説明

中空鋼ボール、およびその製造方法ならびにそれを用いたベアリングボール

【課題】安価な酸化鉄を原料として得ることが可能な、ベアリングボールとして好適な中空鋼ボール、およびその製造方法、ならびにそれを用いたベアリングボールを提供する。
【解決手段】有機物質からなる球形の芯材の表面に酸化鉄を塗布した後、これを加熱して芯材を消失させかつ酸化鉄を還元し、得られた中空鉄ボールに浸炭処理を施してCを0.1〜2.0質量%含有する中空鋼ボールを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空鋼ボール、およびその製造方法、ならびにそれを用いたベアリングボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の機器類の駆動部分には、回転軸を支えるためのベアリングが装着される。そのベアリングに用いられる球体(以下、ベアリングボールという)は、通常、中実の鋼球が使用されることが多い。
近年、電子機器の普及に伴って、電子機器の軽量化が求められており、軽量のベアリングボールの開発が進められている。従来から使用している中実の鋼球に対して、中空の球体をベアリングボールとして使用することによって、軽量化を達成する技術が検討されている。
【0003】
たとえば特許文献1,2には、中空セラミックス球からなるベアリングボールを使用する技術が開示されている。これらの技術は、中空セラミックス球を使用するので、耐摩耗性向上と軽量化を達成できる。しかし中空セラミックス球は、導電性が小さいために、帯電し易いという問題がある。
また特許文献1および特許文献3には、中空金属球を製造する技術が開示されている。特許文献1に開示された中空金属球は、高価な金属粉末を原料とするので、中空金属球の製造コストが上昇するのは避けられず、ベアリングのコスト上昇を招く。
【0004】
特許文献3に開示された中空金属球は、安価な酸化鉄を原料とするので、コストの上昇を抑制できる。しかし、特許文献3の技術ではCやその他の合金元素を添加しないので、純鉄製の中空金属球が得られる。そのため強度や耐摩耗性が劣り、ベアリングボールとして使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-280880号公報
【特許文献2】特開2002-29822号公報
【特許文献3】特開2007-9278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安価な酸化鉄を原料として製造することが可能な、ベアリングボールとして好適な中空の鋼球(以下、中空鋼ボールという)、およびその製造方法、ならびにそれを用いたベアリングボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平均圧縮強度が200N以上であり、かつCを0.1〜2.0質量%含有する中空鋼ボールである。
本発明の中空鋼ボールは、Cに加えてCrを0.5〜2.0質量%含有することが好ましい。さらにCuを0.2〜5.0質量%および/またはNiを0.2〜5.0質量%含有することが好ましい。また、中空鋼ボールの平均硬度がビッカース硬度500Hv以上であることが好ましい。
【0008】
また本発明は、上記した中空鋼ボールからなるベアリングボールである。
また本発明は、有機物質からなる球形の芯材の表面に酸化鉄を塗布した後、これを加熱して芯材を消失させかつ酸化鉄を還元し、得られた中空鉄ボールに浸炭処理を施してCを0.1〜2.0質量%含有し、かつ平均圧縮強度が200N以上である中空鋼ボールを製造する中空鋼ボールの製造方法である。
【0009】
本発明の中空鋼ボールの製造方法においては、中空鉄ボールの表面にCrめっき層を形成し、さらに浸炭処理を施してCを0.1〜2.0質量%、Crを0.5〜2.0質量%含有する中空鋼ボールを製造することが好ましい。また、芯材の表面に酸化鉄ならびに酸化銅および/または酸化ニッケルを塗布した後、これを加熱して芯材を消失させかつ酸化鉄を還元することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベアリングボールとして好適な中空鋼ボールを、安価な酸化鉄を原料として製造することができる。その中空鋼ボールは、ベアリングボールとして支障なく使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る中空鋼ボールを製造する手順は以下の通りである。
有機物質からなる球形の芯材の表面に酸化鉄を塗布した後、これを加熱して芯材を消失させるとともに酸化鉄を還元し、得られた中空鉄ボールに浸炭処理を施す。あるいは有機物質からなる球形の芯材の表面に酸化鉄を塗布した後、これを加熱して芯材を消失させるとともに酸化鉄を還元し、得られた中空鉄ボールの表面にCrめっき層を形成し、さらに浸炭処理を施す。また、芯材の表面に酸化鉄ならびに酸化銅および/または酸化ニッケルを塗布した後、これを加熱して芯材を消失させるとともに酸化鉄を還元しても良い。
