説明

中空糸拘束手段および浄化カラム

【課題】中空糸の端部をポッティングなどの隔壁により筒状ケーシング端部に接着固定することのない浄化カラムにおいて、浄化処理効率等を向上できるような中空糸拘束手段およびこれを用いてなる浄化カラムを提供する。
【解決手段】中空糸が内蔵された筒状ケーシングの端部において中空糸を固定することにより、前記ケーシングを中空糸が密に充填される空間である中空糸充填部4と中空糸が疎である空隙部3の2つの異なる空間に分離する中空糸拘束手段。(a)前記中空糸充填部がケーシングの内周面と離間して配置され、かつ、前記空隙部がケーシング内周面と中空糸充填部の間に存在すること、(b)中空糸充填部の総表面積が前記ケーシング端面の表面積の50%以上であること、(c)中空糸が接着によって前記手段および前記ケーシングのいずれにも固定されていないこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化等に使用する中空糸を内蔵した浄化カラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に用いられてきた中空糸型カラムは、筒型ケーシング内に中空糸束を充填すると共に、この中空糸束の両端を樹脂組成物からなる隔壁でケーシング内面に固定し、ケーシングの両端に被処理液の供給口または排出口となる接続口を備えるキャップ部材をそれぞれ装着し、ケーシングの外周部両端近傍に処理液の流入口及び流出口となる接続口を設け、上記供給口から被処理液を供給して各中空糸膜の内部を通過する際にその外側の処理液により浄化処理を行う装置であった。また、この中空糸束の両端部を樹脂組成物で固定する工程はポッティング工程といい、例えば、中空糸束を装填したケーシングの両端開口にキャップを被せて閉塞し、この状態でケーシング内に、当該ケーシングの外周部両端近傍に突設した処理液の流入口及び流出口からポリウレタンなどの樹脂液を注入し、この樹脂液を遠心力によりケーシングの端部に流動させて硬化させ、その後、キャップを外して不要部分を切除することにより中空糸束の端部をケーシング内の端部に固定するとともに中空糸膜の両端を開口している。しかし、ポッティングを用いる手法においては、カラム作成時における工程の複雑化や、コスト増加が懸念される。また、中空糸の外側に処理液を導入できないため、中空糸の外表面が吸着除去に寄与し難く、除去効率が低いという欠点があった。
【0003】
一方で、浄化カラムの両端をポッティングによる固定を行わずにメッシュ等で封止した例もある(特許文献1,2,3)。この手法では、中空糸の内外に処理液を同時に導入することが可能であるが、中空糸内部と中空糸外部の流量比のコントロールが困難であることや、カラム内の流れがケーシングの一部に偏ることが懸念される。また、ケーシング内に充填される中空糸密度にムラができる可能性がある。
【0004】
また、ケーシングの両端のポッティング部において、板厚方向にポッティング部を貫通する孔を付与し、中空糸の内側と外側の両側に処理液を均一に分散させることを可能とする例も存在する(特許文献4,5,6,7)。しかし、これらの発明では、中空糸の一端が閉口されているため、処理液の圧力損失の増大や、目詰まりを起こすことによるカラムの圧力上昇が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−254695号公報
【特許文献2】特開2011−156022号公報
【特許文献3】国際公開第2009/128564号
【特許文献4】特開平5−161831号公報
【特許文献5】特開平5−161832号公報
【特許文献6】特開平6−343836号公報
【特許文献7】特開2007−90309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、中空糸の端部をポッティングなどの隔壁により筒状ケーシング端部に接着固定することのない浄化カラムにおいて、カラム内に処理液が均一に分配されないことによる偏流が生じ処理効率の低下を招くことなく、浄化処理効率等を向上できるような中空糸拘束手段およびこれを用いてなる浄化カラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採るものである。
【0008】
次の項目を満足する、中空糸が内蔵された筒状ケーシングの端部において中空糸を固定することにより、前記ケーシングを中空糸が密に充填される空間である中空糸充填部と中空糸が疎である空隙部の2つの異なる空間に分離する中空糸拘束手段。
