説明

中性粒子ビーム形成装置、表面分析装置、中性粒子ビーム形成方法、および表面分析方法

【課題】 中性粒子ビームの強度を測定することができる、中性粒子ビーム形成装置、それを用いた表面分析装置、中性粒子ビーム形成方法、および表面分析方法を提供する。
【解決手段】 中性ガスを導入してイオンビームを該中性ガスにより中性化して中性粒子ビームに変換する中性化室3と、中性粒子ビームの強度をモニタする中性粒子ビーム強度モニタ機構とを備え、中性粒子ビーム強度モニタ機構は、中性ガスとイオンビームとの電荷交換反応によって中性ガスが帯電して生じる帯電粒子の電荷を計測する機構であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化された粒子(原子、分子)の流束(イオンビーム)を中性化して中性粒子ビームとする中性粒子ビーム形成装置、それを用いた表面分析装置、中性粒子ビーム形成方法、および表面分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高性能電子デバイスや光デバイス等の開発において、単結晶薄膜の成長方位、結晶性等の特性の評価は、これら結晶の特性がデバイスの性能を左右するので、非常に重要である。従来、半導体薄膜表面の結晶構造の解析、表面元素分析等についての有力な評価手段として、いわゆるイオン散乱分析法が用いられてきた。しかしイオン散乱分析法ではイオンビームが用いられるため、最近、盛んに研究対象に取り上げられる絶縁体結晶薄膜に対して表面分析、結晶性、下地絶縁性基板の評価をする場合、イオンによって試料表面が帯電するため、正確な評価ができなかった。
【0003】
入射イオンによる帯電の問題を解決するために、イオンビームを中性化し中性の原子ビームに変換してから試料表面に照射して表面分析を行う方法が考案された(特許文献1、2、3)。
特許文献1では、イオンビームを軽元素からなる単結晶薄膜の結晶軸方向に通過させ、通過途中で電荷変換を行うことで中性の原子(中性粒子)ビームに変換する。また特許文献2および3では、希薄ガスで満たされた中性化室を設け、イオンビームをその希薄ガス中を通過させる。イオンビームは、希薄ガスの原子、分子等と軽い接触を起こすことで電荷交換をしながら中性の中性粒子ビームとなるとみることができる。
【0004】
上記軽元素の単結晶薄膜を通過させる方法では、イオンエネルギが高い場合、たとえば100keV程度の場合、有効な方法である。しかし、たとえば10keV程度の低エネルギの場合、薄膜通過中のエネルギ損失が大きく、現実的と言い難い。一方、中性化室を設ける方法では、中性化室に導入されるガス密度を調整することで中性化を行うことはできるかもしれないが、その詳細が開示されていない。
上記いずれの方法によっても、イオンビームを中性の原子(分子)ビームにすることができ、この中性粒子ビームを試料表面に入射して表面分析を行えば、表面の帯電を避けて、表面分析を行うことはできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−239254号公報
【特許文献2】特開2008−185336号公報
【特許文献3】特開2008−185336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イオンの中性化効率は、中性化室内に導入される中性ガスの種類、ガス圧、中性化領域のイオンの進行方向の長さ、などに左右される。このうち、特にガス圧はガス圧調節器の精度や周囲温度不確定な要素に左右される。安定した原子ビームを得るためには、その原子ビームの強度をモニタして所望のレベルに維持する必要がある。原子ビームの強度の維持を図るには、中性化室の出口から出射した原子ビームの強度を直接計測し、これを制御することが望ましい。しかし、電荷を持たない原子ビームの強度を直接することは不可能である。熱計量計等を配置し、これに原子ビームを照射し、その温度変化から間接的に測ることも考えられるが、この方法では強度測定のためにビームを遮らなければならない。また、分析装置のようにビームが細く、強度が微弱な場合、またとくにパルス化されている場合、その熱的変化は極めて小さく、熱量計等を用いるのは非現実的である。要は、電荷を持たない中性化された原子ビームの強度を、ビームの進行を妨げることなく連続的に計測できる手段を持つことが何より重要である。原子ビームの強度を検知してはじめて、その原子ビームを制御して安定なビームを得ることが可能となる。そしてこれを用いて高精度の表面分析が可能になる。
