説明

中性子線検出材料とその製造方法、および中性子線検出器

【課題】高い透明性を維持しつつ安価な材料を用いて中性子線の照射により蛍光を発する蛍光材料と、その製造方法を提供する。また、中性子線の照射の瞬間に発せられる蛍光をリアルタイムで検出する中性子線検出器を提供する。
【解決手段】KClを主成分として希土類元素を添加物として含有した単結晶であって、中性子線照射により蛍光を発する中性子線検出用の蛍光材料。前記単結晶はチョクラルスキー法やブリッジマン法により成長される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子線の照射により蛍光を発する材料とその製造方法に関するものである。さらに本発明は、前記材料を用いた中性子線検出器に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
高エネルギーの中性子線の検出測定は、核融合炉の周辺環境における放射線測定を一例とする安全性が求められる分野において、高い信頼性が求められている。中性子線の検出測定手段の一つとして、中性子線による励起に起因する発光(シンチレーション)を起こす、いわゆる中性子線シンチレータが利用されている。一般的に、放射線の通過により放出されるシンチレーション光(即発発光)は、比較的発光量が小さいことが多く、光電子倍増管と組み合せて検出される。
【0003】
中性子線等の放射線の測定用にとして利用されるシンチレータには、高い中性子の吸収力、中性子線の高い発光効率のみならず高い透明性が求められる。
【0004】
従来、中性子線シンチレータには3Heや6Liガラスが利用されてきた。酸化物系の材料としては、CuやCeを添加物として含有するLiおよびBにより構成した酸化物からなる透明な単結晶やガラスからなる中性子シンチレータも開発されてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−183637
【特許文献2】特開2002−221578
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、3He及び6Liはどちらも資源的に乏しく高価であり、代替物質の必要性が増してきている。特に3Heはトリチウム(三重水素)のβ崩壊で発生する副生物であり、自然界の地球上には殆ど存在しないことが問題である。したがって、3Heや6Liに代わって地球上に多く存在する元素を用いれば中性子シンチレータを安価に提供することが可能となる。
【0007】
また、中性子線の検出には、イメージングプレートなどの用途に輝尽性発光をする材料が多く使われている。しかし輝尽性発光を利用する場合、一度中性子線を照射した材料に、別の光源より光を入射する装置が必要となり、さらに照射をリアルタイムに検出することができない。
【0008】
また、蛍光材料が多結晶や粉末凝縮体などでは不透明であり、中性子線の照射によって蛍光したとしても、効率の良い蛍光の検出には適していない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決するために、高価な3Heや6Liを含む材料の代替物として、アルカリ金属のハロゲン化物を使用する。特に、KClやKBrなどは、低融点で結晶構造も比較的単純な上、バンドギャップが広く、γ線分別も可能で中性子捕獲率の高い軽元素なので、高速・高エネルギー中性子線の検出に適しているといえる。
【0010】
また、単結晶にすることにより、高い透明性を確保し、また希土類元素を添加することにより発光量を増加することができる。
【0011】
本発明では、発光量の増量のために希土類元素を添加物として含有するKClを主成分とした単結晶であって、中性子線の照射により蛍光を発する蛍光材料と、その製造方法を提供する。また、当該蛍光材料を利用した中性子線の照射により瞬時に発せられる蛍光を用いて中性子線をリアルタイムに検出する中性子線検出器を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1に係わる、チョクラルスキー法によるKCl単結晶成長装置の概略断面図。
【図2】本発明の実施例1に係わる、チョクラルスキー法によるKCl単結晶成長のための融液の温度の時間プロファイル。
【図3】本発明の実施例2に係わるKCl:Eu単結晶への中性子線の照射により発せられた蛍光の蛍光スペクトル。
【図4】本発明の実施例3に係わるKCl単結晶と光電子倍増管を用いたリアルタイム中性子線検出器の概観図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.製造方法
以下、上記に示したような中性子の照射により蛍光を発するKCl単結晶の製造方法の一実施例として、Euを希土類元素添加物とするKCl(KCl:Eu)の単結晶をチョクラルスキー(Cz)法により成長させる方法を述べる。希土類元素の添加量の増加は、添加量が少量のうちは発光量の増加に役立つが、添加量の著しい増加は、希土類元素のKCl内の固溶限界に近づくほど、結晶性や透明性などの結晶の品質の低下の原因となる。Cz成長の融液中に添加するEu化合物の量は0.05〜7mol%が適当な範囲であることが分かった。
以下Cz法による上記のKCl単結晶の製造方法を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1に示すように、Cz法による単結晶の成長装置1は、アルミナ構造体2により支持されたAl2O3ルツボ3内部にはKClと添加物が入れられ、Al2O3ルツボ3を包囲し保護するサセプタ4の外側に配置されたヒータ5から放射される熱により溶融され融液6となり、当該融液6の温度は所定の温度になるように制御される構造になっている。
【0015】
図2はその際の融液6の温度の時間プロファイルを一例として示している。まず、融液6の材料の温度を500℃まで5時間かけてヒータ5による加熱により上昇させ、次に5時間かけて500℃から800℃まで加熱した。そして800℃で5時間、温度を維持した後、引上げの成長温度である750℃まで温度を下げた後、引上げ成長を開始した。融液6の添加物としてEuCl3を1mol%含有させた。
【0016】
