説明

中空シリカ微粒子、それを含む透明被膜形成用組成物、および透明被膜付基材

【課題】透明被膜の白化が抑制され、優れた耐擦傷性や密着性を発揮することが可能な中空シリカ微粒子とその製造方法を提供する。
【解決手段】動的光散乱法により測定される平均粒子径が5〜300nm、比表面積が50〜1500m/gであり、外殻の内部に空洞が形成されてなる中空のシリカ微粒子であって、熱重量測定(TG)により、200℃〜500℃の温度範囲において1.0重量%以上の重量減少を示す。また、この中空シリカ微粒子は、200℃〜500℃の温度範囲での示差熱保持測定(DTA)において、正のDTAピークを有する。中空シリカ微粒子が分散したオルガノゾルを調製し、30℃〜300℃の温度範囲で、該オルガノゾルにシラン化合物およびアルカリ触媒を添加し、シリカ配合量に対して水分量が0.1〜50重量%の条件で、該シラン化合物と該中空シリカ微粒子を反応させ製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン化合物により表面が処理された中空シリカ微粒子、その製造方法、該中空シリカ微粒子を含む透明被膜形成用組成物、および、該透明被膜形成用組成物が硬化した透明被膜を表面に有する基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粒径が0.1〜380μm程度の中空シリカ粒子は公知である(特許文献1、特許文献2参照)。また、珪酸アルカリ金属水溶液から活性シリカをシリカ以外の材料からなるコア上に沈殿させ、該材料をシリカシェルを破壊させることなく除去することによって、稠密なシリカシェルからなる中空粒子を製造する方法が公知である(特許文献3参照)。
さらに、外周部が殻、中心部が中空で、殻は外側が緻密で内側ほど粗な濃度傾斜構造をもったコア・シェル構造であるミクロンサイズの球状シリカ粒子が公知である(特許文献4参照)。
【0003】
また、本願出願人は先に、多孔性の無機酸化物微粒子の表面をシリカ等で完全に被覆することにより、低屈折率のナノメーターサイズの複合酸化物微粒子が得られることを提案すると共に(特許文献5参照)、さらに、シリカとシリカ以外の無機酸化物からなる複合酸化物の核粒子にシリカ被覆層を形成し、ついでシリカ以外の無機酸化物を除去し、必要に応じてシリカを被覆することによって、内部に空洞を有する低屈折率のナノメーターサイズのシリカ系微粒子が得られることを提案している(特許文献6参照)。
【0004】
また、有機樹脂フィルムに球状のシリカ微粒子を添加することは、公知の技術であり、得られるフィルムの透明性が向上することが知られている(特許文献7参照)。
このようなシリカ微粒子を含有するフィルムや透明被膜においては、しばしば、得られるフィルムや透明被膜の白化の問題が生じていた。
【0005】
特許文献8では、(a)一般式:RSi(OR〔R:炭素数1〜6の炭化水素基、R:炭素数1〜6のアルキル基〕のトリアルコキシシラン100重量部と、一般式Si(OR〔R:炭素数1〜6のアルキル基〕のテトラアルコキシシラン20〜130重量部とからなる有機ケイ素化合物の部分縮合物、(b)トリアルコキシシランをRSiO3/2として計算し、テトラアルコキシシランをSiOとして計算した前記(a)の部分縮合物(RSiO3/2+SiO)100重量部に対し、0.05〜200重量部のシリカ微粒子を含有することを特徴とする被覆用組成物においては、シリカ微粒子の配合量を制限することにより塗膜の白化が抑制されることについて記載がある。
【0006】
特許文献9では、(A)アセチルアセトナトキレ−ト化合物および(B)無機化合物微粒子が、水と有機溶媒とからなる混合溶媒中に均一に溶解または分散されている透明被膜形成用塗布液を基材に適用して、硬化して得られる透明被膜の白化防止について、前記無機化合物粒子として、平均粒子径が50nm以下のものを使用する方法を提案している。
【0007】
特許文献10では、擦過等による表面への傷が付き難く、低屈折率層の剥離がないような反射防止フィルムとして、 透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方に、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を含有する多官能性モノマーを主成分とするUV硬化型樹脂から構成されるマトリックス中に平均粒径0.5〜100nmの無機微粒子を添加したハードコート層および、その上に有機ケイ素化合物、またはそれからなる重合体と、有機ケイ素化合物、またはそれからなる重合体との共重合体からなるマトリックス中に、平均粒径0.5〜100nmのシリカ微粒子を添加した低屈折率層を有することを特徴とする反射防止フィルムが提案されており、同文献中には、200nm未満の無機微粒子を使用することにより光の散乱によるハードコート層が白化を抑止できる旨の記載がある。
【0008】
中空シリカ微粒子を含有する透明被膜および透明被膜形成用塗布液としては、例えば、特許文献11には、基材と、該基材表面に設けられた透明被膜とからなり、該透明被膜が、(i)フッ素置換アルキル基含有シリコーン成分を含むマトリックスと、(ii)外殻層を有し、内部が多孔質または空洞となっている無機化合物粒子とを含み、かつ前記透明被膜中において、多孔質または空洞が維持されていることを特徴とする透明被膜付基材に関する発明が開示されている。しかしながら、このような中空シリカ微粒子とバインダーを含んでなる透明被膜においては、中空シリカ微粒子固有の特質である1.25〜1.45程度の低屈折率は実現できるものの、被膜の白化が発生し易く、また、基材に対する密着性および耐擦傷性についても一層の改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6ー330606号公報
【特許文献2】特開平7ー013137号公報
【特許文献3】特表2000ー500113号公報
【特許文献4】特開平11ー029318号公報
【特許文献5】特開平7ー133105号公報
【特許文献6】特開2001−233611号公報
【特許文献7】特開平4−348147号公報
【特許文献8】特開平1−306476号公報
【特許文献9】特開平4−247427号公報
【特許文献10】特開2004−326100号公報
【特許文献11】特開2002−79616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
中空シリカ微粒子とバインダーを含むコーテイング組成物を調製して、基材上に透明被膜を形成した場合、通常のシリカ微粒子とバインダーを含む組成物を調製して、同様に透明被膜を形成した場合に比べて、低屈折率の透明被膜が得られるものの、中空シリカ微粒子を用いた場合、透明被膜に白化(白色化)が生じ易いという問題があった。また、耐擦傷性や密着性についても、更なる改善が求められていた。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、中空シリカ微粒子とバインダーを含むコーテイング組成物を調製して、基材上に透明被膜を形成した場合でも、透明被膜の白化が抑制され、優れた耐擦傷性や密着性を発揮することが可能な中空シリカ微粒子およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、そのような優れた効果を発揮できる中空シリカ微粒子を含有する透明被膜形成用組成物および、該透明被膜形成用組成物を硬化して得られる透明被膜付基材を提供することを目的とする。
【0012】
本発明は、更に透明被膜付基材の透明被膜中に、中空シリカ微粒子を層状に偏在させてなる透明被膜付基材およびそのための透明被膜形成用組成物を提供することを目的とするものである。また、本発明は、透明被膜付基材の透明被膜中に、中空シリカ微粒子および金属酸化物微粒子をそれぞれ層状に偏在させてなる透明被膜付基材およびそのための透明被膜形成用組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願の第1の発明は、動的光散乱法により測定される平均粒子径が5〜300nm、比表面積が50〜1500m/gであり、外殻の内部に空洞が形成されてなる中空のシリカ微粒子であって、熱重量測定(TG)により、200℃〜500℃の温度範囲において1.0重量%以上の重量減少を示すことを特徴とする中空シリカ微粒子である。
本出願の第2の発明は、前記中空シリカ微粒子が200℃〜500℃の温度範囲での示差熱保持測定(DTA)において正のDTAピークを有することを特徴とする。
【0014】
本出願の第3の発明は、前記中空シリカ微粒子が、その表面に珪素原子に直接結合した有機基を有することを特徴とする。
本出願の第4の発明は前記中空シリカ微粒子が、その表面に有する珪素原子に直接結合した有機基が飽和または不飽和の炭素数1〜18の炭化水素基、炭素数1〜18のハロゲン化炭化水素基から選ばれる1種以上のものであることを特徴とする。
【0015】
本出願の第5の発明は、中空シリカ微粒子が分散したシリカ濃度1〜70重量%のオルガノゾルを調製し、30℃〜300℃の温度範囲で、該オルガノゾルにシラン化合物およびアルカリ触媒を添加し、シリカ配合量に対して水分量が0.1〜50重量%の条件で、該シラン化合物と該中空シリカ微粒子を反応させることを特徴とする中空シリカ微粒子の製造方法である。
【0016】
本出願の第6の発明は、前記シラン化合物の添加量が、前記中空シリカ微粒子100重量部に対して、1〜50重量部の範囲にあり、前記アルカリ触媒の添加量が、前記オルガノゾルに対して、20〜2,000ppmの範囲にあることを特徴とする中空シリカ微粒子の製造方法である。
本出願の第7の発明は、前記第1〜第4のいずれかの発明に係る中空シリカ微粒子とバインダーを含むことを特徴とする透明被膜形成用組成物である。
本出願の第8の発明は、前記第7の発明に係る透明被膜形成用組成物が硬化した透明被膜を表面に有することを特徴とする透明被膜付基材である。
【0017】
本出願の第9の発明は、 前記第4の発明に係る中空シリカ微粒子が、下記一般式(1)または一般式(2)の有機基を有するものであり、熱重量測定(TG)により、200℃〜500℃の温度範囲において1.5重量%以上の重量減少を示すことを特徴とする中空シリカ微粒子である。
一般式(1): -R-OC(=O)CCH=CH
(Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基)
一般式(2): -R-OC(=O)CH=CH
(Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基)
【0018】
本出願の第10の発明は、前記第4の発明に係る中空シリカ微粒子が、下記一般式(3)の有機基を有することを特徴とする中空シリカ微粒子である。
一般式(3): -R-C
(a+b=2n+1、 n は1〜3の整数、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基)
【0019】
本出願の第11の発明は、前記第7の発明に係る透明被膜形成用組成物に含まれる、前記中空シリカ微粒子の表面電荷量(Q)が5〜20μeq/gの範囲にあることを特徴とする透明被膜形成用組成物である。