【0007】
本発明は、ビームの進行を妨げることなく該中性粒子ビームの強度を測定することができる、中性粒子ビーム形成装置、それを用いた表面分析装置、中性粒子ビーム形成方法、および表面分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の中性粒子ビーム形成装置は、入射されるイオンビームを、中性ガスを導入して電荷交換反応させることで中性化して中性粒子ビームとして出射する中性化室と、中性粒子ビームの強度をモニタする中性粒子ビーム強度モニタ機構とを備え、中性粒子ビーム強度モニタ機構は、電荷交換反応によって中性ガスが帯電して変じた帯電粒子の電荷を計測することを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、中性粒子ビームを形成して、その中性粒子ビームの強度を監視することができる。このため、照射される試料等の帯電を防止しながら、中性粒子ビームの強度を、常時、検知しているので、中性粒子ビームの強度に変動が生じた場合など、直ぐに対応をとることができる。この結果、安定して高精度の中性粒子ビームを用いることができる。この中性粒子ビーム形成装置は、どのような用途にも使用できるが、たとえば表面分析装置に用いた場合、安定して高精度の表面分析を遂行することができる。
なお、中性粒子ビームは、原子、分子、など電荷を帯びない粒子から構成されるビームである。とくに希ガス(不活性ガス)をイオン源に用いた場合、ほとんど原子から構成されるビームとなる。しかし、中性化室での電荷交換反応によって完全に中性化されずに多少のイオンが残存していてもよい。通常、残存イオン除去手段を備えているので問題ない。
【0010】
中性粒子ビーム強度モニタ機構を、中性化室の少なくとも内壁を導電性材料で形成し、該導電性材料に流入する帯電粒子による電流を計測する機構とすることができる。
これによって、イオンビームおよび中性粒子ビームのどちらにも影響を与えることなく、中性粒子ビームを出射しながら連続的にその中性粒子ビームの強度をモニタすることができる。このため、非常に信頼性の高い、強度が安定した中性粒子ビームのみを用いて、表面分析等が可能となる。
【0011】
中性粒子ビーム強度モニタ機構が、中性化室において、中性粒子ビームが通る部分が開口し、該中性粒子ビームとその板面が直交するように配列され、導電性材料とは電気的に絶縁された複数の遮蔽板を備えることができる。
(S1)中性ガスとイオンビームとの、電荷交換反応を伴う衝突において、衝突係数(イオンの進行軸と衝突相手の中性ガス粒子との間の距離)が小さい場合、ビーム軸心に沿って直進する中性粒子は得られない。すなわち衝突係数が小さい場合、中性ガスが帯電して生じる帯電粒子がイオンビームの力を受けてビーム軸心から大きく逸脱して散乱する一方で、その散乱相手のイオンビームから変じた中性粒子も、ビーム軸心から大きく逸脱する。この場合、中性粒子は、コリメータ出口を通り抜けることはできず、従って試料の照射に用いることはできない。このような場合、帯電粒子の電荷をカウントすれば、それは誤差となる。上記の遮蔽板は、ビーム軸心から逸脱した帯電粒子を、中性化室の内面にまで届かせないように遮蔽する。この結果、無効な中性粒子ビームに対応する帯電粒子を測定対象から除くことができ、有効な中性粒子ビームの強度のみをカウントすることができる。
(S2)衝突係数が大きい場合、電荷交換反応を伴う衝突において、中性ガスから変じた帯電粒子は、ビーム軸心方向に対してほぼ垂直に散乱される。一方、イオンビームから変じた中性粒子は、ビーム軸心に沿って直進して、利用可能な中性粒子ビームを形成する。この場合、帯電粒子は、遮蔽板に遮蔽されることなく中性化室の内面に到達して、その電荷をカウントされる。
ここで、衝突係数について具体的に示すと、たとえばヘリウム(He)−ヘリウム(He)の電荷交換を伴う衝突において衝突係数が0.05nm以上であれば散乱角は約1°以内となり、直進性は概ね確保される。また、たとえばネオン(Ne)−ネオン(Ne)の場合、衝突係数0.15nm以上であれば、やはり散乱角は約1°以内となり、直進性を得ることができる。
上記(S1)および(S2)により、中性粒子ビームの強度を高精度でモニタすることが可能になる。
