説明

中間焼成を行なわない金属含有シェル触媒の製造方法

【課題】酢酸ビニルモノマーの合成のための、特に多価不飽和炭化水素化合物の選択的水素添加等の炭化水素の水素添加における、または、アルコールのアルデヒド、ケトンまたはカルボン酸への酸化に使用する高選択性な触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】外側シェル中に塩化物フリーなPd,Pt、AgおよびAuの中から1つ以上の金属化合物を含むシェル触媒とし、且つ前駆体化合物の塗布と温度処理との間において中間焼成を行わない製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外側シェル中にPd,Pt,AgおよびAuの中の1以上の金属を含むシェル触媒の製造方法に関する。
本発明は、酢酸ビニルモノマーの製造のための、または、炭化水素の水素添加、特に、多価不飽和炭化水素化合物(特に、アセチレン)の選択的水素添加等における、または、アルコールのケトン、アルデヒド、カルボン酸への酸化における、本発明にかかる製造方法で製造されたシェル触媒の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム、白金、銀および金からなる群から選択される1以上の金属を含む担持触媒は以前から知られている。パラジウムまたは白金および金を含む触媒は、エチレン、酸素及び酢酸の反応混合物からの酢酸ビニルの合成に好ましく使用されている。かかる担持触媒の種々の製造方法がすでに知られている。
パラジウムと白金とを含む、パラジウムまたは白金と銀または銀とを含む、またはパラジウムと銀と金とを含む担持触媒も同様に、炭化水素の水素添加、特に、多価不飽和炭化水素化合物の選択的水素添加において使用されている。
銀及び/または金を含む触媒は、アルコールのケトン、アルデヒド、カルボン酸への酸化において、好ましく使用されている。
従って、例えば、前記該当する金属を含む前駆体化合物は、好ましくは、水溶液中に溶解されて、担体表面へ塗布される。
前記対応する前駆体化合物を含む前記担体は、さらに、通常、高温オーブンで、酸化条件下で焼成され、そこで、前記金属含有前駆体化合物は、金属酸化物へ変換される。前記該当する金属酸化物を含む前記担体化合物は、さらに、別のユニット内で元素金属に還元される。
この方法は別のユニット中の2つのステージで実施されるということから、手間がかかりコストを大きくしている。
さらに、出発原料は、通常、塩化物含有前駆体化合物であるが、一般的に非常に安定的であるため、還元によって元素金属へ変換される前において、塩化物含有前駆体化合物を前記金属酸化物に分解するために高温が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、触媒による触媒反応の間に選択性及び活性の著しい低下を生じることなく、従来知られた方法よりも、より費用効率が高く、よりエネルギーを抑制できる方法を提供することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
驚くべきことに、以下のことが見出された。
実質的に塩化物フリーな金属含有前駆体化合物から出発することで、金属への還元の前のプレ焼成が省略可能になる。そして、前記金属含有前駆体化合物の金属化合物の還元は、不活性ガス雰囲気または還元雰囲気中のいずれかで直接的に、あるいは、不活性ガスから還元雰囲気へ切り替えることによって、最初に、不活性ガス下で前記前駆体化合物を分解し、その後選択的に、前駆体化合物の金属化合物を元素金属へ還元することで実施することが可能である。
この方法は、追加的なユニット中で行なわれる元素金属への還元より前に、例えば、別のベルト焼成装置中で行われる金属前駆体化合物から金属酸化物にするための明確なプレ焼成が必要ではないという利点を有する。
プレ焼成担体を、例えば、ベルト焼成装置のような焼成装置から、前駆体化合物の金属化合物を元素金属へ還元する装置に移すことによって、時間およびコストを要するような加熱および冷却速度は、結果的に不要になる。
さらに、中間焼成の省略によって、焼成オーブンへの投入/取り出しの間における機械的ストレス、および、劣化/破砕は大きく減少する。
加えて、実質的に塩化物フリーな前駆体化合物は、比較的低い温度での前駆体化合物の金属化合物の分解または還元の実施を可能にし、さらに、コスト効率化およびエネルギー抑制を実現する。
尚、「塩化物フリー」とは、塩(錯体)中に塩素が、塩化物配位子の形で結合していること、あるいは、塩素イオンとしての存在していること、のいずれでもないことを意味する。
「実質的に」とは、製造において、または抽出物の選択において、塩素または塩素含有化合物の汚染物が避けられない程少量含まれている対応する塩素または塩化物フリー化合物を排除しない意味である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は試験した触媒の酢酸ビニルモノマー選択性をY軸にプロットしたグラフを示す。X軸には、6つの試験体の触媒の酸素変換率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、実質的に塩素フリーであるPd−、Pt−、Ag−、またはAu含有前駆体化合物を担体に塗布し、そして前記前駆体化合物が塗布された担体に80℃から500℃の範囲の非酸化雰囲気中で温度処理を施すシェル触媒の製造方法を提供する。
【0007】
Pd−、Pt−、Ag−又はAu含有前駆体化合物の選択は、本発明にかかる方法を決定づける。担体への前駆体化合物の塗布の工程と還元の工程との間における金属酸化物への中間焼成の工程は、このことで省略されうる。
金属酸化物へのプレ焼成は、通常、元素金属への量的還元の必要不可欠な工程を意味するため、この方法は、他の金属を含む他の触媒の製造にそのまま転用可能ではないことが認められた。このことは、特に、AgまたはAu含有前駆体化合物を選択する場合において、あてはまる。
【0008】
尚、「シェル触媒」とは、担体と、触媒活性材料を有するシェルとを備える触媒を意味し、前記シェルは、以下の2種類の異なる方法で形成されうる。
【0009】
一つ目は、触媒活性材料は担体の表面エリアに存在し、その結果、担体の材料は、触媒活性材料の母材としての役目を果たす。そして、触媒活性材料が含浸された担体の前記エリアは前記担体の非含浸コアの周囲にシェルを形成する。
2つ目は、触媒活性材料が存在する層は、担体の表面に塗布される。この層は、担体のシェルを形成する。後者の変形例においては、担体材料がシェルの構成成分ではなく、シェルは触媒活性材料そのもので形成され、または、触媒活性材料を含む母材で形成される。本発明の実施形態において、これは好ましくは、シェル触媒の第一変形例とする。
【0010】
本発明にかかる方法を用いた触媒の製造において、金属は単原子の形か、あるいは、集合体の形で存在しているが、集合体の形で存在していることが好ましい。これらの単原子または集合体は、ほとんど均一に、シェル触媒のシェルの内部に存在している。