本出願の第12の発明は、前記第11の発明に係る透明被膜形成用組成物に含まれる前記中空シリカ微粒子の濃度(CPA)が0.1〜20重量%、バインダーの固形分としての濃度(C)が1〜50重量%の範囲にあり、溶媒が極性溶媒であることを特徴とする透明被膜形成用組成物である。
【0020】
本出願の第13の発明は、前記第7の発明に係る透明被膜形成用組成物が、表面電荷量(Q)5〜20μeq/gの範囲にある中空シリカ微粒子を含み、更に、表面電荷量(Q)51〜150μeq/gの範囲にある金属酸化物微粒子を含み、該金属酸化物微粒子の表面電荷量(Q)と該中空シリカ微粒子の表面電荷量(Q)との差[(Q)−(Q)]の値が20〜100μeq/gの範囲にあることを特徴とする透明被膜形成用組成物である。
【0021】
本出願の第14の発明は、前記第13の発明に係る透明被膜形成用組成物に含まれる前記中空シリカ微粒子の濃度(CPA)が0.1〜20重量%、前記金属酸化物微粒子の濃度(CPB)が0.1〜20重量%の範囲にあり、バインダーの固形分としての濃度(C)が1〜50重量%の範囲にあり、溶媒が極性溶媒であることを特徴とする透明被膜形成用組成物である。
【0022】
本出願の第15の発明は、前記第11の発明または前記第12の発明に係る透明被膜形成用組成物が硬化した透明被膜(膜厚100nm〜10000nm)を表面に有する透明被膜付基材であって、該透明被膜の厚さ方向の中間点より外表面側に該中空シリカ微粒子が偏在して、分散してなることを特徴とする透明被膜付基材である。
本出願の第16の発明は、前記第15の発明において、前記中空シリカ微粒子の偏在して、分散している状態が、単層状または多層状であることを特徴とする透明被膜付基材である。
【0023】
本出願の第17の発明は、前記第13の発明または前記第14の発明に係る透明被膜形成用組成物が硬化した透明被膜(膜厚100nm〜10000nm)を表面に有する透明被膜付基材であって、該透明被膜の厚さ方向の中間点より外表面側に前記中空シリカ微粒子が偏在して、分散してなり、該厚さ方向の中間点より基材側には、前記金属酸化物微粒子が偏在して、分散してなることを特徴とする透明被膜付基材である。
本出願の第18の発明は、前記第17の発明において、前記中空シリカ微粒子の偏在して、分散している状態が、単層状または多層状であり、前記金属酸化物微粒子の偏在して、分散している状態が、単層状または多層状であることを特徴とする透明被膜付基材である。
【0024】
本出願の第19の発明は、動的光散乱法により測定される平均粒子径が5〜300nm、比表面積が50〜1500m/gであり、外殻の内部に空洞が形成されてなる中空のシリカ微粒子であって、熱重量測定(TG)により、200℃〜500℃の温度範囲において1.0重量%以上の重量減少を示し、同温度範囲における示差熱保持測定(DTA)において正のDTAピークを有し、その表面に珪素原子に直接結合した有機基を有する中空シリカ微粒子であって、表面電荷量(Q)が5〜20μeq/gの範囲にあることを特徴とする中空シリカ微粒子である。
【0025】
本出願の第20の発明は、中空シリカ微粒子が分散したシリカ濃度1〜70重量%のオルガノゾルを調製し、30℃〜300℃の温度範囲で、該オルガノゾルにシラン化合物および/または疎水性官能基を有する多官能アクリル酸エステル樹脂、およびアルカリ触媒を添加し、シリカ配合量に対して水分量が0.1〜50重量%の条件で、該シラン化合物と該中空シリカ微粒子を反応させることを特徴とする中空シリカ微粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の中空シリカ微粒子とバインダーを含む透明被膜形成用組成物を基材に適用して得られた透明被膜は、屈折率1.25〜1.45の低屈折率被膜であり、被膜の白化などの変色が生じ難く、耐擦傷性および密着性にも優れる。また、この透明被膜については、耐薬品性、耐水性にも優れるものであり、例えば、本発明に係る透明被膜に滴下された水滴または結露した水滴を払拭した後の滴下痕も残り難いなどの効果を有している。
本発明の製造方法によれば、前記の中空シリカ微粒子を効率的に製造することができる。
【0027】
また、本発明の透明被膜付基材のうち、透明被膜中に所定の中空シリカ微粒子を層状に偏在させてなる透明被膜については、中空シリカ微粒子に基づく特性(反射防止性、帯電防止性など)が強く発現し易くなる。さらに、本発明の透明被膜付基材のうち、透明被膜中に、所定の中空シリカ微粒子および所定の金属酸化物微粒子をそれぞれ層状に偏在させてなる透明被膜については、中空シリカ微粒子に基づく前記特性に加えて、金属酸化物微粒子に基づく特性諸特性が強く発現し易くなるものである。特に、本発明の透明被膜形成用組成物であって、所定の中空シリカ微粒子および所定の金属酸化物微粒子を含むものは、1回のコーティング処理により、透明被膜中に中空シリカ微粒子および金属酸化物微粒子をそれぞれ層状に偏在してなる透明被膜または透明被膜付基材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[中空シリカ微粒子]
本発明の中空シリカ微粒子は、平均粒子径5〜300nm、比表面積50〜1500m/gであり、外殻の内部に空洞が形成されてなる中空のシリカ微粒子であって、熱重量測定(TG)により、200℃〜500℃の温度範囲において1.0重量%以上の重量減少を示すことを特徴とする中空シリカ微粒子である。また、このような中空シリカ微粒子は、通常、200℃〜500℃の温度範囲における示差熱保持測定において、正のDTAピークを示すことを特徴とするものである。
【0029】
また、本発明の中空シリカ微粒子は、通常は従来公知の中空シリカ微粒子の表面をシラン化合物で表面処理して製造されるものである。具体的には、中空シリカ微粒子表面のシラノール基とシラン化合物との加水分解反応により、オルガノシリル基(モノオルガノシリル、ジオルガノシリルまたはトリオルガノシリル基)が中空シリカ微粒子表面に結合するものであり、本発明の中空シリカ微粒子は、その表面に多数の珪素原子に直接結合した有機基を有するものである。
この様な珪素原子に直接結合した有機基は、シラン化合物と中空シリカ微粒子の表面シラノール基との前記反応により、Si−O−SiA(Aは有機基)の様な構造をとって中空シリカ微粒子表面に結合するものと言われている。
【0030】
前記熱重量測定(Thermogravimetry Analysis)とは、試料の雰囲気温度の上昇(下降)による試料の重量変化を温度に対して測定するものであり、温度変化に対する重量変化曲線はTG曲線と呼ばれている。また、前記示差熱保持測定(Differential Thermal Analysis)とは、試料容器に設けられた熱電対の起電力により、リファレンスと試料との温度差を検出し、熱量変化を温度に対して測定するものであり、温度変化に対する熱量変化曲線はDTA曲線と呼ばれている。
【0031】
発熱反応が生じた場合は、DTA曲線において正のピークが現れることが知られている。また、熱重量測定と示差熱保持測定を同時に測定する方法として、示差熱熱重量同時測定(Thermogravimetry/Differential Thermal Analysis、通常「TG/DTA」と称される。) が知られている。この示差熱熱重量同時測定では、加熱時における試料の重量変化と吸熱・発熱反応を同時に観測できるため、幅広く物質の組成や熱的特性の評価が可能である。
【0032】
本発明の中空シリカ微粒子は、従来のシリカ微粒子または中空シリカ微粒子にない優れた効果を発揮するものである。この優れた効果については、具体的には、本発明の中空シリカ微粒子をバインダーに配合してなる透明被膜形成用組成物を、例えば、基材上で硬化させた場合、良好な性状の透明被膜付基材を得ることができる。特に従来のシリカ微粒子または中空シリカ微粒子を配合してなる透明被膜形成用組成物を用いて、透明被膜付基材を作製した場合に比べて、透明被膜に生じる白化(白色化)を抑止し、耐擦傷性および密着性を改良することに成功したものである。
【0033】
即ち、前記熱重量特性を有する本発明の中空シリカ微粒子を配合してなる透明被膜付基材においては、白化が抑止され、耐擦傷性および密着性が改良される。他方、従来の中空シリカ微粒子、シラン化合物での表面処理を行なっていない中空シリカ微粒子、200℃〜500℃の範囲において顕著な重量減少を示さない中空シリカ微粒子、さらに、本発明の中空シリカ微粒子の製造方法に依らない方法で表面処理された中空シリカ微粒子を配合してなる透明被膜付基材では、透明被膜の白化が生じ、耐擦傷性および密着性が不十分となる。
【0034】
これは、本発明の中空シリカ微粒子においては、少なくとも200℃まで、中空シリカ微粒子の表面にオルガノシリル基が、中空シリカ微粒子表面の珪素原子に対して、例えば、ーSi−O−SiR(Rは有機基)などの構造をとり安定に結合しているため、透明被膜を形成した場合においては、該オルガノシリル基は、中空シリカ微粒子の表面に強固に結合した置換基として、透明被膜の白化の原因となる透明被膜中におけるシリカ微粒子の凝集を抑制することに寄与するものと推察される。また、前記オルガノシリル基の存在は、オルガノゾルおよび透明被膜中でのシリカ微粒子の分散性の向上と、バインダー樹脂との化学結合により透明被膜の緻密化に寄与するため、透明被膜に優れた耐擦傷性および密着性を付与するものと推察される。
【0035】
他方、従来の中空シリカ微粒子の場合は、表面にオルガノシリル基を有さないものであるので本発明の中空シリカ微粒子に見られるような効果は発揮されないものと言える。また、本発明の中空シリカ微粒子の製造方法に相当しない方法で表面処理された中空シリカ微粒子の場合は、200℃以上での1.0重量%以上の熱重量減少が見られないことから、表面処理された段階から強固な結合は形成されていなかったものと考えられ、前記従来の中空シリカ微粒子の場合と同様に本発明の中空シリカ微粒子に見られるような効果は発揮され難いものと言える。
【0036】
本発明の中空シリカ微粒子においては、前記熱重量特性に加えて、示差熱保持特性においても、200℃〜500℃において、特異的なピークが見られ、前記従来の中空シリカ微粒子や本発明の中空シリカ微粒子の製造方法に相当しない方法で表面処理された中空シリカ微粒子の場合では、そのようなピークを見ることができない。
DTA曲線のピークは有機基の脱離にともなう発熱反応を表すものであることが知られている。本発明においては、通常、前記熱重量特性が現れる温度範囲(200℃〜500℃)において、DTA曲線のピークが現れるものである。
【0037】
本発明の中空シリカ微粒子の平均粒子径については5〜300nmの範囲にあるものが好適である。平均粒子径がこの範囲にある中空シリカ微粒子は、透明な被膜を得ることにおいて好ましい。平均粒子径が5nm未満の中空シリカ微粒子は得難い。他方、300nmを越える場合は、光の散乱が大きくなり、薄膜においては反射が大きくなり、反射防止機能を発揮できなくなる。本発明の中空シリカ微粒子のより好ましい平均粒子径範囲としては、10〜200nmの範囲が推奨され、更に好適には、10〜100nmの範囲が推奨される。
