説明

乗り物のホイールブレーキ及びそれ用の不可逆アクチュエータへの電力供給を管理するための方法

【課題】既存のアクチュエータに比べて複雑さ及び電力消費の両方を減少させることができる新規の電気機械アクチュエータブレーキを提供する。
【解決手段】ブレーキは摩擦要素3に選択的に制動力を加えるために電気モーター6からの駆動を受けて移動可能なプッシャ8を備えた電気機械アクチュエータ1を備える。アクチュエータ1はプッシャ8に加えられる反力が電気モーター6を回転させることができないように不可逆的であり、アクチュエータ1は電気モーター6に対する電力供給を選択的にオフに切り替えるための手段30、31、32、33、34と結合される。前記手段は、正常な状況においては電力がアクチュエータ1に送られるようにし、下記の場合には電力をオフに切り替える:・電気モーターの測定回転速度ωmesが予め決められた第一閾値(S1)より下に降下し、かつ・電気モーターの指定回転速度ω0が予め決められた第二閾値S2より下に降下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乗り物、特に航空機のホイールブレーキ用の不可逆電気機械アクチュエータを管理するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プッシャを備える少なくとも1つの電気機械アクチュエータを受容する支持体を備える航空機のホイールブレーキは既知である。プッシャは可動的であり、摩擦要素に選択的に制動力を与えるためにこれに面する。一般には、アクチュエータは可逆的であり、摩擦要素に力を加えながらプッシャを固定できるようにプッシャを所定の位置で固定するための固定部材を備える。
【0003】
固定部材は駐機機能を与えるのに役立つ。駐機機能は、航空機が静止していてオフに切り替えられているとき摩擦要素に力を加える。このために、プッシャが摩擦要素に力を加えるように少なくとも1つのアクチュエータが作動され、プッシャを所定の位置で固定するために固定部材が起動され、アクチュエータのモーターへの電力供給がオフに切り替えられる。実際には、固定部材はフェイルセーフブレーキであり、固定部材に電力が供給されるときプッシャを解除するが、固定部材に電力が供給されなくなるとプッシャを固定する。その後航空機の電力供給を遮断することができ、アクチュエータのモーター及び固定部材自体に電力が供給されなくなっても駐機力が与えられる。
【0004】
正常な状況においては、制動が加えられなくても、アクチュエータに電力が供給され、その結果アクチュエータは電力を消費する。
【0005】
しかし、航空機に電力が供給されなくても固定部材を起動できるという状況が存在する。正常な状況の下ではプッシャが自由に動くことができるようにするために固定部材に電力が供給されるので、航空機が静止していてパイロットがかなり長い時間ブレーキペダルを押すと、アクチュエータのモーターが不必要に熱くなる可能性がある。従って、特に特許文献1から、固定部材を起動するとすなわちその電源をオフに切り替えると自動的に駐機モードになることは既知である。これによりアクチュエータのプッシャは所定の位置で固定され、プッシャのモーターへの電力供給もオフに切り替えることができる。このような状況においては、アクチュエータはもはやエネルギーを消費しないが、摩擦要素に対する力は持続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】仏国特許第2880602号(FR−2880602)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電力消費を減少させかつ既存のアクチュエータに比べて複雑さ及び電力消費の両方を減少させることができる新規の電気機械アクチュエータブレーキを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は乗り物、特に航空機用のホイールブレーキを提供する。ブレーキはプッシャを備える少なくとも1つの電気機械アクチュエータを受容する支持体を備える。プッシャは摩擦要素に面しており、摩擦要素に対して選択的に制動力を加えるために電気モーターからの駆動を受けて可動的である。アクチュエータは、プッシャに加えられる反力が電気モーターを回転させることができないように不可逆的であり、かつアクチュエータは電気モーターへの電力供給を選択的にオフに切り替えるための手段と結合される。この手段は、正常な状態のとき電力をアクチュエータへ送れるようにし、下記の場合この電力をオフに切り替えることができるようにする:
・ 電気モーターの測定回転速度が予め決められた第一閾値より下に降下し、かつ
・ 電気モーターの指定回転速度(commanded speed of rotation)が予め決められた第二閾値より下に降下する。
【0009】
力あるいは位置に関してアクチュエータをサーボ制御するためには、一般に内部速度フィードバックループが実現される必要がある。従って、指定速度(これは速度ループの入力として与えられる)及び回転センサによって測定される速度(このセンサはモーターの中にあるもので、モーターの電力供給を制御するのに役立つ)についてテストを実施するためにこのループが利用される。従って、テストはモーターのサーボ制御にとって内部的なパラメータに適用されるので、どのようにアクチュエータがサーボ制御されるか(位置についてかあるいは力についてか)に関係なくテストを実施することができる。
