説明

中空糸膜モジュール

【課題】ろ過面積の減少を抑制した中空糸膜モジュールを提供すること。
【解決手段】液体L中に没入される中空糸膜モジュール10は、中空糸膜11Aを複数有する中空糸膜束11と、複数の中空糸膜11Aの開口端11sが相互に所定の間隔を維持するように開口端11sをそれぞれ固定し、複数の中空糸膜11Aの中空部と連通する中空室13hが形成された固定部13と、中空糸膜束11の内部かつ中空糸膜11Aの外側の中空糸膜11Aが固定部13に固定されている部分に、開口端11s側から閉口端11f側に向けて気体Gを散出する散出部14と、気体Gが散出されたことにより生じる液体Lの流れのうち中空糸膜束11を取り巻く部分の流れを開口端11s側から閉口端11fに向かう整流とするように案内する整流板15とを備え、複数の中空糸膜11Aのそれぞれの閉口端11fが自由端として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空糸膜モジュールに関し、特にろ過面積の減少を抑制した中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜を用いたろ過は、中空糸膜が単位容積中の膜面積を広く取ることができる等のメリットを有することもあり、広く利用されている。中空糸膜を複数束ねて構成される中空糸膜モジュールは、各中空糸膜の両端がポッティング材で固定されているのが一般的であった(例えば、特許文献1参照。)。ところが、原水中に繊維状の物質等が含まれる場合、繊維状の物質等がポッティング材に絡まってろ過面積を減少させることがあった。このような不都合を解消するため、中空糸膜の一端を自由端として他端のみをポッティング材で固定した中空糸膜モジュールがある(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】実公昭63−38884号公報(第1頁、図1等)
【特許文献2】特開平11−342321号公報(段落0012、図3等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、中空糸膜の一端を自由端として他端のみをポッティング材で固定した中空糸膜モジュールは、中空糸膜が伸びた状態を維持できずに中空糸膜同士が絡み合ったり、ポッティング材に固定された部分に繊維状の物質等が絡むことがあった。
【0004】
本発明は上述の課題に鑑み、中空糸膜同士が絡み合ったり繊維状の物質等の残渣が中空糸膜に絡んだりすることに起因するろ過面積の減少を抑制した中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る中空糸膜モジュールは、例えば図1に示すように、液体L中に没入される中空糸膜モジュール10であって;一端11sが開口端に他端11fが閉口端に形成された中空糸膜11Aを複数有する中空糸膜束11と;複数の中空糸膜11Aの開口端11sが相互に所定の間隔を維持するように開口端11sをそれぞれ固定し、複数の中空糸膜11Aの中空部と連通する中空室13hが形成された固定部13と;中空糸膜束11の内部かつ中空糸膜11Aの外側の中空糸膜11Aが固定部13に固定されている部分に、開口端11s側から閉口端11f側に向けて気体Gを散出する散出部14と;散出部14から気体Gが散出されたことにより生じる液体Lの流れのうち中空糸膜束11を取り巻く部分の流れを開口端11s側から閉口端11fに向かう整流とするように案内する整流板15とを備え;複数の中空糸膜11Aのそれぞれの閉口端11fが自由端として構成されている。ここで、中空糸膜が固定部に固定されている部分に気体を散出するとは、典型的には、固定部に対する中空糸膜の付け根の部分を取り巻く液体を流動させるような位置で気体を散出することである。
【0006】
