説明

中性子線照射装置及び中性子線照射装置のメンテナンス方法

【課題】メンテナンス時に作業者が受ける放射線の影響を低減すると共に、減速体を設置する部屋の面積の増大を抑制することができる中性子線照射装置及び中性子線照射装置のメンテナンス方法を提供する。
【解決手段】本発明は、照射室Rm内の被照射体に中性子線を照射する中性子線照射装置1であって、荷電粒子を加速して荷電粒子線Pを出射するサイクロトロン2と、荷電粒子線Pが照射されることで中性子線Nを発生させるターゲット3と、サイクロトロン2とターゲット3とを接続する真空ダクト4と、ターゲット3で発生した中性子線Nを減速させるモデレータ5と、を備え、ターゲット3は、モデレータ5から離間するように移動可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子線照射装置及び中性子線照射装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療等における放射線治療の1つとして、中性子線の照射によりがん治療を行う硼素中性子捕捉療法(BNCT:BoronNCT)が知られている。硼素中性子捕捉療法は、がん細胞に予め取り込ませた10B等の硼素化合物に中性子を反応させることでがん細胞の選択的な治療が可能な療法として注目を受けている。この硼素中性子捕捉療法を行うための中性子線発生装置では、ベリリウムBe等からなるターゲットに荷電粒子線を照射することで中性子線を発生させ、ターゲットを収容する収容室が設けられた減速体により中性子線を適切なエネルギーレベルまで減速させる。この種の装置では、中性子線の発生によりターゲットが消耗するためターゲットの定期的な交換が必要となる。
【0003】
特許文献1には、中性子線発生装置において使用済みのターゲットを回収するターゲット回収装置が記載されている。このターゲット回収装置では、ターゲットが収容されている収容室が設けられた減速体をターゲットから離間させるように引き出すことでターゲットを露出させ、ターゲット回収を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−204428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、中性子線発生装置のメンテナンス時には、作業員に対する放射線の影響が問題となる。このとき、中性子線発生装置ではターゲットだけではなく、減速体を含むターゲット周辺の部材も放射化しているため、ターゲット交換等の作業はターゲットと周辺部材とを離間させた状態で行うことが好ましい。
【0006】
しかしながら、前述した従来のターゲット回収装置のように、減速体をターゲットから離間させるように引き出してターゲットを露出させる構成では、減速体を引き出すスペースが必要となるため、減速体を設置する部屋の面積が大きくなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、メンテナンス時に作業者が受ける放射線の影響を低減すると共に、減速体を設置する部屋の面積の増大を抑制することができる中性子線照射装置及び中性子線照射装置のメンテナンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、照射室内の被照射体に中性子線を照射する中性子線を照射する中性子線照射装置であって、荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生させる中性子線発生部と、加速器と中性子線発生部とを接続するダクトと、中性子線発生部で発生した中性子線を減速させる減速体と、を備え、中性子線発生部は、減速体から離間するように移動可能であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る中性子線照射装置によれば、メンテナンス時に中性子線発生部を減速体から離間するように移動させることで、放射化した減速体及びその周辺部材からの悪影響を避けつつ中性子線発生部交換等の作業を行うことが可能になる。しかも、減速体を移動させる従来の構成と異なり、部屋内に減速体移動用の大きなスペースを設ける必要がなくなる。従って、この中性子線照射装置によれば、メンテナンス時に作業者が受ける放射線の影響を低減すると共に、減速体を設置する部屋の面積の増大を抑制することができる。
【0010】
本発明に係る中性子線照射装置においては、中性子線照射時における中性子線発生部及び減速体の位置関係と比べて中性子線発生部が減速体から離間した状態で、中性子線発生部と減速体との間に配置される移動式の放射線遮蔽体を更に備えることが好ましい。
この中性子線照射装置によれば、減速体から離間した状態の中性子線発生部と減速体との間に移動式の放射線遮蔽体を配置することで、減速体からの放射線を効果的に遮蔽することができ、作業者が受ける放射線の影響を大幅に低減することができる。
