説明

中空構造体の製造方法

【課題】 繊維やフィルム等の様々な形状、大きさを有し、耐薬品性を備えたフッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる中空構造体の製造方法、及び当該方法により得られる中空構造体を提供する。
【解決手段】 本発明に係る中空構造体の製造方法は、炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体にフッ素を含む処理ガスを所定条件下で接触させ、該構造体の外表面から内部に向かって該処理ガスを浸透させることにより、構造体の中心部分を除きフッ化処理するフッ化処理工程と、前記未フッ化処理状態にある中心部分を除去する除去工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空構造体の製造方法及び当該方法により得られる中空構造体に関し、より詳細には、開口状の中空構造を有し、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる耐薬品性の中空構造体の製造方法及び当該方法により得られる中空構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多種多様の方法により中空構造体の製造が実施されている。例えば、特許文献1には、中空セラミックス繊維製品とその製造方法が開示されている。当該公報によれば、中空セラミックス繊維製品は、有機繊維の外周面に前駆体となる金属化合物を含有する溶液から析出させた0.1μm以上の厚さの金属酸化物からなり、有機繊維が除去されることにより内部に該有機繊維の形状に相当する空孔が形成されている旨が記載されている。
【0003】
しかし、前記の中空セラミックス繊維製品はセラミックスの無機化合物からなるものであり、有機化合物からなる繊維製品と比較して軽量感に乏しい。また、前駆体となる金属化合物を含有する溶液に有機繊維を浸漬することにより、金属酸化物膜を形成するので、被膜の厚み制御が困難である。
【0004】
また、軽量感、保温性等の機能性を付与した繊維に対するニーズが高い。この為、アクリル、ポリエステル、ナイロン等の様々な合成繊維を中空状にすることが広く行われている。
【0005】
前記の様な中空状の合成繊維の製造方法としては、例えば、紡糸口金を使用して紡糸する過程で中空構造にする方法や、2つの成分からなる繊維を用いて織編物を作製し、何れか一方の成分の繊維を溶解させて中空構造にする方法が挙げられる。前者の方法は、例えば特許文献2〜6に開示されている。また、後者の方法は、例えば特許文献7に開示されている。
【0006】
しかし、前記の製造方法では、湿式紡糸、乾式紡糸又は溶融紡糸に関わらず、大がかりな装置が必要である。また、繊維素材の違いにより製造方法が異なる為、製造コストが高く、熟練した技術・知識が必要となる上、耐薬品性にも劣る。更に、前記の製造方法は繊維状のものにのみ適用できる技術であり、フィルム等の種々の形状や大きさに適用することは困難である。また、製造過程で中空構造を形成する技術である為、市販品に中空構造を形成することも困難である。
【0007】
【特許文献1】特開2001−248024号公報
【特許文献2】特開平9−78355号公報
【特許文献3】特開2003−105627号公報
【特許文献4】特開2005−256243号公報
【特許文献5】特開2006−45720号公報
【特許文献6】特開2006−9178号公報
【特許文献7】特開2007−016356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、繊維やフィルム等の様々な形状、大きさを有し、耐薬品性を備えたフッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる中空構造体の製造方法、及び当該方法により得られる中空構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、中空構造体の製造方法及び当該方法より得られる中空構造体について検討した。その結果、下記構成を採用することにより前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明に係る中空構造体の製造方法は、前記の課題を解決する為に、炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体にフッ素を含む処理ガスを所定条件下で接触させ、該構造体の外表面から内部に向かって該処理ガスを浸透させることにより、構造体の中心部分を除きフッ化処理するフッ化処理工程と、前記未フッ化処理状態にある中心部分を除去する除去工程を含むことを特徴とする。
【0011】
前記方法に於いて、フッ化処理工程は、炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体にフッ素を含む処理ガスを接触させ、かつ内部に向かって処理ガスを浸透させることにより、構造体の中心部分を除きフッ化処理を行う。次に、前記中心部分を除去することにより、開口状の中空構造体が得られる。当該中空構造体はフッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなるので、フッ酸等の酸性溶液や水酸化カリウム等の強アルカリ溶液、有機溶媒に対して優れた耐薬品性を示す。また、該重合体からなる構造体の形状や大きさに制約されることなく開口状の中空構造にできるので、設備コストの上昇を抑制することができる。