【0012】
中性化室の出射側コリメータホールの外側に、中性粒子ビーム中に混在するイオンを除くためのイオン除去手段を備えることができる。
これによって、イオンを含まない中性粒子ビームを提供することができ、長時間、絶縁体試料に照射しても帯電しないように信頼性を高めることができる。なお、イオン除去手段の例示としては、平行平板電極による電界による除去、磁場によるローレンツ力による除去などがある。
【0013】
中性粒子ビームの強度を調整するために用いることができる中性粒子ビーム強度調整部を備えることができる。
これによって、中性粒子ビーム強度にばらつきなどの変動が起きた場合、強度調整部を調整することで、安定した高精度の中性粒子ビームを得ることができる。中性粒子ビーム強度調整部としては、中性化室における中性ガスの圧力、イオン源におけるイオン化ガスの圧力、およびイオンを発生するための各種電圧など、を挙げることができる。イオンを発生するための各種電圧など、について具体例を挙げると、電子衝撃型イオン銃の場合、イオン化ガスの圧力とイオン励起用の加熱フィラメントの電力(電圧・電流)などが該当する。また、冷陰極型(プラズマ放電型)の場合、イオン化ガスの圧力とプラズマ放電電力(電圧・電流)などが該当する。なお、中性ガス種、中性化室の長さ、イオンを発生するための電圧、イオンビームの加速電圧なども、中性粒子のビーム強度に影響を及ぼすが、測定中に変化(調整)することはできないので、中性粒子ビーム強度調整部とすることは、通常、難しい。
【0014】
中性化室において、イオンビームが入射される入射側コリメータホール、および/または、中性粒子ビームが出射される出射側コリメータホール、の周囲に、イオンビームまたは中性粒子ビームのビームから逸脱した粒子を除去するための電極板を配置するのがよい。
これによって、コリメータホール(入射側、出射側)を通過するとき、イオンビーム等から逸れた部分を除去することができる。
【0015】
中性粒子ビームはパルス化されているのがよい。
これによって、試料に照射し、散乱される粒子のエネルギー弁別を飛行時間計測法によって行うことができ、これを表面分析装置に応用することができる。中性粒子のエネルギーは、パルスを用いないで静電場や静磁場を用いた分散型ではエネルギー弁別を行うことはできない。
【0016】
イオンビームおよび中性化室に導入される中性ガスを、両方ともに希ガス元素からなるようにするのがよい。
イオンを生成するためのガス、および中性化室に導入される中性ガスを、両方ともに希ガスとすることができる。
これによって、安定して中性粒子ビームを形成することが可能になる。また、中性粒子は、ほぼ原子のみで構成され、粒子の質量が均一化されるので、散乱された中性粒子から高精度の分析を行うことができる。
【0017】
本発明の表面分析装置は、上記のいずれかの中性粒子ビーム形成装置を備え、該中性粒子ビーム形成装置で形成された中性粒子ビームを試料に照射することで試料表面の分析を行うことを特徴とする。
この表面分析装置によれば、絶縁体の試料であっても帯電することなく中性粒子ビームを照射して散乱粒子等の方位角分布等を測定することで、表面の原子配列、表面に位置する原子の種類等を精度よく分析することができる。中性粒子ビームの強度をモニタできるので、安定した中性粒子ビーム源を備えることになり、分析についても、安定して高精度分析が可能になる。さらに、中性粒子ビームを不活性ガスから形成することで、粒子質量、エネルギ等において均一性の高い、中性粒子ビームを得ることができ、TOF(Time of Flight)などの測定精度を向上させることができる。
【0018】
本発明の中性粒子ビーム形成方法は、イオンを生成し、該イオンをイオンビームとして出射する過程と、中性化室に中性ガスを導入しながら、イオンビームを該中性化室に通し、中性ガスと該イオンビームとに電荷交換反応を起こさせ、イオンビームを中性化して中性粒子ビームに変換して、出射する過程と、中性ガスと該イオンビームとに電荷交換反応を起こさせる過程で中性ガスから生じる帯電粒子を、集電することで中性粒子ビームの強度を検知する過程とを備えることを特徴とする。
【0019】
上記の方法によれば、イオンビームおよび中性粒子ビームの進行を妨げることなく、結果物である中性粒子ビームを出射させながらその中性粒子ビームの強度を監視することができる。このため、安定した高精度の中性粒子ビームを提供することができる。
