説明

中性粒子ビーム処理装置

【課題】安価且つコンパクトな構成で大口径のビームを被処理物に照射することができると共に高い中性化率を得ることができ、チャージフリー且つダメージフリーな中性粒子ビーム処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の中性粒子ビーム処理装置は、被処理物Xを保持する保持部20と、高周波電圧の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことにより、真空チャンバ3内に正イオンと負イオンとを含むプラズマを生成するプラズマ生成部と、真空チャンバ内であって、プラズマ生成部と被処理物との間に配置され、プラズマから放出される紫外線を遮蔽するオリフィス電極4と、真空チャンバ内にオリフィス電極に対して上流側に配置されたグリッド電極5と、オリフィス電極とグリッド電極との間に電圧を印加することで、プラズマ生成部により生成されたプラズマから正イオンと負イオンとを交互に引き出すバイポーラ電源102とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性粒子ビーム処理装置、特に高密度プラズマから高指向性で且つ高密度の粒子ビームを生成し、被処理物を加工する中性粒子ビーム処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路、ハードディスク等の情報記憶媒体、あるいはマイクロマシーン等の分野において、その加工パターンが著しく微細化されている。かかる分野の加工においては、直進性が高く(高指向性であり)、且つ比較的大口径で高密度のイオンビーム等のエネルギービームを照射して被処理物の成膜又はエッチングなどを施す技術が注目されている。
【0003】
このようなエネルギービームのビーム源としては、正イオン、負イオン、ラジカル粒子等の各種のビームを生成するものが知られている。このような正イオン、負イオン、ラジカル粒子等のビームをビーム源から被処理物の任意の部位に照射することで、被処理物の局所的な成膜やエッチング、表面改質、接合、接着などを行うことができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正イオンや負イオンなどの荷電粒子を被処理物に照射するビーム源においては、被処理物に電荷が蓄積するため絶縁物を処理することができない(チャージアップ現象)。また、空間電荷効果でイオンビームが発散してしまうため微細な加工をすることができない。
【0005】
これを防ぐためにイオンビームに電子を注ぎ込むことで電荷を中和することも考えられているが、この方法では全体的な電荷のバランスは取れるものの、局所的には電荷のアンバランスが生じており、やはり微細な加工をすることができない。
【0006】
また、プラズマ源からイオンを引き出して被処理物に照射する場合において、プラズマから発生する紫外線などの放射光が被処理物に照射されると被処理物に悪影響を与えることとなるので、プラズマから放出される紫外線などの放射光を遮蔽する必要がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、安価且つコンパクトな構成で大口径のビームを被処理物に照射することができると共に高い中性化率を得ることができ、チャージフリー且つダメージフリーな中性粒子ビーム処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような従来技術における問題点を解決するために、本発明の一態様は、被処理物を保持する保持部と、高周波電圧の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことにより、真空チャンバ内に正イオンと負イオンとを含むプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記真空チャンバ内であって、前記プラズマ生成部と前記被処理物との間に配置され、前記プラズマから放出される紫外線を遮蔽するオリフィス電極と、前記真空チャンバ内に前記オリフィス電極に対して上流側に配置されたグリッド電極と、前記オリフィス電極と前記グリッド電極との間に電圧を印加することで、前記プラズマ生成部により生成されたプラズマから正イオンと負イオンとを交互に引き出すバイポーラ電源とを備え、前記バイポーラ電源によりプラズマから正イオンと負イオンとを交互に引き出して前記オリフィス電極に形成されたオリフィスを通過させることで、該正イオンと該負イオンを該オリフィス内で中性化させることを特徴とする中性粒子ビーム処理装置である。
【0009】
