説明

乗客コンベアのくし歯破損検出装置

【課題】くし歯の破損を確実に検出することのできる乗客コンベアのくし歯破損検出装置を得る。
【解決手段】この発明に係るくし歯破損検出装置は、一対の乗降口2の間を循環走行し、踏み面11Aを有する踏段11と、乗降口2の床を構成する床部材15の端部を構成し、踏み面11Aにかみ合い可能なくし歯22を有するくし20とを備える乗客コンベアのくし歯22の破損を検出するものであり、くし歯22の内部に設けられ、くし歯22の硬さよりも脆弱な硬さの導電性部材31と、導電性部材31に通電する電源と、導電性部材31の通電状態の変化に基づいて、くし歯22の破損を検出する破損検出手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗客コンベアのくし歯の破損を検出する乗客コンベアのくし歯破損検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエスカレータの櫛歯破損検出装置は、踏段の上面に形成された複数のクリートと、乗降板から延在すると共に乗降板に沿って並設した複数のコムと、各コムの先端に設けてクリート内を摺動する櫛歯とを備えたエスカレータにおいて、各櫛歯内に設けられ互いに直列に配列された複数の導電線と、この各導電線の破線を検出する断線検出装置とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−25575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のエスカレータの櫛歯破損検出装置は、櫛歯が破損しても導電線が柔軟性を有するので、断線しない場合があり、櫛歯が破損しているのにもかかわらず、櫛歯の破損を検出できないことがあった。
【0005】
この発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、くし歯の破損を確実に検出することのできる乗客コンベアのくし歯破損検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る乗客コンベアのくし歯破損検出装置は、一対の乗降口の間を循環走行し、踏み面を有する踏段と、乗降口の床を構成する床部材の端部を構成し、踏み面にかみ合い可能なくし歯を有するくしとを備える乗客コンベアのくし歯の破損を検出するものであって、くし歯の内部に設けられ、くし歯の硬さよりも脆弱な硬さの導電性部材と、導電性部材に通電する電源と、導電性部材の通電状態の変化に基づいて、くし歯の破損を検出する破損検出手段とを備えている。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る乗客コンベアのくし歯破損検出装置によれば、導電性部材には、くし歯の硬さよりも脆弱な硬さのものを用いているので、くし歯の破損に伴って、破損部位に対応する導電性部材も確実に破損する。これにより、導電性部材の通電状態が変化するので、くし歯が破損したときには、くし歯の破損を破損検出手段により確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の一実施の形態に係る乗客コンベアのくし歯破損検出装置が設けられるエスカレータの模式図である。
【図2】この発明の一実施の形態に係る乗客コンベアのくし歯破損検出装置が設けられるエスカレータの一方の乗降口付近の要部上面図である。
【図3】この発明の一実施の形態に係る乗客コンベアのくしを含む乗降口付近の要部斜視図であり、欄干の図示を省略している。
【図4】この発明の一実施の形態に係る乗客コンベアのくし歯破損検出装置を構成する導電性部材がくし歯に埋め込まれたくしの斜視図である。
【図5】図5は図4のA部拡大図である。
【図6】この発明の一実施の形態に係る乗客コンベアのくし歯破損検出装置のシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
図1はこの発明の一実施の形態に係る乗客コンベアのくし歯破損検出装置が設けられるエスカレータの模式図、図2はこの発明の一実施の形態に係る乗客コンベアのくし歯破損検出装置が設けられるエスカレータの一方の乗降口付近の要部上面図である。図3はこの発明の一実施の形態に係る乗客コンベアのくしを含む乗降口付近の要部斜視図であり、欄干の図示を省略している。
【0011】
乗客コンベアとしてのエスカレータ1は、上下階に設けられた乗降口2の間に架設されたトラス3と、上階側の乗降口2の下部に位置するトラス3内に設けられた機械室4Aと、下階側の乗降口2の下部に位置するトラス3内に設けられた機械室4Bと、機械室4Aに配設された駆動機5と、機械室4Aに配設された駆動スプロケット6と、駆動スプロケット6に同軸に連結され、駆動スプロケット6の回転に連動して回転する上部スプロケット8Aと、駆動機5と駆動スプロケット6との間を連結し、駆動機5の駆動に連動させて駆動スプロケット6を回転させる駆動鎖7と、機械室4Bに設けられた下部スプロケット8Bとを備えている。
