説明

中毒性ショック症候群及び敗血症性ショック症状を緩和するペプチド及び模倣体

本発明は、毒素産生性細菌に関連する中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒及び自己免疫疾患を予防する、又は重篤度を緩和するための組成物及び方法に関する。本発明はまた、中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒及び自己免疫疾患、並びにその他の関連疾患、病態及び症候群の予防及び治療用のペプチド、誘導体、模倣薬及び抗体の使用方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒素産生性細菌に関連する中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒及び自己免疫疾患を予防する、又は重篤度を緩和するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ショックは、疾病、負傷、出血及び脱水を含む種々の病態に対する、死に至る可能性がある生理的反応であり、通常、血圧の顕著な低下、血液循環の減少及び組織への血流の不足によって特徴づけられる。中毒性ショック症候群(TSS)及び敗血症性ショック(SS)は依然として、ヒトに害を及ぼす、最も生命を脅かす症候群のうちの2つである。中毒性ショック症候群(TSS)は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のような細菌から毒素が放出されることにより引き起こされる、突発的かつ死に至る可能性がある血液感染性の病態である。この疾患が進行すると、血圧が低下し腎不全を招く。TSSは米国では年間約2万例発生し、それに伴う死亡率は10%である(Weiss, K. A. and M. Laverdiere, Can. J. Surg. 40:18-25, 1997)。現在の治療法はまず、輸液、抗生物質、昇圧剤及び時としてステロイドを投与して症状の治療を目指す(Howe, L.M., Vet. Clin. North Am. Small Anim. Pract. 28:249-267, 1998)。SSに対してワクチンの開発が多数試みられてきたが、どれも今日まで成功に至っていない(L.M.Howe. Vet. Clin. North Am. Small Anim. Pract. 28:249-267, 1998; Weiss, K.A., and M. Laverdiere. Can. J. Surg., 40:158-161, 1988)。
【0003】
以前は、「中毒性ショック様症候群」なる用語は、黄色ブドウ球菌由来の中毒性ショック症候群毒素(TSST−1)以外の、ブドウ球菌性(Staphylococcal)及び連鎖球菌性(Streptococcal)の発熱細菌性外毒素によって惹起される症候群を表すのに用いられた。現在では、「中毒性ショック症候群」なる用語が、TSST−1及びその他の細菌毒素、特に発熱外毒素により引き起こされる症候群を表すのに用いられる。
【0004】
敗血症性ショックは別の疾患であり、血液中に放出された細菌外毒素により惹起されるショック状態である。本明細書では、敗血症性ショックなる用語は、細菌感染症に伴う低血圧及び臓器不全を表す。米国では、毎年約50万例が報告されており、そのうち20万例がショックに至り、死亡率は40%である(Schoenberg et al., Langenbecks Arch. Surg. 383:44-48, 1998)。
【0005】
グラム陰性敗血症性ショックのいくつかの臨床的特徴は、リポ多糖(LPS)の投与により、動物で再現できる場合がある。動物にLPSを投与すると、激しい代謝性及び生理的変化を誘発し、それが致死的な場合がある。LPSの注射に伴い、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)が多量に産生される。マウスにヒトTNF組換え体を注射すると、立毛(毛の乱れ)及び下痢症を呈し、元気がなく外見が汚らしくなり、十分な量を投与した場合には死に至る。ラットにTNFを投与すると、低血圧、多呼吸になり、突然の呼吸停止により死に至る(Tracey et al., Science 234, 470-474, 1986)。また、重い酸性血症、顕著な血液濃縮及び血糖濃度の二相性変化も認められた。
【0006】
胃腸の疾患もまた細菌毒素、特にブドウ球菌性腸毒素(staphylococcal enterotoxins)により引き起こされる場合がある(Spero and Metzger J., J. Immunol. 120:86-89, 1978)。わずか数μgの毒素を摂取しただけで、2〜4時間後に嘔吐及び下痢症状を呈し、臨床的効果が明らかになる。これらの症状は、肥満細胞から放出されるロイコトリエン及びヒスタミンによって引き起こされている可能性がある。さらに、ブドウ球菌性及び連鎖球菌性のどちらの腸毒素も、グラム陽性ショックに関与している。スーパー抗原が関与する敗血症性ショックは、主にTNF−α及びIL−12が触媒するとみられるが、その他のサイトカインも無視できない(Chapes et al., J. Leukoc. Biol. 55:523-529, 1994; Hackett and Stevens, D.L., J. Infect. Dis. 168:232-235, 1993; Imanishi et al., Int. Arch. Allergy. Immunol. 106:163-165, 1995)。
【0007】
過度の又は無秩序なTNFの産生は、数多くの疾患を触媒する又は増悪に関与するとみられている。それらの疾患には、多発性硬化症、自己免疫性糖尿病及び全身性紅斑性狼瘡のような、数多くの自己免疫疾患に加え、慢性関節リウマチ、リウマチ性脊椎炎、骨関節炎、痛風性関節炎及びその他の関節炎性病態、敗血症、敗血症性ショック、外毒素性ショック、グラム陰性菌敗血症、中毒性ショック症候群、成人呼吸促迫症候群、脳性マラリア、慢性炎症性肺疾患、珪肺症、肺類肉腫症、骨吸収疾患、再灌流損傷、グラフト対宿主反応、同種移植片拒絶反応、インフルエンザのような感染症による発熱及び筋肉痛、感染症又は悪性腫瘍による悪液質、後天性免疫不全症候群(AIDS)、ARC(AIDS関連症候群)による悪液質、ケロイド形成、瘢痕組織形成、クローン病、潰瘍性大腸炎及び不全マヒが挙げられる。
【0008】
TSS、SS及びその他の関連する疾患を誘発する毒素は、内毒素又は外毒素に分類される。内毒素は、主にグラム陰性菌の細胞壁に見られる多糖体とリン脂質との複合体で、細胞溶解の際に放出される。内毒素は、発熱及び血液の広範囲に及ぶ凝固と定義される播種性血管内凝固(DIC)を引き起こす。DICでは、血液を凝固させるタンパク質が枯渇するため、広い範囲からの出血を招き、低血圧及びショックに加え、治療しなければついには死を招く。しかし、内毒素は通常毒性が弱く、生命に係わることはまれである。
【0009】
外毒素は、グラム陽性又はグラム陰性菌細胞のいずれかから放出される、多様な可溶性タンパク質群を含む。一般的に、外毒素は極めて毒性が強く、多くの場合生命に係わる。腸毒素は外毒素の亜群であり、宿主の消化機能を損傷させる。ブドウ球菌性腸毒素は、中毒性ショック症候群(Bergdoll, M.S. 1985. In J. Jeljaszewicz (ed.). The Staphylococci. Gustav Fischer Verlag, New York, NY, pp 247-254)のみならず、ブドウ球菌性食中毒に関与するとされている(Spero et al., J. Immunol. 120:86-89, 1978)。例えば食中毒では、コレラ菌(Vibrio cholera)が、腸管上皮細胞のNaATP合成酵素のポンプ機能を失活させる腸毒素を分泌し、腸管細胞の栄養吸収を阻害する。このように、前記毒素は吸収不良を引き起こし、水分及び電解質を失う浸透性下痢を招く。
【0010】
A群連鎖球菌性発熱外毒素及びこれもまた発熱外毒素である黄色ブドウ球菌性腸毒素は、同様の生物活性を有する、構造的に関連する毒素の科(family)を構成する(Hynes et al., Infect. Immun. 55:837-840, 1987; Johnson et al., Molecular General Genetics. 203:354-356, 1986)。加えて、ブドウ球菌性及び連鎖球菌性発熱外毒素はまた、その配列全体にわたり、顕著なアミノ酸相同性を有する(Hynes et al. Infect. Immun. 55:837-840, 1987; Marrack and Kappler, Science. 248:705-711, 1990; Hoffman et al., Infection and Immunity. 62:3396-3407, 1994)。
【0011】
この発熱外毒素の科には、9つの主要な毒素型と、いくつかの対立遺伝子変異型又は亜類型がある。数多くの研究が、前記毒素に共通のモチーフは、かかる毒素間の免疫学的な交差反応性に基づくことを示している(Spero et al., J. Immunol. 120:86-89, 1978; Spero and Molock, J. Biol. Chem. 253:8787-8791, 1978)。これらの毒素は、T細胞受容体複合体(TCR)のβ鎖可変部(Vβ)だけではなく、感染した宿主の主要組織適合複合体(MHC)分子にも結合する場合があり、特異的なT細胞部分集合の異常増殖を引き起こす(Choi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 86:8941-8945, 1989; Fleischer and Schrezenmeier, J. Exptl. Med. 167:1697-1707, 1988; Janeway et al., Immunol. Rev. 107:61-88, 1989)。前記毒素は、通常の抗原と異なる形でMHC及びTCR分子と相互作用する(Kappler, et al., Science. 248:705, 1989; Marrack et al., J. Exptl. Med. 171:455-464, 1990)、この特性により「スーパー抗原」と称される(White et al., Cell. 56:27-35, 1989)。
【0012】
スーパー抗原についていえば、A群連鎖球菌性発熱外毒素(SPE)と黄色ブドウ球菌性腸毒素(SE)とは、同様の生物活性を共有する科を構成する(Hynes et al., Infect. Immun. 55:837-840, 1987;Johnson et al., Mol. Gen. Gene. 203:354-356, 1986)。それらは、特有の機構により、CD4+、CD8+及びγ+T細胞を刺激する。これらの毒素は共に、T細胞受容体(TCR)の側面のベータ鎖可変領域(Vβ)要素に結合すると同時に、抗原提示細胞のクラスII主要組織適合複合体(MHC)の側面に結合できる能力を共有し、特異的なT細胞の部分集合の異常増殖を引き起こす(Choi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 86:8941-8945, 1989; Fridkis-Hareli, M., and J.L. Strominger, J. Immunol. 160:4386-4397, 1998; Fleischer, et al., Med. Micro Immunol. 184:1-8, 1995; White, et al., Cell. 56:27-35, 1989)。個々のスーパー抗原は時間と共に進化し、それぞれの事例において、異なる感染症の病原体と関連している。
【0013】
クラスIIMHC分子は主に、Tリンパ球、Bリンパ球、マクロファージ等のような、免疫応答の開始及び維持に関係する細胞上に発現する。クラスIIMHC分子は、ヘルパーTリンパ球によって認識され、ヘルパーTリンパ球の増殖及び、提示される抗原ペプチドに特異的な免疫応答の増幅を引き起こす。
【0014】
内毒素、外毒素及び腸毒素を含む細菌毒素は、ヒトにおいて種々の症候群を惹起する。中毒性ショック症候群は、同類のいくつかのブドウ球菌性外毒素のいずれによっても引き起こされる。黄色ブドウ球菌の外毒素は、細菌が増殖する間に一定の回数分泌されるタンパク化合物である。最も一般的なTSS毒素は、中毒性ショック症候群毒素−1(TSST−1)及びブドウ球菌性腸毒素B(SEB)であり、TSSの症例のそれぞれ約75%及び20〜25%が、これらの毒素によって引き起こされている。
【0015】
少なくとも6つのブドウ球菌性腸毒素(“SE”)について、遺伝子配列及び演繹アミノ酸配列が明らかになっており、それらは、A、B、C、D、E及びH、即ちSEA、SEB、SEC(SEC、SEC、SEC)、SED、SEE及びSEHである(Marrack and Kappler, Science. 248:705-711, 1990; Reda et al., Infect. Immun. 62:1867-1874, 1994)。連鎖球菌性発熱外毒素(“SPE”)は、猩紅熱及び中毒性ショック様症候群の症状の発症に関与するとされている(Hauser et al., J. Clin. Microbiol. 29:1562-1567, 1991; Merrifield, R.B., J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154, 1963; Stevens et al., The New England Journal of Medicine. 321:1-7, 1989)。SPE科(SPE family)のうち、3つの構成員であるSPEA、SPEC及びSSAの配列が報告されている(Goshorn and Schlievert, P.M., Infect. Immun. 56:2518-2520, 1988; Reda et al., Infect. Immun. 62:1867-1874, 1994; Weeks and Ferretti, J. J., Infect. Immun. 52:144-150, 1986)。
【0016】
SE及びSPE毒素の、高度に保存されたアミノ酸の類似性を共有する、明確な2つの領域が同定されている。これらの領域はアミノ酸配列の相同性が高く、この科の毒素の構成員全てに共通していることが確認されている、共通のパターン(consensus pattern)を有する(Choi, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 86:8941-8945, 1989)。第1の共通領域は、Y−G−G−(LIV)−T−x(4)−Nのアミノ酸配列を有する。TSST−1以外の全てのブドウ球菌性腸毒素及び連鎖球菌外毒素は、この共通パターンを有する。この配列は、システインループのC末端側に位置する。第2の共通領域は、K−x(2)−(LIV)−x(4)−(LIV)−D−x(3)−R−x(2)−L−x(5)−(LIV)−Yのアミノ酸配列を有する。この特定のパターンは、TSST−1を含む、全てのブドウ球菌性腸毒素及び連鎖球菌性発熱外毒素において同定されている(Bannan, et al., Infect. Dis. Clin. North Am. 13:387-396, ix, 1999; WO98/45325; WO00/20598)。
【0017】
TSST−1は、腸毒素及び連鎖球菌性発熱外毒素と同様の生物活性を有しているが、構造的にはそれほど関連していない(Blomster-Hautamaa et al., J. Biol. Chem. 261:15783-15786, 1986)。中毒性ショック症候群は、TSST−1とSE/SPE科の毒素との相乗効果により増悪する場合がある(Hensler et al., Infect. Immun. 61:1055-1061, 1993; Smith et al., Infect. Dis. 19:245-247, 1994)。スーパー抗原により免疫細胞が刺激されると、自己免疫性T細胞の部分集合の増大、MHC−II発現のアップレギュレーション及び細胞毒性T細胞応答の増強を誘導することにより、自己免疫性症候群を増悪させる場合がある(Brocke et al., Nature. 365:642-644, 1993; Kotzin et al., Adv. Immunol. 54:99-166, 1993; Li et al., Clin. Immunol. Immunopathol. 79:278-287, 1996; Schiffenbauer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 90:8543-8546, 1993; Schwab et al., J. Immunol. 150:4151-4159, 1993)。
【0018】
