説明

中空糸膜モジュールの製造方法

【課題】本発明の目的は、中空糸膜端部を容易に封止する方法を提供することにより、片端自由端型中空糸膜モジュールの新規な製造方法を提供することにある。
【解決手段】封止された自由端部を有する中空糸膜を有する中空糸膜モジュールの製造方法において、(1)複数の前記中空糸膜外表面の封止する側の端部近傍に離型剤層を形成する工程と、(2)前記離型剤層を形成した端部を封止剤に浸して、前記離型剤層を形成した端部に設けられた開口部から中空糸膜内部に前記封止剤を充填して硬化させる工程と、(3)前記封止剤の一部が前記中空糸膜の内部に残るように前記中空糸膜を切断する工程と、を有することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの製造方法に関するものであり、詳しくは、封止された自由端部を有する中空糸膜を有する中空糸膜モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、中空糸膜モジュールは、スパイラル型やチューブラー型モジュールに比べて、単位容積当たりの有効膜面積が大きくとれるため、精密濾過若しくは限外濾過などの水処理関係、窒素、酸素若しくは水素等のガス分離関係、薬品関係、又はバイオ関係など、非常に多くの分野で使用されている。この中空糸膜をモジュール化するには、端部で中空糸膜と中空糸膜の間、および中空糸膜とモジュール容器の間を気密にシール(ポッティング)する必要がある。これによって、中空糸膜の外側と内側を隔離し、中空糸膜を通して分離処理を行うことができる。
【0003】
中空糸膜による水処理技術は、近年、中空糸膜モジュールを下水処理、排水処理など様々な汚濁物質が含まれた処理対象水に展開されはじめており、様々な処理対象水への適用が試みられている。とくに、浸漬吸引型の場合は、処理対象水が汚れていても適用できることから、今後の展開が非常に期待される中空糸膜モジュールである。しかし、現在、処理対象水によっては中空糸膜に糸状のくず(滓渣)などがからみつき、中空糸膜モジュールの性能が大きく低下するという問題が生じている。
【0004】
そこで、このような状況に陥る可能性のある処理対象水に中空糸膜を適用するために様々な試みが行われている。例えば、特許文献1又は2では、中空糸膜の片方の端部をポッティングした後に開口することによって透過水を得るとともに、反対端部を中空糸膜1本単位で封止して1本1本が自由に揺動できる中空糸膜モジュールが提案されている。この中空糸膜モジュールでは、ポッティング部分から自由端部の方へ処理対象水の流れを生じさせることによって、くずのからみつきを防止する片端自由端型中空糸膜モジュールである。
【0005】
このような片端自由端型中空糸膜モジュールにおいて中空糸膜端部の封止を行う方法としては、(1)封止剤を端部に充填する方法、(2)熱により端部を融着させる方法(熱融着法)の2種類の方法が提案されている。
【0006】
封止剤を端部に充填する方法としては、例えば、特許文献3及び4に記載されている。特許文献3では、中空糸膜の開口部に注入器で封止剤を注入し、中空糸膜端部を封止する技術が開示されている。また、特許文献4では、まず、固定端部と同様にポッティングを行って開口した固定部分を形成し、その後、中空糸膜の内部に封止剤をディッピング法等で導入する技術が開示されている。この方法では、封止する中空糸膜端部をポッティング樹脂で固定しておくことにより、中空糸膜の間に封止剤が浸み込むことがない。
【0007】
熱融着法としては、例えば、特許文献5及び6に記載されている。特許文献5では、中空糸膜を複数本集束させて目板に嵌合した集合体を形成し、この集合体を熱融着することにより液密シールを行っている。また、特許文献6では、封止する中空糸膜端部に中空糸膜素材よりも低い融点を有する液体を付着させた状態で熱融着を行っている。
【0008】
【特許文献1】特公平07−83823号公報
【特許文献2】特開平03−242230号公報
【特許文献3】特開平05−161829号公報
【特許文献4】特開平11−239718号公報
【特許文献5】特開平06−106034号公報
【特許文献6】特開平11−319504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献3に記載の方法では、中空糸膜1本1本に注射器を用いて封止剤を注入するのは膨大な時間を必要とし、現実的ではない。
【0010】
また、特許文献4に記載の方法では、中空糸膜端部を封止する際に、2段階の封止をする必要があることと、その切断面の高さを制御することが難しかった。
中空糸膜の表面及び膜間にも接着剤が浸透してしまうために大型モジュールへの適応はきわめて難しかった。
【0011】
また、特許文献5の方法では、膜の端部の封止方法として熱融着する方法を用いているが、端部を封止する際に熱の影響でピンホールを生じやすいという問題があった。
【0012】
また、特許文献6の方法では、均等に中空糸膜端部を封止するには、中空糸膜1本1本を整列させた状態で熱処理する必要があるため、片端自由端型モジュールの生産性を大きく低下させてしまう。
【0013】
