説明

中空糸膜モジュールの製造方法

【課題】ポッティング樹脂を充填する際に中空糸膜の端部処理が不要で、遠心装置などの大掛かりな装置を必要とせず、多数の中空糸膜モジュールを生産性よく製造できる中空糸膜モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】長尺筒状体1内を、ポッティング樹脂充填空間S1と、ポッティング樹脂非充填空間S2とを交互に設けた状態に複数の仕切り板3によって仕切るとともに、多数の長尺中空糸膜2をそれぞれ各仕切り板3の各中空糸膜挿通孔32を介して長尺筒状体の一端から他端に達するまで長尺筒状体1内に装着した状態で、ポッティング樹脂充填空間S1のそれぞれに未硬化状態のポッティング樹脂5を充填し、ポッティング樹脂5を硬化させたのち、長尺筒状体1を取り除き、各ポッティング樹脂充填空間S1内で硬化したポッティング樹脂硬化体5aを結束部51の幅となるように切断して1度のポッティング樹脂5の充填で、ケース本体とともに、モジュール本体を形成する中空糸膜結束体を多数個製造できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密濾過、限外濾過等の水処理関係に、挿脱が容易となるようにモジュール化された中空糸膜モジュールが用いられている。
すなわち、図9に示すように、中空糸膜モジュール100は、液出入口を側面に備えた筒状体(ケーシング)400と、筒状体400内に両端がそれぞれ筒状体400の開口端に臨むように配置された束状になった多数の中空糸膜200と、筒状体400の両端で中空糸膜200間および中空糸膜200と筒状体400との隙間を封止するポッティング部300とを備えている。
【0003】
このような中空糸膜モジュール100の製造方法としては、遠心ポッティング法(特許文献1参照)や静置ポッティング法(特許文献2参照)が従来から採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008‐200573号公報
【特許文献2】特開2003‐062436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の遠心ポッティン法や静置ポッティング法による製造方法は、いずれもポッティング樹脂が中空糸膜の端部から中空糸膜の内部に入り込まないように各中空糸膜の端部処理をしたのち、樹脂の充填を行わなければならないため、工程が煩雑であるとともに、同時に複数の中空糸膜モジュール100を製造しようとした場合、個別の遠心装置や個別の注型成形容器が製造しようとする中空糸膜モジュール毎に必要となり製造装置が大掛かりなものとなる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて、ポッティング樹脂を充填する際に中空糸膜の端部処理が不要で、遠心装置などの大掛かりな装置を必要とせず、多数の中空糸膜モジュールを生産性よく製造できる中空糸膜モジュールの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明にかかる中空糸膜モジュールの製造方法(以下、「本発明の製造方法」と記す)は、多数の中空糸膜が長手方向両端部で隣接する中空糸膜間に入り込んだポッティング樹脂により液密に結束された結束部を有する中空糸膜結束体と、
前記結束部の周面が内周面に液密に密着された状態で前記中空糸膜結束体が内部に収容されたケース本体と、を備える中空糸膜モジュールの製造方法であって、長尺筒状体内を、結束部の厚みの2倍以上の間隔の3以上のポッティング樹脂充填空間と、2つの結束部間のポッティング樹脂非充填空間とを交互に設けた状態に中空糸膜と同数の中空糸膜挿通孔を有する複数の仕切り板によって仕切るとともに、多数の長尺中空糸膜をそれぞれ各仕切り板の各中空糸膜挿通孔を介して前記長尺筒状体の一端から他端に達するまで長尺筒状体内に装着した状態で、前記ポッティング樹脂充填空間のそれぞれに未硬化状態のポッティング樹脂を充填したのち、充填されたポッティング樹脂をポッティング樹脂充填空間内で硬化させる工程と、各ポッティング樹脂充填空間内で硬化したポッティング樹脂硬化体を前記長尺筒状体内で長尺筒状体とともに、あるいは長尺筒状体から取り出したのち、前記結束部となるように長尺中空糸膜とともに切断して中空糸膜結束体を得る工程とを備えていることを特徴としている。