具体的にはスーパー抗原SEBは、中毒性ショック作用を誘導することができる。これらの作用は、T細胞の大きな部分集合が活性化された結果であり、重篤なT細胞触媒性全身性免疫応答をもたらす。この反応は、T細胞触媒性応答特有のものであり、インターロイキン10(IL−10)、又はその類似薬若しくは拮抗薬で治療できる場合がある。機構的には、これらのスーパー抗原はT細胞受容体のVβ要素と直接に相互作用し、相対的にわずかのMHCII特異性しか有していないT細胞を活性化すると考えられる(Herman et al., Ann. Rev. Immunol. 9:745-772, 1991参照)。
【0019】
TSSは、ブドウ球菌又は連鎖球菌微生物のいずれかにより惹起される特異的な症候群であるが、敗血症性ショックは、グラム陰性又はグラム陽性微生物のいずれかにより誘導される。リポ多糖(LPS)は、グラム陰性菌の細胞壁の不可欠な要素であり、マクロファージにより放出されるサイトカインを強力に誘導する物質である(Glauser, M.P., Drugs. 52 Suppl. 2:9-17, 1996)。より具体的には、LPSはマクロファージCD14受容体に結合し、IL−1及びTNF−αを含む、いくつかのサイトカインの放出を引き起こす(Cohen et al., Trends Biotechnol. 13:438-445, 1995)。したがって治療は、LPS又はLPSに誘導されたサイトカインを中和するべく計画されている(Wang et al., Lymphokine Cytokine Res. 11:23-31, 1992)。しかし、LPS分子の一部を対象としたモノクローナル抗体の使用及びワクチン開発の試みにおけるCD14可溶性受容体の使用は、好ましいデータを生んでいない(Baumgartner, J.D., Eur J. Clin. Microbiol. Infect. Dis. 9:711-716, 1990)。これらの失敗は、次のような原因による可能性がある。1)多くの場合、既に不可逆的なショック状態にある患者を選択した。2)全てのLPS部位が、モノクローナル抗体により遮断されたわけではなかった。3)全てのLPS分子が、可溶性CD14受容体により遮断されたわけではなかった。
【0020】
致死的な敗血症性ショックを引き起こすには、少なくとも2つの独立した経路が必要であると提唱されている。実際、敗血症ショック患者には、グラム陽性感染症とグラム陰性感染症の両方が存在することを示す根拠が増加している(Rangel-Frausto et al., JAMA. 273:117-123, 1995)。また、モデル動物においては、LPSとスーパー抗原との相乗作用により、致死的な敗血症性ショックが起きることが示されている(Schleivert, et al., J. Clin. Immunol. 15:4s-10s, 1995)。
【0021】
したがって、敗血症性ショックのかなりの事例で、血管拡張及び低血圧という顕著な症状を惹起するグラム陰性感染症を初期に伴うという、「2度の打撃」なる仮説が提示されている。輸液及び抗生物質で治療すれば、患者は速やかに回復する。しかし数日後、静脈注射の針による皮膚の敗血症又は胃腸内の細菌叢(flora)のどちらかによるグラム陽性の損傷が、すでにLSPに感作している患者において、重篤で不可逆的なショックを惹起する(Bannan et al., Infectious Disease Clinics of North America. 13:387-396, 1996; WO00/20598)。LPSとスーパー抗原との作用の総和により、両方の分子の致死的特性が増大する。
【0022】
これらの毒素の有害作用を遮断する試みにおいて、多くの研究者(例えばEriksson et al., Microb. Pathog. 25:279-290, 1998; Hu et al., FEMS Immunol. Med. Microbiol. 25:237-244, 1999; Jett, et al., Infect. Immun. 62:3408-3415, 1994; Kum, et al., Can. J. Microbiol. 46:171-179, 2000)が、ブドウ球菌性腸毒素B又はA(SEB又はSEA)のような周知の毒素の特異的作用を遮断又は変化させようと、合成ペプチドを用いている。これらの毒素のサイトカイン産生およびペプチド阻害の重要部位が、同定されている。しかし、単一ペプチドが多くの毒素の増殖及び致死作用を阻害するとする報告例は、2つに過ぎない。1つの報告では、数多くの毒素の幼若化反応特性を阻害するため、共通領域由来の天然(native)のSEBの共通配列CMYGGVTEHNGN(配列番号27)の変異型である、12アミノ酸ペプチドCMYGGVTEHEGN(配列番号1)(ペプチド6343とも呼ばれる)の使用について記載している。これらの毒素のうち、先に記載されていない3つの新しい連鎖球菌性毒素も阻害されたと報告されている。さらに、この12アミノ酸ペプチド(6343)は、中毒性又は敗血症性ショックを呈するモデルマウスにおいて、別々の、抗原性の異なる3つの毒素の致死的作用を遮断したと報告された(Visvanathan, et al., Infection and Immunity. 69:875-884, 2001;WO00/20598)。この12−merのペプチド(6343)は、MHCII分子に結合し、これが、スーパー抗原の結合および細胞増殖の活性化を防止している可能性がある。Arad, et al.は、YNKKKATVQELD(配列番号26)という別の12アミノ酸ペプチドを用いている(Arad, et al. Nature Medicine 6:414-420,2000)。Arad, et al.のペプチドは、第2の共通領域由来のSEBアミノ酸配列である150−TNKKKVTAQELD−161(配列番号29)の変異型である。Arad, et al.により報告されているペプチドは、IL−2RNAの発現を1/18〜1/40に抑制し、その他の2〜3の毒素についても同様の結果がみられた。さらにこのペプチドは、中毒性ショックのモデルマウスの観察において、細菌毒素の致死的作用からマウスを救うと報告されている。
【0023】
多くの細菌性スーパー抗原に共通のペプチド領域に対して調製された抗体が、いくつかのスーパー抗原の生物作用を遮断することが示されている。例えば、共通領域1(即ちペプチド6344:CMYGGVTEHEGNGC(配列番号23))、共通領域2(即ちペプチド6346:CGKKNVTVQELDYKIRKYLVDNKKLYGC(配列番号24))並びに共通領域1及び2の両方(即ち:ペプチド6348:CMYGGVTEHEGNKKNVTVQELDYKIRKYLVDNKKLYGC(配列番号25)由来のアミノ酸配列の変異型を有するペプチドに対して、抗体を調製する。なお、()は、これらのペプチドが、記載された配列からなる、交差結合したポリマーであることを示している(例えば米国特許第6075119号及びWO00/20598参照)。ペプチド6348に対する抗体は、TSST−1を含む、いくつかの細菌毒素分子の保存領域を認識し(米国特許第6075119号の図5参照)、ブドウ球菌性及び連鎖球菌性発熱毒素に刺激されたヒトPBMCの幼若化反応が触媒する毒素を阻害する(米国特許第6075119の図6参照)。また、前記ペプチドに対する抗体を用い、モデルウサギにおいて、SEB及びSPEAによって誘導される中毒性及び敗血症性ショックを受動防御することについても、実証されている。
【0024】
しかし当技術分野においてTSS及びSS、又は細菌毒素の作用によるその他の疾患若しくは病態を予防し、かつ患者を治療する方法並びにそのための組成物の提供が、依然として必要とされている。
【特許文献1】WO98/45325
【特許文献2】WO00/20598
【特許文献3】米国特許第6075119号
【非特許文献1】Weiss, K. A. and M. Laverdiere, Can. J. Surg. 40:18-25, 1997
【非特許文献2】Howe, L.M., Vet. Clin. North Am. Small Anim. Pract. 28:249-267, 1998
【非特許文献3】Weiss, K.A., and M. Laverdiere. Can. J. Surg., 40:158-161, 1988
【非特許文献4】Schoenberg et al., Langenbecks Arch. Surg. 383:44-48, 1998
【非特許文献5】Tracey et al., Science 234, 470-474, 1986
【非特許文献6】Spero and Metzger J., J. Immunol. 120:86-89, 1978
【非特許文献7】Chapes et al., J. Leukoc. Biol. 55:523-529, 1994
【非特許文献8】Hackett and Stevens, D.L., J. Infect. Dis. 168:232-235, 1993
【非特許文献9】Imanishi et al., Int. Arch. Allergy. Immunol. 106:163-165, 1995
【非特許文献10】Bergdoll, M.S. 1985. In J. Jeljaszewicz (ed.). The Staphylococci. Gustav Fischer Verlag, New York, NY, pp 247-254
【非特許文献11】Hynes et al., Infect. Immun. 55:837-840, 1987
【非特許文献12】Johnson et al., Molecular General Genetics. 203:354-356, 1986
【非特許文献13】Marrack and Kappler, Science. 248:705-711, 1990
【非特許文献14】Hoffman et al., Infection and Immunity. 62:3396-3407, 1994
【非特許文献15】Spero and Molock, J. Biol. Chem. 253:8787-8791, 1978
【非特許文献16】Choi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 86:8941-8945, 1989
【非特許文献17】Fleischer and Schrezenmeier, J. Exptl. Med. 167:1697-1707, 1988
【非特許文献18】Janeway et al., Immunol. Rev. 107:61-88, 1989
【非特許文献19】White et al., Cell. 56:27-35, 1989
【非特許文献20】Kappler, et al., Science. 248:705, 1989
【非特許文献21】Marrack et al., J. Exptl. Med. 171:455-464, 1990
【非特許文献22】Fridkis-Hareli, M., and J.L. Strominger, J. Immunol. 160:4386-4397, 1998
【非特許文献23】Fleischer, et al., Med. Micro Immunol. 184:1-8, 1995
【非特許文献24】Reda et al., Infect. Immun. 62:1867-1874, 1994
【非特許文献25】Hauser et al., J. Clin. Microbiol. 29:1562-1567, 1991
【非特許文献26】Merrifield, R.B., J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154, 1963
【非特許文献27】Stevens et al., The New England Journal of Medicine. 321:1-7, 1989
【非特許文献28】Goshorn and Schlievert, P.M., Infect. Immun. 56:2518-2520, 1988
【非特許文献29】Weeks and Ferretti, J. J., Infect. Immun. 52:144-150, 1986
【非特許文献30】Bannan, et al., Infect. Dis. Clin. North Am. 13:387-396, ix, 1999
【非特許文献31】Blomster-Hautamaa et al., J. Biol. Chem. 261:15783-15786, 1986
【非特許文献32】Hensler et al., Infect. Immun. 61:1055-1061, 1993
【非特許文献33】Smith et al., Infect. Dis. 19:245-247, 1994
【非特許文献34】Brocke et al., Nature. 365:642-644, 1993
【非特許文献35】Kotzin et al., Adv. Immunol. 54:99-166, 1993
【非特許文献36】Li et al., Clin. Immunol. Immunopathol. 79:278-287, 1996
【非特許文献37】Schiffenbauer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 90:8543-8546, 1993
【非特許文献38】Schwab et al., J. Immunol. 150:4151-4159, 1993
【非特許文献39】Herman et al., Ann. Rev. Immunol. 9:745-772, 1991
【非特許文献40】Glauser, M.P., Drugs. 52 Suppl. 2:9-17, 1996
【非特許文献41】Cohen et al., Trends Biotechnol. 13:438-445, 1995
【非特許文献42】Wang et al., Lymphokine Cytokine Res. 11:23-31, 1992
【非特許文献43】Baumgartner, J.D., Eur J. Clin. Microbiol. Infect. Dis. 9:711-716, 1990
【非特許文献44】Rangel-Frausto et al., JAMA. 273:117-123, 1995
【非特許文献45】Schleivert, et al., J. Clin. Immunol. 15:4s-10s, 1995
【非特許文献46】Eriksson et al., Microb. Pathog. 25:279-290, 1998
【非特許文献47】Hu et al., FEMS Immunol. Med. Microbiol. 25:237-244, 1999
【非特許文献48】Jett, et al., Infect. Immun. 62:3408-3415, 1994
【非特許文献49】Kum, et al., Can. J. Microbiol. 46:171-179, 2000
【非特許文献50】Visvanathan, et al., Infection and Immunity. 69:857-884, 2001
【非特許文献51】Arad, et al. Nature Medicine6:414-420,2000
【発明の開示】
【0025】
本発明は、毒素産生性細菌に関連する中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒及び自己免疫性疾患を予防又は重篤度を緩和するための組成物及び方法に関する。本発明はまた、細菌毒素に関連する毒性に由来する中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒及び自己免疫性疾患並びにその他の関連疾患、病態及び症候群の予防及び治療のためのペプチド、誘導体、模倣体(mimetics)及び(モノクローナル及びポリクローナル両方の)抗体の使用方法に関する。
【0026】
本発明の1つの実施形態は、限定するものではないが、ブドウ球菌性及び連鎖球菌性発熱毒素、それらに対する抗体、及びそれらの組成物を含む、細菌毒素科(a family of bacterial toxins)の相同配列に関係するペプチド、誘導体及び/又は模倣体に関する。
【0027】
本発明の1つの実施形態において、ペプチド、誘導体及び/又はその模倣体は、二量体又は三量体において1つのチロシン残基を有するアミノ酸配列、及び/又はメチオニンとチロシンが隣接するアミノ酸配列、及び/又は、TEHEGN(配列番号7)のアミノ酸配列を有し、ここで、前記ペプチド、誘導体及び/又は模倣体は、本質的に12以下のアミノ酸からなるが、ただし、かかるアミノ酸配列は、いずれかの天然の毒素分子に見られるアミノ酸配列ではなく、かつ前記ペプチドは、配列番号1のCMYGGVTEHEGN、又は参照によりどちらも本明細書の一部を構成する米国特許第6075119号及びWO98/45325に具体的に開示されているいずれかのペプチドではない。
【0028】
本発明のさらなる実施形態は、修飾されたペプチド、誘導体又は模倣体を提供し、かかるペプチド、誘導体及び模倣体は天然L型立体構造であり又はより好ましくはD型立体構造である。特に、本発明の1つの実施形態はD型立体構造三量体であるcmy及びymcに関する。しかし、本発明の別の実施形態は、L型立体構造のペプチドである、AMY、MYC、CYM及びMYのような、隣接するメチオニンとチロシンとを有する二量体又は三量体に関するが、これらに限定はされない。さらなる実施形態においては、CAY及びCYのような、チロシンを含む二量体又は三量体も提供するが、これらに限定はされない。これらの機能的な二量体又は三量体のいずれかを有する、より長いペプチドも提供する。
