説明

中胚葉幹細胞もしくはES細胞、または不死化した中胚葉幹細胞から神経系細胞への分化誘導方法

【課題】骨髄液または臍帯血から分離される単核細胞分画から調製した中胚葉幹細胞、またはES細胞からの神経細胞またはグリア細胞への分化誘導する方法の提供。
【解決手段】培養する際、基礎的培養液に虚血脳抽出液を添加することによる、中胚葉幹細胞または該ES細胞から神経幹細胞、神経細胞またはグリア細胞へ分化誘導する方法。上記分化誘導方法によって得られた神経系細胞は、脳梗塞モデル、痴呆モデル、脊髄損傷モデル、脱髄モデルにおいて、神経再生能力がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中胚葉幹細胞またはES細胞から神経系細胞への分化誘導方法、不死化した中胚葉幹細胞から神経系細胞への分化誘導方法、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
稀突起膠細胞(オリゴデンドログリア:oligodendrocyte)(Archer, DR. et al., Exp Neurol, 1994, 125, 268-77.(非特許文献1)、Blakemore, WF. and Crang, AJ., Dev Neurosci, 1988, 10, 1-11.(非特許文献2)、Gumpel, M. et al., Ann New York Acad Sci, 1987, 495, 71-85.(非特許文献3))、またはシュワン細胞(Blakemore, WF., Nature, 1977, 266, 68-9.(非特許文献4)、Blakemore, WF. and Crang, AJ., Dev Neurosci, 1988, 10, 1-11.(非特許文献2)、Honmou, O. et al., J Neurosci, 1996, 16, 3199-208.(非特許文献5))もしくはオルファクトリーエンシーティング細胞(olfactory ensheating cells)(Franklin, RJ. et al., Glia, 1996, 17, 217-24.(非特許文献6)、Imaizumi, T. et al., J Neurosci, 1998, 18(16), 6176-6185.(非特許文献7)、Kato, T. et al., Glia, 2000, 30, 209-218.(非特許文献8))等の髄鞘形成細胞を移植すると、動物モデルにおいて再有髄化が誘発され、電気生理学機能を回復させることができる(Utzschneider, DA. et al., Proc Natl Acad Sci USA, 1994, 91, 53-7.(非特許文献9)、Honmou, O. et al., J Neurosci, 1996, 16, 3199-208.(非特許文献5))。このような細胞を患者もしくは他人から調製して、細胞治療法に用いることも不可能ではないが、組織材料を脳または神経から採取しなければならないため問題が多い。
【0003】
脳から得られる神経前駆細胞または幹細胞には、自己複製能力があり、さまざまな細胞系譜の神経細胞や膠細胞に分化することが知られている(Gage, FH. et al., Proc Natl Acad Sci USA, 1995, 92, 11879-83.(非特許文献10)、Lois, C. and Alvarez-Buylla, A., Proc Natl Acad Sci USA, 1993, 90, 2074-7.(非特許文献11)、Morshead, CM. et al., Neuron, 1994, 13, 1071-82.(非特許文献12)、Reynolds, BA. and Weiss, S., Science, 1992, 255, 1707-10.(非特許文献13))。胎児組織から採取したヒト神経幹細胞を新生仔マウスの脳に移植すると、神経細胞と星状細胞に分化したり(Chalmers-Redman, RM. et al., Neurosci, 1997, 76, 1121-8.(非特許文献14)、Moyer, MP. et al., Transplant Proc, 1997, 29, 2040-1.(非特許文献15)、Svendsen, CN. et al., Exp Neurol, 1997, 148, 135-46.(非特許文献16))、また再有髄化させることもできる(Flax, JD. et al., Nat Biotechnol, 1998, 16, 1033-9.(非特許文献17))。脱髄化した齧歯類の脊髄に成人脳由来の神経前駆細胞を移植すると、再有髄化が行なわれて、インパルスの伝導を回復したことが報告されている(Akiyama, Y. et al., Exp Neurol, 2001.(非特許文献18))。
【0004】
これらの研究は、上記細胞が、神経系疾患の修復術に利用できるかもしれないことを示唆しているため、大きな関心を引いている。(Akiyama, Y. et al., Exp Neurol, 2001.(非特許文献18)、Chalmers-Redman, RM. et al., Neurosci, 1997, 76, 1121-8.(非特許文献14)、Moyer, MP. et al., Transplant Proc, 1997, 29, 2040-1.(非特許文献15)、Svendsen, CN. et al., Exp Neurol, 1997, 148, 135-46.(非特許文献16)、Yandava, BD. et al., Proc Natl Acad Sci USA, 1999, 96, 7029-34.(非特許文献19))。
【0005】
すでに本発明者らは、ヒト成人由来の神経細胞を、脳より抽出・培養し、セルライン化し、その機能を検討し、当該神経細胞には、自己複製機能と多分化機能が存在することを見出した(Akiyama, Y. et al., Exp Neurol, 2001.(非特許文献18))。すなわち、脳より得た神経細胞の前駆細胞(progenitor cell)を単一細胞展開(single cell expansion)し、セルライン化したものをin vitroの系でクローン分析を行ったところ、自己複製能(すなわち、増殖能)と、多分化能[すなわち、ニューロン(neuron)、膠星状細胞(アストログリア;astrocytes)、稀突起膠細胞(オリゴデンドログリア;oligodendrocytes)への分化]が認められたことから、この細胞には神経幹細胞の性質があることが確認された。
【0006】
実際に、この細胞をラット虚血モデル、外傷モデルを用いて移植実験を行ったところ、極めて良好な生着率、遊走、分化を示した。また、当該細胞を脊髄脱髄モデルラットへ移植したところ、機能的な髄鞘が形成されることが分かった。すなわち、脊髄脱髄モデルラットにおいて、脱髄された神経軸索が再有髄化され、神経機能が回復するものであり、当該細胞の移植治療法の効果を、組織学的、電気生理学的、行動科学的に確認した。
【0007】
上記の事実から判断すれば、自己の大脳より少量の神経組織を採取して、神経幹細胞を抽出・培養し、得られた神経幹細胞を、自己の脊髄の損傷部位に移植することは、自家移植療法として、極めて応用性の高い治療法となるものと考えられる。
【0008】
しかしながら、大脳より神経幹細胞を含んだ組織を採取することは、採取にあたって神経脱落症状が発生しないとはいえ、容易なことではない。したがって、より安全で、かつ簡便な自家移植療法を確立することは、今日の複雑な各種疾患に対する治療法の確立という点から、極めて重要なことである。これに対し、本発明者らは、ドナー細胞の獲得のために、神経幹細胞の採取技術より容易である、骨髄細胞、臍帯血細胞、または胎児肝細胞より単核細胞分画等を採取する技術を開発した(特願2001-160579)。すなわち、本発明者らは、骨髄細胞より調製した単核細胞分画が神経系細胞への分化能を有するものであることを見出した。さらに、本発明者らは、該単核細胞分画から分離した中胚葉幹細胞を含む細胞分画、間質細胞を含む細胞分画、およびAC133陽性細胞を含む細胞分画が神経系細胞への分化能を有することを見出した。
【0009】
【非特許文献1】Archer, DR. et al., Exp Neurol, 1994, 125, 268-77.
【非特許文献2】Blakemore, WF. and Crang, AJ., Dev Neurosci, 1988, 10, 1-11.
【非特許文献3】Gumpel, M. et al., Ann New York Acad Sci, 1987, 495, 71-85.
【非特許文献4】Blakemore, WF., Nature, 1977, 266, 68-9.
【非特許文献5】Honmou, O. et al., J Neurosci, 1996, 16, 3199-208.
【非特許文献6】Franklin, RJ. et al., Glia, 1996, 17, 217-24.
【非特許文献7】Imaizumi, T. et al., J Neurosci, 1998, 18(16), 6176-6185.
【非特許文献8】Kato, T. et al., Glia, 2000, 30, 209-218.
【非特許文献9】Utzschneider, DA. et al., Proc Natl Acad Sci USA, 1994, 91, 53-7.
【非特許文献10】Gage, FH. et al., Proc Natl Acad Sci USA, 1995, 92, 11879-83.
【非特許文献11】Lois, C. and Alvarez-Buylla, A., Proc Natl Acad Sci USA, 1993, 90, 2074-7.
【非特許文献12】Morshead, CM. et al., Neuron, 1994, 13, 1071-82.
【非特許文献13】Reynolds, BA. and Weiss, S., Science, 1992, 255, 1707-10.
【非特許文献14】Chalmers-Redman, RM. et al., Neurosci, 1997, 76, 1121-8.
【非特許文献15】Moyer, MP. et al., Transplant Proc, 1997, 29, 2040-1.
【非特許文献16】Svendsen, CN. et al., Exp Neurol, 1997, 148, 135-46.
【非特許文献17】Flax, JD. et al., Nat Biotechnol, 1998, 16, 1033-9.
【非特許文献18】Akiyama, Y. et al., Exp Neurol, 2001.
【非特許文献19】Yandava, BD. et al., Proc Natl Acad Sci USA, 1999, 96, 7029-34.
