説明

乗員拘束ベルト用ウェビング、シートベルト、シートベルト装置

【課題】 車両に装着される乗員拘束ベルトの剛性化及び軽量化の両立を図るのに有効な技術を提供する。
【解決手段】 車両に搭載されるシートベルト装置100において、車両乗員Cを拘束する長尺状のシートベルト110を構成するウェビングは、合成繊維からなる経糸及び緯糸が互いに直交して延在するように織り込まれるとともに、経糸及び緯糸のうちの少なくとも一方は、第1の繊維の外面に当該第1の繊維よりも融点が低い第2の繊維が付された繊維体が複数束ねられた合成繊維であって、150[℃]以上、180[sec]以上の処理条件下において第2の繊維にて融解した複数の繊維体が互いに熱溶着される熱溶着性の合成繊維を用いて構成されており、当該ウェビングの重さが60[g/m]以下、引張り強度が25[kN]以上、六角耐磨耗保持率が70[%]以上とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両において事故の際に乗員を拘束するために用いられる乗員拘束ベルトの構築技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の乗員拘束ベルトを構築する従来技術が、例えば下記特許文献1に記載されている。この特許文献1では、車両乗員を拘束する長尺状の乗員拘束ベルトとしてのシートベルトに関し、当該シートベルトに利用する繊維束やその製織構成などの改良によって、コンパクト性及び快適性などに優れたシートベルトを構築する可能性が提示されている。
【特許文献1】特開2004−315984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種のシートベルトの設計に際しては、車両事故の際に乗員を拘束可能な剛性を有する基本性能が要請されるが、更に上記特許文献1に記載のようなシートベルト装着時の快適性や、リトラクタからのシートベルト引き出し性を考慮した場合、長尺であるシートベルトの軽量化が要請される。そこで、シートベルトの軽量化を図るべくシートベルト繊維の繊維本数を減少させることが考えられる。しかしながら、単に繊維本数を減少させる方法では、軽量化が可能となる反面、繊維本数の減少による剛性低下が懸念されることとなり、乗員を拘束するという本来の基本性能を全うするのが難しい。
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、車両に装着される乗員拘束ベルトの剛性化及び軽量化の両立を図るのに有効な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明が構成される。なお、本発明は、自動車をはじめとする車両において、乗員を拘束する手段として用いられるシートベルトや安全ベルトの構築技術に適用され得る。
【0005】
(本発明の第1発明)
前記課題を解決する本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの乗員拘束ベルト用ウェビングである。
本発明の乗員拘束ベルト用ウェビングは、シートベルトリトラクタによって巻き取り及び巻き出しが行われる長尺状のシートベルトや、航空機用の安全ベルトといった乗員拘束ベルトして用いられる。この乗員拘束ベルト用ウェビングは、合成繊維からなる経糸(「縦糸」ともいう)及び緯糸(「横糸」ともいう)が互いに直交して延在するように織り込まれたウェビングとして構成される。
【0006】
特に、本発明の乗員拘束ベルト用ウェビングでは、経糸及び緯糸のうちの少なくとも一方は、第1の繊維の外面に当該第1の繊維よりも融点が低い第2の繊維が付された繊維体が複数束ねられた合成繊維であって、150[℃]以上、180[sec(秒)]以上の処理条件下において第2の繊維にて融解した複数の繊維体が互いに熱溶着される熱溶着性の合成繊維を用いて構成される。ここでいう繊維体の構成には、第1の繊維の外面に部分的に第2の繊維が付される態様や、第1の繊維の外面の全体を第2の繊維の層で覆う二層構造の態様などが包含される。このような熱溶着性の合成繊維は、「熱溶着型合成繊維」或いは「熱溶着糸」とも称呼される。なお、本発明には、経糸及び緯糸のいずれかを熱溶着性の合成繊維を用いて構成する態様や、経糸及び緯糸の両方を熱溶着性の合成繊維を用いて構成する態様が包含される。この場合、経糸や緯糸の一部または全部を熱溶着性の合成繊維とすることができる。この熱溶着性の合成繊維として、具体的にはポリエステル系繊維を用いることができる。