【0011】
本発明に係る中性子線照射装置において、中性子線発生部は、ダクトに沿ってダクトの上流側へ移動可能であることが好ましい。
この中性子線照射装置によれば、中性子線発生部がダクトに沿って上流側へ移動するため、中性子線発生部が移動する際にダクトが設けられたスペースを有効活用することができ、中性子線発生部を移動させるための建屋が大型化してしまうことを抑制できる。
【0012】
本発明に係る中性子線照射装置においては、ダクトは、中性子線発生部を減速体から離間するように伸縮可能な伸縮部を有することが好ましい。
この中性子線照射装置によれば、ダクトの伸縮部を縮ませることで中性子線発生部を減速体から離間させることができるので、中性子線発生部の移動作業が容易であり、メンテナンス時間の短縮を図ることができる。このことは作業員の受ける放射線の影響低減にも繋がる。
【0013】
本発明に係る中性子線照射装置においては、ダクトは、脱着によりダクト長を変更可能な脱着部を有することが好ましい。
この中性子線照射装置によれば、脱着部の取り外しによりダクト長を短くすることで、中性子線発生部を減速体から離間させることができる。また、簡素な構造で中性子線発生部の移動を実現することができるので、装置の低コスト化に有利である。
【0014】
本発明は、荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生させる中性子線発生部と、中性子線発生部で発生した中性子線を減速させる減速体と、を備える中性子線照射装置のメンテナンス方法であって、中性子線発生部を減速体から離間するように移動させる中性子線発生部移動工程を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る中性子線照射装置のメンテナンス方法によれば、メンテナンス時に中性子線発生部を減速体から離間するように移動させることで、放射化した減速体及びその周辺部材からの悪影響を避けつつ中性子線発生部交換等の作業を行うことが可能になる。しかも、減速体側を移動させる従来の構成と異なり、部屋内に減速体移動用の大きなスペースを設ける必要がなくなる。従って、このメンテナンス方法によれば、メンテナンス時に作業者が受ける放射線の影響を低減すると共に、減速体を設置する部屋の面積の増大を抑制することができる。
【0016】
本発明に係る中性子線照射装置のメンテナンス方法においては、中性子線発生部移動工程の後、中性子線発生部と減速体との間に移動式の放射線遮蔽体を配置する遮蔽体配置工程を更に備えることが好ましい。
この中性子線照射装置のメンテナンス方法によれば、減速体から離間した状態の中性子線発生部と減速体との間に移動式の放射線遮蔽体を配置することで、減速体からの放射線を効果的に遮蔽することができ、作業者が受ける放射線の影響を大幅に低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、メンテナンス時に作業者が受ける放射線の影響を低減すると共に、減速体を設置する部屋の面積の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る中子線照射装置を示す平面図である。
【図2】図1の中子線照射装置を示す側面図である。
【図3】第1の実施形態に係る中子線照射装置のメンテナンス状態を示す平面図である。
【図4】図3の中子線照射装置を示す側面図である。
【図5】ダクト支持構造の一例を示す側面図である。
【図6】第2の実施形態に係る中子線照射装置を示す平面図である。
【図7】図6の中子線照射装置を示す側面図である。
【図8】第2の実施形態に係る中子線照射装置のメンテナンス状態を示す平面図である。
【図9】図8の中子線照射装置を示す側面図である。
【図10】第3の実施形態に係る中子線照射装置を示す平面図である。
【図11】第3の実施形態に係る中子線照射装置のメンテナンス状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、「上流」「下流」の語は、出射する荷電粒子線及び中性子線の上流(サイクロトロン側)、下流(患者側)をそれぞれ意味している。
【0020】
[第1の実施形態]
図1及び図2に示されるように、第1の実施形態に係る中性子線照射装置1は、中性子捕捉療法(NCT:Neutron Capture Therapy)によるがん治療等に利用される装置である。中性子線照射装置1は、照射室Rm内に設けられた治療台100上の患者の患部(被照射体)に中性子線を照射することで治療を行う。
【0021】
この中性子線照射装置1は、加速器室Ra内のサイクロトロン(加速器)2から出射された荷電粒子線Pをターゲット(中性子線発生部)3に衝突させることで中性子線Nを発生させる。サイクロトロン2は、陽子等の荷電粒子を加速して、陽子線(陽子ビーム)を荷電粒子線Pとして出射する加速器である。サイクロトロン2から出射された荷電粒子線Pは、真空ダクト4を通じてターゲット3に送られる。
