説明

乗員保護装置

【課題】安価な構成でヘッドレストを適切な位置に調整する乗員保護装置を提供する。
【解決手段】シートバック15のリクライニング角度が所定範囲にあるとき、シートバック15内に配した単一のリクライナ用モータ12の駆動力によりヘッドレスト18を所定量、車両の前後方向にほぼ直線状に移動させる。このようにすることで、安価な構成でシートバック15のリクライニング機能の実現とヘッドレスト18の位置調整が可能となり、着座している乗員1の後頭部とヘッドレスト18の前面部との水平方向の距離であるバックセットの設定を適正化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乗員保護装置に関し、特にヘッドレストの位置を適正化して車両の乗員を保護する乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時等において乗員を保護する装置として、シートベルトやエアバッグ等に加えて、車両周囲の危険状態を予測したり、あるいは車両の衝突形態を判断して、危険状態の予測結果又は衝突形態の判断結果をもとにシートバックのリクライニング角度やヘッドレストの位置を調整する乗員保護装置が提案されている(例えば、特許文献1)。また、着座した乗員の頭部とヘッドレスト間の静電容量の測定結果に基づいてヘッドレストと頭部との間の距離を算出し、ヘッドレストを適正な位置に調整するヘッドレスト位置調整装置も提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−208542号公報
【特許文献2】特開2010−188974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の技術では、車両の衝突等の緊急時に乗員を適正な姿勢にするため、シートバックの傾斜角度をあらかじめ定めた目標傾斜角度に調整するものである。また、特許文献2は、算出したヘッドレストと頭部間の距離や所定の目標値をもとにヘッドレストの移動距離を求めて、ヘッドレストの位置を変化させている。したがって、これら従来の装置においてリクライニング角度とヘッドレストの位置の双方を調整しようとする場合、リクライニング角度調整用のアクチュエータと、ヘッドレスト位置調整用のアクチュエータとを個別に備える必要がある。その結果、乗員保護装置が高価となるだけでなく、乗員保護装置そのものが大型化(装置の質量が増加)する、という問題があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するために成されたものであり、安価な構成でヘッドレストの位置を適切な状態に調整できる乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の乗員保護装置は、乗員が着座するシートの背もたれを構成するシートバックのリクライニング角度を伝達された駆動力に応じて変更する第1の機構部と、前記シートバックの上端部に設けられたヘッドレスト本体を伝達された駆動力に応じて所定の方向に移動する第2の機構部と、前記第1の機構部にリクライニング角度の変更のための前記駆動力を付与するとともに、前記第2の機構部にヘッドレスト本体を所定方向に移動するための前記駆動力を付与する単一のアクチュエータと、所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が大きくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が大きくなるように、かつ、所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が小さくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が小さくなるように、乗員の頭部と前記ヘッドレスト本体との水平方向の距離であるバックセットが目標値となるまで前記第1の機構部により前記シートバックのリクライニング角度を変更させるとともに前記第2の機構部により前記ヘッドレスト本体を所定方向に移動させるように前記単一のアクチュエータの駆動力が前記第1の機構部及び前記第2の機構部に付与されるよう制御する制御部と、を備えて構成されている。本発明の乗員保護装置によれば、安価な構成で、シートバックのリクライニング機能の実現とヘッドレストの位置調整とができる。
【0007】
前記制御部は、前記リクライニング角度が所定範囲にあるときに、前記第2の機構部により、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向にほぼ直線状に移動させるよう構成されている。また、前記制御部は、前記リクライニング角度が所定範囲にあるときに、前記第2の機構部により、前記ヘッドレスト本体を、車両幅方向の軸を中心に前後方向に回転移動させるよう構成されている。こうすることで、リクライニング角度の変化に応じてヘッドレストの位置を適正に調整できる。
【0008】
また、本発明の乗員保護装置は、乗員が着座するシートの背もたれを構成するシートバックのリクライニング角度を伝達された駆動力に応じて変更するリクライニング角度変更手段と、前記シートバックの上端部に設けられたヘッドレスト本体を伝達された駆動力に応じて所定方向に移動するヘッドレスト移動手段と、前記リクライニング角度変更手段にリクライニング角度の変更のための駆動力を付与するとともに、前記ヘッドレスト移動手段にヘッドレスト本体を所定方向に移動するための駆動力を付与する単一のアクチュエータと、前記シートバックのリクライニング角度を検出するリクライニング角度検出手段と、前記ヘッドレスト本体の前記所定方向への移動量を検出するヘッドレスト移動量検出手段と、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度と、あらかじめ定めた、乗員の頭部と前記ヘッドレスト本体との水平方向の距離であるバックセットの設定量とをもとに、前記ヘッドレスト本体の移動量を演算するヘッドレスト移動量演算手段と、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が制御開始時に所定範囲にない場合、該所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が大きくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が大きくなるように、かつ、所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が小さくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が小さくなるように、前記バックセットが目標値となるまで前記リクライニング角度変更手段により前記シートバックのリクライニング角度を変更させるとともに前記ヘッドレスト移動手段により前記ヘッドレスト本体が所定方向に移動されるよう前記単一のアクチュエータを制御し、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が制御開始時に所定範囲にある場合、前記ヘッドレスト移動量演算手段で演算されたヘッドレスト本体の移動量と前記ヘッドレスト移動量検出手段により検出されたヘッドレスト本体の移動量とに基づいて、前記バックセットが目標値となるまで前記ヘッドレスト移動手段によりヘッドレスト本体が所定方向へ移動されるよう前記単一のアクチュエータを制御する制御手段と、を備える。
【0009】
このような構成とすることで、安価な構成で、シートバックのリクライニング機能の実現とヘッドレストの位置調整ができるので、着座している乗員の後頭部とヘッドレストの前面部との水平方向の距離であるバックセットの適正化が可能となる。また、シートバックのリクライニング角度とヘッドレストの移動を個別のモータで行う構成と比べ、装置構成が簡単になるだけでなく、ヘッドレストにモータを配さないことで、ヘッドレストそのものを安価、軽量、かつコンパクト化できる。
【0010】
また、前記単一のアクチュエータを前記リクライニング角度変更手段の近傍に配置し、前記単一のアクチュエータの駆動力が歯車機構を介して前記リクライニング角度変更手段に伝達されるとともに、前記単一のアクチュエータの駆動力がトルクケーブルを介して前記ヘッドレスト移動手段へ伝達される構成をとる。また、前記単一のアクチュエータを前記リクライニング角度変更手段の近傍に配置し、前記単一のアクチュエータに接続された第1のトルクケーブルの端部と、前記ヘッドレスト移動手段に接続された第2のトルクケーブルの端部とを回転可能に結合するカップリング手段を前記シートバックの上部に設けた構成をとる。さらに、前記単一のアクチュエータを前記シートバックの上部に配置するとともに、前記ヘッドレスト本体にアクティブヘッドレスト機能部を設け、前記単一のアクチュエータにより前記ヘッドレスト本体を上下方向又は斜め上方へ移動可能とした。これにより、単一のアクチュエータの駆動力の伝達が確実に行える。
【0011】