【0029】
本発明の1つの実施形態は、本明細書に記載の、本発明のペプチド、誘導体及び模倣体をコードする、単離された又は精製された核酸及び、これらの核酸を含む形質転換された宿主細胞を提供する。
【0030】
本発明の別の実施形態は、中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒、自己免疫疾患及びその他の関連疾患、病態及び症候群の予防及び治療のために、本明細書に記載のペプチド、誘導体、模倣体又は抗体を含む医薬組成物、又は薬学的及び生理学的に許容される担体中の、構造的及び/又は免疫学的に同類の抗体を提供する。
【0031】
本発明はさらに、細菌毒素に関連する毒性に由来する、中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒、自己免疫疾患及びその他の疾患、症候群及び病態の診断分析、予防法及び治療法における、これらの組成物の使用に関する。
【0032】
本発明の1つの実施形態において、本発明のペプチド、誘導体及び模倣体を投与することにより、少なくとも1つの細菌毒素の存在下における、ヒトの単核細胞の幼若化反応を阻害する方法を提供する。
【0033】
細菌毒素に関連する中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒又は自己免疫疾患を発症する危険性のある患者又は細菌毒素に関連する中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒又は自己免疫疾患の症状を呈する患者を、本発明のペプチド、誘導体及び模倣体を投与することにより治療することは、本発明の1つの好ましい実施形態である。
【0034】
本発明の1つの実施形態は、ペプチド、誘導体又は模倣体及び少なくとも1つの細菌毒素と結合する、免疫学的に十分な量の抗体を、インビボで投与することにより、細菌毒素の毒性作用に対し、哺乳動物を受動免疫する方法に関する。
【0035】
本発明のさらなる実施形態は、本発明のペプチド、誘導体、模倣体、又は少なくとも1つのペプチドをコードする核酸を投与することにより、少なくとも1つの細菌毒素と結合する抗体を誘導する方法、及び限定するものではないが、ブドウ球菌性及び連鎖球菌性発熱毒素の全とはいわないまでも、ほとんどを含む細菌毒素の毒性作用を、予防、治療又は防御するための、それらの利用方法を提供する。
【0036】
さらに、本発明の別の実施形態においては、試料中の細菌毒素に対する抗体を検出する方法を提供し、ここで、前記試料は本発明のペプチド、誘導体及び模倣体と接触させられ、前記抗体に結合したペプチド、誘導体又は模倣体が検出される。
【0037】
また、本発明の1つの実施形態は、細菌毒素の存在を検出するための、ペプチド、誘導体、模倣体及び/又はかかるペプチド、誘導体又は模倣体に対する抗体を含む診断分析法及びキットを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明は、限定するものではないが、毒素産生性細菌に関連する中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒及び自己免疫疾患を含むショックを予防する、又はその重篤度を緩和する組成物及び方法に関する。
【0039】
具体的には本発明は、細菌感染症による毒性の予防又は治療に役立つペプチドの類(class)を提供する。本発明のペプチド及びその誘導体は、本質的に2〜12個のアミノ酸、好ましくは2〜9個のアミノ酸、より好ましくは2〜6個のアミノ酸、及び最も好ましくは2〜3個のアミノ酸を有する。本発明のペプチド及び誘導体は、二量体又は三量体において1つのチロシン残基、及び/又は、隣接するメチオニンとチロシンとのアミノ酸配列、及び/又は、TEHEGN(配列番号7)のアミノ酸配列を有する。本発明のペプチドは、CMYGGVTEHEGN(配列番号1)のアミノ酸配列を有する12−merのペプチド6343、又は参照によりどちらも本明細書の一部を構成する米国特許第6075119号及びWO98/45325に具体的に開示されているいずれかのペプチドではない。
【0040】
本発明のペプチドは、ブドウ球菌性腸毒素(SE)及び連鎖球菌性発熱外毒素(SPE)の共通配列に関係するペプチドの、置換アナログ又は化学的誘導体又はそれらの模倣体をすべて包含する。本発明の好ましいペプチドは、毒素が触媒する幼若化反応を阻害し、毒素活性を約45〜50%、好ましくは50〜60%、より好ましくは60〜80%及び最も好ましくは80〜100%遮断する。本発明のペプチドは、限定するものではないが、例えば次のような例のアミノ酸配列を有している。CY、MY、CMY、CYM、YMC、MYC、AMY、CAY、CMYGGVTEHEG(配列番号4)、CMYGGVTEHE(配列番号5)、CMYGGV(配列番号6)、TEHEGN(配列番号7)、CMYAGVTEHEGN(配列番号11)、CMYGAVTEHEGN(配列番号12)、CMYGGATEHEGN(配列番号13)、CMYGK(配列番号21)及びCMYKK(配列番号22)。ここで、前記ペプチド又はその誘導体は、天然L型立体構造及び、好ましくはD型立体構造をとる。さらに、2〜6個のアミノ酸のペプチドを含むより長いペプチドも、本発明の1つの実施形態が意図するものである。本発明のペプチドは好ましくは無毒であるが、本発明においては、例えば非ヒト系で抗体を誘導する場合、有毒のペプチドも有用な場合がある。意外にも、特に好ましいのは2又は3個のアミノ酸のみからなるペプチドであり、より好ましくはD型立体構造の二量体及び三量体のペプチドであり、かつその阻害作用を維持しているペプチドである。
【0041】
予期しなかった結果として、二量体及び三量体のような相対的に少数のアミノ酸を有するペプチドは、より長いペプチド以上とはいわないまでも、それらと同程度に、細菌毒素に関係する毒性又は細菌毒素自体を減じる又は阻害する効果がある。したがって、本発明は本質的に、6個のアミノ酸、好ましくは5個のアミノ酸又は4個のアミノ酸からなるペプチドを包含するが、より好ましくは3個のアミノ酸又は2個のアミノ酸しか有さないペプチドであり、これらもまた細菌毒素の阻害に有効である。理論にとらわれることなく、本発明のペプチド、誘導体、模倣体及び/又は前記ペプチドに対する抗体は、毒素経路を遮断し、その結果細菌毒素性中毒の発症及び特に、LPSと1又は2以上のスーパー抗原とが組み合わさることにより誘導される致死的ショックを予防すると考えられる。
【0042】
具体的には、本発明の1つの実施形態は、細菌毒素、好ましくはブドウ球菌性腸毒素及び連鎖球菌性発熱毒素の保存領域に関係するペプチド、誘導体及び/又はその模倣体を含有する組成物を提供する。これらの組成物は、ヒトを含む哺乳動物における、細菌感染症に由来する中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、自己免疫性疾患及び食中毒の予防及び重篤度の緩和に役立つ。
【0043】
本発明のさらなる実施形態はペプチド自体又は細菌毒素、特にブドウ球菌及び連鎖球菌性発熱外毒素又は内毒素に結合することができる抗体の産生を誘導することができるハプテンとしての使用に関する。本明細書に記載のペプチドを用いて、本発明に従って産生される抗体もまた、ブドウ球菌及び連鎖球菌性発熱外毒素に結合することができる。
定義
【0044】
本発明の「ペプチド」は、単離及び精製されたペプチドの、置換アナログ又は化学的誘導体すべてを表す。本明細書で用いられる「ペプチド」なる用語はまた、どのような分子量のアミノ酸配列も、又はその化学的な誘導体も意味すると解釈される。本明細書に用いられる「誘導体」なる用語は、ペプチドような、修飾又は部分的な置換による、別の物質と関連する物質を意味する。
【0045】
本発明のペプチド、誘導体又はそれらの模倣体はまた、限定するものではないが、改変されたアミノ酸配列を含み、かかる配列においては、機能的に同等のアミノ酸残基が、その配列内の残基と置換され、サイレントな変化をもたらす。例えば、配列内の1又は2以上のアミノ酸残基は、機能的な同等物として作用する類似極性を有する別のアミノ酸により置換することができ、サイレントな変化をもたらす。配列内のアミノ酸の代わりを、前記アミノ酸が属する類(Class)の、他の構成員から選択することができる。例えば、無極性(疎水性)のアミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンが挙げられる。極性が中性のアミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンが挙げられる。プラスに帯電した(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジン及びヒスチジンが挙げられる。マイナスに帯電した(酸性)アミノ酸にはアスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。
【0046】
本発明はさらに、本発明に記載のペプチドのようなタンパク質二次構造の要素を模倣する分子であると、本明細書に定義される「模倣体」に関する。例えばJohnson et al.(In:Biotechnology and Pharmacy, Pezzuto et al.,(Eds.), Chapman and Hall, New York, 1993)を参照のこと。具体的には、模倣体又はペプチド模倣体は、タンパク質又はペプチド構造の重要部分を模倣するように、又はMHCと特異的に相互作用するように製剤される立体的に類似した化合物である。「模倣体」の設計は、分子間の機能的な相互作用が再現されるよう官能基を配することを伴うことがある。活性化合物の合成が困難であるか若しくは費用がかかる場合、又は例えば消化管のタンパク質分解酵素によって経口組成物が速やかに分解されてしまうなど、活性化合物の投与の効果が無い場合(Picksley et al.に付与されている米国特許第5770377号)には、模倣体が望ましい場合がある。具体的にはこれらの模倣体は、毒素活性や毒素の幼若化反応を阻害する、本発明のペプチド又は誘導体を対象とするが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明は、MHCクラスII分子のアルファ1領域のアルファヘリックス(alpha helix)に接触する模倣分子について記載する。ペプチド及び模倣体分子はスーパー抗原とMHCクラスII分子との間の相互作用を抑制又は遮断するので、スーパー抗原活性及び毒素の幼若化反応もまた阻害される。本発明はまた、限定するものではないが、スーパー抗原のSEBのような、MHCクラスII分子のアルファ1領域のアルファへリックスと細菌毒素との間の疎水的相互作用を模倣又は模造する分子をも包含する。このような模倣分子は、MHCクラスII分子のアルファ1領域のアルファヘリックスと疎水的相互作用をする、構造的に類似性のある分子を有する。本明細書中に模倣体の例を記載するが、限定するものではなく、それらは次のずれかのアミノ酸配列を含むか、それらと同様の性質を有している:CY、MY、CMY、CYM、YMC、MYC、AMY、CAY、CMYGGVTEHEG(配列番号4)、CMYGGVTEHE(配列番号5)、CMYGGV(配列番号6)、TEHEGN(配列番号7)、CMYAGVTEHEGN(配列番号11)、CMYGAVTEHEGN(配列番号12)、CMYGGATEHEGN(配列番号13)、CMYGK(配列番号21)及びCMYKK(配列番号22)。
【0048】
本発明の模倣分子は、ポリペプチドを有するMHCクラスII分子のアルファ1アルファヘリックスに対する、例えば毒素のような天然のリガンドと構造的に類似するアミノ酸配列、ペプチド、ポリペプチド又は小分子、合成若しくは天然の有機産物であり、またポリペプチドを有するアルファ1領域のアルファヘリックスと相互作用し、それによって、ポリペプチドを有するアルファ1領域のアルファヘリックスの活性を変化させる。天然のリガンド又はリガンドの模倣体は、MHCクラスII分子のアルファ1領域のアルファヘリックスに結合することができる、ジスルフィドループ又はチロシン残基を形成するシステイン残基を有する。具体的には、前記模倣体化合物との間の相互作用は、MHCクラスII分子のアルファ1領域のアルファヘリックスにおいて、アラニン61、ロイシン60及び/又はグルタミン57の残基で生じ、それによって、細菌毒素活性を阻害する。
【0049】
特定の標的特性を有する化合物から模倣体を設計するステップにはまず、その化合物において重要な組成分を確定することが含まれる。これは、例えばペプチドのアミノ酸残基を置換することにより実施することができる。その化合物の活性領域と同定されたこれらの部位や残基は、かかる化合物の「ファルマコフォア」であると定義される。その結果、かかる化合物の物性を用いて、模倣体の構造が設計できる。ファルマコフォアを模倣する、官能基を有する鋳型分子は、模倣体の合成に用いることができる。本発明において、鋳型分子は12merのペプチド6343であり、かかるペプチドはN末端、具体的にはCMYが、MHCクラスII分子と相互作用することが示された。
組成物−ペプチド
【0050】
本発明の1つの実施形態において、ブドウ球菌性腸毒素又は連鎖球菌性発熱外毒素の保存領域に関連するアミノ酸配列を有する単離及び精製されたペプチド、誘導体及び/又は模倣体を含有する組成物を提供する。これらのペプチドは、直接細菌毒素の毒素活性を阻害するために、又は限定するものではないが、ブドウ球菌又は連鎖球菌性発熱外毒素のような細菌毒素による毒素ショックを予防、又は重篤度を緩和する応答を含む、哺乳動物の免疫原性応答を誘導するために用いることができる。これらの細菌毒素は、好ましくはブドウ球菌又は連鎖球菌性発熱外毒素であり、より好ましくはSEBである。
【0051】
本発明のペプチド、誘導体及びそれらの模倣体は、当技術分野で周知の合成方法又はDNA組換え法により調製することができる。本発明のペプチド及びこれらのペプチドに対する抗体は、いくつかの細菌毒素、好ましくは細菌性スーパー抗原の保存領域に関係する。本明細書における「細菌性スーパー抗原」は、大量のT細胞を強く刺激する、主にグラム陽性細菌由来の毒素であると定義される。スーパー抗原はまず、主要組織適合性複合体II(MHCII)を、バイナリーな複合体として結合させ、次にVβ特異的に、T細胞抗原受容体(TCR)を結合させる(Fleischer and Schrezenmeier, B.H., J. Exp. Med. 167:1697-1707, 1988; Mollick et al., Science 244:817-820. 1989; Janeway et al, Immunol. Rev. 107:61-88, 1989; White et al,. Cell56:27-35, 1989)。細菌毒素は2つの主要な毒素群である、内毒素及び外毒素で構成される。外毒素はさらに腸毒素を含み、ここでスーパー抗原は、ブドウ球菌性腸毒素及び連鎖球菌性発熱外毒素を含む。
【0052】
本発明のペプチドは、その使用において特定の利点を備える種々の修飾を施すことができる。例えば、生物活性を維持しながら、インビボでのペプチドの安定性を高めるため、天然L型立体構造のアミノ酸をD型立体構造のアミノ酸に置換することが好ましい。(Senderoff et al., J. Pharm. Sci. 87:183-189, 1998)。具体的には、CMY及びYMCのアミノ酸のD型立体構造が最も好ましい。それらは、12個のアミノ酸の、又は12merのペプチドと比較して、幼若化反応を著しく阻害することが示されている(図3参照)。加えて、三量体のD型立体構造は三量体のL型立体構造と同程度に又はそれ以上に有効であるため、D型立体構造を有する三量体は胃腸系、即ち消化管や循環系の種々の酵素に分解されにくい可能性がある。したがって、これらのD型立体構造の三量体は、血漿におけるより長い半減期をもたらす可能性があり、対象、即ちヒトの治療には好ましい。
【0053】
さらに、CO−NHのぺプチド結合ではなくNH−COの結合を有するレトロインベルソ型ペプチドは、ポリクローナル及びモノクローナル抗体の結合に関し、L型立体構造のペプチドよりも、そしてさらに、模倣天然L型立体構造のペプチドよりも、タンパク分解に対する抵抗性が高いことが示されている(Chorev and Goodman, M. Trends Biotechnol. 3:438-445, 1995)。このように、1又は2以上の本発明のアミノ酸配列を有し、かつ機能活性を維持している、レトロインベルソ型ペプチドのみならず、少なくとも1つのD型立体構造のアミノ酸を、好ましくは分子のアミノ末端に有し、かつ機能活性を維持しているペプチドも、本発明の一部と見なされる。
【0054】
図1及び3〜5に記載の、アミノ酸置換を有する三量体のD型立体構造及びL型立体構造は両方とも、アミノ酸の側鎖及びそれらの相互作用が、スーパー抗原の活性を遮断する重要部位である可能性を示唆している。
【0055】
