説明

中空セラミックスボール接合体、およびそれを用いたエネルギー吸収体

【課題】中空セラミックスボールが比較的小さい荷重で圧壊することによって、衝突による衝撃エネルギーを吸収する中空セラミックスボール接合体、およびその中空セラミックスボール接合体を使用することによって、衝突による衝撃が増大する前にそのエネルギーを吸収して、人体を保護することが可能なエネルギー吸収体を提供する。
【解決手段】中空セラミックスボールを接合した中空セラミックスボール接合体であって、中空セラミックスボールを接着剤で接合し、接着剤の割合が5〜50質量%である中空セラミックスボール接合体を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に空孔を有するセラミックスボール(以下、中空セラミックスボールという)を接合した接合体(以下、中空セラミックスボール接合体という)、およびそれを用いたエネルギー吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車体の安全性を向上し、かつ衝突時の車体の損傷を軽減して修理に要する費用を削減するための技術開発が促進されている。たとえば、クラッシュボックスと呼ばれる衝撃吸収部材を車体のフロントサイドメンバの先端に装着して、衝突による衝撃エネルギーを吸収する技術が実用化されている。
一般に衝撃吸収部材は、軸方向に負荷される衝撃荷重によって、軸方向に座屈する筒状部材が広く使用されている。また、さらに大きい衝撃エネルギーを吸収できるように様々な衝撃吸収部材が開発されている。
【0003】
たとえば特許文献1には、多角形の閉断面を有する鋼製の中空箱を用い、衝撃荷重が軸方向に負荷されると、軸方向に繰り返し座屈することによって蛇腹状に変形して、圧壊時の平均荷重が高い衝撃力を吸収する衝撃吸収部材が開示されている。
特許文献2には、発泡金属(特に発泡アルミニウム)を充填物として、その周囲にアルミニウム製の成形部品を取り付けて車両に装着する衝撃吸収部材が開示されている。
【0004】
特許文献3には、フロントバンパの車両幅方向に延在するリインフォースメント(すなわち外枠体)内の中空部に中空金属球を充填し、リインフォースメントと中空金属球の圧縮変形によって衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部材が開示されている。
これらの衝撃吸収部材は、いずれも車体の損傷を軽減するためのものであり、金属製の箱体や球体を使用している。そのため衝撃エネルギーの吸収を開始する荷重が比較的大きくなり、衝撃吸収部材が機能を発揮しても、搭乗者が負傷する惧れがある。
【0005】
また特許文献4には、中空セラミックスボールを枠体に充填し、さらに焼成することによってセラミックス球体を枠体に固着させた衝撃吸収部材が開示されている。
この衝撃吸収部材も、車体の損傷を軽減するためのものであり、焼成によって中空セラミックスボールが硬化する。そのため衝撃エネルギーの吸収を開始する荷重が比較的大きくなり、衝撃吸収部材が機能を発揮しても、搭乗者が負傷する惧れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-17003号公報
【特許文献2】特開平11-59298号公報
【特許文献3】特開2004-142607号公報
【特許文献4】特開平10-182264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、中空セラミックスボールが比較的小さい荷重で圧壊することによって、衝突による衝撃エネルギーを吸収する中空セラミックスボール接合体を提供することを目的とする。また、その中空セラミックスボール接合体を使用することによって、衝突による衝撃が増大する前にそのエネルギーを吸収して、人体を保護することが可能なエネルギー吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、中空セラミックスボールを接合した中空セラミックスボール接合体であって、中空セラミックスボールを接着剤で接合し、接着剤の割合が5〜50質量%である中空セラミックスボール接合体である。