本発明の好ましい態様は、前記高周波電圧の印加のタイミングと前記バイポーラ電源による電圧印加のタイミングとを同期させる変調装置をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正イオンと負イオンとを交互に引き出し、これらを中性化して中性粒子ビームとして被処理物に照射することができる。電荷を持たず大きな並進運動エネルギーを持つ中性粒子線によって被処理物を加工することができるので、チャージアップ量を小さく保ちつつ高精度のエッチングや成膜加工が可能となる。この場合、正イオンの中性化による中性粒子と負イオンの中性化による中性粒子とを交互に照射することで、2種類の処理を交互に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係るビーム処理装置の第1の実施形態について図1乃至図3を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態におけるビーム処理装置の全体構成を示す図である。
【0012】
図1に示すように、ビーム処理装置は、中性粒子ビームを生成するビーム生成室1と半導体基板、ガラス、有機物、セラミックスなどの被処理物Xの加工を行う処理室2とを有する円筒状の真空チャンバ3を備えている。この真空チャンバ3は、ビーム生成室1側が石英ガラス又はセラミックなどにより構成され、処理室2側が金属製のメタルチャンバなどにより構成されている。
【0013】
ビーム生成室1の外周には誘導結合型のコイル10が配置されている。このコイル10は、例えば水冷パイプのコイルであり、8mmφ程度の外径を有するコイルが2ターン程度ビーム生成室1に巻回されている。このコイル10は、マッチングボックス100を介して高周波電源101に接続されており、例えば、13.56MHzの高周波電圧がコイル10に印加される。これらのコイル10、マッチングボックス100、高周波電源101によってプラズマ生成部が構成されている。即ち、コイル10に高周波電流を流すことで誘導磁場を生じさせ、その変位電流によりガス中の原子・分子が電離されプラズマが生成する。
【0014】
ビーム生成室1の上部には、真空チャンバ3内にガスを導入するガス導入ポート11が設けられており、このガス導入ポート11はガス供給配管12を介してガス供給源13に接続されている。このガス供給源13からはSF,CHF,CF,Cl,Ar,O,N,C等などのガスが真空チャンバ3内に供給される。
【0015】
処理室2には、被処理物Xを保持する保持部20が配置されており、この保持部20の上面に被処理物Xが載置されている。処理室2にはガスを排出するためのガス排出ポート21が設けられており、このガス排出ポート21はガス排出配管22を介して真空ポンプ23に接続されている。この真空ポンプ23によって処理室2は所定の圧力に維持される。
【0016】
ビーム生成室1の下端には、グラファイトなどの導電体で形成されたオリフィス板(オリフィス電極)4が配置されており、このオリフィス電極4は接地電位とされる。このオリフィス電極4は第1の電極及び中性化手段として機能するものである。また、このオリフィス電極4の上方には、同様に導電体で形成された薄板グリッド状のグリッド電極(第2の電極)5が配置されている。このグリッド電極5はバイポーラ電源102(電圧印加部)に接続されている。このバイポーラ電源102によって例えば400kHzの低周波電圧がグリッド電極5に印加される。図2は、オリフィス電極4及びグリッド電極5の斜視図(図2(a))と部分縦断面図(図2(b))である。図2に示すように、オリフィス電極4には多数のオリフィス4aが形成されており、同様にグリッド電極5には多数のグリッド穴5aが形成されている。なお、グリッド電極5はメッシュ網やパンチングメタルなどであってもよい。
【0017】
コイル10に接続される高周波電源101とバイポーラ電源102とにはそれぞれ変調装置103、104が接続されている。高周波電源101とバイポーラ電源102とは変調装置103、104を介して互いに接続されており、変調装置103、104間の同期信号によって、高周波電源101による電圧印加のタイミングとバイポーラ電源102による電圧印加のタイミングとが同期される。
【0018】
次に、本実施形態におけるビーム処理装置の動作について説明する。図3は、本実施形態における動作状態を示すタイムチャートである。図3において、Vaはコイル10の電位、Teはビーム生成室1内の電子温度、neはビーム生成室1内の電子密度、niはビーム生成室1内の負イオン密度、Vbはグリッド電極5の電位をそれぞれ示している。なお、図3のタイムチャートは模式的なものであって、例えば図示されている周期は実際の周期とは異なる。
