中空アルミニウム合金とその製造方法
【課題】低コストかつ簡便な方法で得られ、広範な車両部位への適用に好適な密度を有する中空アルミニウム合金を提供する。
【解決手段】Alマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相を有し、かつ前記初晶化合物相同士の間の一部に中空領域を有することを特徴とする中空アルミニウム合金である。
【解決手段】Alマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相を有し、かつ前記初晶化合物相同士の間の一部に中空領域を有することを特徴とする中空アルミニウム合金である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空アルミニウム合金およびその製造方法に関する。より詳細には、自動車用衝撃吸収部材、防音部材などに好適な中空アルミニウム合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷を低減する取り組みの一環として、自動車の燃費向上のための車両の軽量化が進められている。一方、自動車衝突時の乗員保護や歩行者保護の観点からは安全性の向上が求められる。このように、自動車の軽量化および安全性の確保の両立は自動車の材料開発において重要な技術課題となっている。しかし、一般に車両の軽量化は剛性の低下や衝突エネルギー吸収性の低下を伴うため、軽量化と安全性の確保とを両立させることは容易ではない。したがって、軽量かつ十分な機械的強度を有する材料の開発が切望されている。
【0003】
かかる状況下、軽量でエネルギー吸収特性に優れる部材として、中空アルミニウム合金が注目されている。中空アルミニウム合金は、アルミニウム等の軽金属中に多数の空孔(セル)を含む構造を有する。この中空アルミニウム合金は軽量である上、圧縮変形の際にプラトー領域が現れるため衝撃吸収性に優れる。さらに、断熱・吸音特性にも優れる。このため、衝突安全性、軽量化、快適性の観点から、バンパ、クラッシュボックス、ボンネットなどの自動車用衝撃吸収部材やフロントピラー、センタピラー、フード、トランクリッド、サンルーフ、ファイアウォールなどの多くの部位への適用が期待されている。
【0004】
かような中空アルミニウム合金の代表的なものとして発泡アルミニウムがあり、その製造方法として、発泡剤を用いた溶湯法が知られている(特許文献1を参照)。この方法は、溶融アルミニウムに増粘剤としてCa等を添加した後に、発泡剤としてTiH2を添加する。このTiH2粒子が溶湯中で分解してH2ガスを放出することにより気孔が生じ、アルミニウム合金発泡体を得るというものである。そして、この方法で得られるアルミニウム合金発泡体の密度は0.2〜0.5g/cm3程度であると報告されている。
【特許文献1】特開2007−77487号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されるような中空アルミニウム合金の製造方法は、発泡剤として高価なTiH2を添加するため、発泡剤のコストがかさみ、大量生産される量産車への実用化には至っていない。
【0006】
一方、一般に発泡アルミニウム合金の密度が大きいほど高強度化および高剛性化が図られるため、高密度化することでより強度や剛性が求められる衝撃吸収材以外の車体(サイドシル等)の部位への適用が期待できる。しかし、特許文献1のような発泡剤を用いた溶湯法ではこれ以上の高密度化は困難であり、その他の方法でも低コストで空孔密度の比較的小さい発泡アルミニウム合金を得るのは困難である。このように、現状の発泡アルミニウム合金では、車体等のより広範囲な車両材料への適用を可能とするような比較的高い密度を実現することは難しいという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、低コストかつ簡便な方法で得られ、広範な車両部位への適用に好適な密度を有する中空アルミニウム合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、アルミニウムおよびカルシウムを含む初晶化合物を制御することにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の中空アルミニウム合金は、Alマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相を有し、かつ前記初晶化合物相同士の間の一部に中空領域を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低コストかつ簡便な方法により、中空アルミニウム合金が得られる。さらに、本発明の中空アルミニウム合金は従来の発泡アルミニウムに比べて比較的高い密度を有する。このため、衝撃吸収材以外の広範な部位への適用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい形態を説明する。
【0012】
本発明の代表的な一形態は、Alマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相を有し、かつ前記初晶化合物相同士の間の一部に中空領域を有することを特徴とする中空アルミニウム合金である。
【0013】
図1A、図1B、および図1Cは、本発明者らによって作製された中空アルミニウム合金の断面を写した光学顕微鏡写真である。詳細には、図1Aは、中空アルミニウム合金のマクロな断面写真であり、図1Bは図1Aの中空アルミニウム合金の断面の一部をより拡大したミクロな断面写真であり、図1Cは図1Bの中空アルミニウム合金の断面の一部をさらに拡大したミクロな断面写真である。図中、1は中空領域であり、2はAlおよびCaを含む初晶化合物相であり、3はAlマトリックスである。図1Aに示すように、本発明の中空アルミニウム合金は合金の内部に中空領域1が均一に形成された構造を有する。より詳細には、図1Bおよび図1Cに示すように、本発明の中空アルミニウム合金はAlマトリックス3中に初晶化合物相2を有する。そして、図1Bに示すように、この初晶化合物相2は粗大な針状の組織が3次元ネットワーク状に分散した構造を有し、当該初晶化合物2同士の間の一部に中空領域1が均質に存在している。
【0014】
以下、本発明の中空アルミニウム合金について、詳細に説明する。
【0015】
[合金組成]
本発明の中空アルミニウム合金は、Alを主成分としたCa含有アルミニウム合金からなる。本発明の中空アルミニウム合金において、Alは残部であって、その含有量が限定されるものではない。例えば、質量比率で考えたときに、含有元素中でもっとも多い元素がAlであればよい。特に、Al合金全体を100質量%としたときに、Al含有量が50質量%以上、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上のAl基合金であると、低密度化を図る上で好ましい。また、当然に不可避不純物は存在し得る。
【0016】
(Ca)
本発明の中空アルミニウム合金におけるCaの含有量は、後述するAlおよびCaを含む初晶化合物相が得られる限り、特に制限されない。ただし、アルミニウム合金におけるCaの含有量は7.7質量%以上27質量%以下であることが好ましく、11質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。Caを7.7重量%以上含む場合には、中空構造の生成に好適な初晶化合物相が得られる。Caを11質量%以上含む場合には、初晶化合物相がネットワーク状に広がる上で十分な量となるため、より低密度な中空体を得ることが可能となる。一方、Caの含有量が27質量%以下である場合には、後述するAlマトリックスが主にAlおよびAl4Caの共晶から構成され、マトリックスに延性があるため所望の中空体を得ることができる。また、Caの含有量が20質量%以下である場合には、初晶化合物の過剰な生成が抑制され、中空体の脆性化を防止することができ、十分な強度が確保される。
【0017】
(第3元素)
本発明の中空アルミニウム合金においては、本発明の中空アルミニウム合金の趣旨を逸脱しない範囲内で上記Ca以外にも、以下のような元素(以下、第3元素ともいう)を含有していてもよい。例えば、Mg、Sr、Ba等の第2族元素;Mn、Cu、Fe、Ti、Cr、Zr等の第4〜11族元素(遷移金属元素);Znなどの12族元素(亜鉛族元素);Si等の第14族元素;P等の第15族元素等の元素を含有していてもよい。また、これらの元素のうち1種のみを含有してもよいし、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0018】
