説明

中空異型ポリエステルマルチフィラメント

【課題】高中空率、高嵩高性、高軽量性で風合い的に柔らかい中空異型ポリエステルマルチフィラメントを提供する。
【解決手段】繊維を構成するポリマー成分の少なくとも90モル%以上がポリエチレンテレフタレート単位で構成されたポリエステル繊維からなり、繊維糸状横断面が四角中空であるコアー部と、該コアー部外表面からコアー部中心点に対して放射状に突出し、且つ該コアー部の長さ方向に沿って延在する8枚のフィン部とからなる単糸20本以上からなるポリエステルマルチフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は風合い的に柔らかく、且つ軽量感に優れたポリエステルマルチフィラメントに及びそれを含む布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は機械的特性をはじめ様々な優れた特性を有しており衣料用途をはじめ各種用途・分野に利用されている。しかしながら天然繊維に比べて風合い的に硬い、吸水性がない、及び触感の点で好ましくないといわれてきた。そのため、最近ではポリエステル繊維の機能性を向上させるべく、ポリエステル繊維の断面形状を変更させ、吸水性を向上させたり、又はポリマーを改質させることにより、軽量性を高めたり、フィブリル性を向上させたり、深色性を向上させたりしてきた。特にスポーツ衣料用途としては、軽量性及び布帛の強度が必要とされてきている。その軽量性を発現させるため紡糸口金を中空形状にして、高中空率繊維としたり、複合繊維(通常コンジュゲート紡糸と呼ばれている)装置を用いて中心部にポリビニールアルコール系の樹脂を添加し、紡糸捲取後に、その樹脂を溶出させ、実質のポリエステル繊維の中空率を高め、軽量性を発現させる方法が各種提案されてきている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら中空繊維の製糸方法として、口金形状を高中空率達成するように変更することによる製糸方法では、口金吐出孔から溶融吐出されるポリマーの貼り合せの技術(口金設計そのもの)が必要であり、その貼りあわせを安定に行うのが困難になるので、あまりにも高い中空率を達成しようとした場合、紡糸断糸の発生を抑制した安定して生産を行うことが難しい。また複合繊維に関しては、確かに中空を形成する剤を溶出した後の中空形成率は高いが、そのコストは著しく高くなる。また長繊維ではその溶出が完全に行われるのが難しい。また上述のように風合いの点でも良好な繊維が得られていない。
【0004】
また、繊維軸に対して直交する断面が中空であるコアー部と、該コアー部外表面から突出し且つ該コアー部の長さ方向に沿って延在するフィン部とからなる軽量性を狙った断面が提案されているが、かかる断面は本発明での断面に対し中空率及び、マルチフィラメント状態での空隙率が低いものとなり、結果的に軽量性が劣るものとなる。(例えば特許文献2、特許文献3参照)
【0005】
また、同じく繊維軸に対して直交する断面が中空であるコアー部と、該コアー部外表面から突出し且つ該コアー部の長さ方向に沿って延在するフィン部とからなる軽量性を狙った断面が提案されているが、かかる断面はフィンの枚数が少なく高度に異型化された断面であるゆえ、繊維のシルクファクター(強度×√伸度)が低くなり、延伸工程における毛羽の発生及び断面の変形による中空率及び空隙率の低下が大きいという課題があった。(例えば特許文献4参照)
【0006】
【特許文献1】特開2002−173824号公報
【特許文献2】特開平9−241941号公報
【特許文献3】特開2001−115334号公報
【特許文献4】特開2008−57060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決し、高空隙率を有し、風合い的に柔らかく高軽量性の中空異型ポリエステル部分的配向マルチフィラメントを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果本発明に到達した。
即ち、本発明によれば、
繊維を構成するポリマー成分の少なくとも90モル%以上がポリエチレンテレフタレート単位で構成されたポリエステル繊維からなり、下記要件を満足することを特徴とする中空ポリエステルマルチフィラメント、
a)単糸繊維軸に直交する断面形状が四角中空コアー部を有すること。
b)該コアー部外表面からコアー部中心点に対して放射状に突出し且つ該コアー部の長さ方向に沿って延在する8枚のフィン部を有すること。
c)単糸が20本以上で構成されていること。
が提供される。
【0009】
更に好ましくは、
繊維軸に直交する断面における下記式1で示す中空率が30〜60%であり、繊維糸条状態での下記式2で示す空隙率が40〜70%で、且つ繊維のシルクファクター(強度×√伸度)が15以上ある中空ポリエステルマルチフィラメントである。
中空率(%)=(A/(B−A))×100 ・・・・式1
空隙形成率(%)=(NA/(C−NA))×100 ・・・・式2
A;単糸繊維軸に直交する断面面積
B;単糸繊維横断面最外周面積
C;マルチフィラメント糸横断面最外周面積
N;マルチフィラメント糸に含まれる単糸数
【発明の効果】
【0010】