また、MHCクラスII分子又はT細胞受容体との重要な疎水的相互作用を遮断するように設計された全てのペプチド、誘導体又は模倣体も、本発明の意図するものである。MHCクラスII分子の残基と疎水的に相互作用するペプチド、誘導体又は模倣体のチロシン残基の側鎖は、特に重要である。TEHEGNのアミノ酸配列(配列番号7)を有するペプチド、より具体的にはグルタミン酸、スレオニン及びグリシンを有するペプチドは、MHCクラスII分子と疎水的に相互作用するために重要である。
【0056】
本発明の好ましいペプチドは、完全長の天然の毒素分子を除外するペプチドである。本発明の好ましいペプチドは無毒であるが、本発明においては例えば非ヒト系統で抗体を誘導する場合、有毒のペプチドが有用な場合がある。本発明の最も好ましいペプチドは、いずれかの特定の天然の毒素分子にみられる配列中のアミノ酸配列を含まない。
【0057】
本発明はまた、本明細書に記載のペプチドのホモポリマー又はヘテロポリマー(例えば結合、架橋結合及び/又は融解した同一のペプチド単位、又は結合、架橋結合及び/又は融解した多様なペプチド単位)及びペプチド、ポリマー及び/又はそれらのコンジュゲートの混合物を包含する。システイン“C”アミノ酸は、ジスルフィド結合の形成を通して架橋結合を促進するために用いられる。グリシン“G”及びセリン“S”アミノ酸は、スペーサー残基として用いることができる。
【0058】
本発明の低分子量の種はそれ自体が、単独又は例えばサイトカインに対する抗体のような、他の治療方法と組み合わせて用いると、スーパー抗原によって誘導されるT細胞増殖の阻害及び/又は細菌毒素、具体的にはインビボにおける外毒素の有害作用の低減、阻害又は除外に役立つ。
【0059】
本発明の有用なリンカーは例えば、単なるペプチド結合である場合と、アミノ酸を有する場合とがあり、かかるアミノ酸にはジスルフィド結合を形成することができるものを含むが、例えば多糖類やその断片のような、他の分子を含む場合もある。本発明で用いられるリンカーは、本発明の共通配列により誘導されるのと同じか又は異なる、それ自体の免疫原性効果に貢献するように選択することができる。例えば、そのようなリンカーは、伝染性細菌に対する抗体の産生をさらに誘導する細菌性抗原であってもよい。そのような場合リンカーは、例えば伝染性細菌のタンパク質若しくはタンパク質断片、又は細菌性多糖類又は多糖類断片であってもよい。
組成物−核酸
【0060】
本発明はさらに、先に記載の本発明のペプチド、誘導体又は模倣体をコードする単離及び精製された核酸分子に関する。かかるコードされたペプチドは、モノマー、ポリマー、又は他のペプチド配列に結合していてもよい(即ちそれらは融合タンパク質であってもよい)。本発明のその他の特徴としては、本発明の核酸分子を含有する原核細胞(例えば大腸菌)及び真核細胞(例えばCHO及びCOS)のような、形質転換された株化細胞のみならず、プロモーターに操作可能に結合した、本発明の核酸分子を含有するベクターが含まれる。インビボ、即ち治療又は免疫される患者においてペプチドの産生を可能にするベクター及び組成物もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0061】
本発明のペプチドをコードする核酸は、プラスミド、コスミド、ファージ、ウィルス又はミニ染色体のようなベクターに導入することができ、本技術分野で周知の方法により宿主細胞又は有機体に挿入することができる。例えば、Sambrook et al., (Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1989)を参照のこと。かかる文献は、参照により本明細書の一部を構成する。一般的に、これらの核酸を含有するベクターは、真核細胞又は原核細胞のすべての細胞において活用することができ、そのような細胞には、哺乳動物の細胞(例えばヒト(例えばHeLa細胞)、サル(例えばCOS細胞)、ウサギ(例えばウサギ網状赤血球)、ラット、ハムスター(例えばCHO細胞及びベビーハムスター腎細胞)又はマウス(例えばL細胞)の細胞、植物細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は細菌細胞(例えば大腸菌))が含まれる。これらの核酸をクローン及び/又は発現させるために活用できるベクターは、かかる核酸の複製及び/又は発現が望まれる宿主細胞において、本発明の核酸を複製及び/又は発現させることが可能なベクターである。種々の型の宿主細胞に対する適切なベクターの例としては、例えばF. Ausubel, et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience (1992) and Sambrook, et al. (1989)を参照のこと。遺伝子が挿入される宿主に適合する強力なプロモーターも用いることができる。これらのプロモーターは、誘導性でもよい。前記核酸を含む宿主細胞は、製剤、診断試薬、ワクチン及び治療法を生み出すのに役立つ多量のタンパク質を発現させるために用いることができる。
【0062】
前記核酸はまた、発熱外毒素及び内毒素関連疾患の、例えば診断試薬、ワクチン及び治療用のペプチドの製造に用いることができる。例えば、高水準のペプチドを発現するベクターは、ヒトに発現した後に、免疫療法及び免疫学的予防において用いることができる。そのようなベクターには、レトロウィルス性ベクターが含まれ、さらに筋肉細胞及びその他の受容細胞に直接DNAを注入することが含まれ、例えばWolff et al., (Science247:1465-1468, 1990, Wolff et al., Human Molecular Genetics 1:363-369, 1992) and Ulmer et al., (Science 259:1745-1749, 1993)に記載の技術を用いることにより、ペプチドの効果的な発現をもたらす。例えばWO96/36366及びWO98/34640をさらに参照のこと。
組成物−抗体
【0063】
本発明の別の実施形態においては、本発明のペプチド、誘導体又は模倣体と反応する抗体を提供する。本明細書において用いられる「抗体」なる用語は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分を意味する。典型的な抗体分子は、キメラ抗体のみならず、無処置の免疫グロブリン分子、実質的に無処置の免疫グロブリン分子及び当技術分野においてFab、Fab’、F(ab’)及びF(v)として周知の部分を含む、免疫グロブリン分子の一部である。
【0064】
本発明における有用な抗体は、典型的には1又は2以上の本発明のペプチド、誘導体若しくはそれらの模倣体、又は構造的に及び/又は抗原性の類似する分子で哺乳動物を免疫して、かかる哺乳動物において、免疫ペプチド又は複数の免疫ペプチドを得るために、免疫特異性を有する抗体分子を誘導することにより、製造することができる。前記ペプチド、誘導体若しくはその模倣体又は類似する分子は、モノマー、ポリマー、又は担体にコンジュゲートされているか、及び/又は、アジュバントの存在下で投与されていてもよい。1つの実施形態において本発明のペプチドは、限定するものではないが、アミノ酸のグリシン又はセリンのようなスペーサーに連結し、破傷風トキソイドを含むアジュバントにコンジュゲートされる。
【0065】
本発明の別の実施形態は、ペプチドを、例えばタンパク質のようなより大きな担体分子にコンジュゲートされたハプテンとして誘導する。他のペプチドと同様に、ペプチドのみの分子量、又は担体に結合している場合の分子量、又はアジュバントの存在下での分子量は、その免疫原性に関係する。限定するものではないが、ペプチドと化学的に結合する一般的に用いられる担体には、ウシ血清アルブミン(BSA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)及びサイログロブリン(Eds: Ed Marlow, David Lane. Antibodies. 1988. Cold Spring Harbour Press, Chapter 5, p. 78)が挙げられる。このように、ペプチドの抗原性又は免疫原性を増強するために、分子量を変化させることができる。ペプチドの全体的な大きさは、生理学的に許容され得るかという点でのみ限定される。本発明のさらなる実施形態は、ヘキサン酸に結合したペプチドに関し、ヘキサン酸は結合したペプチドに対する抗体を生じさせる又は誘導するとの報告がある。その後、本発明のペプチドに誘導される抗体分子は、免疫測定法又は受動免疫を提供するために使用される場合、哺乳動物から採取される。
【0066】
ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ラット、マウス、ヒト等を含む種々の宿主に、免疫原性特性を有する1又は2以上の本発明のペプチド、又は免疫原性のある及び/又はエピトープを含んだ断片又はそのオリゴペプチドを注射して免疫し、抗体を製造することができる。免疫応答を増進させるために、宿主の種に応じ種々のアジュバントを用いることができる。限定するものではないが、適切なアジュバントには、フロイント(不完全)アジュバント、水酸化アルミニウム又はシリカのような鉱物ゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、KLH及びジニトロフェノールのような界面活性剤が挙げられる。ヒトに典型的に用いられるアジュバントには、BCG(カルメット・ゲラン桿菌(bacilli Calmet Guerin))及びコリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvumn)が挙げられる。
【0067】
本発明の抗体分子は、ポリクローナル又はモノクローナルでもよい。モノクローナル抗体は、当技術分野で周知の方法により製造できる。モノクローナル抗体は、特定の抗原の存在を検証するため、抗原間の交差反応を調べるため、及び抗原を精製するために用いることができる。モノクローナル抗体は、特定のエピトープに特異的であり、特定のタンパク質にのみ生じる。最初にKohler and Milstein (Eur. J. Immunol. (1976) 6:511)により記載されたハイブリドーマ技術は、多くの特定抗原に対して高レベルのモノクローナル抗体を分泌する雑種の株化細胞の製造に用いられている(例えば、実施例10を参照のこと)。前記雑種細胞は、純粋な脾臓細胞も純粋な骨髄腫細胞も増殖することができない特定の培地において、増殖し得るかどうかということを基に選別される。前記雑種細胞は、遺伝子の二重の補体を有しているので、腫瘍細胞の不死性及び特定の抗体を産生するという特性を有している。前記ハイブリドーマ及びそのクローンを動物に注射し、抗体を分泌する骨髄腫を誘導するか、又は大量培養で増殖させることにより、特定の抗体を製造することができる。1つのハイブリドーマ細胞クローンが、1つのエピトープ(抗原決定基)に対して大量の同一抗体を産生する。また、免疫グロブリン分子の断片も製造することができ、当技術分野で周知の方法により使用することができる。例えば、特定の抗原に結合できる能力を維持しているFab断片は、本発明の範囲に含まれる。さらに、ヒト抗体は、「ヒト」の免疫系を発現する導入遺伝子動物において製造することができ、又はヒト以外の種において製造された抗体を、当技術分野で周知の方法に従ってヒト化することができる。例えば、Queen et al.に付与された米国特許第6180370号を参照のこと。
【0068】
本発明の抗体はさらに、血液、血漿、血清(例えば分画、又は未分画血清)、ハイブリドーマ上清等を含む、種々の担体又は媒体に包含させることができる。あるいは、本発明の抗体は、例えばDEAEセファデックス又はアフィニティー・クロマトグラフィーのような周知の技術を用いて、所望の程度に単離することができる。前記抗体は、IgM、IgG、IgA、IgG、IgG、IgG、IgG等のような抗体の特定の分類(class)又は亜分類(subclass)を得るために精製することができる。IgG分類の抗体は、受動防御の目的には好ましい。
使用方法−ペプチド
【0069】
本発明のペプチドの作用の機序は不明瞭ではあるが、これらのペプチド、誘導体又はそれらの模倣体は、細菌毒素、具体的にはブドウ球菌及び連鎖球菌発熱外毒素の有害作用に関連する疾患を予防するための有効な免疫をもたらすために用いることができると考えられている。本発明に従って製造される抗体は、受動免疫療法を提供するためにも用いられる。
【0070】
本発明のペプチド、誘導体又は模倣体は、抗体の産生に依存しない機序を通して、内毒素及び外毒素を含む細菌毒素の毒素活性を好ましく阻害すると見られる。従って、本発明のペプチド、誘導体又は模倣体は、その直接作用又は保護抗体の産生を誘導するその能力を通して、細菌の外毒素又は内毒素の放出に由来する症状を予防又は治療するために用いられる。
【0071】
本発明の別の実施形態において、本発明のペプチド、誘導体又は模倣体は、ブドウ球菌及び連鎖球菌性発熱外毒素を含む種々の細菌毒素(好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも4つ、最も好ましくは少なくとも7つの発熱外毒素、例えばA、B、C、E、F、G、K、M)と反応する抗体を誘導することができる。これらのペプチドは、中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒、及び/又はその他のすべての細菌性毒素関連疾患及び病態を予防及び/又は治療する療法に用いる抗体の誘導にも役立つ。
【0072】
本発明のさらなる実施形態は、ブドウ球菌及び連鎖球菌性発熱毒素、好ましくは外毒素に対する抗体の存在を検出し、かつこれらの毒素の存在に関連する疾患の診断を促進する診断測定及びキットにも有用である、本発明のペプチド、誘導体及び模倣体に関する。
【0073】
本発明のペプチド、誘導体又は模倣体はさらに、細菌毒素の存在に由来する又は関連する自己免疫疾患の作用を予防する、又は寛解させるために役立てることができる。
使用方法―抗体
【0074】
本発明が提供する抗体は、ブドウ球菌及び連鎖球菌性発熱外毒素のような種々の細菌毒素に加え、本発明のペプチド、誘導体又はそれらの模倣体とも反応する。これらの抗体は、中毒性ショック症候群、敗血症性ショック又はその他の細菌毒素の存在に関連する疾患に対する抵抗性を増進する又はそれらを予防する受動免疫療法に有用であると考えられる。前記抗体はまた、細菌毒素の存在に由来する又は関連する自己免疫疾患の作用を予防する又は寛解させるのに役立てることができる。本発明の抗体はまた、ブドウ球菌及び連鎖球菌性発熱外毒素及び/又は内毒素のような、細菌毒素の存在を検出する診断検査及びキットにおいて有用である。
【0075】
別の実施形態において、本発明の抗体は多くの診断及び治療の用途を有する。前記抗体は、標準的な免疫分析プロトコルにおいて生物試料中の、種々の細菌毒素の存在を検査するため、及び細菌毒素の存在に関連する種々の疾患の診断を促進するために、インビトロの診断薬として用いることができる。試料中の細菌毒素の存在を検出するために抗体を使用する分析法は、好ましくは少なくとも1つの抗体と試料とを接触させることを含み、前記抗体と、試料に存在する可能性のある毒素との間で免疫複合体の形成が可能な条件のもとで実施する。何らかの免疫複合体の形成があるとすれば、それは試料の中に毒素が存在することを示するものであり、検出されて適切な方法で測定される。そのような分析法には、放射性免疫測定法(RIA)、ELISA法、間接免疫蛍光法、ウェスタンブロット法等が挙げられるが、これらに限定されない。抗体は、用いられた分析法の型に従って標識化又は非標識化することができる。前記抗体に連結できる標識としては、酵素、放射性ヌクレオチド、蛍光発生及び発色基、補助因子、ビオチン/アビジン、金コロイド及び磁性粒子のような当技術分野で周知の標識が挙げられるが、これらに限定されない。抗体を修飾すると、いずれかの周知の方法により、担体タンパク質、ペプチド、又は例えばポリスチレン又はポロビニルマイクロリッタープレート(polyvinyl microliter plate)、ガラスチューブ又はガラスビーズ、及び紙、セルロース及びセルロース誘導体のようなクロマトグラフィー担体並びにシリカのような、周知の支持体に結合させることができる。好ましくは、高スループットの細菌毒素検出方法を、マイクロチップ、ガラススライド又はその他の類似の担体と共に用いてもよい。
【0076】
そのような分析法には、例えば、(標識化された第一抗体が抗原と反応する)直接形式、(標識化された第二抗体が第一抗体と反応する)間接形式、(標識化された抗原の添加のような)競合形式、(標識化された及び非標識化された抗体の両方を利用する)サンドイッチ形式、さらに当技術分野で記載されているその他の形式がある。そのような分析法の1つにおいては、生物学的試料を本発明の抗体と接触させ、標識化された第二抗体を用いて細菌毒素の存在を検出する。かかる抗体は毒素に結合する。
【0077】
