説明

中空糸束乾燥状態の評価方法

【課題】湿式製膜法または乾湿式製膜法によって紡糸された中空糸束の乾燥状態を簡便かつ詳細に評価することを可能とする、中空糸膜製造過程における中空糸束乾燥状態の評価方法を提供する。
【解決手段】蛍光剤水溶液に、凝固後で乾燥処理前の中空糸束を浸せきした後乾燥を行い、乾燥後に紫外線を照射して蛍光箇所を確認する。本発明に係る評価方法によれば、中空糸膜の乾燥箇所を可視化することによって、乾燥の不均一性を目視で簡便に評価することを可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸束乾燥状態の評価方法に関する。さらに詳しくは、中空糸膜の製造において、湿潤状態から乾燥を行う過程における中空糸束の乾燥状態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式製膜法または乾湿式製膜法により得られる中空糸膜は、二重環状式紡糸口金から高分子製膜原料を溶媒に溶解させたドープ溶液を吐出させ、凝固浴で凝固させた後洗浄液で洗浄され、ボビン等に巻き取られる。次いで、ボビンに巻き取られた中空糸はモジュール成形するため中空糸束とされるが、中空糸束とモジュールケースとをポッティング樹脂で接着する際、中空糸束に水分が存在すると接着性樹脂が発泡したり、接着不良となりリークが発生するため、接着前に中空糸束の状態で乾燥させる必要がある。しかるに、ポリスルホン等の疎水性樹脂を原料とする中空糸膜は、乾燥させると水に対する濡れ性が低下し、透水性能が小さくなる。これを解決する方法として、高分子製膜原料を溶媒に溶解させたドープ溶液に、高分子親水化剤としてポリビニルピロリドンを添加する方法が広く知られている(特許文献1〜2)。
【0003】
中空糸束の乾燥方法としては、乾燥器内に中空糸束を整列させて加温乾燥ガスを通気させる方法が広く採用されている。しかしながら、加温乾燥ガスには通常空気が用いられるため、中空糸膜中のポリビニルピロリドンが酸化する可能性があり、それに伴って中空糸膜の変色あるいは強度低下を招くおそれがある。また、加温乾燥ガスとして窒素等の不活性ガスを使用することも考えられるが、製造原価が高くなるため好ましくない。
【0004】
さらに、加温乾燥ガスを通気した場合には、中空糸束内に乾燥のムラが生じ、特に中空糸束の長手方向における性能差や、中空糸束の中心部と外周部との性能差が生じることが知られている(特許文献3)。また、乾燥後中空糸膜表面のポリビニルピロリドン濃度の高い部分で中空糸膜同士の接着が生じ、キズあるいは折れの原因となる場合がある。
【0005】
以上の如き乾燥時におけるムラを低減するために、減圧による乾燥方法が提案されているが、乾燥機の構造が複雑になり、さらに装置が大型化するといった問題がある(特許文献4)。
【0006】
また、水蒸気による湿熱処理を行いながらマイクロ波を照射する方法が提案されているが、乾燥時間が長くなり生産性に欠けるといった問題がある(特許文献5)。
【0007】
この他、マイクロ波に加えて中空糸束内に乾燥ガスを通気し、乾燥の均一化を図る方法が提案されている(特許文献6)。しかしながら、この方法を用いた場合にも、中空糸束内の乾燥状態は、水分総量、風速、風量、乾燥温度、空気の除湿程度、送風方向、中空糸束の配置などによっても変化するため、乾燥条件の設定は難しく、複雑で困難を伴う(特許文献6〜9)。
【0008】
さらに、中空糸束の形状が変わった場合、このような乾燥条件を再度設定し直す必要があり、時間と労力を必要とする。
【0009】
このような乾燥状態の評価においては、乾燥後の中空糸束を各部位に分割し、各部位の含水率を重量変化法により求め、この各部位での含水量の差異を不均一の指標としている。このため、乾燥庫内のすべての中空糸束の乾燥を評価するためには、非常に多くの時間と労力を要する。さらに、重量変化法では中空糸束の局部的な含水率を評価することができないため、評価により得られた乾燥ムラと、実際の中空糸束の性能差や中空糸膜同士の接着との関係が一致しないことも多く、得られる膜の品質にバラツキが生じる原因となっている。
【0010】
したがって、乾燥庫内のすべての中空糸束の乾燥状態を簡便かつ詳細に評価することができれば、最適な乾燥条件の設定が容易にでき、品質の安定化や製造コストの削減にもつながることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−52331号公報
【特許文献2】特開平8−9668号公報
【特許文献3】特許第3,281,364号公報
【特許文献4】特開平9−888号公報
【特許文献5】特開平11−332980号公報
【特許文献6】特開2006−68689号公報
【特許文献7】特開2003−175320号公報
【特許文献8】特開2005−270739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、湿式製膜法または乾湿式製膜法によって紡糸された中空糸束の乾燥状態を簡便かつ詳細に評価することを可能とする、中空糸膜製造過程における中空糸束乾燥状態の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる本発明の目的は、蛍光剤水溶液に、凝固後で乾燥処理前の中空糸束を浸せきした後乾燥を行い、乾燥後に紫外線を照射して蛍光箇所を確認することによって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る評価方法によれば、中空糸膜の乾燥箇所を可視化することによって、乾燥の不均一性を目視で簡便に評価することを可能となる。