中空壁貫通部の耐火充填材保持具
【課題】
可燃性長尺体の中空壁貫通部に充填された耐火充填材の移動を規制して、より確実に防火性能を維持できる、耐火充填材保持具を提供する。
【解決手段】
中空壁28の穴30内に設置されて、可燃性長尺体22のまわりに充填される耐火充填材の外周面を保持するスリーブ26と、可燃性長尺体22のまわりに充填された耐火充填材の端面を押さえる押さえ金具38とからなる。スリーブ26の内周面に、周方向の溝34を複数本形成する。押さえ金具38は、ばね弾性を有する1本の金属線を星形に屈曲成形したものからなる。押さえ金具38を縮径した状態でスリーブ26に入れ、スリーブ26内で解放すると、弾性反発力で押さえ金具38の各頂部42がスリーブ内周面の溝34に落ち込んで、軸線方向の移動が規制される。
可燃性長尺体の中空壁貫通部に充填された耐火充填材の移動を規制して、より確実に防火性能を維持できる、耐火充填材保持具を提供する。
【解決手段】
中空壁28の穴30内に設置されて、可燃性長尺体22のまわりに充填される耐火充填材の外周面を保持するスリーブ26と、可燃性長尺体22のまわりに充填された耐火充填材の端面を押さえる押さえ金具38とからなる。スリーブ26の内周面に、周方向の溝34を複数本形成する。押さえ金具38は、ばね弾性を有する1本の金属線を星形に屈曲成形したものからなる。押さえ金具38を縮径した状態でスリーブ26に入れ、スリーブ26内で解放すると、弾性反発力で押さえ金具38の各頂部42がスリーブ内周面の溝34に落ち込んで、軸線方向の移動が規制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性長尺体(ケーブル、樹脂パイプ、断熱配管等)が耐火性の中空壁を貫通する部分に、防火処理のために設置される耐火充填材保持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁に形成された穴を可燃性長尺体が貫通する部分では、穴内の可燃性長尺体のまわりに耐火充填材を充填して、可燃性長尺体の延焼を防止している。従来、穴内に充填された耐火充填材を所定の位置に保持するためには、図12に示すような受け金具を使用している。この受け金具10は、1本の金属線を折り曲げて、略六角形の底枠部12と、一対の立ち上がり部14と、一対の引っ掛け部16を形成したものである(特許文献1の図2参照)。
【0003】
この受け金具10は図13のように使用される。すなわち、建築物の壁18に形成された穴20を例えばケーブル22が貫通する箇所で、底枠部12と立ち上がり部14が穴20内に位置し、引っ掛け部16が穴20の縁に引っ掛かるように設置される(図示の例では二つの受け金具10を直交させて設置している)。この状態で穴20内のケーブル22のまわりに例えば軟らかいブロック状の耐火充填材24を充填すれば、ケーブル貫通部に簡単に防火処理を施すことができる。受け金具10は、穴20内に耐火充填材24を充填するときに又は充填した後で、耐火充填材24が裏側へ抜け出すのを阻止する働きをする。
【0004】
図13は壁18が中実(コンクリート壁等)の場合であるが、近年、建物内の間仕切りとして、軽量鉄骨を柱とし、その両面に石膏ボード等の耐火ボードを張り付けて構成される中空壁(間仕切り壁)が普及している。この中空壁は耐火性があり、施工が簡単で、コストが安いという利点がある。
【0005】
このような中空壁に穴を形成して、ケーブル等を通す場合には、図12のような受け金具10だけでは耐火充填材を保持することができないため、図14のような金属製のスリーブ26が用いられる。なお図14において、28は2枚の壁板28A、28B(1枚の壁板は通常2枚の石膏ボードからなる)で構成される中空壁、30は中空壁28のケーブル等が貫通する部分に形成された穴である。スリーブ26は、中空壁28の2枚の壁板28A、28Bに跨るように穴30に挿通される。スリーブ26は、穴30に予めケーブル等が通してある場合でも、そのケーブル等を囲んで穴30に挿通できるように、軸線方向に割りが入れてある。図14のようにスリーブ26を設置した後、スリーブ26内に図13と同様に受け金具10をセットし、耐火充填材24を充填する。このように、スリーブ26を使用すれば、中空壁の穴内にも耐火充填材を保持することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−68317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の中空壁貫通部の耐火充填材保持構造では、金属製のスリーブが使用され、その内面が滑らかであることから、温度変化等により可燃性長尺体が長手方向に(特に耐火充填材の充填口側へ)移動した場合に、耐火充填材も可燃性長尺体と一緒に移動するおそれがある。耐火充填材がスリーブ内で移動すると、防火性能の低下につながる。
【0008】
また従来の耐火充填材受け金具は、金属線よりなる略六角形の底枠部で耐火充填材を受け止める構造であるので、耐火充填材を受けとめる面積が十分とはいえず、耐火充填材が裏側へはみ出すおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、中空壁貫通部に充填された耐火充填材の移動を規制して、より確実に防火性能を維持できる、中空壁貫通部の耐火充填材保持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため本発明は、可燃性長尺体が貫通する中空壁の穴に前記可燃性長尺体を囲むように挿通されて、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の外周面を保持するスリーブ、を備えた中空壁貫通部の耐火充填材保持具において、
前記スリーブの内周面に、その面に接する部材が軸線方向にずれるのを規制するずれ止め部を形成したことを特徴とするものである。
【0011】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、前記スリーブの他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の端面を押さえる押さえ金具をさらに備え、
この押さえ金具は、ばね弾性を有する1本の金属線を星形に屈曲成形してなり、外力を受けない解放状態での各頂部の外接円の直径が前記スリーブの内径よりも大きく、前記金属線の弾性反発力に抗して金属線の両端が行き違いになる方向に全体をねじることで、各頂部の外接円の直径を前記スリーブに入る大きさに縮径できるようになっており、
この押さえ金具を縮径した状態で前記スリーブに入れ、スリーブ内で解放すると、弾性反発力で各頂部がスリーブ内周面のずれ止め部に当接して、押さえ金具の軸線方向の移動が規制されるようになっていることが好ましい。