本発明の抗体はまた、細菌毒素の有害作用により惹起される疾患の予防や治療用の治療薬としても有用である。哺乳動物、好ましくはヒトにおいて受動免疫性を誘導する抗体は、既に1又は2以上の本発明の共通アミノ酸配列を含んだ組成物を接種された他のヒトから得るのが好ましい。あるいは、他の種から得た抗体も用いることができる。このような治療用の抗体には、限定された半減期及び有害な免疫応答を誘発する傾向があるなどの、いくつかの欠点がある。これらの欠点を克服するため、いくつかの方法が提案されている。これらの方法で作製された抗体は本発明に包含され、本明細書に含まれる。そのような方法の1つは、抗体の抗原結合領域をコードする遺伝子分節を、かかる抗体の残りの部分をコードするヒトの遺伝子分節にクローニングすることにより、非ヒト型抗体を「ヒト型化」することである。このように、前記抗体の結合領域のみが異物と認識されるので、免疫応答を引き起こす可能性はずっと低くなる。Queen, et al.はそのような抗体について記載しており(Proc. Natl. Acad. Sci., USA86(24):10029, 1989)、かかる文献は参照により、本明細書の一部を構成する。
医薬組成物
【0078】
本発明は、毒素産生性細菌に関連する中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒及び自己免疫疾患を予防する又は重篤度を緩和するための組成物及び方法に関する。さらに本発明は哺乳動物、好ましくはヒトに、有効量のペプチド、誘導体又は模倣体を直接投与することにより、哺乳動物における前記の疾患、症候群及び病態を予防又は阻害する方法に関する。
【0079】
本発明の医薬組成物は、薬学的及び/又は治療上有効な量の、共有結合する担体を有する又は有さない少なくとも1つのペプチド、抗体、又は本発明のペプチドをコードする核酸を含む。本発明の1つの実施形態において、単位投与量あたりのペプチドの有効量とは、細菌毒素、具体的にはブドウ球菌及び/又は連鎖球菌性発熱外毒素により刺激されるT細胞増殖を阻害するのに十分な量である。本発明の別の実施形態において、単位投与量あたりのペプチドの有効量とは、限定されるものではないが、下痢、発熱、悪寒、嘔吐、咽喉炎、頭痛、敗血症及び心不全を予防、治療、防御するのに十分な量である。細菌毒素が惹起するこれらの症状のうちの1又は2以上が弱化、寛解、消失すれば、それはすべて有効な量とみなされる。さらに、単位投与量あたりのペプチドの量は、接種された哺乳動物の種類、かかる哺乳動物の体重及び選択された接種法に特に依存し、これらは全て当業者により評価される。
【0080】
本発明は、少なくとも3つの異なる分類(class)の医薬組成物を提供する。1つはペプチド、誘導体又はそれらの模倣体を含む医薬組成物であり、細菌毒素の毒性を直接阻害する。別の医薬組成物は、それ自体が免疫応答を誘導する、適量のペプチドを含む。別の実施形態は、本発明のペプチドに対する応答として産生される抗体を含有する医薬組成物を包含する。これらの医薬組成物は、細菌毒素に対する受動防御をもたらすのに有用である。
【0081】
本発明のペプチド、誘導体、模倣体及び/又は抗体は、レシピエント対象に対する細菌毒素の有害作用を予防、又はその重篤度、程度、期間を軽減させるのに十分な量の投与が意図されている。そのような有害作用は、毒素産生性細菌に関連する中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒及び自己免疫性疾患として現れる。本発明に従って予防又は治療できる可能性のある、細菌毒素に関連した症状には、発熱、悪寒、嘔吐、咽喉炎、頭痛、下痢、排尿の減少、筋肉痛、膣、口腔咽頭又は結膜の充血、見当識障害又は意識変容(alteration in consciousness)、(典型的には手のひら及びかかとの)表皮脱落、血圧低下(ショック)、腎不全、肝不全、心不全が挙げられるが、これらに限定されない。
ペプチド
【0082】
低分子の種を含有する本発明のペプチド、誘導体又はそれらの模倣体は、単独又は例えば受動免疫のようなその他の型の療法と組み合わせて使用する場合、抹消血単核球(PBMC)の増殖の阻害及び/又は細菌毒素のインビボにおける有害作用の緩和、阻害又は消失に役立つ。さらにこれらのペプチドの投与経路には、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、くも膜下腔内、intraplerural、局所等が挙げられるが、これらに限定されない。毒素産生性細菌に関連する疾患に付随する急性の症状を呈する哺乳動物における好ましい投与経路は、静脈内投与である。
【0083】
また、経粘膜的、経皮的方法により投与することもできる。経粘膜的又は経皮的投与では、浸透対象となる障壁に適した浸透剤を製剤に含有させる。そのような浸透剤は一般的に周知であり、例えば経粘膜投与胆汁酸塩及びフシジン酸誘導体が挙げられる。さらに、洗浄剤も浸透を促進するために用いることができる。経粘膜的投与はまた、例えばスプレー式点鼻薬又は座薬によることもできる。経口投与には、本発明のペプチド又はその変異体を、カプセル剤、錠剤、及びトキシック(toxics)のような、従来型の経口投与剤に製剤する。
【0084】
本発明のペプチドには、徐放性送達方式も使用される。例えば、生分解性の微粒子のポリマーマトリックスに、ペプチドを包含することを基本とした送達方式を用いることができる(Jeong et al., Nature 388:860-862, 1997)。そのようなポリマーマトリックスの1つに、ポリ乳酸―グリコール酸ポリマー(polymer poly(lactide-co-glycolide)(PLG)が挙げられる。PLGは、生体適合性があり、静脈内に又は経口的に導入できる。体内に微粒子を注入すると、粒子の水和及び薬剤の溶解を伴う複合的な過程により、カプセル化されたタンパク質が放出される。この放出の持続時間は、主に使用されるPLGポリマーの型及び修飾賦形剤(modifying excipients)の放出に左右される(Bartus, et al., Science 281:1161-1162, 1998)。
【0085】
一般に、レシピエントに対する一回の投薬量は、レシピエントの体重1kg当たり少なくとも約150mg、好ましくは体重1kg当たり少なくとも100mg、より好ましくは体重1kg当たり50mg以上を与えるのが望ましい。体重1kg当たり50mg〜100mgの範囲が好ましいが、より少ない又は多い投薬量を投与することもできる。理論にとらわれることなく、前記投薬量は、毒素経路を遮断するのに有効であると考えられ、言い換えるとレシピエント、好ましくはヒトにおいて、細菌毒素による中毒、具体的にはLPSと1又は2以上のスーパー抗原との組合せが惹起する致死的なショックの発生を予防又は阻害することができる。
免疫原としてのペプチド
【0086】
免疫応答を誘導するための本発明のペプチドの使用に適した「単位投与量」なる用語は、哺乳動物への単位投薬に適した物理的に個別の単位を表し、各々の単位は、必要な希釈剤又は賦形剤と協働して、所望の免疫原性作用を生み出すよう計算された、所定の量の活性物質(ペプチド)を含有する。
【0087】
本発明のペプチドを免疫原として用いる場合、医薬組成物は、有効かつ免疫原となる量の、本発明のペプチドを含む。かかるペプチドはアジュバントと混合してもよい。またかかるペプチドを、無毒の非宿主タンパク質担体に結合してコンジュゲートを形成するか、又は糖類担体及び又は無毒の非宿主タンパク質担体に結合してコンジュゲートを形成してもよい。免疫応答を誘導するのに十分な単位投与量あたりのペプチドの有効量は、アジュバントの有無に加えて、何よりも接種される哺乳動物の種、かかる哺乳動物の体重及び選択される接種法に特に依存する。これらの条件は当技術分野において周知であり、当業者であれば、患者に適切に投薬できる。
【0088】
接種菌液は典型的には、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等のような生理学的に許容される希釈剤又は賦形剤に溶解した溶液として調製され、医薬組成物水溶液を形成する。免疫原として用いる場合には、ペプチドをアジュバントと混合することができる。例えばアルミニウム及びステアリルチロシン(stearyl tyrosine)のような、薬学的に許容されるアジュバントはすべて、本発明のペプチドと共に用いるのに適している。かかるペプチドを無毒の非宿主タンパク質担体と結合させてコンジュゲートを形成するか、又は糖類担体と結合させてコンジュゲートを形成することができる。当技術分野においては、ペプチドをコンジュゲートする種々の方法が知られている。例えば、W. E. Dick and M. B. Beurret (Cruse JM, Lewis RE Jr (eds): “Conjugate Vaccines”. Contrib. Microbiol. Immunol. Basel, Karger 1989, vol. 10, pp. 48-114)を参照のこと。
【0089】
接種菌液は典型的には1回の接種又は単位(投与量)あたり約100μg〜約5mg、好ましくは一回の投与量あたり約3μg〜約500μg、最も好ましくは約100μg〜250μgの濃度のペプチドを含有する。免疫原として用いられる場合、ヒト又は同様の大きさの哺乳動物に対する接種菌液は、1回の接種投与量あたり典型的には、その哺乳動物の体重1kgあたり約1〜5μgの濃度のペプチドを含有する。より高い又は低い量を用いることを検討してもよい。投与回数は好ましくは3回であるが、より少ない又は多い回数を検討してもよい。中毒性、敗血症性ショック又はその他の関連する疾患若しくは病態を予防するため、又はそれらの予防若しくは治療のための抗体の製造に用いられるペプチドの最適投与量を決定するために、当業者に周知の、標準的な用量−反応相関決定手順を用いることができる。
【0090】
本発明のペプチドの接種経路は、典型的には非経口的であり、好ましくは静脈内、筋肉内、皮下等の経路であり、これによりブドウ球菌及び連鎖球菌性発熱外毒素の有害作用を予防する抗体を誘導することができる。投与は、少なくとも1回とする。抗体レベルを上げるため、最初の注射の後、好ましくは最初の投与から約4〜6週間後に、ブースター(抗原補助刺激財)の投与量を、少なくとも1回投与してもよい。必要に応じ、引き続き投与を行ってもよい。
抗体
【0091】
本発明の抗体は、一般的には薬学的及び生理学的に許容される、かかる抗体用の希釈剤、賦形剤、又はビヒクルとともに投与される。生理学的に許容される希釈剤又は賦形剤とは、投与に際して有害な物理的反応を引き起こさないものであり、その中に抗体が十分に溶解でき、かつ治療上有効な量の化合物を送達するだけの活性を維持するものである。前記抗体の投与における、治療上有効な量及び方法は、個々の患者、治療される症状及び当業者に明白なその他の基準によって異なる場合がある。治療上有効な量の抗体とは、非特異的なT細胞の溶解又は臓器の障害といった、重大な副作用を引き起こすことなく、機能障害を緩和するのに十分な量を示す。
【0092】
前記抗体の投与経路としては、非経口及び患部への直接的な注射が挙げられるが、これらに限定されない。投与の非経口的経路には、静脈内、筋肉内、腹腔内及び皮下が挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
本発明は、非経口的投与に適した、前記記載の抗体の組成物を包含すし、それには薬学的に許容される無菌等張液を含むが、これに限定されない。かかる溶液には、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下用の、又は関節若しくはその他の部位への直接的な注射用の生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
哺乳動物、好ましくはヒトのレシピエントに本発明の抗体を与える際、投与する抗体の投薬量は、かかる哺乳動物の年齢、体重、身長、性別、全体的な病態、病歴等により異なる。
【0095】
一般的にレシピエントに対し、その哺乳動物の体重1kgあたり約5mg〜約20mgの範囲の抗体を投与するのが望ましいが、より低い又は高い投与量を与えることもできる。一般的に、前記抗体は、静脈内又は筋肉内に投与される。通常、静脈注射用免疫グロブリン(IVIG)製剤の、初回投与量は体重1kgあたり200mg、毎月の注射量は体重1kgあたり100mgを投与することができる。抗体が欠乏している患者に対し、大量IVIGを、1kgあたり400〜800mg投与することができる。例えば、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 16th Edition, (Berkow R and Fletcher AJ, Eds.), Merck Research Laboratories, Rahway, NJ (1992)を参照のこと。
【0096】
本発明の組成物を、免疫原性反応を誘導するため、特に抗体を誘導するために用いる場合は、抗体レベルを高めるため、初回注射の後、好ましくは4〜6週間後に、少なくとも1回のブースターの投与量を投与する。その後、必要に応じて投与してもよい。
【0097】
抗体価を決定し、本発明の組成物を投与する患者の抗体反応を監視することができる。ほとんどの場合、前記患者から得た血清又は血漿中の抗体価を評価すれば十分である。患者にブースターの接種を行うか、又は投与する組成物の量を変更するかの決定は、少なくとも部分的は前記の力価に基づく。
【0098】
前記力価は、特定の抗原、即ちペプチド又は毒素に結合する血清中の抗体の濃度を測定する免疫結合検査法(immunobinding assay)、又は補体と協働して抗体の殺菌能力を測定する殺菌検査法に基づいて決定することができる。また、インビトロ及びインビボにおいて発熱外毒素の生物作用を中和する能力を評価して、治療の有効性を決定することができる。
【0099】
本発明のポリクローナル又はモノクローナルのいずれかの抗体の存在は、種々の測定法により判断することができる。測定技術には、免疫結合法、免疫蛍光(IF)法、間接免疫蛍光法、免疫沈降法、ELISA法、凝集法及びウェスタンブロット法が挙げられるが、これらに限定されない。
一般的な予防及び/又は治療の用途
【0100】
ペプチド、誘導体、模倣体及び抗体を含む本発明の医薬組成物の投与は、「予防」又は「治療」のいずれかを目的とする。予防的に与える場合、何も症状が現れてないうちに薬剤を投与する。かかる薬剤の予防的投与は、後に起こる毒素産生性細菌に関連した中毒性ショック症候群、敗血症性ショック、食中毒及び自己免疫疾患のすべての有害作用の予防又は緩和に役立つ。治療的に与えられる場合、細菌、好ましくはブドウ球菌又は連鎖球菌性発熱外毒素の発現による感染症の症状が現れ始めた時(又は現れた直後)に、薬剤を与える。本発明の薬剤はこのように、(予想される重篤度、疾患の症状の期間や程度を緩和するために)細菌への予想される曝露の前か、感染したらすぐに投与する。前記薬剤はまた、細菌感染及びその後の毒素反応、特にブドウ球菌又は連鎖球菌発熱外毒素を発現する細菌によるリスクが高い人々に投与することができる。
【0101】
また、本明細書に記載のペプチドをコードする核酸配列を含むウィルスベクターのような、ベクターに基づく治療も検討できる。これらの分子は、病理学的作用を招かないよう展開され、免疫系を刺激してペプチドに反応させる。
【0102】
治療、予防、診断のすべての用途のために、本発明のペプチドは、単一で又は担体に連結され、抗体、その他の必要な試薬及び適切な器具及び付属品にとともに容易に入手かつ使用できるよう、キットの形態で供給することがきる
【0103】
免疫アッセイを伴う場合、このようなキットは例えば、標的分子に特異的な抗体のような受容体が結合するメンブレン(即ちニトロセルロース)、ビーズ、球、試験管、棒等といった固体の担体を含む。前記キットはまた、標識化抗体のような、2次受容体を含んでもよい。これらのキットは、毒素を検出するサンドイッチ測定法にも用いることができる。比較測定法のキットもまた、想定できる。
【0104】
先に記載の治療方法はすべて、そのような治療を必要とする、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ウサギ、サル、及び最も好ましくはヒトのような哺乳動物を含む、すべての患者に適用することができる。
【0105】
次の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明するものであるが、当然のことながら、いかなる面でも本発明の範囲を限定しない。前述の開示及び後述の実施例の教示から、当業者には一定の変更及び変形が明らかであり、これらもまた本発明の精神と範囲に包含されることが意図される。
【0106】
他の意味の明示がない限り、本明細書中の全ての技術的及び科学的用語は、当業者の通常の理解と同様の意味を有する。本発明の実践及び試験において、本明細書に記載されているのと類似した又は同等のいかなる方法及び材料を用いてもよいが、好ましい方法、装置及び材料は記載されている通りである。本明細書に引用されている文献及び引用の理由となる物質は、参照により本明細書の一部を構成する。本明細書のいかなる内容も、先行発明に照らして本発明がそのような開示を先行する資格がないと解釈されない。
【0107】
本明細書及び付随する特許請求の範囲において、単数形(”a”, “an”及び”the”)は、そうではないとの明確な指摘がない限り、複数形での言及も含むこととする。従って、例えば「宿主(”a host cell”)」なる言及には、そのような複数の宿主が含まれ、「抗体(”the antibody”)」なる言及には当業者に周知の1又は2以上の抗体及びその同等物への言及が含まれる等である。
