説明

中枢神経系の変性障害の予防および/または治療方法

本発明は、5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはこれらの薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグ、またはこれらの2つ以上の任意の組み合わせを用いる、中枢神経系の変性障害の予防および/または治療方法を提供する。特に、本発明は、パーキンソン病の予防および/または治療方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはこれらの薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグ、またはこれらの2つ以上の任意の組み合わせを用いる、中枢神経系の変性障害の予防および/または治療方法を提供する。特に、本発明はパーキンソン病の予防および/または治療方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
多くの中枢神経系の変性障害はタンパク質または脂質の病的凝集に関連する。例えば、シヌクレイン病は、シヌクレインタンパク質の恒常性の破壊により生じる疾患群である。特に、αシヌクレインの凝集は、パーキンソン病、レビー小体型認知症、および多系統萎縮症などのレビー小体を特徴とする病的状態に関連する。同様に、αシヌクレイン断片の非Aβ成分は、アルツハイマー病のアミロイド斑において見出される。近年、脳内のグルコセレブロシダーゼ(βグルコシダーゼ、GCase)活性の増強は、脳内のシヌクレインの蓄積を防止することが示された(非特許文献1)。従って、GCase活性を増強する薬剤は、中枢神経系の変性障害を発症する危険性があるか、または中枢神経系の変性障害であると診断された患者に救済を提供することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】the Society for Neuroscience Annual Meeting,San Diego,CA,2007年において発表された、Sean Clark,Ying Sun,You−Hai Xu,Gregory Grabowski,およびBrandon Wustman,「A biochemical link between Gaucher and Parkinson’s disease and a potential new approach to treating synucleinopathies:a pharmacological chaperone for beta−glucocerebrosidase prevents accumulation of alpha−synuclein in a Parkinson’s mouse model」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より高い生活の質を患者に提供すると共により良い臨床結果を達成する、中枢神経系の変性障害の予防および/または治療方法が必要とされている。特に、より高い生活の質を患者に提供すると共により良い臨床結果を達成する、パーキンソン病およびアルツハイマー病などのシヌクレイン病の予防および/または治療方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、中枢神経系の変性障害を発症する危険性があるか、または中枢神経系の変性障害であると診断された患者においてそれを予防および/または治療するための方法を提供し、本方法は、それを必要としている患者に、5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはこれらの薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグ、またはこれらの2つ以上の任意の組み合わせである有効量の治療薬を投与することを含む。一実施形態では、本方法は、5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む。一実施形態では、本方法は、(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む。一実施形態では、本方法は、(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール塩酸塩を投与することを含む。一実施形態では、本方法は、5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む。一実施形態では、本方法は、(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む。一実施形態では、本方法は、(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールを投与することを含む。一実施形態では、変性障害はシヌクレイン病である。一実施形態では、変性障害はレビー小体を特徴とする。一実施形態では、変性障害は、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症またはアルツハイマー病である。一実施形態では、変性障害は少なくとも1つのタンパク質の凝集に関連する。一実施形態では、変性障害はαシヌクレインの凝集に関連する。一実施形態では、変性障害は非Aβ成分の凝集に関連する。一実施形態では、変性障害は少なくとも1つの糖脂質の蓄積に関連する。一実施形態では、変性障害は少なくとも1つのスフィンゴ糖脂質の蓄積に関連する。一実施形態では、変性障害はグルコセレブロシドの蓄積に関連する。一実施形態では、変性障害はグルコセレブロシダーゼの変異に関連する。一実施形態では、本方法は、さらに、有効量の少なくとも1つの他の治療薬を投与することを含む。一実施形態では、少なくとも1つの他の治療薬は、レボドパ、抗コリン薬、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害薬、ドーパミン受容体アゴニスト、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、末梢デカルボキシラーゼ阻害薬、または抗炎症薬である。
【0006】
また本発明は、パーキンソン病を発症する危険性があるか、またはパーキンソン病であると診断された患者においてそれを予防および/または治療するための方法も提供し、本方法は、それを必要としている患者に、有効量の(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはこれらの薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグ、またはこれらの2つ以上の任意の組み合わせを投与することを含む。
【0007】
一実施形態では、本方法は、(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む。一実施形態では、本方法は、(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール塩酸塩を投与することを含む。一実施形態では、本方法は、(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む。一実施形態では、本方法は、(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールを投与することを含む。一実施形態では、本方法は、有効量の少なくとも1つの他の治療薬を投与することを含む。一実施形態では、少なくとも1つの他の治療薬は、レボドパ、抗コリン薬、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害薬、ドーパミン受容体アゴニスト、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、末梢デカルボキシラーゼ阻害薬、または抗炎症薬である。
【0008】
また本発明は、
・ 有効量の5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはこれらの薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグ、またはこれらの2つ以上の任意の組み合わせを有する容器と、
・ この容器を用いて中枢神経系の変性障害を予防および/または治療するための使用説明書と
を含むキットも提供する。一実施形態では、中枢神経系の変性障害はパーキンソン病である。一実施形態では、中枢神経系の変性障害はアルツハイマー病である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】単回の30mg/kg(遊離塩基相当)の経口用量の酒石酸IFGまたは化合物Aの塩酸塩形態を投与したマウスにおける、参照化合物(IFG)および試験化合物の(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール(本明細書では、化合物Aと称する)の血漿中レベルを示す。
【図1B】単回の30mg/kg(遊離塩基相当)の経口用量の酒石酸IFGまたは化合物Aの塩酸塩形態を投与したマウスにおける、参照化合物(IFG)および試験化合物(化合物A)の脳内レベルを示す。
【図1C】単回の30mg/kg(遊離塩基相当)の経口用量の酒石酸IFGまたは化合物Aの塩酸塩形態を投与したマウスにおける、参照化合物(IFG)および試験化合物(化合物A)の脳内レベル対血漿中レベルの比率を示す。
【図2】単回の30mg/kg(遊離塩基相当)の経口用量の酒石酸IFGまたは化合物Bの遊離塩基を投与したマウスにおける、参照化合物(IFG)および試験化合物の(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオール(本明細書では、化合物Bと称する)の脳内レベルを示す。
【図3】A〜Dは、それぞれ、(i)対照媒体、(ii)100mg/kg(遊離塩基相当)の参照化合物(酒石酸IFG)、または(iii)10もしくは100mg/kg(遊離塩基相当)の試験化合物(化合物Aの塩酸塩形態)の9回の用量からなる2週間の投薬計画で投与したC57BL/6マウスの脳、脾臓、肝臓および肺内のGCaseのレベルを示す。これらの図中のバーの上に見られる値は、対照よりも何倍増大したかを表すことに留意する。同様に、これらの図中では、記号「*」は対照と比較したt検定でp<0.05を表し、記号「#」は、参照化合物(酒石酸IFG)で処置したマウスと比較したt検定でp<0.05を表す。
【図4】A〜Dは、それぞれ、(i)対照媒体、(ii)100mg/kg(遊離塩基相当)の参照化合物(酒石酸IFG)、または(ii)1、3、10、30もしくは100mg/kg(遊離塩基相当)の試験化合物(化合物Aの塩酸塩形態)の9回の用量からなる2週間の投薬計画で投与したC57BL/6マウスの脳、脾臓、肝臓および肺内のGCaseのレベルを示す。これらの図中のバーの上に見られる値は、対照よりも何倍増大したかを表すことに留意する。同様に、これらの図中では、記号「*」は対照と比較したt検定でp<0.05を表し、記号「#」は、参照化合物(酒石酸IFG)で処置したマウスと比較したt検定でp<0.05を表す。
【図5】A〜Dは、それぞれ、(i)対照媒体、(ii)10もしくは100mg/kg(遊離塩基相当)の参照化合物(酒石酸IFG)、または(iii)10もしくは100mg/kg(遊離塩基相当)の試験化合物(化合物B)の9回の用量からなる2週間の投薬計画で投与したC57BL/6マウスの脳、脾臓、肝臓および肺内のGCaseのレベルを示す。これらの図中のバーの上に見られる値は、対照よりも何倍増大したかを表すことに留意する。同様に、これらの図中では、記号「*」は対照と比較したt検定でp<0.05を表し、記号「#」は、参照化合物(酒石酸IFG)で処置したマウスと比較したt検定でp<0.05を表す。
【図6A】単回の静脈内用量の3mg/kg(遊離塩基相当)の化合物Aの塩酸塩形態を投与したラットにおける、試験化合物(化合物A)の血漿中レベルを示す。
【図6B】単回の経口用量の10、30、または300mg/kg(遊離塩基相当)の化合物Aの塩酸塩形態を投与したラットにおける、化合物Aの血漿中レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用される場合、次の用語は、以下で説明される定義を有するものとする。
【0011】
本明細書で使用される場合、「中枢神経系の変性障害」という語句は、ニューロン、髄鞘または軸索などの中枢神経系の成分の早期変性に関連するあらゆる障害を意味する。このような障害には、多発脳梗塞性認知症、ハンチントン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、クロイツフェルトヤコブ病、前頭葉変性症、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症またはアルツハイマー病が含まれるが、これらに限定されない。
【0012】
本明細書で使用される場合、「治療する」という用語は、言及された障害に関連する1つまたは複数の症状を寛解させることを意味する。
【0013】
本明細書で使用される場合、「予防する」という用語は、言及された障害の症状を軽減することを意味する。
【0014】
本明細書で使用される場合、「有効量」という語句は、言及された障害を発症する危険性があるか、または言及された障害であると診断された患者を予防および/または治療し、従って所望の治療効果をもたらすために有効な量を意味する。
【0015】
本明細書で使用される場合、「患者」という用語は哺乳類(例えば、ヒト)を意味する。
【0016】
パーキンソン病は、英国パーキンソン病協会(United Kingdom Parkinson’s Disease Society)の脳バンク臨床診断基準(Hughesら,Accuracy of clinical diagnosis of idiopathic Parkinson’s disease:a clinico− pathological study of 100 cases.J Neurol Neurosurg Psychiatry 1992年,55:181−184を参照)、および/またはGelbら,Diagnostic Criteria for Parkinson’s Disease.Arch Neurol.1999年,56(1):33−39によって記載される基準に従って患者に診断され得る。同様に、パーキンソン病の重症度は、パーキンソン病統一スケール(Unified Parkinson’s Disease Rating Scale)を用いて確認され得る。例えば、Fahnら,Recent developments in Parkinson’s disease.New York: Macmillan,1987年:153−163中の、FahnおよびElton,Members of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale Development Committee.Unified Parkinson’s Disease Rating Scale.を参照されたい。
【0017】
アルツハイマー病は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第4版:DSM−IV.Washington,D.C.:American Psychiatric Association、1994年のアルツハイマー型認知症の基準に従って患者に診断され得る。同様に、推定(probable)アルツハイマー病の基準は、National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke and the Alzheimer’s Disease and Related Disorders Associationの基準に基づいて確認され得る。McKhannら,Clinical diagnosis of Alzheimer’s disease:report of the NINCDS−ADRDA work group under the auspices of Department of Health and Human Services Task Force on Alzheimer’s Disease.Neurology 1984年,34:939−944も参照されたい。
【0018】
多系統萎縮症(MSA)は、脳の運動、平衡および自動調節中枢におけるグリア細胞質内封入体(Papp−Lantos体としても知られている)を特徴とする。MSAの最も一般的な最初の徴候は、最初の症状の62%において見られる「無動−硬直(akinetic−rigid)症候群」の出現(すなわち、パーキンソン病に類似した動作の開始の遅さ)である。発症時の他の一般的な徴候には、平衡に関する問題(22%において見られる)が含まれ、次に尿生殖器の問題(9%)が含まれる。男性では、最初の徴候は勃起不全(勃起を達成または維持することができない)であり得る。男性も女性も、多くの場合、切迫、頻度、排尿不全、または放尿(維持)不能を含む膀胱に関する問題を経験する。約5人に1人のMSA患者は、疾患の最初の年に転倒を経験するであろう。疾患が進行するにつれて、3つの症状群が優位を占める。これらは、(i)パーキンソニズム(遅くて硬直した動作、筆跡が小さく細長く(spidery)なる)、(ii)小脳機能不全(運動および平衡の調和の困難)、ならびに(iii)体位性または起立性低血圧(立っているときに眩暈または失神を引き起こす)、尿失禁、インポテンス、便秘、口渇、乾燥肌、異常発汗による体温調節の困難、睡眠中の異常呼吸を含む自律神経機能不全(自動的な体の機能の障害)である。特に、これらの症状の全てが全ての患者によって経験されるわけではない。
【0019】
レビー小体型認知症(DLB)は、進行性認知症の最も一般的なタイプの1つである。DLBの中心的な特徴は、3つの付加的な決定的特徴:(1)頻繁な眠気、嗜眠、宙を見つめて長期間過ごす、または発話の混乱などの警戒および注意の顕著な「変動」、(2)反復性の幻視、ならびに(3)硬直および自発運動の減少などのパーキンソン病様運動症状と組み合わされた進行性の認知低下である。また人々はうつ病を患っていることもある。DLBの症状は、記憶および運動制御の特定の態様を制御する脳の領域におけるニューロンの核内部のレビー小体(蓄積されたαシヌクレインタンパク質の小片)の発達によって引き起こされる。研究者らは、αシヌクレインが何故レビー小体内に蓄積するのか、あるいはレビー小体がどのようにしてDLBの症状を引き起こすのかを正確には知らないが、αシヌクレインの蓄積がパーキンソン病、多系統萎縮症、およびいくつかの他の障害(「シヌクレイン病」とも呼ばれる)にも関係していることは知っている。DLBおよびパーキンソン病間、ならびにDLBおよびアルツハイマー病間の症状の類似性は、多くの場合、医師が確定診断を行うことを困難にし得る。さらに、レビー小体は、パーキンソン病およびアルツハイマー病の人々の脳においても見出されることが多い。これらの知見は、DLBが認知症のこれらの他の原因と関係しているか、あるいは個人が両方の疾患を同時に有し得ることを示唆する。DLBは、通常、疾患の家族歴が不明の人々において孤発的に生じる。しかしながら、時折、珍しい家族性の症例が報告されている。
【0020】
化学合成
a.イソファゴミン(isofagomine)(IFG、(3R,4R,5R)−5−(ヒドロキシメチル)−3,4−ピペリジンジオール))
イソファゴミン(IFG、(3R,4R,5R)−5−(ヒドロキシメチル)−3,4−ピペリジンジオール))は、以下の構造:
【化1】

