説明

中性抄紙方法

【課題】 填料として炭酸カルシウムを使用する中性抄紙において抄紙工程中に起きる炭酸カルシウムの溶解を改善する。
【解決手段】 パルプスラリーの調成時に結合リン0.2質量%以上のリン酸化澱粉を添加することを特徴とする中性抄紙方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、填料として炭酸カルシウムを使用する中性抄紙方法において、抄紙工程中に起きる炭酸カルシウムの溶解を抑制した中性抄紙方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、印刷又は筆記用として使用される紙は、通常、白色度、不透明度、平滑性印刷適正、筆記適正などが求められるが、パルプだけでは要求特性を満たすことができないため、填料が抄きこまれることが多い。填料を抄き込んだ抄紙方法としては、pH4.5前後で填料にタルク、二酸化チタンなどを使用する酸性抄紙方法、pH6〜8.5の弱酸性から弱アルカリで填料に炭酸カルシウム(軽質、重質)などを使用する中性抄紙方法がある。特に、近年、紙の保存性、紙質、環境などの面から中性紙の需要が高く、普及が進んでいる。この中性抄紙法で物理化学的な特性、品質、コストなどの面から好んで使用される填料が炭酸カルシウムである。ただし、炭酸カルシウムは中性付近でも若干溶解するため、中性抄紙法においてもパルプスラリー調成時から抄紙時にかけて一部溶解してしまうので、その溶解分を見越して予め必要量以上の量を添加する必要がある。
【0003】
近年、抄紙工程において、節水という観点から系外に排出する水を減少させるために、工程内循環水を多くして、新たな新水の使用を低く抑える、いわゆる抄紙工程のクローズド化が進んでいる。中性抄紙法でパルプスラリー中に溶解した炭酸カルシウムは、抄紙後の脱水濾液(白水)のカルシウムイオンを上昇させることになり、これに白水のクローズ化といった状況が加わりカルシウムイオン、炭酸イオンが高濃度化する。これが製紙工場を悩ませる工程中のカルシウムスケールの最大の要因となる。
【0004】
パルプ懸濁液中に炭酸カルシウムが含まれている製紙工程において、製紙システム中の炭酸カルシウムの溶解を抑制する方法としては、炭酸カルシウムを添加しているパルプスラリー中に、pH8以下で二酸化炭素を導入する方法(特許文献1)が提案されており、この方法によれば、パルプスラリー中及び循環工程水中の遊離カルシウムイオンの量を減少させることができ、カルシウムイオンの蓄積が防止されるという。
他に、炭酸カルシウムを中性乃至弱酸性紙の製造用の填料として使用できる耐酸性の炭酸カルシウムとする発明も提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、パルプスラリー中に所定量投入するだけで炭酸カルシウム顔料の溶解を抑制することができ、かつ、白水汚染源となることがない、炭酸カルシウムの効率的な溶解抑制物質に関する提案は見当たらない。
【特許文献1】特表2002−509992号公報
【特許文献2】特表2000−506486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況を鑑み、本発明は、中性抄紙における炭酸カルシウムの溶解を改善することで、炭酸カルシウム添加量の低減、工程中のカルシウムスケールの抑制が可能となる中性抄紙方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。
【0008】
(1)填料として炭酸カルシウムを使用する中性抄紙方法において、パルプスラリー調成時に結合リン0.2質量%以上のリン酸化澱粉を添加することを特徴とする中性抄紙方法。
【0009】
(2)パルプスラリーのpH調整前にパルプスラリーにリン酸化澱粉を添加することを特徴とする(1)項記載の中性抄紙方法。
【0010】
(3)調成されたパルプスラリーのpHが5.5〜8.5である(1)項又は(2)項に記載の中性抄紙方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、中性抄紙における炭酸カルシウムの溶解を改善することにより炭酸カルシウムの添加量を低減することができるとともに、白水に抜ける溶解した炭酸カルシウムが低減することにより工程中のカルシウムスケールの抑制が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における中性抄紙方法は、抄紙前のパルプスラリー調成時において、pH調整前又はpH調整直後にリン酸化澱粉をパルプスラリーに添加混合することで目的が達せられる。
【0013】
本発明で使用するリン酸化澱粉には、リン酸エステル基が付加された澱粉、及び澱粉の分解物であるデキストリン、オリゴ糖、単糖等にリン酸エステル基が結合したものが含まれ、さらに、果糖、マンノース、ガラクトースなどの六炭糖、キシロース、アラビノース、リボースなどの五炭糖などのグルコース以外の糖を構成糖とする糖類、及びグルコースを構成糖としているが結合状態の異なるセロビオ−ス、ラミナリビオース、ゲンチオビオースなどのオリゴ糖や、デキストランやセルロースなどの多糖、のそれぞれにリン酸エステル基が結合したものも含まれる。また、リン酸エステル基が結合している限り、酸化、カチオン化、アセチル化、カルボキシメチル化、架橋化、ウレタン化、α化、還元などの他の物理化学的な処理が施されているものであってもよい。澱粉としては、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉などの穀物類の澱粉、馬鈴薯澱粉やタピオカ澱粉などの根系類の澱粉などが使用される。