【0011】
担体の外側シェルのシェル厚みは、担体の総厚みの半分に対して、好ましくは1から70%、より好ましくは2から60%、さらにより好ましくは3から50%、最も好ましくは4から40%である。
前記パーセンテージは、総厚みの半分に対するものであるため、製造中の担体の形状によって決まる。例えば、前駆体化合物を含む溶液をスプレー含浸させれば、前記前駆体化合物は、二つの外側シェル表面(球面)から担体材料に浸透し、あるいは、もし、担体の形状が、例えば、円筒形などのようにより複雑な形状であれば、前駆体化合物の浸透する外側表面と内側表面とが存在する。
外側シェルの境界は、金属含有担体の外側の境界と同じである。内側シェルの境界とは、担体内側に位置する外側金属含有シェルの境界を意味し、それは、担体中に含まれるすべての金属中の95重量%が外側シェルに存在するような、外側シェルの境界からの位置にある。
しかしながら、シェル厚みは、いずれの場合も担体の総厚みの半分に対して、好ましくは、70%未満、好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満、さらにより好ましくは40%未満および最も好ましくは30%未満である。
【0012】
金属含浸担体は、外側シェルの内側のエリアである担体の内側エリア中には、総金属のわずか5%を含んでいることが好ましい。
【0013】
触媒のシェル厚みについては、外側シェルのエリア中に、金属が最大濃度で存在する箇所があることが好ましく、外側シェルの外縁に前記箇所があることが特に好ましい。金属濃度は、内側シェルの境界に向かって減少することが好ましい。
【0014】
担体は、不活性金属から構成されていることが好ましく、多孔質または非多孔質であってもよい。しかし、担体は多孔質であることが好ましい。
担体は、規則的なあるいは不規則な形状の粒子から構成されていることが好ましい。例えば、球状、タブレット状、円筒形状、非中空のまたは中空の円筒形状、環状、星形状、あるいはその他の形状が挙げられる。さらに、例えば、直径、長さまたは幅などのそれらの大きさは、1から10mmの範囲、好ましくは、3から9mmの範囲である。例えば、球状の粒子の場合には、3から8mmの直径の粒子であることが本発明においては好ましい。
担体材料は、どのような非多孔質または多孔質物質から構成されていてもよく、多孔質物質から構成されていることが好ましい。この材料の例としては、酸化チタン、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、シリコンカーバイド、ケイ酸マグネシウム、酸化亜鉛、ゼオライト、層状ケイ酸塩、および、例えば、カーボンナノチューブ、またはカーボンナノフィラーなどのナノ材料等が挙げられ、担体材料は、不均質な触媒であることが好ましい。
【0015】
前記酸化性担体材料は、TiO2、SiO2、Al23、ZrO2、MgO、SiCまたはZnO等のように、例えば、混合酸化物または所定の化合物の形で使用されうる。
さらに、煤煙、エチレンブラック、チャコール、グラファイト、ハイドロタルサイト、または他の公知の担体材料は、異なる可能な限りの変形を加えた形で使用されうる。
担体材料は、好ましくは、例えば、アルカリ金属、あるいはアルカリ土類金属あるいは、それらのリン酸塩、ハロゲン化塩および/または硫酸塩でドープされることが好ましい。
【0016】
前駆体化合物がコーティングされていない担体材料のBET比表面は、1から1000m2/g、好ましくは1から600m2/g、特に好ましくは1から400m2/gである。BET比表面は、DIN66132に従った窒素ガス吸着による一点法を用いて定められる。
【0017】
さらに、前駆体化合物でコーティングされていない担体材料の全細孔容積(DIN66133(水銀ポロシメトリー)に従い定められる)は、0.1ml/gより大きく、好ましくは0.18ml/gよりも大きい。
【0018】
担体は、通常、複数の担体が「バッチ」工程に供されて製造され、個々の工程で、担体は、例えば、攪拌および混合ツールを使用することによって、比較的高い機械的ストレスにさらされる。
【0019】
さらに、本発明にかかる方法で製造されるシェル触媒は、リアクターへの充填の間に、強い機械的荷重ストレス(mechanical load stress)にさらされる可能性があり、担体へのダメージと同様に、特に、外側エリアに位置する触媒活性シェルに対して、好ましくないダストの形成をもたらす可能性がある。
【0020】
特に、本発明の方法で製造された触媒の磨耗を妥当な範囲内にキープするために、シェル触媒は、20N以上、好ましくは25N以上、より好ましくは35N以上、最も好ましくは40N以上の硬度を有する。
前記硬度は、8M錠剤硬度計(8M tablet−hardness testingmachine、Dr.Schleuniger PharmatronAG社製)を用いることによって、触媒を130℃、2時間で乾燥後、以下のような条件で装置内へセットして99個のシェル触媒の平均から求める。

成形体からの距離:5.00mm
遅延時間:0.80s
フィードタイプ:6D
速度:0.60mm/s
【0021】
本発明に係る方法で製造される触媒の硬度は、例えば、担体の焼成時間及び/又は焼成温度等の担体製造方法の特定のパラメータを変化させることによって影響を受ける可能性がある。前述の焼成は、金属含有前駆体化合物を含浸させた担体の焼成ではなく、前駆体化合物を塗布する前の担体の焼成工程である。
【0022】
また、担体の全細孔容積の80%が、少なくとも85%が、および最も好ましくは少なくとも90%がメソポーラスおよびマクロポーラスで形成されていることが好ましい。
このことは、本発明にかかる製造方法で得られた触媒(特に、比較的厚い厚みを有する金属含有シェルの場合)の拡散限界に影響されて還元された活性を抑える。
ミクロポーラス、メソポーラス、およびマクロポーラスとは、この場合、それぞれ直径2nm未満、直径2から50nm、直径50nm超の孔を意味する。
【0023】
触媒の外側シェルの厚みが小さいほど、本発明にかかる製造方法で製造されたシェル触媒の活性は通常高くなる。
本発明にかかる製造方法で製造された触媒のさらに好ましい実施形態によれば、触媒のシェルは、従って、5μmから2000μm、好ましくは10μmから1500μm、より好ましくは15μmから1000μmの範囲の厚みを有する。
シェル触媒が例えば、酢酸ビニルの合成用の触媒として使用される場合には、そのシェルの厚みは、好ましくは100μmから400μm、より好ましくは150μmから300μmの範囲にある。
シェル触媒が、例えば、アセチレンの選択的水素添加用の水素添加触媒として使用される場合には、そのシェルの厚みは、好ましくは10μmから200μmの範囲、より好ましくは20μmから150μmの範囲、および最も好ましくは30μmから100μmの範囲にある。
シェル触媒が例えば、炭化水素アルコール(alcoholic hydrocarbo)化合物からアルデヒド、ケトンまたはカルボン酸への酸化用触媒として使用される場合には、そのシェルの厚みは、好ましくは100μmから2000μmの範囲、より好ましくは200μmから1000μmの範囲にある。
