説明

中空鋼材の防錆方法

【課題】中空鋼材内面の防錆作業を容易に行うことができ、しかも防錆効果の高い防錆方法を提供する。
【解決手段】錆15が発生した中空鋼材11の側面に穴13を形成し、中空鋼材11の内面の錆15を落とした後、気化性の防錆剤を含有させたウレタン原料21を穴13から中空鋼材11内に注入し、中空鋼材11の内部でウレタン原料21を発泡させることにより、中空鋼材11内の空気を追い出して防錆剤含有ウレタンフォーム25を中空鋼材11内に充填すると共に防錆剤含有ウレタンフォーム25を中空鋼材11の内面に密着・接着し、その後に中空鋼材11の側面の穴13に蓋31を被せて固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空鋼材の防錆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4の(4A)に示すように、橋の主構などに使用されている中空鋼材51の内面に錆55を生じた場合、(4B)及び(4C)に示すように、中空鋼材51の側面に形成した穴53を利用してショットブラスト、ケレン、金属ブラシ等で鋼材内面の錆55を落とし、錆55を落とした鋼材51の内面に防錆塗装やメッキ等により(4D)のように皮膜57を形成し、その後に(4E)のように穴53の部分を鉄板59で溶接して塞ぐことが行われている。
【0003】
しかし、中空鋼材51に形成する作業用の穴53は、中空鋼材51の強度等の点から小さく、しかも数が少ないことが好ましいため、中空鋼材51の錆を落とした内面に満遍なく均一に塗装やメッキを施すのが難しく、充分な防錆効果が得られない場合がある。
【0004】
また、地中に埋設されて老朽化した配管の更生方法として、配管の内部にチューブを反転させつつ挿入し、配管の内面とチューブとの間に樹脂を介在させてチューブを配管の内面に固定する管内ライニング工法がある(特許文献1)。
【0005】
しかし、管内ライニング工法は、円筒形状以外の中空鋼材、例えば角形状の中空鋼材に適用する場合には、角部で鋼材の内面とチューブとの間に隙間を生じやすく、防錆効果が低下するおそれがある。
【0006】
また、中空鋼材の内面の錆を除去した後、中空鋼材内でウレタンフォームを発泡させ、中空鋼材内にウレタンフォームを充填する補修方法が提案されている(特許文献2)。
ウレタンフォームを充填する防錆方法では、外部からの空気及び水をウレタンフォームで遮断できるため防錆効果を得られるが、防錆効果は高いほど良いため、さらなる防錆効果の向上が求められている。
【0007】
また、熱可塑性樹脂に金属防錆剤を含有させた金属樹脂組成物を溶剤などで希釈して、スプレーなどで金属製品に塗布する方法が提案されている(特許文献3の段落0042参照)。
しかし、前記金属樹脂組成物の塗布を、中空鋼材の内面の防錆に適用する場合には、中空鋼材に形成した穴を利用して金属樹脂組成物を中空鋼材の内面にスプレーなどで塗装することになるため、前記の防錆塗装やメッキ等を施す場合と同様の問題、すなわち中空鋼材に形成する作業用の穴の大きさや数の制約から、中空鋼材の錆びを落とした内面に満遍なく均一に金属樹脂組成物を塗布するのが難しく、充分な防錆効果が得られない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−4090号公報
【特許文献2】特開2010−48000号公報
【特許文献3】特開2009−102692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、中空鋼材内面の防錆作業を容易に行うことができ、しかも高い防錆効果が得られる防錆方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、中空鋼材の内面を防錆する方法において、前記中空鋼材の側面に穴を形成し、気化性の防錆剤を含有させた防錆剤含有ウレタン原料を、前記穴から前記中空鋼材内に注入して、前記防錆剤含有ウレタン原料を発泡させることにより防錆剤含有ウレタンフォームを前記中空鋼材内に充填し、その後に前記穴に蓋を被せて固定することを特徴とする。
【0011】
前記気化性の防錆剤は、カルシウムスルフォネートが好ましい。また前記防錆剤含有ウレタン原料中のカルシウムスルフォネートの量は、前記防錆剤含有ウレタン原料のポリオール100質量部に対して1〜100質量部が好ましく、40〜60質量部がより好ましい。含有量が少なければ防錆性能が低下し、多くすれば防錆効果はあるが経済性に劣るようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中空鋼材内で防錆剤含有ウレタン原料が発泡して防錆剤含有ウレタンフォームを中空鋼材内に充填する際に、中空鋼材内の空気が防錆剤含有ウレタンフォームによって中空鋼材外へ追い出されて中空鋼材の内面に防錆剤含有ウレタンフォームが密着して接着するため、空気及び水を鋼材の内面に対して絶縁することができ、防錆効果が得られる。しかも、万一、防錆剤含有ウレタンフォームの充填後に、中空鋼材の内面に空気や水分が残存していたり、残存した錆や鋼材内面の微少な凹凸によって鋼材の内面に対して防錆剤含有ウレタンフォームの未接着の空間ができた場合には、未接着空間に近接する防錆剤含有ウレタンフォームの表面から内部の気化性の防錆剤が気化して、前記未接着部分における鋼材の内面に吸着され、薄膜を形成することで、発錆因子から中空鋼材の内面を守り、錆の拡大を防ぐことができる。水と金属の分子の結合力は43kcal/molであるのに対し、カルシウムスルフォネートなどの気化性の防錆剤と金属の分子の結合力は150〜800kcal/molであるため、水分子を押しのけて防錆剤成分が中空鋼材の内面と結合する。