【0007】
本発明の乗員拘束ベルト用ウェビングでは、経糸及び緯糸のうちの少なくとも一方を、150[℃]以上、180[sec]以上の処理条件下において第2の繊維にて融解した複数の繊維体が互いに熱溶着される熱溶着性の合成繊維を用いて構成することによって、ウェビングが前記の処理条件において加熱されると、熱溶着性の合成繊維のうち融点の低い第2の繊維(低融点繊維)が優先的に融解して、隣接する繊維体同士、すなわち高融点繊維である第1の繊維が互いに溶着される。すなわち、熱溶着性の合成繊維に含まれる低融点の第2の繊維は、第1の繊維同士を接着する一種のバインダーとしての作用効果を奏することとなる。これにより、繊維体同士が互いに溶着されることで、ウェビング全体としての剛性が高まることとなる。従って、熱溶着性の合成繊維を含む糸によって構成されるウェビングの剛性が高まる分、経糸や緯糸の繊維本数を予め間引くことで軽量化を図ることができる。これによって、重量が60[g/m]以下、引張り強度が25[kN]以上、六角耐磨耗保持率が70[%]以上の乗員拘束ベルト用ウェビングが得られることとなり、剛性及び軽量性を兼ね備えた乗員拘束ベルトを提供することができる。このとき、ウェビングの引張り強度(強力)は、JIS L1096 8.12.1A法に準拠した方法によって測定することができ、ウェビングの六角耐磨耗保持率は、JIS D4604法に準拠した方法によって測定することができる。
【0008】
(本発明の第2発明)
前記課題を解決する本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの乗員拘束ベルト用ウェビングである。
本発明のこの乗員拘束ベルト用ウェビングは、請求項1に記載の構成において、緯糸の1インチ(inch)当たりの打ち込み本数が20本以下となるように構成されている。
この種のウェビングの断面構造に関しては、直線状に延在する緯糸に対し、経糸は、曲線状のいわゆる「クリンプ(なみうち現象)」を形成するようにして延在する。これは、経糸を交互に開合させた部位へ緯糸を打ち込むことによって織り上げるという、織物の織り方法(織り構造)に起因する特有の現象である。このような構成において、緯糸の打ち込み本数を20本以下、更に好ましくは17本以下に抑えることによって、曲線状のクリンプの蛇行形状が穏やかになるようにすることができ、曲線部分の応力集中を緩和することができる。これにより、ウェビングの剛性化及び軽量化の両立に関し、更なる性能向上を図ることが可能となる。
【0009】
(本発明の第3発明)
前記課題を解決する本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの乗員拘束ベルト用ウェビングである。
本発明のこの乗員拘束ベルト用ウェビングは、請求項1または請求項2に記載の構成において、更に経糸及び緯糸のうちの少なくとも一方が、撚糸からなる糸材、或いは無撚糸を交絡させた糸材を用いて構成されている。本発明には、経糸及び緯糸のいずれかを撚糸からなる糸材、或いは無撚糸を交絡させた糸材を用いて構成する態様や、経糸及び緯糸の両方を撚糸からなる糸材、或いは無撚糸を交絡させた糸材を用いて構成する態様が包含される。このような糸材を用いることによって、繊維間の絡み合いが増え抱合力が向上するため、ウェビングの剛性をより高めることが可能となる。特に、無撚糸を交絡させた糸材を用いれば、撚糸からなる糸材を用いるよりも材料コストを抑えることが可能となり、乗員拘束ベルト用ウェビングの製造コスト低減を図ることが可能となる。
【0010】
(本発明の第4発明)
前記課題を解決する本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりのシートベルトである。
本発明のシートベルトは、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の乗員拘束ベルト用ウェビングを用いて構成された乗員拘束ベルトである。このような構成によれば、シートベルトの剛性化及び軽量化の両立を図ることが可能とされる。
【0011】
(本発明の第5発明)