【0012】
また、エスカレータ1は、上部スプロケット8A及び下部スプロケット8Bに無端状に巻き掛けられて駆動機5の駆動力により、循環走行する踏段鎖10と、図2及び図3にも示されるように、踏み面11Aを有し、踏段鎖10に無端状に連結された複数の踏段11と、踏段11の横幅方向の両側に立設された一対の欄干13と、各乗降口2の床を形成する床部材15と、駆動機5の駆動を制御して踏段11を循環移動させる制御部19を有するエスカレータ制御盤18とを備えている。
【0013】
踏段鎖10に連結された踏段11は、踏段鎖10の走行に連動して、一対の乗降口2間を循環走行する。
そして、図2及び図3に示されるように、踏段11の踏み面11Aには、凸部11a及び凹部11bが奥行き方向全域に亘って延在するように幅方向に交互に配列されている。
【0014】
一方の乗降口2の床部材15は、図示しない床板、他方の乗降口2側に配置される床板の部位に設けられるくし板16、及び他方の乗降口2側に配置されるくし板16の部位に設けられて床部材15の端部を構成するくし20により構成されている。
なお、踏段11は、くし20及びくし板16の直下を通過する経路を循環移動経路の一部に有する。床部材15の端部とは、上方から見て、踏段11と床部材15との境界側に位置する床部材15の部位をいう。
【0015】
他方の乗降口2の床部材15も、一方の乗降口2の床部材15と同様に構成される。
【0016】
次いで、くし20の構成について説明する。
図4はこの発明の一実施の形態に係る乗客コンベアのくし歯破損検出装置を構成する導電性部材がくし歯に埋め込まれたくしの斜視図、図5は図4のA部拡大図である。
【0017】
くし20は、図4及び図5に示されるように、概略矩形平板状の取付部21と、一方の長辺縁部から長辺の長手方向に互いに間隔をかけて突出するように設けられる複数のくし歯22とを備えている。くし歯22の互いの間の間隔は、凸部11aまたは凹部11bの形成間隔に等しくなっている。また、取付部21には、一対のネジ挿通孔21aが、長辺の長さ方向に互いに間隔をあけて形成されている。なお、各くし歯22の内部には、後述の導電性部材31が埋め込まれている。
【0018】
そして、4つのくし20が、図2に示されるように、くし歯22の先端が乗降口2の先端に配置されるように、踏段11の幅方向に一致する乗降口2の幅方向に配置されている。そして、4つのくし20は、ネジ挿通孔21aに挿通されてくし板16に螺合されたネジ23により、くし板16に固定されている。
このとき、踏段11の凸部11aが、互いに隣接するくし歯22の間を通過するように、乗降口2の幅方向に関するくし20の位置が設定されている。即ち、くし歯22は、踏み面11Aと非接触状態にかみ合い可能に構成されている。
【0019】
次いで、くし歯破損検出装置30について説明する。
図6はこの発明の一実施の形態に係る乗客コンベアのくし歯破損検出装置のシステム構成図である。
図3〜図6において、くし歯破損検出装置30は、各くし歯22の内部に設けられ、導電性を有し、かつくし歯22の硬さよりも脆弱な硬さの黒鉛などの材料により作製される導電性部材31と、導電性部材31に電力を供給する(通電する)電源33と、導電性部材31の通電状態の変化に基づいてくし歯22の破損を検出する破損検出手段としてのフォトカプラ35と、フォトカプラ35が出力するくし歯22の破損検出信号に基づいて、くし歯破損情報を出力する情報処理部40とを備えている。
【0020】
導電性部材31は、各くし20を構成するくし歯22のそれぞれの内部に、くし歯22の縁部に沿って、線状に延在するように埋め込まれている。
【0021】
また、互いに隣接する各くし歯22に埋め込まれた導電性部材31の間が、導電性部材と同じ材料の電気接続部(図示せず)により接続され、複数の導電性部材31は、直列に接続されている。
また、取付部21の長手方向の両側面には、配線口21bが形成されている。一対の導電線27のそれぞれが、一対の配線口21bのそれぞれを介して取付部21内に引き込まれている。
【0022】
取付部21内に引き込まれた一方の導電線27は、くし歯22の配列方向の一端に位置する導電性部材31の一端と接続されている。
また、取付部21内に引き込まれた他方の導電線27は、くし歯22の配列方向の他端に位置する導電性部材31の他端と接続されている。
【0023】
従って、各くし20の全てのくし歯22に埋め込まれた導電性部材31を接続して構成される導電性部材群の両端の信号を、導電線27を介して取出し可能になっている。
そして、詳細には図示しないが、互いに隣接する取付部21の側面のうち、相対する側面から引き出される導電線27が接続されている。これにより、4つのくし20のくし歯22に埋め込まれた全ての導電性部材31が、直列に接続される。
【0024】
また、フォトカプラ35は、フォトダイオード36及びフォトトランジスタ37により構成される。