(a)前記中空糸充填部がケーシングの内周面と離間して配置され、かつ、前記空隙部がケーシング内周面と中空糸充填部の間に存在すること
(b)中空糸充填部の総表面積が前記ケーシング端面の表面積の50%以上であること
(c)中空糸が接着によって前記手段および前記ケーシングのいずれにも固定されていないこと
【発明の効果】
【0009】
本発明の中空糸拘束手段を筒状ケーシングの端部に設置して中空糸を固定して浄化カラムを形成することにより、カラム内の流れをより均一に近いものにし、カラムの浄化処理効率等を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】浄化カラムのケーシング端部において本発明の一態様に係る中空糸拘束手段が中空糸を拘束している状態を示す概略端面図である。
【図2】クリアランス測定時の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、中空糸を内蔵するカラムについて、処理液を導入する側、もしくは排出する側の端部における中空糸をケーシングの断面における中心部付近に集中させることで、カラム内における処理液の流れを適切に分配可能な中空糸拘束手段を提供し、処理液における不要物質の吸着除去効率が向上された浄化カラムを提供するものである。
【0012】
本発明における中空糸拘束手段は、中空糸が内蔵されたケーシングの端部において中空糸を固定することにより、ケーシング内で2つの異なる空間に分離する機能を有しており、当該手段によって分離される空間は、中空糸が密に充填される中空糸充填部と中空糸が疎である空隙部となる。
【0013】
当該中空糸拘束器具によって分離される中空糸充填部は、ケーシングの内周面と離間して配置され、かつ、空隙部がケーシング内周面と中空糸充填部の間に存在することとなる。すなわち、中空糸をケーシングの断面における中心部付近に集中させることで、ケーシングと中空糸束の間に空隙部ができ、処理液の流れがケーシングの断面における中心部付近に偏ることを抑制できる。処理液はケーシング断面の中心部付近においては主に中空糸内部を流れ、周辺部付近においては主に中空糸外部を流れる。両者に流れる処理液流量を適宜調節することにより、中空糸内外にて処理液中の不要物質を効率的に吸着除去することが可能となる。
【0014】
このように、中空糸内部のみならず、中空糸外部にも被処理液を導入することにより、被処理液と中空糸との接触面積が飛躍的に増大し、被吸着物質をより効率的に吸着除去することができる。また、中空糸膜厚部に細孔をもつ場合には、膜厚部の両側から処理液を導入することで膜厚部細孔への被吸着物質の拡散性が向上する。
【0015】
本発明に用いる中空糸拘束手段は、プラスチックや金属等により構成される器具であることが好ましい。前者の場合には、金型による射出成形や、素材を切削加工することにより製作され、後者の場合には、素材を切削加工することにより器具が製作される。また、該拘束手段として用いる器具は、予めケーシング内に固定しておいても良いし、予め中空糸に当該器具を取り付け、両者を組み合わせた状態でケーシング内へ挿入してもよい。
【0016】
本発明の具体的態様の一例を端部概略断面図である図1に基づき説明する。ケーシング端面において、1はケーシング、2は中空糸拘束器具、3は空隙部、4が中空糸充填部を示す。しかしながら、本発明における浄化カラムはこのような具体例に限定されるものではなく、液の入口、出口を有し、かつ浄化カラムの容器外への流出防止具を備えた容器内に中空糸を充填したものであれば、どのようなものでもよい。中空糸拘束器具2は、円筒状のケーシング内で、ケーシング径より若干小さな径のリング状部分を有し、リング状部分の周辺にケーシングとの連結部分を有する。リング状部分はその径が可変であってもよく、中空糸束の大きさに合わせて大きさを変えることで中空糸を拘束することが可能である。図1では中空糸拘束部分はリング状であるが、これに限定することはなく、中空糸を囲って拘束する部分と、ケーシングとの連結部分とが備わっていることがよい。
【0017】
また、中空糸拘束器具によって分離される中空糸充填部は、その断面において一つの連続した空間であることが望ましい。これは、中空糸拘束手段において中空糸の束を分画することなく、中空糸が一束となっていることを意味しており、中空糸間の微小の空隙が存在してもよい。糸束充填部を一つの連続した空間にすることで、糸束のケーシングへの挿入が容易になり、また、中空糸を変形させるなどの懸念も少なくなる。具体的には、約10000本前後の中空糸からなる束がその長手方向が筒状ケーシングの軸方向に配設される態様が挙げられる。