を有する化合物を指す。イソファゴミンの合成は、参照によって本明細書中に援用される米国特許第5,844,102号明細書(Sierksら)の17欄53行目〜20欄6行目、および参照によって本明細書中に援用される米国特許第5,863,903号明細書(Lundgrenら)の実施例1、5欄20行目〜7欄33行目に記載されている。IFGおよびPliceraTMとしても知られている酒石酸イソファゴミンにはCAS番号919364−56−0が割り当てられている。酒石酸イソファゴミンの調製は、米国特許出願公開第2007/0281975Iの段落[0046]〜[0050]に記載されており、酒石酸イソファゴミンの精製は、段落[0051]〜[0053]に記載されており、これらはいずれも特に参照によって本明細書中に援用される。
【0021】
b.(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール塩酸塩の合成
【化2】

【0022】
(4aR,8R,8aR)−6−ベンジル−2,2−ジメチルヘキサヒドロ−4H−[1,3]ジオキシノ[5,4,c]ピリジン−8−オール(2)。
乾燥DMF(75mL)中の(3R,4R,5R−5−(ヒドロキシメチル)ピペルジン−3,4−ジオール(1)(5.9g、40.0mmol)の溶液に、KCO(6.4g、46.0mmol)を添加した後、塩化ベンジル(4.8mL、42.0mmol)を添加し、得られた混合物を70℃に14時間加熱し、その時点で、tlcにより出発材料を検出できなかった。溶媒を真空中で蒸発させ、残渣を最小量の水中に再び溶解させた。溶液をEtOAcで10〜12回抽出し、合わせた抽出物をNaSO上で乾燥させ、ろ過した。ろ液を真空中で蒸発させて、さらに精製することなく使用することができる黄褐色の固体として表題化合物(7.5g、79%)を得た。黄褐色の固体をDMF(75mL)中に溶解させ、トルエンスルホン酸(6.7g、35.0mmol)を添加した後、2−メトキシプロペン(7.2mL、75.0mmol)を添加し、混合物を室温で一晩攪拌した。一晩攪拌した後、さらに7.2mLの2−メトキシプロペンを添加し、混合物を再び室温で一晩攪拌した。この時点で、tlcにより出発材料を検出できなかった。反応混合物に水酸化ナトリウム(50%水溶液、5mL)を添加し、溶媒を真空中で蒸発させた。残渣をEtOAc中に溶解させ、水で洗浄した。洗浄水を合わせ、EtOAcで1回洗浄した。これを最初の抽出物と合わせ、塩水で洗浄し、MgSO上で乾燥させた。溶液をろ過し、溶媒を蒸発させて、ろう様の固体を得た。この固体は、直接次の工程で使用することができる。クロマトグラフィ(CHCl中0〜5%(9/1 MeOH/NHOH))から分析サンプルを得ることができ、表題化合物が得られた。HNMR(CDCl)1.35(s,3H)、1.39(s,3H)、1.66(t,1H)、1.83(m,1H)、1.95(t,1H)、2.56(ddd,1H)、3.03(ddd,1H)、3.30(t,1H)、3.6−3.8(m,5H)、7.27(m,5H)。
【0023】
(3R,4R,5R)−1−ベンジル−3−(ベンジルオキシ)−5−(ヒドロキシメチル)ピペルジン−4−オール(3)。
DMF(50mL)中の2(4.4g、15.9mmol)の溶液に95%のNaH(0.43g、17.9mmol)を添加し、得られた混合物をN下で1時間攪拌した。次に、塩化ベンジル(1.9mL、16.3mmol)を添加し、混合物を室温で一晩攪拌した。約14時間後に、DMFを真空中で蒸発させた。残渣をEtOAc中に溶解させ、水で洗浄してから塩水で洗浄し、次にMgSO上で乾燥させた。溶液をろ過し、ろ液を真空中で蒸発させて、粗生成物を得た。0〜25%のEtOAc/ヘキサンで溶出するシリカゲルにおけるクロマトグラフィにより、2.1gの白色発泡体が得られた。HNMR(CDCl)1.15(m,1H)、1.19(s,3H)、1.39(s,3H)、1.9−2.05(m,4H)、2.53(ddd,1H)、3.04(ddd,1H)、3.3(s,1H)、3.45−3.8(m,4H)、7.2(m,10H)。これをMeOH(100mL)中に溶解させ、2−PrOH中6NのHClを1.5mL添加し、混合物を室温で攪拌した。1時間後、tlcにより判断すると、出発材料はなくなった。溶媒を蒸発させ、残渣を10%のNaCO中に溶解させ、EtOAc(2×)で抽出した。合わせた抽出物を水のごく一部で洗浄してから、塩水で洗浄し、MgSO上で乾燥させた。溶液をろ過し、ろ液を蒸発させて、表題化合物(1.7g、33%)を得た。HNMR(CDCl)1.6−1.95(m,3H)、2.63(ddd,1H)、3.00(ddd,1H)、3.25−3.65(m,5H)、4.35(d,1H)、4.5(d,1H)、7.2(m,10H)。
【0024】
((3R,4R,5R)−1−ベンジル−4,5−ビス(ベンジルオキシ)−ピペルジン−3−イル)メタノール(4b)。
DMF(10mL)中の3(1.1g、3.36mmol)の溶液にNaH(0.10g、4.0mmol)を添加し、反応を室温で30分間攪拌し、この時点で塩化ベンジル(0.38mL、3.3mmol)を添加し、反応を室温で一晩攪拌した。溶媒を真空中で蒸発させ、残渣をEtOAc中に溶解させ、水で洗浄してから、塩水で洗浄し、NaSO上で乾燥させた。溶液をろ過し、ろ液を蒸発させて、4aおよび4bの混合物(およそ2/1の混合物)を得た。混合物を0〜50%のEtOAc/ヘキサンで溶出するシリカゲルにおいてクロマトグラフ分析した。主要な位置異性体に相当する画分を合わせて、4a(0.49g、35%)を無色の油として得た。HNMR(CDCl)1.81(t,2H)、1.96(m,1H)、2.80(m,1H)、3.05(ddd,1H)、3.3−3.6(m,6H)、4.41(s,2H)、4.55(q,2H)、7.2(m,15H)。マイナーな位置異性体に相当する画分を合わせて、4b(0.23g、16%)を無色の油として得た。HNMR(CDCl)1.8−2.0(m,3H)、2.72(dd,1H)、3.05(ddd,1H)、3.27(t,1H)、3.4−3.6(m,4H)、3.65(m,1H)、4.56(s,2H)、4.60(d,1H)、4.90(d,1H)、7.2(m,15H)。
【0025】
(3R,4R,5R)−1−ベンジル−3,4−ビス(ベンジルオキシ)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−4−オール(5)。
CHCl(40mL)中の4b(0.32g、0.77mmol)の溶液を氷/塩水浴中で−15〜−20℃に冷却した。これに三フッ化(ジエチルアミノ)硫黄(0.15mL、1.15mmol)を添加し、反応を約20分間攪拌させ、この時点で、tlcにより判断すると、出発材料は消費されていた。NaHCOの添加により反応を失活させ、混合物をEtOAc(2×)で抽出した。合わせた抽出物を塩水で洗浄してから、NaSO上で乾燥させた。溶液をろ過し、ろ液を蒸発させて粗生成物を得た。シリカゲルクロマトグラフィ(0〜25%のEtOAc/ヘキサン)により、所望の生成物(0.2g、63%)が無色の油として得られた。HNMR(CDCl)1.9−2.15(m,3H)、2.88(dd,1H)、3.12(ddd,1H)、3.36(t,1H)、3.55(d,1H)、3.65(m,1H)、4.3−4.6(m,3H)、4.63−4.65(m,3H)、4.95(d,1H)、7.2(m,15H)。
【0026】
(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール塩酸塩(6)。
EtOH(40mL)中の5(0.24g、0.57mmol)の溶液に、2−PrOH中6NのHClを0.5mL添加した。溶媒を真空中で蒸発させ、次にEtOHにより2回以上共蒸発させた。残渣をEtOH中に溶解させ、触媒としてPd(OH)を用いて55psiで水素化した。14時間後に、出発材料はもはや検出できなかった。溶液をろ過し、ろ液を真空中で蒸発させた。残渣をアセトンで粉状にしてからろ過し、表題化合物としてオフホワイトの固体(0.09g、85%)を得た。HNMR(DMSO−d)1.95−2.05(m,1H)、2.65(t,1H)、2.85(t,1H)3.15−3.4(m,3H)、3.55(m,1H)、4.55(m,1H)、4.65(m,1H)、5.45−5.6(dd,2H)、9.05(brs,2H)。
【化3】