【0013】
さらに、作業用穴が塞がれた中空鋼材内の閉鎖空間に防錆剤含有ウレタンフォームが充填されているため、防錆剤含有ウレタンフォーム中の気化性の防錆剤は、半永久的に錆防止効果が持続する。
また、中空鋼材に穴を生じた場合にも、中空鋼材内に充填されている防錆剤含有ウレタンフォームによって、外部から中空鋼材内に発錆因子が侵入するのを防ぐことができ、しかも気化性の防錆剤はウレタンフォーム中に分散保持されているため、中空鋼材の穴を介して短期間で揮発することがなく、長期に亘って良好な防錆効果が得られる。
【0014】
また、中空鋼材内に防錆剤含有ウレタン原料を注入して中空鋼材内で発泡させることにより、防錆剤含有ウレタンフォームを中空鋼材内に充填するため、現場施工が容易であり、しかも中空鋼材の形状にかかわらず、防錆剤含有ウレタンフォームを中空鋼材の内面に接着することができ、良好な防錆効果が得られる。
さらに、塗膜の形成における塗りムラ、塗り残しがなく、また作業穴は小さくて済み、工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の中空鋼材の防錆方法における一実施形態の概略工程図である。
【図2】気化性の防錆剤による防錆作用を示す模式図である。
【図3】防錆効果の確認実験方法を示す図である。
【図4】従来の防錆方法における概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の中空鋼材の防錆方法の一実施形態について説明する。本発明の一実施形態の中空鋼材の防錆方法は、橋の主構などに使用されている中空鋼材の内面に錆を生じた場合の防錆方法であり、穴形成工程、錆落とし工程、ウレタン充填工程、穴閉鎖工程よりなる。
【0017】
穴形成工程では、図1の(1A)、(1B)のように中空鋼材11の側面12に作業用の穴13を形成する。穴の大きさはその後の作業が可能な大きさとされる。例えば直径2cm〜20cmの円形等の穴を挙げる。穴13の位置は、高い位置が好ましい。例えば中空鋼材11の下端から50cm以上の位置を挙げる。また、穴13の形成は、公知の方法、例えばドリル等によって行うことができる。なお、符号15は中空鋼材11の内面に発生した錆である。
【0018】
錆落とし工程では、前記穴13から錆除去道具を中空鋼材11内に挿入し、中空鋼材11の内面の錆15を除去する。錆落としは、ショットブラスト、ケレン、金属ブラシ等、公知の錆落とし方法によって行う。図1の(1C)に錆落とし後の中空鋼材11を示す。
【0019】
ウレタン充填工程では、図1の(1D)に示すように、前記作業用の穴13から中空鋼材11内に防錆剤含有ウレタン原料21を注入し、発泡させて図1の(1E)に示すように防錆剤含有ウレタンフォーム25を中空鋼材11内に充填し、発泡させる。前記中空鋼材11内への防錆剤含有ウレタン原料21の注入は、中空鋼材11の側面の穴13から中空鋼材11内に公知のウレタン原料供給装置の注入ガンノズル41を挿入して行う。防錆剤含有ウレタン原料21の発泡時、防錆剤含有ウレタンフォーム25が中空鋼材11内の空気を追い出しながら中空鋼材11内に充填され、中空鋼材11の内面に防錆剤含有ウレタンフォーム25が密着して接着する。なお、中空鋼材11内への防錆剤含有ウレタン原料21の注入量は、防錆剤含有ウレタン原料21から発泡形成される防錆剤含有ウレタンフォーム25が中空鋼材11内に隙間無く形成されることとなる量である。
【0020】
防錆剤含有ウレタン原料21は、公知のウレタンフォームを形成するウレタン原料に気化性の防錆剤を含有したものが用いられる。特には、中空鋼材に穴を生じた場合、気化性の防錆剤が中空鋼材の穴を介して短期間で揮発せず、長期に亘って良好な防錆効果が得られるため、防錆剤含有ウレタン原料21は、JIS K 6400−7の通気性測定では測定下限以下からなる通気性のほとんどない防錆剤含有ウレタンフォームを形成するものが好ましい。また、防錆剤含有ウレタンフォーム中を気化性の防錆剤が緩やかに移動できることが必要な為、防錆剤含有ウレタンフォームにおける独立気泡率の適正範囲は防錆剤含有ウレタンフォーム内平均で、30%〜90%(JIS K 7138)である。
【0021】