【0008】
本発明の製造方法において、結束部を形成するポッティング樹脂は、筒状体に対して接着性を有するもの、筒状体に対して非接着性のもののいずれを用いても構わない。
また、仕切り板の中空糸膜挿通孔への中空糸膜の挿通のタイミングは、仕切り板を筒状体内に挿入し所定位置に固定する前でも、固定した後でも構わない。
【0009】
ポッティング樹脂として、筒状体に対して接着性を有するものを用いた場合、生産性を考慮すると、硬化によりポッティング樹脂硬化体が長尺筒状体内壁面に接着されるので、
得られる中空糸膜結束体とともに、長尺筒状体から切り取った短尺の筒状体をケース本体としてそのまま使用できるようにすることが好ましい。
一方、ポッティング樹脂として、筒状体に対して非接着性のものを用いた場合、長尺筒状体を取り除いたのち、ポッティング樹脂硬化体を切断する方法、あるいは、長尺筒状体とともに、ポッティング樹脂硬化体を切断し、中空糸膜結束体とともに切断された短尺筒状体を中空糸膜結束体から取り除く方法によって、中空糸膜結束体を得る。そして、ケース本体内に得られた中空糸膜結束体を挿入し、中空糸膜結束体の結束部をケース本体の内壁面に液密に固定する方法でモジュール本体を得ることができる。
【0010】
本発明の製造方法において、各仕切り板の一部を貫通し長尺筒状体の一端から他端に達するとともに、ポッティング樹脂充填空間内を臨む位置に樹脂注入孔を有するポッティング樹脂注入管を長尺筒状体内に設け、ポッティング樹脂注入管の一端から他端に向かって未硬化状態のポッティング樹脂を注入し、前記樹脂注入孔を介してポッティング樹脂充填空間に未硬化状態のポッティング樹脂を充填する方法(以下、「第1の充填方法」と記す)や、各ポッティング樹脂充填空間を臨む長尺筒状体の壁面に樹脂注入孔がそれぞれ設けられていて、この樹脂注入孔を介して各ポッティング樹脂充填空間に未硬化状態のポッティング樹脂を充填する(以下、「第2の充填方法」と記す)が挙げられる。
【0011】
上記第1の充填方法において、特に限定されないが、ポッティング樹脂充填空間内に空気の噛み込みによる充填むらが生じにくいことから、長尺筒状体をその長手方向を上下方向に向けて配置し、ポッティング樹脂注入管の下端から未硬化状態のポッティング樹脂を注入して、下側に配置されたポッティング樹脂充填から順次ポッティング樹脂を充填する方法が好ましく、ポッティング樹脂注入管の樹脂注入孔を各ポッティング樹脂充填空間の下端に沿って設け、ポッティング樹脂充填空間の排気口を各ポッティング樹脂充填空間の上端に沿って設け、樹脂注入孔からポッティング樹脂充填空間へのポッティング樹脂の注入に伴い、ポッティング樹脂空間内の空気を排気口からポッティング樹脂注入管を介して上方に排気することがより好ましい。
【0012】
本発明の製造方法において、中空糸膜は、特に限定されないが、精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜等に従来から用いられているものが使用でき、材質としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、セルロース類、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4−メチルペンテン、ポリオルガノシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、塩化ビニル系樹脂などが挙げられる。
塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルと共重合可能なモノマーとの共重合体、ゴム成分をグラフト重合したもの、塩化ビニル樹脂を塩素化したものや塩化ビニル樹脂の特性を損なわない程度に他の成分をブレンドしたものを含み、塩化ビニル樹脂が主成分であるものをいう。
【0013】
中空糸膜の径や筒状体の内部に挿入される中空糸膜の本数は、得られる中空糸膜モジュールの用途に応じて適宜決定され、特に限定されないが、中空糸膜の径は、0.1〜0.3 mmが通常用いられる。