【0027】
(3R,4R,5R)−1−ベンジル−3−(ベンジルオキシ)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−4−オール(7)。
ピリジン(300mL)中に溶解して氷浴中で冷却した3(26.0g、79.5mmol)の溶液に、TsCl(16.6g、87.5mmol)を数回に分けて添加した。添加が完了したら、反応混合物を室温まで温め、一晩攪拌した。溶媒を真空中で蒸発させ、残渣をEtOAc中に溶解させた。溶液を水(2×)で洗浄してから、塩水で洗浄し、次にMgSO上で乾燥させた。溶液をろ過し、ろ液を真空中で蒸発させて粗生成物が得られ、これを高真空下で乾燥させた。残渣をTHF(400mL)中に溶解させ、1.0MのBuNF(100mmol、100mL)を添加し、混合物を加熱還流させた。2時間後に、出発材料は残っていなかった。反応混合物をEtOAcで希釈し、水(2×)で洗浄してから、塩水で洗浄し、MgSO上で乾燥させた。溶液をろ過し、ろ液を真空中で蒸発させた。シリカゲルクロマトグラフィ(25%のEtOAc/ヘキサン)により粗生成物を精製して、表題化合物(7.5g、2工程で29%)を得た。
【0028】
(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール塩酸塩(6)。
EtOH(150mL)中の7(7.5g、22.8mmol)の溶液に、2−PrOH中5NのHCl(7mL)を添加した。溶液を真空中で蒸発させ、次にEtOHにより2回以上共蒸発させた。得られた材料をEtOH(100mL)中に溶解させ、得られた溶液をPd(OH)により50psiで一晩水素化した。ろ過により触媒を除去し、ろ液を真空中で蒸発させた。残渣をアセトンで粉状にし、淡黄色の固体を捕集した。得られた固体をEtOHから再結晶して、表題化合物をオフホワイトの固体(mp 200〜202℃)として得た。HNMR DMSO dは前のスペクトルと一致した。
【0029】
c.(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールの合成
(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールの遊離塩基を得るための1つのアプローチは、上記のセクション「b」で記載されるように(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール塩酸塩を合成した後、CHCl中5〜15%のMeOH/NHOH(9:1)を用いる(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール塩酸塩のクロマトグラフィを行い、(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールのHCl塩形態をその遊離塩基に転化することである。
【0030】
d.(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオールの合成
【化4】

