説明

中空糸膜型人工肺および処理方法

【課題】酸素および炭酸ガスの透過性および交換能が優れ、血液への溶出が少なく、強度に優れ、かつ、血液凝固、血漿リークなどの少ない中空糸膜型人工肺を提供する。
【解決手段】 複数本の中空糸膜がハウジング内に収納された中空糸膜型人工肺であって、中空糸膜の血液接触部の少なくとも一部を、親水性および疎水性を備えたモノマーより製造された水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体により被覆された中空糸膜型人工肺とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外血液循環において、血液中の二酸化炭素を除去し、血液中に酸素を富化するための中空糸膜型人工肺に関する。特に、中空糸膜の血液接触部の少なくとも一部が抗血栓性材料で被覆された中空糸膜型人工肺に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質膜を使用した中空糸膜型人工肺は、心臓疾患の開心術時における体外循環装置や循環補助用人工心肺装置として、一般に広く使用されている。膜型人工肺は主に中空糸膜を用い、その中空糸膜を介して血液のガス交換を行うものである。人工肺への血液の灌流方式として、中空糸膜の内側に血液を流し、中空糸膜の外側にガスを流す内部灌流方式と、逆に血液を中空糸膜外側へ流し、ガスを中空糸膜の内側へ流す外部灌流方式とがある。
【0003】
外部灌流型人工肺は、内部灌流型人工肺より膜面積あたりのガス交換性能が高く、かつ圧力損失も小さいことから、主流になってきている。しかし、血液が中空糸膜と接触して異物認識の結果から起こる、免疫系血中タンパクである補体系活性化を抑制することは困難であった。
【0004】
例えば、ベンジルアルキルアンモニウム−ヘパリン複合体をコーティングした人工肺が開示されている。(特許文献1参照)。しかし、コーティング剤が使用中に、血液中に脱離していくという欠点がある。
【特許文献1】特開昭62−172961号公報
【0005】
また、親水性高分子を被覆することも考えられるが、ガス交換膜として多孔質膜を使用する場合、血漿成分が細孔にしみ込み、血漿リークを起こし、ガス交換能が低下する場合があった。
【0006】
さらに、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートの表面処理を行った人工肺が開示されている。(特許文献2参照)。しかしながら、該アルコキシアルキル(メタ)アクリレートのコーティング溶液を調製する際には劇物であるメタノールの使用が必須であるが、人工肺に残留するメタノールの血液中への溶出の問題や、人工肺より完全にメタノールを除去するのにコストがかかるなどの問題がある。
【特許文献2】特開2006−142035号公報
【0007】
さらに、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの水溶性共重合体が知られている。(特許文献3参照)。この技術は免疫測定の際に固相の表面の保護を実施することができる。しかし、この共重合体は水溶性のため長期間の生体適合性の持続は困難であった。
【特許文献3】特開平11−287802号公報
【0008】
従来、高分子合成において、低分子量体(モノマー、オリゴマー)とコポリマー、ポリマーなどとを分離する方法として再沈殿が最も簡便に用いられている。しかし、親水性モノマー、疎水性モノマー、水不溶性(コ)ポリマーの混合物から(コ)ポリマーを再沈殿により精製する方法は知られていない。
また、(コ)ポリマーを医療用具に塗布する方法としては、一般的にエタノール、テトラヒドロフラン、アセトンなどの有機溶媒に(コ)ポリマーを溶解した後、溶液を医療用具に塗布し、乾燥するなどにより塗布を行っている。しかし、例えば軟質ポリ塩化ビニル製の医療用チューブは可塑剤としてフタル酸エステルなどを含有しており、有機溶媒溶液を接触させると容易に可塑剤が溶け出して硬化したり、チューブ自体が膨潤して変形、クラックが入るなど、製品の品質上問題がある。
【0009】
水不溶性の血液適合性高分子として、アルコキシアルキルアクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体が知られているが、これは特殊な共重合体を使用するものである(特許文献2、3参照)。
【特許文献2】特開2004−161954号公報
【特許文献3】特開2003−111836号公報
【0010】
さらに、分子内にエチレングリコール鎖を有するビニルモノマーを含むコポリマーを懸濁重合用分散剤という特定の用途に使用することが知られており(特許文献4参照)、又アクリル系アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーを含む共重合体、およびその共重合体を用いたバイオチップ材料として使用すること、即ち生理活性物質を固定する高分子化合物として知られている。(特許文献5参照)。
【特許文献4】特開2004−161954号公報
【特許文献5】特開2006−299045号公報 以上の各先行技術を考察しても、本発明の医用材料の処理液を明示する程度の技術事項を開示されている刊行物は発見できないということが実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、中空糸膜に形成した薄膜が酸素、炭酸ガスの透過性に優れ、被膜として血液への溶出物などが少なく、使用に耐え得る十分な物理的な強度を有しており、しかも、補体系および凝固系の活性化が少なく、かつ血小板の粘着が少なく、さらに血漿リーク(ウエットラング)が少ないというような血液を損傷することがないということ、すなわち血液適合性が良好で、かつ安全性の高い中空糸膜型人工肺を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
人工材料が生体(血液)と接触すると様々な生体反応を惹起する。材料に対する生体の初期反応としては、補体活性化、血液凝固、血小板の活性化が挙げられ、これらはいずれも生体が人工材料を異物として認識する結果として生ずる。一般的に、補体活性化は材料の親水性が高いほどその活性化の度合いも高いと言われている。逆に、血小板粘着は材料の親水性が高いほど粘着、活性化が抑制される傾向にある。本発明者らは、補体活性化と血小板の活性化の両方を抑制することについて種々検討した。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、補体活性化抑制と血小板活性化抑制を両立し、かつ血漿リークを起こさない医療材料への共重合体(抗血栓性材料)のコーティング方法を見出し、ついに本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の特徴を有する。
(1)複数本の中空糸膜がハウジング内に収納された中空糸膜型人工肺であって、中空糸膜の血液接触部の少なくとも一部が水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体により被覆されていることを特徴とする中空糸膜型人工肺。
(2)水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体が、疎水性(メタ)アクリレートおよび親水性(メタ)アクリレートからなる請求項1に記載の中空糸膜型人工肺。
(3)疎水性(メタ)アクリレートが下記一般式1で示されるアルキル(メタ)アクリレートを含む請求項2に記載の中空糸膜型人工肺。
【化3】

(式中、Rは炭素原子数2〜30のアルキル基またはアラルキル基、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
(4)親水性(メタ)アクリレートが下記一般式2で示されるメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを含む請求項2に記載の中空糸膜型人工肺。
【化4】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜1,000の整数を示す。)
(5)血液を通す中空糸膜の内面に水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体被膜が形成されている内部灌流型である中空糸膜型人工肺。
(6)血液を通す中空糸膜の外面に水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体被膜が形成されている外部灌流型である中空糸膜型人工肺。
(7)血液接触面に被覆形成された水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体が、疎水性(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる親水性(メタ)アクリレートとが30〜90/70〜10のモル比で共重合されてなる(メタ)アクリレート共重合体である中空糸膜型人工肺。
(8)疎水性(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる親水性(メタ)アクリレートからなる水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は2,000以上、200,000以下である。
(9)疎水性(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる親水性(メタ)アクリレートとが30〜90/70〜10のモル比で共重合されてなる水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を、水溶性有機溶媒と水とが3〜45/97〜55の重量比からなる混合溶媒に濃度0.001〜10重量%を溶解してなる処理液により血液接触面が処理されてなる中空糸膜型人工肺の処理法。
以上のように特定をする技術要件の手段により、発明の課題を解決することができたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の人工肺では、中空糸膜の血液接触部の少なくとも一部に抗血栓性を有する親水性モノマーおよび疎水性モノマーからなる(メタ)アクリレート共重合体が被覆されているので、補体系及び凝固系の活性化が少ない。また、人工肺の血液非接触部には、この共重合体が実質的に存在していないことより、人工肺の血液非接触部は、人工肺構成材料の疎水性状態を維持しているため、血漿のリークが極めて少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の中空糸膜型人工肺は、多数のガス交換用多孔質中空糸膜をハウジング内に収納したものであれば、形状は特に限定されず、円筒型、直方体型などいずれでもよい。また、中空糸膜の外側を血液が流れ、中空糸膜の中空部に酸素ガスを流す外部灌流型であってもよいし、中空糸膜の中空部に血液を流し、中空糸膜の外側に酸素ガスを流す内部灌流型であってもよい。
【0016】
前記人工肺を構成する中空糸膜は、多孔質膜であって、内径100〜1000μm、膜厚は5〜500μm、空孔率は5〜90%、また細孔径は0.01〜5μm、好ましくは0.01〜1μmのものである。また、多孔質膜に使用される材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート等の疎水性高分子材料が用いられる。中でも、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ−4−メチルペンテン−1などのポリオレフィン系樹脂からなるものがより好ましい。
【0017】