【0020】
中性粒子ビームの強度を検知しながら、中性ガスの中性化室における圧力を調整して該中性粒子ビームの強度を調整することができる。
これによって、中性粒子ビーム強度のモニタ値に基づいて、その強度を、即座にかつその場で調整することができる。この結果、安定した状態を長時間にわたって維持できる制御性の良い中性粒子ビームを提供することができる。
【0021】
本発明の表面分析方法は、上記いずれかの中性粒子ビーム形成方法で形成された中性粒子ビームを、試料に照射することを特徴とする。
この表面分析方法によれば、絶縁体の試料であっても帯電することなく中性粒子ビームを照射して散乱粒子等の方位角分布等を測定することで、表面の原子配列、表面に位置する原子の種類等を精度よく分析することができる。中性粒子ビームの強度をモニタできるので、安定した中性粒子ビーム源を備えることになり、分析についても、安定して高精度分析が可能になる。さらに、中性粒子ビームを不活性ガスから形成することで、粒子質量、エネルギ等において均一性の高い、中性粒子ビームを得ることができ、TOF(Time of Flight)などの測定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の中性粒子ビーム形成装置等によれば、イオンビームを中性化して中性粒子ビームにした上で、ビームの進行を妨げることなく該中性粒子ビームの強度を測定して、安定した高精度の中性粒子ビームを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1における中性化室を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態2における中性化室を示す図である。
【図3】中性化室における電荷交換反応を伴う衝突で、衝突係数bが小さい場合の散乱挙動を示す図である。
【図4】中性化室における電荷交換反応を伴う衝突で、衝突係数bが大きい場合の散乱挙動を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態3における表面分析装置を示す図である。
【図6】実施例において、チャネルプレートを用いた原子ビームのパルスカウント数(散乱強度)と、イオン交換電流との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施の形態1−中性粒子ビーム形成装置(強度モニタ付き)−)
図1は、本発明の実施の形態1における中性化室3の基本構成を示す図である。中性化室3は、ビームの進行軸I,Nを中心として中性化室本体部である適切な長さの金属パイプ33と、その金属パイプ33の両端に絶縁体36,37を介在させて位置する電極板34,35とを備える。電極板34には出射側コリメータホール12、また電極板35には入射側コリメータホール11が、ビーム軸線I,Nを共通にして開口されている。記号Iは、イオンビームの軸線にも、またイオンビームもしくはイオン自体にも、用いる。また、記号Nは中性粒子ビームの軸線にも、また中性粒子ビームもしくは中性粒子自体にも用いる。さらに中性粒子がほぼ原子で構成される場合には、原子ビームもしくは原子にも用いる。
電極板34,35は導電性であれば何でもよいが金属板を用いることができる。金属パイプ33の長さは5cm〜50cm程度とするのがよい。中性化のための中性ガスAは、真空容器1の開口部である中性ガス導入口30から導入し、本体部である金属パイプ33を通って、真空容器の差動排気口31から出てゆく。差動排気口31は、入射側コリメータホール11および出射側コリメータホール12から排出される中性ガスを効率よく排気し、中性化室3の外側での圧力を高真空にする観点から、その口径は大きいほうがよい。金属パイプ33は、真空容器1の中性ガス導入口30と絶縁管38を介在させて連結している。真空容器内での金属パイプ33の力学的な支持は、図示しない支持部材によってなされている。
【0025】
中性化室本体部33の入射側コリメータホール11から内部へ入射するイオンIは、走行中に中性ガスを構成する原子または分子Aに近接して通過するとき、相互作用によって電荷交換を行う(電荷交換反応)。つまり、(1)入射イオンIが中性化されて原子または分子の中性粒子の状態に戻るとともに、(2)電荷交換相手の中性ガスの原子または分子Aは逆に電荷を帯びてイオンとなって軸心付近から金属パイプ33の内壁に向かう。この中性ガスが変じて電荷を帯びるようになった粒子を「帯電粒子」と記す。
