部3の面積比率は陽子ビームpの入射方向上手側を徐々に大きくなるように設定する。液体金属mは紙面垂直方向に開口部3を通過するが、上記方法より入口側流配板2aと出口側流配板2bとで挟ませた範囲における液体金属流動の主流流れmcの方向を陽子ビームpの入射方向に対して対向するようにし、具体的にはそのなす角度scが90度より大きく180度より小さくすることである。
【0025】
又、本実験例においては、ターゲット容器1内における液体金属の流動量が、陽子ビームPの照射領域においてその入射側が該入射側の奥よりも多くなるように液体金属の流れを調整する出口側流配板2bが設けられている。
【0026】
更に、本実験例においては、陽子ビームPの照射領域におけるターゲット容器1内における液体金属の供給量が、陽子ビームPの照射領域においてその入射側に対してその奥側が多くなるようにすると共に、液体金属の流動方向が、陽子ビームPの入射方向に対して対向する方向になるように液体金属の流れを調整する入口側流配板2aが設けられている。
【0027】
これにより、核破砕反応により発生した大規模な熱エネルギを液体金属流動により陽子ビーム入射部近傍の容器側壁低温部へ導き熱伝達することができ、容器低温部温度を上昇させることで、高温状態である陽子ビーム入射窓部との温度差は低下する。すなわち、熱応力を低減でき、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実験例2】
【0028】
図8は、本実験例による中性子発生装置用液体金属ターゲットの断面図である。本実験例では実験例1にて示した中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0029】
特に本実験例では、ターゲット容器1の内部には、液体金属mの循環を促進するために、薄板構造をした整流板4を複数設置しているが、陽子ビームの照射領域より液体金属流入流路側に位置する整流板4dと陽子ビームpの入射方向がなす角度sdが、陽子ビームの照射領域より液体金属流出流路側に位置する整流板4eと陽子ビームpの入射方向がなす角度seと異なるように設定させる。
【0030】
これにより、核破砕反応により発生した大規模な熱エネルギを液体金属流動により陽子ビーム入射部近傍の容器側壁低温部へ導き熱伝達することができ、容器低温部温度を上昇させることで、高温状態である陽子ビーム入射窓部との温度差は低下する。すなわち、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得られるため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実施例1】
【0031】
図9は、本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの他の実施例を示す断面図である。本実施例においても実験例1にて示した中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0032】
特に本実施例では、ターゲット容器1の内部にはガイド板5を設置するが、このガイド板は薄板構造とし、陽子ビーム入射窓部から熱エネルギを得た高温液体金属、あるいは核破砕反応により熱エネルギを得た高温液体金属が流れる流路に配する。ガイド板5の上流側は高温になった液体金属流入口として開口し、ガイド板5の後流側は液体金属mがターゲット容器1の側壁面とほぼ同形態とし、ターゲット容器壁面に沿った液体金属流路を形成させる。
【0033】
ガイド板5を設置することにより、高温液体金属よりターゲット容器側壁低温部へ導き熱伝達することができる。また、ガイド板5は高温液体金属と低温液体金属の流路を分離でき、液体金属内での熱拡散を避けることで、高温液体金属が低温であるターゲット容器側壁面を効率よく流動可能になる。
【0034】
これにより、高温液体金属よりターゲット容器側壁低温部へ効率よく熱伝達し、容器低温部の温度上昇より高温状態である陽子ビーム入射部近傍との温度差は下する。すなわち、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得られるため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実施例2】
【0035】
図10に本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの他の実施例を示す断面図である。本実施例においても実験例1にて示したような、中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0036】
特に本実施例では、ターゲット容器1の内部には、陽子ビーム入射窓部から熱エネルギを得た高温液体金属、あるいは核破砕反応により熱エネルギを得た高温液体金属が流れる流路に、複数のフィン6を設置する。例えば、図10では、ターゲット容器長の1/3長さのフィンを容器低温部壁面部に3枚設置する。図11には図10におけるE−E'断面図を示すが、フィン6は鉛直水平方向に配している。ここで、フィンは板状構造物で変形しやすいため、中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本特性を損ねない程度に、フィンの大きさは設定する。なお、フィン6の表面に伝熱効果が向上するような加工を施すことも本発明の範疇である。
【0037】
フィン6を設置することにより高温液体金属との接触面積を拡げることができるため、フィン6を介して高温液体金属よりターゲット容器低温部への熱伝達を強化できる。これより、低温部の温度上昇により高温状態になる陽子ビーム入射部との温度差は低下し、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得ることが出来るため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実施例3】
【0038】
