説明

乏血小板血漿の製造方法

【課題】血小板凝集能の検査方法におけるリファレンスに用いる乏血小板血漿(PPP:Platelet Poor Plasma)の製造方法を提供する。
【解決手段】次の工程からなることを特徴とする血小板凝集能の検査方法におけるリファレンスに用いる乏血小板血漿(PPP)の製造方法、1.採血した全血を、その上澄み液が、白血球は500個/μl以下、血小板は30000個/μl以上となるように遠心分離する、2.該遠心分離した上澄み液を試験管1〜3に採取し多血小板血漿(PRP)とする、3.このPRPに、血小板凝集惹起剤を添加し、攪拌しその後静置し、その上澄み液が白血球は500個/μl以下、血小板は5000個/μl以下となるようする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板凝集能の検査方法におけるリファレンスに用いる乏血小板血漿(PPP:Platelet Poor Plasma)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血小板は出血時の止血に関与する重要なものであるが、通常の検査では、その数を調べるだけである。例えば、15〜30万/μlなら正常というものである。しかし、数が正常であっても、血小板の凝集能が正常でなければならない。凝集能が低ければ、数は足りていても止血できないし、凝集能が高すぎると脳梗塞等の可能性が高くなる。
【0003】
よって、血小板はその数だけではなく、凝集能の検査もしなければならないのである。
従来の血小板凝集能検査装置の原理について説明する。
原理は、血液に血小板凝固因子を添加してその凝集程度を透過光を測定することによって求めるものである。即ち、血小板によって全体として濁った液が凝集することによって、澄んでくるため、透過光量が増加するのである。
【0004】
より具体的に従来の方法について説明する。
1 被験者の血液を採取する。
2 その血液を弱く遠心分離(1000rpmで5〜10分)し、赤血球や白血球は沈降させるが、血小板は沈降させないようにする。そして、その上澄みを取る。これには血小板がほとんど残っているが、赤血球等はほとんど含まれていない。これを多血小板血漿(PRP: Platelet Rich Plasma)として試験管に最低2本とる。
3 最低2本の試験管に採った残りを、さらに強く遠心分離(3000rpmで10〜15分)する。これで血小板もほとんど沈降するので、その上澄みを採取する。これを乏血小板血漿(PPP)とする。
4 PRPの試験管(2本)にコラーゲン等の凝集剤(凝集惹起物質)を添加し攪拌する。2本は凝集剤の濃度を変える。攪拌しながら、0〜5分間の透過光を測定し、そのグラフを描く。全体として血小板が浮遊して濁っているものが凝集剤によって凝集し全体として澄んでくると透過光は増加してくる。
5 凝集剤を2つの濃度で行うのは、凝集剤の濃度が所定以下であれば、一旦透過光が増加した後、下がるのを確認するためである。
6 同時にPPP(凝集剤は入れない)の透過光を測定する。これがリファレンス(基準値)になる。
7 2本のPRPの透過光のグラフの100%が、このリファレンスである。
8 グラフのパターンと、リファレンスによって校正された値によって、凝集性を診断する。
【0005】
この従来の方法では、遠心分離を2回行なう必要がある。これが時間と手間のかかる作業である。多量(多検体)に処理する場合等では、これがネックとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本分野ではこのような2回の遠心分離操作を行う必要のない検査方法が長年望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上のような現状に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果本発明血小板凝集能の検査方法におけるリファレンスに用いる乏血小板血漿(PPP)の製造方法を完成したものであり、その特徴とするところは、
1 採血した全血を、その上澄み液が、白血球は500個/μl以下、血小板は30000個/μl以上となるように遠心分離する、
2 該遠心分離した上澄み液を試験管に採取し多血小板血漿(PRP)とする、
3 この多血小板血漿(PRP)に、血小板凝集惹起剤を添加し、攪拌しその後静置し、その上澄み液が白血球は500個/μl以下、血小板は5000個/μl以下となるようする、
4 この上澄み液を乏血小板血漿(PPP)とするものである。
【0008】
ここでいう血小板凝集能の検査方法とは、血小板を一定方法で凝集させ、その透過光の変化によって凝集能を調べるものである。
前記した従来例とこの点はまったく同様である。
【0009】
リファレンスとは、測定の基準となるもので、これとの比較によって測定をより精度の高いものにするものである。ここでは、このリファレンスが乏血小板血漿(PPP)である。
【0010】
本発明では最初採血した全血を遠心分離する。この遠心分離は、回転速度と回転時間によって決めるものである。回転速度が速ければ、時間が短くて済、回転速度が遅いと時間が長くなる。例えば、800〜1500rpmで5〜15分程度である。
遠心分離の程度は、その上澄み液が、白血球は500個/μl以下(好ましくは250個/μl以下)、血小板は30000個/μl以上(好ましくは50000個/μl以上、より好ましくは10万個/μl以上)となる程度である。よって、回転速度と時間は自由に設定できるが、白血球と血小板がこの数値に入るように遠心分離するということである。
【0011】
この上記した遠心分離の目的は、血小板より大きいものを除くということである。勿論、完全に除去することは難しく、またその必要もないため、測定に問題のない程度、即ち、白血球が500個/μl以下になればよい。白血球が500個以下であれば、それより比重の大きな赤血球等は、測定に支障があるほど残存していないため問題はない。
【0012】
