説明

乗り物内空調ダクトクリーニング方法

【課題】 乗り物内空調ダクトクリーニングにおいて、内部の汚れを十分に除去できるようにする。
【解決手段】 屈曲した管状のランス本体1,1a,1bに接続した先端ホース2,2a,2bより成るエアランスを、クリーニングのために孔を開けることなく乗り物内空調ダクト3に元々形成されている開口30,350を通して挿入して先端ホース2,2a,2bを空調ダクト3内に位置させ、ランス本体1,1a,1bを通して圧縮空気を先端ホース2,2a,2bから放出させることで先端ホース2,2a,2bに空調ダクト3の内面を叩かせ、汚れを落とす。この際、空調ダクト3の第一の部位の内面を叩くのに適した第一のランス本体1に先端ホース2を装着して第一の部位の内面の汚れを落とした後、空調ダクト3の第二の部位の内面を叩くのに適した第二のランス本体1aに先端ホース2aを装着して第二の部位の内面の汚れを落とす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、空調ダクトのクリーニングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビル等の空調ダクトにおいては、長期間使用するとダクト内面に塵や埃等の汚れが付着することが避けられない。これら汚れを放置すると、屋内環境の悪化(ハウスダスト等)や空調機器の機能低下、故障等を招く問題がある。このため、従来から、定期的に空調ダクト内をクリーニングして汚れを除去するメンテナンスが行われている。
【0003】
図5は、従来の空調ダクトクリーニング方法について示した概略図である。空調ダクトクリーニングは、専門のクリーニング業者によって行われることが多い。クリーニング業者は、まず、天井パネル4にクリーニング用の孔40を開けるとともに空調ダクト3の底面にもクリーニング用の孔300を開ける(図5(1))。そして、エアランスと呼ばれる長尺な治具を各孔40,300に通す。エアランスは、全体が中空の細長いランス本体1と、ランス本体1の先端にジョイント10を介して接続された複数の先端ホース2とより成るものである。ランス本体1も、中空のホース状の部材である。ランス本体1の後端にコンプレッサのような圧縮空気の供給源(不図示)を接続し、先端ホース2の先端から圧縮空気を放出させる。この際、先端ホース2が踊るような動きをし、空調ダクト3の内面を叩く(図5(2))。これにより、空調ダクト3の内面に付着した汚れが叩き落とされる。
次に、エアランスを引き抜き、専用の蓋71,72で孔300,40で塞ぐ。そして、空調ダクト3の適当な箇所に吸引ダクトを介して集塵機8を接続し、集塵機8により空調ダクト3内に溜まった汚れを吸引して除去する(図5(3))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録公報第2514418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空調ダクトクリーニングは、従来はビルやマンション等の建築物において行われるだけであったが、現在、電車、飛行機等の乗り物内の空調ダクトについても行うことが検討されている。発明者らの研究によると、これら乗り物内の空調ダクトについては、特別の考慮が必要なことが判ってきた。
具体的に説明すると、鉄道車両や飛行機等の乗り物は、高速で移動するものであり、各部は衝撃に耐え得るよう設計され、製造されている。一方、空調ダクトのクリーニングは事後的なものであり、クリーニングのために乗り物内の部材に孔開けをすることは、一般的に好ましくない。ビル等の建築物の場合、上述したようにクリーニング用の孔を開け(孔開け工事をして)、クリーニング後は専用の蓋でクリーニング用孔を塞いでいるが、高速運行する乗り物において蓋が落下しないよう、特別の配慮が必要になるし、乗り物の製造会社にとっては、そのような孔を事後的に開けること(一種の改良に当たる)は許可できないこともある。また、乗り物を運行する交通会社にとっても安全基準上認めていないか好ましくないとされる場合もある。
【0006】
クリーニング用の孔を開けることができないとすると、クリーニング業者は、空調ダクトに元々形成されている孔(空調ダクトの設計時から存在している孔)を通してエアランスを進入させ、汚れの叩き落としをすることが必要になる。発明者らの研究によると、従来の通常のエアランスを使用した方法では、乗り物内空調ダクトの場合には十分に内部の汚れの叩き落としができず、このために十分なクリーニングが行えないことが判明した。