また、本発明の乗員保護装置は、乗員が着座するシートの背もたれを構成するシートバックのリクライニング角度を伝達された駆動力に応じて変更するリクライニング角度変更手段と、前記シートバックの上端部に設けられたヘッドレスト本体を伝達された駆動力に応じて所定方向に移動するヘッドレスト移動手段と、前記リクライニング角度変更手段及び前記ヘッドレスト移動手段に駆動力を付与する単一のアクチュエータと、前記単一のアクチュエータから前記リクライニング角度変更手段及び前記ヘッドレスト移動手段への駆動力の伝達方向を切り換える切換手段と、前記シートバックのリクライニング角度を検出するリクライニング角度検出手段と、前記ヘッドレスト本体の車両前後方向への移動量を検出するヘッドレスト移動量検出手段と、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度と、あらかじめ定めた、乗員の頭部と前記ヘッドレスト本体との水平方向の距離であるバックセットの設定量とをもとに、前記ヘッドレスト本体の移動量を演算するヘッドレスト移動量演算手段と、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が制御開始時に所定範囲にない場合、該所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が大きくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が大きくなるように、かつ、所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が小さくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が小さくなるように、前記バックセットが目標値となるまで前記リクライニング角度変更手段により前記シートバックのリクライニング角度を変更させるとともに前記ヘッドレスト移動手段により前記ヘッドレスト本体が所定方向に移動されるよう前記切換手段により前記単一のアクチュエータの駆動伝達方向を切り換えて該単一のアクチュエータを制御し、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が制御開始時に所定範囲にある場合、前記ヘッドレスト移動量演算手段で演算されたヘッドレスト本体の移動量と前記ヘッドレスト移動量検出手段により検出されたヘッドレスト本体の移動量とに基づいて、前記バックセットが目標値となるまで前記ヘッドレスト移動手段によりヘッドレスト本体が所定方向へ移動されるよう、前記切換手段により前記単一のアクチュエータの駆動伝達方向を切り換えて該単一のアクチュエータを制御する制御手段と、を備える。このように、リクライニング角度変更手段とヘッドレスト移動手段を切り換えることにより、シートバックのリクライニング角度の変更とヘッドレストの位置調整とを容易に行え、安価な構成で安定してヘッドレストの位置を適切な状態に調整することができる。
【0012】
前記制御手段は、前記リクライニング角度が所定範囲にあるときに前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向にほぼ直線状に移動させる。また、前記制御手段は、前記リクライニング角度が所定範囲にあるときに前記ヘッドレスト本体を、車両の進行方向に直交する軸を中心に前後方向に回転移動させる。これにより、ヘッドレスト本体をバックセットの目標位置に的確に移動できる。
【0013】
本発明の乗員保護装置は、ブレーキペダルが踏み込まれたか否かを検出するブレーキペダル踏込検出手段をさらに備え、前記ブレーキペダル踏込検出手段によってブレーキペダルが踏み込まれたことが検出された場合、前記制御手段が前記単一のアクチュエータの制御を開始する。これにより、後突時等において乗員を保護することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る乗員保護装置によれば、乗員の頭部とヘッドレストとのバックセットが所定量となるように単一のアクチュエータでヘッドレストを移動させることにより、安価な構成で安定してヘッドレストの位置を適切な状態に調整することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る乗員保護装置におけるリクライニング機構等を模式的に示す図である。
【図3】第1の実施形態に係るヘッドレストについて説明するための図である。
【図4】第1の実施の形態における乗員保護装置のリクライナに設けた偏心カムを示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る乗員保護装置におけるリクライニング機構等を模式的に示す図である。
【図7】第2の実施形態に係る乗員保護装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図8】第2の実施形態に係る乗員保護装置におけるバックセットの制御手順を示すフローチャートである。
【図9】リクライニング角度とバックセットとの関係を示す図である。
【図10】リクライニング角度とバックセットとの関係を模式的に示す図である。
【図11】リクライニング角度とヘッドレスト移動量との関係を示す図である。
【図12】第2の実施形態に係る乗員保護装置の変形例を示す図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図である。
【図14】第3の実施形態に係る乗員保護装置におけるリクライニング機構等を模式的に示す図である。
【図15】本発明の第4の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図である。
【図16】第4の実施形態に係る乗員保護装置におけるリクライニング機構等を模式的に示す図である。
【図17】第4の実施形態に係る乗員保護装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図18】第4の実施形態に係る乗員保護装置におけるバックセットの制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図である。図1に示す乗員保護装置11は、乗員1が着座するシートクッション10の背もたれを構成するシートバック15のリクライニング角度の変化に応じて、シートバック15の上端部に支持されたヘッドレスト(H/R)18を、車両の前後方向にほぼ直線状に移動させて(図1では、ヘッドレスト18の移動量をMで示す)、着座している乗員1の後頭部とヘッドレスト18の前面部(車両の前進方向の最前面)との水平方向の距離L(バックセットともいう)が適正な距離S(バックセット設定量ともいう)となるように制御する。なお、リクライニング角度とは、図1において一点鎖線で示す鉛直方向に対してシートバック15が傾斜している角度θをいう。
【0017】
シートバック15内の下部には、シートクッション10の後部の一辺に回転可能に取り付けられたシートバック15が任意のリクライニング角度を有するようにするため、リクライニング機構(リクライナともいう)を実現するギアボックス13が設けられている。シートバック15のフレーム(図2において符号30で示す部分)には、リクライニング機構の駆動元となってギアボックス13内のギアを作動させる、正転と逆転が可能なモータ12が取り付けられている。また、ヘッドレスト18の内部には、図1に示すように、ヘッドレスト18の前部19aを、前後方向にほぼ直線状に往復移動させるための機構を構成するギアボックス17が設けられている。モータ12は、出力軸の両端がモータ本体から突出しており、一方の出力軸はギアボックス13に接続され、他方の出力軸は、後述するクラッチ機構に結合されている。そして、このクラッチ機構とヘッドレスト18内のギアボックス17とを、可撓性を有する長尺のトルクケーブル16で結合して、モータ12の回転力をギアボックス17に伝達している。
【0018】
図2は、乗員保護装置11におけるリクライニング機構等を模式的に示す図である。図2に示すように、モータ12の出力軸の一方端12aにウォームギヤ21が取り付けられ、そのウォームギヤ21にウォームホイール22を噛合させている。さらに、ウォームホイール22と平歯車(リクライニングギヤともいう)23とを組み合わせることで、所定の減速比を得ている。このリクライニング機構では、リクライニングギヤ23と同軸に結合され、リクライニングギヤ23と一体となって回転する駆動シャフト25にシートバック15のフレーム30を取り付けることで、リクライニングギヤ23によりフレーム30を回転駆動して、リクライニング機能を実現している。また、リクライニングギヤ23の一方側面には、リクライニングギヤ23と一体となって回転する偏心カム24が配置され、偏心カム24の上部には、カムの外周面に沿って摺動するリミットスイッチ27が設けられている。
【0019】
モータ12の出力軸の他端12bには、モータ12の回転動力をヘッドレスト18内のギアボックス17に伝達し、あるいはその伝達を遮断するための電磁クラッチ31が設けられている。電磁クラッチ31は、トルクケーブルの差込部(不図示)を備え、その差込部に嵌め込まれたトルクケーブル16によって、モータ12の回転動力をギアボックス17へ伝達する。
【0020】
図3は、乗員保護装置11のヘッドレストについて説明するための図である。ヘッドレスト18は、図1に示すように車両の前方側に配置されたヘッドレスト前部19aと、車両の後方側に配置されたヘッドレスト後部19bとを備えてなり、ヘッドレスト18の内部には、後述するようにヘッドレスト前部19aを前後方向にほぼ直線状に駆動させる機構が設けられている。この駆動機構により、ヘッドレスト前部19aをヘッドレスト後部19bに対して車両の前後方向へほぼ直線状に往復移動させて、乗員の頭部とヘッドレスト前部19aとの距離を調整する。
【0021】