【0014】
長尺筒状体の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、セルロース類、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4−メチルペンテン、ポリオルガノシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、塩化ビニル系樹脂などや、ステンレス鋼などの金属材料が挙げられ、切断された筒状体部分がケース本体となる場合、リサイクル性を考慮すると、中空糸膜と同種の熱可塑性樹脂で形成されていることが好ましい。
【0015】
ケース本体の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、セルロース類、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4−メチルペンテン、ポリオルガノシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、塩化ビニル系樹脂などや、ステンレス鋼などの金属材料が挙げられ、リサイクル性を考慮すると、中空糸膜と同種の熱可塑性樹脂で形成されていることが好ましい。
【0016】
仕切り板の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、セルロース類、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4−メチルペンテン、ポリオルガノシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、塩化ビニル樹脂などや、ステンレス鋼などの金属材料が挙げられ、リサイクル性を考慮すると、中空糸膜やケース本体と同種の熱可塑性樹脂で形成されていることが好ましい。
仕切り板は、中空糸膜挿通孔が中空糸膜を挿通可能で、中空糸膜の挿通状態でポッティング樹脂充填空間に充填されたポッティング樹脂が中空糸膜挿通孔から漏れ出ることがないようにできれば、特に限定されないが、例えば、仕切り板の中空糸膜挿通孔の内径を中空糸膜の外径と略同じか少し大きくするとともに、中空糸を中空糸膜挿通孔に挿入後、シーリング剤で隙間を埋めてもよい。
【0017】
長尺筒状体内に仕切り板及び長尺中空糸膜をセットする方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の(a)〜(c)のような方法が挙げられる。
(a)各仕切り板を貫通するように設けられた樹脂注入管等の支柱で仕切り板を所定間隔(ポッティング樹脂充填空間と、ポッティング樹脂非充填空間とを形成する間隔)に支持するとともに、前記支柱の一端側から他端側に向かって長尺中空糸膜を各仕切り板の中空糸膜挿通孔に順次挿通したブロックを、長尺筒状体に挿入し、各仕切り板が長尺筒状体の所定位置(ポッティング樹脂充填空間と、ポッティング樹脂非充填空間とを形成する位置)になるようにセットする方法。
(b)中心軸に沿って長尺筒状体を2つ割にした1対の分割筒状体を用意し、一方の分割筒状体の内側に、仕切り板を所定間隔(ポッティング樹脂充填空間と、ポッティング樹脂非充填空間とを形成する間隔)に予め接着あるいは融着によって固定するとともに、上記と同様に長尺中空糸膜を各仕切り板の中空糸膜挿通孔に順次挿通し、全ての長尺中空糸膜の挿通が完了したのちに、一方の分割筒状体の分割面と他方の分割筒状体の分割面とを付き合わせて分割面同士接着あるいは融着する方法。
(c)長尺中空糸膜を中空糸膜挿通孔に挿通する前に、上記(a)あるいは(b)の方法と同様にして仕切り板を長尺筒状体内の所定位置にセットしたのち、各仕切り板の中空糸膜挿通孔に挿通させながら、長尺中空糸膜を長尺筒状体の一端から他端に向かって挿入する方法。
【0018】
また、仕切り板は、筒状体への仕切り板の挿入時に外周面が筒状体の内周面に液密に密着するように熱可塑性樹脂エラストマー等の弾性体で形成してもよい。
【0019】
