説明

中性粒子ビーム処理装置

【課題】 高密度の中性粒子ビームを被処理物に照射することができ、被処理物の加工速度を向上させることができる中性粒子ビーム処理装置を提供する。
【解決手段】 中性粒子ビーム処理装置10は、イオン生成室14の内部にイオンを生成するイオン生成手段と、イオン生成室14の内部のイオンを中性化室16に引き出す引出手段と、引き出されたイオンを中性化して中性粒子ビームを生成する中性化手段とを備える。中性粒子ビーム処理装置10は、中性粒子ビーム中に残留する荷電粒子を除去する荷電粒子除去手段と、中性粒子ビームが照射される被処理物18を保持する保持台48とを備えている。荷電粒子除去手段は、ビームの進行方向に垂直な方向に磁界を形成して荷電粒子の軌道を曲げる磁界形成手段と、軌道が曲げられた荷電粒子を捕捉する捕捉板66とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性粒子ビーム処理装置に係り、特に中性粒子ビームを生成し、該中性粒子ビームを被処理物に照射してエッチングなどの処理を行う中性粒子ビーム処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、中性粒子ビームを利用して、膜の堆積やドーピング、エッチングなどの処理が行われている(例えば、特許文献1参照)。中性粒子ビームとは、進行方向の揃った原子や分子などの電荷を持たない粒子の集団をいう。このような中性粒子ビームを利用した処理によれば、荷電粒子を被処理物に照射しないで処理を行うことができるので、被処理物のチャージアップを避けることができ、被処理物上に形成されたデバイスのチャージアップによる破壊を避けることができる。
【0003】
ここで、チャージアップとは、被処理物の表面における帯電現象であり、電荷が蓄積する被処理物の表面に電荷が蓄積した状態をいう。チャージアップなどにより被処理物の表面に電場が生じた場合でも、中性粒子ビームを利用すれば、軌道が変化せず直進性に優れたビームにより被処理物を加工することができる。したがって、例えば、中性粒子ビームを用いたエッチングは、アスペクト比の大きいトレンチ構造を形成するために垂直にエッチングする必要がある場合に好適である。
【0004】
例えば、エッチングに用いられる中性粒子ビーム処理装置では、イオン源からイオンビームを引き出し、これらのイオンビームを中性化手段によって中性粒子ビームに変換(中性化)し、この中性粒子ビームを被処理物に照射することでエッチングを行う。中性粒子ビームの生成や照射は真空中で行われるため、このような中性粒子ビーム処理装置は、内部で中性粒子ビームの生成や照射が行われる真空容器を備えている。
【0005】
ここで、イオンビームを中性化する方法としては、例えば、中性化用の中性化ガスにイオンを衝突させ、中性化ガスとの電荷交換によりイオンを中性化する方法や、オリフィス状の細孔にイオンを通過させ、細孔の壁(すなわち細孔の内面)との接触などによる電荷交換によりイオンを中性化する方法、正イオンビームに電子を照射することにより中性化する方法、負イオンビームに紫外線などの光を照射して電子を解離あるいは脱離させて中性化する方法など、様々な方法が提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【0006】
しかしながら、いずれの中性化方法においても、イオンを100%中性粒子に変えることは困難である。このため、電場を用いることにより荷電粒子が被処理物に入射することを防止するリターディング電極を設けて、中性粒子ビームに残留している荷電粒子を除去することが行われている(例えば、特許文献4参照)。より具体的には、リターディング電極は、中性粒子ビームを通過させるための小さな孔が多数形成された多孔電極であり、このリターディング電極に所定の電圧を印加することにより、荷電粒子であるイオンまたは電子を静電的に反発させて除去しつつ、電荷を持たない中性粒子ビームを通過させることができる。
【0007】
一般に、リターディング電極は、基準電極と、基準電極に対して正電位が与えられるイオン除去電極と、基準電極に対して負電位が与えられる電子除去電極という3枚の多孔電極で構成される。リターディング電極を構成する電極の枚数が多いほど荷電粒子の除去率が高まるという利点がある一方で、電極の枚数が多いほど中性粒子ビームがリターディング電極に衝突する確率が高くなるため、リターディング電極を通過して被処理物に照射される中性粒子ビームの量が減少するという問題が生じる。
【0008】
