説明

中性子線照射装置

【課題】コリメータの中性子取出口と照射目標との位置合わせを容易に行い、照射精度の向上を図ることを可能にした中性子線照射装置を提供する。
【解決手段】 中性子線照射装置1は、患者P体内の患部Tに中性子線を照射する装置であり、患者Pを載置する載置台2と、中性子を減速する減速装置3と、中性子を収束するコリメータ4とを備える。コリメータ4は、コリメータホルダ10を介してカバー11に固定され、載置台2とコリメータ4とは、中性子の取出方向Fに沿って減速装置3に対して移動可能に設けられている。中性子線照射装置1は、載置台2及びコリメータ4が減速装置3から離間した後、コリメータ4と減速装置3との間から患部TのX線画像を撮像するCR撮像部22を更に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中性子線照射装置として、特開平11−57043号公報に記載されたものが知られている。この公報に記載された中性子線照射装置は、加速器からの加速荷電粒子を複数方向に振り分ける偏向磁石と、加速荷電粒子の衝撃で中性子を発生するターゲットと、被照射体を載置する載置台に中性子を収束させるコリメータと、ターゲットとコリメータとの間に介在された中性子減速材とを備える。そして、偏向磁石で加速器からの加速荷電粒子を所定の割合で振り分け、照射する中性子の強度を調整することで、照射効果の向上が図られている。
【特許文献1】特開平11−57043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述した従来の中性子線照射装置では、コリメータ、減速材及びターゲットは一体化されているので、被照射体を載置台にセットした後に、被照射体の後側から、コリメータの中性子取出口と被照射体における照射目標との位置関係の確認を行っている。このため、コリメータの中性子取出口と照射目標との位置合わせを容易に行うことができず、照射精度の向上を図り難いという問題があった。
【0004】
本発明は、コリメータの中性子取出口と照射目標との位置合わせを容易に行い、照射精度の向上を図ることを可能にした中性子線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る中性子線照射装置は、被照射体における照射目標に中性子線を照射する中性子線照射装置であって、被照射体を載置する載置台と、中性子を減速する減速材を有する減速装置と、減速装置によって減速された中性子を収束させて載置台側に取り出すコリメータと、を備え、コリメータと載置台とは、減速装置に対して相対的に移動可能に設けられていることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る中性子線照射装置では、コリメータと載置台とは、減速装置に対して相対的に移動可能に設けられているので、コリメータと載置台とを減速装置から離間させたり、接近させたりすることができる。従って、コリメータと載置台とを減速装置から離間させた後、コリメータを挟んで載置台の反対側からコリメータの中性子取出口と照射目標との位置関係を確認することが可能となる。その結果、コリメータの中性子取出口と照射目標との位置合わせを容易に行うことができ、照射精度の向上を図ることができる。そして、両者の位置合わせを行った後、コリメータと載置台とを減速装置に接近させて減速装置から中性子を出射させることで、照射目標に高精度に中性子線を照射することが可能となる。
【0007】
本発明に係る中性子線照射装置において、コリメータと載置台とは、中性子の取出方向に沿って移動可能に設けられていることが好適である。
このようにすれば、中性子の取出方向に沿ってコリメータと載置台とを減速装置から離間させ、載置台の反対側からコリメータの中性子取出口と照射目標との位置合わせを行った後、中性子の取出方向の反対方向にコリメータと載置台とをスライドするだけで減速装置とを接近させることができるので、中性子取出口と照射目標との位置合わせ状態を維持することが可能となり、移動による両者の位置ズレの発生を防止することができる。
【0008】
本発明に係る中性子線照射装置において、コリメータと載置台とが減速装置から離間した場合、コリメータと減速装置との間から載置台に載置された被照射体の照射目標のX線画像を撮像する撮像部を更に備えることが好適である。
このようにすれば、照射目標のX線画像に基づいてコリメータの中性子取出口と照射目標との位置関係を確認することができるので、両者の位置合わせを容易に行い、照射精度の向上を図り易くなる。
【0009】
本発明に係る中性子線照射装置において、コリメータを支持するコリメータホルダを更に備え、コリメータホルダには、減速装置の先端部をその内部に収容するための凹部が設けられていることが好適である。