したがって、本発明の目的は、中空糸膜端部を容易に封止する方法を提供することにより、片端自由端型中空糸膜モジュールの新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法は以下のとおりである。
【0015】
[1] 封止された自由端部を有する中空糸膜を有する中空糸膜モジュールの製造方法において、
(1)複数の前記中空糸膜外表面の封止する側の端部近傍に離型剤層を形成する工程と、
(2)前記離型剤層を形成した端部を封止剤に浸して、前記中空糸膜の離型剤層を形成した端部に設けられた開口部から中空糸膜内部に前記封止剤を充填して硬化させる工程と、
(3)前記封止剤の一部が前記中空糸膜の内部に残るように前記中空糸膜を切断する工程と、
を有することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【0016】
[2] 前記工程(3)の後に、前記複数の中空糸膜の間に残存した封止剤を除去する工程(4)を有することを特徴とする[1]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[3] 前記工程(1)において、前記離型剤層を形成した後、前記離型剤層を形成した側の先端を切断し、開口させることを特徴とする[1]又は[2]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【0017】
[4] 前記工程(1)の前に、封止する側の反対側の中空糸膜端部を固定化する工程を有することを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【0018】
[5] 前記反対側の中空糸膜端部を固定化する工程の後、封止する側の中空糸膜端部の長さを揃える工程を有することを特徴とする[4]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【0019】
[6] 前記工程(2)において、前記封止剤の充填は、封止する自由端側の反対側の開口部から吸引することにより行うことを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【0020】
[7] 前記封止剤として、初期粘度1,000mPa・s以上、10,000mPa・s以下である材料を用いることを特徴とする[6]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【0021】
[8] 前記工程(2)において、前記封止剤の充填は、毛細管現象を利用して行うことを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【0022】
[9] 前記封止剤として、初期粘度1,000mPa・s以下である材料を用いることを特徴とする[8]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【0023】
[10] 前記離型剤層は、有機溶剤を用いて調製された塗布溶液を用いて塗布して硬化させることにより形成されることを特徴とする[1]乃至[9]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【0024】
[11] 前記有機溶媒は、芳香族炭化水素系溶媒、又はケトン系溶媒であることを特徴とする[10]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【0025】
[12] 前記離型剤層は、封止する側の端部から、該端部より20mm以上100mm以下までにわたって形成されることを特徴とする[1]乃至[11]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の中空糸膜モジュールの製造方法により、封止された自由端部を容易に形成することができる。特に、本発明では大型モジュールへ適用しても、封止された自由端部の形成が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
上述のように、本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、
(1)複数の前記中空糸膜外表面の封止する側の端部近傍に離型剤層を形成する工程と、
(2)前記離型剤層を形成した端部を封止剤に浸して、前記中空糸膜の離型剤層を形成した端部に設けられた開口部から中空糸膜内部に前記封止剤を充填して硬化させる工程と、
(3)前記封止剤の一部が前記中空糸膜の内部に残るように前記中空糸膜を切断する工程と、
を有する。
【0028】
本発明に係る製造方法により、片側が封止された自由端部を有する中空糸膜を有する中空糸膜モジュールを容易に製造することができる。
【0029】
本発明に係る製造方法は、少なくとも封止する側の端部近傍に離型剤を塗布して離型剤層を形成しておいてから、離型剤層を形成した端部を封止剤に浸して、中空糸膜の開口部から中空糸膜内部に封止剤を充填する。封止剤に浸す前に少なくとも開口部近傍に離型剤層を形成しておくことにより、封止剤に浸して中空糸膜内部に封止剤を充填する際に、複数の中空糸膜の間に封止剤が表面張力によりはい上がるのを低減することができる。そのため、封止剤の硬化後に残存する封止剤を中空糸膜内部と外部とで分断するように、自由端となる側の端部を容易に切断することができる。また残存する封止剤を中空糸膜内部と外部とで分断するように自由端となる側の端部を切断できなくても、離型剤層が形成されていることから、中空糸膜外部(表面)の封止剤のみを容易に除去することができる。