図12に本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの他の実施例を示す断面図である。本実施例においても実験例1にて示したような、中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0039】
特に本実施例では、ターゲット容器1の内部には、高温状態になった陽子ビーム入射窓部から熱エネルギを得た高温液体金属、あるいは核破砕反応により熱エネルギを得た高温液体金属が流れる流路のターゲット容器側壁に、複数の突起物7を設置する。例えば、図8では、ターゲット容器長の1/3長さ区間の容器壁面部にわたって、突起物7を配している。ここで、突起物の大きさ及び個数は、中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本特性を損ねない程度に設定する。
【0040】
複数の突起物7を設置することは、ターゲット容器1と高温液体金属との接触面積を大きくするとともに、液体金属の流れを乱流状態にする効果から熱伝達はさらに強化され、高温液体金属からターゲット容器低温部への熱伝達は強化できる。これより、低温部の温度上昇により高温状態になる陽子ビーム入射部との温度差は低下し、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得ることができるため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実施例4】
【0041】
図13は、本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの他実施例を示す断面図である。本実施例においても実験例1にて示したような、中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0042】
特に本実施例では、ターゲット容器1の内部には、高温状態になった陽子ビーム入射窓から熱エネルギを得た高温液体金属、あるいは核破砕反応により熱エネルギを得た高温液体金属が流れる流路に、液体金属に対してぬれ性のよい金属の薄膜8を塗膜する。例えば、図13では、陽子ビーム入射窓からターゲット容器長の1/3長さ区間の容器壁面部にわたって、液体金属に対してぬれ性のよい金属の薄膜8を塗膜している。例えば、液体金属に水銀を選択した場合は、ぬれ性のよい金属としてニッケル及びニッケル合金などがある。
【0043】
ここで、ぬれ性のよい金属薄膜8を塗膜することは、高温となる陽子ビーム入射窓部から液体金属への熱伝達、及び液体金属からターゲット容器低温部への熱伝達を強化できる。これより、高温部の温度低下及び低温部の温度上昇より陽子ビーム入射部と容器低温部との温度差は低下し、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得ることが出来るため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【実施例5】
【0044】
図14は、本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの他の実施例を示す断面図である。本実施例においても実験例1にて示したような中性子発生装置用液体金属ターゲットの基本機構を備えており、液体金属mが流動している。
【0045】
特に本実施例では、ターゲット容器1の外壁部には加熱器9を設置する。例えば、図14では、ターゲット容器長の1/3長さ区間の容器外壁部にわたって、加熱器9を設置しており、電源10から導線11を介して電力は供給され、中性子発生装置用液体金属ターゲットの運転状態に応じて加熱器9は作動させる。
【0046】
ここでターゲット容器低温部に加熱器を設置することは、核破砕反応及び陽子ビーム入射による大規模な発熱を利用せずとも、人工的に加熱することにより、低温部の温度上昇より陽子ビーム入射部近傍との温度差を低下させ、熱応力を低減でき、実験例1と同等の効果を得ることが出来るため、ターゲットの構造強度健全性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の中性子発生装置用液体金属ターゲットが設置される中性子散乱施設を有する中性子発生装置の構成図。
【図2】本発明に係る中性子発生装置用液体金属ターゲットと液体金属の循環装置とを有する構成図。
【図3】図2におけるA−A'断面図。
【図4】中性子発生装置用液体金属ターゲットの実験例1における水平断面図。
【図5】図4におけるB−B'断面図。
【図6】図4における入口側流配板2aのC−C'断面図。
【図7】図4における出口側流配板2bのD−D'断面図。
【図8】中性子発生装置用液体金属ターゲットの実験例2における水平断面図。
【図9】本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの実施例1における水平断面図。
【図10】本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの実施例2における水平断面図。
【図11】図6におけるE−E'断面図。
【図12】本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの実施例3における水平断面図。
【図13】本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの実施例4における水平断面図。
【図14】本発明による中性子発生装置用液体金属ターゲットの実施例5における水平断面図。
【符号の説明】
【0048】