本願の発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、乗り物内空調ダクトクリーニングにおいて、内部の汚れを十分に除去できるようにすることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、乗り物内に設置された空調ダクトの内面の汚れを除去する乗り物内空調ダクトのクリーニング方法であって、
空調ダクトの内面に付着した汚れをエアランスを使用して叩き落とす叩き落とし工程と、
叩き落とし工程の後、空調ダクトに集塵機を接続し、叩き落とされた汚れを集塵機によって集めることで除去する集塵工程とより成る方法であり、
前記エアランスは、ランス本体と、ランス本体に接続した先端ホースより成るものであって、ランス本体は、屈曲した管状であって前記叩き落とし工程において屈曲形状を維持するものであり、先端ホースは、ランス本体を通して供給された圧縮空気を放出する際の反動で空調ダクトの内面を叩くものであり、
前記叩き落とし工程は、クリーニングのために孔を開けることなく空調ダクトに元々形成されている開口を通して先端ホースを空調ダクト内に位置させて汚れの叩き落としを行う工程であり、
前記叩き落とし工程は、
空調ダクトの第一の部位の内面を叩く位置に先端ホースを位置させるのに適した第一の寸法形状を持つ第一のランス本体に先端ホースを装着して当該先端ホースを空調ダクト内に位置させ、この状態で圧縮空気を供給することで先端ホースに第一の部位の内面を叩かせて当該内面に付着した汚れを落とす第一のステップと、
空調ダクトの第一の部位とは異なる第二の部位の内面を叩く位置に先端ホースを位置させるのに適した第二の寸法形状を持つ第二のランス本体に先端ホースを装着して当該先端ホースを空調ダクト内に位置させ、この状態で圧縮空気を供給することで先端ホースに第二の部位の内面を叩かせて当該内面に付着した汚れを落とす第二のステップと
を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記第一のステップは、前記第一の部位の内面を叩くのに適した長さを持つ第一の先端ホースを前記第一のランス本体に装着して汚れの叩き落としを行うステップであり、前記第二のステップは、前記第二の部位の内面を叩くのに適した異なる長さの第二の先端ホースを前記第二のランス本体に装着して汚れを叩き落としを行うステップであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項1又は2の構成において、前記乗り物は、鉄道車両又は飛行機であるという構成を有する。
【発明の効果】
【0008】
以下に説明する通り、本願の請求項1記載の発明によれば、空調ダクトに元々形成されている開口を通してエアランスを進入させて汚れの叩き落としを行うので、乗り物の安全性を損なうことなく好適に空調ダクトクリーニングが実施され、快適な客室環境を維持することができる。この際、空調ダクト内の異なる部位の汚れの除去のために異なる寸法形状のランス本体に先端ホースを装着したエアランスを使用するので、各部位について十分に汚れの叩き落とし等を行うことができ、各部位の汚れを十分に除去することができる。
また、請求項2記載の発明によれば、上記効果に加え、先端ホースについても、汚れを落とす部位の位置に合わせて異なる長さのものを使用するので、汚れ除去をさらに十分に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本願発明の実施形態の方法によりクリーニングされる乗り物内空調ダクトの平面概略図である。
【図2】本願発明の実施形態の方法によりクリーニングされる乗り物内空調ダクトの側面断面概略図である。
【図3】図1及び図2に示す乗り物内空調ダクト3について行う実施形態のクリーニング方法に使用されるエアランスの概略図である。
【図4】図3のエアランスを使用した実施形態の乗り物内空調ダクトクリーニング方法について示した概略図である。
【図5】従来の空調ダクトクリーニング方法について示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