ヘッドレスト18では、図3に示すように前後一対のベース33,34が左右一対のX状のリンク35,36で連結されている。具体的には、ベース33がヘッドレスト前部19aに結合され、他方のベース34がヘッドレスト後部19bに結合されている。リンク35は、2つのリンク部材35a,35bからなり、リンク36は、2つのリンク部材36a,36bからなる。リンク35,36それぞれのほぼ中央部がピン37,38により回動可能に連結され、リンク35,36の両端部は、ベース33,34の左右両側に一体に設けられた側部33a、33b,34a,34bにそれぞれ連結されている。
【0022】
リンク部材35a,36aそれぞれの前端部は、軸41により相互に結合されている。軸41の両端部は、ベース33の側部33a,33bそれぞれに形成された縦長のガイド孔41a,41bにスライド可能に連結され、リンク部材35a,36aの後端部は、それぞれがベース34の側部34a,34bにピン43a,43bによって回動可能に連結されている。一方、リンク部材35b,36bは、それぞれの前端部が軸44により、また、それぞれの後端部が軸45により相互に結合されている。これら前端部は、各々がベース33の側部33a,33bにピン46a,46bによって回動可能に連結されている。また、リンク部材35b,36bの後端部は、それぞれがベース34の側部34a,34bに形成された縦長のガイド孔45a,45bにスライド可能に連結されている。
【0023】
ヘッドレスト18の背面側にあるベース34の内側には、ヘッドレスト前部19aを前後方向へほぼ直線状に往復移動させるためのギアボックス17が設けられている。ギアボックス17には、上述したモータ12の回転力を伝えるトルクケーブル16が接続され、そのトルクケーブル16の先端部が、ギアボックス17内に配置されたかさ歯車51に接続されている。ギアボックス17内にはさらに、かさ歯車51と噛み合うかさ歯車53が配され、このかさ歯車53の一方側面には、ピニオンギヤ(不図示)がかさ歯車53と同軸に接合されている。ピニオンギヤの歯面は、クランク部47を介して軸41に連結されているロッド部55の下面の一部に直線状に設けたラック55aと歯合する。このような構成により、回転運動を直線の動きに変換できるので、かさ歯車53の回転力がピニオンギヤを介してラック55aに伝達され、ロッド部55が図3に示す矢印方向(斜め前後)に動く。そして、このようなロッド部55の動きが軸41の昇降動作に変換される。その結果、モータ12の回転力が、X状の両リンク35,36をパンタグラフのように作動させるので、ベース33がベース34に対して相対的に移動する。
【0024】
なお、図3に示す駆動機構は、ヘッドレスト前部19aを移動させるための機構の一例であり、ヘッドレスト前部19aをヘッドレスト後部19bに対して前後方向にほぼ直線状に移動させる機構であれば、どのようなものを用いてもよい。
【0025】
次に、第1の実施形態に係る乗員保護装置におけるバックセットの調整について説明する。シートバック15のリクライニング角度を調整するため、着座している乗員が不図示のスイッチを操作すると、上述したモータ12が作動(正転又は逆転)を開始する。モータ12の回転動力を受けたリクライニングギヤ23が所定方向へ回転し、リクライニングギヤ23と一体となって駆動シャフト25も回転する。その結果、駆動シャフト25に結合されたフレーム30が作動し、シートバック15は、角度調整の開始位置を初期位置として、その位置よりも前傾あるいは後傾する。そして、スイッチ操作が停止されると、リクライニングの角度調整の作動も停止する。一方、リクライニングギヤ23と一体となった偏心カム24が駆動シャフト25と同軸に回転すると、偏心カム24の外周面に当接しながら摺動するように配されたリミットスイッチ27のローラレバー(不図示)が、偏心カム24の偏心回転に追従して上下方向(リクライニングギヤ23との接離方向)に移動する。なお、リミットスイッチ27は、不図示のスプリングにより偏心カム24の外周面方向に対して付勢されている。
【0026】
第1の実施形態に係る乗員保護装置11では、シートバック15の傾斜角度(リクライニング角度)が一定の範囲にあるとき、例えば、リクライニング角度が20°〜28°のときにのみ、ヘッドレスト18の前面部19aが前後方向にほぼ直線状に移動して、乗員1の後頭部とヘッドレスト18の前面部19aとのバックセットが適正となるように作動する。そのため、偏心カム24は、図4に示すように角度θの範囲を上記のリクライニング角度20°〜28°に対応させ、その範囲における偏心カム24の外周面26において、リミットスイッチ27がON状態となるようにカムの偏心が設定されている。そして、リミットスイッチ27がON状態になったとき、図2に示すように電磁クラッチ31は、リミットスイッチ27からON信号を受ける。電磁クラッチ31は、ON信号を受けている間、クラッチ・ブレーキがかかる。その結果、シートバック15がリクライニング角度20°〜28°の範囲に位置するとき、モータ12とギアボックス17とが連結され、モータ12の回転動力がヘッドレスト18内のギアボックス17に伝達される。
【0027】
偏心カム24は、図4の符号aで示す方向を正転方向とし、符号bで示す方向を逆転方向とした場合、リクライニング角度の調整時において偏心カム24が正転すると、リミットスイッチ27は、不図示のローラレバーが外周面26に当接している間、ON状態を維持する。また、偏心カム24の逆転時においても、リミットスイッチ27は、ローラレバーが外周面26に当接している間、ON状態を維持する。したがって、偏心カム24の正転時及び逆転時、リミットスイッチ27のローラレバーが外周面26に当接している時間だけ、ギアボックス13とギアボックス17とにモータ12の回転動力が伝達される。
【0028】
その結果、リクライニング角度が大きくなるにしたがって、ヘッドレスト18の前面部19aは、あらかじめリクライニング角度に対応して決めたバックセット量が車両の前方向へ大きくなるように移動する。同様にリクライニング角度が小さくなるにしたがって、ヘッドレスト18の前面部19aは、バックセット量が車両の後方向へ小さくなるように移動する。このように、リクライニング角度の変化と、ヘッドレスト18の車両の前後方向への移動とを対応させることで、ヘッドレスト前部19aが、リクライニング角度の変化に応じて、あらかじめ決めた移動量だけ、着座している乗員1の後頭部側へ移動し、適正なバックセットの調整が可能となる。
【0029】
一方、シートバック15の傾斜角度があらかじめ定めたリクライニング角度(例えば、20°〜28°)の範囲外にあるときには、リミットスイッチ27のローラレバーは、偏心カム24の外周面26ではなく、それ以外の外周面に当接しているためON状態となず、OFF状態となる。このとき電磁クラッチ31は、リミットスイッチ27からON信号を受けないので、クラッチ・ブレーキは解除された状態となる。そのため、ヘッドレスト18内のギアボックス17に対するモータ12の回転動力の伝達が遮断されてヘッドレスト前部19aは作動せず、リクライニング角度のみを調整することができる。
【0030】
このように、第1の実施形態に係る乗員保護装置は、シートバックのリクライニング角度が一定の範囲にあるときのみ、シートバック内に配した単一のリクライナ用モータの駆動力によりヘッドレストを所定量、車両の前後方向にほぼ直線状に移動させることで、安価な構成で、シートバックのリクライニング機能の実現とヘッドレストの位置調整とができる。その結果、着座している乗員の後頭部とヘッドレストの前面部との水平方向の距離であるバックセットの設定を適正化でき、後突時等において乗員の頭部をヘッドレストで支持し、急激な後方移動がないようにすることができる。
【0031】
<第2の実施形態>
図5は、本発明の第2の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図である。第2の実施形態に係る乗員保護装置111は、第1の実施形態に係る乗員保護装置11と同様、シートバック15のリクライニング角度θの変化に応じて、シートバック15の上端部のヘッドレスト(H/R)18を車両の前後方向にほぼ直線状に移動させて、着座している乗員1の後頭部とヘッドレスト18の前面部との距離Lが適正な距離S(目標値)となるように制御する。なお、図5において、図1に示す第1の実施形態に係る乗員保護装置11と同一構成要素には同一符号を付して、ここでは、それらの説明を省略する。
【0032】
図5に示す乗員保護装置111のシートバック15内の下部には、シートクッション10の後部に回転可能に取り付けられたシートバック15が任意のリクライニング角度を有するようにするためのリクライナ機構を構成するギアボックス13が設けられている。シートバック15のフレームには、ギアボックス13に駆動力を付与してリクライニング機能を実現するモータ12が取り付けられている。また、ギアボックス13は、リクライニング角度を検出するためのリクライニング角度検出センサ102を備えている。
【0033】
一方、ヘッドレスト18の内部には、ヘッドレスト前部19aを車両の前後方向にほぼ直線状に往復移動させるための機構からなる上述したギアボックス17が設けられている。さらに、ギアボックス17は、ヘッドレスト18の移動量を検出するためのヘッドレスト移動量検出センサ103を備えている。モータ12は、可撓性を有する長尺のトルクケーブル16を介してヘッドレスト18内のギアボックス17に接続されている。
【0034】
