説明

中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュールの製造方法

【課題】本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、エアロックの発生が抑制され、溶出物が少なく、かつ、残血が発生しにくいセミドライタイプの中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュールの製造方法を提供することにある。
【解決手段】中空糸膜をモジュールケースに内蔵して、中空糸膜内面である第1通液空間に液体を満たす充填工程、気体を用いて前記液体を抜き出すブロー工程を経た後、不活性ガスを封入してから放射線照射を行う工程を有する中空糸膜モジュールの製造方法において、以下の要件を満たすことを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
1)中空糸膜の少なくとも内表面側に親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子が存在する。
2)抱液率が10〜350重量%である。
3)前記気体をブローする方向と前記不活性ガスを封入する方向が同一である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロックの発生が抑制されたセミドライタイプの中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュールの製造方法に関する。該中空糸膜モジュールは、モジュール内の酸素濃度を低下できるため、溶出物が少なく、かつ、残血が発生しにくい特徴を有している。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールは、人工腎臓に代表されるような血液浄化用中空糸膜モジュールや、血液成分を分離する血漿分離膜モジュール、また、浄水器などの水処理用分離膜モジュールなどとして広く使用されている。
【0003】
これまでは、内部に液体が密に充填されたウェットタイプの中空糸膜モジュールが主流であったが、液体の充填によってモジュールの重量は重くなり、また、寒冷地などでは充填されている液体が凍結することがあるため、輸送や保存などの取り扱い性が良くなかった。
【0004】
それに対して、内部に液体が密に充填されていないタイプの中空糸膜モジュールは、重量が軽いほか、凍結の恐れも少ないため、取り扱い性に優れている。例えば、中空糸膜を乾燥状態にした完全ドライタイプの中空糸膜モジュールが市販されているほか、水で湿潤状態にしたセミドライタイプの中空糸膜モジュールの製造方法(特許文献1)や、グリセリンなどで湿潤状態にした中空糸膜モジュールの製造方法(特許文献2)が開示されている。
【0005】
しかし、中空糸膜モジュールが人工腎臓などの血液浄化用中空糸膜モジュールに用いられる場合、中空糸膜が水で膨潤していないと、使用開始直後に血液が活性化してしまう可能性が高くなってしまう。そこで、水による膨潤性を促進させることなどを目的として、製膜原液に親水性高分子であるポリビニルピロリドンを混合したり(特許文献3)、分離膜に対して、ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子の溶液を接触させた後、放射線架橋により不溶化した被膜層を形成する方法(特許文献4)が採られている。しかしながら、中空糸膜を乾燥させて完全ドライタイプにすると、親水性高分子が収縮して粒子径が小さくなるため、親水化効果が低下する傾向にある。そのため、膨潤するまでの時間が必要となるので、血液と接触したときに親水化効果を発揮できない場合があり、好ましくない。したがって、中空糸膜が水を含んでいるウェットタイプやセミドライタイプの中空糸膜モジュールは血液活性化の懸念が少ない。また、中空糸膜モジュールが水以外の液体を含む場合、その液体成分の溶出が問題となることがある。例えば、特許文献2のようなグリセリンで湿潤状態にした人工腎臓では、使用開始前のモジュール洗浄が行われるが、完全にグリセリンが除去されずに血液中へ溶出する懸念があるだけでなく、廃棄物が発生するために環境負荷の面からも好ましくない。
【0006】
以上のことから、中空糸膜モジュールの輸送などの取り扱い性や、生体適合性、環境負荷などの点により、ウェットタイプや完全ドライタイプと比較して水で湿潤されたセミドライタイプの中空糸膜モジュールがより好ましい。
【0007】
しかし、セミドライタイプの中空糸膜モジュールは、水などの液体を満たした後にその液体を抜き出すブロー工程を要する。そのため、中空糸膜内表面側である第1通液空間に残存した液滴が膜を形成し、その高い表面張力によって液体や気体の流れが遮断される現象(以下、エアロック)が発生しやすいことが知られている。エアロックの発生した中空糸は処理される液体や気体が流れにくくなってしまい、中空糸膜モジュール本来の性能が十分に発揮されないことが起こりうる。例えば、中空糸膜モジュールが人工腎臓などの血液浄化用中空糸膜モジュールの場合は、エアロックが血液の流れ阻害を惹起することで、タンパク質や血小板が付着しやすくなる。すなわち、血液透析終了後、血液を体内に戻す際に血液が中空糸内に残る現象(以下、残血)が多発してしまう。
【0008】
そこで、これまでにエアロックの発生が少なく、低溶出かつ性能の高いセミドライタイプの中空糸膜モジュールの製造方法(特許文献5)が開示されている。特許文献5では、第1通液空間の液体を抜き出す際に加える気体の圧力や流量、またその順序について詳細に記載されているものの、本発明者らが検討した結果、気体の性質もエアロック発生に関与しており、なお詳細な検討が必要であることがわかった。
【0009】
また、中空糸膜モジュールが人工腎臓などの血液浄化用中空糸膜モジュールに用いられる場合、製品の滅菌などを目的として放射線照射処理して製造することが多い。かかる場合、γ線照射により発生する酸素ラジカルによって膜素材が分解され、溶出物が増大することが知られている。そのため、特許文献5では低溶出物の達成を目的として、不活性ガスを封入してモジュール内酸素濃度を下げた中空糸膜モジュールを提供しているが、それを達成するための不活性ガスの流量や方向などについては、開示がなされていない。
【0010】
さらに、特許文献5においては、中空糸膜内表面の親水性と疎水性のバランスが最適化されていない。したがって、タンパク質や血小板が膜内表面を異物と認識することにより、膜内表面に付着して、残血が発生する懸念が残る。また、特許文献5に係る膜の内表面では柔軟性が不十分であるため、一旦発生したエアロックは、例えば血液などの液体を中空糸膜内表面に流している間に、解消されにくいことがわかった。そのため、血液の流動性が悪くなることで、残血が発生し得る懸念の残るものであった。
【0011】
つまり、エアロックの発生が抑制され、溶出物が少なく、かつ、残血が発生しにくいセミドライタイプの中空糸膜モジュールの製造方法は未だ確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−245526号公報
【特許文献2】特開平8−168524号公報
【特許文献3】特公平2−18695号公報
【特許文献4】特開平6−238139号公報
【特許文献5】特開2007−229096号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】膜(MEMBRANE),30(4),185−191(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、エアロックの発生が抑制され、溶出物が少なく、かつ、残血が発生しにくいセミドライタイプの中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を達成するため鋭意検討を進めた結果、下記の1〜10の構成によって達成される。
1.中空糸膜が内蔵された放射線照射されてなる中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜内表面側である第1通液空間に連通する第1注入口および第1排出口があり、中空糸膜外表面側である第2通液空間に連通する第2注入口および第2排出口が設けられており、以下の要件を満たすことを特徴とする中空糸膜モジュール。
1)中空糸膜の少なくとも内表面側に親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子が存在する。
2)抱液率が10〜350重量%である。
3)第2通液空間を閉栓した状態で、第1通液空間の第1流入口から第1排出口に100mL/minで純水を流した時、T/Ti=0.75以上1.2以下である。
(T=中空糸膜内表面を純水が実際に通過した時間(min)、Ti=中空糸膜内表面を純水が理想的に通過する時間(min))
2.前記中空糸膜において、透水性が170mL/hr/m/mmHg以上300mL/hr/m/mmHg以下であり、牛血(Ht=30、TP=6.0)を前記第1通液空間に流速200mL/minで1時間灌流させた後の透水性保持率が60%以上80%以下であることを特徴とする前記1に記載の中空糸膜モジュール。
(Ht=ヘマトクリット、TP=全タンパク質量)
3.前記親水性ユニットがビニルピロリドンおよび/またはエチレングリコールであり、前記疎水性ユニットが酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムであることを特徴とする前記1または2に記載の中空糸膜モジュール。
4.前記親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子が内表面側のみに存在することを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
5.前記中空糸膜がポリスルホン系高分子と、ポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレングリコールからなることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
6.中空糸膜をモジュールケースに内蔵して、中空糸膜内面である第1通液空間に液体を満たす充填工程、気体を用いて前記液体を抜き出すブロー工程を経た後、不活性ガスを封入してから放射線照射を行う工程を有する中空糸膜モジュールの製造方法において、以下の要件を満たすことを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