【0024】
シェルの厚みはマイクロスコープを使用して可視的に測定することができる。金属のエリアは黒く沈着されているように見え、一方、貴金属が存在しないエリアは白く見える。
通常、貴金属を含むエリアと、それらを含まないエリアとの間の境界は、きわめて明確であり、視覚的に明確に認識できる。
前記境界がはっきりと定められず、したがって、視覚的に明確に認識できない場合には、前述したように、シェルの厚みは、触媒担体の外側表面を測定の基点として、担体上に沈着された貴金属の95%を含むシェルの厚みに対応する。
【0025】
本発明にかかる製造方法によって製造される触媒の貴金属含有シェルの厚みにおける均一な活性を確実に得るために、貴金属濃度は、シェル厚みにおいて比較的少なく変化すべきである。
従って、好ましくは、外側と内側シェルのそれぞれの境界から5%の距離にある、シェル厚みの90%のエリアにわたって、触媒の貴金属濃度のプロファイルは、このエリアの平均貴金属濃度から最大±20%まで、好ましくは最大±15%まで、およびできれば最大±10%まで変化する。これらのプロファイルは、後述するような流動床(fluidized bed又は fluid bed)、あるいはイノジェットエアコーター(商品名)におけるスプレーオン手段によって得られる。
【0026】
本発明にかかる方法において、好ましくは、温度処理前または後に、実質的に塩素フリーであるPd、Pt、AgまたはAuを含有する追加的な前駆体化合物が担体に塗布される。言い換えると、二つの前駆体化合物が連続的にあるいは同時に担体に塗布される。
二つの前駆体化合物は一種類の溶液から担体に塗布され、その後、温度処理が実行されてもよい。この場合、前駆体化合物としては、金属として異なるものが選択されることが好ましい。
しかし、二つの前駆体化合物は、異なる溶液から担体に連続的に塗布されてもよい。
これらの二つの塗布工程の間に温度処理があってもよく、二つの前駆体化合物が塗布されてから温度処理が実行されてもよい。これらの場合、前駆体化合物は互いに同じであっても、異なっていてもよく、好ましくは異なっている。
しかし、特に好ましいのは、温度処理の前に二つの金属が一の溶液中から塗布されることである。
【0027】
しかし、本発明によれば、三つの異なる前駆体化合物が、連続的に異なる溶液から、あるいは同時に同じ溶液から担体に塗布され、その後、(最初の)温度処理が実施されることもある。この場合、アセチレンの選択的水素添加用の水素添加触媒の製造のためには、Pd、Ag、およびAu含有前駆体化合物は同時に塗布し、その後にのみ、温度処理を実施することが好ましい。
【0028】
(二番目または三番目の)追加的な前駆体化合物が担体に塗布されない場合には、一の塗布される前駆体化合物は、Ag、またはAu含有前駆体化合物であることが好ましく、できればAg含有前駆体化合物であることが好ましい。
【0029】
以下の異なる前駆体化合物の組み合わせが、同時にまたは連続的に、好ましくは溶液の形で担体に塗布されうる。

(a)Pd含有前駆体化合物、及び、Au含有前駆体化合物、
(b)Pt含有前駆体化合物、及び、Au含有前駆体化合物、
(c)Pd含有前駆体化合物、及び、Ag含有前駆体化合物、
(d)Pt含有前駆体化合物、及び、Ag含有前駆体化合物、
(e)Ag含有前駆体化合物、及び、Au含有前駆体化合物、
(f)Pd含有前駆体化合物、及び、Pt含有前駆体化合物。
【0030】
前駆体化合物の前記組み合わせが、担体に連続的に塗布される場合には、最初に挙げた前駆体化合物が最初に塗布される。原則として、同じ前駆体化合物が複数回担体に塗布され、担体はこれらの各塗布工程の間に温度処理に付されることが考えられる。
【0031】
もし、追加的(あるいは二番目の)前駆体化合物が、(最初の)温度処理後に塗布される場合には、前記追加的な前駆体化合物が塗布された担体は、非酸化雰囲気中での80℃から500℃の範囲のさらなる(二番目の)温度処理に付されることが好ましい。
このさらなる温度処理については、最初の温度処理と同様の条件および好ましい範囲が適用される。
【0032】
それぞれ前記シェル触媒の総重量に対して、温度処理後のPdまたはPtの含有量が、0.0001から7重量%、好ましくは0.0002から5重量%の範囲になるまで、および温度処理後のAgまたはAuの含有量が、0.0003から4重量%、好ましくは、0.0005から3重量%の範囲になるまで、担体に前記Pd、Pt、Ag及び/又はAu含有前駆体化合物を塗布する工程は実施される。
シェル触媒は、例えば、酢酸ビニルの合成用触媒として使用される場合には、そのPdまたはPtの含有量は、好ましくは、0.3から2重量%の範囲、より好ましくは0.4から1.8重量%の範囲、最も好ましくは0.5から1.6重量%の範囲であり、そのAu含有量は、好ましくは0.1から0.9重量%、より好ましくは0.2から0.8重量%の範囲である。
シェル触媒は、例えば、アセチレンの選択的水素添加用触媒として使用される場合には、そのPdまたはPtの含有量は、好ましくは、100から300ppmの範囲、より好ましくは150から250ppmの範囲であり、そのAg含有量は、好ましくは400から600ppm、より好ましくは450から550ppmの範囲である。
シェル触媒は、例えば、炭化水素アルコール化合物のアルデヒド、ケトンまたはカルボン酸への酸化用触媒として使用される場合には、そのPdまたはPtの含有量は、好ましくは、3から7重量%の範囲、より好ましくは4から6重量%の範囲であり、そのAgまたはAu含有量は、好ましくは1から5重量%、より好ましくは2から4重量%の範囲である。
塗布時間は、適宜選択され、及び、担体のタイプ、材質および形状によって変更しうる。
【0033】
前記担体への前駆体化合物の塗布は、公知の方法を用いて行なうことが可能である。前駆体化合物は、一つの溶液から担体に塗布されることが特に好ましい。
従って、前駆体化合物を含む溶液の塗布は、前駆体化合物溶液中に担体を浸漬すること(steeping)によって、あるいは沈めること(immersing)によって行なうことができ、あるいは、IW法(the incipient wetness method)に従い担体を浸漬する(steeping)ことによって行なうことができる。しかしながら、これらの浸漬方法を用いて特定のシェルを備え、および、均一な金属分布を有するシェル触媒を製造することは困難である。
【0034】
本発明にかかる方法における塗布工程は、従って、担体に前駆体化合物を含有する溶液を噴霧することによって実施されることが好ましく、その際に、担体は、例えば、コーティングドラム、流動床(fluidized bedまたはfluid bed)、あるいはイノジェットエアコーター(商品名)の静電塗装チャンバー内で、プロセスガス中で攪拌され、熱いエアを噴きつけられ、その結果、溶剤が迅速に揮発する。
この方法において、前駆体化合物は、担体の前記特定のシェル中に存在する。