さらに、乗員1がブレーキペダル104を踏んだか否かを検出するため、ブレーキペダル104は、ブレーキペダル踏込み検出センサ105を備えている。これらリクライニング角度検出センサ102、ヘッドレスト移動量検出センサ103、及びブレーキペダル踏込み検出センサ105での検出結果は、それぞれリクライニング角度検出信号、ヘッドレスト移動量検出信号、及びブレーキペダルの踏込み検出信号として、後述する電子制御ユニットECU(Electronic Control Unit)100へ送られる。なお、表示装置110、例えば、ヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)に乗員1への警告(例えば、「シートバック(背もたれ)を戻します。」等)が可視表示される。
【0035】
リクライニング角度検出センサ102は、鉛直方向に対するシートバック15の傾斜角度(リクライニング角度)θを検出するためのセンサであり、例えば、加速度センサ、ポテンショメータ、ロータリーエンコーダ等を用いることができる。ヘッドレスト移動量検出センサ103は、ヘッドレスト前部19aの全閉位置(ヘッドレスト前部19aがヘッドレスト後部19bに対して最も近い位置をいう。)からの移動量を検出するためのものである。ヘッドレスト移動量検出センサ103としては、例えば、ポテンションメータ、リニアセンサ、ロータリーエンコーダ等を用いることができる。また、ブレーキペダル踏込み検出センサ105として、例えば、ブレーキペダル104の直下に配した押下式のスイッチをセンサとしてもよい。
【0036】
図6は、第2の実施形態に係る乗員保護装置111におけるリクライニング機構等を模式的に示す図である。なお、図6において、図2に示す第1の実施形態に係る乗員保護装置11と同一の構成要素には同一の符号を付して、ここでは、それらの説明を省略する。図6に示すリクライニング機構では、ECU100によって、電磁クラッチA(31a)及び電磁クラッチB(31b)の起動(連結)・停止(遮断)を制御する。したがって、乗員保護装置111のリクライニング機構は、上述した第1の実施形態に係るリクライニング機構とは異なり、電磁クラッチを制御するためのリミットスイッチが不要となるので、リクライニングギヤ23は偏心カムを備えていない。また、モータ12は、出力軸の両端がモータ12本体の外側へ突出する構成を有し、一方の出力軸12aが電磁クラッチA(31a)を介してギアボックス13に接続され、他方の出力軸12bは、電磁クラッチb(31b)の一方端に接続されている。この電磁クラッチbの他方端は、トルクケーブルの差込部(不図示)を備え、その差込部に嵌め込まれたトルクケーブル16を介してヘッドレスト18内のギアボックス17に接続されている。
【0037】
次に、第2の実施形態に係る乗員保護装置におけるバックセット制御について詳細に説明する。図7は、第2の実施形態に係る乗員保護装置の制御系の構成を示すブロック図である。図7において、電子制御ユニットECU100は、乗員保護装置111全体の制御を司る中央制御部CPU(Central Processing Unit)101、オペレーティングシステム(OS)等の基本プログラムやバックセット制御手順のプログラム等が格納された読み取り専用メモリ(ROM)120、及びバックセット制御等に用いる各種データを一時的に記憶するための随時読出し/書込みメモリ(RAM)121を備える。ECU100はさらに、CPU101からの信号を受けて、モータ12を制御するためのモータ駆動回路115、及び表示装置110を制御するための表示制御回路117を有する。
【0038】
CPU101には、不図示の入力ポートを介して、上述したリクライニング角度検出センサ102、ヘッドレスト移動量検出センサ103、及びブレーキペダル踏込み検出センサ105での検出信号が入力されるとともに、乗員1がリクライニング角度の調整を開始、あるいは停止する際に操作するリクライニング角度調整スイッチ107からの信号が入力される。
【0039】
図8は、第2の実施形態に係る乗員保護装置におけるバックセットの制御手順を示すフローチャートである。図8のステップS101において、CPU101は、リクライニング角度調整スイッチ107からの信号の有無を判定する。リクライニング角度調整スイッチ107がONとなれば、シートクッション10に着座している乗員1に対するヘッドレスト18の位置調整を行うためのバックセット制御の実行が開始される。次に、CPU101は、ステップS103においてブレーキペダル踏込み検出センサ105からの検出信号の有無を判定する。乗員1がブレーキペダル104を踏むことは、その時点で自車両に対して後続車両が追突する可能性があることを意味する。乗員保護装置111は、そのような追突に備えて、ヘッドレスト18の前面部19aと乗員1の後頭部とが適正な距離になるよう、ヘッドレスト18を目標とする位置へ移動するための制御(バックセット制御)を行う。
【0040】
乗員1がブレーキペダル104を踏んだ場合、ステップS105に進んで、CPU101はリクライニング角度検出センサ102における検出信号をもとに、シートバック15のリクライニング角度を検出する。そして、続くステップS107において、上記ステップで検出されたリクライニング角度とバックセット設定量(バックセットの目標値)をもとにヘッドレストの移動量を演算(推定)する。
【0041】
そこで、第2の実施形態に係る乗員保護装置におけるヘッドレスト移動量の演算方法について説明する。図9〜図11は、ヘッドレストの目標位置への調整方法を説明するための図である。図9及び図10は、リクライニング角度とバックセットとの関係を示している。図9に示すように、リクライニング角度が大きくなるほどバックセットも大きくなる。この関係から、適切なバックセットの範囲に対応するリクライニング角度が定まる。ここでは、リクライニング角度がA〜Bの範囲(例えば、20°〜28°)が、適切なバックセットの範囲に対応しており、この範囲においてヘッドレスト18を移動させることから、「ヘッドレスト作動領域」という。また、図10に示すように、リクライニング角度がAより小さい場合、適切なバックセットよりも現在のバックセットの方が小さく、これ以上のヘッドレストの位置調整ができないため、ヘッドレスト作動領域外となる。また、リクライニング角度がBより大きい場合には、乗員がバックシートを倒して休息等している状況が考えられ、ヘッドレストの位置を調整する必要がない場面が想定されるため、この場合もヘッドレスト作動領域外となる。
【0042】
ここでは、上述したヘッドレスト作動領域内の所定角度をシートバック15の基準位置(標準位置)として定めており、この所定角度は、リクライニング角度を調整する際の基準としてROM120に記憶されている。図11は、各リクライニング角度におけるバックセット設定量(目標値)をもとに演算したヘッドレスト移動量の一例を示している。図11に示す例では、シートバック15のリクライニング角度の変化(例えば、20°〜28°)に対して、ほぼ直線状にヘッドレスト移動量を変化させている。
【0043】
CPU101は、ステップS109においてシートバック15のリクライニング角度の変更が必要か否かを判定する。リクライニング角度の変更が必要となるのは、例えば、シートバック15のリクライニング角度が上述したリクライニング角度A〜Bの範囲にない場合をいう。ステップS109で、リクライニング角度の変更が必要と判断されれば、続くステップS111において、リクライナが移動する旨の警告、つまり、シートバック15の傾斜角度が変わる旨の警告を表示装置110に表示する。これにより、乗員はシートバック15のリクライニング角度が変更されることを知る。
【0044】
続くステップS113で、CPU101は、電磁クラッチA(31a)をON(「連結」状態)に、電磁クラッチB(31b)をOFF(「遮断」状態)にした後、ステップS115でモータ12を作動する。これは、シートバック15が上述したリクライニング角度A〜Bの範囲にないため、ヘッドレスト18を移動させずにシートバック15のリクライニング角度のみを変えるための処理である。ここでは、リクライニング角度が、図10に示すAより小さい場合は、リクライニング角度が、例えば20度となるようにモータ12を制御する。また、リクライニング角度が図10のBより大きい場合には、シートバック15が前方に倒れる(起き上がる)ようにモータ12が駆動される。このような処理を行うのは、例えば、乗員がシートバック15を倒したままの状態で車両を走行させようとしている、あるいは、そのような状態で走行している場合、追突等されたときに乗員を保護するためである。
【0045】
ステップS117において、CPU101は、リクライニング角度検出センサ102からの検出信号をもとに、シートバック15のリクライニング角度が、上述したヘッドレスト作動領域内(リクライニング角度A〜Bの範囲)にあるか否かを判定する。ここでの判定がNO(否定)であれば、リクライニング角度が依然としてヘッドレスト作動領域内にないため、ステップS115に戻ってモータ12の作動を継続する。
【0046】
CPU101は、ステップS117で、シートバック15の移動により、シートバック15のリクライニング角度がヘッドレスト作動領域内に入ったと判定すると、リクライニング角度の制御とともにヘッドレスト18の位置調整を行って、バックセットを目標値にするための処理に移行する。具体的には、CPU101は、ステップS119で、シートバック15とヘッドレスト18の双方が移動する旨の警告を表示装置110に表示する。そして、続くステップS121で、電磁クラッチA(31a)と電磁クラッチB(31b)の双方をON(「連結」状態)にした後、ステップS131でモータ12を作動する。その結果、シートバック15とヘッドレスト18が連動して移動し、ヘッドレスト18(ヘッドレスト前部19a)が車両の前後方向へ直線状に移動する。より詳しくは、図11に示すように、シートバック15のリクライニング角度(傾斜角)が大きくなるにしたがって、ヘッドレスト18の移動量も大きくなるように制御する。逆に、シートバック15のリクライニング角度が小さくなるにしたがって、ヘッドレスト18の移動量も小さくなるように制御する。