【0012】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、前記スリーブの他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の反充填口側の端面を受け止める受け金具をさらに備え、
前記スリーブのずれ止め部が耐火充填材の軸線方向の移動を規制するようになっているものであってもよい。
【0013】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、前記スリーブと押さえ金具の他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の反充填口側の端面を受け止める受け金具をさらに備え、
前記押さえ金具が、前記耐火充填材の充填口側の端面を押さえるようにスリーブ内に設置され、各頂部がスリーブ内周面のずれ止め部に当接して、軸線方向の移動が規制されるようになっているものであってもよい。
【0014】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、前記スリーブの内周面の、前記押さえ金具が設置される部分のずれ止め部が、押さえ金具の各頂部が落ち込む周方向の溝で構成されていることが好ましい。
【0015】
ずれ止め部は、スリーブを構成する金属板にエンボス加工を施したり、スリーブの内周面をヤスリの表面のようにザラザラにする加工を施したり、スリーブの内周面に粘着テープを張り付けたりすることよっても形成できるが、周方向の溝の形態にするのが特に好ましい。周方向の溝は、環状に複数本形成することが好ましいが、らせん状に形成してもよい。
【0016】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、スリーブが二つの半円筒部材からなり、二つの半円筒部材が、これらをスリーブ状に組み合わせて中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有しているものであることが好ましい。
【0017】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、スリーブが1枚の金属板を円筒状に形成したものからなり、前記金属板が、スリーブを中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有しているものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、中空壁貫通部に設置されるスリーブの内面に、ずれ止め部が形成されているので、スリーブ内に充填された耐火充填材又はスリーブ内に設置された押さえ金具が軸線方向に移動するのを規制でき、中空壁貫通部の防火性能を確実に維持することができる。
【0019】
また、ずれ止め部を形成したスリーブと、星形の押さえ金具とを組み合わせることにより、押さえ金具をスリーブ内の所定位置に簡単に設置でき、耐火充填材の充填作業を効率よく行うことができると共に、スリーブ内に充填された耐火充填材をより確実に所定位置に保持することができる。
【0020】
また、ずれ止め部を形成したスリーブと、従来の受け金具とを組み合わせた場合でも、ずれ止め部によってスリーブ内に充填された耐火充填材の移動を規制でき、耐火充填材をより確実に所定位置に保持することができる。
【0021】
また、ずれ止め部を形成したスリーブと、星形の押さえ金具と、従来の受け金具を組み合わせれば、スリーブ内の耐火充填材を、さらに確実に保持することができる。
【0022】
また、ずれ止め部を形成したスリーブと、星形の押さえ金具を組み合わせる場合は、スリーブ内周面に形成するずれ止め部を、周方向の溝の形態にしておけば、押さえ金具の弾性反発力で星形の頂部が当該溝に落ち込んで押さえ金具の軸線方向の移動を確実に防止することができ、耐火充填材をより確実に所定位置に保持することができる。
【0023】
またスリーブは、一つの筒状体で構成することもできるが、二つの半円筒部材で構成すれば、二つの半円筒部材で、中空壁の穴内に挿通された可燃性長尺体を両側から囲むようにして、スリーブを組み立てることができるため、スリーブの設置作業を容易に行えると共に、スリーブの保管や運搬をする時のスペースを節約することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
〔実施形態1〕 図1は本発明に係る耐火充填材保持具を構成するスリーブの一実施形態を示す。このスリーブ26は、図2に示すような半円筒部材32を2つ組み合わせて構成されるものである。
【0025】
半円筒部材32は、金属板を半円筒状に成形すると共に、その内周面の軸線方向両端付近に、周方向の溝34を複数本ずつ(図示の例では3本ずつ)形成したものである。溝34は金属板を外側に湾曲させることにより形成する。これらの溝34は後述するように星形押さえ金具のずれ止め部となる。また半円筒部材32の軸線方向の両端にはねじ穴付きの固定片36A、36Bが一体に形成されている。一方の固定片36Aは周方向の一端側に形成され、外周面側に直角に折り曲げられており、他方の固定片36Bは周方向の他端側に形成され、軸線方向に延び出ている。
【0026】
半円筒部材32は、外力のかからない解放状態では、中空壁の2枚の壁板に形成された穴の内径よりも若干大きい外径を有しており、これを縮径させて中空壁の穴内に設置すると、弾性反発力で穴の内周面に押し付けられるようになる。また半円筒部材32は、これを二つスリーブ状に組み合わせて中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有している。図1において、Lは二つの半円筒部材32をスリーブ状に組み合わせて中空壁の穴内に設置したときの周方向両端部の重なり部を示す。
【0027】
次に図3は、図1のスリーブ26と共に耐火充填材保持具を構成する耐火充填材押さえ金具の一実施形態を示す。この押さえ金具38は、ばね弾性を有する1本の金属線40を星形に屈曲成形したものである。金属線40としてはばね弾性を有するステンレス鋼線を使用することが好ましい。42は星形の五つの頂部、44は星形の五つの辺(頂部42を一つおきに渡る部分)である。金属線40は、その両端が五つの頂部42のうちの一つに位置するように屈曲成形されている。金属線40の両端は丸めることにより、作業者のケガ防止及びケーブル等のキズ防止を図っている。また金属線40は、星形の各辺44が外側に湾曲するように屈曲成形されている。この星形押さえ金具38は、外力を受けない解放状態での五つの頂部42の外接円の直径D1が、中空壁の穴内に設置されたスリーブの内径D3(図5参照)よりも大きくなるように形成されている。
【0028】