このため、荷電粒子除去方法として、リターディング電極に代えて、永久磁石や超伝導体のマイスナー効果を利用して中性粒子ビームから荷電粒子を除去する方法が提案されている。例えば、被処理物の表面に平行磁場を発生させることにより、中性粒子ビームから荷電粒子を磁気的に分離および除去する方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0009】
しかしながら、この方法においては、永久磁石などの磁場形成機構が真空容器内の被処理物の側方に配置されており、被処理物の大型化に伴い、この磁場形成機構が巨大なものになってしまう。また、この方法は、磁場の影響を受けやすい被処理物の加工には適さない。
【0010】
このような観点から、磁場と電場を組み合わせて中性粒子ビームから荷電粒子を除去する方法が提案されている。例えば、リターディング電極としての多孔電極の近傍に複数列の永久磁石を配置して多極磁場を形成し、この磁場により電子を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【0011】
しかしながら、この場合においては、真空容器の内部に永久磁石が配置されており、永久磁石は一定の体積を有するので、中性粒子ビームが通過する開口率が低くなってしまう。ここで、「開口率」とは、リターディング電極などの全断面積に対する、中性粒子ビームを通過させるためにリターディング電極などに形成された開口部の面積の割合のことをいう。したがって、この方法では、中性粒子ビームの被処理物への照射量が低減してしまうという問題がある。また、永久磁石を使用しているので、磁場を任意に制御することができない。
【0012】
このように、従来の中性粒子ビーム処理装置は、リターディング電極などの存在により、中性粒子ビームの強度が低いという問題がある。このため、荷電粒子を中性粒子ビーム中から除去する機構を有しながら、高密度の中性粒子ビームを被加工物に照射することのできる中性粒子ビーム処理装置が要望されている。特に、シリコンウェハなどの被処理物の大型化に伴い、大口径かつ均一な中性粒子ビームを照射することのできる中性粒子ビーム処理装置が必要とされている。
【0013】
【特許文献1】特開昭63−318058号公報
【特許文献2】特開2002−289585号公報
【特許文献3】特開平8−241877号公報
【特許文献4】特開平4−180621号公報
【特許文献5】特開平7−193047号公報
【特許文献6】特開2001−296398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、高密度の中性粒子ビームを被処理物に照射することができ、被処理物の加工速度を向上させることができる中性粒子ビーム処理装置を提供することを第1の目的とする。
【0015】
また、本発明は、簡易な構成によりイオンの中性化と荷電粒子の除去を行うことができる中性粒子ビーム処理装置を提供することを第2の目的とする。
【0016】
また、本発明は、被処理物の大型化に容易に対応することができる荷電粒子除去手段を備えた中性粒子ビーム処理装置を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様によれば、高密度の中性粒子ビームを被処理物に照射することができ、被処理物の加工速度を向上させることができる中性粒子ビーム処理装置が提供される。この中性粒子ビーム処理装置は、イオン生成室の内部にイオンを生成するイオン生成手段と、上記イオン生成室の内部のイオンを中性化室に引き出す引出手段と、上記引き出されたイオンを中性化して中性粒子ビームを生成する中性化手段とを備えている。また、上記中性粒子ビーム処理装置は、上記中性粒子ビーム中に残留する荷電粒子を除去する荷電粒子除去手段と、上記荷電粒子が除去された中性粒子ビームが照射される被処理物を保持する保持台とを備えている。上記荷電粒子除去手段は、上記中性粒子ビームの進行方向に垂直な方向に磁界を形成して上記荷電粒子の軌道を曲げる磁界形成手段と、上記中性粒子ビームの進行方向に平行な方向および上記磁界の向きに平行な方向に延びる面で上記軌道が曲げられた荷電粒子を捕捉する荷電粒子捕捉板とを有している。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、簡易な構成によりイオンの中性化と荷電粒子の除去を行うことができる中性粒子ビーム処理装置が提供される。この中性粒子ビーム処理装置は、イオン生成室の内部にイオンを生成するイオン生成手段と、上記イオン生成室の内部のイオンを引き出す引出手段とを備えている。また、上記中性粒子ビーム処理装置は、隣接する磁極間に上記引き出されたイオンを通過させて該イオンを中性化して中性粒子ビームを生成するとともに、上記中性粒子ビーム中に残留する荷電粒子を除去するために上記荷電粒子の軌道を曲げる磁界を形成する磁界形成手段を備えている。さらに、上記中性粒子ビーム処理装置は、上記荷電粒子が除去された中性粒子ビームが照射される被処理物を保持する保持台を備えている。