【0014】
リン酸化澱粉の調製方法としては、公知の方法から任意に選択できる。澱粉や糖類にリン酸塩を混合し、乾式で加熱反応させることが一般的に行われる。また、フォスファターゼやホスホリラーゼなどの酵素を用いてリン酸化する方法も採用可能である。
【0015】
本発明で用いられるリン酸化澱粉は、結合リンを0.2質量%以上含有することが必要であり、より望ましくは0.4質量%以上である。本発明の方法による効果を発現させるためには、リン酸化澱粉がパルプスラリーに溶解していなければならない。それ故、冷水に不溶であるものの場合は添加前に予め水中で加熱溶解するか、又はアルカリなどで溶解しておく必要がある。冷水に可溶なものは、パルプスラリーに粉体のまま添加してもよいし、予め冷水に溶解してから添加してもよい。予め水に溶解してからパルプスラリーに添加する際のリン酸化澱粉の濃度は、十分溶解していて作業に支障がない粘度の溶液を調製できる限り任意に設定可能であるが、一般的には1質量%〜70質量%の範囲である。
【0016】
リン酸化澱粉のパルプスラリーへの添加箇所は、抄紙前であれば任意の場所で構わないが、炭酸カルシウム(軽質、重質)添加から時間があまり経過してからの添加は、その間に炭酸カルシウムの溶解が進んでしまい本発明の目的とする効果が低くなるため、炭酸カルシウム添加前又は添加直後にリン酸化澱粉を添加する方がより効果的である。またパルプスラリーへの添加前の炭酸カルシウムスラリーにリン酸化澱粉を予め混合しておくことも可能であるし、リン酸化澱粉が凝集などを起こさずにその性能を維持できるなら他の薬品に混合しておくこともできる。
【0017】
リン酸化澱粉の添加量は、炭酸カルシウム100質量部に対して0.01質量部以上の割合であれば効果を発現し、添加量が増加するほど効果も向上する。しかし、100質量部以上の割合で添加しても添加量の増加に見合ったより以上の効果は期待できない。実用上は0.1〜10質量部が好ましい。
【0018】
本発明における中性抄紙方法に使用されるパルプは特に限定されず、通常用いられている公知の製紙用パルプが適用でき、サルファイトパルプ、クラフトパルプ、ソーダパルプなどのケミカルパルプ、セミケミカルパルプ、メカニカルパルプなどの木材パルプ、非木材パルプ、古紙を処理して得られる脱墨パルプのいずれでもよく、未晒パルプ、晒パルプでも良い。
抄紙時のpHは、一般的に中性抄紙が行われるpH5.5〜8.5において効果が発揮され、製紙用紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、炭酸カルシウム以外の填料、サイズ剤、歩留向上剤、染料、消泡剤、防腐剤、などの公知の抄紙薬品を必要に応じ添加することができ、これらの種類、添加量、添加順序に限定はない。また、公知の高歩留まりシステムを併用することもできる。
【実施例】
【0019】
以下、評価試験及び実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の%及び部は、特に断らない限り、質量%及び質量部である。
【0020】
[リン酸化澱粉の製造]
コーンスターチ(王子コーンスターチ社製、水分13%)1200kgを一定の流速でタービュライザ(混合機)に導入し、同時に第一リン酸ナトリウム・2水塩176kgと無水第二リン酸ナトリウム32kgを水に溶解して全量655kgのリン酸塩溶液を一定の流速で添加して均一に混合した。このリン酸塩混合澱粉をフラッシュ・ドライヤーで水分6%となるまで乾燥した。得られたリン酸塩含浸澱粉(リン含量3.5%)500kgを流動層加熱機に投入し、加熱した熱風を供給して流動加熱し、175℃で120分加熱反応した。回収されたリン酸化澱粉(結合リン含量2.8%)は450kgであった。
以上の方法で得たリン酸化澱粉は、冷水(20℃)に分散するだけで溶解する冷水可溶性であり、以下の評価試験及び実施例のサンプルとして供した。
【0021】
<評価試験>
0.5%LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)スラリー100mlを攪拌しながら1%濃度に溶解したリン酸化澱粉溶液を炭酸カルシウム100部当たり、リン酸化澱粉(絶乾)量が0部(ブランク)0.1部、1部、10部になる割合で添加、攪拌を続けたまま30秒後に10%W/V軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP−121、奥多摩工業製)スラリーを2ml添加し、30秒後に少量の希硫酸にてpHを7.5又は6.5に調整した。pH調整直後を0分として30分間pHを保持し、5分後、30分後にパルプスラリーを1ml採取し、直ちに穴径が0.2μmのメンブレンフィルターにて濾過してその濾液のCa濃度をCa測定キット(商品名:カルシウムCテストワコー、和光純薬製)で測定し、炭酸カルシウムに換算することで炭酸カルシウムの溶解量を求めた。下記式から炭酸カルシウム溶解抑制率を求めた。