【0030】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0031】
本発明は、中空糸膜の片端が封止された自由端部を作製するにあたり、封止する側(自由端となる側)の端部近傍に離型剤層を予め形成しておき、その後、該端部を封止剤に浸し、開口した中空糸膜の開口部から中空糸膜内部に封止剤を充填する。この際、表面張力を利用して封止剤を中空糸膜内部に充填してもよく、また、封止する側と反対側の開口部側から吸引することにより封止剤を中空糸膜内部に充填してもよい。封止剤が硬化した後、封止剤が中空糸膜の内部に少なくとも一部が残るように中空糸膜を切断することにより、片端が封止された中空糸膜を作製する。本発明では、中空糸膜の表面に離型剤層を形成しているため、中空糸膜間の封止剤の這い上がりを低減することができる。そのため、封止剤の硬化後に残存する封止剤を中空糸膜内部と外部とで分断するように容易に切断することができる。なお、自由端とは中空糸膜の先端部が自在に揺動可能な状態をいう。
【0032】
特に限定されるものではないが、中空糸膜の表面に離型剤層が形成されているため、ほとんどの場合、中空糸膜内の封止剤の面の方が中空糸膜間の封止剤の面より高くなる。したがって、中空糸膜間の封止剤の面の若干上の部分で中空糸膜を切断することが好ましい。これにより、中空糸膜内の封止剤の量を最大にでき、かつ、中空糸膜間の封止剤を切断のみで除くことができるためである。
【0033】
また、たとえ切断後に封止剤が中空糸膜の間に残存してしまっていても、中空糸膜表面に離型剤層が形成されているため、容易に封止剤を除去することができる。
【0034】
なお、中空糸膜の封止する側の反対側の端部は、公知のポッティング法により固定化した後、開口することができる。また、中空糸膜を封止する前に、反対側の中空糸膜端部を固定化しておくことが好ましい。
【0035】
以下、図面を参照して、本発明について説明する。
【0036】
図1は、中空糸膜1の片端がポッティング樹脂2で集水部3に固定化されている状態を示す概略図である。図2〜6は、図1における点線部Aの拡大図であって、本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法の工程について説明する図である。図1〜図6において、1は中空糸膜、2はポッティング樹脂、3は集水部、4は集水ノズル、5は離型剤層、6は封止剤、7は開口部(封止する側)、8は封止部である。
【0037】
図2は、図1における点線部Aの拡大図であって、複数の中空糸膜1を示す概略図である。まず、図3に示すように、封止する側の開口部7の近傍に離型剤を塗布硬化させて離型剤層を形成する。
【0038】
離型剤の塗布方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、スプレーや刷毛等を用いて行うことができる。その他にも、離型剤液に浸漬するディッピング法などが上げられる。なお、離型剤層を形成する際、離型剤層を形成する側の端部が開口されていてもよく、また開口されていなくてもよく、塗布方法に応じて適宜選択することができる。また、開口部7に離型剤が付着し開口部7が閉塞した場合、離型剤の硬化後に中空糸膜先端を切断し、開口させる。或いは、離型剤が硬化する前に固定端側から空気などを吹き込み、開口させることもできる。また、ディッピング法により離型剤を塗布することも可能であるが、中空糸膜の内部に離型剤が入り込みすぎないように注意を要する。ディッピング法による場合は、離型剤が内部に入り込んだ部分は切断等により除去することになる。また、図7に示すように、中空糸膜をU字状に固定化し、自由端となる部分にディッピング法等により離型剤を塗布することが好ましい。このように離型剤を塗布した後、例えば図7の点線Dで切断することにより、離型剤層及び開口部7を形成することができる。
【0039】
離型剤層を形成する範囲は特に制限されるものではないが、後工程における封止剤を浸す深さや封止剤の中空糸膜間への浸み込みを考慮して調整することが望ましい。
【0040】
次に、図4に示すように、離型剤層5を形成した中空糸膜の開口部7を未硬化の封止剤6に浸す。この際、図4に示すように、中空糸膜の間に封止剤6が表面張力によって這い上がってくる場合がある。また、図4では、毛細管現象によって中空糸膜の内部に封止剤6を充填している。また、封止剤6を中空糸膜内部に充填するには、封止する側と反対側の開口部側から圧力を調整することにより行うことができる。圧力の調整により封止剤6の充填量を調整することができ、特に封止する側と反対側の開口部側から吸引することにより封止剤6の充填量を多くすることができる。
【0041】
次に、封止剤6を硬化させた後、封止剤6が中空糸膜の内部に残るように切断する。本発明では、中空糸膜の表面に離型剤層を形成しているため、中空糸膜間の封止剤の這い上がりを低減することができる。そのため、中空糸膜内の封止剤の液面と中空糸膜間の封止剤の液面とで高低差を出すことができる。したがって、硬化後に残存する封止剤を中空糸膜内部と外部とで分断するように容易に切断することができる。中空糸膜の切断は適宜公知の方法により行うことができ、特に制限されるものではない。