防錆剤含有ウレタン原料21は、ポリオール、触媒、発泡剤、気化性の防錆剤、ポリイソシアネート、その他適宜配合される添加剤からなる。
【0022】
ポリオールは、ポリウレタンフォーム用の公知のものが用いられ、エーテル系、エステル系のいずれでもよい。また、より好ましくは、硬質ウレタンフォーム用のポリオールが好ましい。ポリオールは一種類に限られず、複数種類を組み合わせて使用してもよい。特に前記のようにポリウレタンフォームの通気性がほとんど無く、かつ独立気泡率を30%〜90%にできるものが好ましい。
【0023】
触媒は、ポリウレタンフォーム用のアミン系触媒、金属触媒(有機金属化合物系触媒)が単独又は併用される。アミン系触媒としては、モノアミン化合物、ジアミン化合物、トリアミン化合物、ポリアミン化合物、環状アミン化合物、アルコールアミン化合物、エーテルアミン化合物等が挙げられ、これらの1種類でもよく、2種類以上併用してもよい。金属触媒としては、有機錫化合物、有機ビスマス化合物、有機鉛化合物、有機亜鉛化合物等を挙げることができ、これらの1種類でもよく、あるいは2種類以上用いてもよい。触媒の量はポリオール100質量部当たり0.05〜10質量部が一般的である。
【0024】
発泡剤は、水、炭化水素、ハロゲン系化合物等を挙げることができ、これらの中から1種類でもよく、又2種類以上でもよい。発泡剤の量はポリオール100質量部当たり1〜70質量部が一般的である。
【0025】
気化性の防錆剤は、化学的、物理的に金属と吸着して金属の表面に疎水膜を形成し、錆の発生を防止するものである。気化性の防錆剤は、ウレタンフォームの生成反応に影響を与えないものとされ、あるいはウレタンフォームの生成反応に影響を与えるものであっても、ウレタンフォームの物理的特性、機械的特性に影響を与えない範囲の量とすれば使用することができる。気化性の防錆剤として、無機系であれば各種クロム酸塩、亜硝酸塩、ケイ酸塩、ポリリン酸塩、有機系ではオレイン酸、ダイマー酸、ナフテン酸などのカルボン酸、カルボン酸金属石鹸(ラノリン酸Ca、ナフテン酸Zn、酸化ワックスCa、Ba酸など)、スルホン酸塩(Na、Ca、Baスルフォネート)、アミン塩エステル(高級脂肪酸のグリセリンエステル、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノオレートなど)やリン酸エステルなどがある。以下に例示する。
【0026】
気化性の防錆剤として、例えば、軟質結晶状のN−シクロヘキシル−シクロヘキシルアミン(N−cyclohexyl−cyclohexanamine)、4−シクロヘキシル−ベンゼンアミン(4−cyclohexyl−benzenamine)、シクロヘキサノール(Cyclohexanol)、シクロヘキサノン(Cyclohexanone)、亜硝酸ジシクロヘキシルアンモニウム、カプリル酸ジシクロヘキシルアンモニウム、炭酸ジシクロヘキシルアンモニウム、亜硝酸ジイソプロピルアンモニウム、安息香酸モノエタノールアンモニウム、安息香酸ソーダ、安息香酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸イソプロピル、安息香酸ブチル、桂皮酸ブチル、カルバミン酸アンモニウム、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、ヘキサメチレンテトラミン、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、尿素、チオ尿素、亜硝酸ソーダ、3-メチル-5ピラゾン、1,3-ジメチル-5-ピラゾン、1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾン2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、テトラデカン酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、2-オクテン二酸、4-ノネン二酸、1,4シクロヘキサンジカルボン酸、4,4ジシクロヘキシルジカルボン酸、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸、3-アミノ-1,2,4−トリアゾール、1,2,3ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ニトロベンゾトリアゾール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、5-アミノ-1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、3-メチル-5-ピラゾン、1,3ジメチル-5-ピラゾロン、1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾン、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-ホルミルイミダゾール、2-フェニル-4-