【発明の開示】
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、中胚葉幹細胞またはES細胞から神経系細胞への分化誘導方法、中胚葉幹細胞を増殖させることで十分量の細胞を獲得し、神経幹細胞および神経系細胞へ効率的に分化誘導させる方法、該方法により得られる神経系細胞、該神経系細胞を含む神経系疾患の治療のための組成物、および該組成物を用いた神経系疾患の治療方法を提供することにある。
【0011】
本発明者らは、骨髄液または臍帯血から分離される単核細胞分画に含まれる中胚葉幹細胞、またはES細胞が、in vitroにおいて、神経系細胞への分化誘導することを新たに見出した。
【0012】
具体的には、骨髄液または臍帯血から分離される単核細胞分画から調製した中胚葉幹細胞またはES細胞を、培養液1(DMEM(Dulbecco's modified essential medium) 50%、F-12 50%、FSC 1%、bFGF(Basib fibroblast growth factor)10 ng/mlを連日添加、EGF (Epidermal growth factor) 10 ng/mlを連日添加)、または培養液2(NPBM(Neural Progenitor Basal Medium)、2% Neural survival factors (Clonetics)、0.2% hEGF(human Epidermal growth factor)、0.2% Gentamicine-amphotericinB 、0.2% hFGF(human fibroblast growth factor)、bFGF 10 ng/mlを連日添加、EGF 10 ng/mlを連日添加)において、浮遊したままの状態で、5%CO2、37℃で培養すると、該中胚葉幹細胞または該ES細胞が神経幹細胞へ分化誘導することを見出した。
【0013】
また、骨髄液または臍帯血から分離される単核細胞分画に含まれる中胚葉幹細胞、またはES細胞を、培養液1(DMEM 50%、F-12 50%、FSC 1%)若しくは培養液2(NPBM(Neural progenitor cell basal medium: Clonetics)、2% Neural survival factors (Clonetics)、0.2% hEGF(human Epidermal growth factor)、0.2% Gentamicine-amphotericinB 、0.2% hFGF(human fibroblast growth factor))において培養することにより、該中胚葉幹細胞または該ES細胞が神経細胞またはグリア細胞へ分化誘導することを見出した。
【0014】
さらに、上記の培養液に虚血脳抽出液を添加することにより、中胚葉幹細胞またはES細胞から神経系細胞への分化誘導が促進されることを見出した。
【0015】
また、上記分化誘導方法によって得られた神経系細胞の神経再生能力に関しては、脳梗塞モデル、痴呆モデル、脊髄損傷モデル、脱髄モデルにおいて検討を行った結果、脳から抽出・培養した神経幹細胞と同じ程度の再生能力があることが判明した。
【0016】
以上の結果から、脳梗塞、痴呆、脊髄損傷、脱髄疾患等の治療に、上記分化誘導方法によって得られる神経系細胞を使用することが可能となった。また、本発明はより一般的で、広領域の脳神経損傷に対する神経移植・再生療法への応用も可能であると考えられる。すなわち、中枢神経系および末梢神経系の虚血性脳神経損傷、外傷性脳神経損傷、脳神経変性疾患、代謝性神経疾患への自家移植療法に応用可能である。
【0017】
さらに、上記分化誘導方法は、中胚葉幹細胞やES細胞から神経系細胞への分化の機序を解く糸口を提供している。このような分化を規定する遺伝子が同定・解析されれば、それら遺伝子を利用して中胚葉幹細胞やES細胞を効率良く、また十分量、神経系細胞へ形質転換させることが可能となる。従って、神経組織の再生を促すための「遺伝子治療」が可能となるものと大いに期待される。
【0018】
さらに本発明者らは、多量に安定して細胞を増殖させることができる神経系分化誘導方法の開発に成功した。通常、神経再生医療において中胚葉幹細胞は有用であるが、培養条件下での増殖はある程度制限される。しかし、本発明者らの研究により、in vitroにおいてストローマ細胞にテロメラーゼのような不死化遺伝子を組み込んだウイルスベクターを導入すると、細胞分裂を繰り返しても細胞の増殖が継続し、細胞の寿命が飛躍的に延びるにもかかわらず、細胞形状が正常細胞と同じであることが明らかとなった。そして、本発明者らは、不死化遺伝子を中胚葉幹細胞へ導入し、該細胞を不死化することにより、該細胞を安定かつ多量に増殖させることができることに着目した。そして、さらに研究を進めた結果、不死化遺伝子を導入することにより不死化した中胚葉幹細胞を、適当な条件下で培養することにより効率的に神経幹細胞および神経系細胞へ分化誘導できることを見出した。
【0019】
具体的には、不死化遺伝子であるhTERT遺伝子を中胚葉幹細胞へ導入することにより不死化した中胚葉幹細胞を、脂肪細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞等へ分化誘導させることに成功した。さらにhTERT遺伝子導入により不死化した中胚葉幹細胞を培養条件下で高率に神経幹細胞を含む神経系細胞へ分化誘導し、またこれらの細胞(中胚葉幹細胞そのもの、中胚葉幹細胞より分化誘導した神経幹細胞、中胚葉幹細胞より分化誘導した神経幹細胞を分化誘導した神経系細胞、中胚葉幹細胞より分化誘導した神経系細胞)を移植することにより、脊髄脱髄部位が修復されることを明らかにした。
【0020】
また、不死化遺伝子を導入した中胚葉幹細胞を本発明の上記方法によって分化誘導された神経幹細胞および神経系細胞は、神経再生に非常に有用であるものと期待される。
ガン遺伝子等を導入して細胞を不死化した場合、細胞そのものの形質転換が生じるのに対し、本発明において不死化遺伝子を導入することにより細胞を不死化した場合には、もとの細胞の性質を保持したままであり、さらに、不死化遺伝子の導入では、十分な増殖が得られた後、該遺伝子を取り去ることも可能である。
上記の如く本発明者らは、中胚葉幹細胞から神経系細胞へ分化誘導させる効率的な新規方法を開発し、本発明を完成させた。
【0021】
すなわち、本発明は、中胚葉幹細胞またはES細胞から神経系細胞への分化誘導方法、中胚葉幹細胞を不死化させ、さらに神経幹細胞を含む神経系細胞へ効率的に分化誘導する方法、該方法により得られる神経系細胞、該神経系細胞を含む神経系疾患の治療のための組成物、該組成物を用いた神経系疾患の治療方法に関し、より具体的には、
〔1〕 脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血から分離される単核細胞分画に含まれる中胚葉幹細胞、またはES細胞を、基礎的培養液において、33℃〜38℃の条件で培養することにより、神経系細胞へ誘導する方法、
〔2〕 以下の(a)および(b)の工程を含む、中胚葉幹細胞を神経系細胞へ誘導する方法、
(a)不死化遺伝子を高発現または活性化させることにより、不死化した中胚葉幹細胞を提供する工程、
(b)工程(a)の不死化した中胚葉幹細胞を、基礎的培養液において培養することにより、該中胚葉幹細胞を神経系細胞へ誘導する工程、
〔3〕 不死化遺伝子を中胚葉幹細胞内に導入することにより、不死化遺伝子を高発現または活性化させる〔2〕に記載の方法、
〔4〕 不死化遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて、中胚葉幹細胞へ導入することにより中胚葉幹細胞を不死化させる、〔3〕に記載の方法、
〔5〕 レトロウイルスベクターがpBabeである〔4〕に記載の方法、
〔6〕 神経系細胞が遺伝子除去処理により、不死化遺伝子を除去され得るまたは除去されたものである〔2〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法、
〔7〕 不死化遺伝子の遺伝子除去処理が、不死化遺伝子をloxP配列またはloxP様配列にはさんだ後、リコンビナーゼ処理することによりなされる〔6〕に記載の方法、
〔8〕 不死化遺伝子がテロメラーゼ遺伝子、テロメラーゼから派生する遺伝子、または、テロメラーゼの発現もしくは活性を調節する遺伝子のいずれかである〔2〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法、
〔9〕 中胚葉幹細胞が、骨髄液、臍帯血、末梢血、皮膚、皮膚の毛根細胞、筋組織、ES細胞またはES細胞から派生する細胞のいずれかに由来する、〔2〕〜〔8〕のいずれかに記載の方法、
〔10〕 中胚葉幹細胞が、脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血から分離される単核細胞分画に含まれる中胚葉幹細胞である、〔2〕〜〔8〕のいずれかに記載の方法、
〔11〕 単核細胞分画が、脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血を、2000回転で比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行い、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる細胞分画を回収することにより調製することができる細胞分画である、〔1〕または〔10〕に記載の方法、
〔12〕 中胚葉幹細胞がSH2(+), SH3(+), SH4(+),CD29(+), CD44(+), CD14(-), CD34(-), CD45(-)の特徴を有する細胞である〔1〕〜〔11〕のいずれかにに記載の方法、
〔13〕 33℃〜38℃の条件で培養を行う、〔2〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法、
〔14〕 基礎的培養液にbFGF、EGF、または虚血脳抽出液を加えることを特徴とする、〔1〕〜〔13〕のいずれかのいずれかに記載の方法、
〔15〕 神経系細胞が神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、およびグリア細胞からなる群より選択される、〔1〕〜〔14〕に記載の方法、
〔16〕 〔1〕〜〔15〕のいずれかに記載の方法によって得られる細胞、
〔17〕 〔16〕に記載の細胞を含む、神経系疾患の治療のための組成物、
〔18〕 神経系疾患が、中枢性および末梢性の脱髄疾患、中枢性および末梢性の変性疾患、脳卒中、脳腫瘍、高次機能障害、精神疾患、てんかん、外傷性の神経系疾患、炎症性疾患、感染性疾患、および脊髄梗塞からなる群より選択されるものである、〔17〕に記載の組成物、
〔19〕 〔16〕に記載の細胞、または〔17〕に記載の組成物をレシピエントに移植することを特徴とする、神経系疾患の治療方法、
〔20〕 神経系疾患が、中枢性および末梢性の脱髄疾患、中枢性および末梢性の変性疾患、脳卒中、脳腫瘍、高次機能障害、精神疾患、てんかん、外傷性の神経系疾患、炎症性疾患、感染性疾患、および脊髄梗塞からなる群より選択されるものである、〔19〕に記載の治療方法、
〔21〕 移植する細胞がレシピエントに由来している、〔19〕または〔20〕に記載の治療方法、を提供するものである。
【0022】
本発明においては、まず、脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血から分離される単核細胞分画に含まれる中胚葉幹細胞、またはES細胞を、基礎的培養液において、33℃〜38℃の条件で培養することにより、神経系細胞へ誘導する方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、不死化遺伝子を中胚葉幹細胞へ導入することにより、多量の中胚葉幹細胞を確保し、さらに神経幹細胞および神経系細胞へ効率的に分化誘導できる新規な方法を提供する。本発明の好ましい態様においては、中胚葉幹細胞において不死化遺伝子を高発現または活性化させることにより該中胚葉幹細胞を不死化させ、該細胞を培養することにより、神経系細胞へ分化誘導する。