本発明の中空セラミックスボール接合体においては、中空セラミックスボール接合体のプラトー荷重よりも小さい圧縮荷重を示す材料を用いて、中空セラミックスボール接合体を被覆することが好ましい。
【0009】
また本発明は、中空セラミックスボールを接合した中空セラミックスボール接合体からなるエネルギー吸収体であって、中空セラミックスボールを接着剤で接合し、接着剤の割合が5〜50質量%であるエネルギー吸収体である。
本発明のエネルギー吸収体においては、中空セラミックスボール接合体のプラトー荷重よりも小さい圧縮荷重を示す材料を用いて、中空セラミックスボール接合体を被覆することが好ましい。
【0010】
なお、使用する接着剤の割合は、中空セラミックスボール接合体の質量に対する接着剤の質量を百分率で示す値である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的小さい荷重で圧壊することによって衝撃エネルギーを吸収する中空セラミックスボール接合体を得ることができる。また、衝突による衝撃が増大する前にそのエネルギーを吸収して、人体を保護することが可能なエネルギー吸収体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】圧縮試験のストロークと荷重の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で使用する中空セラミックスボールは、次の(a)〜(c)の手順で製造できる。すなわち、
(a)セラミックス粉末にバインダーと水を添加してセラミックススラリーとし、
(b)そのセラミックススラリーを発泡スチロールの球体にコーティングし、
(c)次いで、加熱することによってセラミックス粉末を焼結するとともに、発泡スチロールを消失させる
という手順である。
【0014】
本発明で使用する中空セラミックスボールの素材は、特に限定しないが、酸化鉄やフェライト等のイオン結晶材料が好ましい。その理由は、イオン結晶材料は脆いので、衝撃エネルギーが小さい段階で、衝撃エネルギーが増大する前に、中空セラミックスボールが圧壊するからである。
中空セラミックスボールの接合には接着剤を使用する。接着剤の材質は、特に限定しないが、エポキシやアクリル等の樹脂接着剤が好ましい。その理由は、熱硬化させることによって、セラミックスに対して樹脂接着剤が十分な接着力を発揮するからである。
【0015】
接着剤の使用量は、中空セラミックスボール接合体の質量に対する割合で5〜50質量%の範囲内とする。接着剤の割合が5質量%未満では、中空セラミックスボールの接着力が不足し、衝撃エネルギーが作用せずとも中空セラミックスボールが剥離,脱落する。一方、50質量%を超えると、荷重−ストローク曲線におけるプラトー領域が狭くなる。なお、接着剤の割合は、中空セラミックスボール接合体の質量に対する接着剤の質量の比率を百分率で示す値である。
【0016】
中空セラミックスボールを接着剤で接合した中空セラミックスボール接合体は、その外表面を被覆するカバーを付けずに使用することが可能である。ただし、中空セラミックスボール接合体の破損や散乱を防止するためにカバーを用いて被覆する場合は、中空セラミックスボール接合体のプラトー荷重よりも小さい圧縮荷重を示す材料をカバーとして使用することが好ましい。その理由は、中空セラミックスボール接合体が圧壊する荷重の増大を防止するためである。なお、カバーの圧縮荷重は、先頭荷重またはプラトー荷重のうちの大きい方を指す。また、図1に示すように、プラトー荷重,圧縮荷重は、単位面積あたりの荷重で表わし、単位はMPaである。
【0017】
カバーの素材は、その圧縮荷重が中空セラミックスボール接合体のプラトー荷重よりも小さいものを使用すれば良いが、とりわけエラストマー,紙,布が好ましい。エラストマーとしては天然ゴム,合成ゴム,ウレタンゴム,シリコーンゴム,フッ素ゴム等が好適である。
以上に説明した通り、本発明では、脆い中空セラミックスボールを比較的小さい荷重で圧壊させて衝撃エネルギーを吸収するので、中空セラミックスボール接合体が衝撃エネルギーの吸収を開始する荷重を大幅に低減できる。さらに、中空セラミックスボール接合体のカバーとしてエラストマー,紙,布等を使用することによって、荷重−ストローク曲線におけるプラトー領域の荷重を超える先頭荷重の発生を防止できる。そのため、中空セラミックスボール接合体からなるエネルギー吸収体を自動車の座席等に装着すれば、搭乗者が負傷するのを防止できる。