【0047】
CPU101は、ステップS136でモータ12の作動を継続し、続くステップS137で、リクライニング角度検出センサ102からの検出信号をもとに、シートバック15のリクライニング角度が、上述したヘッドレスト作動領域内の所定角度となったか、すなわち、標準位置になったか否かを判定する。シートバック15のリクライニング角度が標準位置になければ、ステップS136において、継続してモータ12を作動する。これと同時に、CPU101は、例えば、図11を参照して、シートバック15が上記の標準位置にあるときのリクライニング角度に対応する移動量分、着座している乗員1の後頭部側へヘッドレスト18を移動させる制御をする。そこで、CPU101は、ステップS137で、ヘッドレスト移動量検出センサ103による検出結果をもとに、ヘッドレスト18が上記移動量分、移動したかどうかを判定する。ヘッドレスト18が上記の移動量分、移動していない場合には、処理をステップS136に戻し、モータ12を作動し続ける。そして、CPU101は、シートバック15のリクライニング角度が標準位置となり、かつ、この標準位置に対応する移動量分、ヘッドレスト18が移動した場合、ステップS137において、モータ12の停止条件が満たされたと判断して、続くステップS139で、モータ12を停止するとともに、シートバック15とヘッドレスト18の作動警告をリセットする。
【0048】
一方、CPU101は、ステップS109において、シートバック15のリクライニング角度の変更が不要と判断した場合には、ステップS125で、ヘッドレスト18の移動が必要か否かを判定する。ここで、リクライニング角度の変更が不要とは、例えば、シートバック15のリクライニング角度が上述したリクライニング角度A〜Bの範囲にある場合をいう。そして、ステップS125における判定結果がNO(否定)であれば、リクライニング角度が当初より標準位置にあり、バックセットが目標値となっているとして、本バックセット処理を終了する。
【0049】
しかし、ステップS125で、ヘッドレスト18の移動が必要と判定された場合には、シートバック15の角度がリクライニング角度A〜Bの範囲にあっても、バックセットが目標値になっていない(つまり、ヘッドレスト18が目標位置にない)ため、ヘッドレスト18を移動する処理を行う。すなわち、CPU101は、ステップS127で、ヘッドレスト18が移動する旨の警告を表示装置110に表示する。そして、ステップS129において、電磁クラッチA(31a)をOFF(「遮断」状態)に、電磁クラッチB(31b)をON(「連結」状態)にした後、ステップS131でモータ12を作動する。これは、リクライニング角度の変更が不要であることから、ヘッドレスト18のみを移動させるための処理である。
【0050】
CPU101は、ステップS133において、上記ステップS107で演算されたヘッドレスト移動量(図11に示すリクライニング角度に対応したヘッドレスト移動量)にしたがってヘッドレスト18を移動して、ヘッドレスト移動量検出センサ103による検出結果をもとに、ヘッドレスト18が目標位置に到達したか否かを判定する。つまり、ヘッドレスト前部19aが着座している乗員1の後頭部側へ移動し、あらかじめ決めたバックセット設定値を満たしているかどうかを判定する。なお、バックセット設定値は、例えば、乗員1の頸椎保護に関する安全要件等から設定されるものであり、後突時等における乗員1の頭部の拘束性と乗員1にとっての快適性とのバランスを考慮した値をバックセット設定値としてあらかじめ定めておく。
【0051】
ステップS133での判定結果がNO(否定)であれば、ヘッドレスト18の移動量が上記ヘッドレスト移動量に達していないと判断して、ステップS131におけるモータ12の作動を継続する。しかし、ステップS133での判定結果がYES(肯定)であれば、ヘッドレスト18の移動量が上記ヘッドレスト移動量に達し、ヘッドレスト前部19aが着座している乗員1の後頭部側へ移動してバックセットが目標位置にあるとして、モータ12の停止条件が満たされたと判定する。そして、ステップS135で、モータ12を停止して、ヘッドレスト18の作動警告をリセットする。
【0052】
以上説明したように、第2の実施形態に係る乗員保護装置では、単一のモータでリクライニング角度とヘッドレストの位置調整を行うので、これらの調整を個別のモータで行う構成と比べて、装置そのものの構成が簡単になるだけでなく、ヘッドレストにモータを配さないため、ヘッドレストを安価、軽量、かつコンパクト化できる。また、シートバックのリクライニング角度の変化に連動させてヘッドレストの移動量を調整しているので、シートバックの角度が変化してもヘッドレストを適正な位置にすることができ、後突時等において乗員の頭部をヘッドレストで支持して、急激な後方移動がないようにすることができる。
【0053】
<変形例>
上述した第2の実施形態に係る乗員保護装置111では、図6に示すように、モータ12の出力軸の一方端が、電磁クラッチBとトルクケーブル16とを介してヘッドレスト18内のギアボックス17に接続されているが、接続構成はこれに限定されない。例えば、図12に示すように、シートバック15の上端部近傍にカップリング(継手)113を設け、モータ12の出力軸の一方端(ギアボックス13と反対側の出力端)をトルクケーブル16aの一端に接続し、トルクケーブル16aの他端をカップリング113の一端に接続する。さらに、カップリング113の他端をヘッドレスト18へ向かうトルクケーブル16bの一端に接続し、トルクケーブル16bの他端をヘッドレスト18のギアボックス17に接続する構成としてもよい。
【0054】
このように、モータ12と、モータ12の回転力を受けて駆動されるヘッドレスト18とをカップリング113を介して連結することで、例えば、シートバック15を水平状態に倒して使用しようとする場合、ヘッドレスト18をシートバック15から取り外す際にトルクケーブル16bとカップリング113との接続を外すだけで、ヘッドレスト18への駆動力伝達ケーブルを分離できる。その結果、シートバック15からヘッドレスト18を取り外す作業が容易になる。また、ヘッドレスト18の清掃等のメンテナンスを迅速、かつ容易に行えるという効果がある。
【0055】
<第3の実施形態>
図13は、本発明の第3の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図である。なお、図13において、図5に示す第2の実施形態に係る乗員保護装置11と同一構成要素には同一符号を付して、ここでは、それらの説明を省略する。
【0056】
図13に示すように、第3の実施形態に係る乗員保護装置311は、ヘッドレスト18がアクティブヘッドレスト機能部119を有しており、シートバック15の上端部にアクティブヘッドレスト機能部119を駆動するモータ12が配置されている。「アクティブヘッドレスト」は、車両が後方から追突等された場合、ヘッドレストを車両前方側へ移動させ、車両乗員の頭部とヘッドレストの間隔を狭めることで、乗員の頭部を保護し、むち打ち症等を防ぐことを目的とするヘッドレストである。アクティブヘッドレストは、例えば、車両の後突等により、シートバック15に乗員を受け止める力がかかると、ヘッドレスト18を瞬時に、例えば前上方へ移動して、頭部が衝撃によって後方に傾斜するのを未然に防ぐ機能を備えるが、その動作及び機構については公知であるため、ここでは、それらの説明を省略する。
【0057】
第3の実施形態に係る乗員保護装置311は、アクティブヘッドレスト機能部119の動作と相俟って、シートバック15のリクライニング角度θの変化に応じてヘッドレスト18の位置調整をして、乗員1の後頭部とヘッドレスト18の前面部19aとの距離Lが適正な距離Sとなるように制御する。そのため、乗員保護装置311のモータ12は、アクティブヘッドレスト機能部119を含むヘッドレスト18を上下方向又は斜め上方に移動させるため、その駆動力を付与するパワーモータとして機能する。さらに、モータ12は、ヘッドレスト18を車両の前後方向に移動させて、その位置調整を行うための駆動力を付与するとともに、シートバック15のリクライニング機能を作動させるための駆動力を付与する。
【0058】
図14は、第3の実施形態に係る乗員保護装置311におけるリクライニング機構等を模式的に示す図である。図14において、図6に示す第2の実施形態に係るリクライニング機構等と同一構成要素には同一符号を付して、ここでは、それらの説明を省略する。図14に示すリクライニング機構において、モータ12の出力軸の一方端12bは電磁クラッチB(31b)に接続され、電磁クラッチB(31b)の一方端は支持部材20に接続されている。支持部材20は、ヘッドレスト18を支持するとともにヘッドレスト18を上下方向又は斜め上方に駆動するため、支持部材20の他端は、アクティブヘッドレスト機能部119の固定部(不図示)に接続されている。そして、モータ12の正逆回転が不図示のアクチュエータ(駆動機構)を介して、支持部材20の上下移動に変換される。これにより、支持部材20に支持されたヘッドレスト18が、アクティブヘッドレスト機能部119とともに上下方向又は斜め上方に移動可能となる。また、モータ12の出力軸の他方端12aは、電磁クラッチA(31a)を介して、可撓性を有する長尺のトルクケーブル16bに接続されている。すなわち、トルクケーブル16bの一方端は、電磁クラッチA(31a)に設けた差込部(不図示)に嵌め込まれ、トルクケーブル16bの他方端は、ギアボックス13に接続されている。