前記人工肺において、ハウジング内空間に対する中空糸膜の充填率は40〜85%が好ましい。このような充填率とすることにより、特に外部灌流型人工肺において、血液の線速度が適正化され、本発明の共重合体の材料への被覆量を最小限に抑えることが可能となるため好ましい。また、ハウジング内の中空糸膜は、隣り合う中空糸膜との距離が、中空糸膜の外径の1/10〜1/1となっていることが好ましい。さらに、中空糸膜は、隣り合う中空糸膜との距離が30〜200μmが好ましい。このような距離を確保することにより、人工肺を組み立てた後に本願発明の共重合体を血液接触部に被覆する際の作業性が向上するとか、被覆斑を抑えることができるなどの利点がある。また、外部灌流型の場合、血液のチャンネリングを抑制する効果が高まるという利点がある。
【0018】
本発明において、人工肺ハウジングは、ポリカーボネート、アクリル−スチレン共重合体、アクリル−ブチレン−スチレン共重合体などの疎水性合成樹脂により形成されたものが好ましい。ハウジングは、例えば円筒状であり、透明体であることが好ましい。透明体で形成することにより、内部の確認を容易に行うことができる。
血液や酸素ガスの出入口となるポート部も前記したハウジングに用いられる疎水性合成樹脂により形成されているのが好ましい。
中空糸膜とハウジングとを液密に接着するポッティング剤としては、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂などを用いることができる。
【0019】
本発明において、中空糸膜の血液接触部の少なくとも一部が水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体により被覆されているのが好ましい。該共重合体は、人工の材料が血液と接触したときに生体の異物反応を抑制するために被覆するものであり、少なくとも血液接触部の一部に存在させることでその目的を達する。また、血液接触部のみに該共重合体を被覆することにより最小限のコストで済むなどコストメリットも高まる。外部灌流型人工肺の場合には、中空糸膜の血液接触部だけでなく、ハウジングや中空糸膜とハウジングを固定するためのポッティング剤、血液の出入り口であるポート部の血液接触部の少なくとも一部が該(メタ)アクリレート共重合体により被覆されているのがより好ましい。一方、内部灌流型人工肺においても、中空糸膜の血液接触部だけでなく、血液ポートの血液接触部の少なくとも一部が該(メタ)アクリレート共重合体で被覆されているのがより好ましい。特に、内部灌流型人工肺の場合には、血液の線速度が比較的高く、血栓生成などの異物反応が起こりにくい特性を有しているため、少なくとも血栓生成が起こりやすい部分に該重合体が被覆されていればよい。
【0020】
本発明において、該共重合体は血液非接触部に被覆されていても良いが、例えば、中空糸膜の内表面、外表面、細孔部に被覆されていると、血液を流したときに血漿リークを生ずる可能性もあり、中空糸膜の血液接触部のみに被覆されているのが好ましい。このような理由から、本発明においては、血液非接触部には共重合体が実質的に存在していないのが好ましい。実質的に存在していないとは、例えば、中空糸膜の血液非接触部が膜素材自身が持つ疎水性の特性がそのまま保持されている状態のことであり、これによって血漿のリークを防止することを示すものである。
【0021】
膜型人工肺に用いられる中空糸膜は、細孔径が0.01〜5μm程度あり、透過すべき気体分子に比べて細孔径が著しく大きいため、気体分子は膜の細孔を通過する。従って、ガス透過速度が大きくなり、さらには蒸気も多量に透過するため、気相側の膜面での結露(ウエットラング)によって性能が低下するだけでなく、長時間血液を循環させて使用すると、血漿が漏出するという問題があった。この血漿の漏出の原因は、血漿中のタンパク成分等が膜表面に徐々に付着することによって次第に疎水性が失われていくためと推定されるが、血漿の漏出が起こると、膜のガス交換能が大幅に低下し、使用不能の状態に陥る場合もある。
本発明の共重合体は、親水性(メタ)アクリレートを含む共重合体であるため、ウエットラングを防止する意味で、中空糸膜の血液非接触面側に該共重合体が存在しないのが好ましい。
【0022】
本発明において、人工肺の血液接触部を被覆するものとして、(メタ)アクリレート共重合体を用いるのが好ましい。従来、人工肺の血液適合性を改善する材料としてはヘパリン(誘導体)に代表される生体由来物質が利用されてきたが、感染の問題や高コスト、血液への溶解性が高いため長期使用に耐えられないなどの問題があった。また、合成系の材料として、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)や2−メトキシエチルアクリレートなどの生体適合性に優れる材料が用いられている。本発明の(メタ)アクリレート共重合体は、疎水性(メタ)アクリレートと親水性(メタ)アクリレートからなる共重合体であり、血液適合性に優れることは勿論であるが、親−疎水バランスをコントロールし易いとか、モノマーを入手し易い、合成が容易であるなどのメリットがあり汎用性が高いため好ましく用いられ得る。
【0023】
本発明において、中空糸膜型人工肺は中空糸膜の血液接触部での補体系の活性化が少なく、かつ、中空糸膜より血漿の漏出が少ない。つまり、中空糸膜の血液接触部が(メタ)アクリレート共重合体により被覆されていることより、補体系の活性化が少なく、中空糸膜の血液非接触部には、該(メタ)アクリレート共重合体が実質的に存在していないため、中空糸膜の血液非接触部は、人工肺素材の疎水性状態を維持しており、高い血漿のリーク防止作用を備えている。
【0024】
本発明において、疎水性(メタ)アクリレートは下記一般式1で示されるアルキル(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
「アクリル樹脂 合成・設計と新用途開発 中部経営開発センター 昭和60年発行」、「アクリル酸エステルとそのポリマー[II] 株式会社昭晃堂 昭和50年発行」によると、アルキル(メタ)アクリレートの炭素数が増大するにつれ、そのポリマーのガラス転移温度は低下し、ある極小値をむかえた後増大する傾向にある。その極小値はn−アルキルアクリレートでは炭素数が8、n−アルキルメタクリレートでは炭素数が12である。つまり、炭素数8のアルキルアクリレートを共重合成分として組み込むことで共重合体のガラス転移温度を低下させることができることを示している。
【化5】

(式中、Rは炭素原子数2〜30のアルキル基またはアラルキル基、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【0025】
本発明において、一般式1のアルキル(メタ)アクリレートとしては、R1の炭素数が2〜30のものを使用するのが好ましく、より好ましくは4〜24であり、さらに好ましくは6〜18である。このようなアルキル(メタ)アクリレートの具体例として、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等があるが、コストや性能の観点から下記一般式3の2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートまたはラウリル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0026】
本発明において、親水性(メタ)アクリレートが下記一般式2で示されるメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単独重合体は親水性が高いため血液適合性には優れているが、水溶性であるので血液等に長期間接触させた場合、徐々に溶出する問題があった。本発明者らは血液適合性に優れるだけでなく、長期使用に耐える材料について鋭意検討した結果、血液等への溶出を防止するための適度な疎水性と、コーティング皮膜の物理的な剥がれを防止するための柔軟性とを付与することにより得られる共重合体が該課題を解決できることを見出した。
【化6】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜1,000の整数を示す。)
【0027】
本発明において、一般式2のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとしては、エチレンオキサイド単位が1〜1,000であるものを使用するのが好ましい。より好ましくは1〜500、さらに好ましくは1〜50、さらにより好ましくは2〜10、特に好ましくは2〜5である。具体的には、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシペンタエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘプタエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシオクタエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシノナエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシデカエチレングリコール(メタ)アクリレートなどがある。繰り返し単位が大きく親水性が増大しすぎると共重合を行っても血液中への溶解性が高くなるため、医療材料から溶出する可能性がある。したがって、繰り返しエチレンオキサイド単位が4のメトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、下記一般式4に示すような繰り返しエチレンオキサイド単位が3のメトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートが好ましい。
【0028】
本発明の水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体に属する代表的なものを具体的に挙げると、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、シクロヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、フェニル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、フェニル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、フェニル(メタ)アクリレート−メトキシペンタエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−オクチル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−オクチル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ラウリル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−デシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ステアリル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ステアリル(メタ)アクリレート−メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ラウリル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ミリスチル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体のような、これに限定されるものではないが、一般式1のアルキル(メタ)アクリレートと、一般式2のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの単量体を30〜90/70〜10のモル比で任意に組み合わせて慣用の重合法に従って共重合させたものである。共重合体の重合条件および医用材料としての特性を考慮すれば、好ましくは50〜80/50〜20のモル比で、数平均分子量が2,000〜200,000になるように共重合させたものが最適である。