1)中空糸膜の少なくとも内表面側に親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子が存在する。
2)抱液率が10〜350重量%である。
3)前記気体を用いて液体を抜き出す方向と前記不活性ガスを封入する方向が同一である。
7.前記親水性ユニットがビニルピロリドンおよび/またはエチレングリコールであり、前記疎水性ユニットが酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムであることを特徴とする前記6に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
8.前記液体が親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子の溶液であることを特徴とする前記6または7に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
9.前記充填工程において、第1通液空間から第2通液空間へ向けて圧力差を設けることを特徴とする前記8に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
10.前記ブロー工程において用いる気体の液体含有率が20℃、1気圧で0.5体積%以上5体積%以下であることを特徴とする前記6〜9のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、エアロックの発生が抑制され、溶出物が少なく、かつ、残血が発生しにくいセミドライタイプの中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に用いられる中空糸膜モジュールの一態様を示す。
【図2】本発明に用いられる中空糸膜モジュールの断面の一部を示す。
【図3】原子間力顕微鏡を用いたフォースカーブ測定におけるカンチレバーにかかる力とカンチレバーの変位量との関係曲線
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明でいうところの中空糸膜モジュールを、図1および図2に基づいて説明する。図1は、本発明による中空糸膜モジュールの一様態である。図2は、本発明による中空糸膜モジュールの断面の一部である。中空糸膜モジュールの筒状ケース1には、中空糸膜2が内蔵されている。また、ケース1には、ケース1の内部空間であって、中空糸膜外表面側に連通した第2注入口5および、第2排出口6が設けられている。ケース1の両端には、それぞれケース1の内部空間であって、中空糸膜内表面側と連通した第1注入口3を有する注入側ヘッダー7および、第1排出口4を有する排出側ヘッダー8が接続されている。ヘッダーおよびケースの材質としては特に限定しないが、成形が容易なことからプラスチックが用いられる。例えば、人工腎臓などの血液浄化用中空糸膜モジュールのように、滅菌を目的として放射線処理して製造する場合には、放射線耐性のある材質が求められる。例を挙げると、ポリカーボネイトやポリスチレン、ポリプロピレンなどが好ましい。
【0019】
また、ケース1において、第2注入口5および、第2排出口6それぞれの開口部よりもケース端部に近い側の部分には封止部9が存在し、ケース1の内部表面と中空糸膜2の外表面との間および、中空糸膜2同士の間隙部分を埋めている。封止部9によりケース1の内部空間は、中空糸膜2により、中空糸膜内表面側である第1通液空間と中空糸膜外表面側である第2通液空間に区画される。
【0020】
かかる第1通液空間は、第1の液体(処理すべき液体、例えば血液)を通じる空間であり、中空糸膜2の内側空間11、注入側ヘッダー7の内部空間、排出側ヘッダー8の内部空間からなる。第2通液空間は、第2の液体(例えば透析液)を通じる空間であり、中空糸膜2の外側空間12からなる。したがって、第1通液空間は、第1注入口3および第1排出口4と連通してモジュール外部に通じている。また、第2通液空間は、第2注入口5および第2排出口6と連通してモジュール外部に通じている。なお、ここでいう連通している状態とは、中空糸膜の膜孔および膜厚部分を介して通じている状態を意味するものではない。
【0021】
本発明において、エアロックの発生が抑制され、溶出物が少なく、かつ、残血が発生しにくいセミドライタイプの中空糸膜モジュールを達成するために、発明者らが鋭意検討した結果、中空糸膜2の少なくとも内表面側において、適度な親水性と疎水性のバランスが保たれていることが重要であることがわかった。特に、本発明においては、中空糸膜内表面の親水性と疎水性が適度なバランスを保持するためには親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子が存在していれば好ましいことを見出した。
【0022】
また、かかる共重合体高分子の特性としては、親水性ユニットのみからなる単独重合体よりも水中での分子鎖の回転半径が大きいことが重要である。その理由としては、例えば、親水性ユニットがポリビニルピロリドンのような単独重合体では、ピロリドン環同士の相互作用が強すぎるために、分子間で束縛が大きくなるためであると考えられる。具体的には、重量平均分子量10万における水中での分子鎖の回転半径が10nm以上であることが好ましく、より好ましくは11nm以上であり、さらに好ましくは12nm以上である。水中での分子鎖の回転半径が大きい親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子は水や血液などの液体を含んだ状態において膨潤するため、かかる高分子が存在している中空糸膜内表面は、水や血液などの液体を含んだ湿潤状態で柔軟層厚みが存在する。前述したように、エアロックは液滴が中空糸膜内表面に残存して膜を形成することにより発生するが、かかる膜内表面はより柔軟かつ平滑であるため、液体が乱流などを形成しにくくなることでエアロックの発生が抑制されると考えられる。さらに、本発明は、該中空糸膜内表面が柔軟かつ平滑であるため、エアロックが一旦発生しても、液滴が第1通液空間内を通過しやすいため、エアロックが解消されるという特徴を有している。すなわち、従来の技術よりも血液の流動性が向上して、タンパク質や血小板などが第1通液空間内をスムーズに通過して付着が抑制されるため、残血が発生しにくくなる効果も併せて期待できる。
【0023】
湿潤状態の中空糸膜内表面に存在する柔軟層厚みは、次のような点でも重要である。すなわち、血小板や血球などの大きな成分は中空糸膜の膜厚部分に入り込むことはなく、最表層と接触する。そのため、例えば中空糸膜の構成成分が疎水性の高いポリスルホン系高分子である場合、柔軟層厚みが大きいほど、血小板や血球が接近しにくくなるため、付着や活性化が起こらないものと考えられる。一方で、柔軟層厚みが大きすぎると、タンパク質が柔軟層厚みの内にトラップされることがある。したがって、表面における親水性と疎水性のバランスは重要であり、柔軟層の厚みは5nm以上、好ましくは7nm以上が好ましい。また、30nm以下、好ましくは20nm以下、さらには15nm以下が好ましい。
【0024】
湿潤状態での中空糸膜内表面の柔軟層は、含水率を65重量%以上の湿潤状態にした中空糸膜2について、原子間力顕微鏡を用いたフォースカーブ測定から算出する。フォースカーブは、縦軸をカンチレバーにかかる力としたときの横軸におけるカンチレバーの変位量で表される。カンチレバーの短針が中空糸膜内表面に接触するまでは、フォースカーブはx軸に平行に推移する。カンチレバーが膜内表面に接触した後、柔軟層があった場合には、湾曲した非線形の部分が現れる。その後、カンチレバーの変位量と力の間には、線形的な直線の相関が得られる。柔軟層は、カンチレバーの短針が表面に接触後、直線になった部分の延長線と、カンチレバーの短針が表面に接触する前にx軸に平行に推移した線の延長線の交点と、カンチレバーの短針が表面に接触した点までの距離とする(図3)。
【0025】
また、該共重合体中における疎水性ユニットの好ましい比率としては、疎水性ユニットの種類によって異なるが、一般的には10モル%〜80モル%である。特に疎水性ユニットが酢酸ビニルユニットである場合は、25〜75モル%が好適に用いられ、より好ましくは35〜65モル%である。ただし、酢酸ビニルが60モル%以上になると水に溶けにくくなるため、取り扱い性を考慮すると、35〜50モル%が好ましい。また、ビニルカプロラクタムからなる場合は、25〜75モル%が好適に用いられ、より好ましくは45〜55モル%である。炭素数が4の直鎖飽和炭化水素の場合は、1〜50モル%が好適に用いられ、より好ましくは5〜20モル%である。共重合体としては、グラフト共重合体よりもブロック共重合体や交互共重合体、ランダム共重合体が好適に用いられる。また、ブロック共重合体よりも交互共重合体、ランダム共重合体がより好ましい。すなわち、同じユニットの繰り返し数の平均が5以下であることが好ましい。
【0026】
中空糸膜内表面における前記親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子の量は、5重量%以上、より好ましくは10重量%以上であり、また30重量%以下、より好ましくは25重量%以下であれば、膜内表面における親水性と疎水性のバランスがより保てるため、特に好ましい。ここでいう中空糸膜内表面とは、光電子分光法(ESCA)の検出器傾きを90°に設定した時の測定深さまでの部分を指す。
【0027】
また、中空糸膜2において、親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子の量が多すぎると、成形性が容易ではなく、性能も低下する可能性が高いため、膜全体における含有量はできる限り少量であることが好ましい。具体的には、中空糸膜2の構成成分100重量%に対して、1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、さらには0.02重量%未満である。さらに、該共重合体高分子は中空糸膜の内表面および外表面に存在していてもよいが、大量に存在すると性能低下を引き起こしてしまう。したがって、少なくとも内表面にのみ存在すればよい。
【0028】
ここでいう親水性ユニットとは、それ単独の重合体で水に易溶である繰り返し単位であり、20℃の純水に対する溶解度が10g/100g以上と定義する。例えば、親水性ユニットとしてはビニルピロリドンやアルキレングリコール、アルキレンイミン、アリルアミン、ビニルアミン、アクリル酸などが挙げられ、中でもビニルピロリドンは水酸基ほど親水性が強すぎず、疎水性のバランスを保つことが容易であるため、好ましい。
【0029】