(Zn)
これらの中でも、本発明の中空アルミニウム合金は12族元素(亜鉛族元素)であるZnをさらに含むことが好ましい。アルミニウム合金がZnを含む場合にはアルミニウム合金の中空域を増大させ、低密度化することができる上、耐食性を向上させることができる。アルミニウム合金中のZnの含有量は0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。Znの含有量が0.1質量%以上であれば、耐食性や低密度化の効果が得られる。一方、Znの含有量が10質量%以下であれば、過剰な初晶化合物の生成による中空領域の減少を防止でき、適度な中空領域を確保することができる。
【0019】
(Ti、Zr)
また、本発明の中空アルミニウム合金は、Tiおよび/またはZrをさらに含むことが好ましい。アルミニウム合金において、TiやZrは核生成サイトとして機能でき、この核生成サイトであるTiやZrの近傍において多数の初晶化合物相を生成することができる。したがって、本発明のアルミニウム合金においてTiやZrは微細化剤として機能し、合金の中空部をより微細均質化することが可能となる。このため、Tiおよび/またはZrをさらに含む場合にはより均質で低密度な中空アルミニウム合金が得られ、微小部品への適用に有効な合金材料が得られる。アルミニウム合金中のTiおよび/またはZrの含有量の合計は0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下であることが特に好ましい。Tiおよび/またはZrの含有量の合計が0.3質量%を超えると核生成サイトとなる晶出物が粗大化し、機械的特性に悪影響を及ぼすおそれがある。一方、0.1質量%に満たない場合は核生成サイトの数が少ないため十分な微細化効果が得られないおそれがある。
【0020】
また、上記に例示したZn、Zr、Ti以外の第3元素(例えば、Mg、Si、Mn、Cu、Fe、P、Ba、Sr、Crなど)の場合でも、本発明の中空アルミニウム合金の趣旨を逸脱しない範囲内で適量(好ましくは、微量)含有していてもよい。
【0021】
[初晶化合物相]
本発明の中空アルミニウム合金はAlマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相を有する。本発明において「AlおよびCaを含む初晶化合物相」とは、AlおよびCaを含む合金を冷却した際の液相から晶出する化合物の結晶相を意味する。また、「AlおよびCaを含む」とは、初晶化合物相がAlおよびCaを少なくとも含んでおり、さらに他の元素を含みうるということを意味する。初晶化合物相はAlおよびCa、ならびに場合によっては他の元素からなる単一組成の化合物から構成されていてもよいし、これらの元素からなる複数の異なる組成の化合物から構成されていてもよい。
【0022】
本発明の中空アルミニウム合金において、AlおよびCaを含む初晶化合物相は粗大な針状の組織が三次元のネットワーク状に均一に分散した形態を有する。かような形態を有することにより、所望の中空構造を有するアルミニウム合金を簡便に製造することができる。
【0023】
(初晶化合物)
以下、本発明の中空アルミニウム合金に含まれる初晶化合物相を構成する化合物について説明する。初晶化合物相は、Alと、Caと、場合によっては第3元素からなる金属間化合物で構成される。ここで、金属間化合物とは2種以上の金属元素から形成される化合物をいい、成分原子比は必ずしも化学量論比でなく、広い組成範囲を持つことが多い。
【0024】
図2にAl−CaのAl側の二次元状態図を示す。Caを7.7重量%以上含む過共晶Al−Ca系合金においては、合金の溶湯を冷却した際に初晶化合物としてAl4CaまたはAl2Caの金属間化合物が晶出し、中空構造の生成に好適な初晶化合物相が得られる。具体的には、Caを7.7質量%以上14.2質量%以下含む場合には初晶化合物相はAl4Ca相であり、Caを14.2質量%以上27質量%以下含む場合には初晶化合物相はAl4Ca相およびAl2Ca相の混晶である。
【0025】
Znをさらに含有する場合には、Al−Ca系合金における初晶化合物であるAl4CaまたはCaAl2のAlサイトがZnにより部分置換される。このため、初晶化合物量を増加させ、低密度化することができる。
【0026】
一方、Zr、Ti等を含む場合には、ZnのようにAlサイトに部分置換するのではなく、Al−Ca系合金において説明したのと同様に初晶化合物相はAl4Ca相および/またはAl2Ca相である。
【0027】
本発明の合金は、AlおよびCaを含む初晶化合物相を有することにより、発泡剤を使用することなく中空構造を有するアルミニウム合金を低コストかつ簡便に得ることが可能となる。以下、本発明の中空アルミニウムの製造メカニズムについて説明するが、本発明によるメカニズムは下記によって限定されるものではない。
【0028】
本発明では、AlおよびCaを含む溶湯を冷却することにより、粗大な針状の三次元ネットワーク構造を有するAlおよびCaを含む初晶化合物相が形成される。そして、より冷却が進むと、溶湯がこれらの初晶化合物の間に流れ込み、共晶反応により凝固され、Alマトリックスとなる。しかし、Caを含む溶湯は粘性が高いため、溶湯の初晶化合物間への流動が抑制され、その結果、初晶化合物の間に中空領域が生じ、中空構造を有するアルミニウム合金が得られる。このように本発明では、Al−Ca系合金において初晶化合物相の組織形成条件を制御することにより、低コストかつ均一な中空アルミニウム合金を開発するに至ったものである。また、合金成分を制御することにより、密度や中空領域の大きさを制御することができ、用途に適した所望の中空アルミニウム合金を得ることができる。
【0029】
[中空領域]
本発明の中空アルミニウム合金において、初晶化合物相同士の間に中空領域が存在している。そして、図1Aおよび図1Bに示すように、中空アルミニウム合金中には複数の中空領域が均一に分散されている。このため、軽量であるとともに、安定した品質が得られる面で優れている。
【0030】
中空領域の形状は特に限定されるものではなく、球状、略球状、楕円球状、角体状などの様々な形状であってよい。中空領域のサイズや分散形態も特に限定されないが、微細なサイズで均一に分散されていることが好ましい。
【0031】
[Alマトリックス]
Alマトリックスは少なくともAlを含む相から構成され、その相の組成は特に制限されない。例えば、図2に示すように、Caの含有量が7.7質量%以上27質量%以下であるAl−Ca系合金においては、溶湯が616℃以下に冷却されるとAlとAl4Caとの共晶相が生成する。この共晶相がAlマトリックスを構成する。したがって、本発明の中空アルミニウム合金において、Alマトリックスは主にAlおよびAl4Caの共晶から構成される。ただし、マトリックスはAl相とAl4Ca相のみから構成される2相組織であってもよいし、Al相およびAl4Ca相に加えて他の相を含む3相組織またはそれ以上の多相組織であってもよい。例えば、中空アルミニウム合金がZn、Ti、Zrなどの第3元素を含む場合にはAl、Ca、第3元素との金属間化合物の相が含まれる多層組織となりうる。また、Alマトリックス組織の形態や形状は特に限定されるものではないし、当然に不可避不純物は存在し得る。
【0032】
なお、上記の初晶化合物相、Alマトリクス、中空領域の存在は、光学顕微鏡等による組織観察により確認することができる。
【0033】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の中空アルミニウム合金は発泡剤などの添加剤を含んでもよい。
【0034】
[密度]
本発明の中空アルミニウム合金の密度(嵩密度)は、好ましくは0.5g/cm3より大きく2.5g/cm3以下であり、より好ましくは1.0g/cm3以上2.5g/cm3以下であり、さらに好ましくは1.5g/cm3以上2.3g/cm3以下であり、特に好ましくは1.7g/cm3以上2.0g/cm3以下である。本発明の中空アルミニウム合金は従来実現が困難であった、純アルミニウム金属の密度(2.7g/cm3)と従来の発泡アルミニウムの密度(0.2g/cm3〜0.5g/cm3)との間の中間領域の密度を有する。すなわち、純アルミニウム金属に比べて低密度であり、部材の軽量化が図られる。一方、従来の発泡アルミニウムに比べてより高密度を実現することができる、これによりプラトー応力が高く小さい変位量でエネルギーを吸収することができるとともに、高強度化および高剛性化が図られる。
【0035】
[製造方法]
本発明の他の一形態によれば、中空アルミニウム合金の製造方法が提供される。この製造方法は、AlおよびCaを含む溶湯を得る工程((1)溶湯調製工程)と、前記溶湯を10−3℃/秒以上103℃/秒以下の冷却速度で冷却凝固させる工程((2)冷却凝固工程)と、を有する。