この融液6に対し、上方より、所望の結晶方位をもった種結晶7を融液6に接触させるまで下降させた。この種結晶7の大きさは5mm x 5mm x 15 mmであり、結晶方位は、融液の液面との平行な結晶面が(100)であった。種結晶7は、融液6に対して液面垂直方向まわりに回転速度30rpmで回転し、引き上げ速度1.0〜1.5 mm/hで融液から引き上げられた。成長中の雰囲気中には不活性気体をフローさせ、また酸素濃度は抑制した。所定の長手軸方向長さに達したところで結晶成長を終了し、温度を10時間ほどかけて室温まで冷却した(図2)。
【0017】
上記の本発明に係わる単結晶材料の製造方法において、好ましい態様は以下の通りである。
【0018】
好ましくは、上記成長中の雰囲気中にフローさせる不活性気体は、ArまたはN2である。
【0019】
好ましくは、上記成長中の雰囲気中の酸素濃度は10%以下である。
【0020】
以上、本発明に係わる単結晶材料の製造法を図面に示す実施例に基づき説明したが、この実施例は説明上のもので制約的なものではない。
【0021】
例えば、融液へのEuCl3の添加量を1mol%としたが、他の添加量を0.05〜7mol%の範囲で選択してもよい。また、上記引上げ速度は0.1〜2 mm/hの範囲で、上記回転速度は5〜50 rpmの範囲で選択してもよい。
【0022】
さらには、融液への添加物料であるEu化合物として、EuCl3を示したが、EuCl3以外のEu化合物でもよく、具体的にはEuF3やEu2O3などのハロゲン化物、酸化物であってもよい。
【0023】
また、本発明に係わる単結晶材料において、添加物である希土類元素としてEuを示したが、Eu以外の希土類元素、例えばNdやCeであってもよい。
【0024】
そして、本発明に係わる単結晶材料の製造方法として、チョクラルスキー法による成長方法の実施例を示したが、他の結晶成長方法、例えばブリッジマン法であってもよい。
【実施例2】
【0025】
2.蛍光材料
実施例1に記載の方法により成長したKCl:Eu単結晶は、図示していないが、肉眼観察によると、可視光領域で高い透明性あり、また当該単結晶内に欠陥は認められなかった。
【0026】
当該単結晶に中性子線を照射した際に、蛍光を発することが確認された(図3)。この蛍光スペクトルは可視光領域内である波長420nm近傍に最大値がある。したがって、中性子線の照射の有無が肉眼でも確認することができる。
【実施例3】
【0027】
3.検出器
本発明に係わるKCl単結晶を用いることにより、中性子線検出器を作成することができる。図4に、本発明の実施例3に係わる中性子線検出器11の概観を示す。即ち、KCl単結晶12と、例えば光電子倍増管などの蛍光を電気信号へ変換増幅する装置13とを組み合わせて中性子線検出器11を提供することができる。
【0028】
この本発明に係わる中性子線検出器を用いて、中性子線の照射14の瞬間にKCl単結晶12から発せられる蛍光15を検出することにより、中性子線照射の有無の検出やその強度の測定をリアルタイムで行うことが可能となる。
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、高い透明性を維持しつつ安価な材料を用いて中性子線の照射により蛍光を発する中性子線シンチレータの提供が可能となった。
【0030】
また、本発明に係わるKCl単結晶を用いることで、中性子線の照射の瞬間に当該KCl結晶から発せられる蛍光を検出することで、中性子線の有無やその強度をリアルタイムで検出することを可能にする中性子線検出器の提供が可能となった。
【0031】
さらに、当該蛍光の波長が可視光の範囲にあり、中性子線の有無が肉眼でも確認できるので、放射線管理の信頼性が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
KClを主成分として希土類元素を添加物として含有した単結晶であって、中性子線照射により蛍光を発する中性子線検出用の蛍光材料。
【請求項2】
前記単結晶はチョクラルスキー法により成長されたことを特徴とする、請求項1に記載の中性子線検出用の蛍光材料。
【請求項3】
前記単結晶はブリッジマン法により成長されたことを特徴とする、請求項1に記載の中性子線検出用の蛍光材料。
【請求項4】
前記希土類元素はEuであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の中性子線検出用の蛍光材料。
【請求項5】
前記成長は
不活性気体のフローを伴い、酸素濃度10%以下の雰囲気中で行われ、
KClの融液中にEu化合物が0.05〜7.00mol%含有されること
を特徴とする請求項2に記載の中性子線検出用の蛍光材料。
【請求項6】
前記成長において、前記KClの融液中の前記Eu化合物はEuCl3、EuF3またはEu2O3であることを特徴とする請求項5に記載の中性子線検出用の蛍光材料。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の中性子線検出用の蛍光材料を用いて、中性子線照射の瞬間に発せられる蛍光をリアルタイムに検出することを特徴とする中性子線検出器。
【請求項8】
光電子増倍管を用いて、前記中性子線照射の瞬間に発せられる前記蛍光を検出することを特徴とする請求項7に記載の中性子線検出器。
【請求項9】
KClを主成分として希土類元素を添加物として含有したチョクラルスキー法により成長された単結晶であって、中性子線照射により蛍光を発する中性子線検出用の蛍光材料の、製造方法であって、
前記成長は
不活性気体のフローを伴い、酸素濃度10%以下の雰囲気中で行われ、
KClの融液中にEu化合物を0.05〜7.00mol%含有すること
を特徴とする中性子線検出用の蛍光材料の製造方法。
【請求項10】
前記成長において、前記KClの融液中の前記Eu化合物はEuCl3、EuF3またはEu2O3であることを特徴とする請求項9に記載の中性子線検出用の蛍光材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−157457(P2011−157457A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19513(P2010−19513)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(390021186)株式会社秩父富士 (54)
【Fターム(参考)】