【0031】
(2S,3S,4aR,8S,8aR)−6−ベンジル−8−(クロロメチル)−2,3−ジメトキシ−2,3−ジメチルオクタヒドロ−[1,4]ジオキシノ[2,3−c]ピリジン(2)。
クロロホルム(35mL)中の((2S,3S,4aR,8R,8aR)−6−ベンジル−2,3−ジメトキシ−2,3−ジメチルオクタヒドロ−[1,4]ジオキシノ[2,3−c]ピリジン−8−イル)メタノール(1)(2.5g、7.1mmol)の溶液に、塩化チオニル(1.3mL、18mmol)を添加した。得られた混合物を、TLC(98:2 CHCl/2−PrOH)により反応が完了したと判断されるまで、4〜8時間加熱還流させた。溶媒および過剰の試薬を真空中で蒸発させ、残渣をクロマトグラフ(98:2 CHCl/2−PrOH)で分析して、表題化合物(2.2g、85%)を得た。生成物をHPLC/MSによって特徴付けた(MH=369)。純度は95%よりも高いと判断された。
【0032】
(3R,4R,5S)−1−ベンジル−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオール(3)。
ジクロロメタン(15mL)中の(2S,3S,4aR,8S,8aR)−6−ベンジル−8−(クロロメチル)−2,3−ジメトキシ−2,3−ジメチルオクタヒドロ−[1,4]ジオキシノ[2,3−c]ピリジン(2)(2.2g、5.9mmol)の溶液に、トリフルオロ酢酸(0.35mol、26mL)を添加した。反応混合物を約1時間加熱還流させ、この時点で、TLCにより反応は完了したと判断された。過剰の溶媒およびTFAを真空中で蒸発させ、シリカゲル(CHCl中2〜8%のMeOH)を用いて残渣をクロマトグラフ分析した。画分を合わせ、蒸発させて、(1.3g、87%)を表題化合物として得た。生成物をHPLC/MSにより特徴付けし(MH=255)、95%よりも高い純度であると判断された。
【0033】
(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオール(4)。
EtOH中に溶解した(3R,4R,5S)−1−ベンジル−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオール(3)(5.1mmol、1.3g)に、5NのHCl(4.7mmol、0.94mL)を添加した。溶液を真空中で蒸発させ、次にEtOHにより2〜3回共蒸発させた。残渣をEtOH中に再び溶解させ、Pd(OH)(0.27g)と混ぜ合わせ、55psiで12時間水素化した。続いて、ダイカライト(dicalite)により触媒をろ過し、ろ液を蒸発させて、粗生成物(4)をHCl塩として得た。次にこれをクロマトグラフ(CHCl中5〜15%のMeOH/NHOH(9:1))で分析して、0.4gの(4)を165のMHを有する白色固体として得た。HNMR(DMSO−d)1.6(m,1H)、2.2(m,3H)、2.9(m,3H)、3.15(m,1H)、3.6(m,1H)、3.8(dd,1H)、4.68(d,1H)、4.88(d,1H)。
【0034】
e.(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオール塩酸塩の合成
(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオールの塩酸塩を得るための1つのアプローチは、上記のセクション「d」で記載されるように(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオールを合成した後、HCl(水溶液または2−PrOH溶液(多くの場合販売されているように)のいずれか)により再び酸性化し、それにより、遊離塩基を(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオールのHCl塩形態に転化し、続いて、(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオール塩酸塩を単離することである。
【0035】
あるいは、(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオールの合成は、CHCl中5〜15%のMeOH/NHOH(9:1)を用いてHCl塩がクロマトグラフ分析される最後のクロマトグラフ工程がこの工程で(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオールの粗HCl塩形態の遊離塩基への転化をもたらすことを除いて、上記のセクション「d」に記載されるように追随され得る。むしろ、(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオールの粗HCl塩形態は、結晶化によって精製され得る。
【0036】
塩、溶媒和物およびプロドラッグ
本発明の化合物は(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール(本明細書では化合物Aとも称される)および(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペリジン−3,4−ジオール(本明細書では化合物Bとも称される)の薬学的に許容可能な塩、溶媒和物およびプロドラッグを含む。薬学的に許容可能な塩には、Li、Na、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Zn、Mnなどの無機塩基から誘導される塩、N,N’−ジアセチルエチレンジアミン、グルカミン、トリエチルアミン、コリン、水酸化物、ジシクロヘキシルアミン、メトホルミン、ベンジルアミン、トリアルキルアミン、チアミンなどの有機塩基、アルキルフェニルアミン、グリシノール、フェニルグリシノールのようなキラル塩基の塩、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、チロシン、シスチン、システイン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、ヒスチジン、オルニチン(omithine)、リジン、アルギニン、セリンなどの天然アミノ酸、D−異性体または置換アミノ酸などの非天然アミノ酸、グアニジン、置換グアニジン(ここで、置換基はニトロ、アミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、アンモニウムから選択される)の塩、または置換アンモニウム塩およびアルミニウム塩が含まれる。塩は、適切な場合には、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、ホウ酸塩、ハロゲン化水素酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、パルモアート(palmoate)、メタンスルホン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、アスコルビン酸塩、グリセロリン酸塩、ケトグルタル酸塩である酸付加塩を含むことができる。一実施形態では、(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールの薬学的に許容可能な塩は塩酸塩である(本明細書では、化合物A−HClとも称される)。
【0037】
「溶媒和物」は、化合物と、1つまたは複数の溶媒分子との物理的結合を示す。この物理的結合は、様々な度合のイオン結合および共有結合(水素結合を含む)を伴う。特定の場合、例えば1つまたは複数の溶媒分子が結晶性固体の結晶格子内に取り込まれる場合には、溶媒和物は単離することができるであろう。「溶媒和物」は、溶液相および単離可能な溶媒和物の両方を包含する。「水和物」は、溶媒分子がHOである溶媒和物である。適切な溶媒和物の他の非限定的な例には、アルコール(例えば、エタノラート、メタノラートなど)が含まれる。
【0038】
プロドラッグは、生体内で活性型に転化される化合物である(例えば、参照によって本明細書中に援用されるR.B.Silverman,1992年,「The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Action」,Academic Press,第8章を参照)。さらに、プロドラッグについての議論は、T.HiguchiおよびV.Stella,Pro−drugs as Novel Delivery Systems,A.C.S.Symposium Seriesの第14巻、ならびにBioreversible Carriers in Drug Design,Edward B.Roche編,American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987年(いずれも参照によって本明細書中に援用される)において提供される。プロドラッグは、特定の化合物の体内分布(例えば、プロテアーゼの反応部位に通常は入らない化合物を可能にするため)または薬物動態を変更するために使用することができる。例えば、カルボン酸基は、例えばメチル基またはエチル基によりエステル化されて、エステルを生じることができる。エステルが被験者に投与されると、エステルは酵素的もしくは非酵素的に、還元的に、酸化的に、または加水分解的に切断されて、アニオン基を現す。アニオン基は、切断されて中間体化合物を表す部分(例えば、アシルオキシメチルエステル)によりエステル化することができ、これは次に分解して活性化合物を生じる。
【0039】
プロドラッグの例およびその使用は当該技術分野においてよく知られている(例えば、Bergeら (1977年)「Pharmaceutical Salts」,J.Pharm.Sci.66:1−19を参照)。プロドラッグは化合物の最終的な単離および精製の間にその場で調製することもできるし、あるいは、精製した化合物を適切な誘導体化剤と別個に反応させることによって調製することもできる。例えば、ヒドロキシ基は、触媒の存在下でのカルボキシル酸による処理によってエステルに転化させることができる。切断可能なアルコールプロドラッグ部分の例には、置換および非置換の分枝状または非分枝状の低級アルキルエステル部分(例えば、エチルエステル)、低級アルケニルエステル、ジ−低級アルキル−アミノ低級アルキルエステル(例えば、ジメチルアミノエチルエステル)、アシルアミノ低級アルキルエステル、アシルオキシ低級アルキルエステル(例えば、ピバロイルオキシメチルエステル)、アリールエステル(フェニルエステル)、アリール−低級アルキルエステル(例えば、ベンジルエステル)、置換(例えば、メチル、ハロ、またはメトキシ置換基による)アリールおよびアリール−低級アルキルエステル、アミド、低級アルキルアミド、ジ−低級アルキルアミド、ならびにヒドロキシアミドが含まれる。
【0040】
5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールおよび5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール(これらの化合物の塩、溶媒和物およびプロドラッグ、ならびにプロドラッグの塩および溶媒和物を含む)の全ての立体異性体(例えば、幾何異性体、光学異性体など)、例えばエナンチオマー型(不斉炭素が存在しなくても存在し得る)、回転異性体型、アトロプ異性体、およびジアステレオマー型を含む、種々の置換基上の不斉炭素のために存在し得るものなどは、本発明の範囲内であることが企図される。これらの化合物の個々の立体異性体は、例えば、他の異性体を実質的に含まないものであってもよいし、あるいは、例えばラセミ体として、または他の全てもしくは他の選択された立体異性体と混合されていてもよい。上記の化合物のキラル中心は、IUPAC 1974勧告により定義されるように、S配置またはR配置を有することができる。「塩」、「溶媒和物」、「プロドラッグ」などの用語の使用は、5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールおよび5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールのエナンチオマー、立体異性体、回転異性体、互変異性体、ラセミ体またはプロドラッグの塩、溶媒和物およびプロドラッグに等しく適用されることが意図される。
【0041】
製剤
治療薬は、例えば、経口的に錠剤またはカプセルまたは液体の形態、あるいは注射用の無菌水溶液などにおいて、任意の投与経路に適するように処方することができる。治療薬が経口投与のために処方される場合、錠剤またはカプセルは、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロースまたはリン酸水素カルシウム)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはグリコール酸ナトリウムデンプン)、または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容可能な賦形剤と共に、従来の手段によって調製され得る。錠剤は、当該技術分野においてよく知られている方法によってコーティングされてもよい。経口投与のための液体調製物は、例えば、溶液、シロップまたは懸濁液の形態をとってもよいし、あるいは使用前に水または別の適切な媒体を用いて構成するための乾燥製品として提供されてもよい。このような液体調製物は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化食用脂)、乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア)、非水性媒体(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコールまたは分画された植物油)、または防腐剤(例えば、−p−ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピル、またはソルビン酸)などの薬学的に許容可能な添加剤と共に、従来の手段によって調製され得る。液体調製物は、緩衝塩、風味料、着色剤または甘味剤を適切に含有していてもよい。経口投与のための調製物は、治療薬の制御または持続放出を与えるように適切に処方されてもよい。
【0042】
本発明の特定の実施形態では、治療薬は、治療薬が血液脳関門を越えて神経細胞に効果を及ぼすことができるように全身的な摂取を可能にする剤形で投与される。例えば、非経口/注射可能な使用に適した治療薬の医薬製剤は、通常、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および注射可能な無菌溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末を含む。全ての場合に、剤形は無菌でなければならず、そして容易に注射できる程度まで流動性でなければならない。剤形は、製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、そして細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、または植物油を含有する溶媒または分散媒体であり得る。例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によって、そして界面活性剤の使用によって、適切な流動性を保持することができる。微生物の作用の予防は、種々の抗菌薬および抗真菌薬、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ベンジルアルコール、ソルビン酸などによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含むことは合理的であろう。注射可能な組成物の長期にわたるる吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム(aluminum monosterate)またはゼラチンを組成物中に使用することによってもたらすことができる。
【0043】
注射可能な無菌溶液は、必要とされる量の治療薬を、必要に応じて上記で列挙した様々な他の成分と共に適切な溶媒中に取り込んだ後、ろ過または最終滅菌を行うことによって調製される。一般に、分散液は、基本的な分散媒体および上記で列挙したものからの必要とされる他の成分を含有する無菌媒体中に、滅菌された種々の活性成分を取り込むことによって調製される。注射可能な無菌溶液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥技術であり、予め無菌ろ過されたその溶液から、活性成分および任意の付加的な所望の成分の粉末が得られる。
【0044】
製剤は、賦形剤を含有することができる。製剤中に含まれ得る薬学的に許容可能な賦形剤は、緩衝液(クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、および重炭酸緩衝液など)、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、タンパク質(血清アルブミン、コラーゲン、およびゼラチンなど)、塩(EDTAまたはEGTA、および塩化ナトリウムなど)、リポソーム、ポリビニルピロリドン、糖(デキストラン、マンニトール、ソルビトール、およびグリセロールなど)、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール(例えば、PEG−4000、PEG−6000)、グリセロール、グリシンまたは他のアミノ酸、ならびに脂質である。製剤と共に使用するための緩衝系には、クエン酸、酢酸、重炭酸、およびリン酸緩衝液が含まれる。リン酸緩衝液は好ましい実施形態である。
【0045】
また製剤は、非イオン性洗剤を含有することもできる。好ましい非イオン性洗剤には、ポリソルベート20、ポリソルベート80、Triton X−100、Triton X−114、Nonidet P−40、オクチルα−グルコシド、オクチルβ−グルコシド、Brij 35、Pluronic、およびTween 20が含まれる。
【0046】
投与経路
治療薬は、経口または非経口(静脈内、皮下、動脈内、腹腔内、点眼、筋肉内、経頬、経直腸、経膣、眼窩内、脳内、皮内、頭蓋内、脊髄内、脳室内、くも膜下腔内、大槽内、関節内、肺内、鼻腔内、経粘膜、経皮、または吸入を含む)で投与することができる。1つの好ましい実施形態では、治療薬は経口投与される。
【0047】
治療薬の投与は定期的な製剤のボーラス注射によるものでもよいし、あるいは外部(例えば、点滴バッグ)または内部(例えば、生体侵食性(bioerodable)埋没物)のリザーバーから静脈内または腹腔内投与によって投与されてもよい。例えば、米国特許第4,407,957号明細書および米国特許第5,798,113号明細書(それぞれ参照によって本明細書中に援用される)を参照されたい。肺内送達方法および装置は、例えば、米国特許第5,654,007号明細書、米国特許第5,780,014号明細書、および米国特許第5,814,607号明細書(それぞれ参照によって本明細書中に援用される)に記載されている。その他の有用な非経口送達システムには、エチレン−酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋め込み型点滴システム、ポンプ送達、カプセル化細胞送達、リポソーム送達、ニードル送達注射、ニードルレス注射、噴霧器、エアロゾル化装置(aerosolizer)、エレクトロポレーション、および経皮パッチが含まれる。ニードルレス注射デバイスは、米国特許第5,879,327号明細書、米国特許第5,520,639号明細書、米国特許第5,846,233号明細書および米国特許第5,704,911号明細書(その明細書は参照によって本明細書中に援用される)に記載されている。上記の製剤はいずれもこれらの方法を用いて投与することができる。
【0048】
皮下注射は自己投与を可能にする利点を有し、静脈内投与と比べて長期の血漿中半減期ももたらす。さらに、患者の利便性のために設計された詰め替え可能な注射ペンおよびニードルレス注射デバイスなどの様々なデバイスを、本明細書において議論されるような本発明の製剤と共に使用することができる。
【0049】
投薬量
適切な薬剤調製物は単位剤形である。このような剤形では、調製物は、適切な量、例えば所望の目的を達成するために有効な量の活性成分を含有する適切なサイズの単位用量に細分される。特定の実施形態では、治療薬は、1日に1回または複数回の用量(例えば、1日1回、1日2回、1日3回)が投与される。特定の実施形態では、治療薬は間欠的に投与される。
【0050】
