説明

中空球の合成方法

本発明は、1ミクロン未満のサイズを有した音響的に活性な生分解性中空球を合成する方法に関する。水溶性有機溶媒及びペグ化されたポリマーを使用することによって、これらの球体の直接沈殿が促進され、速くて便利な調製経路を生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーシェルを有する中空球の合成方法に関する。さらに、本発明は、超音波イメージング又は超音波薬物送達における中空球及び該中空球の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、臨床的設定において画像診断技術として使用される。超音波は比較的安く、さらに重要なことは、電離放射線を使用しない。超音波イメージングでは、音波がトランスデューサを介して生物学的組織に送られる。基礎をなす組織及び体液の音響学的特性次第で、音波は、完全に若しくは部分的に反射されるか又は吸収される。反射される音波は、受信トランスデューサによって検出され、調査中の組織の画像を形成するようさらに処理される。画像のコントラストは、組織の音響学的特性における弁別(relative difference)によって決定される。超音波技術は前進しているけれども、肝臓、脾臓、腎臓、前立腺、及び、脈管構造等の主な器官における悪性病変及び疾患のイメージング及び検出は、依然として技術的挑戦である。
【0003】
超音波イメージングにおいて得ることができる画質を最適化するために造影剤が開発されてきた。現存する超音波造影剤は、音響的に活性であるよう設計され、脂質、ポリマー、又は、蛋白質のシェルで安定化されたガス充填微小気泡等の組成物を含む。固体、液体、及び気体の音響学的特性、特に、音響インピーダンスは異なる。音響インピーダンス及び圧縮率におけるこれらの明瞭な変化は、固体、液体、及び気体の間にあるインターフェースにて音波のより激しい反射を生じ、超音波画像の明度を増す。ガス充填超音波造影剤も圧縮及び膨張によって超音波に対して反応し、選択的に検出することができる発生特異的(generation specific)な共鳴周波数を生じる。さらに、放出検出可能気体を破裂させることができるという意味で超音波パルスを用いて造影剤を活性化することができ、薬物が造影剤に含まれる場合に、治療薬を局所的に放出している。送達に対する他のモードは、新たに放出された気泡の相互作用による周囲の組織の交互変化を含み、造影剤から別々に取り込まれたか又は投与された薬物に対する血管壁透過性も一時的に上げる。
【0004】
空洞のポリマーシェルの造影剤は、乳化手順から合成することができ、前記乳化手順では、油入ポリマー被覆カプセルが生成され、続いて、凍結乾燥法を用いて中心部が除去される。そのような合成経路の例は、乳剤ポリマーマイクロカプセル製造方法の適用を介したナノカプセルの合成を開示したLe等による記事(IEEE,proceedings of the annual northeast bioengineering conference Issue, 22−23 March 2003 Page(s):315−316)に開示されている。油入カプセルを作製するために、油又は他の疎水性添加剤が、ジクロロメタン等のポリマーに対して良溶媒だがほんのわずかに水混和性の溶媒中のポリマー溶液に添加される。この溶液は、後に、安定剤を含有する水性相において乳化される。良溶媒は処理中に除去される。結果として、乳剤の液滴中のポリマーの溶解度は減り、後に、相は油が豊富な相から分離し、従って、ポリマーシェルの油含有カプセルを形成する。乳化方法を介して空洞の中心部を作製するために、被包された疎水性添加剤又は油が凍結乾燥によって取り除かれる。ポリビニルアルコール(PVA)等の安定剤は、粒径を制御するため及び凝集を防ぐために、通常水性相に添加される。安定剤の添加は、過度の量で行われなければならず、後の精製及び/又は洗浄ステップを要して処理収量を減らす場合が多くある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
速く便利な調製を得るために、音響学的特性を有した中空球の合成に対する既知の方法を改善することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、この目的は、以下のステップを含んだ方法によって実現され、以下のステップは:
疎水性及び親水性のブロックを有した第1のポリマー(1);
水と混和することができない第2のポリマー;