このようにすれば、コリメータと減速装置との位置合わせを容易、且つ精確に行うことができるので、照射精度を一層向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コリメータの中性子取出口と照射目標との位置合わせを容易に行い、照射精度の向上を図ることを可能にした中性子線照射装置を提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る中性子線照射装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、中性子線照射装置1は、患者(被照射体)Pの体内の患部(照射目標)Tに対して中性子線を照射する装置である。この中性子線照射装置1は、患者Pを載置する載置台2と、中性子を減速する減速装置3と、載置台2と減速装置3との間に設けられたコリメータ4とから主として構成されている。
【0013】
載置台2は、患者Pが座る座部5と、座部5に対し立設された背もたれ6と、背もたれ6の上端に設置された頭部保持部7とを備える。この載置台2は、支持部8により支持されると共に上下、左右、前後方向に移動可能となっている。
【0014】
減速装置3は、その内部に設置されたターゲット15(図3参照)にイオンビームを照射することで、中性子を発生させ、発生した中性子を減速させた後に患者P側へ出射させるものである。この減速装置3は、台座9にスライド可能に支持される。遮蔽壁Wは、コンクリートから形成され、患者Pへの不必要な放射線照射を防止する。減速装置3の先端部3aは、遮蔽壁Wを貫通し、コリメータホルダ10の内部に入り込んでいる。
【0015】
コリメータ4は、載置台2とコリメータホルダ10との間に配置され、減速装置3から出射された中性子を収束させて、中性子の取出方向Fに取り出すものである。図2に示すように、このコリメータ4は、フッ化リチウム入りポリエチレン材料によって直方体形状に形成されている。コリメータ4の中央には、患部Tの形状に合わせた大きさを有する中性子取出口4aが設けられている。減速装置3から出射された中性子は、この中性子取出口4aを通って患者Pの患部Tに照射される。
【0016】
コリメータ4は、それを支持するコリメータホルダ10を介しカバー11に固定されている。コリメータホルダ10は、アルミニウムから構成され、その減速装置3に面する側には、減速装置3の先端部3aの形にマッチした凹部10aが設けられている。カバー11は、ガラス繊維強化プラスチックからなり、その減速装置3に隣接する側は遮蔽壁Wに当接されている。減速装置3の先端部3aは、コリメータホルダ10の凹部10aに入り込み、コリメータホルダ10及びカバー11に覆われている。また、放射線等の漏れを防止するため、この先端部3aとコリメータホルダ10との間の隙間は、鉛シールドされることが好適である。
【0017】
コリメータ4と載置台2とは、減速装置3に対して一体化的に移動可能に設けられている。具体的には、コリメータ4及びコリメータホルダ10を固定するカバー11と、載置台2を支持する支持部8とは、これらの下に設置された移動ベース25に固定され、移動ベース25は、その内部に設けられた移動手段26によって中性子の取出方向F及びその反対方向に往復移動可能にされている。そして、コリメータ4及び載置台2は、移動ベース25の往復移動に伴い減速装置3から離間したり、減速装置3に接近したりすることになる。移動手段26として、直線運動に適したLMガイド(Linear Motion Guide)が挙げられる。
【0018】
また、中性子線照射装置1は、患者Pの患部TのX線画像を撮像するCR(Computed Radiography)撮像部22を備える。このCR撮像部22は、載置台2と減速装置3との間に配置されたカバー11の上方に設置されたX線管23と、載置台2の頭部保持部7の後方に配置されたイメージングプレート24と、X線画像を処理し表示する画像表示部(図示せず)とから構成されている。
【0019】
図3に示すように、減速装置3は、円柱形状を呈し、中心軸L方向に沿って延在する円筒状のターゲット収容部12と、中央位置に配置されると共に中心軸L方向に延びる減速材13と、減速材13とターゲット収容部12とを周りから取り囲む反射材14とから主として構成されている。
【0020】
ターゲット15は、ターゲット収容部12の内部に収容され、ベリリウム、リチウム、タンタル、タングステンなどの材質が用いられる。イオンビームが照射されると、全方向に中性子を発生し、発生した中性子のうちの一部が減速材13に入射する。イオンビームとして、陽子や重陽子などが挙げられる。
【0021】
減速材13は、それぞれ異なる材料からなる第1の減速層16と第2の減速層17と第3の減速層18と第4の減速層19とを備え、ターゲット15から発生した高エネルギーを有する中性子のうち、入射されてきた中性子を熱又は熱外と呼ばれる低いエネルギーの中性子まで減速させる。これらの減速層16〜19は、それぞれ円板状に形成され、中心軸L方向に沿って中性子の入射側から出射側にかけて第1の減速層16、第2の減速層17、第3の減速層18、第4の減速層19の順番で配置されている。