医用材料という用途を考慮すれば、未反応のモノマーを、再沈殿方法により、5モル%以下になるように精製したものが適している。
【0029】
本発明において、疎水性(メタ)アクリレートと親水性(メタ)アクリレートとが30〜90/70〜10のモル比で共重合されていることが好ましい。疎水性(メタ)アクリレートが少なすぎると共重合体が血液や水などに溶解しやすくなり、多すぎると親水性(メタ)アクリレートの血液適合性が十分に発揮されない可能性がある。したがって、モル比は40〜90/60〜10であることがより好ましく、45〜85/55〜15がさらに好ましく、50〜80/50〜20がさらにより好ましい。
【0030】
本発明において、疎水性(メタ)アクリレートおよび親水性(メタ)アクリレートを含む(メタ)アクリレート共重合体は実質的に水不溶性であることが好ましい。ここで、実質的に水不溶性であるとは、(メタ)アクリレート共重合体を該共重合体1重量%に対して99重量%の37℃生理食塩水中に30日間静置した際、該共重合体の重量減少率が1重量%以下であることを指す。実質的に水不溶性であることにより、生体組織や血液等と接触した場合にも、該共重合体の血液などへの溶出を防ぐ点で好ましい。
【0031】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は2,000以上であることが重合後の再沈殿による精製の容易さの点で好ましい。また、分子量が大きいほど(メタ)アクリレート共重合体の粘度が高まるため、人工肺の基材との粘着性が向上するという副次効果もある。したがって、(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は5,000以上がより好ましく、8,000以上がさらに好ましい。また、該(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は200,000以下とすることが(メタ)アクリレート共重合体を人工肺等にコーティングする際の作業性を向上する意味で好ましい。より好ましくは100,000以下、さらに好ましくは50,000以下、さらにより好ましくは30,000以下、特に好ましくは18,000以下である。ここで、数平均分子量とは全分子の分子量の和を分子数で割ったものであり、高分子の特性の一つである。
数平均分子量を測定する方法としては、末端基定量法、浸透圧法、蒸気圧オスモメトリー、蒸気圧降下法、氷点降下法、沸点上昇法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法などがあるが、本発明においては操作の容易さの点でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を採用する。
【0032】
さらに、該(メタ)アクリレート共重合体は水可溶性および水不溶性モノマーを共重合したものであるため、コーティング用溶液を調製する際の有機溶媒の選択は困難を極め、該有機溶媒の炭素数が1異なるだけでも不溶または可溶となる現象が生じた。また、有機溶媒を用いると、人工肺等を構成する高分子材料の膨潤および溶解あるいは可塑剤の溶出といった悪影響を及ぼすことがある。人工肺等への悪影響を抑制する方法としては、共重合体の溶媒として水を用いることで達成できるが、該(メタ)アクリレート共重合体は水不溶性であり、また水単体に均一に分散させることは困難を極める。さらに、水を用いる場合の問題として、有機溶媒と比較して表面張力が大きいためにコーティング用溶液を人工肺に均一に塗布することが困難な上、排液の処置が容易でなくなるとか、沸点が高いことによる乾燥時間の延長という問題が生じる。そこで本発明者らは、有機溶媒と水との混合液に該共重合体を分散させたコーティング用分散液(エマルジョンまたは懸濁液)を用いることにより、人工肺等の材料への塗布性がよく、表面張力が低いためにコーティング液の廃棄が容易であり、人工肺に高い抗血栓性と血液適合性を付与することができることを見出した。
【0033】
また、人工肺は人工心肺回路中の最大表面積を有する医療機器であるため、コーティング処理による効果を最大限に発現することができる一方、表面処理液塗布後の乾燥工程において、表面処理液に含まれる溶媒を完全に除去することは困難を極め、乾燥後に抽出定量した際には残留溶媒が検出され、該溶媒として有機溶媒等を高濃度で用いた場合には生体における安全性が懸念される。そこで発明者らは、水不溶性の共重合体を均一に溶解させるためにアルコール等の必ずしも生体に安全ではない水溶性有機溶媒を高濃度で用いて表面処理液を均一溶液とするのではなく、本発明の(メタ)アクリレート共重合体が水中でも安定に分散したエマルジョンや懸濁液を形成するという性質を利用することにより、不均一な溶液であるにもかかわらず均一な表面処理液と同等の性能を発揮しつつ、使用する有機溶媒量を極小化し生体に対する危険性を極小とすることができる。さらに若干の有機溶媒を含有することにより溶液粘度を低下させ排液が容易となるだけでなく、表面処理液の親水性が向上することによって、疎水性である中空糸膜を通過しにくくなり、ガス透過性能といった人工肺の基本性能を低下させることがないことを見出し、本発明を完成した。
【0034】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体は炭素数1〜6のアルコールのいずれかに可溶であることが好ましい。炭素数1〜3のアルコールに可溶であることがコーティング後の乾燥が容易になるためより好ましい。ここで、可溶であるとは前記アルコール10mLに(メタ)アクリレート共重合体1gを25℃で浸漬した際、室温下16時間以内に少なくとも90重量%の(メタ)アクリレート共重合体が溶解することを言う。
【0035】
「高分子基礎科学 株式会社昭晃堂 1991年発行」によると、高分子を溶融状態から冷却してゆくと、結晶化せずに過冷却状態を経てついにはガラス状態となり固化してしまうことがある。この溶融状態からのガラス状態への転移をガラス転移といい、この温度をガラス転移温度という。ガラス転移温度以下では高分子は流動性を失ってガラス状であるのに対し、ガラス転移温度以上では流動性を持ち、いわば液体の状態にある。つまり、本発明の共重合体に柔軟性を持たせるためには室温(25℃)よりも低いガラス転移温度をもつ必要がある。
【0036】
本発明の(メタ)アクリレート共重合体のガラス転移温度は−100〜20℃であることが好ましい。−80〜5℃がより好ましく、−80〜−10℃がさらに好ましく、−80〜−20℃がさらにより好ましい。ガラス転移温度が高すぎると、作業環境においてコーティング膜が医療用具に担持された抗血栓性物質(共重合体)が物理的に剥離してしまう可能性がある。ガラス転移温度が低すぎると、共重合体の流動性が増大し、コーティングの作業性が低下する可能性がある。
【0037】
本発明の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、本発明の共重合体を製造するための共重合反応自体には特別の制限はなく、ラジカル重合、イオン重合、光重合、マクロマーを利用した重合等の公知の方法を用いることができる。
【0038】
本発明の(メタ)アクリレート共重合体を製造するための一例としてラジカル重合による製造方法を以下に示す。
即ち、還流塔を装着した攪拌可能な反応装置にモノマーと重合溶媒、開始剤を加え、窒素置換の後加熱することで重合を開始し、一定時間その温度を保つことで重合を進行させる。重合中に窒素をバブリングすることがより好ましい。この重合の際に連鎖移動剤を併用し、分子量をコントロールすることも可能である。重合終了後の溶液より溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得る。引き続き、得られた粗(メタ)アクリレート共重合体を良溶媒に溶解し、攪拌下の貧溶媒中に滴下して精製処理(以下、再沈殿処理ということがある)を行う。精製処理を1〜数回繰り返し(メタ)アクリレート共重合体の純度を上げる。このようにして得られた共重合体を乾燥する。
【0039】
共重合の際に用いる重合溶剤としては、メタノールやエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、トルエン、ベンゼン、メチルエチルケトン等の有機溶剤、あるいは水を用いることができるが、本発明においてはモノマーおよび得られる共重合体の溶解性や入手の容易さの面から酢酸エチル、メタノール、エタノール等を用いるのが好ましい。また、前記溶剤の複数種を混合して用いることもできる。これら重合溶媒とモノマーとの仕込み重量比は20〜90/80〜10が好ましく、30〜90/70〜10がより好ましく、35〜85/65〜15がさらに好ましい。仕込み比が前記範囲にあれば、重合反応率を最大限に高めることができる。
【0040】
重合開始剤としては、一般的にラジカル重合で用いられる過酸化物系、アゾ系のラジカル開始剤が用いられる。過酸化物系ラジカル開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機系過酸化物、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンパーオキサイド等の有機系過酸化物が、アゾ系ラジカル開始剤としては例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)ジハイドロクロライド、ジメチル2,2’−アゾビスブチレート、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が用いられる。また、過酸化物系の開始剤に還元剤を組み合わせたレドックス開始剤も使用できる。これらの重合開始剤等は重合溶液中のモノマーに対して0.01〜1重量%添加するのが好ましい。より好ましい添加量は0.05〜0.5重量%、0.05〜0.3重量%がさらに好ましい。重合開始剤等の添加量を前記範囲にすることにより、良好なモノマー反応率で適正な数平均分子量を有する共重合体を得ることができる。
【0041】
重合する際の温度は、溶剤の種類、開始剤の種類によって異なるが、開始剤の10時間半減期温度付近を使用するのが好ましい。具体的には、前記開始剤を使用する場合20〜90℃が好ましい。30〜90℃がより好ましく、40〜90℃がさらに好ましい。重合の際に分子量を制御するため用いられる連鎖移動剤としては、ドデシルメルカプタン、チオリンゴ酸、チオグリコール酸等の高沸点のチオール化合物、イソプロピルアルコール、亜リン酸、次亜リン酸等を用いることができる。