【0024】
本発明の上記方法においては、まず、不死化遺伝子を高発現または活性化させることにより、不死化した中胚葉幹細胞を提供する(工程(a))。
本発明において、中胚葉幹細胞とは、発生学的に中胚葉と分類される組織を構成している細胞を指し、血液細胞も含まれる。また、中胚葉幹細胞とは、自己と同じ能力を持った細胞をコピー(分裂、増殖)することができ、中胚葉の組織を構成している全ての細胞へ分化し得る能力を持った細胞を指す。中胚葉幹細胞は、例えば、SH2(+), SH3(+), SH4(+),CD29(+), CD44(+), CD14(-), CD34(-), CD45(-)の特徴を有する細胞であるが、これらマーカーに特に制限されない。また所謂、間葉系に関連する幹細胞も、本発明の中胚葉幹細胞に含まれる。
【0025】
間葉系に関連する細胞とは、間葉系幹細胞、間葉系細胞、間葉系細胞の前駆細胞、間葉系細胞から由来する細胞のことを意味する。
間葉系幹細胞とは、例えば、骨髄、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、血液、臍帯血、更には、種々の組織の初期培養物から得ることができる幹細胞のことである。
間葉系細胞の前駆細胞とは、間葉系幹細胞から分化し、間葉系細胞への分化の途上にある細胞のことを意味する。
【0026】
間葉系細胞は、間葉系幹細胞の分化により生じ、幹細胞のように多方面に分化する能力はないが、ある方向への分化能力と増殖能力を有している細胞である。正常の状態ではG0期に止まっているが、刺激によりG1期(分裂開始)に移行できる細胞である。間葉系細胞は、例えば、ストローマ細胞、ストローマ細胞の性質を有する細胞も包含している。間葉系細胞は、皮下組織、肺、肝等あらゆる臓器に存在しており、骨、軟骨、脂肪、腱、骨格筋、骨随間質と言った間葉系組織に存在している。
【0027】
間葉系細胞から由来する細胞とは、(1)内皮細胞又は心筋細胞等の心血管系の細胞又は心血管系の細胞の前駆細胞、並びにこれら細胞としての性質を持つ細胞、(2)骨、軟骨、腱、又は骨格筋のいずれかの細胞、並びに骨、軟骨、腱、骨格筋、又は脂肪組織のいずれかの細胞の前駆細胞、更にはこれら細胞としての性質を持つ細胞、(3)神経系の細胞又は神経系細胞の前駆細胞、更にはこれら細胞としての性質を持つ細胞、(4)内分泌細胞又は内分泌細胞の前駆細胞、更にはこれら細胞としての性質を持つ細胞、(5)造血細胞又は造血細胞の前駆細胞、更にはこれら細胞としての性質を持つ細胞、(6)肝細胞又は肝細胞の前駆細胞、更にはこれら細胞としての性質を持つ細胞を包含している。
【0028】
本発明の中胚葉幹細胞は、例えば、脊椎動物の骨髄液、臍帯血、末梢血、皮膚、皮膚の毛根細胞、筋組織、ES細胞またはES細胞から派生する細胞を起源(オリジン)として、調製することができる。例えば、皮膚からの細胞採取については、Youngらの方法(Young et al. Anat Rec, 2001, 264(1),51-62, Campagnli et al. Blood, 2001, 98(8), 2396-2402)、筋肉からの細胞採取はAsakuraらの方法(Asakura A et al. Differentiation, 2001, 68(4-5), 245-253)、脂肪組織からの細胞採取はZukらの方法(Zuk PA et al. Tissue Eng, 7(2), 211-228)、また、滑膜からの細胞採取はDe Bariらの方法(De Bari C et al. Arthritis Rheum, 2001, 44(8), 1928-1942)に従って行うことができる。
【0029】
本発明における脊椎動物としては、好ましくは哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ヒトなど)を指すが、特に制限されない。
【0030】
本発明において使用される骨髄液は、例えば、脊椎動物(ヒトを含む)を麻酔し(局所または全身麻酔)、骨に針を刺し、シリンジで吸引することにより採取することができる。該骨としては、例えば大腿骨、胸骨、骨盤を形成している腸骨等が挙げられるが、これらに限定されない。また、出生時に臍帯に直接針を刺し、注射器で吸引して、臍帯血を採取保存しておくことは確立された技術となっている。
【0031】
また、本発明におけるES細胞の調製方法としては、当業者らに周知の方法(Doetschman TC, et al. J Embryol Exp Morphol, 1985, 87, 27-45, Williams RL et al., Nature, 1988, 336, 684-687)によって調製可能である。本発明においては、このようにして調製されたES細胞を、実施例に記載の条件等において、神経系細胞へ分化誘導させることが可能である。
【0032】
本発明において、中胚葉幹細胞は、脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血を、900gで比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行い、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる一定の比重の細胞分画を回収することにより調製することも可能である。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味し、通常10〜30分間程度である。回収する細胞の比重は、細胞の由来する動物の種類(例えば、ヒト、ラット、マウス等)により変動しうる。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficol液やPercol液を用いることができるがこれらに制限されない。
【0033】
具体例を示せば、まず、脊椎動物から採取した骨髄液(25ml)または臍帯血を同量のPBS溶液に混合し、遠心(900gで10分間)し、沈降細胞をPBSに混合して回収(細胞密度は4×107細胞/ml程度)することにより、血液成分を除去する。その後、そのうち5mlをPercol液(1.073g/ml)と混合し、遠心(900gで30分間)し、単核細胞分画を抽出する。細胞の洗浄のために、抽出した単核細胞分画を、例えば、培養液1(DMEM (Dulbecco's Modified Eagles Medium-Low Glucose)、10% FBS (fetal bovine serum)、1% anti-biotic-antimycotic solution)、培養液2(MSCBM(Mesenchymal Stem Cell Basal Medium)、10% MCGS(Mesenchymal Cell Growth Supplement)、4mM L-Glutamine、1% Penicillin-Streptomycin)または培養液3(DMEM (sigma)、10% FBS(gibco)、1% Penicillin-Streptomycin、2mM L-Glutamine(gibco))に混合し、遠心(900gで15分間、または2000回転で15分間)する。次いで、遠心後の上澄みを除去し、沈降した細胞を回収し、培養する(37℃、5% CO2 in air)。
【0034】
また、中胚葉幹細胞は、例えば、上記単核細胞分画の中から、上記SH2(+), SH3(+), SH4(+), CD29(+), CD44(+), CD14(-), CD34(-), CD45(-)等の細胞表面マーカーを有する細胞を、抗体を使用して選択することにより取得することができる。選択方法としては、特に制限はなく、マグネットビーズを使用する方法、または、通常のセルソーター(FACS等)を使用する方法等が例示できる。
【0035】
また、本発明においては、単核細胞分画(培養液の状態も含む)から中胚葉幹細胞を調製することもできる。単核細胞分画は、脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血を、900gで比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行い、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる細胞分画を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。回収する細胞分画の比重は、好ましくは1.07g/mlから1.08g/mlの範囲(例えば、1.077g/ml)である。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficol液やPercol液を用いることができるがこれらに制限されない。
【0036】
具体例を示せば、まず、脊椎動物より採取した骨髄液(5-10μl)を溶液(L-15を2ml、Ficolを3ml)に混合し、遠心(900gで15分間)し、単核細胞分画(約1ml)を抽出する。この単核細胞分画を細胞の洗浄のために培養溶液(NPBM 2ml)に混合して、再度、遠心(900gで15分間)する。次いで、上澄みを除去した後、沈降した細胞を回収する。
【0037】
本発明における単核細胞分画は、培養液の状態としても、下記の中胚葉幹細胞の調製に使用できる。単核細胞分画を含む培養液としては、単核細胞分画を、例えば、上記の培養液1、培養液2または培養液3中で、37℃、5% CO2 in airの条件で培養することで調製できるが、特にこの条件に限定されない。
【0038】
また、本発明における神経系細胞としては、特に制限はなく、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、またはグリア細胞等を例示することができる。
【0039】
本発明において細胞の不死化とは、通常、細胞は一定回数の分裂を繰り返すと増殖が停止するのに対し、細胞がこのような回数の分裂を繰り返した後もなお、増殖するようになった細胞のことを意味する。つまり、本発明における不死化遺伝子とは、このような回数の分裂を繰り返した後もなお、細胞分裂を継続させる働きを司る遺伝子を意味する。このような遺伝子としては、例えば、テロメラーゼ遺伝子、テロメラーゼから派生する遺伝子、または、テロメラーゼの発現もしくは活性を調節する遺伝子(例えば、myc遺伝子がテロメラーゼ活性を高めると言われている)等を挙げることができるが、これらに特に制限されない。本発明においては、特にヒトテロメラーゼ遺伝子(hTERT)を好適に用いることができる。
【0040】
本発明において、不死化遺伝子を高発現または活性化させる方法としては、例えば、不死化遺伝子を中胚葉幹細胞内に導入する方法が挙げられるが、この方法に特に限定されない。不死化遺伝子の中胚葉幹細胞への導入方法としては、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、不死化遺伝子をプラスミドベクターに組み込み、当該ベクターをカルシウム一リン酸の存在下で中胚葉幹細胞に導入して、形質転換する方法、あるいは不死化遺伝子をリポソームの様なベシクルとともに、中胚葉幹細胞に接触させ導入する方法、更に、不死化遺伝子の存在下でエレクトロポレーションにより中胚葉幹細胞へ導入する方法、あるいは不死化遺伝子を各種ウイルスベクターに組み込み、中胚葉幹細胞に感染させて導入する方法などを用いることができる。ウイルスベクターを用いる導入方法としては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスを用いる方法があり、レトロウイルスベクターとしては、MoMLVウイルスを用いる方法などがある。本発明においては、pBabeベクターを好適に用いることができる。