1…ターゲット容器、2a…入口側流配板、2b…出口側流配板、3…開口部、4…整流板、4d…流入流路側に位置する整流板、4e…流出流路側に位置する整流板、5…ガイド板、6…フィン、7…突起物、8…金属薄膜、9…加熱器、10…電源、11…導線、21a及び21b…フランジ、22及び22a及び22b…配管、23…タンク、24…ポンプ、25…減速材容器、110…中性子発生装置用液体金属ターゲット、111…陽子射出器、112…陽子加速器、113…シンクロトロン、114…中性子散乱施設、115…実施施設、m…液体金属、p…陽子ビーム、n…中性子、r…核破砕反応、ma…液体金属mの入口側流れ、mb…液体金属mの出口側流れ、mc…入口側流配板2aと出口側流配板2bとで挟ませた範囲における液体金属流動の主流流れ、sc…液体金属流動の主流流れmcの方向と陽子ビームpの入射方向とがなす角度、sd…液体金属流入流路側に位置する整流板4dと陽子ビームpの入射方向とがなす角度、se…液体金属流出流路側に位置する整流板4eと陽子ビームpの入射方向とがなす角度。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽子ビームをターゲット容器内に貯蔵された液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、前記液体金属を熱媒体として循環流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、前記ターゲット容器は、前記陽子ビームの照射部と、該照射部分を挟んで前記液体金属の流入側と、その流出側とを有し、前記ターゲット容器壁の前記陽子ビームの照射部近傍で前記流出側にのみ、前記ターゲット容器の高温状態にある前記照射部と前記照射部近傍の前記流出側との温度差を低下させる調整手段を設けたことを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項2】
請求請1において、前記調整手段は、前記液体金属が前記ターゲット容器内壁に沿って下流側へ流れるように設けられたガイド板であり、該ガイド板はその平板面が前記ターゲット容器壁に沿って形成され、その上流側に下流側より大きく開口していることを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項3】
請求請1において、前記調整手段は、前記ターゲット容器内壁に設けられたフィンであり、該フィンはその平板面が前記ターゲット容器壁に鉛直水平に設けられていることを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項4】
請求請1において、前記調整手段は、前記ターゲット容器内壁に設けられた突起物であることを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項5】
請求請1において、前記液体金属が水銀であり、前記調整手段は、前記照射部近傍で前記流出側と前記陽子ビーム照射部とに前記液体金属に対してぬれ性を有する前記ターゲット容器内壁に設けられたNi又はNi合金からなる金属皮膜であることを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項6】
請求請1において、前記調整手段は、前記ターゲット容器外面に接して設けられた加熱器であることを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項1】
陽子ビームをターゲット容器内に貯蔵された液体金属に照射して核破砕反応により中性子を発生させると共に、前記液体金属を熱媒体として循環流動させる中性子発生装置用液体金属ターゲットにおいて、前記ターゲット容器は、前記陽子ビームの照射部と、該照射部分を挟んで前記液体金属の流入側と、その流出側とを有し、前記ターゲット容器壁の前記陽子ビームの照射部近傍で前記流出側にのみ、前記ターゲット容器の高温状態にある前記照射部と前記照射部近傍の前記流出側との温度差を低下させる調整手段を設けたことを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項2】
請求請1において、前記調整手段は、前記液体金属が前記ターゲット容器内壁に沿って下流側へ流れるように設けられたガイド板であり、該ガイド板はその平板面が前記ターゲット容器壁に沿って形成され、その上流側に下流側より大きく開口していることを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項3】
請求請1において、前記調整手段は、前記ターゲット容器内壁に設けられたフィンであり、該フィンはその平板面が前記ターゲット容器壁に鉛直水平に設けられていることを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項4】
請求請1において、前記調整手段は、前記ターゲット容器内壁に設けられた突起物であることを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項5】
請求請1において、前記液体金属が水銀であり、前記調整手段は、前記照射部近傍で前記流出側と前記陽子ビーム照射部とに前記液体金属に対してぬれ性を有する前記ターゲット容器内壁に設けられたNi又はNi合金からなる金属皮膜であることを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【請求項6】
請求請1において、前記調整手段は、前記ターゲット容器外面に接して設けられた加熱器であることを特徴とする中性子発生装置用液体金属ターゲット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−71766(P2008−71766A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297917(P2007−297917)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【分割の表示】特願2006−274895(P2006−274895)の分割
【原出願日】平成13年9月13日(2001.9.13)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【分割の表示】特願2006−274895(P2006−274895)の分割
【原出願日】平成13年9月13日(2001.9.13)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】
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