【0042】
例えば、図4において、中空糸膜間の封止剤の液面付近で切断することが好ましく、中空糸膜間の封止剤の液面より上側であって中空糸膜内の封止剤ができるだけ多くなるような位箇所(例えば点線B)で切断することがより好ましい。点線Bの箇所で切断することにより、封止剤の洗浄除去工程を省くことができる。
【0043】
また、例えば点線Cの箇所で切断することもできる。これにより中空糸膜内の封止剤の充填量を点線Bの箇所で切断した場合よりも多くすることができる。中空糸膜間に残存した封止剤は洗浄することにより除去することができる。図5は、点線Cの箇所で切断した後の状態を示す。そして、図6に示すように、中空糸膜1の間に這い上がった封止剤6を除去することにより、封止された自由端部を有する中空糸膜モジュールを作製することができる。中空糸膜間に這い上がった封止剤の除去は、中空糸膜に離型剤層5が形成されているので、例えば水や洗剤等の溶液で容易に除去することができる。
【0044】
上述のように、中空糸膜の内径は一般に小さいため、封止剤を開口部に浸す際に毛管吸引力も作用する(毛細管現象)。そのため、毛細管現象を利用して中空糸膜の内部に封止剤を充填したい場合は、中空糸膜の内径を2mm以下とすることが好ましい。特に、中空糸膜の内径を1mm以下とすることにより、より大きな毛管吸引力を得られるため好ましい。
【0045】
毛細管現象を利用して封止剤を充填する場合において、封止剤の粘度は、調製直後の初期粘度において、1,000mPa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは、100mPa・s以下である。この範囲の粘度の封止剤を用いることによって、封止剤の液位(中空糸膜内部でのはい上がり量)を高くとれるため、中空糸膜端部からの封止剤の充填量を多くできる。尚、初期粘度とは調製直後の粘度をいい、BH型回転粘度計(20℃)を用いて測定した。
【0046】
また、上述のように圧力の調整により封止剤の充填量を調節することができる。例えば、集水部からの減圧により封止剤を充填する方法(吸引法)を用いた場合における、封止剤の粘度は、調製直後の初期粘度で、1,000mPa・s以上、10,000mPa・s以下であることが好ましく、2000mPa・s以上であることがより好ましい。この範囲の粘度の封止剤を用いることによって、封止剤の液位(中空糸膜内でのはい上がり量)を吸引法を用いて容易に調節することができるためである。
【0047】
以下、本発明における各構成要素について説明する。
【0048】
(中空糸膜)
本発明における中空糸膜としては、特に限定されるものではないが、例えば均質中空糸膜、多孔質中空糸膜又は複合中空糸膜などが挙げられる。これらの中空糸膜の具体例としては、例えば、ポリアクリロニトリル多孔質中空糸膜、ポリイミド多孔質中空糸膜、ポリエーテルスルホン多孔質中空糸膜、ポリフェニレンスルフィドスルホン多孔質中空糸膜、ポリテトラフルオロエチレン多孔質中空糸膜、ポリプロピレン多孔質中空糸膜、ポリエチレン多孔質中空糸膜などの多孔質中空糸膜が挙げられる。また、これら多孔質中空糸膜に、機能層として、架橋型シリコーン、ポリブタジエン、ポリアクリロニトリルブタジエン、エチレンプロピレンラバー又はネオプレンゴム等のゴム状高分子を複合化した複合中空糸膜や架橋型シリコーンチューブなどの均質中空糸膜を挙げることができる。
【0049】
また、中空糸膜の内径、外径としても特に制限されるものではなく、1mm以下の内径を有するものから数mm以上の内径を有するものでも適用可能である。上述のように、内径が大きな中空糸膜については毛管吸引力を利用して封止剤を充填することが難しいが、特に問題なく本発明を適用可能である。なお、内径が大きい場合、封止剤は広範囲の粘度のものから選択することができる。また、中空糸膜の内径が小さくなると、毛管吸引力を利用して効率よく封止剤を充填できるようになるが、この場合、封止剤の粘度を小さくすることが望ましい。
【0050】
<中空糸膜編織物の製造方法>
本発明において、中空糸膜は、中空糸膜編織物としてモジュール化することができる。中空糸膜編織物1としては、その作製方法は特に限定されないが、中空糸膜を例えば緯糸として編地としたものを数枚積層したものであれば、集水部に収納するのに好適である。編地の製造方法は、例えば特開昭62−57965号、特開平1−266258号公報に開示されている。
【0051】
(封止剤)
本発明における封止剤は、特に限定されるものでなく、各種接着剤、シール材、ポッティング剤、ポリマ等を使用することが可能である。封止剤の硬化手段としても、特に限定されるものでなく、例えば、二液混合反応、紫外線硬化、加熱硬化、溶媒抽出などが挙げられる。ただし、中空糸膜自体に悪影響を及ぼさないような封止剤や硬化手段を選択することは必要不可欠である。
【0052】
封止剤として用いることができる接着剤としては、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤などがあげられる。
【0053】
(離型剤)