【0018】
本発明における中空糸拘束手段は、該手段によって分離される中空糸充填部と空隙部の表面積の割合をコントロールすることが重要である。すなわち中空糸充填部の割合が大きすぎる場合、空隙部への処理液の流量比が小さくなる。また、拘束具をケーシング内に固定することが困難になる。一方で、空隙部が大きすぎる場合には空隙部への処理液の流量比が大きくなり、中空糸充填部に十分な量の処理液を供給できない。そのため、中空糸拘束手段の断面において、中空糸充填部がケーシング端面に占める総表面積の下限は端面の表面積の50%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは75%以上である。また、上限としては、95%以下、より好ましくは90%以下であり、さらに好ましくは85%以下である。ここでいう中空糸充填部の総表面積とは、中空糸拘束具2の内周面で囲まれる面積のことである。
【0019】
また、本発明において、処理液を中空糸充填部および空隙部に適切に分配するためには、中空糸充填部における中空糸の充填率をコントロールすることも重要である。すなわち、充填率が低すぎる場合には中空糸充填部の流量が多くなり、充填率が高すぎる場合には中空糸充填部の流れが小さくなる。そのため、中空糸充填部に占める、中空糸の充填率は47%以上、75%以下が好ましく、さらに好ましくは、55%以上、66%以下となる。
【0020】
また、先述したように、全ての中空糸を充填部に存在することが好ましいが、例えば浄化カラムの輸送時等に振動が加えられると、一部の糸が拘束具の中空糸充填部から空隙部に移動する可能性がある。本発明の趣旨である中空糸充填部と空隙部への均一な分配を達成するためには、中空糸充填部に充填される中空糸がカラム全体の中空糸の90%以上であることが好ましい。
【0021】
同様に、本中空糸拘束手段は、処理液を中空糸の開口部分以外にも導入する目的を達成するため、中空糸と当該手段、または中空糸とケーシングとが接着によって固定されるものではない。これにより、中空糸とケーシングとを接着固定する手間やコストを大幅に省略することが出来る。
【0022】
本発明における中空糸拘束手段は、処理液の導入側あるいは、排出側のどちらか一方のみに用いることが好ましい。どちらか一方に限定することで、処理液がケーシングの外周部付近をショートパスする可能性を排除できる。
【0023】
中空糸拘束手段を、処理液を導入する側のみに用いるメリットとしては、処理液のカラム内の中空糸全体への接触効率が高くなる点が挙げられる。
【0024】
一方で、中空糸拘束手段を、処理液を排出する側のみに用いるメリットとしてはカラム内における、圧力損失の低減や、処理液の滞留の可能性を低減できる。
【0025】
本発明でいう中空糸とは内部に被処理液の流路となる中空孔を有する円筒状の糸膜であり、中空孔の端部が封止されることなく開口している糸体である。
【0026】
本発明の中空糸拘束手段を用いたカラムに充填する中空糸の素材としては、ポリメチルメタクリレート(以下、PMMAという)、ポリアクリロニトリル(以下、PANという)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、セルロース、セルローストリアセテート等が用いられるが、中でも、タンパク質を吸着できる特性を有する素材を含むことが好ましく、例えば、PMMA、PAN等が挙げられる。
【0027】
本発明に用いる中空糸は、中空糸の内表面、外表面に緻密層が存在すること、さらに言えば膜厚部の厚み方向にほぼ均一な構造をとることが好ましい。これにより、吸着面積を増大させることができる。
【0028】
本発明において、内蔵する中空糸は、中空糸膜の膜厚が小さすぎると中空糸膜の強度が弱くなり、輸送や操作中の衝撃で中空糸に破れ、切れが起こり、患者の血液循環中にリークが発生することが懸念される。また、膜厚が大きすぎると、内外表面からの距離が大きい膜厚中心部は吸着に十分利用されず、余分となる。また、製造上も相分離の進行速度が内表面と外表面で大きく異なり不利である。したがって中空糸膜の膜厚は20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、一方で100μm以下が好ましく、より好ましくは75μm以下である。