【0022】
第1の減速層16は鉛からなり、第2の減速層17は鉄から構成されている。第2の減速層17は、第1の減速層16の外径よりも大きく形成されている。第3の減速層18は、金属アルミニウムからなり、第2の減速層17の外径よりも更に大きく形成されている。第4の減速層19は、フッ化カルシウムを有する原料を溶融して得られたもので、第3の減速層18と同じ寸法の外径を有するように形成されている。このように構成された減速材13の外径は、中心軸L方向に沿って中性子の入射側から出射側に向かって大きくなっているので、減速材13との衝突による中性子の散乱範囲の拡大に対応し減速材13の断面積を大きくすることで、中性子の減速効果を向上させることができる。
【0023】
反射材14は、鉛からなり、それぞれ円環状に形成された5つの反射層14A〜14Eを備える。この反射材14は、中性子を内部に反射し、外部に漏れることを防止するものである。反射層14A〜14Eは、中心軸L方向に沿って中性子の入射側から出射側にかけて順番に配置され、隣接する反射層14A〜14E同士は密着して固定されている。
【0024】
反射層14A〜14Eは、隣接する反射層14A〜14E同士を互いに嵌め込むために凹凸状に形成されている。例えば、反射層14Cにおいて、反射層14Bに隣接する側には、反射層14Bの凸部を嵌め込むための凹部が設けられ、反射層14Dに隣接する側には、反射層14Dの凹部に嵌め込むための凸部が設けられている。このようにすれば、反射層14A〜14Eの組み立てをする際に、隣接する反射層14A〜14E同士の位置決めを容易に行うので、組み立て作業が簡単化される。更に、このように凹凸状に形成されることによって、隣接する反射層14A〜14E同士の境目は凹凸状に形成されるので、境目が直線状に形成された場合と比べて中性子が境目を通って外部へ漏れるのを確実に防止することができる。
【0025】
減速装置3の出射端には、フッ化リチウム入りポリエチレンからなる遮蔽材20と、鉛からなる遮蔽材21とが設けられている。遮蔽材20は、円環状に形成され、第4の減速層19に密着すると共に反射層14Eに固定されて、必要としない中性子を遮蔽する。遮蔽材21は、円板状に形成され、遮蔽材20の外側に配置され、遮蔽材20を介して反射層14Eに固定されている。この遮蔽材21は、ターゲット15から発生するγ線等を遮蔽する役割を果たすものである。
【0026】
以下、図4を参照して中性子線照射装置1の操作について説明する。
【0027】
まず、図1に示すように、載置台2とコリメータ4とが減速装置3に接近する接近状態において、患者Pがコリメータ4に向かい合って載置台2に座る。ここでの接近状態とは、カバー11は遮蔽壁Wに当接し、減速装置3の先端部3aはコリメータホルダ10の凹部10aに入り込む状態という。
【0028】
次に、別途事前検討された治療計画に基づき、コリメータ4の中性子取出口4aと患部Tとの位置関係を確認しながら、両者の位置合わせを実施する。例えば、両者の間に位置ズレが生じた場合、載置台2の支持部8を利用し患者Pの位置を上下、左右に移動させることで位置合わせを行う。
【0029】
次に、位置合わせを行った後に、図4に示すように移動ベース25を中性子の取出方向Fに移動させることで、載置台2及びカバー11を減速装置3から離間させる。次に、CR撮像部22のX線管23を降下させ、減速装置3とカバー11との間から患者Pの患部TにX線を照射し、イメージングプレート24に患部Tの画像を記録させる。そして、撮像された患部TのX線画像がCR撮像部22の画像表示部に表示される。
【0030】
コリメータ4の中性子取出口4aと患部Tの位置合わせ及びX線撮影を行った後、X線管23を上昇させて、移動ベース25を利用し載置台2及びカバー11を減速装置3に接近させる。次に、イオンビームをターゲット15に照射し中性子を発生させて、患部Tに中性子線を照射する。そして、中性子線は、予め患部Tに取り込まれたホウ素化合物と核反応し、α線が生成され、生成されたα線は選択的に患部Tの細胞を破壊する。
【0031】
このように構成された中性子線照射装置1にあっては、載置台2とコリメータ4とは、減速装置3に対して移動可能に設けられているので、載置台2とコリメータ4とを減速装置3から離間させたり、接近させたりすることができる。従って、載置台2とコリメータ4とを減速装置3から離間させた後、コリメータ4を挟んで載置台2の反対側からコリメータ4の中性子取出口4aと患部Tとの位置関係を確認することが可能となる。その結果、コリメータの中性子取出口4aと患部Tとの位置合わせを容易に行うことができ、照射精度の向上を図ることができる。そして、両者の位置合わせを行った後、コリメータ4と載置台2とを減速装置3に接近させ減速装置3から中性子を出射させることで、患部Tに高精度に中性子線を照射することが可能となる。