【0059】
上述したアクティブヘッドレスト機能部119の固定部とは、例えば、図3に示すヘッドレストの後端部に相当する箇所をいう。また、モータ12の回転力をヘッドレストの上下方向又は斜め上方の駆動力に変換して伝達する支持部材20は、ここでは図示を省略するが、例えば、モータ12の出力軸(ヘッドレスト側)にウォームギヤを配し、そのウォームギヤと歯合するラックをアクティブヘッドレスト機能部119の固定部に設けることで、ウォームギヤの回転運動をヘッドレストの上下方向又は斜め上方の移動に変える機構を有する。
【0060】
なお、第3の実施形態に係る乗員保護装置311の制御系の構成は、図7に示す第2の実施形態に係る乗員保護装置の制御系の構成と同じである。また、乗員保護装置311におけるバックセット制御も、図8に示す第2の実施形態に係る乗員保護装置におけるバックセット制御と同じであるため、ここでは、それらの図示及び説明を省略する。
【0061】
このように、第3の実施形態に係る乗員保護装置では、アクティブヘッドレストが配されたヘッドレストに上下方向又は斜め上方の駆動力を付与する単一のモータで、リクライニング角度の変化に応じてヘッドレストの位置調整を行う構成としたことで、シートバックのリクライニング角度変更とヘッドレストの位置調整とを別々のモータで行う構成に比べて、装置構成を簡単にできる。また、リクライニング機構部分にモータを配置しない構成としたので、リクライナを安価、軽量、かつコンパクト化できる。
【0062】
さらに、後突時等においてアクティブヘッドレストによる乗員の頭部保護機能が作動するとともに、ヘッドレストの車両前後方向における位置を適正に調整することで、乗員の頭部をヘッドレストで支持して、急激な後方移動がないようにすることができる。
【0063】
<第4の実施形態>
図15は、本発明の第4の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図である。第4の実施形態に係る乗員保護装置411は、第2の実施形態に係る乗員保護装置と同様、シートバック15のリクライニング角度θの変化に応じてヘッドレスト18を前後にほぼ直線状に移動させて、乗員1の後頭部とヘッドレスト18の前面部との距離Lが適正な距離Sとなるように制御する。なお、図15において、図5に示す第2の実施形態に係る乗員保護装置111と同一構成要素には同一符号を付して、ここでは、それらの説明を省略する。
【0064】
図15に示す乗員保護装置411において、シートバック15内の下部には、シートクッション10の後部の一辺に回転可能に取り付けられたシートバック15が任意のリクライニング角度を有することを可能にするためのリクライナ機構を構成するギアボックス13が設けられている。また、ギアボックス13は、リクライニング角度を検出するためのリクライニング角度検出センサ102を備えている。一方、ヘッドレスト18の内部には、ヘッドレスト前部19aを前後方向にほぼ直線状に往復移動させるための機構からなるギアボックス17が設けられている。さらに、ギアボックス17は、ヘッドレスト18の移動量を検出するためのヘッドレスト移動量検出センサ103を備えている。
【0065】
シートバック15内のほぼ中間には、モータ112が設置されており、このモータ112によって、ギアボックス13内のギアを駆動してリクライニング機能を実現するための駆動力を付与するとともに、リクライニング角度の変化に応じてヘッドレスト18を前後方向にほぼ直線状に移動させる駆動力をヘッドレスト18に付与する。また、モータ112がクラッチ部131に接続され、後述するように、電子制御ユニットECU(Electronic Control Unit)400によるクラッチ切り換えによって、モータ112からの駆動力が、リクライナとヘッドレストのいずれか、あるいはそれら双方に伝達される。
【0066】
図16は、第4の実施形態に係る乗員保護装置411におけるリクライニング機構等を模式的に示す図である。図16に示す乗員保護装置411において、クラッチ部131は、上下方向に対向する位置に配された2つのかさ歯車141,143と、モータ112の軸先端に同軸かつ一体的に取り付けられ、かさ歯車141,143と噛み合うかさ歯車151と、かさ歯車141を軸方向下方に押し下げる機能を有するカム機構部145と、かさ歯車143を軸方向上方に押し上げる機能を有するカム機構部147とを備えてなる。かさ歯車141には、リクライナ機構を構成するギアボックス13に駆動力を伝達する、可撓性を有する長尺のトルクケーブル16cが接続され、かさ歯車143には、ギアボックス17に駆動力を伝達する、可撓性を有する長尺のトルクケーブル16dが接続されている。
【0067】
カム機構部145,147は、ECU400からの制御信号(切換信号)を受けて作動する。例えば、カム機構部145に対する制御信号がON、カム機構部147に対する制御信号がOFFのときは、モータ112に接続されたかさ歯車151と、かさ歯車143とが噛み合い、モータ112の駆動力は、トルクケーブル16dを介してギアボックス17にのみ伝達される。このようなクラッチ部131の切り換えを、以降、「ヘッドレスト側」のクラッチ切換とよぶ。また、カム機構部145に対する制御信号がOFF、カム機構部147に対する制御信号がONのときは、モータ112に接続されたかさ歯車151と、かさ歯車141とが噛み合い、モータ112の駆動力は、トルクケーブル16cを介してギアボックス13にのみ伝達される。このようなクラッチ部131の切り換えを、以降、「リクライナ側」のクラッチ切換とよぶ。さらには、カム機構部145,147に対する制御信号が共にOFFのときには、かさ歯車151がかさ歯車141,143の双方と噛み合い、モータ112の駆動力は、トルクケーブル16c,16dを介してギアボックス13,17の両方に伝達される。
【0068】
次に、第4の実施形態に係る乗員保護装置におけるバックセット制御について詳細に説明する。図17は、第4の実施形態に係る乗員保護装置の制御系の構成を示すブロック図である。なお、図17において、図7に示す第2の実施形態に係る乗員保護装置の制御系の構成と同一構成要素には同一の符号を付して、ここでは、それらの説明を省略する。
【0069】
図17に示すように、第4の実施形態に係る乗員保護装置411において、電子制御ユニットECU400の中央制御部CPU101は、プログラム等が格納されたROM120、及び各種データを一時的に記憶するためのRAM121と所定のデータのやり取りをしながら、乗員保護装置411全体を制御する。また、CPU101は、クラッチ切換回路135に所定の切換信号を入力し、後述するように、リクライナ及びヘッドレストの駆動状態に対応してクラッチ部131におけるモータ112の駆動力の伝達方向を切り換える。
【0070】
図18は、第4の実施形態に係る乗員保護装置におけるバックセットの制御手順を示すフローチャートである。図18のステップS401で、CPU101は、リクライニング角度調整スイッチ107からの信号の有無を判定し、リクライニング角度調整スイッチ107がONであれば、ステップS403において、ブレーキペダル踏込み検出センサ105からの検出信号の有無を判定する。ここで、リクライニング角度調整スイッチ107がONであれば、シートクッション10に着座している乗員1に対するヘッドレスト18の位置調整を行うためのバックセット制御の実行が開始される。また、乗員1がブレーキペダル104を踏むことは、その時点で後続車両による追突の可能性があることから、乗員保護装置411は、そのような追突から乗員を保護するためバックセット制御を開始する。
【0071】
CPU101は、ステップS403で、乗員1がブレーキペダル104を踏んだと判定された場合、続くステップS405で、リクライニング角度検出センサ102での検出信号をもとにシートバック15のリクライニング角度を検出する。そして、ステップS407において、上記のステップで検出されたリクライニング角度とバックセット設定量をもとにヘッドレストの移動量を演算する。なお、ここでのヘッドレスト移動量の演算方法は、第2の実施形態に係る乗員保護装置におけるヘッドレストの移動量の演算方法と同じであるため、その説明を省略する。
【0072】
次に、CPU101は、ステップS409において、シートバック15のリクライニング角度の変更が必要か否かを判定し、リクライニング角度の変更が必要であれば、ステップS411において、表示装置110にリクライナが作動する(シートバック15の傾斜角度が変わる)旨の警告を表示する。続くステップS413で、CPU101は、図17のクラッチ切換回路135にクラッチ切換信号を入力して、図16に示すクラッチ部131において「リクライナ側」へクラッチを切り換える。そして、続くステップS415でモータ112を作動することで、モータ112の駆動力が、かさ歯車151とかさ歯車141との係合を介して、トルクケーブル16cによってギアボックス13(リクライナ側)に伝達され、シートバック15のリクライニング角度が変更される。
【0073】
ここでは、例えば、リクライニング角度が、図10に示すAより小さい場合は、リクライニング角度が、例えば20度となるようにモータ112を制御する。また、リクライニング角度が図10のBより大きい場合には、シートバック15を前方に起こすように駆動する。その結果、例えば、シートバック15を倒したまま車両を走行させた場合において追突等されたときに乗員を保護できる。
【0074】