まず、実施形態のクリーニング方法が実施される乗り物内空調ダクトについて説明する。図1及び図2は、本願発明の実施形態の方法によりクリーニングされる乗り物内空調ダクトの概略構成を示した図であり、図1は平面概略図、図2は側面断面概略図である。
この実施形態では、乗り物として鉄道車両が想定されており、図1及び図2に示すものは例えば都市部の在来線や地下鉄等を走る電車である。空調ダクト3は、車両の天井パネル4の裏側(上側)に設置されており、客室内からは当然見えない状態となっている。
【0011】
二つの空調ダクト3は、車両の鉛直な中心線Cを境に左右対称となっており、図1では一例として左側の空調ダクト3が示されている。各空調ダクト3は、全体としてはほぼロ状の断面形状であり、垂直な姿勢の両側板部31,32と、やや斜めの姿勢になった上板部33と、水平な姿勢の下板部34とを有している。上板部33は、車両の中心線Cに向かって高くなる斜めの形状である。
両側板部31,32のうち、中心線Cに近い側31を中心側側板部と呼び、遠い側32を外側側板部と呼ぶ。外側側板部32は、下板部34の外側の縁から離れた位置に設けられており、外側側板部32の下縁と下板部34との間には大きな隙間がある。この隙間30は、客室内の空調用の開口(以下、ダクト開口と呼ぶ)である。ダクト開口30は、ダクトの長さ方向に延びており、やや幅の広いスリット状である。
【0012】
下板部34をその外側の縁から上方に延設させた部位35が設けられている。この部位35は、ダクト内で空気の供給路を仕切るものであり、以下、内部仕切り部と呼ぶ。内部仕切り部35と外側側板部32とは、図2に示すようにダクト開口30の幅分を隔てて対向している。この対向した空間38は、客室内への下方向の空気の供給路(以下、風路と呼ぶ)となっている。
【0013】
ダクト開口30には、ルーバー51,52が設けられている。ルーバー51,52は、空調用の風の通り道を形成しつつ、空調ダクト3を客室から見えないようにするためのものである。ルーバーは上下に二つ設けられている(以下、上側ルーバー51、下側ルーバー52)。
天井パネル4には、空調ダクト3のダクト開口30の位置に合わせて同様に開口(以下、パネル開口と呼ぶ)が設けられている。上側ルーバー51は、パネル開口の縁に着脱可能に取り付けられている。上側ルーバー51の両端には、脚部61が設けられている。脚部61は、上側ルーバー51の長さ方向(空調ダクト3の長さ方向)において間隔をおいて複数設けられている。各脚部61は、パネル開口の縁にネジ止めされており、これによりパネル開口の縁に上側ルーバー51が取り付けられた状態となっている。
【0014】
下側ルーバー52は、連結具62により上側ルーバー51に連結されている。連結具62は、下側ルーバー52を上側ルーバー51から吊り下げた状態で連結している。連結具62も、ルーバー51,52の長さ方向において間隔をおいて複数設けられている。両側の各脚部61のネジ(不図示)を取り外し、そのまま引き下げることで、下側ルーバー52ごと上側ルーバー51を天井パネル4から取り外すことができる。
また、下側ルーバー52や上側ルーバー51の幅は、外側側板部32と内部仕切り部35との間隔よりも狭くなっており、下側ルーバー52や上側ルーバー51の両側には狭いスリットが形成されている。これらスリットが、客室内に送る空気の送風口となっている。尚、脚部61や連結具62は、小さい板状の部材であり、立てて設けられており、各スリットを塞がないようになっている。
また、内部仕切り部35の上端部は、図2に示すように折れ曲がっているが、その上端縁は上板部33には接触しておらず、両者の間に隙間350が形成されている。この隙間350も、長さ方向に延びたスリット状である。この隙間350を、以下、上部開口と呼ぶ。
【0015】
このような形状、構造である左右一対の空調ダクト3は、不図示の取付具により車両の天井部の構造部分に取り付けられている。尚、天井パネル4には、各空調ダクト3の取付と補強用のリブ板37が設けられている。リブ板37は、車両の幅方向に沿った姿勢で形成されており、車両の長さ方向において間隔をおいて数カ所設けられている。リブ板37は、空調ダクト3の下板部34を貫通して天井パネル4に固定されており、これにより、空調ダクト3を固定、補強している。
【0016】