【0038】
本発明の中空シリカ微粒子の比表面積としては、溶媒中または造膜中の中空シリカ微粒子の分散性および安定性を得るうえで50〜1500m/gの範囲が好ましい。50m/g未満の場合は、低屈折率の中空シリカ微粒子が得難い。他方、1500m/gを越える場合は中空シリカ微粒子の分散安定性が低下して望ましくない。本発明の中空シリカ微粒子のより好ましい範囲としては、50〜200m/gの範囲が推奨される。
【0039】
本発明の中空シリカ微粒子については、200℃〜500℃の温度範囲での熱重量測定において、1.0重量%以上の重量減少を示すことが必要である。熱重量減少が1.0重量%未満の中空シリカ微粒子を配合してなる透明被膜付基材では、白化が発生し、耐擦傷性および密着性ともに不充分になる。熱重量減少については、温度範囲200〜500℃の範囲において1.05重量%以上の熱重量減少を示すものが好ましく、1.5重量%以上の熱重量減少を示すものが更に好ましい。
【0040】
本発明の中空シリカ微粒子については、示差熱保持測定において、200℃〜500℃の温度範囲での示差熱保持測定において、ピークを示すものであることが好ましい。通常、同温度範囲にて前記熱重量減少を示す場合は、示差熱保持測定においても少なくともひとつピークが確認される。
【0041】
本発明の中空シリカ微粒子は、その表面に珪素原子に直接結合した有機基を有するものである。有機基の種類については、透明被膜形成用組成物を調製する際のバインダー、特に有機樹脂との親和性があり、該透明被膜形成用組成物を基材上で硬化して得られる透明被膜付基材において、透明被膜の白化を招かず、耐擦傷性および密着性を損なわないものであれば制限されるものではなく、例えば、炭化水素基または炭素原子、水素原子以外の異原子を含む炭化水素基であっても良い。炭化水素基は脂肪族であっても、芳香族であってもよく、飽和炭化水素基であっても、不飽和炭化水素基であっても良い。また、二重結合または三重結合を含むものであってもよく、エーテル結合を有するものでも良い。
【0042】
前記異原子の例としては、酸素原子、窒素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、硫黄原子、珪素原子、ホウ素原子、アルミニウム原子、マグネシウム原子、ナトリウム原子、リチウム原子、カルシウム原子、カリウム原子などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0043】
前記珪素原子に直接結合した有機基の好適な例としては、飽和または不飽和の炭素数1〜18の炭化水素基、炭素数1〜18のハロゲン化炭化水素基から選ばれる有機基を挙げることができる。具体的には、3−メタクリロキシプロピル基、3−アクリロキシプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、メチル基、フェニル基、イソブチル基、ビニル基、γ−グリシドキシトリプロピル基、γ−メタクリロキシプロピル基、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピル基、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピル基、γ−アミノプロピル基、N−フェニル−γ−アミノプロピル基などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0044】
本発明の中空シリカ微粒子は、通常、有機溶媒に分散されたものである。シリカ濃度としては、1〜70重量%であるものが安定性の面からみて好ましく、更に好ましくは3〜40重量%であるものが推奨される。
【0045】
中空シリカ微粒子の好適な態様(1)
本発明の中空シリカ微粒子を含有する透明被膜の基材との密着性、被膜の白化防止および耐擦傷性の面から見て、本発明の中空シリカ微粒子は、下記一般式(1)または一般式(2)の有機基を有するものであり、熱重量測定(TG)により、200℃〜500℃の温度範囲において1.5重量%以上の重量減少を示すものが好ましい。
一般式(1): -R-OC(=O)CCH=CH
(Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基)
一般式(2): -R-OC(=O)CH=CH
(Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基)
【0046】
中空シリカ微粒子の好適な態様(2)
また、前記と同様な理由で、本発明の中空シリカ微粒子が、下記一般式(3)の有機基を有するものが好ましい。
一般式(3): -R-C
(a+b=2n+1、 n は1〜3の整数、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基)
【0047】
中空シリカ微粒子の好適な態様(3)
本発明の中空シリカ微粒子を含有する透明被膜の基材との密着性、被膜の白化防止および耐擦傷性に加えて、後記した透明被膜中に中空シリカ微粒子を層状に偏在させる効果の面から見て、本発明の中空シリカ微粒子は、動的光散乱法により測定される平均粒子径が5〜300nm、比表面積が50〜1500m/gであり、外殻の内部に空洞が形成されてなる中空のシリカ微粒子であって、熱重量測定(TG)により、200℃〜500℃の温度範囲において1.0重量%以上の重量減少を示し、同温度範囲における示差熱保持測定(DTA)において正のDTAピークを有し、その表面に珪素原子に直接結合した有機基を有する中空シリカ微粒子であって、表面電荷量(Q)が5〜20μeq/gの範囲にある中空シリカ微粒子が特に好ましい。
【0048】
[中空シリカ微粒子の製造方法]
本発明の中空シリカ微粒子は、原料として公知の中空シリカ微粒子を使用するものである。一般に中空シリカ微粒子は、外殻に細孔を有するものである。本発明の中空シリカ微粒子においては、外殻の細孔が存在してもよく、また、次記するような製造方法の工程中にて、加熱により細孔が消失していてもよい。
本発明の原料となる中空シリカ微粒子としては、平均粒子径が5〜300nm、比表面積が50〜1500m/gのものが使用される。
【0049】
原料中空シリカ微粒子は、例えば、珪酸塩の水溶液および/または酸性珪酸液と、アルカリ可溶の無機化合物水溶液とを、pH10以上のアルカリ水溶液または、必要に応じて種粒子が分散したpH10以上のアルカリ水溶液中に同時に添加し、シリカとシリカ以外の無機化合物のモル比が0. 3〜1. 0の範囲にある核粒子分散液を調製し、これにシリカ源を添加して、核粒子に第1シリカ被覆層を形成させ、次にこの分散液に酸を加え、前記核粒子を構成する元素の一部または全部を除去することにより製造される(特許文献6)。また、この製造方法により得られた中空のシリカ微粒子の分散液に、アルカリ水溶液と、有機珪素化合物および/またはその部分加水分解物とを添加し、該微粒子に第2シリカ被覆層を形成して製造される(特許文献6)。
【0050】
本発明の中空シリカ微粒子の製造方法においては、最初にシリカ固形分が1〜70重量%の範囲にある中空シリカ微粒子のオルガノゾルを調製する。
例えば、水を分散媒として調製された中空シリカ微粒子からなるシリカゾルを溶媒置換して、オルガノゾルとする。通常は、限外濾過膜またはロータリーエバポレーターを用いて、シリカ固形分が1〜70重量%のオルガノゾルとする。
【0051】
水を分散媒として調製された中空シリカ微粒子からなるシリカゾルについて、溶媒置換する際の溶媒の種類としては、有機溶媒が用いられる。有機溶媒の種類については、シラン化合物による中空シリカ微粒子の表面被覆に悪影響を与えるものでないかぎり格別に限定されるものではない。この様な有機溶媒の例としては、アルコール類、グリコール類、エステル類、ケトン類、窒素化合物類、芳香族類などの溶媒を使用することができる。通常は、メタノール、エタノールなどのアルコールが選ばれる。
シリカ固形分については、溶媒の種類にもよるが70重量%以上は、中空シリカ微粒子が溶媒に分散し難く、1重量%未満では実用的ではない。
【0052】
本発明製造方法においては、シリカ濃度が1〜70重量%のオルガノゾルを調製し、30℃〜300℃の範囲で、シラン化合物とアルカリ触媒を加え、シリカ配合量に対して水分量が0.1〜50重量%の条件で中空シリカ微粒子にシラン化合物を反応させることを特徴とする。
シラン化合物の添加量については、通常は、中空シリカ微粒子100重量部に対して、1〜50重量部添加される。1重量部未満では、未処理の中空シリカ微粒子の割合が高くなり好ましくない。他方、50重量部を越える場合は、シラン化合物が過剰となり、経済的ではない。シラン化合物の添加量としては、好適には3〜25重量部が推奨される。
【0053】
本発明製造方法に適用されるシラン化合物は、RSiX(4−n) (Rは有機基、Xは加水分解性基、nは0〜3の整数)で表されるものであり、 具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシトリプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロルシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
このうち、特にアクリル基を有するシラン、メタクリル基を有するシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシランなどが好ましい。
【0054】
アルカリ触媒の添加量は、格別に制限されるものではないが、アルカリ触媒の種類にもよるが、中空シリカ微粒子が分散してなるオルガノゾルに対して、望ましくはアルカリ触媒が20〜2,000ppmの範囲で添加されることが好ましい。20ppm未満では、中空シリカ微粒子表面でのシラン化合物の反応が充分に進行しない場合がある。他方、2,000ppmを越えて添加した場合は、余剰のアルカリにより、中空シリカ微粒子をバインダーに分散させた際の分散性が低下する場合があり、また、アルカリ触媒が透明被膜形成用組成物中に残存することによる影響が発生する。
アルカリ触媒の種類については、格別に限定されるものではないが、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、アミン化合物などが好適に使用される。または、これらアルカリは水溶液の形で添加しても良い。
【0055】
反応液中の水分量については、シリカ配合量に対して0.1〜50重量%、より好適には10重量%以下、更に好適には5重量%以下とすることが望ましい。水分量が0.1〜50重量%の範囲にあれば、中空シリカ微粒子表面とシラン化合物が反応して効果的に表面処理が行なわれる。0.1重量%未満では、表面処理効率が低く、安定した表面処理が行なわれず、50重量%以上では、シラン化合物同士が反応する傾向が強まり、結果的に中空シリカ微粒子の表面処理が不充分になる。
【0056】