【0019】
本発明の第3の態様によれば、被処理物の大型化に容易に対応することができる荷電粒子除去手段を備えた中性粒子ビーム処理装置が提供される。この中性粒子ビーム処理装置は、イオン生成室の内部にイオンを生成するイオン生成手段と、上記イオン生成室の内部のイオンを中性化室に引き出す引出手段と、上記引き出されたイオンを中性化して中性粒子ビームを生成する中性化手段とを備えている。また、上記中性粒子ビーム処理装置は、上記中性粒子ビーム中に残留する荷電粒子を除去する荷電粒子除去手段と、上記荷電粒子が除去された中性粒子ビームが照射される被処理物を保持する保持台とを備えている。上記荷電粒子除去手段は、真空容器の外部に配置される磁石と、上記磁石に磁気的に接続されることによって上記荷電粒子の軌道を曲げる磁界を形成する磁性体とを備えている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、中性粒子ビームから効率的に荷電粒子を除去することができるとともに、中性粒子ビームの被処理物への照射量の低減を抑えることができる。したがって、高密度の中性粒子ビームを被処理物に照射することができ、被処理物の加工速度を向上させることができる。また、本態様によれば、例えばイオン生成手段を適切に構成することにより大口径化が可能であり、この点からも該被処理物の加工速度を向上できる。これにより、高アスペクト比を有する被処理物の微細加工を高精度かつ高速に行うことが可能となる。
【0021】
本発明の第2の態様によれば、磁界形成手段が、イオンの中性化を行う中性化手段と中性粒子ビームから荷電粒子の除去を行う荷電粒子除去手段とを兼ねているので、簡易な構成によりイオンの中性化と荷電粒子の除去とを同時に行うことができる。
【0022】
本発明の第3の態様によれば、荷電粒子除去手段の磁石が真空容器の外部に配置されているので、被処理物が大型化しても、磁石を真空容器内部に配置した場合に比べて荷電粒子除去手段自体を大型化する必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る中性粒子ビーム処理装置の実施形態について図1から図6を参照して詳細に説明する。なお、図1から図6において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施形態における中性粒子ビーム処理装置10の全体構成を示す模式図である。図1に示すように、中性粒子ビーム処理装置10は、石英ガラス、セラミック、金属などから構成される円筒状の真空容器12を備えている。この真空容器12の内部には、イオンを生成するイオン生成室14と、イオン生成室14で生成されたイオンから中性粒子ビームを生成する中性化室16と、半導体基板、ガラス、有機物、セラミックスなどの被処理物18の加工を行う処理室20とが形成されている。イオン生成室14、中性化室16、および処理室20は、真空容器12により外部と隔離されている。図1では、イオン生成室14、中性化室16、および処理室20が真空容器12により一体に形成されている例が示されているが、イオン生成室14、中性化室16、および処理室20をそれぞれ別個の真空容器により形成し、他の室とフランジなどを介して接続してもよい。
【0025】
イオン生成室14の上部には、真空容器12内にプロセスガスを導入するプロセスガス導入ポート22が設けられており、このプロセスガス導入ポート22はプロセスガス供給配管24を介してプロセスガス供給源26に接続されている。プロセスガス供給配管24には、真空容器12に供給するプロセスガスの流量を制御する流量制御装置28が設けられている。
【0026】
使用するプロセスガスの種類は、被処理物18に対して行う加工の種類によって異なるが、例えば、エッチング加工を行う場合には、SF,CHF,CF,Cl,Ar,O,N,Cなどのプロセスガスが真空容器12内に供給される。なお、必要に応じて、プロセスガス供給源26を複数設け、複数種類のプロセスガスを同時に真空容器12に供給するような構成にしてもよい。また、プロセスガス供給源26と流量制御装置28との組み合わせを複数組設け、複数種類のプロセスガスの中から任意の種類のガスを任意の割合で真空容器12に供給するような構造にしてもよい。このときのプロセスガス導入ポート22の数は任意の数に適宜決めることができる。
【0027】