【0012】
前記重合体からなる構造体の一部に、前記フッ化処理によるフッ素化を防止する為のマスキングを行う工程、又は前記フッ素化処理後の構造体に於いて、未フッ化処理状態にある中心部分を露出させる工程を行うことが好ましい。これにより、フッ素化処理後の構造体に於いて、未フッ化処理状態にある中心部分を露出させることができるので、該中心部分の除去を容易に行うことができる。
【0013】
前記除去工程は、前記重合体が溶解性を示し、かつ、溶媒温度が0〜250℃の範囲内にある溶媒を、前記中心部分の露出した部分に接触させることにより、該中心部分を溶解除去することができる。前記重合体が溶解性を示す溶媒を使用することにより、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体等からなる部分のみを残して、炭化水素重合体等からなる中心部分のみを溶解除去する。これにより、開口状の中空構造にすることができる。
【0014】
また、前記除去工程は、不活性ガス雰囲気下に於いて50〜400℃の範囲内で加熱しながら行うこともできる。これにより、未フッ化処理の中心部分を焼成除去することができる。その結果、例えば、耐薬品性の高い炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体を使用する場合や、該重合体が溶解性を示す溶媒を見出すことができない場合でも、該中心部分のみを除去することができ、開口状の中空構造体が得られる。
【0015】
前記フッ化処理工程の前に、前記重合体からなる構造体を、不活性ガス雰囲気下に於いて所定条件下で加熱する前処理工程を行うことが好ましい。これにより、前記重合体からなる構造体中に含まれる水分や揮発成分など、フッ化処理の進行を阻害する阻害成分を予め除去できるので、一層耐薬品性に優れた中空構造体を得ることができる。
【0016】
前記フッ化処理工程直後の前記構造体を、所定条件下で加熱する後処理工程を行うことが好ましい。これにより、構造体中に反応しきれずに残存している処理ガスや、反応時に発生し、かつ構造体表面に吸着しているフッ化水素等の不純物を除去することができる。また、当該加熱により、構造体の更に内部にまでフッ素化を進行させることができ、機械的強度を一層向上させることができる。
【0017】
前記処理ガスとして、フッ化水素(HF)、フッ素(F)、三フッ化塩素(ClF)、四フッ化硫黄(SF)、三フッ化ホウ素(BF)、三フッ化窒素(NF)、及びフッ化カルボニル(COF)からなる群より選択される少なくとも何れか1種のガス、又は前記ガスを不活性ガスで希釈したものを使用することが好ましい。
【0018】
前記炭化水素重合体が、オレフィン重合体、環状オレフィン重合体、芳香族不飽和炭化水素重合体、極性基含有重合体、又はこれら2種類以上を含む共重合体であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る中空構造体は、前記の課題を解決する為に、前記に記載の中空構造体の製造方法により得られる中空構造体であって、開口状の中空構造を有し、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなることを特徴とする。
【0020】
前記構成によれば、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなるので、フッ酸等の酸性溶液や水酸化カリウム等の強アルカリ溶液、有機溶媒に対して耐薬品性を有する。また、本発明の中空構造体は、中空部が外部と連通した開口状の中空構造を有するものであればよく、形状及びサイズに関する自由度が高い。即ち、本発明の中空構造体は、例えば繊維状やフィルム状のもの等に適用することできる。
【0021】
また、本発明の中空構造体の中空率は0.1〜99%の範囲内であることが好ましい。尚、「中空率」とは、中空構造体の横断面において中空部を含む全断面積に対する該中空部の断面積比率を意味する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、形成及び大きさに制約されることなく、簡易かつ低コストで耐薬品性に優れた中空構造体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態について、図を参照しながら以下に説明する。但し、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にする為に拡大または縮小等して図示した部分がある。
【0024】
本実施の形態に係る中空構造体は、開口状の中空構造を有し、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる樹脂一体成形体である。前記中空構造体の形状は繊維状のものに限定されず、例えばフィルム状のものであってもよい。繊維状の中空構造体の場合、中空部は繊維軸方向に連続して設けられている。
【0025】
本実施の形態に係る中空構造体が繊維状である場合、その厚みは特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。例えば、直径が100μmの中空構造体の場合には、その厚みは0.1〜9.9μmの範囲内であることが好ましく、1.0〜9.0μmの範囲内であることがより好ましい。厚みが0.1μm未満であると、中空構造体としての機能を十分に発揮できない場合がある。その一方、厚みが9.9μmを超えると、中空構造体としての形態保持性が低下し、捻れ等が発生する場合がある。