この押さえ金具38は、星形の中心軸線のまわりに金属線40を2周巻いたらせん体でもあるので、図4に示すように、金属線40の両端が行き違いになる方向(らせん体を巻き締める方向)に全体をねじると、各頂部42の外接円の直径を、中空壁の穴内に設置されたスリーブに入る大きさD2に縮径することができる。
【0029】
なお金属線40の両端は、一つの辺44の中間に位置させることもできるが、図示のように頂部42に位置させることが好ましい。その理由は、穴内に設置したときに全ての辺に突っ張り力を発揮させることができ、より強固に固定できるからである。また星形の各辺44を外側へ湾曲させておくと、外接円の縮径をよりスムーズに行うことができると共に、各辺44の内接円の直径が大きくなるので、より太いケーブル又はケーブル束を通すことができる。
【0030】
図5は前記のようなスリーブ26と星形押さえ金具38との組み合わせで構成される耐火充填材保持具の使用方法を示す。28は建築物の中空壁、30は中空壁28に形成された穴、22は穴30を貫通するケーブル(可燃性長尺体)である。
【0031】
まず図5(A1)、(A2)に示すように、図2の半円筒部材32を二つ、穴30内に挿通し、ケーブル22のまわりで図1のように組み合わせてスリーブ26を組み立てる。スリーブ26の一端側の固定片36Aは、一方の壁板28Aの外面に当接させ、止めネジ46で壁板28Aに固定する。他端側の固定片36Bはそのままでもよいし、外側へ折り曲げてもよい。これでスリーブ26の設置が完了する。
【0032】
次に、星形押さえ金具38内にケーブル22を通すため、押さえ金具38を(A1)(A2)のように配置した後、矢印P方向に回転させる。押さえ金具38は2周巻きのらせん体であるから、矢印P方向に回転させていけば、押さえ金具38内をケーブル22が通る状態にすることができる(これは二重巻きリング型のキーホルダーをキーの穴に通すのと同様である)。なお、ケーブル22が予め布設されている場合でなく、ケーブル22をこれから布設する場合であれば、スリーブ26の手前に押さえ金具38を配置しておいて、スリーブ26にケーブル22を通すときに一緒に押さえ金具38にもケーブル22を通すようにすることもできる。
【0033】
次に押さえ金具38を、その外接円の外径がスリーブ26に入る大きさD2になる(スリーブ26の内径D3より小さくなる)ように縮径した状態で、(B1)(B2)のようにスリーブ26内に挿入し、耐火充填材を充填する側から見て、スリーブ26の奥の方の溝34がある位置で解放する。すると、押さえ金具38は、縮径変形させられた金属線の弾性反発力で各頂部42がスリーブ26の内面に強く押し付けられる。この状態で押さえ金具38を軸線方向に若干前後させると、押さえ金具38の各頂部42がいずれかの溝34に落ち込み、押さえ金具38は軸線方向に移動できなくなる。
【0034】
なお、押さえ金具38の外接円をどの程度まで縮径するかは現場合わせで調整可能であるので、スリーブ26の内径D3に多少のバラツキがあっても、支障なく設置することができる。また押さえ金具38を設置すると、その弾性反発力により、半円筒部材32の周方向両端部の重なり部Lで、溝34の部分が噛み合うようになるので、スリーブ26の形状が安定する。
【0035】
次に図6に示すように、スリーブ26内の空隙に軟質ブロック状の耐火充填材24を詰める。先に設置した押さえ金具38は、軸線方向の移動が阻止され、かつ図5(B2)に示すように金属線40が複数箇所で交差していて、耐火充填材24を受けとめる面積が大きいので、耐火充填材24が裏側へはみ出すのを確実に阻止できる。
【0036】
最後に、耐火充填材の充填口側に、もう一つの押さえ金具24を前記と同様にして設置すれば、中空壁28をケーブル22が貫通する部分の防火処理が完了する。この防火処理構造は、軸線方向の移動を規制された2つの押さえ金具38によって、スリーブ26内の耐火充填材24を前後から挟み付けているので、ケーブル22(可燃性長尺体)の温度変化による伸縮や、地震時の振動に対しても、耐火充填材24をスリーブ26内の所定位置に確実に保持することができ、長期にわたって目的とする耐火性能を維持することができる。
【0037】
〔実施形態2〕 図7は本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、スリーブ26と、押さえ金具38と、受け金具10とで耐火充填材保持具を構成した場合である。この場合はまず、ケーブル22が貫通する中空壁28の穴30に、二つの半円筒部材32を組み合わせてなるスリーブ26を挿通し、一端側の固定片36A(図示省略)を図5(A1)のように一方の壁板28Aに固定する。次に、スリーブ26の固定端側からスリーブ26内に図12のような受け金具10を挿入する。受け金具10は必要に応じ二つ用いて、図13のように底枠部が交差するように設置してもよい。この状態で、スリーブ26内のケーブル22のまわりに耐火充填材24を充填する。その後、充填口側に図3の押さえ金具38を縮径した状態で挿入し、耐火充填材24の端面に押し付けた後、解放し、押さえ金具38の各頂部42をスリーブ26内面の溝34に落ち込ませる。これで、耐火充填材24はスリーブ26内で両端面を拘束され、所定位置に保持されることになる。
【0038】
〔実施形態3〕 図8は本発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態は、スリーブ26と、一つの押さえ金具38とで耐火充填材保持具を構成した場合である。この場合は、スリーブ26の軸線方向両端部の内周面だけでなく中間部の内周面にも周方向の溝34が形成されている。中空壁28の穴30内へのスリーブ26の設置の仕方は実施形態1と同じである。押さえ金具38は、耐火充填材を充填する側から見て、スリーブ26の奥の方の溝34に星形の各頂部が落ち込むように設置される。この状態で、スリーブ26内に耐火充填材24を充填すると、耐火充填材24の外周面がスリーブ26の軸線方向中間部の溝34に入り込み、耐火充填材24の軸線方向の移動が規制される。
【0039】
なお、軸線方向中間部の内周面に溝34を形成したスリーブ26を使用する場合は、押さえ金具38の代わりに、図12に示すような受け金具10を使用することもできる。
【0040】
また、耐火充填材としてモルタルやパテを使用する場合には、スリーブ26の軸線方向中間部の内周面に溝34を形成しておくと、モルタルやパテが溝34に入り込んで固まるため、スリーブ26内で耐火充填材が移動するのを確実に防止できる。
【0041】
〔実施形態4〕 図9は本発明の耐火充填材保持具を構成するスリーブの他の実施形態を示す。このスリーブ26は、一端側にラッパ状のテーパー部48を形成したものである。固定片36Aはテーパー部48の外端縁から径方向に突出させ、現場で壁板28Aに接するように屈曲して、止めネジ46で固定するようになっている。それ以外の構成は実施形態1で説明したスリーブ26と同様である。このように一端側にテーパー部48を設けたスリーブ26を使用すると、中空壁28の穴30の内径のバラツキに柔軟に対応できる。スリーブ26以外の構成は、前記各実施形態と同様である。