疎水性化合物;
水混和性有機溶媒;
を含む溶液を提供するステップ、
前記溶液を水溶液と混合するステップ、
水混和性有機溶媒を除去するステップ、
凍結乾燥して疎水性化合物を取り除くステップ、
を含む。
【0007】
中空球の直接沈殿は、前記溶液を水溶液と混合するステップによって誘発される。有機溶媒は、すぐに水性相において均一に分布され、疎水性化合物で満たされたポリマーの球体を形成する。球体のシェルを形成するポリマー上の親水性ブロックの導入によって、添加剤を使用することなく安定化が促進される。そのような親水性ブロックの例は、ポリエチレングリコール(PEG)等の大きな親水性基である。
【0008】
本発明による方法は、除去されなければいけないPVA等の安定剤がなく、球体のペグ化された外表面が自動的に得られるため、従来の乳化手順よりも速く便利である。このペグ化された表面は、さらに、前記ブロックのない粒子に対して粒子の循環時間を増やす。
【0009】
別の実施形態によると、親水性有機溶媒が、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、グリコールエーテル群、及び、ジメチルアセトアミド、又は、その組合せを含めた群から選択される。これらの溶媒は、本発明による方法に使用されるポリマーに対して良溶媒であり、水混和性である。混合液からの溶媒の除去は、蒸発によって慣例的に促進することができる。
【0010】
好ましい実施形態において、第1のポリマー(1)は、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリシアノアクリレート、及び、前記のもののうちの1つのコポリマー、ポリグリコライドのコポリマー、又は、そのいかなる組合せからも選択される群を含む。より好ましくは、ポリマーは、10000未満、好ましくは1000〜6000のブロック長を有する。中空球が、超音波イメージング等のヒト及び医療用途に使用される場合に、生物分解性が所望される。
【0011】
好ましい実施形態によると、第2のポリマー(2)は、アルキル又はフッ素化末端基、又は、その組合せを含む。ポリマー上のアルキル及び/又はフッ化基の導入は、疎水性の中空球内部を生成し、撥水特性を確実にする。これは、水性生物学的環境における球体を安定させる。安定した音響的に活性の球体を、約1000〜10000、より好ましくは1000〜5000のポリマー分子量に対して8から14個の炭素原子を有したアルキル基を使用することによって得ることができる。
【0012】
ポリマーの種々の組合せの使用、並びに、ポリマーの種々の改変レベルを構想することができる。親水性ブロックを有したポリマーを疎水性に改変したポリマーと組み合わせることができる。
【0013】
本発明による方法の別の実施形態は、ステップ(a)の溶液が、凍結乾燥後に残る油等の疎水性化合物、及び、医薬又は診断化合物をさらに含むことである。そのような疎水性化合物の好ましい例は、少なくとも16個の炭素原子を有したアルカン、脂質、パラフィン、又は、油、より好ましくはヘキサデカンのうち少なくとも1つである。この添加によって、残りの疎水性化合物に溶解されたか又は大いに分散した薬物を気体の隣に含有する生分解性中空球の生成が促進される。超音波パルスを使用することによって、生分解性中空球の内側に残る化合物に溶解された薬物を局所的に放出することが可能である。
【0014】
本発明の別の実施形態は、以下のステップを含んだ方法により合成されたポリマーシェルを有した中空球であり、以下のステップは:
親水性のブロック及び疎水性のブロックを有した第1のポリマー(1);
水と混和することができない第2のポリマー;
疎水性化合物;
水混和性有機溶媒;
を含む溶液を提供するステップ、
前記溶液を水溶液と混合するステップ、
水混和性有機溶媒を除去するステップ、
凍結乾燥して疎水性化合物を取り除くステップ、
を含む。
【0015】
この中空球は、診断又は治療の超音波の適用後に破裂する能力があることが好ましい。
【0016】
中空球の中心部とシェルとの比は、溶液中のポリマーと疎水性化合物との関係によって決定される。好ましくは、この比は、2:1から1:5w/w、より好ましくは、1:1から1:4w/wである。
【0017】
好ましくは、親水性のブロックを有した第1のポリマーと水と混和することができない第2のポリマーとの比は、2:1から1:12w/w、より好ましくは、1:3から1:10w/wの範囲内にある。疎水性若しくは親水性特性を有したさらなるポリマーを添加すること、又は、親水性特性も疎水性特性も有した1つのポリマーを添加することは、本発明の範囲内であることが理解される。