【0036】
本発明の製造方法によれば、AlおよびCaを含む溶湯を冷却凝固させる際の冷却速度を所定の範囲とすることにより、Alマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相が生成される。そして、前記初晶化合物相同士の間の一部に中空領域が分散した構造を有する中空アルミニウム合金を得ることができる。本発明の方法は、従来の溶湯法による発泡アルミのような発泡剤を必要としないうえ、溶湯の制御も容易であり、簡便に所望の中空アルミニウム合金を製造することができる。
【0037】
本発明の製造方法は上記の冷却速度が実現される方法であれば特に制限されない。具体的には、砂型鋳造法、金型鋳造法、低圧鋳造法、スクイズキャスティング法を用いることができる。以下、上記工程(1)、(2)による中空アルミニウム合金の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0038】
(1)溶湯調製工程
まず、所望の合金組成を有する溶湯を調製する。溶湯を調製する方法は特に制限されず、従来公知の方法に基づいて行えばよい。例えば、まず、AlおよびCaを含む合金を製造する場合には、Alの純金属に対し、Caの純金属を所望の組成となるように添加し、大気中またはArなどの不活性ガス雰囲気下、大気圧の条件下で、700℃〜1000℃の温度に昇温して溶融金属を調製する。そして、溶融金属を700℃〜1000℃の温度下で5分〜1時間の間、電磁誘導、超音波振動、または高周波振動により攪拌させる。
【0039】
Zn、Ti、Zrなどの第3元素を含む場合にも、AlおよびCaの純金属に加えて、Zn、Ti、Zrなどの添加元素の純金属を所望の組成比率となるように添加し、上記と同様の方法により溶融金属を調製、攪拌する。
【0040】
これにより中心部と外周部の温度差が緩和され温度分布を均一化させることができるため、結晶粒子が均一に分散して安定した特性の合金が得られる。
【0041】
上記手順により、所望の組成を有するアルミニウム合金の溶湯が得られる。本工程において、溶湯における合金成分を制御することにより、アルミニウム合金の密度や中空領域のサイズを制御することができ、所望の中空アルミニウム合金を簡便に得ることができる。
【0042】
(2)冷却凝固工程
続いて、上記で得た溶湯を冷却して凝固させ、中空構造を有するアルミニウム合金を形成する。溶湯の冷却速度は10−3℃/秒以上103℃/秒以下、好ましくは10−3℃/秒以上10℃/秒以下である。
【0043】
かような冷却速度で冷却する場合には、AlおよびCaを含む粗大な初晶化合物相を十分に晶出させることができ、アルミニウム合金中に所望の中空領域を形成させることができる。103℃/秒を超える冷却速度を用いた場合には、初晶化合物が十分に晶出できず、ネットワーク構造を形成できないおそれがあるため好ましくない。一方、10−3℃/秒未満の冷却速度を用いた場合には、初晶が粗大化するため好ましくない。
【0044】
冷却凝固の方法はかような冷却速度が実現される方法であれば特に制限されない。好適な実施形態において、冷却凝固工程は、前記溶湯を鋳型に注入する工程と、前記溶湯を大気中で凝固させる工程とを有する。本実施形態による製造方法によれば、複雑な工程処理や装置を必要とすることなく、上記で作製した溶湯を鋳型に注入するという非常に簡便な方法で中空アルミニウム合金を得ることができる。
【0045】
溶湯を鋳型に注入する際の条件は特に制限されないが、例えば、大気中またはAr雰囲気中、温度650℃〜900℃の条件下で行えばよい。
【0046】
また、溶湯を大気中で凝固させる際の条件も特に制限されないが、例えば、大気中(25℃)で1〜10時間放置すればよい。
【0047】
冷却後、鋳型から中空アルミニウム合金を取り出すことにより、中空アルミニウム合金が得られる。得られた中空アルミニウム合金に対して、適宜、仕上げ加工や機械加工等の各種処理を施すことで、多様な製品を製造することができる。
【0048】
また、所望の形状を有する鋳型を用いることで、特に後処理工程を行うことなく、所望の形状を有する中空体を得ることが可能となる。
【0049】
以上のように本発明の中空アルミニウム合金は、単に大気中で鋳型に流し込むだけで均質な中空金属部材を得ることができるため、非常に低コストであり、以下に示すようなさまざま用途への適用が見込まれる。
【0050】
[衝撃吸収材料]
本発明の他の一形態は、中空アルミニウム合金を含む衝撃吸収材料を提供するものである。本発明の中空アルミニウム合金は従来の発泡アルミニウム合金に比べてプラトー応力が高く、小さい変位量でエネルギーを吸収することができる。なお、本発明でいう「中空アルミニウム合金を含む衝撃吸収材料」は、種々の形態を含む。具体的には、素材(例えば、鋳塊、スラブ、ビレット、焼結体、圧延品、鍛造品、線材、板材、棒材等)に限らず、それを加工したアルミニウム合金部材(例えば、中間加工品、最終製品、それらの一部等)などをも意味する。本発明の衝撃吸収材料はフロントピラー、センタピラー、フード、トランクリッド、サンルーフ、ファイアウォールなどの車体の多くの部位に好適に用いることができる。
【0051】
[その他の用途]
また、本発明の中空アルミニウム合金は、従来の発泡アルミニウムに比べて密度が大きく、これにより高強度および高剛性(特に、ねじり剛性)を有するため、車体骨格構成部材の内部に充填することで車体の高剛性化を図ることができる。
【0052】
この他、本発明の中空アルミニウム合金においては一定の熱伝導および電気伝導が確保されるため、各種電子機器の実装部品としても用いることができる。さらに本発明の中空アルミニウム合金は、各種吸音、防音材、建材等へも好適に適用可能なほか、低い弾性率を有し軽量であることを生かして、人工骨等への適用も可能である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明による二次電池の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜10および比較例1]
(中空アルミニウム合金の作製)
表1に示す組成の中空アルミニウム合金を以下のようにして作製した。
【0054】
純度99.9%以上のAl、Ca、Zn、Zr、Tiの純金属を用い、表1に示す組成比率となるように混合し、800℃程度に昇温して溶湯を調製した。この溶湯を約800℃のAr雰囲気中で30分間高周波溶解により攪拌し合金化した。
【0055】
次いで、これを大気中に坩堝ごと取り出し、深さ2.5cm、幅4cm、長さ22cmの舟形の鉄製鋳型に流し込み冷却した。これらの操作により中空アルミニウム合金のインゴットを得た。
(評価)
上記の方法で作製した各中空アルミニウム合金のインゴットについて、以下の評価を行った。
【0056】
1.密度
上記で得たインゴットを鋳型から取り出し、15mm×15mm×100mmのサイズの直方体に切り出した。切り出した試験片の密度をアルキメデス法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0057】
2.組織観察
上記で得たインゴットの長手方向(長さ方向)に対して垂直の断面を光学顕微鏡により観察した。観察結果を図1および3〜12に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
(評価結果)
1.密度
表1に示すように、実施例1〜10により得られた中空アルミニウム合金は密度が0.5g/cm3より大きく2.5g/cm3以下であった。すなわち、本発明の中空アルミニウム合金においてはいずれも、純アルミニウム金属(2.7g/cm3)や一般的なアルミニウム合金の密度と従来の発泡アルミニウムの密度(0.2〜0.5g/cm3)との間の中間領域の密度を実現することができた。
【0060】
一方、比較例1で得られたアルミニウム合金の密度は純アルミニウム金属や一般的なアルミニウム合金の密度と同程度の値を有し、十分な軽量化が図れていないことが確認された。
【0061】
また、Caの含有量が11質量%以上である実施例2および3の中空アルミニウム合金は、Caの含有量が11質量%未満である実施例3の中空アルミニウム合金に比べて低密度化することができた。
【0062】
第3元素としてZnを含む実施例4〜実施例8の中空アルミニウム合金は、同程度のCaの含有量を有する実施例1〜3の中空アルミニウム合金に比べて、密度を低減できることがわかった。また、第3元素としてTiまたはZrを含む実施例9、実施例10の中空アルミニウム合金は、同程度のCaの含有量を有する実施例3の中空アルミニウム合金に比べて、同程度かより小さい密度を有していた。