このように構成すると、中空糸膜束の内部かつ中空糸膜の外側の中空糸膜が固定部に固定されている部分に、開口端側から閉口端側に向けて気体を散出する散出部を備えるので、中空糸膜が固定部に固定されている部分に気体を散出することによって固定部に対する中空糸膜の付け根の部分を取り巻く液体を流動させることができて繊維状の物質等の残渣が中空糸膜の付け根の部分に絡むことを防ぐことができると共に、開口端側から閉口端側に向けて気体を散出することによって中空糸膜が伸びた状態を維持するのに寄与することとなる。また、散出部から気体が散出されたことにより生じる液体の流れのうち中空糸膜束を取り巻く部分の流れを開口端側から閉口端に向かう整流とするように案内する整流板を備えるので、閉口端(自由端)付近の液体の流れに乱れが生じるのを防ぐことが可能となって中空糸膜が伸びた状態を維持することが可能となり、中空糸膜同士が絡み合うことを防ぐことができる。繊維状の物質等の残渣が中空糸膜の付け根の部分に絡むことを防ぐことができ、中空糸膜同士が絡み合うことを防ぐことができることで、中空糸膜モジュールのろ過面積の減少を抑制することができる。
【0007】
また、本発明の第2の態様に係る中空糸膜モジュールは、例えば図2を参照して示すと、上記本発明の第1の態様に係る中空糸膜モジュール10において、整流板15が、中空糸膜束の外縁から3mm以上20mm以下の距離を維持するように配設されている。
【0008】
このように構成すると、中空糸膜束の周囲に液体の下降流が生じることを防ぐことができ、中空糸膜同士が絡み合うことを防ぐことができる。
【0009】
また、本発明の第3の態様に係る中空糸膜モジュールは、例えば図2に示すように、上記本発明の第1の態様又は第2の態様に係る中空糸膜モジュール10において、整流板15が、中空糸膜11Aの端面11f、11s方向を除いて中空糸膜束11を包むように配設されている。
【0010】
このように構成すると、中空糸膜束の周囲すべてにおいて液体の流れに乱れが生じるのを防ぐことが可能となって中空糸膜が伸びた状態を維持することが可能となり、中空糸膜同士が絡み合うことを防ぐことができる。
【0011】
また、本発明の第4の態様に係る中空糸膜モジュールは、例えば図1を参照して示すと、上記本発明の第1の態様乃至第3の態様のいずれか1つの態様に係る中空糸膜モジュール10において、中空糸膜11Aの長手方向がほぼ鉛直になるように中空糸膜束11が配設され;散出部14が、複数の中空糸膜11Aがほぼ鉛直方向に伸びた状態を維持するような液体Lの流れを作る気体Gを散出するように構成されている。ここで「ほぼ鉛直方向に伸びた状態」とは、典型的には、中空糸膜同士が絡まない程度に伸びた状態である。
【0012】
このように構成すると、確実に中空糸膜が伸びた状態を維持することができ、中空糸膜同士が絡み合うことを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中空糸膜束の内部かつ中空糸膜の外側の中空糸膜が固定部に固定されている部分に、開口端側から閉口端側に向けて気体を散出する散出部を備えるので、中空糸膜が固定部に固定されている部分に気体を散出することによって固定部に対する中空糸膜の付け根の部分を取り巻く液体を流動させることができて繊維状の物質等の残渣が中空糸膜の付け根の部分に絡むことを防ぐことができると共に、開口端側から閉口端側に向けて気体を散出することによって中空糸膜が伸びた状態を維持するのに寄与することとなる。また、散出部から気体が散出されたことにより生じる液体の流れのうち中空糸膜束を取り巻く部分の流れを開口端側から閉口端に向かう整流とするように案内する整流板を備えるので、閉口端(自由端)付近の液体の流れに乱れが生じるのを防ぐことが可能となって中空糸膜が伸びた状態を維持することが可能となり、中空糸膜同士が絡み合うことを防ぐことができる。繊維状の物質等の残渣が中空糸膜の付け根の部分に絡むことを防ぐことができ、中空糸膜同士が絡み合うことを防ぐことができることで、中空糸膜モジュールのろ過面積の減少を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
まず図1を参照して、本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュール10を説明する。図1は、中空糸膜モジュール10の部分縦断面図である。中空糸膜モジュール10は、中空糸膜束11と、固定部13と散出部14とを有するヘッダー12と、整流板15とを備えている。中空糸膜モジュール10は、利用される際には、液体L中に没入(浸漬)される。
【0016】