【0018】
本発明のこの実施形態による中空球は、超音波パルスが適用された場合に、破裂する能力を有する。この挙動によって、超音波パルスによって標的にされた領域において超音波と相互作用することができる遊離の気泡が形成され、薬物送達に対する超音波誘導を高める。類似の方法において、医薬又は診断の化合物も、同じ領域において放出することができる。これは、送達の量及び位置を制御するという可能性を開く。さらに、新たに形成された気泡は、入射する超音波エネルギーを容易に吸収し、次に、第2の音響源として再放射し、局所的な超音波エネルギー吸収を増やす。今度は、局所的に増えた超音波エネルギー堆積が、局所的な組織免疫反応の刺激を増やし、ソノポレーション従って薬物の取り込みを高めることができる。また、局所的な超音波エネルギー吸収を、被包された気体の量(すなわち、凍結乾燥可能な化合物の量)及び音響パルスの活性化振幅(activation amplitude)によって制御することができる。特定のサイズの気泡に対応する独特な音響サインの出現は、活性化された放出の同定を可能にし、並びに、放出された薬物の濃度におけるある程度の確信を理想的に可能にする。
【0019】
中空球は、体内の最初の一掃機構の回避又は速度抑制によって循環時間を増やすために50から400nmというサイズを有していることが好ましい。
【0020】
本発明の別の実施形態では、ガス状の中身は、ガスの前駆物質によって少なくとも部分的に取り替えられる。この実施形態によると、球体は、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロオクタン、及び、ペルフルオロオクチルブロマイドのような相変換することができる液体のペルフルオロカーボン等、少なくとも1つの疎水性化合物を含有している。ガス充填中空球と比較して、ガス形成は超音波の適用によってのみ誘発される。
【0021】
別の実施形態において、中空球のシェルは標的部分を含む。標的部分又はプレ標的部分を球体に結合することによって、球体の選択的標的が促進される。標的部分の例には、それだけに限られないが、抗体又は抗体断片、ビオチン/ストレプトアビジンリンカー、及び、シュタウディンガー反応に対するホスフィン及びアジド基等の化学的な直交結合部分が含まれる。
【0022】
別の実施形態において、中空球は薬剤的に活性の化合物を含むため、球体は薬物キャリアとして機能することができる。特に、薬剤的に活性の化合物は、抗体、蛋白質、siRNA、shRNA、及びpDNAを含めた群から選択することができる。
【0023】
本発明による別の実施形態では、中空球は、PET、SPECT、又はMRI造影剤を含めた群から選択される造影剤を含む。中空球の超音波特徴をさらなるイメージング部分と組み合わせることによって、例えば、ポリマーシェルの分解経路又は局所的な薬物送達に従うよう促進される。
【0024】
本発明の特定且つ好ましい態様は、付随の独立項及び従属項に列挙されている。独立項からの特徴は、必要に応じて、独立項の特徴及び他の従属項の特徴と組み合わせることができ、単に明白に特許請求の範囲に列挙されていないだけである。
【0025】
本発明の前記及び他の態様は、以下に記述される実施形態から明らかになり、以下に記述される実施形態を参考にして説明される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ポリマーの概略図である。
【図2】本発明に従い合成された球体の活性化である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
表及び実施例において使用した製品名及び供給業者の名前は、商標権の規制を受ける可能性があり、商標登録されていない方法で使用されるよう意図していないが、指定された供給業者によって供給された特定の製品を規定するようにのみ意図していることにさらに注目されたい。
【0028】
本発明は、以下の無制限的な例、好ましい実施形態、及び、無制限的な図を参考にして例示される。
【0029】
本発明による方法は、音響的に活性の中空球の生成に対し、速くて効率的な合成経路を提供する。
【0030】
音響的に活性というのは、これらの粒子が、1Mpa以下の閾値を超えた1MHzの超音波の適用後に破裂することができるということを意味している。
【0031】