【0063】
2.組織観察
図4、図1、図5〜図12はそれぞれ実施例2〜10で得られた中空アルミニウム合金の断面写真である。また、図3は比較例1で得られた中空アルミニウム合金の断面写真である。なお、図1B、図3B、図9B、図11B、および図12Bはそれぞれ図1A、図3A、図9A、図11A、および図12Aのアルミニウム合金の断面の一部をより拡大したミクロな断面写真である。そして、図1Cおよび図3Cは図1Bおよび図3Bのアルミニウム合金の断面の一部をさらに拡大したミクロな断面写真である。
【0064】
光学顕微鏡による観察により、実施例1〜10で得られたアルミニウム合金では、Alマトリックス中に針状の組織がネットワーク状に分散した初晶化合物が存在することを確認した。また、複数の中空領域がこの初晶化合物同士の間に均質に分散していることがわかった(図1、図4〜図12を参照)。
【0065】
一方、比較例1で得られたアルミニウム合金においては、初晶としてAlが晶出しており、実施例1〜10において観察されるような初晶化合物は存在しないことが確認された。また、均質な中空領域(空隙)も存在せず、引け巣程度の空隙しか存在しないことが確認された(図3を参照)。
【0066】
また、Caの含有量が11質量%以上である実施例2および3の中空アルミニウム合金(図1、図5を参照)はCaの含有量が11%未満である実施例1の中空アルミニウム合金(図4)に比べて、多数の中空領域を均質に有しており、軽量な材料とできることがわかった。
【0067】
さらに、第3元素としてZnを含む実施例4〜8の中空アルミニウム合金(図6〜10)は同程度のCaの含有量を有する実施例1〜3(図1、4、5)の中空アルミニウム合金に比べて、より中空領域(空隙)を増大させることができることがわかった。実施例7で得られた中空アルミニウム合金のミクロな断面図(図9B)に示されるように、Znを添加することにより、初晶化合物量が増加しており、これにより中空領域の生成量が増加したと推定される。
【0068】
さらに、第3元素としてTiまたはZrを含む実施例9、実施例10の中空アルミニウム合金(図11、図12)は同程度のCa含有量を有する実施例2および3(図1、図5)に比べて中空領域(空隙)がより微細均質化したことが確認できた。実施例9および10の中空アルミニウム合金においては、図11Bおよび図12Bのミクロな断面図に示されるように初晶化合物が緻密化しており、これにより中空領域が微細均質化されたと考えられる。
【0069】
以上から、本発明によれば、発泡剤を用いる従来の方法に比べて非常に低コストで簡便な方法により、所望の密度を有する中空アルミニウム合金が得られることがわかった。さらにZnやTiおよびZrなどの第3元素を合金成分として添加することにより、中空合金の密度や中空領域のサイズを制御できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1A】実施例2で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図1B】実施例2で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図1C】実施例2で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図2】Al−Ca系のAl側の二次元状態図である。
【図3A】比較例1で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図3B】比較例1で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図3C】比較例1で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図4】実施例1で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図5】実施例3で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図6】実施例4で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図7】実施例5で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図8】実施例6で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図9A】実施例7で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図9B】実施例7で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図10】実施例8で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図11A】実施例9で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図11B】実施例9で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図12A】実施例10で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図12B】実施例10で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0071】
1 中空領域、
2 初晶化合物相、
3 Alマトリックス。
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空アルミニウム合金およびその製造方法に関する。より詳細には、自動車用衝撃吸収部材、防音部材などに好適な中空アルミニウム合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷を低減する取り組みの一環として、自動車の燃費向上のための車両の軽量化が進められている。一方、自動車衝突時の乗員保護や歩行者保護の観点からは安全性の向上が求められる。このように、自動車の軽量化および安全性の確保の両立は自動車の材料開発において重要な技術課題となっている。しかし、一般に車両の軽量化は剛性の低下や衝突エネルギー吸収性の低下を伴うため、軽量化と安全性の確保とを両立させることは容易ではない。したがって、軽量かつ十分な機械的強度を有する材料の開発が切望されている。
【0003】
かかる状況下、軽量でエネルギー吸収特性に優れる部材として、中空アルミニウム合金が注目されている。中空アルミニウム合金は、アルミニウム等の軽金属中に多数の空孔(セル)を含む構造を有する。この中空アルミニウム合金は軽量である上、圧縮変形の際にプラトー領域が現れるため衝撃吸収性に優れる。さらに、断熱・吸音特性にも優れる。このため、衝突安全性、軽量化、快適性の観点から、バンパ、クラッシュボックス、ボンネットなどの自動車用衝撃吸収部材やフロントピラー、センタピラー、フード、トランクリッド、サンルーフ、ファイアウォールなどの多くの部位への適用が期待されている。
【0004】
かような中空アルミニウム合金の代表的なものとして発泡アルミニウムがあり、その製造方法として、発泡剤を用いた溶湯法が知られている(特許文献1を参照)。この方法は、溶融アルミニウムに増粘剤としてCa等を添加した後に、発泡剤としてTiH2を添加する。このTiH2粒子が溶湯中で分解してH2ガスを放出することにより気孔が生じ、アルミニウム合金発泡体を得るというものである。そして、この方法で得られるアルミニウム合金発泡体の密度は0.2〜0.5g/cm3程度であると報告されている。
【特許文献1】特開2007−77487号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されるような中空アルミニウム合金の製造方法は、発泡剤として高価なTiH2を添加するため、発泡剤のコストがかさみ、大量生産される量産車への実用化には至っていない。
【0006】