中空糸膜束11は、中空糸膜11Aが複数本集合して構成されたものである。中空糸膜11Aは、内部に中空部が形成されたストロー状(細い管状)の側面が多孔質の膜部となっている中空の糸(中空糸)である。中空糸膜11Aでは、長さ方向に連通する中空部が、中空糸の芯を貫通する。中空糸膜11Aの外径(直径)は、例えば、1〜3mm程度であるが、液体L中での自立を容易にする観点から2mm以上とするとよい。中空糸膜11Aを構成する膜の厚さは10〜500μm程度である。中空糸膜11Aの長さは、後述するように整流板15を適切に配置することにより、500mm以上として、ろ過面積を大きくすることができる。中空糸膜11Aは、典型的には、耐水性、耐薬品性を有する樹脂製とする。ここで、耐薬品性とは、中空糸膜束11を使用するときに、ろ過する液体Lに混入される薬品に対する耐性をいい、中空糸膜11Aの表面に堆積した固形物を洗浄する際に添加される薬品に対する耐性を含む。中空糸膜11Aは、好ましくは、フッ化ビニリデン系樹脂製とする。フッ化ビニリデン系樹脂は、耐薬品性に加え、耐熱性及び機械的強度にも優れている。フッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、すなわちポリフッ化ビニリデン、他の共重合可能なモノマーとの共重合体あるいはこれらの混合物が用いられる。フッ化ビニリデン系樹脂と共重合可能なモノマーとしては、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、フッ化ビニル等の一種又は二種以上を用いることができる。フッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンを70モル%以上含有することが好ましく、さらに、耐薬品性及び機械的強度の高さからフッ化ビニリデン100モル%からなる単独重合体とすることが好ましい。
【0017】
中空糸膜11Aは、フッ化ビニリデン系樹脂100重量部に対し、可塑剤とフッ化ビニリデン樹脂の良溶媒とを合計量で100〜300重量部、かつ可塑剤と良溶媒の合計量に占める良溶媒の割合が8〜35重量%となるように添加し、押出成形後、可塑剤及び良溶媒とを抽出液で抽出して製造することができる。さらに、結晶化度を増大するために、例えば100〜140℃で3〜900秒の熱処理を施した後、長手方向に一軸延伸することが好ましい。一軸延伸することにより、空孔率及び孔径が増大し、強伸度や直線性が向上する。一軸延伸されたフッ化ビニリデン系樹脂製の中空糸膜では、一例として、空孔率が60〜85%、平均孔径が0.05〜0.15μm、引張強度が5MPa以上、破断伸びが5%以上となる。
【0018】
中空糸膜11Aは、ストロー状の一端11fが熱シール等により閉じられた閉口端に、他端11sが開口のままの開口端に、それぞれ形成されている。中空糸膜11Aは、ストロー状の外周面から中空部に液体Lを導入してろ過し、ろ過された液体Lを開口端に形成された他端11sから導出するように構成されている。本実施の形態では、各中空糸膜11A、11A、・・・は同様の構成を有している。
【0019】
固定部13は、各中空糸膜11A、11A、・・・を固定する部材である。固定部13は、典型的には可とう性の小さい高分子合成樹脂が直方体に形成されることにより構成されている。固定部13は、直方体の内部が中空となった中空室としての集液室13hが形成されている。各中空糸膜11A、11A、・・・は、その中空部が集液室13hと連通するように他端11sが固定部13の直方体の1つの面に埋め込まれることにより、かつ、他端11sが相互に所定の間隔を維持するように、固定部13に固定されている。ここで「所定の間隔」は、各中空糸膜11A、11A、・・・間における液体Lの流れを阻害しない間隔である。各中空糸膜11A、11A、・・・の他端11sの間隔は、中空糸膜11Aが固定される固定部13の面における単位面積あたりの中空糸膜11Aの本数を増やして中空糸膜束11全体のろ過面積をできるだけ大きくする観点から、所定の間隔を維持できる範囲でできるだけ狭くすることが好ましい。
【0020】