【0022】
ターゲット3は、例えばベリリウムBeから形成される円板状の部材である。ターゲット3は、サイクロトロン2から出射された荷電粒子線Pが照射されることにより中性子線Nを発生させる。ターゲット3は、中性子線Nの発生により次第に消耗するため定期的な交換が必要となる。ターゲット3は、荷電粒子線Pを通す真空ダクト4の下流端部に対して着脱自在に取り付けられ、この状態でモデレータ(減速体)5の収容室5a内に収容されている。
【0023】
モデレータ5は、ターゲット3で発生した中性子線Nを減速させる装置である。ターゲット3から発生した中性子線Nは、モデレータ5で減速されることにより治療に適したレベルまでエネルギーが抑えられて患者に照射される。モデレータ5の内部には、中性子線Nを減速させるための減速材5A(例えば、鉄Fe、アルミニウムAl、フッ化カルシウムCaF等からなる積層材)及び中性子線Nの漏洩を防止するための鉛等からなる遮蔽材5Bが設けられている。遮蔽材5Bは、中性子線Nだけではなく、中性子線Nが遮蔽材5Bに衝突することで発生するガンマ線も遮蔽する。また、モデレータ5における中性子線Nの出口側には、中性子線Nを所定の形状(ビーム径)に整形するためのコリメータCが設けられている。
【0024】
この中性子線照射装置1が設けられる建屋には、加速器室Raと照射室Rmとが設けられている。加速器室Ra内には、サイクロトロン2と真空ダクト4の一部とが設けられている。照射室Rm内には、ターゲット3と、真空ダクト4の一部と、モデレータ5と、治療台100とが設けられている。なお、加速器室Raと照射室Rmとの境を真空ダクト4とせずに、境をモデレータ5としてもよい。すなわち、加速器室Ra内に、サイクロトロン2と、ターゲット3と、真空ダクト4と、モデレータ5の一部とを設ける構成としてもよい。
【0025】
真空ダクト4は、サイクロトロン2から出射された荷電粒子線Pをターゲット3へと輸送するものである。真空ダクト4は、上流側のサイクロトロン2と下流側のターゲット3とを接続している。真空ダクト4は、図示しない減圧手段(例えば真空ポンプ)に接続されており、内部が真空状態に維持されることで、輸送中の荷電粒子線Pの減衰発散を抑制している。
【0026】
また、真空ダクト4の周囲には、真空ダクト4に沿って荷電粒子線Pの向きを変えるための偏向磁石(不図示)、輸送により次第に拡散する荷電粒子線Pを収束させるための収束磁石(不図示)が複数配置されている。なお、真空ダクト4の形状は直線状のものに限られず、設備の配置状況に応じて曲線状その他の適切な形状を取る。
【0027】
この真空ダクト4は、伸縮自在なベローズ部(伸縮部)4aを有している。図1及び図3に示すように、真空ダクト4のベローズ部4aが縮むことによりターゲット3がモデレータ5から離間する方向(矢印S1の方向)に移動して、ターゲット3とモデレータ5との間にスペースが形成された状態となる。また、ベローズ部4aが伸びることによりターゲット3がモデレータ5に接近するように移動して、ターゲット3が収容室5a内に収容された状態となる。このようにして、中性子線照射装置1では、ターゲット3が設置床やサイクロトロン2に対して移動可能に構成することで、ターゲット3をモデレータ5から離間させることができる。また、この構成によれば真空ダクト4に沿ってターゲット3を真空ダクト4の上流側へ移動可能である。ベローズ部4aの伸縮量は、例えば1〜2mであれば、ターゲット3をモデレータ5から十分に離間できる。
【0028】
以後、図1及び図2に示すようにターゲット3がモデレータ5の収容室5a内に収容された状態を照射可能状態と呼び、図3及び図4に示すようにターゲット3がモデレータ5から離間した状態をメンテナンス状態と呼ぶ。
【0029】
図3及び図4に示すように、メンテナンス状態では、ターゲット3とモデレータ5との間に移動式の放射線遮蔽体6が配置される。放射線遮蔽体6は二つの遮蔽体6A,6Bから構成され、遮蔽体6A,6Bは床面に設けられたレール7に沿って引き戸のように開閉される。遮蔽体6A,6Bは、真空ダクト4と交差する方向で開閉するように構成されている。
【0030】
遮蔽体6A,6Bは、図1及び図2に示す照射可能状態では真空ダクト4の左右に分かれた開状態となり、図3及び図4に示すメンテナンス状態ではターゲット3とモデレータ5との間に配置された閉状態となる。なお、遮蔽体6A,6Bの開閉方向は左右方向(水平方向)に限らず、上下方向(垂直方向)等であっても良い。
【0031】