【0026】
本実施の形態に係る中空構造体がフィルム状である場合、その厚みは特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。例えば、フィルムの総厚が100μmの中空構造体の場合には、被膜の厚みは0.1〜9.9μmの範囲内であることが好ましく、1.0〜9.0μmの範囲内であることがより好ましい。厚みが0.1μm未満であると、中空構造体としての機能を十分に発揮できない場合がある。その一方、厚みが9.9μmを超えると、中空構造体としての形態保持性が低下する場合がある。
【0027】
前記フッ化炭化水素重合体は、後述する炭化水素重合体の一部がフッ素化された重合体を意味し、フッ化炭素重合体は、炭化水素重合体が完全にフッ素化された重合体を意味する。
【0028】
本発明の中空構造体はフッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなるので、フッ酸、硫酸、塩酸、硝酸、若しくは過酸化水素水等の酸性溶液、又はこれらの酸性溶液が2種以上含まれる混合酸に対し、優れた耐薬品性を示す。また、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の強アルカリ溶液に対しても優れた耐薬品性を示す。更に、芳香族系溶媒、環式系溶媒、鎖式系溶媒等の有機溶媒に対しても耐薬品性を示す。
【0029】
また、中空構造体の中空率は、0.1〜99%の範囲内であることが好ましく、1〜90%の範囲内であることがより好ましい。中空率が0.1%未満であると、中空構造体としての機能を十分に発揮できない場合がある。その一方、中空率が99%を超えると、中空構造としての形態保持性が低下し、捻れ等が発生する場合がある。
【0030】
次に、本実施の形態に係る中空構造体の製造方法について説明する。本実施の形態に係る製造方法は、炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体のフッ化処理工程と、フッ素化されていない中心部分の除去工程を少なくとも行う。
【0031】
前記炭化水素重合体としては特に限定されず、例えば、前記炭化水素重合体が、オレフィン重合体、環状オレフィン重合体、芳香族不飽和炭化水素重合体、極性基含有重合体、又はこれら2種類以上を含む共重合体が挙げられる。より具体的には、例えば、オレフィン重合体では、ポリエチレン、プロピレン、ポリブテン−1、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−へキセン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体等が挙げられる。芳香族炭化水素重合体では、ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体等が挙げられる。極性基含有重合体では、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリルまたはこれら2種類以上を含む共重合体等が挙げられる。環状オレフィン重合体ではノルボルネン重合体、ジシクロペンタジエン重合体、テトラシクロドデセン重合体、エチルテトラシクロドデセン重合体、エチリデンテトラシクロドデセン重合体、テトラシクロ〔7.4.0.110、13.02、7〕トリデカ−2,4,6,11−テトラエン重合体、1,4−メタノ−1,4,4a、9a−テトラヒドロフルオレン等のノルボルネン系重合体、シクロブテン重合体、シクロペンテン重合体、シクロへキセン重合体、3,4−ジメチルシクロペンテン重合体、3−メチルシクロへキセン重合体、2−(2−メチルブチル)−1−シクロへキセン重合体、シクロオクテン重合体、シクロへプテン重合体、シクロペンタジエン重合体、シクロヘキサジエン重合体又はこれら2種類以上を含む共重合体等が挙げられる。またオレフィン重合体、環状オレフィン重合体、芳香族炭化水素重合体、極性基含有重合体を構成するモノマーの少なくとも1種以上を含む共重合体、例えばエチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−スチレン共重合体、エチレン−2−ノルボルネン共重合体等も挙げられる。また、レーヨン、キュプラ、ウール、シルク、セルロース等の天然繊維が挙げられる。更に、アクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン等の合成繊維等が挙げられる。これらの重合体のうち、フッ化処理によりフロロカーボンに容易に変換できるものが好ましい。
【0032】
また、本発明に於いては、前記炭化水素重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体を適用することも可能である。前記窒素含有基としては特に限定されず、例えば、アミノ基、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジシクロヘキシルアミノなどのアルキルアミノ基、フェニルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノ、ジナフチルアミノ、メチルフェニルアミノなどのアリールアミノ基またはアルキルアリールアミノ基などが挙げられる。