説明

乗り物塗装面の保護方法

【課題】自動車等の乗り物塗装面にガラス系コーティング剤を塗布して被膜を形成すると、塗装面の美麗な光沢を維持することができるが、ガラス系コーティング剤被膜表面には強固な水シミが形成されやすく、ガラス系コーティング剤被膜表面に一旦水シミが形成されると除去することは容易ではない。本発明は水シミが形成されても除去が容易であるとともに、ガラス系コーティング剤被膜の光沢を更に向上でき、美麗な外観が長期間保持することのできる乗り物塗装面の保護方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の乗り物塗装面の保護方法は、塗装表面に、ガラス系コーティング剤の被膜を形成した後、更にこのガラス系コーティング剤の被膜の表面に、ポリマー系コーティング剤による被膜を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の乗り物塗装面の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の乗り物の塗装表面の初期の撥水性や光沢を保つために、定期的な洗浄や保守が重要であり、自動車表面の美観を維持するために自動車保持者は、塗装面へのワックス掛けを定期的に行うことが必要となる。しかしながらワックス被膜は洗車や雨水によって被膜中のワックス成分が溶出し、撥水性、光沢付与効果は比較的短期間で低下してしまうため、頻繁にワックス掛けを行わないと塗装面が侵されて光沢が失われる虞がある。このような問題を解決するため、ワックス被膜よりも強固なガラス系コーティング剤による被膜を形成することが提案されており、このようなガラス系コーティング剤による被膜を形成する方法として、シラン化合物と触媒を含むコーティング剤を自動車塗装面に塗布して被膜を形成する方法が知られている(特許文献1、2)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−106972号公報
【特許文献2】特開2006−77071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1、2に記載されているようなガラス系コーティング剤による被膜は、ワックス系やポリマー系コーティング剤による被膜に比べ、撥水性、光沢が優れ、優れた撥水性、光沢を長期間保持できるという利点を有する反面、雨水に晒されたり洗浄した後に、ウォータースポットと呼ばれる水シミが付着残存し易く、放置すると強固に固着して除去が困難となるという問題がある。水シミは、雨水や水道水中に含まれるカルシウム塩、マグネシウム塩、シリカ、ケイ酸塩等が濃縮されてガラス系コーティング剤の被膜表面に付着堆積することにより形成され、この水シミが、大陽光線や熱によりガラス系コーティング剤中のシロキサン結合と局部的に反応すると、強固な固着物が形成されるものと考えられている。ガラス系コーティング剤の被膜表面に付着した水シミの固着物を除去するのは容易ではないとともに、水シミを除去する際にガラス系コーティング剤被膜も一緒に剥がされる虞があり、ガラス系コーティング剤による被膜を再度形成するには手間とコストがかかるという問題がある。本発明者は、このような問題を解決するために鋭意研究した結果、ガラス系コーティング剤の被膜の表面に、更にポリマー系コーティング剤の保護被膜を形成することにより、ガラス系コーティング剤の被膜表面への水シミ付着を防止できるばかりか、ポリマー系コーティング剤被膜表面に水シミが付着しても容易に除去することができ、しかもガラス系コーティング剤被膜の光沢を更に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)塗装表面に、ガラス系コーティング剤の被膜を形成した後、更にこのガラス系コーティング剤の被膜の表面に、ポリマー系コーティング剤による被膜を形成することを特徴とする乗り物塗装面の保護方法、