【0108】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[実施例]
【実施例1】
【0109】
材料及び方法
スーパー抗原
全てのスーパー抗原は、Toxin Technology(Sarasota, FL)から購入した。
ペプチドの作成
【0110】
多くのペプチドは、SE/SPE毒素の共通配列に基づいて作製された。ペプチドは、標準的な方法に従ってHPLCにより作製及び精製された(Merrifield, B., Science 232:341-347, 1986; Patarroyo, et al., Nature 328:629-632, 1987)。HPLC分析を行い、全てのペプチドの純度が95%よりも高いことが明らかになった。ペプチドは、Multiple Peptide Systems社(San Diego, CA)により、又はロックフェラー大学(New York, NY)のタンパク質/DNA科学技術センター(the protein/DNA Technology Center at Rockefeller University)において作製された。
幼若化反応/増殖測定
【0111】
ヒト抹消血単核球(PBMC)を、標準的なフィコール・ハイパック技術により単離し、2×10細胞/mlになるように調製した。200μlの完全培地(RPMI+10%のヒトAB型血清)に溶解したPBMC(2×10)を96ウェルの血清皿に移し、様々な投与量のスーパー抗原又は各毒素と、様々な投与量のペプチドとを組合せて刺激した。前記細胞を6日間インキュベートし、結果をトリチウムチミジンの取り込みにより測定した。CPMは、1分あたりのカウントを表す。示されているデータは、3回の別々の実験の平均値をとった結果である。試験はすべて3回実施した。
生存確認試験
【0112】
ヒトPBMCを前記のように単離し、2×10細胞を96ウェルの血清皿に移した。PHAを1ウェルあたり5μgの濃度で添加した。1ウェルあたり200μgの濃度で、全てのペプチドをPHAに添加した。前記皿をCO2培養器において37℃で72時間インキュベートし、その時点で前記細胞に3μキュリーのトリチウムチミジンを添加した。さらに18時間インキュベートした後、細胞を回収し、トリチウムチミジンのCPMをカウントした。試験はすべて3回実施した。
【0113】
2×10のPBMCを96ウェルの血清皿に移し、2つ目の生存確認試験を実施した。様々な濃度のペプチドを添加した。ペプチドを含有する、及び含有しない細胞の分取試料を、5日間毎日トリパンブルーで染色し、ペプチドが存在する、又は存在しない細胞の生存性を観察した。
動物の中毒性ショック実験
【0114】
全実験において、8週齢の雌のBALB/cマウスを用いた。動物は、ロックフェラー大学のLaboratory Animal Research Facility (LARC)で飼育され、実験は本明細書に記載の通りに行われた。0.001mgのリポ多糖(LPS)及び20mgのD−ガラクトサミンを腹腔内に注射し、すべてのマウスを感作した(Blank, et al. Eur. J. Immunol. 27(4):825-833)。8時間後、100%死に至ると証明されているスーパー抗原を、様々な投与量でマウスに注射した。予防実験では、スーパー抗原を注射する2時間前に、実験用マウスに対し生理食塩水又は1.5mgのペプチドを皮下注射した。前記マウスに対し、スーパー抗原を注射する1時間前に、生理食塩水又は1.5mgのペプチド(合計3.0mg)のいずれかを、再度注射した。2回目の注射の1時間後、全てのマウスに対し(腹腔内注射により)適切な投与量の毒素、即ちスーパー抗原の投与を試み、かかるマウスを24〜48時間観察した。
抗体製造
【0115】
WNZの雌のウサギ(3kg)3頭を注射に用いる。最初に、完全フロイントアジュバントに溶解した500μgの重合ペプチドを注射する。次に、初回注射の21日後、各ウサギに対し不完全アジュバントに溶解した250μgのブースターを、21日の間隔で2回与える。本発明のペプチドで被膜したELISAプレートを用い、1×10/mlの抗体価を慣習的方法で得る。重合ペプチドは、大きいほど抗原性も強いことが知られている(Patarroyo, et al., Nature332:158-161, 1988)。
【0116】
本発明のペプチドに対する血清抗体のIgG分画を、プロテインAカラムを用いて単離し、さらに濃縮する。他の細菌毒素領域に対して作られたものに加えこれらの抗体は、ペプチド抗血清は種々の細菌毒素の保存領域を認識できるが、TSST−1の保存領域は認識できないということを示すために用いられる。さらに、これらの抗体は、試験される全ての細菌毒素の幼若化反応を強力に阻害することを示す。加えて、93〜100%のスーパー抗原阻害を達成するのに、ナノグラム単位の総IgGで十分であると決定される。しかし、濃縮されたA群連鎖球菌の糖鎖に対する力価の高い抗体は、毒素の生物特性を遮断できない。
【実施例2】
【0117】
アラニン置換構造物
SEBにおいては、12merのペプチド6343(CMYGGVTEHEGN;配列番号1)が毒素阻害を誘導すると既に報告されているが、SEBの共通配列に関連するペプチド配列の特定のアミノ酸の貢献を評価するため、12merのペプチド6343の各アミノ酸を単一アミノ酸アラニンと置換し、ペプチドの他のアミノ酸は無処置とすることにより、種々のペプチドを作成した。これは相対的に中性のペプチド単一アミノ酸置換なので、アラニンが選択された。構造物の例を表1に示し、置換しているアラニン(A)を太字及び下線をつけて記す。
【表1】

【0118】
図1及び表1に示すように、N末端の最初の3つのいずれかのアミノ酸、即ちシトシン、C(配列番号8)、メチオニン、M(配列番号9)及びチロシン、Y(配列番号10)とアラニンとを置換すると、ペプチドの阻害特性が大きく失活した。3つ目以降のアミノ酸をアラニン置換したペプチドでは、相対的に活性の失活が少なかった。4〜8のアミノ酸残基におけるアラニン置換は、生物活性を阻害した。最初の3つのアミノ酸の置換はいずれも、はるかに大きな阻害の失活を招いた。チロシンのアラニン置換は12merペプチドの阻害特性の完全な失活を招き、これはこのペプチドの阻害活性にとり、チロシンが最も重要であることを示している。さらに意外なことに、N末端から7番目と8番目のアミノ酸(7番目のA及び8番目のA)のアラニン置換が、元の12merのペプチド(6343)自体よりも高い生物活性阻害を招くことを、図1は示している。
【実施例3】
【0119】
アミノ酸除去試験
ペプチドのN末端又はC末端から連続して単一アミノ酸を除去し、一連のペプチドを作成した。表2に示すように構造物は、元の12merのペプチド(6343)から出発するように設計された。
【表2】

【0120】
図2はペプチドによる直接的な幼若化反応阻害の結果を示している。元の12アミノ酸ペプチドのN末端又はC末端から特定のアミノ酸を除去すると、ペプチドの生物特性に影響する。図2に示すように、ペプチドのN末端から最初のアミノ酸を除去すると、250μgの投与量で、阻害活性が約30%失われる(98.65%〜69.37%)。2番目のアミノ酸を除去すると、阻害活性が約50%失われる。C末端から単一アミノ酸を除去すると、活性が18%失われ、2つのアミノ酸を除去すると活性が54%失われた。最後に、ペプチドのN末端又はC末端のいずれかから最初の6つのアミノ酸部分を使用したところ、(それぞれ52%及び48%で)ペプチドの活性の失活は、ほぼ等しかった。本発明のペプチドと同様の特性を有するように設計された模倣体は同様に作用し、スーパー抗原T細胞の刺激を直接的に阻害する。
【実施例4】
【0121】

三量体の試験
ペプチドの阻害特性を完全に遮断する、分子のN末端部分の単一アミノ酸置換実験は、N末端の最初の3つのアミノ酸、即ちC、M及びYを中心に展開するペプチドの構成を誘導した。図3は、CMYペプチド三量体、その誘導体及び元の12merペプチド(6343)を、SEB(2μg/ウェル)に対して比較するペプチド幼若化反応測定の結果を示している。フィコール・ハイパック法で単離したPBMCは、様々な投与量の、陽性対照としての12merペプチド(ペプチド6343)又は三量体のどちらかと混合した。CMY及びYMCの三量体は、結果として、元の12merペプチドと同程度にSEB増殖を阻害した。CMYペプチドのアセチル化は、CMYの阻害作用を大きく変化させなかった。しかしより高い投与量では、CMY及びYMCのD型立体構造、即ちcmy及びymcは、対照の12merペプチド又はそれらの各々のL型立体構造ペプチドよりも、極めて大きな阻害作用を示した。低濃度のペプチドは、顕著なSEB増殖阻害作用を示さなかった。「スクランブル」された、ペプチド6343Sと表記されている12merの対照ペプチドは、EHEGNCMYGGVT(配列番号28)のアミノ酸配列を有するが、図3に示すように細菌毒素の増殖に対しては、わずかな作用しか及ぼさなかった。
【実施例5】
【0122】
種々の三量体及び二量体ペプチドの幼若化反応測定
CMY三量体のD型及びL型立体構造の両方のみならず、逆位ペプチド三量体のYMCも毒素のスーパー抗原活性を阻害するのに有効であることが見いだされたので、一連の三量体及び二量体を作製した。元のCMY三量体の代わりに種々のアミノ酸を置換した。次のペプチド:cmy−OH、cmy−NH、AMY、CAY、MYC、CYM、CY、MY及び元の12merペプチド(6343)を用い、前記記載のように、ヒトPBMCにおいて幼若化反応測定を実施した。図4は、種々の三量体及び、CMY三量体を中心に展開する二量体でさえもすべて、毒素の幼若化反応を阻害するのに有効であったことを示す。より詳細な試験を行うと、システイン(C)又はメチオニン(M)のどちらかを欠く三量体も有効であることが明らかになり、これはチロシンが阻害活性に不可欠なアミノ酸であることを示唆している。
【実施例6】
【0123】
チロシンの重要性を検査する幼若化反応測定試験
AAA、AV及びTTTのペプチドを、Biochem Company(King of Prussia, PA)から購入し、98%以上の純度であることが明示された。図5は、チロシンアミノ酸の重要性を分析する幼若化反応測定試験の結果を示す。図5の結果は、チロシンを欠く三量体又は二量体が有効ではないことを示しており、これはチロシンが阻害活性に重要であることを示唆している。意外なことに、3つのチロシンを有する三量体もまた有効ではなかった。
【実施例7】
【0124】
三量体及び四量体ペプチドの試験
分析用に次のような三量体及び四量体を構成した。
CMY
CMYG(配列番号20)
CMYGK(配列番号21)
CMYKK(配列番号22)
【0125】
上記記載のペプチドはすべて、標準的な手順(Merrifield, B., Science 232:341-347, 1986; Patarroyo, et al., Nature 328:629-632, 1987)に従い、固相ペプチド合成法を用いて合成され、Multiple Peptide Systems社(San Diego, CA)によって調製された。すべてのペプチドをHPLC分析したところ、純度は少なくとも95%であった。
【0126】
溶解度が増大すると、ペプチドが例えばMHC分子とよりよく結合するので、前記三量体及び四量体に、溶解度を高めるアミノ酸をさらに付加した。リシンを付加すると、ペプチドの溶解度を高めるとの報告がある。図6は、四量体及び三量体のC末端にリシンを1つ及び2つ付加したペプチドを用いた結果を示している。CMYKK(配列番号22)のペプチドは、SEBの増殖を元の12merペプチド(6343)と同程度に阻害し、高濃度の場合、元の12merペプチド(6343)よりも高い阻害をもたらした。同様に、CMYG(配列番号20)の四量体にリシンを付加すると、元の12アミノ酸ペプチドと同程度のSEB増殖の阻害をもたらした。実際、200μgの濃度では、CMYKK(配列番号22)及びCMYGK(配列番号21)の両方が、12merペプチド(6343)よりも効果的にSEBの増殖を阻害した。
【0127】
CMY三量体及びCMYG(配列番号20)の四量体ペプチドの両方を作成した。図7は、これらのペプチドを用いた幼若化反応測定の結果の平均値である。三量体は、毒素の増殖作用の阻害において、元の12アミノ酸ペプチド(即ちペプチド6343)と同程度の活性であった。しかし四量体は濃度に関係なく、毒素の阻害において相対的に少ない作用しか及ぼさなかった。
【実施例8】
【0128】
生存確認試験
ペプチドが通常の細胞機能を妨害していないことを確認するため、72時間のフィトヘマグルチニン(PHA)幼若化反応測定を実施し、96ウェル血清皿のヒトPBMC(100μl;2×10細胞/ml)に目的の各ペプチドを200μg添加し、1ウェルあたりの総体積を200μlとした。実験はすべて3回実施した。陽性の分裂促進コントロールとして、1ウェルあたり5μgの濃度でPHAを添加した。96時間のインキュベート後、各ウェルに3μCiのトリチウムチミジンを添加し、さらに18時間インキュベートした後、回収した。カウントを、ベータカウント読取機で分析した。図8は、ウェルに(CMY、YMC、ymc、cmyの)各ペプチドを最高投与量で添加した場合でも、PHAによる刺激は影響を受けなかったことを示す。
【0129】
2つ目の生存確認試験として、トリパンブルー排除試験を実施した。各ペプチドにつき、数日間にわたり細胞死を調査した。この方法によるPBMCの観察により、ペプチドを含む細胞と含まない細胞とでは、セルカウントに差がないことが明らかになった。
【実施例9】
【0130】
種々のペプチドで予防されたマウスのインビボ分析
YMCのペプチド三量体を用い、コントロール6頭及び実験用のBALBの4頭の雌マウス(8週齢)で、ネズミ科のインビボ実験を実施した。マウス1頭あたり、0.1μgのLPA及び20μgのガラクトサミンを、腹腔内に注射し、まずマウスを感作した(Blank, et al. Eur. J. Immunol. 27(4):825-833)。8時間後、前記マウスを24〜48時間以内にほぼ100%致死させるのに適当な投与量のスーパー抗原又は毒素を投与した。予防試験において、毒素の投与の1時間前に、各動物に対し、3.0mg/100μlのYMCペプチド三量体又は対照としての生理食塩水を腹腔内(intraperitoneally (IP))投与した。1時間後、すべてのマウスに0.02μgのSEBを(腹腔内注射で)与え、かかるマウスを24〜48時間観察した。結果を表3に示す。生理食塩水を注射された対照と比較すると、前記実験動物における致死的ショックの誘導は、YMC三量体の投与により予防された。
【表3】

【0131】
D型立体構造の三量体であるymc及びcmyを用いた試験をさらに実施し、8〜10週齢の雌のMalb/cマウスに、ゼロ時点で0.01mgのリポ多糖(LPS;カルビオケム)及び20mgのD−ガラクトサミンをIP注射した。5時間目に、前記実験動物に対し、適当なペプチド2mgをIPで与えた。6時間目に、前記実験動物に対し、100μlに溶解した0.05μgのSEB(Sigma社製)をIP注射し、一方対照マウスにはリン酸バッファー生理食塩水(PBS)を同体積で与えた。図4は、Balb/cマウスにおいてスーパー抗原性ショックを予防するために三量体を用いることの影響を表す。
【表4】

【0132】
表4は、D型立体構造のymc三量体が、スーパー抗原SEBに由来するマウスのショックの予防にかなり有効であったことを示す。D型立体構造cmy三量体もまた、スーパー抗原誘発性ショックをある程度予防した。
【実施例10】
【0133】
モノクローナルスーパー抗原抗体の製造
2頭のBalb/cマウスを(共通領域I及びIIの両方を含む)ペプチド6348で、1ヶ月の間隔をあけて2回免疫し、注射は2ヶ所の別の部位に打った。1回目の注射剤は200μg(200μl)のペプチド6348及び完全フロイント・アジュバントを含有し、2回目の注射剤には、不完全アジュバントを用いた。2回目の注射後の10日後、マウスに球後出血が観察された。生理食塩水に溶解したブースターをさらに1回投与し、10日後、球後出血があるかどうかにより、かかる動物を検査した。ペプチド6348に対する抗体価について、採取した血清をELISA法で検査した。ペプチド6348に対し、マウス1はマウス2に比べてより高い力価(即ち1:50,000の希釈度で1.0OD、450nm)を有していた。マウス2の力価は、1:50,000の希釈度で、0.9ODであった。さらなる研究用に、マウス1を選択した。
【0134】