このような形状、構造である各空調ダクト3は、断熱材をある程度圧縮して固めて成形したものとなっている。即ち、グラスウールのような断熱材を折り曲げながらある程度圧縮して多少の剛性を付与し、上述した両側板部31,32、上板部33、下板部34、内部仕切り部35とから成る形状とする。尚、断熱材の表面はアルミ箔のような表面シートで覆われており、その状態で圧縮されるので、上記空調ダクト3の各部の表面も表面シートで覆われた状態である場合が多い。
【0017】
次に、このような形状、構造である車両内空調ダクト3について行う本実施形態のクリーニング方法について、以下に説明する。図3は、図1及び図2に示す乗り物内空調ダクト3について行う実施形態のクリーニング方法に使用されるエアランスの概略図、図4は、図3のエアランスを使用した実施形態の乗り物内空調ダクトクリーニング方法について示した概略図である。
まず、図3を使用してエアランスについて説明すると、エアランスは、ランス本体1と、ランス本体1の先端に取り付けた先端ホース2とより成っている。ランス本体1は、本実施形態では、アルミ等の金属製である。ランス本体1は、図3に示すように屈曲したものとなっている。このランス本体1は、一方の先端側の長さが長いU字(J字)状となっている。
【0018】
先端ホース2は、ポリ塩化ビニル等の樹脂製であり、十分な柔軟性と耐久性を持つものが使用されるが、散水用等で使用される水道ホースと同じものを使用することができる。この先端ホース2は、図4に示すように、先端縁から長さ方向に複数の切り込み20が形成されることで複数の先端片21に分かれた形状となっている。この実施形態では、切り込み20は三つ形成されており、三つの先端片21に分かれている。先端ホース2の断面は円形であり、切り込み20は120度間隔である。したがって、各先端片21の幅は皆同じである。
【0019】
各切り込み20は、先端ホース2の全長の途中の位置から先端縁まで形成されている。各切り込み20は、例えば先端ホース2の全長のほぼ半分の位置から先端縁まで形成されている。但し、これは限定的ではなく、他の位置から切り込み20が開始されることもある。尚、各切り込み20の長さは皆同じであり、したがって各先端片21の長さも同じである。
【0020】
先端ホース2は、後端部(根元の部分)がランス本体1に嵌め込まれることで取り付けられている。先端ホース2の内径は、ランス本体1の先端部の外径よりも少し大きくなっており、先端ホース2の弾性を利用して先端ホース2の先端部を少し広げながらランス本体1に嵌め込んでいる。尚、先端ホース2のランス本体1に対する接続強度を高めるため、適宜の結束具等が使用される場合もある。
尚、先端ホース2は上記のように柔軟なものであるが、ランス本体1は屈曲形状を維持する剛性を有するものである。但し、塑性変形可能なランス本体1を使用し、適宜の形状に変形させてから使用する場合もあり得る。とはいえ、ランス本体1は。圧縮空気の放出による汚れの叩き落としの際、形状を維持していることが最低限必要である。
【0021】
このようなエアランスについては、図3に示すように、ランス本体1及び先端ホース2のそれぞれについて形状や長さの異なるものが複数種用意される。即ち、ランス本体1については、L字状に屈曲したランス本体1a、鋭角状に屈曲したランス本体1b等であり、先端ホースについては、より長い先端ホース2a、これよりさらに長い先端ホース2bである。
【0022】
次に、このようなエアランスを使用したクリーニングについて説明する。図3に示すような各タイプのランス本体1,1a,1b及び先端ホース2,2a,2bから適宜のものを選択して組み合わせてエアランスとする。この際、まず空調ダクト3の第一の部位を叩くのに適した第一の寸法形状を持つ第一のランス本体1が選択され、これに適宜の先端ホース2が装着されてエアランスとされる。第一の部位とは、図4(1)に示す例では上部開口350に近い場所に位置する部位となっており、内部仕切り部35の上側部分や、上板部33の上部開口350付近の部位である。これら部位の内面を叩くため、長さの短いJ字状のランス本体1が選定され、また長さの短い先端ホース2が選ばれる。
【0023】
このようにして選定したランス本体1に先端ホース2を装着し、ランス本体1の後端に圧縮空気の供給源(典型的にはコンプレッサ)につながるチューブを接続して連通させる。そして、エアランスを空調ダクト3内に進入させて先端ホース2を汚れの叩き落としが可能な位置に配置する。即ち、前述したように上側ルーバー51及び下側ルーバー52を天井パネル4から取り外す。そして、風路38を通してエアランスを空調ダクト3内に進入させ、先端ホース2を上部開口350を通して内部仕切り部35と中心側側板部32との間に位置させる。この際、ランス本体1は、上部開口350内に挿通された姿勢となる。作業者は、風路38内でランス本体1の後端部を保持した状態となる。