一方で、疎水性ユニットとは、それ単独の重合体では水に難溶または不溶である繰り返し単位と定義し、水に難溶または不溶とは、20℃の純水に対する溶解度が1g/100g未満のことをいう。具体的には、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステルや、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルや、カプロラクタム、さらにメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、アクリロニトリル等を繰り返し単位として有するものを挙げることができる。本発明においては、その中でも特に、酢酸ビニル、ビニルカプロラクタム、メチルビニルエーテルを有する共重合体高分子が少なくとも中空糸膜内表面に存在すると、タンパク質や血小板の付着を抑制する効果が高いため、好適に用いられる。
【0030】
親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子の具体例としては、ビニルピロリドンとスチレンの共重合体である“ANTARA”(登録商標)430(ISP社製))や、ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体である ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)や、ビニルピロリドンとビニルカプロラクタムとの共重合体であるビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム(5/5)共重合体(BASF社製、“LUVISKOL”(登録商標)VPC55)、PVAとPEGの共重合体である“KOLLICOAT”(登録商標)IR(BASF社製)などが好適に用いられるが、特に限定されるものではない。
【0031】
該共重合体の分子量としては、大きすぎると、膜表面を均一に覆うことができない。そのため重量平均分子量は10万以下が好ましく、さらには5万以下が好しい。また、小さすぎると、表面への吸着効率が悪くなったり、膜の細孔から外側に抜けたりするために、表面を覆いにくくなる。そのため、重量平均分子量は1000以上が好ましく、さらには5000以上が好ましい。
【0032】
本発明における中空糸膜2を原液から湿式製膜する場合、中空糸膜内表面にエントロピーロスを防ぐために分子量の大きい高分子が集まり、エンタルピーロスを防ぐために親水性高分子が集合する特性がある。したがって、親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子は、主に中空糸膜2を構成する疎水性高分子よりもいくぶん親水性が高く、中空糸膜内表面に集合しやすいため、原液に添加してもよい。また、中空糸膜2の湿式製膜においては、中空状に糸を形成させるため、原液以外に注入液を使用する。そのため、該共重合体高分子を注入液に添加して製膜してもよい。
【0033】
さらに、中空糸膜2を成形後に該共重合体高分子を接触させ、吸着させてもよい。かかる方法は、簡便かつ少量で実施が可能であるため、好適に用いられる。また、各モノマーの混合溶液を接触させて、成形した中空糸膜表面上で重合させてもよい。
【0034】
本発明において、中空糸膜の内表面に該共重合体高分子を接触させる方法としては、接着剤のようなものを使用してもよいが、溶媒に溶解させた後、少なくとも第1通液空間に液体を流して接触させ、吸着させる方法が簡便であり、好適に用いられる。なお、溶媒としては、水もしくはアルコール、または、両者の混合水溶液が好適に用いられるが、特に限定されるものではない。取り扱い性の観点から水もしくはアルコール水溶液がより好適に用いられる。アルコール水溶液のアルコール濃度は70重量%以下が好ましい。また、中空糸膜2の内表面に該共重合体高分子を効率的に接触させるために、第1通液空間から第2通液空間へ向けて圧力差を設けて溶液を流す方法が、好適に用いられる。圧力差としては、第1通液空間を加圧させてもよいし、第2通液空間を減圧してもよい。なお、該共重合体高分子の水溶液そのもので圧力差をかけて膜表面に導入しなくとも、高分子水溶液を接触後、気体や、水など他の溶液で加圧しても良い。ただし、本発明においては、第1通液空間と第2通液空間との圧力差が大きくなると、中空糸膜モジュールの性能低下が起こることがある。この理由としては、圧力差が高い時、該共重合体が一様に吸着されているものの、過度の吸着により膜孔が目詰まりを起こすためと考えられる。したがって、その圧力差は60kPa以内であることが望ましく、さらには40kPa以内であることが好ましい。圧力差の下限については、本発明の場合、特に圧力差がなくても中空糸膜への吸着が進行すると思われるが、1kPa以上が望ましく、15kPa以上がより望ましく、さらには20kPa以上が望ましい。
【0035】
本発明において、エアロックを発生させないためには、第1通液空間に流す該共重合体高分子水溶液の溶存酸素が20℃、1気圧で10mg/L以下、好ましくは8mg/L以下である。溶存酸素が高い場合は、水溶液中に微少気泡が存在している可能性が高い。そのため、第1通液空間にかかる水溶液を満たす充填工程で微少気泡が中空糸膜内表面にトラップされることにより、エアロックが発生しやすくなると考えられる。一方、該共重合体水溶液中の微少気泡をなくすために溶存酸素を下げる際に、水溶液を過剰に脱気させる工程などを必要とすることは、望ましくない。そのため、溶存酸素は20℃、1気圧で2mg/L以上、さらに3mg/L以上であることが好ましい。
【0036】
さらに、中空糸膜2に該共重合体高分子を接触させた後、放射線照射や熱処理などにより不溶化し、固定化する方法は、該共重合体高分子の溶出を低減できるため好適に用いられる。本発明におけるセミドライタイプの中空糸膜モジュールにおいては、液体を密に詰めたウェットタイプの状態で放射線照射や熱処理をしてもよいが、例えば人工腎臓などの血液浄化用中空糸膜モジュールの場合には放射線照射や熱処理が滅菌も兼ねている。そのため、放射線照射や熱処理の後、セミドライタイプの抱液率にするために液体を抜き出すブロー工程を行うと、再び滅菌をしなければいけない。したがって、液体を抜き出した後に放射線照射や熱処理を行う方法が好適に用いられる。また、中空糸膜2に該共重合体高分子を接触させた後、水などに置換した後、その水などを抜き出して放射線照射や熱処理を行ってもよい。
【0037】
なお、該共重合体高分子水溶液の濃度が低いと、中空糸膜内表面がエアロックを抑制できるほど、充分に疎水化できない。また、濃度が高すぎると、溶出物が増える場合が多い。具体的な濃度は、使用する高分子の種類によって異なるが、一般的には、0.0001重量%以上、1重量%以下が好ましく、さらには、0.001重量%以上、0.1重量%以下が好ましい。放射線照射する場合には、若干量の液体が存在すると高分子が中空糸膜に固定、不溶化されやすくなることがわかっている。これは、液体が放射線照射によりラジカルとなり、これが起点となって該高分子や中空糸膜素材である疎水性高分子がラジカル化し、高分子が膜へ架橋、不溶化することによる。
【0038】
本発明においては、抗酸化剤を入れることで、発生するラジカル量を調整することができる。例えば、中空糸膜モジュールが人工腎臓のような血液浄化用モジュールで放射線照射による不溶化と滅菌を兼ねる際に、両者いずれかの線量では中空糸膜2などが劣化する場合、それを防止するために抗酸化剤を併用すれば良い。抗酸化剤とは、他の分子に電子を与えやすい性質を持つ分子のことを言う。例えば、ビタミンCなどの水溶性ビタミン類、ポリフェノール類、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類、グルコース、ガラクトース、マンノース、トレハロースなどの糖類、ソジウムハイドロサルファイト、ピロ亜硫酸ナトリウム、二チオン酸ナトリウムなどの無機塩類、尿酸、システイン、グルタチオン、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの抗酸化剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。本発明の方法を医療用具に用いる際は、その安全性を考慮する必要があるため、抗酸化剤は毒性の低いものが好適に用いられる。
【0039】
なお、放射線照射や熱処理を行う際の、中空糸膜モジュール中の液体の溶存酸素は、酸化分解を促進する。したがって、該共重合体水溶液の溶存酸素と同様、20℃、1気圧で10mg/L以下、好ましくは8mg/L以下である。
【0040】
抗酸化剤を含有する溶液の濃度については、含有する抗酸化剤の種類、放射線の照射線量などにより異なる。抗酸化剤の濃度が低すぎると、溶媒から発生するラジカルの消去が十分にできないため、中空糸膜2などの劣化を防ぐことができない。また、抗酸化剤を多量に入れると、ラジカルが十分に消去されてしまうために、該共重合体の中空糸膜2への固定化量が落ちるために、溶出物の増加やタンパク質や血小板などの付着抑制効果も十分に得られない。以上のことから、抗酸化剤としては、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンが好適に用いられ、その濃度範囲は、0.01重量%以上、90重量%以下が好適に用いられる。特にエタノール、n−プロパノール、2−プロパノールの場合は、0.01重量%以上、10重量%以下が好適に用いられ、さらに好ましくは0.05重量%以上、1重量%以下である。プロピレングリコール、グリセリンの場合は、0.1重量%以上、90重量%、さらに好ましくは、0.5重量%以上、70重量%以下である。
【0041】
本発明でいうところのセミドライタイプの中空糸膜モジュールとは、第1通液空間もしくは第2通液空間に存在する液体が、それぞれの空間の容積の50体積%以下であり、かつ中空糸膜の抱液率が10重量%以上600重量%以下である。
【0042】