一方、一般に発泡アルミニウム合金の密度が大きいほど高強度化および高剛性化が図られるため、高密度化することでより強度や剛性が求められる衝撃吸収材以外の車体(サイドシル等)の部位への適用が期待できる。しかし、特許文献1のような発泡剤を用いた溶湯法ではこれ以上の高密度化は困難であり、その他の方法でも低コストで空孔密度の比較的小さい発泡アルミニウム合金を得るのは困難である。このように、現状の発泡アルミニウム合金では、車体等のより広範囲な車両材料への適用を可能とするような比較的高い密度を実現することは難しいという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、低コストかつ簡便な方法で得られ、広範な車両部位への適用に好適な密度を有する中空アルミニウム合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、アルミニウムおよびカルシウムを含む初晶化合物を制御することにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の中空アルミニウム合金は、Alマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相を有し、かつ前記初晶化合物相同士の間の一部に中空領域を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低コストかつ簡便な方法により、中空アルミニウム合金が得られる。さらに、本発明の中空アルミニウム合金は従来の発泡アルミニウムに比べて比較的高い密度を有する。このため、衝撃吸収材以外の広範な部位への適用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい形態を説明する。
【0012】
本発明の代表的な一形態は、Alマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相を有し、かつ前記初晶化合物相同士の間の一部に中空領域を有することを特徴とする中空アルミニウム合金である。
【0013】
図1A、図1B、および図1Cは、本発明者らによって作製された中空アルミニウム合金の断面を写した光学顕微鏡写真である。詳細には、図1Aは、中空アルミニウム合金のマクロな断面写真であり、図1Bは図1Aの中空アルミニウム合金の断面の一部をより拡大したミクロな断面写真であり、図1Cは図1Bの中空アルミニウム合金の断面の一部をさらに拡大したミクロな断面写真である。図中、1は中空領域であり、2はAlおよびCaを含む初晶化合物相であり、3はAlマトリックスである。図1Aに示すように、本発明の中空アルミニウム合金は合金の内部に中空領域1が均一に形成された構造を有する。より詳細には、図1Bおよび図1Cに示すように、本発明の中空アルミニウム合金はAlマトリックス3中に初晶化合物相2を有する。そして、図1Bに示すように、この初晶化合物相2は粗大な針状の組織が3次元ネットワーク状に分散した構造を有し、当該初晶化合物2同士の間の一部に中空領域1が均質に存在している。
【0014】
以下、本発明の中空アルミニウム合金について、詳細に説明する。
【0015】
[合金組成]
本発明の中空アルミニウム合金は、Alを主成分としたCa含有アルミニウム合金からなる。本発明の中空アルミニウム合金において、Alは残部であって、その含有量が限定されるものではない。例えば、質量比率で考えたときに、含有元素中でもっとも多い元素がAlであればよい。特に、Al合金全体を100質量%としたときに、Al含有量が50質量%以上、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上のAl基合金であると、低密度化を図る上で好ましい。また、当然に不可避不純物は存在し得る。
【0016】
(Ca)
本発明の中空アルミニウム合金におけるCaの含有量は、後述するAlおよびCaを含む初晶化合物相が得られる限り、特に制限されない。ただし、アルミニウム合金におけるCaの含有量は7.7質量%以上27質量%以下であることが好ましく、11質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。Caを7.7重量%以上含む場合には、中空構造の生成に好適な初晶化合物相が得られる。Caを11質量%以上含む場合には、初晶化合物相がネットワーク状に広がる上で十分な量となるため、より低密度な中空体を得ることが可能となる。一方、Caの含有量が27質量%以下である場合には、後述するAlマトリックスが主にAlおよびAl4Caの共晶から構成され、マトリックスに延性があるため所望の中空体を得ることができる。また、Caの含有量が20質量%以下である場合には、初晶化合物の過剰な生成が抑制され、中空体の脆性化を防止することができ、十分な強度が確保される。
【0017】
(第3元素)
本発明の中空アルミニウム合金においては、本発明の中空アルミニウム合金の趣旨を逸脱しない範囲内で上記Ca以外にも、以下のような元素(以下、第3元素ともいう)を含有していてもよい。例えば、Mg、Sr、Ba等の第2族元素;Mn、Cu、Fe、Ti、Cr、Zr等の第4〜11族元素(遷移金属元素);Znなどの12族元素(亜鉛族元素);Si等の第14族元素;P等の第15族元素等の元素を含有していてもよい。また、これらの元素のうち1種のみを含有してもよいし、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0018】
(Zn)
これらの中でも、本発明の中空アルミニウム合金は12族元素(亜鉛族元素)であるZnをさらに含むことが好ましい。アルミニウム合金がZnを含む場合にはアルミニウム合金の中空域を増大させ、低密度化することができる上、耐食性を向上させることができる。アルミニウム合金中のZnの含有量は0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。Znの含有量が0.1質量%以上であれば、耐食性や低密度化の効果が得られる。一方、Znの含有量が10質量%以下であれば、過剰な初晶化合物の生成による中空領域の減少を防止でき、適度な中空領域を確保することができる。
【0019】
(Ti、Zr)
また、本発明の中空アルミニウム合金は、Tiおよび/またはZrをさらに含むことが好ましい。アルミニウム合金において、TiやZrは核生成サイトとして機能でき、この核生成サイトであるTiやZrの近傍において多数の初晶化合物相を生成することができる。したがって、本発明のアルミニウム合金においてTiやZrは微細化剤として機能し、合金の中空部をより微細均質化することが可能となる。このため、Tiおよび/またはZrをさらに含む場合にはより均質で低密度な中空アルミニウム合金が得られ、微小部品への適用に有効な合金材料が得られる。アルミニウム合金中のTiおよび/またはZrの含有量の合計は0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下であることが特に好ましい。Tiおよび/またはZrの含有量の合計が0.3質量%を超えると核生成サイトとなる晶出物が粗大化し、機械的特性に悪影響を及ぼすおそれがある。一方、0.1質量%に満たない場合は核生成サイトの数が少ないため十分な微細化効果が得られないおそれがある。
【0020】
また、上記に例示したZn、Zr、Ti以外の第3元素(例えば、Mg、Si、Mn、Cu、Fe、P、Ba、Sr、Crなど)の場合でも、本発明の中空アルミニウム合金の趣旨を逸脱しない範囲内で適量(好ましくは、微量)含有していてもよい。
【0021】
[初晶化合物相]
本発明の中空アルミニウム合金はAlマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相を有する。本発明において「AlおよびCaを含む初晶化合物相」とは、AlおよびCaを含む合金を冷却した際の液相から晶出する化合物の結晶相を意味する。また、「AlおよびCaを含む」とは、初晶化合物相がAlおよびCaを少なくとも含んでおり、さらに他の元素を含みうるということを意味する。初晶化合物相はAlおよびCa、ならびに場合によっては他の元素からなる単一組成の化合物から構成されていてもよいし、これらの元素からなる複数の異なる組成の化合物から構成されていてもよい。
【0022】
本発明の中空アルミニウム合金において、AlおよびCaを含む初晶化合物相は粗大な針状の組織が三次元のネットワーク状に均一に分散した形態を有する。かような形態を有することにより、所望の中空構造を有するアルミニウム合金を簡便に製造することができる。
【0023】
(初晶化合物)
以下、本発明の中空アルミニウム合金に含まれる初晶化合物相を構成する化合物について説明する。初晶化合物相は、Alと、Caと、場合によっては第3元素からなる金属間化合物で構成される。ここで、金属間化合物とは2種以上の金属元素から形成される化合物をいい、成分原子比は必ずしも化学量論比でなく、広い組成範囲を持つことが多い。
【0024】