【0012】
芯材として使用する有機物質は、酸化鉄を還元するための加熱処理の間に燃焼あるいは気化して、消失する材料を使用することが好ましい。特に、酸化鉄の還元が進行する前の昇温過程(約400℃)で消失する材料(たとえば発泡スチロール等)を使用することが一層好ましい。その理由は、芯材の消失と酸化鉄の還元が同時に進行すると、芯材から発生するガスによって酸化鉄の還元が阻害される惧れがあるからである。
【0013】
球形の芯材に酸化鉄を塗布する際には、芯材を流動させながら、酸化鉄粉とバインダーを水に混合した酸化鉄スラリーを噴霧する。
また、酸化鉄ならびに酸化銅および/または酸化ニッケルを芯材に塗布する場合も同様に、芯材を流動させながら、酸化鉄粉,酸化銅粉,酸化ニッケル粉とバインダーを水に混合した酸化鉄スラリーを噴霧することによって、芯材の表面に酸化鉄,酸化銅,酸化ニッケルを塗布する。その場合は、中空鋼ボールにおけるCu,Niの含有量が上記の範囲を満足するように、酸化銅粉,酸化ニッケル粉の混合比率を調整する。
【0014】
次いで、酸化鉄を塗布した芯材を還元雰囲気で加熱して、芯材を消失させ、かつ酸化鉄を還元する。このようにして得た中空の球体は、鉄を主成分とし、Cを含有しないので、中空鉄ボールと記す。還元雰囲気で加熱する温度が1000℃未満では、酸化鉄の還元が十分に進行しない。また、酸化銅,酸化ニッケルを予め塗布した場合には、酸化銅,酸化ニッケルの還元も十分に進行せず、しかも還元されたCuやNiが鉄中に拡散し難い。一方、1200℃を超えると、還元された鉄が軟化して、中空鉄ボールが変形する。したがって、加熱温度は1000〜1200℃の範囲内が好ましい。
【0015】
Cu,Niは、この加熱処理によって鉄中に拡散し、後述する中空鋼ボールの密度の向上に寄与する。Cu,Niの含有量が、中空鋼ボールの質量に対して0.2質量%未満では、密度向上の効果が得られない。一方、5.0質量%を超えると、やはり密度向上の効果が得られない。したがって、Cu,Niの含有量は0.2〜5.0質量%の範囲内が好ましい。
なお、還元雰囲気で加熱する前に、酸化鉄を塗布した芯材を大気中で400℃程度に加熱して芯材を消失させても良い。その場合は、得られた中空の酸化鉄球体を還元雰囲気で加熱して、中空鉄ボールを得る。
【0016】
次に、中空鉄ボールに浸炭処理を施す。この浸炭処理によって、中空鉄ボールにCを添加する。この浸炭処理によって得られた球体はCを含有するので、中空鉄ボールと区別するために、中空鋼ボールと記す。中空鋼ボールのC含有量が0.1質量%未満では、ベアリングボールの用途に適した強度が得られない。一方、2.0質量%を超えると、炭化物の生成が増加し、中空鋼ボールが脆くなる。したがって、中空鋼ボールのC含有量は0.1〜2.0質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0017】
浸炭処理は、固体を用いた浸炭処理(いわゆる固体浸炭)も採用できるが、均一な浸炭が可能な気体を用いた浸炭処理(いわゆるガス浸炭)が好ましい。ガス浸炭を採用する場合は、還元性ガスもしくは不活性ガスに、炭化水素を混合した混合ガス中で800〜1000℃に加熱して浸炭処理を施す。浸炭処理に引き続き焼入れ処理を施し、さらに焼戻し処理を施しても良い。焼戻し処理の加熱温度は200℃程度が好ましい。
【0018】
浸炭処理を施す前の中空鉄ボールの表面にCrめっきを施した後、浸炭処理を施しても良い。Crめっき層を有する中空鉄ボールを浸炭処理する場合は、浸炭処理中にCrが拡散して鉄−クロム合金となる。得られた中空鋼ボールのCr含有量が0.5質量%未満では、ベアリングボールの用途に適した強度が得られない。一方、2.0質量%を超えると、中空鋼ボールが脆くなる。したがって、中空鋼ボールのCr含有量は0.5〜2.0質量%の範囲内が好ましい。なおCrめっき層の厚みは、中空鋼ボールのCr含有量が上記した範囲を満足するように調整する。
【0019】
なお中空鋼ボールにCu,Niを含有させる方法として、芯材に酸化鉄ならびに酸化銅および/または酸化ニッケルを塗布する例を既に説明した。その他の方法として、予め酸化銅粉および/または酸化ニッケル粉を芯材に塗布後、さらに酸化鉄を塗布しても良い。すなわち芯材を流動させながら、酸化銅粉,酸化ニッケル粉とバインダーを水に混合したスラリーを噴霧する。そして、酸化銅および/または酸化ニッケルを塗布した芯材を流動させながら、酸化鉄粉とバインダーを水に混合した酸化鉄スラリーを噴霧する。
【0020】
中空鋼ボールの上記した成分以外の残部は、鉄および不可避的不純物である。
以上の手順で製造した中空鋼ボールは、平均圧縮強度が200N以上を満足する。平均圧縮強度が200N以上であれば、ベアリングボールとして問題なく使用できる。なお平均圧縮強度は、一軸の圧縮試験機で測定した値である。