上記の電荷交換反応における粒子間の関係は、入射イオン1個と帯電粒子1個とが、1対1に対応することから、金属パイプ33をコレクタ(収集電極)として、電荷交換反応で帯電した帯電粒子の電荷を電流として検出すれば、中性化されたあとの中性粒子ビームまたは原子ビームの強度を検知することができる。入射イオンIが、希ガスからイオン化されたものであれば、中性化されて原子となるので、中性粒子ビームは原子ビームとみることができる。図1では、金属パイプに流入する電荷を測定する機器は省略されている。たとえば金属パイプ33にはアースされた電流計が導電接続されているとみることができる。中性粒子ビーム強度モニタ機構は、金属パイプ33と、上記の電流計とを備える。金属パイプ33は、導電性のある管状体であれば何でもよいが、たとえばステンレススティール、アルミニウム合金、銅管などを用いることができる。帯電粒子を集電することができればよいので、中性化室の内壁のみ導電性材料で被覆されているものであってもよい。
【0026】
入口および出口のコリメータホール11,12をビームI,Nが通過するときその孔の周辺にも一部イオンが照射されることから、コリメータホール11,12が形成された電極板35,34を接地しておいて吸収させるのがよい。すなわち、コリメータホール11,12の周辺34,35に当たった粒子は軸線I,Nに沿わないので、無効になる。このため、これを上記の帯電粒子の電流としてカウントされないように除去する。
【0027】
上述したように、中性粒子ビーム強度モニタ機構は、金属パイプ33と、図示しない電流計とで構成される。この中性粒子ビーム強度モニタ機構でモニタしたデータを基に、中性粒子ビームNの強度を調整するときは、中性化室における中性ガスの圧力、イオン源におけるイオン化ガスの圧力、およびイオンを発生するための各種電圧など、を調整するのがよい。イオンを発生するための各種電圧など、についてば、電子衝撃型イオン銃の場合、イオン化ガスの圧力とイオン励起用の加熱フィラメントの電力(電圧・電流)などを調整する。また、冷陰極型(プラズマ放電型)の場合、イオン化ガスの圧力とプラズマ放電電力(電圧・電流)などを調整する。
これによって、安定して強度について高精度の中性粒子ビームを形成することができる。
なお、中性ガス種、中性化室の長さ、イオンを発生するための電圧、イオンビームの加速電圧なども、中性粒子のビーム強度に影響を及ぼすが、測定中に変化(調整)することはできない。これらの要因については、装置の仕様等に応じて装置の設計の際に検討対象となる。
【0028】
(実施の形態2−中性粒子ビーム形成装置(高精度強度モニタ付き)−)
図2は、本発明の実施の形態2における高精度強度モニタ付き中性粒子ビーム形成装置を示す図である。本実施の形態の中性化室本体部33には、複数枚の遮蔽板15が配置されている点に特徴を有する。複数の遮蔽板15は、ビームI,Nが通るように共通の位置に開口があけられ、その板面がビームI,Nに直交するように配列されている。図2に示すように複数枚の遮蔽板15を配列することで、中性粒子ビームの強度を高精度で検知することができる。その理由を、図3および図4を用いて次に説明する。
【0029】
図3に示すように、入射イオンIと中性ガスAとの衝突過程において、その衝突係数b(b:イオンの進行軸と衝突相手の中性ガス粒子との間の距離)が小さい場合、入射イオンIは中性化される過程でその軌道を大きく曲げる。このため、このような小さいbでの電荷交換をして生じた中性粒子(原子)は、中性化室から出射されず、無効になる。このとき、衝突相手の中性ガス粒子P(A)は電荷交換しながら斜め前方に散乱される。帯電粒子P(A)が斜め前方に散乱されることで、上記の遮蔽板15に当たって吸収される。このため斜め前方に散乱された帯電粒子P(A)は金属パイプ33にまで届かず、中性粒子(原子)ビームに寄与する帯電粒子としてカウントされない。
