説明

中空紡績糸織編物及びその製造方法

【課題】 軽量性、嵩高性、保温性及び速乾性に優れ、かつ中空つぶれの少ない中空紡績糸織編物、及びこの中空紡績糸織編物を効率よく、かつ環境汚染を抑制しつつ製造する方法を提供することを技術的課題とする。
【解決手段】 主として中空紡績糸からなる織編物であって、該中空紡績糸が、芯成分としてポリ乳酸系繊維を配してなる複重層紡績糸から該ポリ乳酸系繊維を溶解除去することにより得られたものである中空紡績糸織編物、及び芯成分としてポリ乳酸系繊維を配してなる複重層紡績糸を用いて製織編した後、アルカリ処理する中空紡績糸織編物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空紡績糸織編物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、芯成分として溶解性繊維を配した複重層紡績糸が提案され、この複重層紡績糸を用いて織編物を作製した後、該溶解性繊維を溶解除去することで複重層紡績糸の横断面中央部に中空部を形成させた織編物が提案されている。この織編物は、軽量性、嵩高性に優れるため、主としてインナー用途に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリエステル系長繊維のPOY(POY:未延伸糸)の周囲を綿の繊維束で被覆してなる複合糸を使用した織物を、アルカリ処理することによりポリエステル系長繊維のPOYを除去し、綿の繊維束より構成される糸状が中空形状となった綿織物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、芯成分として水溶性ポリビニルアルコール系繊維を、鞘成分としてポリエステル系繊維を配してなる芯鞘型複合紡績糸を用いて製織した後、熱水処理を施して該芯成分を溶解除去する嵩高性織編物が提案されている。
【特許文献1】特公平8−1026号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平9−302543号公報(実施例2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では溶解除去するものにまで石油系ポリマーが使用されていて石油原料を消費する。また、これらの織編物の製造において、複合紡績糸の芯成分を溶解除去した後の廃液には芯成分の繊維を構成するポリマーが含まれており、このポリマーが分解せずに長期に渡って地中に残るため、環境汚染を引き起こすという問題もある。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、軽量性、嵩高性、保温性及び速乾性に優れ、かつ中空つぶれの少ない中空紡績糸織編物、及びこの中空紡績糸織編物を効率よく、かつ環境汚染を抑制しつつ製造する方法を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、複合紡績糸の芯成分としてポリ乳酸系繊維を用いたところ、従来法と比較して効率よく芯成分を溶解除去できること、並びに芯成分を溶解除去した後の廃液が環境汚染を引き起こし難くなることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 主として中空紡績糸からなる織編物であって、該中空紡績糸が、芯成分としてポリ乳酸系繊維を配してなる複重層紡績糸から該ポリ乳酸系繊維を溶解除去することにより得られたものであることを特徴とする中空紡績糸織編物。
(2)前記複重層紡績糸が、前記ポリ乳酸系繊維を多芯的に配してなることを特徴とする上記(1)記載の中空紡績糸織編物。
(3)前記複重層紡績糸が、鞘成分としてセルロース系繊維を配してなることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の中空紡績糸織編物。
(4)前記複重層紡績糸が、鞘成分としてポリエステル短繊維を配してなることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の中空紡績糸織編物。
(5)前記ポリエステル短繊維が中空繊維であることを特徴とする上記(4)記載の中空紡績糸織編物。
(6)前記複重層紡績糸が、鞘成分として外側部分にセルロース系繊維を配し、内側部分にポリエステル短繊維を配してなることを特徴とする上記(4)又は(5)記載の中空紡績糸織編物。