球体は、それだけに限られないが、楕円形及び/又は部分的に扁平にされた球体を含めた、球形若しくはほぼ球形の形状を有した粒子又は部分を示している。
【0032】
本発明による空洞は、少なくとも部分的に気体で満たされたか、又は、少なくとも部分的に気体の前駆物質で満たされていることを意味している。
【0033】
本発明による方法
先行技術に基づき、音響的に活性な中空球は、乳化技術を使用することによって作製することができる。乳化は、水と混和することができないか、又は、例えばジクロロメタン等のハロゲン化溶媒等、非常に限定された程度まで混和することができる溶媒次第である。一般に、添加剤が、形成される粒子のサイズを制御するのに、及び、凍結乾燥中の粒子の凝集を防ぐのに必要とされる。これらの方法は、一般に、ミクロン範囲のサイズを有した中空球を生じる。
【0034】
本発明では、特にサブミクロンの中空球の調製に適した、音響学的特性を有した中空球の合成に対する既知の方法が速くて便利な調製を得るために改善されている。
【0035】
本発明による合成方法において同定することができるステップが、以下で詳細に記述される。
【0036】
ステップ(a)
本発明による方法のステップ(a)において、親水性のブロックを有した第1のポリマー(1)、水と混和することができない第2のポリマー(2)、アルカン又は油等の疎水性化合物、及び、水混和性有機溶媒を含む溶液が提供される。
【0037】
ポリマー又は複数のポリマーの組合せを使用して、中空球のシェルを形成する。本発明による方法に使用されるポリマーは、図1で概略的に示されているように種々の要素を含み得る。
【0038】
本発明による方法に使用されるポリマーは、堅い(例えば、結晶質又はガラス質の)シェルの機械的特性を主として決定する合成又はバイオポリマーのブロックを含むことが好ましい。これらのブロックは、ポリマー1の一部でもポリマー2の一部でもありえ、球体の安定性に非常に寄与する。これらの必要条件を満たす典型的な生分解性ポリマーは、L若しくはDL型のポリ乳酸(PLA)、又は、そのコポリマー、ポリラクチド、ポリカプロラクトン、ポリシアノアクリレート、及び、前記のもののうち1つのコポリマー、ポリグリコライドのコポリマー、又は、そのいかなる組合せでもある。これ又はこれらの要素は、空洞の粒子のシェル形成において支配力を有し、図1においてブロック(A)によって概略的に描かれているポリマーの骨格を形成する。比較的に低い分子量のポリマーは、シェルにおいてよりもつれが少なく、従って、超音波の適用後により容易にシェル破裂を生じる。
【0039】
異なる改変を有したポリマーの混合物を使用することができ、図1において、3つの例が示されている。本発明によると、親水性のブロックを有するポリマーが前記混合物中に存在する。この好ましくはバルキーな親水性基(ブロックBによって概略的に描かれている)は、本発明による方法によって作製される球体の外側に位置づけられる。そのような基の使用は、球体を安定させ、直接沈殿を促進する。そのような基の例は、ポリエチレングリコール基である。
【0040】
第2のポリマーは疎水性部分を含む。そのような部分の例は、アルキル基又はフッ素化基である。これらの基は、図1においてブロックCによって概略的に描かれている。いかなる理論によっても結びつけられることを望むことなく、調製処理においてこれらの基がカプセルの中心側に向かって方向づけられ、疎水性の内部を提供するということが信じられている。これらの疎水性ブロックを使用することにより、生物学的環境における中空球の安定性は撥水性のため高められる。
【0041】
親水性のブロックを有したポリマーと疎水性に改変されたポリマーとの組合せの使用が、本発明による方法において好ましい。図1の下のパネルに示されているもの等、親水性基も疎水性部分も含むポリマーの使用も構想することができる。
【0042】
中空球の中心部とシェルとの比は、溶液中のポリマーと疎水性化合物との関係によって決定される。好ましくは、この比は、2:1から1:5w/w、より好ましくは、1:1から1:4w/wである。
【0043】
好ましくは、親水性のブロックを有した第1のポリマーと水と混和することができない第2のポリマーとの比は、2:1から1:12w/w、より好ましくは、1:3から1:10w/wの範囲内にある。疎水性若しくは親水性特性を有したさらなるポリマーを添加すること、又は、親水性特性も疎水性特性も有した1つのポリマーを添加することは、本発明の範囲内であることが当業者によって理解される。