【0029】
また、中空糸膜の内径が小さすぎると、例えば血液浄化用途に用いる場合、血液の圧力損失が増大することが懸念され、また詰まりによるろ過量の低下も考えられる。一方、大きすぎると、同じく血液浄化用途に用いる場合、血液浄化器の充填液量が大きくなり、体外循環の際患者に負担がかかることが考えられる。したがって中空糸膜内径は120〜260μmであることが好ましい。
【0030】
また、糸束をケーシング内に組み込むに際しては、糸束を有効長分の長さにカットしてから組み込むよりも、糸束を有効長よりも長めに調整し、組み込んだ後に糸束両端をカットするほうが製造上の効率が良い。この糸束の両端のカット前に、本発明における拘束器具を設置することで、カット時の糸の動きを拘束することができるため、余分な応力がかかりにくく中空糸の糸潰れを大幅に抑制できる。糸潰れとなった「潰れ糸」とは、中空糸外径の長径に対し、中空糸外径の短径が50%以下の糸のことを言う。糸が潰れると、中空糸内部へ処理液を導入する際の圧力損失が増大するため、結果としてカラムの除去対象物質の除去性能が低下する傾向にある。また、処理液がカラムを通過した後も中空糸内部に処理液が残存するという現象も起きやすい。カット工程後に拘束器具のケーシング内における存在が好ましくない場合には、カット前にケーシングの両端に本発明の拘束具を配し、カット後に一旦処理液導入側もしくは導出側いずれか一方の拘束具を取り外す方法を採ってもよい。このようにすることで、ケーシング両側端面において潰れ糸が少なく、かつ、処理液導入時にはケーシング内に処理液をより均一に流すことができる。
【0031】
本発明の中空糸拘束手段を用いたカラムの使用用途は多種多様であり、血液浄化器としても用いることができる。処理方法には全血を直接灌流する方法と血液から血漿を分離した後血漿をカラムに通す方法とがあるが、本発明の浄化カラムはいずれの方法にも用いることができる。
【0032】
また、血液浄化器として用いる場合、1回の処理量や操作の簡便性などの観点から体外循環回路に組み込みオンラインで吸着除去を行う手法が好ましい。この場合、本発明の浄化カラムを単独で用いても良いし、透析時などに人工腎臓と直列に繋いで用いることもできる。このような手法を用いることで、透析と同時に人工腎臓のみでは除去が不十分である物質を除去することができる。特に人工腎臓では除去が困難である大分子量物質を浄化カラムを用いて吸着除去することで人工腎臓の機能を補完できる。
【0033】
また、人工腎臓と同時に用いる場合には、回路内において、人工腎臓の前に接続しても良いし人工腎臓の後に接続しても良い。人工腎臓の前に接続するメリットとしては、人工腎臓による透析の影響を受けにくいため、浄化カラムの本来の性能を発揮し易い。一方で人工腎臓の後に接続するメリットとしては、人工腎臓で除水を行った後の血液を処理するため、溶質濃度が高く、吸着除去効率の増加が期待できる。
【0034】
以下に本発明の中空糸拘束手段を用いたカラムの作成例について説明する。
【0035】
ポリマーを溶媒に溶かした紡糸原液を調整する。このとき、陰性荷電基を有するポリマーを同時に溶解することも出来る。陰性荷電が高く、原液濃度(原液中の溶媒を除いた物質の濃度)が低い程、中空糸膜の空隙率を高くすることが出来るため、陰性荷電基および原液濃度を適宜設定することにより、空隙率をコントロールすることが可能である。かかる観点から、本発明において好ましい原液濃度は30重量%以下であり、より好ましくは27重量%以下、さらに好ましくは24重量%以下で用いられる。中空糸膜は、内側の管に中空部分を形成させるための液体もしくは気体を、外側の管に紡糸原液を流すことができる2重管環状スリット型中空糸膜用口金を用い、これらの液体等を一定距離の乾式空中部分を通した後に凝固浴に吐出する事により得られる。内側の管に注入される液体としては、たとえば、上記紡糸原液が溶解可能な溶媒、水やアルコールなどの凝固剤、これらの混合物、あるいはこれらに溶解可能な重合体やそれとの混合物の非溶媒であるような疎水性の液体、たとえば、n−オクタン、流動パラフィンなどの脂肪族炭化水素、ミリスチン酸イソプロピルの様な脂肪酸エステルなども使用できる。また、吐出糸条が空中での温度変化によってゲル化したり、凝固によって速やかに強固な構造を形成する場合には、自己吸引や圧入によって、窒素ガスや空気などの不活性気体を用いることができる。このような気体注入法は工程上からも非常に有利な方法である。温度変化によってゲル化をおこすような原液系の場合には、乾式部分において冷風を吹き付け、ゲル化を促進させることができる。中空糸膜の膜厚は紡糸原液の吐出量により、内径は注入液体もしくは気体の量によりコントロールする方法が一般的である。