しかし、本発明においてはエアロックの発生が抑制され、溶出物が少なく、かつ、残血が発生しにくいセミドライタイプの中空糸膜モジュールを達成するためには、抱液率が10重量%以上350重量%以下、さらには20重量%以上330重量%以下であることを見出した。抱液率が10重量%未満の場合には、放射線照射によって発生するヒドロキシラジカルの発生量が少なくなってしまう。該ヒドロキシラジカルは、例えば中空糸膜2がポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンから構成される場合、ポリビニルピロリドンや該共重合体高分子からラジカルを発生させ、ポリスルホン系高分子との固定化を促すことが知られている。そのため、抱液率が10重量%未満の場合には、放射線照射による固定化が効率的に行われないことにより、溶出量が増大してしまう。また、抱液率が350重量%を超える場合には、その原因として次に挙げるような2つの場合が考えられるため、好ましくない。すなわち、中空糸膜モジュールに充填した液体を抜き出すブロー工程での流量が弱すぎたり、ブロー時間が短かったりなど、液体の抜き出しが不十分である場合と、エアロックが発生するような不適切なブロー条件である場合とが挙げられる。後述するが、本発明における中空糸膜モジュールは、ブロー工程後に不活性ガスを封入する工程を含むことが望ましい。該不活性ガスを封入する工程において、前者では中空糸膜モジュールに大量に存在する液体が、後者ではエアロックが不活性ガスへの置換度を悪化させてしまう。すなわち、不活性ガスを封入してもモジュール内の酸素濃度が低下せず、溶出物が多くなるため、好ましくない。
【0043】
ここでいう抱液率とは、下記(式1)で算出される値である。
p=(w−w)×c/w (式1)
(p=中空糸膜2の抱液率(重量%)、w=中空糸膜2の湿潤状態での重量(g)、w=中空糸膜2の乾燥状態での重量(g)、c=湿潤液中の水分含有率(%))
ここでいう湿潤状態での重量とは、中空糸膜モジュールから中空糸膜2を取り出した直後に湿潤液を含む状態で測定した重量である。また、乾燥状態での重量とは、中空糸膜2を1mmHg以下、40℃で減圧乾燥を行い、24時間ごとの重量測定を行った時、24時間前の測定結果に対する重量変化が1%以下になった時の重量である。
【0044】
中空糸膜モジュールに充填した前記親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子水溶液を抜き出す方法としては、減圧乾燥や高温乾燥、低温送風乾燥、気体や液体などでブローする乾燥など、種々の方法を用いることができるが、中空糸膜2の正確な水分調整が難しく、また乾燥時にバブリングが生じるおそれがあり、さらにはそれがエアロックの原因となる問題があるため、気体によるブロー方法が特に好適に用いられる。一般的には工程簡略化のため、液体を満たす充填工程とブロー工程に同じラインを用いてそれぞれ液体と気体を流す方法が採用されることが多い。本発明においては、ブロー工程時の気体中に液体がある程度以上混在すると、ブロー工程時に泡が発生することで、エアロックが大量に起こり、泡抜け性が大幅に悪化することを見出した。すなわち、本発明では気体における液体含有率が20℃、1気圧で5体積%以下、さらには4体積%以下であることが好ましい。かかる液体については、一部が気体に溶解されていてもよいし、液体と気体が独立に存在していてもよい。一方で、例えば大気中に含まれている水蒸気程度の液体成分では、ブロー時の気体の乱流に発展しない。また、かかる液体成分を過剰に除去するためには、追加で気体を乾燥させるなどの工程を必要とするため、望ましくない。そのため、液体含有率は0.5体積%以上、さらには1体積%以上であることが好ましい。
【0045】
また、本発明では液体を抜き出すブロー工程において、第2通液空間の液体を抜き出した後、第2通液空間を第1通液空間よりも高い圧力とした状態で、第1通液空間に気体を通して液体を抜き出し、中空糸膜の抱液率を10〜350重量%にすることで得られる。特許文献5では液体を抜き出す順序の根拠について詳細に述べられていなかったが、第1通液空間と第2通液空間内の液体を同時に抜き出した場合や、第1通液空間内の液体を抜き出した後に第2通液空間内の液体を抜き出した場合、第1通液空間内の液体が抜き出された部分に、第2通液空間から液体が流れてくる。したがって、第1通液空間内で気体と液体が混在することにより、エアロックが発生しやすくなってしまうため、好ましくない。さらに、本発明者らが鋭意検討した結果、第1通液空間内の圧力をP1(MPa)、第2通液空間内の圧力をP2(MPa)とした時、P2/P1の値が1.1以上、好ましくは1.3以上であることを見出した。ここで、P2/P1の値が小さすぎる場合、第1通液空間から第2通液空間への圧力がかかるため、液体が第1通液空間の第1注入口3から第1排出口4への流れと、第1通液空間から第2通液空間への液体の流れが混在し、乱流が発生しやすくなると考えられるためである。一方で、P2/P1の値が大きすぎる場合は、中空糸膜2の外表面側から内表面側に大きな圧力がかかるため、中空糸膜2がつぶれてしまう可能性があり、本来の性能に影響を及ぼしてしまう。そのため、P2/P1の値は2以下、好ましくは1.8以下である。かかる工夫により、エアロックが抑制され、抱液率が10〜350重量%となり好ましい。
【0046】
また、前述したようにブロー工程に使用する気体中の液体含有率は20℃、1気圧で0.5体積%以上5体積%以下であることが好ましい。そのため、不活性ガスなどが好適に用いられるが、液体含有率が上記に示す範囲のような気体であればよく、空気が最も安価であるため特に好適に用いられる。ここでいう不活性ガスとは、放射線照射に対して化学反応などを起こさない主にハロゲン系ガスである。具体例としては、アルゴンやヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン、そして窒素などが挙げられる。
【0047】
本発明におけるブロー工程において、第1通液空間に気体を流す間、常に第2通液空間を第1通液空間よりも高い圧力に維持することが最も好ましい。ただし、少なくとも第1通液空間から液体の殆どが抜き出されるための時間、すなわち、最初の10秒間のみ、好ましくは最初の120秒間のみ、かかる状態を維持した場合であっても、本発明による効果が得られることがある。したがって、第1通液空間に気体を流す間の全てにわたり、第2通液空間を第1通液空間よりも高い圧力に維持することが必須ではない。
【0048】
第2通液空間の液体を抜き出す方法としては、特に限定しないが、第2通液空間を気体で加圧することによって中空糸膜厚部分を通過させて第1通液空間から抜き出す方法や、第2通液空間を減圧状態として第2通液空間から抜き出す方法がある。第1通液空間の液体を抜き出す工程で第2通液空間を第1通液空間よりも高い圧力とするので、前者の方法を用いることが好ましい。ただし、この時の第2通液空間内の圧力P3(MPa)が高すぎる場合は、前述と同様に中空糸膜2がつぶれる可能性がある。そこで、特に限定しないが、P3は0.3MPa以下であることが好ましい。
【0049】
また、かかる第1通液空間内の液体を抜き出す際、気体の乱流を抑えるためには、低い流量の気体を流すことが効果的である。具体的には、11L(Normal)/min以下であるが、さらには5L(Normal)/min以下が好ましい。一方で、流量が低すぎると液体を抜き出すために時間がかかるため、生産効率上好ましくない。したがって、第1通液空間の液体を0.1L(Normal)/min以上の流量の気体で抜き出すことが好ましく、さらには、0.5L(Normal)/min以上がより好ましい。
【0050】
なお、上記は第1通液空間内の液体の殆どが抜き出されるまで、すなわち、最初の10秒間のみ、好ましくは最初の120秒間における好ましい流量条件であるが、液体がほぼ抜き出された後は、かかる流量条件は変化する。すなわち、第1通液空間は気相であることから、液体で満たされているときに比べて、気体を流したときに乱流が発生し難い。したがって、液体がほぼ抜き出された後の第1通液空間に流す気体の好ましい流量の上限は40L(Normal)/minである。
【0051】
本発明において、エアロックの発生を抑制するためには、前述したような低い流量で第1通液空間の液体をほぼ抜き出した後、より強い流量で押し出して中空糸膜の抱液率を10〜350%とすることが重要であることがわかった。具体的には、かかる流量範囲における流量によるが、最初の低い流量をF1(L(Normal)/min)、その後の強い流量をF2(L(Normal)/min)とした時、F2/F1の値が5以上、さらには10以上が好ましいことを見出した。
【0052】
第1通液空間に気体を通す時間は少なくとも10秒程度であることが好ましく、120秒程度であれば十分なことが多い。ただし、中空糸膜2の抱液率を10%程度にするためには長時間が必要であり、数日程度を要することもある。また、乾燥の効果も考慮すると、流す気体の温度を上げることにより、抱液率を低下させる時間を短縮することができる。
【0053】
なお、当然のことながら、第1通液空間に通す気体の総流量が、第1通液空間の容積に満たないと、第1通液空間に多量に液体が残ることになる。そこで、第1通液空間に通す気体の総流量は、第1通液空間の容積以上であることが好ましく、さらには、第1通液空間の容積の400%以上であることがより好ましい。
【0054】
前述したように、中空糸膜モジュールが人工腎臓などの血液浄化用中空糸膜モジュールである場合には、滅菌工程が必要である。滅菌方法としては、放射線滅菌や蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌などが挙げられる。近年は残留毒性の少なさや簡便さの点から、放射線滅菌が多用されており、特にγ線や電子線が好適に用いられる。
【0055】
放射線照射により滅菌を行うセミドライタイプの中空糸膜モジュールの場合、液体が密に充填されているウェットタイプとは異なり、中空糸膜モジュール内を気体が占める割合が高い。該気体中に特に酸素が多く存在すると、放射線照射により酸素ラジカルが発生し、中空糸膜の構成成分やケースなど、素材の変性や分解を惹起してしまうだけでなく、膜からの溶出量が増加してしまう。そこで、中空糸膜モジュール内を不活性ガスの雰囲気にした上で放射線照射することが好ましい。したがって、放射線照射する前の中空糸膜モジュール内の酸素濃度は2.0体積%以下、より好ましくは1.3体積%以下、さらに好ましくは1.0体積%以下である。なお、中空糸膜モジュール内とは、ケース1の内側空間のことを指す。酸素濃度の測定方法について、詳細は後述するが、第1注入口3、第1排出口4、第2注入口5及び第2排出口6を密閉した状態で、排出側ヘッダー8内部の空気を酸素濃度計により測定する。
【0056】