【0042】
〔実施形態5〕 図10は本発明の耐火充填材保持具を構成するスリーブの他の実施形態を示す。図10では一つの半円筒部材32だけを示したが、スリーブはこの半円筒部材32を二つ組み合わせて構成される。この半円筒部材32は、固定片36Aの形成端と反対側の端部に多数のスリット50を入れて、多数の舌片52を形成したものである。このように多数の舌片52を形成しておくと、スリーブを中空壁の穴に挿通したのち、穴から突出する舌片52を中空壁の外壁面に沿うように外側へ折り曲げることにより、スリーブの中空壁からの突出部を無くすことができる。
【0043】
〔実施形態6〕 図11は本発明の耐火充填材保持具を構成するスリーブの他の実施形態を示す。このスリーブ26は、1枚の金属板54を円筒状に形成すると共に、実施形態1と同様に周方向の溝34及び固定片36Aを形成したものである。金属板54は、スリーブ26を中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有している。Lは両端部の重なり部である。上記以外の構成、使用方法等は実施形態1で説明したスリーブ26と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る耐火充填材保持具を構成するスリーブの一実施形態を示す正面図。
【図2】図1のスリーブを構成する半円筒部材を示す、(A)は正面図、(B)は内側面図、(C)は底面図。
【図3】本発明に係る耐火充填材保持具を構成する押さえ金具の一実施形態を示す、(A)は正面図、(B)は側面図。
【図4】図3の押さえ金具を縮径した状態を示す正面図。
【図5】図1のスリーブと図3の押さえ金具を中空壁の穴内に設置する手順を示す、(A1)、(B1)は断面図、(A2)、(B2)は正面図。
【図6】図1のスリーブと図3の押さえ金具を使用した、可燃性長尺体中空壁貫通部の耐火充填材保持構造を示す断面図。
【図7】図1のスリーブと図12の受け金具を使用した、可燃性長尺体中空壁貫通部の耐火充填材保持構造を示す断面図。
【図8】図1と異なる実施形態のスリーブと図3の押さえ金具を使用した、可燃性長尺体中空壁貫通部の耐火充填材保持構造を示す断面図。
【図9】本発明に係る耐火充填材保持具を構成するスリーブのさらに他の実施形態を示す断面図。
【図10】本発明に係る耐火充填材保持具を構成するスリーブのさらに他の実施形態の、半円筒部材を示す、(A)は正面図、(B)は内側面図、(C)は底面図。
【図11】本発明に係る耐火充填材保持具を構成するスリーブのさらに他の実施形態を示す、(A)は正面図、(B)は(A)のB−B線矢視一部切開側面図。
【図12】従来の耐火充填材受け金具を示す斜視図。
【図13】図12の耐火充填材受け金具を使用した可燃性長尺体中実壁貫通部の防火処理構造の、(A)は一部切開斜視図、(B)は断面図。
【図14】可燃性長尺体中空壁貫通部に使用される従来のスリーブを示す断面図。
【符号の説明】
【0045】
10:耐火充填材受け金具
22:ケーブル(可燃性長尺体)
24:耐火充填材
26:スリーブ
28:中空壁
28A、28B:壁板
30:穴
32:半円筒部材
34:溝
36A、36B:固定片
38:耐火充填材押さえ金具
40:弾性金属線
42:星形の頂部
44:辺
46:止めネジ
48:テーパー部
50:スリット
52:舌片
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性長尺体(ケーブル、樹脂パイプ、断熱配管等)が耐火性の中空壁を貫通する部分に、防火処理のために設置される耐火充填材保持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁に形成された穴を可燃性長尺体が貫通する部分では、穴内の可燃性長尺体のまわりに耐火充填材を充填して、可燃性長尺体の延焼を防止している。従来、穴内に充填された耐火充填材を所定の位置に保持するためには、図12に示すような受け金具を使用している。この受け金具10は、1本の金属線を折り曲げて、略六角形の底枠部12と、一対の立ち上がり部14と、一対の引っ掛け部16を形成したものである(特許文献1の図2参照)。
【0003】
この受け金具10は図13のように使用される。すなわち、建築物の壁18に形成された穴20を例えばケーブル22が貫通する箇所で、底枠部12と立ち上がり部14が穴20内に位置し、引っ掛け部16が穴20の縁に引っ掛かるように設置される(図示の例では二つの受け金具10を直交させて設置している)。この状態で穴20内のケーブル22のまわりに例えば軟らかいブロック状の耐火充填材24を充填すれば、ケーブル貫通部に簡単に防火処理を施すことができる。受け金具10は、穴20内に耐火充填材24を充填するときに又は充填した後で、耐火充填材24が裏側へ抜け出すのを阻止する働きをする。
【0004】
図13は壁18が中実(コンクリート壁等)の場合であるが、近年、建物内の間仕切りとして、軽量鉄骨を柱とし、その両面に石膏ボード等の耐火ボードを張り付けて構成される中空壁(間仕切り壁)が普及している。この中空壁は耐火性があり、施工が簡単で、コストが安いという利点がある。
【0005】
このような中空壁に穴を形成して、ケーブル等を通す場合には、図12のような受け金具10だけでは耐火充填材を保持することができないため、図14のような金属製のスリーブ26が用いられる。なお図14において、28は2枚の壁板28A、28B(1枚の壁板は通常2枚の石膏ボードからなる)で構成される中空壁、30は中空壁28のケーブル等が貫通する部分に形成された穴である。スリーブ26は、中空壁28の2枚の壁板28A、28Bに跨るように穴30に挿通される。スリーブ26は、穴30に予めケーブル等が通してある場合でも、そのケーブル等を囲んで穴30に挿通できるように、軸線方向に割りが入れてある。図14のようにスリーブ26を設置した後、スリーブ26内に図13と同様に受け金具10をセットし、耐火充填材24を充填する。このように、スリーブ26を使用すれば、中空壁の穴内にも耐火充填材を保持することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−68317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の中空壁貫通部の耐火充填材保持構造では、金属製のスリーブが使用され、その内面が滑らかであることから、温度変化等により可燃性長尺体が長手方向に(特に耐火充填材の充填口側へ)移動した場合に、耐火充填材も可燃性長尺体と一緒に移動するおそれがある。耐火充填材がスリーブ内で移動すると、防火性能の低下につながる。