図2及び図4に示すように、中性子線照射装置1は、真空ダクト4を支持するダクト受け台8,9を備えている。ダクト受け台8は、真空ダクト4のうちベローズ部4aより上流側すなわち固定側を支持する台である。一方、ダクト受け台9は、真空ダクト4のうちベローズ部4aより下流側すなわち移動側を支持しており、その上端にはレール10が設けられている。レール10は、真空ダクト4の下流側を矢印S1方向(図3参照)で移動自在に支持するものである。
【0032】
真空ダクト4の下流側を移動自在に支持する支持構造としては、様々なものを採用することができる。ここで、図5は、真空ダクト4の支持構造の一例を示す図である。図5に示す支持構造では、図2に示すダクト受け台9に代えて、真空ダクト4に沿って横長の形状を有するダクト受け台12が備えられている。また、ダクト受け台12の上端には、真空ダクト4に沿って延在するレール13が設けられている。
【0033】
真空ダクト4の下流側には、ローラ部14,15が取り付けられており、ローラ部14,15はレール13に対して摺動自在に構成されている。ローラ部14,15は、モータの駆動により真空ダクト4の下流側を上流側へ移動させる態様であってもよく、手動で真空ダクト4の下流側を移動させる態様であってもよい。このような支持構造によれば、簡素な構成により、ターゲット3を真空ダクト4に沿って真空ダクト4の上流側に移動可能にすることができる。
【0034】
次に、第1の実施形態に係る中性子線照射装置1のメンテナンス方法について説明する。中性子線照射装置1は、ターゲット交換等のメンテナンスを行う場合、図1及び図2に示す照射可能状態から図3及び図4に示すメンテナンス状態に移行する。
【0035】
中性子線照射装置1では、まず図3の矢印S1として示す方向へターゲットを移動させるターゲット移動工程が行われる。ターゲット移動工程では、真空ダクト4のベローズ部4aを縮めることにより、照射可能状態におけるターゲット3及びモデレータ5の位置関係と比べて、ターゲット3をモデレータ5から離間するように移動させる。ターゲット3は、真空ダクト4に沿って真空ダクト4の上流側へ移動させられる。このとき、真空ダクト4のベローズ部4aより下流側は、レール10により移動自在に支持されているので、少ない作業量でターゲット3のスムーズな移動が実現できる。
【0036】
次に、中性子線照射装置1では、図3の矢印S2として示す遮蔽体配置工程が行われる。遮蔽体配置工程では、遮蔽体6A,6Bを閉じることで、ターゲット3とモデレータ5との間に移動式の放射線遮蔽体6を配置する。これにより、モデレータ5からターゲット3側へ発せられる放射線を遮蔽することができる。その後、中性子線照射装置1では、ターゲット3を交換するターゲット交換工程が行われる。
【0037】
以上説明した中性子線照射装置1及びそのメンテナンス方法によれば、メンテナンス時にターゲット3をモデレータ5から離間するように移動させることで、放射化したモデレータ5及びその周辺部材からの悪影響を避けつつターゲット交換等の作業を行うことが可能になる。しかも、モデレータ5を移動させる従来の構成と異なり、照射室Rm内にモデレータ移動用の大きなスペースを設ける必要がなくなる。従って、この中性子線照射装置1によれば、メンテナンス時に作業者が受ける放射線の影響を低減すると共に、照射室Rmの面積の増大を抑制することができる。
【0038】
また、この中性子線照射装置1では、照射可能状態におけるターゲット3及びモデレータ5の位置関係と比べてモデレータ5から離間した状態のターゲット3とモデレータ5との間に移動式の放射線遮蔽体6を配置することで、モデレータ5からの放射線を効果的に遮蔽することができ、作業者が受ける放射線の影響を大幅に低減することができる。
【0039】
更に、この中性子線照射装置1によれば、ターゲット3が真空ダクト4に沿って上流側へ移動するため、ターゲット3が移動する際に真空ダクト4が設けられたスペースを有効活用することができ、ターゲット3を移動させるために建屋が大型化してしまうことを抑制できる。
【0040】
この中性子線照射装置1によれば、真空ダクト4のベローズ部4aを縮ませることでターゲット3をモデレータ5から離間させることができるので、ターゲット3の移動作業が容易であり、メンテナンス時間の短縮を図ることができる。このことは作業員の受ける放射線の影響低減にも繋がる。
【0041】
[第2の実施形態]
図6及び図7に示すように、第2の実施形態に係る中性子線照射装置21は、第1の実施形態に係る中性子線照射装置1と比べて、真空ダクト22がベローズ部4aに代えて脱着部23を有している点が異なる。
【0042】
具体的には、中性子線照射装置21の真空ダクト22は、脱着可能な脱着部23を有している。脱着部23は、長さ方向で真空ダクト22の一部を構成する部材である。
【0043】
ここで、図6及び図7は、照射可能状態の中性子線照射装置21を示す平面図及び側面図である。また、図8及び図9は、メンテナンス状態の中性子線照射装置21を示す平面図及び側面図である。図6及び図7に示す照射可能状態において、脱着部23は、両端のフランジ部23aが本体側のフランジ部22aにボルト止めされることで真空ダクト22に取り付けられている。