【0019】
まず、真空ポンプ23を作動させることにより、真空チャンバ3内を真空排気した後に、ガス供給源13からSF,CHF,CF,Cl,Ar,O,N,C等などのガスを真空チャンバ3の内部に導入する。そして、図3に示すように、13.56MHzの高周波電圧を高周波電源101によって10μ秒間コイル10に印加する。この高周波電圧の印加によってビーム生成室1内には高周波電界が形成される。真空チャンバ3内に導入されたガスは、この高周波電界によって加速された電子により電離され、ビーム生成室1内に高密度プラズマが生成される。このときに形成されるプラズマは、主として正イオンと加熱された電子とからなるプラズマである。
【0020】
そして、高周波電源101による高周波電圧の印加を100μ秒間停止する。高周波電源101による高周波電圧の印加の停止後は、再び高周波電源101による10μ秒間の高周波電圧の印加によってビーム生成室1内においてプラズマ中の電子が加熱され、上述したサイクルが繰り返される。即ち、高周波電界の印加(10μ秒間)と印加の停止(100μ秒間)を交互に繰り返す。この高周波電界の印加停止時間(100μ秒間)は、プラズマ中の電子が残留している処理ガスに付着して負イオンが生成されるのに要する時間よりも十分に長く、且つプラズマ中の電子密度が低下してプラズマが消滅するよりも十分に短い時間である。高周波電界の印加時間(10μ秒間)は、この高周波電界の印加を停止している間に低下したプラズマ中の電子のエネルギーを回復させるのに十分な時間である。
【0021】
このプラズマ中の電子のエネルギーを高めた後の高周波電界の印加停止により、負イオンを効率よく且つ継続して生成することができる。即ち、通常のプラズマは正イオンと電子とからなる場合が多いが、正イオンと共に負イオンが共存した状態のプラズマを効率的に形成することができる。なお、ここでは、高周波電界の印加停止時間を100μ秒に設定する例について述べたが、50μ秒乃至100μ秒に設定することで、プラズマ中に正イオンのみならず負イオンを多量に生成することができる。
【0022】
高周波電源101による電圧の印加の停止から50μ秒後に、バイポーラ電源102によって400kHzの低周波電圧をグリッド電極5に50μ秒間印加する。この低周波電圧の印加において、グリッド電極5の電位Vbがオリフィス電極4の電位(接地電位)よりも高いとき(例えば図3のAで示す部分)には、オリフィス電極4とグリッド電極5との間に、オリフィス電極4を陰極、グリッド電極5を陽極とした電位差が生じる。従って、グリッド電極5からオリフィス電極4側に漏れ出た正イオン6(図2(b)参照)は、この電位差によってオリフィス電極4に向けて加速され、オリフィス電極4に形成されたオリフィス4aに入っていく。
【0023】
このとき、オリフィス電極4のオリフィス4aの内部を通過する正イオン6は、主として、オリフィス4aの周壁の固体表面近傍において中性化されるか、オリフィス4aの内部に残留しているガスとの電荷交換によって中性化されるか、あるいは、オリフィス電極4の表面から放出された電子と衝突して再結合することによって中性化され、中性粒子7となる。
【0024】
一方、グリッド電極5の電位Vbがオリフィス電極4の電位(接地電位)よりも低いとき(例えば図3のBで示す部分)には、オリフィス電極4とグリッド電極5との間に、オリフィス電極4を陽極、グリッド電極5を陰極とした電位差が生じる。従って、グリッド電極5からオリフィス電極4側に漏れ出た負イオンは、この電位差によってオリフィス電極4に向けて加速され、オリフィス電極4に形成されたオリフィス4aに入っていく。オリフィス電極4のオリフィス4aの内部を通過する負イオンは、主として、オリフィス4aの周壁の固体表面近傍において中性化され、あるいは、オリフィス4aの内部に残留しているガスとの電荷交換によって中性化され、中性粒子7となる。このように、中性化する手段としてオリフィス電極を用いることによって高い中性化率が得られるので、装置を大型化せずに安価にビームを大口径化することが可能となる。
【0025】
オリフィス4aの通過中に中性化された正イオン又は負イオン(中性粒子)は、交互にエネルギービームとして処理室2の内部に放射される。この中性粒子7は、処理室2の内部を直進して保持部20に載置された被処理物Xに照射され、この中性粒子7によってエッチング、クリーニング、窒化処理や酸化処理などの表面改質、成膜などの処理を行うことが可能となる。
【0026】
