説明

乗り物用シートの表皮

【課題】黒く着色されているにもかかわらず、日光が当たっても温度が上昇し難い乗り物用シートの表皮を提供する。
【解決手段】赤外線反射層からなる下層4と、外表面を構成する赤外線透過層からなる上層5とを備える。下層4を赤外線を相対的に多く反射する材料によって形成し、前記上層5を合成樹脂よりなる上層主体と、その上層主体に混入された赤外線透過黒色顔料とによって形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外で使用する乗り物用シートの表皮に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば自動二輪車のシートは、クッション材の表面を表皮で覆った構造が採られている。前記表皮は、汚れが目立つのを防いだり、意匠上の観点から一般的に黒色に着色されている。
従来、この種の表皮を黒に着色するに当たっては、表皮の外表面を構成する合成樹脂よりなる主体にカーボンブラックからなる黒色の顔料を混入することによって行っている。
【0003】
しかし、このカーボンブラックは、赤外線を吸収し易いものである。このようなカーボンブラックを使用した従来の表皮で覆われたシートは、僅かな時間でも日光が当たると、表皮が赤外線を吸収することによって温度が上昇する。特に、このシートが真夏の気温が高いときに直射日光に長時間にわたって晒されたような場合、このシートの温度は、乗員が触ったときに不快感を与えるような高い温度まで上昇する。
【0004】
このため、従来では、日光が当たっているにもかかわらず温度が上昇し難い乗り物用シートの表皮を製造することが要請されている。
このような要請に応えるために考えられた乗り物用シートの表皮としては、たとえば特許文献1に記載されているものがある。
【0005】
この特許文献1に開示されているシートの表皮は、ポリ塩化ビニルからなる表皮主体と、この表皮主体中に混入した黒色の赤外線反射顔料などによって構成されている。この表皮は、強度を向上させるために基布の表面に接着剤によって接着されている。また、この特許文献1中には、表皮を、上述した赤外線反射顔料を有する上層と、前記カーボンブラックを有する下層とに分けて形成する実施例も記載されている。
【特許文献1】特開2001−114149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したように表皮に赤外線反射顔料を混入させたとしても、日光が当たることにより、乗員が触ったときに熱いと感じるような高い温度に表皮が短時間で昇温してしまうおそれがあった。これは、赤外線反射顔料では日光中の赤外線を全て反射することはできないからである。
【0007】
すなわち、赤外線反射顔料によって反射されることなく表皮を透過した赤外線が表皮の裏側(接着剤層やカーボンブラックを有する下層など)に吸収され、表皮の裏側の温度が上昇してしまうからである。この表皮裏側の熱が表皮の外表面に伝達される結果、上述したように短時間で表皮の温度が上昇してしまう。
【0008】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、黒く着色されているにもかかわらず、日光が当たっても温度が上昇し難い乗り物用シートの表皮を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明に係る乗り物用シートの表皮は、赤外線反射層からなる下層と、外表面を構成する赤外線透過層からなる上層とを備え、前記下層を赤外線を相対的に多く反射する材料によって形成し、前記上層を合成樹脂よりなる上層主体と、その上層主体に混入された赤外線透過黒色顔料とによって形成したものである。
【0010】
本発明は、前記発明において、前記下層を、合成樹脂よりなる下層主体と、その下層主体に混入された酸化チタンとによって形成したものである。
【0011】
本発明は、前記発明において、前記下層をアルミニウムからなるフィルムによって形成したものである。
【0012】
本発明は、前記発明において、前記下層を、合成樹脂よりなる下層主体と、その下層主体に混入された多数のアルミニウム片とによって形成したものである。
【0013】
本発明は、前記発明において、前記赤外線透過黒色顔料をルモゲンブラック(登録商標)としたものである。
【0014】
本発明は、前記発明において、前記赤外線透過黒色顔料をパリオゲンブラック(登録商標)としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表皮内に外表面から入射した赤外線は、赤外線透過層である上層を透過して赤外線反射層である下層に当たり、この下層で反射して上層から表皮の外に向けて放射させられる。このため、赤外線が表皮内に吸収され難くなり、赤外線吸収による温度上昇も少なくなる。
【0016】
したがって、本発明によれば、黒く着色されているにもかかわらず、日光が当たっても温度が上昇し難く、乗員が触ったときに熱さを感じるようになるまでの時間が従来より長くなる乗り物用シートの表皮を提供することができる。
【0017】