【0041】
本発明においては、上記の方法により中胚葉幹細胞を不死化させる工程は必ずしも含まなくてもよく、予め上記の方法等により不死化した中胚葉幹細胞を使用して、下記の工程(b)へ供することができる。
本発明の方法においては、上記工程(a)に次いで、不死化した中胚葉幹細胞を、基礎的培養液において培養することにより、該中胚葉幹細胞を神経系細胞へ誘導する(工程(b))。
【0042】
本工程における好ましい態様においては、不死化した中胚葉幹細胞を、基礎的培養液において培養することにより、該中胚葉幹細胞を神経幹細胞へ誘導する。
本発明の好ましい態様においては、上記中胚葉幹細胞または上記ES細胞を、基礎的培養液において、33℃〜38℃の条件で培養する。
【0043】
本発明における基礎的培養液としては、細胞培養に使用される通常の培養液であれば特に制限はないが、好ましくは、DMEM(Dulbecco's modified essential medium)またはNPBM(Neural progenitor cell basal medium: Clonetics)である。上記基礎的培養液のその他の成分としては、特に制限はないが、好ましくは、F-12、FCS、Neural survival factors (Clonetics)等が挙げられる。これらの培養液中の濃度としては、例えば、F-12は50%、FCSは1%である。また、培養液におけるCO2濃度は好ましくは5%であるが、特に制限されない。
【0044】
また、本発明の好ましい態様としては、上記基礎的培養液に、bFGF(Basic fibroblast growth factor)またはEGF(Epidermal growth factor)を添加する。この場合、これらは単独で添加しても、両方添加してもよい。上記bFGFまたはEGFの濃度としては、1ng/ml〜100ng/mlが挙げられるが、好ましくは、10ng/mlである。添加時期や添加方法としては、特に制限はないが、好ましくは、上記中胚葉幹細胞を該基礎的培養液で培養しながら、連日添加する方法が挙げられる。また、中胚葉幹細胞を神経幹細胞へ分化誘導を行う際には、上記基礎的培養液にbFGFおよびEGFを添加することが好ましい。
【0045】
本発明においては、上記基礎的培養液およびその他の成分を含む該基礎的培養液に、虚血脳抽出液を加えることで、上記中胚葉幹細胞から上記神経幹細胞を含む神経系細胞への誘導を促進することが可能である。通常、虚血脳組織からの抽出物を添加しない状態では、神経幹細胞への分化に1週間以上必要であるが、添加するとわずか数日で誘導が可能であり、しかも誘導高率も非常に高くなる。本発明においては、このような神経幹細胞を含む神経系細胞への誘導促進方法もまた提供する。
【0046】
本発明における虚血脳抽出液としては、例えば、脊椎動物の虚血脳の粉砕液を遠心分離することで調製することが可能である。具体的には、全脳虚血モデル動物(ラット等)より全脳を摘出し、作製した小切片をNPBM(神経幹細胞用培養液)に加え、ホモジェナイザーにて機械的に粉砕する。次いで、300gで5分間、または800rpmで5分間遠心し、上澄みを集め、メンブレンフィルターにて細胞成分を除去することで虚血脳抽出液を調製することができるが、この方法に限定されない。該全脳虚血モデル動物としては、動物をネンブタールで麻酔後、生理食塩水にて潅流することで作製することが可能である。このようにして得られた虚血脳抽出液を、上記基礎的培養液およびその他の成分を含む該基礎的培養液に添加する。添加時期としては、特に制限はない。
【0047】
本発明においては、上記の条件により、上記中胚葉幹細胞または上記ES細胞を培養することで、神経系細胞へ誘導する。該神経系細胞としては、具体的には、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、またはグリア細胞等を例示することができる。
【0048】
また、本発明における培養の温度条件としては、33℃〜38℃であるが、好ましくは、37℃である。
その他の培養条件には、特に制限はない。細胞は、浮遊した状態(Neurosphere状態)であっても、培養容器に付着した状態であってもよい。該培養容器としては、例えば、ノンコーティングディッシュ(non-coating dish)等が挙げられる。
【0049】
また、本発明の方法により分化誘導された神経系細胞は、不死化遺伝子を除去することにより、安全性が向上するものと考えられる。本発明においては、既に確立した技術により、細胞に導入した不死化遺伝子を除去することも可能である。例えば、不死化遺伝子をloxP配列またはloxP様配列に挟まれるように構成しておくことにより、Creリコンビナーゼなどのリコンビナーゼ処理を行い、不死化遺伝子を特異的に除去することが可能である。
【0050】
また本発明においては、上記中胚葉幹細胞の培養液を新しい培養液(DMEM(Dulbecco's modified essential medium) 50%、F-12 50%、FSC 1%)若しくは培養液2(NPBM(Neural progenitor cell basal medium: Clonetics)、2% Neural survival factors (Clonetics)、0.2% Gentamycine-amphotericinB、10 ng/ml hFGF)に変えて、数日〜4週間程度培養することにより、中胚葉幹細胞から直接的に(神経幹細胞への転換をせずに)神経細胞やグリア細胞へ分化誘導させることが可能である。このように中胚葉幹細胞から直接的に神経細胞やグリア細胞へ分化誘導させる方法も本発明に含まれる。
【0051】
本発明は、本発明の上記方法によって取得される細胞を提供する。該細胞とは神経系細胞であり、例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、またはグリア細胞等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0052】
本発明は、また、上記方法によって得られる細胞を含む神経系疾患の治療のための組成物を提供する。本発明の細胞はそのまま移植に用いることも可能であるが、移植による治療効率を向上させるために、種々の薬剤を添加した、あるいは遺伝子導入した組成物として、移植することも考えられる。
【0053】
本発明の組成物の調製においては、例えば、(1)本発明の細胞の増殖率を向上させる、または神経系細胞へのさらなる分化を促進する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、(2)本発明の細胞の損傷神経組織内での生存率を向上させる物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、(3)本発明の細胞が、損傷神経組織から受ける悪影響を阻止する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、(4)ドナー細胞の寿命を延長させる物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、(5)細胞周期を調節する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、(6)免疫反応の抑制を目的とした物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、(7)エネルギー代謝を活発にする物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、(8)ドナー細胞のホスト組織内での遊走能を向上させる物質、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、(9)血流を向上させる物質、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入(血管新生誘導も含む)、(10)ホスト脳神経へ何らかの治療効果を有する物質の添加(対象疾患としては、例えば、脳腫瘍、中枢性および末梢性の脱髄疾患、中枢性および末梢性の変性疾患、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血を含む)、脳腫瘍、痴呆を含む高次機能障害、精神疾患、てんかん、外傷性の神経系疾患(頭部外傷、脳挫傷、脊髄損傷を含む)、炎症性疾患、感染性疾患、など)、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、を行うことが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0054】
本発明の細胞および組成物は、レシピエントに移植することで、神経系疾患の治療に用いることができる。治療の対象となる神経系疾患としては、例えば、中枢性および末梢性の脱髄疾患、中枢性および末梢性の変性疾患、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血を含む)、脳腫瘍、痴呆を含む高次機能障害、精神疾患、てんかん、外傷性の神経系疾患(頭部外傷、脳挫傷、脊髄損傷を含む)、炎症性疾患、感染性疾患(例えばヤコブ病など)、並びに脊髄梗塞が挙げられるが、これらに制限されない。
【0055】
本発明によれば、レシピエント由来の、例えば、骨髄液、臍帯血、末梢血、皮膚、筋組織、脂肪組織、滑膜、毛根から分離して得た細胞をドナー細胞として移植することができる(自家移植療法)。このことは、移植による拒絶反応の危険性も少なく、免疫抑制剤を併用しなければならない困難性がない点で好ましい。自家移植療法が困難な場合には、他人または他の医療用動物由来の細胞を利用することも可能である。
【0056】
また本発明者らは、細胞移植をいつ試行すると、どのくらいの治療効果が得られるかについて検討を行い、超急性期の移植治療(数時間以内)が最高で、次に、急性期(数日後)、そして慢性期(数週間後)の順に治療効果があることが示された。従って、超急性期の移植治療が望ましいものと考えられることから、あらかじめ細胞を採取、培養、遺伝子導入、増殖、分化誘導、保存しておくことは非常に有用である。つまり、あらかじめレシピエントから細胞を採取し、本発明の方法により不死化遺伝子を導入し、次いで培養することにより分化誘導させた神経系細胞を、移植に備えて適宜保存しておくことも好適に実施される。保存しておく細胞の種類としては、下記の状態が考えられる。当業者においては、治療する疾患に応じて適宜適切な状態の細胞を選択することができる。
1:採取したそのままの状態(crude fraction)、2:ある程度精製した状態、3:精製した細胞を、培養して増やした状態、4:精製した細胞を、不死化して増やした状態、5:神経幹細胞へ分化誘導した状態、6:神経系細胞へ分化した状態)。また、骨髄バンクや臍帯血バンクなどに保存された細胞を、移植に使用することも可能である。細胞は冷凍保存したものであってもよい。
【0057】
さらに本発明は、中胚葉幹細胞(不死化したものを含む)をそのままレシピエントに対して移植を行うことにより、神経組織へ移行した該中胚葉幹細胞は神経系細胞へと分化し、機能的な再建が見られることを明らかにした。従って、中胚葉幹細胞を直接レシピエントへ投与(移植)し、レシピエント体内において該細胞を神経系細胞へ分化誘導させる方法も本発明の一つの態様として、本発明に包含される。この場合の投与方法は、特に制限されず、例えば、局所投与、静脈内投与、動脈内投与、脳脊髄液内投与(例えば、腰椎穿刺や脳室内投与)などを挙げることができる。