(7)芯成分としてポリ乳酸系繊維を配してなる複重層紡績糸を用いて製織編した後、アルカリ処理することを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の中空紡績糸織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の中空紡績糸織編物は、軽量性、嵩高性、保温性及び速乾性に優れる。したがって、本発明の中空紡績糸織編物は、広く衣料用途に使用することができ、特に直接肌に触れるインナー用途に好適に用いることができる。
【0010】
また、本発明の中空紡績糸織編物の製造方法によれば、上記複重層紡績糸を含む織編物としてからアルカリ処理するので、製織編により中空部がつぶれるという心配がなく、効率よく芯成分のポリ乳酸系繊維を溶解除去することができる。そして、アルカリ処理後の廃液は、通常の中和処理によって環境を汚染することなく処分することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の中空紡績糸織編物は、中空紡績糸を用いてなる織編物である。中空紡績糸とは、紡績糸の横断面において繊維の存在しない中空部を有する紡績糸をいう。中空紡績糸の横断面形状としては、例えば、図1、5、6に示す単穴型の他、図2に示す2穴型に代表される複数の中空部を有する多穴型などがあげられる。
【0013】
中空紡績糸の中空率としては、10〜25%が好ましい。中空紡績糸の中空率とは、紡績糸横断面において中空部を含む全断面積に対する該中空部の断面積比率を指す。紡績糸の中空率が10%未満であると、中空部を有することによる保温性が低下する傾向にあるため好ましくない。一方、25%を超えると、外力によって中空部がつぶされやすい傾向にあるため好ましくない。
【0014】
本発明における中空紡績糸は、芯成分としてポリ乳酸系繊維を配してなる複重層紡績糸から該ポリ乳酸系繊維を溶解除去することにより得られる。ポリ乳酸系繊維の溶解除去は、製織編の前後いずれであってもよい。該複重層紡績糸の横断面形状の例を図3、4、7、8に示す。ポリ乳酸系繊維の配置としては、図3、7、8に示すような単芯型の他、図4に示す2芯型に代表される複数の芯成分を有する多芯型であってもよい。
【0015】
ポリ乳酸系繊維としては、乳酸の構造単位がL−乳酸であるポリL−乳酸、構造単位がD−乳酸であるポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体であるポリD,L−乳酸、もしくはポリD−乳酸とポリ−L乳酸とからなるポリ乳酸ステレオコンプレックス、さらにはD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体などのポリ乳酸系ポリマーで形成されたポリ乳酸系繊維を用いることができる。
【0016】
ここで、前記ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシカプリル酸などがあげられる。
【0017】
ポリ乳酸系ポリマーの数平均分子量としては、製糸性の点から、2万〜15万であることが好ましく、4万〜15万であることがより好ましい。ポリ乳酸系ポリマーの融点としては、サイジング工程での受熱による繊維の溶融を抑制する点から、120℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。
【0018】
上記ポリ乳酸系繊維の横断面形状としては、どのような形状であってもよいが、溶解除去に要する時間を短縮させたい場合は、中空繊維を採用することが好ましい。繊維の形態としては、長繊維、短繊維の何れであってもよい。
【0019】
また、上記ポリ乳酸系繊維の結晶化度としては、繊維の機械的強度を向上させる点から10〜40%の範囲にあることが好ましい。上記範囲の結晶化度を達成するには、熱処理や延伸を施せばよい。特に、ポリ乳酸系ポリマーに対して、例えば、タルク、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタンなどの結晶核剤を添加することにより結晶化度を向上させやすくなるので好ましい。結晶核剤を添加することは、繊維の機械的強度の向上だけでなく、耐熱性を向上させ、しかも溶融紡糸工程及び冷却工程における糸条間の融着(ブロッキング)をも防止しうる点で好ましい。結晶核剤の添加量としては、ポリ乳酸系ポリマーに対し、0.1〜3.0質量%が好ましく、0.2〜2.0質量%がより好ましい。
【0020】