前記の中空シリカ微粒子にシラン化合物を反応させるときの反応温度については、30℃未満では、反応速度が遅く、実用的ではない。他方、通常は、オルガノゾルの溶媒の沸点を越える場合は、溶媒の蒸発により、水分割合の増加などを招く場合があり、好ましくないが、圧力容器を使用して反応を行う場合は、300℃までの温度で反応させて良い。この反応温度については、好適には40℃から溶媒の沸点未満の温度範囲が推奨される。
また、前記の中空シリカ微粒子にシラン化合物を反応させるときの反応時間については、0.1時間未満では、充分に反応が進行しない場合があり、実用的ではない。他方、100時間を越えて反応させても、収率等に向上は見られず、それ以上の反応の継続は必要ない。この反応時間については、好適には3時間〜30時間の範囲が推奨される。
【0057】
前記中空シリカ微粒子分散オルガノゾルにシラン化合物およびアルカリ触媒を添加する順序については、格別に限定はなく、1)最初にアルカリ触媒を添加し、次にシラン化合物を添加してもよく、2)最初にシラン化合物を添加して、次にアルカリ触媒を添加してもよく、また、3)シラン化合物とアルカリ触媒を同時に添加しても良いが、前記1)または2)の添加順序が推奨される。
【0058】
中空シリカ微粒子の好適な製造方法(1)
本発明の中空シリカ微粒子が分散したシリカ濃度1〜70重量%のオルガノゾルを調製し、30℃〜300℃の温度範囲で、該オルガノゾルにシラン化合物およびアルカリ触媒を添加し、シリカ配合量に対して水分量が0.1〜50重量%の条件で、該シラン化合物と該中空シリカ微粒子を反応させることを特徴とする中空シリカ微粒子の製造方法においては、特に前記シラン化合物の添加量が、前記中空シリカ微粒子100重量部に対して、1〜50重量部の範囲にあり、前記アルカリ触媒の添加量が、前記オルガノゾルに対して、20〜2,000ppmの範囲にある中空シリカ微粒子の製造方法が推奨される。
【0059】
この製造方法により得られる中空シリカ微粒子は、熱重量測定(TG)により、200℃〜500℃の温度範囲において、1.0重量%以上の重量減少を示し、同温度範囲における示差熱保持測定(DTA)において、正のDTAピークを示すものであり、この様な中空シリカ微粒子とバインダーとを含んでなる透明被膜形成用組成物は、基材との密着性、被膜の白化防止および耐擦傷性に優れるものとなる。
【0060】
中空シリカ微粒子の好適な製造方法(2)
本出願の中空シリカ微粒子の製造方法の別の態様として、中空シリカ微粒子が分散したシリカ濃度1〜70重量%のオルガノゾルを調製し、30℃〜300℃の温度範囲で、該オルガノゾルにシラン化合物および/または疎水性官能基を有する多官能アクリル酸エステル樹脂、およびアルカリ触媒を添加し、シリカ配合量に対して水分量が0.1〜50重量%の条件で、該シラン化合物と該中空シリカ微粒子を反応させることを特徴とする中空シリカ微粒子の製造方法を挙げることができる。
【0061】
この製造方法においては、前記製造方法において使用される前記シラン化合物に代えて、疎水性官能基を有する多官能アクリル酸エステル樹脂あるいは、前記シラン化合物と疎水性官能基を有する多官能アクリル酸エステル樹脂の混合物が使用される。
【0062】
ここで使用可能な疎水性官能基を有する多官能アクリル酸エステル樹脂としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメテクリレート、イソデシルメテクリレート、n-ラウリルアクリレート、n−ステアリルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、トリフロロエチルメタクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられる。
【0063】
上記疎水性を有する多官能アクリル酸エステル樹脂を用いる場合、中空シリカ微粒子との重量比(疎水性を有する多官能アクリル酸エステル樹脂の固形分重量/中空シリカ微粒子の重量)は格別に限定されるものではないが、通常は、0.001〜2さらには0.005〜1.5の範囲にあることが好ましい。
【0064】
[透明被膜形成用組成物]
本発明の透明被膜形成用組成物は、前記した本発明の中空シリカ微粒子とバインダーとを含むものである。
前記バインダーとは、基材の表面に被膜を形成し得る成分をいい、基材との密着性や硬度、塗工性等の条件に適合する有機樹脂等から選択して用いられ、有機樹脂、加水分解性有機珪素化合物またはその部分加水分解縮合物が、必要に応じて溶媒に分散されて使用される。
【0065】
その例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、フェノール樹脂、酢酸ビニル樹脂、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂、エマルジョン樹脂、水溶性樹脂、親水性樹脂、これら樹脂の混合物、さらにはこれら樹脂の共重合体や変性体などの塗料用樹脂、またはアルコキシシラン等の加水分解性有機珪素化合物およびこれらの部分加水分解縮合物などが挙げられる。なお、バインダーとして加水分解性有機珪素化合物を用いる場合には、例えば、アルコキシシランとアルコールの混合液に、水および触媒(酸またはアルカリ)を加えることにより、アルコキシシランの部分加水分解縮合物を調製し、これをバインダーとして用いる方法をとることができる。
【0066】
本発明の透明被膜形成用組成物は、前記中空シリカ微粒子100重量部(シリカ分)に対して、前記バインダーを固形分換算で10〜10,000重量部含むものである。バインダー量が10重量部未満の場合は、被膜の硬度が得られなかったり、硬化状態に至らない場合がある。10,000重量部を超える場合は低屈折率機能が果たせない。中空シリカ微粒子100重量部に対するバインダーの配合量については、好ましくは50〜1000重量部の範囲が推奨される。
【0067】
また、本発明の透明被膜形成用組成物は、バインダーの硬化方法に応じて、光開始剤、硬化用触媒などを含有することができる。
この様な光開始剤、硬化用触媒の例としては、過酸化物、アゾ化合物等のラジカル開始剤、チタン化合物、錫化合物、白金触媒、イソシアネートなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本発明の透明被膜形成用組成物は、通常は本発明の中空シリカ微粒子が分散してなるオルガノゾルとバインダーを混合することにより調製される。ここでバインダーについては、前記の通り、有機溶媒で分散されたものであっても良い。オルガノゾルとバインダーの混合については、通常は、前記重量比範囲にて、ミキサーなどを用いて充分に混合攪拌を行い、本発明の透明被膜形成用組成物とすることができる。
本発明の透明被膜形成用組成物は、オルガノゾルまたはバインダーに由来する有機溶媒を含むものであり、用途に応じて適宜有機溶剤で希釈される。本発明の透明被膜形成用組成物は、好適には、本発明の中空シリカ微粒子およびバインダー(固形分)からなる固形分100重量部に対して、有機溶媒100〜5000重量部で希釈されたものが使用される。
【0069】
溶媒については、適用する基材や表面被覆された中空シリカ微粒子の表面官能基の種類に応じて、溶媒置換しても良い。このような溶媒の種類としては、
メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルイソカルビノールなどのアルコール類;
アセトン、2−ブタノン、エチルアミルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン類;
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;
ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、3,4−ジヒドロ−2H−ピランなどのエーテル類;
2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;
2−メトキシエチルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、エチレンカーボネートなどのエステル類;
ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;
ヘキサン、ヘプタン、iso−オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;
塩化メチレン、1,2−ジクロルエタン、ジクロロプロパン、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;
ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;
N−メチル−2−ピロリドン、N−オクチル−2−ピロリドンなどのピロリドン類
などを例示することができる。これらの分散媒は、1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。このうち、特に極性溶媒が好適に使用できる。
また、本発明の透明被膜形成用組成物については、目的、用途に応じて防腐剤、抗菌剤、消泡剤、紫外線劣化防止剤、染料、レべリング剤などを添加しても良い。
【0070】
透明被膜形成用組成物の好適な態様(1)
本発明の透明被膜形成用組成物の好適な態様として、表面電荷量(Q)が5〜20μeq/gの範囲にある前記中空シリカ微粒子、前記バインダーおよび極性溶媒を含み、該中空シリカ微粒子の濃度(CPA)が0.1〜20重量%の範囲にあり、バインダーの固形分としての濃度(C)が1〜50重量%の範囲にあることを特徴とする透明被膜形成用組成物を挙げることができる。
【0071】
前記中空シリカ微粒子の表面電荷量(Q)としては、5〜20μeq/gの範囲が好ましく、さらに好適には、6〜18μeq/gの範囲にあることが推奨される。中空シリカ微粒子の表面電荷量(Q)が前記範囲にある場合、その様な中空シリカ微粒子を含有してなる前記透明被膜形成用組成物を基材上で硬化させて得られる被膜付基材において、中空シリカ微粒子の偏在化現象が生じ易くなり、該被膜の厚さ方向の中間点より外表面側に中空シリカ微粒子が偏在して、分散する。中空シリカ微粒子の具体的な分散状態としては、単層状または多層状があり、その他には、点在する場合を挙げることができる。
【0072】
中空シリカ微粒子の表面電荷量(Q)が5μeq/g未満の場合は、該中空シリカ微粒子を含有してなる透明被膜形成用組成物を硬化させて得られる被膜中において、中空シリカ微粒子が均一に分散(単分散)する傾向が強くなる。中空シリカ微粒子の表面電荷量(Q)が20μeq/gを超える場合は、通常、中空シリカ微粒子でない場合が含まれる。また、該中空シリカ微粒子を含有してなる透明被膜形成用組成物を硬化させて得られる被膜が白化し易くなり、また、中空シリカ微粒子が被膜中に均一に分散する傾向が強くなる。
【0073】
前記透明被膜形成用組成物における中空シリカ微粒子の量については、中空シリカ微粒子の濃度(CPA)が0.1〜20重量%の範囲にあり、バインダーの固形分としての濃度(C)が1〜50重量%の範囲にあることを特徴とする透明被膜形成用組成物を挙げることができる。
