説明

丸太型枠用の足場形成方法及びその足場

【課題】丸太材を上下に積重ねた状態に並設して形成される丸太型枠に対する足場板支持用の支持枠のより簡便で安定的な設置作業が可能となり、丸太材の軸方向の径の変化や個体間の径のバラツキに対しても容易に対応可能な丸太型枠用の足場形成技術を提供する。
【解決手段】上部を丸太型枠1側に係止するとともに下部を丸太材2の表面に当接する当接部を介して支持する複数の取付部材4を用い、それらの取付部材4を介して足場板支持用の支持枠9を設置する。すなわち、丸太型枠1に対して足場板支持用の支持枠9を直接設置するのではなく、丸太型枠1との間に取付部材4を介在させて足場板支持用の支持枠9を設置することにより、丸太材2から派生する型枠表面の凹凸の影響を解消して、支持枠9を簡便かつ安定的に設置し得るように改良する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸太材を上下に積重ねた状態に並設して形成される丸太型枠に対して足場を設置するための丸太型枠用の足場形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、間伐材などの丸太材を上下に積重ねた状態に並設し、コンクリートの打設後も表面に丸太面を露出したままの状態で残留させる埋設形の丸太型枠は知られている。(特許文献1参照)。また、前記丸太材の並設作業やコンクリートの打設作業のため、裏側の支柱に固定された丸太材に対して固定具を打込むことにより足場板支持用の支持枠を丸太型枠に対して直接的に取付けて作業用の足場を形成する丸太型枠用の足場形成技術も知られている(同特許文献1参照)。しかしながら、この従来の足場形成技術においては、足場板支持用の支持枠を構成する縦部材を丸太型枠側に固定するための固定手段として、裏側の支柱に固定された丸太材に対して固定具を打込むという技術手段を採用していたため、前記縦部材に予め多数の挿通孔を形成しておき、その中から丸太材の状況に適した打込み位置を選定しながら固定具を打込むという面倒な固定作業が必要とされた。しかも、間伐材等の丸太材には、それぞれの軸方向の径の変化や、個体間の径のバラツキが存在するため、丸太材を積重ねる際にそれぞれの丸太材の根元側と先端側とを交互に配置してなるべく表面の凹凸を縮小するようにしても、凹凸を解消することはできないことから、足場板支持用の支持枠の取付作業には大きな困難が伴った。
【特許文献1】実用新案登録第3113722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑み、丸太型枠に対する足場板支持用の支持枠のより簡便で安定的な設置作業が可能となり、丸太材の軸方向の径の変化や個体間の径のバラツキに対しても容易に対応可能な丸太型枠用の足場形成技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、前記課題を解決するため、上部を丸太型枠側に係止するとともに下部を丸太材の表面に当接する当接部を介して支持する複数の取付部材を用い、それらの取付部材を介して足場板支持用の支持枠を設置するという技術手段を採用した。すなわち、丸太型枠に対して足場板支持用の支持枠を直接設置するのではなく、丸太型枠との間に前記取付部材を介在させて足場板支持用の支持枠を設置することにより、丸太材から派生する型枠表面の凹凸の影響を解消して支持枠を簡便かつ安定的に設置し得るようにした点に特徴を有する。さらに、前記取付部材の上部を丸太型枠側に対して係止する際に、それらの取付部材の上部と丸太型枠との間隔を調整するようにしてよいし、前記当接部を丸太材の表面に当接させて取付部材の下部を支持する際に、それらの取付部材の下部と丸太型枠との間隔を調整するようにしてもよい。それらの間隔調整は、取付部材の上部係止部又は下部支持部に具備した螺合機構を用いて行うように構成することができる。また、前記上部係止部として丸太材に対して裏側から係止する係止部を設け、その係止部を介して取付部材を丸太型枠側に係止するように構成することができる。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)丸太型枠側に係止される前記取付部材を介して足場板支持用の支持枠を設置するようにしたので、丸太材の軸方向の径の変化や個体間の径のバラツキにより派生する丸太型枠の表面の凹凸の影響を解消することができ、足場板支持用の支持枠を簡便かつ安定的に設置することが可能である。