【0058】
患者への細胞の移植は、例えば、移植する細胞を、人工脳脊髄液や生理食塩水などを用いて浮遊させた状態で注射器に溜め、手術により損傷した神経組織を露出し、この損傷部位に注射針で直接注入することにより行うことができる。本発明の細胞は、遊走能が高いため、神経系組織内を移動することができる。従って、損傷部位の近傍へ移植してもよい。また、脳脊髄液中への注入でも効果が期待できる。この場合、通常の腰椎突刺で細胞を注入することができるため、患者の手術の必要はなく、局所麻酔のみで済むため、病室で患者を処置できる点で好適である。さらに、動脈内や静脈内への注入でも効果が期待できる。従って、通常の輸血の要領での移植が可能となり、病棟での移植操作が可能である点で好適である。
【0059】
また、本発明の細胞は、その遊走能の高さから、遺伝子の運び屋(ベクター)として利用することも考えられる。例えば、脳腫瘍、中枢性および末梢性の脱髄疾患、中枢性および末梢性の変性疾患、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血を含む)、脳腫瘍、痴呆を含む高次機能障害、精神疾患、てんかん、外傷性の神経系疾患(頭部外傷、脳挫傷、脊髄損傷を含む)、炎症性疾患、感染性疾患(例えばヤコブ病など)などの各種神経疾患に対する遺伝子治療用ベクターとしての利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0061】
[実施例1] 単核細胞分画および中胚葉幹細胞の調製
(1)単核細胞分画および該単核細胞分画の培養液
マウス(およびヒト)から採取した細胞サンプルを、Ficol 3mlを含有するL-15培地(2ml)中に希釈して、遠心分離(2,000rpm、15分間)した。単核球画分から細胞を集め、2mlの無血清培地(前駆神経細胞維持培地(Neural Progenitor cell Maintenance Medium):NPMM)中に懸濁し、さらに遠心分離(2,000rpm、15分間)して、上澄みを除去し、沈降した細胞を回収した。この細胞を再びNPMMに懸濁し、単核細胞分画を調製した。
【0062】
また、単核細胞分画を、培養液1(DMEM (Dulbecco's Modified Eagles Medium-Low Glucose) 10% FBS (fetal bovine serum)、1% anti-biotic-antimycotic solution)、培養液2、培養液3中で、37℃、5% CO2の条件で培養し、該単核細胞分画の培養液を調製した。
【0063】
(2)中胚葉幹細胞
上記(1)に記載の方法で調製した単核細胞分画、または該単核細胞分画の培養液から、SH2(+)、SH3(+)、SH4(+)、CD29(+)、CD44(+)、CD14(-)、CD34(-)、CD45(-)等の特徴を有する細胞を、抗体を使用して抽出した。選別方法は、マグネットビーズを使用する方法、または、通常のセルソーター(FACS等)を使用する方法を用いた。
【0064】
[実施例2] 中胚葉幹細胞から神経系細胞への分化誘導
(1)中胚葉幹細胞から神経幹細胞への誘導
まず、洗浄を行い、次いで、培養溶液から細胞を、酵素処理(試薬(0.05% trypsin、0.02% EDTA)、室温、5分間)によってはがし、等量の培養液を加え、数回ピペッティングし、単一細胞までバラバラにした。次いで、600回転で5分間遠心した。沈殿した細胞をピペットで吸い上げた。次いで、新しい培養液1(DMEM(Dulbecco's modified essential medium) 50%、F-12 50%、FSC 1%、Basib fibroblast growth factor(bFGF)10 ng/mlを連日添加、Epidermal growth factor(EGF)10 ng/mlを連日添加)または培養液2(NPBM(Neural progenitor cell basal medium: Clonetics)、2% Neural survival factors (Clonetics)、0.2% hEGF(human Epidermal growth factor)、0.2% Gentamicine-amphotericinB 、0.2% hFGF(human fibroblast growth factor)、Basib fibroblast growth factor(bFGF)10 ng/mlを連日添加、Epidermal growth factor(EGF)10 ng/mlを連日添加)、培養容器(on-treated polystyrene dish)において、浮遊したままの状態で、5%CO2、37℃で培養を継続した。
【0065】
(2)中胚葉幹細胞から神経細胞やグリア細胞への誘導
培養している中胚葉幹細胞の培養液を、新しい培養液(DMEM(Dulbecco's modified essential medium) 50%、F-12 50%、FSC 1%)若しくは培養液2(NPBM(Neural progenitor cell basal medium: Clonetics)、2% Neural survival factors (Clonetics)、0.2% hEGF(human Epidermal growth factor)、0.2% Gentamicine-amphotericinB、0.2% hFGF)に変えて、約4週間程度培養する方法によって、中胚葉幹細胞から直接的に(神経幹細胞への転換をせずに)神経細胞やグリア細胞へ分化誘導させることにも成功した。
【0066】
上記(1)および(2)の方法による中胚葉幹細胞から神経系細胞への分化誘導の確認は、中胚葉系細胞のマーカーであるSH2やSH3が消え(神経幹細胞のマーカーであるnestinはもともと陰性)、その代わり、神経幹細胞のマーカーであるnestinが陽性となることで行った(図1)。
中胚葉幹細胞から神経系細胞への分化誘導により、培養細胞は形態的にも変化した。具体的には、単一細胞だった細胞がニューロスフィア(neurosphere)を形成した(図1)。また、この神経幹細胞から、神経細胞(NSE陽性)やグリア細胞(GFAP陽性)が分化してくることも確認した(図2)。
【0067】
[実施例3] 虚血脳抽出液を用いた、中胚葉幹細胞から神経系細胞への分化誘導の促進
脳に虚血ストレスを負荷し、虚血脳の抽出液を、培養中胚葉幹細胞へ添加することで、中胚葉幹細胞が神経幹細胞へ高率で分化することを見出した。この方法によると、培養中胚葉幹細胞が神経幹細胞へ、わずか数日間で高率に誘導できることが分かった。
【0068】
(1)虚血脳抽出液の作製
まず、ラットをネンブタールで深麻酔後、前腹壁から前胸部を切開し、心臓および上行大動脈を露出する。心尖部を切開し左心室から上行大動脈にチューブを挿入する。次に右心耳に切開を入れ、チューブより生理食塩水を3分間灌流させ、十分な全身の脱血を行った。潅流後、4〜5時間そのまま放置し、全脳虚血モデルとした。次いで、上記の全脳虚血モデルラットより大脳、中脳を摘出し、尖刀にて1〜2 mm程度の小切片にした。作製した小切片をNPMMに加え、ホモジェナイザーにて機械的に粉砕し、混濁液を作製した。次いで、混濁液を遠心管に移し、800 rpm、5分間遠心分離を行い、上澄みを集めた。0.22μmのメンブレンフィルターにて細胞成分を除去し、虚血脳抽出液とした。
【0069】
(2)培養中胚葉幹細胞(MSC)の神経幹細胞への分化誘導
MSC細胞を100 mm non-coating dish(IWAKI)、conditioning medium (3種類:別記) 、37℃ 5%CO2の条件にて培養を継続した。90% confluentで、パスツールピペットで培養液を吸い取り、Dulbecco's PBSで3回リンスした。0.05% Trypsin、0.02% EDTA in PBSを2ml加え、細胞がはがれるまで37℃で2〜5分間インキュベートした。conditioning mediumを2ml加え、Trypsinの反応をとめた。上清および剥がれた細胞をパスツールピペットにて、遠心管に集め、数回ピペティングした後、1000 rpm 5分間で遠心分離を行った。上清を捨て、NPMMを加え再懸濁した。37℃に温めておいた50%NPMM、50%虚血脳抽出液培地にまき、37℃、5%CO2の条件下、100mm non-coating dish(IWAKI)で浮遊培養した。bFGF 10 ng/mlおよびEGF 10 ng/mlを連日添加した。
【0070】
[実施例4] 神経再生能の評価
上記分化誘導方法によって得られた神経系細胞の神経再生能力に関しては、脳梗塞モデル(図3)、痴呆モデル(図3)、脊髄損傷モデル(図4)、脱髄モデル(図5)での検討の結果、脳から抽出・培養した神経幹細胞と同じ程度の再生能力があることが判明した。
【0071】
[実施例5] ES細胞から神経系細胞への分化誘導
マウスES細胞を100 mm gelatin-coating dish(IWAKI)、conditioning medium 20ml (DMEM、10%FCS、100μM 2-メルカプトエタノール、1000 UNITs/ml ESGRO(CHEMICON))、37℃ 5%CO2の条件にて培養を継続した。90% confluentで、パスツールピペットで培養液を吸い取り、PBSで3回リンスした。0.25% Trypsin、0.03% EDTA in PBSを2ml加え、細胞がはがれるまで37℃で2〜5分間インキュベートした。FCSを400μl加え、Trypsinの反応をとめた。上清および剥がれた細胞をパスツールピペットにて、遠心管に集め、数回ピペティングした後、1000 rpm 5分間で遠心分離を行った。上清を捨て、NPMMを加え再懸濁した。37℃に温めておいた50%NPMM、50%虚血脳抽出液培地にまき、37℃、5%CO2の条件下、100 mm non-coating dish(IWAKI)で浮遊培養した。bFGF 10 ng/mlおよびEGF 10 ng/mlを連日添加した。
【0072】
[実施例6]細胞へのhTERT遺伝子の導入
以下に、ストローマ細胞(stromal cell)へhTERT遺伝子を導入することにより、該細胞を不死化させる方法を示す。
【0073】
1.初代ストローマ細胞の採取
健康成人男性の腸骨より得られた骨髄液10mlから単核球分離し、1晩培養後にフラスコに付着した細胞をストローマ細胞として利用した。
2.ストローマ細胞に導入する遺伝子として、ヒトテロメラーゼの触媒活性サブユニット(hTERT)をコードする遺伝子を用いた。hTERTの配列は、例えば、Science 277, p.955-959に記載されている。更に、細胞の癌化に関連する遺伝子として知られている、公知のras遺伝子、SV40T遺伝子についてもストローマ細胞に導入した。
3.ストローマ細胞への遺伝子導入に用いるベクター(図7)pBABE-hygro-hTERT(Dr. Robert A Weinbergより供与)は、pBABE-hygro-hTERTはProc.Natl.Acad.Sci.USA vol95, p14723-14728中に記載されているとおり、pCI-Neo-hTERT-HAよりPCRにて得たhTERT EcoRV-SalI fragmentをpBABE-hygroにcloningしたものである。pBABE-puro-rasV12(Dr. Scott W Loweから供与)は、Cell,88,593-602,1997に記載の方法で調製された。pMFG-tsT-IRES-neoはMFG-tsT(pZIPtsU19{Dr. R. McKayから頂いたもの}よりcloningしてMFGベクターに組み込んだもの{Lab.Invest. 78, 1467-1468,1998})にIRES-neo(pRx-hCD25-ires-neo{Human gene therapy 9,1983-1993,1998}から切り出した)のBamHI fragmentをcloningして作成した。