【0036】
2重管環状スリット中空糸膜用口金から吐出された紡糸原液は凝固浴にて中空の糸形状に凝固される。凝固浴は通常、水やアルコールなどの凝固剤、または紡糸原液を構成している溶媒との混合物からなる。通常は水を用いることができる。本発明においては、凝固浴中に先述の陰性荷電を有する官能基をもつ溶液を添加することができる。また、凝固浴の温度をコントロールすることにより、空隙率を変化させることができる。空隙率は紡糸原液の種類等によって影響を受け得るために、凝固浴の温度も適宜選択されるものであるが、一般に凝固浴温度を高くすることにより、空隙率を高くすることが出来る。この機序は正確には明らかではないが、原液からの脱溶媒と凝固収縮との競争反応で、高温浴では脱溶媒が速く、収縮する前に凝固固定されるからではないかと考えられる。しかしながら、凝固浴温度が高くなりすぎると、膜孔径が過大になるため、例えば、中空糸膜がPMMAを含む膜で、かつ内管に気体を入れる場合の凝固浴温度は39℃以上が好ましく、42℃以上がより好ましい。一方で、50℃以下が好ましく、より好ましくは46℃以下である。このとき、上記した如く、凝固浴に、陰性荷電を有する官能基をもつ溶液を添加することで血液適合性を向上させることが可能である。
【0037】
次いで、凝固した中空糸膜に付着している溶媒を洗浄する工程を通過させる。中空糸膜を洗浄する手段は特に限定されないが、多段の水を張った浴(水洗浴という)中に中空糸膜を通過させる方法が好んで用いられる。水洗浴中の水の温度は、膜を構成する重合体の性質に応じて決めればよい。例えばPMMAを含む膜である場合、30〜50℃が用いられる。
【0038】
また、中空糸膜は水洗浴の後に孔径を保持するために、保湿成分を付与する工程を入れても良い。ここでいう保湿成分とは、中空糸膜の湿度を保つことが可能な成分、または、空気中にて、中空糸膜の湿度低下を防止することが可能な成分をいう。保湿成分の代表例としてはグリセリンやその水溶液などがある。
【0039】
水洗や保湿成分付与の終わった後、収縮性の高い中空糸膜の寸法安定性を高めるため、加熱した保湿成分の水溶液が満たされた浴(熱処理浴という)の工程を通過させることも可能である。熱処理浴には加熱した保湿成分の水溶液が満たされており、中空糸膜がこの熱処理浴を通過することで、熱的な作用を受けて、収縮し、以後の工程で収縮しにくくなり、膜構造を安定させることが出来る。このときの熱処理温度は、膜素材によって異なるが、PMMAを含む膜の場合には75℃以上が好ましく、82℃以上がより好ましい。また、90℃以下が好ましく、86℃以下がより好ましい温度として設定される。
【0040】
得られた中空糸膜を用いて、本発明の中空糸拘束手段を備えた浄化カラムを作成する手段の一例を示すと次の通りである。
【0041】
まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、浄化カラムの筒部分となるプラスチックケースに入れる。この際、糸束を拘束するための器具を該プラスチックケースに装着しておき、中空糸束をその中空糸充填部に挿入することで、中空糸を端部の中心に集中させることができる。その後、中空糸束の両端をカッター等で中空糸膜がケーシング内に収まるよう切断し、端部に糸束を固定するためのメッシュなどを付与してもよい。最後にヘッダーキャップと呼ばれる処理液の入り口、出口ポートを取り付けて浄化カラムを得ることができる。
【0042】
また、医療用具等に用いる際には滅菌を行う必要があるため、上記血液浄化カラムに放射線を照射する。
【実施例】
【0043】
実施例1
重量平均分子量が40万のsyn−PMMAを31.7重量部、重量平均分子量が140万のsyn−PMMAを31.7重量部、重量平均分子量が50万のiso−PMMAを16.7重量部、パラスチレンスルホン酸ソーダを1.5mol%含む分子量30万のPMMA共重合体20重量部をジメチルスルホキシド376重量部と混合し、110℃で8時間撹拌し紡糸原液を調製した。得られた紡糸原液の110℃での粘度は1240poiseであった。得られた紡糸原液を93℃に保温された環状スリット部分の外径/内径=2.1/1.95mmφの2重管中空糸膜用口金から、2.5g/minの速度で、空気中に吐出した。ここで、同時に2重管の内管部分には窒素ガスを注入し、空中部分を50cm走行させた後、凝固浴に導いた。凝固浴に用いた水温(凝固浴温度)を42℃として中空糸膜を得た。それぞれの中空糸膜を水洗後、保湿剤としてグリセリンを63重量%水溶液として付与した後、熱処理浴温度を86℃とし、余分のグリセリンを除去した後にスペーサー糸を巻き付けて60m/minで巻き取った。得られた中空糸膜の内径/膜厚は200/30μmであった。