長尺中空糸膜を中空糸膜挿通孔に挿通する方法としては、特に限定されないが、中空糸膜挿通孔への挿通を容易化するために、例えば、挿入に際し、予め、長尺中空糸膜の先端(挿入端)を加熱しながら延伸して先端の外径を中空糸膜挿通孔の内径より少し小さくしたり、長尺中空糸膜の先端に接着や融着によって、中空糸膜挿通孔の内径より小径の針状体やワイヤなどを取り付けたりしておいてもよい。
【0020】
また、仕切り板の中空糸膜挿通孔の内径を中空糸膜の外径より少し小さくするとともに、中空糸膜挿通孔の周壁部を熱可塑性樹脂エラストマー等の弾性体で形成してもよい。
【0021】
ポッティング樹脂としては、中空糸膜との接着性を備えていれば、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でも構わないが、リサイクル性を考慮すると、中空糸膜及び上記ケース本体と同種の熱可塑性樹脂が好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法は、以上のように、長尺筒状体内を、結束部の厚みの2倍以上の間隔の3以上のポッティング樹脂充填空間と、2つの結束部間のポッティング樹脂非充填空間とを交互に設けた状態に中空糸膜と同数の中空糸膜挿通孔を有する複数の仕切り板によって仕切るとともに、多数の長尺中空糸膜をそれぞれ各仕切り板の各中空糸膜挿通孔を介して前記長尺筒状体の一端から他端に達するまで長尺筒状体内に装着した状態で、前記ポッティング樹脂充填空間のそれぞれに未硬化状態のポッティング樹脂を充填したのち、充填されたポッティング樹脂をポッティング樹脂充填空間内で硬化させる工程と、各ポッティング樹脂充填空間内で硬化したポッティング樹脂硬化体を前記長尺筒状体内で長尺筒状体とともに、あるいは長尺筒状体から取り出したのち、前記結束部となるように長尺中空糸膜とともに切断して中空糸膜結束体を得る工程とを備えているので、ポッティング樹脂を充填する際に中空糸膜の端部処理が不要で、遠心装置などの大掛かりな装置を必要とせず、ケース本体とともに、モジュール本体を形成する多数個の中空糸膜結束体を生産性よく製造することができる。すなわち、効率よく中空糸膜モジュールを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の製造方法の第1の実施の形態に用いる樹脂注入管と仕切り板を説明する斜視図である。
【図2】本発明の製造方法の第1の実施の形態のポッティング樹脂充填工程を説明する模式図である。
【図3】図2の後工程を説明する模式図である。
【図4】図3の後工程を説明する模式図である。
【図5】図4の後工程を説明する模式図である。
【図6】本発明の製造方法の第2の実施の形態であって、そのポッティング樹脂充填空間にポッティング樹脂を注入する前をあらわす模式図である。
【図7】本発明の製造方法の第2の実施の形態であって、そのポッティング樹脂充填空間にポッティング樹脂を注入した状態をあらわす模式図である。
【図8】本発明の製造方法の第2の実施の形態で得られるモジュール本体をあらわす模式図である。
【図9】従来の中空糸膜モジュールを説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1は、本発明の製造方法の第1の実施の形態に用いる樹脂注入管と仕切り板とをあらわし、図2〜図5は、本発明の製造方法の第1の実施の形態を工程順にあらわしている。
【0025】
この製造方法は、以下の(1)〜(9)の手順で図5に示す中空糸膜モジュールAを製造するようになっている。
(1)図1及び図2に示す塩化ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂で形成されたポッティング樹脂注入管(以下、「樹脂注入管」とのみ記す)2と、樹脂注入管2と同種の熱可塑性樹脂で形成された6枚(図1では1枚しかあらわしていない)の仕切り板3と、図2に示す上記熱可塑性樹脂と非接着性材料からなる長尺筒状体1とを用意する。
各仕切り板3は、円盤状をしていて、樹脂注入管2を挿通する樹脂注入管挿通孔31が穿設され、その周囲に多数の中空糸膜挿通孔32が穿設されている。
樹脂注入管2は、管軸に直交する方向から見て長方形をした6つの孔21が穿設されている。6つの孔21は2つずつ対となっていて、対となった2つの孔21の管軸方向の最大幅Wは、後述するポッティング樹脂充填空間S1の管軸方向の長さに一致している。