【0044】
一方、図8及び図9に示すメンテナンス状態においては、フランジ部22a,23aの連結を解除することで脱着部23が取り外される。その後、フランジ部22a同士を連結することで真空ダクト22のダクト長が短くなり、ターゲット3がモデレータ5から離間するように移動される。脱着部23の長さは、例えば1〜2mであることが好ましい。
【0045】
次に、第2の実施形態に係る中性子線照射装置21のメンテナンス方法について説明する。中性子線照射装置21は、ターゲット交換等のメンテナンスを行う場合、図6及び図7に示す照射可能状態から図8及び図9に示すメンテナンス状態に移行する。
【0046】
中性子線照射装置21では、まずターゲット3をモデレータ5から離間するように移動させるターゲット移動工程が行われる。第2の実施形態に係るターゲット移動工程は、図8の矢印S11として示す脱着部取り外し工程と図8及び図9の矢印S12として示すダクト接続工程とからなる。
【0047】
脱着部取り外し工程では、フランジ部22a,23aの連結を解除することで真空ダクト22から脱着部23の取り外しが行われる。その後、ダクト接続工程において、真空ダクト22の下流側を上流側へ移動させ、下流側及び上流側のフランジ部22aの連結が行われる。このとき、真空ダクト22の下流側は、ダクト受け台9のレール10により移動自在に支持されているので、少ない作業量でスムーズに移動させることができる。以上の脱着部取り外し工程及びダクト接続工程が行われることで、真空ダクト22の下流端部に取り付けられているターゲット3がモデレータ5から離間するように移動される。
【0048】
次に、中性子線照射装置21では、図8の矢印S13として示す遮蔽体配置工程が行われる。遮蔽体配置工程では、遮蔽体6A,6Bを閉じることで、ターゲット3とモデレータ5との間に移動式の放射線遮蔽体6を配置する。これにより、モデレータ5とターゲット3の間で放射線を遮蔽することができる。その後、中性子線照射装置21では、ターゲット3を交換するターゲット交換工程が行われる。
【0049】
以上説明した第2の実施形態に係る中性子線照射装置21及びそのメンテナンス方法によれば、脱着部23の取り外しにより真空ダクト22のダクト長を短くすることで、ターゲット3をモデレータ5から離間させることができる。また、簡素な構造でターゲット3の移動を実現することができるので、装置の低コスト化に有利である。
【0050】
[第3の実施形態]
図10及び図11に示すように、第3の実施形態に係る中性子線照射装置31は、第1の実施形態に係る中性子線照射装置1と比べて、ベローズ部4aの代わりに屈曲ベローズ部(伸縮部)32aを有している点が異なる。
【0051】
具体的には、中性子線照射装置31の真空ダクト32は、左右方向に屈曲自在に構成された屈曲ベローズ部32aを有している。なお、屈曲ベローズ部32aの屈曲方向は左右方向(水平方向)に限られず、上下方向(垂直方向)に屈曲可能であっても良い。屈曲ベローズ部32aは、曲げ方向に対して内側が縮められ外側が伸ばされることで屈曲される。真空ダクト32では、屈曲ベローズ部32aを曲げ中心として真空ダクト32の下流側を移動させることができる。
【0052】
また、中性子線照射装置31のモデレータ5の減速材5Aには、真空ダクト32の下流側を通過させるための切り欠き部5bが形成されている。
【0053】
次に、第3の実施形態に係る中性子線照射装置31のメンテナンス方法について説明する。中性子線照射装置31は、ターゲット交換等のメンテナンスを行う場合、図10に示す照射可能状態から図11に示すメンテナンス状態に移行する。
【0054】
中性子線照射装置31では、まず図11の矢印S21として示す方向へターゲットを移動させるターゲット移動工程が行われる。ターゲット移動工程では、屈曲ベローズ部32aを中心として真空ダクト32の下流側を曲げることにより、照射可能状態におけるターゲット3及びモデレータ5の位置関係と比べて、ターゲット3をモデレータ5から離間するように移動させる。
【0055】
次に、中性子線照射装置31では、図11の矢印S22として示す遮蔽体配置工程が行われる。遮蔽体配置工程では、遮蔽体6A,6Bを閉じることで、ターゲット3とモデレータ5との間に移動式の放射線遮蔽体6を配置する。これにより、モデレータ5からターゲット3側へ発せられる放射線を遮蔽することができる。その後、中性子線照射装置31では、ターゲット3を交換するターゲット交換工程が行われる。
【0056】
以上説明した第3の実施形態に係る中性子線照射装置31及びそのメンテナンス方法によれば、メンテナンス時において、屈曲ベローズ部32aを中心として真空ダクト32の下流側を曲げることでターゲット3をモデレータ5から離間するように移動させることができる。また、第1の実施形態に係る中性子線照射装置1と比べて、屈曲ベローズ部32aの長さを短くできるので、耐久性が低下しやすい変形部位を少なくすることができる。