不活性ガスの封入方法においては、例えば、モジュール内を不活性ガスでパージした後、打栓などにより密閉することで中空糸膜モジュール内の酸素濃度を低減できるため、その状態で放射線照射すればよい。具体例としては、アルゴンやヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン、そして窒素などが挙げられる。その中でも、窒素が最も安価であるため好適に用いられる。かかる不活性ガスを封入する工程において、工程簡略化のために液体を抜き出すブロー工程と兼ねてもよいが、コスト面などを考慮すると、空気を使用して液体を抜き出すブロー工程を行った後、不活性ガスを封入する方法が好適に用いられる。前述したように第1通液空間内の液体がほぼ抜き出された後に、該不活性ガスを封入すると置換効率が高く効果的であるため、好ましい。したがって、第1通液空間に不活性ガスを封入する流量は5L(Normal)/min以上、さらには、10L(Normal)/min以上が好ましい。一方で、流量が高いほど、モジュール内酸素濃度は低減できるが、抱液率の過度な低下や、コスト面が問題となるため、40L(Normal)/min以下、さらには、30L(Normal)/min以下が好ましい。
【0057】
第2通液空間に封入する流量については、中空糸膜内表面の溶出量に与える影響度は低いため、特に限定しないが、第1通液空間と同様、5L(Normal)/min以上、40L(Normal)/min以下が好適に用いられる。
【0058】
第2通液空間に不活性ガスを封入する際の圧力については、第1通液空間内の液体がほぼ抜き出された後であるため、第1通液空間と第2通液空間の圧力が大きく異なると、中空糸膜2が変形してしまう可能性がある。そのため、第1通液空間と第2通液空間の圧力は同じであることが好ましい。具体的には、0.1MPa〜5MPaが好適に用いられる。
【0059】
また、不活性ガスを第1通液空間と第2通液空間に封入する順序は、液体を抜き出すブロー工程と異なり、ほぼ液体が抜き出された状態で行われるため、特に限定しないが、生産効率を考慮すると同時に行うことが好ましい。
【0060】
不活性ガスを封入する際の中空糸膜モジュールの方向については、第1注入口3を真上として垂直下向きに第1排出口4へと不活性ガスを流すことが好ましい。かかる理由については、真上から垂直下上向きに流した場合が、最も不活性ガスと自重落下する液体の方向が同一になるため、気体の乱流形成が抑えられ、エアロックが発生されにくくなるためである。
【0061】
本発明における第1通液空間の第1注入口3、第1排出口4において、液体を満たす充填工程の方向および、液体を抜き出すブロー工程の方向、ならびに不活性ガスを封入する方向がエアロック発生の抑制に効果を発揮することを見出した。液体を抜き出すブロー工程は、液体が密に充填された状態で行われるため、充填工程の方向とブロー工程の方向は同方向でも逆方向でもエアロックにはほぼ影響しない。しかし、液体を抜き出すブロー工程と不活性ガスを封入する工程は、第1通液空間内に気体と液体が共存する状態で行われるため、それぞれの方向を誤るとエアロックの発生を惹起してしまう。具体的に、ブロー工程のなかで前述したような低流量ブローと高流量ブローが行われる場合は、3つの工程が同方向であることが好ましい。その理由としては、以下のように考えられる。低流量ブローと高流量ブローは、同じ空気を用いて連続的に行えば効率的であるため、同方向であることが好ましい。また、仮に逆方向とした場合は、低流量ブロー後に第1排出口4付近に残存している液体が、高流量ブローによって第1通液空間を通って第1注入口3の方向に逆戻りしてしまう。したがって、気体の乱流が形成されてエアロックを惹起してしまう。一方で、ブロー方向と不活性ガスを封入する方向についても同様に、逆方向ではエアロックが発生しやすくなる。すなわち、3つの工程は同方向であることが好ましい。
【0062】
ただし、ブロー工程および不活性ガスを封入する工程の上記に示した流量は、それぞれの工程が同方向であることが前提である。具体的な値にもよるが、例えば各工程の流量がそれぞれ適切な範囲であっても、方向が逆方向である場合は、必ずしも最適ではなく、残存液体が逆戻りしてしまう可能性もある。
【0063】
本発明における中空糸膜モジュールはエアロックの発生が少ないことを特徴としている。鋭意検討した結果、第2通液空間を閉栓した状態で、第1通液空間の第1流入口から第1排出口に100mL/minで純水を流した時、中空糸膜2の内側空間11、つまり中空糸膜内表面を純水が理想的に通過する時間(Ti)、中空糸膜内表面を純水が実際に通過した時間(T)とした時、T/Ti=0.75〜1.2、より好ましくは0.8〜1.1、さらに好ましくは0.85〜1.0であることを見出した。ここで、中空糸膜内表面を純水が理想的に通過する時間(Ti)は下記(式2)で算出される。
Ti=Vi/100 (式2)
(Vi=中空糸膜2の内側空間11、つまり中空糸膜内表面の流路体積(mL))
また、泡抜け性試験を行うことにより算出された中空糸膜内表面を実際に通過した時間(T)は、
T=Ttotal−(Th+Td+To−Tw) (式3) で表される。
(Ttotal=泡抜け性試験に要した時間(min)、Th=注入側ヘッダー7および排出側ヘッダー8を純水が通過するのに要する時間(min)、Td=中空糸膜2 1本あたりの膜厚部分を純水が通過するのに要する時間(min)、To=第2通液空間を純水が通過するのに要する時間(min)、Tw=中空糸膜モジュール内の水分が占める体積を純水が通過するのに要する時間(min))
ただし、中空糸膜モジュールがある程度以上の水分を抱液していれば、純水は中空糸膜厚部分でシーリングされ、第2通液空間には流れ出ない。そのため、中空糸膜内表面を実際に通過した時間(T)は、
T=Ttotal−(Th+Td−Tw) (式3’)とし得る。
すなわち、中空糸膜内表面を実際に通過した時間(T)は下記(式4)あるいは(式4’)に変換することができる。
T=Ttotal―{(Vh+Vd+Vo−Vw)}/100 (式4)
T=Ttotal―{(Vh+Vd−Vw)}/100 (式4’)
(Vh=注入側ヘッダー7および排出側ヘッダー8の体積(cm)、Vd=中空糸膜2 1本あたりの膜厚部分の体積(cm)、Vo=第2通液空間の体積(cm)、Vw=水分の占める体積(cm))
具体的に、Viは下記(式5)、Vdは下記(式6)、Voは下記(式7)、Vwは(式8)となる。
Vi=(Di/2)×π×L×N (式5)
Vd={(Do/2)−(Di/2)}×π×L×N×G (式6)
Vo=Vc−(Di/2)×π×L×N−Vx (式7)
Vw=w−w (式8)
(Di=中空糸膜内径(cm)、Do=中空糸膜外径(cm)、L=中空糸膜有効長(cm)、N=中空糸膜モジュール中の中空糸膜本数(本)、Vc=ケース1の体積(cm)、Vx=例えば中空糸膜を覆うカバリング糸などが占める体積(cm)、w=中空糸膜2の湿潤状態での重量(g)、w=中空糸膜2の乾燥状態での重量(g)、G=中空糸膜厚部分の空隙率)
なお、(式6)に中空糸膜がポリスルホン系高分子と、ポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレングリコールからなる場合、中空糸膜厚部分の空隙率(G)はおおよそ0.85としてよい。
【0064】
本発明においては、T/Tiの値が0.75未満の場合は、純水が第1通液空間内をショートパスして第1排出口4から流出していることを指すため、エアロックが発生していることを表している。一方、T/Tiの値が1.2を超える場合、純水が理論的に通過する時間を超えて流出しているため、例えば中空糸膜2が破断しているなどにより、性能が悪化してしまう可能性がある。ここで、第2通液空間を閉栓せずに純水を流した場合は、第1通液空間から第2通液空間に向けて純水が移動し、第2注入口5、あるいは第2排出口6から純水がこぼれ出てしまうため、正確に泡抜け性試験を実施できない。したがって、適切な試験条件ではない。
【0065】
また、中空糸膜2をモジュールに内蔵する手順としては、中空糸膜2を親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体溶液に接触させた後にモジュールに組み込んでも良いし、中空糸膜2を内蔵したモジュール内を該共重合体溶液で充填することで、接触させてもよい。また、上述したように、接触させた後に放射線照射や熱処理を行って固定化してもよい。
【0066】
エアロックは中空糸膜2の内径が微少であるほど発生しやすいため、本発明の製造方法により効果は大きく発揮される。また、中空糸膜2の内径が小さすぎると流体を流した時の膜内圧力が高くなるため、中空糸膜が損傷することがある。そのため、内臓する中空糸膜2の内径が50〜5000μm、好ましくは50〜1000μm、さらに好ましくは50〜350μmの中空糸膜モジュールについて、本発明の製造方法は好適に用いられる。なお、中空糸膜2の内径の値については、封止部9のケース部端面をマイクロスコープなどで観察することで得られる。
【0067】
また、本発明は溶出物が少なく、かつ、残血が発生しにくい中空糸膜モジュールの製造方法に関するものである。人工腎臓などの血液浄化用中空糸膜モジュールの場合は、血液透析の終了後、生理食塩水を用いて血液を体内に戻す作業(=返血)を行うが、その際に血液が中空糸に多数残存する、残血と呼ばれる現象を防止することが重要である。本発明では、中空糸膜モジュールの透水性が170mL/hr/m/mmHg以上300mL/hr/m/mmHg以下、より好ましくは190mL/hr/m/mmHg以上290mL/hr/m/mmHg以下であり、さらに37℃に加温した牛血(Ht=30、TP=6.0)を用いて、中空糸膜内表面側である第1通液空間を流速200mL/minで1時間灌流させた後の透水性保持率が60%以上80%以下、より好ましくは62%以上78%以下である場合に、性能を保持したまま上記残血現象が生じる懸念をより低下できることを見出した。ここでいう透水性保持率(UFRSratio)は下記(式9)で算出される値である。
UFRSratio=(UFRS/UFRS)×100 (式9)
(UFRSratio=透水性保持率(%)、UFRS=中空糸膜モジュールを牛血で1時間灌流させた後の透水性(mL/hr/m/mmHg)、UFRS=中空糸膜モジュールの透水性(mL/hr/m/mmHg))
UFRSratioの値が80%を超えるような中空糸膜モジュールは透水性が変化しにくい。すなわち、生理食塩水を用いて返血を行う際に中空糸膜内表面側である第1通液空間から中空糸膜外表面側である第2通液空間に向けて、膜厚み部分を通って赤血球以外の液体成分が流れやすくなる。したがって、第1通液空間内の血液が濃縮されて粘度が上昇し、赤血球が残存することで、残血が発生しやすくなると考えられる。また、UFRSratioの値が60%未満の場合は、血液成分に含まれる赤血球やタンパク質などによる目詰まりが起こりやすく透水性の値が減少しやすい中空糸膜モジュールである。特に、中空糸膜モジュールが人工腎臓などの血液浄化用中空糸膜モジュールの場合は、一般的に4時間程度血液を灌流させるため、UFRSより更に透水性が減少することも考えられる。かかる場合は、残血は発生しにくくなるものの、中空糸膜内表面側である第1通液空間から中空糸膜外表面側である第2通液空間への物質移動が制限されるため、性能悪化を引き起こし、好ましくない。