溶剤の揮発する速度と担体上に前駆体化合物を供給する速度との間でバランスをとるべく、スプレー速度はスプレー処理において選択されることが好ましい。このことで、望ましいシェル厚みと、シェル中のパラジウム/白金/金/銀分散とを設定することが可能となる。スプレー速度によって、シェル厚みは、例えば、最大2mmの厚みまで、連続的に設定され、最適化されうる。しかし、1000μm未満の厚みの極めて薄いシェルもまた可能である。
【0035】
流動床ユニットが使用される場合、担体は、流動床中において、楕円状に循環(elliptical circulation)、またはトロイダル状(toroidal)に循環されることが好ましい。
担体がどのようにかかる流動床中で動くのかについて検討すると、「楕円状に循環」の場合、流動床中において、楕円軌道の鉛直面中で、主軸と第二の軸の大きさを変化させつつ、担体は移動する。
「トロイダル状」の循環の場合、流動床中において、楕円軌道上の鉛直面中において主軸及び第二の軸の大きさを変化させつつ、且つ円形軌道上の水平面において半径の大きさを変化させつつ、担体は移動する。
平均的には、担体は、「楕円上循環」の場合には、楕円軌道上の鉛直面中を移動し、「トロイダル状循環」の場合には、トロイダル軌道を移動し、すなわち、担体は、鉛直状に楕円をなしつつ、トーラス表面を螺旋状に移動する。
【0036】
本発明にかかる方法における前駆体化合物の塗布工程は、流動床ユニット中の流動床手段によって実施されることが好ましい。
前記ユニットは、いわゆる、制御されたエアグライド層(air-glide layer)を含んでいることが特に好ましい。ひとつには、担体は、前記制御されたエアグライド層によって、大まかに混合され、同時に担体自身の軸で回転され、プロセスエアによってむらなく乾燥されるためである。他の理由としては、制御されたエアグライド層によって達成される連続した軌道運動のために、担体は、実質的に一定の周期でスプレー処理(前駆体化合物の塗布)を通過するためである。さらに、この結果、シェル厚み方向の比較的広いエリアにわたって、貴金属濃度の変化は比較的わずかである。すなわち、シェル厚み方向の広いエリアにわたって貴金属濃度は略矩形関数を描き、それによって、結果物である触媒の活性の高い均一性は、貴金属シェルの厚み方向にわたって保証される。
【0037】
好適な、従来のコーティングドラム、流動床ユニット、または、本発明の方法における前駆体化合物の塗布の実施のための流動床ユニットは、当技術分野において公知のものであって、および、以下のような会社によって販売されているものが挙げられる。
Heinrich Brucks GmbH(Alfeld,ドイツ);
ERWEKA GmbH(Heusenstamm,ドイツ);
Stechel(ドイツ);
DRIAM Anlagenbau GmbH(Eriskirch,ドイツ);
Glatt GmbH (Binzen,ドイツ);
G. S. Divisione Verniciatura(オーストリア、イタリア);
HOFER−Pharma Maschinen GmbH(Weil am Rhein,ドイツ);
L.B. Bohle Maschinen und Verfahren GmbH(Enningerloh,ドイツ);
Lodige Maschinenbau GmbH(Paderborn,ドイツ);
Manesty(Merseyside,イギリス);
Vector Corporation(Marion(IA)米国);
Aeromatic−Fielder AG(Bubendorf、スイス);
GEA Process Engineering(Hampshire,イギリス);
Fluid Air Inc.(Aurora,イリノイ、米国);
Heinen Systems GmbH(Varel,ドイツ);
Huttlin GmbH(uはウムラウト)(Steinen,ドイツ);
Umang Pharmatech Pvt. Ltd. (Maharashtra, India);及び
Innojet Technologies(Lorrach(oはウムラウト),ドイツ)。
特に好ましい流動床装置は、次の名称で販売されているものである。
「Innojet (登録商標)Aircoater」または「Innojet(登録商標)Ventilus」(Innojet Technologies社製)。
【0038】
さらに好ましい本発明にかかる方法の実施形態は、前駆体化合物を含む溶液の塗布の間、例えば、加熱されたプロセスエアによって担体は加熱される。
前記プロセスエアの温度は、10から110℃、より好ましくは40から100℃および最も好ましくは50から90℃である。
前記上限は、外側シェルが高い貴金属濃度を有する薄い層厚みを有することを保証するために、順守されるべきである。
【0039】
空気は、プロセスエアとして好ましく使用されるが、例えば、窒素、CO2、ヘリウム、ネオン、アルゴンまたはこれらの混合物等の不活性ガスも使用されうる。
【0040】
さらに前述したように、前駆体化合物の塗布は、一の溶液の塗布によって実施されることが好ましい。
選択された金属化合物が溶解可能で、且つ、触媒担体への塗布の後、再度、乾燥手段によって容易に除去することが可能な純粋な溶剤および溶剤混合物は、遷移金属前駆体化合物の溶剤として好適である。
好ましい溶剤は、不飽和カルボン酸、特に好ましくは、酢酸、アセトン等のケトン、および、特に好ましくは水である。
前駆体化合物の塗布工程は、前駆体化合物の分解温度より低い温度、特に好ましくは前述した温度における塗布後の乾燥工程を含むことが特に好ましい。前記分解温度とは、前駆体化合物が分解を開始する温度を意味する。
【0041】
PdまたはPt含有前駆体化合物、および/または、AgまたはAu含有前駆体化合物は、水溶性化合物であることが好ましい。
【0042】
PdまたはPt含有前駆体化合物は、窒素化合物、酢酸化合物、テトラアミン化合物、ジアミン化合物、炭酸水素化合物、及び、水酸化メタレート化合物から選択されることが好ましい。
【0043】
Pd含有前駆体化合物の好ましい例は、水溶性Pd塩である。
本発明にかかる方法の特に好ましい実施形態によれば、Pd前駆体化合物は、Pd(NH34(HCO32、Pd(NH34(HPO4)、アンモニウム Pd オキサレート、Pdオキサレート、K2Pd(オキサレート)2、Pd(II) トリフルオロアセテート、Pd(NH34(OH)2、Pd(NO32、H2Pd(OAc)2(OH)2、Pd(NH32(NO22、Pd(NH34(NO32、H2Pd(NO24、Na2Pd(NO24、Pd(OAc)2、その他、新生沈殿Pd(OH)2からなる群から選択される。新生沈殿Pd(OH)2の製造は、以下のように実施されることが好ましい。
好ましくは、0.1から40重量%の水溶液を、テトラクロロパラジウム(tetrachloropalladate)から製造する。好ましくは水酸化カルシウム水溶液であるベースを、茶色の固体、すなわちPd(OH)2沈殿が得られるまで、前記水溶液中に添加する。担体へ塗布するための溶液を製造するために、前記新生沈殿Pd(OH)2は、分離され、洗浄され、及びアルカリ水溶液に溶解される。