【0057】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0058】
例えば、荷電粒子線Pを出射する加速器は、サイクロトロンに限られず、シンクロトロンやシンクロサイクロトロン、線型加速器等を用いても良い。また、真空ダクト4の伸縮や移動式の放射線遮蔽体6の移動は、必ずしも作業者が手動で行う必要はなく、アクチュエータ等を設けて遠隔操作や自動制御可能な構成であっても良い。
【0059】
また、放射線遮蔽体6は、必ずしも二つの遮蔽体6A,6Bから構成する必要はなく、一つ又は三つ以上の遮蔽体から構成されていても良く、また移動態様も引き戸状のものに限られない。
【0060】
更に、真空ダクト4の伸縮部は、ベローズ部4aに限られない。例えば、ベローズ部4aに代えて、二重構造の筒の内側又は外側が摺動することで伸縮可能となる筒状スライダ部を採用しても良い。
【符号の説明】
【0061】
1,21,31…中性子線照射装置 2…サイクロトロン(加速器) 3…ターゲット(中性子線発生部) 2,22,32…真空ダクト 4a…ベローズ部(伸縮部) 5…モデレータ(減速体) 5A…減速材 5B…遮蔽材 5a…収容室 6…放射線遮蔽体 6A,6B…遮蔽体 7…レール 8,9…ダクト受け台 10…レール 22a,23a…フランジ部 23…脱着部 32a…屈曲ベローズ部(伸縮部) C…コリメータ N…中性子線 P…荷電粒子線 Ra…加速器室 Rm…照射室



【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射室内の被照射体に中性子線を照射する中性子線照射装置であって、
荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、
前記荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生させる中性子線発生部と、
前記加速器と前記中性子線発生部とを接続するダクトと、
前記中性子線発生部で発生した中性子線を減速させる減速体と、
を備え、
前記中性子線発生部は、前記減速体から離間するように移動可能であることを特徴とする中性子線照射装置。
【請求項2】
中性子線照射時における前記中性子線発生部及び前記減速体の位置関係と比べて前記中性子線発生部が前記減速体から離間した状態で、前記中性子線発生部と前記減速体との間に配置される移動式の放射線遮蔽体を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の中性子線照射装置。
【請求項3】
前記中性子線発生部は、前記ダクトに沿って前記ダクトの上流側へ移動可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の中性子線照射装置。
【請求項4】
前記ダクトは、前記中性子線発生部を前記減速体から離間するように伸縮可能な伸縮部を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の中性子線照射装置。
【請求項5】
前記ダクトは、脱着によりダクト長を変更可能な脱着部を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の中性子線照射装置。
【請求項6】
荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、前記荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生させる中性子線発生部と、前記中性子線発生部で発生した中性子線を減速させる減速体と、を備える中性子線照射装置のメンテナンス方法であって、
前記中性子線発生部を前記減速体から離間するように移動させる中性子線発生部移動工程を備えることを特徴とする中性子線照射装置のメンテナンス方法。
【請求項7】
前記中性子線発生部移動工程の後、前記中性子線発生部と前記減速体との間に移動式の放射線遮蔽体を配置する遮蔽体配置工程を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の中性子線照射装置のメンテナンス方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−19692(P2013−19692A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150994(P2011−150994)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】