このように正イオンの中性化による中性粒子と負イオンの中性化による中性粒子とを交互に照射することで、2種類の処理を交互に行うことができる。例えば、真空チャンバ3内に導入するガスをClとXeとした場合、正イオンの中性化によるXeを用いてXeスパッタを行い、負イオンの中性化による塩素を用いて塩素エッチングを行うことができるので、ケミカルスパッタリング作用でエッチレートを高めることができる。
【0027】
また、例えば、塩素ビームを照射して塩素と被処理物とが弱い結合力になっている数原子層を形成し、そこに、その弱い結合力の原子層は除去できるが被処理物自体の強い結合力は切ることができない程度のエネルギーを持つXeビームでスパッタリング除去するというように、適切な反応プロセスとエネルギー制御を行えば、被処理物の原子の結晶構造を破壊することなくエッチングすることが可能となる。
【0028】
この場合において、オリフィス電極は、イオンを中性化する手段としてだけではなく、プラズマから発生する放射光が被処理物に照射されるのを防止する手段としても機能する。即ち、プラズマが生成されるビーム生成室1と被処理物Xとはオリフィス電極4によって遮断されているので、プラズマから発生する放射光は被処理物Xに照射されず、被処理物Xに損傷を与えるような紫外線などの被処理物Xへの影響を低減することができる。
【0029】
なお、一部の荷電粒子もオリフィス電極4のオリフィス4aを通過する場合があるが、このような荷電粒子が被処理物Xに照射されることを防止するために、オリフィス電極4の下流側にディフレクタや電子トラップを設けることとしてもよい。ディフレクタは、真空チャンバ3の径方向に電圧を印加することによって荷電粒子の進行方向を変化させて、荷電粒子の被処理物Xへの照射を防止するものである。また、電子トラップは、径方向に磁界を形成することによって荷電粒子の進行方向を変化させて、荷電粒子の被処理物Xへの照射を防止するものである。
【0030】
ガラスやセラミック材料等の絶縁物の加工に際しては、表面にチャージアップという問題が生じるが、このように中性化された中性粒子を照射することによりチャージアップ量を小さく保ちながら、高精度のエッチングや成膜加工が可能となる。なお、被処理物の処理の内容に応じてガスの種類を使い分ければよく、ドライエッチングでは被処理物の違いに応じて酸素やハロゲンガスなどを使い分けることができる。
【0031】
本実施形態では、グリッド電極5をコイル10の下流側に配置した例を説明したが、グリッド電極をコイル10の上流側に配置することもできる。この場合は、グリッド電極に穴が1つも形成されていなくてもよい。図4はグリッド電極50をコイル10の上流側に配置した場合のビーム処理装置の全体構成を示す図である。この場合には、ビーム生成室1内に生成されたプラズマ中の正イオン及び負イオンはグリッド電極50とオリフィス電極4との間で加速されることとなる。
【0032】
また、本実施形態では、中性化手段としてオリフィス電極を用いた例を説明したが、これに限られず他の中性化手段を用いることもできる。例えば、(1)プラズマから引き出されたイオンに電子ビームを照射することで中性化する、(2)引き出されたイオンの経路上に中性ガスを導入して中性ガスの圧力の高い領域を形成し、この領域を通過させることでイオンを中性化する、(3)イオンに光を照射することで中性化する、(4)イオンを高周波電場で揺さぶることで中性化する、(5)引き出されたイオンの経路上に電子雲を形成し、この電子雲中を通過させることで中性化する、など各種の中性化手段を適用することができる。また、オリフィス電極の代わりにスリットやハニカム構造を有する電極を用いることとしてもよい。
【0033】
次に、ビーム処理装置の第1の参考例について図5及び図6を参照して詳細に説明する。なお、上述の第1の実施形態における部材又は要素と同一の作用又は機能を有する部材又は要素には同一の符号を付し、特に説明しない部分については第1の実施形態と同様である。図5は、ビーム処理装置の第1の参考例の全体構成を示す図である。
【0034】
本参考例における真空チャンバ30は金属で形成されたメタルチャンバであり、その内部の上流側に導電体で形成された薄板グリッド状のグリッド電極(第2の電極)8を備えている。真空チャンバ30とグリッド電極8とは電気的に接続されており、これらは接地電位とされている。
【0035】
また、オリフィス電極(第1の電極)4には、図5に示すように、交流電源105と交流電源106とが並列に接続されている。これらの電源105、106にはそれぞれ変調装置107、108が接続されている。また、交流電源105の変調装置107と交流電源106の変調装置108とは、同期信号によって互いに同期をとることができるようになっている。これらの交流電源105、106、変調装置107、108により電圧印加部が構成されている。なお、真空チャンバ30とオリフィス電極4とは絶縁物(図示せず)によって電気的に絶縁されている。