一方、複重層紡績糸の鞘成分の繊維としては、特に限定されるものではないが、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタンなどの合成繊維、ジアセテート、トリアセテートなどの半合成繊維、ポリノジック、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、綿、麻、竹、絹、羊毛などの天然繊維を用いることができる。中でも、中空紡績糸織編物の嵩高性向上の点からセルロース系繊維を用いることが好ましい。セルロース系繊維としては、ポリノジック、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維、綿、麻、竹繊維などがあげられる。
【0021】
また、鞘成分においては、複数種の繊維が混合されて用いられていてもよい。混合形態としては、混紡あるいは多層構造の何れであってよいが、各繊維の特性を中空紡績糸織編物に効果的に反映できる点で多層構造を採用することが好ましい。多層構造とは、複数の繊維層が重なりあっている態様をいう。繊維層の数は、適宜設定することができるが、製造上の点から2層が好ましい。
【0022】
鞘成分の繊維の形態としては、長繊維、短繊維の何れであってもよいが、中空紡績糸織編物の風合いを向上させる点から短繊維が好ましい。特に、速乾性を向上させる点でポリエステル短繊維が好ましい。
【0023】
鞘成分の繊維の横断面形状としては、特に限定されるものではなく、通常の丸断面の他、楕円形、三角形、多角形、井型などの異形断面であってもよい。特に横断面形状として、マカロニ型、井型などの中空型(以下、横断面形状が中空型である繊維を中空繊維と記す)を採用すると、織編物の軽量性、保温性を高めることができる。これは、前記した中空紡績糸の中空部、すなわちマクロ的な中空部と、鞘成分を構成する繊維の内部に存在するミクロ的な中空部との相乗効果による。ただし、前記した中空紡績糸の中空率の算出にあたっては、中空繊維内部のミクロ的な中空部は中空部とは見ない。
【0024】
なお、ミクロ的な中空部にかかる上記中空繊維の中空率(中空部を含む中空繊維全断面積に対する該中空部の占める面積比率)は、10〜50%が好ましい。中空率が10%未満では、中空繊維とする効果に乏しい。一方、中空率が50%を超えるものは、安定して製造し難いので好ましくない。
【0025】
また、鞘成分の繊維の繊度としては、0.5〜3.3dtexが好ましい。短繊維の場合の繊維長としては、30〜60mmが好ましい。繊度及び繊維長を上記の範囲に設定することで、繊維同士の絡みが良くなり、中空紡績糸織編物が擦れなどの外力を受けても繊維層間のずれや剥離が生じ難くなる。
【0026】
本発明の中空紡績糸織編物は、軽量性、嵩高性、保温性及び速乾性に優れているが、これらの特性をより向上させるには、中空紡績糸がセルロース系繊維からなる層とポリエステル短繊維からなる層との二層構造を有していることが好ましい。セルロース系繊維により中空紡績糸織編物の嵩高性を向上させることができ、ポリエステル短繊維により速乾性を向上させることができる。特に、セルロース系繊維を外側に配し、ポリエステル短繊維を内側に配することで中空紡績糸織編物の嵩高性を一層向上させることができるので好ましい。このような中空紡績糸の横断面形状を図5に例示する。
【0027】
本発明においては、特に上記ポリエステル短繊維が中空繊維であると、軽量性及び保温性を一層向上させることができるので好ましい。そのような外側にセルロース系繊維を配し、内側に中空のポリエステル短繊維を配してなる中空紡績糸の横断面形状を図6に例示する。
【0028】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、織編物中に上記した中空紡績糸以外の糸条(以下、他糸条と記す)が含まれていてもよい。ただし、本発明の効果を十分に発現するには織編物中に占める中空紡績糸の質量比率が60質量%以上であることが好ましい。
【0029】
他糸条の種類としては、特に限定されるものでない。また、織編物中における他糸条の複合形態としては、特に限定されるものでなく、例えば、交編織、配列、混繊、合撚などがあげられる。
【0030】
次に、本発明の中空紡績糸織編物の製造方法について説明する。
【0031】
本発明の中空紡績糸織編物を製造するには、まず、芯成分としてポリ乳酸系繊維を配してなる、例えば図3、4、7、8に示すような横断面形状を有する複重層紡績糸を予め作製する。