前記課題を解決する本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりのシートベルト装置である。
本発明のシートベルト装置は、請求項4に記載のシートベルト、シートベルトリトラクタ、バックル、タングを少なくとも備える。シートベルトリトラクタは、シートベルトの巻き取り及び巻き出しを行う機能を有し、リトラクタハウジングにスプールを収容する構成とされる。このシートベルトリトラクタは、スプールを駆動する駆動機構や当該駆動を制御する制御機構を備えていてもよい。そして、シートベルトに設けられたタング(トング)は、シートベルト装着時において車両に対し固定されたバックルに係合するようになっている。このような構成によれば、シートベルトの剛性化及び軽量化が両立されたシートベルト装置を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、合成繊維からなる経糸及び緯糸が互いに直交して延在するように織り込まれた乗員拘束ベルト用ウェビングに関し、特に経糸及び緯糸のうちの少なくとも一方を熱溶着性の合成繊維を用いて構成することによって、乗員拘束ベルトの剛性化及び軽量化の両立を図るのに有効な技術が提供されることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。
本実施の形態では、自動車に搭載されるシートベルト装置に係り、当該シートベルト装置を構成するのに最適なシートベルト及びその製造方法を提案するものである。
【0014】
まず、図1を参照しながら、本発明における「シートベルト装置」の一実施の形態であるシートベルト装置100の構成について説明する。この図1には、本発明における一実施の形態のシートベルト装置100の概略構成が示される。
図1に示すように、本実施の形態のシートベルト装置100は、車両に搭載される車両用のシートベルト装置であり、シートベルトリトラクタ101、シートベルト110、タング(トング)104、バックル106等を主体に構成されている。
【0015】
本実施の形態のシートベルトリトラクタ101は、リトラクタハウジング101aに少なくとも円筒状のスプール102を収容する構成とされ、このスプール102を介してシートベルト110の巻き取り及び巻き出しを可能とする。このスプール102は、バネやモータなどを用いて構成される駆動手段によって駆動される。このシートベルトリトラクタ101は、図1に示す例では、車両のBピラー10内の収容空間に装着されている。このシートベルトリトラクタ101が、本発明における「シートベルトリトラクタ」に対応している。
【0016】
本実施の形態のシートベルト110は、車両乗員Cの拘束または拘束解除に用いられる長尺状のベルトであって、合成繊維材料で作った帯状のもの(ウェビング)を長尺状としたベルトである。このシートベルト110が、本発明における「乗員拘束ベルト」、「シートベルト」に対応している。このシートベルト110は、車両に対し固定されたシートベルトリトラクタ101から引き出され、車両乗員Cの乗員肩部領域に設けられたショルダーガイドアンカー103を経由し、タング(トング)104を通ってアウトアンカー105に連結されている。そして、車両に対し固定されたバックル106にタング(トング)104が挿入される(係合する)ことによって、当該シートベルト110が車両乗員Cに対しシートベルト装着状態となる。このタング104が本発明における「タング」に対応しており、バックル106が本発明における「バックル」に対応している。
【0017】
本発明者らは、実用性に優れたシートベルトを構築するべく、後述する所定の製織条件にしたがってシートベルト用ウェビングを製織し、当該シートベルト用ウェビングのウェビング物性についての評価を実施した。このシートベルト用ウェビングが、本発明における「乗員拘束ベルト用ウェビング」に相当する。
【0018】
ここで、図1中のシートベルト110を構成するシートベルト用ウェビングの製織条件及びウェビング物性に関し、本実施の形態(実施例−1〜実施例−4)及び比較例についての一覧表が図2に示される。これら本実施の形態及び比較例に記載のシートベルト用ウェビングは、いずれも合成繊維からなる縦糸(「経糸」ともいう)及び横糸(「緯糸」ともいう)が互いに直交して延在するように織り込まれた織物として構成される。特に、本実施の形態(実施例−1〜実施例−4)では、熱溶着性の熱溶着糸を横糸に用いる一方、比較例では、当該熱溶着糸を横糸に用いていない。