例示的な投薬計画は、2008年6月11日に国際公開第2008/134628号パンフレットとして公開された国際特許出願第PCT/US08/61764号明細書、および2009年10月23日に出願された米国特許出願第12/604,855号明細書(これらはいずれも参照によってその全体が本明細書中に援用される)に記載されている。一実施形態では、治療薬は、間欠的な投薬計画(最初は「負荷用量」が毎日与えられ、その後毎日でない間隔の投与が行われることを含む)において投与される。
【0051】
言及された障害を予防または治療するために有効な治療薬の量は、当業者によってケースバイケースで決定することができる。治療薬の投与の量および頻度は、患者の年齢、状態および体格、ならびに障害を発症する危険度、または治療中の言及された障害の症状の重症度などの因子を考慮して、担当臨床医(医師)の判断に従って調節されるであろう。
【0052】
併用薬物療法
本発明の治療薬は、少なくとも1つの他の治療薬と併用して投与することもできる。少なくとも1つの他の治療薬を伴った本発明の治療薬の投与は、連続的な投与または同時の投与を包含すると理解される。一実施形態では、治療薬は、別個の剤形において投与される。別の実施形態では、2つ以上の治療薬が同一の剤形において同時に投与される。
【0053】
特定の実施形態では、本発明の治療薬は、抗ジスキネジア薬(例えば、カルビドパ、レボドパ)、抗感染症薬(例えば、ミグルスタット)、抗悪性腫瘍薬(例えば、ブスルファン、シクロホスファミド)、胃腸薬(例えば、メチルプレドニゾロン)、微量栄養素(例えば、カルシトリオール、コレカルシフェロール、エルゴカルシフェロール、ビタミンD)、血管収縮薬(例えば、カルシトリオール)である少なくとも1つの他の治療薬と併用して投与される。
【0054】
特定の実施形態では、本発明の治療薬は、アロプレグナノロン、低コレステロール食、またはスタチン(例えば、Lipitor(登録商標))などのコレステロール低下薬、フェノフィブラート(Lipidil(登録商標))などのフィブラート、ナイアシン、および/またはコレスチラミン(Questran(登録商標))などの結合樹脂と併用して投与される。
【0055】
一実施形態では、本発明の治療薬は、遺伝子治療と併用して投与される。遺伝子治療は、グルコセレブロシダーゼなどの置換遺伝子、またはSNCA遺伝子の抑制RNA(siRNA)の両方によるものが企図される。遺伝子治療は、2004年2月17日に出願された米国特許第7,446,098号明細書にさらに詳細に記載されている。
【0056】
一実施形態では、本発明の治療薬は、抗炎症薬(例えば、イブプロフェンまたは他のNSAID)である少なくとも1つの他の治療薬と併用して投与される。
【0057】
一実施形態では、本発明の治療薬は、N−ブチル−デオキシノジリマイシン(Zavesca(登録商標)、Actelion Pharmaceuticals,US,Inc.,(South San Francisco,CA,US)から入手可能なミグルスタット)などのグルコセレブロシダーゼの基質阻害薬と併用して投与される。
【0058】
本発明の治療薬と、1つまたは複数の他のリソソーム酵素の治療薬である少なくとも1つの他の治療薬との併用も企図される。以下は、リソソーム酵素の治療薬の非限定的な一覧である。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
特定の実施形態では、本発明の治療薬は、抗ジスキネジア薬(例えば、カルビドパ、レボドパ)、抗感染症薬(例えば、シクロスポリン、ミグルスタット、ピリメタミン)、抗悪性腫瘍薬(例えば、アレムツズマブ、アザチオプリン、ブスルファン、クロファラビン、シクロホスファミド、メルファラン、メトトレキセート、リツキシマブ)、抗リウマチ剤(例えば、リツキシマブ)、胃腸薬(例えば、メチルプレドニゾロン)、微量栄養素(例えば、カルシトリオール、コレカルシフェロール、エルゴカルシフェロール、葉酸、ビタミンD)、妊娠調節薬(例えば、メトトレキセート)、呼吸器系作用薬(例えば、テトラヒドロゾリン)、血管収縮薬(例えば、カルシトリオール、テトラヒドロゾリン)である少なくとも1つの治療薬と併用して投与される。
【0063】
特定の実施形態では、本発明の治療薬は、β−ヘキソサミニダーゼAの治療薬および/または酸β−ガラクトシダーゼの治療薬である少なくとも1つの治療薬と併用して投与される。特定の実施形態では、本発明の治療薬は、抗感染症薬(例えば、ミグルスタット)、抗悪性腫瘍薬(例えば、アレムツズマブ、ブスルファン、シクロホスファミド)、胃腸薬(例えば、メチルプレドニゾロン)である少なくとも1つの治療薬と併用して投与される。
【0064】
本発明の治療薬は、RNAi、ドーパミン置換薬(例えば、レボドパ(levadopa)(L−DOPA))、ドーパミン置換安定剤(例えば、カルビドパ、およびエンタカポン)、抗コリン薬(例えば、トリヘキシフェニジル、ベンゾトロピンメシラート(Cogentin(登録商標))、トリヘキシフェニジルHCL(Artane(登録商標))、およびプロシクリジン)、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬(例えば、エンタカポン(Comtan(登録商標))およびトルカポン(Tasmar(登録商標)))、ドーパミン受容体アゴニスト(例えば、ブロモクリプチン(Parlodel(登録商標))、プラミペキソール(Mirapex(登録商標))、ロピニロール(Requip(登録商標)))、ペルゴリド(Permax)、およびAPOKYNTM注射薬(アポモルフィン塩酸塩)、モノアミンオキシダーゼ(MAO)阻害薬(すなわち、MAO−Aおよび/またはMAO−B阻害薬、例えば、セレギリン(Deprenyl、Eldepryl(登録商標)、Carbex(登録商標))、セレギリンHCl口腔内崩壊錠(Zelapar(登録商標))、およびラサギリン(Azilect(登録商標)))、末梢デカルボキシラーゼ阻害薬、アマンタジン(Symmetrel(登録商標))、および酒石酸リバスチグミン(Exelon(登録商標))を含むが、これらに限定されない少なくとも1つの他の治療薬と併用して投与することができる。
【0065】
また、本発明の治療薬と、2つ以上の他の治療薬との併用も企図される。他の治療薬の例示的な組み合わせには、カルビドパ/レボドパ(Sinemet(登録商標)またはParcopa(登録商標))、カルビドパ、レボドパおよびエンタカポン(Stalevo(登録商標))、レボドパと、ドーパミン受容体アゴニスト(ブロモクリプチン(Parlodel(登録商標))、プラミペキソール(Mirapex(登録商標))、ロピニロール(Requip(登録商標)))、ペルゴリド(Permax)、またはAPOKYNTM注射薬(アポモルフィン塩酸塩)など)との組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
一実施形態では、本発明の治療薬は、αシヌクレインおよびアジュバントを含むワクチンなどのワクチン治療と併用して投与される(Pilcherら,Lancet Neurol.2005年,4(8):458−9)。
【0067】
一実施形態では、本発明の治療薬は、デキストロメトルファン(Liら,FASEB J.2005年4月,19(6):489−96)、ゲニステイン(Wangら,Neuroreport.2005年2月28日,16(3):267−70)、またはミノサイクリン(minoclycline)(Blumら,Neurobiol Dis.2004年,12月,17(3):359−66)などの保護的であり得る少なくとも1つの他の治療薬と併用して投与される。
【0068】
一実施形態では、本発明の治療薬は、αシヌクレインの治療薬(例えば、Hsp70)である少なくとも1つの他の治療薬と併用して投与される。
【0069】
パーキンソン病を有する患者は、振戦、硬直、運動緩徐、および姿勢のアンバランスを経験する。レビー小体認知症を有する患者は、記憶喪失、および単純作業の実行ができないことなどの知的低下に加えて、強い精神病の症状(幻視)を経験する。注目すべき症状の改善、または障害を発症する危険性のある患者の特定の症状の発症の遅延、または障害の進行の遅延は、本明細書で提供される治療に対する良好な反応の証拠になるであろう。
【0070】
さらに、測定可能な代用マーカーも、治療への反応を評価するために有用であり得る。例えば、ある研究者らは、より高いレベルのαシヌクレインまたはαシヌクレインのオリゴマー形態がパーキンソン病の患者の血漿中で検出されたと報告している(Leeら,J Neural Transm.2006年,113(10):1435−9、El−Agnafら,FASEB J.2006年,20(3):419−25)が、ある研究者らは、正常対照と比較してパーキンソン病患者の血漿中のαシヌクレインの低下を報告している(Liら,Exp Neurol.2007年,204(2):583−8)。
【0071】
特定の実施形態では、本発明の治療薬は、嫌酒薬(例えば、アカンプロセート)、麻薬性鎮痛薬(例えば、レミフェンタニル)、抗ジスキネジア薬(例えば、アマンタジン、アポモルフィン、ベンセラジド、ブロモクリプチン、カベルゴリン、カルビドパ、デキセチミド、ドロキシドパ、エンタカポン、レボドパ、リスリド、メマンチン、ピリベジル、プラミペキソール、ロピニロール、セレギリン、シネメット)、抗感染症薬(例えば、アマンタジン、アモキシシリン、クラリスロマイシン、エタノール、インターフェロン、ミノサイクリン、PS−K)、抗肥満薬(例えば、フェニルプロパノールアミン、トピラマート)、鎮痙薬(例えば、エチラセタム、トピラマート)、制吐剤(例えば、トリメトベンズアミド)、降圧薬(例えば、トランドラプリル)、抗悪性腫瘍薬(例えば、カベルゴリン、PS−K)、中枢神経系抑制薬(例えば、アリピプラゾール、ベンゾカイン、クロザピン、コカイン、デクスメデトミジン、ジフェンヒドラミン、イソフルラン、リチウム、炭酸リチウム、メチルペロン(Metylperon)、モルヒネ、プロポフォール、クエチアピン、ラクロプリド、レミフェンタニル、ナトリウムオキシベート)、中枢神経系刺激薬(例えば、クエン酸カフェイン、モダフィニル、ニコチンポラクリレックス)、凝固剤(例えば、アルギニンバソプレシン、デアミノアルギニンバソプレシン、バソプレシン)、皮膚科用薬物(例えば、ロラタジン、プロメタジン)、胃腸薬(例えば、ジフェンヒドラミン、ドンペリドン、オメプラゾール、トリメトベンズアミド)、睡眠薬および/または鎮静薬(例えば、レミフェンタニル)、微量栄養素(例えば、α−トコフェロール、補酵素Q10、エルゴカルシフェロール、ヒドロキソコバラミン、鉄、酢酸トコフェロール、トコフェロール、ビタミンB12、ビタミンD、ビタミンE)、神経保護薬(例えば、エリプロディル、モダフィニル、ラサギリン、リバスチグミン、トピラマート)、向知性薬(例えば、ドネペジル、エチラセタム)、向精神薬(例えば、アリピプラゾール、シタロプラム、クロザピン、デュロキセチン、リチウム、炭酸リチウム、メチルペロン、ノルトリプチリン、パロキセチン、クエチアピン、ラクロプリド、ベンラファキシン)、呼吸器系作用薬(例えば、デキストロメトルファン、グアイフェネシン、イプラトロピウム、ナファゾリン、オキシメタゾリン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン)、血管収縮薬(例えば、ナファゾリン、オキシメタゾリン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン)である少なくとも1つの他の治療薬と併用して投与される。
【0072】
1つの好ましい実施形態では、上記の他の治療薬は、障害がパーキンソン病である場合に投与される。
【0073】
特定の実施形態では、本発明の治療薬は、ニコチン性α7アゴニスト(例えば、MEM3454またはMEM63908、これらはいずれもMemory Pharmaceuticalsから入手可能である)である少なくとも1つの他の治療薬と併用して投与される。特定の実施形態では、本発明の治療薬は、R3487および/またはR4996(これらはいずれもRocheから入手可能)である少なくとも1つの他の治療薬と併用して投与される。また、本発明の治療薬と、2つ以上の他の治療薬との併用も企図される。他の治療薬の例示的な組み合わせには、R3487/MEM3454およびR4996/MEM63908が含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
特定の実施形態では、本発明の治療薬は、少なくとも1つのコリンエステラーゼ阻害薬(例えば、ドネペジル(商標名Aricept)、ガランタミン(商標名Razadyne)、およびリバスチグミン(ExelonおよびExelon Patchのような商標)と併用して投与される。
【0075】
特定の実施形態では、本発明の治療薬は、少なくとも1つの非競合的なNMDA受容体アンタゴニスト(例えば、メマンチン(商標名Akatinol、Axura、Ebixa/Abixa、MemoxおよびNamenda))と併用して投与される。
【0076】
特定の実施形態では、本発明の治療薬は、非麻薬性鎮痛薬(例えば、セレコキシブ、リスベラトロール、ロフェコキシブ、TNFR−Fc融合タンパク質)、抗ジスキネジア薬(例えば、デキセチミド、ガバペンチン、レボドパ、メマンチン)、抗感染症薬(例えば、アセチルシステイン、アシクロビル、ベンゾアート、デオキシグルコース、ドキシサイクリン、インターフェロンα−2a、インターフェロン−α、インターフェロン、モキシフロキサシン、PS−K、キナクリン、リファンピン、サリチル酸、バラシクロビル)、抗炎症薬(例えば、アスピリン、セレコキシブ、クルクミン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、リスベラトロール、ロフェコキシブ、TNFR−Fc融合タンパク質)、抗肥満薬(例えば、フェニルプロパノールアミン)、鎮痙薬(例えば、ガバペンチン、ホモタウリン、ラモトリギン)、制吐剤(例えば、オランザピン)、降圧薬(例えば、トランドラプリル)、抗高脂血症薬(例えば、アトルバスタチン、コリン、クロフィブリン酸、プラバスタチン、シンバスタチン)、抗悪性腫瘍薬(例えば、ブリオスタチン1、カルムスチン、シクロホスファミド、インターフェロンα−2a、ロイプロリド、メドロキシプロゲステロン17−アセタート、メチルテストステロン、PK11195、プレドニゾン、PS−K、リスベラトロール、2,3−ジヒドロ−1H−イミダゾ(1,2−b)ピラゾール)、抗リウマチ剤(例えば、アスピリン、セレコキシブ、クルクミン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、リスベラトロール、ロフェコキシブ、TNFR−Fc融合タンパク質)、中枢神経系抑制薬(例えば、アリピプラゾール、ベンゾカイン、コカイン、ガバペンチン、ハロペリドール、デカン酸ハロペリドール、リチウム、炭酸リチウム、ロラゼパム、ミダゾラム、オランザピン、ペルフェナジン、プロポフォール、クエチアピン、リスペリドン、ナトリウムオキシベート、トラゾドン、バルプロ酸、ゾルピデム)、中枢神経系刺激薬(例えば、クエン酸カフェイン、モダフィニル、ニコチンポラクリレックス)、チャネル遮断薬(例えば、ガバペンチン、ラモトリギン)、凝固剤(例えば、アンチプラスミン、ビタミンK)、皮膚科用薬物(例えば、鉱油、サリチル酸)、胃腸薬(例えば、コリン、ハロペリドール、ロラゼパム、オランザピン、オメプラゾール、TNFR−Fc融合タンパク質)、睡眠薬および/または鎮静薬(例えば、ゾルピデム)、血糖降下剤(例えば、インスリン、Asp(B28)−、ロシグリタゾン)、微量栄養素(例えば、α−トコフェロール、アスコルビン酸、補酵素Q10、銅、葉酸、ヒドロキソコバラミン、イノシトール、鉄、ナイアシン、ナイアシンアミド、ニコチン酸、ピリドキシン、セレン、チオクト酸、酢酸トコフェロール、トコフェロール、ビタミンB12、ビタミンB6、ビタミンE、ビタミンK)、神経保護薬(例えば、フペルジンA、モダフィニル、ネフィラセタム、ラサギリン、リバスチグミン、(3−アミノプロピル)(n−ブチル)ホスフィン酸)、向知性薬(例えば、ドネペジル、ネフィラセタム)、血小板凝集阻害薬(例えば、リスベラトロール)、向精神薬(例えば、アリピプラゾール、ブプロピオン、シタロプラム、デュロキセチン、ガバペンチン、ハロペリドール、デカン酸ハロペリドール、リチウム、炭酸リチウム、ロラゼパム、ミダゾラム、ネフィラセタム、オランザピン、パロキセチン、ペルフェナジン、クエチアピン、リスペリドン、セルトラリン、トラゾドン、トリプトファン、バルプロ酸、ベンラファキシン)、妊娠調節薬(例えば、シピオン酸エストラジオール17β、3−安息香酸エストラジオール、吉草酸エストラジオール、インドメタシン、ロイプロリド、メドロキシプロゲステロン、17−酢酸メドロキシプロゲステロン、ミフェプリストン)、呼吸器系作用薬(例えば、アセチルシステイン、デキストロメトルファン、グアイフェネシン、ナファゾリン、オキシメタゾリン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン)、または血管収縮薬(例えば、ナファゾリン、オキシメタゾリン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン)である少なくとも1つの他の治療薬と併用して投与される。
【0077】
1つの好ましい実施形態では、上記の他の治療薬は、障害がアルツハイマー病である場合に投与される。
【実施例】
【0078】
本発明はさらに以下に提示される実施例によって説明される。このような実施例の使用は説明のためだけのものであって、本発明または例示された任意の用語の範囲および意味を決して限定しない。同様に、本発明は、本明細書に記載される特定の好ましい実施形態のどれにも限定されない。実際、本明細書を読めば、本発明の多くの修正および変更は当業者には明らかになるであろう。従って、本発明は、特許請求の範囲が権利を与えられる均等物の全範囲と共に、特許請求の範囲の用語によってのみ限定されるべきである。
【0079】
実施例1 阻害定数の決定
酵素阻害アッセイを用いて、本明細書において記載される小分子の薬理学的シャペロンに対するGCaseの結合親和性(本明細書では、K結合定数により定義される)を実験的に決定した。簡単に言うと、使用した酵素阻害アッセイは、試験化合物が結合して、蛍光発生基質の加水分解を防止する能力を濃度依存的な形でモニターした。特に、様々な量の各試験化合物の存在または不在下で4−メチルウンベリフェリル―β―D−グルコピラノシド(4−MU−β−D−Glc)蛍光発生基質を用いて、組換えヒトGCase(rhGCase、Cerezyme(登録商標)、Genzyme Corp.)の酵素活性を測定した。得られたデータは、全ての試験サンプルを非阻害対照サンプル(化合物なし、100%の酵素活性に相当する)と比較することによって分析し、試験化合物の存在下での残留酵素活性を決定した。続いて、規格化した残留活性データ(y軸)を試験化合物の濃度(x軸)に対してグラフに描き、酵素活性の50%阻害(IC50と定義)に至る試験化合物濃度を外挿した。次に、各試験化合物のIC50値をCheng−Prusoff式(以下に詳述される)に挿入して、試験化合物に対するGCaseの結合親和性を正確に反映する絶対阻害定数Kを得た。pH7.0(小胞体のpH)およびpH5.2(リソソームのpH)の両方で酵素阻害アッセイを実施して、小胞体およびリソソームにおけるGCaseに対する化合物の結合親和性(すなわち、効力)を洞察した。
【0080】
In vitro(生体外)アッセイ
pH7.0およびpH5.2において、0.25%のタウロコール酸ナトリウムを含む50mMのリン酸ナトリウム緩衝液からなる緩衝液「M」中、種々の濃度の試験化合物を調製した。同じ緩衝液「M」中に、pH7.0およびpH5.2において、酵素(Cerezyme(登録商標)、ヒト酵素β−グルコセレブロシダーゼの組換え型)も希釈した。基質溶液は、両方のpHにおいて、0.15%のTriton X−100を含む緩衝液「M」中、3mMの4−メチルウンベリフェロンβ−D−グルコピラノシドで構成した。15μlの種々の濃度の阻害薬または緩衝液「M」のみに、5μlの希釈酵素を添加し、50μlの基質調製物と共に37℃で1時間インキュベートして、pH7.0およびpH5.2におけるβ−グルコシダーゼ活性を査定した。同量の0.4Mのグリシン(pH10.6)の添加により反応を停止させた。355nmの励起および460nmの発光を用いて、プレートリーダーにおいて1秒/ウェルで蛍光を測定した。酵素を添加しない、または阻害剤を添加しないインキュベーションを用いて、それぞれ、酵素のない場合の活性および最大活性を定義し、所与のアッセイの阻害%を規格化した。参照化合物(酒石酸IFG)および試験化合物(化合物Aおよび化合物Bの塩酸塩形態)についてのこの阻害アッセイの結果は、以下の表2Aに要約される。
【0081】
【表4】