ステップS417において、CPU101は、リクライニング角度検出センサ102からの検出信号をもとに、シートバック15のリクライニング角度が、上述したヘッドレスト作動領域内(リクライニング角度A〜Bの範囲)にあるか否かを判定する。このステップS417での判定がNO(否定)であれば、リクライニング角度がヘッドレスト作動領域内にないとして、ステップS415に戻ってモータ112の作動を継続する。
【0075】
ステップS417で、シートバック15のリクライニング角度の変更により、そのリクライニング角度が上述したヘッドレスト作動領域内にあると判定されれば、ヘッドレスト18の位置調整をして、バックセットを目標値にするための処理に移行する。すなわち、CPU101は、ステップS419で、表示装置110にシートバック15とヘッドレスト18の双方が作動する旨の警告を表示する。続くステップS421で、クラッチ切換回路135(図17参照)にクラッチ切換信号を入力して、図16のクラッチ部131において「リクライナ側及びヘッドレスト側」へクラッチを切り換える。そして、続くステップS436でモータ112の作動を継続する。このようにすることで、モータ112の駆動力が、かさ歯車151とかさ歯車141との係合を介して、トルクケーブル16cによってギアボックス13(リクライナ側)に伝達されるとともに、かさ歯車151とかさ歯車143との係合を介して、トルクケーブル16dによってギアボックス17(ヘッドレスト側)に伝達される。
【0076】
ステップS421におけるクラッチ切換によって、シートバック15とヘッドレスト18が連動して移動し、ヘッドレスト18が車両の前方又は後方へ直線状に移動する。より詳しくは、図11に示すように、シートバック15のリクライニング角度が大きくなるにしたがって、ヘッドレスト18の移動量が大きくなるように制御する。これとは逆に、シートバック15のリクライニング角度が小さくなるにしたがって、ヘッドレスト18の移動量も小さくなるように制御する。
【0077】
CPU101は、ステップS436においてモータ112の作動を継続し、続くステップS437で、リクライニング角度検出センサ102からの検出信号をもとに、シートバック15のリクライニング角度がヘッドレスト作動領域内の所定角度(すなわち、標準位置)になったか否かを判定する。シートバック15のリクライニング角度が標準位置になければ、ステップS436において、モータ112を継続して作動する。これと同時に、CPU101は、例えば、図11を参照して、シートバック15が上記の標準位置にあるときのリクライニング角度に対応する移動量分、着座している乗員1の後頭部側へヘッドレスト18を移動させる制御をする。そこで、CPU101は、ステップS437で、ヘッドレスト移動量検出センサ103による検出結果をもとに、ヘッドレスト18が上記移動量分、移動したかどうかを判定する。ヘッドレスト18が上記の移動量分、移動していない場合には、処理をステップS436に戻し、モータ112を作動し続ける。
【0078】
CPU101は、シートバック15のリクライニング角度が標準位置となり、かつ、この標準位置に対応する移動量分、ヘッドレスト18が移動した場合、ステップS437において、モータ112の停止条件が満たされたと判断する。そして、ステップS439でモータ112を停止するとともに、シートバック15とヘッドレスト18の作動警告をリセットする。このように、モータ112の停止条件が満たされることで、CPU101は、それ以上のシートバック15とヘッドレスト18の移動は不要と判断して、本バックセット処理を終了する。
【0079】
一方、CPU101は、ステップS405におけるリクライニング角度の検出結果から、シートバック15のリクライニング角度が上述したリクライニング角度A〜Bの範囲にある場合には、ステップS409において、シートバック15のリクライニング角度の変更が不要と判断する。そして、ステップS425で、ヘッドレスト18の移動が必要か否かを判定する。このステップS425における判定結果がNO(否定)であれば、リクライニング角度が当初より標準位置にあり、バックセットが目標値となっているとして、本バックセット処理を終了する。
【0080】
しかし、ステップS425で、ヘッドレスト18の移動が必要と判定された場合には、シートバック15の角度がリクライニング角度A〜Bの範囲にあっても、バックセットが目標値になっていないため、ヘッドレスト18を移動する処理を行う。そこで、CPU101は、ステップS427で、ヘッドレスト18が移動する旨の警告を表示装置110に表示する。そして、ステップS429において、図17のクラッチ切換回路135にクラッチ切換信号を入力して、図16のクラッチ部131において「ヘッドレスト側」へクラッチを切り換える。そして、続くステップS431でモータ112を作動する。その結果、モータ112の駆動力が、かさ歯車151とかさ歯車143との係合を介して、トルクケーブル16dによってギアボックス17(ヘッドレスト側)に伝達され、ヘッドレスト18のリクライニング角度が変更される。
【0081】
CPU101は、ステップS433において、上記ステップS407で演算されたヘッドレスト移動量(図11に示すリクライニング角度に対応したヘッドレスト移動量)にしたがってヘッドレスト18を移動する。そして、ヘッドレスト移動量検出センサ103による検出結果をもとに、ヘッドレスト18が目標位置に到達したか否かを判定する。つまり、ヘッドレスト前部19aが着座している乗員1の後頭部側へ移動し、あらかじめ決めたバックセット設定値を満たしているかどうかを判定する。なお、バックセット設定値は、例えば、乗員1の頸椎保護に関する安全要件等から設定されるものであり、後突時等における乗員1の頭部の拘束性と乗員1にとっての快適性とのバランスを考慮した値をバックセット設定値としてあらかじめ定めておく。
【0082】
ステップS433での判定結果がNO(否定)であれば、ヘッドレスト18の移動量が上記ヘッドレスト移動量に達していないとして、ステップS431におけるモータ112の作動を継続する。しかし、ステップS433での判定がYES(肯定)であれば、ヘッドレスト18の移動量が上記ヘッドレスト移動量に達した(ヘッドレスト前部19aが着座している乗員1の後頭部側へ移動してバックセットが目標位置にある)として、モータ112の停止条件が満たされたと判定する。そして、ステップS435で、モータ112を停止して、ヘッドレスト18の作動警告をリセットする。
【0083】
以上説明したように、第4の実施形態に係る乗員保護装置では、単一のモータの駆動力を、クラッチによってリクライニング角度の調整とヘッドレストの位置調整とに切り換えて伝達することで、これらの調整を個別のモータで行う構成に比べて、装置構成を簡単にできる。また、ヘッドレストにモータを配置しない分、ヘッドレストを安価、軽量、かつコンパクト化できる。さらには、シートバックのリクライニング角度の変化に連動させてヘッドレストを移動させ、ヘッドレストが適正な位置となるように調整することで、後突時等において乗員の頭部をヘッドレストで支持して、急激な後方移動がないようにすることができる。
【0084】
上述した各実施形態では、リクライニング角度の変化に対してヘッドレスト移動量をほぼ線形に変化させ、その変化に対応してヘッドレストの移動軌跡もほぼ直線となるように、ヘッドレストを車両の前後方向にほぼ直線状に移動させているが、乗員のシートクッションへの座り方(着座姿勢)によっては、リクライニング角度とバックセット量との関係が非線形となることも考えられる。そこで、バックセットの非線形な変化に対応するため、ヘッドレストが、車両の進行方向に直交する水平軸を中心に前後方向に回転移動する機構を設け、ヘッドレストの移動軌跡を非線形にするようにしてもよい。
【0085】
また、上記の実施形態では、リクライナ及びヘッドレストが移動する際、乗員に対するその旨の警告を可視表示しているが、これに限定されない。例えば、リクライナ等が移動する旨を音声で警告してもよいし、それ以外にも、「後突時にむち打ちになる可能性があります。」等の警告を可視表示又は音声で発するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 乗員
10 シートクッション
11,111,211,311,411 乗員保護装置
12,112 モータ
13,17 ギアボックス
15 シートバック
16,16a〜16d トルクケーブル
18 ヘッドレスト
19a ヘッドレスト前部
19b ヘッドレスト後部
20 支持部材
21 ウォームギヤ
22 ウォームホイール
23 リクライニングギヤ
24 偏心カム
25 駆動シャフト
26 外周面
27 リミットスイッチ
30 フレーム
31 電磁クラッチ
51 かさ歯車
53 かさ歯車
55a ラック
55 ロッド部
100,400 電子制御ユニット(ECU)
101 中央制御部(CPU)
102 リクライニング角度検出センサ
103 ヘッドレスト移動量検出センサ
104 ブレーキペダル
105 ブレーキペダル検出センサ
107 リクライニング角度調整スイッチ
110 表示装置
113 カップリング
115 モータ駆動回路
117 表示制御回路
119 アクティブヘッドレスト機能部
131 クラッチ部
135 クラッチ切換回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートの背もたれを構成するシートバックのリクライニング角度を伝達された駆動力に応じて変更する第1の機構部と、
前記シートバックの上端部に設けられたヘッドレスト本体を伝達された駆動力に応じて所定の方向に移動する第2の機構部と、