【0042】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体は親水性と疎水性のモノマーを共重合してできるものであるため、親水性と疎水性の両方の性質を有する。したがって、共重合後の溶液中には未反応モノマーである親水性モノマー(メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート)と疎水性モノマー(アルキル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリレート共重合体が混在している。これらの混合物の中から水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を単離するためには、例えば親水性モノマーを溶解する再沈殿液に該共重合体溶液を滴下して精製を行い、続いて疎水性モノマーを溶解する再沈殿液を用いて共重合体を精製することができる。しかし、このような精製方法の組合せでは、精製作業が煩雑であるばかりか、精製コストの高騰および共重合体の損失が大きくなるなどの問題がある。本発明者らは精製作業が簡便で、かつ低コスト、高回収率で(メタ)アクリレート共重合体を得る精製方法について鋭意検討した結果、アルコールと水とを特定の割合で混合した再沈殿貧溶媒を用いることにより効率よく(メタ)アクリレート共重合体を回収できることを見出した。
【0043】
本発明において、該共重合体を再沈澱処理により精製するために用いる溶媒としては、該共重合体を溶解せず、親水性モノマーおよび疎水性モノマーの両方を溶解する溶媒を用いるのが好ましい。アルコールのみを用いた場合は(メタ)アクリレート共重合体を沈殿させるためには、アルコールよりも親水性を向上させるか、低下させる必要がでてくる。このようなアルコールの親水性を制御する方法として、アルコールに親水性の高い溶媒を混合して用いる方法が挙げられる。そのような溶媒の具体例として、水、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどがあるが、揮発しやすさとコストの面から水を用いるのが好ましい。アルコールと水を一定の混合比で混合して貧溶媒として用いることにより親水性を制御でき、(メタ)アクリレート共重合体を高回収率で得ることができる。
【0044】
本発明において、再沈殿処理に用いるアルコールとしては、炭素数1〜10のアルコールを用いるのが好ましく、より好ましくは炭素数1〜7のアルコールであり、さらに好ましくは炭素数1〜4のアルコールである。このようなアルコールの具体例として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メトキシ−1−プロパノール、ターシャリーブタノールなどがあるが、低温、短時間乾燥ができることからメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが特に好ましい。
【0045】
本発明において、炭素数1〜10のアルコールと水とを40〜99/60〜1の重量比で混合して用いることが好ましく、より好ましくは50〜99/50〜1であり、さらに好ましくは60〜95/40〜5である。アルコール比が大きくなりすぎると(メタ)アクリレート共重合体が析出しにくくなり、水比が大きくなりすぎると析出した(メタ)アクリレート共重合体に不純物として未反応のモノマーが混入する恐れがあるため、70〜95/30〜5が特に好ましい。
【0046】
本発明において、炭素数1〜10のアルコールと水との混合液を再沈殿の貧溶媒として用いることが好ましい。良溶媒としては、(メタ)アクリレート共重合体が溶解され、貧溶媒と混和し得るものであれば何でもよい。具体的には、例えば、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどがあるが、容易に乾燥できる点で沸点の低いテトラヒドロフラン、アセトンが特に好ましい。これらを良溶媒として用いて上記貧溶媒に添加する再沈殿処理を複数回繰り返すことにより精製するのが好ましい。
【0047】
前記説明したような再沈殿操作を必要により2〜8回行うことにより、未反応モノマー含有量が5mol%未満である水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を50重量%以上という高回収率で回収することが可能となる。該共重合体中に含まれる未反応モノマー、オリゴマー、重合残渣の含有量が多い場合には、それが血液中に溶出して、患者のショック症状などの原因となることが考えられる。それらの物質は再沈殿精製法で大部分は除去できるが、その原因物質を反応モノマー換算で、患者の安全を考慮すれば、その含有量を5mol%以下にする必要がある。しかし、精製工程に配慮すれば、3mol%以下、好ましくは1mol%以下にすることが好ましい。本発明においては、医用材料という特殊な用途を考慮して細心の注意をした結果、再沈殿精製における該共重合体の若干の損失又は放棄などを伴う精製工程を採用した結果、未反応モノマー残留量が理想の0.1mol%以下をはるかに超えた、0.06mol%程度を達成した共重合体を提供することができた。これは、別の慣用の指標である純度で表示すれば、精製共重合体の前重量(W1)に含まれる、共重合体だけの重量(W2)として、両者の比でW2/W1×100により算定をするなら、共重合体の純度に換算すれば、90重量%以上、好ましくは95重量%以上、特に99重量%以上といい得るが、本発明では、99.9重量%以上のものを提供することができる。
【0048】
本発明において、再沈殿後の(メタ)アクリレート共重合体の回収率が90重量%を超えると回収物中に未反応モノマー含有の恐れが生じ、50重量%を下回ると生産効率が低下するため、回収率は50〜90重量%であることが好ましい。この回収率を50〜90重量%にとどめるということは、共重合体の回収を若干損失又は放棄することにもなるが、未反応モノマーの混入をできるだけ防ぐということからすれば仕方がないことである。というのも、医用材料に適用する親水性、疎水性の性質を兼ね備えた共重合体であるという特有の事情からすれば、それぐらいの配慮当然にしなければならないことである。
【0049】
この再沈殿精製法の実施態様を詳細に示すと、例えば、粗(メタ)アクリレート共重合体(MTEGA:33.3g/EHA:50.7g)2gをテトラヒドロフラン2gに溶解させることにより調整された溶液を、攪拌下の貧溶媒(メタノール/水=85/15(重量比))20g中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収率約80%で、1.60gの共重合体を回収した。次いで、その1.6gの共重合体を同重量のテトラヒドロフランを加え溶解した溶液を、貧溶媒に滴下する操作を約98重量%、約97重量%の回収率で二回繰り返した後、回収した該共重合体を60℃、0.1Torrの減圧条件下にて4日間減圧乾燥を行い、精製した(メタ)アクリレート共重合体1.52gを得ることができる。この場合に、回収率を例えば95重量%と若干高くすれば、共重合体の回収量が増えるが、それに比例をして未反応のモノマーの残留量が増加するという傾向を示す。
【0050】
精製された共重合体を材料として用いるためには乾燥による溶媒の除去が必要となる。乾燥方法としては例えば、60℃で1Torr以下の減圧下において2〜10日間継続して実施し、十分な乾燥が得られないときは引き続き減圧乾燥を行えば良い。このようにして得られた(メタ)アクリレート共重合体は純度が95mol%以上であることが好ましい。共重合体純度が95mol%以上であれば、例えば後述するような医療用具のコーティング材料として用いた場合に血液中にモノマー、オリゴマー等が溶出しないなど医療用として安全性の高い材料を提供することができる。
【0051】
本発明のアルキル(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとを共重合することにより得られる(メタ)アクリレート共重合体は、親水性と疎水性が適度にバランスされているので、血液適合性材料として好適に使用することができる。特に、医療用具や人工臓器の処理材料として好適に使用することができる。
また、本発明の(メタ)アクリレート共重合体は、単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0052】
本(メタ)アクリレート共重合体を用いて処理を行った医療用具が血液と接触した際、親水性の高いメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが表面に張り出して抗血栓性を発揮し、またアルキル(メタ)アクリレートは基材近傍に留まることによって血液と医療用具が直接接触することを防いでいるものと考えられる。
【0053】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の水不溶性を確認する方法としてエージング処理が挙げられる。エージング処理に用いる抽出溶媒としては、簡便性とその後に実施する血液適合性評価の信頼性を向上させる点で、生理食塩水を用いることが好ましい。37℃恒温下にて行うのがさらに好ましい。該(メタ)アクリレート共重合体は水不溶性であるので、エージング処理後も高い血液適合性が維持される。
【0054】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の免疫活性化度を評価する方法として補体価の比較が挙げられる。CH50を測定するMayer法は簡便で速やかな測定が可能であり、しかも測定キットの入手が容易で安価なため好ましい(人工臓器23(3)、654−659(1994)。ヒツジ感作赤血球と血清中の補体とが反応することにより、感作赤血球が溶血する。補体系が活性化されるほど溶血度が低下することから、評価方法として有意に利用することができる。
【0055】
本発明の免疫系評価の別法として、アナフィラトキシンとよばれるC3aの定量が挙げられる。生体内でC3aが産生されると血管透過性の変化、平滑筋の収縮、肥満細胞と好塩基球によりヒスタミン遊離を起こし、炎症反応を主にきたす(補体の分子生物学−生体防御における役割− 株式会社南江堂)。
C3aの数値が大きいほど補体系が活性化していることを意味し、その数値の比較により、評価方法として有意に利用することができる。
【0056】
さらに本発明の別の免疫系評価方法として、最終補体複合体(TERMINAL COMPLEMENT COMPLEX, 以下TCCと表記する)の定量が挙げられる。補体系の活性化により膜障害複合体(以下、MACと表記する)が産生され、標的となる細胞膜を溶解する効果をもたらす一方、プロテインSによってMACの細胞膜溶解効果を不活性化することにより、免疫効果を制御している。プロテインSとMACが結合することによって生じ、細胞膜溶解能をもたないTCCについて、その数値の比較により補体系の活性化度を定量することができる。すなわち、TCC濃度が増大するほど補体系が活性化されたとみなすことができる。
【0057】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の血液適合性評価方法の一つとして、フィブリンゲル形成実験が挙げられる。この手法では、血液凝固因子のひとつであるフィブリノゲンの活性化度を評価することができる。具体的には、血漿中のフィブリノゲンがカルシウムイオンによってゲル化し、フィブリンゲルになる反応を利用するものである。サンプルと接触したカルシウムイオン添加血漿において、ゲル化に要す時間(以下、ゲル化時間とする)を計測することにより、血液凝固系の活性化を特別な測定機器を要することなく容易に評価することができるため、好ましい。ゲル化時間が長くなるほど血中タンパクの異物認識作用が惹起されにくいことを意味し、血液適合性が高いことを意味する。
【0058】
本発明において、コーティング用溶液は、少なくとも一種の水溶性有機溶媒と水とを混合した混合液に(メタ)アクリレート共重合体が分散されたものであることが好ましい。水溶性有機溶媒と水との混合液を用いることにより、該処理液の粘度を低くすることができるだけでなく、水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を均一に分散させ、かつ分散状態を長期間安定に保つことが可能となる。また、このような処理液は、比較的水を多く添加することにより基材である医療用具の損傷や変質を最小限に抑えることができる。