イオン生成室14の外周には、イオン生成室14の内部にプラズマを発生する誘導結合型(ICP)のコイル30が配置されている。このコイル30は、マッチングボックス32および高周波電源34に接続されており、例えば、13.56MHzの高周波電圧がコイル30に印加されるようになっている。このコイル30に高周波電流を流すことで、イオン生成室14内に誘導磁場が生じ、磁界の時間変化が電界を誘導し、その電界でプロセスガス中の電子が加速されてイオン生成室14内にプラズマPが生成される。このときに形成されるプラズマPは、主として正イオンと加熱された電子とからなるプラズマである。このように、本実施形態においては、コイル30、マッチングボックス32、高周波電源34により、イオン生成室14の内部にイオン(プラズマ)を生成するイオン生成手段が構成されている。
【0028】
なお、プラズマPを発生させるアンテナとしてのコイル30をイオン生成室14に対して適切な位置に配置することにより、イオン生成室14内で発生させるプラズマPを均一にすることができる。また、プラズマPを発生させるために印加される電圧または電流をパルス状に変化させると、大量の負イオンを発生させることができることが知られている。したがって、負イオンを引き出して中性粒子ビームとする場合には、高周波電源34により印加される高周波電流または電圧をパルス状に変化させることが好ましい。
【0029】
図1に示すように、中性化室16には、真空容器12内に中性化ガスを導入する中性化ガス導入ポート36が設けられており、この中性化ガス導入ポート36は中性ガス供給配管38を介して中性化ガス供給源40に接続されている。このような構成により、中性化ガス導入ポート36を通して中性化室16の内部に中性化ガスが導入されるようになっている。
【0030】
また、イオン生成室14の内部の上流側には、導電体で形成された上流電極42が配置されている。また、イオン生成室14と中性化室16との間には、導電体で形成されたバイアス電極44が配置されている。上流電極42およびバイアス電極44は第1のバイアス電源46に接続されている。本実施形態では、上流電極42、バイアス電極44、第1のバイアス電源46により、イオン生成室14内のイオンを中性化室16に引き出す引出手段が構成されている。
【0031】
イオン生成室14から中性化室16に引き出されたイオンは、中性化室16を通過する際に、中性化室16の内部に供給された中性化ガスと衝突することにより電荷交換を起こし、結果として電荷を失い中性粒子となる。このように、本実施形態では、中性化室16に中性化ガスを導入することによってイオンの中性化を行っている。
【0032】
図1に示すように、処理室20内には、被処理物18を保持する保持台48が配置されており、この保持台48の上面に被処理物18が載置されている。処理室20にはガスを排出するためのガス排出ポート50が設けられており、このガス排出ポート50はガス排出配管52を介して真空ポンプ54に接続されている。この真空ポンプ54によって処理室20は所定の圧力に維持される。なお、イオン生成室14や中性化室16などを所定の圧力に維持する必要がある場合には、イオン生成室14や中性化室16にもそれぞれ独立した真空排気機構を設け、独立して真空排気を行うことが好ましい。
【0033】
また、被処理物18を処理室20に導入する際に予備排気を行う予備排気室(図示せず)を処理室20に隣接して設け、処理室20と予備排気室とを例えばゲートバルブを介して接続してもよい。このような構成にすれば、真空容器12内を大気圧に戻すことなく、被処理物18を保持台48に配置することができる。したがって、真空排気に要する時間が極めて短くなるので、プロセスタイムを短縮することができる。
【0034】
図1に示すように、中性化室16と処理室20との間には、中性化室16で中性化されなかったイオンや電子、すなわち中性粒子ビーム中に残留する荷電粒子が処理室に入射することを防止する磁性体56が配置されている。図2は、磁性体56とその関連構成等を説明するための真空容器12の軸線に垂直な水平断面図である。図2に示すように、磁性体56は、互いに対向して配置された一対の櫛状磁極58,60を両端に有している。この櫛状磁極58,60は、それぞれ先端に多数の磁極歯58a,60aを有している。これらの櫛状磁極58,60は、一方の磁極歯が他方の磁極歯の間隙に位置するように、互いに対向して配置されている。
【0035】
図2に示すように、磁性体56には、コイル62が巻かれて電磁石64が形成されている。この電磁石64が形成された部分は、真空容器12の外部に配置されている。図2に示す例では、電磁石64により一方の櫛状磁極58はN極となり、他方の櫛状磁極60はS極となる。電磁石64から出た磁力線は、磁性体56の内部を通り、N極の磁極歯58aから磁極歯58aと60aとの間隙を通ってS極の磁極歯60aに達する。このとき、磁極歯58aと60aとの間隙には、磁極歯58a,60aが向かい合っている面に垂直な磁場が形成される。
【0036】