【0036】
次に、本参考例におけるビーム処理装置の動作について説明する。図6は、本参考例における動作状態を示すタイムチャートである。図6において、Vcは交流電源105における電位、Teはビーム生成室1内の電子温度、neはビーム生成室1内の電子密度、niはビーム生成室1内の負イオン密度、Vdは交流電源106の電位、Veはオリフィス電極4の電位をそれぞれ示している。なお、図6のタイムチャートは模式的なものであって、例えば図示されている周期は実際の周期とは異なる。
【0037】
まず、真空ポンプ23を作動させることにより、真空チャンバ30内を真空排気した後に、ガス供給源13からガスを真空チャンバ30の内部に導入する。そして、図6に示すように、交流電源105により13.56MHzの高周波電圧を10μ秒間オリフィス電極4に印加する。この高周波電圧の印加によってビーム生成室1内には高周波電界が形成される。真空チャンバ30内に導入されたガスは、この高周波電界によって加速された電子により電離され、ビーム生成室1内に高密度プラズマが生成される。
【0038】
そして、交流電源105による高周波電圧の印加を100μ秒間停止する。高周波電圧の印加の停止後は、再び交流電源105による10μ秒間の高周波電圧の印加によってビーム生成室1内においてプラズマ中の電子が加熱され、上述したサイクルが繰り返される。即ち、高周波電界の印加(10μ秒間)と印加の停止(100μ秒間)を交互に繰り返す。
【0039】
このプラズマ中の電子のエネルギーを高めた後の高周波電界の印加停止により、負イオンを効率よく且つ継続して生成することができる。即ち、通常のプラズマは正イオンと電子とからなる場合が多いが、正イオンと共に負イオンが共存した状態のプラズマを効率的に形成することができる。
【0040】
交流電源105による電圧の印加の停止から50μ秒後に、交流電源106によって400kHzの低周波電圧をオリフィス電極4に50μ秒間印加する。上述の第1の実施形態と同様に、この低周波電圧による電位差によって、正イオンと負イオンとが交互にオリフィス電極4に向けて加速され、オリフィス電極4に形成されたオリフィス4aに入っていく。
【0041】
オリフィス電極4のオリフィス4aの内部を通過する正イオン又は負イオンは、上述の第1の実施形態と同様に中性化されて交互に中性粒子となり、エネルギービームとして交互に処理室2の内部に放射される。この中性粒子は、処理室2の内部を直進して保持部20に載置された被処理物Xに照射される。
【0042】
上述したように、本参考例では、オリフィス電極4とグリッド電極8との間に高周波電圧と低周波電圧を交互に印加することによって、プラズマを生成すると共に生成されたプラズマから正イオンと負イオンとを交互に引き出すことができ、プラズマを生成するためのプラズマ生成部を別に設ける必要がなくなる。このため、装置をよりコンパクトにして安価にビームを大口径化することが可能となる。
【0043】
次に、ビーム処理装置の第2の参考例について図7乃至図9を参照して詳細に説明する。なお、上述の第1の実施形態における部材又は要素と同一の作用又は機能を有する部材又は要素には同一の符号を付し、特に説明しない部分については第1の実施形態と同様である。図7は、ビーム処理装置の第2の参考例の全体構成を示す図である。
【0044】
本参考例では、ビーム生成室31のコイル10の下流域に電子が残留ガスに付着して負イオンが生成される負イオン生成室31aが形成されている点が上述の第1の実施形態と異なる。このように本参考例では、生成されたプラズマの下流域に負イオン生成室31aを形成したいわゆるダウンストリーム方式のビーム処理装置が構成されている。
【0045】
この負イオン生成室31aには、必要に応じて、負イオン生成室31a内に電子雲を形成する電子雲形成手段を設けることができる。具体的には、図8に示すように、真空チャンバ3の円周方向に永久磁石9を所定の間隔で配置する。このとき隣り合う永久磁石9の磁極は反対となるように配置する。このように永久磁石9を配置することで、真空チャンバ3内に磁界が形成されてプラズマ中の電子が図8のCで示す軌道を周回するようになり、電子雲が形成される。このような電子雲形成手段は、永久磁石を用いる場合に限られず、負イオン生成室31a内に電界をかけることによっても構成することができる。
【0046】
グリッド電極5には、例えば400kHzの低周波電圧を印加する低周波電源109が接続されている。なお、本参考例においては、第1の実施形態とは異なり変調装置が設けられていない。