マウスを死亡させ、かつマウスの骨髄腫と脾臓細胞とを融合させる2日前に、蒸留水(100μl)に溶解した200μgのブースター投与量のペプチド6348IPをマウス1に投与した。脾細胞を獲得し、84%の塩化アンモニウムで処理し、標準的なプロトコルに従い赤血球を溶解させた(Antibodies: A Laboratory Manual, 1988, Chapter 6, “Monoclonal antibodies” Eds. E. Harlow & D. Lane, Cold Spring Harbor Press)。かかる脾細胞を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で洗浄し、再浮遊させ、カウントした。かかる融合は、マウスの骨髄腫培養細胞株SP2/0(ATCCより購入)を用い、標準技術により実施し、骨髄腫細胞1個につき、マウス1由来の脾臓細胞4個の割合で融合させた。各々の96ウェルプレート10mlにつき、脾細胞の総数は2×10個(1ウェルあたり200,000個の細胞)であった。最終培地はDMEM、10%のヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)溶液及び10%の胎児ウシ血清(FCS)であった。
【0135】
前記融合細胞混合物をHAT溶液で培養すると、骨髄腫/脾臓融合細胞の選択が可能になった。なぜなら、非融合脾臓細胞は成長潜在力が乏しく死んでしまい、一方非融合骨髄腫細胞は、HAT培地でヌクレオチドのデノボ合成が遮断されると成長できないので死んでしまったからである。前記96ウェルプレートを2週間観察し、その間、コントロールと比較して細胞増殖したウェルを継代した。5%の胎児ウシ血清を添加したDMEMで、生存かつ成長している骨髄腫/脾臓雑種細胞を20〜30日間培養し、残留しているアミノプテリンを希薄化した。通常、モノクローナル細胞株を十分に単離するには、一連の限界希釈クローニングを3回行うと十分である。
【0136】
細胞融合の40〜50日後、選択したウェルから上清を収集し、免疫した抗原に対する抗体の存在について、酵素免疫測定法(ELIZA法)で検査した。ペプチド6348に対する活性があるかどうか、前記上清をELISA測定法で検査した。ELIZAで陽性を示したウェルを、6mlの培養ウェルに移した。選択した15のクローンのうち、ELIZAにおいてペプチド6348に対して最も高い力価を示した3つのクローンを確保し、さらなる検査に備えた。本発明はブタペスト条約の規約に従い、米国基準菌株保存機構(ATCC)(P.O.Box 1549, Manassas, VA 20108)に、ATCCアクセッション番号―――――で――――――に寄託された2D5、1H10及び1B1と標識されている3つのクローン又はハイブリドーマを提供する。
【0137】
2D5、1H10及び1B1と標識されたこれら3つのクローンを継代し、イミュノブロット技術を用い、15%SDS寒天から移した6つのスーパー抗原を伴った試験をさらに行った。試験した6つのスーパー抗原とは、SEA、SEB、SEC、SPEA、SPEC及びTSST−1であった。すべてのレーンは、次のように注薬された:SEA、SEB、SECについてはウェルあたり5μgの毒素、SPEA及びTSST−1についてはウェルあたり10μgの毒素、SPECについてはウェルあたり7μgの毒素。イミュノブロットは、2時間かけて2D5モノクローナル抗体を層状にすることにより、反応させた。除去及び洗浄後、1:500の希釈度で、アルカリフォスファターゼ複合ヤギ抗マウスIgG抗体を1時間用いた。メンブレンを、5−ブロモ−4クロロ−3−インドリルリン酸/ニトロブルー・テトラゾリウム(BCIP/NBT)紫液基質系にひたし、反応させた。5分後に蒸留水で反応を止めた。1H10及び1B1のクローンを用いたイミュノブロットも、同様に実施した。
【0138】
2D5、1H10及び1B1の3つのクローン全てについてのイミュノブロット試験の結果を、表5に示す。
【表5】

2D5モノクローナル抗体のイミュノブロット試験の結果としては、2D5はスーパー抗原に対して高い反応を示し、試験した6つの抗原中6つを同定した。しかし、1H10及び1B1のクローンはスーパー抗原に対して2D5のクローンほどは反応しなかった。具体的には、1H10のクローンはSEA及びSEBの2つの抗原を認識し、1B1は6つのスーパー抗原の中の4つ、SEA、SEB、SEC及びSPECに反応した。
【実施例11】
【0139】
ペプチド三量体を用いたモノクローナルスーパー抗原抗体製造
Mikolajczyk SD, et al. Bioconjug. Chem. 1994 Vol.5: p 636-46に記載の方法に従い、過ヨウ素酸酸化により、L又はD型のいずれかの立体構造において、例えばcmyのような、三量体のシステイン末端にセリンを結合させる。次に、還元脱アミノ化ステップを実施して、破傷風トキソイド(TT)担体を前記セリンに結合させる。このようにすると、ハプテンとしての三量体が免疫原性が得られる。
【0140】
2頭のBalb/cマウスをTTペプチド三量体コンジュゲートで、1ヶ月の間隔で2回免疫し、注射は2ヶ所の別の部位に打つ。1回目の注射剤は200μg(200μl)のTTペプチド三量体及び完全フロイント・アジュバントを含有し、2回目の注射剤には、不完全アジュバントを用いた。2回目の注射の10日後、球後出血が起きた。TTペプチド三量体に対する抗体価の存在について、回収した血清をELISA法で検査した。3回目の投与量は、生理食塩水に溶解して与えてもよい。1:50,000の希釈度及び450nmで、マウス2に比較してマウス1のほうがペプチド三量体に対して高い抗体価有する場合は、さらなる試験用に、マウス1を選択する。本出願に記載のペプチドを対象としたモノクローナル抗体は、前記に記載の通りに、及び標準的なプロトコル(Antibodies: A Laboratory Manual, 1988, Chapter 6, “Monoclonal antibodies” Eds. E. Harlow & D. Lane, Cold Spring Harbor Press)に従って製造される。
【実施例12】
【0141】
ペプチド6348に対して製造されたモノクローナル抗体を用いたペプチド吸収試験
製造されたモノクローナル抗体が、ペプチドの全領域又は共通領域1のみを対象とするのか確認するため、(共通領域1及び2を対象とする)ペプチド6348を、マウスの免疫に用い、本明細書に記載のように、12−merのペプチド6343又はより少ないペプチドで吸着するのに使用する。前記モノクローナル抗体が、ペプチド全体又は例えば12−merのペプチド6343を認識するのか判断するため、ペプチド6348を対象とするモノクローナル抗体を37℃で1時間混合し、次に4℃で一晩混合することにより、6つの全てのスーパー抗原を認識するクローン2D5の上清を、10mgのペプチド6343で吸着させる。10,000RPMで30分間遠心分離したのち、6つのスーパー抗原を含むイミュノブロット上に前記上清を層状にする。アルカリフォスファターゼ及びアルカリフォスファターゼ基質とともに、ヤギ抗マウスIgGを転写に用いる。前記モノクローナル抗体が、前記ペプチド又は共通領域1を対象とするならば、ペプチド6343抗原は、スーパー抗原を対象とする抗体全てを吸着する。対照には、共通領域2のペプチドであるペプチド6346のみならず、ペプチド6343に関連しないペプチドでの吸着も含む。吸着試験は、L型又はD型立体構造三量体のような、本明細書に記載の他のペプチドでも実施されたが、それらに限定されない。
【実施例13】
【0142】
モノクローナル抗体の確認
細胞培養中で維持でき、かつモノクローナル抗体を分泌し続ける、単一融合細胞由来の細胞クローンを製造するため、2D5を含めて選択されたクローンの限界希釈を実施した。その他の8つのクローンについて、拡張及びイミュノブロット検査を実施した。限界希釈は、次のように実施する。希釈する(2×10の細胞を含有する)10μlの各クローンを、5%のFBSを含む10mlのDMEMに入れ、1列目は1ウェルあたり100個の細胞となるようにする。次にこれらの細胞を、通常培地で1:1に希釈し、100μlを、2列目に回す。この手順を、96ウェルの12列全部が埋まるまで繰り返す。最後に、全ウェルに100μlの通常培地を加え、1ウェルあたり合計200μlとする。これらの限界希釈されたクローンのうち1つが、再度6つのスーパー抗原すべてについて陽性である場合、このクローンをSED、SPEG、SPEH、SPEZのような、しかしこれらに限定されない、まだ試験されていないその他のスーパー抗原について試験する。さらに、確実に単一モノクローナル抗体を得るため、2回目の限界希釈を実施する。種々のクローンの活性を試験するため、ELISA法を実施する。元の及び拡張したクローンの両方の、全てのクローン、−125℃の液体窒素中で回復可能に凍結する。クローンの精製後、モノクローナル抗体と、前記に記載の通り中毒性ショックのモデルマウスにおいて防御となることが既に知れているポリクローナル抗体とを比較する。結果が陽性であれば、単一モノクローナル抗体は試験されたスーパー抗原全てに対して反応することを示唆する。このクローンを「ヒト化」し、スーパー抗原を用いたバイオテロを防止するための予防剤としてヒトに用いることができる。
【実施例14】
【0143】
ペプチドと相互作用するMHCクラスII分子
この12−merのペプチド(6343)が、なぜスーパー抗原の幼若化反応特性を阻害することができるのか決定するため、また毒素活性を阻害することのできる、ペプチド中のチロシンの役割を決定するため、MHCクラスII分子と12−merのペプチド(6343)との間の相互作用についての立体模型をいくつか構築した(Visvanathan, K., et al. Infection and Immunity 69:875-884, 2001)。模型の構築は、MODELLERプログラム(Sali, A. and Blundell, T.L. J. Mol. Biol., 234:779-815, 1993)を用いて完成させた。モデルの構築は、このプログラムを用い、多くの距離、角及び二面角の制限を満たしながら、自動的に行った。比較モデリングにおける第1ステップは、鋳型構造、タンパク質データバンク(PDB)構造1SEB及び2SEB(Dessen, et al. Immunity 7:473-481, 1997; Jardetzky, et al. Nature 368:711-718, 1994)の同定及び解析であった。スーパー抗原(SEB)及びMHCクラスII分子の間の相互作用の解析により、ジスルフィドループ(残基92〜96)が、MHCクラスII分子のアルファヘリックスのアルファ1(α1)領域に接触していることがわかった。シスルフィドループとアルファ1領域との相互作用にシステインが関与しているとの先の研究(Visvanathan, K., et al. Infection and Immunity 69:875-884, 2001)に基づき、ペプチド6343とMHCクラスII分子との間の相互作用のモデリングの鋳型構造として、前記ジスルフィドループを用いた。次の標的鋳型配列を用い、最初のモデルを設計した。
モデル1:鋳型ペプチド:C--YFSKK---(配列番号30)
標的ペプチド:CMYGGVTEHEGN(配列番号1)
LIGPLOTプログラム(Wallace, et al. Protein Eng. 8:127-134, 1995)を用いてモデルをさらに解析すると、チロシン残基側鎖が、MCHクラスII分子の残基、即ちアラニン61、ロイシン60及びグルタミン57と疎水的に相互作用することが示された。かかる知見は、実証的に観察された、ペプチド−MHCクラスII相互作用におけるチロシン残基の重要性と一致する。モデル2及び3は、次の標的鋳型配列比較を用いて設計した。
モデル2:鋳型ペプチド: CYFSKK-----(配列番号31)
標的ペプチド: CMYGGVTEHEGN(配列番号1)
モデル3:鋳型ペプチド: --CYFSKK---(配列番号31)
標的ペプチド: CMYGGVTEHEGN(配列番号1)
【実施例15】
【0144】
MHCクラスII結合測定
免疫親和性精製可溶性ヒトMHC DR1(ハーバード大学のDr. Strominger提供)で、pH8及び1ウェルあたり1μgの濃度で、0.1M TRISにおいて4℃で、プレートを一晩被覆する。BSAの1%PBS溶液を用いて、被覆したプレートを1時間ブロックする。ペプチド6343を様々な濃度でウェルに加え、1時間インキュベートする。ELISA洗浄バッファーにて3回洗浄した後、RPMIで1:500に希釈されたウサギ抗ペプチド抗体(6343)を加え、さらに1時間インキュベートした。適切な親和力を有する、HRPとコンジュゲートした抗体を、1:1000の希釈度で用いる。過酸化水素とTMB基質との1:1の混合物(100μl;Kirekegaard and Perry, Inc)を暗室にて20分用い、その後プレートを読む。培養のステップはすべて室温で実施する。プレートは、各々の培養ステップ間でELIZA洗浄バッファーで3回洗浄する。全測定が確実に同じpH7.0で実施されるよう、結合培地のpHを調整する。各測定において、必ずイオン強度を調整するよう注意を払う。解離平衡定数である見かけ上のKdは、先にFridkis-Hareli and J.L. Strominger (J. Immunol. 160:4386-4397, 1998)により記載のように、ラインウィーバー・バーク方程式(Segal, I.H. 1975. “Enzyme Kinetics”, p. 107-108. In: Behavior and Analysis of Rapid Equilibrium and Steady-State Enzyme Systems. John Wiley & Sons)を用いて計算する。
【実施例16】
【0145】
模倣体の設計
限定するものではないが、例えば本発明のペプチド又は誘導体のような、所定の標的特性を有する化合物から模倣体を設計するためには、いくつかのステップを実施する。第1に、標的特性の決定に必要な分子、ペプチド又は誘導体の具体的な成分を確定する。これは、ペプチドのアミノ酸残基を組織的に変更することで実施できる。例えば、各残基を系統的に置換することにより、「ファルマコフォア」又は化合物の活性領域が決定できる。本発明のペプチドにおいて、チロシン残基は不可欠な残基であると確認されている。ファルマコフォアが同定できれば、当業者に周知の技術を用いて、立体化学、結合性、大きさ又は/及び電荷のような物性に従って構造を設計することができる。この方法の変形は、3次元構造のモデリングを伴う。次に鋳型分子を選択し、かかる分子に、ファルマコフォアを模倣する化学基を結合させる。さらに、この方法により決定される模倣体をスクリーンし、標的特性を検出する。しかし模倣体は、本発明のペプチド及び誘導体を含むが、これらに限定されず、別の分子の構造、機能及び/又は作用を模倣するのであれば、どのような分子でもよい。
【0146】
当業者には当然のことながら、又は通常の実験を行えば、本明細書に記載の発明の具体的な実施形態には、多くの同効の目的を有するものがあることが確認できる。そのような同効の目的を有するものは、付随するクレームに包含される。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】図1は、ペプチドの特定部位のアルゴリズム的アラニン置換対SEBの結果を示しており、幼若化反応測定法により、ヒトPBMCを用いてトリチウムチミジンの取り込みを測定して決定した。12−merペプチド(6343)全体について、単一アラニンアミノ酸で置換するペプチド構造物を調製し、ウェルに添加する(表1)。ペプチドのN末端の最初の3つのアミノ酸のいずれかをアラニンで置換すると、ペプチドの阻害活性は最も大きく失活する。
【図2】図2は、N末端及びC末端からアミノ酸が欠失するように構築されたペプチド誘導体を用いた幼若化反応測定法の結果の平均値を示す(表2)。グラフは、トリチウムチミジン取り込み法で測定した、SEB(2μg/ウェル)に対する種々のペプチド誘導体の阻害作用を百分率で比較したものである。NMは通常培地を示し、PHAは陽性の分裂促コントロールのフィトヘマグルチニンを表す。
【図3】図3は、ヒトPBMCを用いた幼若化反応測定の結果を示す。グラフは、トリチウムチミジン取り込み法により、SEB(2μg/ウェル)に対する次のペプチドの阻害作用を百分率で比較したものである:CMY、アセチル化CMY、cmy、YMC、ymc並びに12−merペプチド6343及び6343S。6343Sのペプチド(EHEGNCMYGGVT(配列番号28))は各々示されているように、25μg〜200μgの範囲で、ペプチドを様々な投与量で添加する。大文字はペプチドが天然L型立体構造であることを示し、小文字はペプチドがD型立体構造であることを示す。6343Sペプチドは、最小のSEB増殖阻害作用(20%未満)を有する。スーパー抗原の活性の遮断において、CMY又はYMCは、元の12−merペプチド6343とほぼ同程度の作用がある。意外なことに、D型立体構造のcmy及びymcは、スーパー抗原の活性遮断において、最も効果的である。
【図4】図4は、上記及び実施例1に記載の、ヒトPBMCを用いた幼若化反応測定法の結果を示す。グラフは、トリチウムチミジン取り込み法で測定した、SEB(2μg/ウェル)に対する種々のペプチド誘導体及び12−merペプチド(6343)の阻害作用を百分率で比較したものである。チロシン(Y)を含む種々の組合せの二量体及び三量体は、全て有効である。また、これらの二量体及び三量体を少投与量で用いても、12−merペプチドよりも有効である。