このようにして得た中空鋼ボールは必ずしも真球ではないので、ベアリングボールとして使用するためには、研磨する必要がある。中空鋼ボールを研磨する際には、バレル研磨,精密研磨等の従来から知られている研磨技術を用いて研磨する。
【実施例】
【0021】
酸化鉄粉,酸化銅粉,酸化ニッケル粉を混合し、その混合粉とバインダーを水に混合して酸化鉄スラリーとした。酸化鉄粉,酸化銅粉,酸化ニッケル粉の混合比率は、中空鋼ボールのFe,Cu,Niの含有量が表1に示す比率になるように調整した。次いで芯材(すなわち発泡スチロールの球体)を流動させながら酸化鉄スラリーを噴霧することによって、芯材の表面に酸化鉄を塗布する同時に酸化銅,酸化ニッケルを塗布した。
【0022】
その酸化鉄を塗布した芯材を水素雰囲気で1100℃に加熱して、直径2mm,厚み0.2mmの中空鉄ボールを得た。芯材は、昇温過程(約400℃)で消失した。
次に、中空鉄ボールを炭化水素と水素の混合ガス(混合比:CH4/H2=1/1)中で1000℃に加熱して浸炭処理を施した。一部の中空鉄ボールにはCrめっきを施した後、浸炭処理を施した。いずれも浸炭処理の後で焼入れ処理(温度800℃)と焼戻し処理(温度200℃)を行なった。Crめっき層の厚みは、中空鋼ボールのCrの含有量が表1に示す値になるように調整した。浸炭処理の時間は、中空鋼ボールのCの含有量が表1に示す値になるように調整した。
【0023】
得られた中空鋼ボールの成分,平均硬度,平均圧縮強度は表1に示す通りである。なお平均硬度は、中空鋼ボール断面を鏡面研磨し、その面をビッカース硬度計で硬度を測定した値である。平均圧縮強度は、一軸の圧縮試験機で測定した値である。
【0024】
【表1】

【0025】
表1中の発明例1〜7は、本発明の必須の要件であるC含有量0.1〜2.0質量%および平均圧縮強度200N以上を満足する例、比較例1〜3は、C含有量と平均圧縮強度が本発明の範囲を外れる例である。
表1から明らかなように、発明例1〜7は、いずれもC含有量が本発明の範囲を満足し、かつ平均圧縮強度が216〜323Nであり、ベアリングボールとして十分な強度を有していた。一方、比較例1〜3は、C含有量が本発明の範囲を外れ、平均圧縮強度が137〜166Nであり、ベアリングボールとしては強度が不足した。
【0026】
さらに、発明例1〜7の中空鋼ボールにバレル研磨を施して表面の酸化膜を除去した後、精密鋼球研磨機で研磨して、真球に加工した。その中空鋼ボールをベアリングボールとして使用したところ、問題なく使用できた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
ベアリングボールとして好適な中空鋼ボールを、安価な酸化鉄を原料として製造することができ、産業上格段の効果を奏する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均圧縮強度が200N以上であり、かつCを0.1〜2.0質量%含有することを特徴とする中空鋼ボール。
【請求項2】
前記中空鋼ボールが、さらにCrを0.5〜2.0質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の中空鋼ボール。
【請求項3】
前記中空鋼ボールが、さらにCuを0.2〜5.0質量%および/またはNiを0.2〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の中空鋼ボール。
【請求項4】
前記中空鋼ボールの平均硬度が500Hv以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の中空鋼ボール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の中空鋼ボールからなることを特徴とするベアリングボール。
【請求項6】
有機物質からなる球形の芯材の表面に酸化鉄を塗布した後、これを加熱して前記芯材を消失させかつ前記酸化鉄を還元し、得られた中空鉄ボールに浸炭処理を施してCを0.1〜2.0質量%含有し、かつ平均圧縮強度が200N以上である中空鋼ボールを製造することを特徴とする中空鋼ボールの製造方法。
【請求項7】
前記中空鉄ボールの表面にCrめっき層を形成し、さらに浸炭処理を施してCを0.1〜2.0質量%、Crを0.5〜2.0質量%含有する中空鋼ボールを製造することを特徴とする請求項6に記載の中空鋼ボールの製造方法。
【請求項8】
前記芯材の表面に酸化鉄ならびに酸化銅および/または酸化ニッケルを塗布した後、これを加熱して前記芯材を消失させかつ前記酸化鉄を還元することを特徴とする請求項6または7に記載の中空鋼ボールの製造方法。


【公開番号】特開2011−58065(P2011−58065A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210367(P2009−210367)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】