【0032】
また、載置台2とコリメータ4とは、中性子の取出方向Fに沿って移動可能に設けられているので、載置台2の反対側からコリメータ4の中性子取出口4aと患部Tとの位置合わせを行った後、載置台2とカバー11とを中性子の取出方向Fの反対方向にスライドするだけで減速装置3に接近させることができるため、コリメータの中性子取出口4aと患部Tとの位置合わせ状態を維持することが可能となり、移動による両者の位置ズレの発生を防止することができる。加えて、コリメータホルダ10には、減速装置3の先端部3aをその内部に収容するための凹部10aが設けられているので、減速装置3とコリメータ4との位置合わせをする際に、凹部10aが減速装置3の先端部3aを収容することで、両者の位置合わせを容易、且つ精確に行うことができ、照射精度を一層向上することができる。
【0033】
更に、中性子線照射装置1はCR撮像部22を備え、このCR撮像部22は、載置台2とコリメータ4とが減速装置3から離間した場合、カバー11と減速装置3との間から患者Pの患部TのX線画像を撮像することができる。そして、コリメータ4の中性子取出口4aと患部Tとの位置合わせを容易に確認することができるので、照射精度の向上を図り易くなる。
【0034】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、中性子の発生源として、イオンビームを中性子発生ターゲット15に照射することが挙げられたが、ターゲット15を設けることなく、原子炉からの中性子線を直接導入するようにしてもよい。
【0035】
また、上記の実施形態では、CR撮影部22を用いて撮像されたX線画像に基づき中性子取出口4aと患部Tとの位置合わせの確認を行ったが、CR撮影部22を利用せずに目視で両者の位置合わせを確認してもよい。また、載置台2とコリメータ4との移動は、中性子の取出方向Fに離間させるのに限らず、例えば、載置台2の反対側から中性子取出口4aと患部Tとの位置関係を確認できるように、中性子の取出方向Fに直交する方向にずらしたり、あるいは載置台2及びコリメータ4が固定された移動ベース25の一方の隅部を軸として移動ベース25を回転させたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る中性子線照射装置の実施形態を示す概略図である。
【図2】コリメータを示す斜視図である。
【図3】減速装置の部分断面図である。
【図4】CR装置の撮像を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0037】
1…中性子線照射装置、2…載置台、3…減速装置、3a…先端部、4…コリメータ、4a…中性子取出口、10…コリメータホルダ、10a…凹部、22…CR撮像部、P…患者(被照射体)、T…患部(照射目標)、F…中性子の取出方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射体における照射目標に中性子線を照射する中性子線照射装置であって、
被照射体を載置する載置台と、
中性子を減速する減速材を有する減速装置と、
前記減速装置によって減速された中性子を収束させて前記載置台側に取り出すコリメータと、を備え、
前記コリメータと前記載置台とは、前記減速装置に対して相対的に移動可能に設けられていることを特徴とする中性子線照射装置。
【請求項2】
前記コリメータと前記載置台とは、中性子の取出方向に沿って移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の中性子線照射装置。
【請求項3】
前記コリメータと前記載置台とが前記減速装置から離間した場合、前記コリメータと前記減速装置との間から前記載置台に載置された被照射体の照射目標のX線画像を撮像する撮像部を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の中性子線照射装置。
【請求項4】
前記コリメータを支持するコリメータホルダを更に備え、前記コリメータホルダには、前記減速装置の先端部をその内部に収容するための凹部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の中性子線照射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−189725(P2009−189725A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36205(P2008−36205)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】