(2)ポリマー系コーティング剤が架橋型コーティング剤である上記(1)の乗り物塗装面の保護方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明方法は、自動車等の乗り物塗装表面にガラス系コーティング剤の被膜を形成し、更にこの被膜の表面にポリマー系コーティング剤の被膜を形成するようにしたことにより、コーティング層の表面に水シミが付着しても除去が容易であるとともに、ガラス系コーティング剤被膜の有する光沢を更に向上でき、美麗な外観が長期間保持される等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においてガラス系コーティング剤としては、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルコキシシラン等のアルコキシシラン類、クロロシラン類、ビニルトリクロロシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、p−スチルリトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、シラザン等のシラン化合物を含有するコーティング剤で、ガラス系コーティング剤を塗布すると、シラン化合物が架橋反応してシロキサン結合が形成されて架橋被膜が形成される。市販のガラス系コーティング剤としては、ソフト99社製のGゾックス、オアシス社製のクォーツ、イヤサカ社製のバリアリスタ、ダイヤモンドメイク社製のエレメン、アイ・タック技研社製のダイヤモンドキーパー等が挙げられる。塗装表面に付着している油分はガラス系コーティング剤の被膜を塗装表面に定着させる上での邪魔になるため、ガラス系コーティング剤を塗布するに際し油分を除去することが必要である。また経年車等の汚れの激しい車体にガラス系コーティング剤を塗布する前に、必要により研磨等を行うこともある。ガラス系コーティング剤は、塗装面にスプレーしたり、スポンジ等を用いて塗装面に塗り広げるようにして塗布するが、塗布したコーティング剤が乾く前にマイクロファイバークロス等を用いて余分なコーティング剤を拭き取ることが好ましい。塗布したガラス系コーティング剤中のシラン化合物が架橋して安定な架橋被膜が形成されるまでの時間は、ガラス系コーティング剤の種類によっても異なるが、通常、1時間〜24時間程度である。上記市販のガラス系コーティング剤のなかでも、塗装表面に多少の油分が残っていてもガラス系コーティング剤の安定被膜が形成することができ、経年車に対しても簡易な研磨作業を行う程度で艶が非常に良い被膜が形成され、しかも短時間で安定した被膜を形成することができるダイヤモンドキーパーが好適であり、ダイヤモンドキーパーは塗布後1時間程度でほぼ安定な被膜が形成されるため、塗布1時間後にポリマー系コーティング剤を塗布しても殆ど問題がない。
【0008】
ガラス系コーティング剤の被膜の表面に更に被膜を形成するために用いるポリマー系コーティング剤としては、必須成分としてのシリコーンオイル類を、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂類、カルナバワックス、パラフィン等のロウ類、シリカ、アルミナ等の無機粉体類等の、その他の不揮発分と共に有機溶剤で希釈したもの、水に乳化、分散したもの、水と有機溶剤の混合物に乳化、分散したもの等が挙げられる。シリコーンオイル類としては、ジメチルポリシロキサン等のシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル等が挙げられる。ポリマー系コーティング剤としては、シリコーンオイル類としてアミノ変性シリコーンオイルを含む架橋型のポリマー系コーティング剤が好ましく、特にジメチルポリシロキサンとアミノ変性シリコーンとを含むものが好ましい。ジメチルポリシロキサンとしては50cst〜10,000cstの粘度のものが好適に用いられるが、100cst〜5,000cstの粘度のものが望ましい。アミノ変性シリコーンとしては、末端または側鎖にモノアミンまたはジアミンを有するアミノ当量1,000〜3,000のものが好適に用いられるが、両末端がメチル基で側鎖にモノアミンを有するアミノ当量1,500〜2,000のものが望ましい。上記ジメチルポリシロキサンとアミノ変性シリコーンの割合は、ジメチルポリシロキサン50〜1重量%、アミノ変性シリコーン50〜99重量%が好ましく、ジメチルポリシロキサン40〜5重量%、アミノ変性シリコーン60〜95重%がより好ましい。架橋型ポリマーコーティング剤は、アミノ変性シリコーンのアミノ基同士が日光、温度、湿度、時間経過等により架橋反応を起こし、三次元化が進むと共により高分子量化が起こる。この架橋によりポリマー系コーティング剤のガラス系コーティング剤に対する密着強度が増しガラス系コーティング剤の被膜保護として非常に好ましい。ポリマー系コーティング剤は、必須成分であるシリコーンオイル類とともに、他の揮発分として樹脂類及び/又はロウ類を含有し、シリコーンオイル類と、樹脂類及び/又はロウ類との割合が重量比で、シリコーンオイル類:樹脂類及び/又はロウ類=50:50〜99:1の比率で含有するものが好ましく、特に70:30〜90:10で含有するものが好ましい。