これに対して、図4に示すように衝突係数bが小さくない場合、電荷交換したあとの帯電粒子P(A)はビームI,Nに対してほぼ垂直方向に散乱される。このとき、入射イオンIは中性化され原子または中性粒子になる間に、小さく反作用を受けるが軌道をほとんど変化させずに進行する。すなわち中性化室3から出射される有効な中性粒子または原子のビームNを形成する。この結果、衝突係数bが大きい場合、イオンビームIは、試料に有効に照射される原子または中性粒子のビームNになる。ビームI,Nの軸線にほぼ垂直方向に散乱される帯電粒子P(A)は、遮蔽板15に遮蔽されることなく金属パイプ33の内面に到達する。そして、試料に照射される原子ビームNに寄与した帯電粒子としてカウントされる。図4から分かるように、原子ビームNは完全な線ではなく、所定の立体角の中に入るものであればよい。イオンビームIについても同様のことがいえる。
【0030】
遮蔽板15は、その板面をビームに直角に、間隔をおいて配列するので、ビームI,Nに対してほぼ垂直方向に散乱される帯電粒子P(A)のみが金属パイプ33に収集される。このため、金属パイプ33に収集された電荷は、直進して中性化室3から出射されて試料に照射される原子ビームNの強度に比例することになる。つまり、斜め前方に散乱された帯電粒子P(A)は遮蔽板15に衝突して吸収されて上記の電流値に寄与しない。遮蔽板15は、枚数が多く、間隔が狭いほうが、直進性の高い直進するビームと、上記の電流値との対応づけを高精度で行うことができる。
要約すると、図3に示すようにbが小さい場合の帯電粒子P(A)の電荷はカウントされず、図4に示すようにbが大きい場合の帯電粒子P(A)の電荷はカウントされる。これは、中性化室3から出射される中性粒子または原子のビームに寄与した帯電粒子P(A)のみをカウントすることになり、モニタの精度を向上させることができる。
【0031】
遮蔽板15の他の効用はつぎのものである。出口コリメータホール12の周辺をビーム照射することによって放出される2次イオンや2次電子が金属パイプ33に当たると誤差電流を生じる。このため、図2に示すように、接地された適切な遮蔽板15を、複数枚、配列されていれば、これらの副次的な2次イオンや2次電子が金属パイプ33に届かないようにすることができる。
【0032】
本実施の形態における中性粒子ビーム強度モニタ機構は、金属パイプ33と、遮蔽板15と、実施の形態で説明した電流計(図示せず)とで構成される。上記のように、本実施の形態における中性粒子ビーム強度モニタ機構は、中性粒子ビームNの強度をより高精度でモニタすることができる。このモニタデータを基に、実施の形態1で説明した要因を調整することで、一層高精度の強度を有する中
【0033】
(実施の形態3−原子散乱表面分析装置−)
図5は、本発明の原子ビーム発生装置を含む原子散乱表面分析装置50の構成図である。図5に示すように、装置は大きく分けて、イオン源2、イオンの中性化室3、分析室4および散乱粒子の検出器5、から構成されている。いずれも高真空あるいは超高真空をベースとするため真空容器1の中に一体的に配置されている。この真空容器1の内部には、プラズマを生成してイオンを放出するイオン源2と、このイオン源2から適切な電極(図示せず)によって引き出しかつ加速されたイオンをその走行中に電荷交換によって中性化する中性化室3と、中性化された原子ビームを分析対象の試料41の表面に入射して分析を行う分析室4とが配置される。
【0034】
イオン源2内に、ガス供給源20からガス供給管を通じてイオン源のガスを供給し、イオン化されなかった余剰ガスおよび余剰イオンをイオン源排気口21から排出する。イオン源に使用するガスとしては、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)など不活性ガスとするのがよい。イオン源2内を所定のガス圧にした状態で、電力を投入してプラズマを発生させる。イオンを含むプラズマは、イオン源2において電圧により加速される。このときイオン源2内に含まれる、同位元素、多価イオン等は予め公知の方法によって除去することができる。これらにイオンを含むイオンビームIは、パルス化手段22などによってパルス化される。
【0035】
中性化室3には、とくに実施の形態1または2に示す中性化室を配置する。すなわち、真空容器1から電気的に絶縁され、交換イオンを捕集して計測することで中性化された原子ビームの強度をモニタする原子ビーム強度モニタ機構が設けられている。