図2にAl−CaのAl側の二次元状態図を示す。Caを7.7重量%以上含む過共晶Al−Ca系合金においては、合金の溶湯を冷却した際に初晶化合物としてAl4CaまたはAl2Caの金属間化合物が晶出し、中空構造の生成に好適な初晶化合物相が得られる。具体的には、Caを7.7質量%以上14.2質量%以下含む場合には初晶化合物相はAl4Ca相であり、Caを14.2質量%以上27質量%以下含む場合には初晶化合物相はAl4Ca相およびAl2Ca相の混晶である。
【0025】
Znをさらに含有する場合には、Al−Ca系合金における初晶化合物であるAl4CaまたはCaAl2のAlサイトがZnにより部分置換される。このため、初晶化合物量を増加させ、低密度化することができる。
【0026】
一方、Zr、Ti等を含む場合には、ZnのようにAlサイトに部分置換するのではなく、Al−Ca系合金において説明したのと同様に初晶化合物相はAl4Ca相および/またはAl2Ca相である。
【0027】
本発明の合金は、AlおよびCaを含む初晶化合物相を有することにより、発泡剤を使用することなく中空構造を有するアルミニウム合金を低コストかつ簡便に得ることが可能となる。以下、本発明の中空アルミニウムの製造メカニズムについて説明するが、本発明によるメカニズムは下記によって限定されるものではない。
【0028】
本発明では、AlおよびCaを含む溶湯を冷却することにより、粗大な針状の三次元ネットワーク構造を有するAlおよびCaを含む初晶化合物相が形成される。そして、より冷却が進むと、溶湯がこれらの初晶化合物の間に流れ込み、共晶反応により凝固され、Alマトリックスとなる。しかし、Caを含む溶湯は粘性が高いため、溶湯の初晶化合物間への流動が抑制され、その結果、初晶化合物の間に中空領域が生じ、中空構造を有するアルミニウム合金が得られる。このように本発明では、Al−Ca系合金において初晶化合物相の組織形成条件を制御することにより、低コストかつ均一な中空アルミニウム合金を開発するに至ったものである。また、合金成分を制御することにより、密度や中空領域の大きさを制御することができ、用途に適した所望の中空アルミニウム合金を得ることができる。
【0029】
[中空領域]
本発明の中空アルミニウム合金において、初晶化合物相同士の間に中空領域が存在している。そして、図1Aおよび図1Bに示すように、中空アルミニウム合金中には複数の中空領域が均一に分散されている。このため、軽量であるとともに、安定した品質が得られる面で優れている。
【0030】
中空領域の形状は特に限定されるものではなく、球状、略球状、楕円球状、角体状などの様々な形状であってよい。中空領域のサイズや分散形態も特に限定されないが、微細なサイズで均一に分散されていることが好ましい。
【0031】
[Alマトリックス]
Alマトリックスは少なくともAlを含む相から構成され、その相の組成は特に制限されない。例えば、図2に示すように、Caの含有量が7.7質量%以上27質量%以下であるAl−Ca系合金においては、溶湯が616℃以下に冷却されるとAlとAl4Caとの共晶相が生成する。この共晶相がAlマトリックスを構成する。したがって、本発明の中空アルミニウム合金において、Alマトリックスは主にAlおよびAl4Caの共晶から構成される。ただし、マトリックスはAl相とAl4Ca相のみから構成される2相組織であってもよいし、Al相およびAl4Ca相に加えて他の相を含む3相組織またはそれ以上の多相組織であってもよい。例えば、中空アルミニウム合金がZn、Ti、Zrなどの第3元素を含む場合にはAl、Ca、第3元素との金属間化合物の相が含まれる多層組織となりうる。また、Alマトリックス組織の形態や形状は特に限定されるものではないし、当然に不可避不純物は存在し得る。
【0032】
なお、上記の初晶化合物相、Alマトリクス、中空領域の存在は、光学顕微鏡等による組織観察により確認することができる。
【0033】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の中空アルミニウム合金は発泡剤などの添加剤を含んでもよい。
【0034】
[密度]
本発明の中空アルミニウム合金の密度(嵩密度)は、好ましくは0.5g/cm3より大きく2.5g/cm3以下であり、より好ましくは1.0g/cm3以上2.5g/cm3以下であり、さらに好ましくは1.5g/cm3以上2.3g/cm3以下であり、特に好ましくは1.7g/cm3以上2.0g/cm3以下である。本発明の中空アルミニウム合金は従来実現が困難であった、純アルミニウム金属の密度(2.7g/cm3)と従来の発泡アルミニウムの密度(0.2g/cm3〜0.5g/cm3)との間の中間領域の密度を有する。すなわち、純アルミニウム金属に比べて低密度であり、部材の軽量化が図られる。一方、従来の発泡アルミニウムに比べてより高密度を実現することができる、これによりプラトー応力が高く小さい変位量でエネルギーを吸収することができるとともに、高強度化および高剛性化が図られる。
【0035】
[製造方法]
本発明の他の一形態によれば、中空アルミニウム合金の製造方法が提供される。この製造方法は、AlおよびCaを含む溶湯を得る工程((1)溶湯調製工程)と、前記溶湯を10−3℃/秒以上103℃/秒以下の冷却速度で冷却凝固させる工程((2)冷却凝固工程)と、を有する。
【0036】
本発明の製造方法によれば、AlおよびCaを含む溶湯を冷却凝固させる際の冷却速度を所定の範囲とすることにより、Alマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相が生成される。そして、前記初晶化合物相同士の間の一部に中空領域が分散した構造を有する中空アルミニウム合金を得ることができる。本発明の方法は、従来の溶湯法による発泡アルミのような発泡剤を必要としないうえ、溶湯の制御も容易であり、簡便に所望の中空アルミニウム合金を製造することができる。
【0037】
本発明の製造方法は上記の冷却速度が実現される方法であれば特に制限されない。具体的には、砂型鋳造法、金型鋳造法、低圧鋳造法、スクイズキャスティング法を用いることができる。以下、上記工程(1)、(2)による中空アルミニウム合金の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0038】
(1)溶湯調製工程
まず、所望の合金組成を有する溶湯を調製する。溶湯を調製する方法は特に制限されず、従来公知の方法に基づいて行えばよい。例えば、まず、AlおよびCaを含む合金を製造する場合には、Alの純金属に対し、Caの純金属を所望の組成となるように添加し、大気中またはArなどの不活性ガス雰囲気下、大気圧の条件下で、700℃〜1000℃の温度に昇温して溶融金属を調製する。そして、溶融金属を700℃〜1000℃の温度下で5分〜1時間の間、電磁誘導、超音波振動、または高周波振動により攪拌させる。
【0039】
Zn、Ti、Zrなどの第3元素を含む場合にも、AlおよびCaの純金属に加えて、Zn、Ti、Zrなどの添加元素の純金属を所望の組成比率となるように添加し、上記と同様の方法により溶融金属を調製、攪拌する。
【0040】
これにより中心部と外周部の温度差が緩和され温度分布を均一化させることができるため、結晶粒子が均一に分散して安定した特性の合金が得られる。
【0041】
上記手順により、所望の組成を有するアルミニウム合金の溶湯が得られる。本工程において、溶湯における合金成分を制御することにより、アルミニウム合金の密度や中空領域のサイズを制御することができ、所望の中空アルミニウム合金を簡便に得ることができる。
【0042】
(2)冷却凝固工程
続いて、上記で得た溶湯を冷却して凝固させ、中空構造を有するアルミニウム合金を形成する。溶湯の冷却速度は10−3℃/秒以上103℃/秒以下、好ましくは10−3℃/秒以上10℃/秒以下である。
【0043】
かような冷却速度で冷却する場合には、AlおよびCaを含む粗大な初晶化合物相を十分に晶出させることができ、アルミニウム合金中に所望の中空領域を形成させることができる。103℃/秒を超える冷却速度を用いた場合には、初晶化合物が十分に晶出できず、ネットワーク構造を形成できないおそれがあるため好ましくない。一方、10−3℃/秒未満の冷却速度を用いた場合には、初晶が粗大化するため好ましくない。
【0044】
冷却凝固の方法はかような冷却速度が実現される方法であれば特に制限されない。好適な実施形態において、冷却凝固工程は、前記溶湯を鋳型に注入する工程と、前記溶湯を大気中で凝固させる工程とを有する。本実施形態による製造方法によれば、複雑な工程処理や装置を必要とすることなく、上記で作製した溶湯を鋳型に注入するという非常に簡便な方法で中空アルミニウム合金を得ることができる。
【0045】
溶湯を鋳型に注入する際の条件は特に制限されないが、例えば、大気中またはAr雰囲気中、温度650℃〜900℃の条件下で行えばよい。
【0046】