本発明により、中空率のみならずマルチフィラメント横断面中に空隙を多く形成させることができ、その結果繊維糸条の見かけ比重が下がり、繊維・布帛として非常に軽量で尚且つ柔らかい風合いのある繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いるポリエステルは、テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのアルキレングリコールを主たるジオール成分とするポリエステルを80重量%以上、好ましくは90重量%以上含有するポリエステルであり、該ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲内で、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸成分や上記とは異なる他のグリコール成分を共重合していても良い。
【0012】
かかるポリエステルの固有粘度(オルソクロロフェノールを溶媒として使用し35℃で測定)は、通常衣料用布帛素材として使用されるポリエステルと同じ範疇の0.55〜0.80の範囲のものが好ましい。また、必要に応じて適宜艶消し剤、制電剤、安定剤などの添加剤またはアルカリ減量により繊維表面に微細孔やフィブリルを形成させる事の出来る添加剤などを含んでも良い。
【0013】
本発明のポリエステルマルチフィラメント単糸は繊維軸に対して直交する断面が四角中空であるコアー部と、該コアー部外表面からコアー部中心点に対して放射状に突出し且つ該コアー部の長さ方向に沿って延在する8枚のフィン部とからなる単糸が20本以上で構成される事が必要である。
【0014】
単糸断面形状として図1に示されているように、本発明のポリエステルフィラメントは繊維軸に対して直交する断面が四角中空であるコアー部と、該コアー部外表面からコアー部中心点に対して放射状に突出し且つ該コアー部の長さ方向に沿って延在する8枚のフィン部とからなる形状が必要である。まず、コアー部の中空部分の形状は丸形中空より四角中空とすることで図3に示されているような紡糸口金各吐出スリットでの吐出ポリマー同士の高い貼り合せ性を得ることでき、安定して目的の単糸断面形状をえることができる。
【0015】
コアー部中空部分の形状が丸形中空の場合、紡糸時での貼り合せ不良による単糸断面変形が多発し断糸による工程通過性が著しく低下する。つぎに、該コアー部外表面からコアー部中心点に対して放射状に突出し且つ該コアー部の長さ方向に沿って延在する8枚のフィン部とからなる形状にすることでマルチフィラメント状態での単糸間の干渉による高い体積排除効果をえることができ目的の空隙形成率をえることができる。
【0016】
また、単糸数は20本以上である必要があり、単糸数が20本未満であればフィンを取り付けた事による体積排除効果が十分でなく、目的とする嵩高さ、軽量感を得ることが出来ない。
【0017】
また単糸数が大となり、マルチフィラメントとしての繊度が大きくなると繊維の曲げ剛性が高くなり布帛におけるソフト感が低下し好ましくない。好ましくは25〜50本である。
【0018】
本発明者らは、図3に模式的に示す吐出形状を有する口金を用いて公知の溶融紡糸、延伸法により本発明のポリエステル繊維を得ることができた。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で求めた。
【0020】
(1)固有粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として使用して35℃で測定した。
【0021】
(2)中空率(%)
中空率は、紡糸捲取したポリエステルマルチフィラメントのセクションを切り、単糸1本の繊維軸に直交する横断面写真(560倍以上35000倍以下)をSEM(走査電顕写真)により撮影し、写真画像の各単糸の繊維軸に直交する横断面の外周部分を線(図1の破線部分)で結びその内面積を面積Aとした。
またポリエステルフィラメント糸の繊維軸に直交する横断面面積を繊度および密度から算出し面積Bとし、以下の式により中空率を求めた。ここで密度はJIS L1013に記載の密度勾配管法に従い求めた。
中空率(%)=A/(A−B)×100
A;単糸繊維軸に直交する断面ポリマー部面積
B;単糸繊維横断面最外周面積
測定は5箇所の繊維断面から計算を行い、その平均値をもって中空率(%)とした。
【0022】
(3)空隙形成率(%)
空隙形成数は、紡糸捲取したポリエステルマルチフィラメントのセクションを切り、繊維横断面写真(560倍以上35000倍以下)をSEMにより撮影し、写真画像のポリエステルマルチフィラメント糸の外周部分を線(図2の破線部分)で結びその内面積を面積Cとした。
またポリエステルマルチフィラメント糸の断面積を繊度および密度から算出し面積Aとし、以下の式により空隙率を求めた。ここで密度はJIS L1013に記載の密度勾配管法に従い求めた。
空隙率(%)=NA/(C−NA)×100
A;単糸繊維軸に直交する断面ポリマー部面積
C;マルチフィラメント糸横断面最外周面積
N;マルチフィラメント糸に含まれる単糸数
測定は5箇所の繊維断面から計算を行い、その平均値をもって空隙率(%)とした。
【0023】
(4)軽量化率(%)
通常の中実の断面で構成されるポリエステル繊維84dtexの24フィラメント及び167dTex48フィラメントを使用した24ゲージの丸編物の目付け(g/m)と布帛厚み(mm)を測定し、布帛厚みに対する目付けの基準曲線を作成する。同じ24ゲージの丸編物を作成した際の基準曲線の同一厚み値における目付けの減少率を軽量化率(%)とした。
【0024】
(5)編物の風合い(ソフト感)
24ゲージの丸編物での風合いを通常の中実の断面で構成されるポリエステル繊維84dtexの24フィラメントの丸編物と比較して、次の3段階で評価した。
レベル1:ソフトでしなやかな感触がある
レベル2:ややソフト感が乏しいが反撥性は感じられる
レベル3:カサカサした触感あるいは硬い触感である。
【0025】