【0008】
また従来の耐火充填材受け金具は、金属線よりなる略六角形の底枠部で耐火充填材を受け止める構造であるので、耐火充填材を受けとめる面積が十分とはいえず、耐火充填材が裏側へはみ出すおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、中空壁貫通部に充填された耐火充填材の移動を規制して、より確実に防火性能を維持できる、中空壁貫通部の耐火充填材保持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため本発明は、可燃性長尺体が貫通する中空壁の穴に前記可燃性長尺体を囲むように挿通されて、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の外周面を保持するスリーブ、を備えた中空壁貫通部の耐火充填材保持具において、
前記スリーブの内周面に、その面に接する部材が軸線方向にずれるのを規制するずれ止め部を形成したことを特徴とするものである。
【0011】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、前記スリーブの他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の端面を押さえる押さえ金具をさらに備え、
この押さえ金具は、ばね弾性を有する1本の金属線を星形に屈曲成形してなり、外力を受けない解放状態での各頂部の外接円の直径が前記スリーブの内径よりも大きく、前記金属線の弾性反発力に抗して金属線の両端が行き違いになる方向に全体をねじることで、各頂部の外接円の直径を前記スリーブに入る大きさに縮径できるようになっており、
この押さえ金具を縮径した状態で前記スリーブに入れ、スリーブ内で解放すると、弾性反発力で各頂部がスリーブ内周面のずれ止め部に当接して、押さえ金具の軸線方向の移動が規制されるようになっていることが好ましい。
【0012】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、前記スリーブの他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の反充填口側の端面を受け止める受け金具をさらに備え、
前記スリーブのずれ止め部が耐火充填材の軸線方向の移動を規制するようになっているものであってもよい。
【0013】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、前記スリーブと押さえ金具の他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の反充填口側の端面を受け止める受け金具をさらに備え、
前記押さえ金具が、前記耐火充填材の充填口側の端面を押さえるようにスリーブ内に設置され、各頂部がスリーブ内周面のずれ止め部に当接して、軸線方向の移動が規制されるようになっているものであってもよい。
【0014】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、前記スリーブの内周面の、前記押さえ金具が設置される部分のずれ止め部が、押さえ金具の各頂部が落ち込む周方向の溝で構成されていることが好ましい。
【0015】
ずれ止め部は、スリーブを構成する金属板にエンボス加工を施したり、スリーブの内周面をヤスリの表面のようにザラザラにする加工を施したり、スリーブの内周面に粘着テープを張り付けたりすることよっても形成できるが、周方向の溝の形態にするのが特に好ましい。周方向の溝は、環状に複数本形成することが好ましいが、らせん状に形成してもよい。
【0016】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、スリーブが二つの半円筒部材からなり、二つの半円筒部材が、これらをスリーブ状に組み合わせて中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有しているものであることが好ましい。
【0017】
また本発明に係る耐火充填材保持具は、スリーブが1枚の金属板を円筒状に形成したものからなり、前記金属板が、スリーブを中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有しているものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、中空壁貫通部に設置されるスリーブの内面に、ずれ止め部が形成されているので、スリーブ内に充填された耐火充填材又はスリーブ内に設置された押さえ金具が軸線方向に移動するのを規制でき、中空壁貫通部の防火性能を確実に維持することができる。
【0019】
また、ずれ止め部を形成したスリーブと、星形の押さえ金具とを組み合わせることにより、押さえ金具をスリーブ内の所定位置に簡単に設置でき、耐火充填材の充填作業を効率よく行うことができると共に、スリーブ内に充填された耐火充填材をより確実に所定位置に保持することができる。
【0020】
また、ずれ止め部を形成したスリーブと、従来の受け金具とを組み合わせた場合でも、ずれ止め部によってスリーブ内に充填された耐火充填材の移動を規制でき、耐火充填材をより確実に所定位置に保持することができる。
【0021】
また、ずれ止め部を形成したスリーブと、星形の押さえ金具と、従来の受け金具を組み合わせれば、スリーブ内の耐火充填材を、さらに確実に保持することができる。
【0022】
また、ずれ止め部を形成したスリーブと、星形の押さえ金具を組み合わせる場合は、スリーブ内周面に形成するずれ止め部を、周方向の溝の形態にしておけば、押さえ金具の弾性反発力で星形の頂部が当該溝に落ち込んで押さえ金具の軸線方向の移動を確実に防止することができ、耐火充填材をより確実に所定位置に保持することができる。
【0023】
またスリーブは、一つの筒状体で構成することもできるが、二つの半円筒部材で構成すれば、二つの半円筒部材で、中空壁の穴内に挿通された可燃性長尺体を両側から囲むようにして、スリーブを組み立てることができるため、スリーブの設置作業を容易に行えると共に、スリーブの保管や運搬をする時のスペースを節約することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
〔実施形態1〕 図1は本発明に係る耐火充填材保持具を構成するスリーブの一実施形態を示す。このスリーブ26は、図2に示すような半円筒部材32を2つ組み合わせて構成されるものである。
【0025】