(2)前記取付部材は、上部を丸太型枠側に係止するとともに下部を丸太材の表面に当接する当接部を介して支持するように構成したので、面倒な丸太型枠側に対する固定箇所が取付部材の上部側だけに減少され、下部側は前記当接部を丸太材の表面に当接するだけで足りることから作業の自由度が増し、作業負担を大幅に軽減できる。
(3)また、前記取付部材の上部を丸太型枠側に係止するとともに下部を丸太材の表面に当接する当接部を介して支持するように構成したので、丸太型枠の表面の凹凸に対しても容易に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、丸太材を上下に積重ねた状態に並設して形成される丸太型枠であれば、広く適用することが可能である。例えば、使用する丸太材の径をなるべく揃えた場合でも、大小の径の丸太材が混在する場合でも適用することが可能である。また、使用する丸太材は、全周面が丸太状である必要はなく、型枠としての表側が丸太状のものであれば、他の面は作業がし易いように加工したものでもよい。例えば、各丸太材の上下面を平坦に加工したものや、さらに裏側を平坦に加工したものであってもよい。因み、上下に積重ねられた各丸太材間の状態は、密接状態に限られず、コンクリートが漏れても支障のない程度であれば、丸太材間に隙間があっても構わない。また、その丸太材を横方向に支持するための具体的な支持形態に関しても制限されることはなく、例えば丸太材の裏側に設置されたチャンネル材やアングル材などからなる支柱に掛止可能なフック部を具備したフックボルトを使用する形態などの採用が可能である。前記取付部材や横軸部材は、中空のパイプ状のものでも中実状のむくのものでもよい。また、その断面形状に関しても円形状でも角形状のものでもよい。取付部材の上部の丸太型枠側に対する係止形態としては、丸太材に対して裏側から係止する形態のものが好適である。この丸太材に対する裏側からの係止形態には、両側の丸太材間に跨って係止する形態や、片方の丸太材に対して引っ掛ける形態などが含まれる。また、取付部材の下部に設置される丸太材の表面に当接する当接部の具体的な形態に関しては、丸太材の表面に沿ってある程度広い当接面をもった形態のものでも、丸太材の表面に先端部が突刺さるような状態で当接する形態でもよい。特に、前者の場合には、当接面の角度が丸太材の表面に沿うように変化し得る構成にすれば、より安定した当接状態が得られる。要は、特段の固定作業を伴なわず、当接部を丸太材の表面に当接させるだけで、取付部材の下部の支持が可能な形態であれば構わない。さらに、取付部材の上部と丸太型枠との間隔を調整し得るように構成したものでもよいし、取付部材の下部と丸太型枠との間隔を調整し得るように構成したものでもよいし、それらの双方の間隔調整が可能に構成したものでもよい。それらの間隔調整に関する具体的な形態としては、取付部材の上部係止部又は下部支持部に螺合機構を介在させる形態が簡便であるが、他の形態も可能である。
【実施例】
【0007】
図1は本発明の実施例に係る足場の設置状態を示した全体説明図である。図中1は丸太型枠であり、本実施例では径にバラツキのある丸太材2を用いて上下に積重ねた状態に並設することにより形成した場合を示したものである。なお、各丸太材2の固定は、例えばL形のフックボルト等を用い、各フックボルトのフック部を丸太材2の裏側に設置されたチャンネル材やアングル材などからなる支柱3に掛止した状態で丸太材2に形成した挿通孔に挿通させてナット等により締付け固定することにより可能であり、これにより丸太材2が支柱3に沿って上下に積重ねられた状態に固定された丸太型枠1が形成されることなる。また、図中4は取付部材であり、この取付部材4の上部には丸太型枠1側に係止するための上部係止部5が配設され、下部には丸太材2の表面に当接する当接部を具備した下部支持部6が配設されている。さらに、取付部材4にはクランプ等の固定手段が設置され、それらの固定手段を用いて隣接する取付部材4間にパイプ等の横軸部材7,8を装着し得るように構成されている。
【0008】
また、図中9は足場板支持用の支持枠を示したもので、図示のように上方の横軸部材7に対して掛止可能な掛止部10を備えた掛止部材11と、この掛止部材11の下部にピン結合された連結部材12と、それらの掛止部材11と連結部材12の上部にピン結合された板載置部材13とから三角形状に構成されている。しかして、掛止部材11の上部に設けた掛止部10を上方の横軸部材7に掛止するとともに、下部を下方の横軸部材8の表面に当接させることにより、支持枠9が丸太型枠1に対して設置される。そして、板載置部材13上に足場板14を設置すれば、所期の足場が形成されることになる。因みに、板載置部材13の水平状態は、連結部材12に設けた調整孔15を選定してピン結合位置を調整することにより可能である。また、図中16は防護用の手摺りである。