電源33は、例えば、交流100V電圧を供給されて、最終的に48Vなどの直流電圧に変換して出力するものが用いられる。
【0025】
情報処理部40は、検出信号判断部41、及び発信部42により構成される。
検出信号判断部41、及び発信部42は、エスカレータ制御盤18の一部の機能により実現されている。検出信号判断部41、及び発信部42は、入出力インターフェイス、CPU、RAM、及びROMなどにより実現される。
【0026】
次いで、くし歯破損検出装置30のシステム構成の詳細について説明する。
図6において、直列に接続された複数の導電性部材31とフォトカプラ35のフォトダイオード36とが直列に接続され、電源33の一対の図示しない入出力端子間に、複数の導電性部材31及びフォトダイオード36が組み込まれている。
フォトカプラ35には、5V電源39から電力が供給されている。
【0027】
フォトカプラ35のフォトトランジスタ37の出力端子と検出信号判断部41とが電気的に接続されている。また、検出信号判断部41と発信部42とが、通信可能に接続され、発信部42と管理者のいる管理情報センタ43とが通信可能に接続されている。
【0028】
次いで、くし歯破損検出装置30の動作について説明する。
くし20が正常な状態では、フォトカプラ35には、電流が流れてフォトトランジスタ37の入出力(コレクタ−エミッタ)間が通電し、フォトトランジスタ37の出力側端子は、Highレベルとなる。
【0029】
この状態から、何らかの異物が、くし歯22の間に挟まったりして、くし歯22が破損すると直列に接続された導電性部材31の一部が破断し、フォトダイオード36に電流が流れなくなるので、フォトトランジスタ37の入出力間が遮断され、フォトトランジスタ37の出力側端子は、Lowレベルとなる。
【0030】
検出信号判断部41は、HighレベルからLowレベルにフォトトランジスタ37の出力が変化したと判断すると、くし歯22の損傷が発生したと判断し、くし歯22の損傷が発生した情報を損傷発生情報として管理情報センタ43に発信する。
【0031】
管理情報センタ43にいる管理者は、損傷発生情報を受信すると、現場に向かって適切な処置を行うよう指示する。
【0032】
この発明の乗客コンベアのくし歯破損検出装置30によれば、くし歯22の内部に設けられている導電性部材31には、くし歯22の硬さよりも脆弱な硬さのものを用いているので、くし歯22の破損に伴って、導電性部材31も破損する。これにより、導電性部材31の通電状態が変化するので、くし歯22が破損したときには、くし歯22の破損を、フォトカプラ35によって確実に検出することができる。フォトカプラ35から出力される破損検出信号に基づいて、管理情報センタ43にいる管理者は、適切な処置を行うことができる。
【0033】
なお、上記実施の形態では、破損検出手段は、フォトカプラ35であるものとして説明したが、破損検出手段は、電流計などにより構成し、検出信号判断部41が、電流計による計測結果を認識可能に検出信号判断部41と電流計とを接続すればよい。即ち、破損検出手段は、導電性部材の通電状態の変化に基づいて、くし歯の破損を検出可能なものであれば、その形態は特に問わない。
【0034】
また、導電性部材は、黒鉛により作製されるものとして説明したが、導電性を有し、くし歯22の硬さよりも脆弱なものであれば、特に材料は限定されない。
また、乗客コンベアは、エスカレータであるものとして説明したが、乗客コンベアが動く歩道であっても本願を適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 エスカレータ(乗客コンベア)、2 乗降口、11 踏段、11A 踏み面、15 床部材、20 くし、22 くし歯、30 乗客コンベアのくし歯破損検出装置、31 導電性部材、35 フォトカプラ(破損検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の乗降口の間を循環走行し、踏み面を有する踏段と、上記乗降口の床を構成する床部材の端部を構成し、上記踏み面にかみ合い可能なくし歯を有するくしとを備える乗客コンベアの上記くし歯の破損を検出する乗客コンベアのくし歯破損検出装置であって、
上記くし歯の内部に設けられ、上記くし歯の硬さよりも脆弱な硬さの導電性部材と、
上記導電性部材に通電する電源と、
上記導電性部材の通電状態の変化に基づいて、上記くし歯の破損を検出する破損検出手段と
を備えていることを特徴とする乗客コンベアのくし歯破損検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−188205(P2012−188205A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51984(P2011−51984)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】