離型剤としては、封止剤の接着を低減し、這い上がりを低減できるものであれば、特に限定されない。例えば、公知の離型剤を用いることができ、中でもシリコン系離型剤又はフッ素樹脂系離型剤を用いることが好ましく、シリコン系離型剤を用いることがより好ましい。また適宜複数の離型剤を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
また、離型剤の種類としては、例えば、紫外線硬化型、熱硬化型、エアゾル型なども挙げられ、離型剤層を中空糸膜表面に形成する際の乾燥速度を上げる方法としてそれらを用いても良い。
【0055】
さらに、離型剤の塗布時に中空糸膜同士が離型剤により接着することは好ましくないので、気散性の高い溶剤に分散させた離型剤を用いることが好ましい。溶剤としては、例えば、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、セロソルブ等のエーテル系溶剤、アセトニトリル等のニトリル系溶剤などを用いることができる。有機溶剤を用いた離型剤は、溶媒の蒸発速度が速く、離型剤による中空糸膜同士の接着が起こり難いため、好ましく用いることができる。
【0056】
また、フッ素系離型剤は、フッ素系化合物に離型成分としてシリコーンオイル、シリコーンワニス、フッ素オイル等を配合した組成物として用いられている。そのため、離型剤組成物(=コーティング液)としては、離型成分を完全に溶解する目的から、使用できる溶剤は限られている。この目的で用いられる溶剤としては、例えば以下のものが知られている。市販品として現在使用されている溶剤としては、HCFC141b(商品名)やHCFC225(商品名)の代替フロン系溶剤、イソオクタン、ヘキサン等の炭化水素系溶剤、イソプロパノール等の低級アルコール系溶剤、塩化メチレン等の塩素系溶剤、沸点60〜120℃のペルフルオロカーボン(PFC)又はキシレンヘキサフロライド等の含フッ素芳香族炭化水素系溶剤、あるいはこれらの混合物等がある。
【0057】
離型剤の塗布範囲(離型剤層の形成範囲)としては、特に限定されるものではないが、中空糸膜の間に封止剤が毛管吸引力(表面張力により中空糸膜間に封止剤が浸み上がる現象)によるはい上がる量を考慮し、封止する側の端部から、該端部から20mm以上100mm以下までにわたって中空糸膜表面に塗布することが好ましい。20mm以上とすることにより、封止剤が離型剤塗布領域を越えてはい上がることを効果的に防ぐことができる。また、100mm以下とすることにより、中空糸膜としての有効膜面積を維持しつつ、本発明の効果を奏することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
PET(ポリエステル)繊維を組紐状に加工し、その表面にPVDF多孔質部を形成した多孔質中空糸膜(三菱レイヨン株式会社、内径1000μm、外径2800μm)を3本合糸して緯糸とし、幅500mmで編み長さ1000mmで編地2枚を編成し、中空糸膜編織物を得た。
【0060】
中空糸膜集水部を形成するために、コロネート4403(商品名、日本ポリウレタン社製)、ニッポラン4221(商品名、日本ポリウレタン社製)を用いて中空糸膜をポッティングした。硬化条件は室温にて5時間静置した。その後、ポッティング部を切断し、中空糸膜集水部を開口させた。
【0061】
この中空糸膜編織物の一端に、シリコーン系離型剤として、KS707(信越シリコーン社製、固形分50%、トルエン50%溶解)を端部から50mmにわたって刷毛により塗布した。離型剤乾燥後、編み地の端部を切断し、中空糸膜を開口させた。次に、中空糸膜自由端の封止剤として、Araldite2020(商品名、エポキシ樹脂接着剤、初期粘度100mPa・s)に浸漬し、室温にて3時間静置・固化した。さらに、浸漬した端部を切除し、中空糸膜間に残存した封止剤を洗浄・除去し、封止された自由端部を有する中空糸膜を得た。
【0062】
その後、ポッティング部に集水具接続口を取り付け、中空糸膜有効長さ400mmの片端自由端型中空糸膜モジュールを製作した。得られた中空糸膜モジュールは、漏れもなく、良好な濾過性能を発揮した。
【0063】
(実施例2)
封止剤としてポリウレタン接着剤 アラルダイトウレタン システム96SB (3002SB/2025)(ハンツマン・ジャパン社製、初期粘度700mPa・s、商品名)を用いたこと以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを作製した。得られた中空糸膜モジュールは、漏れもなく、良好な濾過性能を発揮した。
【0064】
(実施例3)
離型剤には、実施例1と同様にKS707(信越シリコーン社製、固形分50% トルエン50%溶解)を用い、離型剤の塗布・硬化後、端部を開口した。次に、先に作製した固定部の集水口を真空ポンプにつなぎ、−50kpaにて離型剤塗布部周辺上部にまで封止剤ニッポラン2003/4224(初期粘度2000mPa・s、商品名)を充填・固化した。その他は実施例1と同様に中空糸膜モジュールを作製し、得られた中空糸膜モジュールは、漏れもなく、良好な濾過性能を発揮した。
【0065】
(実施例4)