【0019】
図2に示すように、「実施例−1」では、1670[dtex(デシテックス)]で144[f(フィラメント)]の縦糸の繊維束を、通常品(縦糸本数が280本のもの)から34本を間引きして軽量化したものを第1繊維束として用いた。この間引きにより縦糸本数が246本とされている。この第1繊維束としては、無撚糸を交絡させた糸材を用いている。また、560[dtex]で96[f]の高融点ポリエステル繊維と、280[dtex]で16[f]の低融点ポリエステル繊維、具体的には210[℃]、180[sec]の処理条件下において熱収縮率30[%]である熱溶着糸(本発明における「熱溶着性の合成繊維」に対応する繊維)とによる横糸を第2繊維束として用いた。なお、この横糸における高融点ポリエステル繊維と低融点ポリエステル繊維との配合に関しては、例えば560[dtex]で96[f]の高融点ポリエステル繊維の1本に対し、280[dtex]で16[f]の低融点ポリエステル繊維(高収縮糸)の1本を配合することができる。この場合、高融点ポリエステル繊維と低融点ポリエステル繊維(高収縮糸)との配合比率は、2:1に設定される。
【0020】
繊維の熱収縮率は、繊維の長手寸法方向に関する収縮の度合いとされる。この熱溶着糸としては、150[℃]以上、180[sec]以上の処理条件下において熱収縮率20〜60[%]のものを適宜選択して用いることができる。繊維の熱収縮率、すなわち長手寸法方向に関する収縮の度合いは、前記の処理条件下において得られる((処理後の長さ−処理前の長さ)/処理後の長さ)×100によって示すことができ、例えばJIS L 1909に準拠した処理方法又は測定方法を用いて導出される。
【0021】
なお、横糸を構成する前記の高融点ポリエステル繊維は、典型的にはテレフタル酸とエチレングリコールを用いたエステル化反応によって製造されたポリエチレンテレフタレートの重合体からなる。これに対し、横糸を構成する前記の低融点ポリエステル繊維(熱溶着糸)は、典型的にはポリエチレンテレフタレートの重合体と、テレフタル酸及びイソフタル酸とエチレングリコールを用いたエステル化反応によって製造されたポリエチレンイソフタレートと前記ポリエチレンテレフタレートの共重合体と、からなる。
【0022】
ここで、本実施の形態の低融点ポリエステル繊維(熱溶着糸)の概要が図3に示される。図3に示すように、この低融点ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートの重合体の外面全体がポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートの共重合体によって被覆された繊維体を構成する。すなわち、この低融点ポリエステル繊維は、芯部となる高融点のポリエチレンテレフタレートの重合体が、鞘部となる低融点のポリエチレンイソフタレートとポリエチレンテレフタレートの共重合体によって取り囲まれた二重構造の共重合体として構成される。この低融点ポリエステル繊維が、本発明における「第1の繊維の外面に当該第1の繊維よりも融点が低い第2の繊維が付された繊維体」に相当する。本実施の形態では、この低融点ポリエステル繊維(モノフィラメント)が複数束になった、いわゆるマルチフィラメントを横糸の一部に用いている。このような横糸によって形成されたウェビングが加熱されると、ポリエチレンテレフタレートの重合体よりも相対的に融点が低いポリエチレンイソフタレートとポリエチレンテレフタレートの共重合体(低融点繊維)が優先的に融解して、高融点繊維であるポリエチレンテレフタレートが溶着されることで隣接するモノフィラメント同士及びマルチフィラメント同士が互いに溶着される。すなわち、低融点ポリエステル繊維中の低融点のポリエチレンイソフタレートとポリエチレンテレフタレートの共重合体は、繊維同士を接着する一種のバインダーとしての作用効果を奏することとなる。従って、隣接するモノフィラメント同士及びマルチフィラメント同士が互いに溶着されることで、ウェビング全体としての剛性が高まることとなる。ここでいうポリエチレンテレフタレートの重合体が、本発明における「第1の繊維」に相当し、ポリエチレンイソフタレートとポリエチレンテレフタレートの共重合体が、本発明における「第1の繊維よりも融点が低い第2の繊維」に相当する。
【0023】