前記ケイ素含有基としては特に限定されず、例えば、メチルシリル基、フェニルシリル基、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、ジフェニルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリシクロヘキシルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、トリトリルシリル基、トリナフチルシリル基などが挙げられる。前記酸素含有基としては特に限定されず、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどのアルコキシ基、フェノキシ、メチルフェノキシ、ジメチルフェノキシ、ナフトキシなどのアリロキシ基、フェニルメトキシ、フェニルエトキシなどのアリールアルコキシ基、エーテル基などが挙げられる。前記リン含有基としては特に限定されず、例えば、ジメチルフォスフィノ基、ジフェニルフォスフィノ基などが挙げられる。前記硫黄含有基としては特に限定されず、例えば、チオール基、スルフォネート基、スルフィネート基等が挙げられる。
【0033】
また、前記炭化水素重合体又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体に対しては、予め所定の前処理工程を行うのが好ましい。より具体的には、前記構造体を不活性ガス雰囲気下で加熱する前処理工程を行うのが好ましい。当該前処理工程を行うことにより、前記構造体中に含まれる水分や揮発成分など、フッ化処理の進行を阻害する阻害成分を予め除去することができる。その結果、耐薬品性を一層向上させた中空構造体が得られる。
【0034】
前処理工程は、例えば、前記構造体4を反応容器3内に載置し、不活性ガス供給ライン1を介して、構造体4内部に前記不活性ガスを導入することにより行う(図1参照)。前記不活性ガスとしては前記構造体と反応し悪影響を与えるガスあるいは該悪影響を与える不純物を含むガス以外であれば特に限定されず、例えば、ドライエアー、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等を単独で、あるいはこれらを混合して用いることができる。また、不活性ガスの純度としては特に限定されないが、該悪影響を与える不純物については100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。
【0035】
特に、前記構造体によっては、不活性ガスに含まれる不純物の内、水分や酸素がフロロカーボンへの変換を阻害し、中空構造体の機械的強度を低下させる要因となり得る場合がある。その為、使用される不活性ガス中のこれら水分または酸素の存在濃度は、100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。なお、当然のことながら、このように酸素が悪影響を与える場合にはドライエアーは使用できない。
【0036】
前記反応容器3としては特に限定されず、例えば、ステンレス製、アルミニウム製、又はニッケル製等のものを使用することができる。
【0037】
前記構造体4の加熱は加熱装置5により行う。加熱温度としては、炭化水素重合体又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体が有する物性に応じて適宜設定すればよく、通常は60〜160℃であり、好ましくは60〜120℃の範囲内である。また、加熱時間としては、該重合体が有する物性に応じて適宜設定すればよく、通常は1〜600分であり、好ましくは1〜360分の範囲内である。また、加熱は露点計で水分量をモニタリングしながら行うのが好ましい。
【0038】
更に、構造体4の加熱は減圧下で行ってもよい。その圧力としては特に限定されず、例えば、10Pa以下であることが好ましく、1Pa以下であることがより好ましい。
【0039】
前記フッ化処理工程は、炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体にフッ素を含む処理ガスを接触させることにより、該構造体の中心部分を除きフッ化処理する工程である。前記処理ガスとしては、フッ化水素(HF)、フッ素(F)、三フッ化塩素(ClF)、四フッ化硫黄(SF)、三フッ化ホウ素(BF)、三フッ化窒素(NF)、及びフッ化カルボニル(COF)からなる群より選択される少なくとも何れか1種のガス、又は前記ガスを不活性ガスで希釈したものを使用することが可能である。なお、希釈に用いる不活性ガスとしては、前記処理ガスと反応し、前記構造体のフッ化に悪影響を及ぼすガス以外、および前記構造体と反応し悪影響を与えるガスあるいは該悪影響を与える不純物を含むガス以外であれば特に限定されず、例えば、ドライエアー、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等を単独で、あるいはこれらを混合して用いることができる。また、不活性ガスの純度としては特に限定されないが、該悪影響を与える不純物については100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。
【0040】
フッ化処理は、例えば、次の通りに行う。先ず、図1に示す不活性ガス供給ライン1の弁を閉栓した後、真空ライン7の弁を開栓して反応容器3内を減圧下にする。その圧力としては特に限定されず、例えば、10Pa以下であることが好ましく、1Pa以下であることがより好ましい。また、必要に応じて反応容器3内を予熱又は予冷してもよい。
【0041】