溶解は、4から40℃、特に好ましくは15から25℃の温度範囲で行なうことが好ましい。より低い温度では、水の凝固点であるため溶解が不可能であり、より高い温度では、一定の時間経過後にPd(OH)2が水溶液中で再度沈殿して溶解しなくなるというデメリットをもたらす。
【0044】
好ましいPt含有前駆体化合物の例は、水溶性Pt塩である。本発明にかかる方法の特に好ましい実施形態によれば、Pt前駆体化合物は、Pt(NH34(OH)2、Pt(NO32、K2Pt(OAc)2、(OH)2、Pt(NH32(NO22、H2Pt(OH)6、Na2Pt(OH)6、K2Pt(OH)6、K2Pt(NO24、Na2Pt(NO24、Pt(OAc)2、Pt(NH34(HCO32、Pt(NH34(HPO4)、Pt(NH34(NO32その他、プラチナのカルボン酸塩、好ましくは、C3〜C5の脂肪族モノカルボン酸塩または酪酸塩、からなる群から選択される。
NH3に代えて、エチレンジアミン、またはエタノールアミンをリガンドとしている対応する塩を用いることも可能である。
【0045】
本発明に係る方法のさらに好ましい実施形態によれば、亜硝酸PdまたはPt前駆体化合物も好ましい。好ましい亜硝酸PdまたはPt前駆体化合物は、例えば、NaNO2またはKNO2溶液にPd(OAc)2またはPt(OAc)2を溶解することで得られるものなどが挙げられる。
【0046】
AgまたはAu含有前駆体化合物は、酢酸化合物、亜硝酸化合物、水酸化メタレート化合物から選択されることが好ましい。
【0047】
好ましいAu含有前駆体化合物の例は、水溶性Au塩である。本発明にかかる方法の特に好ましい実施形態によれば、Au前駆体化合物は、KAuO2、NaAuO2、LiAuO2、RbAuO2、CsAuO2、NaAu(OAc)3(OH)、KAu(OAc)3(OH)、LiAu(OAc)3(OH)、RbAu(OAc)3(OH)、CsAu(OAc)3(OH)、KAu(NO24、HAu(NO34及びAu(OAc)3からなる群から選択される。
水酸化物を金酸溶液から沈殿させ、洗浄し、沈殿物を分離し、酢酸またはKOH中にそれぞれを溶解させることでそれぞれ新生される、Au(OAc)3またはKAuOを添加することが望ましい。溶液中の金酸カルシウム(Potassium aurate)もまた、担体へ塗布するために特に好ましく使用される。金酸カルシウム溶液の製造は、文献公知であり、WO99/62632並びにUS6015769公報中に記載の製造方法に従うことができる。
【0048】
好ましいAg含有前駆体化合物の例は、水溶性Ag塩である。本発明にかかる方法の特に好ましい実施形態によれば、Ag前駆体化合物は、Ag(NH32(OH)、Ag(NO3)、K2Ag(OAc)(OH)2、Ag(NH32(NO2)、Ag(NO2)、乳酸銀(Ag lactate)、トリフルオロ酢酸銀(Ag trifluoroacetate)、サリチル酸銀(Ag salicylate)、K2Ag(NO23、Na2Ag(NO23、Ag(OAc)、炭酸アンモニウム銀(ammoniac Ag2CO3 )溶液、および、酸化銀(ammoniac AgO )溶液からなる群から選択される。
さらに付け加えると、Ag(OAc)、その他の銀カルボン酸、好ましくは、例えば、プロピオン酸塩または酪酸塩等のC3〜C5の脂肪族モノカルボン酸塩または酪酸塩、をも使用することができる。
【0049】
本発明に係る方法のさらに好ましい実施形態によれば、亜硝酸銀前駆体化合物も好ましい。好ましい亜硝酸銀前駆体化合物は、例えば、Ag(OAc)をNaNO2またはKNO2溶液中に溶解することによって得ることができる。
【0050】
前述の前駆体化合物は、単なる例として挙げられており、実質的に塩化物フリーである他の前駆体化合物も使用可能である。
【0051】
本発明に係る方法の担体への前駆体塗布のための溶液は、PdまたはPt前駆体化合物、及び、AgまたはAu前駆体化合物の両方を含むことが好ましい。従って、例えば、最初にPdまたはPt含有前駆体化合物溶液を作製し、さらに、AgまたはAu含有前駆体化合物溶液を作製することで個々の溶液を作製することができる。これらの二つの溶液は、一つの溶液として合わせることができる。両方の金属化合物を含む前駆体化合物の溶液中において、PdまたはPt含有前駆体化合物は、好ましくは、1から5重量%の範囲で存在し、AuまたはAg含有前駆体化合物は、好ましくは、0.05から3重量%の範囲で存在する。
アセチレンの選択的水素添加のためには、典型的な担持量は、Pdであれば50ppmから1000ppmの範囲、好ましくは100ppmから500ppmの範囲、および、Auであれば100ppmから2000ppmの範囲、好ましくは200ppmから1000ppmの範囲である。
【0052】
溶液の塗布の後、前駆体化合物は、溶剤を乾燥させることによって担体上に沈着されることが好ましい。
前記乾燥は、流動床(fluid bed または the fluidized bed)におけるプロセスエアによって、または、空気中または乾燥オーブン中に置くことによって、のいずれかによって好ましくは、60℃から120℃の温度範囲において行なわれることが好ましい。
【0053】
本発明にかかる方法において、前駆体化合物を含む担体を80℃から500℃の範囲で温度処理に付する工程は、Pd又はPt含有前駆体化合物、及び/または、Ag又はAu含有前駆体化合物を担体上に、塗布及び沈着させた直後に実施されることが好ましい。従って、前駆体化合物は、塗布工程と温度処理工程との間の乾燥工程の間には、変化を受けないことが好ましい。
これらの工程の間において、担体上の前駆体化合物が分解する温度にまで到達するいかなる中間的な焼成も実施されずに、しかし、これらの工程が何度も繰り返されることが、特に好ましい。担体上の前駆体化合物は、今まで適応されてきたように、本発明に係る方法の温度処理に付される。
【0054】
温度処理は、80℃以上から500℃、好ましくは、90から450℃の範囲、特に好ましくは、100から400℃の範囲でおよび、特に好ましくは100℃から350℃の範囲の温度で行われる。
金属化合物が完全に還元されうるように前駆体化合物を十分に分解するために、80℃を超える温度は必要である。
PdおよびAu含有触媒がこの方法で製造される場合には、温度処理は、100から200℃、より好ましくは120から190℃の範囲で、さらにより好ましくは130から180℃の範囲で、さらにより好ましくは140℃から170℃の範囲で、最も好ましくは150から160℃の範囲で実施される。
【0055】
本発明における非酸化的雰囲気の意味は、酸素あるいは他の酸化活性のあるガスを含まない、またはほとんど含まない雰囲気をいう。
非酸化的雰囲気は、不活性ガス雰囲気または還元雰囲気または両方のガスの混合物等であることが可能である。
【0056】
本発明に係る方法の変形例において、不活性ガス中において還元が実施される。この場合、金属含有前駆体中の金属イオンの対イオンは還元活性を有している。