半円筒部材32は、金属板を半円筒状に成形すると共に、その内周面の軸線方向両端付近に、周方向の溝34を複数本ずつ(図示の例では3本ずつ)形成したものである。溝34は金属板を外側に湾曲させることにより形成する。これらの溝34は後述するように星形押さえ金具のずれ止め部となる。また半円筒部材32の軸線方向の両端にはねじ穴付きの固定片36A、36Bが一体に形成されている。一方の固定片36Aは周方向の一端側に形成され、外周面側に直角に折り曲げられており、他方の固定片36Bは周方向の他端側に形成され、軸線方向に延び出ている。
【0026】
半円筒部材32は、外力のかからない解放状態では、中空壁の2枚の壁板に形成された穴の内径よりも若干大きい外径を有しており、これを縮径させて中空壁の穴内に設置すると、弾性反発力で穴の内周面に押し付けられるようになる。また半円筒部材32は、これを二つスリーブ状に組み合わせて中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有している。図1において、Lは二つの半円筒部材32をスリーブ状に組み合わせて中空壁の穴内に設置したときの周方向両端部の重なり部を示す。
【0027】
次に図3は、図1のスリーブ26と共に耐火充填材保持具を構成する耐火充填材押さえ金具の一実施形態を示す。この押さえ金具38は、ばね弾性を有する1本の金属線40を星形に屈曲成形したものである。金属線40としてはばね弾性を有するステンレス鋼線を使用することが好ましい。42は星形の五つの頂部、44は星形の五つの辺(頂部42を一つおきに渡る部分)である。金属線40は、その両端が五つの頂部42のうちの一つに位置するように屈曲成形されている。金属線40の両端は丸めることにより、作業者のケガ防止及びケーブル等のキズ防止を図っている。また金属線40は、星形の各辺44が外側に湾曲するように屈曲成形されている。この星形押さえ金具38は、外力を受けない解放状態での五つの頂部42の外接円の直径D1が、中空壁の穴内に設置されたスリーブの内径D3(図5参照)よりも大きくなるように形成されている。
【0028】
この押さえ金具38は、星形の中心軸線のまわりに金属線40を2周巻いたらせん体でもあるので、図4に示すように、金属線40の両端が行き違いになる方向(らせん体を巻き締める方向)に全体をねじると、各頂部42の外接円の直径を、中空壁の穴内に設置されたスリーブに入る大きさD2に縮径することができる。
【0029】
なお金属線40の両端は、一つの辺44の中間に位置させることもできるが、図示のように頂部42に位置させることが好ましい。その理由は、穴内に設置したときに全ての辺に突っ張り力を発揮させることができ、より強固に固定できるからである。また星形の各辺44を外側へ湾曲させておくと、外接円の縮径をよりスムーズに行うことができると共に、各辺44の内接円の直径が大きくなるので、より太いケーブル又はケーブル束を通すことができる。
【0030】
図5は前記のようなスリーブ26と星形押さえ金具38との組み合わせで構成される耐火充填材保持具の使用方法を示す。28は建築物の中空壁、30は中空壁28に形成された穴、22は穴30を貫通するケーブル(可燃性長尺体)である。
【0031】
まず図5(A1)、(A2)に示すように、図2の半円筒部材32を二つ、穴30内に挿通し、ケーブル22のまわりで図1のように組み合わせてスリーブ26を組み立てる。スリーブ26の一端側の固定片36Aは、一方の壁板28Aの外面に当接させ、止めネジ46で壁板28Aに固定する。他端側の固定片36Bはそのままでもよいし、外側へ折り曲げてもよい。これでスリーブ26の設置が完了する。
【0032】
次に、星形押さえ金具38内にケーブル22を通すため、押さえ金具38を(A1)(A2)のように配置した後、矢印P方向に回転させる。押さえ金具38は2周巻きのらせん体であるから、矢印P方向に回転させていけば、押さえ金具38内をケーブル22が通る状態にすることができる(これは二重巻きリング型のキーホルダーをキーの穴に通すのと同様である)。なお、ケーブル22が予め布設されている場合でなく、ケーブル22をこれから布設する場合であれば、スリーブ26の手前に押さえ金具38を配置しておいて、スリーブ26にケーブル22を通すときに一緒に押さえ金具38にもケーブル22を通すようにすることもできる。
【0033】
次に押さえ金具38を、その外接円の外径がスリーブ26に入る大きさD2になる(スリーブ26の内径D3より小さくなる)ように縮径した状態で、(B1)(B2)のようにスリーブ26内に挿入し、耐火充填材を充填する側から見て、スリーブ26の奥の方の溝34がある位置で解放する。すると、押さえ金具38は、縮径変形させられた金属線の弾性反発力で各頂部42がスリーブ26の内面に強く押し付けられる。この状態で押さえ金具38を軸線方向に若干前後させると、押さえ金具38の各頂部42がいずれかの溝34に落ち込み、押さえ金具38は軸線方向に移動できなくなる。
【0034】
なお、押さえ金具38の外接円をどの程度まで縮径するかは現場合わせで調整可能であるので、スリーブ26の内径D3に多少のバラツキがあっても、支障なく設置することができる。また押さえ金具38を設置すると、その弾性反発力により、半円筒部材32の周方向両端部の重なり部Lで、溝34の部分が噛み合うようになるので、スリーブ26の形状が安定する。
【0035】
次に図6に示すように、スリーブ26内の空隙に軟質ブロック状の耐火充填材24を詰める。先に設置した押さえ金具38は、軸線方向の移動が阻止され、かつ図5(B2)に示すように金属線40が複数箇所で交差していて、耐火充填材24を受けとめる面積が大きいので、耐火充填材24が裏側へはみ出すのを確実に阻止できる。
【0036】
最後に、耐火充填材の充填口側に、もう一つの押さえ金具24を前記と同様にして設置すれば、中空壁28をケーブル22が貫通する部分の防火処理が完了する。この防火処理構造は、軸線方向の移動を規制された2つの押さえ金具38によって、スリーブ26内の耐火充填材24を前後から挟み付けているので、ケーブル22(可燃性長尺体)の温度変化による伸縮や、地震時の振動に対しても、耐火充填材24をスリーブ26内の所定位置に確実に保持することができ、長期にわたって目的とする耐火性能を維持することができる。
【0037】
〔実施形態2〕 図7は本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、スリーブ26と、押さえ金具38と、受け金具10とで耐火充填材保持具を構成した場合である。この場合はまず、ケーブル22が貫通する中空壁28の穴30に、二つの半円筒部材32を組み合わせてなるスリーブ26を挿通し、一端側の固定片36A(図示省略)を図5(A1)のように一方の壁板28Aに固定する。次に、スリーブ26の固定端側からスリーブ26内に図12のような受け金具10を挿入する。受け金具10は必要に応じ二つ用いて、図13のように底枠部が交差するように設置してもよい。この状態で、スリーブ26内のケーブル22のまわりに耐火充填材24を充填する。その後、充填口側に図3の押さえ金具38を縮径した状態で挿入し、耐火充填材24の端面に押し付けた後、解放し、押さえ金具38の各頂部42をスリーブ26内面の溝34に落ち込ませる。これで、耐火充填材24はスリーブ26内で両端面を拘束され、所定位置に保持されることになる。