【0082】
In situ(その場)アッセイ
正常な被験者から樹立した線維芽細胞を用いて、リソソームGCase活性に対するIFGおよびその誘導体の効果をその場でアッセイした。48ウェルプレートに播種した細胞を、指示される濃度の化合物と共に16〜24時間インキュベートした。用量−反応アッセイのために、細胞をin situ基質5−(ペンタフルオロベンゾイルアミノ)フルオレセインジ−β−D−グルコピラノシド(PFBFDβGlu)と共に1時間インキュベートし、続いて溶解させて、化合物の存在下での基質の加水分解の程度を決定した。このアッセイでは、IC50を中心に5桁を包含する様々な12の濃度を使用した。特に、以下の濃度範囲を使用した:化合物A:1×10−5〜3.33×10−11、IFG:3.33×10−5〜1×10−10、化合物B:3×10−5〜9×10−11。ここで、化合物は、指定される範囲内で、最高濃度から1:3で連続的に希釈した。化合物が存在しない場合の活性に対する化合物の存在下の活性の比率として阻害を決定した。ウォッシュアウトアッセイのために、IC90に等しい濃度の化合物により細胞を16〜24時間処理した。細胞を徹底的に洗浄し、薬物を含まない培地中でインキュベートして、細胞からの正味の化合物流出を可能にした。次に、化合物を除去した後2時間の間隔で、全部で8時間にわたってリソソームGCase活性について細胞を試験した。経時的な活性の増大を単一指数関数に当てはめて、化合物のウォッシュアウト時間を決定した。これらの阻害アッセイの結果は、以下の表2Bに要約される。
【0083】
【表5】