【0044】
ほとんど水溶液と混ざらない溶媒を使用して乳剤を生成する代わりに、完全に水と混ざる親水性の有機溶媒が使用される。本発明による水混和性とは、全ての濃度での水における完全な混和性を意味している。そのような溶媒の例は、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、グリコールエーテル群、及び、ジメチルアセトアミドである。グリコールエーテル群は、ジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及び、エチレングリコールジメチルエーテルを含む。これらの溶媒はポリマーに対しても良溶媒であるため、前記溶液を水と混ぜ合わせることによる親水性溶媒の除去は、疎水性溶媒の液滴上のポリマーの直接沈殿を生じる。
【0045】
疎水性化合物は、シェル形成ポリマーにとって悪い溶媒として含まれる。そのような物質の選択は、凍結乾燥で取り除くことができるように行われるべきである。従って、取り除かれることになる化合物は、固体になる能力を有し、且つ、凍結乾燥条件下で妥当な蒸気圧を有しているはずであるため、取り除くことができる。好ましくは、この疎水性化合物はアルカン又は油である。凍結乾燥で完全に除去することができ、その結果球体はさらなる処理に適しているため、シクロオクタン及びシクロデカンは適した例である。
【0046】
ステップ(b)
水との混合液を作製するために、前記溶液は、別の形状のかき混ぜ/剪断力によって撹拌されるか又は混ぜあわされることが好ましい。任意選択で、さらなる混合処理が含まれる。そのような混合液を得るために適した機器は、例えば、コロイドミル、ホモジナイザー、ソニケーターから選択される。任意選択で、そのような処置の前又は後の前記混合液は、ガラスフィルターにかけられる。所望された場合、そのような処置を複数回繰り返すことができる。いかなる理論によっても結びつけられることを望むことなく、親水性溶媒は直ちに水相と混ざり、それによって、乳剤内相におけるシェル組成物の濃度は安定性閾値を超えて増加し、そのような瞬間に、前記シェル組成物は直ちに沈殿することが信じられている。
【0047】
この沈殿によって、疎水性溶媒を含んだ乳剤内相(液滴)の表面にてポリマーのシェルが形成される。親水性溶媒が気化されると、シェル組成物は、処理の早い段階にて添加することができた非溶媒及び任意選択で他の成分を含んだ中心部を覆うものに起因することが信じられている。
【0048】
ステップ(c)
本発明による方法のステップ(c)では、親水性溶媒は例えば減圧にて水相から除去される。親水性溶媒を除去する別の適した方法は、例えば25から35℃の温度まで温度を上げること、又は、単に混合液を所与の時間撹拌することによるものである。
【0049】
ステップ(d)
親水性のブロックを有したポリマーを使用することにより、安定剤の添加はもはや必要ではなく、いかなる精製ステップも使用することなく直接凍結乾燥することができる試料をステップ(d)から生じる。凍結乾燥によって、球体の中心部を構成する疎水性化合物は除去され、ガスが充填されたか又は部分的にガスが充填された球形の粒子を生じる。さらに、ポリマーに対するこの非溶媒は、蒸発ではなく昇華することが好ましい。従って、0℃をはるかに下回らない融点を有した非溶媒が好ましい。凍結乾燥処理において除去することができる他の非溶媒も、該非溶媒が凍結乾燥処理において固体であることが好ましいが常に絶対的にそうある必要があるというわけではないと信じられる場合に考慮することができる。例えば、8から14個の炭水化物部分を有したアルカン又はシクロアルカンを使用することができる。
【0050】
現在まで、ミクロン範囲より下、特に、50から400nmのサイズを有した超音波造影剤に対する効率的な合成経路はなかった。これは、空洞のナノカプセルに対する超音波の効果の理解を妨げた。遊離の気泡に対して、サイズが100又は200nmまで減少した場合に、共鳴周波数はイメージングに使用される範囲を超えて増える。ポリマーシェルの造影剤が共鳴するだけではなく、超音波により誘発されたシェルのダメージによる気体の漏れも非常に異なる周波数依存を示す場合がある。脂質シェルのナノサイズの造影剤は、その高いラプラス内圧及び発生するオストワルド熱成現象のため、それほど安定していない。これによって、小さい球体が消失し、大きな球体が増える。
【0051】