【0057】
さらなる、本発明に係る方法の変形例としては、温度処理は直接的に還元雰囲気中で実施されうる。この場合、前駆体化合物は、温度処理と同じ温度で分解され、金属化合物は元素金属に還元される。
言い換えると、分解と還元とが同時に同じ温度において還元雰囲気中で実施される。この場合、温度処理は、80℃以上から400℃の範囲、より好ましくは80℃から300℃、さらにより好ましくは100℃から250℃、最も好ましくは120℃から180℃の範囲で行なわれることが好ましい。
【0058】
本発明に係る方法のさらに別の変形例としては、温度処理中に不活性ガス雰囲気から還元雰囲気に変更するような、温度処理が実施されることが好ましい。
前駆体化合物は、最初に、その分解温度の不活性ガス雰囲気中で分解され、その後、還元ガス雰囲気に変えることによって、金属化合物が元素金属へ還元される。
不活性ガス下における分解の間、温度は、200℃から500℃の範囲、より好ましくは250℃から450℃、最も好ましくは300℃を超えていることが好ましい。
続く還元の間、温度は、80℃以上400℃の範囲、より好ましくは80℃から300℃、さらにより好ましくは100℃から250℃、最も好ましくは120℃から180℃であることが好ましい。
【0059】
三つの方法の変形例は、すべて、一つのユニット中で実施されることが可能であり、および、驚くべきことに、さらに上流側において、あるいは他のユニット中での中間工程において、プレ焼成または中間焼成を省略することができる、というメリットを有している。
従って、本発明にかかる方法は、分解温度未満までの困難な冷却及び分解温度を越える加熱を省略して、実施することができる。よって、この方法はエネルギー及びコストを削減する。出発原料が、塩化物含有化合物に対応する高い分解温度を有していない塩化物フリーの出発化合物であるため、かかることが特になしえた。
【0060】
本発明によれば、変更の間、温度が還元に必要な温度未満に下がることがないように、
不活性ガス雰囲気から還元雰囲気への変更が実施されることが特に好ましい。
【0061】
例えば、N2、He、Ne、Arまたはこれらの混合物が不活性ガスとして用いられる。
2を用いることが特に好ましい。
【0062】
還元雰囲気中で還元活性を有する化合物は、通常は、金属化合物の還元される性質に従って選択されるが、好ましくは、ガス、または、エチレン、水素、CO、NH3、ホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、および炭化水素からなる揮発性液体、前記ガス/液体の2以上の混合物からなる群から選択されることが好ましい。
還元雰囲気は、特に好ましくは、還元化合物としての水素を含むことが好ましい。
特に好ましいのは、還元雰囲気がN2とH2との混合物であるフォーミングガスからなることである。前記水素含有量は、1体積%から15体積%である。本発明にかかる方法は、例えば、プロセスガスとしての窒素中に水素(5体積%)含むものを用いて、80℃から500℃の範囲の温度で、例えば1から5時間かけて実施される。
【0063】
第二の方法の代替案における不活性ガスから還元雰囲気への変更は、前記還元性化合物の一つを不活性ガス雰囲気中に供給することによって行なうことが好ましい。好ましくは、水素ガスが供給されることである。不活性ガスへ還元活性を有するガスを供給することは、温度が実質的に低下することがなく、または、還元に必要な温度の下限である80℃以下に低下することがなく、その結果、全雰囲気の交換によって必要となる加熱にかかるコストおよびエネルギーの消費を必要としない、というメリットを有している。
【0064】
特に好ましい実施形態は、前駆体化合物を含む担体は、温度処理前に、酸化雰囲気中で300℃以上の温度には曝されないことである。
この方法では、前駆体化合物が塗布された担体は前駆体化合物と同様に、温度処理に付されることが保証される。言い換えると、コストがかかる浸漬された金属酸化物への担体のプレ焼成を省略することができる。
【0065】
さらなる実施形態は、本発明に係る方法を用いて製造されたシェル触媒の、酢酸ビニルモノマー(VAM)の合成のための、または、炭化水素化合物の還元または酸化、特に、アルコールのアルデヒド、ケトンまたはカルボン酸への酸化における使用に関する。
【0066】
本発明で得られた触媒は、VAMの製造のために使用されることが好ましい。
一般的には、酢酸、エチレン及び酸素または酸素含有ガスを本発明で得られた触媒上に温度100−200℃、好ましくは120−200℃、圧力1−25バール、好ましくは1−20バールで通すことで行なわれ、非反応抽出物はリサイクルされうる。適切には、酸素濃度は10体積%より低く維持される。ある特定の条件下では、しかしながら、窒素または二酸化炭素などのような不活性ガスによる希釈もメリットがある。二酸化炭素は、VAMの合成過程で少量生成されるため、特に、希釈に適している。生成された酢酸ビニルは、例えば、US5066365A中に記載されているような、好ましい方法を参考にして分離される。
【実施例】
【0067】
(比較例1) シェル触媒A
シェル触媒Aは、以下の方法で製造された。
直径5mmの球形状、密度540g/l、細孔体積0.68ml/g、及び10重量%の懸濁液中におけるpH4.0であるシリカ担体1.2リットルを、3.96gのPdおよび1.8gのAuを含むNa2PdCl4およびHAuCl4水溶液440ml(担体の吸収能力99.8)中に浸漬させた。この混合物を収容した管は、シリカ担体に溶液が完全に吸収されるまで機械的に回転された。Na2SiO3・9H2Oを25.2g含む溶液500mlが担体に添加され、完全に覆われた。この状態で、室温で12時間置かれた。その後、pH7.7の85%ヒドラジン水和物25mlが、担体の周囲を満たす液として添加され、軽く混合され、その結果得られた混合物は、パラジウム及び金を還元するため室温で4時間置かれた。触媒は、その後、デカンティングして蒸留水で3回洗浄され、続いて、洗浄速度1−2リットル・蒸留水/時間以下で16時間にわたる継続洗浄を行なった。この後、窒化銀が添加された時に沈殿物は存在しなかったことから洗浄水が塩化物フリーであったことが確認された。
【0068】
触媒は、その後4時間、110℃乾燥され、酢酸カルシウム36gを含む溶液(触媒1リットルあたり酢酸カルシウム30gに相当)中に浸漬された。その後、再度乾燥された。このようにして得られた触媒は、3.32g/リットルのパラジウム、および1.39g/リットルの金を含み、これに対して、出発化合物は3.3g/リットルのパラジウムおよび1.5g/リットルの金を含んでいた。従って、100%のパラジウムと、92.7%の金が沈着した。
【0069】
(比較例2):シェル触媒B
シェル触媒Bの製造は、以下の方法に従って行なわれた。