ここで、磁極歯58aと60aとの間隙には、図2に示すように、中性粒子ビーム中に残留する荷電粒子を捕捉する多数の捕捉板66が配置されている。これらの捕捉板66は電気的に接地されている。図3は、2枚の捕捉板66の作用を説明する拡大斜視図である。図3に示すように、捕捉板66は、中性粒子ビーム68の進行方向と平行な方向(Z方向)および磁極歯58aと60aとの間隙中の磁界Mの向きと平行な方向(Y方向)に延びる面66aを有している。なお、中性粒子ビーム68の進行方向と垂直な面66bの断面積はできる限り小さくするのが好ましい。
【0037】
図3に示すように、磁極歯58aと60aとの間隙を通過する荷電粒子70a,70bは、間隙中の磁界Mにより軌道が磁界Mの向きと垂直な方向(X方向)に曲げられ、それぞれ捕捉板66に衝突する。したがって、荷電粒子70a,70bは、処理室20に入射することができない。この結果、電荷を持たない中性粒子68だけが磁極歯58aと60aとの間を直進することができるので、この中性粒子68だけが処理室20内の被処理物18に照射される。このように、磁性体56および捕捉板66により電荷を含んだ粒子(荷電粒子70a,70b)が除去され、中性粒子だけを被処理物18に照射することができる。
【0038】
ここで、捕捉板66のZ方向に沿った長さHは、軌道が曲げられたイオンや電子を捕捉板66に衝突させて捕獲するのに十分な長さとする。また、磁極歯58a,60aの幅や捕捉板66の幅を小さくすれば、中性粒子がこれらに衝突する面積が減少し、より多くの中性粒子ビームを処理室20に入射させることができるので、これらの幅を小さくすることが好ましい。
【0039】
例えば、イオン生成室14で生成されたイオンがアルゴンの一価イオンである場合、第1のバイアス電源46の印加電圧を100Vとしてイオンを加速し、磁極歯58aと60aとの間隙における磁束密度を0.1T(テスラ)とすると、アルゴン一価イオンが磁極歯58aと60aとの間隙を通過するときの円軌跡の半径は約10cmとなる。したがって、隣接する捕捉板66の間隔Dを1cmとした場合には、磁極歯58a,60aの長さおよび捕捉板66の長さHを5cm以上にすれば、磁界M中に入射してきたアルゴン1価イオンの軌道を曲げて捕捉板66に衝突させて捕捉することができる。
【0040】
荷電粒子70a,70bが捕捉板66に捕捉されると、荷電粒子70a,70bは電荷を失って中性粒子となり、短時間の間、捕捉板66に吸着する。その後、この中性粒子は捕捉板66から放出される。捕捉板66から放出される中性粒子は、熱エネルギー程度の低エネルギーを有している。この低エネルギーの中性粒子は、残留ガスとしてイオンと衝突してこのイオンを中性化するか、あるいは真空ポンプ54によって排気される。なお、上述したように、捕捉板66は電気的に接地されているので、荷電粒子が捕捉板66に捕捉されても、捕捉板66に電荷の蓄積が生じることはない。
【0041】
本実施形態では、磁性体56のイオンによるスパッタリングを避けるため、図1に示すように、磁性体56の中性化室16側には、導電体で形成された防護壁72が配置されており、この防護壁72とバイアス電極44は第2のバイアス電源74に接続されている。この第2のバイアス電源74により任意の電圧をバイアス電極44と防護壁72との間に印加することにより、イオンの速度を減速したり、逆に加速したりすることができる。ここで、第2のバイアス電源74によって印加する電圧は、被処理物に対してどのような処理を行うかによって最適なものが選択される。
【0042】
次に、本実施形態における中性粒子ビーム処理装置10の動作について説明する。まず、処理室20内の保持台48の上に被処理物18を載置する。そして、真空ポンプ54を作動させることにより、真空容器12内を真空排気し、真空容器12内を所定の圧力にする。プロセスガス供給源26からSF,CHF,CF,Cl,Ar,O,N,C等などのプロセスガスを真空容器12の内部に導入する。このとき、流量制御装置28によりプロセスガスの流量が制御され、プロセスガスの流量がガスの種類や被処理物の種類などを考慮した最適な値に調整される。
【0043】
そして、高周波電源34によって例えば13.56MHzの高周波電圧をコイル30に印加する。この高周波電圧の印加によってイオン生成室14内には高周波電界が形成される。真空容器12内に導入されたプロセスガスは、加速された電子により電離され、イオン生成室14内に高密度プラズマPが生成される。
【0044】