次に、所定の圧力まで減圧した後、真空ライン7の弁を閉栓し、次いで不活性ガス供給ライン1とフッ化ガス供給ライン2の弁を開栓する。これにより、不活性ガスとフッ化ガスをライン中で混合させ、処理ガスとして反応容器3に供給する。
【0042】
フッ化ガスの濃度、流量は特に限定されないが、フッ化ガスと炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体との反応がその初期に於いて爆発的に起こる場合がある。この為、反応初期に於いては、フッ化ガスの濃度、及び流量を適切に設定することが重要である。つまり反応の進行状況に応じて、濃度、流量を適宜大きくし、又は小さくしてもよく、前記フッ化ガスの濃度は、通常0.001〜100%の範囲内で設定することができるがその初期においては、該重合体と前記フッ化ガスとの反応を緩やかにする為に、フッ化ガスの濃度は0.001〜30%の範囲内にすることが好ましく、0.001〜20%の範囲内にすることがより好ましく、0.001〜10%の範囲内にすることが特に好ましい。
【0043】
処理ガス中のフッ化ガスの濃度は、不活性ガス供給ライン1及びフッ化ガス供給ライン2からそれぞれ供給されるガス流量により調整可能である。フッ化ガスは常圧下、加圧下、減圧下のいずれかで連続的に供給してもよく、或いは大気圧封入、加圧封入、減圧封入でもよい。
【0044】
また、炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体とフッ化ガスとの反応を、その初期に於いて緩やかにするという観点から、該重合体の温度は反応初期に於いては低温で設定し、その後、反応の進行状況に応じて連続的に又は間欠的に温度を上げてもよい。具体的には、例えば−50〜250℃の範囲内であることが好ましく、−20〜200℃の範囲内であることがより好ましい。反応温度が−50℃未満であると、該重合体からなる構造体のフッ素化が不十分となり、厚みが薄く機械的強度の小さい中空構造体となる場合がある。その一方、反応温度が250℃を超えると、該重合体からなる構造体が中心部分まで全てフッ素化され、中空構造が得られない場合がある。
【0045】
フッ素化処理の時間(反応時間)としては特に限定されず、通常は1〜600分の範囲内で行われるが、1〜300分の範囲内が好ましく、1〜150分の範囲内がより好ましい。反応時間が1分未満であると、炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体のフッ素化が不十分となり、厚みが薄く機械的強度の小さい中空構造体となる場合がある。その一方、反応時間が600分を超えると、該重合体からなる構造体が中心部分まで全てフッ素化され、中空構造が得られない場合がある。
【0046】
中空構造体の厚みは、フッ化ガスの濃度、反応温度、反応時間を適宜必要に応じて設定することにより制御可能である。即ち、これらの各パラメータを大きくすれば、前記厚みを厚くすることができ、小さくすれば薄くすることができる。
【0047】
処理ガスを炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体に接触させ所定時間が経過した後、フッ化ガス供給ライン2の弁を閉栓し、不活性ガス供給ライン1から不活性ガスを供給し続けることにより、反応容器3内を処理ガスから不活性ガスのみに置換する。
【0048】
続いて、フッ化処理後の構造体を、加熱装置を用いて加熱する(後処理工程)。この加熱処理により、構造体に於ける炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体と反応しきれずに残存しているフッ化ガスや、反応時に発生し、かつ構造体表面に吸着しているフッ化水素等の不純物を除去することができる。また、当該加熱により、構造体の更に内部までフッ素化を進行させることができ、機械的強度を一層向上させることができる。また加熱温度はフッ化処理温度より高温に設定することが好ましい。加熱温度としては、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体が有する物性に応じて適宜設定すればよいが、50〜250℃であることが好ましく、50〜200℃であることがより好ましい。また、加熱時間としては、1〜600分であることが好ましく、1〜360分であることがより好ましい。加熱温度が50℃未満であり、又は加熱時間が1分未満であると、前記フッ化ガスや不純物の除去が不十分になる場合がある。その一方、加熱温度が250℃を超え、又は加熱時間が600分を超えると、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体の機械的強度が低下するという不都合がある。
【0049】
前記フッ化処理工程の後、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体を反応容器3から取り出す。次に、前記構造体の未フッ化処理状態にある中心部分を露出していない場合は、該中心部分が露出する様に、構造体の一部を切断する等の加工を行う。フッ素化処理されていない未反応の中心部分が外部に露出していない場合、後述する除去工程に於いて、中心部分を除去することができないからである。また、フッ素化処理工程の前に、炭化水素重合体又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体の一部に予めマスキングを施してもよい。この場合は、後述する除去工程の前にマスクを除去する。マスキングの方法としては、例えば、未処理部分にマスキングテープ等の表面保護材により被覆する方法等が挙げられる。