中空糸膜11Aの、閉口端に形成された一端11fは、部材等に支持固定されておらず、液体L中で移動可能な自由端となっている。一端11fは、自由端であり、閉口端でもあるため、以下の説明では一端11fと同じ符号を用いて「自由端11f」、「閉口端11f」ということもある。他方、他端11sは、固定端であり、開口端でもあるため、以下の説明では他端11sと同じ符号を用いて「固定端11s」、「開口端11s」ということもある。中空糸膜11Aは、中空糸膜モジュール10を構成する中空糸膜束11として液体L中に浸漬されたときに、自由端11fが上部に、固定端11sが下部に位置するように、かつ中空糸膜11A自体が鉛直方向に伸びるように配設される。以下の説明において上下等の位置関係に言及するときは、中空糸膜11Aの自由端11fが上部に固定端11sが下部に位置するようにかつ中空糸膜11A自体が鉛直方向に伸びるように中空糸膜モジュール10が配設されたときの状態における位置関係をいうものとする。上述した固定部13に固定される各中空糸膜11A、11A、・・・は、固定部13の直方体の上面に固定されている。また、固定部13の直方体の側面には、集液室13h内の液体Lを導出する導出口13dが形成されている。
【0021】
散出部14は、固定部13の直方体と同様の可とう性の小さい高分子合成樹脂が直方体に形成された本体14bと、気体Gを吐出するノズル状の散気管14pとを含んで構成されている。直方体の本体14bの内部には、気体Gが存在可能な中空の散気室14hが形成されている。本実施の形態では、本体14bの上面と固定部13の直方体の底面とが共有するように、散出部14と固定部13とが一体に構成され、ヘッダー12となっている。散出部14を構成する散気管14pは、本体14bの上面から鉛直上方に伸びるように本体14bの上面に取り付けられている。散気管14pは固定部13の集液室13h及び直方体の上面を貫通し、固定部13の直方体の上面からわずかに突出している。散気管14pは、その内部の中空の部分が散気室14h及び中空糸膜11A間の空間と連通し、集液室13hには連通しないように取り付けられていることにより、散気室14h内の気体Gを中空糸膜11A間の空間に供給することができるように構成されている。散気管14pは、中空糸膜束11をさらにいくつかの小グループ(例えば8本程度の中空糸膜11A、11A、・・・からなるグループ)に仮想的に分割した区分ごとに、先端が中空糸膜束11内に開口するように(複数本の中空糸膜11Aに挟まれるように)設けられている。散気管14pの本数及び設置間隔は、各中空糸膜11A、11A、・・・を液体L中で鉛直方向に伸びるように自立させることができ、中空糸膜11A(固定部13に対する中空糸膜11Aの付け根部分を含む)に絡まりつつある繊維状の物質等の残渣を除去できる程度の液流を生じさせることができる気体Gを供給することができるようにする観点から適宜決定すればよい。また、本体14bの側面には、散気室14hに気体Gを導入する導入口14dが形成されている。
【0022】
整流板15は、散気管14pから気体Gが散出されることによって生じる中空糸膜束11の周囲の液体Lの流れを、固定端11s側から自由端11fに向かう整流とするように案内する部材である。ここでいう「整流」は、典型的には、中空糸膜11A同士が絡み合うことがない程度に落ち着いている状態の液体Lの流れである。整流板15は、典型的には可とう性の小さい高分子合成樹脂で形成されており、中空糸膜モジュール10を水平方向に見たときに中空糸膜束11が隠れるように設けられている。つまり、整流板15は、中空糸膜束11の上下両面(中空糸膜11Aの端面)を除いて中空糸膜束11を包むように配設されている。あるいは、整流板15は、中空糸膜モジュール10を水平方向に見たときに固定部13との間に隙間が形成され中空糸膜11Aと固定部13との接続部分が見えるように配設されていてもよい。このように整流板15を配設すると、固定端11s側から自由端11fに向かって流れて中空糸膜モジュール10から導出された分の液体Lを、整流板15と固定部13との間に形成された隙間から整流板15で囲まれた中に確実に導入することができる。
【0023】