53.21gの3.12%Pd(NH34(OH)2溶液を、球状担体 K−160(製造会社:Sud-Chemie AG)100gにコーティングし(基本条件:コーティング温度70℃、2xlチューブ、Innojet AirCoater 025におけるスプレー速度80%)、続いて、中間焼成を350℃、4時間空気中で行い、その後、7.54%KAuO2溶液14・66gをコーティングし、さらに流動床中で、90℃、45分間乾燥させ、その後、ガス相中のフォーミングガスで150℃、5時間還元し、最終的に、流動床中で90℃で45分間乾燥させた。
【0070】
(比較例3):シェル触媒C
シェル触媒Cの製造は、以下の方法に従って行なわれた。
触媒前駆体は、ガス相中のフォーミングガスで200℃、5時間還元し、KOAcでの浸漬を行なかった以外は、実施例1と同様にして製造された。
この触媒前駆体は、さらに以下のようにして製造された。7.54%KAuO2溶液8.61gをコーティングし、つづいて、ガス相中のフォーミングガスで150℃、5時間、還元し、その後KOAcに浸漬した。
【0071】
(比較例4):シェル触媒D
シェル触媒Dの製造は、以下の方法に従って行なわれた。
35.20gの3.12%Pd(NH34(OH)2溶液を、球状担体 K−160 100gにコーティングし、続いて90℃、45分間流動床で乾燥し、さらに、中間焼成を350℃、4時間空気中で行い、その後、7.54%KAuO2溶液11.64gをコーティングし(コータ中の基本条件ではなく60℃のコーティング温度、3xlチューブ、スプレー速度100%)、さらに流動床中で、90℃、45分間乾燥させ、その後、ガス相中のフォーミングガスで150℃、5時間還元し、その後IW(incipient wetness)法で、KOAc水溶液に浸漬させ、最終的に流動床中で90℃、45分間乾燥した。
【0072】
(実施例1)本発明にかかる実施例:シェル触媒E
4.4%Pd(NH34(OH)2溶液24.85mlを水150ml中に混合した液と、5.74mlの9.9%KAuO2溶液を水150ml中に混合した液との混合溶液を、球状担体KA−160(5mm)上に70℃でコーティングし、つづいて、流動床中で90℃で45分間乾燥し、さらに、中間焼成をすることなく、350℃、4時間、フォーミングガスで還元した。IW(incipient wetness)法によるKOAc水溶液への浸漬(16.79g、2モルのKOAcが計測され、水でIW含浸のために吸水率98%になるまで含浸される(pore-filling法))を、円底フラスコ(商品名:Rotavapor)中で1時間回転しながらつづけ、そして、流動床中で最終乾燥を90℃、45分間行った。化学分析(LOI-free、LOI=強熱減量)によって測定された最終的に得られた触媒の金属含有量は、Pd1.02%、およびAu0.57%であった。
【0073】
(実施例2)結果
シェル触媒AからEについての結果は、酸素変換率能力に従った酢酸ビニル合成についての選択性として、それぞれ表1および2に示す。
酢酸、エチレンおよび酸素は、触媒AからEに、温度140℃/12時間→144℃/12時間→148℃/12時間の条件でそれぞれ流され(これらは、スクリーニング・プロトコロ、すなわち、反応装置で温度140℃で12時間、その後144℃で12時間、さらにその後148℃で12時間測定される自動的処理が実行される間、順に適応される各反応温度である。)、さらに、圧力は7バールであった。使用された物質の成分濃度は、エチレン39%、酸素6%、二酸化炭素0.6%、メタン9%、酢酸12.5%、残りが窒素であった。
生成された酢酸ビニルは、例えば、US5066365A中に記載されているような、好ましい方法を参考にして分離される。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
(実施例3)本発明にかかる実施例:シェル触媒F
3.12%Pd(NH3)4(OH)2溶液0.77g(100mlの水で希釈)を120gのタブレット状担体CTR4(Al23、BET:3.8m2/g)4mmにコートし(基本条件:コーティング温度70℃、2xlチューブ、Innojet AirCoater 025におけるスプレー速度80%)、続いて、0.40gの7.54%KAuO2溶液(100mlの水で希釈)をコートし、さらに、流動床中で90℃、45分間乾燥させ、ガス相中のフォーミングガスで150℃、3時間還元した。
【0077】
(実施例4)本発明にかかる実施例:シェル触媒G
3.12%Pd(NH34(OH)2溶液0.77g(100mlの水で希釈)を120gのタブレット状担体CTR4(Al23、BET:3.8m2/g)4mmにコートし(基本条件:コーティング温度70℃、2xlチューブ、Innojet AirCoater 025におけるスプレー速度80%)、続いて、5.08gの1.30%Ag(OAc)溶液(100mlの水で希釈)を、先立って焼成処理することなしにコートし、さらに、流動床中で90℃、45分間乾燥させ、ガス相中のフォーミングガスで150℃、3時間還元した。
【0078】
(実施例5)本発明にかかる実施例:シェル触媒H
3.12%Pd(NH34(OH)2溶液0.77g(100mlの水で希釈)を120gのタブレット状担体CTR4(Al23、BET:3.8m2/g)4mmにコートし(基本条件:コーティング温度70℃、2xlチューブ、Innojet AirCoater 025におけるスプレー速度80%)、続いて、0.36gの10%Ag(NO3)溶液(100mlの水で希釈)をコートし、さらに、その上に、7.54%KAuO2溶液0.08gをコートし、さらに、流動床中で90℃、45分間乾燥させ、ガス相中のフォーミングガスで150℃、3時間還元した。
【0079】
(実施例6)本発明にかかる実施例:シェル触媒I
ガス相中のフォーミングガスで100℃、3時間還元した以外は実施例3と同様に触媒を製造した。
【0080】
(実施例7)本発明にかかる実施例:シェル触媒J
2つの貴金属溶液を混合し、同時にコートし(基本条件:コーティング温度70℃、2xlチューブ、Innojet AirCoater 025におけるスプレー速度80%)、続いて、流動床中で90℃、45分間乾燥させ、さらに、ガス相中のフォーミングガスで150℃、3時間還元した以外は、実施例3と同様に触媒を製造した。
【0081】
(比較例5):シェル触媒K
金化合物を塗布する前に3時間、375℃で中間焼成した以外は実施例3と同様に触媒を製造した。
【0082】
(比較例6):シェル触媒L
銀化合物を塗布する前に3時間、375℃で中間焼成した以外は実施例4と同様に触媒を製造した。
【0083】
(比較例7):シェル触媒M
フォーミングガスで処理する前に3時間、375℃で中間焼成した以外は実施例3と同様に触媒を製造した。
【0084】
(実施例8):結果
触媒FからMの活性、安定性および選択性はアセチレンの選択的水素添加で試験した。このため、エチレンおよびアセチレンの混合物は、エチレンプラント(GHSV 7000、圧力500 psig)の前工程の脱エタノール化ユニット(deethanizer unit)の条件をベースに作製された。
試験は、通常の技術的な条件に準じて実行された。
約25mlの触媒剤を、サーモスタット制御のウォーターバスで加熱された二重壁の内径1.25cmのステンレススチール製の反応槽に導入した。