【0032】
そのような複重層紡績糸は、通常の紡績手段により得ることができる。例えば、図3に示すような横断面形状を有する複重層紡績糸を得るには、まず、図9の如く、ポリ乳酸系繊維からなるスライバー(SA)と、鞘成分の繊維からなるスライバー(SB)とを粗紡機に並行に供給し、SAにSBを巻き付けながら粗糸を紡出する。次に、この粗糸を精紡することにより得ることができる。
【0033】
図4に示すような横断面形状を有する複重層紡績糸を得るには、芯成分としてポリ乳酸系繊維を配してなる粗糸を精紡交撚することにより得ることができる。
【0034】
図7、8に示すような横断面形状を有する複重層紡績糸を得るには、まず、図10の如く、鞘成分の内側部分の繊維からなるスライバー(SB1)と、鞘成分の外側部分の繊維からなるスライバー(SB2)とを重ねあわせた状態で粗紡機に供給し、SAにSB1及びSB2を巻き付けながら粗糸を紡出する。次に、この粗糸を精紡することにより得ることができる。また、SB1とSB2との位置関係に一定の間隔を設けつつ、SAと共に粗紡機へ並行に供給し、SAを芯とし、SB1、SB2を順次SAに巻き付けながら粗糸を紡出し、しかる後にこの粗糸を精紡することによっても得ることができる。あるいは、まず、SAと、SB1とを粗紡機に並行に供給し、SAにSB1を巻き付けながら粗糸(RA)を紡出する。次に、このRAと、通常の紡績手段により得られた、鞘成分の外側部分の繊維からなる粗糸(RB)とを精紡機に並行に供給し、RAにRBを巻き付けながら精紡することによっても得ることができる。
【0035】
次いで、上記の複重層紡績糸を用いて通常の製織編手段により製織編した後に、アルカリ処理を行う。複重層紡績糸にアルカリ処理を施した後に製織編する場合と比して、製織編の過程で中空つぶれが生じる恐れがないので有利である。アルカリ処理に用いる処理液としては、通常、濃度20〜30g/Lの水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。処理条件としては、液流染色機などを用いて80〜100℃で30〜60分間処理することが好ましい。このようなアルカリ処理により、複重層紡績糸の芯成分であるポリ乳酸系繊維を溶解除去して中空紡績糸とすることができる。アルカリ処理した後の廃液に含まれるポリ乳酸系ポリマーは、生分解性を有するので、廃液に通常の中和処理を適切に行った後に廃棄すれば、環境汚染を引き起こすことがない。
【0036】
また、本発明の製造方法においては、必要に応じてプレセット、染色、ファイナルセットなどを行ってもよい。特に、複重層紡績糸の鞘成分として合成繊維が配されている場合、アルカリ処理の前にプレセットを施すことにより、中空紡績糸織編物の形態安定性を向上させることができる。これは、鞘成分の合成繊維が熱固定されるためであり、衣服となった後の洗濯又はアイロン掛けなどによる中空つぶれが生じ難くなるので好ましい。
【0037】
プレセットの条件としては、合成繊維の種類を考慮して適宜設定すればよいが、例えばポリエステル繊維の場合は、160〜180℃で1〜5分間とすることが好ましい。温度が低すぎたり処理時間が短すぎたりすると、鞘成分の合成繊維が十分に熱固定されない場合があり、好ましくない。一方、温度が高すぎたり処理時間が長すぎたりすると、鞘成分の合成繊維が黄変して織編物の風合いを硬化させる場合があり、好ましくない。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例における中空紡績糸及び中空ポリエステル短繊維の各中空率は、下記の方法で算出した。
【0039】
(1)中空紡績糸の中空率
まず、最終的に得られた中空紡績糸織編物より中空紡績糸をサンプリングし、該紡績糸の横断面形状を電子顕微鏡(倍率500倍)で撮影し、写真をトレースして中空部を含む紡績糸全体に相当する部分を切り取り、その質量(A)を測定する。測定後さらに中空部に相当する部分を切り取ってその質量(B)を測定する。この作業を10本のサンプルについて行い、A、Bの平均値を算出し、それらの値を下記式に代入し、中空紡績糸の中空率とする。
【0040】
【数1】

【0041】
(2)中空ポリエステル短繊維の中空率
中空ポリエステル短繊維の横断面形状を電子顕微鏡(倍率7500倍)で撮影し、写真をトレースして中空部を含む中空ポリエステル短繊維全体に相当する部分を切り取り、その質量(C)を測定する。測定後さらに中空部に相当する部分を切り取ってその質量(D)を測定する。この作業を10本のサンプルについて行い、C、Dの平均値を算出し、それらの値を下記式に代入し、中空ポリエステル短繊維の中空率とする。