また、溶湯を大気中で凝固させる際の条件も特に制限されないが、例えば、大気中(25℃)で1〜10時間放置すればよい。
【0047】
冷却後、鋳型から中空アルミニウム合金を取り出すことにより、中空アルミニウム合金が得られる。得られた中空アルミニウム合金に対して、適宜、仕上げ加工や機械加工等の各種処理を施すことで、多様な製品を製造することができる。
【0048】
また、所望の形状を有する鋳型を用いることで、特に後処理工程を行うことなく、所望の形状を有する中空体を得ることが可能となる。
【0049】
以上のように本発明の中空アルミニウム合金は、単に大気中で鋳型に流し込むだけで均質な中空金属部材を得ることができるため、非常に低コストであり、以下に示すようなさまざま用途への適用が見込まれる。
【0050】
[衝撃吸収材料]
本発明の他の一形態は、中空アルミニウム合金を含む衝撃吸収材料を提供するものである。本発明の中空アルミニウム合金は従来の発泡アルミニウム合金に比べてプラトー応力が高く、小さい変位量でエネルギーを吸収することができる。なお、本発明でいう「中空アルミニウム合金を含む衝撃吸収材料」は、種々の形態を含む。具体的には、素材(例えば、鋳塊、スラブ、ビレット、焼結体、圧延品、鍛造品、線材、板材、棒材等)に限らず、それを加工したアルミニウム合金部材(例えば、中間加工品、最終製品、それらの一部等)などをも意味する。本発明の衝撃吸収材料はフロントピラー、センタピラー、フード、トランクリッド、サンルーフ、ファイアウォールなどの車体の多くの部位に好適に用いることができる。
【0051】
[その他の用途]
また、本発明の中空アルミニウム合金は、従来の発泡アルミニウムに比べて密度が大きく、これにより高強度および高剛性(特に、ねじり剛性)を有するため、車体骨格構成部材の内部に充填することで車体の高剛性化を図ることができる。
【0052】
この他、本発明の中空アルミニウム合金においては一定の熱伝導および電気伝導が確保されるため、各種電子機器の実装部品としても用いることができる。さらに本発明の中空アルミニウム合金は、各種吸音、防音材、建材等へも好適に適用可能なほか、低い弾性率を有し軽量であることを生かして、人工骨等への適用も可能である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明による二次電池の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜10および比較例1]
(中空アルミニウム合金の作製)
表1に示す組成の中空アルミニウム合金を以下のようにして作製した。
【0054】
純度99.9%以上のAl、Ca、Zn、Zr、Tiの純金属を用い、表1に示す組成比率となるように混合し、800℃程度に昇温して溶湯を調製した。この溶湯を約800℃のAr雰囲気中で30分間高周波溶解により攪拌し合金化した。
【0055】
次いで、これを大気中に坩堝ごと取り出し、深さ2.5cm、幅4cm、長さ22cmの舟形の鉄製鋳型に流し込み冷却した。これらの操作により中空アルミニウム合金のインゴットを得た。
(評価)
上記の方法で作製した各中空アルミニウム合金のインゴットについて、以下の評価を行った。
【0056】
1.密度
上記で得たインゴットを鋳型から取り出し、15mm×15mm×100mmのサイズの直方体に切り出した。切り出した試験片の密度をアルキメデス法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0057】
2.組織観察
上記で得たインゴットの長手方向(長さ方向)に対して垂直の断面を光学顕微鏡により観察した。観察結果を図1および3〜12に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
(評価結果)
1.密度
表1に示すように、実施例1〜10により得られた中空アルミニウム合金は密度が0.5g/cm3より大きく2.5g/cm3以下であった。すなわち、本発明の中空アルミニウム合金においてはいずれも、純アルミニウム金属(2.7g/cm3)や一般的なアルミニウム合金の密度と従来の発泡アルミニウムの密度(0.2〜0.5g/cm3)との間の中間領域の密度を実現することができた。
【0060】
一方、比較例1で得られたアルミニウム合金の密度は純アルミニウム金属や一般的なアルミニウム合金の密度と同程度の値を有し、十分な軽量化が図れていないことが確認された。
【0061】
また、Caの含有量が11質量%以上である実施例2および3の中空アルミニウム合金は、Caの含有量が11質量%未満である実施例3の中空アルミニウム合金に比べて低密度化することができた。
【0062】
第3元素としてZnを含む実施例4〜実施例8の中空アルミニウム合金は、同程度のCaの含有量を有する実施例1〜3の中空アルミニウム合金に比べて、密度を低減できることがわかった。また、第3元素としてTiまたはZrを含む実施例9、実施例10の中空アルミニウム合金は、同程度のCaの含有量を有する実施例3の中空アルミニウム合金に比べて、同程度かより小さい密度を有していた。
【0063】
2.組織観察
図4、図1、図5〜図12はそれぞれ実施例2〜10で得られた中空アルミニウム合金の断面写真である。また、図3は比較例1で得られた中空アルミニウム合金の断面写真である。なお、図1B、図3B、図9B、図11B、および図12Bはそれぞれ図1A、図3A、図9A、図11A、および図12Aのアルミニウム合金の断面の一部をより拡大したミクロな断面写真である。そして、図1Cおよび図3Cは図1Bおよび図3Bのアルミニウム合金の断面の一部をさらに拡大したミクロな断面写真である。
【0064】
光学顕微鏡による観察により、実施例1〜10で得られたアルミニウム合金では、Alマトリックス中に針状の組織がネットワーク状に分散した初晶化合物が存在することを確認した。また、複数の中空領域がこの初晶化合物同士の間に均質に分散していることがわかった(図1、図4〜図12を参照)。
【0065】
一方、比較例1で得られたアルミニウム合金においては、初晶としてAlが晶出しており、実施例1〜10において観察されるような初晶化合物は存在しないことが確認された。また、均質な中空領域(空隙)も存在せず、引け巣程度の空隙しか存在しないことが確認された(図3を参照)。
【0066】
また、Caの含有量が11質量%以上である実施例2および3の中空アルミニウム合金(図1、図5を参照)はCaの含有量が11%未満である実施例1の中空アルミニウム合金(図4)に比べて、多数の中空領域を均質に有しており、軽量な材料とできることがわかった。
【0067】
さらに、第3元素としてZnを含む実施例4〜8の中空アルミニウム合金(図6〜10)は同程度のCaの含有量を有する実施例1〜3(図1、4、5)の中空アルミニウム合金に比べて、より中空領域(空隙)を増大させることができることがわかった。実施例7で得られた中空アルミニウム合金のミクロな断面図(図9B)に示されるように、Znを添加することにより、初晶化合物量が増加しており、これにより中空領域の生成量が増加したと推定される。
【0068】
さらに、第3元素としてTiまたはZrを含む実施例9、実施例10の中空アルミニウム合金(図11、図12)は同程度のCa含有量を有する実施例2および3(図1、図5)に比べて中空領域(空隙)がより微細均質化したことが確認できた。実施例9および10の中空アルミニウム合金においては、図11Bおよび図12Bのミクロな断面図に示されるように初晶化合物が緻密化しており、これにより中空領域が微細均質化されたと考えられる。
【0069】
以上から、本発明によれば、発泡剤を用いる従来の方法に比べて非常に低コストで簡便な方法により、所望の密度を有する中空アルミニウム合金が得られることがわかった。さらにZnやTiおよびZrなどの第3元素を合金成分として添加することにより、中空合金の密度や中空領域のサイズを制御できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1A】実施例2で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図1B】実施例2で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図1C】実施例2で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図2】Al−Ca系のAl側の二次元状態図である。