循環におけるナノ球体からのバックグラウンド信号の欠如は、(気体がポリマーシェルから取り除かれた)活性化されたナノ球体のみが検出に所望される場合に、いくつかの薬物送達プロトコルにおける利点であり得ることに注目されたい。
【0052】
超音波造影剤は、分子イメージング、薬物送達、及び、その組合せ等、多くの新たな用途に対して調査される。これらの用途には、関心のある領域にて効率的な蓄積を得るために、何時間という長い循環時間が要求され、これは、他の様式に対する標的とされた造影剤(MRI造影剤)及び薬物送達媒体に対するケースである。増加した循環時間は、造影剤のサイズを1μmよりもかなり小さいサイズまで減らすことによって確立することができる。本発明による方法は、ミクロン範囲より下のサイズ、好ましくは50から400nmのサイズを有するこれらの安定した中空球の合成を促進する。さらに、PEG等の立体の親水性ブロックは、RESを介した球体の取り込みを減らすことによって循環時間を増やす。
【0053】
薬物送達媒体は、薬物又は造影剤を球体に直接結合させて調製することができる。これらの薬物又は造影剤は、シェルに取り込み、リポソーム等の薬物保有粒子としてシェルに結合させることができるか、又は、中心部内(シェルの内部)に被包することができる。薬物が中心部に取り込まれる場合、好ましい選択肢は、凍結乾燥することができない溶媒にそれらを溶解させることである。そのような溶媒の例は、例えば、ヘキサデカン、又は、例えばトリカプリリン等トリグリセリド等の脂質である。そのようなシステムに含まれることになる薬物は、好ましくは、疎水性薬物であり、パクリタクセルが一般的な例である。親水性薬物に対しては、親水性薬物を含有するリポソームを外側のシェルに付けるという選択肢が最も好ましい。
【0054】
別のあり得るアプローチは、凍結乾燥したナノ球体の再懸濁を可能にし、次に、ガラスびん内での又は近接した投与技術(同じ静脈又は動脈のアクセスに結びつけられる異なるシリンジポンプ)を介した所望の薬物又は生物工学製品との組合せを可能にすることである。この「近接」送達技術は、血管壁の透過率における増加を使用し、同時投与された薬物又は生物工学製品に対して細胞を位置づける。
【0055】
薬物の取り込みの次に、特定のナノバブルの標的も可能である。これは、例えば、ビオチンストレプトアビジンカップリング剤を介して促進することができる。ビオチン化されたPLA−PEOを合成することができ、前記ビオチン化されたPLA−PEOには、ストレプトアビジンを添加することができ、ビオチン化された抗体又はその断片の結合が続く。直接カップリングも、例えばチオエステルを使用して起こり得ることである。他の標的造影剤は、それだけに限られないが、抗体の断片、又は、シュタウディンガー連結若しくは反応を促進するためのホスフィン及びアジド基等の化学的な直交反応の対であり得る。
【0056】
本発明は、添加される安定剤はなく、疎水性溶媒で充填されたポリマーシェルのカプセルを作製するナノ沈殿処理によって、非ハロゲン化有機溶媒中のポリマー液からガス充填球体を便利に作製する方法を含む。この処理の後には、凍結乾燥処理を使用した疎水性溶媒の除去が直接続く。
【0057】
好ましい実施形態、特定の混合物及び材料が、本明細書において、本発明による方法及び中空球に対して記述されてきたけれども、形態における及び詳細な種々の変更、改変、又は組合せを、本明細書の範囲及び真意から逸脱することなく行うことができるということが理解されることになる。
【実施例1】
【0058】
合成
約2000から5000の平均分子量を有した、アセトン中の疎水性に改変されたPLLA(L−ポリ乳酸)の溶液を、分子量比が5000:700のPLLA及びPEOのブロックコポリマーか、又は、1800:2000という分子量比のPLLA及びPEO(ポリエチレンオキシド)のブロックコポリマーと混合した。シクロデカンをこの溶液に添加し、該溶液を水と完全に混合して、1μmフィルターにかけた。減圧下の回転フラスコにおいて蒸発によってアセトンを除去した。ポリエチレングリコールを凍結乾燥添加剤として添加し、凍結乾燥が前に記述したように生じた。凍結乾燥後、動的光散乱法によって200nmの流体力学的径が示された。遠心分離後、ナノバブルがチューブの上部に浮かぶのを観察し、示差走査熱量測定によって、シクロデカンが除去されたことが示された。粒子は上面に浮かぶため、これは、その密度は1g/cm未満であることを証明し、ポリマーの密度は約1.25g/cmであるため、これはガスが構成物に結合していることを証明している。
【0059】