【0042】
【数2】

【0043】
(実施例1)
ポリ乳酸系繊維(ユニチカ(株)製「テラマック(商品名)」、1.7dtex×38mm)及び綿(エジプト超長綿、1.3dtex×38mm)の各原綿をそれぞれ別々に紡績工程に投入し、ポリ乳酸系繊維からなるスライバーSA、綿からなるスライバーSBを得た。これら2種のスライバーの単位長さ当り質量比率は、SA:SB=2:8であった。
【0044】
次に、図9に示す粗紡機へ上記2種のスライバーを供給するにあたり、スライバーSBをフライヤーヘッド11の位置からみてドラフト域の内側に供給し、スライバーSAを外側に供給した。各スライバーはバックローラー6を通過後、エプロン7及びセカンドローラー8を通過する過程でドラフトされ、フロントローラー9を通過後、スライバーSAにスライバーSBを巻付けて繊維束10とした後、回転するフライヤーにより加撚し、太さ240gr/30yd(1gr=0.065g、1yd=0.9144m)、撚数1.0T/2.54cmの粗糸として巻取った。次いで、この粗糸を2本用いて精紡交撚し、40番手双糸(英式綿番手)の複重層紡績糸を得た。
【0045】
得られた複重層紡績糸は、図4に示すような横断面形状を有する、2芯型の複重層紡績糸であった。
【0046】
次に、この複重層紡績糸を用いて釜径76cm、針密度22本/2.54cmのシングル丸編機で天竺編を編成した。その後、得られた生機を濃度20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で浴比1:20、97℃×30分間アルカリ処理した。その後、反応染料を用いて80℃×60分間染色を行い、柔軟処理を行った後、ピンテンターにて160℃×2分のファイナルセットを行い、本発明の中空紡績糸織編物を得た。
この中空紡績糸織編物に含まれる中空紡績糸は、図2に示すような横断面形状を有し、中空紡績糸の中空率は20%であった。
【0047】
(実施例2)
ポリ乳酸系繊維(ユニチカ(株)製「テラマック(商品名)」、1.7dtex×38mm)、中空ポリエステル短繊維(1.4dtex×38mm)、及び綿(エジプト超長綿、1.3 dtex×38mm)の各原綿をそれぞれ別々に紡績工程に投入し、ポリ乳酸系繊維からなるスライバーSA、中空ポリエステル短繊維(中空率12%)からなるスライバーSB1、及び綿からなるスライバーSB2を得た。これら3種のスライバーの単位長さ当り質量比率は、SA:SB1:SB2=3:5:12であった。
【0048】
次に、図10に示す粗紡機へ上記3種のスライバーを供給するにあたり、スライバーSB1とSB2とを、SB1がSA側に配されるように重ねあわせつつ、フライヤーヘッド11の位置からみてドラフト域の内側に供給した。スライバーSAは、ドラフト域の外側に供給した。各スライバーはバックローラー6を通過後、エプロン7及びセカンドローラー8を通過する過程でドラフトされ、フロントローラー9を通過後、スライバーSAにスライバーSB1、SB2を巻付けて繊維束10とした後、回転するフライヤーにより加撚し、太さ280gr/30yd(1gr=0.065g、1yd=0.9144m)、撚数0.8T/2.54cmの粗糸として巻取った。次いで、この粗糸を精紡し、26番手(英式綿番手)の複重層紡績糸を得た。
【0049】
得られた複重層紡績糸は、図8の如く、芯成分としてポリ乳酸系繊維を配し、鞘成分として内側部分に中空ポリエステル短繊維を、外側部分に綿を配する複重層紡績糸であった。
【0050】
次に、この複重層紡績糸を用いて釜径76cm、針密度24本/2.54cmの両面丸編機で袋編みを編成した。その後、ピンテンターを用いて、170℃×2分間プレセットし、濃度20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で浴比1:20、97℃×30分間アルカリ処理した。その後、分散染料を用いて130℃×60分間染色した後、反応染料を用いて80℃×60分間染色した。さらに、柔軟処理を行った後、ピンテンターにて160℃×2分のファイナルセットを行い、本発明の中空紡績糸織編物を得た。
この中空紡績糸織編物に含まれる中空紡績糸は、図6に示すような横断面形状を有し、中空紡績糸の中空率は15%であった。
【0051】
(比較例1)