【0068】
本発明は、中空糸膜モジュールのうち、血液浄化用中空糸膜モジュールに好適に用いられる。本発明でいうところの血液処理用モジュールとは、血液や血漿などの血液由来成分を分離精製するのに用いられるモジュールや、血液体外循環に用いられるモジュールのことをいう。また、本発明は、血液浄化用中空糸膜モジュールのなかでも、人工腎臓に好適に用いられる。
【0069】
中空糸膜2の素材としては、特に限定しないが、医療用途に用いられる場合はセルロース系高分子、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルニトリル、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系高分子などが好適に用いられる。この中でも特にポリスルホン系高分子を用いることで、分離性能の優れた中空糸膜2が得られるため、好ましい。本発明でいうポリスルホン系高分子は、主鎖に芳香環、スルフォニル基およびエーテル基をもつもので、例えば、次式(1)、(2)の化学式で示されるポリスルホンが好適に使用されるが、本発明ではこれらに限定されない。式中のnは、例えば50〜80の如き整数である。
【0070】
【化1】

【0071】
ポリスルホン系高分子の具体例としては、“ユーデルポリスルホン”(登録商標)P−1700、P−3500(ソルベイ社製)、“ウルトラソン”(登録商標)S3010、S6010(BASF社製)、“ビクトレックス”(登録商標)(住友化学)、“レーデルA”(登録商標)(ソルベイ社製)、“ウルトラソン”(登録商標)E(BASF社製)等のポリスルホンが挙げられる。又、本発明で用いられるポリスルホンは上記式(1)及び/又は(2)で表される繰り返し単位のみからなるポリマーが好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合していてもよい。特に限定するものではないが、他の共重合モノマーは10重量%以下であることが好ましい。
【0072】
血液浄化用モジュールとして、人工腎臓の製造方法についての一例を示す。まず、中空糸膜の製造方法としては、ポリスルホンとポリビニルピロリドン(重量比率20:1〜1:5が好ましく、5:1〜1:1がより好ましい)をポリスルホンの良溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサンなどが好ましい)および貧溶媒の混合溶液に溶解させた原液(濃度は、10〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましい)を二重環状口金から吐出する際に内側に注入液を流し、乾式部を走行させた後凝固浴へ導く。この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給によって、外表面近傍での相分離挙動を速め、孔径拡大し、結果として透析の際の透過・拡散抵抗を減らすことも可能である。ただし、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、かえって孔径が小さくなり、結果として透析の際の透過・拡散抵抗を増大する傾向がある。そのため、相対湿度としては60〜90%が好適である。また、注入液組成としてはプロセス適性から原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。注入液濃度としては、例えばジメチルアセトアミドを用いたときは、45〜80重量%、さらには60〜75重量%の水溶液が好適に用いられる。
【0073】
中空糸膜2をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜2を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜2の両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜2の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0074】
本発明でいうところの放射線はα線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などが用いられる。また、中空糸膜モジュールが人工腎臓などの血液浄化用モジュールである場合は滅菌することが必要であり、近年は残留毒性の少なさや簡便さの点から、γ線や電子線を用いた放射線滅菌法が多用されている。すなわち、中空糸膜に親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子を接触させた場合、滅菌と同時に共重合体の不溶化も同時に達成できる。基材の滅菌と改質を同時に行う場合は、5〜50kGy、好ましくは10〜35kGy、照射温度は10〜60℃、好ましくは20〜50℃が好適である。γ線の場合、線源量としては250万〜1000万Ci以上、好ましくは300万〜750万Ciが好適な範囲である。
【0075】
また、製膜後、不溶化反応までの時間が長いと、高分子の分子運動により、中空糸膜モジュールの組成物の絡みあい状態が変わってくることがある。したがって、製膜後4週間以内、さらには2週間以内に不溶化処理を行うことが好ましい。
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0077】
以下実施例と比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、比較例8をコントロールと称する。
1.中空糸膜モジュールの作製
ポリスルホン(アモコ社 Udel−P3500)16部、ポリビニルピロリドン(インターナショナルスペシャルプロダクツ社;以下ISP社と略す)K30 3部、ポリビニルピロリドン(ISP社K90)3部をジメチルアセトアミド77部、水1部を加熱溶解し、製膜原液とした。
【0078】
この原液を温度50℃の紡糸口金部へ送り、環状スリット部分の外径0.35mm、内径0.25mmの2重スリット管から芯液としてジメチルアセトアミド63部、水37部からなる溶液を吐出させ、中空糸膜2を形成させた後、温度30℃、露点28℃の、350mmのドライゾーン雰囲気を経て、ジメチルアセトアミド20重量%、水80重量%からなる温度40℃の凝固浴を通過させ、60〜75℃90秒の水洗工程、130℃の乾燥工程を2分通過させ、160℃のクリンプ工程を経て得られた中空糸膜を巻き取り束とした。この中空糸膜を有効膜面積(モジュール内における、ポッティングされた部分を除いた部分の総膜内表面積)が1.6mになるように、ケースに充填し、ポッティングし、端部を両面開口させて、人工腎臓モジュールとした。
2.測定方法
(1)中空糸膜内表面および膜全体の高分子存在量(重量%)の測定
中空糸膜内表面の高分子存在量(重量%)測定には、X線電子分光法を用いた。装置、条件は以下の通り。
【0079】
装置:ESCA LAB220iXL
励起X線:monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6eV)
X線径:0.15mm
光電子脱出角度:90 °(試料表面に対する検出器の傾き)
測定深さ:約10nm
中空糸膜2を超純水で充分に洗浄した後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた。その後、片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜内表面を測定に供した。
【0080】
例えば、ポリスルホンとポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体が混在する中空糸膜2における、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体の存在量(重量%)は以下のようにして算出できる。X線電子分光法により、中空糸膜内表面の元素組成(atomic%)および、C1sピークの分割結果(%)が得られる。これらの値から、エステル基(COO)由来のピーク組成(atomic%)が求められ、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニルユニットの存在量(重量%)が得られる。その結果および、既知のビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体のユニット間の存在量(重量%)より、中空糸膜内表面における、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体の存在量(重量%)が求まる。
【0081】
同様にして、ポリビニルピロリドンの存在量(重量%)については、ビニルピロリドン基(C=O)由来のC1sピークの分割結果(%)から算出できる。
【0082】
中空糸膜全体の高分子量の存在量(重量%)については、分解〜減圧化学発光法を用いた元素分析を行うことにより算出した。装置、条件は以下の通り。
【0083】
装置:微量窒素分析装置ND−100型(三菱化学株式会社製)
電気炉温度:熱分解部分(800℃)、触媒部分(900℃)
メイン酸素流量:200mL/min
酸素流量:200mL/min
アルゴン流量:400mL/min
中空糸膜2を上記分析装置内に導入して、熱分解および酸化させ、生成した一酸化窒素を化学発光法により測定した。次いで予めピリジン標準液で作成した検量線により定量した。
(2)溶出量の測定
25kGyでγ線照射した中空糸膜モジュールをプライミング洗浄した後、超純水で灌流した。プライミング方法としては、以下の通りである。まず、第1注入口3を下にした状態で、純水を満たした血液回路(H−102―KTS 東レ株式会社)に接続した。また、別の血液回路を第1排出口4に接続した。純水を流量100mL/minで、第1注入口3から第1排出口4に7分間流した後、血液回路の第1注入口3側と第1排出口4側にそれぞれ鉗子をつけた。その後、第1排出口4側にある第2注入口5を下にした状態で、それぞれカプラーを用いて血液回路に接続した。純水を流量 500mL/minで、第2注入口5から第2排出口6に5分間流した後、血液回路の第2注入口5側と第2排出口6側にそれぞれ鉗子をつけた。その後、再度、第1注入口3を下にし、血液回路の第1注入口3側と第1排出口4側の鉗子を外した状態で、純水を流量100mL/minで第1注入口3から第1排出口4に3分間流した。この後、37℃に加温した状態の4Lの純水を用いて、第1注入口3を上にした状態で、第1注入口3から第1排出口4に流量200mL/minで、4時間灌流した。