【0059】
本発明の水溶性有機溶媒は、炭素数1〜5の有機溶媒であることが好ましい。炭素数1〜5の水溶性有機溶媒としては具体的に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、アセトン、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、ターシャリーブタノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が使用されるが、この中でも沸点が低く、コーティング後の乾燥が容易なメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、アセトン、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0060】
本発明の処理液中、(メタ)アクリレート共重合体の濃度は0.001〜10重量%であることが好ましい。(メタ)アクリレート共重合体の濃度が低すぎると、例えば医療用具に適用した場合に十分に性能が発現しない可能性があるため、0.01重量%以上であることがより好ましい。また、濃度が高すぎると、処理液粘度が上昇しすぎて作業性が低下する恐れがあるために5重量%以下、場合によっては3重量%、1重量%以下であることが好ましい。
【0061】
本発明の処理液において、水溶性有機溶媒と水とを3〜45/97〜55の重量比で混合して用いることが好ましい。水溶性有機溶媒量が多すぎると、医療用具基材の変形や亀裂による損傷の恐れがあるため37重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましく、23重量%以下がさらにより好ましい。また、水溶性有機溶媒量が少なすぎると、(メタ)アクリレート共重合体を混合液に均一に分散させることができないため5重量%以上がより好ましい。
【0062】
本発明の処理液の調製方法としては、水溶性有機溶媒と水とをあらかじめ混合した混合液を攪拌しながら(メタ)アクリレートを混合液中に添加して分散させる方法、(メタ)アクリレート共重合体を一旦水溶性有機溶媒に溶解させたのち、攪拌下の水に添加し分散させる方法があるが、後者が均一な分散が見込まれるためより好ましい。
以上の本発明の処理液を要約すれば、疎水性(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる親水性(メタ)アクリレートとが30〜90/70〜10のモル比で共重合されてなる水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を、水溶性有機溶媒と水とが3〜45/97〜55の重量比からなる混合溶媒に濃度0.001〜10重量%を溶解してなる処理液により中空糸膜型人工肺の血液接触面を処理することになる。
【0063】
即ち、本発明の(メタ)アクリレート共重合体は水可溶性モノマーおよび水不溶性モノマーをバランスよく共重合させたものであるため、疎水性と親水性を兼ね合わせて有することになる。この場合には、疎水性の有機溶媒だけを処理液の溶剤として使用しても、水可溶性の親水性モノマーに対する影響を無視することができない。一方で、水を溶剤とすることは、該共重合体が本質的に水不溶性であるから、溶剤としての機能を果たすことが困難であるばかりでなく、共重合体の疎水性モノマーとの親和性の影響もある。このような特有の性質を有する該共重合体を含む処理液に適用できるような溶剤として、しかも、血液、医用材料という二つの界面機能をはたす処理液として、有機溶剤と水からなる特定の溶剤混合物を選定することは本発明者の知見に基づくものである。
【0064】
本発明の処理液において、水溶性有機溶媒と水との混合溶媒が最も適していることを知見したものであり、その混合割合は、各種医用材料への有機溶媒の影響、特に中空糸膜への影響を考慮したものであり、後述の理由により、3〜45/97〜55の重量比で混合することが好ましい。この混合割合は(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量にも関係するファクターを持っている。分子量が300,000、400,000と高くなれば、混合溶媒に対する溶解性も悪くなる傾向を示すことが予測され、比較的有機溶媒を多くする必要が生ずる。しかし、有機溶媒の影響を考慮すれば、(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は2,000以上、200,000以下であると特定することに関係をしている。例えば、数平均分子量が350,000のアクリレート共重合体により処理液を調製しようとすれば、水溶性有機溶媒/水=55/45というように混合比が本発明の範囲外となり、水溶性有機溶媒を比較的多量に使用することになり、中空糸膜への影響がその分懸念されることになり、本発明の特定する技術要件は、人工肺という特定の目的を達成する為に臨界的な範囲を持っており、しかもいずれも一体となって関連する技術事項でもある。
【0065】
そこで、有機溶媒と水の混合溶媒からなる処理液について、その技術的意味をさらに詳細に説明をすれば次のことがいえる。まず、医用材料は、各種プラスチック材料からなり、その材質も可塑剤を含んだり、加工助剤、添加剤、重合残渣などを含む場合がある。その形状も、場合によっては、中空糸膜のような、立体の多孔の構造からなるものである。さらに、高分子材料によっては得られる製品、脆弱な製品などの場合に、顕著な、膨潤、可塑化、表面破損、変形というような、損傷が発生することが懸念される。本発明の共重合体の場合には、有機液体に容易に溶解するが、一方で、医用材料に比較的やさしい水には難溶性である必要がある。
【0066】
混合組成について説明をすれば、有機液体が5(重量)%、8%、15%、20%、30%、60%と単調に増加をすれば、基材損傷値が段階的に比例するとみることができる。しかし、該共重合体は、本質的に水不溶性の特性を有しないと、溶出などの血液への影響が懸念されるわけである。そうすると、混合溶媒の水の量30%、40%、50%というように単調に増加すれば、その処理液が医用材料に接触しても非常に優しく、悪影響を与えないから基材の損傷評価が非常によい結果となる。しかし、本発明の処理液は、親水性、疎水性という特有の性質を備えた、分子量などにおいても汎用の共重合体とは若干異なるという事情も加わり、分散液が、水の量が多くなれば、処理の作業性の問題、処理液の性質の変化などもありうるが、必然的に、即または経時変化に従ってエマルジョン破壊や、懸濁液破壊、溶液破壊というような不安定な混合溶液になることも懸念される。該共重合体の親水性、疎水性という特性、混合溶媒の特性からすれば、撹拌などの簡単な操作では、もとの処理液のグレードには簡単に戻らないということが懸念される。このような処理液では、医用材料という生命に関する塗膜の処理液としての性能に不安が生ずる。
【0067】
さらに、本発明の処理液は、該共重合体の濃度0.001〜10重量%を溶解してなる処理液であり、比較的低濃度の溶液であって、中空糸膜に比較的容易に適用できるという利点を有する。比較的0.5重量%、1重量%、3重量%と任意の濃度に調製できるが、中空糸膜という血液接触面に適用して、酸素ガスの透過性に影響しないというような特殊な目的を持ったものであるから、未溶解の共重合体が存在することが支障となるばかりでなく、塗膜形成操作においても適正なものではない。
以上のような諸事情を考慮すれば、本発明の技術要件とも言える、共重合体の数平均分子量、混合溶媒の有機溶媒、水というその物質、3〜45/97〜55の重量比という組成割合、該共重合体の濃度0.001〜10重量%などは、密接に関連をした、技術的には臨界的な特徴を持った範囲である。
【0068】
本発明の処理液は、例えば、医療用チューブの内表面に(メタ)アクリレート共重合体をコーティングする場合、該処理液をそのまま医療用チューブの中空部に接触させた後、液体を蒸発させるなどして処理することもある。したがって、処理液中に分散している該共重合体が比較的短時間に沈殿を生じるのはあまり好ましくない。処理液の使用形態や保存期間等にもよるが、具体的には30日間の室温静置状態にて(メタ)アクリレート共重合体の目視確認可能な沈殿が生じるといった不均一状態が生じないことが好ましい。該(メタ)アクリレート共重合体はアルコール類への分散性が高く、アルコール類と水とを混合することにより長期間分散状態の維持が可能となる。水と混合して用いる該アルコール類として、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、ターシャリーブタノール等があるが、該(メタ)アクリレート共重合体の分散性が特に高い、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノールがより好ましい。
【0069】
通常、ポリマーを溶解した溶液の粘度は、ポリマー濃度の増加に伴って増大する。しかしながら、エマルジョンや懸濁状態などの分散状態をとることにより、ポリマー濃度を高めても比較的粘度を低く抑えることができ、高濃度でも溶液状態に比較して大幅に処理液粘度を下げることができる(新高分子文庫6 入門・エマルジョンの応用 高分子刊行会)。つまり、本発明の処理液を用いることにより、分散状態といういわば厳密には均一ではない状態を形成することによりポリマー分子鎖同士の絡み合いによる粘度上昇を最小限にとどめ、処理液粘度の上昇という作業性の低下を最大限に抑制することができる。
【0070】
次に、本発明の人工肺の概要を説明をすれば、膜型の構造から見れば、スクリーン型、フイルム型、膜型、気泡型、などの任意の膜型材料に、本発明の共重合体が適用できる。しかし、本発明においては、膜型としては中空糸膜を束ねて円筒状にした糸膜を円筒状に配置したモジュールの構造のものを人工肺とするのが最も適している。その膜型材料としては、現在主流になってポリプロピレン、ポリエチレンのような、無極性であり、溶出物が比較的少なく、しかも、延伸操作で容易に多孔質構造となる材料が推奨される。勿論それ以外にも、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリエステルなどの膜材料に供する各種汎用の高分子材料が使用できる。本発明の共重合体を被膜として形成する場合に、血液接触面にだけ適用することが不用意な溶出の問題を最小限にとどめ、煩雑な被膜形成作業を最小限にとどめることができるので、人工肺の安全性、人工肺の製造の省力化、低価格化の有意性を高める。中空糸膜の使用状態が、中空糸膜の中空部に血液を通して、外側に酸素を通してガス交換をする内部灌流型の場合には、中空糸膜の内面に本発明の共重合体を形成すれば足りる。一方、中空糸膜の外側に血液を通して、中空部に酸素を通してガス交換をする外部灌流型の場合には、中空糸膜の外面に本発明の共重合体を形成すれば足りる。
【0071】
この人工肺に共重合体の塗膜を形成する方法は、使用状態を考慮して、内部灌流型の場合には、中空糸膜の中空部に本発明の共重合体の処理液を通してから、乾燥した中空糸膜束をモジュール内に装填すればよい。外部灌流型の場合には、中空糸膜の外面に本発明の共重合体の処理液を浸漬などにより塗布してなる、乾燥した中空糸膜束をモジュール内に装填すればよい。
しかし、効率的には、予め人工肺を組み立てた後、人工肺の血液灌流側に上述の(メタ)アクリレート共重合体含有処理液もしくは溶解液を通して血液接触部に上記共重合体を被覆してから、例えば、通風乾燥、加温通風乾燥、減圧乾燥、減圧通風乾燥などの効率的な強制乾燥手法を任意に採用することにより混合溶媒を除去することが推奨される。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