(2)3枚の仕切り板3を、図1で見てその下端縁が、樹脂注入管2の対となる孔21のうち、図1で見て上側の孔21の上縁に一致し、残りの3枚の仕切り板3は、図1で見てその上端縁が、樹脂注入管2の対となる孔21のうち、図1で見て下側の孔21の下縁に一致するように接着等によって樹脂注入管2に一体固定する。なお、このとき、各仕切り板3の中空糸膜挿通孔32は、樹脂注入管2の管軸に平行な仮想線上に一致するように配置される。
(3)図2に示すように、長尺筒状体1の中心軸に平行な仮想線上に並ぶ各仕切り板3の中空糸膜挿通孔32に、長尺筒状体1の一端側から他端側に向かって長尺中空糸膜4を挿通し、多数の長尺中空糸膜4が、樹脂注入管2を囲むように6枚の仕切り板3を介して長尺中空糸膜4を支持固定する。なお、このとき、各長尺中空糸膜4は真っ直ぐ伸長状態で支持固定されていても、仕切り板3間で弛んだ状態で支持固定されても構わない。
(4)つぎに、6枚の仕切り板3が樹脂注入管2に固定され、多数の長尺中空糸膜4が樹脂注入管2を囲むように6枚の仕切り板3を介して支持固定された状態で、これらを長尺筒状体1内に挿入する。
この挿入によって、図2(a)に示すように、3組の仕切り板3によって3つのポッティング樹脂充填空間S1が長尺筒状体1内に形成される。同時にポッティング樹脂充填空間S1と、ポッティング樹脂充填空間S1との間にポッティング樹脂非充填空間S2が形成される。
また、すべてのポッティング樹脂充填空間S1は、長尺筒状体1の中心軸方向の寸法(2枚の仕切り板3の間隔)が、得ようとする中空糸膜結束体6aの結束部51の厚みの略2倍の長さになっている。そして、すべてのポッティング樹脂非充填空間S2は、長尺筒状体1の中心軸方向の寸法が略同じになっている。
(5)長尺筒状体1を、図2に示すように、その中心軸方向(長手方向)が上下方向に向くように支持し、樹脂注入管2の下端から未硬化状態のポッティング樹脂5を上端に向かって注入し、3つのポッティング樹脂充填空間S1内にポッティング樹脂5を充填する。
すなわち、樹脂注入管2の下端から注入されたポッティング樹脂5は、図2(a)に示すように、もっとも下段の孔21部分まで達すると、図2(b)に示すように、この孔21から最も下段のポッティング樹脂充填空間S1内に入り込む。そして、最も下段のポッティング樹脂充填空間S1内に入り込んだポッティング樹脂5は、水平方向に広がりながら、ポッティング樹脂充填空間S1内を上昇していく。このとき、ポッティング樹脂充填空間S1の上方の設けられた樹脂注入管2の孔21から注入されたポッティング樹脂5の上方空間の空気が樹脂注入管2を介して排気される。したがって、空気のかみ込みがなく、密にポッティング樹脂5を充填することができる。
そして、ポッティング樹脂5の注入を続けると、図2(c)〜図2(e)に示すように、下側のポッティング樹脂充填空間S1から上方のポッティング樹脂充填空間S1に次々に充填される。最も上段のポッティング樹脂充填空間S1にポッティング樹脂5が充填され、図2(e)に示すように、ポッティング樹脂5が樹脂注入管2の最も上段のポッティング樹脂充填空間S1より高い位置まで達すると、ポッティング樹脂5の注入を停止する。なお、ポッティング樹脂5の注入開始から完了までの間、長尺筒状体1の外部から超音波振動装置(図示せず)によって長尺筒状体1に振動を与え、長尺中空糸膜4と長尺中空糸膜4との間、及び、長尺中空糸膜4と長尺筒状体1との間に泡の噛み込みや、空隙が生じないようにすることが好ましい。
(6)注入完了後、ポッティング樹脂5が硬化するまで、図2に示す姿勢を維持する。
(7)ポッティング樹脂5が硬化したのち、図3に示すように、長尺筒状体1を取り除き、ポッティング樹脂充填空間S1に形成されたポッティング樹脂硬化体5aを厚み方向の中心線に沿う切断線Lで、長尺中空糸膜4とともに切断し、図4に示す中空糸膜4の両端に硬化したポッティング樹脂からなる結束部51を備えた中空糸膜結束体6aを得る。
(8)得られた中空糸膜結束体6aを図4に示す予め成形されたケース本体6b内に挿入し、図5に示すように、結束部51の外周面をケース本体6bの内周面に接着または融着によって液密状態に固着し、モジュール本体6を得る。