【0084】
4時間灌流液について、凍結乾燥により100倍に濃縮し、該溶液を東ソー株式会社製HPLC(AK−216−001)にて測定した。高分子量体の溶出量は、ポリビニルピロリドン(ISP社 K90)を検量線に用いて算出した。好ましい溶出量は、4時間灌流後の上記純水に溶出したポリマー量が1.0mg/MD以下、より好ましくは0.5mg/MD以下である。
(3)酸素濃度の測定
酸素濃度は、酸素濃度計(飯島電子工業株式会社RO−102)を用いて第1注入口3、第1排出口4、第2注入口5及び第2排出口6をゴム栓で密閉して測定した。該酸素濃度計は、シリンジと測定センサーが一体化した型であり、針先から酸素濃度計内部に送り込まれた気体の酸素濃度を測定できる。酸素濃度計の校正は、酸素濃度21%の気体をセンサー部に3回送り込んで行った。校正は、測定ごとに行った。第1排出口4に取り付けた栓に酸素濃度計の針を差し込み、排出側ヘッダー8中の気体をセンサー部に3回送り込んだ。酸素濃度計の値が1分間内に0.1%変化しない安定した状態にて値を読み取り、モジュールの酸素濃度とした。酸素濃度の値については、2.0体積%以下、好ましくは1.3体積%以下、より好ましくは1.0体積%以下である。
(4)泡抜け性試験
中空糸膜モジュールは、一度通液したものは第1通液空間内におけるエアロックなどの状態が変化するため、泡抜け性試験専用のものを用意した。なお、中空糸膜モジュールは放射線照射しない状態のものを使用した。血液回路(H−102―KTS 東レ株式会社)に純水を満たし、これを第1注入口3に接続した。また、別の血液回路を第1排出口4に接続した。第1注入口3を下に、第1排出口4を上にして、中空糸膜モジュールをクランプで固定した。第1注入口3に接続した血液回路のチャンバーの液面と、中空糸膜モジュールの中央の高さを合わせた。第2注入口5および第2排出口6を栓で閉じた。血液ポンプ(LF−300 MEDTECH)を用いて、100ml/minの流量で20℃の純水を第1注入口3から第1排出口4に流し、中空糸膜モジュールに通液した。通液中は、中空糸膜モジュールは静置状態として、振動やポンプ以外の水圧変化を与えないようにした。また、試験の途中、通液を停止することはなかった。純水が第1排出口4に出てきた時間を測定し、Ttotalとした。
(5)残血評価
残血評価に用いた牛血は、凝固しないように6.5体積%のACD−A液(テルモ社 コード番号TP−A05ACD)を添加した牛血をヘマトクリット(Ht)値=30(%)、全タンパク質量(TP)=6.0(g/dL)となるように、赤血球および生理食塩水を用いて調整したものを使用した。また、調整牛血および使用する生理食塩水は37℃に加温した状態のものを使用した。
【0085】
25kGyでγ線照射した中空糸膜モジュールをプライミング洗浄した。なお、本試験における中空糸膜モジュール内の中空糸膜本数は約9500本(最大は10505本、最小は8595本)である。プライミング方法としては、以下の通りである。まず、第1注入口3を下にした状態で、生理食塩水を満たした血液回路(H−102―KTS 東レ株式会社)に接続した。また、別の血液回路を第1排出口4に接続した。第2注入口5と第2排出口6を閉栓した状態で、血液ポンプ(LF−300 MEDTECH)を用いて生理食塩水を流量100mL/minで、第1注入口3から第1排出口4に7分間流した後、血液回路の第1注入口3側と第1排出口4側にそれぞれ鉗子をつけた。その後、第1排出口4側にある第2注入口5を下にした状態で、第2注入口5と第2排出口6にそれぞれカプラーを用いて血液回路に接続した。血液ポンプを用いて生理食塩水を流量500mL/minで、第2注入口5から第2排出口6に5分間流した後、血液回路の第2注入口5側と第2排出口6側にそれぞれ鉗子をつけた。その後、再度、第1注入口3を下にし、血液回路の第1注入口3側と第1排出口4側の鉗子を外した状態で、血液ポンプを用いて調整牛血1Lを流量100mL/minで第1注入口3から第1排出口4に3分間流した(導血)。次に、第1注入口3を上にした状態で、第1注入口3から第1排出口4に血液ポンプを用いて流量100mL/minで、1時間灌流するのと同時に、血液回路の第2注入口5側と第2排出口6の鉗子を外して、血液ポンプを用いて生理食塩水を流量500mL/minで灌流した(血液透析)。1時間後、血液回路の第2注入口5側と第2排出口6側にそれぞれ鉗子をつけた。次に、第1注入口3を上にした状態のままで、第1注入口3から第1排出口4に血液ポンプを用いて生理食塩水を流量100mL/minで、4分間流した(返血)。4分後の中空糸膜モジュールの最外周側に残った残血本数を目視によりカウントした。判別基準としては、血液が残っており、赤く染まっていれば残血糸とした。残血本数の値については、5本以下が好ましく、より好ましくは3本以下である。
(6)牛血灌流
牛血灌流に用いた牛血は、凝固しないように6.5体積%のACD−A液(テルモ社 コード番号TP−A05ACD)を添加した牛血をヘマトクリット(Ht)値=30(%)、全タンパク質量(TP)=6.0(g/dL)となるように、赤血球および生理食塩水を用いて調整したものを使用した。また、調整牛血および使用する生理食塩水は37℃のものを使用した。
【0086】
25kGyでγ線照射した中空糸膜モジュールをプライミング洗浄した。プライミング方法および導血の方法については2.測定方法の(5)残血評価と同様にした。次に、第1注入口3を上にした状態で、第1注入口3から第1排出口4に血液ポンプ(LF−300 MEDTECH)を用いて流量200mL/minで、1時間灌流させた。同時に、血液回路の第2注入口5側と第2排出口6の鉗子を外して、透析液を透析装置(個人用透析装置TR−30 東レ株式会社)により流量500mL/minで灌流させずワンパスで流した。また、濾過流量は中空糸膜モジュール1.0mあたり10mL/minの流量とし、同じ流量で牛血に生理食塩水を添加した(血液透析)。1時間後、血液回路の第2注入口5側と第2排出口6側にそれぞれ鉗子をつけた。次に、第1注入口3を上にした状態のままで、第1注入口3から第1排出口4に血液ポンプを用いて生理食塩水を流量100mL/minで、5分間流した(返血)。
(7)透水性(UFRS)の測定
第1通液空間および第2通液空間を生理食塩水で満たした後、第1注入口3から第1排出口4に血液ポンプ(LF−300 MEDTECH)を用いて生理食塩水を流し、第1排出口4側の流量が200mL/minとなるように調節する。第2注入口5を開栓し、第1通液空間側の圧力調整バルブにより第1排出口4側の流量(QB)と第2注入口5側の流量(QD)を1:9となるよう調整した後、それぞれの流量と第1注入口3の圧力および第1排出口4の圧力を測定した。下記(式10)および(式11)により、透水性(UFRS)を算出した。
ave=(PB+PB)/2 (式10)
(Pave=第1通液空間の平均膜圧(mmHg)、PB=第1注入口3の圧力、PB=第1排出口4の圧力)
UFRS=QD/Pave/A (式11)
(UFRS=中空糸膜モジュールの透水性(mL/hr/m/mmHg)、QD=第2注入口5側の流量(mL/hr)、A=中空糸膜モジュールの膜面積(m))
(実施例1)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(7/3)共重合体(BASF社製、“LUVISKOL”(登録商標)VA73W)の100ppm水溶液を25℃にて中空糸膜モジュールの第1注入口3から第1排出口4に500mL通液し、次に第1注入口3から第2注入口5に500mL通液することで、中空糸膜2の内表面に“LUVISKOL”(登録商標)VA73Wを集積させた。その後、100kPaの圧縮空気で第2注入口5から第1注入口3へ充填液を押しだし、次に液体成分が入らないように第1排出口4から第1注入口3の方向に充填液を1.4L(Normal)/minの流量の空気で30秒間ブローした後、20L(Normal)/minの流量の空気で5秒間ブローを行い、抱液率を測定した。その後、窒素ガスを第1通液空間、第2通液空間それぞれに18L(Normal)/minの流量で15秒間ずつ封入した。空気ブローの方向と窒素ガスの封入方向は同方向とした。該モジュール内の酸素濃度を測定した後、泡抜け性試験を行った。
また、同様の条件で作成した別の該モジュールを25kGyでγ線照射した。γ線照射後、溶出量測定と残血試験をそれぞれ別のγ線照射した該モジュールで行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度は低く、泡抜け性も良く、コントロール並に維持されていることがわかった。また、残血量も少なかった。
(実施例2)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度は低く、泡抜け性も良く、コントロール並に維持されていることがわかった。また、溶出量および残血量も少なかった。また、透水性(灌流前後)およびβ−ミクログロブリン クリアランスについて測定を行った。
(実施例3)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を用いて、20L(Normal)/minの流量の空気で5秒間ブローを行なわなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度は低く、泡抜け性も良く、コントロール並に維持されていることがわかった。また、残血量も少なかった。
(実施例4)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(5/5)共重合体(BASF社製、“LUVISKOL”(登録商標)VA55I)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度は低く、泡抜け性も良く、コントロール並に維持されていることがわかった。また、残血量も少なかった。
(実施例5)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を用いてブロー後、抱液率が150重量%になるように減圧乾燥を行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度は低く、泡抜け性も良く、コントロール並に維持されていることがわかった。また、溶出量および残血量も少なかった。