なお、この低融点ポリエステル繊維においては、ポリエチレンイソフタレート(イソフタル酸)の共重合比率、すなわち使用量を増やすほどに原糸の融点が低くなる。例えばポリエチレンイソフタレートの共重合比率が10[%](ポリエチレンテレフタレートが90[%])の場合では、低融点ポリエステル繊維の融点が230[℃]とされ、ポリエチレンイソフタレートの共重合比率が30[%](ポリエチレンテレフタレートが70[%])の場合では、低融点ポリエステル繊維の融点が160[℃]とされる。本実施の形態では、特にポリエチレンイソフタレートの共重合比率が30[%]で融点が160[℃]の低融点ポリエステル繊維を熱溶着糸として用いている。
【0024】
そして、上記実施例−1の第1繊維束及び第2繊維束を、図2中に示す製織条件に基づいてニードル型織機にて製織加工し、シートベルト用ウェビング(評価用ウェビング)を得た。なお、この製織加工では、横糸(緯糸)の1インチ(inch)当たりの打ち込み本数を19本とした。その後、この評価用ウェビングに対し必要に応じて染色処理及び予備乾燥処理を行った後、熱安定化処理を行った。この熱安定化処理では、評価用ウェビングを210[℃]近傍に制御された加熱処理炉中を約180[sec(秒)]で通過させた。なお、この熱安定化処理における処理条件は、150[℃]以上、180[sec]以上の範囲において適宜選択可能であり、例えば150[℃]、300[sec]という処理条件を選択することもできる。更に、図2中のウェビング物性を測定するに際し、評価用ウェビングを既定寸法の試験片に裁断し、当該試験片を自然乾燥した後、所定の恒温恒湿条件下(20℃、65%RH)に曝した。
この実施例−1では、第1繊維束における縦糸の間引き等によって、シートベルト用ウェビング全体としての単位長さあたりの重量が52.80[g/m]とされ、軽量化率が14.29[%]とされた。
【0025】
また、「実施例−2」では、1670[dtex]で144[f]の縦糸の繊維束を、通常品(縦糸本数が280本のもの)から34本を間引きして軽量化したものを第1繊維束として用いた。この間引きにより縦糸本数が246本とされている。この第1繊維束としては、無撚糸を交絡させた糸材を用いている。また、第2繊維束としては実施例−1と同様のものを用いたうえで、横糸の1インチ当たりの打ち込み本数を20本とした。その他の条件等に関しては、実施例−1と同様とした。
この実施例−2では、第1繊維束における縦糸の間引き等によって、シートベルト用ウェビング全体としての単位長さあたりの重量が53.73[g/m]とされ、軽量化率が12.78[%]とされた。
【0026】
また、「実施例−3」では、1670[dtex]で144[f]の縦糸の繊維束を、通常品(縦糸本数が280本のもの)から26本を間引きして軽量化したものを第1繊維束として用いた。この間引きにより縦糸本数が254本とされている。この第1繊維束としては、無撚糸を交絡させた糸材を用いている。また、第2繊維束としては実施例−1と同様のものを用いたうえで、横糸の1インチ当たりの打ち込み本数を17本とした。その他の条件等に関しては、実施例−1と同様とした。
この実施例−3では、第1繊維束における縦糸の間引きや第2繊維束における打込み本数の減少等によって、シートベルト用ウェビング全体としての単位長さあたりの重量が54.02[g/m]とされ、軽量化率が12.31[%]とされた。
【0027】
また、「実施例−4」では、1670[dtex]で144[f]の縦糸の繊維束を、通常品(縦糸本数が280本のもの)から26本を間引きして軽量化したものを第1繊維束として用いた。この間引きにより縦糸本数が254本とされている。この第1繊維束としては、無撚糸を交絡させた糸材を用いている。また、第2繊維束としては実施例−1と同様のものを用いたうえで、横糸の1インチ当たりの打ち込み本数を18本とした。その他の条件等に関しては、実施例−1と同様とした。
この実施例−4では、第1繊維束における縦糸の間引きや第2繊維束における打込み本数の減少等によって、シートベルト用ウェビング全体としての単位長さあたりの重量が54.59[g/m]とされ、軽量化率が11.38[%]とされた。
【0028】