【0024】
この状態で、圧縮空気の供給源を動作させ、先端ホース2から圧縮空気を放出させる。この際、先端ホース2の各先端片が踊るような動きをし、空調ダクト3の内面を叩く。このランス本体1は短いJ字状であり、先端ホース2aも短いので、空調ダクト3のうち上部開口350に近い場所に位置する部位の内面が主に叩かれる状態になり、この部位に付着した汚れが落とされる。
【0025】
作業者は、図4(1)に矢印m1で示すように、空調ダクト3の幅方向(図4の紙面上左右方向)の軸の回りにランス本体1の回して先端ホース2の姿勢を変える。これにより、先端ホース2が上板部33を叩く状態にすることができ、上板部33のうち上部開口350に近い部位の内面に付着した汚れを叩き落とすことができる。この他、空調ダクト3の長さ方向に垂直な水平方向に多少移動(前後移動)させたりすることでも、別の部位の汚れを叩き落とすことができる。
【0026】
作業者は、上記のように適宜ランス本体1を動かしながら汚れを叩き落とすとともに、エアランスを空調ダクト3の長さ方向に漸次移動させ、長さ方向に沿って上記汚れの叩き落としを同様に行っていく。空調ダクト3の全長に亘って汚れの叩き落としを行ったら、エアランスを空調ダクト3から引き抜く。
次に、エアランスを空調ダクト3の第一の部位とは異なる第二の部位に適したものに変更する。例えば、エアランスとして、図3に示すL字状のランス本体1aと、中程度の長さの先端ホース2aとを選択し、ランス本体1aに先端ホース2aを接続してエアランスとする。このエアランスを上記と同様に上部開口350を通して空調ダクト3内に配置し、圧縮空気の供給源を動作させる。
【0027】
L字状のランス本体1aのうち、角部からの長さが長い方を先端側とし、これに先端ホース2aを装着して行えば、図4(2)に示すように、上板部33と中心側側板部31との隅の部分や中心側側板部31の上側部分の内面を重点的に叩くことができ、これらの部位に付着した汚れを叩き落とすことができる。尚、ランス本体1aを上部開口350に通す際、長い先端側の部分を最初に空調ダクト3の長さ方向に沿った姿勢とし、この状態で短い後端側の部分を持って垂直な軸の回りに回転させて上部開口350に通すようにすると好適である。
【0028】
上記汚れの叩き落としの際、図4(2)に矢印m2で示すように、空調ダクト3の長さ方向に沿った軸の回りにランス本体1aを少し回す(揺動させる)ことで、隣接した部位についても汚れを叩き落とすことができる。この場合も、エアランスを前後方向に移動させても良い。同様に、長さ方向に沿ってエアランスを漸次移動させながら上記動作を行い、汚れの叩き落としを空調ダクト3の全長に亘って行う。
【0029】
そして次に、エアランスを空調ダクト3のさらに別の第三の部位の内面の汚れを落とすのに適したものに変更する。即ち、図3に示す鋭角状のランス本体1bに長さの長い先端ホース2bを装着してエアランスとし、空調ダクト3内に配置する。この際も、長い先端側の部分を最初は空調ダクト3の長さ方向に沿った水平な姿勢とし、その状態で垂直な軸の回りに回しながら上部開口350に通すようにすると配置がし易い。
同様に先端ホース2bから圧縮空気を放出させ、各先端片21を踊らせると、図4(3)に示すように、中心側側板部31の下側部分や下板部34、中心側側板部31と下板部34との隅の部分を重点的に叩くことができ、これらの部位に付着した汚れを落とすことができる。この場合も、図4(3)に矢印m3で示すように、空調ダクト3の長さ方向の軸の回りにエアランスを揺動させることで、隣接する部位についても広く汚れを落とすことができる。同様に、エアランスを空調ダクト3の長さ方向に沿って漸次移動させ、空調ダクト3の全長に亘って汚れの叩き落としを行う。尚、下板部34については、汚れを叩き落とすというよりも、付着した汚れを剥がし、集塵機で集塵し易くするという動作である。
【0030】