第1のバイアス電源46によって上流電極42とバイアス電極44との間にバイアス電圧を印加し、プラズマP中に電場を形成する。プラズマP中で発生したイオンは、この電場によって中性化室16の方向に加速される。図1に示す例では、上流電極42に正電位、バイアス電極44に負電位を与えているため、正イオンが中性化室16に向かって加速され中性化室16に引き出される。第1のバイアス電源46の極性を反転させれば、負イオンを中性化室16に引き出すことができる。また、第1のバイアス電源46として交流電源を用い、直流バイアス電圧に代えて交流バイアス電圧を印加すれば、正イオンと負イオンを交互に引き出すこともできる。
【0045】
このようにして、イオン生成室14からイオンが引き出され、これらのイオンが中性化室16に導入される。この中性化室16の内部には、中性化ガス供給源40から中性化ガスが導入され、イオン生成室14から引き出されたイオンは、中性化室16の中性化ガスに衝突することにより電荷交換を起こし、結果として電荷を失って中性粒子となる。すなわち、中性化室16に導入されたイオンは、中性化室16を通過する際に中性化される。
【0046】
ここで、電磁石64のコイル62に所定の電流を流して磁性体56の内部に磁界を発生させる。これにより、電磁石64に接続された磁性体56の一方の磁極58がN極、他方の磁極60がS極となる。これにより、磁極歯58a,60aの向かい合う面に垂直な方向に沿った磁界が形成される。上述したように、磁性体56の磁極歯58a,60aの間隙を通過する荷電粒子は、この磁界により軌道が曲げられて捕捉板66に捕捉される。
【0047】
一方、中性粒子は、そのまま磁性体56の磁極歯58a,60aの間隙を通過して、エネルギービームとして処理室20の内部に放射される。この中性粒子ビームは、処理室20の内部を直進して保持台48に載置された被処理物18に照射され、この中性粒子によってエッチング、クリーニング、窒化処理や酸化処理などの表面改質、成膜などの処理が行われる。このように、荷電粒子が除去された中性粒子ビームを被処理物18に照射することができるので、被処理物18に対して中性粒子ビームによる所定の加工を高精度に行うことができる。
【0048】
ガラスやセラミック材料等の絶縁物の加工に際しては、表面にチャージアップという問題が生じるが、このように中性化された中性粒子を照射することによりチャージアップ量を小さく保ちながら、高精度のエッチングや成膜加工が可能となる。なお、被処理物18の処理の内容に応じてプロセスガスの種類を使い分ければよく、例えばドライエッチングでは被処理物18の種類や物性等に応じて酸素やハロゲンガスなどを使い分けることができる。
【0049】
このようにして被処理物18に中性粒子ビームを照射した場合、中性粒子ビームは電荷を有しないため、被処理物18の表面で電場が生じた場合であっても、中性粒子ビームの軌道が変化することはない。したがって、高いアスペクト比のトレンチ構造を有する被処理物18を加工する場合であっても、中性粒子がトレンチの奥深くまで軌道を曲げられずに照射されるので、従来の装置に比べてより高精度で異方性の高い加工を行うことができる。
【0050】
図4は、本発明の第2の実施形態における中性粒子ビーム処理装置の概要を示す水平断面図である。本実施形態における中性粒子ビーム処理装置は、それぞれ先端に櫛状磁極158,160を有する一対の磁性体156,157と、これらの磁性体156,157に磁気的に接続された永久磁石164とを備えている。その他の点は、上述の第1の実施形態と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0051】
なお、本実施形態では、磁界を形成するための磁石として永久磁石164を用いているため、形成する磁界の強さを任意に制御することができないが、第1の実施形態のように電磁石64を用いれば、発生させる磁界の強さを任意に制御することができる。したがって、異なったエネルギーを持つイオンに対しても、磁界の強さを制御することにより磁界中のイオンの軌道を調整することができる点で、電磁石は永久磁石よりも優れているといえる。
【0052】
図5は、本発明の第3の実施形態における中性粒子ビーム処理装置の概要を示す水平断面図である。本実施形態における中性粒子ビーム処理装置は、上述した第2の実施形態における永久磁石164の代わりに、鉄心261、コイル262、電源263からなる電磁石264を用いた例である。
【0053】
図6は、本発明の第4の実施形態における中性粒子ビーム処理装置の概要を示す水平断面図である。本実施形態における中性粒子ビーム処理装置は、上述した第3の実施形態における磁性体156,157を真空容器12の壁でそれぞれ分離したものである。すなわち、磁性体156は、真空容器12の壁により真空容器12の内部の磁性体156aと外部の磁性体156bとに分離されており、磁性体157は、真空容器12の壁により真空容器12の内部の磁性体157aと外部の磁性体157bとに分離されている。
【0054】