中空シリカ微粒子の濃度(CPA)が0.1重量%未満の場合、中空シリカ微粒子を含有してなる透明被膜形成用組成物が硬化してなる被膜中において、中空シリカ微粒子が偏在して、分散したことによる光学的特性や電気的特性が発現し難い。中空シリカ微粒子の濃度(CPA)が20重量%を超えると、中空シリカ微粒子を含有してなる透明被膜形成用組成物が硬化してなる被膜中に、中空シリカ微粒子が単分散する傾向が強まる。中空シリカ微粒子の濃度(CPA)については、好適には1〜10重量%の範囲が推奨される。
【0074】
前記中空シリカ微粒子の平均粒子径としては5〜300nmの範囲のものが好適に使用される。本発明の中空シリカ微粒子のより好ましい平均粒子径範囲としては、10〜200nmの範囲が推奨され、更に好適には、10〜100nmの範囲が推奨される。
この透明被膜形成用組成物の好適な態様(1)に係る透明被膜形成用組成物の製造方法についても、前記透明被膜形成用組成物の製造方法が適用される。
【0075】
透明被膜形成用組成物の好適な態様(2)
本発明の透明被膜形成用組成物の好適な別の態様として、透明被膜形成用組成物が、表面電荷量(Q)が5〜20μeq/gの範囲にある中空シリカ微粒子、表面電荷量(Q)が51〜150μeq/gの範囲にある金属酸化物微粒子、バインダーおよび極性溶媒を含むものであり、該金属酸化物微粒子の表面電荷量(Q)と該中空シリカ微粒子の表面電荷量(Q)との差[(Q)−(Q)]の値が20〜100μeq/gの範囲にあり、該中空シリカ微粒子の濃度(CPA)が0.1〜20重量%の範囲にあり、該金属酸化物微粒子の濃度(CPB)が0.1〜20重量%の範囲にあり、バインダーの固形分としての濃度(C)が1〜50重量%の範囲にあることを特徴とする透明被膜形成用組成物を挙げることができる。
【0076】
中空シリカ微粒子の表面電荷量(Q)が5〜20μeq/gの範囲にあり、金属酸化物微粒子の表面電荷量(Q)が51〜150μeq/gの範囲にあり、表面電荷量(Q)と(Q)の差[(Q)−(Q)]の値が20〜100μeq/gの範囲にあることにより、透明被膜形成用組成物が硬化して被膜となった際に、該透明被膜中、厚さ方向の中間点より基材側には、該金属酸化物微粒子が偏在して、分散してなり、該厚さ方向の中間点より外表面側には、該中空シリカ微粒子が偏在して、分散する傾向が強まる。
【0077】
これは中空シリカ微粒子と金属酸化物微粒子との電気的な反発に起因するものと推察される。中空シリカ微粒子または金属酸化物微粒子の表面電荷量あるいは[(Q)−(Q)]の値が、20μeq/gの未満の場合は、中空シリカ微粒子と金属酸化物微粒子との電気的な反発が小さいために、両微粒子が分離して分散する傾向が弱まる。
[(Q)−(Q)]の値が、100μeq/gを超える場合は、両微粒子の表面電荷量の差が大きく、中空シリカ微粒子および金属酸化物微粒子がそれぞれ凝集し易くなる。
【0078】
中空シリカ微粒子の濃度(CPA)および金属酸化物微粒子の濃度(CPB)については、それぞれ0.1〜20重量%の範囲にあることが望ましい。 この範囲にある場合は、被膜中において、中空シリカ微粒子および金属酸化物微粒子がそれぞれ偏在して、分散し易くなる。他方、前記範囲を下回る場合は、偏在して、分散したことによる効果が発揮され難くなり、前記範囲を超える場合は、被膜中において、両微粒子が単分散する傾向が強まる。中空シリカ微粒子の濃度(CPA)および金属酸化物微粒子の濃度(CPB)については、好適には、それぞれ1〜10重量%の範囲が推奨される。
【0079】
前記金属酸化物微粒子の種類については、透明被膜をハードコート膜に用いる場合は、金属酸化物微粒子として、ZrO2、TiO2、Sb、ZnO、Al、SnO、あるいはこれら粒子が鎖状に連結した鎖状粒子、あるいは前記した屈折率が1.45以下のシリカ系微粒子等が好適に使用される。
透明被膜を高屈折率膜として用いる場合は、金属酸化物微粒子として、通常屈折率が1.60以上、さらには1.80以上の微粒子が用いられ、具体的にはZrO2、TiO2、Sb、ZnO、Al、SnO、アンチモンドープ酸化錫、錫ドープ酸化インジウム、酸化錫ドープリン(PTO)等が好適に使用される。
【0080】
また、透明被膜を導電性膜として用いる場合は、金属酸化物微粒子として、通常Sb、SnO、アンチモンドープ酸化錫、錫ドープ酸化インジウム、酸化錫ドープリン(PTO)、あるいはこれら導電性材料で表面を被覆したシリカ系微粒子あるいは内部に空洞を有するシリカ系微粒子等が挙げられる。
なお、金属酸化物微粒子については、所望により、前記シラン化合物にて、処理されたものを使用してもよく、更には、本発明の第5の発明に係る中空シリカ微粒子の製造方法において、中空シリカ微粒子に代えて金属酸化物微粒子を適用することにより処理された金属酸化物微粒子を使用しても良い。
【0081】
中空シリカ微粒子と金属酸化物微粒子の両方を含有する透明被膜形成用組成物については、基材への1回の被覆で、該透明被膜中、厚さ方向の中間点より基材側には、該金属酸化物微粒子が偏在して、分散してなり、該厚さ方向の中間点より外表面側には、該中空シリカ微粒子が偏在して、分散してなることを特徴とする透明被膜付基材を得ることができる。
この透明被膜形成用組成物の好適な態様(2)に係る透明被膜形成用組成物の製造方法についても、前記透明被膜形成用組成物の製造方法において、更に金属酸化物微粒子を添加することにより行うことができる。
【0082】
[透明被膜付基材]
本発明の透明被膜付基材は、本発明の透明被膜形成用組成物を基材上で、単独でまたは他の被膜を介して硬化してなるものである。
当該基材の材質としては、被膜を形成することが可能な固体物であれば格別に制限されるものではない。 例えば、ガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂、PET、TAC(トリアセチルセルロース)、MS基板(メタクリル酸メチルとスチレンの共重合物、ポリオレフイン系基材等が挙げられる。基材の形態としては、プラスチックシート、プラスチックフィルム、プラスチックレンズ、プラスチックパネル、陰極線管、蛍光表示管、液晶表示板等が挙げられる。
【0083】
前記他の被膜の例としては、ハードコート膜、平坦化膜、高屈折率膜、絶縁膜、導電性樹脂膜、導電性金属微粒子膜、導電性金属酸化物微粒子膜、プライマーにて形成された層などを挙げることができる。
なお、本発明の透明被膜付基材上に更に別の目的でコーテイングがなされても良い。
【0084】
本発明の透明被膜付基材は、前記透明被膜形成用組成物をディップ法、スプレー法、スピナー法、ロールコート法などの周知の方法で基材に塗布し、乾燥し、更に必要に応じて、加熱あるいは紫外線照射等により硬化して得ることができる。
紫外線による硬化方法の一例としては、基材に本発明の透明被膜形成用組成物を塗布し、70℃〜100℃にて予備乾燥を行った後、高圧水銀ランプまたはフュージョンランプを用い、波長は開始剤の吸収波長に合わせて、300〜1,000mJ/Cmの範囲で紫外線照射して硬化させる。
本発明の基材に形成された透明被膜の屈折率は、中空シリカ系微粒子とバインダー成分の混合比率および使用するバインダーの屈折率によっても異なるが、1. 15〜1. 42と低屈折率となる。
【0085】
透明被膜付基材の好適な態様(1)
本発明の透明被膜付基材の好適な態様としては、基材およびその表面に、平均粒子径5〜300nmの前記中空シリカ微粒子がバインダーに分散してなる透明被膜(膜厚100nm〜10000nm)が形成されてなる透明被膜付基材であって、該透明被膜中、厚さ方向の中間点より外表面側には該中空シリカ微粒子が偏在して、分散してなることを特徴とする透明被膜付基材を挙げることができる。
この透明被膜付基材においては、前記の通り、該被膜の厚さ方向の中間点より外表面側に中空シリカ微粒子が偏在して、分散してなるものであり、中空シリカ微粒子は、単層状または多層状ないしは点在して存在する。このような分散状態、特に単層状または多層状に偏在して分散した場合、該透明被膜は、中空シリカ微粒子の低屈折率に起因する反射防止性能あるいは中空シリカ微粒子の導電性に起因する帯電防止性能が強く発現される。
【0086】
透明被膜付基材の好適な態様(2)
本発明の透明被膜付基材の別の好適な態様として、基材およびその表面に、平均粒子径1〜50nmの金属酸化物微粒子と平均粒子径5〜300nmの前記中空シリカ微粒子がバインダーに分散してなる透明被膜(膜厚100nm〜10000nm)が形成されてなる透明被膜付基材であって、該透明被膜中、厚さ方向の中間点より基材側には、該金属酸化物微粒子が偏在して、分散してなり、該厚さ方向の中間点より外表面側には該中空シリカ微粒子が偏在して、分散してなることを特徴とする透明被膜付基材を挙げることができる。
この透明被膜付基材については、中空シリカ微粒子および金属酸化物微粒子がそれぞれ単層または多層を構成するため、中空シリカ微粒子に起因する特性(反射防止性能、帯電防止性能など)と、所定の金属酸化物微粒子に起因する特性(擦傷性、基材への密着性、高屈折率に基づく特性、導電性など)を併せもつ被膜となる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の中空シリカ微粒子を含む透明被膜形成用組成物および透明被膜付基材は、低屈折率、耐擦傷性および密着性が求められる各種用途に適用可能であり、ディスプレイの表面コーテイング、レンズなどの光学用コーテイングなどに利用可能である。
【実施例】
【0088】
〔原料となる中空シリカ微粒子の調製〕
平均粒径5nm、SiO2濃度20重量%のシリカゾル100gと純水1900gとを混合して反応母液を調製し、80℃に加温した。この反応母液のpHは10.5であり、同母液にSiO2として1.17重量%の珪酸ナトリウム水溶液9,000gと、Al23として0.83重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液9,000gとを同時に添加した。その間、反応液の温度を80℃に保持した。反応液のpHは、珪酸ナトリウムおよびアルミン酸ナトリウムの添加直後、12.5に上昇し、その後、ほとんど変化しなかった。添加終了後、反応液を室温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して固形分濃度20重量%のSiO2・Al23一次粒子分散液を調製した。
【0089】
ついで、このSiO2・Al23一次粒子分散液500gを採取し、純水1,700gを加えて98℃に加温し、この温度を保持しながら、濃度0.5重量%の硫酸ナトリウム50,400gを添加し、ついでSiOとして濃度1.17重量%の珪酸ナトリウム水溶液3,000gとAlとしての濃度0.5重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液9,000gを添加して複合酸化物微粒子分散液を得た。そして、これを限外濾過膜で洗浄して固形分濃度13重量%の複合酸化物微粒子分散液とした。
【0090】