合成樹脂よりなる下層主体と、その下層主体に混入された酸化チタンとによって下層が形成された発明によれば、下層によってほぼ全ての赤外線を反射することができるから、日光が当たっても温度がより一層上昇し難い乗り物用シートの表皮を提供することができる。
【0018】
アルミニウムからなるフィルムによって下層が形成された発明によれば、下層によってほぼ全ての赤外線を反射することができるから、日光が当たっても温度がより一層上昇し難い乗り物用シートの表皮を提供することができる。
【0019】
合成樹脂よりなる下層主体と、その下層主体に混入された多数のアルミニウム片とによって下層が形成された発明によれば、下層によってほぼ全ての赤外線を反射することができるから、日光が当たっても温度がより一層上昇し難い乗り物用シートの表皮を提供することができる。
【0020】
赤外線透過黒色顔料をルモゲンブラック(登録商標)とした発明と、赤外線透過黒色顔料をパリオゲンブラック(登録商標)とした発明とによれば、下層の色の影響を受けることがない高品位な黒の表皮を形成することができ、しかも、上層において赤外線を確実に透過させることができる。
このため、外観部品として品質が高くかつ日光が当たることによる温度上昇が低く抑えられた乗り物用シートの表皮を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1の実施例)
以下、本発明に係る乗り物用シートの表皮の一実施例を図1および図2によって詳細に説明する。
図1は本発明に係る乗り物用シートの表皮の一部を拡大して示す断面図、図2は赤外線透過黒色顔料の特性を示すグラフである。
【0022】
これらの図において、符号1で示すものは、この実施例による乗り物用シートの表皮を示す。この実施例による表皮1は、図示してはいないが、自動二輪車用シートのクッション材に接着剤によって接着されるものである。
【0023】
表皮1は、クッション材に接着剤によって接着される基布2と、この基布2の表側に接着剤3によって接着された赤外線反射層からなる下層4と、この下層4の表側に設けられて表皮1の外表面を構成する赤外線透過層からなる上層5とから形成されている。
前記基布2は、ウーリーポリエステルやウーリーナイロンなどの繊維を織ることによって形成されたメリヤスからなり、前記クッション材の全域を覆う状態でクッション材に接着される。
【0024】
前記下層4は、この実施例では合成樹脂としてのポリ塩化ビニルよりなる下層主体と、その下層主体に所定量混入された酸化チタン (TiO2 )とによって形成されている。酸化チタンは白色であるから、この下層4は白色を呈するようになる。
この下層4は、基布2の表面側に接着剤3によって接着されている。なお、この下層4を基布2に接着する方法は、接着剤3を用いる方法に限定されることはなく、適宜変更することができる。
【0025】
前記上層5は、合成樹脂としてのポリ塩化ビニルよりなる上層主体と、その上層主体に所定量混入された赤外線透過黒色有機顔料とによって形成されている。この赤外線透過黒色有機顔料は、BASF社製のLumogen Black(登録商標)またはPaliogen Black(登録商標)で、その種類としては、Lumogen Blackの場合はFK4280またはFK4281が用いられ、Paliogen Blackの場合はL 0086が用いられている。
【0026】
Lumogen Black FK4280からなる赤外線透過黒色有機顔料は、図2中に実線で示すように、波長が約700nmより長い赤外線が10%以上の透過率で透過し、波長が約900nmより長い赤外線が約90%透過する。
Lumogen Black FK4281からなる赤外線透過黒色有機顔料は、図2中に破線で示すように、波長が約850nmより長い赤外線が10%以上の透過率で透過し、波長が約1100nmより長い赤外線が約90%透過する。
Paliogen Black L 0086からなる赤外線透過黒色有機顔料は、図2中に一点鎖線で示すように、波長が約700nmより長い赤外線が10%以上の透過率で透過し、波長が約850nmより長い赤外線が約90%透過する。
すなわち、これらの赤外線透過黒色有機顔料は、近赤外線(波長770nm〜1000nm)を含めて赤外線を透過させることができるものである。
【0027】
この実施例による上層5は、前記下層4の上に重ねて離れることがないように合わせられている。
この実施例による上層5の外表面には、いわゆるシボ6を構成するように、多数の凹部7と凸部8とが形成されている。
【0028】
赤外線透過層を構成する上層5と、赤外線反射層を構成する下層4とを互い離れることがないように重ね合わせるためには、溶着または接着によって行う。これら上層と下層どうしを溶着するためには、たとえば、これらの層どうしを重ねて加熱することによって行う。これら両層どうしを接着するためには、赤外線反射層を形成する上層5の下面と、赤外線反射層を形成する下層4の上面との少なくとも一方の面に接着剤を塗布し、両層を重ね合わせることによって行う。
【0029】
なお、赤外線透過層を構成する上層5と、前記赤外線反射層を構成する下層4とを互いに離れることがないように重ね合わせる方法は、上記方法に限定されることはなく、適宜変更することができる。前記両層どうしを重ね合わせた状態では、赤外線透過層を構成する黒色の上層5によって下側の下層4が覆われるために、白色を呈する下層4は表皮1の外側から見ることはできなくなる。