なお、ケース本体6bは、中空糸膜4、樹脂注入管2、結束部51と同種の熱可塑性樹脂で形成されている。また、図4、5中、61はケース本体6bの壁面に設けられ、結束部51と結束部51との間に臨む液出入口、62はキャップ6cに設けられた液出入口である。
(9)図5に示すように、モジュール本体6のケース本体6bの両端にキャップ6cを接着固定して中空糸膜モジュールAを得る。
【0026】
このようにして、得られた中空糸膜モジュールAは、内圧式、外圧式のいずれにも用いることができる。すなわち、内圧式として用いる場合は、液出入口62が原液の入口となり、液出入口61がろ過液の出口となる。一方、外圧式として用いる場合は、液出入口61が原液の入口となり、液出入口62がろ過液の出口となる。
【0027】
この製造方法は、以上のように、長尺中空糸膜4の束の中間部に間欠的に結束部51の2倍以上の厚みのポッティング樹脂硬化体5を形成し、このポッティング樹脂硬化体5部分を長尺中空糸膜4とともに切断するようにして結束部51を形成するようにしたので、ポッティング樹脂5を注入する際に中空糸膜4の端末処理する必要がない。しかも、1回のポッティング樹脂注入で、同時に多数の中空糸膜結束体6aを得ることができ、生産性に優れたものとなる。
【0028】
また、この製造方法は、長尺筒状体1の中央部にポッティング樹脂充填空間S1を臨む位置に樹脂注入用の孔21を備えた樹脂注入管2を設けるとともに、長尺筒状体1の中心軸を上下方向に向けて、この樹脂注入管2の下端側からポッティング樹脂5を注入するようにしたので、ポッティング樹脂充填空間S1内の空気がポッティング樹脂5の注入に伴い、その圧力で樹脂注入管2を介して上方に排気される。特に、孔21を、ポッティング樹脂充填空間S1を形成する上下の仕切り板3に沿うようにそれぞれ設けるようにしたので、上側の孔21が排気孔としても作用し、よりスムーズにポッティング樹脂充填空間S1の空気を排気することができる。したがって、ポッティング樹脂5が空気の噛み込みなどなく、緻密にポッティング樹脂充填空間S1内に充填され、結果として、液密性及び強度的に優れた結束部51を形成することができる。
【0029】
さらに、この製造方法は、ケース本体6b、中空糸膜4、結束部51及びキャップ6cが同種の熱可塑性樹脂で形成したので、得られた中空糸膜モジュールAは、リサイクル性に富んだものとなる。
また、この製造方法によれば、ポッティング樹脂5の硬化後に取り外した長尺筒状体1は、中空糸膜結束体6aの製造に再利用できる。
【0030】
図6及び図7は、本発明の製造方法の第2の実施の形態を工程順にあらわしている。
【0031】
この製造方法は、以下の(1)〜(4)の手順で中空糸膜モジュールを製造するようになっている。
(1)長尺筒状体7内に仕切り板8と長尺中空糸膜4とを図6に示すようにセットする。
すなわち、図示していないが、中心軸に沿って長尺筒状体7を2つ割にした1対の分割筒状体を用意し、一方の分割筒状体の内側に、仕切り板8を所定間隔(ポッティング樹脂充填空間S1と、ポッティング樹脂非充填空間S2とを形成する間隔)に予め接着あるいは融着によって固定する。
つぎに、上記と同様に長尺中空糸膜4を各仕切り板8の中空糸膜挿通孔81に順次挿通し、全ての長尺中空糸膜4の挿通が完了したのちに、一方の分割筒状体の分割面と他方の分割筒状体の分割面とを付き合わせて分割面同士接着あるいは融着する。
また、長尺筒状体7は、塩化ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂で形成されていて、図6に示すように、間欠的に複数(図6では一箇所しかあらわれていない)のねじ筒部7aが設けられ、各ねじ筒部7aの中心軸方向の中央部に1つの樹脂注入孔71が穿設されている。さらに、長尺筒状体7は、ねじ筒部7aとねじ筒部7aとの間の壁面に、後述するモジュール本体9の液出入口92となる筒部72が2つずつ突設されている。
仕切り板8は、長尺筒状体7と同種の熱可塑性樹脂で形成されていて、多数の中空糸膜挿通孔81のみが穿設されている。