この複合酸化物微粒子分散液500gに純水1,125gを加え、さらに濃塩酸(35.5%)を滴下してpH1.0とし、脱アルミニウム処理を行った。次いで、pH3の塩酸水溶液10Lと純水5Lを加えながら限外濾過膜で溶解したアルミニウム塩を分離し、洗浄して固形分濃度20重量%のシリカ系微粒子(1)の分散液を得た。
【0091】
前記固形分濃度20重量%のシリカ系微粒子(1)の水分散液1500gと、純水500g、エタノール1,750gおよび28%アンモニア水626gとの混合液を35℃に加温した後、エチルシリケート(SiO2 28重量%)104gを添加してシリカ被膜を形成した。ついで、純水5Lを加えながら、限外濾過膜で洗浄して固形分濃度20重量%のシリカ系微粒子(2)の分散液を調製した。
【0092】
ついで、再びシリカ系微粒子(2)の分散液を200℃にて11時間水熱処理した後、純水5Lを加えながら限外濾過膜で洗浄して固形分濃度20重量%に調整した。そして、限外濾過膜を用いて、この分散液の分散媒をエタノールに置換し、固形分濃度20重量%のオルガノゾルを調製した。
このオルガノゾルは、平均粒子径が46nmで、比表面積が123m/g、細孔容積 0.4596ml/gの中空シリカ微粒子が分散したオルガノゾル(以下、「中空シリカゾルA」と称する。)である。
【0093】
[実施例1]
〔本発明の中空シリカ微粒子の調製〕
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。そこへ28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして100ppmとなるように加え、充分に混合し、次に、メタクリルシラン(信越化学株式会社製KBM503)4g(前記SiO分100重量部に対して20重量部相当)を添加し、反応液(水分量はSiO分に対して0.6重量%)とした。これを50℃に加温し、攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0094】
〔表面被覆された中空シリカゾルの分析〕
このオルガノゾルについて、平均粒子径の測定、比表面積の測定、200〜500℃での示差熱熱重量同時測定(TG/DTA)および、微粒子の表面電荷量の測定を行い、その結果を後記する他の実施例および比較例の結果と共に表1に記した。
【0095】
平均粒子径
粒子径分布測定装置(大塚電子株式会社製、LP−510モデルPAR−III、動的光散乱法による測定原理)を使用して、レーザー光による動的光散乱法により平均粒子径を測定した。
具体的には、試料シリカゾルを0.58%アンモニア水にて希釈して、シリカ濃度1質量%に調整し、下記粒径測定装置を用いて平均粒子径を測定した。
【0096】
比表面積
ゾル50mlを110℃で20時間乾燥した試料について、比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製、マルチソーブ12)を用いて窒素吸着法(BET法)により測定した。
具体的には、シリカゾル50mlにHNOを加えて、pH3.5に調整し、1−プロパノール40mlを加え、110℃で20時間乾燥した試料について、乳鉢で粉砕後、マッフル炉にて500℃、1時間焼成し、測定用試料とした。そして、比表面積測定装置(ユアサアイオニクス製、型番マルチソーブ12)を用いて窒素吸着法(BET法)を用いて、窒素の吸着量から、BET1点法により比表面積を算出した。
【0097】
より具体的には、試料0.5gを測定セルに取り、窒素30v%/ヘリウム70v%混合ガス気流中、300℃で20分間脱ガス処理を行い、その上で試料を上記混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に平衡吸着させる。次に、上記混合ガスを流しながら試料温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量を検出し、予め作成した検量線により、シリカゾルの比表面積を算出した。
【0098】
示差熱熱重量同時測定(TG/DTA
示差熱熱重量測定装置(理学電機株式会社製、Themoplus TG8110)を用いて示差熱熱重量同時測定を行なった。測定条件は、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分、室温〜500℃の温度範囲である。
実施例1および他の全ての実施例および全ての比較例における中空シリカ微粒子の示差熱熱重量同時測定(TG/DTA)測定用の試料については、前記の通り調製されたオルガノゾルの溶媒を除去した後、ヘキサンで充分に洗浄を行い、ヘキサンを除去した後、減圧乾燥機で乾燥させて粉末の試料(15mg)として測定に供した。
なお、実施例1〜実施例10、比較例3、実施例13〜実施例16にて使用した被覆中空シリカ微粒子については、それぞれ200℃〜500℃の温度範囲での、示差熱保持測定(DTA)において、X軸を温度、Y軸を発熱量としたとき、いずれも表1に示したピーク位置(温度)に発熱反応による正のピークを有するものであった。
【0099】
微粒子の表面電荷量
中空シリカ微粒子または金属酸化物微粒子の表面電荷量の測定方法は、表面電位滴定装置(Mutek(株) pcd-03)を用いて、中空シリカ微粒子または金属酸化物微粒子の分散液(濃度1重量%、使用量15g)を0.001Nのポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムを用いて滴定し、粒子単位グラム当たりの表面電荷量(μeq/g)求めた。その結果を表1に示した。
また、オルガノゾルおよび反応液の水分量の測定については、それぞれ測定試料(1ml)をシリンジに採取し、0.01g〜0.02gを水分計(京都電子工業株式会社製、カールフィッシャー水分計MKC−510)にて測定した。他の実施例および比較例についても同様に取り扱った。
【0100】
[実施例2]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。そこへ28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして400ppmとなるように加え、充分に混合し、次に、メタクリルシラン(信越化学株式会社製KBM503)4g(前記SiO分100重量部に対して20重量部相当)を添加し、反応液(水分量はSiO分に対して1.0重量%)とした。これを50℃に加温し、攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0101】
[実施例3]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。そこへ28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして200ppmとなるように加え、充分に混合し、次に、アクリルシラン(信越化学株式会社製KBM5103)1g(前記SiO分100重量部に対して5重量部相当)を添加し、反応液(水分量はSiO分に対して0.75重量%)とした。これを50℃に加温し、攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0102】
[実施例4]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。そこへ28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして200ppmとなるように加え、充分に混合し、次に、アクリルシラン(信越化学株式会社製KMB5103)2g(前記SiO分100重量部に対して10重量部相当)を添加し、反応液(水分量はSiO分に対して0.75重量%)とした。これを50℃に加温し、攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0103】
[実施例5]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。そこへ28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして200ppmとなるように加え、充分に混合し、次に、アクリルシラン(信越化学株式会社製KBM5103)4g(前記SiO分100重量部に対して20重量部相当)を添加し、反応液(水分量はSiO分に対して0.75重量%)とした。これを50℃に加温し、攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0104】
[実施例6]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。そこへ28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして200ppmとなるように加え、充分に混合し、次に、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン1g(前記SiO分100重量部に対して5重量部相当)を添加し、反応液(水分量はSiO分に対して0.75重量%)とした。攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、これを50℃に加温し、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0105】
[実施例7]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。そこへ28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして200ppmとなるように加え、充分に混合し、次に、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン2g(前記SiO分100重量部に対して10重量部相当)を添加し、反応液(水分量はSiO分に対して0.75重量%)とした。これを50℃に加温し、攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0106】
[実施例8]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。そこへ28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして200ppmとなるように加え、充分に混合し、次に、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン)4g(前記SiO分100重量部に対して20重量部相当)を添加し、反応液(水分量はSiO分に対して0.75重量%)とした。これを50℃に加温し、攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0107】