【0044】
得られた中空糸膜を公知の方法で束ね、有効膜面積1.6mとなるように、内径40mmの浄化カラムの筒部分となるプラスチックケースにおよそ13000本の中空糸膜を有効長19.5cmとなるように装填した。尚、プラスチックケースの処理液導入側には、予め図1に示す形状の、中空糸充填部の総表面積が端面の表面積の79%となるポリカーボネート製の中空糸拘束具を設置し、中空糸束は全て当該図1における中空糸充填部4に充填した。中空糸束の両端をカッター等で中空糸膜がケーシング内に収まるよう切断した後、カラム端面中空糸のうち任意に200本を光学顕微鏡で観察し、その中に含まれる潰れ糸の本数を算出した。
その後、両端部に糸束を固定するためのポリエチレンテレフタラート製の直径40mm、厚さ0.5mmのメッシュ(繊維径:200μm、目開:435μm)を付与した。最後にヘッダーと呼ばれる血液入り口、出口ポートを取り付けて浄化カラムを作成した。得られた浄化カラムは、RO水で内部を洗浄した後、各ポートをキャップでシールし、フィルムで包装し、γ線照射を行った。
得られた浄化カラムについて、以下に示す方法でβ−MGのクリアランス測定を行った。(1)β−MGのクリアランスの測定方法
吸着カラムの性能評価として、β−MGのクリアランスを測定した。β−MGは、長期透析合併症である透析アミロイドーシスの原因タンパク質であることが知られている。β−MGのクリアランスは次のようにして測定した。
1.ACD−A液を用いて抗凝固した牛血液を遠心分離して得た牛血漿に、β−MGを1mg/Lとなるように添加し、タンパク濃度6.5±0.5g/dLの牛血漿溶液を調整する。かかる牛血漿について、その2Lを循環用に、1.5Lをクリアランス測定用として分けた。
2.回路を図2のようにセットした。
3.Bi回路入口部を上記で調整した牛血液2L(37℃)の入った循環用ビーカー内に入れ、流速を200mL/minとしてBiポンプをスタートし、Bo回路出口部から排出される液体90秒間分を廃棄後、ただちにBo回路出口部を循環用ビーカー内に挿入れて循環状態とした。
4.循環を1時間行った後ポンプを停止した。
5.Bi回路入口部を上記で調整したクリアランス測定用の牛血液内に入れ、Bo回路出口部を廃棄用ビーカー内に入れた。
6.図2の閉鎖循環回路を用いて、血液側(中空糸膜内側)流量(QBin)200mL/min、濾過液流量10mL/min/mの条件で2Lの牛血漿溶液を循環する。
7.循環を停止し、血液側供給液を新しい牛血漿溶液に交換し、シングルパス回路を用いて血液側(中空糸膜内側)流量(QBin)200mL/minで流した。
8.シングルパス送液開始後4〜5分の間に血液入口側液および血液出口側液をそれぞれ10ml採取し、β−MGのクリアランス測定用サンプルとする。
9.4.のサンプル中のβ−MG濃度をラテックス凝集免疫測定法を用いて測定する(参考文献として医療と検査機器・試薬26(2)127−134、2003がある)。β−MGクリアランスは以下の式により算出される。β−MGクリアランス=(QBin×CBin−QBout×CBout)/CBin
CBin : 血液入口側のβ−MGの濃度(mg/L)
CBout: 血液出口側のβ−MGの濃度(mg/L)
QBin : 血液側入口流量(mL/min)
QBout: 血液側出口流量(mL/min)
実施例2
実施例1で得られた中空糸膜およそ13000本を公知の方法で束ね、中空糸内側部の有効膜面積が1.6m、中空糸外側部の有効膜面積が2.0mとなるように、内径40mmの血液浄化器用モジュールの筒部分となるプラスチックケースに有効長19.5cmとなるように装填した。尚、プラスチックケースの処理液導入側には、予め図1に示す形状の、中空糸充填部の総表面積が端面の表面積の65%となるポリカーボネート製の中空糸拘束具を設置し、中空糸束は全て当該図1における中空糸充填部4に充填した。中空糸束の両端をカッター等で中空糸膜がケーシング内に収まるよう切断した後、カラム端面中空糸のうち任意に200本を光学顕微鏡で観察し、その中に含まれる潰れ糸の本数を算出した。その後、両端部に糸束を固定するための直径40mm、厚さ0.5mmのポリエチレンテレフタラート製のメッシュ(繊維径:200μm、目開:435μm)を付与した。その後の工程は実施例1に従った。