真空容器12の壁が例えばステンレスなどの非磁性体から形成されている場合には、この壁は磁気抵抗を有することとなるが、壁の厚さは数mmと薄いために、壁を介して磁性体を磁気的に連結することができる。このような構造によれば、真空容器12に磁性体を挿通する孔を形成する必要がなくなるため、装置の低コスト化を図ることができる。また、真空リークの発生をなくすことができるので、装置のメンテナンスの上でも好ましい。
【0055】
なお、図2から図6においては、磁性体の磁極や捕捉板が、中性粒子ビームの進行方向に対して垂直な平面上で大きな面積を有するかのように図示されているが、これは説明のためであって、実際には櫛状磁極や捕捉板が占める面積は非常に小さい。また、上述した各実施形態においては、磁極歯の幅や捕捉板の幅を小さくすれば、中性粒子等がこれらに衝突する面積が減少するので、より多くの中性粒子ビームを処理室20に入射させることができる。また、中性粒子ビームが被処理物18の被照射面全面に均一に照射されるようにするために、保持台48を回転させて被処理物18を回転させたり、回転運動に加えて直線運動もできるように装置を構成してもよい。なお、イオン生成室14を回転させたり、磁性体の磁極を回転させたりしてもよい。
【0056】
また、上述した実施形態では、誘導結合型コイル30を用いてプラズマを発生させた例を説明したが、ECR(Electron Cyclotron Resonance)、ヘリコン波プラズマ用コイル、マイクロ波等を用いてプラズマを発生させることとしてもよい。また、上述した実施形態では、プラズマによりイオンを生成した例について説明したが、プラズマを発生させずにイオンを生成してもよい。例えば、電子線照射装置から電子線を照射し、原子に電子を付着させることで負イオンを生成してもよい。すなわち、イオン生成手段は、何らかの手段でイオンを生成できるものであればどのようなものであってもよい。
【0057】
なお、被処理物の処理を高速で行うためには、高密度のイオンビームを生成することが好ましいが、上述した誘導結合型コイル30は、高密度のプラズマを発生させて大量のイオンを生成することができ、高い強度のイオンビームを生成することができるので、被処理物の処理を高速で行う上では、誘導結合型コイルによるプラズマ発生手段を用いることが好ましい。
【0058】
また、上述の実施形態においては、イオン生成室14内のイオンを中性化室16に引き出す引出手段が、上流電極42、バイアス電極44、第1のバイアス電源46により構成される例を説明したが、これに限られず、他の方法によりイオンを引き出してもよい。
【0059】
さらに、上述の実施形態では、イオンを中性化する中性化手段として中性化ガスを利用する例を説明したが、これに限られるものではない。例えば、正イオンビームを中性化する場合には、中性化手段として、イオンビームに電子を照射する装置を設け、電子の照射により中性化を行ってもよい。また、負イオンビームを中性化する場合には、中性化手段として、イオンビームに光を照射する装置などのように、何らかの形でエネルギーをイオンビームに与えて電子を解離することで中性化を行う装置を設けることができる。
【0060】
あるいは、オリフィス状の細孔をイオンが通過するときに、細孔の壁と接触したり、細孔中の残留ガスと衝突したりすることにより、イオンが電荷を失うことが知られている(例えば、特開2002−289585号公報参照)。例えば、加速されたイオンが細孔の壁とほぼ平行に接触する場合には、イオンはその運動エネルギーをほとんど失わずに電荷交換により電荷だけを失う。したがって、このような細孔を用いてイオンを中性化してもよい。
【0061】
ここで、上述した磁性体の磁極を中性化手段としても構成することができる。すなわち、対向する磁極の間の空間を荷電粒子が通過しているときに、荷電粒子を磁極の壁と接触させたり、この空間中の残留ガスと衝突させたりすることにより、荷電粒子を電荷交換によって中性化することができる。より具体的には、対向する磁極の間隔が1mm程度になるように磁極を近接させると、対向する磁極の間の空間を通過するイオンが磁極との電荷交換によって中性化される確率が高まる。なお、この場合には、磁性体への電荷の蓄積を避けるために、導電体から形成される磁性体を接地する必要がある。
【0062】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施形態における中性粒子ビーム処理装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図1に示す磁性体を示す水平断面図である。