[実施例9]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。メタクリルシラン(信越化学株式会社製KBM503)4g(前記SiO分100重量部に対して20重量部相当)を添加し、充分に混合し、次に、28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして400ppmとなるように加え、これを50℃に加温し、反応液(水分量はSiO分に対して1.0重量%)とした攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0108】
[実施例10]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。メタクリルシラン(信越化学株式会社製KBM503)4g(前記SiO分100重量部に対して20重量部相当)および28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして400ppmとなるようにを同時に加え、反応液(水分量はSiO分に対して1.0重量%)とした。これを50℃に加温し、攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0109】
[比較例1]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量SiO分に対して0.5重量%)を調製した。そこへメタクリルシラン(信越化学株式会社製KBM503)4g(前記SiO分100重量部に対して20重量部相当)を添加し、反応液(水分量はSiO分に対して0.5重量%)とした。これを50℃に加温し、攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0110】
[比較例2]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。
【0111】
[比較例3]
前記中空シリカゾルA(シリカ固形分濃度20重量%)200gを用意し、限外濾過膜にて、メタノールへの溶媒置換を行い、SiO分が20重量%のオルガノゾル100g(水分量はSiO分に対して0.5重量%)を調製した。そこへ28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして10ppmとなるように加え、充分に混合し、次に、メタクリルシラン(信越化学株式会社製、KBM503)4g(前記SiO分100重量部に対して20重量部相当)を添加し、反応液(水分量はSiO分に対して0.5重量%)とした。これを50℃に加温し、攪拌しながら50℃で15時間加熱を行なった。加熱終了後、反応液を常温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して、SiO濃度20重量%の被覆中空微粒子からなるオルガノゾルを調製した。
【0112】
[実施例11]
〔透明被膜形成用組成物の調製〕
上記実施例1〜実施例10および比較例1、比較例2および比較例3で得られた各オルガノゾル100g(シリカ固形分20g)とバインダー(アクリル樹脂[品番ヒタロイド1007、日立化成株式会社製]3gとを混合し、これに光開始剤(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、商品名イルガキュア184)を前記シリカと樹脂の合計量に対して3重量%添加して、透明被膜形成用組成物を調製した。
【0113】
[実施例12]
〔透明被膜付基材の製造〕
実施例11で得られた各透明被膜形成用組成物を、PETフィルムにバーコーター法で塗布し、80℃で、1分間乾燥させて、透明被膜の膜厚が100nmの透明被膜付基材を得た。
【0114】
〔透明被膜付基材の特性と評価〕
この透明被膜付基材の被膜性能として、白化防止、耐擦傷性、密着性、透明被膜の屈折率、防眩性、鉛筆硬度、表面抵抗値、全光線透過率、ヘーズ、および、波長550nmの光線の反射率を測定した。なお、以下に示す実施例13〜16および比較例4についても同様に測定し、結果を表1に示した。
なお、未塗布のPETフィルムは全光線透過率が90. 7%、ヘイズが2. 0%、波長550nmの光線の反射率が7. 0%であった。
【0115】
密着性
透明被膜付基材の表面にナイフで縦横1mmの間隔で11本の平行な傷を付け100個の升目を作り、これにセロファンテープ(登録商標)を接着し、次いで、セロファンテープを剥離したときに被膜が剥離せず残存している升目の数を、以下の4段階に分類することによって密着性を評価した。
A: 残存升目の数95個以上
B: 残存升目の数90〜94個
C: 残存升目の数85〜89個
D: 残存升目の数84個以下
【0116】
白化防止
この透明被膜付基材について白化防止効果を測定し、その結果を表1に示した。白化防止効果は、透明被膜付基材を温度80℃の乾燥器に30分間入れて、塗膜の亀裂や白化の有無を目視観察し、次の3段階で評価した。
A: 亀裂や白化が無いもの。
B: 亀裂や白化が少し認められるもの。
C: 亀裂や白化がかなり認められるもの。
【0117】
耐擦傷性
この透明被膜付基材について耐擦傷性を測定し、その結果を表1に示した。耐擦傷性は、#0000スチールウールを用い、荷重500g/cm2で50回摺動し、膜の表面を目視観察し、以下の4段階で評価した。
A: 筋条の傷が認められない。
B: 筋条に傷が僅かに認められる。
C: 筋条に傷が多数認められる。
D: 面が全体的に削られている。
【0118】
透明被膜の屈折率
透明被膜の屈折率は、エリプソメーター(ULVAC社製、EMS−1)により測定した。
【0119】
防眩性
透明被膜付基材の裏面を黒スプレーで均一に塗り、30Wの蛍光灯から2m離れ、蛍光灯の映り込みを目視に確認して防眩性を評価した。
◎: 蛍光灯が全く見えない。
○: 蛍光灯がわずかに見える。
△: 蛍光灯は見えるが輪郭がぼける。
×: 蛍光灯がはっきり見える。
【0120】
鉛筆硬度
鉛筆硬度は、JIS K 5400に準じて、鉛筆硬度試験器で測定した。即ち、被膜表面に対して45度の角度に鉛筆をセットし、所定の加重を負荷して一定速度で引っ張り、傷の有無を観察した。
【0121】
透明被膜の表面抵抗
表面抵抗を表面抵抗計(三菱油化(株)製:LORESTA)で測定した。
【0122】
全光線透過率およびヘイズ
全光線透過率およびヘイズは、ヘーズメーター(日本電色株式会社製、NDH2000)により測定した。
【0123】
波長550nmの光線の反射率
波長550nmの光線の反射率は、分光光度計(日本分光社、Ubest−55)により測定した。
【0124】
【表1】

【0125】
[実施例13]
[透明被膜形成用塗料(A-1)の調製]
低屈折率成分として、シリカ系中空微粒子分散ゾル(触媒化成工業(株)製:スルーリア1420、平均粒子径60nm、濃度20.5重量%、分散媒:イソプロパノ−ル、粒子屈折率1.30、水分量はSiO分に対して0.5重量%)を用いた。このゾル100gにパーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン10g(東レダウコーニング製 AY43-158E 100%)を混合し28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして400ppmとなるように加え(水分量は、SiO分に対して、1重量%)、40℃で5時間攪拌し表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾルを得た(固形分20.3%)。
【0126】
この表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾルのTG-DTAの重量減(200℃〜500℃)を測定したところ4.5%であった。
この表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾル15.5gと、ヘキサエリスリトールトリペンタアクリレート(日本化薬(株):KAYARAD DPHA)30gに光開始剤(チバスプシャリティ(株)製、イルガキュア184、IPAで溶解、固形分濃度10%)0.42g、およびイソプロパノ−ルとメチルイソブチルケトンの1/1(重量比)混合溶媒54.08gとを充分に混合して透明被膜形成用塗布液(A-1)を調製した。
【0127】
[透明被膜付基材(1)の調製] (ハードコート+反射防止)
透明被膜形成用塗布液(A-1)をPETフィルム(厚さ100μm、屈折率1.65、基材透過率88.0%、Haze1.0%、反射率5.1%)にバ−コ−タ−で塗布し、70℃で1分間乾燥した後、高圧水銀灯(80W/cm)を1分間照射して硬化させて透明被膜付基材(1)を調製した。このときの透明被膜の膜厚は5μmであった。透明被膜の一部を縦方向に垂直に切断し、断面を透過型電子顕微鏡によって観察したところ、上部にシリカ系中空微粒子が厚さ100nmの層をなしており、下部はマトリックスのみで粒子の存在は認められなかった。
【0128】
[実施例14]
[透明被膜形成用塗料(A-2)の調製]
低屈折率成分として、シリカ系中空微粒子分散ゾル(触媒化成工業(株)製:スルーリア1420、平均粒子径60nm、濃度20.5重量%、分散媒:イソプロパノ−ル、粒子屈折率1.30、水分量はSiO分に対して0.5重量%)を用いた。このゾル100gにγ-メタアクリロオキシプロピルトリメトキシシラン1.88g(信越シリコ−ン株製 KBM-503 SiO2成分81.2%)を混合し、28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして400ppmとなるように加え(水分量はSiO分に対して1重量%)、40℃で5時間攪拌し表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾルを得た(固形分20.3%)。
【0129】
この表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾルのTG-DTAの重量減(200℃〜500℃)を測定したところ3.8%であった。
この表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾル15.5gとペンタエリスリトールトリアセテート(共栄社化学(株):PE-3A)24gと、ジエチルアミノエチルメタクリレート(共栄社化学(株):ライトエステルDE)3gに光開始剤(チバスプシャリティ(株)製イルガキュア184、IPAで溶解、固形分濃度10%)0.42g、およびイソプロパノ−ルとメチルイソブチルケトンの1/1(重量比)混合溶媒54.08gとを充分に混合して透明被膜形成用塗布液(A-2)を調製した。
【0130】
[透明被膜付基材(2)の調製](反射防止)
透明被膜形成用塗布液(A-2)をPETフィルム(厚さ100μm、屈折率1.65、基材透過率88.0%、Haze1.0%、反射率5.1%)にバ−コ−タ−で塗布し、70℃で1分間乾燥した後、高圧水銀灯(80W/cm)を1分間照射して硬化させて透明被膜付基材(2)を調製した。このときの膜厚は5μmであった。透明被膜の一部を縦方向に垂直に切断し、断面を透過型電子顕微鏡によって観察したところ、上部にシリカ系中空微粒子が厚さ100nmの層をなしており、下部はマトリックスのみで粒子の存在は認められなかった。