【0050】
次に、未フッ化処理状態にある中心部分を除去する除去工程を行う。当該除去は、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体を、所定の溶媒中に浸漬させる等の方法により行う。前記溶媒としては特に限定されず、炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体の種類等に応じて適宜設定すればよい。具体的には、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン重合体にはキシレン等の有機溶媒が挙げられる。また、ノルボルネン重合体にはシクロヘキサン、シクロオクタン等の有機溶媒が挙げられる。
【0051】
フッ化処理後の該重合体を溶剤へ浸漬し、中心部分を除去する工程においては、溶媒を加熱してもよく、還流冷却器を設置して溶媒を加熱還流させてもよい。また該工程は、大気圧下、加圧下、減圧下の何れで行ってもよいが、加圧下で実施した場合、フッ素化されていない中心部分の溶解除去を迅速に行うことができる。溶媒温度としては特に限定されず、使用する有機溶媒の沸点により適宜設定できる。具体的には、例えば0〜250℃の範囲内であることが好ましく、0〜150℃の範囲内であることがより好ましい。溶媒温度が0℃未満であると、迅速な溶解除去が困難になる場合がある。その一方、溶媒温度が250℃を超えると、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体自身が溶解するという不都合がある。尚、構造体の前処理工程では加熱温度60〜160℃の範囲内で行っていたが、本工程では溶媒温度を250℃にまで上昇させて行うことができる。これは、構造体のフッ化処理を行うことによりその耐熱性の向上が図れることを意味している。また、浸漬時間等も、炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体が有する溶解性や構造体の形状・大きさ、溶媒の種類等に応じて、適宜設定され得る。
【0052】
また、例えば、該重合体が溶解性を示す溶媒を見出すことができない場合には、前記除去工程として、不活性ガス雰囲気下での加熱を行ってもよい。この方法でも、未フッ化処理の中心部分を融解除去または焼成除去することができる。また、フッ化処理によりフッ化炭化水素重合体又はフッ化炭素重合体となった部分に於いては、その機械的強度を一層向上させることできる。
【0053】
前記加熱温度は、炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体の物性や構造体の形状・大きさに応じて適宜設定され得る。具体的には、例えば50〜400℃であることが好ましく、100〜300℃であることがより好ましい。尚、構造体の前処理工程では加熱温度60〜160℃の範囲内で行っていたが、本工程では加熱温度を400℃にまで上昇させて行うことができる。これは、構造体のフッ化処理を行うことによりその耐熱性の向上が図れることを意味している。また、加熱時間も、加熱温度の場合と同様の理由で設定することができ、具体的には、30〜200分であることが好ましい。加熱による中心部分の除去後は、中空構造体を室温まで冷却する。また、当該工程は、大気圧下、加圧下、減圧下の何れで行ってもよい。
【0054】
尚、前記不活性ガスとしては中空構造体と反応し悪影響を与えるガスあるいは該悪影響を与える不純物を含むガス以外であれば、特に限定されず、例えば、ドライエア−、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等を単独で、あるいは、これらを混合して用いることができる。なお、該悪影響を与える不純物については100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。
【0055】
以上の方法により、開口状の中空構造を有し、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる中空構造体が得られる。本実施の形態に係る炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体を、例えば繊維状にすることにより中空繊維とすることができる。この中空繊維を原料にして作製した繊維構造物は、従来のものと比べて軽量性や耐薬品性に優れたものにできる。また、本中空構造体は、カテーテル等の医療器材等にも適用できる。
【実施例】
【0056】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0057】
(実施例1)
先ず、図1に示すように、環状オレフィン重合体(商品名;ゼオノア1060、日本ゼオン社製)からなる繊維状の構造体4を反応容器3に導入し、真空ライン7の弁を開栓して、反応容器3内が1Pa以下になるまで減圧した。
【0058】
次に真空ライン7の弁を閉栓し、不活性ガス供給ライン1の弁を開栓し、反応容器3内に窒素ガスを導入した。反応容器3内が大気圧を示したら、排気ライン6の弁を開栓し、窒素流量1.5L/min、90℃で1時間加熱処理を行った。昇温速度は2.0℃/minとした(前処理工程)。
【0059】
所定時間経過後、反応容器3内を30℃まで冷却し、不活性ガス供給ライン1及び排気ライン6の弁を閉栓し、反応容器3内を密閉状態にした。その後、真空ライン7の弁を開栓し、反応容器3内を1Pa以下になるまで減圧した。