【図3A】比較例1で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図3B】比較例1で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図3C】比較例1で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図4】実施例1で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図5】実施例3で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図6】実施例4で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図7】実施例5で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図8】実施例6で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図9A】実施例7で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図9B】実施例7で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図10】実施例8で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図11A】実施例9で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図11B】実施例9で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図12A】実施例10で作製された中空アルミニウム合金のマクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【図12B】実施例10で作製された中空アルミニウム合金のミクロな断面を写した光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0071】
1 中空領域、
2 初晶化合物相、
3 Alマトリックス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相を有し、
かつ前記初晶化合物相同士の間の一部に中空領域を有することを特徴とする、中空アルミニウム合金。
【請求項2】
前記初晶化合物相は針状の組織が3次元ネットワーク状に分散した構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項3】
Caの含有量が7.7質量%以上27質量%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項4】
Caの含有量が11質量%以上20質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項5】
Znをさらに含み、前記Znの含有量が0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項6】
Tiおよび/またはZrをさらに含み、前記Tiおよび/またはZrの含有量の合計が0.01質量%以上1質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項7】
密度が0.5g/cm3より大きく2.5g/cm3以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項8】
AlおよびCaを含む溶湯を得る工程と、
前記溶湯を10−3℃/秒以上103℃/秒以下の冷却速度で冷却凝固させる工程と、
を有することを特徴とする、中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項9】
AlおよびCaを含む溶湯を得る工程と、
前記溶湯を鋳型に注入する工程と、
前記溶湯を大気中で凝固させる工程と、
を有することを特徴とする、請求項8に記載の中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項10】
前記溶湯はCaを7.7質量%以上27質量%以下含むことを特徴とする、請求項8または9に記載の中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項11】
前記溶湯はCaを11質量%以上20質量%以下含むことを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項12】
前記溶湯はZnをさらに含み、前記Znの含有量が0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項13】
前記溶湯はTiおよび/またはZrをさらに含み、前記Tiおよび/またはZrの含有量の合計が0.01質量%以上1質量%未満であることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金または請求項8〜13のいずれか1項に記載の製造方法により製造された中空アルミニウム合金を含む衝撃吸収材料。
【請求項1】
Alマトリックス中にAlおよびCaを含む初晶化合物相を有し、
かつ前記初晶化合物相同士の間の一部に中空領域を有することを特徴とする、中空アルミニウム合金。
【請求項2】
前記初晶化合物相は針状の組織が3次元ネットワーク状に分散した構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項3】
Caの含有量が7.7質量%以上27質量%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項4】
Caの含有量が11質量%以上20質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項5】
Znをさらに含み、前記Znの含有量が0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項6】
Tiおよび/またはZrをさらに含み、前記Tiおよび/またはZrの含有量の合計が0.01質量%以上1質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項7】
密度が0.5g/cm3より大きく2.5g/cm3以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金。
【請求項8】
AlおよびCaを含む溶湯を得る工程と、
前記溶湯を10−3℃/秒以上103℃/秒以下の冷却速度で冷却凝固させる工程と、
を有することを特徴とする、中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項9】
AlおよびCaを含む溶湯を得る工程と、
前記溶湯を鋳型に注入する工程と、
前記溶湯を大気中で凝固させる工程と、
を有することを特徴とする、請求項8に記載の中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項10】
前記溶湯はCaを7.7質量%以上27質量%以下含むことを特徴とする、請求項8または9に記載の中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項11】
前記溶湯はCaを11質量%以上20質量%以下含むことを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項12】
前記溶湯はZnをさらに含み、前記Znの含有量が0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項13】
前記溶湯はTiおよび/またはZrをさらに含み、前記Tiおよび/またはZrの含有量の合計が0.01質量%以上1質量%未満であることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の中空アルミニウム合金または請求項8〜13のいずれか1項に記載の製造方法により製造された中空アルミニウム合金を含む衝撃吸収材料。
【図2】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【公開番号】特開2010−126741(P2010−126741A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299909(P2008−299909)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
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