表はいくつかの作製された組成物を実証しており、凍結乾燥前及び後に動的光散乱法によって測定された平均気泡サイズを含み、多分散性指数を含み、これら組成物全てが再懸濁後に浮遊粒子状物質を示し、ガスの包含を示している。
【0060】
【表1】

超音波測定
収束音場が、32サイクルのパルス長で使用される1.0MHzのキャビテーショントランスデューサ(Panametrices V392)を使用して確立される。活性化されたマイクロカプセルの挙動が、パッシブ音響検出器を使用して検査される。パッシブ検出器は、5MHzの搬送周波数を有した広帯域収束トランスデューサ(直径が3.8cm及び焦点距離が5.1cm)(Panametrics V307)、及び、広帯域低雑音信号増幅器(40dB)から成る。3.0MHzの高域フィルター(TTE HB5−3M−65B)及び10.7MHzの低域フィルター(MiniCircuits BLP−10.7)が、キャビテーショントランスデューサからの、送信され回析により誘発された1.0MHzの音響信号を直接除去するために利用される。デジタルオシロスコープ(Model LT374L、LeCroy社、Chestnut Ridfe,NY)を使用して、20MHzのサンプリング周波数を有した増幅された散乱信号がデジタル化される。
【0061】
時変調器(4チャネルデジタル遅延/パルス発生器;Stanford Research Systems DG535)を使用して、2.0HzのPRF(パルス繰返し周波数)で音響検出器が活性化超音波パルスと同期される。活性化トランスデューサは、長方形テストチャンバ(20.2x20.2x9.6cm)の側壁上に水平に置かれ、音響検出器は垂直に配置され、キャビテーショントランスデューサと直角にて共焦点で並べられる。送信トランスデューサも受信トランスデューサも集束トランスデューサであるため、検出器は、2つのトランスデューサの小さい共焦点領域における球体にのみ非常に敏感である。パッシブ技術で、活性化閾値及び活性化後の振動[=遊離の(漏れた)気泡の振動]、又は、活性化により誘発されたマイクロカプセルの破壊を、受信された音響信号の波形を特徴づけることによって、並びに、信号のスペクトルを介して調波及びノイズ発生器を分析することによって研究することができる。1.0MHzトーンバーストの超音波照射100回毎のマイクロカプセルの活性化事象の数(又は、相対的活性化率)を、LabViewを使用して受信された散乱信号を音響的に数えることによって測定した。
【0062】
音響活性化測定に対して、1±0.1mgのナノバブルを含有した各試料ガラスびんを、5mlのイオン除去され空気で飽和された水を用いて再構成した。10μL量のこの懸濁液を、微小なガスポケットの存在を最小限にするよう一晩放置した空気で飽和された水で充填した3.4Lタンク内に注入した。1MHz32サイクルの超音波トーンバーストの超音波照射を用いてナノバブルの音響的活性を生成しながら、活性化されたナノバブルからの3から8MHzの散乱信号の高調波含有量に従い各音響的事象を検出した。
【0063】
図2は、1:3というポリマー対シクロデカン比、及び、1:9というペグ化対疎水性に改変されたPLAを有した試料mPEG(2000)PLA(1800)/PLA−PFOに対する活性化曲線の例を与えている。音響的事象のカウントは、1MHz(又は機械的指数)のMPaにおける負の音響圧力振幅の関数としてプロットされ、(一部が再測定後に加えられる)他の組成物は類似の挙動を示している。負の音響圧力振幅は、ナノバブルの崩壊、及び、後の分裂したナノバブルからのガス放出(いわゆる「活性化」)の直接的な原因である。さらに、そのようなナノバブルの強固な活性化が(1.2のMIでの超音波パルスに対する曝露後の明るい閃光として)P4−2プローブを有したHDI−5000超音波スキャナー上で観察される。
【0064】
In vivoでの実験
従来の超音波造影剤の循環時間は、一般に、30分未満である。本発明による方法によって合成した球体の長期の循環を示すために、以下の実験を行った。蛍光色素ナイルレッドが加えられた球体を、中心部を形成するために1:1のシクロオクタン対ヘキサデカンの混合物を使用して形成し、前記中心部からシクロオクタン画分を凍結乾燥によって除去した。試料を生理食塩水において再構成し、100μlを、イソフルランで麻酔したC57BL/6マウスに後眼窩から注入した。注入の4時間後及び7時間後に、血液試料を採取し、動物を屠殺した。肝臓、肺、脾臓、腎臓、及び、心臓を摘出し、重さを計った。Triton X100(250μl、水中3%)を添加し、750μlの水を続けた。ソニケーター(Sonicator Heat Systems W375細胞粉砕器)を使用して臓器を粉砕し、凍結乾燥し、イソプロパノールを使用してナイルレッドを抽出した。遠心分離後、蛍光を測定した(励起570nm、検出630nm、カットオフ590nm)。これらの値及び試料(臓器又は血液)の重量から、ナイルレッドの相対量を決定した。