【実施例】
【0018】
表1に示す素材のセラミックス粉末を30質量%,バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を3質量%,残部が水からなるセラミックススラリーを発泡スチロールの球体(直径10mm)に噴霧して球体の表面にコーティングし、さらに乾燥させた。次いで、セラミックス粉末をコーティングした発泡スチロールの球体を大気中あるいは窒素中で加熱することによって、セラミックス粉末を焼結するとともに、発泡スチロールを燃焼あるいは蒸発させた。このようにして発泡スチロールを消失させ、外殻のセラミックスを残存させて、中空セラミックスボールを得た。
【0019】
【表1】

【0020】
次いで、中空セラミックスボールにエポキシ系接着剤を表1に示す割合で混合して、円筒形の枠(直径50mm,長さ100mm)に充填し、150℃で熱硬化して中空セラミックスボール接合体を得た。表1に示す接着剤の割合は、後述する中空セラミックスボール接合体の質量に対する接着剤の質量を百分率で示す値である。
次に、中空セラミックスボール接合体を枠から外して、その表面を表1に示すカバーで被覆し、圧縮試験に供した。その結果を表1に併せて示す。さらに発明例7と比較例2,5,6について、圧縮試験のストロークと荷重の関係を図1に示す。図1のストローク(%)は、試験片の長さL(mm)と圧縮試験後の試験片の長さL’(mm)から100×(L−L’)/Lで算出される値である。荷重(MPa)は、単位面積あたりの荷重である。
【0021】
表1中の先頭荷重は、図1に示す通り、初期の荷重立ち上がりのピーク荷重を指す。プラトー領域は、初期の荷重立ち上がりと後期の荷重立ち上がりとの間に現れる荷重が一定となる領域を指す。なお表1では、初期の荷重立ち上がり,後期の荷重立ち上がり,プラトー領域をそれぞれ直線で近似して交点を求め、プラトー領域が占める割合を百分率で示す。プラトー荷重は、プラトー領域の荷重を指す。
【0022】
カバーとして用いたシリコーンゴム,フッ素ゴム,紙,布,合成ゴム,天然ゴムの圧縮荷重は、各中空セラミックスボール接合体のプラトー荷重の1/10程度であった。鉄箔(厚さ0.2mm)の圧縮荷重は4.7MPaであった。
表1から明らかなように、発明例1〜7では、先頭荷重とプラトー荷重が同等の値を示し、かつ低水準であった。またプラトー領域が広く、安定した圧縮特性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
比較的小さい荷重で圧壊することによって衝撃エネルギーを安定して吸収する中空セラミックスボール接合体を得ることができるので、産業上格段の効果を奏する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空セラミックスボールを接合した中空セラミックスボール接合体であって、前記中空セラミックスボールを接着剤で接合し、前記接着剤の割合が5〜50質量%であることを特徴とする中空セラミックスボール接合体。
【請求項2】
前記中空セラミックスボール接合体のプラトー荷重よりも小さい圧縮荷重を示す材料を用いて、前記中空セラミックスボール接合体を被覆することを特徴とする請求項1に記載の中空セラミックスボール接合体。
【請求項3】
中空セラミックスボールを接合した中空セラミックスボール接合体からなるエネルギー吸収体であって、前記中空セラミックスボールを接着剤で接合し、前記接着剤の割合が5〜50質量%であることを特徴とするエネルギー吸収体。
【請求項4】
前記中空セラミックスボール接合体のプラトー荷重よりも小さい圧縮荷重を示す材料を用いて、前記中空セラミックスボール接合体を被覆することを特徴とする請求項3に記載のエネルギー吸収体。


【図1】
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【公開番号】特開2011−6291(P2011−6291A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152036(P2009−152036)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】