炭酸カルシム溶解抑制率(%)=[1−(リン酸化澱粉添加時の炭酸カルシウム溶解量/リン酸化澱粉無添加(ブランク)時の炭酸カルシウム溶解量)]×100
結果を表1に記した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から明らかなように、リン酸化澱粉を添加することでpH7.5と6.5のいずれにおいても、炭酸カルシウムの溶解が大きく抑えていることが確認できる。
【0024】
<実施例1>
カナダ標準フリーネス(CSF)450mlのLBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)スラリー(パルプ濃度1%)100mlを攪拌しながら1%リン酸化澱粉溶液を固形分として、後段で加える炭酸カルシウムの絶乾100部に対して1部の割合で添加し、攪拌を続けたまま歩留まり向上剤(商品名:ハイモロックNR11L、ハイモ製)を0.01部(対絶乾パルプ100部)、AKDサイズ剤(商品名:サイズパインK−910:荒川化学工業製)を0.05部(対絶乾パルプ100部)、軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP−121、奥多摩工業製)スラリーを固形分として20部(対絶乾パルプ100部)を、この順番で15秒間隔で添加した。さらに硫酸アルミニウムを0.5部(対絶乾パルプ100部)添加し、希硫酸にてpH7.0に調整した。pH調整直後を0分として10分間攪拌を続けた後、丸型手抄きシートーマシンに全量投入して、湿紙を作成し、ドラム式乾燥機にて乾燥した。この紙料の灰分(炭酸カルシウム分)をJIS P8251.2002に準拠して求めた。
【0025】
<実施例2>
1%リン酸化澱粉溶液の添加量を固形分として、後段で加える炭酸カルシウムの絶乾100部に対して1部から10部の割合に変更した以外は、実施例1と同様に操作して紙料の灰分を求めた。
【0026】
<実施例3>
1%リン酸化澱粉溶液の添加量を固形分として、後段で加える炭酸カルシウムの絶乾100部に対して1部から0.1部の割合に変更した以外は、実施例1と同様に操作して紙料の灰分を求めた。
【0027】
<実施例4>
リン酸化澱粉の結合リン量を2.7%から0.5%に変更した以外は、実施例1と同様に操作して紙料の灰分を求めた。
【0028】
<実施例5>
リン酸化澱粉の代わりに置換度0.02のアセチル基を結合させたアセチル化リン酸化澱粉(結合リン2.5%)を使用した以外は、実施例1と同様に操作して紙料の灰分を求めた。
【0029】
<比較例1>
リン酸化澱粉を添加しなかった以外は、実施例1と同様に操作して紙料の灰分を求めた。
【0030】
<比較例2>
リン酸化澱粉以外の澱粉の例として酸化度3.2%の酸化澱粉(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)を使用した以外は、実施例1と同様に操作して紙料の灰分を求めた。
【0031】
<実施例6>
pHを7.0からpH8.0に変更した以外は、実施例1と同様に操作して紙料の灰分を求めた。
【0032】
<比較例3>
リン酸化澱粉を添加しなかった以外は、実施例6と同様に操作して紙料の灰分を求めた。
【0033】
<実施例7>
pHを7.0からpH6.0に変更した以外は、実施例1と同様に操作して紙料の灰分を求めた。
【0034】
<比較例4>
リン酸化澱粉を添加しなかった以外は、実施例7と同様に操作して紙料の灰分を求めた。
【0035】
【表2】

【0036】
表2から明らかなように、本発明の中性抄紙方法により灰分が高い紙料が得られた。また、他の官能基を結合させたリン酸化澱粉でも効果が得られた。この結果は、リン酸化澱粉の添加により炭酸カルシウムの溶解が抑えられたことにより紙料の灰分が高くなったことを示している。即ち、本発明の中性抄紙方法を用いることにより、パルプスラリーに添加する炭酸カルシウムを減じてもブランク(比較例1)と同様の灰分を得ることができることを意味している。また炭酸カルシウムの溶解が抑えられることにより、抄紙後の脱水濾液(白水)に抜けるカルシウムイオンの量が減じ、カルシウムスケールの抑制にもつながる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
填料として炭酸カルシウムを使用する中性抄紙方法において、パルプスラリー調成時に結合リン0.2質量%以上のリン酸化澱粉を添加することを特徴とする中性抄紙方法。
【請求項2】
パルプスラリーのpH調整前にパルプスラリーにリン酸化澱粉を添加することを特徴とする請求項1記載の中性抄紙方法。
【請求項3】
調成されたパルプスラリーのpHが5.5〜8.5である請求項1又は2に記載の中性抄紙方法。





【公開番号】特開2009−235632(P2009−235632A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85160(P2008−85160)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000122243)王子コーンスターチ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】