前記第1の機構部にリクライニング角度の変更のための前記駆動力を付与するとともに、前記第2の機構部にヘッドレスト本体を所定方向に移動するための前記駆動力を付与する単一のアクチュエータと、
所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が大きくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が大きくなるように、かつ、所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が小さくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が小さくなるように、乗員の頭部と前記ヘッドレスト本体との水平方向の距離であるバックセットが目標値となるまで前記第1の機構部により前記シートバックのリクライニング角度を変更させるとともに前記第2の機構部により前記ヘッドレスト本体を所定方向に移動させるように前記単一のアクチュエータの駆動力が前記第1の機構部及び前記第2の機構部に付与されるよう制御する制御部と、
を備える乗員保護装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記リクライニング角度が所定範囲にあるとき、前記第2の機構部により前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向にほぼ直線状に移動させる
請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記リクライニング角度が所定範囲にあるとき、前記第2の機構部により前記ヘッドレスト本体を、車両幅方向の軸を中心に前後方向に回転移動させる
請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項4】
乗員が着座するシートの背もたれを構成するシートバックのリクライニング角度を伝達された駆動力に応じて変更するリクライニング角度変更手段と、
前記シートバックの上端部に設けられたヘッドレスト本体を伝達された駆動力に応じて所定方向に移動するヘッドレスト移動手段と、
前記リクライニング角度変更手段にリクライニング角度の変更のための駆動力を付与するとともに、前記ヘッドレスト移動手段にヘッドレスト本体を所定方向に移動するための駆動力を付与する単一のアクチュエータと、
前記シートバックのリクライニング角度を検出するリクライニング角度検出手段と、
前記ヘッドレスト本体の前記所定方向への移動量を検出するヘッドレスト移動量検出手段と、
前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度と、あらかじめ定めた、乗員の頭部と前記ヘッドレスト本体との水平方向の距離であるバックセットの設定量とをもとに、前記ヘッドレスト本体の移動量を演算するヘッドレスト移動量演算手段と、
前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が制御開始時に所定範囲にない場合、該所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が大きくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が大きくなるように、かつ、所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が小さくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が小さくなるように、前記バックセットが目標値となるまで前記リクライニング角度変更手段により前記シートバックのリクライニング角度を変更させるとともに前記ヘッドレスト移動手段により前記ヘッドレスト本体が所定方向に移動されるよう前記単一のアクチュエータを制御し、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が制御開始時に所定範囲にある場合、前記ヘッドレスト移動量演算手段で演算されたヘッドレスト本体の移動量と前記ヘッドレスト移動量検出手段により検出されたヘッドレスト本体の移動量とに基づいて、前記バックセットが目標値となるまで前記ヘッドレスト移動手段によりヘッドレスト本体が所定方向へ移動されるよう前記単一のアクチュエータを制御する制御手段と、
を備える乗員保護装置。
【請求項5】
前記単一のアクチュエータを前記リクライニング角度変更手段の近傍に配置し、前記単一のアクチュエータの駆動力が歯車機構を介して前記リクライニング角度変更手段に伝達されるとともに、前記単一のアクチュエータの駆動力がトルクケーブルを介して前記ヘッドレスト移動手段へ伝達される
請求項4記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記単一のアクチュエータを前記リクライニング角度変更手段の近傍に配置し、前記単一のアクチュエータに接続された第1のトルクケーブルの端部と、前記ヘッドレスト移動手段に接続された第2のトルクケーブルの端部とを回転可能に結合するカップリング手段を前記シートバックの上部に設けた
請求項4記載の乗員保護装置。
【請求項7】
前記単一のアクチュエータを前記シートバックの上部に配置するとともに、前記ヘッドレスト本体にアクティブヘッドレスト機能部を設け、前記単一のアクチュエータにより前記ヘッドレスト本体を上下方向又は斜め上方へ移動可能とした
請求項4記載の乗員保護装置。
【請求項8】
乗員が着座するシートの背もたれを構成するシートバックのリクライニング角度を伝達された駆動力に応じて変更するリクライニング角度変更手段と、
前記シートバックの上端部に設けられたヘッドレスト本体を伝達された駆動力に応じて所定方向に移動するヘッドレスト移動手段と、
前記リクライニング角度変更手段及び前記ヘッドレスト移動手段に駆動力を付与する単一のアクチュエータと、
前記単一のアクチュエータから前記リクライニング角度変更手段及び前記ヘッドレスト移動手段への駆動力の伝達方向を切り換える切換手段と、
前記シートバックのリクライニング角度を検出するリクライニング角度検出手段と、
前記ヘッドレスト本体の車両前後方向への移動量を検出するヘッドレスト移動量検出手段と、
前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度と、あらかじめ定めた、乗員の頭部と前記ヘッドレスト本体との水平方向の距離であるバックセットの設定量とをもとに、前記ヘッドレスト本体の移動量を演算するヘッドレスト移動量演算手段と、
前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が制御開始時に所定範囲にない場合、該所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が大きくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が大きくなるように、かつ、所定範囲のリクライニング角度において該リクライニング角度が小さくなるにしたがって前記ヘッドレスト本体の前面部の車両前方への移動量が小さくなるように、前記バックセットが目標値となるまで前記リクライニング角度変更手段により前記シートバックのリクライニング角度を変更させるとともに前記ヘッドレスト移動手段により前記ヘッドレスト本体が所定方向に移動されるよう前記切換手段により前記単一のアクチュエータの駆動伝達方向を切り換えて該単一のアクチュエータを制御し、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が制御開始時に所定範囲にある場合、前記ヘッドレスト移動量演算手段で演算されたヘッドレスト本体の移動量と前記ヘッドレスト移動量検出手段により検出されたヘッドレスト本体の移動量とに基づいて、前記バックセットが目標値となるまで前記ヘッドレスト移動手段によりヘッドレスト本体が所定方向へ移動されるよう、前記切換手段により前記単一のアクチュエータの駆動伝達方向を切り換えて該単一のアクチュエータを制御する制御手段と、
を備える乗員保護装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記リクライニング角度が所定範囲にあるときに前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向にほぼ直線状に移動させる
請求項4乃至8のいずれかに記載の乗員保護装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記リクライニング角度が所定範囲にあるときに前記ヘッドレスト本体を、車両幅方向の軸を中心に前後方向に回転移動させる
請求項4乃至8のいずれかに記載の乗員保護装置。
【請求項11】
ブレーキペダルが踏み込まれたか否かを検出するブレーキペダル踏込検出手段をさらに備え、
前記ブレーキペダル踏込検出手段によってブレーキペダルが踏み込まれたことが検出された場合、前記制御手段が前記単一のアクチュエータの制御を開始する
請求項4乃至10のいずれかに記載の乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−224308(P2012−224308A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96146(P2011−96146)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】