中性化された粒子は、偏向電極で構成されるイオン除去手段32を通される。コリメータ出口12から出射される原子ビームNには、電荷交換が行われずに、イオンのまま通過するものも一部含まれる。これに対して、出口12近傍に設けた2枚の平板電極で構成されるイオン除去手段32に偏向電位を与えることで、そのイオン成分のみを除くことができる。これによって、残存のイオン成分などは偏向電極にかけられた電界によって偏向され、中性化された中性粒子ビーム(原子ビーム)のみ得ることができる。
イオン除去手段は、電界による除去だけでなく、磁場を用いてローレンツ力で除いてもよい。
【0036】
得られた原子ビームNは、分析室4内に設けられた試料41に照射される。表面分析は、次のような測定が可能である。
(1)試料表面から散乱されてくる原子種の飛行時間スペクトルを測定することで試料表面の構成元素の特定
(2)極角または方位角の周りに回転させて散乱強度を測定することで、表面直下層(数層)の結晶構造の特定
上記の測定によって、薄膜の結晶成長中のその場解析など、半導体工学、薄膜工学、光物性などの分野で、多くの有用な情報を得ることができる。
真空容器1は真空排気口40によって排気されており、検出器5で測定がなされた粒子を含め、照射によって余剰に生じた粒子、その他の真空劣化要因は排気される。本実施の形態における表面分析装置50では、原子ビームNを用いるため、絶縁体の試料でも帯電することがなく、正確な分析を行うことができる。イオンビームだけでなく他の原因で帯電した場合でも、電磁界の影響を受けることなく正確な分析ができる。とくに原子ビームの強度を常時モニタできるので、安定した高精度の原子ビームを用いることができるので、表面分析の精度の大きく向上することができる。
【実施例】
【0037】
図6は、実施の形態2における中性粒子ビーム形成装置3を用いて実測した、原子ビームの散乱強度と、交換イオン電流との関係を示す図である。イオン源および中性ガスには、アルゴン(Ar)を用いた。図6において、縦軸はマイクロチャンネルプレートを用いたパルスカウント数、すなわち散乱強度であり、図2に示す原子ビームNの強度に確実に比例する。すなわち非連続的な方法で測定した原子ビーム強度に比例する数値である。横軸の交換イオン電流は帯電粒子による電流値である。この縦軸の散乱強度と、交換イオン電流(帯電粒子による電流値)とが比例関係にあれば、原子ビームNの強度と、交換イオン電流とは比例関係にあり、較正係数を乗じることで、原子ビームNの強度を検知することになる。
実測の条件は、次のとおりである。
金属パイプ:長さ10cm、直径2cm
遮蔽板:20枚、間隔0.5cm
中性ガスのガス圧:1×10−3Pa〜1×10−1Pa
【0038】
図6によれば、交換イオン電流(帯電粒子の電流値)と、散乱強度とは比例関係にある。とくにガス圧があまり高くない範囲(イオン交換電流が小さい範囲)では、両者は極めて良い比例関係を示す。これより、イオン交換電流は、原子ビームNの強度の指標に用いることができることが立証された。
【0039】
上記において、本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態および実施例は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の中性粒子ビーム形成装置によれば、イオンビームを中性化して中性粒子ビームにした上で、ビームの進行を妨げることなく該中性粒子ビームの強度を測定することができる。このため、中性粒子ビームの強度を常時モニタできるので、表面分析装置等に用いることで、精度の高い表面分析を遂行することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 真空容器、2 イオン源、3 中性化室、4 分析室、5 検出器、11 入口コリメータホール、12 出口コリメータホール、15 遮蔽板、20 イオン源ガス導入口、21 イオン源排気口、22 パルス化電極、30 中性ガス導入口、31 差動排気口、32 イオン除去電極、33 中性化室本体部(金属パイプまたは円筒電極)、34,35 端部電極、36,37,38 絶縁体、40 真空排気口、41 試料(分析対象)、50 表面分析装置、A 中性ガス、I イオンビーム、N 中性粒子(原子)ビーム、P(A) 前方散乱する帯電粒子、P(A) ビームにほぼ直角に散乱する帯電粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射されるイオンビームを、中性ガスを導入して電荷交換反応させることで中性化して中性粒子ビームとして出射する中性化室と、