(2)図6に示すように、樹脂注入孔71を真上になるように配置したのち、樹脂注入孔71から未硬化のポッティング樹脂5をポッティング樹脂充填空間S1内に徐々に注入し、樹脂注入孔71を介してポッティング樹脂充填空間S1内の空気を排気しながら、図7に示すように、樹脂注入孔71にポッティング樹脂5が溢れるまで、ポッティング樹脂充填空間S1内に充填する。なお、ポッティング樹脂5の注入開始から完了までの間、長尺筒状体7の外部から超音波振動装置(図示せず)によって長尺筒状体7に振動を与え、長尺中空糸膜4と長尺中空糸膜4との間、及び、長尺中空糸膜4と長尺筒状体7との間に泡の噛み込みや、空隙が生じないようにすることが好ましい。
(3)ポッティング樹脂5が硬化したのち、図7に示すように、切断線Lの部分で長尺筒状体7、ポッティング樹脂充填空間S1内で硬化したポッティング樹脂硬化体及び長尺中空糸膜4を切断し、図8に示すように、長尺筒状体7の切断部分を両端がねじ筒形状となったケース本体91とし、結束部51がこのケース本体91に接着一体化された複数のモジュール本体9を得る。
(4)図示していないが、モジュール本体9の両端に雌ねじ筒部を有するキャップをねじ固定し、中空糸膜モジュールを得る。
【0032】
この製造方法は、上記のように、切断線Lの部分で長尺筒状体7、ポッティング樹脂充填空間S1内で硬化したポッティング樹脂硬化体及び長尺中空糸膜4を切断して中空糸膜結束体を得ると同時にケース本体91を備えたモジュール本体9を得るようにしたので、モジュール本体9の生産工程が少なくて済み、結果として中空糸膜モジュールの生産性がよくなる。
【0033】
本発明は、上記の実施の形態に限定されない。例えば、上記第1の実施の形態では、ポッティング樹脂をポッティング樹脂充填空間に充填するにあたり、長尺筒状体をその中心軸が上下方向を向くように支持していたが、各ポッティング樹脂充填空間に空気の噛み込みがなく密にポッティング樹脂を充填することができれば、長尺筒状体の姿勢は、その中心軸が水平方向を向いていても構わない。
また、上記第1の実施の形態では、ポッティング樹脂を樹脂注入管の下端から上端に向かって注入するようにしていたが、各ポッティング樹脂充填空間に空気の噛みこむことなく密にポッティング樹脂を充填することができれば、樹脂注入管の上端から下端に向かって注入するようにしても構わない。
【0034】
さらに、上記第1の実施の形態では、まず、中空糸膜結束体を成形し、この中空糸膜結束体を別途成形したケース本体に一体化させてモジュール本体を得るようにしていたが、第2の実施の形態と同様に、中空糸膜結束体と一体に切断された筒状体をケース本体として使用するようにしても構わない。
上記第1の実施の形態では、長尺筒状体の内部が6枚の仕切り板で仕切られ、3つのポッティング樹脂充填空間が形成されていたが、仕切り板を8枚以上、すなわち、4つ以上のポッティング樹脂充填空間を長尺筒状体内に設けるようにしても構わない。
【0035】
上記第1の実施の形態では、樹脂注入管のポッティング樹脂充填空間を臨む位置に2つの孔を穿設していたが、樹脂注入管のポッティング樹脂充填空間を臨む壁面に下方の仕切り板から上方の仕切り板に達する連続したスリット状の樹脂注入孔を設けるようにしても構わない。このようにスリット状に設ける場合、樹脂注入孔は樹脂注入管の中心軸に平行に設けても、螺旋状に設けても構わない。
【0036】
上記第2の実施の形態では、樹脂注入孔を真上に向けてこの樹脂注入孔からポッティング樹脂充填空間にポッティング樹脂を注入するようにしていたが、長尺筒状体のポッティング樹脂充填空間を臨む壁面の180度対称位置に孔をそれぞれ設けるとともに、一方の孔を真上に向け、下方の孔側からポッティング樹脂をポッティング樹脂充填空間内に注入するようにしても構わない。
上記第1及び第2の実施の形態では、ポッティング樹脂として熱可塑性樹脂が用いられていたが、光硬化型の熱硬化性樹脂を用いるようにしても構わない。
【符号の説明】
【0037】
A 中空糸膜モジュール
1,7 長尺筒状体
2 樹脂注入管
21 孔
3,8 仕切り板
31 樹脂注入管挿通孔
32,81 中空糸膜挿通孔
4 長尺中空糸膜
5 ポッティング樹脂
5a ポッティング樹脂硬化体
51 結束部
6a 中空糸膜結束体
6b,91 ケース本体