図2の平面図に示すように、整流板15は、中空糸膜モジュール10を鉛直上方から見たときに中空糸膜束11を囲むように設けられている。また、整流板15は、中空糸膜モジュール10を鉛直上方から見たときに、固定部13との接続部分の平面における中空糸膜束11の外縁との距離H(以下「クリアランスH」ということもある)が3mm以上かつ20mm以下を維持するように配設されている。ここで、中空糸膜束11の外縁とは、中空糸膜束11の外周部を構成する中空糸膜11Aについて隣り合う中空糸膜11A、11Aに共通するような接線を仮想線として結んでいったときに生じる仮想の輪郭である。図2に示す例では、中空糸膜束11の外縁が長方形になっている。したがって、平面における整流板15の配置も好ましくは長方形となる。
【0024】
図3に、クリアランスH部分に液体Lが流れたときの圧力損失とクリアランスHとの関係のグラフを示す。図3に示すグラフでは、横軸にクリアランスH(mm)を、縦軸に液体Lの流れの圧力損失P(kPa)をとっている。図3に示すように、クリアランスHが4mm以上のときは圧力損失Pがほぼゼロであるのに対し、クリアランスHが4mmを下回ると圧力損失Pが増加傾向に転じ、クリアランスHが2mmを下回ると圧力損失Pが急激に増加している。クリアランスHを3mm以上とすることで整流板15と中空糸膜束11との間に生じる液体Lの上昇流の整流を妨げない程度に圧力損失を低減することができるが、確実に圧力損失Pを低減する観点からクリアランスHを5mm以上とすることが好ましい。他方、クリアランスHの上限は、20mmとすることが好ましい。クリアランスHが大きすぎると、整流板15の内側に液体Lの下降流が発生して中空糸膜11Aの自立を妨げ、中空糸膜11A同士が絡み合うおそれが生じるからである。
【0025】
再び図2に戻って整流板15の配置を説明する。整流板15は、中空糸膜モジュール10を鉛直上方から見たときに、固定部13の長手方向に沿って形成されるクリアランスH部分の下方に固定部13が存在しないように配設されている。逆をいえば、クリアランスH部分の下方に固定部13が存在しないように中空糸膜束11と固定部13との関係が規定されている。このような位置に整流板15が配設されていると、固定端11s側から自由端11fに向かって流れて中空糸膜モジュール10から導出された分の液体Lを、固定部13の長手方向に沿って形成されたクリアランスH部分の下方からクリアランスH部分に確実に導入することができる。中空糸膜モジュール10は、整流板15を備えることで中空糸膜束11の周辺に下降流が生じることを回避することができる。これまで説明したように構成された整流板15は、散出部14から気体Gが散出されたことにより生じる液体Lの流れのうち中空糸膜束11を取り巻く部分の流れを開口端11s側から閉口端11fに向かう整流とするように案内するものであって、液体Lを、中空糸膜束11との間に対して下方から導入し上方から導出して内側(整流板15と中空糸膜束11との間)の上昇流と外側の下降流とを区画するものとなっている。水平断面が矩形になるように接続された(典型的には中空糸膜束11の四方を囲むように配設された)4枚の整流板15は、固定部13との間から液体Lを導入する液体導入口と、上方から液体Lを溢流させる液体導出口とが形成されている。
【0026】
再び図1に戻って中空糸膜モジュール10の説明を続ける。上述のように構成された中空糸膜モジュール10は、典型的には、液体Lが入れられている槽21に設置される。中空糸膜モジュール10は、利用される際に整流板15が液体L中に没入するように設置される。固定部13の導出口13dには、ろ過した液体Lを搬送する回収液管23が接続されている。回収液管23には、ろ過した液体Lを圧送する回収液ポンプ25が配設されている。散出部14の導入口14dには、散気管14pから散気する気体Gを搬送する気体搬送管24が接続されている。気体搬送管24には、気体Gを散気室14hに向けて圧送するブロワ26が配設されている。
【0027】