また、「比較例」では、1670[dtex]で144[f]の縦糸の繊維束であって、縦糸本数が通常(280本)のものを第1繊維束として用いた。この第1繊維束としては、無撚糸を交絡させた糸材を用いている。また、830[dtex]で96[f]の横糸の繊維束であって、実施例−1〜実施例−4のような熱溶着糸が含まれないものを第2繊維束として用い、この第2繊維束における打込み本数を19本とした。
この比較例において、シートベルト用ウェビング全体としての単位長さあたりの重量は60.80[g/m]とされ、この重量を軽量化基準として規定した。
【0029】
ここで、本発明者らは、上記製織条件に基づいて製織した実施例−1〜実施例−4及び比較例に記載のシートベルト用ウェビングにつき、ウェビング物性を評価するべく、以下に示す測定項目の測定を実施した。なお、本発明者らは、各測定を各ウェビングごとに少なくとも5個の試験片を準備して行い、測定結果につき再現性があることを確認した。
【0030】
(測定項目)
本実施の形態では、シートベルト用ウェビングのウェビング物性を評価する測定項目として、「引張り強度(「強力」或いは「強度」ともいう)」、「六角耐磨耗保持率」を使用した。
【0031】
(強力の測定)
本実施の形態では、ウェビングの引張り強度(強力)を、JIS L1096 8.12.1A法に準拠した方法によって測定した。このウェビングの引張り強度が例えば25[kN]を上回るように設計することによって、シートベルトに必要とされる所望の耐荷重性を得ることが可能とされる。
【0032】
(六角耐磨耗保持率の測定)
本実施の形態では、ウェビングの六角耐磨耗保持率を、JIS D4604法に準拠した方法によって測定した。このウェビングの六角耐磨耗保持率が例えば70[%]を上回るように設計することによって、シートベルトに必要とされる所望の耐摩耗性を得ることが可能とされる。
【0033】
(評価項目)
次に、本発明者らは、実施例−1〜実施例−4及び比較例に記載の各シートベルト用ウェビングを上記測定結果に基づいて評価した。この評価項目として、ウェビングの「軽量性」、「強度」、「耐摩耗性」等を用いた。
【0034】
図2に示すように、実施例−1のウェビングは、第1繊維束における34本の縦糸の間引きによって比較例に対する軽量化率が14.29[%]となり、特に軽量性に関し突出して優れていることが確認された。また、その他の引張り強度や六角耐磨耗保持率に関しては、比較例よりも若干低下しているものの、いずれも所定のレベルである引張り強度25[kN]以上、六角耐磨耗保持率70[%]以上を満足するものであり、強度及び耐摩耗性に関しても優れていることが確認された。
【0035】
また、実施例−2のウェビングは、第1繊維束における34本の縦糸の間引きによって比較例に対する軽量化率が12.78[%]となり、軽量性に関し優れていることが確認された。また、引張り強度に関しては、比較例よりも若干低下しているものの、所定のレベルである引張り強度25[kN]以上を満足するものであり、強度に関しても優れていることが確認された。更に、六角耐磨耗保持率が83.43[%]であり比較例を上回っていることから、耐摩耗性に関し優れていることが確認された。
【0036】
また、実施例−3のウェビングは、第1繊維束における26本の縦糸の間引き、及び第2繊維束における横糸の1インチ当たりの打込み本数の低減(17本)によって、比較例に対する軽量化率が12.31[%]となり、軽量性に関し優れていることが確認された。また、その他の引張り強度や六角耐磨耗保持率に関しては、比較例よりも若干低下しているものの、いずれも所定のレベルである引張り強度25[kN]以上、六角耐磨耗保持率70[%]以上を満足するものであり、強度及び耐摩耗性に関しても優れていることが確認された。
【0037】
また、実施例−4のウェビングは、第1繊維束における26本の縦糸の間引き、及び第2繊維束における横糸の1インチ当たりの打込み本数の低減(18本)によって、比較例に対する軽量化率が11.38[%]となり、軽量性に関し優れていることが確認された。また、引張り強度に関しては、比較例よりも若干低下しているものの、所定のレベルである引張り強度25[kN]以上を満足するものであり、強度に関しても優れていることが確認された。更に、六角耐磨耗保持率が83.48[%]であり比較例を上回っていることから、耐摩耗性に関し優れていることが確認された。
【0038】
(総合評価)