イミダゾール、イミダゾール-4,5-ジカルボン酸、リン酸二水素一リチウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸一水素二リチウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、カルシウムスルフォネート、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト(DICHAN)、ジシクロヘキシルアンモニウムサリシレート、モノエタノールアミンベンゾエード、ジシクロヘキシルアンモニウムベンゾエード、ジシソプロピルアンモニウムベンゾエード、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト(DIPAN)、シクロヘキシルアミンカーバメイト、ニトロナフタレンアンモニウムナイトライト、シクロヘキシルアミンベンゾエード、ジシクロヘキシルアンモニウムシクロヘキサンカルボキシレート、シクロヘキシルアミンシクロヘキサンカルボキシレート、ジシクロヘキシルアンモニウムアクリレート、シクロヘキシルアミンアクリレートなどがある。
【0027】
前記気化性の防錆剤より1種類あるいは複数種類の防錆剤が選択して使用される。特に本発明では、前記気化性の防錆剤のうち、カルシウムスルフォネート、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト(DIPAN)がより好ましく、特にカルシウムスルフォネートが好ましい。また、気化性の防錆剤の量は、ポリオール100質量部に対して1〜100質量部である。
【0028】
ポリイソシアネートは、イソシアネート基を2以上有する化合物であれば、特に限定されるものではなく、ウレタンフォーム用に用いられるものが使用可能であり、1種類の単独でも2種類以上の併用であってもよい。前記ポリイソシアネートとして、芳香族系、脂肪族系、脂環族系のイソシアネート化合物、及びこれらの変性物を挙げることができる。ポリイソシアネートの含有量は、イソシアネートインデックスが90〜130となるように調整されるのが好ましい。尚、イソシアヌレートフォームの場合、イソシアネートインデックスは250程度である。
その他適宜配合される添加剤としては、整泡剤などが挙げられる。整泡剤としては、シリコーン系などを挙げることができる。
【0029】
穴閉鎖工程では、図1の(1F)に示すように、前記中空鋼材11の側面に形成した穴13に金属製の蓋31を被せて溶接等で固定する。これによって、中空鋼材11の錆び防止作業が終了する。
【0030】
錆び防止作業後の中空鋼材11は、中空鋼材11内の空気が防錆剤含有ウレタンフォーム25によって中空鋼材外へ追い出されて中空鋼材11の内面に防錆剤含有ウレタンフォーム25が密着して接着しているため、空気及び水を鋼材11の内面に対して絶縁することができ、錆を防ぐことができる。万一、中空鋼材11の内面と防錆剤含有ウレタンフォーム25の間に防錆剤含有ウレタンフォーム25の未接着の空間ができた場合には、図2に示すように未接着空間に近接する防錆剤含有ウレタンフォーム25の表面から気化性の防錆剤が気化して、前記未接着部分における中空鋼材11の内面に吸着されて薄膜27を形成し、水45などの発錆因子から中空鋼材11の内面を守り、錆の拡大を防ぐことができる。前記のように、水と金属の分子の結合力よりもカルシウムスルフォネートなどの気化性の防錆剤と金属の分子の結合力が強いため、防錆剤含有ウレタンフォーム25から気化した防錆剤が水分子を押しのけて中空鋼材11の内面と結合し、それによって形成された薄膜27によって発錆因子から中空鋼材11の内面を守り、錆の拡大を効果的に防ぐことができる。
【実施例】
【0031】
本発明の中空鋼材の防錆方法で形成する防錆剤含有ウレタンフォームによる防錆効果を確認するため、以下の原料から、表1及び表2に示す実験例1〜10の配合に従って、ウレタンフォームを作製した。ウレタンフォームの作製は、表1及び表2に示す実験例1〜10の配合からなるウレタン原料を混合攪拌して200×200×200mmの容器に投入し、発泡させることによって行った。なお、実験例1と6のウレタンフォームは気化性の防錆剤を含有しない比較例、他の実験例のウレタンフォームは気化性の防錆剤を含有する実施例である。表1及び表2において、実験例No.と各物質との交差する欄の数字は各物質の質量部を表す。
【0032】
・ポリエーテルポリオール#5000:グリセリンにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加反応させたポリエーテルポリオール、官能基数3、水酸基価33(mgKOH/g)、分子量5000
・ポリエーテルポリオール:グリセリンにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加反応させたポリエーテルポリオール、官能基数3、水酸基価250(mgKOH/g)、分子量670