このようにして各部位を全長に亘って先端ホース2,2a,2bで叩いた後、集塵機による集塵を行う。即ち、空調ダクト3の長さ方向の端部に不図示の吸引ダクトを接続する。空調ダクト3の長さ方向の端部には、車両に設けられた空調機と空調ダクト3とをつなぐ連通ダクトの接続口が設けられている。この接続口から連通ダクトを取り外し、吸引ダクトの一端を接続する。吸引ダクトの他端は、集塵機に接続される。この状態で集塵機を動作させ、叩き落とされた汚れを吸引ダクトを通し、集塵機に吸引させて集める。十分に汚れが吸引、除去されればクリーニングは終了であり、吸引ダクトを外し、連通ダクトを元の通り接続しておく。ルーバー51,52についても、元の通りにダクト開口30を目隠しした状態にセットしておく。これにより、一つの空調ダクト3のクリーニングは終了であり、もう一つの空調ダクト3についても同様にクリーニングを行う。尚、圧縮空気を供給して先端ホース2,2a,2bによる汚れの叩き落としをしながら同時に集塵機による汚れの吸引を行うこともある。
【0031】
上述した実施形態の方法によれば、空調ダクト3に元々形成されている開口30,350を通してエアランスを進入させて汚れの叩き落としを行っており、従来の建築物内空調ダクトのクリーニングのようにクリーニングのための孔開けはしない。したがって、公共交通機関のような乗り物の場合に、運行会社の安全基準等に抵触することがなく、好適に空調ダクトクリーニングを実施し、快適な客室環境を維持することができる。
この際、上記のように、空調ダクトの異なる部位の汚れの除去のために異なる寸法形状のランス本体1,1a,1bに先端ホース2,2a、2bを装着したエアランスを使用するので、各部位について十分に汚れの叩き落とし等を行うことができ、各部位の汚れを十分に除去することができる。この際、先端ホース2,2a,2bについても、汚れを落とす部位の位置に合わせて異なる長さのものを使用するので、汚れ除去をさらに十分に行うことができる。
【0032】
また、実施形態の方法では、先端ホース2が先端縁から長さ方向に複数の切り込み20が形成されることで複数の先端片21に分かれた形状である点も、乗り物内空調ダクトのクリーニングである点に密接に関連している。乗り物内空調ダクトは、ビル等の建築物内の空調ダクトとは基本的に異なったものとなっており、高速走行を考慮し軽量化のための特別な構成となっている。即ち、断熱材をある程度圧縮して成形したもの等が使用されることが多く、本実施形態における空調ダクトもそのようなものとなっている。このように軽量化された空調ダクトは、建築物内のスチール製の空調ダクトに比べて強度的に弱く、従来のエアランスを使用すると衝撃が強くなり過ぎ、ダクトの変形や破損等の問題が生じる恐れがある。
この点を考慮し、本実施形態では、切り込み20によって複数の先端片21に分かれた先端ホース2を使用している。この先端ホース2は、圧縮空気の放出により踊って空調ダクト3の内面を叩く際、よりソフトに叩く状態になる。このため、強度的に弱い乗り物内空調ダクトについて変形や破損等を生じることなく、好適に汚れの除去を行うことができる。尚、先端片21が複数ある点は、より広範な領域について効率良く汚れの叩き落としを行うのに貢献している。
【0033】
また、先端ホース2において、各切り込み20が先端ホース2の全長の途中の位置から先端縁まで形成されている点は、叩き落とし強度の調節や先端ホース2の耐久性等の点で好適な構成となっている。切り込み20を全長に亘って形成する構成は、先端ホースを長さ方向に切り裂いて複数の先端片とし、これをランス本体の先端に固定する構成に相当する。このような構成でも、従来に比べると、よりソフトに叩く状態にはできるものの、叩き落とし強度の調節は容易ではない。叩き落とし強度を調節する場合、長さの違う別の先端片に付け替え、圧縮空気の供給圧力を調節することで行うが、先端片の付け替えは面倒である。実施形態のエアランスの場合、最初は切り込み20の長さを短くし、圧縮空気の供給圧力は小さくしておき、叩き落とし強度を強くしたい場合には、さらに切り込み20を入れて圧縮空気の供給圧力を大きくしていけば良い。切り込み20は現場でカッターを使用すれば深くできるので、極めて容易である。また、バラバラになった先端片をランス本体に固定する構造では、先端片の幅が狭いため、根元の部分で切れ易く、耐久性の点で問題が生じ得る。切り込み20を途中の長さでとどめておくと、ランス本体1への取付は先端ホース2の根元の部分を嵌め込むことで行えるので、耐久性の点で問題が生じない。
尚、先端ホースに設ける切り込みについては、最低二つは必要である(最低でも二つの先端片が形成されることが必要である)が、四つ、五つ、それ以上の切り込みを形成し、四つ、五つ、又はそれ以上の先端片を形成しても良い。また、先端片の長さは皆同じである必要はなく、異なる長さであっても良い。