6c キャップ
6,9 モジュール本体
61,92 液出入口(ケース本体)
71 樹脂注入孔
72 筒部(ケース本体の液出入口)
S1 ポッティング樹脂充填空間
S2 ポッティング樹脂非充填空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の中空糸膜が長手方向両端部で隣接する中空糸膜間に入り込んだポッティング樹脂により液密に結束された結束部を有する中空糸膜結束体と、
前記結束部の周面が内周面に液密に密着された状態で前記中空糸膜結束体が内部に収容されたケース本体と、を備える中空糸膜モジュールの製造方法であって、
長尺筒状体内を、結束部の厚みの2倍以上の間隔の3以上のポッティング樹脂充填空間と、2つの結束部間のポッティング樹脂非充填空間とを交互に設けた状態に中空糸膜と同数の中空糸膜挿通孔を有する複数の仕切り板によって仕切るとともに、
多数の長尺中空糸膜をそれぞれ各仕切り板の各中空糸膜挿通孔を介して前記長尺筒状体の一端から他端に達するまで長尺筒状体内に装着した状態で、
前記ポッティング樹脂充填空間のそれぞれに未硬化状態のポッティング樹脂を充填したのち、充填されたポッティング樹脂をポッティング樹脂充填空間内で硬化させる工程と、
各ポッティング樹脂充填空間内で硬化したポッティング樹脂硬化体を前記長尺筒状体内で長尺筒状体とともに、あるいは長尺筒状体から取り出したのち、前記結束部となるように長尺中空糸膜とともに切断して中空糸膜結束体を得る工程とを備えていることを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
ポッティング樹脂が筒状体に対して接着性を有し、硬化によりポッティング樹脂硬化体が筒状体内壁面に接着されるとともに、筒状体が中空糸膜結束体とともに切断され、切断された筒状体部分がケース本体となる請求項1に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
中空糸膜結束体が、ケース本体内に挿入されるとともに、中空糸膜結束体の結束部をケース本体の内壁面に液密に固定する工程を備える請求項1に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
各仕切り板の一部を貫通し長尺筒状体の一端から他端に達するとともに、ポッティング樹脂充填空間内を臨む位置に樹脂注入孔を有するポッティング樹脂注入管を長尺筒状体内に設け、ポッティング樹脂注入管の一端から他端に向かって未硬化状態のポッティング樹脂を注入し、前記樹脂注入孔を介してポッティング樹脂充填空間に未硬化状態のポッティング樹脂を充填する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
長尺筒状体をその長手方向を上下方向に向けて配置し、ポッティング樹脂注入管から未硬化状態のポッティング樹脂を注入する請求項4に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
ポッティング樹脂注入管の樹脂注入孔を各ポッティング樹脂充填空間の下端に沿って設け、ポッティング樹脂充填空間の排気口を各ポッティング樹脂充填空間の上端に沿って設け、樹脂注入孔からポッティング樹脂充填空間へのポッティング樹脂の注入に伴い、ポッティング樹脂空間内の空気を排気口からポッティング樹脂注入管を介して上方に排気する請求項5に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項7】
長尺筒状体の壁面の各ポッティング樹脂充填空間を臨む位置に樹脂注入孔がそれぞれ設けられていて、この樹脂注入孔を介して各ポッティング樹脂充填空間に未硬化状態のポッティング樹脂を充填する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−167580(P2011−167580A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30832(P2010−30832)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】