【0047】
次に、本参考例におけるビーム処理装置の動作について説明する。図9は、本参考例における動作状態を示すタイムチャートである。Vfはコイル10における電位、Vgはグリッド電極5の電位をそれぞれ示している。なお、図9のタイムチャートは模式的なものであって、例えば図示されている周期は実際の周期とは異なる。
【0048】
まず、真空ポンプ23を作動させることにより、真空チャンバ3内を真空排気した後に、ガス供給源13からSF,CHF,CF,Cl,Ar,O,N,C等などのガスを真空チャンバ3の内部に導入する。そして、図9に示すように、13.56MHzの高周波電圧を高周波電源101によってコイル10に印加する。この高周波電圧の印加によってビーム生成室31内には高周波電界が形成される。真空チャンバ3内に導入されたガスは、この高周波電界によって加速された電子により電離され、ビーム生成室31内に高密度プラズマが生成される。このときに形成されるプラズマは、主として正イオンと加熱された電子とからなるプラズマである。
【0049】
上述したように、本参考例では、プラズマの下流域に負イオン生成室31aが設けられており、この負イオン生成室31aにおいて低い電子温度になった電子が残留ガスに付着して負イオンが生成される。従って、この負イオン生成室31aは、正イオン、負イオン、電子とが存在する領域となっている。
【0050】
高周波電源101による高周波電圧の印加と同時に、低周波電源109により400kHzの低周波電圧をグリッド電極5とオリフィス電極4との間に印加する。上述の実施形態と同様に、この低周波電圧による電位差によって、負イオン生成室31a内の正イオンと負イオンとが交互にオリフィス電極4に向けて加速され、オリフィス電極4に形成されたオリフィス4aに入っていく。
【0051】
オリフィス電極4のオリフィス4aの内部を通過する正イオン又は負イオンは、上述の第1の実施形態と同様に中性化されて交互に中性粒子となり、エネルギービームとして交互に処理室2の内部に放射される。この中性粒子は、処理室2の内部を直進して保持部20に載置された被処理物Xに照射される。
【0052】
本参考例においても、グリッド電極をコイル10の上流側に配置することができる。図10はグリッド電極50をコイル10の上流側に配置した場合のビーム処理装置の全体構成を示す図である。この場合には、負イオン生成室31a内のプラズマ中の正イオン及び負イオンはグリッド電極50とオリフィス電極4とに印加される電圧によって加速されることとなる。
【0053】
また、上述した実施形態及び参考例においては、正イオンと負イオンとを交互に引き出し、これを中性化した例を説明したが、正イオンと負イオンとを交互に引き出し、これを中性化せずにそのまま正イオンビーム又は負イオンビームとして交互に被処理物に照射することもできる。
【0054】
図11は、上述した第1の実施形態において、中性化を行わずに正イオンと負イオンとをエネルギービームとして交互に被処理物Xに照射する場合の全体構成を示す図である。図11に示す例では、オリフィス電極の代わりに導電体で形成された薄板グリッド状のグリッド電極(第2の電極)51が配置されている。このグリッド電極51は第1の実施形態におけるオリフィス電極と同様に接地電位とされている。このような構成において、第1の実施形態と同様に、高周波電圧を高周波電源101によって10μ秒間コイル10に印加してビーム生成室31内に高密度プラズマを生成し、高周波電源101による電圧の印加の停止から50μ秒後に、バイポーラ電源102によって低周波電圧をグリッド電極51に50μ秒間印加すると、正イオンと負イオンとが交互にグリッド電極51から飛び出し、被処理物Xに照射される。
【0055】
また同様に、図4に示す実施形態、図7に示す参考例、図10に示す参考例においても、中性化を行わずに正イオンと負イオンとを交互に被処理物Xに照射することができ、これらの場合における装置の全体構成をそれぞれ図12、図13、図14に示す。
【0056】
なお、上述した実施形態及び参考例においては、ICP型コイルを用いてプラズマを生成した例を説明したが、ECR(Electron Cyclotron Resonance)、ヘリコン波プラズマ用コイル、マイクロ波等を用いてプラズマを生成することとしてもよい。また、高周波の周波数領域も、13.56MHzに限られるものではなく、1MHz〜20GHzの領域を用いてもよい。また、低周波の周波数領域も、400kHzに限られるものではない。例えば、図15に示すように、矩形状の電圧を低周波電圧の代わりに印加することとしてもよい。