上記評価結果を踏まえ、図2中では、実施例−1〜実施例−4のシートベルト用ウェビングは、軽量性、強度、耐摩耗性の全般にわたって優れたシートベルトを構成することが可能であるとして、その総合評価を「◎」とし、比較例のシートベルト用ウェビングは、軽量性、強度、耐摩耗性についての総合的なレベルに関し所望のレベルを下回るものとして、その総合評価を「×」とした。特に、比較例のシートベルト用ウェビングは、重量が60[g/m]を上回ることから軽量性に難がある。
【0039】
以上のように、本実施の形態によれば、軽量性、強度、耐摩耗性等の実用性に優れたシートベルト(ウェビング)、及び当該シートベルトを用いて構成されたシートベルト装置が提供される。
【0040】
すなわち、本実施の形態において製織した実施例−1〜実施例−4のシートベルト用ウェビングは、比較例のシートベルト用ウェビングに比して、重量、引張り強度、六角耐磨耗保持率の全般にわたって優れた性能を有するものであり、シートベルトの強度低下を抑えたうえで軽量化を図るのに有効である。
具体的には、実施例−1〜実施例−4では、高融点ポリエステル繊維に対し、210[℃]以上、180[sec]以上の処理条件下において融解して繊維溶着に寄与する熱溶着性の低融点ポリエステル繊維(熱溶着糸)を配合した横糸(緯糸)を用いているため、当該処理条件において加熱されると、熱溶着性の合成繊維のうち融点の低いポリエチレンイソフタレートが優先的に融解し、その接着(バインダー)作用によって隣接する繊維体同士が互いに溶着される。これにより、高融点ポリエステル繊維同士が互いに溶着されることで、ウェビング全体としての剛性が高まることとなる。従って、熱溶着性の合成繊維を含む糸によって構成されるウェビングの剛性が高まる分、経糸や緯糸の繊維本数を予め間引くことで軽量化を図ることができる。これによって、重量が60[g/m]以下、引張り強度が25[kN]以上、六角耐磨耗保持率が70[%]以上のシートベルト用ウェビングが得られることとなり、剛性及び軽量性を兼ね備えたシートベルトを提供することができる。
【0041】
なお、本発明では、150[℃]以上、180[sec]以上の処理条件下において低融点繊維が融解して高融点繊維を溶着する熱溶着性の合成繊維を適宜用いることによって、重量が60[g/m]以下、引張り強度が25[kN]以上、六角耐磨耗保持率が70[%]以上の範囲内の物性を有するシートベルト用ウェビングが少なくとも得られればよく、縦糸や横糸に用いる繊維の種類、処理条件等は、必要に応じて適宜変更可能である。上記実施の形態では、高融点ポリエステル繊維に低融点ポリエステル繊維(熱溶着糸)を配合して横糸を構成したが、高融点繊維や低融点繊維の種類、またこれら高融点繊維と低融点繊維との組み合わせや配合比率等は、必要に応じて適宜変更可能である。
【0042】
また、本実施の形態において製織した実施例−1〜実施例−4のシートベルト用ウェビングでは、撚糸からなる糸材、或いは無撚糸を交絡させた糸材を用いて縦糸(経糸)を構成することができる。これによって、繊維間の絡み合いが増え抱合力が向上するため、ウェビングの剛性をより高めることが可能となる。特に、無撚糸を交絡させた糸材を用いれば、撚糸からなる糸材を用いるよりも材料コストを抑えることが可能となり、ウェビングの製造コスト低減を図ることが可能となる。
【0043】
また、この種のウェビングの断面構造に関しては、直線状に延在する緯糸に対し、経糸は、曲線状のいわゆる「クリンプ(なみうち現象)」を形成するようにして延在する。これは、経糸を交互に開合させた部位へ緯糸を打ち込むことによって織り上げるという、織物の織り方法(織り構造)に起因する特有の現象である。そこで、実施例−1〜実施例−4のシートベルト用ウェビングの如く、横糸(緯糸)の1インチ当たりの打ち込み本数を20以下に抑えることによって、更には実施例−3や実施例−4のように1インチ当たりの打ち込み本数を17本や18本に抑えることによって、曲線状のクリンプの蛇行形状が穏やかになるようにすることができ、曲線部分の応力集中を緩和することができる。これにより。ウェビングの剛性化及び軽量化の両立に関し、更なる性能向上を図ることが可能となる。なお、本発明では、横糸(緯糸)の1インチ当たりの打ち込み本数を20本以下の範囲内において適宜設定することができ、また熱溶着性の合成繊維を用いることで所望のウェビング物性が得られる場合には、横糸の1インチ当たりの打ち込み本数が20本を上回るように設定することもできる。