また、白血球を沈降させるため、遠心分離をかけすぎると、血小板が少なくなるため問題である。よって、血小板は30000個/μl以上残るようにするのである。このようにすることは簡単であり、通常は前記した通り、800〜1500rpmで5〜15分程度でできるのである。
【0013】
本出願では、このようにした上澄み液を多血小板血漿(PRP)という。
これを試験管(小容器の意味)に採取し、次工程に使用する。まず、このPRPに、血小板凝集惹起剤を添加する。ここで、血小板凝集惹起剤とは、血小板の凝集を促し凝集させるものである。例えば、コラーゲン等であり通常に知られているものでよい。勿論、コラーゲン以上に凝集を惹起するものでもよい。
【0014】
本出願でこの段階で血小板凝集惹起剤を添加する理由は、血小板を沈殿させて乏血小板血漿(PPP)を作成するためである。血小板凝集惹起剤としては、通常の測定で使用するコラーゲン(生態としての実験であるため、特殊な惹起剤を使用すると正しい凝集能の測定はできない)だけでなく血小板をよく凝集するものでもよい。例えば、トロンビン等である。またコラーゲンも通常の濃度より濃いものを用いてもよい。例えば、10倍程度の濃度のものである。
【0015】
血小板と惹起剤を十分衝突させ、凝集させる。よって、攪拌も行なう。攪拌は、通常は試験内の底部に沈めたスターラーを回転させて行なう。攪拌時間は1〜10分程度である。
【0016】
攪拌が完了すればそのまま静置する。凝集して大きく重い塊となっているので、比較的短時間(1〜3分程度)で、ほとんど(重量で90%以上)は沈降する。この静置時間は、このリファレンス以外の測定サンプルの測定時間によって決めてもよい。即ち、測定サンプルの測定時間(透過光の経時的変化をみる時間)はどうしても必要な時間であるため、その程度まで静置しても余計な時間とはならないためである。
【0017】
この凝集と静置、沈降によって、その上澄み液が白血球は500個/μl以下(好ましくは250個/μl以下)、血小板は5000個/μl以下(好ましくは2500個/μl以下)となるようする。即ち、血小板もそのほとんどを沈降させるのであるが、5000個/μl程度ならば、測定に問題はないということである。実際には、血小板凝集惹起剤の種類や濃度によって100個以下、1000個以下、2000個以下等となることが多い。
【発明の効果】
【0018】
本発明には、次のような大きな利点がある。
(1) 従来のように乏血小板血漿(PPP)を作るために、2回の遠心分離工程が不要である。
(2) 従来の方法と同様の測定精度が得られる。
(3) 従来の装置がそのまま使用できるか、又は簡単な改良で使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明方法を実施する装置の1例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下好適な実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
本発明の乏血小板血漿(PPP)の作成方法及び、それを用いた血小板凝集能の検査方法の1例について説明する。図1は、本発明で使用する透過光測定装置の1部を示す概略断面図である。
1 まず、被検者の血液を採取する。
2 この血液を遠心分離にかける(1000rpmで、10分)。
3 この上澄みを多血小板血漿(PRP)とする。
4 このPRPを3本の試験管(1、2、3)にとる(1本約200μl)。
5 2本の試験管(2、3)に、異なる濃度のコラーゲンを添加する。1本には、0.25mg/mlのもの、他の1本には2.5mg/mlのもので、それぞれ22μl添加する。
6 スターラー4で攪拌し(試験管の底部下方に設けられた回転装置5によって、約1000rpm程度)、攪拌開始から5分間の透過光を光源6と受光器7を用いて測定し、2本のグラフを描く。この例の装置は、リファレンス用(PPP用)の試験管を挿入する箇所にもマグネチック回転装置が設けられている。本発明では、リファレンス用の試験管にもスターラーを入れ攪拌するためである。
7 上記した2本の試験管の攪拌が始まるとすぐに、残り1本のPRP(1)に、25mg/mlの濃度のコラーゲンを22μl添加する。そして、これも攪拌する。こちらは3分攪拌し、その後2分静置する。この上澄み液が本発明PPPである。
8 このPPPの透過光を測定しリファレンス値とする。
9 このリファレンス値を用いて、上記の2本のグラフ(測定値)を校正する。
【0022】
これでPRPの測定、校正が完了である。従来と同じような診断方法で凝集能を検査することができる。
【0023】
上記のPPPの凝集、沈殿は、従来の装置のPPP用の部分を改良して行なったが、別の簡単な装置によって本発明方法でPPPを製造し、そのPPPを従来の装置のリファレンス部に導入して測定してもよい。これならば、従来の測定装置はそのまま使用できる。
【0024】
また、従来の装置のPRPの測定部(攪拌装置を有する)において、本発明のPPP製造を行なってもよい。
【0025】
本発明は、あくまでもPPPの製造方法であり、それはどこで製造しても、どのような装置で製造してもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 試験管
2 試験管
3 試験管
4 スターラー
5 回転装置
6 光源
7 受光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板凝集能の検査方法におけるリファレンスに用いるものであって、次の工程からなることを特徴とする乏血小板血漿の製造方法、
1 採血した全血を、その上澄み液が、白血球は500個/μl以下、血小板は30000個/μl以上となるように遠心分離する、
2 該遠心分離した上澄み液を試験管に採取し多血小板血漿とする、
3 この多血小板血漿に、血小板凝集惹起剤を添加し、攪拌しその後静置し、その上澄み液が白血球は500個/μl以下、血小板は5000個/μl以下となるようする、
4 この上澄み液を乏血小板血漿とする。


【図1】
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