続いて図1及び図2を参照して、中空糸膜モジュール10の作用を説明する。以下では、ろ過される液体Lが下水(廃水も含まれる)、気体Gが空気であるとして説明する。なお、回収液管23及び集液室13hには、あらかじめ呼び水が注入されていることが好ましい。槽21内には、下水Lがポンプ(不図示)又は自然流下により随時流入している。中空糸膜モジュール10は、下水L中に没入している。ブロワ26が起動すると、空気Gが、気体搬送管24を介して散気室14hに流入し、さらにブロワ26の圧力にて各散気管14p内を通って各散気管14pの上端から中空糸膜束11内の下水L中に吐出される。下水L中に吐出された空気Gは下水L中を上昇して行き、空気Gの上昇が中空糸膜束11内に存在する下水Lの上昇流を引き起こす。そして、中空糸膜束11内に存在する下水Lの上昇流は、整流板15の内側のクリアランスH部分に存在する下水Lの上昇流を引き起こす。気体としての空気Gが散気管14pから吐出されることにより、整流板15内の下水Lの上昇流を作り出すことができと共に、繊維状の物質の残渣のみならず繊維状の物質の残渣以外の固形物や濁質をも中空糸膜11Aから除去することができる。また、空気Gが散気管14pから吐出されることにより、下水Lを活性汚泥とした場合のばっきを行うことができる。
【0028】
整流板15内の下水Lの上昇流は、整流板15の上端から整流板15の外側へ流出する。整流板15の外側に流出した下水Lは、整流板15の外側を下降する。整流板15の下方からは、下水Lが整流板15内に流入する。このように、散気管14pから空気Gが吐出されることにより、整流板15の内側で上昇して整流板15の外側で下降する下水Lの流れが作り出される。3mm〜20mmのクリアランスHが維持されるように整流板15が設けられていることにより、下水Lの流れを整流板15の内外で区画することができ、整流板15の内側に下水Lの下降流が生じるのを防止することができる。また、整流板15内の下水Lの上昇流により、中空糸膜11A同士の絡みも防止される。さらに、上方に位置する各中空糸膜11Aの自由端11fがポッティングされていないので(固定されていないので)、下水L中に混在する繊維状の物質等の残渣の中空糸膜11Aへの絡みも防止される。
【0029】
その一方で、回収液ポンプ25が起動すると、回収液管23、集液室13h、及び中空糸膜11A内の液体が流動する。これに伴って、中空糸膜11Aの外側に存在する下水Lが中空糸膜11A内に流入する。下水Lが、中空糸膜11Aの外側から多孔質部分を通って中空糸膜11A内の中空部に流入することにより、下水Lのろ過が行われる。このときの中空糸膜11Aの外側に存在する下水Lは、上述のように上昇流となっているので、限外ろ過膜に適したクロスフロー方式のろ過を行うことができる。各中空糸膜11Aの中空部に流入してろ過された下水Lは、閉口端11fからは流出せず、開口端11sから集液室13hに流入して合流する。集液室13hで合流したろ過された下水Lは、回収液管23を介して次工程(不図示)に搬送される。
【0030】
以上で説明したように、本実施の形態に係る中空糸膜モジュール10は、一端11sが開口端に他端11fが閉口端に形成された中空糸膜11Aを複数有する中空糸膜束11と、複数の中空糸膜11Aの開口端11sが相互に所定の間隔を維持するように開口端11sをそれぞれ固定し、複数の中空糸膜11Aの中空部と連通する中空室13hが形成された固定部13とを備えるのに加え、中空糸膜束11の内部かつ中空糸膜11Aの外側に、開口端11s側から閉口端11f側に向けて気体Gを散出する散出部14を備えるので、中空糸膜11Aの固定部13への固定箇所に液体Lの流れを作り出すことができて繊維状の物質等の残渣が固定箇所付近の中空糸膜11Aに絡むことを防ぐことができる。また、散出部14から気体Gが散出されたことにより生じる液体Lの流れのうち中空糸膜束11を取り巻く部分の流れを開口端11s側から閉口端11f(自由端11f)に向かう整流とするように案内する整流板15を備えるので、自由端11f付近の液体Lの流れに乱れが生じるのを防ぐことが可能となって中空糸膜11Aが伸びた状態を維持することが可能となり、中空糸膜11A同士が絡み合うことを防ぐことができる。繊維状の物質等の残渣が固定箇所付近の中空糸膜11Aに絡むことを防ぐことができ、中空糸膜11A同士が絡み合うことを防ぐことができることで、中空糸膜モジュール10のろ過面積の減少を抑制することができる。
【0031】
以上の説明では、固定部13と散出部14とが一体に形成されてヘッダー12を構成しているとしたが、固定部13と散出部14とが別体に構成されていてもよい。
【0032】