【0045】
得られた浄化カラムについて、実施例1と同様の方法でβ−MGのクリアランス測定を行った。
実施例3
実施例1で得られた中空糸膜およそ13000本を公知の方法で束ね、中空糸内側部の有効膜面積が1.6m、中空糸外側部の有効膜面積が2.0mとなるように、内径40mmの血液浄化器用モジュールの筒部分となるプラスチックケースに有効長19.5cmとなるように装填した。尚、プラスチックケースの処理液導入側には、予め図1に示す形状の、中空糸充填部の総表面積が端面の表面積の55%となるポリカーボネート製の中空糸拘束具を設置し、中空糸束は全て当該図1における中空糸充填部4に充填した。中空糸束の両端をカッター等で中空糸膜がケーシング内に収まるよう切断した後、カラム端面中空糸のうち任意に200本を光学顕微鏡で観察し、その中に含まれる潰れ糸の本数を算出した。その後、両端部に糸束を固定するための直径40mm、厚さ0.5mmのポリエチレンテレフタラート製のメッシュ(繊維径:200μm、目開:435μm)を付与した。その後の工程は実施例1に従った。
【0046】
得られた浄化カラムについて、実施例1と同様の方法でβ−MGのクリアランス測定を行った。
実施例4
実施例1で得られた中空糸膜およそ13000本を公知の方法で束ね、中空糸内側部の有効膜面積が1.6m、中空糸外側部の有効膜面積が2.0mとなるように、内径40mmの血液浄化器用モジュールの筒部分となるプラスチックケースに有効長19.5cmとなるように装填した。尚、プラスチックケースの処理液導入側・排出側の両側に、予め図1に示す形状の、中空糸充填部の総表面積が端面の表面積の65%となるポリカーボネート製の中空糸拘束具を設置し、中空糸束は全て当該図1における中空糸充填部4に充填した。中空糸束の両端をカッター等で中空糸膜がケーシング内に収まるよう切断した後、カラム端面中空糸のうち任意に200本を光学顕微鏡で観察し、その中に含まれる潰れ糸の本数を算出した。その後、両端部に糸束を固定するための直径40mm、厚さ0.5mmのポリエチレンテレフタラート製のメッシュ(繊維径:200μm、目開:435μm)を付与した。その後の工程は実施例1に従った。
【0047】
得られた浄化カラムについて、実施例1と同様の方法でβ−MGのクリアランス測定を行った。
比較例1
実施例1で得られた中空糸膜およそ13000本を公知の方法で束ね、中空糸内側部の有効膜面積が1.6m、中空糸外側部の有効膜面積が2.0mとなるように、内径40mmの血液浄化器用モジュールの筒部分となるプラスチックケースに有効長19.5cmとなるように装填した。この際、該プラスチックケースには中空糸拘束器具を付与しなかった。中空糸束の両端をカッター等で中空糸膜がケーシング内に収まるよう切断した後、カラム端面中空糸のうち任意に200本を光学顕微鏡で観察し、その中に含まれる潰れ糸の本数を算出した。その後、両端部に糸束を固定するための直径40mm、厚さ0.5mmのポリエチレンテレフタラート製のメッシュ(繊維径:200μm、目開:435μm)を付与した。その後の工程は実施例1に従った。
【0048】
得られた浄化カラムについて、実施例1と同様の方法でβ−MGのクリアランス測定を行った。
比較例2
実施例1で得られた中空糸膜およそ13000本を公知の方法で束ね、有効膜面積1.6mとなるように、内径40mmの血液浄化器用モジュールの筒部分となるプラスチックケースに有効長19.5cmとなるように装填した。この際、該プラスチックケースには中空糸拘束器具を付与しなかった。中空糸束の両端をカッター等で中空糸膜がケーシング内に収まるよう切断した後、カラム端面中空糸のうち任意に200本を光学顕微鏡で観察し、その中に含まれる潰れ糸の本数を算出した。その後、両端部に糸束を固定するためのポリエチレンテレフタラート製の直径40mm、厚さ0.5mmのメッシュ(繊維径:200μm、目開:435μm)を付与した。さらにこのメッシュの中心部に直径10mm、厚さ0.3mmのポリエチレンテレフタラート製のフィルムを配した。その後の工程は実施例1に従った。
【0049】
得られた浄化カラムについて、実施例1と同様の方法でβ−MGのクリアランス測定を行った。
比較例3