4.レトロウイルス産生細胞の作製とそれによるウイルスの感染は「別冊実験医学 ザ・プロトコールシリーズ 遺伝子導入&発現解析実験法(斉藤 泉 菅野 純夫 編 羊土社)」に準じておこなった(P58-62)。
【0074】
具体的には、BOSC23パッケージング細胞(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 8392-8396, 1993)を用いて、次のように、ΨCRIPパッケージング細胞(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 3539-3543, 1993)を作成した。
4−1.組み換えレトロウイルスベクター産生細胞の作製
(i)BOSC23細胞を10cm dishにトランスフェクションの18〜24時間前に5.5x106個播いた。
(ii)15μgのDNA(レトロウイルスベクター)にOPTI-MEM(Gibco/BRL)を800μl静かに加え、攪拌しA液を調製した。
(iii)滅菌されたチューブにOPTI-MEMを750μl採り、LIPOFECTAMINE(2mg/ml Gibco/BRL)を50μl加えてゆっくり混ぜB液を調製した。
(iv)A液を静かにB液に混ぜC液を調製し、室温で30〜45分放置した。
(v)BOSC23細胞を抗生剤、FBSを除いた37℃の培地で1度洗った。
(vi)C液(1.6ml)を静かにBOSC23細胞に加えた。
(vii)更に、2.4mlのOPTI-MEMを加えた。
(viii)5時間、5%CO2下でインキュベートした。
(ix)4mlの20%胎児ウシ血清を含むDMEMを加え、1晩インキュベートした。
(x)10%胎児ウシ血清を含む37℃の培地に換え、同時にパッケージング細胞であるΨCRIPを10cm dishに1〜2x10個播いた。
(xi)24時間後、BOSC23細胞の培地を0.45または0.20μmのシリンジフィルターで濾過し、ΨCRIPの培地を5mlの濾過した培地に交換した。同時にポリブレン(Hexadimethrine Bromide, SIGMA H-9268)を8μg/mlになるように加えた。
(xii)4〜24時間培養後、5mlの培地を加え、さらに一晩培養した。
(xiii)薬剤選択を行い、レトロウイルスを産生するΨCRIP細胞が作成される。
【0075】
次に、上記3種のベクターを別々に、レトロウイルス産生細胞(ψCRIP/P131)で増殖させ、ストローマ細胞には次のようにトランスフェクション(transfection)された(図8)。
まず、トランスフェクションを行う前日に、ストローマ細胞を5x104cell/10cm dishとなるように播きなおし、レトロウイルスを産生するψCRIP/P131の培地を10%ウシ血清含有DMEMから12.5%非働化ウマ血清12.5%非働化胎児ウシ血清/2-Mercaptoethanol/hydrocortisone含有α-MEMの培地に代えて培養する。当日に培養上清を0.20μmフィルターで濾過してポリブレン(polybrene)を最終濃度8μg/mlになるように加えた。次に上清に産生された組み換えレトロウイルスベクターをストローマ細胞(stromal cell)に感染させた。4時間後培養上清を新しい培地に換えてさらに2日間培養した。その後、pBABE-hygro-hTERTはハイグロマイシン100μg/mlで5日間、pBABE-puro-rasV12はピューロマイシン1μg/mlで5日間, pMFG-tsT-IRES-neoはG418 1mg/mlで5日間それぞれ薬剤選択を行った。
【0076】
感染には、3種類のレトロウイルスベクターを、(1)コントロール、(2)pBABE-hygro-hTERTベクターのみ、(3)pMFG-tsT-IRES-neoベクターのみ、(4)pBABE-puro-ras-V12ベクターのみ、(5)pMFG-tsT-IRES-neo / pBABE-hygro-hTERT2種のベクター、(6)pBABE-puro-ras-V12 / pBABE-hygro-hTERT2種のベクター、(7)pMFG-tsT-IRES-neo / pBABE-puro-ras-V12の2種のベクター、(8)pBABE-puro-ras-V12/ pMFG-tsT-IRES-neo/ pBABE-hygro-hTERTの3種のベクター、で感染させた。
なおこれらのウイルスおよび細胞は、発明者らが保管しており、特許後いつでも分譲できる状態にある。
【0077】
[実施例7]間葉系幹細胞の分化能
骨、軟骨、筋肉等へ分化する能力と、自己複製能を合せもつ間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)の分化や血液幹細胞の支持能を検討した。
健康成人の腸骨より骨髄穿刺を行い、比重遠心法により単核球を採取、10%非働化胎児ウシ血清含有DMEMにて一晩培養。翌日より付着細胞(adherent cell)を培養する。2週後にT-E(トリプシンーEDTA)にて細胞を回収したものを初代間葉系幹細胞とし凍結保存した。その後hTERT遺伝子を実施例1と同様に導入した。次に、初代間葉系幹細胞とhTERT遺伝子の導入された不死化間葉系幹細胞との増殖曲線を比較した。結果を図9に示す。図9より明らかなように、初代間葉系幹細胞は42日世代数17(PD=17)で細胞分裂の停止(crisis)が起こったが、不死化間葉系幹細胞は270日世代数54(PD=54)経過した現在でも、分裂速度が遅くなることなく継代培養が可能であったことから、安定したセルライン(cell line)を樹立したしたものと考えられる。
【0078】
次に作製した間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)が多分化能を保持しているかを検討した。
(1)まず、1μM デキサメサゾン(dexamethazone)、60μM インドメタシン(indomethacine)、0.5μM 3―イソブチルー1―メチルキサンチン(isobutylmethylxanthine)、5 μg/ml インシュリン(insulin)を用いて、脂肪細胞への分化を誘導した。約1週間の培養後 Oil Red O 染色で染色された(図10;赤いのが脂肪滴)。
(2)次に、1μM デキサメサゾン(dexamethazone)、50μg/ml アスコルビン酸-2‐リン酸(ascorbate-2-phosphate)、6.25 μg/ml インシュリン(insulin)、6.25μg/ml トランスフェリン(transferrin)、5.35 μg/mlセレン酸( selenic acid)、1.25 mg/ml リノレン酸(linoleic acid)、10 ng/ml TGF-βを用いて、軟骨分化を誘導した。2-3週間の培養で、Alcian blueで染色された。染色(凍結切片)軟骨基質内のコンドロイチンが青く染まる(図11)。
(3)更に、1μMデキサメサゾン(dexamethazone)、50μM アスコルビン酸-2‐リン酸(ascorbate-2-phosphate)、10mM β−グリセロフォスフィト(β-glycerophosphate)で、骨分化を誘導した。2-3 weeksの培養で、von Kossa染色で染色された(ミネラルの沈着)。結果を図12に示す。
【0079】
[実施例8] 中胚葉幹細胞から神経系細胞への分化誘導
(1)中胚葉幹細胞から神経幹細胞への誘導
上記実施例と同様の方法によってhTERT遺伝子を導入することにより不死化された中胚葉幹細胞である間葉系幹細胞(MSC)を使用して以下の実験に供した。
まず、不死化された細胞を洗浄し、次いで、培養溶液から細胞を、酵素処理(試薬(0.05% trypsin、0.02% EDTA)、室温、5分間)によってはがし、等量の培養液を加え、数回ピペッティングし、単一細胞までバラバラにした。次いで、900gで5分間遠心した。沈殿した細胞をピペットで吸い上げた。次いで、新しい培養液1(DMEM(Dulbecco's modified essential medium) 50%、F-12 50%、FCS 1%、Basic fibroblast growth factor(bFGF)10 ng/mlを連日添加、Epidermal growth factor(EGF)10 ng/mlを連日添加)または培養液2(NPBM(Neural progenitor cell basal medium: Clonetics)、2% Neural survival factors (Clonetics)、10 ng/ml hEGF(human Epidermal growth factor)、0.2% Gentamycine-amphotericinB、10 ng/ml hFGF(human fibroblast growth factor)、Basic fibroblast growth factor(bFGF)10 ng/mlを連日添加、Epidermal growth factor(EGF)10 ng/mlを連日添加)、培養容器(on-treated polystyrene dish)において、浮遊したままの状態で、5%CO2、37℃で培養を継続した。
【0080】
この方法による中胚葉幹細胞から神経幹細胞への分化誘導の確認は、中胚葉系細胞のマーカーであるSH2やSH3が消え(神経幹細胞のマーカーであるnestinはもともと陰性)、その代わり、神経幹細胞のマーカーであるnestinが陽性となることで行った(図13)。
中胚葉幹細胞から神経幹細胞への分化誘導により、培養細胞は形態的にも変化した。具体的には、単一細胞だった細胞がニューロスフィア(neurosphere)を形成した(図7)。また、この神経幹細胞から、神経細胞(NSE陽性)やグリア細胞(GFAP陽性)が分化してくることも確認した(図14)。
【0081】
(2)中胚葉幹細胞から神経細胞やグリア細胞への誘導〔1〕
培養している上記の中胚葉幹細胞の培養液を、新しい培養液(DMEM(Dulbecco's modified essential medium) 50%、F-12 50%、FSC 1%)若しくは培養液2(NPBM(Neural progenitor cell basal medium: Clonetics)、2% Neural survival factors (Clonetics)、10 ng/ml hEGF(human Epidermal growth factor)、0.2% Gentamycine-amphotericinB、10 ng/ml hFGF)に変えて、約4週間程度培養する方法によって、中胚葉幹細胞から直接的に(神経幹細胞への転換をせずに)神経細胞やグリア細胞へ分化誘導させることに成功した。
【0082】
(3)中胚葉幹細胞から神経細胞やグリア細胞への誘導〔2〕
中胚葉幹細胞から神経系細胞への分化誘導は、以下のようにして行うことも可能である。神経誘導については過去の文献に準じて行った(journal of neuroscience research 61 : 364-370, 2000)。まずMSC KY hTERTの細胞数調製を行った。具体的には、10 cm dishであらかじめ培養し、70-80%コンフルエントの時点で、上清を吸引、PBS 5 mlで洗浄後、Trypsin-EDTA1mlを加えて、細胞を回収した。210 g, 10分の遠心で細胞をペレットにして、2 x 104 cell / 1 ml 10%胎児ウシ血清含有DMEM になるように、細胞濃度を調製した。6ウエルプレートに2 ml ずつ(4 x 104 cell)播き、24時間後に10%胎児ウシ血清含有DMEMを除き、1mMの2-MEを含んだ10%胎児ウシ血清含有DMEM 2 mlに培地を替えた(前誘導)。さらに24時間後に血清を除いて以下の3種の神経誘導を行った。(1)1mMの2-MEを含んだDMEM 2 ml、(2)10mMの2-MEを含んだDMEM 2 ml、(3)200μMのbuthylated hydroxyanisole(BHA, Sigma)と2%dimethylsulfoxide(DMSO, NACALAI)を含んだDMEM 2 ml。以上の培地で24時間誘導後形態観察を行った。