(比較例1)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を用いてブロー後、抱液率が5重量%になるように減圧乾燥を行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度は低く、コントロール並に維持されていることがわかった。また、残血量も少なかったが、泡抜け性が悪く、溶出量は多くなった。抱液率が高かったため、ヒドロキシラジカルの発生量が少なくなり、BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64が中空糸膜表面に固定化される量が減ったためと考えられる。
(比較例2)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を用い、第1通液空間の空気ブロー流量を0.1L(Normal)/min、窒素ブロー流量を5L(Normal)/minにして、抱液率が482重量%になるように行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、泡抜け性は良く、コントロール並に維持されていることがわかったが、モジュール内の酸素濃度が高く、残血量も多くなった。抱液率が高いため、モジュール内酸素濃度が低くならず、BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64が分解して、中空糸膜表面に固定化される量が減ったためと考えられる。
(比較例3)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を用い、第1通液空間の空気ブロー流量を20L(Normal)/minにした以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度が高く、残血量も多く、泡抜け性も悪かった。第1通液空間の空気ブロー流量が高かったため、エアロックが大量に発生したと考えられる。
(比較例4)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を用い、第1通液空間の空気ブロー時に液体が入るように行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度が高く、残血量も多く、泡抜け性も悪かった。第1通液空間の空気ブロー時に液体が入ったため、エアロックが大量に発生したと考えられる。
(比較例5)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を用い、第1通液空間の空気ブロー方向と窒素ガスの封入方向を逆方向とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度は低く、コントロール並に維持されていることがわかったが、残血量も多く、泡抜け性も悪かった。第1通液空間の空気ブロー方向と窒素ガスの封入方向を逆方向としたため、エアロックが大量に発生したと考えられる。
(比較例6)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を用い、第1通液空間の空気ブロー流量を20L(Normal)/min、窒素ブロー流量を30L(Normal)/minにして、さらにブロー方向と窒素ガスの封入方向を逆方向とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度が高く、残血量も多く、泡抜け性も悪かった。第1通液空間の空気ブロー流量と窒素ガスの封入流量が高いうえに、空気ブロー方向と窒素ガスの封入方向を逆方向としたため、エアロックが大量に発生したと考えられる。
(比較例7)
ポリビニルピロリドンK90を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度は低く、泡抜け性も良く、コントロール並に維持されていることがわかったが、残血量が多かった。中空糸膜表面の親水性と疎水性のバランスが悪かったために、エアロックの発生はある程度抑制されたが、発生したエアロックの解消されやすさが悪かったためと考えられる。
(比較例8)
水を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、モジュール内の酸素濃度は低く、泡抜け性も良かったが、残血量が多かった。中空糸膜表面の親水性と疎水性のバランスが悪かったために、エアロックの発生はある程度抑制されたが、発生したエアロックの解消されやすさが悪かったためと考えられる。
(実施例6)
“KOLLIDON”(登録商標)VA64を用い、中空糸膜モジュールへ通液した水溶液の濃度は5ppmにした以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果は表2の通りであった。すなわち、溶出量が比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。ただし、β−ミクログロブリン クリアランスは実施例2と同程度であったが、残血量は多くなった。
(実施例7)
“KOLLIDON”(登録商標)VA64を用い、中空糸膜モジュールへ通液した水溶液の濃度は1000ppmにした以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果は表2の通りであった。すなわち、溶出量が比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。ただし、残血量は実施例2と同程度であったが、β−ミクログロブリン クリアランスが少なくなった。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【符号の説明】
【0089】
1 ケース
2 中空糸膜
3 第1注入口
4 第1排出口
5 第2注入口
6 第2排出口
7 注入側ヘッダー
8 排出側ヘッダー
9 封止部
10 中空糸膜の膜圧部分
11 中空糸膜の内側部分
12 中空糸膜の外側部分
13 端面長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜が内蔵された放射線照射されてなる中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜内表面側である第1通液空間に連通する第1注入口および第1排出口があり、中空糸膜外表面側である第2通液空間に連通する第2注入口および第2排出口が設けられており、以下の要件を満たすことを特徴とする中空糸膜モジュール。
1)中空糸膜の少なくとも内表面側に親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子が存在する。
2)抱液率が10〜350重量%である。
3)第2通液空間を閉栓した状態で、第1通液空間の第1流入口から第1排出口に100mL/minで純水を流した時、T/Ti=0.75以上1.2以下である。
(T=中空糸膜内表面を純水が実際に通過した時間(min)、Ti=中空糸膜内表面を純水が理想的に通過する時間(min))
【請求項2】
前記中空糸膜において、透水性が170mL/hr/m/mmHg以上300mL/hr/m/mmHg以下であり、牛血(Ht=30、TP=6.0)を前記第1通液空間に流速200mL/minで1時間灌流させた後の透水性保持率が60%以上80%以下であることを特徴とする前記1に記載の中空糸膜モジュール。
(Ht=ヘマトクリット、TP=全タンパク質量)
【請求項3】
前記親水性ユニットがビニルピロリドンおよび/またはエチレングリコールであり、前記疎水性ユニットが酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムであることを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子が内表面側のみに存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記中空糸膜がポリスルホン系高分子と、ポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレングリコールからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
中空糸膜をモジュールケースに内蔵して、中空糸膜内面である第1通液空間に液体を満たす充填工程、気体を用いて前記液体を抜き出すブロー工程を経た後、不活性ガスを封入してから放射線照射を行う工程を有する中空糸膜モジュールの製造方法において、以下の要件を満たすことを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
1)中空糸膜の少なくとも内表面側に親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子が存在する。
2)抱液率が10〜350重量%である。
3)前記気体を用いて液体を抜き出す方向と前記不活性ガスを封入する方向が同一である。
【請求項7】
前記親水性ユニットがビニルピロリドンおよび/またはエチレングリコールであり、前記疎水性ユニットが酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムであることを特徴とする請求項6に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記液体が親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子の溶液であることを特徴とする請求項6または7に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項9】
前記充填工程において、第1通液空間から第2通液空間へ向けて圧力差を設けることを特徴とする請求項8に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項10】
前記ブロー工程において用いる気体の液体含有率が20℃、1気圧で0.5体積%以上5体積%以下であることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−92931(P2011−92931A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218501(P2010−218501)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】