【0030】
このように構成された表皮1を日光の下に置くと、図1に示すように、赤外線IRが表皮1の外表面から内部に入射する。この表皮1内に入射した赤外線は、上層5を透過して下層4に当たり、この下層4で反射して上層5から表皮1の外に向けて放射させられる。
【0031】
このため、この表皮1を備えた乗り物用シートにおいては、赤外線が表皮1内に吸収され難く、赤外線吸収による温度上昇が少なく抑えられる。
したがって、この実施例によれば、黒く着色されているにもかかわらず、日光が当たっても温度が上昇し難く、乗員が触ったときに熱さを感じるようになるまでの時間が従来より長くなる乗り物用シートの表皮を製造することができる。
【0032】
特に、この実施例においては、ポリ塩化ビニルよりなる下層主体と、その下層主体に混入された酸化チタンとによって赤外線反射層である下層4が形成されているから、日光が当たった場合にほぼ全ての赤外線を反射することができる。
【0033】
(第2の実施例)
下層4は、図3および図4に示すように形成することができる。
図3および図4は他の実施例を示す断面図である。これらの図において、前記図1および図2によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0034】
図3に示す下層4は、アルミ二ウムからなるフィルムによって形成されている。このアルミニウムフィルムは、アルミニウムの母材を薄く延ばすことによって形成されている。
図4に示す下層4は、ポリ塩化ビニルよりなる下層主体と、その下層主体に混入された多数のアルミニウム片とによってフィルム状に形成されている。このアルミニウム片は、アルミニウムのフレークと微小な粒子とのうち少なくとも一方が用いられている。
【0035】
このように下層4を形成しても下層4によってほぼ全ての赤外線を反射することができるから、日光が当たったときに温度がより一層上昇し難い乗り物用シートの表皮を製造することができる。
【0036】
上述した第1、第2の実施例においては、下層4や上層5の主体を形成する合成樹脂材料としてポリ塩化ビニルを用いているが、この合成樹脂材料は適宜変更することができる。たとえば、この合成樹脂材料として発泡ポリ塩化ビニルを使用することができる。
【0037】
上述した第1、第2の実施例においては、上層5に混入される赤外線透過黒色顔料としてBASF社製のLumogen Black(登録商標)またはPaliogen Black(登録商標)を示したが、赤外線透過黒色顔料としては、色が黒でかつ赤外線が透過するものであれば、どのようなものでも使用することができる。
また、本発明に係る乗り物用シートの表皮は、自動二輪車用のものに限定されることはなく、他の車両や小型船舶などのシートの表皮にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る乗り物用シートの表皮の一部を拡大して示す断面図である。
【図2】赤外線透過黒色顔料の特性を示すグラフである。
【図3】他の実施例を示す断面図である。
【図4】他の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1…表皮、2…基布、4…赤外線反射層、5…赤外線透過層、6…シボ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線反射層からなる下層と、外表面を構成する赤外線透過層からなる上層とを備え、
前記下層は、赤外線を相対的に多く反射する材料によって形成され、
前記上層は、合成樹脂よりなる上層主体と、その上層主体に混入された赤外線透過黒色顔料とによって形成されていることを特徴とする乗り物用シートの表皮。
【請求項2】
請求項1記載の乗り物用シートの表皮において、
前記下層は、合成樹脂よりなる下層主体と、その下層主体に混入された酸化チタンとによって形成されていることを特徴とする乗り物用シートの表皮。
【請求項3】
請求項1記載の乗り物用シートの表皮において、
前記下層は、アルミニウムからなるフィルムによって形成されていることを特徴とする乗り物用シートの表皮。
【請求項4】
請求項1記載の乗り物用シートの表皮において、
前記下層は、合成樹脂よりなる下層主体と、その下層主体に混入された多数のアルミニウム片とによって形成されていることを特徴とする乗り物用シートの表皮。
【請求項5】
請求項1記載の乗り物用シートの表皮において、
前記赤外線透過黒色顔料は、ルモゲンブラック(登録商標)であることを特徴とする請求項1記載の乗り物用シートの表皮。
【請求項6】
請求項1記載の乗り物用シートの表皮において、
前記赤外線透過黒色顔料は、パリオゲンブラック(登録商標)であることを特徴とする請求項1記載の乗り物用シートの表皮。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−39153(P2009−39153A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204047(P2007−204047)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】