本発明を実施するに於いては、以下のような重合方法、性能試験、および測定法に基づく実施することにより、本発明の人工肺の有意性を確認する。
【0073】
1.(共)重合体の製造および処理液の調製
(実施例1)
(1)共重合体の重合
還流塔を装着した攪拌可能な反応装置にメトキシトリエチレングリコールアクリレート(以下、MTEGAと表記する)(新中村化学工業社)33.3gおよび2−エチルヘキシルアクリレート(以下、EHAと表記する)(東京化成工業社)50.7g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0815g、エタノール(和光純薬社)84.2gを加え、80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、60℃、1Torrの条件下で4日間エバポレートすることにより重合溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得た。
【0074】
(2)再沈殿精製
得られた粗(メタ)アクリレート共重合体2gをテトラヒドロフラン2gに溶解し、攪拌下の貧溶媒(メタノール/水=85/15(重量比))20g中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収し、さらに同重量のテトラヒドロフランを加え溶解し、貧溶媒に滴下する操作を二回繰り返した後、60℃、0.1Torrの減圧条件下にて4日間減圧乾燥を行い、共重合体1を得た。
【0075】
(比較例1)
メトキシポリエチレングリコールアクリレート(MPEGA、エチレンオキシドの平均重合度9)(新中村化学工業社)95.2gおよびエチルアクリレート(EA)(東京化成工業社)5.1gにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.125gを加え、イソプロピルアルコール(東京化成工業社)250g中で80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、反応液をn−ヘキサンに滴下し沈殿させ、生成物を単離した。生成物をイソプロピルアルコールに溶解し、n−ヘキサンに滴下する操作を二回行い、精製した。これを一昼夜60℃にて減圧乾燥し、共重合体2を得た。
【0076】
(比較例2)
2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)(東京化成工業社)22.3gにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0467gを加え、酢酸エチル(東京化成工業社)100g中で80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、反応液をメタノールに滴下し沈殿させ、生成物を単離した。生成物をn−ヘキサンに溶解し、メタノールに滴下する操作を二回行い、精製した。これを一昼夜60℃にて減圧乾燥し、単独重合体1を得た。
【0077】
(比較例3)
還流塔を装着した攪拌可能な反応装置にメトキシモノエチレングリコールアクリレート(MMEGA)(東京化成工業社)25.6gにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0246g、ジメチルアセトアミド(キシダ化学社)119.1gを加え、80℃、20時間の条件で重合反応を行った。得られた重合溶液をパスツールピペットにて攪拌下のノルマルヘキサンに滴下することにより粗ポリマーを得た。粗ポリマー2gをテトラヒドロフラン2gに溶解し、攪拌下の貧溶媒(ノルマルヘキサン)20g中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収し、さらに同重量のテトラヒドロフランを加え溶解し、貧溶媒に滴下する操作を二回繰り返した後、60℃、0.1 Torrの減圧条件下にて4日間減圧乾燥を行い、単独重合体2を得た。
【0078】
(実施例2)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(以下、MTEGAと表記する)(新中村化学工業社)33.3gおよび2−エチルヘキシルアクリレート(以下、EHAと表記する)(東京化成工業社)50.7g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0815g、エタノール(和光純薬社)33.7gを加え、80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、60℃、1Torrの条件下で4日間エバポレートすることにより重合溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得た。得られた粗(メタ)アクリレート共重合体2gをテトラヒドロフラン2gに溶解し、攪拌下の貧溶媒(メタノール/水=85/15(重量比))20g中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収し、同様の操作で再沈殿精製を二回繰り返した後、60℃、0.1Torrの減圧条件下にて4日間減圧乾燥を行い、共重合体3を得た。
【0079】
(実施例3)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(以下、MTEGAと表記する)(新中村化学工業社)33.3gおよび2−エチルヘキシルアクリレート(以下、EHAと表記する)(東京化成工業社)50.7g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0654g、エタノール(和光純薬社)126gを加え、80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、60℃、1Torrの条件下で4日間エバポレートすることにより重合溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得た。得られた粗(メタ)アクリレート共重合体2gをテトラヒドロフラン2gに溶解し、攪拌下の貧溶媒(メタノール/水=85/15(重量比))20g中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収し、同様の操作で再沈殿精製を二回繰り返した後、60℃、0.1Torrの減圧条件下にて4日間減圧乾燥を行い、共重合体4を得た。
【0080】
(実施例4)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(以下、MTEGAと表記する)(新中村化学工業社)33.4gおよびラウリルアクリレート(以下、LAと表記する)(東京化成工業社)38.9g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0747g、酢酸エチル(東京化成工業社)72.5gを加え、80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、60℃、1Torrの条件下で4日間エバポレートすることにより重合溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得た。得られた粗(メタ)アクリレート共重合体2gをテトラヒドロフラン2gに溶解し、攪拌下の貧溶媒(メタノール/水=85/15(重量比))20g中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収し、同様の操作で再沈殿精製を二回繰り返した後、60℃、0.1Torrの減圧条件下にて4日間減圧乾燥を行い、共重合体5を得た。
【0081】
2.重合体の物性および構造の測定
(1)数平均分子量の測定
共重合体1〜5および単独重合体1、2;15mgに3mLのGPC測定用の移動相を加えて溶解し、0.45μmの親水性PTFE(Millex−LH;日本ミリポア社)でろ過を行った。GPC測定は510高圧ポンプ、717plus自動注入装置(日本ウォーターズ社)、RI−101(昭和電工社)の測定装置を用い、カラム;PLgel 5μMIXED−D(600x7.5 mm)(Polymer Laboratories社)、カラム温度は常温で行い、移動相は0.03重量%のジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を添加したテトラヒドロフラン(THF)を用いた。RIにて検出を行い、50μL注入した。分子量校正は単分散PMMA(Easi Cal: Polymer Laboratories社)で行った。
【0082】
(2)重合組成比の測定
NMR用試験管(規格;N−5、日本精密化学社)中に共重合体1〜5および単独重合体1、2;50 mgをパスツールピペットにて加えた後、重クロロホルム(和光純薬社)0.7 mLを加え十分に混和し、試料用キャップ(規格;NC−5、日本精密化学社)で蓋をした。重合組成比は、VARIAN社のGEMINI−200を用いて室温下1H NMR測定を実施し、共重合組成比を算出した。共重合組成比は、アルキル(メタ)アクリレートの末端メチル基由来プロトンの積分比および、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの末端メトキシ基由来のプロトン積分比を用いて決定した。
【0083】
(3)収率の計算
重合体の仕込みモノマーの総重量に対する、再沈殿及び乾燥後の重合体重量比を収率として算出した。収率が50〜90%の範囲内に入れば、良好と評価した。
【0084】
(4)未反応モノマー残存量測定
NMR用試験管(規格;N−5、日本精密化学社)中に共重合体1〜5および単独重合体1、2;50 mgをパスツールピペットにて加えた後、重クロロホルム(和光純薬社)0.7 mLを加え十分に混和し、試料用キャップ(規格NC−5、日本精密化学社)で蓋をした。共重合組成比は、VARIAN社のGEMINI−200を用いて室温下1H NMR測定を実施し、算出した。算出には、未反応モノマー由来の二重結合に存在するプロトン積分比(M1)および、ポリマー中のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレート由来プロトンの積分比の和(P1)による、M1/(P1+M1)×100の演算式を用いた。モノマー含有量が5mol%以下となれば、良好と評価した。
【0085】
(5)アルコール可溶性テスト
50 mLバイアル中に共重合体1〜5および単独重合体1、2;500mgを加えた後、エタノール2 mLを加え室温にて48時間静置したのち、目視により溶解を確認した。
【0086】
(6)ガラス転移温度の測定
示差走査熱量計(島津DSC−50)を用いた。共重合体1〜5および単独重合体1、2;10 mgをセル(Alセル,6mmφ,島津製作所)につめ、蓋をして、シーラ・クリンパ(島津製作所)でクリンプおよびシールした後、測定機器にセットして測定を行った。サンプルを30℃から300℃まで50℃/minにて昇温し5min保持した後、10℃/minにて−100℃まで冷却し、5min保持した。その後の−100℃から300℃までの熱履歴によりガラス転移温度(Tg)を算出した。
【0087】
3.重合体の性能試験
(1)血小板粘着試験用サンプル調整−エージング処理
共重合体1〜5および単独重合体1、2;0.2 gにエタノール19.8 gを加えて溶解することで1重量%のエタノール溶液を調整し、処理液を得た。各処理液中に25x25x1mmの軟質塩ビシートを浸漬した後、軟質塩ビシートを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で30日間エージングを行い、血液適合性試験用エージングサンプルとした。30日間エージング後のサンプルについて、重量減少率を測定した。重量減少率が20重量%以下のものを○、20重量%より大きいものを×とした。重量減少が20%以上の場合は測定誤差を考慮しても有意に生理食塩水に溶解したと判断できる。