実施例1で得られた中空糸膜およそ13000本を公知の方法で束ね、有効膜面積1.6mとなるように、内径40mmの血液浄化器用モジュールの筒部分となるプラスチックケースに有効長19.5cmとなるように装填した。この際、該プラスチックケースには中空糸拘束器具を付与しなかった。中空糸束の両端をカッター等で中空糸膜がケーシング内に収まるよう切断した後、カラム端面中空糸のうち任意に200本を光学顕微鏡で観察し、その中に含まれる潰れ糸の本数を算出した。その後、両端部に糸束を固定するためのポリエチレンテレフタラート製の直径40mm、厚さ0.5mmのメッシュ(繊維径:200μm、目開:435μm)を付与した。さらにこのメッシュの中心部に直径10mm、厚さ0.5mmのポリエチレンテレフタラート製の直径40mm、厚さ0.5mmのメッシュ(繊維径:200μm、目開:435μm)を付与した。その後の工程は実施例1に従った。
【0050】
得られた浄化カラムについて、実施例1と同様の方法でβ−MGのクリアランス測定を行った。
比較例4
実施例1で得られた中空糸膜およそ13000本を公知の方法で束ね、中空糸内側部の有効膜面積が1.6m、中空糸外側部の有効膜面積が2.0mとなるように、内径40mmの血液浄化器用モジュールの筒部分となるプラスチックケースに有効長19.5cmとなるように装填した。尚、プラスチックケースの処理液導入側には、予め図1に示す形状の、中空糸充填部の総表面積が端面の表面積の45%であるポリカーボネート製の中空糸拘束具を設置し、中空糸束は全て当該図1における中空糸充填部4に充填した。中空糸束の両端をカッター等で中空糸膜がケーシング内に収まるよう切断した後、カラム端面中空糸のうち任意に200本を光学顕微鏡で観察し、その中に含まれる潰れ糸の本数を算出した。その後、両端部に糸束を固定するための直径40mm、厚さ0.5mmのポリエチレンテレフタラート製のメッシュ(繊維径:200μm、目開:435μm)を付与した。その後の工程は実施例1に従った。
【0051】
得られた浄化カラムについて、実施例1と同様の方法でβ−MGのクリアランス測定を行った。
【0052】
結果を表1に示した。
【0053】
表1の実施例1〜3の結果から、処理液を導入する側の端部に中空糸拘束器具を付与することで、カラムのβ−MG除去性能が増大した。また、中空糸充填部の総表面積が端面の表面積の45%の中空糸拘束具を設置した場合には、同55%以上のカラムに比べて大きく性能が低下した。
【0054】
また、表1から、潰れ糸本数は、中空糸拘束具を用いることで大幅に減少させることができた。
【0055】
【表1】

【符号の説明】
【0056】
1 ケーシング
2 中空糸拘束器具
3 空隙部
4 中空糸充填部
5 浄化カラム
6 Biポンプ
7 廃棄用容器
8 循環用血液
9 クリアランス測定用血液
10 Bi回路
11 Bo回路
12 Di回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の項目を満足する、中空糸が内蔵された筒状ケーシングの端部において中空糸を固定することにより、前記ケーシングを中空糸が密に充填される空間である中空糸充填部と中空糸が疎である空隙部の2つの異なる空間に分離する中空糸拘束手段。
(a)前記中空糸充填部がケーシングの内周面と離間して配置され、かつ、前記空隙部がケーシング内周面と中空糸充填部の間に存在すること
(b)中空糸充填部の総表面積が前記ケーシング端面の表面積の50%以上であること
(c)中空糸が接着によって前記手段および前記ケーシングのいずれにも固定されていないこと
【請求項2】
前記中空糸拘束手段によって分離される中空糸充填部がその断面において一つの連続した空間である請求項1に記載の中空糸拘束手段。
【請求項3】
筒状ケーシングを有し、前記ケーシングに中空糸が内蔵され、前記ケーシングの一方のみの端面に請求項1または2に記載の中空糸拘束手段を備える浄化カラム。
【請求項4】
前記中空糸拘束手段が備えられたケーシングの端面が処理液の導入側の端面である請求項3に記載の浄化カラム。
【請求項5】
血液浄化器として用いられる請求項3または4に記載の浄化カラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−81771(P2013−81771A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−216157(P2012−216157)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】