【0038】
〔実施形態3〕 図8は本発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態は、スリーブ26と、一つの押さえ金具38とで耐火充填材保持具を構成した場合である。この場合は、スリーブ26の軸線方向両端部の内周面だけでなく中間部の内周面にも周方向の溝34が形成されている。中空壁28の穴30内へのスリーブ26の設置の仕方は実施形態1と同じである。押さえ金具38は、耐火充填材を充填する側から見て、スリーブ26の奥の方の溝34に星形の各頂部が落ち込むように設置される。この状態で、スリーブ26内に耐火充填材24を充填すると、耐火充填材24の外周面がスリーブ26の軸線方向中間部の溝34に入り込み、耐火充填材24の軸線方向の移動が規制される。
【0039】
なお、軸線方向中間部の内周面に溝34を形成したスリーブ26を使用する場合は、押さえ金具38の代わりに、図12に示すような受け金具10を使用することもできる。
【0040】
また、耐火充填材としてモルタルやパテを使用する場合には、スリーブ26の軸線方向中間部の内周面に溝34を形成しておくと、モルタルやパテが溝34に入り込んで固まるため、スリーブ26内で耐火充填材が移動するのを確実に防止できる。
【0041】
〔実施形態4〕 図9は本発明の耐火充填材保持具を構成するスリーブの他の実施形態を示す。このスリーブ26は、一端側にラッパ状のテーパー部48を形成したものである。固定片36Aはテーパー部48の外端縁から径方向に突出させ、現場で壁板28Aに接するように屈曲して、止めネジ46で固定するようになっている。それ以外の構成は実施形態1で説明したスリーブ26と同様である。このように一端側にテーパー部48を設けたスリーブ26を使用すると、中空壁28の穴30の内径のバラツキに柔軟に対応できる。スリーブ26以外の構成は、前記各実施形態と同様である。
【0042】
〔実施形態5〕 図10は本発明の耐火充填材保持具を構成するスリーブの他の実施形態を示す。図10では一つの半円筒部材32だけを示したが、スリーブはこの半円筒部材32を二つ組み合わせて構成される。この半円筒部材32は、固定片36Aの形成端と反対側の端部に多数のスリット50を入れて、多数の舌片52を形成したものである。このように多数の舌片52を形成しておくと、スリーブを中空壁の穴に挿通したのち、穴から突出する舌片52を中空壁の外壁面に沿うように外側へ折り曲げることにより、スリーブの中空壁からの突出部を無くすことができる。
【0043】
〔実施形態6〕 図11は本発明の耐火充填材保持具を構成するスリーブの他の実施形態を示す。このスリーブ26は、1枚の金属板54を円筒状に形成すると共に、実施形態1と同様に周方向の溝34及び固定片36Aを形成したものである。金属板54は、スリーブ26を中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有している。Lは両端部の重なり部である。上記以外の構成、使用方法等は実施形態1で説明したスリーブ26と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る耐火充填材保持具を構成するスリーブの一実施形態を示す正面図。
【図2】図1のスリーブを構成する半円筒部材を示す、(A)は正面図、(B)は内側面図、(C)は底面図。
【図3】本発明に係る耐火充填材保持具を構成する押さえ金具の一実施形態を示す、(A)は正面図、(B)は側面図。
【図4】図3の押さえ金具を縮径した状態を示す正面図。
【図5】図1のスリーブと図3の押さえ金具を中空壁の穴内に設置する手順を示す、(A1)、(B1)は断面図、(A2)、(B2)は正面図。
【図6】図1のスリーブと図3の押さえ金具を使用した、可燃性長尺体中空壁貫通部の耐火充填材保持構造を示す断面図。
【図7】図1のスリーブと図12の受け金具を使用した、可燃性長尺体中空壁貫通部の耐火充填材保持構造を示す断面図。
【図8】図1と異なる実施形態のスリーブと図3の押さえ金具を使用した、可燃性長尺体中空壁貫通部の耐火充填材保持構造を示す断面図。
【図9】本発明に係る耐火充填材保持具を構成するスリーブのさらに他の実施形態を示す断面図。
【図10】本発明に係る耐火充填材保持具を構成するスリーブのさらに他の実施形態の、半円筒部材を示す、(A)は正面図、(B)は内側面図、(C)は底面図。
【図11】本発明に係る耐火充填材保持具を構成するスリーブのさらに他の実施形態を示す、(A)は正面図、(B)は(A)のB−B線矢視一部切開側面図。
【図12】従来の耐火充填材受け金具を示す斜視図。
【図13】図12の耐火充填材受け金具を使用した可燃性長尺体中実壁貫通部の防火処理構造の、(A)は一部切開斜視図、(B)は断面図。
【図14】可燃性長尺体中空壁貫通部に使用される従来のスリーブを示す断面図。
【符号の説明】
【0045】
10:耐火充填材受け金具
22:ケーブル(可燃性長尺体)
24:耐火充填材
26:スリーブ
28:中空壁
28A、28B:壁板
30:穴
32:半円筒部材
34:溝
36A、36B:固定片
38:耐火充填材押さえ金具
40:弾性金属線
42:星形の頂部
44:辺
46:止めネジ
48:テーパー部
50:スリット
52:舌片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性長尺体が貫通する中空壁の穴に前記可燃性長尺体を囲むように挿通されて、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の外周面を保持するスリーブ、を備えた中空壁貫通部の耐火充填材保持具において、
前記スリーブの内周面に、その面に接する部材が軸線方向にずれるのを規制するずれ止め部を形成したことを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項2】
請求項1記載の耐火充填材保持具であって、前記スリーブの他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の端面を押さえる押さえ金具をさらに備え、
この押さえ金具は、ばね弾性を有する1本の金属線を星形に屈曲成形してなり、外力を受けない解放状態での各頂部の外接円の直径が前記スリーブの内径よりも大きく、前記金属線の弾性反発力に抗して金属線の両端が行き違いになる方向に全体をねじることで、各頂部の外接円の直径を前記スリーブに入る大きさに縮径できるようになっており、