【0084】
特に、試験化合物(化合物Aおよび化合物Bの塩酸塩形態)は、GCase活性の濃度依存性の増大を引き起こすことが分かった。さらに、酒石酸IFG(試験化合物)と比較すると、化合物Aおよび化合物Bの塩酸塩形態は、はるかに低い濃度で酵素活性を同じ最大レベルに高めた。
【0085】
実施例2:血液脳関門の透過
マウスへの経口投与後に、参照化合物(酒石酸IFG)および試験化合物(IFG−誘導体、化合物Aおよび化合物Bの塩酸塩形態)の血液脳関門(BBB)の透過をアッセイした。このために、8週齢の野生型雄マウス(C57BL/6)に単回の30mg/kg(遊離塩基相当)の経口用量の参照化合物または試験化合物を経管栄養によって投与した(n=3マウス/時点)。投薬溶液を水中で調製した。投薬後、次の時点:投薬後0、0.5、1、および4時間において、マウスをCOで安楽死させた。安楽死の後、全血を下大静脈からリチウムヘパリン管内に採取した。同様に、各マウスから脳を採取した。全血を2700g、4℃で10分間回転させることによって血漿が得られ、その後これをドライアイス上に保存した。全脳を冷PBS中で洗浄して、汚染血液を除去し、ブロット乾燥し、ドライアイス上で瞬時に凍結させ、最後に分析まで−80℃で保存した。分析のための脳サンプルを調製するために、組織1mgあたり400μlの水中で、50〜100mgの組織をホモジナイズした。次に、サンプルを遠心分離により浄化した。次に、25μlの脳ホモジネートの上澄みまたは25μlの血漿を25μlのアセトニトリル:水(95/5)と混ぜ合わせた。これに、25μlのアセトニトリルおよび50μlの内部標準((70:30)アセトニトリル:メタノール中0.5%のギ酸中、100ng/mLのIFG13C2−15N)を追加した。サンプルを再び遠心分離により浄化し、75μlの上澄みを75μlのアセトニトリルと混ぜ合わせた。次に、PPD Inc.(3230 Deming Way,Middleton,WI53562)においてLC−MS/MSによりサンプルを化合物レベルについて分析した。簡単に言うと、5mMのギ酸アンモニウムおよび(A)95:5のアセトニトリル:水、または(B)70:20:10のメタノール:水:アセトニトリル中0.05%のギ酸からなる移動相の混合物で平衡化された、Thermo Betasil,Silica−100、50×3mm、5μカラムを用いた。20μl〜30μlの間のサンプルを分析のために注入した。特に、IFG、化合物Aおよび化合物Bの保持時間はそれぞれ4.91分、4.33分、および4.32分である。MS/MSについては、以下のイオン質量(Q1/Q3、amu):IFG13C2−15N、同位体で標識された内部標準(151.1/115.1)、IFG(148.1/112.1)、化合物A(150.1/103.1)、化合物B(166.2/130.1)を有する分析物をMRMにより監視した。化合物Bを分析する際、内部標準として化合物Aを使用した(150.1/130.1)。薬物濃度を計算するために、それぞれの化合物の分子量を用い、そして1gの組織が1mLの体積に相当すると仮定して、血漿(ng/mL)および脳(ng/g)の生データをnMに変換した。時間の関数としての濃度をGraphPad Prismバージョン4.02でプロットした。
【0086】
単回の30mg/kg(遊離塩基相当)の経口用量の酒石酸IFGまたは化合物Aの塩酸塩形態を投与したマウスにおいて検出された参照化合物(IFG)および試験化合物(化合物A)の血漿中レベルおよび脳内レベルは、それぞれ、図1Aおよび1Bに示される。同様に、これらのマウスにおいて検出された化合物AおよびIFGの血漿中レベルに対する脳内レベルの比率は、図1Cに示される。驚くことに、これらの結果は、化合物AがIFGと比較して血液脳関門をより容易に通過することを反映する。
【0087】
単回の30mg/kg(遊離塩基相当)の経口用量の酒石酸IFGまたは化合物Bの遊離塩基形態を投与したマウスにおいて検出された参照化合物(IFG)および試験化合物(化合物B)の脳内レベルは図2に示される。特に、化合物Aの塩酸塩形態の投与後に観察されたレベルよりもさらに高いレベルの化合物Bが脳内で検出された。
【0088】
実施例3:GCaseの増強
経口投与された試験化合物(化合物Aおよび化合物Bの塩酸塩形態)が参照化合物(酒石酸IFG)と比較してGCaseレベルを高める能力をマウスにおいて査定した。このために、8週齢の野生型雄マウス(C57/BL6)に、単回の経口(経管栄養)用量(図3A〜D、4A〜D、および5A〜Dに詳述される)の対照の参照化合物(酒石酸IFG)または試験化合物(化合物Aまたは化合物Bの塩酸塩形態)を投与した。投薬毎に7匹の動物を使用した。投薬溶液を水中で調製した。化合物は以下のように2週間にわたって投与した:1週目の月曜日〜金曜日(オン)、土曜日〜日曜日(オフ)、2週目の月曜日〜木曜日(オン)、金曜日に剖検。従って、全部で9回の用量(投薬溶液は毎日新たに調製した)を各マウスに与え、最後の投薬と剖検の間に24時間のウォッシュアウトを置いた。
【0089】
投薬が完了したら、マウスをCOで安楽死させ、全血を下大静脈からリチウムヘパリン管内に吸い込んだ。血液を2700g、4℃で10分間回転させることによって、血漿を採取した。肝臓、脾臓、肺、および脳の組織を取り出し、冷PBS中で洗浄し、ブロット乾燥し、ドライアイス上で瞬時に凍結させ、分析まで−80℃で保存した。マイクロホモジナイザを用いて氷上で約50mgの組織をpH5.2の500μLのMcIlvane(MI)緩衝液(100mMのクエン酸ナトリウム、200mMの二塩基性リン酸ナトリウム、0.25%のタウロコール酸ナトリウム、および0.1%のTriton X−100、pH5.2)中に3〜5秒間ホモジナイズすることにより、GCaseレベルを測定した。次に、2.5mMのコンズリトール−B−エポキシド(CBE)と共に、そしてCBEを加えずに、ホモジネートを室温で30分間インキュベートした。最後に、3.7mMの4−メチルウンベリフェリル−β−グルコシド(4−MUG)基質を添加し、37℃で60分間インキュベートした。0.4Mのグリシン(pH10.6)の添加により反応を停止させた。355nmの励起および460nmの発光を用いて、プレートリーダーにおいて1秒/ウェルで蛍光を測定した。製造業者の使用説明書に従ってMicroBCAキットを用いて、ライセート中の全タンパク質を決定した。生の蛍光データを絶対GCase活性(CBEの存在および不在下)に変換するために1.0nM〜50μMの範囲の4−メチルウンベリフェロン(4−MU)標準曲線を平衡に描き、1時間にタンパク質1ミリグラム当たりの放出される4−MUのナノモル(nmol/mgタンパク質/時)として表した。Microsoft Excel(Redmond,WA)およびGraphPad Prismバージョン4.02を用いてGCaseレベルおよびタンパク質レベルを計算した。
【0090】
図3A〜Dはそれぞれ、(i)対照媒体;(ii)100mg/kg(遊離塩基相当)の参照化合物(酒石酸IFG)、または(iii)10もしくは100mg/kg(遊離塩基相当)の試験化合物(化合物Aの塩酸塩形態)の9回の用量からなる2週間の投薬計画で投与したC57BL/6マウスの脳、脾臓、肝臓および肺内のGCaseのレベルを示す。さらに、表3A〜Cはそれぞれ、上記のように処置したマウスの脳、脾臓、および血漿中のGCaseの増強のレベルを詳述する。
【0091】
【表6】