【図5】図5は、上記及び実施例1に記載の方法に従って、ヒトPCMC及びSE毒素を用いた幼若化反応測定法の結果を示す。75μg〜200μgの範囲で、種々の投与量のペプチドを細胞に添加した。チロシンを含む二量体及び三量体は、特に有効であることが見出されたが(図4)、3つのチロシン(YYY)を含む三量体は、阻害性を有さない。
【図6】図6は、ペプチド誘導体の阻害作用を百分率で比較したものである。CMYGK(配列番号21)、CMYKK(配列番号22)及び12−merペプチド(6343)を種々のペプチド濃度で、SEB(2μg/ウェル)に対して比較し、トリチウムチミジン取り込み法で測定した。結果として、3つのペプチドが同程度の阻害率を示した。
【図7】図7は、ペプチド幼若化反応測定法で次のペプチドを比較した結果を示している:CMY、CMYG(配列番号20)及び12−merペプチド(6343)。種々のペプチド濃度でSEB(2μg/ウェル)に対して比較し、トリチウムチミジン取り込み法で測定した。三量体は、ペプチド6343と比較して同程度の阻害作用を有する。
【図8】図8は、ヒトPMBC及びSEB毒素を用いた幼若化反応測定の結果を示す。細胞(100μl)をPHA(5μg)のみのウェル又は200μgのペプチド(CMY、YMC、ymc及びcmy)も含むウェルに混合して全体で200μlの体積のウェルとする。96時間のインキュベート後、各ウェルに3μCiのトリチウムチミジンを添加する。かかる細胞混合物をさらに18時間インキュベート後回収し、ベータカウント値読取機で分析する。PHA刺激カウントでは、ペプチドの有無による顕著な差はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド、その誘導体及びその模倣体が、メチオニン及びチロシンが隣接するアミノ酸配列並びに配列番号7のTEHEGNのアミノ酸配列からなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸配列を含み、かつペプチドが本質的に12個以下のアミノ酸からなることを特徴とする、細菌毒素活性を阻害するペプチド又はその誘導体であり、前記アミノ酸配列が、いずれかの天然の毒素分子にみられるアミノ酸配列ではなく、かつペプチドが、配列番号1のCMYGGVTEHEGNではないことを条件とする、細菌毒素活性を阻害するペプチド又はその誘導体。
【請求項2】
ペプチドが、CY、MY、CMY、YMC、MYC、AMY、CAY、配列番号4のCMYGGVTEHEG、配列番号5のCMYGGVTEHE、配列番号6のCMYGGV、配列番号7のTEHEGN、配列番号11のCMYAGVTEHEGN、配列番号12のCMYGAVTEHEGN、配列番号13のCMYGGATEHEGN、配列番号21のCMYGK及び配列番号22のCMYKKからなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、細菌毒素活性を阻害するペプチド又はその誘導体。
【請求項3】
本質的に6個以下のアミノ酸からなる、請求項1記載のペプチド又はその誘導体。
【請求項4】
本質的に5個以下のアミノ酸からなる、請求項1記載のペプチド又はその誘導体。
【請求項5】
本質的に4個以下のアミノ酸からなる、請求項1記載のペプチド又はその誘導体。
【請求項6】
ペプチドが三量体であることを特徴とする、請求項1記載のペプチド又はその誘導体。
【請求項7】
ペプチドが、CMY、CYM、YMC、MYC、AMY及びCAYからなる群から選択される三量体からなるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項6記載のペプチド又はその誘導体。
【請求項8】
三量体が、D型立体構造をとることを特徴とする、請求項7記載のペプチド又はその誘導体。
【請求項9】
ペプチドが、二量体であることを特徴とする、請求項1記載のペプチド又はその誘導体。
【請求項10】
ペプチドが、CY及びMYからなる群から選択される二量体からなるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項9記載のペプチド又はその誘導体。
【請求項11】
二量体がD型立体構造をとることを特徴とする、請求項10記載のペプチド又はその誘導体。
【請求項12】
模倣体が、主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子のアルファ1領域のアルファヘリックスと細菌毒素との間の疎水性相互作用を模倣することを特徴とする、請求項1記載のペプチド又は誘導体の模倣体。
【請求項13】
模倣体が、主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子のアルファ1領域のアルファヘリックスと細菌毒素との間の疎水性相互作用を模倣することを特徴とする、請求項2記載のペプチド又は誘導体の模倣体。
【請求項14】
ペプチド、誘導体又は模倣体が、1つのチロシン残基、メチオニン及びチロシンが隣接するアミノ酸配列並びに配列番号7のTEHEGNのアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含み、かつ前記ペプチドが本質的に12個以下のアミノ酸からなることを特徴とする、細菌毒素活性を阻害するペプチド又はその誘導体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物であり、前記アミノ酸配列が、いずれかの天然の毒素分子にみられるアミノ酸配列ではなく、かつ前記ペプチドが、配列番号1のCMYGGVTEHEGNではないことを条件とする医薬組成物。
【請求項15】
ペプチドが、CY、MY、CMY、YMC、MYC、AMY、CAY、配列番号4のCMYGGVTEHEG、配列番号5のCMYGGVTEHE、配列番号6のCMYGGV、配列番号7のTEHEGN、配列番号11のCMYAGVTEHEGN、配列番号12のCMYGAVTEHEGN、配列番号13のCMYGGATEHEGN、配列番号21のCMYGK及び配列番号22のCMYKKからなる群から選択されるアミノ酸配列、生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含むことを特徴とするペプチド又はその誘導体を含む医薬組成物。
【請求項16】
本質的に6個以下のアミノ酸からなることを特徴とする請求項14記載のペプチド又はその誘導体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項17】
本質的に5個以下のアミノ酸からなることを特徴とする請求項14記載のペプチド又はその誘導体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項18】
本質的に4個以下のアミノ酸からなることを特徴とする請求項14記載のペプチド又はその誘導体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項19】
ペプチドが三量体であることを特徴とする請求項14記載のペプチド又はその誘導体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項20】
ペプチドが、CMY、CYM、YMC、MYC、AMY及びCAYからなる群から選択される三量体からなるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項19記載のペプチド又はその誘導体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項21】
三量体がD型立体構造をとることを特徴とする請求項20記載のペプチド又はその誘導体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項22】
ペプチドが二量体であることを特徴とする請求項14記載のペプチド又はその誘導体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項23】
ペプチドがCY及びMYからなる群から選択されるいずれかの二量体からなるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項22記載のペプチド又はその誘導体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項24】
二量体がD型立体構造をとることを特徴とする請求項23記載のペプチド又はその誘導体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項25】
模倣体が、主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子のアルファ1領域のアルファヘリックスと細菌毒素との間の疎水性相互作用を模倣することを特徴とする、請求項14記載のペプチド又は誘導体の模倣体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項26】
模倣体が、主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子のアルファ1領域のアルファヘリックスと細菌毒素との間の疎水性相互作用を模倣することを特徴とする請求項15記載のペプチド又は誘導体の模倣体、及び生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項27】
a)少なくとも1つの細菌毒素を有する単核細胞に、生理学的に許容される希釈剤に溶解した、薬学的及び生理学的に有効な量の請求項1記載のペプチド、誘導体又は請求項12記載の模倣体を添加し、かつ
b)少なくとも1つの細菌毒素を有する単核細胞の幼若化反応を阻害することを含む、少なくとも1つの細菌毒素の存在下における、単核細胞の幼若化反応の阻害方法。
【請求項28】
a)哺乳動物に、請求項2記載のペプチド若しくは誘導体、又は請求項13記載の模倣体を相当量投与し、かつ
b)幼若化反応を阻害することを含む、少なくとも1つの細菌毒素の存在下における、単核細胞の幼若化反応の阻害方法。
【請求項29】
哺乳動物がヒトであることを特徴とする、請求項28記載の方法。
【請求項30】
治療上有効な量の請求項1記載のペプチド、誘導体若しくは模倣体、又は請求項12記載の模倣体を、それを必要とする哺乳動物の予防及び治療のために投与することを含む、細菌毒素の毒性により治療が必要な哺乳動物の予防又は治療方法。
【請求項31】
治療上有効な量の請求項2記載のペプチド、誘導体若しくは模倣体、又は請求項13記載の模倣体を、それを必要とする哺乳動物の予防及び治療のために投与することを含む、細菌毒素の毒性により治療が必要な哺乳動物の予防又は治療方法。
【請求項32】
a)哺乳動物に、相当量の請求項1記載のペプチド、誘導体若しくは模倣体、又は請求項12記載の模倣体を、生理学的に許容される担体に抱合させて投与し、かつ
b)少なくとも1つの細菌毒素に結合する抗体の産生を誘導することを含む、少なくとも1つの細菌毒素に結合する抗体の誘導方法。
【請求項33】
a)哺乳動物に、相当量の請求項2記載のペプチド、誘導体若しくは模倣体、又は請求項13記載の模倣体を、生理学的に許容される担体に抱合させて投与し、かつ
b)少なくとも1つの細菌毒素に結合する抗体の産生を誘導することを含む、少なくとも1つの細菌毒素に結合する抗体の誘導方法。
【請求項34】
抗体が少なくとも1つの細菌毒素に結合することを特徴とする、請求項1記載のペプチド、誘導体若しくは模倣体、又は請求項12記載の模倣体に結合する抗体を含む免疫学的に十分な量の医薬組成物を、インビボで投与することを含む、細菌毒素の毒素作用に対する哺乳動物の受動免疫方法。
【請求項35】
抗体が少なくとも1つの細菌毒素に結合することを特徴とする、免疫学的に十分な量の請求項2記載のペプチド、誘導体若しくは模倣体、又は請求項13記載の模倣体に結合する抗体を含む医薬組成物を、インビボで投与することを含む、細菌毒素の毒素作用に対する哺乳動物の受動免疫方法。
【請求項36】
少なくとも1つの、請求項1記載のペプチド又は誘導体をコードする核酸。
【請求項37】
少なくとも1つの、請求項2記載のペプチド、誘導体又は模倣体をコードする核酸。
【請求項38】
請求項36記載の核酸を含む宿主。
【請求項39】
請求項37記載の核酸を含む宿主。
【請求項40】
a)生理学的に許容される担体中の請求項36記載の核酸を、必要としている哺乳動物に投与し、
b)免疫学的に十分な量の、コードされたペプチドを発現させ、かつ
c)抗体を誘導することを含む、細菌毒素に結合する抗体の誘導方法。
【請求項41】
a)生理学的に許容される担体中の請求項37記載の核酸を、必要としている哺乳動物に投与し、
b)免疫学的に十分な量の、コードされたペプチドを発現させ、かつ
c)抗体を誘導することを含む、細菌毒素に結合する抗体の誘導方法。
【請求項42】
請求項1記載のペプチド、誘導体若しくは模倣体、又は請求項12記載の模倣体と試料とを接触させ、かつb)抗体に結合したペプチド又は誘導体を検出することを含む、試料中の、細菌毒素に対する抗体の存在の検出方法。
【請求項43】
請求項2記載のペプチド、誘導体若しくは模倣体、又は請求項13記載の模倣体と試料とを接触させ、かつb)抗体に結合したペプチド又は誘導体を検出することを含む、試料中の、細菌毒素に対する抗体の存在の検出方法。
【請求項44】
請求項40記載の方法により調製される抗体。
【請求項45】
請求項41記載の方法により調製される抗体。
【請求項46】
請求項44記載のいずれかの抗体と試料とを接触させ、かつ毒素に結合した抗体を検出することを含む、試料中の細菌毒素の存在の検出用キット。
【請求項47】
請求項45記載のいずれかの抗体と試料とを接触させ、かつ毒素に結合した抗体を検出することを含む、試料中の細菌毒素の存在の検出用キット。
【請求項48】
本質的にCMYのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項49】
本質的にYMCのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項50】
本質的にCAYのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項51】
本質的にAMYのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項52】
本質的にMYCのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項53】
本質的にCYMのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項54】
ペプチドが、D型立体構造のペプチドであることを特徴とする本質的にcmyのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項55】
ペプチドが、D型立体構造のペプチドであることを特徴とする本質的にymcのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項56】
本質的にCYのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項57】
本質的にMYのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項58】
本質的に配列番号11の、CMYAGVTEHEGNのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項59】
本質的に配列番号12の、CMYGAVTEHEGNのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項60】
本質的に配列番号13の、CMYGGATEHEGNのアミノ酸配列からなる、細菌毒素活性を阻害するペプチド、その誘導体又は模倣体。
【請求項61】
ペプチド又はその誘導体がペプチドであることを特徴とする、請求項1〜11及び請求項48〜60のいずれかに記載のペプチド又はその誘導体
【請求項62】
抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項44記載の抗体。
【請求項63】
抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項45記載の抗体。
【請求項64】
請求項62記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項65】
請求項63記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−524378(P2007−524378A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509397(P2006−509397)
【出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/009450
【国際公開番号】WO2004/087742
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(505364072)ザ ロックフェラー ユニヴァーシティ (1)
【Fターム(参考)】