【0083】
その結果、(1)平らな細胞質を持ったMSC KY hTERTは細胞質が退縮し、2極あるいは多極を有しながら隣接する細胞と連絡を取り合うような形態を示した。(2)(3)ほぼ同様の形態をもつ細胞が(1)に比べ、多く見られた。このような形態変化は過去の文献と同様な所見を呈しており、さらなる解析として、神経のマーカーの免疫染色を行った。抗体はGlial fibrillary acidic protein(GFAP, Cappel), Myelin basic protein(MBP, Chemicon), Neuron specific enolase(NSE, ARPの3種類で、それぞれ原液の50倍、200倍、200倍希釈して使用した。また免疫染色にはVectastain Elite ABC kit(VECTOR laboratories)と、さらに基質としてDAB基質キット (VECTOR laboratories)を用いた。固定は2%パラホルムアルデヒド、内在性ぺルオキシダーゼ阻害薬として0.3%過酸化水素を用いた。なお神経誘導は前述通りとして、免疫染色も誘導24時間後に行った。
【0084】
[実施例9] 神経再生能の評価
上記分化誘導方法によって得られた神経系細胞の神経再生能力に関しては、脳梗塞モデル、痴呆モデル、脊髄損傷モデル、脱髄モデルでの検討の結果、脳から抽出・培養した神経幹細胞と同じ程度の再生能力があることが判明した(図15)。
【0085】
[実施例10] ニューロスフィア(Neurosphere)様細胞の神経細胞分化
上記実施例と同様の方法によって、hTERT遺伝子を導入することにより不死化された中胚葉幹細胞である間葉系幹細胞(MSC-hTERT)、同じくhTERT遺伝子を導入したストローマ細胞(Stroma-hTERT)、PDF細胞、Hela細胞、HepG2の各細胞を浮遊後、Neural Progeniter basal medium/ Non-treated Dishで培養した。48時間後に細胞の形態を観察したところ、MSC-hTERT細胞、Stroma-hTERT細胞、PDF細胞がスフィア様を呈していた(図16)。
【0086】
また、上記各細胞を本発明の方法で神経幹細胞へ分化誘導後、すなわち、浮遊させた状態でNeural Progeniter basal medium / Non-treated Dishで、1日、2日、5日間培養後、total RNAを調製し、RT-PCRにてnestinの発現を観察した。
10% FBS含有DMEMで培養をそのまま継続したものを対照とした。この方法による中胚葉幹細胞から幹細胞への分化誘導の確認は、実施例8記載のように、神経幹細胞のマーカーであるnestinが陽性となることで行った。
その結果、MSC-hTERT、MSC、Stroma-hTERT、PDFの2日間および5日間培養細胞のレーンに、nestinの発現が観察された(図17)。
【0087】
[実施例11]神経細胞への分化、ニューロスフィア形成
実施例10で使用した各細胞を、5 x 104 個/ウェルになるように、10% FBS含有DMEM 6ウェルに播いた。一晩培養後、10% FBS含有DMEMに1mM β-MEを添加した培地に交換し、更に一晩培養した。次いで、2% DMSO / 200μM butylated hydroxyanisole(BHA)を含んだDMEM培地に交換し誘導を行った。4日後に細胞を回収し、total RNAを抽出し、RT-PCRを行った。
【0088】
また上記各細胞を、NPBM(FGF (20 ng/ml) およびEGF (20 ng/ml))培地を用いたノンコートディッシュ容器に5 x 105 個/10 cm ディッシュとなるように播き、ニューロスフィアを形成させた。4日後に細胞を回収し、各細胞を1 x 105個/ウェル(poly-D-lysine/laminine coated 6ウェル) NPBM(FGF, EGF(-))に播いた。10日後に細胞を回収し、total RNAを調整し、RT-PCRを行った。
試料中のcDNA濃度の差を補正するため、補正用内部標準としてグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子について同様の解析を行った。
その結果、MSC-hTERTから誘導した神経細胞(図18レーン6;BHA,DMSO)、およびMSC-hTERTから神経幹細胞を経由して神経細胞へと分化誘導した細胞において(図18レーン13;NPBM(-) PDL/laminin)NF-Mの発現が特に強く見られた。
【0089】
[実施例12]Nestinの発現
MSC-hTERTにNestinが陽性になると、EGFPが発現するベクターを遺伝子導入し、細胞株を作成した。in vitroにて神経幹細胞への分化誘導を行い、共焦点レーザー顕微鏡によって細胞を観察したところ、Nestin陽性のMSC-hTERTは、緑色の蛍光を発することが確認された(図19)。
さらに、RT-PCRによってもNestinの発現が確認された(図20)。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によって、中胚葉幹細胞またはES細胞から神経系細胞への分化誘導方法、中胚葉幹細胞を増殖させることで十分量の細胞を獲得し、さらに、神経幹細胞および神経系細胞へ効率的に分化誘導させる新規な方法、該方法により得られる神経系細胞、該神経系細胞を含む神経系疾患の治療のための組成物、および該組成物を用いた神経系疾患の治療方法が提供された。
【0091】
通常のヒト培養中胚葉幹細胞は、培養条件下での増殖がある程度、制限されてしまうのに対し、本発明におけるhTERT遺伝子を導入した中胚葉幹細胞は、非常に多量に安定して増やすことが可能であり、しかも、ガン遺伝子等を導入して不安定化した際に見られる細胞そのものの形質転換は認められず、もとの細胞の性質を保持したままの不死化を実現できる。また、十分な増殖が得られた後、hTERT遺伝子を取り去ることも可能である。
【0092】
本発明の方法は、中枢性および末梢性の脱髄疾患、中枢性および末梢性の変性疾患、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血を含む)、脳腫瘍、痴呆を含む高次機能障害、精神疾患、てんかん、外傷性の神経系疾患(頭部外傷、脳挫傷、脊髄損傷を含む)、炎症性疾患、感染性疾患(例えばヤコブ病など)、並びに脊髄梗塞などの各種神経疾患の治療に大きく貢献するものである。また、本発明はより一般的で、広領域の脳神経損傷に対する神経移植・再生療法への応用も可能であると考えられる。すなわち、中枢性および末梢性の脱髄疾患、中枢性および末梢性の変性疾患、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血を含む)、脳腫瘍、痴呆を含む高次機能障害、精神疾患、てんかん、外傷性の神経系疾患(頭部外傷、脳挫傷、脊髄損傷を含む)、炎症性疾患、感染性疾患(例えばヤコブ病など)、並びに脊髄梗塞への自家移植療法に応用可能である。
【0093】
さらに、本発明の分化誘導方法は、中胚葉幹細胞から神経系細胞への分化の機序を解く糸口を提供している。このような分化を規定する遺伝子が同定・解析されれば、それら遺伝子を利用して中胚葉幹細胞を効率良く、また十分量、神経系細胞へ形質転換させることが可能となる。従って、神経組織の再生を促すための「遺伝子治療」が可能になるものと大いに期待される。
【0094】
また、本発明の方法は、創薬のための機能検査、毒性検査、cDNAクローニングへの応用が期待される。神経に働く治療薬の創薬のための機能検査や毒性検査、ヒト由来の神経系細胞の機能を修飾するような新規cDNAを探索するときなど、細胞を用いたアッセイ系には、通常、多数の神経細胞を必要とするが、ヒト神経細胞の充分な供給は従来極めて困難であった。また、マウスなどの細胞から不死化細胞株を得ることは従来から比較的簡単ではあったが、ヒト以外の動物細胞とヒト神経細胞との種による差異(species specificity)は高い場合が多く、動物細胞や動物個体を用いる実験結果では、ヒト細胞の代替としてヒトに適用することが困難な場合が多かった。当発明の方法と細胞を用いれば、すべての実験を遂行するに充分なだけのヒト神経系細胞を、容易に大量に調製することが可能であり、しかも本来のヒト神経細胞の性質や機能を保持した状態で調製することができる。創薬のための機能検査、毒性検査、cDNAクローニングへの応用において、従来は、量的に制限されるために不可能であった方法に関して、飛躍的な技術革新が期待できる。
【0095】
例えば、これまで、化合物(薬)の機能検査や毒性検査はラットなどの実験動物へ投与することで行われてきたが、ラットでの実験結果がヒトには当てはまらないことが多々あり、ヒトの試料を用いた実験が切望されてきた。その中でも特に、ヒトの神経系細胞の入手は非常に困難であるので、十分量のヒトの神経系細胞を入手できれば、ヒト神経系細胞を用いた機能検査や毒性検査が容易となり、創薬に非常に有用となる。われわれの不死化ヒトMCSで多量の細胞を獲得し、それを本発明の方法で神経系細胞へと誘導することにより、多量のヒト神経系細胞を獲得することができる。
【0096】
さらに、本発明においては中胚葉細胞から神経系細胞へと誘導する技術を呈示しているが、この際、変化する遺伝子をクローニングすることで、増殖・分化を制御する遺伝子の同定が期待できる。また、同研究においては、多量の細胞が必要であるが、本発明の方法により不死化したヒトMCSを多量に入手できるので、遺伝子クローニングも施行しやすい、などの利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】培養中胚葉幹細胞を示す写真である。中胚葉系細胞のマーカーであるSH3を発現してはいるが(A)、神経幹細胞のマーカーであるnestinは陰性である(B)。培養条件下での分化誘導後、形態学的にも神経幹細胞様に変化し、また、中胚葉系細胞のマーカーであるSH3が陰性化し(C)、神経幹細胞のマーカーであるnestinは陽性となる(D)。スケールバーは、A, Bでは10μmを示し、C,Dでは200μmを示す。
【図2】中胚葉幹細胞を培養条件下で神経幹細胞へ分化誘導し、さらに続けて分化誘導すると、神経細胞(A,D)、アストロサイト(B,E)、オリゴデンドロサイト(C,F)へと分化することを示す写真である。DはNSE(neuron-specific enolase)、EはGFAP(glial fibrillary acidic protein)、FはGalC(galactocerebroside)で免疫染色した写真である。スケールバーは25μmを示す。
【図3】移植細胞が脳梗塞巣を修復したことを示す写真である。中胚葉幹細胞を培養条件下で神経幹細胞へ分化誘導したドナー細胞はLacZ遺伝子(大腸菌βガラクトしデースを発現する)で遺伝的にマークしてあり、基質のX-galで処理すると反応し青色を発色する。したがって、ドナー細胞をホスト脳組織内で追跡することが可能である。ラット脳梗塞モデル(中大脳動脈一時閉塞モデルで、大脳基底核、側頭葉、海馬等が脳梗塞に陥る)にLacZ遺伝子でマークしたドナー細胞を移植した結果、脳梗塞に陥った大脳基底核、側頭葉、海馬等に生着し、組織修復を行った。