【0057】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるビーム処理装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1に示すオリフィス電極及びグリッド電極を示す図であり、特に正イオンが中性化される状態を示している。
【図3】本発明の第1の実施形態における動作状態を示すタイムチャートである。
【図4】本発明の他の実施形態におけるビーム処理装置の全体構成を示す図である。
【図5】第1の参考例におけるビーム処理装置の全体構成を示す図である。
【図6】第1の参考例における動作状態を示すタイムチャートである。
【図7】第2の参考例におけるビーム処理装置の全体構成を示す図である。
【図8】第2の参考例における電子雲形成手段を示す断面図である。
【図9】第2の参考例における動作状態を示すタイムチャートである。
【図10】第3の参考例におけるビーム処理装置の全体構成を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施形態において、中性化を行わずに正イオンと負イオンとを交互に被処理物に照射する場合の全体構成を示す図である。
【図12】図4に示す実施形態において、中性化を行わずに正イオンと負イオンとを交互に被処理物に照射する場合の全体構成を示す図である。
【図13】第2の参考例において、中性化を行わずに正イオンと負イオンとを交互に被処理物に照射する場合の全体構成を示す図である。
【図14】図10に示す参考例において、中性化を行わずに正イオンと負イオンとを交互に被処理物に照射する場合の全体構成を示す図である。
【図15】低周波電圧の代わりに印加する電圧の一例を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0059】
X 被処理物
1,31 ビーム生成室
2 処理室
3,30 真空チャンバ
4 オリフィス電極(中性化手段)
4a オリフィス
5,8,50,51 グリッド電極
6 正イオン
7 中性粒子
9 永久磁石(電子雲形成手段)
10 コイル
11 ガス導入ポート
12 ガス供給配管
13 ガス供給源
20 保持部
21 ガス排出ポート
22 ガス排出配管
23 真空ポンプ
31a 負イオン生成室
100 マッチングボックス
101 高周波電源
102 バイポーラ電源(電圧印加部)
103,104,107,108 変調装置
105 交流電源(第1の電圧印加部)
106 直流電源(第2の電圧印加部)
109 低周波電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を保持する保持部と、
高周波電圧の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことにより、真空チャンバ内に正イオンと負イオンとを含むプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記真空チャンバ内であって、前記プラズマ生成部と前記被処理物との間に配置され、前記プラズマから放出される紫外線を遮蔽するオリフィス電極と、
前記真空チャンバ内に前記オリフィス電極に対して上流側に配置されたグリッド電極と、
前記オリフィス電極と前記グリッド電極との間に電圧を印加することで、前記プラズマ生成部により生成されたプラズマから正イオンと負イオンとを交互に引き出すバイポーラ電源とを備え、
前記バイポーラ電源によりプラズマから正イオンと負イオンとを交互に引き出して前記オリフィス電極に形成されたオリフィスを通過させることで、該正イオンと該負イオンを該オリフィス内で中性化させることを特徴とする中性粒子ビーム処理装置。
【請求項2】
前記高周波電圧の印加のタイミングと前記バイポーラ電源による電圧印加のタイミングとを同期させる変調装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の中性粒子ビーム処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−108745(P2008−108745A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326831(P2007−326831)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【分割の表示】特願2001−88863(P2001−88863)の分割
【原出願日】平成13年3月26日(2001.3.26)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】