【0009】
上記したシリコーンオイル類とアミノ変性シリコーンオイルとをシリコーンオイル類として含むポリマー系コーティング剤としては、例えばアイ・タック技研株式会社製のファイナル1、ホワイトロン、ベースアップ2等や、ペイントシーラント、ポリマーコート、ペイントプレイティング等が挙げられる。ポリマー系コーティング剤は、ガラス系コーティング剤の被膜の上にスプレーしたり、スポンジ等で塗布して形成することができる。
【0010】
本発明方法により乗り物塗装面に形成した保護膜は、最表面側に位置するポリマー系コーティング剤の被膜上に、水シミが付着したとしても、カーシャンプー等で洗浄することで容易に除去することができる。洗浄を繰り返し行ってポリマーコーティング剤の被膜の膜厚が薄くなった場合等には、再度ポリマー系コーティング剤を塗布してポリマー系コーティング剤被膜を形成すれば、保護膜を形成した初期の保護性能を長期間維持することができる。
【実施例】
【0011】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜4、比較例1〜2
20°光沢度計により測定した光沢度が49の黒塗装板(30cm×40cm)の塗装表面の半分にダイヤモンドキーパー(アイ・タック技研社製ガラス系コーティング剤)塗布し、残り半分にGゾックス(ソフト99社製ガラス系コーティング剤)を塗布し、3時間静置してガラス系コーティング剤の被膜を形成させた。ダイヤモンドキーパー処理面、Gゾックス処理面のそれぞれを、1/3の面積に区画して境界部にマスキングテープを貼着し、マスキングテープで分割された合計6箇所の区画部を形成した。ダイヤモンドキーパー塗布側の第1の区画部表面にはポリマー系コーティング剤としてファイナル1(アイ・タック技研社製)を塗布し(実施例1)、第2の区画部表面にはポリマー系コーティング剤としてペイントシーラント(米国Automotive International社製)を塗布し(実施例2)、処理後1時間静置して被膜を形成させた。第3の区画部表面にはポリマー系コーティング剤を塗布せずにダイヤモンドキーパー被膜のままとした(比較例1)。一方、Gゾックスを塗布した側の第1の区画部表面にはファイナル1を塗布し(実施例3)、第2区画部表面にはペイントシーラントを塗布し(実施例4)、第3の区画部はGゾックス暇膜のままとした(比較例2)。各区画部分について表面の光沢を20°光沢度計で測定した。各区画部分の光沢は、同一箇所にて5回の測定を行い平均値で示した。結果を表1に示す。実施例1、2は比較例1の光沢度と比較した光沢度のアップ率を、実施例3、4は比較例2の光沢度と比較した光沢度のアップ率を、目視により光沢度がアップしたか否かの評価とともに表1に示した。表1の結果に示すように、ガラス系コーティング剤塗布前の光沢(ブランク)に対し、ガラス系コーティング剤の被膜を形成した面(比較例1、2)では光沢が向上していたが、ガラス系コーティング剤被膜面に更にポリマー系コーティング剤被膜を形成した各実施例では、ガラス系コーティング剤被膜の場合よりも更に光沢が向上していた。
【0012】
(表1)

【0013】
次いで上記処理を施した黒塗装板表面に水道水を均一にスプレーした後、1ヶ月間屋外に放置した。その後、黒塗装板の処理表面をカーシャンプーで洗浄し、湿ったタオルで軽く拭いて表面を乾燥させた。乾燥後、各区画部表面の任意の7cm×7cmの範囲を観察し、水シミの数を測定した。結果を表2に示す。
【0014】
(表2)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装表面に、ガラス系コーティング剤の被膜を形成した後、更にこのガラス系コーティング剤の被膜の表面に、ポリマー系コーティング剤による被膜を形成することを特徴とする乗り物塗装面の保護方法。
【請求項2】
ポリマー系コーティング剤が架橋型コーティング剤である請求項1記載の乗り物塗装面の保護方法。

【公開番号】特開2009−112952(P2009−112952A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289383(P2007−289383)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(307029951)アイ・タック技研株式会社 (1)
【Fターム(参考)】