以上の説明では、整流板15が、中空糸膜束11の上下両面を除いて中空糸膜束11を包むように(平面上で中空糸膜束11の四方を囲むように)配設されているとしたが、例えば図2に例示されている、中空糸膜束11が水平面上で短辺に比べて長辺が十分に長い矩形に形成されている場合の短辺に隣接する部分のように、中空糸膜モジュール10全体のろ過機能に対して液体Lの下降流の影響が及ばないあるいは影響が小さい部分が存在する場合は、当該短辺に隣接する部分のように液体Lの下降流の影響が及ばない(又は小さい)部分の整流板15を省略してもよい。図2の例の場合で説明すると、短辺部分の隣の整流板15を省略し、長辺に対向する2面の整流板15を設置するようにしてもよい。
【0033】
以上の説明では、中空糸膜モジュール10が槽21内に設置されているとしたが、槽21に入れられていない、例えば、池に溜まった水あるいは河川水等の液体中に直接浸漬されることとしてもよい。特に流れのない滞留した液体中で利用されると、自由端11f付近の液体Lの流れ(上昇流)が乱れることなく、中空糸膜11A同士が絡みにくくなって好適である。
【0034】
以上の説明では、ろ過される液体Lが下水であるとしたが、下水以外の、例えば飲料水や果汁等であってもよい。中空糸膜11Aの多孔質の大きさは、液体Lの種類に応じて適宜決定するとよい。また、気体Gが空気であるとしたが、窒素等の不活性気体であってもよい。不活性気体を用いると、酸化防止のために酸素の使用を避けたい液体をろ過する場合に好適である。用いる気体Gの種類は、ろ過される液体Lの種類に応じて適宜決定するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュールの部分縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュールの平面図である。
【図3】液体流の圧力損失とクリアランスとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
10 中空糸膜モジュール
11 中空糸膜束
11A 中空糸膜
11f 自由端(一端、閉口端)
11s 固定端(他端、開口端)
13 固定部
13h 中空室
14 散出部
15 整流板
G 気体
L 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に没入される中空糸膜モジュールであって;
一端が開口端に他端が閉口端に形成された中空糸膜を複数有する中空糸膜束と;
前記複数の中空糸膜の前記開口端が相互に所定の間隔を維持するように前記開口端をそれぞれ固定し、前記複数の中空糸膜の中空部と連通する中空室が形成された固定部と;
前記中空糸膜束の内部かつ前記中空糸膜の外側の前記中空糸膜が前記固定部に固定されている部分に、前記開口端側から前記閉口端側に向けて気体を散出する散出部と;
前記散出部から気体が散出されたことにより生じる前記液体の流れのうち前記中空糸膜束を取り巻く部分の流れを前記開口端側から前記閉口端に向かう整流とするように案内する整流板とを備え;
前記複数の中空糸膜のそれぞれの前記閉口端が自由端として構成された;
中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記整流板が、前記中空糸膜束の外縁から3mm以上20mm以下の距離を維持するように配設された;
請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記整流板が、前記中空糸膜の端面方向を除いて前記中空糸膜束を包むように配設された;
請求項1又は請求項2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記中空糸膜の長手方向がほぼ鉛直になるように前記中空糸膜束が配設され;
前記散出部が、前記複数の中空糸膜がほぼ鉛直方向に伸びた状態を維持するような前記液体の流れを作る気体を散出するように構成された;
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−136798(P2009−136798A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316816(P2007−316816)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】