【0009】
次に、前記取付部材4に関して詳細に説明する。図2は取付部材4の正面図であり、図3はその左側面図である。図示のように、本実施例に係る取付部材4では、アングル材からなる本体部17の上部に、T字状部材18とL字状部材19との組合わせから構成される丸太型枠1側への上部係止部5が配設されている。一方のT字状部材18は、丸太材2の裏側に係止可能な係止部18aと、該係止部18aの中央部から垂直方向に一体的に設けられ、先端部にボルト20が螺合可能な雌ネジが形成されたネジ結合部18bとから構成される。また、他方のL字状部材19は、内部にボルト20の貫通孔が形成されたボルト貫通部19aと、該ボルト貫通部19aの端部から垂直方向に一体的に設けられ、前記本体部17に上部に連結される連結部19bとから構成される。なお、T字状部材18のネジ結合部18bとL字状部材19のボルト貫通部19aの寸法は、ボルト20による締付け状態において本体部17と支柱3との間に形成される間隔が、丸太材2の中の最も大きい直径より幾分大きくなるように設定する。因みに、このネジ結合部18bとボルト20との螺合長に余裕を持たせることにより本体部17と支柱3との間の間隔を調整し得るように構成することも可能である。また、本実施例のように、連結部19bに適宜数のボルト挿通孔21を形成しておき、連結用ボルト22,23の挿通位置を変更して本体部17との連結位置を変えることによって取付部材4の全長を調整し得るように構成することも可能である。
【0010】
また、本実施例に係る前記取付部材4の本体部17の下部には、前記丸太材2の表面に当接可能な当接部材24と、本体部17の下部に設置した雌ネジ部25に螺合し、先端部に前記当接部材24を支持したボルト支持部材26とから構成される丸太型枠1側に対する下部支持部6が配設されている。本実施例によれば、雌ネジ部25に対するボルト支持部材26の螺合位置を調整して本体部17の下部と丸太材2の表面との間隔を調整することにより、取付部材4の設置状態を調整することが可能である。なお、本実施例では、当接部材24はボルト支持部材26の先端部に対して回転及び傾斜が自由な状態に支持され、その当接面の角度が丸太材の表面に沿うように傾斜してより安定した当接状態が得られるように構成されている。さらに、本実施例では、図示のように本体部17の上部係止部5と下部支持部6との中間部に、前記横軸部材7,8を装着するためのクランプ27,28を設置している。
【0011】
次に、丸太型枠1に足場を形成するための作業手順について説明する。図4〜図6はその作業手順を示した作業説明図である。しかして、本実施例に係る前記取付部材4を用いる場合には、先ず丸太材2を積上げる際、あるいはその積上げ後に、図4に示したようにT字状部材18を丸太材2間に挿入し、そのネジ結合部18bを丸太材2間から露出させた状態で、係止部18aを丸太材2間に跨るように裏側から係止することにより、T字状部材18を目的の位置にセットする。この場合、係止部18aに小孔を形成しておき、丸太材2に対して釘止めするようにすれば、前記ボルト20の回転力に対抗して係止部18aの係止状態を安定的に保持できる。しかる後、L字状部材19のボルト貫通部19aにボルト20を貫通させながら先端部をネジ結合部18bに形成された雌ネジに螺合して締付け固定する。本実施例の場合には、そのボルト20の締付け固定により、前記上部係止部5が、本体部17と支柱3との間に丸太材2の中の最も大きい直径より大きな間隔が形成される状態にセットされる。
【0012】
次に図5に示した作業工程へ進む。本作業工程では、前記L字状部材19の連結部19bに対して取付部材4の本体部17を沿わせ、その連結部19bに形成されたボルト挿通孔21の中から選定した挿通孔及び本体部17側に形成したボルト挿通孔に対して連結用ボルト22,23を挿通して締付け固定する。これにより、本体部17の上部が丸太型枠1側に対して固定され、図示のように本体部17の下部に設置した下部支持部6の当接部を構成する当接部材24が丸太材2の表面に当接して取付部材4を支持することになる。この場合、ボルト支持部材26を回転操作して雌ネジ部25に対する螺合位置を調整することにより、取付部材4の設置状態を調整することが可能である。以上のようにして、丸太型枠1に対して所定間隔で所要数の取付部材4が設置された場合には、さらに前記クランプ27,28を用いて隣接する取付部材4間に前記横軸部材7,8を装着して次の作業工程へ移行する。
【0013】