前記中性粒子ビームの強度をモニタする中性粒子ビーム強度モニタ機構とを備え、
前記中性粒子ビーム強度モニタ機構は、前記電荷交換反応によって前記中性ガスが帯電して変じた帯電粒子の電荷を計測することを特徴とする、中性粒子ビーム形成装置。
【請求項2】
前記中性粒子ビーム強度モニタ機構は、前記中性化室の少なくとも内壁を導電性材料で形成し、該導電性材料に流入する前記帯電粒子による電流を計測する機構であることを特徴とする、請求項1に記載の中性粒子ビーム形成装置。
【請求項3】
前記中性粒子ビーム強度モニタ機構が、前記中性化室において、前記中性粒子ビームが通る部分が開口し、該中性粒子ビームとその板面が直交するように配列され、前記導電性材料とは電気的に絶縁された複数の遮蔽板を備えることを特徴とする、請求項2に記載の中性粒子ビーム形成装置。
【請求項4】
前記中性化室の出射側コリメータホールの外側に、前記中性粒子ビーム中に混在するイオンを除くためのイオン除去手段を備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の中性粒子ビーム形成装置。
【請求項5】
前記中性粒子ビームの強度を調整するために用いることができる中性粒子ビーム強度調整部を備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の中性粒子ビーム形成装置。
【請求項6】
前記中性化室において、前記イオンビームが入射される入射側コリメータホール、および/または、前記中性粒子ビームが出射される出射側コリメータホール、の周囲に、前記イオンビームまたは中性粒子ビームのビームから逸脱した粒子を除去するための電極板が配置されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の中性粒子ビーム形成装置。
【請求項7】
前記中性粒子ビームがパルス化されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の中性粒子ビーム形成装置。
【請求項8】
前記イオンビームおよび前記中性化室に導入される中性ガスが、両方ともに希ガス元素からなることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の中性粒子ビーム形成装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の中性粒子ビーム形成装置を備え、該中性粒子ビーム形成装置で形成された中性粒子ビームを試料に照射することで試料表面の分析を行うことを特徴とする、表面分析装置。
【請求項10】
イオンを生成し、該イオンをイオンビームとして出射する過程と、
中性化室に中性ガスを導入しながら、前記イオンビームを該中性化室に通し、前記中性ガスと該イオンビームとに電荷交換反応を起こさせ、イオンビームを中性化して中性粒子ビームに変換して、出射する過程と、
前記中性ガスと該イオンビームとに電荷交換反応を起こさせる過程で前記中性ガスから生じる帯電粒子を、集電することで前記中性粒子ビームの強度を検知する過程とを備えることを特徴とする、中性粒子ビーム形成方法。
【請求項11】
前記中性粒子ビームの強度を検知しながら、(1)前記中性ガスの前記中性化室における圧力を調整して、または(2)前記イオンを生成するときのイオン励起用フィラメントに供給する電力を調整することで前記イオンの量を調整して、該中性粒子ビームの強度を調整することを特徴とする、請求項10に記載の中性粒子ビーム形成方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の中性粒子ビーム形成方法で形成された中性粒子ビームを、試料に照射することを特徴とする、表面分析方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−221746(P2012−221746A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86485(P2011−86485)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(301026664)株式会社 パスカル (2)
【Fターム(参考)】