【0060】
次に、真空ライン7の弁を閉栓し、不活性ガス供給ライン1及びフッ化ガス供給ライン2の弁を同時に開栓し、フッ素ガス濃度5%、トータル流量100cc/minになるように窒素ガスで希釈した5%フッ素ガスを反応容器3内に大気圧まで導入した。
【0061】
大気圧を示したら、不活性ガス供給ライン1及びフッ素ガス供給ライン2の弁を同時に閉栓し、反応容器3内を密閉状態にし、そのまま1時間保持した(フッ化処理工程)。
【0062】
所定時間経過後、加熱装置5を用いて、構造体4を90℃まで昇温させ、90℃到達後、1時間保持した(フッ化処理工程)。昇温速度は0.1℃/minとした。
【0063】
次に、反応容器3内の温度を室温まで冷却し、不活性ガス供給ライン1及び排気ライン6の弁を開栓し、反応容器3内のフッ素ガスを窒素ガスに置換した後、不活性ガス供給ライン1及び排気ライン6の弁を閉栓し、真空ライン7の弁を開栓し、反応容器3内が1Pa以下になるまで減圧した。
【0064】
次に、真空ライン7の弁を閉栓し、不活性ガス供給ライン1の弁を開栓し、反応容器3内に1.5L/minで窒素ガスを導入した。反応容器3内が大気圧を示したら、排気ライン6の弁を開栓し、加熱装置5にて2℃/minの昇温速度で昇温加熱し、95℃に到達したら1時間保持した。所定時間終了後、反応容器内を室温まで冷却し、構造体4を取り出した(後処理工程)。
【0065】
続いて、構造体4を20mm角にカットしてシクロオクタン(99.8%)50gに室温で24時間浸漬させた。次に、構造体4を取り出し、イソプロピルアルコールで洗浄した後、60℃で5時間乾燥させ、室温まで冷却した。これにより、本実施例1に係る中空構造体を作製した。
【0066】
<分析>
中空構造体を10mm角にカットし、走査型電子顕微鏡(SEM)にてカット面を観察したところ中空構造体であった(図2参照)。また膜厚はおよそ1.0μmであった。
【0067】
また、フッ化処理直後の構造体と中空構造体の表面分析を、X線光電子分析装置(XPS)を用いて行ったところ、両者の表面組成に大きな違いは見られなかった。更に、両者ともにフッ化炭化水素重合体からなるものであることが分かった(図3参照)。更に、後述の方法により測定した中空率は、50%であった。
【0068】
(実施例2)
先ず、オレフィン重合体(ポリプロピレン SLFD50125:NKK社製)からなる繊維状の構造体4を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ化処理を行った。
【0069】
次に、フッ化処理後の構造体を20mm角にカットしてキシレン(80%)50gに110℃で24時間浸漬させた。次に、前記構造体を取り出し、イソプロピルアルコールで洗浄した後、90℃で5時間乾燥させ、室温まで冷却した。これにより、本実施例2に係る中空構造体を作製した。
【0070】
<分析>
中空構造体の厚み及び表面分析は、実施例1と同様にして行った。その結果、膜厚はおよそ1.0μmであった(図4参照)。また、表面分析については、フッ化処理直後の表面組成と中空構造体の表面組成がほぼ同様であり、両者ともにフッ化炭化水素重合体であることが分かった(図5参照)。更に、後述の方法により測定した中空率は、60%であった。
【0071】
(実施例3)
先ず、前記実施例2と同様にして、構造体のフッ化処理を行った。次に、構造体を20mm角にカットして、窒素ガス雰囲気中で昇温速度2.5℃/minで300℃まで上昇させた。更に、300℃、1時間の焼成を電気炉にて行い、その後室温まで冷却させた。これにより、本実施例3に係る中空構造体を作製した。
【0072】
<分析>
中空構造体の厚み及び表面分析は、実施例1と同様にして行った。その結果、膜厚はおよそ1μmであった(図6参照)。また、表面分析については、フッ化処理直後の表面組成と中空構造体の表面組成がほぼ同様であり、両者ともにフッ化炭化水素重合体であることが分かった(図7参照)。更に、後述の方法により測定した中空率は、70%であった。
【0073】
(実施例4)
前記フッ化処理工程において、フッ素ガスを流し続けた状態で、30℃で1時間保持した後、昇温速度0.3℃/minで90℃まで昇温させ、1時間保持したこと以外は実施例1と同様にしてフッ化処理を行った。
【0074】
続いて、前記実施例1と同様にして、シクロオクタンに浸漬させた後、構造体を取り出して、イソプロピルアルコールで洗浄し、乾燥させた。これにより、本実施例4に係る中空構造体を作製した。
【0075】
<分析>
中空構造体の厚み及び表面分析は、実施例1と同様にして行った。その結果、実施例4で作製した中空構造体の膜厚は3.0μmであった(図8(a)参照)。実施例1で作製した中空構造体(図8(b)参照)と比較すると、本実施例の中空構造体は約2/5の中空率であった。更に、後述の方法により測定した本実施例の中空構造体の中空率は、20%であった。
【0076】
(実施例5)
ポリエステル(商品名;旭化成エルタス(エステル)、旭化成社製)からなる繊維状の構造体4を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ化処理を行った。
【0077】
次に、構造体を10mm角にカットして、窒素ガス雰囲気中で昇温速度2.5℃/minで200℃まで上昇させた。更に、200℃、6時間の焼成を電気炉にて行い、その後室温まで冷却させた。これにより実施例5に係る中空構造体を作製した。
【0078】
<分析>