【0065】
4時間後及び7時間後の分布を決定し、5匹のマウスそれぞれに、肝臓及び血液における顕著な存在を示している。肝臓対血液の比は、7時間後により高く、遅い肝臓蓄積が生じるが、7時間後でさえもかなりの画分が依然として循環に存在していることを示している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーシェルを有した中空球の合成方法であって:
親水性及び疎水性のブロックを有した第1のポリマー、
水と混和することができない第2のポリマー、
疎水性化合物、
水混和性有機溶媒、
を含む溶液を提供するステップ;
前記溶液を水溶液と混合して混合液を生じるステップ;
前記水混和性有機溶媒を前記混合液から除去するステップ;
凍結乾燥して前記疎水性化合物を前記混合液から除去するステップ;
を含む、方法。
【請求項2】
前記親水性有機溶媒が、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、グリコールエーテル群、及び、ジメチルアセトアミド、又は、そのいかなる組合せも含めた群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のポリマーが、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリシアノアクリレート、及び、前記のもののうちの1つのコポリマー、ポリグリコライドのコポリマー、又は、そのいかなる組合せも含む群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のポリマーが、アルキル又はフッ素化末端基を含む、請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記混合液が、ステップ(d)後に残る疎水性化合物、及び、医薬又は診断の化合物を含む、請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記残った疎水性化合物が、少なくとも16個の炭素原子を有したアルカン、脂質、パラフィン、又は、油を含む群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちいずれか一項に記載の方法により合成された、ポリマーシェルを有した中空球。
【請求項8】
50乃至400nmのサイズを有した、請求項7に記載の中空球。
【請求項9】
超音波の適用後にガス状の中身を放出することができる、請求項7又は8に記載の中空球。
【請求項10】
前記ガス状の中身が、ガスの前駆物質によって少なくとも部分的に取り替えられる、請求項7乃至9のうちいずれか一項に記載の中空球。
【請求項11】
前記球体のポリマーシェルが標的部分を含む、請求項7乃至10のうちいずれか一項に記載の中空球。
【請求項12】
前記球体が薬剤的に活性の分子を含む、請求項7乃至11のうちいずれか一項に記載の中空球。
【請求項13】
PET、SPECT、又はMRI造影剤から成る群から選択されるイメージング剤を含む、請求項7乃至12のうちいずれか一項に記載の中空球。
【請求項14】
超音波イメージング又は超音波によりトリガされる薬物送達における、請求項1乃至6のうちいずれか一項に記載の方法によって得られる中空球、又は、請求項7乃至13のうちいずれか一項に記載の中空球の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−518234(P2011−518234A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500332(P2011−500332)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【国際出願番号】PCT/IB2009/051052
【国際公開番号】WO2009/115967
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】