【0092】
【表7】

【0093】
【表8】

【0094】
同様に、図4A〜Dはそれぞれ、(i)対照媒体、(ii)100mg/kg(遊離塩基相当)の参照化合物(酒石酸IFG)、または(ii)1、3、10、30もしくは100mg/kg(遊離塩基相当)の試験化合物(化合物Aの塩酸塩形態)の9回の用量からなる2週間の投薬計画で投与したC57BL/6マウスの脳、脾臓、肝臓および肺内のGCaseレベルを示す。
【0095】
図3A〜Dおよび4A〜Dならびに表3A〜3Cに反映されるように、化合物Aの塩酸塩形態を投与したマウスは、対照または酒石酸IFGを投与したマウスと比較して、脳、脾臓、肝臓および肺内における著しく大きいGCaseの増強を統計的に実証した。さらに、酒石酸IFGよりもはるかに少ない用量の化合物Aの塩酸塩形態が投与された場合でも、化合物Aの塩酸塩形態を投与したマウスにおけるGCaseの増強は酒石酸IFGで観察されるよりも予想外に大きかった。
【0096】
同様に、図5A〜Dはそれぞれ、上記のように化合物Bおよび酒石酸IFGで処置したマウスの脳、脾臓、肝臓、肺内で検出されたGCaseレベルを示す。さらに、表4A〜4Cはそれぞれ、上記のように処置したマウスの脳、脾臓、および血漿中のGCaseの増強のレベルを詳述する。
【0097】
【表9】

【0098】
【表10】

【0099】
【表11】

【0100】
図5A〜Dおよび表4A〜4Cに反映されるように、化合物Bを投与したマウスは、対照または酒石酸IFGを投与したマウスと比較して、脳、脾臓、肝臓および肺内における著しく大きいGCaseの増強を統計的に実証した。さらに、酒石酸IFGIFGよりもはるかに少ない用量の化合物Bが投与された場合でも、化合物Bを投与したマウスにおけるGCaseの増強は酒石酸IFGで観察されるよりも予想外に大きかった。
【0101】
実施例4:ラットの薬物動態
試験化合物のバイオアベイラビリティを査定するためにラットにおいて薬物動態学的(PK)データを得た。特に、以下のPKパラメータを計算した:濃度/時間曲線下面積(AUC)により測定されるバイオアベイラビリティ、利用可能な用量の画分(fraction of dose available)(%F、以下でさらに定義される)、クリアランス(CL)、分布容積(Vd)、および半減期(t1/2)。このために、8週齢のSprague−Dawley雄ラットに、3mg/kgの遊離塩基に相当する単回の静脈内(IV)用量、または10、30、および100mg/kgの遊離塩基に相当する単回の漸増経口(経管栄養)用量の試験化合物を与えた。投薬群当たり3匹のラットを使用した。24時間にわたって血液を採取した。静脈内投与後の血液採取の時点は、0、2.5、5、10、15、30、45分、1、2、4、8、12、および24時間であり、経口投与後の血液採取の時点は、0、5、15、30、45分、1、2、3、4、8、12、および24時間であった。PPDにおけるLC−MS/MSによって血漿サンプルを化合物レベルについて分析した。Win−nonLinにおける非コンパートメント分析により生データを分析し、Vd、%F、CL、およびt1/2を計算した。
【0102】
単回の3mg/kg(遊離塩基相当)の静脈内用量の化合物Aの塩酸塩形態を受けたラットの血漿中レベルは図6Aに示される。同様に、10、30、および300mg/kg(遊離塩基相当)の単回経口用量の化合物Aの塩酸塩形態が投与されたラットの血漿中レベルは図6Bに示される。上記の研究に基づいた化合物Aの種々の薬物動態パラメータは以下の表5に詳述される。
【0103】
【表12】

【0104】
図6Aおよび6Bならびに表5に反映されるように、化合物Aの塩酸塩形態は、薬理学的シャペロンとしての薬物の開発のために好ましい薬物動態プロファイルを有する。特に、化合物Aの塩酸塩形態は良好な経口バイオアベイラビリティ(約50%)および用量比例性、1.0〜2.5時間の半減期、ならびに分布容積を示し、末梢組織内への適切な透過が示唆される。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経系の変性障害を発症する危険性があるか、または中枢神経系の変性障害であると診断された患者においてそれを予防および/または治療するための方法であって、それを必要としている患者に、5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはこれらの薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグ、またはこれらの2つ以上の任意の組み合わせである有効量の治療薬を投与することを含む方法。
【請求項2】
5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール塩酸塩を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールまたはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールを投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記変性障害がシヌクレイン病である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記変性障害がレビー小体を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記変性障害が、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症またはアルツハイマー病である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(原文に記載なし)
【請求項12】
前記変性障害が少なくとも1つのタンパク質の凝集に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記変性障害がαシヌクレインの凝集に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記変性障害が非Aβ成分の凝集に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記変性障害が少なくとも1つの糖脂質の蓄積に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記変性障害が少なくとも1つのスフィンゴ糖脂質の蓄積に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記変性障害がグルコセレブロシドの蓄積に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記変性障害がグルコセレブロシダーゼの変異に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
さらに、有効量の少なくとも1つの他の治療薬を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの他の治療薬が、レボドパ、抗コリン薬、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害薬、ドーパミン受容体アゴニスト、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、末梢デカルボキシラーゼ阻害薬、または抗炎症薬である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
パーキンソン病を発症する危険性があるか、またはパーキンソン病であると診断された患者においてそれを予防および/または治療するための方法であって、それを必要としている患者に、有効量の(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはこれらの薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグ、またはこれらの2つ以上の任意の組み合わせを投与することを含む方法。
【請求項22】
(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
(3R,4R,5R)−5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール塩酸塩を投与することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを投与することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
(3R,4R,5S)−5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオールを投与することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
さらに、有効量の少なくとも1つの他の治療薬を投与することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも1つの他の治療薬が、レボドパ、抗コリン薬、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害薬、ドーパミン受容体アゴニスト、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、末梢デカルボキシラーゼ阻害薬、または抗炎症薬である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
・ 有効量の5−(フルオロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、5−(クロロメチル)ピペルジン−3,4−ジオール、またはこれらの薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくはプロドラッグ、またはこれらの2つ以上の任意の組み合わせを有する容器と、
・ 前記容器を用いて中枢神経系の変性障害を予防および/または治療するための使用説明書と
を含むキット。
【請求項29】
前記中枢神経系の変性障害がパーキンソン病である、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
前記中枢神経系の変性障害がアルツハイマー病である、請求項28に記載のキット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−523430(P2012−523430A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504880(P2012−504880)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/030470
【国際公開番号】WO2010/118282
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(507170099)アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】