次の足場板支持用の支持枠9の設置工程では、図6に示したように、支持枠9を構成する掛止部材11の掛止部10を取付部材4間に装着された上方の横軸部材7に対して掛止するとともに、掛止部材11の下部を下方の横軸部材8の表面に当接させる。これにより、支持枠9が丸太型枠1に対して支持されるので、その状態で板載置部材13上に足場板14を設置すれば、所期の足場が形成されることになる。
【0014】
しかして、以上の作業工程により所期の足場が形成された場合には、その足場を使用して、更に上方の丸太材2を積重ねるなどの所要の型枠形成作業を実行したり、既に形成された丸太型枠1の部分にコンクリートを打設するなどの所要の作業が実行される。そして、所期の作業が終了した場合には、足場板支持用の支持枠9を撤去し、さらにボルト20とL字状部材19のネジ結合部18bに形成された雌ネジとの螺合を外して、取付部材4を丸太型枠1から取外す。なお、図7に示したように、T字状部材18はそのまま丸太型枠1側に残されることになるが、取外した取付部材4や足場板支持用の支持枠9は、他の丸太型枠1や順次形成される上段の丸太型枠1などへ移動して再使用されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に係る足場の設置状態を示した全体説明図である。
【図2】取付部材を示した正面図である。
【図3】同取付部材を示した左側面図である。
【図4】丸太型枠に足場を形成するための作業手順を示した作業説明図である。
【図5】同作業手順を示した作業説明図である。
【図6】同作業手順を示した作業説明図である。
【図7】足場を撤去した後の状態を示した状態説明図である。
【符号の説明】
【0016】
1…丸太型枠、2…丸太材、3…支柱、4…取付部材、5…上部係止部、6…下部支持部、7,8…横軸部材、9…支持枠、10…掛止部、11…掛止部材、12…連結部材、13…板載置部材、14…足場板、15…調整孔、16…手摺り、17…本体部、18…T字状部材、18a…係止部、18b…ネジ結合部、19…L字状部材、19a…ボルト貫通部、19b…連結部、20…ボルト、21…ボルト挿通孔、22,23…連結用ボルト、24…当接部材、25…雌ネジ部、26…ボルト支持部材、27,28…クランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸太材を上下に積重ねた状態に並設して形成される丸太型枠に足場を設置する丸太型枠用の足場形成方法であって、上部を丸太型枠側に係止するとともに下部を丸太材の表面に当接する当接部を介して支持する複数の取付部材を用い、それらの取付部材を介して足場板支持用の支持枠を設置するようにしたことを特徴とする丸太型枠用の足場形成方法。
【請求項2】
前記取付部材の上部を丸太型枠側に対して係止する際に、それらの取付部材の上部と丸太型枠との間隔を調整するようにした請求項1に記載の丸太型枠用の足場形成方法。
【請求項3】
前記当接部を丸太材の表面に当接させて取付部材の下部を支持する際に、それらの取付部材の下部と丸太型枠との間隔を調整するようにした請求項1又は2に記載の丸太型枠用の足場形成方法。
【請求項4】
丸太型枠側に係止可能な上部係止部と、丸太材の表面に当接可能な当接部を具備した下部支持部とを備えた複数の取付部材と、それらの取付部材間に装着される複数の横軸部材を備え、該横軸部材に対して足場板支持用の支持枠を設置するように構成したことを特徴とする丸太型枠用の足場。
【請求項5】
前記上部係止部は螺合機構を備え、その螺合機構を介して取付部材の上部と丸太型枠との間隔を調整し得るように構成したことを特徴とする請求項4に記載の丸太型枠用の足場。
【請求項6】
前記上部係止部として丸太材に対して裏側から係止する係止部を設け、その係止部を介して前記取付部材を丸太型枠側に係止するように構成したことを特徴とする請求項4又は5に記載の丸太型枠用の足場。
【請求項7】
前記下部支持部は螺合機構を備え、その螺合機構を介して取付部材の下部と前記当接部との間隔を調整し得るように構成したことを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の丸太型枠用の足場。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−2128(P2008−2128A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172013(P2006−172013)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(592080109)日本林業土木株式会社 (3)