・フタル酸グリコールエステル:無水フタル酸にジエチレングリコールを付加させたポリエステルポリオール、官能基数2、水酸基価260(mgKOH/g)、分子量430
・EDP300:エチレンジアミンにプロピレンオキシドを付加したポリオール、官能基数4、水酸基価740(mgKOH/g)、分子量300、旭電化工業(株)製
・ポリメリックMDI:ポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート70質量%、ジフェニルメタンジイソシアネート30質量%の化合物
・KAO−25(触媒):N,N-ジメチルアミノヘキサノール、花王(株)製
・ポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサン(整泡剤):硬質ウレタン発泡体用で連通タイプの整泡剤、東レ・ダウコーニング社製(品番;SZ1949)
・気化性の防錆剤
(1)カルシウムスルフォネート
(2)ジイソプロピルアンモニウムナイトライト(DIPAN)
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
なお、発泡時にはデジタル温度計によってウレタンフォームの最高温度を測定した。また、得られたウレタンフォームに対して密度(JIS K 7222)、通気量(JIS K 6400−7)および独立気泡率(JIS K 7138)を測定した。測定結果を表1及び表2の下部に示す。
【0036】
実験例1〜10のウレタンフォームに対して防錆効果試験を行った。防錆効果試験は、図3に示すように、容積1000mlの密閉容器に水を半分入れ、実験例1〜10のウレタンフォームをそれぞれ2cm角にカットして20個密閉容器に入れ、用意した1×4cmの鉄板3枚を、(A)1枚は密閉容器中の水の中にすべて浸かるように吊るし、(B)もう1枚は鉄板の下から2cmまで水に浸かるようにし、(C)最後の1枚は水に浸からないよう空中に吊るし、その状態で24時間放置して鉄板表面の錆を確認した。錆の発生が無い場合には(◎)、錆の発生がわずかな場合には(○)、大量の錆が発生した場合には(×)とした。
【0037】
錆の発生確認結果は表3に示すとおりであり、気化性の防錆剤を含まない実験例1と6(比較例)は、大量の錆が発生して(×)であったのに対し、気化性の防錆剤を含む他の実験例(実施例)は、悪くても水中の部分のみに錆が大量に発生し、空中の部分は錆の発生がわずか(○)であり、気化性の防錆剤を含まない実験例1及び6に比べて気化性の防錆剤を含む実験例は錆の発生が少なかった。このことから、本発明の中空鋼材の防錆方法によれば、気化性の防錆剤を含有する防錆効果の高いウレタンフォームを中空鋼材内に充填するため、中空鋼材の内部の錆を防止できることがわかる。
【0038】
【表3】

【0039】
また、発泡体及び多孔体に揮発性防錆剤を含浸させたものを中空鋼材内に設置したり、熱可塑性樹脂に金属防錆剤を含有させた金属樹脂組成物を溶剤などで希釈して、スプレーなどで金属製品に塗布する方法と比較すると、本発明では仮に中空鋼材内部に空隙ができた場合にも、ウレタンフォームによって空隙部が囲われているため、空間体積が狭小であって、結果的に空隙部の防錆剤の濃度が高くなることから、高い防錆効果が得られる。
【0040】
本発明は、錆が発生した中空鋼材に適用する場合に限られず、錆が発生する前の中空鋼材に適用する場合も含まれ、この場合にも良好な防錆効果が得られる。さらに、内部に錆が発生した中空鋼材に適用する場合、中空鋼材の内面の錆を完全に除去下した後に防錆剤含有ウレタンフォームを充填するのが好ましいが、錆が残った状態で防錆剤含有ウレタンフォームを充填してもよく、この場合でも良好な防錆効果が得られる。
【符号の説明】
【0041】
11 中空鋼材
13 穴
15 錆
21 防錆剤含有ウレタン原料
25 防錆剤含有ウレタンフォーム
31 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空鋼材の内面を防錆する方法において、
前記中空鋼材の側面に穴を形成し、
気化性の防錆剤を含有させた防錆剤含有ウレタン原料を、前記穴から前記中空鋼材内に注入して、前記防錆剤含有ウレタン原料を発泡させることにより防錆剤含有ウレタンフォームを前記中空鋼材内に充填し、
その後に前記穴に蓋を被せて固定することを特徴とする中空鋼材の防錆方法。
【請求項2】
前記気化性の防錆剤がカルシウムスルフォネートからなることを特徴とする請求項1に記載された中空鋼材の防錆方法。
【請求項3】
前記防錆剤含有ウレタン原料中のカルシウムスルフォネートの量は、前記防錆剤含有ウレタン原料のポリオール100質量部に対して1〜100質量部であることを特徴とする請求項2に記載された中空鋼材の防錆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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