ポリ乳酸系繊維に代えて通常のポリエステル繊維(中実糸、1.4dtex×38mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較用の織編物を得た。
【0052】
上記、本発明の中空紡績糸織編物(実施例1、2)は、軽量性、嵩高性、保温性及び速乾性に優れたものであった。
【0053】
これに対し、比較例1については、中空部を有しない複重層紡績糸が用いられているため、軽量性、保温性に劣るものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に使用できる単穴型の中空紡績糸の横断面形状を示す図である。
【図2】本発明に使用できる2穴型の中空紡績糸の横断面形状を示す図である。
【図3】本発明に使用できる、ポリ乳酸系繊維が単芯的に配された該複重層紡績糸の横断面形状を示す図である。
【図4】本発明に使用できる、ポリ乳酸系繊維が2芯的に配された複重層紡績糸の横断面形状を示す図である。
【図5】本発明に好ましく使用できる、外側にセルロース系繊維を配し内側にポリエステル短繊維を配してなる単穴型の中空紡績糸の横断面形状を示す図である。
【図6】本発明に好ましく使用できる、外側にセルロース系繊維を配し内側に中空ポリエステル短繊維を配してなる単穴型の中空紡績糸の横断面形状を示す図である。
【図7】本発明に好ましく使用できる、芯成分としてポリ乳酸系繊維を単芯的に配してなり、鞘成分として内側部分にセルロース系繊維を配し外側部分にポリエステル短繊維を配してなる複重層紡績糸の横断面形状を示す図である。
【図8】本発明に好ましく使用できる、芯成分としてポリ乳酸系繊維を単芯的に配してなり、鞘成分として内側部分にセルロース系繊維を配し外側部分に中空ポリエステル短繊維を配してなる複重層紡績糸の横断面形状を示す図である。
【図9】本発明に使用できる複重層紡績糸の粗糸を作製する粗紡機の一例を示す概略平面図である。
【図10】本発明に使用できる複重層紡績糸の粗糸を作製する粗紡機の一例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 鞘成分の繊維
2 ポリ乳酸系繊維
3 セルロース系繊維
4 ポリエステル短繊維
5 中空ポリエステル短繊維
6 バックローラー
7 エプロン
8 セカンドローラー
9 フロントローラー
10 繊維束
11 フライヤーヘッド
SA ポリ乳酸系繊維からなるスライバー
SB 鞘成分の繊維からなるスライバー
SB1 鞘成分の内側部分の繊維からなるスライバー
SB2 鞘成分の外側部分の繊維からなるスライバー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として中空紡績糸からなる織編物であって、該中空紡績糸が、芯成分としてポリ乳酸系繊維を配してなる複重層紡績糸から該ポリ乳酸系繊維を溶解除去することにより得られたものであることを特徴とする中空紡績糸織編物。
【請求項2】
前記複重層紡績糸が、前記ポリ乳酸系繊維を多芯的に配してなることを特徴とする請求項1記載の中空紡績糸織編物。
【請求項3】
前記複重層紡績糸が、鞘成分としてセルロース系繊維を配してなることを特徴とする請求項1又は2記載の中空紡績糸織編物。
【請求項4】
前記複重層紡績糸が、鞘成分としてポリエステル短繊維を配してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中空紡績糸織編物。
【請求項5】
前記ポリエステル短繊維が中空繊維であることを特徴とする請求項4記載の中空紡績糸織編物。
【請求項6】
前記複重層紡績糸が、鞘成分として外側部分にセルロース系繊維を配し、内側部分にポリエステル短繊維を配してなることを特徴とする請求項4又は5記載の中空紡績糸織編物。
【請求項7】
芯成分としてポリ乳酸系繊維を配してなる複重層紡績糸を用いて製織編した後、アルカリ処理することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の中空紡績糸織編物の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−16356(P2007−16356A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200428(P2005−200428)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【Fターム(参考)】