【図4】移植細胞が脊髄損傷部位を修復したことを示す写真である。ラット脊髄損傷モデル(第一胸髄レベルで横断したモデル)にLacZ遺伝子でマークしたドナー細胞を移植した結果、ドナー細胞は損傷を受けた部位ばかりか、脳(A)、頚髄(B)、腰髄(C)のへも遊走し、組織修復を行った。D, E, FはA, B, Cを高倍率で観察した写真である。A, B, C, D, E, Fにおけるスケールバーは、A, B, Cでは200μmを示し、D, E, Fでは10μmを示す。
【図5】移植細胞が脊髄脱髄部位を修復したことを示す写真である。Aは、成人中胚葉幹細胞由来より誘導した神経幹細胞を成熟ラット脊髄脱髄領域へ移植後、再有髄化を示す写真である。Bは再有髄化軸索を高倍率で観察した写真である。A, B, C, D, E, Fにおけるスケールバーは、A, B, Cでは250μmを示し、D, E, Fでは10μmを示す。
【図6】ES細胞から誘導した神経幹細胞で、nestin陽性のニューロスフィア(neurosphere)の写真である。
【図7】ストローマ細胞への遺伝子導入に用いるベクターの構成を示す図である。
【図8】ストローマ細胞へのトランスフェクションを模式的に示す図である。
【図9】中胚葉幹細胞(初代培養:primary culture)と、hTERT導入により不死化した中胚葉幹細胞の細胞分裂世代数を示す図である。
【図10】hTERT導入により不死化した中胚葉幹細胞(A)と、不死化した中胚葉幹細胞から分化誘導された脂肪細胞(B:Oil Red O 染色)を示す写真である。
【図11】hTERT導入により不死化した中胚葉幹細胞(A)と、不死化した中胚葉幹細胞から分化誘導された軟骨芽細胞(B:Alcian blue染色)を示す写真である。染色(凍結切片)軟骨基質内のコンドロイチンが青く染まる。
【図12】hTERT導入により不死化した中胚葉幹細胞(A)と、不死化した中胚葉幹細胞から分化誘導された骨芽細胞(B:von Kossa 染色;ミネラルの沈着)を示す写真である。
【図13】hTERT導入により不死化した中胚葉幹細胞から分化誘導したネスチン陽性の神経幹細胞を示す写真である。スケールバーは、100μmを示す。
【図14】hTERT導入により不死化した中胚葉幹細胞から分化誘導した神経幹細胞から更に分化誘導したNSE陽性の神経細胞(A)とGFAP陽性のグリア細胞(B)を示す写真である。スケールバーは、Aでは20μmを示し、Bでは10μmを示す。
【図15】hTERT導入により不死化した中胚葉幹細胞を移植することにより、脊髄脱髄部位が修復されたことを示す写真である。Aは、hTERT遺伝子が導入された中胚葉幹細胞を成熟ラット脊髄脱髄領域へ移植後、再有髄化したことを示す写真である。Bは、再有髄化軸索を高倍率で観察した写真である。スケールバーは、Aでは250μmを示し、Bでは10μmを示す。
【図16】各細胞を本発明方法によって神経幹細胞へ分化誘導を試みた結果を示す写真である。各細胞を浮遊させ、Neural Progeniter Basal medium / Non-treated Dishで培養し、48時間後に観察したところ、各細胞とも浮遊状態での生存が可能であったが、MSC-hTERT、Stroma-hTERT、PDFのみがneurosphere様を呈した。
【図17】各細胞を本発明方法によって神経幹細胞へ分化誘導を試みた後、total RNAを調整し、RT-PCRにてNestinの発現を確認した写真である。レーンAは、DMEM-10%FBS:culture dish、BはNPBM: Non-treated-Dish / 1day、CはNPBM: Non-treated Dish /2day、DはNPBM: Non-treated Dish /5dayである。NPBMは、Neural Progeniter basal mediumを指す。
【図18】MSCから誘導した神経幹細胞が神経細胞へ分化した様子をRT-PCRで確認した写真である。上段はGAPDH(GAPDHをinternal controlとして使用)で補正した結果、下段はニューロフィラメント(NF)のサブユニットであるNF-Mによる結果を示す。レーン1はDDW、2は神経幹細胞(Neural Stem Cell)、3はMSC-hTERT、4はStroma-hTERT、5はPDF-hTERT、6はMSC-hTERT BHA,DMSO、7はStroma-hTERT BHA,DMSO、8はPDF-hTERT BHA,DMSO、9はMSC-hTERT NPBM(-)、10はStroma-hTERT NPBM(-)、11はPDF-hTERT NPBM(-)、12はNSC NPBM(-) PDL/laminin、13はMSC-hTERT NPBM(-) PDL/laminin、14はStroma-hTERT NPBM(-) PDL/laminin、15はPDF-hTERT NPBM(-) PDL/lamininを指す。
【図19】MSC-hTERTにNestinがPositiveになると、EGFPが発現するベクターを遺伝子導入し、本発明の方法で神経幹細胞への分化誘導した結果を示す写真である。共焦点レーザー顕微鏡による観察では、MSC-hTERTは神経幹細胞への分化誘導前には発現していなかったEGFGが、誘導後はEGFPを強発現するようになることが観察された。
【図20】RT-PCRにてMSC-hTERTのNestin発現を確認した写真である。レーン1;MSC-hTERTにNestin エンハンサー/プロモーターEGFPを導入した細胞、レーン2;MSC-hTERTにNestin エンハンサー/プロモーター EGFPを導入し神経幹細胞へ分化誘導した細胞。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血から分離される単核細胞分画に含まれる中胚葉幹細胞、またはES細胞を、基礎的培養液において、33℃〜38℃の条件で培養することにより、神経系細胞へ誘導する方法。
【請求項2】
以下の(a)および(b)の工程を含む、中胚葉幹細胞を神経系細胞へ誘導する方法。
(a)不死化遺伝子を高発現または活性化させることにより、不死化した中胚葉幹細胞を提供する工程、
(b)工程(a)の不死化した中胚葉幹細胞を、基礎的培養液において培養することにより、該中胚葉幹細胞を神経系細胞へ誘導する工程
【請求項3】
不死化遺伝子を中胚葉幹細胞内に導入することにより、不死化遺伝子を高発現または活性化させる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
不死化遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて、中胚葉幹細胞へ導入することにより中胚葉幹細胞を不死化させる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
レトロウイルスベクターがpBabeである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
神経系細胞が遺伝子除去処理により、不死化遺伝子を除去され得るまたは除去されたものである請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
不死化遺伝子の遺伝子除去処理が、不死化遺伝子をloxP配列またはloxP様配列にはさんだ後、リコンビナーゼ処理することによりなされる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
不死化遺伝子がテロメラーゼ遺伝子、テロメラーゼから派生する遺伝子、または、テロメラーゼの発現もしくは活性を調節する遺伝子のいずれかである請求項2〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
中胚葉幹細胞が、骨髄液、臍帯血、末梢血、皮膚、皮膚の毛根細胞、筋組織、ES細胞またはES細胞から派生する細胞のいずれかに由来する、請求項2〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
中胚葉幹細胞が、脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血から分離される単核細胞分画に含まれる中胚葉幹細胞である、請求項2〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
単核細胞分画が、脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血を、2000回転で比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行い、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる細胞分画を回収することにより調製することができる細胞分画である、請求項1または10に記載の方法。
【請求項12】
中胚葉幹細胞がSH2(+), SH3(+), SH4(+),CD29(+), CD44(+), CD14(-), CD34(-), CD45(-)の特徴を有する細胞である請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
33℃〜38℃の条件で培養を行う、請求項2〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
基礎的培養液にbFGF、EGF、または虚血脳抽出液を加えることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
神経系細胞が神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、およびグリア細胞からなる群より選択される、請求項1〜14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の方法によって得られる細胞。
【請求項17】
請求項16に記載の細胞を含む、神経系疾患の治療のための組成物。
【請求項18】
神経系疾患が、中枢性および末梢性の脱髄疾患、中枢性および末梢性の変性疾患、脳卒中、脳腫瘍、高次機能障害、精神疾患、てんかん、外傷性の神経系疾患、炎症性疾患、感染性疾患、および脊髄梗塞からなる群より選択されるものである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
請求項16に記載の細胞、または請求項17に記載の組成物をレシピエントに移植することを特徴とする、神経系疾患の治療方法。
【請求項20】
神経系疾患が、中枢性および末梢性の脱髄疾患、中枢性および末梢性の変性疾患、脳卒中、脳腫瘍、高次機能障害、精神疾患、てんかん、外傷性の神経系疾患、炎症性疾患、感染性疾患、および脊髄梗塞からなる群より選択されるものである、請求項19に記載の治療方法。
【請求項21】
移植する細胞がレシピエントに由来している、請求項19または20に記載の治療方法。

【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−119003(P2008−119003A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319328(P2007−319328)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【分割の表示】特願2003−540340(P2003−540340)の分割
【原出願日】平成14年10月30日(2002.10.30)
【出願人】(502455393)株式会社レノメディクス研究所 (5)
【出願人】(000002990)あすか製薬株式会社 (39)
【出願人】(503460736)三井住友海上ケアネット株式会社 (3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】