【0034】
上記実施形態では、空調ダクトクリーニングが実施される乗り物は鉄道車両であったが、バス(例えば観光バスや路線バス)や飛行機等の他の乗り物についても本願発明を実施することができる。
尚、上記実施形態において、空調ダクト3は天井パネル4の裏側(上側)に設けられていたが、車両によっては客室の床の下側に設けられている場合もある。この場合も、カバーや蓋のような物を外すだけで特にクリーニング用の孔を開けることなく汚れの叩き落としが行える場合があり、このような空調ダクトについても本願発明は実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
上述したように、本願発明は、鉄道車両等の乗り物内の空調ダクトについて別途孔を開けることなく内部の汚れが十分に除去されるので、乗り物の安全性を損なうことなく快適な客室環境を維持することができ、その産業上の利用可能性は著しい。
【符号の説明】
【0036】
1 ランス本体
1a ランス本体
1b ランス本体
2 先端ホース
2a 先端ホース
2b 先端ホース
20 切り込み
21 先端片
3 空調ダクト
30 ダクト開口
31 中心側側板部
32 外側側板部
33 上板部
34 下板部
35 内部仕切り部
350 上部開口
4 天井パネル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物内に設置された空調ダクトの内面の汚れを除去する乗り物内空調ダクトのクリーニング方法であって、
空調ダクトの内面に付着した汚れをエアランスを使用して叩き落とす叩き落とし工程と、
叩き落とし工程の後、空調ダクトに集塵機を接続し、叩き落とされた汚れを集塵機によって集めることで除去する集塵工程とより成る方法であり、
前記エアランスは、ランス本体と、ランス本体に接続した先端ホースより成るものであって、ランス本体は、屈曲した管状であって前記叩き落とし工程において屈曲形状を維持するものであり、先端ホースは、ランス本体を通して供給された圧縮空気を放出する際の反動で空調ダクトの内面を叩くものであり、
前記叩き落とし工程は、クリーニングのために孔を開けることなく空調ダクトに元々形成されている開口を通して先端ホースを空調ダクト内に位置させて汚れの叩き落としを行う工程であり、
前記叩き落とし工程は、
空調ダクトの第一の部位の内面を叩く位置に先端ホースを位置させるのに適した第一の寸法形状を持つ第一のランス本体に先端ホースを装着して当該先端ホースを空調ダクト内に位置させ、この状態で圧縮空気を供給することで先端ホースに第一の部位の内面を叩かせて当該内面に付着した汚れを落とす第一のステップと、
空調ダクトの第一の部位とは異なる第二の部位の内面を叩く位置に先端ホースを位置させるのに適した第二の寸法形状を持つ第二のランス本体に先端ホースを装着して当該先端ホースを空調ダクト内に位置させ、この状態で圧縮空気を供給することで先端ホースに第二の部位の内面を叩かせて当該内面に付着した汚れを落とす第二のステップと
を有することを特徴とする乗り物内空調ダクトのクリーニング方法。
【請求項2】
前記第一のステップは、前記第一の部位の内面を叩くのに適した長さを持つ第一の先端ホースを前記第一のランス本体に装着して汚れの叩き落としを行うステップであり、前記第二のステップは、前記第二の部位の内面を叩くのに適した異なる長さの第二の先端ホースを前記第二のランス本体に装着して汚れを叩き落としを行うステップであることを特徴とする請求項1記載の乗り物内空調ダクトのクリーニング方法。
【請求項3】
前記乗り物は、鉄道車両又は飛行機であることを特徴とする請求項1又は2記載の乗り物内空調ダクトクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−242059(P2012−242059A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115416(P2011−115416)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(591017571)日本ウイントン株式会社 (2)
【出願人】(596009939)株式会社アヴァンティ (6)
【Fターム(参考)】