さらに、乾燥庫内のすべての中空糸束の評価も容易に可能となるため、最適な乾燥条件を短い時間と少ない労力で設定することができるといったすぐれた効果を奏する。これによって、品質の安定化あるいは製造コストの削減が可能となり、また乾燥が不均一となり難い中空糸束の構造設計も容易となり、さらには乾燥庫内に紫外線照射装置とムービーカメラを設置することにより、乾燥後のみならず乾燥の進行過程を評価することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明方法は、公知のいずれの中空糸膜からなる中空糸束に対しても適用可能であり、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン等のポリスルホン系によって代表される各種膜形成性樹脂およびポリビニルピロリドン等の水溶性高分子物質をジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒中に溶解させた製膜原液を調製し、これを通常の湿式法または乾湿式法によって中空糸膜状に製膜し、凝固浴中で凝固させることにより得られる多孔質膜をモジュール形成用に束ねたものなどに対して適用される。
【0016】
中空糸束は、凝固後でその乾燥前に蛍光剤水溶液に浸せきされ、その後乾燥処理される。蛍光剤を水に溶解させた溶液への浸せき時間は、特に限定されないが、一般には0.5〜10分間程度行われる。また、蛍光剤は、水への溶解性が良く、低分子量のもの、例えばウラニン(フルオレセインの二ナトリウム塩)、ローダミン、シアニン、クマリンなどが用いられ、好ましくはウラニンなど蛍光が強い緑色蛍光剤が用いられる。蛍光剤は、水に0.1〜100mg/L程度、好ましくは1.0〜10mg/Lとなるような割合で溶解させて用いられる。
【0017】
かかる蛍光剤溶液に、凝固後で乾燥処理前の中空糸束を浸漬した後、余分な水分をきり、乾燥庫内にて所定の乾燥条件で乾燥を行った後、暗所にて中空糸束に紫外線を照射し、蛍光箇所の目視による確認が行われる。
【0018】
乾燥中には、蛍光剤は水分とともに移動するため、中空糸束内での水分の蒸発が不均一であれば、蛍光剤は水の蒸発箇所に偏在することとなるため、紫外線による蛍光が強く、蛍光剤が多く存在する箇所は、移動した水分が蒸発した箇所を示していることとなる。したがって、中空糸束の蛍光強度が不均一であれば、乾燥が不均一であることを示していることとなる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0020】
実施例1
ポリスルホン樹脂20重量部、ポリビニルピロリドン(K-30)8重量部およびジメチルホルムアミド72重量部からなる製膜原液および水からなる凝固液を用いて、湿式製膜法によって外径0.5mm、内径0.25mmの中空糸膜を作製した。この中空糸膜を用いて、モジュール形成用の中空糸束を作製した。
【0021】
次に、ウラニン(純正化学)10mgに、水を1L加えて攪拌し、10mg/Lの濃度のウラニン水溶液を調製し、このウラニン水溶液中に得られた中空糸束を1分程度浸せきして取出した後、送風型恒温乾燥器内で45℃、24時間の乾燥を行った。
【0022】
中空糸束の乾燥後、暗室にて中空糸束に紫外線を照射したところ、蛍光が強い箇所と、弱い箇所が観察された。蛍光が強い箇所と弱い箇所の破断伸びとポリビニルピロリドン溶出量を次の方法にて評価した。
破断伸び:標点間距離50mm、引張強度20mm/分の条件で、引張試験(試験機:島津製
作所 EZ-Test)を行った。測定は20回行い、平均値を破断伸びとした。
ポリビニルピロリドン溶出量:中空糸膜1gと純水100mlとを三角フラスコに加え、
70℃の恒温水槽で1時間加熱を行った。加熱後、室
温まで冷却した後、三角フラスコ内の水のUV吸光度
(波長200〜350の範囲の最大吸光度)を分光光度計(
日立ハイテクノロジーズ U-2810)により測定した。
ここで、濃度の異なるポリビニルピロリドン(K-30)
水溶液を用いてUV吸光度を測定し、ポリビニルピロ
リドン濃度とUV吸光度の関係から検量線を作成し、
この検量線を用いて三角フラスコ内の水のポリビニ
ルピロリドン濃度を算出した。
【0023】
その結果、蛍光の強い箇所における破断伸びは12mm、ポリビニルピロリドン溶出量は13ppmであったのに対して、蛍光の弱い箇所における破断伸びは14mm、ポリビニルピロリドン溶出量は9ppmであった。
【0024】
以上の結果より、乾燥の不均一に影響を受けるとされている中空糸強度とポリビニルピロリドン溶出量が、蛍光の強弱で可視化することができ、これによって乾燥が不均一となっている部分が評価できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光剤水溶液中に、凝固後で乾燥処理前の中空糸束を浸せきした後乾燥を行い、乾燥後に紫外線を照射して蛍光箇所を確認することを特徴とする中空糸膜製造過程における中空糸束乾燥状態の評価方法。
【請求項2】
中空糸束がポリビニルピロリドン含有中空糸膜の束である請求項1記載の中空糸膜製造過程における中空糸束乾燥状態の評価方法。
【請求項3】
蛍光剤が、ウラニンである請求項1または2記載の中空糸膜製造過程における中空糸束乾燥状態の評価方法。

【公開番号】特開2012−223742(P2012−223742A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96110(P2011−96110)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】