[実施例1]
固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートを285℃で溶融し、図3に示す吐出孔を36個有する紡糸口金より吐出した。吐出された糸条は、冷却後オイリングノズルにてオイル付与し3000m/分の速度にて巻き取った。得られた部分的未延伸糸を温度80℃で1.5倍に延伸し、次いで温度200℃で熱セットを施し84dtexのポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維の評価結果を表1に示す。得られた丸編物では50%以上の高い軽量化率であり、ソフト感も確認できた。
【0026】
[実施例2]
図3に示す吐出孔を24個有する紡糸口金より吐出した以外は実施例1と同様にポリエステル繊維を得た。得られた丸編物ではソフト感は実施例1より劣るが、50%以上の高い軽量化率を確認できた。
【0027】
[比較例1]
図3に示す吐出孔を12個有する紡糸口金より吐出した以外は実施例1と同様にポリエステル繊維を得た。得られた丸編物では50%以上の高い軽量化率であるが、カサカサした硬い触感であり衣料用途での展開は難しい結果となった。
【0028】
[比較例2]
コアー部が丸中空でフィンの数が4枚である図4に示す断面形状を示す吐出孔を36個有する紡糸口金より吐出した以外は実施例1と同様にポリエステル繊維を得た。シルクファクターが低く、紡糸工程での断糸及び毛羽による工程通過性が低下したとともに、得られた丸編物では50%以上の高い軽量化率であるが、カサカサした硬い触感であり衣料用途での展開は難しい結果となった。
【0029】
[比較例3]
コアー部が四角中空でフィンの向きがコアー部中心点に対して非放射状である図5に示す断面形状を示す吐出孔を36個有する紡糸口金より吐出した以外は実施例1と同様にポリエステル繊維を得た。得られた丸編物の軽量化率は50%以下であり大きな軽量化率が確認できなかった。
【0030】
[比較例4]
コアー部が丸中実でフィンの数が4枚である図6に示す断面形状を示す吐出孔を36個有する紡糸口金より吐出した以外は実施例1と同様にポリエステル繊維を得た。得られた丸編物の軽量化率は50%以下であり大きな軽量化率が確認できなかった。
【0031】
[比較例5]
フィン部も中空部もない丸断面用の吐出孔を36個有する紡糸口金を用いて実施例1と同様にポリエステル繊維を得た。得られた丸編物の軽量化率は50%以下であり大きな軽量化率が確認できなかった。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、繊維横断面中に空隙が多く形成させることができ、その結果繊維の見かけ比重が下がり、繊維・布帛として非常に軽量で尚且つ柔らかい風合いのある繊維を提供することができる。さらに中実繊維同様にアルカリ減量を実施することができ、しかも中実繊維との混繊の布帛としてアルカリ減量加工を実施することができる。それゆえこの中空繊維を用いて幅広いバリエーションのある織編物を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の空隙を有する異型中空ポリエステル単糸の繊維軸に直交する断面の模式図である。
【図2】本発明の空隙を有する異型中空ポリエステル繊維の繊維軸に直交する断面の模式図である。
【図3】本発明の中空ポリエステル繊維を製造する紡糸口金での吐出孔の模式図である。
【図4】比較例2でのポリエステル繊維の繊維軸に直交する断面の模式図である。
【図5】比較例3でのポリエステル繊維の繊維軸に直交する断面の模式図である。
【図6】比較例4でのポリエステル繊維の繊維軸に直交する断面の模式図である。
【符号の説明】
【0035】
A;単糸繊維横断面ポリマー部面積
B;単糸繊維横断面最外周面積
C;マルチフィラメント糸横断面最外周面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を構成するポリマー成分の少なくとも90モル%以上がポリエチレンテレフタレート単位で構成されたポリエステル繊維からなり、下記要件を満足することを特徴とする中空ポリエステルマルチフィラメント。
a)構成単糸の繊維軸に直交する断面形状が四角中空コアー部を有すること。
b)該コアー部外表面からコアー部中心点に対して放射状に突出し且つ該コアー部の長さ方向に沿って延在する8枚のフィン部を有すること。
c)単糸が20本以上で構成されていること。
【請求項2】
構成単糸の繊維軸に直交する断面における下記式1で示す中空率が30〜60%であり、マルチフィラメント状態での下記式2で示す空隙率が40〜70%で、且つ繊維のシルクファクター(強度×√伸度)が15以上ある請求項項1に記載の中空ポリエステルマルチフィラメント。
中空率(%)=(A/(B−A))×100 ・・・・式1
空隙形成率(%)=(NA/(C−NA))×100 ・・・・式2
A;単糸繊維軸に直交する断面面積
B;単糸繊維横断面最外周面積
C;マルチフィラメント糸横断面最外周面積
N;マルチフィラメント糸に含まれる単糸数
【請求項3】
請求項1〜2いずれかに記載の中空ポリエステルマルチフィラメントを含むことを特徴とする布帛。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−65324(P2010−65324A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229818(P2008−229818)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】