【0044】
(他の実施の形態)
なお、本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0045】
上記実施の形態では、縦糸(経糸)及び横糸(緯糸)のうち横糸のみを、熱溶着性の合成繊維を用いて構成する場合について記載したが、本発明では、横糸のみ、或いは縦糸及び横糸の両方を、熱溶着性の合成繊維を用いて構成することもできる。
【0046】
また、上記実施の形態では、縦糸(経糸)及び横糸(緯糸)のうち縦糸のみを、無撚糸を交絡させた糸材を用いて構成する場合について記載したが、本発明では、横糸のみ、或いは縦糸及び横糸の両方を、撚糸からなる糸材、或いは無撚糸を交絡させた糸材を用いて構成することもできる。また、本発明では、熱溶着性の合成繊維を用いることで所望のウェビング物性が得られる場合には、撚糸からなる糸材、或いは無撚糸を交絡させた糸材を用いることなく、縦糸及び横糸を構成してもよい。
【0047】
また、上記実施の形態では、自動車の運転席用のシートベルト装置100について記載したが、本発明は、自動車の運転席をはじめ助手席や後部席の乗員を拘束するシートベルトの構成や、自動車以外の飛行機、船舶等に装着されるシートベルトの構成に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明における一実施の形態のシートベルト装置100の概略構成を示す図である。
【図2】図1中のシートベルト110を構成するシートベルト用ウェビングの製織条件及びウェビング物性に関し、本実施の形態(実施例−1〜実施例−4)及び比較例についての一覧表である。
【図3】本実施の形態の低融点ポリエステル繊維(熱溶着糸)の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
100 シートベルト装置
101 シートベルトリトラクタ
102 スプール
103 ショルダーガイドアンカー
104 タング(トング)
105 アウトアンカー
106 バックル
110 シートベルト(ウェビング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両乗員を拘束する長尺状の乗員拘束ベルトを構成する乗員拘束ベルト用ウェビングであって、
合成繊維からなる経糸及び緯糸が互いに直交して延在するように織り込まれるとともに、前記経糸及び緯糸のうちの少なくとも一方は、第1の繊維の外面に当該第1の繊維よりも融点が低い第2の繊維が付された繊維体が複数束ねられた合成繊維であって、150[℃]以上、180[sec]以上の処理条件下において前記第2の繊維にて融解した複数の前記繊維体が互いに熱溶着される熱溶着性の合成繊維を用いて構成されており、当該ウェビングの重さが60[g/m]以下、引張り強度が25[kN]以上、六角耐磨耗保持率が70[%]以上であることを特徴とする乗員拘束ベルト用ウェビング。
【請求項2】
請求項1に記載の乗員拘束ベルト用ウェビングであって、
前記緯糸の1インチ当たりの打ち込み本数が20本以下となるように構成されていることを特徴とする乗員拘束ベルト用ウェビング。
【請求項3】
請求項1または2に記載の乗員拘束ベルト用ウェビングであって、
前記経糸及び緯糸のうちの少なくとも一方が、撚糸からなる糸材、或いは無撚糸を交絡させた糸材を用いて構成されていることを特徴とする乗員拘束ベルト用ウェビング。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の乗員拘束ベルト用ウェビングを用いて構成された前記乗員拘束ベルトとしてのシートベルト。
【請求項5】
請求項4に記載のシートベルトと、
前記シートベルトの巻き取り及び巻き出しを行うシートベルトリトラクタと、
車両に対し固定されたバックルと、
前記シートベルトに設けられ、シートベルト装着時に前記バックルに係合するタングと、
を備えることを特徴とするシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−145198(P2007−145198A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342920(P2005−342920)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】