【0088】
(2)血小板粘着試験
ウサギより脱血した加クエン酸新鮮血60mLを50mL遠沈管二本に等分し、それを1000rpmにて10分間遠心分離した。その上澄みを10mL遠沈管四本に等分した。それをさらに1500rpmで10分間遠心分離した後、上澄みを除去し、沈殿である血小板ペレットを分離した。その中にHBSS(ハンクス平衡塩溶液)を添加して希釈することで、血小板濃度3.0x10/mLの血小板溶液を得た。血小板濃度は血球カウンター(KX−21 シスメックス社)で確認した。この濃度の血小板溶液を試験液とした。得られた試験液を0.2mLとり、60x15mmのシャーレ(コーニング社、ポリスチレン製)内の前項記載のサンプル上面に滴下した後、蓋をして37℃で1時間インキュベートした。その後、2.5重量%のグルタルアルデヒド水溶液5mLを加え、室温で24時間静置した。水でシャーレ内の溶液を置換する操作を3回行った後、排水した。水で洗浄した塩ビシートを−5℃で24h凍結させた後、0.1Torrにて24h乾燥させた。塩ビシートから血小板液滴下部位から10x10 mm分を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)用サンプル台に両面テープではりつけ、測定サンプルとした。イオン蒸着を行ったサンプルを用いてSEMにて粘着血小板の様子を撮影した。撮影したSEM写真(x3000倍)を目視により比較観察した。付着血小板数が50以下であれば、撮影部位の血小板分布を加味しても有意に血小板が粘着しないとみなすことができるため良好とし、50より多い場合を不良とした。
【0089】
(3)補体−補体価−測定試験
(補体評価−サンプル調製)
共重合体1〜5および単独重合体1、2;0.2gにエタノール19.8gを加えて溶解することにより得られた溶液を処理液とし、各処理液中に直径1mmのガラスビーズ1gを10秒間浸漬後、排液し、60℃にて24時間乾燥させ、さらに37℃水中で30日間エージングを行ったのち乾燥させることにより、補体(補体価、C3a)評価用サンプルとした。
【0090】
(補体−補体価−測定)
50mLポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)内に分取したヒト新鮮血10mLを室温にて静置することで凝固させ、3000rpmにて30分間遠心(LC06、TOMY SEIKO CO. LTDを使用)させることにより血清3.5mL得た。前記の方法で、共重合体1〜5および単独重合体1、2にて表面処理を行った直径1mmのガラスビーズ1gに希釈液0.1mLを添加した後、37℃にて1時間インキュベートした。得られた血清0.2mLを添加し、同様に37℃にて1時間インキュベートを行った。希釈液2.6mL、接触した血清12.5μL及び感作ヒツジ赤血球0.4mLを十分混合した後、37℃にて1時間インキュベートを行い、0℃にて10分冷却した後、2000rpmにて遠心し、上澄み2mLの吸光度を541nmにて測定した(U−2000 Spectrometer、HITACHI社を使用)。同時に希釈液2.6mLおよび感作ヒツジ赤血球0.4mLを添加したものを溶血なしのものとしてデータを差し引いた。測定にはオートCH50−L「生研」(統一商品番号400437・希釈液52mL、感作ヒツジ赤血球6mL)を用いた。表面処理を行わないガラスビーズの吸光度を1としての相対的な吸光度を算出した。1.2以上であれば良好と判断した。1.2未満の場合は測定誤差を考慮しても有意に補体が活性化したと判断できる。
【0091】
(補体−C3a−測定)
50mLポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)内に分取したヒト新鮮血10mLと3.2重量%のクエン酸三ナトリウム水溶液1mLとを十分混合したのち、2000rpmにて30分間遠心(LC06、TOMY SEIKO CO. LTDを使用)させることにより血漿を4.5mL得た。前記の方法で共重合体1〜5および単独重合体1、2にて表面処理を行った直径1mmのガラスビーズ4.6gに生理食塩水0.5mLを添加した後、37℃にて1時間インキュベートし、得られた血漿1mLを添加して同様に37℃にて1時間インキュベートを行い、うち0.5mLを評価検体とした。検体は速やかに−20℃以下に冷却し、測定まで保存した。評価はHuman Complement C3a Des Arg[125I] Biotrak Assay System,code PRA518(Amersham Biosciences社)を用い、添付マニュアルに従って行った。データ数3の平均値として算出した。未処理評価検体の値が94ng/mLであったことから、C3a値が100ng/mL以上の場合は、測定誤差を考慮しても有意に補体が活性化されたとみなせるため、不良と評価した。
以上の実施例1〜4および比較例1〜3の測定結果を表1に列挙する。本発明の共重合体の性能は人工肺としての要件を満たしていることがわかる。
【0092】
【表1】

【0093】
4.人工肺の製造と性能試験
(1)人工肺の製造
内径195μm、外径295μm、空孔率約35%の多孔質ポリプロピレン製中空糸膜約20,000本をハウジングに収納し、膜面積1.8mである、外部灌流型中空糸膜人工肺を作成した。後述する各処理液を人工肺の中空糸膜外側部に充填し、排液後、血液流入側から窒素ガスを約1kgf/cmの圧力で送り、水およびエタノールの混合溶媒を除去して人工肺を製造する。
【0094】
(2)処理液の調製
上記、実施例1〜4、および比較例1〜3により製造された(共)重合体を使用して、処理液を調製する実施例、および比較例を示す。
【0095】
(実施例5)
実施例1の共重合体1;0.6gをエタノール;36.9gに溶解させ、次いで水;262.5gに添加混合することにより、実施例1の操作に従って処理液を製造した。該処理液は共重合体が混合液に分散した状態、いわゆる懸濁液であった。これを処理液1とする。
【0096】
(実施例6)
実施例1の共重合体1;0.6gをエタノール;299.4gに溶解させることにより、実施例1の操作に従って処理液を製造した。これを処理液2とする。この場合、溶媒が有機溶媒単独のため、共重合体は均一溶解した溶液状態となっていた。そのためか、人工肺を該処理液にて処理した際に、血液非接触側にも若干の処理液の浸潤がみられた。
【0097】
(比較例4)
比較例1の共重合体2;0.6gをエタノール;299.4gに溶解させることにより、実施例1の操作に従って混合溶液を製造した。これを処理液3とする。この場合、溶媒が有機溶媒単独のため、共重合体は均一溶解した溶液状態となっていた。そのためか、人工肺を該処理液にて処理した際に、血液非接触側にも若干の処理液の浸潤がみられた。
【0098】
(比較例5)
比較例2の単独重合体1;0.6gをエタノール;299.4gに溶解させ、実施例1の操作に従って混合溶液を製造した。これを処理液4とする。この場合、溶媒が有機溶媒単独のため、重合体は均一溶解した溶液状態となっていた。そのためか、人工肺を該処理液にて処理した際に、血液非接触側にも若干の処理液の浸潤がみられた。
【0099】
(比較例6)
比較例3の単独重合体2;0.6gを水/エタノール/メタノール=179.7g/89.8g/29.9gの混合溶媒に溶解させ、実施例1の操作に従って混合溶液を製造した。これを処理液5とする。この場合、溶媒が有機溶媒単独のため、重合体は均一溶解した溶液状態となっていた。そのためか、人工肺を該処理液にて処理した際に、血液非接触側にも若干の処理液の浸潤がみられた。
【0100】
(比較例7)
比較例1の共重合体2;0.6gをメタノール;299.4gに溶解させ、実施例1の操作を従って混合溶液を製造する。これを処理液6とする。この場合、溶媒が有機溶媒単独のため、重合体は均一溶解した溶液状態となっていた。そのためか、人工肺を該処理液にて処理した際に、血液非接触側にも若干の処理液の浸潤がみられた。
【0101】
(実施例7)
実施例2の共重合体3;0.6gをエタノール;36.9gに溶解させ、次いで水;262.5gに添加混合することにより、実施例1の操作に従って処理液を製造した。該処理液は共重合体が混合液に分散した状態、いわゆる懸濁液であった。これを処理液7とする。
【0102】
(実施例8)
実施例3の共重合体4;0.6gをエタノール;36.9gに溶解させ、次いで水;262.5gに添加混合することにより、実施例1の操作に従って処理液を製造した。該処理液は共重合体が混合液に分散した状態、いわゆる懸濁液であった。これを処理液8とする。
【0103】
(実施例9)
実施例4の共重合体5;0.6gをエタノール;36.9gに溶解させ、次いで水;262.5gに添加混合することにより、実施例1の操作に従って処理液を製造した。該処理液は共重合体が混合液に分散した状態、いわゆる懸濁液であった。これを処理液9とする。
【0104】
(3)性能試験
(コーティング中空糸膜の補体評価)
50mLポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)内に分取したヒト新鮮血10mLを室温にて静置することで凝固させ、3000rpmにて30分間遠心(LC06、TOMY SEIKO CO. LTDを使用)させることにより血清3.5mL得た。人工肺のPP製中空糸膜0.02g(長さ1.5cm)を前記の各処理液に10秒間浸漬し、60℃にて3時間乾燥させた。さらに、10mLPP製スピッツの内面も同様に表面処理を行い、乾燥させ、さらに表面処理を行った中空糸およびスピッツを、37℃水中で30日間エージングを行ったのち乾燥させ、評価サンプルとした。該表面処理済のスピッツ内にコーティングした中空糸膜を封入し、検体とした。検体に希釈液0.1mLを添加した後、37℃にて1時間インキュベートした。得られた血清0.2mLを添加し、同様に37℃にて1時間インキュベートを行った。希釈液2.6mL、接触した血清12.5μL及び感作ヒツジ赤血球0.4mLを十分混合した後、37℃にて1時間インキュベートを行い、0℃にて10分冷却した後、2000rpmにて遠心し、上澄み2mLの吸光度を541nmにて測定した(U−2000 Spectrometer、HITACHIを使用)。同時に希釈液2.6mLおよび感作ヒツジ赤血球0.4mLを添加したものを溶血なしのものとしてデータを差し引いた。測定にはオートCH50−L「生研」(統一商品番号400437・希釈液52mL、感作ヒツジ赤血球6mL)を用いた。表面処理を行わないガラスビーズの吸光度を1としての相対的な吸光度を算出した。1.2以上の場合は良好とし、1.2未満の場合は不良とした。1.2未満の場合は測定誤差を考慮しても有意に補体が活性化したと判断できる。
【0105】
(フィブリンゲル形成実験)
50mLポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)中の加クエン酸牛血45mLを、2000rpmにて30分間遠心(LC06、TOMY SEIKO CO. LTDを使用)することによりウシ血漿を8mL得た。先述の方法で表面処理を行った直径1mmのガラスビーズ1gおよび、同様に内面を表面処理した10mLポリスチレン製遠沈管を、37℃水中で30日間エージングを行ったのち乾燥させ、評価サンプルとした。該ガラスビーズが封入された同遠沈管内に、ウシ血漿1.8mLを添加後、37℃にて3分間インキュベートし、0.125NのCaCl水溶液0.2mLを添加、混合した直後を反応開始とし、37℃にてインキュベートした。反応開始後10秒間隔でゲル化完了の有無を確認し、ゲル化時間を計測した。N数を3とし、その平均値を求めた。表面未処理のサンプルの凝固時間は635秒であったことから、測定誤差を考慮しても有意に凝固系を活性化させていると判断できる600秒未満を、良好と評価した。なお、実験に用いたウシ血漿中のタンパク濃度が凍結乾燥後の秤量値により算出され、82mg/mLであった。