【図3】図2に示す捕捉板の作用を説明する拡大斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施形態における中性粒子ビーム処理装置の概要を示す水平断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態における中性粒子ビーム処理装置の概要を示す水平断面図である。
【図6】本発明の第4の実施形態における中性粒子ビーム処理装置の概要を示す水平断面図である。
【符号の説明】
【0064】
10 ビーム処理装置
12 真空容器
14 イオン生成室
16 中性化室
18 被処理物
20 処理室
22 プロセスガス導入ポート
24 ガス供給配管
26 プロセスガス供給源
28 流量制御装置
30 コイル
32 マッチングボックス
34 高周波電源
36 中性化ガス導入ポート
38 ガス供給配管
40 中性化ガス供給源
42 上流電極
44 バイアス電極
46 第1のバイアス電源
48 保持台
50 ガス排出ポート
52 ガス排出配管
54 真空ポンプ
56,156,157 磁性体
58,60,158,160 櫛状磁極
58a,60a 磁極歯
62,262 コイル
64,264 電磁石
66 捕捉板
68 中性粒子ビーム
70a,70b 荷電粒子
164 永久磁石
261 鉄心
263 電源
P プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン生成室の内部にイオンを生成するイオン生成手段と、
前記イオン生成室の内部のイオンを中性化室に引き出す引出手段と、
前記引き出されたイオンを中性化して中性粒子ビームを生成する中性化手段と、
前記中性粒子ビーム中に残留する荷電粒子を除去する荷電粒子除去手段と、
前記荷電粒子が除去された中性粒子ビームが照射される被処理物を保持する保持台と、
を備え、
前記荷電粒子除去手段は、
前記中性粒子ビームの進行方向に垂直な方向に磁界を形成して前記荷電粒子の軌道を曲げる磁界形成手段と、
前記中性粒子ビームの進行方向に平行な方向および前記磁界の向きに平行な方向に延びる面で前記軌道が曲げられた荷電粒子を捕捉する荷電粒子捕捉板と、
を有することを特徴とする中性粒子ビーム処理装置。
【請求項2】
イオン生成室の内部にイオンを生成するイオン生成手段と、
前記イオン生成室の内部のイオンを引き出す引出手段と、
隣接する磁極間に前記引き出されたイオンを通過させて該イオンを中性化して中性粒子ビームを生成するとともに、前記中性粒子ビーム中に残留する荷電粒子を除去するために前記荷電粒子の軌道を曲げる磁界を形成する磁界形成手段と、
前記荷電粒子が除去された中性粒子ビームが照射される被処理物を保持する保持台と、
を備えたことを特徴とする中性粒子ビーム処理装置。
【請求項3】
前記磁界形成手段は、
真空容器の外部に配置される磁石と、
前記磁石に磁気的に接続されることによって前記荷電粒子の軌道を曲げる磁界を形成する磁性体と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の中性粒子ビーム処理装置。
【請求項4】
イオン生成室の内部にイオンを生成するイオン生成手段と、
前記イオン生成室の内部のイオンを中性化室に引き出す引出手段と、
前記引き出されたイオンを中性化して中性粒子ビームを生成する中性化手段と、
前記中性粒子ビーム中に残留する荷電粒子を除去する荷電粒子除去手段と、
前記荷電粒子が除去された中性粒子ビームが照射される被処理物を保持する保持台と、
を備え、
前記荷電粒子除去手段は、
真空容器の外部に配置される磁石と、
前記磁石に磁気的に接続されることによって前記荷電粒子の軌道を曲げる磁界を形成する磁性体と、
を備えたことを特徴とする中性粒子ビーム処理装置。
【請求項5】
前記磁石は電磁石であることを特徴とする請求項3または4に記載の中性粒子ビーム処理装置。
【請求項6】
前記磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項3または4に記載の中性粒子ビーム処理装置。
【請求項7】
前記磁性体は、互いに対向して配置された一対の櫛状磁極を有することを特徴とする請求項3から6のいずれか一項に記載の中性粒子ビーム処理装置。
【請求項8】
前記磁性体は、前記真空容器の壁により該真空容器の内部の磁性体と外部の磁性体とに分離されていることを特徴とする請求項3から7のいずれか一項に記載の中性粒子ビーム処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−203134(P2006−203134A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15716(P2005−15716)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】