中空構造体の厚み及び表面分析は、実施例1と同様にして行った。その結果、実施例5で作製した中空構造体の膜厚は1.0μmであった(図9参照)。実施例1で作製した中空構造体と比較すると、本実施例の中空構造体は同様の中空率であった。また、表面分析については、フッ化処理直後の表面組成と中空構造体の表面組成がほぼ同様であり、両者ともにフッ化炭化水素重合体であることが分かった(図10参照)。更に、後述の方法により測定した本実施例の中空構造体の中空率は、50%であった。
【0079】
(中空率の測定)
中空構造体の中空率の測定は、以下の通りにして行った。即ち、該中空構造体の横断面形状を電子顕微鏡(倍率5000倍)で撮影し、写真をトレースして中空部を含む紡績糸全体に相当する部分を切り取り、その質量(A)を測定した。測定後、さらに中空部に相当する部分を切り取ってその質量(B)を測定した。この作業を10本のサンプルについて行い、A、Bの平均値を算出し、それらの値を下記式に代入し、中空構造体の中空率とした。
【0080】
【数1】

【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施の形態に係る中空構造体の製造に用いる反応装置の一例を示す模式図である。
【図2】本実施例1における中空構造体のSEM写真である。
【図3】本実施例1における中空構造体のXPSスペクトルである。
【図4】本実施例2における中空構造体のSEM写真である。
【図5】本実施例2における中空構造体のXPSスペクトルである。
【図6】本実施例3における中空構造体のSEM写真である。
【図7】本実施例3における中空構造体のXPSスペクトルである。
【図8】同図(a)は本実施例4における中空構造体のSEM写真であり、同図(b)は前記実施例1における中空構造体の比較用SEM写真である。
【図9】本実施例5における中空構造体のSEM写真である。
【図10】本実施例5における中空構造体のXPSスペクトルである。
【符号の説明】
【0082】
1 不活性ガス供給ライン
2 フッ化ガス供給ライン
3 反応容器
4 構造体
5 加熱装置
6 排気ライン
7 真空ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなる構造体にフッ素を含む処理ガスを所定条件下で接触させ、該構造体の外表面から内部に向かって該処理ガスを浸透させることにより、構造体の中心部分を除きフッ化処理するフッ化処理工程と、
前記未フッ化処理状態にある中心部分を除去する除去工程を含むことを特徴とする中空構造体の製造方法。
【請求項2】
前記重合体からなる構造体の一部に、前記フッ化処理によるフッ素化を防止する為のマスキングを行う工程、又は前記フッ素化処理後の構造体に於いて、未フッ化処理状態にある中心部分を露出させる工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程は、前記重合体が溶解性を示し、かつ、溶媒温度が0〜250℃の範囲内にある溶媒を、前記中心部分の露出した部分に接触させることにより、該中心部分を溶解除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項4】
前記除去工程は、不活性ガス雰囲気下に於いて50〜400℃の範囲内で加熱しながら行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項5】
前記フッ化処理工程の前に、前記重合体からなる構造体を、不活性ガス雰囲気下に於いて所定条件下で加熱する前処理工程を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項6】
前記フッ化処理工程直後の前記構造体を、所定条件下で加熱する後処理工程を行うことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項7】
前記処理ガスとして、フッ化水素(HF)、フッ素(F)、三フッ化塩素(ClF)、四フッ化硫黄(SF)、三フッ化ホウ素(BF)、三フッ化窒素(NF)、及びフッ化カルボニル(COF)からなる群より選択される少なくとも何れか1種のガス、又は前記ガスを不活性ガスで希釈したものを使用することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項8】
前記炭化水素重合体が、オレフィン重合体、環状オレフィン重合体、芳香族不飽和炭化水素重合体、極性基含有重合体、又はこれら2種類以上を含む共重合体であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の中空構造体の製造方法により得られる中空構造体であって、
開口状の中空構造を有し、フッ化炭化水素重合体、フッ化炭素重合体、又は前記重合体に窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基若しくは硫黄含有基を有する重合体からなることを特徴とする中空構造体。
【請求項10】
中空率は0.1〜99%の範囲内であることを特徴とする請求項9に記載の中空構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−52037(P2009−52037A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196656(P2008−196656)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】