【0106】
(人工肺へのコーティング及び中空糸透過性確認)
内径195μm、外径295μm、空孔率約35%の多孔質ポリプロピレン中空糸膜約20000本をハウジングに収納し、膜面積1.8mの血液外部灌流型中空糸膜人工肺を作成した。処理液1〜9を人工肺の中空糸膜外側に充填し排液後、血液流入側から窒素ガスを1kgf/cmの圧力で流し、処理液がガス透過側から10分以内に流出するかどうかを目視にて確認した。処理液が漏出しない場合、中空糸膜の親水化による血漿リークおよび細孔の目詰まりによるガス透過性の低下を最大限に抑制することができると判断できる。該方法により、それぞれ人工肺1〜9を得た。
【0107】
(人工肺エージング処理)
人工肺1〜9に水を充填し、37℃にて7日間エージングを行った後に乾燥し、人工肺10〜18を得た。
【0108】
(4)溶出物試験
(抽出)
各人工肺の重合体被覆側に70℃の蒸留水を充填し、70℃にて30分静置させ、250mLの抽出液を回収し、以下の溶出物試験における試験液とした。また、70℃にて30分静置した蒸留水を空試験液とした。
【0109】
(pH)
pHメーターの電源をONにし、電極を注射用蒸留水で洗浄し、キムワイプでふきとった。pH7の標準液をセットして磁気攪拌子をスターラーにて回転させ、校正を行った。pH4の標準液を同様に校正した。試験液20mLをホールピペットを用いて測定用ガラス瓶に採取した。塩化カリウム溶液を1mLホールピペットを用いて、試験液の入った測定用ガラス瓶に採取し、ついでスターラーチップを入れた。試験液をセットしてスターラーを回した。下記式により、pHを決定した。
pH=pH(試験液)−pH(空試験液)
pH変化の絶対値が0.2未満であるとアクリレート側鎖の加水分解等によるアクリル酸構造の露出が軽微であると判断できるため、良好とし、0.2以上を不良とした。
【0110】
(還元性物質)
電熱器にスライダックスを接続し、コンセントを接続した。電熱器600Wスライダックス40Vに設定して1時間予熱を行った。ホールピペットで試験液10mLを100mL共栓付き三角フラスコに採取した。1/100N過マンガン酸カリウム溶液20mLを三角フラスコ内に添加した。10%希硫酸1mLを三角フラスコ内に添加した。共栓をし、振とうして均一に混合した。100mL三角フラスコに沸石をいれセットし、15分間煮沸した。沸騰を始めて3分間さらに煮沸した。フラスコを取り出し包装紙を挟んで共栓をし、専用冷却器を用いて5分間冷却した。100g/Lヨウ化カリウム溶液を1mL添加し、共栓をして振とうして混合し、10分間静置した。デンプン指示薬を滴瓶から直接5滴加えて振とうして混和した。1/100Nチオ硫酸ナトリウム溶液を入れて滴定し、暗青色が完全になくなった点を終点とした。試験液を空試験液に換えて、同様の測定を実施した。下記式より、試験液の還元性物質量とした。
還元性物質量(mL)=試験液の滴定量(mL)−空試験液の滴定量(mL)
還元性物質量が0.8mL以下であれば、ポリマー構造が安定に存在するといえるため良好とし、0.8mLを超える場合は不良とした。
【0111】
(蒸発残留物)
50mLビーカーを器具乾燥機により105℃で2時間乾燥させた。ピンセットを70%エタノールで消毒し、ビーカーを器具乾燥器から取り出しデシケーター中で20分間放置放冷した。ビーカーを1個ずつデシケーターから取り出して精秤した。試験液20mLを精秤した50mLビーカーに採取し、105℃にて60分間乾燥させたのち、ビーカーをデシケーター内で20分間放冷させた。ビーカーをデシケーターより取り出して精秤し、空ビーカー重量から差し引き、蒸発残留物量とした。蒸発残留物量が10mg以下であると血液中への溶出が十分抑制できると判断できるため良好とし、10mgを超える場合は不良とした。
【0112】
(原子吸光測定)
測定は島津原子吸光/フレーム分光光度計AA−670(島津製作所社)を用いて行った。1000ppm標準液を希釈して検量線の濃度調整は亜鉛(0.2、0.5、1.0ppm)、鉛(0.5,1.0,2.0ppm)、カドミウム(0.05,0.1,0.2ppm)で行った。検量線を作成後、試験液における濃度定量を実施した。亜鉛濃度が0.8ppm、鉛濃度が0.4ppm、カドミウム濃度が0.04ppm以下であると生体への危険性を回避できるため良好とし、それぞれの規定値を超える場合を不良とした。
【0113】
(清浄度試験)
メスシリンダーで試験液を10mL量り取った。ろ紙(白色及び緑色)をフィルターの上に置き、その上からろ過器を置いてクランプでとめ、試験液をろ過した。ろ過器からろ紙を取り出し、ペトリ皿に入れ、ふたをした。空試験液も同様に行った。ろ過を終えたろ紙上の異物数を、拡大鏡(オリンパス製)を用いてカウントし、次式により算出した。
異物数(個)=カウント数(個)/(10(mL)/250(mL))x1/2
異物数が20以下の場合は異物混入の恐れを回避できるため良好とし、20を超える場合を不良とした。20以下の場合は適合と判断をする。
【0114】
(泡立ち)
抽出液5mLを試験管に採取し、共栓をした。共栓付試験管を1秒以内に5回上下に激しく振ったのち、該試験管を試験管立てに静置した。振とうを停止した時点から2分後の泡の状態を以下の基準により評価した。A;泡が全域にわたり層をなしている。B;泡がリング状に存在する。C;泡の存在は全周にわたらない。泡の数は10粒以上。D;泡は存在するが、その数は10粒未満。E;泡は全く存在しない。2分後に泡が10粒未満の場合となるDおよびEについては溶出成分がないと判断できるため良好とし、10粒以上のA〜Cを不良とした。
【0115】
(吸光度)
220nmにおける吸光度を、ブランクに水を用いて測定した。吸光度が0.2以下の場合は抽出誤差を加味しても溶出成分がないと判断できるため良好とし、0.2を超える場合は不良とした。
【0116】
(5)血漿リーク試験
各実施例および比較例に示す人工肺を体外循環回路中に組み込み、クエン酸加牛血1100mLと乳酸リンゲル液1900mLを充填し、37℃で1L/minで8時間灌流し、血漿リークの有無を目視にて確認した。
以上の主な人工肺としての性能に関する、主な結果の結果を表2に示す。
【0117】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の中空糸膜型人工肺は、呼吸補助機能として、心臓外科手術の確立にあいまって広く使われることが確実になっている。勿論心臓外科手術の回復が遅れた場合の、継続的な補助機能としての役割を果たすものと期待されている。さらには呼吸不全患者、肺機能の低下に対処する患者、など肺または肺機能が求められる慢性的な患者の救済、補助などの、呼吸器全体の機能が求められる医療分野において使用できるものである。さらに本発明の人工肺は、医療分野全体における人工臓器の利用、役割、開発および医療用材料の発展に著しく寄与するものといえる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の中空糸膜がハウジング内に収納された中空糸膜型人工肺であって、中空糸膜の血液接触部の少なくとも一部が水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体により被覆されていることを特徴とする中空糸膜型人工肺。
【請求項2】
水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体が、疎水性(メタ)アクリレートおよび親水性(メタ)アクリレートからなる請求項1に記載の中空糸膜型人工肺。
【請求項3】
疎水性(メタ)アクリレートが下記一般式1で示されるアルキル(メタ)アクリレートを含む請求項2に記載の中空糸膜型人工肺。
【化1】

(式中、Rは炭素原子数2〜30のアルキル基またはアラルキル基、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【請求項4】
親水性(メタ)アクリレートが下記一般式2で示されるメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを含む請求項2または3に記載の中空糸膜型人工肺。
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜1,000の整数を示す。)
【請求項5】
血液を通す中空糸膜の内面に水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体被膜が形成されている内部灌流型であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中空糸膜型人工肺。
【請求項6】
血液を通す中空糸膜の外面に水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体被膜が形成されている外部灌流型であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中空糸膜型人工肺。
【請求項7】
血液接触面に被覆形成された水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体が、疎水性(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる親水性(メタ)アクリレートとが30〜90/70〜10のモル比で共重合されてなる(メタ)アクリレート共重合体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の中空糸膜型人工肺。
【請求項8】
疎水性(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる親水性(メタ)アクリレートからなる水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は2,000以上、200,000以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の中空糸膜型人工肺。
【請求項9】
疎水性(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる親水性(メタ)アクリレートとが30〜90/70〜10のモル比で共重合されてなる水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を、水溶性有機溶媒と水とが3〜45/97〜55の重量比からなる混合溶媒に濃度0.001〜10重量%で添加されてなる処理液により血液接触面が処理されてなることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の中空糸膜型人工肺の処理方法。


【公開番号】特開2008−264719(P2008−264719A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113480(P2007−113480)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【特許番号】特許第4046146号(P4046146)
【特許公報発行日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】