【0010】
これら2つのテストによって、第一にプッシャの動きが要求されないこと、第二にプッシャが確かに静止していることが保証される。これにより、アクチュエータは不可逆的なのでプッシャが所定の位置で固定されるようにアクチュエータに対する電力供給はオフに切り替えられる。
【0011】
プッシャを移動させるための命令が発せられる場合、指定速度信号が関連する閾値より上に上がるようなモーターの回転速度が要求される。電力供給をオフに切り替えるための条件はもはや満たされず、アクチュエータの電気モーターに対する電力供給は再び確立される。または、電力供給をオフに切り替えるための条件とは異なる、電力供給を切り替えるための条件を選択することができる。特に、電力供給が切り替えられるための制御速度閾値(controlled speed threshold)は電力供給をオフに切り替えるために使用される閾値と同一である必要は無い。
【0012】
唯一の図面を参照することによって本発明をより良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電力供給管理を含む電気機械ブレーキアクチュエータのサーボ制御の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、支持体2に取り付けられた電気機械アクチュエータ1を示している。支持体は伸びて摩擦要素3に面する。摩擦要素において、多重ディスク(stack of disks)は、制動対象のホイールと一緒に回転し固定ディスクと交互に配置される回転ディスクを含む。固定ディスクは制動対象のホイールと一緒に回転しない。アクチュエータ1は本体5を備え、本体の中にネジ−ナット接続7の回転部を駆動するよう作用する(図に示されるように歯車装置を介してまたは直接的に)ために電気モーター6が配置される。ネジ−ナット接続において、非回転部は直線的に移動可能であり、制動命令に応答して多重ディスク3を選択的に圧するのに適するプッシャ8を形成する。
【0015】
本発明に従えば、アクチュエータは不可逆式である。すなわち、電気モーター6によって生成されるトルクは線形運動でプッシャ8を駆動するが、ディスク3によってプッシャ8に加えられる反力はプッシャ8を線形に動かすことができず、また電気モーターを回転させることもできない。アクチュエータを不可逆的にするために、不可逆電気モーター6例えば高トルク圧電モーターを使用することが可能である。また、電気モーター6とプッシャ8との間の不可逆伝達、例えば小さいピッチのローラーネジを介する伝達を使用することによってこの不可逆性を得ることも可能である。
【0016】
逆方向の伝達効率は低いが可逆性のモーターと結合してゼロではない逆方向の伝達が可能であるが有利である。従って、反力が所定の限界力を超えない場合にはプッシャは固定されるが、反力が前記の限界力に等しいまたはこれより大きい場合逆行する。このときアクチュエータに電力が供給されていなければアクチュエータはフォースリミタ(force limiter)のように行動し、限界力まで不可逆的であり、それを超えると可逆的である。
【0017】
電気モーター6はコンバータ10によって電力を供給される。コンバータは航空機の電力網から電気を受け取り、位置設定値x0に応答して生成されるコマンド11に従って電気モーター6へ送られる電力を変調する。さらに明確に言うと、位置設定値x0はコンパレータ20のプラス入力へ送られる。コンパレータは推定位置信号xestを受け取るマイナス入力を有する。コンパレータ20からの出力は位置エラーεxであり、これは第一コントローラ21へ送られる。第一コントローラは従来のように比例積分形微分(PID)ステージ、フィルタ部材、飽和部材などを含むことができる。第一コントローラ21からの出力は電気モーター6のための回転速度設定値ω0であり、指定回転速度とも呼ばれる。
【0018】
指定回転速度ω0はコンパレータ23のプラス入力へ送られる。このコンパレータは回転センサ24からの測定回転速度信号ωmesを受け取るマイナス入力を有する。回転センサ24は電気モーター6の回転速度を直接測定するために電気モーター6に配置される。この例においては、推定位置信号xestが測定回転速度ωmesに基づいて積分器25によって生成されることが分かるはずである。コンパレータ23からの出力は回転速度エラーεωであり、第二コントローラ26へ送られる。第二コントローラはコンバータ10に適用されるコマンド11を発する。
【0019】
本発明に従えば、コンバータには制御スイッチ(controlled switch)30を介して電力が供給される。制御スイッチは、通常、コンバータ10に電力供給するために閉じているが、以下の条件のとき開放される。制御スイッチ30へのコマンド31は下記の2つの入力を有するANDゲート32に与えられる。
・電気モーター6の測定回転速度ωmesを第一閾値S1と比較する第一コンパレータ33からの出力(測定回転速度が第一閾値S1より小さい場合この出力は1に等しい)、及び
・ 電気モーター6の指定回転速度ω0を第二閾値S2と比較する第二コンパレータ34からの出力(指定回転速度が第二閾値S2より小さい場合この出力は1に等しい)。
【0020】
従って、制御スイッチは、下記の両方の条件を満たす場合にのみ開放される:
・ 測定回転速度が第一閾値S1より小さく、かつ
・ 指定回転速度が第二閾値S2より小さい。
【0021】
このような条件の下では、コンバータ10従って電気モーター6には電力が供給されなくなり、電気機械アクチュエータ1は不可逆的であるので、固定される。このような条件は、プッシャの動きが全く指令されず、プッシャの動きが全く生じていない状況に相当する。
【0022】
アクチュエータが動作を要求されない限りアクチュエータには電力供給されなくなるので、このような電力供給の中断は大幅なエネルギー節約を生じる。さらに、アクチュエータは特別な固定部材を含まないので、モーターからの駆動を受けて自由にプッシャが動くようにするために電力を消費する必要が無い。
【0023】
電力供給が中断されるようにするテストは、この例においては内部速度ループのパラメータに基づいて行われる。実際には、このような用途のためのモーターは回転速度センサを含むので、測定回転速度に関する情報はすでに利用可能である。さらに、モーターの回転速度は、通常、サーボ制御されるので、プッシャの加速及び減速またはプッシャがディスクにドッキングするときの接近速度を制御するためだけであれば内部制御ループに含まれるので、指定速度信号も利用可能である。
【0024】
本発明に従えば、位置がサーボ制御されるのか力がサーボ制御されるのかに関係なく、既存のアクチュエータを使ってアクチュエータへの電力供給を非常に簡単に管理することができる。
【0025】
既知の方法で、2つのコンパレータ33、34をそれぞれの出力を有する確認回路と結合することができる。出力は、関連付けられるコンパレータからの出力が一定時間例えば数秒間1のままである場合のみ1に切り替わる。または、ANDゲート32と制御スイッチ30との間に確認回路を配置することができる。これによって、電力供給をオフに切り替えさせるような状況が本発明に従って検出された後すぐ(すなわち確認時間より短い時間で)プッシャの移動が指令される場合に電力供給をオフに切り替えないようにすることが可能である。このような配置は制御スイッチ30を構成する電力コンポーネントを無駄に使用することを防ぐ。
【0026】
実際には、制御速度及び測定速度信号を汚染する騒音レベルを考慮すると、使用される閾値S1及びS2はできる限り低く選択されると有利である。当然、これらの信号から雑音を取り除くために信号をフィルタリングするための措置を講じることができる。
【0027】
本発明は上述の実施形態に限定されず、逆に、上述のような本発明の基本的特徴を再現するために同等の手段を用いる任意の変形を含む。
【0028】
特に、本出願においては、電気モーターへの電力供給線において電気モーターの上流に配置される電源スイッチによって電力供給がオフまたはオンに切り替えられると述べられているが、例えば、電気モーターに電力供給するインバータのスイッチを選択的に開放位置にするコマンドなど選択的に電力をオフに切り替えるために他の手段を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物、特に航空機用のホイールブレーキであって、該ブレーキが、プッシャ(8)を備える少なくとも1つの電気機械アクチュエータを受容する支持体(2)を備え、前記プッシャ(8)が摩擦要素(3)に面しておりかつ前記摩擦要素に対して選択的に制動力を加えるために電気モーター(6)からの駆動を受けて移動可能であり、前記ブレーキが、少なくとも前記プッシャに加えられる反力が所定の限界力より低いとき、前記反力が前記電気モーターを回転させることができないように前記アクチュエータが不可逆的であり、かつ前記アクチュエータが前記電気モーターに対する電力供給を選択的にオフに切り替えるための手段(30、31、32、33、34)と結合され、前記手段が正常な状況においては電力が前記アクチュエータに送られるようにし、かつ
・ 前記電気モーターの測定回転速度(ωmes)が予め決められた第一閾値(S1)より下に降下し、かつ
・ 前記電気モーターの指定回転速度(ω0)が予め決められた第二閾値(S2)より下に降下する場合、
電力をオフに切り替えることを特徴とする、ブレーキ。
【請求項2】
乗り物、特に航空機のホイールブレーキ用の不可逆電気機械アクチュエータ(1)に対する電力供給を管理するための方法であって、前記電気機械アクチュエータがプッシャ(8)を備え、前記プッシャが摩擦要素(3)に面しておりかつ前記摩擦要素に対して選択的に制動力を加えるために電気モーター(6)からの駆動を受けて移動可能であり、前記方法が、
・ 前記モーターの測定回転速度(ωmes)が予め決められた第一閾値(S1)より下に降下し、かつ
・ 前記モーターの指定回転速度(ω0)が予め決められた第二閾値(S2)より下に降下する場合、
前記アクチュエータに対する電力供給をオフに切り替えるステップを含む、方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−220804(P2009−220804A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−32986(P2009−32986)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(591131361)メシエ−ブガッティ (64)
【氏名又は名称原語表記】MESSIER BUGATTI
【Fターム(参考)】