この押さえ金具を縮径した状態で前記スリーブに入れ、スリーブ内で解放すると、弾性反発力で各頂部がスリーブ内周面のずれ止め部に当接して、押さえ金具の軸線方向の移動が規制されるようになっていることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項3】
請求項1記載の耐火充填材保持具であって、前記スリーブの他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の反充填口側の端面を受け止める受け金具をさらに備え、
前記スリーブのずれ止め部が耐火充填材の軸線方向の移動を規制するようになっていることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項4】
請求項2記載の耐火充填材保持具であって、前記スリーブと押さえ金具の他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の反充填口側の端面を受け止める受け金具をさらに備え、
前記押さえ金具は、前記耐火充填材の充填口側の端面を押さえるようにスリーブ内に設置され、各頂部がスリーブ内周面のずれ止め部に当接して、軸線方向の移動が規制されるようになっていることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項5】
請求項2又は4記載の耐火充填材保持具であって、前記スリーブの内周面の、前記押さえ金具が設置される部分のずれ止め部は、押さえ金具の各頂部が落ち込む周方向の溝で構成されていることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の耐火充填材保持具であって、スリーブが二つの半円筒部材からなり、二つの半円筒部材は、これらをスリーブ状に組み合わせて中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有していることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載の耐火充填材保持具であって、スリーブが1枚の金属板を円筒状に形成したものからなり、前記金属板が、スリーブを中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有していることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項1】
可燃性長尺体が貫通する中空壁の穴に前記可燃性長尺体を囲むように挿通されて、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の外周面を保持するスリーブ、を備えた中空壁貫通部の耐火充填材保持具において、
前記スリーブの内周面に、その面に接する部材が軸線方向にずれるのを規制するずれ止め部を形成したことを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項2】
請求項1記載の耐火充填材保持具であって、前記スリーブの他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の端面を押さえる押さえ金具をさらに備え、
この押さえ金具は、ばね弾性を有する1本の金属線を星形に屈曲成形してなり、外力を受けない解放状態での各頂部の外接円の直径が前記スリーブの内径よりも大きく、前記金属線の弾性反発力に抗して金属線の両端が行き違いになる方向に全体をねじることで、各頂部の外接円の直径を前記スリーブに入る大きさに縮径できるようになっており、
この押さえ金具を縮径した状態で前記スリーブに入れ、スリーブ内で解放すると、弾性反発力で各頂部がスリーブ内周面のずれ止め部に当接して、押さえ金具の軸線方向の移動が規制されるようになっていることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項3】
請求項1記載の耐火充填材保持具であって、前記スリーブの他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の反充填口側の端面を受け止める受け金具をさらに備え、
前記スリーブのずれ止め部が耐火充填材の軸線方向の移動を規制するようになっていることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項4】
請求項2記載の耐火充填材保持具であって、前記スリーブと押さえ金具の他に、前記可燃性長尺体のまわりに充填された耐火充填材の反充填口側の端面を受け止める受け金具をさらに備え、
前記押さえ金具は、前記耐火充填材の充填口側の端面を押さえるようにスリーブ内に設置され、各頂部がスリーブ内周面のずれ止め部に当接して、軸線方向の移動が規制されるようになっていることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項5】
請求項2又は4記載の耐火充填材保持具であって、前記スリーブの内周面の、前記押さえ金具が設置される部分のずれ止め部は、押さえ金具の各頂部が落ち込む周方向の溝で構成されていることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の耐火充填材保持具であって、スリーブが二つの半円筒部材からなり、二つの半円筒部材は、これらをスリーブ状に組み合わせて中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有していることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載の耐火充填材保持具であって、スリーブが1枚の金属板を円筒状に形成したものからなり、前記金属板が、スリーブを中空壁の穴内に設置したときに、周方向の両端部が互いに重なり合うだけの周長を有していることを特徴とする中空壁貫通部の耐火充填材保持具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−207243(P2006−207243A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20197(P2005−20197)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000165996)株式会社古河テクノマテリアル (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000165996)株式会社古河テクノマテリアル (23)
【Fターム(参考)】
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