【0131】
[実施例15]
[透明被膜形成用塗料(A-3)の調製]
低屈折率成分として、シリカ系中空微粒子分散ゾル(触媒化成工業(株)製:スルーリア1420−120、平均粒子径120nm、濃度20.5重量%、分散媒:イソプロパノ−ル、粒子屈折率1.20、水分量はSiO分に対して0.5重量%)を用いた。このゾル100gにγ-アクリロオキシプロピルトリメトキシシラン1.88g(信越シリコ−ン株製 KBM-5103 SiO2成分81.6%)を混合し、28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして400ppmとなるように加え(水分量は、SiO分に対して、1重量%)、40℃で5時間攪拌し表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾルを得た(固形分20.3%)。
【0132】
この表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾルのTG-DTAの重量減(200℃〜500℃)を測定したところ4.5%であった。
この表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾル15.5gとパーフルオロエチルアクリレート(共栄社化学(株):FA-108)24gと、ジエチルアミノエチルメタクリレート(共栄社化学(株):ライトエステルDE)3gに光開始剤(チバスプシャリティ(株)製イルガキュア184、IPAで溶解、固形分濃度10%)0.42g、およびイソプロパノ−ルとメチルイソブチルケトンの1/1(重量比)混合溶媒57.08gとを充分に混合して透明被膜形成用塗料(A-3)を調製した。
【0133】
[透明被膜付基材(3)の調製] (ハードコート+防眩反射防止)
透明被膜形成用塗料(A-3)をPETフィルム(厚さ100μm、屈折率1.65、基材透過率88.0%、Haze1.0%、反射率5.1%)にバ−コ−タ−で塗布し、70℃で1分間乾燥した後、高圧水銀灯(80W/cm)を1分間照射して硬化させて透明被膜付基材(3)を調製した。このときの膜厚は5μmであった。透明被膜の一部を縦方向に垂直に切断し、断面を透過型電子顕微鏡によって観察したところ、上部にシリカ系中空微粒子が厚さ120nmの層をなしており、下部はマトリックスのみで粒子の存在は認められなかった。
【0134】
[実施例16]
[透明被膜形成用塗料(A-4)の調製]
低屈折率成分として、シリカ系中空微粒子分散ゾル(触媒化成工業(株)製:スルーリア1420、平均粒子径60nm、濃度20.5重量%、分散媒:イソプロパノ−ル、粒子屈折率1.30、水分量はSiO分に対して0.5重量%)を用いた。このゾル100gにパーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン10g(東レダウコーニング製 AY43-158E 100%)を混合し28%アンモニア水溶液を前記オルガノゾル100gに対してアンモニアとして400ppmとなるように加え(水分量は、SiO分に対して、1重量%)、40℃で5時間攪拌し表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾルを得た(固形分20.3%)。
【0135】
この表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾルのTG-DTAの重量減(200℃〜500℃)を測定したところ4.5%であった。
帯電防止高屈折率成分としてATO微粒子分散ゾル(触媒化成工業(株)製:ELCOM V-3501、平均粒子径8nm、濃度20.5重量%、分散媒:エタノール、粒子屈折率1.75)を用いた。このゾル100gにγ-アクリロオキシプロピルトリメトキシシラン0.15g(信越シリコ−ン株製 KBM-5103 SiO2成分81.2%)を混合し超純水を10g添加し40℃で5時間攪拌し表面処理したATO微粒子分散ゾルを得た(固形分20.0%)。
【0136】
この表面処理したATO分散ゾルのTG-DTAの重量減(200℃〜500℃)を測定したところ0.5%であった。
この表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾル15.5gと、表面処理したATO微粒子分散ゾル30gと、ヘキサエリスリトールトリペンタアクリレート(日本化薬(株):KAYARAD DPHA)27gに光開始剤(チバスプシャリティ(株)製イルガキュア184、IPAで溶解、固形分濃度10%)0.35g、およびイソプロパノ−ルとメチルイソブチルケトンの1/1(重量比)混合溶媒27.15gとを充分に混合して透明被膜形成用塗料(A-4)を調製した。
【0137】
[透明被膜付基材(4)の調製] (ハードコート+帯電防止反射防止)
透明被膜形成用塗料(A-4) TACフィルム(厚さ80μm、屈折率1.48、基材透過率88.0% Haze0.0%、反射率4.8%)にバ−コ−タ−で塗布し、70℃で1分間乾燥した後、高圧水銀灯(80W/cm)を1分間照射して硬化させて透明被膜付基材(4)を調製した。このときの膜厚は5μmであった。透明被膜の一部を縦方向に垂直に切断し、断面を透過型電子顕微鏡によって観察したところ、上部にシリカ系中空微粒子が厚さ100nmの層をなしており、下部はATO微粒子がマトリックス中に存在していた。
【0138】
[比較例4]
[透明被膜形成用塗料(R-1)の調製]
低屈折率成分として、シリカ系中空微粒子分散ゾル(触媒化成工業(株)製:スルーリア1420、平均粒子径60nm、濃度20.5重量%、分散媒:イソプロパノ−ル、粒子屈折率1.30、水分量はSiO分に対して0.5重量%)を用いた。このゾル100gにパーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン1g(東レダウコーニング製 AY43-158E 100%)を混合し、40℃で5時間攪拌し表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾルを得た(固形分20.3%)。
【0139】
この表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾルのTG-DTAの重量減(200℃〜500℃)を測定したところ0.6%であった。
この表面処理したシリカ系中空微粒子分散ゾル10.54gとペンタエリスリトールトリアセテート(共栄社化学(株):PE-3A)24gと、ジエチルアミノエチルメタクリレート(共栄社化学(株):ライトエステルDE)3gに光開始剤(チバスプシャリティ(株)製、イルガキュア184、IPAで溶解、固形分濃度10%)0.42g、およびイソプロパノ−ルとメチルイソブチルケトンの1/1(重量比)混合溶媒62.04gとを充分に混合して透明被膜形成用塗料(R-1)を調製した。
【0140】
[透明被膜付基材(R-1)の調製] (ハードコート+反射防止)
透明被膜形成用塗料(R-1)をPETフィルム(厚さ100μm、屈折率1.65、基材透過率88.0%、Haze1.0%、反射率5.1%)にバ−コ−タ−で塗布し、70℃で1分間乾燥した後、高圧水銀灯(80W/cm)を1分間照射して硬化させて透明被膜付基材(R-1)を調製した。このときの膜厚は5μmであった。透明被膜の一部を縦方向に垂直に切断し、断面を透過型電子顕微鏡によって観察したところ、シリカ系中空微粒子が膜中に均一に単分散した形で存在していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的光散乱法により測定される平均粒子径が5〜300nm、比表面積が50〜1500m/gであり、外殻の内部に空洞が形成されてなる中空のシリカ微粒子であって、熱重量測定(TG)により、200℃〜500℃の温度範囲において1.0重量%以上の重量減少を示すことを特徴とする中空シリカ微粒子。
【請求項2】
200℃〜500℃の温度範囲での示差熱保持測定(DTA)において正のDTAピークを有することを特徴とする請求項1の中空シリカ微粒子。
【請求項3】
前記中空シリカ微粒子が、その表面に珪素原子に直接結合した有機基を有することを特徴とする請求項1または請求項2の中空シリカ微粒子。
【請求項4】
前記有機基が飽和または不飽和の炭素数1〜18の炭化水素基、炭素数1〜18のハロゲン化炭化水素基から選ばれる1種以上のものであることを特徴とする請求項3の中空シリカ微粒子。
【請求項5】
中空シリカ微粒子が分散したシリカ濃度1〜70重量%のオルガノゾルを調製し、30℃〜300℃の温度範囲で、該オルガノゾルにシラン化合物およびアルカリ触媒を添加し、シリカ配合量に対して水分量が0.1〜50重量%の条件で、該シラン化合物と該中空シリカ微粒子を反応させることを特徴とする、請求項1、請求項2、請求項3または請求項4の中空シリカ微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記シラン化合物の添加量が、前記中空シリカ微粒子100重量部に対して、1〜50重量部の範囲にあり、前記アルカリ触媒の添加量が、前記オルガノゾルに対して、20〜2,000ppmの範囲にあることを特徴とする請求項5記載の中空シリカ微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか記載の中空シリカ微粒子とバインダーとを含むことを特徴とする透明被膜形成用組成物。
【請求項8】
請求項7記載の透明被膜形成用組成物が硬化した透明被膜を表面に有することを特徴とする透明被膜付基材。
【請求項9】
前記中空シリカ微粒子が、下記一般式(1)または一般式(2)の有機基を有するものであり、熱重量測定(TG)により、200℃〜500℃の温度範囲において1.5重量%以上の重量減少を示すことを特徴とする請求項3記載の中空シリカ微粒子。
一般式(1): -R-OC(=O)CCH=CH
(Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基)
一般式(2): -R-OC(=O)CH=CH
(Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基)
【請求項10】
前記中空シリカ微粒子が、下記一般式(3)の有機基を有することを特徴とする請求項3記載の中空シリカ微粒子。
一般式(3): -R-C
(a+b=2n+1、 n は1〜3の整数、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基)

【公開番号】特開2013−14506(P2013−14506A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167183(P2012−167183)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【分割の表示】特願2007−546417(P2007−546417)の分割
【原出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】