離型剤として、エアゾル型シリコン離型剤(信越化学工業社製、商品名:RELEASE:KS707のエアゾル型)を用いたこと以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを作製した。得られた中空糸膜モジュールは、漏れもなく、良好な濾過性能を発揮した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法の工程について説明する図である。
【図2】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法の工程について説明する図である。
【図3】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法の工程について説明する図である。
【図4】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法の工程について説明する図である。
【図5】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法の工程について説明する図である。
【図6】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法の工程について説明する図である。
【図7】中空糸膜をU字状に固定化し、自由端となる部分にディッピング法等により離型剤を塗布し、開口する方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
1 中空糸膜
2 ポッティング樹脂
3 集水部
4 集水ノズル
5 離型剤層
6 封止剤
7 開口部(封止する側)
8 封止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止された自由端部を有する中空糸膜を有する中空糸膜モジュールの製造方法において、
(1)複数の前記中空糸膜外表面の封止する側の端部近傍に離型剤層を形成する工程と、
(2)前記離型剤層を形成した端部を封止剤に浸して、前記中空糸膜の離型剤層を形成した端部に設けられた開口部から中空糸膜内部に前記封止剤を充填して硬化させる工程と、
(3)前記封止剤の一部が前記中空糸膜の内部に残るように前記中空糸膜を切断する工程と、
を有することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記工程(3)の後に、前記複数の中空糸膜の間に残存した封止剤を除去する工程(4)を有することを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、前記離型剤層を形成した後、前記離型剤層を形成した側の先端を切断し、開口させることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記工程(1)の前に、封止する側の反対側の中空糸膜端部を固定化する工程を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記反対側の中空糸膜端部を固定化する工程の後、封止する側の中空糸膜端部の長さを揃える工程を有することを特徴とする請求項4に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)において、前記封止剤の充填は、封止する側の反対側の開口部から吸引することにより行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記封止剤として、初期粘度1,000mPa・s以上、10,000mPa・s以下である材料を用いることを特徴とする請求項6に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記工程(2)において、前記封止剤の充填は、毛細管現象を利用して行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項9】
前記封止剤として、初期粘度1,000mPa・s以下である材料を用いることを特徴とする請求項8に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項10】
前記離型剤層は、有機溶剤を用いて調製された塗布溶液を用いて塗布して硬化させることにより形成されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項11】
前記有機溶剤は、芳香族炭化水素系溶剤又はケトン系溶剤であることを特徴とする請求項10に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項12】
前記離型剤層は、封止する側の端部から、該端部より20mm以上100mm以下までにわたって形成されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−64041(P2010−64041A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235079(P2008−235079)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000176741)三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社 (90)
【Fターム(参考)】