25ppm未満のアセチレンが反応槽の排出口において記録される、最低開始温度は、T1とする。T1は、触媒の活性の評価基準である。
【0085】
アセチレン変換:(導入口のアセチレンのppm−排出口のアセチレンのppm)÷(導入口のアセチレンのppm)
【0086】
この温度に到達した場合、反応槽の温度はさらに上昇し、エチレンの水素添加も生じ、加えて、アセチレンの水素添加も要求される。従って、選択性は低下する。
【0087】
アセチレン選択性:(導入口のアセチレンのppm−排出口のアセチレンのppm−排出口のエタンのppm+排出口のアセチレンのppm)÷(導入口のアセチレンのppm)
【0088】
温度がさらに上昇すると、アセチレンおよびエチレンの水素添加の反応速度はさらに上昇する。反応が発熱反応であるため、反応熱が徐々に放出される。ある点(T2)から、上昇の一途をたどる反応が最終的に起き、選択性は完全になくなる。T2は、4%の水素の消失が生じた時点として定められる。触媒の安定性は、T1およびT2の差で定められ、高いほど触媒の安定性は高い。反応温度は30から140℃の範囲で変えられる。試験結果を表3に要約する。
【0089】
【表3】

【0090】
本発明にかかる触媒FからJは、より大きい温度範囲を示し、同程度の活性(わずかに高い傾向を有する)の触媒K、LおよびMよりも良好な選択性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に塩化物フリーのPd、Pt、AgまたはAu含有前駆体化合物を、前記前駆体化合物を含む溶液を担体にスプレーすることによって前記担体に塗布し、空気及び/又は不活性ガスを含む制御されたグライド層(glide layer)によって前記担体を混合し、
及び、前記前駆体化合物が塗布された担体に、非酸化的雰囲気中で80℃から500℃の範囲で温度処理を施す、シェル触媒の製造方法。
【請求項2】
前記温度処理の前又は後に、実質的に塩化物フリーの追加的なPd、Pt、AgまたはAu含有前駆体化合物を前記担体に塗布する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一の前駆体化合物及び前記追加的な前駆体化合物は以下のa乃至fのいずれかの組み合わせで形成可能である請求項2に記載の方法。
(a)Pd含有前駆体化合物、及び、Au含有前駆体化合物、
(b)Pt含有前駆体化合物、及び、Au含有前駆体化合物、
(c)Pd含有前駆体化合物、及び、Ag含有前駆体化合物、
(d)Pt含有前駆体化合物、及び、Ag含有前駆体化合物、
(e)Ag含有前駆体化合物、及び、Au含有前駆体化合物、または、
(f)Pd含有前駆体化合物、及び、Pt含有前駆体化合物。
【請求項4】
前記温度処理の後に前記追加的な前駆体化合物を塗布した場合、前記追加的な前駆体化合物が塗布された担体に、非酸化的雰囲気中で80℃から500℃の範囲で追加的温度処理を施す、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記一の前駆体化合物は、PdまたはPt含有前駆体化合物であり、および、前記追加的な前駆体化合物はAu含有前駆体化合物である請求項2乃至4のいずか一項に記載の方法。
【請求項6】
触媒の全重量に対して、前記PdまたはPt含有量は0.3から2重量%の範囲であり、前記Au含有量は0.1から0.9重量%の範囲である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記一の前駆体化合物は、PdまたはPt含有前駆体化合物であり、および、前記追加的な前駆体化合物はAg含有前駆体化合物である請求項2乃至4のいずか一項に記載の方法。
【請求項8】
触媒の全量に対して、前記PdまたはPt含有量は100から300ppmの範囲であり、前記Ag含有量は400から600ppmの範囲である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記一の前駆体化合物は、PdまたはPt含有前駆体化合物であり、および、前記追加的な前駆体化合物はAgまたはAu含有前駆体化合物である請求項2乃至4のいずか一項に記載の方法。
【請求項10】
触媒の全重量に対して、前記PdまたはPt含有量は、3から7重量%の範囲であり、前記AgまたはAu含有量は1から5重量%の範囲である請求項9に記載の方法
【請求項11】
前記PdまたはPt含有前駆体化合物は、硝酸化合物、酢酸化合物、テトラアミン化合物、ジアミン化合物、炭酸水素化合物および水酸化メタレート化合物から選択される請求項1乃至10のいずか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記AgまたはAu含有前駆体化合物は、酢酸化合物、亜硝酸化合物および水酸化メタレート化合物から選択される請求項1乃至11のいずか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記非酸化的雰囲気は、不活性ガス雰囲気、または還元雰囲気を含む請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記還元雰囲気は、フォーミングガスから形成されている請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記温度処理の間において、不活性ガス雰囲気から還元雰囲気への変更を行なう、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記不活性ガスから還元雰囲気への変更は、前記不活性ガスへのH2ガスの供給によって行なう請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記不活性ガス雰囲気から還元雰囲気への変更は、変更の間80℃未満にならない温度で実施する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記前駆体化合物の塗布と前記温度処理との間において、中間焼成を行なわない請求項1乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
炭化水素の水素添加における、または、アルコールのアルデヒド、ケトンまたはカルボン酸への酸化における酢酸ビニルモノマーの合成のための請求項1乃至18のいずれか一項に記載の方法で製造されたシェル触媒の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2012−254446(P2012−254446A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−109697(P2012−109697)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【出願人】(508131358)ズード−ケミー アーゲー (30)
【Fターム(参考)】